ストーリーテキスト/限りなく狐に近い妖

限りなく狐に近い妖[]

限りなく狐に近い妖 -前-

下野国・某所。月明かりの届かない森の深くにて
暗躍する妖怪の影が一つ……そして、その者に引き
寄せられるように、妖したちが集い始める……！

前半
下野国、某所―― 桃形兜 …………。 桃形兜 キ、九尾サマ……！ 九尾 なんじゃ……情けない声をあげて。 そう慌てるでないわ……。 桃形兜 ケド僕タチ、モウ……囲マレテテ……！！ ？？？ グルルル……！！ 桃形兜 ヒィッ……ソコラ中カラ唸リ声ガ……！？ 九尾 くふ、くふふふ。おるおる……おるぞ……。 やはり吾の思うておった通りじゃ……。 九尾 此地には、吾の同族……。 妖気を帯びた化け狐たちが、山のように……。 九尾 じゃが……見ておれんのう。 汝らの今の有様は、見苦しいことこの上ない。 九尾 人里から離れた地に逃げ込み、身を寄せ合い、 城娘に見つからぬようにと息をひそめる日々……。 九尾 このままでは力が弱っていくばかりで、 緩やかに死へと向かうのみじゃろう。 ？？？ グルル……。 九尾 許せんだろう？　許せんよなぁ……？ 九尾 此地は人のものでも、城娘のものでもなく、 お主らのものじゃ……そうであろう？ ？？？ グルルルル……グルル……！ 九尾 よかろう……吾に付いてくるが良い。力を与えてやる。 九尾 くふふ……。 此地の主は誰なのか……奴らに教えてやろうではないか……！ ―――― ――数日後。 柳川城 手紙にて示されていた場所は、 この辺りで間違いないようですが……？ 殿 …………。 やくも だに……下野国って書いてあったから、 この辺りのはずやけど―― やくも ――ん、千狐はどこ行っただに？ 千狐 …………。 千狐 この辺り……何だかすごく嫌な気が漂ってるの……。 やくも 千狐ー！ 急に立ち止まったりして、どうかしたがや？ やくも これ以上離れると、はぐれてしまうだにー！ 千狐 その、なんだか一瞬……、 不穏な気配を感じたような気がして……。 柳川城 それでは進路を変えて、 そちらの方に行ってみましょうか？ 千狐 いえ、大丈夫です。千狐の勘違いだったみたいです。 すぐに追いつきますので―― ？？？ お……おお……！ 千狐 ん……なんでしょう、この地鳴りのような音は……？ 千狐 いえ、これは……人の声、でしょうか……？ ？？？ おおお……おおおおお……！！ 唐沢山城 だりゃああぁぁーーー！ 千狐 きゃあっ！？ 唐沢山城 はぁ、はぁ……見つけたぞ、化け狐め！ 千狐 ば、化け狐……？　千狐のことですか？ 唐沢山城 名前など知らん！　だがその耳、その尻尾を見れば一目瞭然！ 此地に危害を加えている妖怪の特徴と、ぴったり一致する！ やくも あの娘……急に現れて、なんなんだに……？ 柳川城 あの方……城娘のように見えますが、いったい……？ 殿 …………！ 柳川城 そうですね……とにかく、千狐さんの傍に向かいましょう……！ 千狐 違います、千狐は此地を守るために訪れた神娘で……！ お願いですから……刀を収めてください……！ 唐沢山城 …………。 唐沢山城 （怯えた表情、邪気のない瞳……。 　なぜだ……なぜそのような目で儂を見つめる……？） 唐沢山城 （……それにしてもこの少女、妙に可愛らしい容姿をしているな……？） 唐沢山城 （もふもふの耳に……もふもふの尻尾。 　なんなのだあれは……触りたい、猛烈に触りたいぞ……！） 唐沢山城 （一見すると、悪しき存在にはとても見えん。 　……むしろ、善なる存在であるようにすら見える） 唐沢山城 ……いや、その手には乗らん！　騙されはせんぞ！ 唐沢山城 人を化かすのが妖狐の本領……！ 儂の心をくすぐるような、この容姿も……その一つに違いない……！ 千狐 そ……そんなことは……！ 唐沢山城 これ以上の被害を出す前に……この儂が成敗してくれるっ！ 唐沢山城 さぁっ、覚悟……！ 千狐 きゃああぁっ！ 殿 …………！ 柳川城 千狐さんっ！ やくも せんこーーーっ！ 唐沢山城 …………っ。 唐沢山城 く、うぅ……。 千狐 …………？ 唐沢山城 …………できん。 唐沢山城 儂には……儂にはできんっ！ 唐沢山城 このような愛くるしい少女を手に掛けることなど、儂には……儂はっ……！ 千狐 …………。 唐沢山城 情けを捨てきれぬとは、なんと狡猾なことか。 ……だが、これ以上は何も言うまい。 唐沢山城 さぁ、憎き妖怪よっ！ 煮るなり焼くなり、貴様の好きにするがいい！ 千狐 …………。 千狐 …………あのぉ。 千狐 さきほどもご説明しましたが、 千狐は、貴方が言っている『化け狐』ではないの……。 唐沢山城 …………。 唐沢山城 …………え？ ？？？ 待ってええぇぇぇぇ！！！！ 佐竹城 待って、唐沢山城ちゃん……その子は、 妖狐じゃなくて……はぁ、はぁ……。 佐竹城 …………。 佐竹城 あら、この状況は……？ 殿 …………。 ―――― 唐沢山城 ほんっとーにすまなかった！ 千狐 もう気にしていませんから……頭を上げてください、唐沢山城さん……。 唐沢山城 いやいや、幾ら頭を下げても下げ足りん……！ 唐沢山城 妖怪呼ばわりがまったく的外れであったばかりか、 その正体が、儂ら城娘を支えてくれている神娘だったなんて……。 千狐 …………。 千狐 本当に、気にすることなんかないのですよ……唐沢山城さん。 千狐 だって、唐沢山城さんは……最後まで、 刀を振り下ろさなかったではないですか。 千狐 千狐が妖怪かもしれない、 そう思いつつも唐沢山城さんは……刀を収めてくれました。 自らの死を覚悟してまで……。 千狐 ですから千狐には、 唐沢山城さんにこれ以上頭を下げていただく理由なんて、ないのですよ。 唐沢山城 …………。 唐沢山城 か、可愛い……。 千狐 …………え？ 唐沢山城 い、いやなんでもない！ とにかく、本当に申し訳ないことをした！ 寛大な処遇、心より感謝する！ 佐竹城 それにしても、焦りましたぁ……唐沢山城ちゃんってば、 私を置いて急に走り出してしまうのですから……。 柳川城 ところで……手紙に記されていた『妖怪との交戦』というのは、 未だ続いているのですよね、佐竹城さん……？ 佐竹城 はい……その通りです。 この周辺には未だに、兜や妖怪が数多く潜んでいます。 佐竹城 そして何より……今回の妖怪たちの動向には、 少々妙な点がありまして……。 柳川城 妙な点……ですか？ 唐沢山城 うむ……此地に生じた変化が、 あまりに急すぎるのだ。 唐沢山城 ……ここ下野国は、 妖狐という妖怪と深いつながりをもっている。 玉藻前の伝承による影響だ。 唐沢山城 そのせいで此地には古くから……悪しき力を持った化け狐や、 妖怪が集まりやすい状況にある。 儂ら下野国の城娘も、その点は把握しておった。 柳川城 古くから……ということは、 かつての妖狐はここまでの脅威ではなかった、と……？ 唐沢山城 うむ、その通り。 城娘である儂らでも手を焼くような存在となり、 民への危害も増えている。 佐竹城 そして今この瞬間も、その力を強めているのです……。 千狐 突然の変異……確かに妙です……。 唐沢山城 このようなことは、これまでに例がない。 あまりに突然で、まるで……そう、 何者かによって力を与えられたかのような―― 兜 ――ザザッ！ 兜軍団 ――ザザッ、ザザザッ！！ 千狐 ――コンッ！ 千狐 殿、周囲から兜の気配が！　妖怪たちの気も感じられます！ 殿 …………！ 唐沢山城 承知した！　先陣は儂が切る！ 殿に迫る妖怪どもは、儂が全て斬り伏せてみせよう！
後半
唐沢山城 斬っても斬っても現れよる……！ 姿は見えんが……まだどこかに隠れておるのではないか……？ 千狐 はい……！　敵の勢いは弱まっていますが、 まだ周囲には、妖怪や兜の気配が――！ ？？？ そうか、そうか……。 ？？？ 次の邂逅はいつになるかと思うておったが、 吾らの定めは、ここで交わるのだな……。 殿 …………！ 千狐 っ……！　その声は……！ 九尾 くふふ……久方ぶりじゃのう、殿よ……。

限りなく狐に近い妖 -後-

遂に殿一行の前に姿を表した妖怪、九尾。
彼奴が連れた妖狐たちを討伐し、下野国に平穏を
取り戻すため、城娘たちを連れて出陣せよ！

前半
九尾 くふふ……。 こうして直接顔を合わせるのは久方ぶりじゃのう、殿よ……。 殿 …………！ 柳川城 九尾……！ 九尾 忘れられてはいないかと思ったが……要らぬ心配であったようじゃな。 妖狐 グルルル……！ やくも き、狐……！　九尾の傍に控えてるあれが、 唐沢山城の言っていた妖狐ってやつがや……！？ 唐沢山城 うむ……奴らこそが、此地の平穏を脅かす妖怪に違いない。 千狐 それに、あの狐たちが帯びている力は……！ 千狐 此地の妖怪が急激に力を強めたのは、 九尾……貴方の仕業だったのね……！ 九尾 誰も彼も、人聞きの悪いことを言いよる……。 吾はただ、消えゆく定めにあった同胞を救おうとしただけじゃぞ……？ 千狐 言い逃れはやめなさい！ 妖怪に力を与えれば、どうなるかは分かっていたはずです！ 佐竹城 まぁ、理由はどうあれ……。 此地に害なすものに掛ける情けはありませんが……！ 九尾 ふん、忌々しい城娘どもが……。 揃いも揃って同じような言葉を並べ立てよる。 九尾 くふふ……まぁ、良かろう……。 吾もこの機会を一つ、利用させてもらうとしようか……！ 妖狐 グルルルル……！！ 千狐 妖狐の力が増大しています……殿、合戦の準備を！ 殿 …………！ 佐竹城 此地の平穏は、私が守ってみせます！
後半
佐竹城 はあぁぁっ！ 妖狐 グギャアアアアアアァァァ！ 九尾 ほぅ……もうやられてしもうたか。 九尾 吾の同族と言えど、 急ごしらえではこの程度が関の山、ということか……。 殿 …………。 柳川城 自らの力を与えた妖狐たちが討たれたというのに、 あの余裕はいったい……？ 九尾 まぁ良かろう……期待した成果はあげられなかったが、 新たな情報を得ることができた。 九尾 ここは退き、また好機が訪れるのを待つとしよう……。 千狐 待ちなさい！　逃げるつもりですか、九尾っ！ 九尾 …………。 九尾 千狐……神の力の一端を宿した、聖なる娘よ……。 九尾 汝らはこの世界について、あまりに無知じゃ。 無知な吾よりも、更に物事を知らぬ。 千狐 この世界について……？ 九尾 しかし、容赦はできぬ……。 汝らが追いつくのを待っている余裕は、 吾らには残されておらぬのでな。 九尾 此世を正しき姿に戻すまで……吾の歩みは誰にも止めはさせん……。 千狐 九尾……貴方の目的は……？ 九尾 目を凝らし、耳を澄ますのだ……。 岐路は前触れなく、汝らの前に現れるだろう。 九尾 今のままでは汝らは、椀の中の賽と同じ……。 願いの成就は夢にも見れぬぞ。それを心得ておくがよい。 九尾 では、さらばだ……。 千狐 待ちなさい、九尾！　九尾っ！ 兜 撤退、撤退イィ――！ 兜軍団 撤退！　撤退！　撤退！ 千狐 …………。 千狐 兜の撤退を確認……。 殿 …………。 唐沢山城 むぅ……。あの九尾という奴の振る舞い、 妙に引っかかるのう……。 佐竹城 どうしたのです、唐沢山城ちゃん。難しい顔をして……？ 唐沢山城 なぜだろうな。どういうわけか儂は、あの九尾の奴が……、 真に邪悪な存在であるとは思えなかったのだ。 唐沢山城 奴も何かしらの……、 譲れぬ使命に基づいて、動いているような気がした。 ……なんとなくそう感じただけだがな。 殿 …………。 唐沢山城 ……いや、すまぬ。 今のは忘れてくれ、つまらぬことを言った。 唐沢山城 『此地に害なすものに掛ける情けはない』……。 先程の佐竹城の言葉が全て。 唐沢山城 儂らと奴の道が交わらぬことは明白。 ……どのような使命を帯びているとしても、 戦うことは避けられぬのだからな。 佐竹城 …………。 佐竹城 ……そうですね。 私たちは城娘で……人々を守る定めにあるのですから。 佐竹城 たとえ、唐沢山城ちゃんが……妖狐や九尾たちの、 もふもふした耳や尻尾に魅せられてしまっていたのだとしても。 唐沢山城 うむ……たとえ儂が、妖狐や九尾の―― 唐沢山城 ってそんなわけがあるか！ 佐竹城、お主そんなことを思っておったのか！？ 佐竹城 ……あら、違ったのですか？ 私はてっきり、そのせいで妖怪たちへの情けを捨てきれずにいるのかと……。 佐竹城 千狐さんを見つめながら、もじもじしているように見えましたし……。 唐沢山城 ふざけたことを言うでない！ 唐沢山城 流石にその程度の分別はつくぞ！ いくら儂がもふもふの愛くるしさに心を奪われているとしても！ 千狐 …………。 千狐 と、とにかく……九尾は撤退しましたし、 ひとまず脅威は去ったと見てよさそうですね……。 佐竹城 ええ。主が居なければ、 残党たちの対応に困らされることもないはずです。 後は私たちの方で討伐いたしますので、ご安心ください。 殿 …………。 柳川城 そうですね……先程の唐沢山城さんの考えには、 一考の余地があると思います。 柳川城 九尾が去り際に残していった、あの言葉……。 心に留めておいた方が良いかもしれません。 殿 …………。 殿 …………！ 柳川城 承知しました……ひとまず今は、 戦の疲れを癒やすことにいたしましょう。 やくも だに！　美味いもんをえっぱい食べて、 身体を休めることが先決だに！ ―――― 九尾 さて……。 九尾 此地に留まり続ける理由は、もはや無くなった。 吾は此世を正すために、次なる地へ参るとしようか。 桃形兜 ソンナ……妖狐タチハ見捨テテシマウノデスカ……？ 九尾 なんじゃ貴様……。 下っ端兜の分際で、吾に意見するつもりか……？ 桃形兜 イエ、意見ナドトハ、滅相モゴザイマセン……！ 桃形兜 タダ、九尾サマガ妖狐タチニ注イダチカラハ、 相当ナモノダッタノデ……手放スニハ惜シイカト……！ 九尾 ……ふむ。よく見ておるな。 九尾 確かに汝の言う通り、 妖狐にまだ使い道があることは事実じゃ。 九尾 ここに至るまでに掛けた労力を思えば、 手放すのは早計……そう考えるのも間違いではない。 九尾 じゃが……妙だとは思わぬか？ 桃形兜 妙……デスカ？ 九尾 あれだけ手を掛け、力を与えてやったにも関わらず、 吾に匹敵する力を持つ者は、ただの一体すらも現れなかった……。 九尾 それどころか……、 妖狐どもの力は、ある程度のところ頭打ち。 揃いも揃って、吾の足元にも及ばぬ……。 桃形兜 ソレハ、九尾サマガ妖怪ノ中デモ、 特ニ優レタチカラヲオ持チダカラ……。 九尾 そうかもしれぬ。 有象無象の中に偶然生まれた変種……。 それが吾、九尾なのだと考えても辻褄は合う。 九尾 じゃが、腑に落ちん……気に食わん……。 九尾 兜と城娘の出現に始まる異変……。 それから今日に至るまでの変遷も、此度の敗北も、 偶然で片付けるのは、あまりに面白くない。 桃形兜 ソレハ、ドウイウ意味デ……？ 九尾 くふ、くふふ……。 よい、よい。お前はわからなくとも良いのだ……。 九尾 まったく、ふざけておるのう。 兜も城娘も、あの御方とやらも……。 手前らの都合しか考えておらん。 九尾 ……あのままで良かったのだ、吾は。 汝らが均衡を乱さなければ、吾らも人も、 然るべき距離を保っていられたのだ……。 桃形兜 九尾サマ……？ 九尾 …………。 九尾 ともかく吾は今一度、身を隠し……来たる好機に備えよう。 定めに流されるままでは吾も、碗の中の賽に過ぎん。 九尾 城娘の中にも、侮れん者はおる……。 偶然に意味を見出し動きを見せる者が、一握りな。 現状ではある意味、殿よりもそういった輩の方が脅威と言えるか。 九尾 じゃが、価値がある限りは利用するぞ。 兜も、城娘も、殿も……その先に、吾の望む世があるのならな。 九尾 くふ、くふふ……くふふふ……！ 桃形兜 …………。 こうして九尾は、 兜とも城娘とも違った思惑を秘め……闇夜の中へと姿を消すのだった――

限りなく狐に近い妖 -絶-

殿一行が九尾の脅威を退けてから数日。妖狐の
残党との戦が続く下野国にて、鮭を背負った
城娘が途方に暮れてため息をついていた……。

前半
――下野国。 殿が此地を離れてから数日……そこに一つの城娘の姿があった―― 霞城 はぁ……失敗しましたね……。 霞城 ここを通って近道すれば、 日が暮れる前に森を抜けられると思ったのですが……。 霞城 今夜はここで野宿することにして、 荷物を下ろしましょうか。よいしょ、っと……。 霞城 まぁ、荷物といっても鮭ばっかりなんですけど……。 霞城 鮭のために故郷を離れ、鮭のために川を上り……。 日を追うごとに、鮭の生態や獲り方に詳しくなっていく私……。 霞城 姉様に喜んでいただけるのは嬉しいですけど、 このままでは城娘としての本分を忘れてしまいますよ、もー……！ がさ、がさ……。 霞城 ――っ……！？ 霞城 （生物の気配……こんな夜更けに……！） 霞城 （獣か、それとも別の何かか……？） がさがさ、がさ……。 霞城 （近づいてきてます……このままだと、間もなく……！） 霞城 （来るっ――！） がさがさ、がさがさっ……！ 唐沢山城 …………。 唐沢山城 む……！？ 霞城 …………。 霞城 ほっ……城娘でしたか。安心しました。 霞城 お初にお目にかかります。 私、霞城と申しまして……出羽国に帰る途中だったのですが―― 唐沢山城 近づくなっ、そこで止まれっ！！ 霞城 えっ……！？ 唐沢山城 …………。 唐沢山城 （この耳、この尻尾……狐のものだな。 　悪しき者には見えぬが……いや、安心はできん……） 唐沢山城 （じぃーーーーー） 霞城 …………。 霞城 （な、何だか凄く見られてます……） 唐沢山城 （じぃーーーーーーー） 霞城 （今度は、私の周囲をぐるぐる回り始めました……？） 唐沢山城 （じぃーーーーーーーーー） 霞城 （今度は耳や尻尾を重点的に見られてます……！？） 霞城 （なんなんですかこの状況……早く終わって～……！） 唐沢山城 ふむ……ふむふむ、なるほど……分かったぞ。 唐沢山城 お主……まさか……。 霞城 …………？ 唐沢山城 城娘……ではないか？ 霞城 …………。 霞城 …………え？ 佐竹城 正解！　大っ正解ですよ、唐沢山城ちゃーん！ 霞城 きゃっ！？　今度はなんですかっ！？ 佐竹城 今度はちゃんと『待て』ができましたね！ 偉いですよー！　あとでたっぷりご褒美をあげますからね♪ 唐沢山城 要らんわ、そんなもん！　儂ゃ犬か！？ 霞城 …………。 霞城 えっと、これはどういう……？ ―――― 霞城 妖狐……狐の妖怪ですか。 霞城 ……なるほど。納得しました。 私の姿を見て怪しんでいたのは、そのためだったのですね。 佐竹城 あーいえ。そっちは別件で、 唐沢山城ちゃんの個人的な好みのせいというか……。 唐沢山城 い、要らんことは言わんでいい！ 唐沢山城 とにかく……事が起こる前に、 お主と出会うことができて良かったぞ、霞城。 唐沢山城 佐竹城や儂を始めとする関東七名城の城娘たちによって、 妖狐たちは次々と討伐されているものの……この辺りはまだ、 安全とは言い難い状況にあるのでな。野宿などもってのほかだ。 佐竹城 そうですね……以前ほど危険ではないにせよ、 ごく稀に残党の一部と遭遇することがあって―― がさがさ、がさ……！ 妖狐 …………！ 佐竹城 …………！ 妖狐 グルル……！！ 霞城 ごく稀に、ですか……？ 佐竹城 まぁ、今日は少々、 運が悪かったみたいです……はい……。 唐沢山城 今度は見るからに本物の妖狐！ 斬って良いな、佐竹城！　良いな！？ 佐竹城 はい、斬っていいですよ唐沢山城ちゃん。 『よし』です、『よし』！ 唐沢山城 だから儂を犬扱いするなと何度言えば……！ 霞城 待ってください。無策に飛び込むのは、 止めておいた方が良さそうですよ……お二人とも。 唐沢山城 む……それはどういうことだ……？ 霞城 目の前の妖怪と似た気配が周囲に複数……。 どうやら私たち、囲まれてしまっているようです。 佐竹城 そんな……いつのまに。 巻き込んでしまってすみません……霞城さん。 霞城 謝ることなどありませんよ、佐竹城さん。 危機であることは間違いありませんが、 適切な策を用いれば、乗り切ることは難しくありません。 霞城 そして……戦における策謀には私、少々自信があるのです。 唐沢山城 それは助かる……！ では霞城よ、この場の指揮はお主に任せても良いか？ 霞城 はい、喜んで！　では……自己紹介代わりに、 『羽州の狐』と名高き我が城主から受け継いだ知略を、 披露してさしあげましょう♪
後半
唐沢山城 やったぞ！これで妖狐はすべて討ち果たしたな！ 佐竹城 一時はどうなることかと思いましたが、 霞城さんの指揮のお陰で乗り切れました！ 霞城 いえいえ、お二人が私の策を信じてくれたからこそです♪ 霞城 それに、実戦の緊張感を久々に味わうことができました。 最近は鮭を獲ったり運んだりの繰り返しだったので……。 佐竹城 鮭、ですか……？ 唐沢山城 まさか霞城……先程から気になっていたのだが、 儂の身体と大差ない程の大きさをした、その荷物の中身は――？ 霞城 はい、すべて鮭です♪ 一部はすでに水運で故郷に送ったのですが、 少しでも多く、姉様の許に持って帰りたかったので……。 佐竹城 何やら大きな荷物だなぁと思っていましたが、 全て鮭だったとは……。 唐沢山城 しかし、戦の直後でこの大荷物を運ぶのは辛かろう……。 唐沢山城 まだ夜が明けるまでには時間もあることだし、 ここは一旦、儂の御城で身体を休めていってはどうだ？ 霞城 まぁ、良いのですか！　助かります……！ 実は、野宿は覚悟していたのですが、 水浴びができないのが本当に辛くて……。 霞城 お外をずっと歩いていると、 耳や尻尾に砂埃が溜まってしまうんですよね……。 唐沢山城 ほ、ほぉ……砂埃がな。 そうか……ならば、風呂で洗い流していくと良いぞ。うむ。 佐竹城 唐沢山城ちゃん……。 唐沢山城 ……とにかく！ 先の戦では随分世話になってしまったことだしな、礼をさせてくれ♪ 霞城 はいっ、ありがとうございます♪ こうして、思わぬ邂逅と共闘により仲を深めた霞城たちは肩を並べ、 歓談に花を咲かせながら……唐沢山城の御城への帰路を歩むのであった。

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