ストーリーテキスト/閉ざされた扇城

ページ名:ストーリーテキスト/閉ざされた扇城

目次

閉ざされた扇城[]

閉ざされた扇城 -序-

兜に包囲されし豊前国の城。
籠城する民を救う為に出立した殿達は、
その地において未知の兜を目にする……。

前半
――豊前国、某城。

ひとりの男の到来に、城内は響めいた。

殿
…………。

兵士
……遠路遥々、ご足労痛み入る。
其方が噂に名高き殿にあらせられるか?

殿
…………。

兵士
…………(ごくり)

殿
…………!

兵士
おおっ!?
やはりそうでありましたか!

兵士
……して、そちらの童女らは?

千狐
(――ど、童女!?)

千狐
(って、そうじゃないわ千狐……!)

千狐
千狐と申します。
殿と共に、兜との戦いに日々尽力する神娘にございますわ。

やくも
うちも千狐と同じように殿さんに協力してる神娘のやくもだに!

兵士
おお、霊験あらたかなる神娘さまでしたか……!

兵士
さすがは殿にございますな。
音に聞く城娘だけでなく、そのような方々も付き従えるとは……!

やくも
(千狐……。
な、なんや、こげな反応は珍しいけん、少し面映ゆいだに……)

千狐
(確かにそうね……。
いつも以上に気を引き締めないとなの!)

千狐
それよりも、現状はどのようになっているのでしょうか?
聞くところによれば、既に此の地は兜に攻め込まれているとか……。

兵士
その通りにございます。
兜軍による進軍を受けて久しく、
既に籠城以外に道無き、といった近状……。

兵士
故に、我らは殿に助けを求め書状を送った次第。
……正直なところ神頼みに近い心境でしたが、
こうして其方らを眼にしたことで、勝利の光を見たような心持ちにございます。

やくも
任せるだに!
殿さんなら、此処の皆を絶対に救えるはずがや!

兵士
何と心強き言にござろうか!
ささ、他の仲間たちにも――

千狐
――っ!?

千狐
ま、待って下さい!
兜の霊気を近くに感じますわ!

兵士
そんな馬鹿な……!?

兵士
見張りの者からは、未だそのような報告はありませぬ!
何かの間違いでは……?

千狐
間違えるにはあまりにも大きく、
そして禍々しい気が迫っていますわ!

やくも
……な、なあ千狐。

やくも
もしかして、あれがその気の正体なんじゃないかや……?

千狐
……え!?

兵士
あ、あれは……いったい!?

一同は揃って天を仰ぎ、言葉を失った。

毛虫形兜
……………………。

やくも
兜が、空を……飛んでるだに…………。

千狐
目を見張る巨躯にありながら、
あれ程の高度を維持し、且つ無音同然で攻め入るなんて……!?

千狐
(得体の知れない恐怖を感じるわ……本当に、あれに勝てるの……?)

兵士
ひ、ひぃぃいーーっ!?

千狐
どうしたのですか!?

兵士
じょ、上空からだけでなく、
警備の薄い箇所からも城内に兜が侵入してきました!!

千狐
なんですって!?

千狐
空の兜に注意を向けさせて、その隙に攻め入るなんて……!?

千狐
とにかく、今は得体の知れない上空の兜に注意しつつ、
此処を死守するしかありませんわ!

殿
…………!

毛虫形兜
……………………。

後半
兵士

す、すごい……まさかあれ程の数の兜を却けるとは……!?

兵士
その強さ、噂に違わぬ……いや、噂以上にございますな!

千狐
殿、お見事でした。

千狐
ですがまだ、城周辺には兜の気配があります。
先刻のはおそらく尖兵かと……。

やくも
それにしても、どうして此処のお城を兜さんは攻めてきてるがや?

やくも
いくら何でも集まってきてる兜さんの数が異常だに……。

???
ふっふっふー。
それにはちゃーんと理由があるんですよ。

やくも
だ、誰がや……!?

丸山城
おっ? 私の事が気になってるんですね?

丸山城
でもダメです。教えてあげませ~ん。

兵士
こら、お前こんなところにまで来て、何をしてるんだ!
危ないから来てはいけないとあれほど言っただろうに!

千狐
こ、この子はいったい……?

兵士
申し訳ありません。
城内に避難させておいた町娘のひとりでして、
どうにもお転婆が過ぎて手を焼いているのです……。

丸山城
うにゃにゃー! おっちゃん何でそんなに他人行儀なのですかー!
同じ釜の飯を食う仲だというのにつれないですよー!

兵士
今は務めの最中なんだ、仕方ないだろう!
身寄りの無いお前達を食わせる為に、頑張ってるのが分からないのか!

丸山城
そんなの言われなくても分かってるのですよー!

兵士
じゃあ何で此処に来たのだ!?

丸山城
退屈なんだから来ちゃうに決まってますよー!

丸山城
何日も城の中でじっとさせておくとか、
遊びたい盛りを舐めないで下さいですよー!

丸山城
……それに、
私たちを助けに来てくれた殿って人にも会いたかったのです!

兵士
だからといって、この様な場に来る理由にはならないだろう!

千狐
まあまあ……今は兜は退けたのですから、
そこまで怒らなくてもいいではありませんか。

千狐
それよりも、兜が此の地に攻め入ってくる理由を
貴方は知っている様な口ぶりでしたが……?

丸山城
知っている様な、じゃなくて、知ってるのです!

やくも
ならぜひ教えてほしいだに!

丸山城
いいですよー!

丸山城
此の地に兜が攻め入って侵攻してくる理由はですね、
実に容易で簡単なことなのです!

丸山城
え~っと、ちょっと待っててくださいね……んしょ、ごそごそ~っと……。

丸山城
……はい、これを見て下さい!
兜たちはこれを狙っているのです。

やくも
……ん~?
この布袋はなんだに?

丸山城
振るとじゃらじゃら~って音がします!
っていうかしてますよね?

丸山城
さて、これってつまりは何でしょう?

千狐
……銭が入っているのですか?

丸山城
ご明察です、千狐さん!

千狐
なぜ名前を……!?

丸山城
さっき物陰から会話を聞いてましたから、
皆さんの名前はしっかりばっちり記憶して覚えちゃいました!

丸山城
じゃなかった……えっと、
見事この袋の正体を言い当てて正解した千狐さんには、
中に入っている銭を差し上げま~す!

兵士
ばかもの!
どうして我らにとって大事な『銭袋』を蔵から持ってきたのだ!

丸山城
うにゃにゃー! おっちゃんってば話を聞いてなかったのですか?

丸山城
兜はこれを狙っているんだって言いましたよね?
それを殿たちに説明する為に持ってきたに決まってるじゃないですか!

兵士
それはお前ら子供たちの空言であって、
確たる証拠がないと何度も説いたではないか!

千狐
――いえ、もしかしたら
彼女の言っていることは間違ってないかもしれませんわ!

兵士
……え?

丸山城
……うにゃ?

千狐
この銭袋からは不思議な力を感じます。
単体では弱い力しかありませんが、
一定の数を集めることで、強い力とすることが出来るはずです。

千狐
兜はこの銭袋を集めることで、
己が力とすることを企んでいると考えれば、
此の地を襲う理由になりますわ!

兵士
そんな馬鹿な……。

丸山城
ほ~ら、私の言ったとおりじゃないですかー!

兵士
にわかには信じがたい……だがしかし、
神娘のお言葉ということであれば、信じぬわけにはいきませんな……。

やくも
何にせよ、兜さんの狙いが分かれば
少しは対策も立てられるだに。

やくも
そうとなれば今のうちに――

やくも
――ん?

千狐
どうしたの、やくも?

やくも
今……何か、変な声が聞こえただに……。

千狐
変な声……?

やくも
……静かに。

やくも
これは……。

やくも
――悲鳴だに!

やくも
小さな女の子の悲鳴が遠くの方で聞こえるがや!

丸山城
――えっ!?

丸山城
ま、まさか……。

千狐
え? あの、どこへ行くというのですか!?

丸山城
きっと私の友達の声です!

丸山城
実は先刻、大人たちには内緒で、
近くの村に援軍を頼みにこっそり城外へ出て行ったんですよ!

兵士
何て愚かなことを! 
兜に包囲されているというのに、城の外に出る奴があるか!

殿
…………!

千狐
そうですね、殿。

千狐
ここは千狐たちに任せて下さい!
兵の皆さんは今まで同様、兜襲撃への守りに徹して頂けますか?

兵士
わ、分かりました。
くれぐれも、油断なさらぬように……!

千狐
はい! 
殿、さっそく声のした方へ向かいましょう!

閉ざされた扇城 -破-

町娘の救護へと向かった殿たちだが、
その隙を兜軍団は見逃しはしなかった。
再び城内に侵入した兜から銭袋を守り抜け!

前半

…………。

中津城
そ、それ以上近づいたら、もっと大きな声出しますよ……?


…………。(じりじり)

中津城
ほ、本当ですよ?


……………………。

中津城
(近づいてくるのを止めた……!?)

中津城
(もしかしたら大声だされると怖くてにげちゃうのかも……!)

中津城
そ、その気になれば、
あなた達が興醒めするくらいに
みっともなく泣きわめいちゃうんですからね……?

兜軍団
――ザザッ、ザザザッ!!

中津城
って、何で数が増えてるんですか!?

兜軍団
……観念……覚悟……イザ、イザ、イザッ……!

中津城
はぅぅ……どうしよう、
本当に……ぐすっ……泣いちゃいそう……。

兜軍団
今ダ……穿テッ!

中津城
きゃぁーーっ!?

死を覚悟した瞬間、
兜と少女の間にひとりの男が立ちはだかった。

殿
…………。

中津城
あ、あなたは……?

中津城
いえ、それよりも
そんなところに立っては兜に……!

兜軍団
……殿……殿……穿チ……滅セヨ……ッ!

殿
…………っ!

中津城
……す、すごい。
兜と渡り合っている……!?

中津城
本当にあの方は何者なのですか……?

丸山城
――どう、すごくないですか?
あれが私たちを助けに来てくれた殿ですよ!

中津城
――きゃぁっ!?

中津城
って、なによもぉ……驚かさないでよ!

中津城
でも、あなたがここにいるってことは、
そっか……助けにきてくれたのね!

丸山城
うん! そういうこと♪

やくも
再会を喜ぶのもいいけど、
殿さんが時間を稼いでくれてる今のうちに避難するだに!

中津城
――ひゃぅっ!?
ま、また知らない人がいますっ!

千狐
千狐たちは殿の従者です。
詳しい話は道中でさせて頂きます……さぁ、お急ぎ下さい!

中津城
は、はい……分かりました!

千狐
殿も、あまり無理をなさらないで下さい……。

殿
…………!

――豊前国、某城内。

兵士
おお、無事だったか!?

中津城
ごめんなさい……ぐすっ。
勝手に城を抜け出てしまって……ひっく……本当に、ごめんなさい……。

兵士
もう良い。お前が無事で本当に良かった……。

やくも
感動の再会やね……何だかもらい泣きしてしまいそうだに。

千狐
ええ、助けるのが間に合って本当に良かったわ。

千狐
(後は、殿が無事に戻ってきてくだされば……)

――暫くして、森での戦闘を終えた殿は、
仲間の城娘たちと共に帰還を果たす。

だが、城内の様相は、殿が驚く程の慌ただしさに満ちていた。

千狐
先ほど千狐たちが城から離れた際に、
再び兜が別経路にて城内に侵入したようです!

やくも
ここまで来るのも時間の問題だに……。

中津城
ご、ごめんなさい……。
私を助けたせいで、こんなことになってしまって……。

殿
…………。

殿
…………!

中津城
……あ、ありがとうございます。

中津城
そう言って頂けると、幾分か心が安らぎます!

丸山城
……うにゃにゃ~?
何だか慕情の匂いがぷんぷんですねー。

中津城
な、何を言ってるのですか!?

中津城
私は単に殿の優しさに感銘を受けただけであって、
決してそのようなことは……!

兵士
戯れている場合ではないぞ!
さっさとお前たちは安全な場所へ避難するのだ!

丸山城
もぉ~、相変わらずおっちゃんは空気が読めない人ですねー。

中津城
いえいえ、むしろ空気を読めていないのは私たちの方かと……。

中津城
殿……それに千狐さん、やくもさん……。
申し訳ありませんが、後のことはお任せ致します。

中津城
どうか、私たちの大切なこの場所をお守り下さい!

後半
丸山城

うにゃにゃーっ!
また兜たちを退けましたねー!

丸山城
これなら本当に此の地を兜から救ってくれるかもしません。
予感が今、確信に変わりかけてますよ~!

兵士
こらぁーっ!
どうしてお前らがまたこんなところに来てるんだ!

中津城
ご、ごめんなさい……。

中津城
戦闘も終わりましたし、
何より兜が居なくなったことが嬉しくてつい……。

中津城
ですが、殿にちゃんとお礼が言いたかったのです!

兵士
お礼なら後でもいいだろうに……。

兵士
――って、お前たち何で二人して銭袋を持ち出してるんだ!

丸山城
はぁ、やれやれ。
おっちゃんは何も知らないようですね~。

兵士
何がだ……?

丸山城
いいですかぁ~。
大人の女性たるもの、お礼は言葉だけで済ませたりしないのです。

中津城
その通りです!

中津城
ということで、銭袋の中の銭を
謝礼として殿たちにお渡しするのです!

兵士
…………。

兵士
あのなぁ……。

兵士
それは、金銭的な価値は殆ど無いんだぞ。

丸山城
……え?

中津城
……嘘ですよね?

やくも
……本当かや!?

千狐
……何かの冗談では?

兵士
いや……え?
神娘さんたちも驚かれるのですか?

兵士
殿は分かるかと思いますが、
これは今の世に流通している金とは異なり、
貨幣としては価値のない、いわば収集物です。

丸山城
じゃあ何でこんなの守ってるのさ!

兵士
これは、かつてこの地を治めていた領主様が我らに残してくださった代物だ。
兜などという得体の知れぬ輩に渡す道理などあるまい!

中津城
た、たしかに……。

丸山城
……っていうことみたいだから、ごめんなさい、殿。

丸山城
どうやら謝礼を渡すことはできないみたいなのですぅ……。

やくも
ん~、まあ残念と言えば残念やけど、
もらえないならもらえないでうちは構わんだに。

やくも
お金ほしさに人助けしちょーわけやないけん、
気にしないでほしいがや!

千狐
そうですわ。見返りを求めて誰かを助けるなど、
殿の流儀に反しますしね。

千狐
(とはいえ、やはり金があれば、
それだけ所領の設備や、殿に毎日お出しする食事も、
もっと良いものに出来たのですが……)

千狐
(……って、ばかばか。何を考えてるの千狐!
こんなこと考えてるなんて知られたら、
殿に幻滅されてしまいますわ……!)

殿
…………?

千狐
……あ、いや……。
何でもないですよ、殿。

千狐
本当に、千狐は何もやましいことなど――

千狐
――っ!?

中津城
ど、どうしたのですか、千狐さん……?

丸山城
何だか顔つきが怒りな感じなのです……。

千狐
……凶悪な力を備えた敵が、迫ってきていますわ!

丸山城
凶悪な力……?

中津城
ふ、普通の兜とは違うのですか?

やくも
……殿さん、あっちの方から何か来るだに!?

――やくもが指し示す方角から、
その巨大な異形は悠然と姿を現した。

島津義弘
……儂の邪魔すっ奴原ば……全て殺ス。

閉ざされた扇城 -急-

突如として現れた巨大兜・島津義弘。
銭袋に宿る力を得る為に城内へと
攻め入る兜達を、武によって退けよ!

前半
島津義弘

……儂の邪魔すっ奴原ば……全て殺ス。

島津義弘
目的は力を秘めし銭袋じゃ……遮るもん打っ倒シながラ真っ直グ進メ……。

兜軍団
前進……前進……ッ!

島津義弘
我が身ニ続ケ……儂ガ活路バ切り拓ク切っ先んなりもんソ……。

島津義弘
全軍ッ! 苛烈に行くどォオオオッ――!!

丸山城
うにゃにゃーっ!?
な、何ですかあのバケモノはっ……!?

中津城
そ、そんな……。
周囲の大木をまとめて薙ぎ倒しながら
こっちに向かってきてますよ……!

やくも
……あれをそのまま攻撃に使われたら、
周囲の兵たちはみんなまとめて吹っ飛ばされるだに……!

丸山城
あ、あんなのと本当に戦うんですか……?

中津城
銭袋を渡して、帰ってもらった方がいいのでは……?

やくも
何言っちょーがや!
その銭袋を渡したら、兜はもっと力を得ることになるだに!

やくも
そうしたら、今度はもっと大勢の人たちを襲いにくるだに!
それでもええって言うがや!?

丸山城
……もっと、大勢の人たちを……?

丸山城
そんなの……。

丸山城
そんなのダメのダメダメに決まってます!
却下です! 不許可です! 絶対に見過ごしてはいけないのです!

中津城
私も、いやです……!

千狐
ならばここで迎え討つしかありませんわ!

千狐
さあ、お二人は早く安全な場所へ避難してください!
ここは千狐たちに任せるのです!

丸山城
うん!

中津城
分かりました!

兵士
――で、伝令っ!
兜の別働隊が、こんどは水路を使って城内に侵入した模様!

やくも
だにぃーっ!?
巨大兜にばかり注意してたら、
あげなとこからも攻めてきちょーがや!?

千狐
巨大兜みずからが派手に攻めてきたかと思えば、
まさかあんなところに伏兵を用意していたなんて……!?

千狐
敵は周到な計画の上で攻めに来ているようね……。

千狐
殿……侮れば敗北は必至です。
どうか気をつけて戦に臨んで下さい!

島津義弘
コレより始まるハ儂らノ戦ジャ……。

島津義弘
力ノ源泉ば銭袋……悪ぃがコノ鬼島津ガ頂戴するッ!

後半
島津義弘

……クッ……なかなかドウシテやりよる……。
真面な戦ば行えるモンが、こげん場所に居ルとは……。

殿
…………。

島津義弘
全軍、一時撤退スっど! 仕切リ直シじゃ!

やくも
……兜たちが、退いていくだに!?

千狐
戦略的な撤退のようね……。

兵士
……未だ、戦は終わってはいないというわけですな。

千狐
とはいえ、これでこちらも再び襲撃に向けての準備をする時間が出来ました。

やくも
この城にはまだまだ兵たちも大勢いるし、
いろいろとやりようはあるだに!
少し休んだら、さっそく作戦会議といくがやー!

やくも
――ぐきゅるるるるるぅ~。

やくも
……あっ。

やくも
お腹の虫が鳴き始めたがや……。
色々する前に、まずは腹ごしらえの方が先決みたいだに……。

丸山城
そうなると思って、いいものを持ってきたよー!

兵士
――どわぁっ!?

兵士
またいきなり割り込んできよって……、
お前たちはいったいどっから湧いてくるんだ!?
少しは殿たちの迷惑を考えないか!

丸山城
むむむぅ……!

丸山城
殿たちのことを思って
せっかく食料を持ってきたっていうのに、
そんな言い方はちょっと非道くないですか?

兵士
く……ま、まあ、そういうことなら、仕方ないか……。

やくも
で、食料ってなんだに!?

やくも
とにかくお腹が空いちょーけん、
今なら何でも美味しく感じられるはずだにぃ!

丸山城
おお! いい状態ですねー、やくもさん!
空腹は最高の調味料ですからね!

中津城
えへへ……それでは、どうぞお召し上がり下さい!

やくも
おー、何だか変わった料理やね。
いただきまーすだにぃ!

中津城
ど、どうですか……?

やくも
…………もぐもぐもぐ。

中津城
や、やくもさん……?

やくも
……んぐんぐんぐ……。

やくも
ゴクン……。

やくも
おおぉ……!

やくも
思ったより美味しいだに!
味はともかく、今は桶いっぱいに食べたいがや!

中津城
良かったですぅ!

中津城
ささ、いっぱいありますから、遠慮しないで食べて下さいね!

千狐
(……ここからだとやくもが何をもらって食べてるのか見えませんわ……)

千狐
あ、あの……もし良かったら、千狐や殿にも分けて頂けますか?

中津城
もちろんです!
はい、どうぞ♪

千狐
ありがとうございます!

千狐
それでは、いただきま…………。

千狐
――んんっ!?

中津城
ど、どうしましたか……?

千狐
いや、これ……。

千狐
タニシじゃないですか!?

中津城
はい、そうですよ♪

千狐
……そうですよって。

千狐
タニシ……ですよ?

中津城
はい! 田んぼのサザエとも呼ばれるあのタニシです!

千狐
……あ、うぅ……。

千狐
ごめんなさい……千狐は、いりませんわ……。

中津城
え!?

中津城
な、なぜですか……?

千狐
だって……にゅるにゅるしてるし……。
見た目も、生理的に……無理といいますか……。

中津城
そ、そうですか……。

中津城
はぅぅ……残念です。

丸山城
喜んでもらおうと思って、頑張っていっぱい取ったのにねぇ……。

千狐
……そ、そう言われると、その……えっと……。

やくも
千狐ぉおっ!!

千狐
な、何よ……?

やくも
食わず嫌いはいかんだに!

やくも
据え膳食わぬは男の恥がやー!

千狐
千狐は女なのー!

千狐
って、何するのやくもぉ!?

千狐
――や、だぁっ……んっ、んんぅっ……!
無理矢理、口のなかぁ……タニシっ……い、入れないでほしいのぉー!

千狐
…………ゴクン。

千狐
……あ、れ?

千狐
意外と美味ですわ!

中津城
……ほ、本当ですか!?
ならもっといっぱい食べてくださいね!

殿
……………………。

兵士
殿、このようなモノしかお出しできず、誠に申し訳ない……。

兵士
なにせ長きに渡る籠城ゆえ、
食料も少なく、堀のタニシを口にすることで
何とか食いつなぐのが精一杯で……。

千狐
そ、そうだったのですね……。

千狐
殿、まだまだ兜との戦いは続きそうです。

千狐
一先ずはタニシで空腹を満たし、
それから今後のことを考えるとしましょう!

閉ざされた扇城 -離-

兜軍団の侵攻は再開された。
一ノ谷形兜の包囲を打ち破るには、
短期決戦しか道は無い。いざ、武を示せ!

前半
――大型兜襲撃から数日後。

兜軍団
進軍……再開ッ! 
イザッ、イザッ、イザーーッ!

兵士
――伝令っ!
殿! 城周辺に再び兜の軍勢が姿を現したようです!

千狐
ついに兜たちの準備が整ったということですね……。

千狐
それにしても、何て数の兜なの……!?
ここから見えるだけでも、かなりの規模だわ。

やくも
こっちも準備はしてきたつもりやけど、
予想を超える大軍に見えーがや……。

丸山城
そ、それじゃあ……、
もしかして今回は勝てそうにないかも……なのですか?

やくも
そんなことないだに!
あれくらいの敵に、殿さんがやられるはずないがや!

兵士
おおっ!? さすがは殿にございますな!

中津城
で、でも……、
あっちの方にとんでもなく強そうな兜が見えるのですが、
殿にとってはあの様な兜も取るに足らぬ敵なのでしょうか……?

やくも
……え?

一ノ谷形兜
ブ、シュゥゥゥ…………。

やくも
な、何やあれは……っ!?

千狐
見るからに強大な力を備えているのが分かるわね……。

兵士
見張りの者たちからの報告によれば、
あの型の兜が大量に姿を現しているようで、
ヤツらによって城は完全に包囲されてしまっているようです……。

やくも
あ、あげに強そうな兜さんが他にもえっぱいいるがや……!?

千狐
とにかく、皆さんはすぐに城中へ……!
後のことは、我々にお任せ下さい。

丸山城
……殿。
任せきりになってしまって……ごめんなさい。

丸山城
でも私たち……
殿が勝つって信じてますからね!

中津城
戦いが終わったら、
いっぱいタニシをご馳走しますから、
絶対に負けないで下さい、殿!

殿
…………!

やくも
とりあえず、皆の避難は完了しただに!

やくも
それにしても、あの兜さん……本当に不気味やね……。

一ノ谷形兜
…………。

千狐
今はじっと機を窺っているようですが、
一度動き出せば、あの巨躯を活かしての攻撃で、
周囲に大きな被害をもたらすことは明らかですわ。

千狐
殿、ヤツが動き出す前に撃退するのが上策かと思います。
短期での戦を意識し、一気に勝負をつけてしまいましょう!

後半
やくも

攻めてきた兜さんはぜ~んぶやっつけただにぃ!
さっすが殿さんやね!

中津城
それでは祝いのタニシにございます、殿!

千狐
……い、いつのまに戻ってきたのですか!?

丸山城
殿たちが最後の兜を倒すちょっと前あたりから、
一緒に勝利を喜ぼうと走ってきましたー!

やくも
戦の最中にうちらの許に向かってくるなんて、
度胸があるというか緊張感がないというか……。

やくも
まあいいがやー!
喜ぶ時は人の多いとこの方が気分もいいだにぃ!

兵士
はぁ……はぁ…………と、殿ぉ!

丸山城
ん? どうしたおっちゃん?
そんなにはぁはぁしながら殿の近くに接近してきて?

中津城
もしかして、
急激にタニシが欲しくなってしまいましたか?
ならばここにたっぷりと――、

兵士
――ば、馬鹿者! そういうことではないわ!

兵士
前に我らが眼にした槌を手にする巨大兜が、
あの時以上の大軍を引き連れてここに攻めてきてるのです!

やくも
なにぃーっ!?

千狐
……確かに、凶悪な気が迫ってきているのが分かります……。

丸山城
兜の大軍だけでなく、
いよいよあの巨大兜もここに来ちゃうのですね……。

中津城
もしかして……今度という今度は本当にもうダメなんじゃ……。

やくも
……そ、そげなことあるわけ――

――その時だった。

大槌による一撃を地へと喰らわせながら、
その異形は遠方より姿を現した。

島津義弘
……待たせたナ、殿。
こっから先は、儂とお前の喧嘩じゃ……。

閉ざされた扇城 -結-

勇猛に姿を現したるは大型兜・島津義弘。
銭袋に宿る力を悪用して更なる力を得た敵を、
全身全霊で討ち果たし、此の地を解放せよ!

前半
島津義弘

……待たせたナ、殿。
こっから先は、儂とお前の喧嘩じゃ……。

殿
…………。

丸山城
ね、ねえ……気のせいかも知れませんが、
あのおっきな兜……前よりも強そうに見えませんか?

中津城
私もそんな気がします……!
いったい、どういうことなのでしょうか?

千狐
おそらくは、これまでの戦いで此処から奪った銭袋の力を、
自分の霊力へと変換したのでしょう……。

千狐
集めた銭袋の力を使って戦に臨むところを見るに、
敵は、此の地にある残りの銭袋を必ず奪うと決心したに違いませんわ!

やくも
敵も後がないって事やね……。

島津義弘
丸に……十文字ジャ……。

島津義弘
大きか丸ん中の十文字……そのど真ん中ば貫くが如く……
今コソ敵ば討っどッッッ!

丸山城
巨大兜が武器を構え始めましたよっ!?

中津城
あ、明らかに威圧感が増してます……!

兜軍団
……今コソ……出陣……ッ!
……全テヲ……滅ス……ッ!

やくも
巨大兜さんだけじゃないだに!
配下の兜さんらも、何だか活気づき始めてる気がするやが!

千狐
……あの巨大兜、銭袋から得た力を、
配下の者たちにも与えているんだわ!

中津城
……どうしよう。
何だか、急に……すごく、怖くなってきちゃいました……。

丸山城
…………。

丸山城
私たちが守ってきた銭袋が、
もし全部あの巨大兜に持って行かれちゃったら、
……今以上にあの兜たちは凶悪になっていく……。

丸山城
そんなの……いやだよ……。

丸山城
私たちの大切なものが、恐ろしい事に使われるなんて……。

殿
…………。

殿
…………!

丸山城
……本当に?
ぜったいに、負けたり……しないですか?

殿
…………!

丸山城
……約束、ですよ?

やくも
殿さんは約束を破ったりしないけん、
今は安心して逃げるだに!

中津城
…………。

中津城
また、逃げるしか……ないのですね……。

千狐
……どうしたのですか?

中津城
私たち、逃げてばっかりだなって……。

中津城
私たちも、殿や城娘の方たちみたいに、
戦える力があったら良かったのに……。

丸山城
私も同じこと思ったのです……。

丸山城
でも、思ったところでどうにかなることじゃないし……。

丸山城
……うぅぅ。

丸山城
ずるい……。

丸山城
城娘さんたちはずるいです!
私も戦える力が欲しいのです!

千狐
――っ!?

千狐
(どういうことなの……? この二人から、微かに不思議な力を感じる……)

千狐
(この力は、まさか……!?)

兵士
駄々をこねてる場合か!

丸山城
……で、でも……!

兵士
いいから、一刻も早く城中に避難するのだ!
これ以上は殿たちの迷惑になる……。

丸山城
……うん。

中津城
……分かりました。

やくも
何だか渋々って感じやったね……。

千狐
……戦える可能性を有しながらも、
それが見えざる力によって阻まれているとあれば、
歯がゆく思うのは当然だわ……。

やくも
……え?

千狐
……いえ、何でもないわ。

やくも
……?

千狐
それよりも今は巨大兜ですわ!

千狐
殿、敵はもう眼前まで迫ってきています。
ここで勝利を掴み、此の地を兜から解放しましょう!

後半
島津義弘

……まサか……二度も島津の戦バ破るとは……。

島津義弘
未ダ、日ノ本にはあげん男ばいるんか……。

島津義弘
面白い……。
真ノ戦国ば知るモンは、奴ラ以外にもオったという訳じゃ……。

殿
…………。

千狐
巨大兜が、退いていく……?

やくも
あの様子じゃ、さすがにこれ以上戦うんは無理な感じやったけど……?

千狐
霊気にも……既に闘争の意思は感じられなかった。
おそらくは此の地を狙うことを諦めたんだと思う……。

やくも
ってことは……?

千狐
ええ……。

千狐
殿の勝利ですわ!

やくも
やっただにぃー!
さっすが殿さんやぁー!

丸山城
うにゃにゃーっ!!
勝った、勝ったぁ、勝っちまっしたー!

やくも
うわわっ!? 
毎度ながらほんとにいつの間に戻ってきたがや!?

中津城
そんなのことよりタニシですタニシ!
もう殿にはいっぱい戦勝祝いタニシを贈っちゃいますぅー!

やくも
うぇぇ……。
ここ数日はタニシしか食ってないけん、
正直もうタニシは見たくないだにぃ……。

中津城
な、なんてこと言うんですか!?

中津城
数日だけではタニシのタの字も理解出来ぬと言うのにぃ!

丸山城
もう、こんな時に喧嘩なんかしては駄目ですよー!

丸山城
ほらほら、奪われた銭袋も
こんなにいっぱい取り返すことができたのですから、皆で笑いましょうよー♪

丸山城
……って、あれ?

丸山城
どうしちゃったんだろう……私……。

丸山城
急に身体が熱くなってきて……。

丸山城
うにゃにゃにゃにゃーっ!!!!
……て気分になってきちゃってます!

中津城
……わ、私も同じです!

中津城
こう……何でもやれるぞーっ!
って気がしてきました!

中津城
さっきの兜たちではないですけど、
この銭袋をいっぱい持ってると、
何だか私たちも力が湧いてくるような……そんな気がします!

千狐
……気のせい、ではないみたいですよ。

丸山城
うにゃ……?

千狐
お二人の身体をよく見て下さい。

丸山城
……え? 身体……?

中津城
――な、何ですかこれ!?
私たちの身体、急に光り始めてます!?

丸山城
うにゃにゃー! ほんとだっ!?
これならもう提灯いらずですよーっ!

丸山城
あ、でも……こんなに眩しいと寝る時に困っちゃいますねぇ……。

兵士
……こ、これはいったい?

兵士
千狐様、二人の身体はいったいどうしてしまったというのですか?

千狐
不安になることはありません。

千狐
銭袋に秘められし力に呼応し、新たな力を得られるということは、
此の地に縁のある城の魂をその身に宿した城娘である証拠なのですから。

丸山城
……うにゃ? 私たちが……?

中津城
……城娘?

千狐
はい。そこまで力を取り戻しているということは、
きっと、お二人の魂が告げているはずです。

千狐
貴方たちの真の名を……。
今なら、きっと口にすることが出来るはずですわ。

丸山城
……うーん、ちょっと千狐さんの言ってる意味が分からないんですけど……。

丸山城
って、あれれ……?

丸山城
……丸山……城……?

丸山城
うにゃにゃー! 
すごい、何か急に色々と思い出して来ましたよー!
そうでした、私の名は丸山城です!

やくも
じゃ、じゃあ……こっちの娘さんも城娘なんかや?

中津城
……ど、どうやら……そうみたいです。

中津城
私の本当の名は……中津城。

中津城
日本……三大水城の一つである……、

中津城
そうっ、私こそが中津城なのです!

兵士
し、信じられない……まさか、こんなことが起こるだなんて……!

兵士
だが、そうか……。
身寄りの無かったお前たちが、
なぜ此の地に辿り着いたのか……今ようやくその意味がわかったよ……。

丸山城
おっちゃん、なに泣いてるんですかー?
私たちが城娘だったのがそんなに嬉しかったの?

兵士
ば、馬鹿者……!
泣いてなどおらぬわ! これは、先ほどの戦いで目に砂が入っただけで……。

丸山城
ふっふっふー。
……そういうことにしといてあげましょう♪

丸山城
よーし、それじゃあこのまま一気にぃ、
城娘の姿に……へ~ん、しんっ!

丸山城
…………(わくわく)。

丸山城
…………んにゃ?

丸山城
ちょっとどういうことですか、千狐さん!?

丸山城
いつまで経っても町娘な丸山城でしかないですよ、私!?

丸山城
もしかして私たち、まんまと千狐さんに騙されたのですか……!?

千狐
ひ、人聞きの悪いことを言わないで下さい……!

千狐
戦う姿になれないということは、
未だ完全には力を取り戻せてはいないということ……。

千狐
つまり、銭袋の数が足りないということですわ。

中津城
それでは、より多くの銭袋を集めることが出来れば、
私たちは真の姿になることができる、ということですね?

千狐
はい、間違いありませんわ。

丸山城
なるほどですねー。

丸山城
じゃあ、まだまだ周囲にいるであろう兜の残党を倒して、
銭袋を取り戻しちゃいましょう!

やくも
……い、今すぐに行くのかや?

丸山城
え~、行きたくないのですかぁ?

中津城
ちょっと、丸山城ちゃん。
色々と城娘としての記憶を取り戻して興奮するのは分かるけど、
殿たちは疲れてるのですから、無理を言っちゃ駄目だよぉ……。

丸山城
は~い。ごめんなさい……。

丸山城
でもでも、ちょっと休憩したらすぐに銭袋集めに行きましょうね?

丸山城
だって、力を取り戻さないことには、
殿に恩返しできないですからね!

丸山城
……ん? あれ? 殿……じゃないな。

丸山城
私は、えっと……そう、『お館様』って呼ぶ方がしっくりばっちりきます!

丸山城
というわけで、ちょっと休憩したら……宜しくお願いします、お館様!

中津城
も、もちろん、私も丸山城ちゃんと同じく恩返ししたい気持ちでいっぱいです!

中津城
だから中津城のことも、どうかお心に止めておいて下さいね?

やくも
何だか急に二人がやる気になっててちょっと怖いだに……。

千狐
それだけ自分が何者であるかを知るということは、
強烈な体験であるという証拠なのよ、やくも。

やくも
なるほどやね。
ま、何はともあれ、新たな城娘と出会えてうちは嬉しいだに!

やくも
はやー、二人が城娘になれるように、
うちももう一頑張りするがやー!

千狐
それでは殿。
一先ず休息を取り、その後、銭袋の収集を行うとしましょう!

閉ざされた扇城 -絶-

一刻も早く城娘になりたいという想いを抱き、
密かに城外へ向かう中津嬢と丸山城だったが、
そこに、不穏な影が忍び寄っていた……。

前半
――戌ノ刻。
豊前国、某城近辺。

中津城
ねえねえ、丸山城ちゃん……。
本当にこんな所に二人で来ちゃってよかったのかな?

丸山城
なーに言ってるんですかぁ!
二人で来るからいいんじゃないですかぁ♪

丸山城
私たちはお館様に助けられ、
こうして自分たちの使命を自覚することができたんですよ?

丸山城
このまま、のほほ~んとお館様におんぶにだっこで
銭袋を取り戻してもらっても完全な恩返しなんて出来ないです!

中津城
それはそうかもしれないけどぉ……。

中津城
でも、いきなり兜が襲ってきたらどうするの?

丸山城
ちっちゃいのなら、たぶん今の力でも倒せる気がします!
というより確信があります! きっと私、強いですっ!

中津城
むむむ……。
その自信がどこから来るのかはしらないいけど、ちょっと羨ましい……。

中津城
まあ確かに私も少しは力が戻ってきてるし、
二人なら何とかなるような気がしてきたよ!

中津城
――って、あれ!?

丸山城
うにゃにゃ?
あからさまにびっくり驚いてどうしたのですか~?

丸山城
まるでそこら辺に都合良く
かなりの量の銭袋が置いてあるのを
偶然見つけたような顔になっちゃってますけど……?

中津城
ど、どんな顔か知らないけど……、
まさにその通りなの、丸山城ちゃん!

丸山城
またまたぁ~、いくらなんでも……。

丸山城
――って、ほんとだぁっ!?

丸山城
すごーい、これだけ銭袋があれば、
疑いなく絶対確実に城娘に戻れちゃいますよ!

中津城
こ、これで……私も城娘の姿に……なれるのね……。(ごくり)

丸山城
いやいや、もう既に中津城ちゃん、
明らかに今までと格好が変わってますよ?

中津城
……え?

中津城
…………。

中津城
……ほ、ほんとだ!?

中津城
私、何だか凄い恰好になってる!?

中津城
っていうか、いつの間に
こんな物騒な鉄砲を持っちゃってるの私!?

丸山城
そりゃあもう、城娘ですからね!
戦う為の武器を携帯するのは当然ですよ~。

中津城
はわわわ……丸山城ちゃんも知らぬ間に何だか格好良くなってるよ!?

丸山城
うにゃにゃー!?

丸山城
ほんとだーっ!? 見て下さい、この外套!?
新品ですよ、しんぴーん!

丸山城
それに強そうな刀も持っちゃってます!
これなら絶対にお館様のお力になれますね!

中津城
うん!
そうと分かればさっそく殿の許へ戻ろう!

丸山城
お~っ!

丸山城
…………。

丸山城
――んにゃ?

中津城
どうしたの、丸山城ちゃん……?

丸山城
……まずいです。

丸山城
城娘の力を取り戻したから感覚が鋭くなってるのかもしれませんが、
これ……もう詰んじゃってますね。

中津城
どういうことなの……?

中津城
……って言おうと思ったんだけど、
私も今、何が起きてるのか分かっちゃったよぅ……。


――ガサッ!

丸山城
思ったとおり、兜でしたね……。

丸山城
単独でないのは分かっちゃってます!
隠れてないで、さっさとみんな出てきて下さいよ!

兜軍団
――ザザッ、ザザザッ!!

中津城
……やっぱり、囲まれちゃってたんだね……。

丸山城
それだけじゃないみたいです……。
この周辺の空気が、妙に重く……苦しいものに変わってます……。

中津城
……ああ、もう。
城娘としての知識が徒(あだ)になってるよぉ……。

中津城
私たち……このまま、兜に操られて……けほっ、けほっ……!

丸山城
……せっかく本当の姿を取り戻せたのに……こほっ……こほっ……。

丸山城
お館様……ごめんなさい。
私たち、また迷惑かけちゃうみたいです……。

中津城
きっと、タニシ百匹でも、許してくれないよね……?

丸山城
……それ、たぶん火に油……クッ、うぅぅ……けほっけほっ……。

鈍重な瘴気が、
二人の城娘を搦め捕るように包む。

そして、瘴気の帳がゆっくりと開かれた後には、
二人の城娘も、兜の軍勢も、
共にその姿を消してしまっていた……。

――亥の刻。
豊前国、某城。

兵士
殿、こちらです! お急ぎ下さい!

千狐
中津城さんたちが兜と共に
こちらに攻め入ってきているというのは、
一体どういうことなのですか……!?

兵士
……わ、分かりません。

兵士
ただ、見張りの証言によれば、
二人は見たこともない武具を身につけ、
兜の軍勢と共に現れたとのことです……。

やくも
まさか……城娘としての力を
うちらが知らない間に取り戻していたのかや……!?

千狐
もしくは、城娘としての力を取り戻そうとしていた二人の心の隙を狙い、
兜が彼女たちを操心術の罠に嵌めたのかも……。

兵士
敵影確認! 兜たちが城内に侵入してきます!

丸山城
…………。

中津城
…………。

兵士
間違いない……そんな、
なぜあの子たちが兜と共に……。

丸山城
……お館様。

丸山城
私たちネ……城娘にナレタんだヨ……フフフ。

中津城
モウ……守らレルだけの存在じゃナイ………。

中津城
うん……もう弱イままの私タチじゃないのデス……。

千狐
あの姿は、やはり城娘としての力を取り戻していたのですね……。

兜軍団
――ザザッ、ザザザッ!!

千狐
兜……っ!?
やはり、二人は心を……ヤツらに操られてしまっているようですね。

兵士
申し訳ない……あの子らをきちんと見張っておけなかった
我らの落ち度にございます……。

千狐
いいえ、責任は千狐たちにもありますわ。

千狐
力を取り戻したいと、
彼女たちの心が急いていることを知りながら、
一時の勝利に気を緩めていたのですから……。

丸山城
ねえねえ……ナニ辛気くさイ顔しちゃってるんデスカ?

中津城
もしかして、私たちが城娘トシテ戻れたのが気に入らないのカナ?

丸山城
……むぅ。
セッカクお館様の為ニ頑張って力を取り戻シタのに……。

丸山城
……そういう態度ナラ……チョット痛めツケチャイマショウか……?

中津城
ええ……ソノ考え……スゴク良いと思いマス……フフフ。

やくも
最悪だに……。
せっかく力を取り戻せたのに、初陣が殿さん相手やなんて……。

千狐
……殿。
彼女たちと、本当に戦うのですか……?

殿
…………。

殿
…………!

千狐
そうですね……。

千狐
ここで戦うことを放棄しては、
彼女たちを見捨てることと同義……。

千狐
参りましょう、殿。
彼女たちの心を取り戻す為の戦いに……!

後半
千狐

……全ての兜の掃滅を確認しましたわ。

やくも
二人はどうなったがや……!?

兵士
おい、しっかりしないか!

兵士
殿がお前たちを助けてくれたのだ!
わかるか? もう兜の脅威は去ったのだ!

千狐
そんなに近づいては危険ですわ!

千狐
未だ、兜の支配下にあるかもしれません……。

兵士
構いませぬ!

兵士
……ここで命を落とすのならば
それが某の定めだったと諦めるまで……!

兵士
それに、この子らを必要の無い痛みと
争いの渦中に落としてしまったのは我ら大人たちの不行き届き……。

兵士
せめて……せめて、これぐらいの役は果たさせてくだされ!

丸山城
……ん~。

兵士
……気がついたか?

丸山城
……あれ?

丸山城
何でおっちゃんが目の前にいるのですかー?
……それに此処は?

中津城
ん、んん……。
……おかしい、ですね……。
さっきまで……私たちは城外にいたはずなのに……?

兵士
馬鹿者が……本当にお前たちは
城娘になっても手のかかる子らだ……。

丸山城
……ど、どういうことですか?

兵士
お前たちはな、
先刻まで、兜に心を操られ、
殿たちと戦っていたのだ。

中津城
……え? そんなまさか……!?

丸山城
いや、でも……言われてみれば……。

丸山城
……あっ。

丸山城
どうしよう、思い出しちゃいました……。

丸山城
私たち、城娘の姿を取り戻した瞬間に兜たちに囲まれて……。

中津城
心を操られた……。

中津城
そんな大事なことすら抜け落ちてしまうとは、
何て恐ろしい術なのでしょう……。

千狐
いずれにせよ、二人が無事で良かったですわ。

丸山城
…………無事じゃ、ないです。

やくも
そうやね……戦いでかなりの傷を負っただに……。

丸山城
ううん。それだけじゃないのです……。

丸山城
さっきの戦いで……城娘の力が、
ほとんど無くなっちゃったみたいです……。

中津城
はい……このままでは、
姿が元に戻ってしまうのも時間の問題でしょうね……。

千狐
……そういうことでしたか。

千狐
安心してください。
確かに殿との戦いによって力が幾分か失われてしまったようですが、
銭袋を集めれば、また取り戻すことはできます。

千狐
それよりも顧みるべきは、
軽率な行動をとってしまった自分自身の未熟さだと思います。

丸山城
……ご、ごめんなさい。すごく、反省してます……。

中津城
私もです……殿、本当にごめんなさい……。

殿
…………。

殿
…………!

千狐
ええ、殿の言うとおりですわ。
失った力は取り戻せますが、貴方たちの命が失われては
誰にも取り返すことは出来ないのです。

千狐
だから、貴方たち二人が無事で……本当に良かったですわ。

丸山城
…………うん。

丸山城
ありがとう、お館様。

中津城
また、大きな恩が出来てしまいましたね。

やくも
恩義を感じるのはええけど、
あまり重く受け止めて自分らを追い詰めない方がいいだに。

中津城
……はい。お心遣い、ありがとうございます!

千狐
さて、それでは
すぐに二人の怪我の手当をしましょう。

兵士
それでは我らがすぐに城中へと運び――、

千狐
――待って下さい!

千狐
二人の負傷を治すには、
所領へ連れていき、城娘に対する然るべき処置をするのが最善ですわ。

兵士
……所領?

千狐
千狐たちの本拠地ですわ。

中津城
わ、私たちを、
そんな大事な場所に連れて行ってくれるのですか!?

千狐
はい。お二人が嫌でなければ、ですが。

中津城
嫌だなんてそんな……是非とも連れて行って欲しいです!

丸山城
私だってすっごくすっごく行きたいです!

丸山城
……あ、でも……。

兵士
…………。

丸山城
……おっちゃん。

兵士
…………。

兵士
まったく……。
何を悲しそうな顔をしているのだ?
お前たちは、もう城娘の丸山城と中津城なのだぞ。

兵士
これからは殿の為にその力を奮う身……。
所領へと招かれたのは光栄なことではないか。

丸山城
でも、私たちがいなくなったら、
おっちゃん……寂しくなっちゃうかもしれませんよ?

中津城
タニシも……当分、取ってきてはあげられませんしね……。

兵士
……ふ、子供が要らぬ気を使うでない。

兵士
さあ、胸を張って行くが良い。
お前たちは某の……いや、此の地の誇りなのだからな。

丸山城
…………うん。

丸山城
ありがとう、おっちゃん!

中津城
私たち、絶対に城娘としての力を取り戻して、
殿のお役に立って見せますからね!

兵士
ああ。頑張ってこい。

丸山城
それじゃあ、行ってきまーす!

こうして丸山城たちは
殿と共に所領へと旅立つのであった。

――子の刻、所領。

既に所領の者たちは皆、深き眠りについていた。

殿と、ふたりの城娘を除いて――。

丸山城
ふっふっふー。
おかげさまで、怪我もばっちり治っちゃいましたよ~♪

中津城
とはいえ、まだ所領内の清浄なる気に触れ、
瘴気の残滓を完全に取り除かなくてはいけませんけどね……。

丸山城
……うーん。
結局まだまだお館様のお手伝いはできないってことなんですねぇ……。

丸山城
ですが、何も戦うだけが
城娘ではないとおもうのですよ!

中津城
と、いうわけで……!

中津城
じゃじゃ~ん♪
故郷からこっそり持ってきたタニシです!

中津城
…………。

中津城
…………え!?

中津城
……いらない?

中津城
そ、そんな……!? 何故ですか!?

中津城
お、お腹がいっぱい……?

中津城
そう、ですか……。

中津城
ならば仕方ありませんね。

丸山城
……ねえねえ、中津城ちゃん。

丸山城
タニシを差し出す段取りなんて私、聞いてないですよ~?

中津城
ご、ごめん……つい、タニシ愛が暴走しちゃって……うぅぅ。

丸山城
もう、しょうがないですねぇ……。

丸山城
では仕切り直しです、お館様!

丸山城
え~っと、何でしたっけ……。

丸山城
あ、そうです!

丸山城
何も戦うだけが城娘ではないのです!

丸山城
今の私たちでもお役に立てること、ちゃんとしたいのですよー!

中津城
と、いうわけで……!

丸山城
ささ、ここにゴロンって寝っ転がってください、お館様!

丸山城
……んにゃ? 何をするのか、ですか?

丸山城
背中をもみもみさせて頂くのですよ~♪

中津城
……といっても、丸山城ちゃんは
背中の上に乗っかって足で踏むんですけどね。

丸山城
うにゃっ!?
逃げないでください、お館様!

丸山城
大丈夫です、安心なのです!
私の足でしっかりばっちりお館様を気持ちよくしてみせるのです!

中津城
ささ、殿。
お布団を敷きましたので、
どうぞこちらにうつ伏せになってください。

中津城
……ん? どうしましたか?

中津城
ああ、それなら心配いりません。
殿がお眠りになりましたら、私たちも部屋にもどりますから。

中津城
だから、安心して眠りについて下さいね。

丸山城
よーし、それじゃあ
今こそおっちゃんの背中を毎日踏み続けて
凝りをほぐしまくってきた足技を見せるときなのです!

丸山城
……ふっふっふー。
これから毎日お役に立ってみせますからね、お館様っ♪



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