ストーリーテキスト/選ばれし城娘と秘伝武具_捌の陣

ページ名:ストーリーテキスト/選ばれし城娘と秘伝武具_捌の陣

目次

選ばれし城娘と秘伝武具 捌の陣[]

秘伝武具 軍法戦槌

持ち得る技術の粋を注ぎ込み、自信作を完成
させたやくも。それらを城娘たちに贈るべく、
所領を発ち、佐土原城の御城へと向かうが……。

前半

――某日、やくもの工房。

やくも
…………。

やくも
だにいいいぃぃぃぃぃーーーーーー!!

かちーん こちーん かちーん こちーん かちーん こちーん かちーん!!
  かちーん こちーん かちーん こちーん かちーん こちーん かちーん!!
    かちーん こちーん かちーん こちーん かちーん こちーん かちーん!!

やくも
ふぃー……。
やっと……やぁっと完成しただにぃ……!

――――

やくも
――こ、これでよし……と。
出発の準備はと、とと……整ったがや……!

柳川城
凄い荷物ですね……やくもさん。
私も手を貸しましょうか……?

やくも
いんや、心配無用だに!
この武器はうちが責任を持って、
お届けしなきゃならんものがや!

殿
…………。

千狐
……それで、
今回武器をお届けする城娘は――あら、こんなに沢山……?

立花山城
……なかなかの大仕事になりそうね。
やくもも随分頑張ったじゃない。
これだけの武器を拵えるなんて、大変だったでしょうに……。

やくも
なーんてことないがや!
うちの武器を待っとる城娘が居るんやったら、
いくらでも頑張れるだに♪

殿
…………!

千狐
承知しました!
それでは、さっそく出立いたしましょう!

――――

柳川城
まずはご近所の佐土原城さんから。
お出かけされてないのなら、この辺りにいらっしゃるはずですが……。

立花山城
あら、あそこに人影が――?

唐津城
(――だだだだだだ)

(だだだだだだだ――)

柳川城
今のは唐津城さん……でしたね。
猛然と疾走していましたが……。

やくも
なぁ千狐……なんだかうち……。
この後の展開が見えてしまったような気がするんやけど。

千狐
……千狐もなの。

佐土原城
――ああーっ!? 見つけた!
唐津城ちゃんはあそこだよ、せんせ!

高鍋城
ありがとうございます、佐土原城さん!
すぐにそちらへ向かいましょう!

殿
…………。

立花山城
最近、私……多少の騒動では、
動じなくなりつつあるのよね……。

――――

唐津城
はぁ、はぁ……!
今日という今日は、逃げ切ってみせるんだからぁ……!

丸山城
懲りない人です……どうなるかは分かりきってるのに。

高鍋城
この情熱を、勉学に向けていただければ嬉しいのですが。
……という言葉も、何度言ったか分かりませんね……もう。

延岡城
痛い目を見る前に帰りましょうよ……唐津城さん。

佐土原城
もぉ~……今日の授業が終わったら、
高鍋城せんせと一緒にお出かけする約束だったのに……!

高鍋城
大丈夫ですよ……佐土原城さん。
お出かけの約束は、ちゃんと果たしますから……。

佐土原城
だけど……ずるいよ、唐津城ちゃん。
いつもいつも高鍋城せんせに構ってもらって、独り占めして……!

高鍋城
そうですね……いつまでもこの調子では、困ってしまいます。

高鍋城
……もはや恒例となりつつありますが、
一応言っておきましょう。

高鍋城
これ以上の抵抗は止めなさい……唐津城さん!
ここから先は、冗談じゃ済まなくなりますよ?

唐津城
ぅぐ……。

唐津城
へ、へへーん! 脅しになんか屈しないもん!
今日のアタシには、心強い味方がいるんだから!

金剛山城
――とうっ!
楠木七城がひとーつ、金剛山城……見・参!

金剛山城
行き倒れてたところを救ってもらった御恩に報いる時……、
ってことだね、唐津城ちゃん!

唐津城
そういうこと! 頼んだよ、金剛山城ちゃん!

殿
…………!

柳川城
唐津城さんの傍らに居るのは……城娘、ですね?

金剛山城
話は聞いたわ……あなたが高鍋城ちゃんね?

金剛山城
唐津城ちゃんによれば『マナビヤ』っていう場所で、
『ベンガク』とかいう恐ろしい責め苦を与えてるんだとか……。
許せないわ……!

高鍋城
い……いったい、何を仰っているのです……?

金剛山城
……要するに!
あなたの非道も今日でおしまいってこと……覚悟しなさい!

合戦中

佐土原城
金剛山城ちゃん……通せんぼしてるあの子を倒さなきゃ、
唐津城ちゃんのところにはたどり着けないんだね。

佐土原城
よぉし、頑張るぞぉ……。
わたしが一番に追いついて、
高鍋城せんせに褒めてもらうんだ……!

金剛山城
マナビヤの軍勢が進軍を始めたわ……!
見てなさい、あたしの必殺技でみんな蹴散らしちゃうんだから!

殿
…………!

柳川城
そうですね……両者とも熱くなっているご様子です。
怪我人が出てしまう前に、
私たちが間に入り……仲裁をいたしましょう。

佐土原城
あうぅ~……もう一歩も動けないよぉ……。

金剛山城
か、唐津城ちゃん……。
あ、あたしのことは気にせず、逃げてぇ――

金剛山城
――って、あれ?
唐津城ちゃんの姿は……?

立花山城
……ひとまず喧嘩両成敗、ってところかしら。
まだ成敗しなきゃいけない子が一人、残っているようだけどね。

後半

金剛山城
うぐぐ……こうなったら、
あたしが身を挺して、
マナビヤ軍の侵攻を食い止めてやるんだから……!

???
まったく……。
熱くなると周りが見えなくなってしまうところは、
いつまで経っても直らないのね?

金剛山城
……むむ、失礼なことを。
あたしはただ、唐津城ちゃんに恩返しをしたかっただけで――

金剛山城
――って、あれ? 今の声は……?

千早城
やっと追いついたわよ……金剛山城。

千早城
姿が見えないと思ったら、こんなところに居たとはね。
どこまで逃げたら気が済むのよ……。

金剛山城
お、お姉ちゃんっ……!?
どうしてここに……?

千早城
貴方を追って来た以外に、理由があると思う?

千早城
ということで……皆さん、私の妹がご迷惑をお掛けしました。
この子は責任を持って連れて帰りますので……どうかご寛恕を。

千早城
ほら、行くわよ……ついてきなさい。

金剛山城
ご、ごめんなさい……ごめんなさいぃ~~……!

殿
…………。

唐津城
…………。

唐津城
ふ……ふー。騒動は落ち着いたみたいだね。
それじゃ帰ろっか、高鍋せんせ♪

高鍋城
ええ、そうしましょう。
今回のお仕置きは、帰ってからゆっくり……ですね♪

唐津城
…………。

唐津城
や……やっぱり、そうなります?

高鍋城
延岡城さん、丸山城さん。
唐津城さんの手を握っておいていただけますか?
はぐれてしまわないように、しっかりと。

丸山城
はぁい、りょーかいでーす。

延岡城
い、良い運動になりそうですね……!

唐津城
ま、待って待って!
もう逃げない、逃げないからぁ……!

立花山城
……ふぅ。一件落着ね。

高鍋城
殿……またしても、お手数を掛けてしまいましたね。
いつものことながら、ありがとうございます。

殿
…………!

千狐
大変ですね……高鍋城さんも。
千狐も普段、やくもを相手にしていますから、
その苦労は理解できるの……。

やくも
うちって、傍から見たらあんな感じなんだに……?

高鍋城
いえ……褒められるようなことでは。
教師を名乗る以上、当然のことですから……。

高鍋城
……して、皆さんはなぜこのようなところまで?
私たちに何かご用でも……?

千狐
ほら、やくも……佐土原城さんに武器を渡さないと。
そのためにここまで来たんでしょう?

やくも
――おお、そーだったがや!
唐津城のドタバタで忘れてしまうとこだっただに!

やくも
さぁ……受け取るがや。
佐土原城のために造った、特製の槌だに♪

佐土原城
え、わたしに……これを?

佐土原城
わ……凄いしっくりくる!
ずーっと前からわたしの武器だったみたいだよぉ♪

やくも
きっと今後の戦にも、役立つはずだに!
存分に使ってやってほしいがや♪

佐土原城
ぞ、存分に……? つまり、
これで唐津城ちゃんを懲らしめなさいっていう……?

千狐
さ、流石にそれは……。
お仕置きでは済まなくなってしまいますから……!

柳川城
……ん? そういえば、
今日は飫肥城さんの姿が見えませんね?

立花山城
確かに……。
普段は高鍋城の許で勉学に励んでいるのよね?
今日は一緒じゃないの?

高鍋城
あら……?
確かに……はぐれてしまったようですね?
さっきまでは一緒に居たはずなのですが……。

佐土原城
大丈夫だよ、飫肥城ちゃんはしっかりしてるし!
高鍋城せんせの御城に、先に戻ってるんじゃないかな?

高鍋城
そうですね……だと思うのですが……。

殿
…………。

やくも
(なんだか、仄かにイヤ~な予感がするだに……)

千狐
……さて。
武器を贈るべき城娘は、まだまだいらっしゃいます。
早速、次の地へと向かいましょう!

秘伝武具 上関海砲

『私も日の本へ、いつか』……空飛ぶ島の上から
隔たれた世界の向こうを願うこと、幾星霜。
彼女の願いが実を結ぶ時が、遂にやってきた。

前半

遠く遠く隔たれた世に存在する……科学と叡智の結晶、空飛ぶ島。

目覚めから、長い時が過ぎた。
私は幾度、此地で夜を明かしたのでしょう。

私の願いは、いつか聞き届けられるのかしら?
誰に願えば良いのかは、分からない……。
けれど、私にできるのはただ、それだけしか――

――――

――ざざーん……ざざーん。

上関城
はぁ~……いーい天気だぜ……。

上関城
こういう日は、船に乗って沖へ漕ぎ出してぇなぁ。
最近は大人しくしてたし、たまには暴れたって――

???
ん……んぅぅ……。

上関城
――んん?
おい……おいおいおい。

上関城
そこに倒れてるのは、人じゃねぇか……?
漂流か、それとも船が難破でもしたか……!?

上関城
――と、それどころじゃねぇ。
まずは息があるか確かめねぇと!
……お嬢さん、しっかりしな!

――――

上関城
いや~、遠路はるばるよくぞここまで!

上関城
しかもご用が、アタシにお手製の武器を贈るためとは!
こりゃ、最高の歓待で応えなければ、アタシの名に傷がついちまう!

上関城
っつーわけで!
歓迎するぜ、殿のご一行の皆さま方!

殿
…………!

ラピュータ
本日のおすすめ……。
天空のスカイソーダです。どうぞ。

柳川城
あ……これはどうも、ご丁寧に。

やくも
(ごくごく、ごく)

立花山城
……ふぅ。美味しい。
旅の疲れが癒されるわ……ねぇ、殿。

殿
…………!

殿
…………。

殿
…………!?

千狐
――って、ラピュータさんっ!?
そちらにいらっしゃるのはラピュータさんですよね?

ラピュータ
そうだけど……どうしたの?
そんなに驚いた顔をして……?

柳川城
お、驚かないというのが無理な話です!
当然のように同席していたので、
私も気付くのが遅れてしまいましたが……!

やくも
空飛ぶ御城の世界から出られんって、
悩んどったことは、よーく覚えとるがや!

ラピュータ
……ふふ、ふふふ。

ラピュータ
バレてしまっては仕方ない。
私の正体を明かすとしましょう……!

立花山城
『バレてしまった』って。
隠そうとしているようには見えなかったのだけど……。

殿
…………?

柳川城
ラピュータさんは、いったいどうやって、
日の本までいらしたのです……?

ラピュータ
……実は、私自身もよく分かっていないの。
気がついたら、浜辺に打ち上げられていたみたいで……。

上関城
あん時は驚いたぜ……浜辺を巡回してたら、
気を失ってるラピュータを見つけてさ。

やくも
きっと、あの~……あれだに!
ラピュータの願いが届いたんだに!
うちらがラピュータの世界に行った時とおんなじ要領がや!

千狐
千狐たちがそちらに行ける以上、
相互に行き来できる可能性はある、というお話は、
以前もあがっていましたが……。

立花山城
……推測を立てようにも、
手がかりが不足しているみたいね。

ラピュータ
……そうね。
悩み事に頭を使うのではなく、今を楽しまなくちゃ。
せっかく再会できたんだもの。

ラピュータ
ちょうど今……、
上関城さんに辺りを案内してもらうところだったの。
よかったら、王様たちも一緒にいかがかしら。

殿
…………!

上関城
よぉし……それじゃ付いてきてくれ!
やくもから頂いた武器の礼もしたかったところだしな♪

合戦中

ラピュータ
さぁ……ついてきて、王様。
眼前に広がる大海原……この景色を、存分に楽しみましょう♪

上関城
お、おいおい……待てよラピュータ!
そんなに急いだら、また溺れちまうぞ!

ラピュータ
ああ……夢みたい。
日の本で王様たちと再会を果たせるなんて……♪

ラピュータ
楽しすぎて、楽しすぎて……つい、考えてしまうわ。
この時間が、いつまでも続いたら……なんて。

後半

柳川城
……と。いつの間にか、
随分と時間が経ってしまいましたね。
そろそろ、次の地へと向かわなければ……。

殿
…………!

ラピュータ
そう……もう出発するのね。

やくも
……ラピュータも、うちらと一緒に行くだに!
武器を贈るために日の本中を津々浦々!
異国に立ち寄る予定もあるがや♪

ラピュータ
王様たちと、一緒に……。

ラピュータ
……ごめんなさい。魅力的なお話だけど、遠慮するわ。

ラピュータ
私、この辺りの風景が気に入ってしまって。
もうしばらく、ここでゆっくりしていこうと思うの。
……構わないかしら、上関城?

上関城
あ……ああ。もちろんアタシは構わないが……。

柳川城
ですが、ラピュータさん……。

立花山城
……いいじゃない、彼女の決めたことよ。
ここで別れてそれっきり、ってわけでもないんでしょう?

立花山城
無理強いしてまで連れていくことはないわ。
……そうよね、殿?

殿
…………。

千狐
……はい。承知しました。
それでは次の地に向けて、出立を……。

やくも
絶対絶対、また会うだに……。
またうちらの方から、ラピュータの御城にお邪魔するがや!

殿
…………!

ラピュータ
ええ、必ず。
また会えると信じているわ。

千狐
――コンッ!
秘技・時空転移術なのぉ――っ!!

――――

――――

上関城
良かったのかい、ついていかなくて。

ラピュータ
……どうしてそんなことを聞くの?

上関城
殿たちと一緒に行きたかった……って。
アンタの心が、そう言ってるような気がしたんだよ。
……なんとなくだけどな。

ラピュータ
…………。

ラピュータ
少し名残惜しいくらいがちょうどいいのよ。
……こういうのは。

ラピュータ
私はこの世界においては、異物と呼ぶべき存在。
いずれは此世から離れ、元の世界へと帰る運命にあるの。

ラピュータ
だから……これくらいでいいの。
これ以上王様たちと一緒に居たら、
お別れが辛くなってしまうから。

上関城
ラピュータ……。
難儀な性格をしてるね、アンタ。

上関城
……ま!
アンタがそう決めたんなら異論はねぇ!
きっと、それが一番正しいんだろうさ!

上関城
……湿っぽい話はここまでだ。さて、お次は何をしようか?

ラピュータ
上関城……。

上関城
とにかく、
一つでも多く思い出を作らなきゃならねぇよな!
アンタがまた、此地を訪れたくなるような思い出だとなお良い♪

ラピュータ
……ありがとう。
感謝するわ、上関城。

秘伝武具 黒兎の宵錫

自称『ウサ友』の鹿野城を招き、盛大な宴を開く
新宮城。屈託の無い笑顔を浮かべる彼女を見て、
何か企んでいるのではと訝しむ一同だが……。

前半

新宮城
――さて、皆の者!
よくぞ妾の城に集まってくれた!

新宮城
突然、殿たちが訪れたことには驚いたが……まぁ、些細なこと。
せっかくの宴の機会じゃ、存分に楽しんでいってほしい!

新宮城
それでは……乾杯じゃ~♪

鹿野城
乾杯です~!

やくも
乾杯だにぃ~!

千狐
なのぉ~♪

殿
…………♪

柳川城
新宮城さんの御城で、ちょうど宴が開かれていたなんて。
共に祝えたことを喜ぶべきなのか……。
邪魔してしまったことを謝るべきなのか……。

新宮城
喜ぶべきに決まっておる!
やくもからは何やら、素晴らしい武器を頂いてしまったことじゃしの。
今日はその礼だと思って、付き合ってくれれば良い♪

やくも
ところで、新宮城……これは何を祝った宴なんだに?

新宮城
それはもちろん、妾と鹿野城の出会いを祝う宴じゃ!

鹿野城
新宮城さんとは、以前より手紙をやり取りしてまして。
今日、ついにご対面を果たした……という次第なのです。

新宮城
鹿野城と縁を持つのは因幡の白兎……対して妾は黒兎ときた!
いわば妾たちは、ウサ友というわけじゃな♪

柳川城
う、ウサ友……。

柳川城
(……どう思いますか、皆さん?)

立花山城
(新宮城って確か……幼い城娘にご執心な子だったわよね?
 幾度か問題を起こしたこともあるとか……)

やくも
(なんの企みも無しに宴を開くわけがないがや!)

千狐
(といっても、鹿野城さんはどう見ても、
 幼いとは言い難い容姿をしています……よね?)

殿
…………。

柳川城
(う~ん……更生した、
 と信じたいところではありますが……)

立花山城
(……いいじゃない。
 皆が同じ方を向く必要はないでしょう?
 信じるのは殿の役目、疑うのは私たちの役目、としても――)

新宮城
(――ちらっ)

新宮城
(殿たちはどうやら、内緒話に集中しておる様子。
 よし……今のうちに……!)

新宮城
時に……鹿野城よ?
妾の御城は気に入ってもらえたかの?

鹿野城
はい……もう大満足です♪
わざわざ宴なんて開いていただいて、ありがとうございます!

鹿野城
今日だけじゃなく、
お友達も連れてまた来れたら……なんて思ってしまうくらい♪

新宮城
(ぴくっ)

新宮城
ほぅ……? それは興味深い。

新宮城
時に鹿野城よ。
その『お友達』の中に、幼き城娘は居るのかのう……?

鹿野城
幼き城娘……ですか?
はい……何人かいらっしゃいますが……?

新宮城
そうかそうか……ぐふふ♪
それでは……妾の計画も、次の段階に――

新宮城
――こほんっ。ところで……鹿野城よ?
妾の御城の見所は、まだまだ他にもあるのじゃが……どうじゃ?
おぬしさえ良ければ案内するが……。

鹿野城
新宮城さんの御城の見所……ですか?
ええ、ぜひ見てみたいです♪ ご案内をお願いできますか?

新宮城
うむ……うむうむ! 喜んで案内しよう!
すぐに出発じゃ……ささ、こちらへ……♪

鹿野城
ですが、あの……。
殿たちはお連れしなくても良いのですか?

新宮城
うむ、殿たちには断られてしまったのでな。
妾とおぬしの二人きりで、行くことになるのう。

鹿野城
そうですか……残念です……。

新宮城
残念なことなど、何もあるまい。
むしろ妾は……ぐふ、ぐふふふ……♪

――――

殿
…………。

殿
…………!?

柳川城
……はい、どうしました……殿?
何か問題でも――?

殿
…………!!

立花山城
――っ、確かに……!
新宮城と鹿野城の姿が見えないわ。

やくも
やっぱり、何か企んどったんだに……新宮城めぇ~!

千狐
……探しに行きましょう。
まだ、そう遠くへは行っていないはずです!

合戦中

柳川城
待ってください、新宮城さん!
鹿野城さんを捕えてどうしようと言うのです!?

新宮城
わ、妾はただ、鹿野城を人質にしようとしただけじゃ!
そして此奴と引き換えに、
幼き城娘を紹介してもらおうと――

立花山城
そっちの方が遥かに質が悪いと思うんだけど……。

鹿野城
ええと……新宮城さん?
これはいったい、どういう……?

新宮城
良いか、鹿野城よ……急な話ではあるが、
殿一行と、妾たちの軍に別れて、鬼ごっこ大会が開かれることとなった。

新宮城
現実を受け止めるには時間がかかるじゃろうが……頼む。
まずは妾と共に来るのじゃ。良いな?

鹿野城
お、鬼ごっこですか……。
よ、よく分かりませんが……分かりました……?

新宮城
ぐ……またしても、妾の道が半ばで……!

新宮城
いや、まだじゃ……まだ諦めんぞ。
どれだけ追い込まれようとも、この好機を逃すわけには……!

後半

新宮城
なんと忌々しい……!
楽園の完成へと一歩、近づこうとしていたというのに!

柳川城
諦めてください、新宮城さん!
これ以上は私たちも手加減できませんよ……!

立花山城
凄まじい執念……。
何が彼女をそうさせるっていうの?
理解の外側に居るわ、この城娘……!

???
――少し留守にしてる間に、
こんなことになってたとはな。

新宮城
――なっ、その声は……!

殿
…………!

佐賀城
間に合ったようで良かったぜ。
あいつを食い止めてくれたこと、感謝するよ……殿。

新宮城
さ、佐賀城……もう戻ってきおったのか……!

佐賀城
そりゃ戻ってくるさ……。
いつだったか、約束しちまったからな。
アンタが真っ当な城娘として生きてけるように、面倒みてやる……ってな。

新宮城
だが断る、と妾は言ったはずだがな……!

佐賀城
……とにかく、観念しな。
これ以上は逆らっても徒労に終わるだけだぜ?

新宮城
ぐぬ……ぐぬぬぬ……。

新宮城
……良いか、殿!
此度は機を逸したが、妾は諦めん……!

新宮城
幾年月を越えようと、幾度阻まれようと!
妾は今後も、決して歩みを止めはせんぞ……!

新宮城
それでは……さらばじゃ~!

佐賀城
――ああっ!? こらぁ、待ちやがれ!!

殿
…………。

立花山城
捨て台詞の内容がもう、悪役のそれじゃない……。

千狐
や、やくもや唐津城さんより……遥かに恐ろしい城娘だったの……。

柳川城
犠牲者が出なくて良かったですね……。

鹿野城
あのぉ……これはどういうことなのでしょう。
私、まだ状況が飲み込めていないのですが……?

立花山城
……飲み込めないままの方が良いんじゃないかしら。

やくも
とりあえず、新宮城の御城にはもう、
近寄らんことをおすすめするがや……。

殿
…………。

秘伝武具 郷義弘

魚津城と松倉城の主従は今日もどこか気の抜けた
表情を浮かべていた。その傍らには、彼女らを
不安げな眼差しで見つめる彦根城の姿があった。

前半

魚津城
…………。

魚津城
(景勝様……)

???
――津城さん、魚津城さん。

魚津城
…………。

彦根城
――魚津城さん、大丈夫ですか?

魚津城
――はっ。

魚津城
すみません……少しぼーっとしていたみたいですぅ。
何かご用ですか、彦根城さん?

彦根城
はい、昼餉の用意が整いましたので、
お呼びしようと……。

魚津城
……なんと。もうそんな時間でしたか。
すみません……本来であれば、私が作るものなのに……。

彦根城
いいえ……泊めていただいたお礼ですから、
お気になさらず……こほ、こほっ。

彦根城
松倉城さんもお待ちです。
皆で卓を囲み、昼餉を楽しみましょう?

魚津城
はい……それでは向かいましょうか……。

彦根城
――う、魚津城さん?
そちらは御城とは反対の方角ですよ……!

魚津城
あらぁ……そうでしたねぇ。
失礼しました……それではお先に……。

――――

彦根城
……魚津城さん。

松倉城
……魚津城は、相変わらずか。

彦根城
……松倉城さん。
魚津城さんに、何があったのです……?
松倉城さんはご存知なのでしょう?

松倉城
なんということはない……。

松倉城
……先日。魚津城や、
妾と縁の深い武将の魂が……逝った。
それだけのことじゃ。

彦根城
……っ!
そう、だったのですね。そんなことが……。

彦根城
教えてくださり、ありがとうございます。
もし知らなかったら私……魚津城さんに対して軽率に、
『相談に乗る』などと言葉を掛けてしまうところでした。

松倉城
無用な心労を掛けてしまい……申し訳なく思う。

松倉城
妾も魚津城も……自らの力で立ち上がるしかない。
じゃがそれにはまだ……時間が必要なのだろう。

彦根城
……私もそう思います。
今はただ……ゆっくりと休み、心を癒やし――

千狐
――到着しました。転移成功です!

殿
…………!

やくも
松倉城はどこだにぃ~!?
うちがとっておきの刀を持ってきたがや~♪

彦根城
――にゃ? 聞き覚えのある声ですね……?

――――

松倉城
この刀を……妾に?

やくも
――だに♪
うちの力を注ぎ込んだ、最っ高の自信作がや!
受け取ってほしいだに!

松倉城
……抜いても良いか?

やくも
もっちろんだに♪

松倉城
…………っ。

松倉城
これは……なんと綺麗な刃か。
日の光を受けて、輝いておる……。

松倉城
……いかんな。今のような腑抜けた有様では。

魚津城
……松倉城様?

松倉城
彦根城、魚津城……付き合ってくれるか。
刀の具合を確かめたい。

彦根城
承知しました……私にできることでしたら、何なりと。

魚津城
……ええっ。わ、私もですか……!?

合戦中

松倉城
やくもから譲り受けた刀、
これは妾と魚津城にもたらされた、好機なのじゃ。

松倉城
いつまでも足を止めているわけにはいかぬ。
すまぬが、力を貸してくれ……殿よ。

松倉城
はぁ、はぁ……。
どうした、もう音を上げるのか?

魚津城
はぁ、はぁ……。
刀の具合を確かめたいなんて、嘘ですよね……?

魚津城
この力の入り具合……。
演舞や稽古の程度を、明らかに越えています。

松倉城
……なに。
腑抜けた貴様の性根を、叩き直そうと思っただけだ。

後半

松倉城
いい加減、目を覚ませ……魚津城。
過ぎ去った過去を振り返っていても、
妾たちのこれからには、何の影響もないであろう。

魚津城
あ、貴方に言えた台詞ですか……?
腑抜けているのは、松倉城様だって同じことでしょう。
空気の抜けた毬みたいに、へにょへにょになっちゃって……!

松倉城
そう……貴様の言う通りじゃ。

松倉城
……じゃからさっさと立ち直って、妾を支えてくれ。
そのための協力は惜しまぬ……。
妾も主城として、魚津城を支えよう。

魚津城
……っ! 松倉城ちゃん……。

松倉城
……失った事実は変わらぬ。
時の経過が喪失感を和らげてくれるのを、
待つ以外に対処の術は無いのかもしれぬ。

魚津城
…………。

松倉城
じゃが……妾には貴様が居る。
そして貴様には……妾が居る。そうじゃろう?

魚津城
そう、ですね……仰る通りです。

魚津城
一人で抱え込んでどうにかするより、
二人で支え合った方が……少しだけ、マシかもしれませんね。

魚津城
それじゃ……クヨクヨとした、
後ろ向きな話ばかりになってしまいますが、
耳を傾けてもらうとしましょうか……。

松倉城
ああ……願ったりじゃ。
ぜひ聞かせてほしい。

殿
…………。

柳川城
自分を頼ってくれるものが居る……という事実は、
時に、自らの強さにもつながることがあるのですね。

やくも
つ、つまり……どういうことなんだに?
うちはよぉ分からんかったんやけど……?

千狐
千狐にもさっぱりだったの……。

立花山城
ふふ、私たちには分からなくてもいいんじゃない?
あの二人が通じ合っていれば、それでいいのよ。

彦根城
そうですね……。
松倉城さんと魚津城さんの笑顔が見られた、
私にとってはそれだけで……充分過ぎます。

殿
…………!

秘伝武具 車山形大砲-犬山大祭-

手製の大砲を贈り、ご満悦のやくも。しかし、
対する犬山城は殿の顔を見上げながら、
ソワソワ様子を伺い何か言いたげな様子……。

前半

やくも
――ということで!
これが犬山城のために拵えた大砲だに!
ぜひぜひ、犬山城の今後に役立ててほしいがや♪

犬山城
わぁ……ありがとう、やくもちゃん♪
私のお部屋に、大事に飾っておくからね!

やくも
い、いや……うちとしては、
がんがん使ってくれた方が嬉しいんやけど……。

勝幡城
それで、殿たちはこの後どうするんだい?

犬山城
ここでしばらく……ゆっくりしてくんだよね?
ご飯とかお風呂とか……それから、お泊りとか!
だから、その……良かったら私、一緒に……。

殿
…………。

千狐
しばらく滞在はできますが、
日が暮れるまでは、ちょっと……。

柳川城
まだまだ、
回らなければならない場所がありますからね……。

犬山城
えっ……? そんなぁ……。

名古屋城
犬山城さん……。
気持ちはわかりますが、殿はお忙しい方ですから……。

犬山城
殿が忙しいのは知ってるよ……。

犬山城
でも……前に会った時にも私、我慢したもん。
殿は忙しいからお預けだ、って……。

犬山城
この前も、今日もお預け……。
私のお預けは、いつまで続くの……?

殿
…………。

勝幡城
犬山城……元気を出しな。
今日のところは、アタシが付き合うから……な?

犬山城
勝幡城じゃダメなのぉ……。
鬼ごっこもかくれんぼも、全然へたっぴだし。

勝幡城
あ、アタシじゃ……ダメ、だと……?

殿
…………。

殿
…………!

立花山城
顔を上げなさい、犬山城?
流石にお泊りは無理だけど……、
時間が許す限り付き合ってくれるって、この人が言ってるわよ?

犬山城
……え、ほんと?

名古屋城
……良いのですか、殿?

殿
…………!

犬山城
う、うんっ! そうだね、それじゃすぐに始めないと!
少しでも長く、一緒に遊べるように!

合戦中

犬山城
準備はいい、殿ぉ~?
それじゃ始めるよー♪

柳川城
は、『始めるよー』と言われましても、
どんな遊びなのか……私たち、聞かされていないのですが……。

立花山城
犬山城に楽しんでもらうのが目的なのだし、
細かいことは気にしなくていいんじゃない?
勢いで乗っかっちゃえば、満足してくれるはずよ。

犬山城
うわぁ~~……やーらーれーたぁ~~~……。

立花山城
よ、よく分からないけど……終わったみたいね。

柳川城
犬山城さん……元気いっぱい走り回って、
とっても楽しそうでした……。
これで少しでも、心の隙間が埋まってくれれば良いのですが……。

後半

犬山城
……あはは、つっかれたぁ~♪
もう一歩も動けないよ……はぁ、はぁ……♪

柳川城
子供の体力とは、底が知れませんね……。
私たちにとっても、良い運動になりました。

勝幡城
…………。

勝幡城
皆……ありがとう。心から礼を言うよ。

立花山城
勝幡城……。

勝幡城
実はあの子、
随分前から『殿の顔が見たい』ってボヤいててね。
ずっと再会を願ってたんだ……。

勝幡城
アンタが相手してくれたこと、
犬山城はこの先もずっと覚えてるはずだよ。
本当に……ありがとね。

名古屋城
私からもお礼を言わせてください。
ありがとうございました……!

殿
…………!

犬山城
私からも……ありがとね、殿。

犬山城
それから――ごめんね。
私の我儘に付き合わせちゃって……。

犬山城
城娘はみんな、殿のことが大好きだから……。
きっと、私と同じような思いを誰もが抱えてるんだよね。

犬山城
そんな中で、私のために時間を作るのって、
大変なことだったと思うの、きっと……。

犬山城
なのに私、つい自分のことばっかりになっちゃって――

殿
…………。

犬山城
う……うん。今日のお礼は、
今後の働きでお返しするつもり……期待してね?

殿
…………!(なでなで)

犬山城
……えへへ。
ありがとう、殿……大好きだよ♪

秘伝武具 セプト・トゥール

手製の武器を贈るべく始まったやくもの行脚は
なおも続き……場所は海を越えてフランスへ。
甘いお菓子に舌鼓を打つ中、不穏な声が……。

前半

ところは海を越えて……フランス。

やくもお手製の贈り物を届けるべく、
千狐の力を借りて転移を果たした一行だが――

やくも
んま、んまんま……♪

シャンボール城
どぉ、やくもちゃん? 美味しい?

やくも
これも、それも……どのお菓子も絶品だに~!
シャンボール城はお菓子作りの達人だったがや?

シャンボール城
前にチョコレートを作った時から、
お菓子作りにハマっちゃったの!
えへへ、喜んでもらえて嬉しいな♪

立花山城
これが異国のお菓子……ちょこれーとなのね……。

柳川城
ありがとうございます、シャンボール城さん。
急にお邪魔したばかりか、お菓子まで振る舞っていただいて……。

シャンボール城
ううん、全然だよ!
素敵な武器をプレゼントしてもらったし、そのお礼♪

シャンボール城
それにね、みんなには良い思い出を持って帰ってもらいたいの。
おーさまや柳川城ちゃんたちと会える機会なんて、滅多にないもん!

コンシェルジュリー
もぐ……もぐ……。

コンシェルジュリー
ええ……本当に美味しい。
練習すれば、私も同じものが作れるのでしょうか……。

千狐
こ、コンシェルジュリーさん……いつの間に……!

コンシェルジュリー
――むぐ、すみません。
辺りの巡回をしていたところ、
甘い香りが漂ってきたものですから……。

シャンボール城
ふふっ、大歓迎だよー!
好きなだけ堪能してってね♪

殿
…………♪

???
ああ、素晴らしい……なんて素晴らしいの?

???
どこもかしこも、見事と言う他ないわ!
本っ当にこの御城は、
どこまで私を喜ばせれば気が済むのかしら……♪

殿
…………?

柳川城
――あら、今の声は……城娘ですか?

シャンボール城
……あ、うん!
ちょうど今、お友達が遊びに来てたところだったの!

シャンボール城
ヘレンキームゼー城ちゃ~ん、ちょっといいかなー?

ヘレンキームゼー城
――ああ。ごめんなさいね、シャンボール城さん。
私……とっても忙しいの。

ヘレンキームゼー城
貴方の御城が放つこの輝きを余すことなく、
網膜に焼き付けておかないと――

シャンボール城
い、忙しいのは知ってるよ! だけど……、
ヘレンキームゼー城ちゃんに、紹介したい人が居てね……?

ヘレンキームゼー城
紹介したい人……ですって?

殿
…………。

ヘレンキームゼー城
だぁれ……貴方?

ヘレンキームゼー城
城娘をそんなに侍らせちゃって……王様気分ってわけ?
優しげで、なんだか頼りなさそうだし……なんだか、いけすかない男ね。

殿
…………!?(がーん)

シャンボール城
あっちゃ~……やっちゃったぁ……。

立花山城
……はぁ?
いけすかない男ですって?
いい度胸してるわね、貴方……。

柳川城
立花山城さん……抑えて、抑えて……!

立花山城
この人は私たち城娘を統べる、主君にあたる人よ?
『王様気分』も何も、紛うことなき王様ってわけ……お分かり?

ヘレンキームゼー城
え……?

ヘレンキームゼー城
――えええっ、王様!? 貴方がっ!?

――――

ヘレンキームゼー城
ほんっとーにごめんなさい!

ヘレンキームゼー城
私、昔から建築や音楽のことになると、
周りが見えなくなることがあって……。
それで時々、つい辛辣な言葉を口にしてしまったりとかもして……!

ヘレンキームゼー城
――なんて、言い訳したって何も変わらないのだけど!
とにかく、私が悪かったわ……本当にごめんなさい!

シャンボール城
私からも謝るよ……おーさま、ごめんね……!

シャンボール城
ヘレンキームゼー城ちゃんに話しかけるなら、
タイミングを考えるべきだったよね……。

殿
…………。

殿
…………?

柳川城
い、いいえ! 頼りないなどとは、ちっとも!
その笑顔はむしろ、親しみやすさを高めているといいますか――!

千狐
立花山城さんも急に怒り出して……びっくりしたの……。

立花山城
……は、反省はしてるわよ。
でも仕方ないじゃない、
出会い頭にあんなことを言われたら……!

やくも
んで……ヘレンキームゼー城は、
どうしてシャンボール城の御城に来たんだに?

ヘレンキームゼー城
さっきも言った通り……私の城主、ルートヴィヒ2世は、
音楽と建築をこよなく愛する方だったの。
人によっては『狂っている』なんて評した方もいたくらいにね。

ヘレンキームゼー城
そんな私が、
シャンボール城さんの御城へ足を運ばないなんて、ありえないでしょう?
敬愛するルイ14世殿下も手を加えたという話だし♪

シャンボール城
――……っ!

ヘレンキームゼー城
もしかしたら、憧れのヴェル様……、
ヴェルサイユ宮殿様に一歩近づく、きっかけになるかもしれないわ♪

シャンボール城
ヴェルちゃん……ルイ14世殿下……。

シャンボール城
…………。

シャンボール城
わたしが……そんなに素敵な御城だったなら、
どうして、見捨てられちゃったのかな……?

コンシェルジュリー
シャンボール城さん? ……はっ!

コンシェルジュリー
(そうです……シャンボール城さんは、かつて……!)

シャンボール城
……ごめんね、みんな。
ちょっとわたし、急用を思い出しちゃった。

シャンボール城
ほんとにごめんね、すぐに戻るから……それじゃ。

やくも
ん……シャンボール城? どこへ行くんだに?

殿
…………。

柳川城
……行ってしまいました。
悲しげな表情をしていましたが、あれはいったい……?

コンシェルジュリー
く……失態です。
私が誰より早く、気づくべきだったのに……!

立花山城
貴方はもう、事情を理解したみたいね。
……説明していただけるかしら?

コンシェルジュリー
シャンボール城さんの歴史とは、すなわち……、
『孤独と向き合い続けた歴史』と言い換えることもできます。

コンシェルジュリー
それほどまでに、シャンボール城さんは城主との別れを経験した。
改築されては離れていき、幾度も幾度も……。

柳川城
……その城主の中に、
先ほど話にあがったルイ14世が居た……ということですね?

コンシェルジュリー
すみません……私がもう少し早く気づいていれば、
途中で遮ることもできたのに……。

ヘレンキームゼー城
……ばか。どうして貴方が謝るのよ。
悪いのはどう考えても私じゃない。

ヘレンキームゼー城
……本当に情けない。
失言で迷惑を掛けたばかりだっていうのに……!

コンシェルジュリー
ヘレンキームゼー城さん……。

ヘレンキームゼー城
……後を追いましょう。
このままあの子を放っておくなんて、できないわ。

ヘレンキームゼー城
貴方も力を貸してくれる? ……お願い、王様。

殿
…………!

合戦中

やくも
シャンボール城を探す……って、
この広い庭園で……手がかりもなく、だに?

柳川城
急ぎましょう……日が暮れると厄介です。

ヘレンキームゼー城
……これっきりにはさせない。
必ずシャンボール城さんに一言、ごめんねって伝えるの……!

ヘレンキームゼー城
や、やっと追いつきましたよ……シャンボール城さん……!

シャンボール城
ヘレンキームゼー城ちゃん……!?
それに、みんなも……?

柳川城
見つけることができて、一安心です。
でもまだ一件落着……というわけにはまいりませんね。

立花山城
……そうね。
ヘレンキームゼー城がどんな言葉を伝えて、
シャンボール城が何を思うか……。

後半

シャンボール城
……ヘレンキームゼー城ちゃん。

ヘレンキームゼー城
……ごめんなさい。シャンボール城さん……。

ヘレンキームゼー城
私、また無神経なことを言って……。
お陰で、悲しい出来事を思い出させてしまいました……。

シャンボール城
……ううん、大丈夫だよ。
心配してくれてありがとう、ヘレンキームゼー城ちゃん。

コンシェルジュリー
シャンボール城さん……。
無理して強がることはないのですよ?

シャンボール城
無理なんかしてないよ……これはわたしの本音。

シャンボール城
今はロワールのみんなと一緒に暮らしてるし、
おーさまや、日の本の子たちとも仲良しになれたもん……。

シャンボール城
過去のことは、もうどうにもできないけど……。
今のわたしには『明日が楽しみだなー』って、
思わせてくれるような仲間が……いっぱい居るから。

シャンボール城
それに……今だってほら、
わたしのことを心配してくれる人が、こんなに沢山……。

殿
…………。

シャンボール城
だから……これからは、
ヴェルちゃんのことも避けたりしないで、
仲良くしたいなーって思うの。

ヘレンキームゼー城
シャンボール城さん……。

コンシェルジュリー
そう、ですか……それでは今度、
機会がありましたらお誘いしますね?

コンシェルジュリー
実は今度、ヴェル様とお出かけの予定がありまして……。

シャンボール城
わぁ、いいのっ? 喜んで参加するよ♪

ヘレンキームゼー城
――はぁ!?
どういうことよ、ヴェル様とお出かけって!?

ヘレンキームゼー城
コンシェルジュリーさん貴方、
ヴェル様とは不仲だったはずでしょう!?

コンシェルジュリー
え、いや……決して不仲だったわけでは。
ただまぁ……色々ありまして、すれ違いは解消されました。
今は仲良くさせていただいております……。

ヘレンキームゼー城
い、色々あった……?

ヘレンキームゼー城
色々って何よ、色々って!?
もっと具体的に言いなさいよ、コンシェルジュリー!?

コンシェルジュリー
そ、それは……。
ヴェル様と私の秘密ということになっていまして……!

ヘレンキームゼー城
はぁぁっ!? 意味わかんない!
私はヴェル様の全てを知っていないといけないの!
秘密は許されないわ! お分かりっ!?

殿
…………。

立花山城
なんというか。
これはまた、濃ゆい城娘が現れたわね……。

柳川城
そ、そうですね……。

秘伝武具 錫槍・蜻蛉切

下総国に転移し、しばしの休息を楽しむ一行。
だがその時、絶妙に似ていない猫の鳴き声と、
明らかに怪しい気配を感じ取り――!

前半

――下総国、某所。

ダノター城
綺麗な景色……。
私の国とは違った魅力を感じるわ。

大垣城
ええ……本当に。
ここまで足を運んだ甲斐がありました。

大多喜城
ふふ……楽しんでいただけているかな?
ダノター城、大垣城。

大垣城
はい……。
大多喜城さんがご案内してくれたお陰で、
下総国の素晴らしさを、より深く理解できました。

ダノター城
私からも礼を言うわ……どうもありがとう。

柳川城
それにしても……驚きました。
まさか、観光中のダノター城さんと出くわすだなんて。

殿
…………!

やくも
久しぶりに会えて嬉しいがや♪

千狐
前回お会いした時は、
落ち着いてお話できませんでしたからね……。

ダノター城
前にも言ったかしら……。
大垣城とは随分前から、お手紙のやり取りをしていてね。
度々日の本に足を運んでは、案内してもらっていたの。

大垣城
私も関東の地理には疎いので、今回のように、
知り合いの、知り合いの……と伝手を頼って、
ご案内をお願いしては、観光を楽しんでおります。

千狐
海を越えて、親交を温めていたのですね……素敵なの♪

立花山城
……無事に武器も渡せたし、まだ時間には余裕があるわ。
しばらく彼女らと一緒に観光を楽しんでも良いんじゃない?

柳川城
そうですね……私たちにとっても良い思い出に――

(がさ、がさがさっ)

???
むっ、しまった――!

殿
――っ!?

ダノター城
――しっ。何か聞こえたわ。

立花山城
今の物音……気のせいじゃないわよね?

大垣城
兜の残党か……それとも妖怪か。
座視しているわけにはいきませんね……!

???
…………。

???
にゃ、にゃお~~~ん……!

大垣城
――あら? なんだ……猫ですか。びっくりしました。

???
……ふぅ。

大垣城
――などと、安心できるわけがありませんよね。

???
――にゃっ!?

大垣城
猫の鳴き真似で乗り切ろうとは、なんと賢しい輩か……。
余計に怪しさが深まりました。

ダノター城
そうね……後を追いましょう。
不届き者の正体を突き止めなければ……!

合戦中

大多喜城
先ほどの気配、見逃すわけにはいかないな。
すまないが、其方にも力を貸してもらうぞ……ダノター城。

ダノター城
……ええ、もちろんよ。

ダノター城
(先ほどの猫の鳴き声、
 どこか聞き覚えが……気のせいかしら。)

大多喜城
見つけたぞ……皆の者、不届き者の気配はこちらだ!

柳川城
はぁ、はぁ……。
とんでもない大捕物になりましたね。

立花山城
やっと追い詰めたわね……。
さぁ、正体を明かしてもらいましょうか。

後半

???
にゃ、にゃぁ~~ご……。

大垣城
こ、この後に及んで猫の鳴き真似を続けるのですね……。

ダノター城
でも、お陰で居場所が明らかになったわ。
そちらの草陰に隠れているみたいよ……。

大多喜城
よし……一斉に飛びかかり、捕らえるぞ……!
いち――

大垣城
にぃの――

ダノター城
――さんっ!

エディンバラ城
――――っ!?

やくも
あんたは……!?

殿
…………!

ダノター城
エディンバラ城様……どうしてここに?

エディンバラ城
あはは、その……。
ちょっと散歩してたら、うっかり海を越えてしまって――

ダノター城
……どうして、ここに?

エディンバラ城
……ではなく、急に眠気に襲われて、
気づいたらこんなところにいて――

ダノター城
……エディンバラ城様?

エディンバラ城
――ごめんなさぁぁぁぁい!
後をつけてたの! 物陰に身を潜めながら、
ダノターちゃんたちをじぃ~っと観察してたのぉーー!

殿
…………。

エディンバラ城
かつては孤高を貫いていたダノターちゃんも、
少しずつ変化しています。

エディンバラ城
事ある毎に『崖から突き落とすわよ』と、
言っていたのも、もはや過去のこと!

エディンバラ城
中でも、此度の日の本観光は、
新たなご友人との繋がりを作る、格好の機会と言えましょうッ!

大多喜城
え、エディンバラ城……もう少し声を落としてほしいのだが……。

エディンバラ城
……す、すみませぇんッ!!

ダノター城
…………。

エディンバラ城
そのお邪魔になってはならないと、
私は今回同行を遠慮し、見送ることを決めました。
ですが――!

エディンバラ城
せめて……せめてこの目で、
ダノターちゃんの成長を見届けたい!
その願いだけは果たしたかったのですッ!

大垣城
それで日の本まで、ダノター城さんの後を追って……。

エディンバラ城
見つかってしまったのは残念ですが……。
皆さんのお邪魔をするわけにはいきません。

エディンバラ城
私はそちらの生け垣に隠れてますから……!
お気になさらず……それではっ――!

ダノター城
待って……ちょっと、待ちなさいってば。
気にせずにいられるわけがないでしょう……。

エディンバラ城
でも、ダノターちゃん……!

ダノター城
エディンバラ城様の気遣いは嬉しく思うわ……。

ダノター城
けれど……どうしてそのために、
貴方が寂しい思いをしなければならないの?

ダノター城
昔からずっと、誰より私の世話を焼いてくれた貴方を、
蔑ろにすることなんて……できるわけがないでしょう?

ダノター城
……大垣城、大多喜城。
道連れが一人増えるけれど……構わないわよね?

大垣城
ええ……もちろんです。

大多喜城
ああ! 私の故郷の素晴らしさを、隅々までご案内しよう!

エディンバラ城
だ、ダノターちゃぁん……♪

殿
…………。

秘伝武具 北前船筒

天童城の手打ち蕎麦はやはり絶品。黙々と蕎麦を
すする音だけが辺りに満ちる。だがそんな中、
どういうわけか誰かの腹の音が聞こえてきて――

前半

湊城
(ぐうぅぅ~~~~)

湊城
ん~……もう我慢できないよぉ!
ねぇね、天童城ちゃんっ!
もう食べていい? 食べていいよね?

秋田城
ふふ、そんなに慌てなくても大丈夫だよ、湊城。
お蕎麦は逃げたりしないんだから……。

湊城
だってぇ、秋田城ちゃん……。
やくもちゃんから貰った武器の試し撃ちで、走り回ってたら、
お腹がぺこぺこになっちゃったんだもん……!

天童城
……これでよし、と。
全員にお蕎麦は行き渡りましたね?

やくも
だにー!

千狐
なのー♪

天童城
それでは皆さん……声を合わせて――

いただきまーす!

やくも
ずる、ずずっ……ずるずるずる~……♪

やくも
ん~♪ ぜっっっぴんだにぃ~~~!

千狐
相変わらず、天童城さんの打ったお蕎麦はおいしいの~♪

立花山城
確かに……素晴らしい味ね。
所領ではなかなか味わえるものではないわ。

柳川城
もう何度も頂いていますが……、
その度に感服してしまいます。

殿
…………♪

天童城
ふふ、お褒めに預かり光栄です。
お代わりの用意はありますので、たーんと――

(ぐううぅぅぅ~~……)

湊城
お腹の音……誰のものかな?

千狐
変ですね……。
皆さん、蕎麦を頂いているのに……?

殿
…………?

秋田城
音の聞こえてきた方向からして、その出処は――

天童城
…………!

天童城
……ど、どうしたのです皆さん?
私などのことは気にせず……ほら!
もっとお蕎麦を食べてください!

湊城
……そういえば、
どうして天童城ちゃんはお蕎麦を食べてないの?

天童城
え……えーと、さっき言いませんでしたっけ?
ちょっと食欲が湧かなくてですね――

天童城
(ぐううううぅぅぅぅぅ~~~~!)

天童城
…………!?

湊城
またお腹の音……今度は間違いないよ!

柳川城
天童城さん……もしかして貴方は――

天童城
――す、すみません!
私、急用を思い出してしまいました!

天童城
少々席を外しますので、どうかお気になさらず~!

湊城
ああ、天童城ちゃんっ!?

合戦中

天童城
わ、私のことは放っておいてください!
お腹も減ってませんし、お蕎麦も結構!
ですから皆さんでごゆっくり!

湊城
で、でも天童城ちゃん……足元がふらついてるよ……?

柳川城
天童城さん……もしや、ずっと空腹を堪えていたのでは……?

天童城
……い、いいんです、自分で選んだ道ですから!
目的を達するまで、大好きなお蕎麦も我慢するんです~!

湊城
ああっ!? 待ってよ、天童城ちゃん!

天童城
きゅぅ~……。

湊城
天童城ちゃん、大丈夫……?

立花山城
やっぱり我慢していたんじゃない。
……殿、力を貸して。天童城を運びましょう。

後半

天童城
ずる、ずるずる……ずるずるずるっ……。

天童城
ずずずずずずず……!!

天童城
うう……ううぅ……!
美味しい……美味しいですぅ……うぅ……!

やくも
泣きながら蕎麦をすすっとるがや……。

立花山城
どうなることかと思ったけど、
ひとまず安心、ということかしら……。

秋田城
……それで。
どうしてこんなになるまで我慢してたんだい?

天童城
…………。

天童城
最近……お蕎麦作りの熱が再燃しまして。
打てば打つほど上達していくのが楽しくて、
毎日のようにお蕎麦を作っていたんです……。

天童城
ですが、味見でお蕎麦を食べているうち、
徐々にその……お肉が……。

千狐
あー……。

殿
…………。

秋田城
なるほど……そういうことだったんだね。

秋田城
とはいえ、摂生するなら適度に行わないとだよ?
過剰な飽食は確かに避けるべきだけど、
無茶な断食だって身体に毒なんだから……。

湊城
そーだよぉ……。
天童城ちゃんが倒れたりしたら、私悲しいよ……?

天童城
そうですよね……そうなんですけどぉ……!(ずるずるずる)

秋田城
でも……君も辛かったんだよね。
よく頑張った……よく頑張ったねぇ……。(なでなで)

天童城
うう……うう……!(ずる、ずるずる)

秋田城
適度に食べて、適度に身体を動かせばいいじゃないか。
私も付き合うから、健康を取り戻すまでここでゆっくりしていくといい♪

湊城
うんうん、私も付き合うよー!

天童城
ありがとうございます……。
秋田城さん、湊城さん……!

秘伝武具 龍神三鱗筒

江戸城の申し入れにより、相模国を案内する
こととなった小田原城。しかしどうにも上手く
いかず、小田原城は空回りを繰り返し――

前半

小田原城
ええと、ですね……このように、
城下には目安箱を設置しておりまして……!

江戸城
……なるほど。
民との距離を近づけるための工夫ですね。

小田原城
そ、その通りです……。

小田原城
江戸城さんが求めるような情報では、
ないかもしれませんが……。

江戸城
…………。

江戸城
……ところで、小田原城さん。
先程から気になっていたのですが、
この町は随分と清掃が行き届いているのですね?

江戸城
町には綺麗な水が流れ込み、
周囲を見回してもゴミの一つも見当たらない……。
これは、驚くべきことです。

小田原城
そ、そうですね……これは氏康様の政策の一つです。
お気づきになるとは、流石は江戸城さんです……!

江戸城
…………。

江戸城
……小田原城さん。
此度の機会は私から申し入れたもの。
先人の優れた治世を学びたい……予てよりそう願っていたためです。

江戸城
ですから、そこまでかしこまらなくても……。

小田原城
そ、そうですね……はい。
ですが、相手が江戸城さんと思うとつい……。

殿
…………。

やくも
ん~、なんだかあの二人の空気が、
重たく感じられるがや……。
怒ったりしとるわけやないのに……うちの思い違いだに?

立花山城
……いいえ。私も同じように感じたわ。
けれどこの空気は、私たちの手で払うことはできない。

柳川城
小田原城さんの手で払わなければ……ということですね。

千狐
小田原城さん……。

――――

小峯城
……小田原城。

小峯城
不味いな……。
江戸城という優秀な後進を前に、萎縮してしまっている様子。

小峯城
元より小田原城は、
慎み深く、争いを好まない気質の城娘……。

小峯城
北条家の素晴らしさを誰よりも信じる一方で、
『自分たちが理解していればそれでいい』という姿勢……。

小峯城
後の時代で名を挙げた者たちとは、
張り合おうとは決してしなかった……。

小峯城
そんな中で訪れた、江戸城の視察という機会。
あのような調子で進むようなら、
私が発破をかけてやるべきか……はたまた――

――――

小田原城
ええと……次は、次は……。

江戸城
…………。

江戸城
……小田原城さん。

小田原城
は、はい?
もしや何か、不備にお気づきになられたり……?

江戸城
先に非礼をお詫びしておきます。
……申し訳ありません。

小田原城
……え?

江戸城
……背筋を伸ばしなさい。顔を上げなさい。

小田原城
…………!

江戸城
かつての関東は正に群雄割拠……。
その只中で国を守り、治め続けたことは、
偉業と言う他ありません。

江戸城
それは、誰にでも成せることでは無かったはずです。
私は北条氏を……小田原城さんを、尊敬しているのですよ。

小田原城
…………。

江戸城
ですから……小田原城さん。
もっと胸を張ってください。

江戸城
そして……聞かせてください。
貴方が愛する人々の話を。
そんな人々が作った、この国の素晴らしさを。

小田原城
江戸城さん……。

小田原城
(……気づかなかった。この子……、
 こんなに真っ直ぐに、私の目を見据えていたんだ。
 なのに私は――)

小田原城
(……江戸城さんが凄いから、
 彼女の前で胸を張れる自信がなかったから。
 だからへりくだって、謙虚に振る舞った……でも)

小田原城
(そのように応じることを選んだのは、
 決して『正しかったから』じゃない。
 最も楽で……簡単な道だったから……)

江戸城
…………。

小田原城
(胸を張って……受け止めなければ。
 江戸城さんの真っ直ぐな視線を……気持ちを!)

合戦中

小田原城
――さて。ここから少々早足で参りますよ、江戸城さん!

小田原城
相模国の素晴らしさは、数え上げればキリがありません!
日が暮れる前に、全て巡らなくては!

江戸城
ふふ……承知しました。よろしくお願いします。

やくも
はひぃ……はひぃ~……。
小田原城も江戸城も、元気が良すぎるだにぃ……。

立花山城
ふふ……足を止めている余裕はないわよ、やくも?

柳川城
ええ……。
早くしないと、小田原城さんの話を聞き逃してしまいます。

後半

江戸城
……ありがとうございます、小田原城さん。
本当にこの国は、聞けば聞くほど素晴らしい……。
足を運んだ甲斐がありました。

小田原城
……お礼を言いたいのは、私の方です。

江戸城
…………。

小田原城
……悲しい敗北は、確かにありました。
それは私の力不足によるものだったのかもしれない。

小田原城
けれど……それだけではありません。
私には誇れるものが沢山あります。
いつの時代の誰が相手であっても、胸を張れるほどの……。

小田原城
私の城主を努めた北条家の当主……。
私と運命を共にした支城や家臣。
才に長けた多くの者たち……。

小田原城
私がどのような御城、城娘だったとしても、
そこに嘘はありません。江戸城さんのお陰で改めて、
その事実に気づけました。

江戸城
小田原城さん……。

小田原城
……と、足を止めている場合ではありませんでしたね。
相模国の素晴らしさはまだまだ語りきれていませんから!
ささ、ついてきてください♪

江戸城
……はい、承知しました!

やくも
うちもついてくだにー!

千狐
ちょっとやくも……そんなに急いで、
転んでもしらないわよ……!

小峯城
…………。

小峯城
どうやら……私の心配は杞憂に終わったようだな。

小峯城
もはや尾行は必要ないだろう……。
小田原城を信じ、後を任せることにしよう。

殿
…………。

柳川城
どうかしましたか……殿。
あちらに何か、気になるものでも……?

立花山城
疲れでも溜まってたんじゃないの?
ぼーっとしたまま立ち尽くしちゃって……。

柳川城
それでは休憩がてら、
私たちも江戸城さんと一緒に、相模観光を楽しみましょうか?

立花山城
そうね……それくらいの余裕はあるでしょう。
それに、この人の身体も心配だし。

立花山城
ほら……行きましょう、殿。
でないと小田原城たちの背中を見失ってしまうわ。

殿
…………!

秘伝武具 アラゴンの王鞭

人々の願いが作りし世……オリュンポス宮殿も
その内の一つだった。意図せずその地に訪れ、
驚きと戸惑いを抱くアラゴネーゼ城だが……。

前半

アラゴネーゼ城
むにゃ……むにゃむにゃ。

アラゴネーゼ城
えへへ……待ってよぉ、お殿さま。
もう少しだけ一緒にベッドで――

アラゴネーゼ城
…………はっ。

アラゴネーゼ城
ん……んんん?

アラゴネーゼ城
ここ……どこ?

アテナイ・アクロポリス
そこの城娘……止まりなさい!
まずは名前と出身! それからここへ来た目的を!

アラゴネーゼ城
――え、えええっ!?

アラゴネーゼ城
あ、そのぉ……イスキア島から来た、
アラゴネーゼ城って言うんだけど……。
目的も何も私、ベッドで眠ってたはずで――

アテナイ・アクロポリス
……両手を挙げたまま、その場から動かないように。
まずは凶器を隠し持ってないことを確かめます。

アラゴネーゼ城
そんなもの持ってないよぉ……。

殿
…………。

やくも
あのアテナイっちゅう城娘、まーたやっとるがや。

千狐
アラゴネーゼ城さん……戸惑ってるの。

立花山城
恋は盲目、とはよく言ったものだけど、
アテナイのあれも似たようなものかしら……どう思う、柳川城?

柳川城
ど、どうして私に尋ねるのでしょう……?

殿
…………。

アラゴネーゼ城
――あれ? あれあれ?
もしかしてそこに居るのは、お殿さまっ!?

アラゴネーゼ城
すごーい、夢みたいだよぉ! ……ってあれ?
夢なんだっけ、これ……?
んー……そもそもどうして私は、こんなところに……?

オリュンポス宮殿
ふふ……初々しい反応だ。
本来はああいった驚きを見せるものなのだがな。

柳川城
私たちはすでに、
此地のような世界に赴いた経験がありましたから……。

立花山城
私は思いっきり驚愕したけどね……。
人々の願いが生み出した世界……って言ってたかしら?

やくも
初めてラピュータの御城に行った時なんかは、
開いた口が塞がらんかったがや……。

千狐
月の都さんの御城でも、
驚いたことをよく覚えてるの……。

オリュンポス宮殿
どれ、そこの……アラゴネーゼ城と言ったか。
こちらへ来るが良い。私がこの神殿を案内してやろう。

アラゴネーゼ城
え、いいの? それじゃお願いしちゃおうかな♪

アテナイ・アクロポリス
お、お待ちなさい……!
わたくしが安全だと判断するまでは、
オリュンポス様に近寄ることは許しませんよ!

オリュンポス宮殿
……おい、アテナイ。いい加減にしないか。
彼女らは久方ぶりの来客だぞ?

アテナイ・アクロポリス
ですが、オリュンポス様……!

オリュンポス宮殿
我は今、非常に機嫌が良い……邪魔をするな。
よってアテナイ、我が許しを下すまで口を開くことを禁ずる。

アテナイ・アクロポリス
――むっ! むぅぅ!?
むーーっ!!

アラゴネーゼ城
あれ……アテナイちゃん?
急にどうしちゃったの……?

オリュンポス宮殿
心配性なのが玉に瑕だが、昔から聞き分けの良い奴でな。
我の命令にはこうして、迷いなく従ってくれるのだ。

オリュンポス宮殿
……ともあれ、これで障害はなくなった。
唸り声は聞こえるだろうが……そこは我慢してくれ。

アテナイ・アクロポリス
……むー。

オリュンポス宮殿
さぁ、城娘たちよ……我と共に行こう。
この世界を心ゆくまで、堪能していくが良い♪

合戦中

立花山城
それにしても……見れば見るほど、
現実離れした場所ね、この世界は。

柳川城
あちらに見える雲は、どのような感触なのでしょう……?

やくも
だにぃ……うちのそーさくいよくが刺激されて、
いんすぴれーしょんがムクムク膨らむのを感じるがや……!

アラゴネーゼ城
案内してくれてありがとう、オリュンポスちゃん♪

アラゴネーゼ城
……あ。
『オリュンポス様』って呼んだ方が良いかな?
とってもとっても偉い子なんだよね……?

オリュンポス宮殿
いや、呼びやすいように呼んでくれ。
我にとってはその方がありがたい……。
ここには、我を敬うものしかいないのでな。

アラゴネーゼ城
……うん、了解したよ! オリュンポスちゃん♪

後半

アラゴネーゼ城
ん~……むにゃ。
なんだか、急に眠くなってきちゃったみたい。
お殿さまぁ……抱っこして?

殿
…………。

立花山城
(抱っこね……ふーん)

柳川城
(抱っこ……!?)

アラゴネーゼ城
おっかしいなぁ、さっき起きたばっかりなのに……。

柳川城
――と。言われてみたら、
私も……急に眠気が……。

千狐
コン……この感覚、覚えがあるの……。

オリュンポス宮殿
……別れの時が近づいている、ということか。
まったく、楽しい時間は早く過ぎてしまうものだな……。

アテナイ・アクロポリス
むー。(こくり)

アラゴネーゼ城
お別れ……そっかぁ、そうなんだ。
でも、平気……これで最後じゃないよ。

アラゴネーゼ城
私、分かるの……。
お殿さまたちともオリュンポスちゃんとも、
きっとまた会える。

オリュンポス宮殿
アラゴネーゼ城……。

アラゴネーゼ城
私の身体に、願いの力が満ちてるのを感じるんだ。
きっと沢山の人たちが、私のことを想ってくれてる証だと思うの。

アラゴネーゼ城
この力がある限り……私たちはきっと大丈夫。
だから悲しまないで、オリュンポスちゃん。
次の機会には、私の手料理を振る舞ってあげるから、ね……♪

アラゴネーゼ城
……あっ、お殿さまとの約束も忘れてないよ?
一緒に温泉に入る約束……裸と裸の付き合い、ってやつ♪

柳川城
(裸と裸の、付き合い……!?)

立花山城
(好機と見るか、危機と見るか……)

殿
…………!

アテナイ・アクロポリス
むぅ~~~……。

オリュンポス宮殿
どうした、アテナイ……おかしな奴だな。
唸っているだけでは分からんぞ?

アテナイ・アクロポリス
むー! むー、むーうぅ~!!

アラゴネーゼ城
お、オリュンポスちゃん……。
きっとアテナイちゃんは、
さっきの命令に従ってるんだと思うけど……。

オリュンポス宮殿
……おお、すまぬすまぬ。
あまりに面白くてつい、忘れておった。

やくも
(覚えとっただに……絶対覚えとっただに……!)

オリュンポス宮殿
すまなかったな……アテナイ。
良いぞ、口を開くことを許そう。

アテナイ・アクロポリス
――なりませんよ、オリュンポス様!
どこの馬の骨ともしれぬ者の手料理を、口にするなど!

アラゴネーゼ城
う、馬の骨ぇ……。

アテナイ・アクロポリス
――仮に口にするとしても!
私が毒見役として同行し、すべてを口にした上で――

オリュンポス宮殿
……アテナイ。
幾度も言ったが、汝にはユーモアが足りんな。
もうしばらく口を閉じておれ。

アテナイ・アクロポリス
むうぅぅ~~~!?

オリュンポス宮殿
そう唸るな……ちゃんと分かっておるぞ。
アテナイ、汝とは長い付き合いだからな。

アテナイ・アクロポリス
む……?

オリュンポス宮殿
要するに汝は、我に放っておかれるのが寂しいのだろう?
心配は要らぬ……現世に赴く機会があれば、汝も連れて行くぞ。

アテナイ・アクロポリス
むーーーー!!(ぶんぶん)

立花山城
……違う、って否定しているようだけど。

オリュンポス宮殿
いや、これは喜びを表しているのだ。
昔から、なかなか変わった形で感情を示す奴でな……。

アテナイ・アクロポリス
むぅぅーーー!!!(ぶんぶんぶん)

アラゴネーゼ城
あ、遊ばれてる……。

殿
…………。




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