ストーリーテキスト/選ばれし城娘と秘伝武具_弐の陣

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目次

選ばれし城娘と秘伝武具 弐の陣[]

秘伝武具 とんぼきり

多くの城娘から新たな武具の作成依頼を受けた
やくもは、彼女らの期待に応えるべく、工房へと
向かうのだが、それが思わぬ事態を引き起こす。

前半
――寅の刻・所領。

???
やくもの朝は早い――。

やくも
ふわぁ~あ。
……まだ眠いだにぃ。

???
――などと零しながらも
寝惚眼をゴシゴシしながら工房へと向かうやくも。

やくも
けど、うちに武器を作ってほしいって
言ってくれる人のためやけん、今日も頑張るだに!

???
そう独りごちて、名匠やくもは愛用のトンカチを握りしめる。

やくも
んぉりゃぁあああっ――――!!

――かちーん!

やくも
とぉりゃぁあああっ――――!!

――かちーん!

やくも
もひとつオマケにぃ――――!!

――かちーん!

やくも
はぁ、はぁ、はぁ…………。

???
荒ぐ息を落ち着かせようとするやくも。

やくも
もう少しで、完成だに……此処でへばってるわけにはいかんだに。

???
そうだ。やくも。

???
こんなところで負けちゃだめ。

???
貴方のその手に、城娘たちの未来が――

やくも
――って、さっきから何を隣でぶつぶつ言ってるがや!?
聚楽城も少しは手伝ってほしいだにぃ!

聚楽城
もぉ、そんなに怖い顔しないでください、やくもちゃん。
ほらほら、お水だってちゃんと汲んできましたからぁ♪

やくも
おおっ! 気が利くだにぃ♪

やくも
って、そうじゃなくて!

やくも
何であんたが何日も所領に泊まり込んでるがや?
数日前までは殿さんとは面識なかったはずだに!

聚楽城
何を言ってるんですかぁ。
面識はなくても、殿のことは前々から知ってましたよ。

聚楽城
ほら、聚楽第ちゃんが初めて貴方たちと出会った時のこと――

聚楽城
ちょっと前になりますけど、
やくもちゃんが作った武器が兜に盗まれて、
大事件になった時のことですよぉ。

やくも
……ああ、あれかぁ。

やくも
あの時は、聚楽第や彦根城たちに迷惑かけてしまったけん、
ほんとにすまなかっただにぃ……。

聚楽城
もう、どうして謝るんですかぁ。
あれは兜が悪いのですから、そんな顔しないでください。

聚楽城
それに、聚楽第ちゃんは、やくもちゃんの作った弓を見て、
こんなに凄いものが作れる神娘がいるなんて――って驚いてたからこそ、

聚楽城
それを又聞きした私が、聚楽第ちゃんへの贈り物用に、
今回、やくもちゃんへ新たな武具の作成を依頼したのですよ!

やくも
ん~。
それが嬉しい話だってのは分かってるんやけどぉ……。

やくも
ちょっとばかし、依頼の時点が悪すぎるがや。

やくも
何だかんだで、今のうちは他にもたくさんの城娘たちから
武具の作成依頼を受けてるだにぃ……。

聚楽城
それに関しては、本当に申し訳ないと思ってます……。

聚楽城
ですが、そこは我々、城娘を助けると思って――

聚楽城
――お願いします、やくも師匠!

やくも
し、師匠……!?

やくも
何だか大袈裟すぎるような気がするだにぃ……。

聚楽城
そんなことありません!

聚楽城
なにせやくもちゃんときたら、武具作成だけでは飽き足らず、
こ~んなものまで作っちゃうのですから、師匠と呼ばずして何としましょうか!

やくも
……こんなもの?

やくも
ああ、その等身大の城娘の模型のことやね。

小田喜城(模型)
…………。

徳島城(模型)
…………。

多賀城(模型)
…………。

聚楽第(模型)
…………。

プラハ城(模型)
…………。

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
…………。

聚楽城
むむむ……何という完成度の高さでしょうか。

やくも
前に、模型好きの春日山城って城娘さんから
色々と教わっちょるけん、作るのはそう難しくはなかっただに。

聚楽城
いや、まぁ……武具の細部を調整するために、
持ち手になる予定の城娘さんたちの模型を作って、
試しに持たせてみた、というのは分かりますが……。

聚楽城
ここまで精巧だと、ちょっと不気味ですよぉ……。

やくも
あんたの発案で出来上がったものやけん、
不気味とか言わないでほしいだに!

聚楽城
だ、だってぇ……冗談半分で言ったのに、
本当に作っちゃうなんて思わなかったんですよぉ。

聚楽城
でも、海外の城娘さんたちも此処までそっくりに再現できるなんて、
やくもちゃんの才能は留まる所を知らない、って感じですね!

やくも
とか言っても、ぜ~んぶあんたの肖像画を参考にして、
模型は作っただに。聚楽城の絵の才能の方がすごいがや。

聚楽城
ふふっ、ありがと、やくもちゃん。

聚楽城
でも、さすがにプラハ城さんやノイシュヴァンシュタイン城さんは
私も名前しか知らなかったので、肖像画はみーんな、
シノンちゃんからの助言を受けながら完成させたのですよ。

聚楽城
だから、彼女の説明の上手さもちゃ~んと褒めるべきかと!

シノン城
――はいは~い、ロワール最古の城娘ことシノンで~す。

シノン城
もしかして今、私のお話をしてた感じですかぁ、ジュラシック城さ~ん?

聚楽城
恐竜がわんさかいそうな城っぽく呼ばないの、シノンちゃん。
聚楽城です、聚楽城。

シノン城
お~、うっかりうっかりでごわすぅ~♪

やくも
てか、シノン城――!
あんた、いつから工房にいたがや?

シノン城
最初からず~っと此のあたりに忍んでましたよぉ♪。
シノン城だけにぃ、シノン城だけにぃ~。

聚楽城
あ~、今ちょうど私も言おうと思ってたのにぃ!
シノンちゃんばっかり面白いこと言ってズルいですよぉ!

やくも
…………。
(いや、けっこうくだらなかったと思うだに……)

シノン城
それにしても、やくもちゃんの武具作りもいよいよ大詰めですねぇ。

やくも
だに。もう少しでぜ~んぶ完成がや。

やくも
五日後には、多賀城と徳島城が武器の受け取りに来るっていう話だに。
何とかそれまでにきっちり完成させないと怒られるだにぃ……。

シノン城
なんと! 後五日しかないのですか!?
それは大変ですねぇ……。

シノン城
私も、お友達のプラハ城ちゃんとノイシュヴァンシュタイン城ちゃん用の
武具作成を頼んじゃってますからね……。

シノン城
ということで、やくもちゃん!
私でよければ、何でもお手伝いしますよぉ~!

聚楽城
あぁ~! シノンちゃんばっかりに良い格好はさせませんよぉ!

聚楽城
私も依頼主の一人として、頑張りますからねぇ、やくも師匠!

やくも
よっしゃ! それじゃあ残り五日、三人で頑張るだにぃ~!

――四日後・深夜。

やくも
よ、ようやく完成だに……。

聚楽城
何とか……多賀城さんや徳島城さんたちへの受け渡し前日までに
間に合って良かったですねぇ……。

シノン城
シノンもお手伝いしすぎて疲れましたぁ……はぅぅ。

聚楽城
でも、これならきっと、みんな喜んでくれるはずです!

聚楽城
ほら見てください! それぞれ模型に持たせてみると、
これ以上ないってくらいばっちり決まってますよぉ♪

小田喜城(模型)
…………。

徳島城(模型)
…………。

多賀城(模型)
…………。

聚楽第(模型)
…………。

プラハ城(模型)
…………。

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
…………。

シノン城
絶景かな絶景かな~、というやつですねぇ。

シノン城
日の本的に言えば、此処で、
た~まや~、とかって叫ぶべきでしょうか?

聚楽城
それは花火が上がった時ですよぉ、シノンちゃん。

聚楽城
ですが確かに、惚れ惚れするほどの出来ですねぇ。

やくも
そうやねぇ。

やくも
けど、武具が完成した今となっては、
この模型たちも、お役御免になってしまっただにぃ……。

シノン城
苦楽を共にしてきた仲ですからね。
お別れするのは、心苦しいです……。

聚楽城
でも……このコたちはどうするのですか、やくもちゃん?

やくも
……んぅ。
ずっと所領に置いとくわけにもいかんし……。

やくも
聚楽城、どうしたらいいかや?

聚楽城
そう、ですねぇ……。
考えられる処し方は幾つかありますが……。

シノン城
たとえば?

聚楽城
お焚き上げをする……とか?

シノン城
炊き、揚げ――!?

シノン城
だ、ダメですよぉ、聚楽城さん! どれだけお腹がすいてたって、
城娘の模型を炊き込んだり、揚げたりするのはおかしいですぅ!

聚楽城
ち、違いますって、シノンちゃん!
炊き込み御飯とか、揚げ物とか、そういうことじゃないから!

聚楽城
いい? 古来から日の本では、
強い想いが込められたものには魂が宿るとされていてね。

聚楽城
だからこそ、こういったお世話になった人形には礼を尽くし、
浄火によって天界へ還す、という考えがあるのです。

シノン城
そ、そうなのですねぇ……。
初めて知りました。

シノン城
ですが、だからといって
このコたちを燃やすのは気が進みませんねぇ……。

やくも
うちも同じだに。

聚楽城
私だって……。

聚楽城
――あ。でも、まだまだ他にも色々と手段はありますから、
後は室内で話し合いませんか? 

シノン城
賛成で~す♪
それじゃあ、お風呂に入ったら、やくもちゃんのお部屋に集合ですねぇ。

やくも
分かったがやぁ~。
今日は二人とも寝かさんから覚悟しておくとい~だにぃ!

シノン城
ふふっ、やくもちゃんったら、相変わらず元気なんだからぁ♪

聚楽城
それじゃあ、行きましょうか。
模型たちも、また明日ですね――。

にこにこ顔で、三人は工房を後にする。

そして、工房には誰もいなくなった――

――はず、だったのだが……。

…………。

徳島城(模型)
…………。

徳島城(模型)
ヒドいよ、やくも様……。

プラハ城(模型)
……あんなに、優シク……シテクレテタノニ……。

小田喜城(模型)
……モウ自分タチハ用済ミ……なんだネ……。

多賀城(模型)
デモ…………死ニタク、ナイ……。

聚楽第(模型)
焼カレルノハ、イヤ……。

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
……ウン。焼かれるノハ、イヤだ……。

聚楽第(模型)
…………。

聚楽第(模型)
……逃ゲヨウ。

プラハ城(模型)
ソウダ……皆で、逃ゲヨウ……。

多賀城(模型)
コノ武器ガアレバ……キット……逃ゲキレル……。

徳島城(模型)
…………行コウ……。

徳島城(模型)
皆デ……自由ヲ、手ニ入レルンダ……。

翌日――。

多賀城
ふっふっふ……。

多賀城
わらわは来た! ついに来たのだぁ!

多聞山城
あらあら、殿の所領に来ただけだというのに、
随分とはしゃいでますね、多賀城。

滝山城
無理もない。
我々の中で殿に挨拶を済ませてないのは此奴だけじゃからな。

多賀城
――っ!?
べ、別にはしゃいでなどおらぬのだ!

多賀城
というより、何でお主らが一緒に来てるのだ!?
用事があるのはわらわだけだろうに!

多聞山城
所領までの途次にて迷子になられては困りますからね。

滝山城
いわば、わしらは子守みたいなものじゃな。

多賀城
ぐぬぬぬ……毎度毎度、そうやってわらわを子供扱いしよってぇ!

多賀城
いいか! わらわは神亀元年に創建され、
陸奥国府と鎮守府が置かれた偉大なる――

鬼ヶ城
――よぉっす、多賀城!
多聞山城と滝山城から話は聞いてるぜ、よく迷わずに所領まで来られたな!

多賀城
お、鬼ヶ城……!?

滝山城
出迎えご苦労じゃ。
ふぅ……それにしても、ちと歩き疲れたわい。

多聞山城
途中、兜たちとの戦いもありましたからね。

鬼ヶ城
へへ、まぁお前ら三人なら余程のヤツじゃなけりゃ、
兜が何体来ようが平気だろうよ。

多賀城
…………。

多賀城
(此奴らめ、相も変わらず馬鹿でかいものをぶら下げよって……)

多賀城
(これではわらわが本当にお子様みたいではないか……!)

鬼ヶ城
おっ? どうした多賀城? 何だか元気ないぜ?
歩き疲れて腹でもへってんのか?

多賀城
うるさい。やたらと図体のでかいお主らに囲まれたせいで、
息苦しくなっただけなのだ!

鬼ヶ城
……ん? 息苦しい? どういうことだ?

多聞山城
ふふっ、お気になさらずですわ、鬼ヶ城。
こればかりは私たちにはどうしようもできませんもの。

滝山城
というわけじゃ。
とりあえず、殿の許への案内を頼めるかの?

鬼ヶ城
ああ、そのつもりだぜ!
それじゃ、俺様についてきてくれ。

――所領・室内。

殿
…………。

多賀城
殿、お初にお目にかかる。

多賀城
わらわが多賀城なのだ!

殿
…………。

殿
…………!

千狐
遠路はるばるお越しいただき恐縮ですわ、多賀城さん。

多賀城
おお、お主は噂に名高き殿の従者がひとり――千狐だな?

多賀城
うむ! 小さくて、もふもふしていて可愛いのだ!

千狐
か、可愛いだなんて……照れますわ。

柳川城
多賀城さん、初めまして。
私は柳川城と申します。

多賀城
柳川城……?

多賀城
なるほど、お主が殿の……。

多賀城
ふむ……。

柳川城
……?

多賀城
程良き大きさの城娘なのだ!
お主とならば仲良くなれそうな気がするぞ。

柳川城
……え? それはいったいどういう……?

多聞山城
ふふ、多賀城さんには多賀城さんなりの
価値基準があるということですわ、柳川城さん。

多聞山城
それより、そちらの城娘は?

???
……あ、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。

徳島城
私の名は徳島城。
今回、この所領にいるという神娘のやくもさんに武器の作成を依頼した者です。

滝山城
となると、多賀城と一緒……というわけじゃな。

徳島城
そういうことです。
ふふっ、どんな武器が出来上がったのか楽しみですね、多賀城さん。

多賀城
そ、そうだな……。

多賀城
(侮れぬ……此奴もなかなかにデカい城娘なのだ……)

徳島城
どうしましたか、多賀城さん?

多賀城
いや、何でもないのだ、
それよりも、武器作りを担当しておる神娘のやくもは何処にいるのだ?

千狐
やくもは、工房で皆さんをお待ちしていますわ。

千狐
武器の受け渡しの準備をしていると思いますので、
さっそく向かうことにしましょう。

――工房前。

やくも
お~、あんたたちが徳島城に多賀城やね?
待ってただにぃ~!

多賀城
お主がやくもか。

多賀城
うむ! 千狐と同じく、小さくて可愛らしい神娘なのだ。

徳島城
初めまして、やくもさん。
此度は私たちの依頼にお応えいただき誠にありがとうございます。

滝山城
それで、武器は何処にあるのじゃ?

多聞山城
やくもさんの新作ですからね。
依頼者当人でなくとも気になってしまいますわ。

シノン城
それなら、こちらの工房の奥に用意してありますよぉ~♪

多賀城
おお、そうかそうか――

多賀城
――てっ!?
い、異国の城娘……だと!?

シノン城
は~い。私は海の向こうから来ました、シノン城と申しまするぅ~!

シノン城
多賀城さんに徳島城さん、お初にお目にかかるでござるよ~ドスコーイッ♪

多賀城
さ、さすがは殿の所領なのだ……。
まさか異国の城娘がさらっと居座っておるとは。

聚楽城
やっぱり驚いちゃいますよね。
かくいう私も、初対面の時はちょっとびっくりしちゃいました。

多賀城
え……?

多聞山城
あ、貴方は――!?

滝山城
おおっ、聚楽城ではないか!?
まさか其方まで斯様な場所にいるとは思わなかったぞ。

聚楽城
皆さん、お久しぶりです。

聚楽城
もうお気づきかもしれませんが、
私も徳島城さんや多賀城さんと同じく、
やくもちゃんに武具の作成を依頼した者の一人なのです♪

聚楽城
そしてそして、こちらにおわす小田喜城さんも――

小田喜城
――は、はい。さりげなく私も、今回はやくもさんに
新しい武器を作ってほしいと頼んだのですが、迷惑だったでしょうか?

大多喜城
何を仰いますか、小田喜城様!!

大多喜城
日頃の勇猛たるご活躍を考えれば、
新たな武器を授かることに誰が異議を唱えましょうか!

大多喜城
むしろ、やくも殿も喜んで此度の依頼は受け入れてくれたはず……。

大多喜城
そうでございますな、やくも殿?

やくも
……え? 
ああ、うん。まぁ、そうやね……。

やくも
(断ったら、何するか分からんほどの剣幕で頼みに来たんやけど、
あの様子じゃ、覚えてない感じだに……)

多賀城
…………聚楽城に小田喜城らの依頼まで受けていたとはな。

多賀城
やくもよ……。
お主、一体どれだけの数の依頼をこなしておるのだ?

やくも
あんたら四人以外にも、シノン城経由での
海外の城娘からの依頼もあるから……え~っと、

やくも
合計で六件の依頼を同時進行だに!

多賀城
お主……過労死だけはするなよ?

やくも
いやいや、さすがのうちも死ぬまで働こうとは思わんだに。

やくも
っと、そげなこと言っちょらんで、
そろそろ新しい武具のお披露目といくがや~!

やくも
シノン城、聚楽城……あの模型ごと武器を持ってきてほしいだに!

シノン城
合点承知の助ですぅ~♪

聚楽城
了解しました、やくも師匠!

多賀城
……模型?

滝山城
何だかよく分からんが、あの得意顔じゃ。
とりあえずは期待するとしよう。

やくも
だに! えっぱい期待してるといいがや。
今回のはどれも自信作やけん、きっとみんな――

聚楽城
――や、やくも師匠~~~~~っ!!

シノン城
たた、たっ、大変ですよぉ~~~っ!!

やくも
あん? 二人とも、慌ててどうしたがや?

シノン城
そ、それが……。

聚楽城
無いんです……武器も、模型も……。

聚楽城
全部、無くなっちゃってるんですよぉ!!

やくも
な、なんやってぇぇえ――っ!!

多賀城
……どういうことなのだ、やくも?

多賀城
もしかして、我々が頼んでおいた武器が、
全て……紛失してしまったというのか?

やくも
ど、どうやらそうみたいだに……。

やくも
でも、昨夜まではちゃんと工房の中にあったのに、
ぐすっ……こんなの、おかしいだに……!!

徳島城
もしかして、兜が盗みに入ったんじゃ……?

小田喜城
……それは、あり得ないと思います。

小田喜城
だって、此の所領は聖なる気が満ち溢れてる地ですよ?
兜のような邪悪なるモノは侵入することなど出来るはずがありません。

千狐
……それじゃあ、いったい誰が。

千狐
…………。

千狐
――はっ!?

多賀城
ど、どうしたのだ、千狐?

千狐
とある海岸部に、兜の気を多数検知しましたわ!
急激な活性化からして、何か良からぬ事を企んでるに違いありません!

大多喜城
……なれば、武具紛失に関する犯人捜しの前に、
まずは兜討伐に打って出なくてはならぬようだな。

やくも
……うぅぅ。

徳島城
そのような顔をしないでください、やくもさん。

徳島城
これだけの城娘が揃っているのです!
ぱぱっと兜退治を終わらせて、すぐに武具探しに取りかかりましょう!

やくも
分かったがや……。

柳川城
それでは、殿。
すぐに出立の準備をお願いします!

殿
…………!

――数刻後・某海岸。

千狐
殿、どうやら此処が兜が密集している地のようですわ!
警戒を怠らないように、お願いします!

殿
…………!


――ザザッ!

兜軍団
ザザッ! ザザザッ!!

柳川城
殿! 兜たちの姿を確認しました!

滝山城
数、質ともに大したことはないな。
一気に勝負を決めるとしよう。

聚楽城
はい!
我が槍術にて、一瞬で兜らを……って、あれ?

シノン城
どうしたのですか、聚楽城さん?

聚楽城
シノンちゃん……彼処……。
兜たちの中に居るのって……もしかして――

シノン城
――っ!?
あ、あれは……!!

小田喜城(模型)
………………。

多賀城
馬鹿な……小田喜城が、どうして兜たちと一緒にいるのじゃ?
先ほどまでわらわたちの傍にいたはずなのに……!?

小田喜城
……え?
私なら此処にいますけど、どうかしましたか?

鬼ヶ城
お、おいおい……何の冗談だよこりゃ?

多賀城
小田喜城が、二人いる……だと!?

徳島城
もしかして、双子さん……とか?

大多喜城
何を寝ぼけたことを言っておる!
小田喜城様の双子など、いるはずは――

小田喜城(模型)
…………。

大多喜城
(た、確かに似ている……あの愛らしきつぶらな瞳などは、特に……)

小田喜城(模型)
…………。

小田喜城
あの、あなたは一体……誰なのですか?

小田喜城(模型)
……ワタシは、小田喜城。

小田喜城(模型)
城娘の……ヒトリ……強くて、優しい……小田喜城……。

小田喜城
そ、そんなの嘘です……!

小田喜城
だって、私が……小田喜城なんですから……。

小田喜城(模型)
……フフ。なら、どうして
ソノヨウナ自信の無い顔ヲしているの?

小田喜城
そ、それは……。

大多喜城
――臆することなどありませんぞ、小田喜城様!

大多喜城
如何に外見が似ていようと、
身にまとう霊気が貴方様とあの贋物を明確に分けています。

大多喜城
例え、他の城娘が見間違おうとも、
我が心眼が惑うことなど有り得ませぬ!!

小田喜城
大多喜城ちゃん……!

小田喜城(模型)
贋物……ダナンテ……。

小田喜城(模型)
ヤッパリ……ワタシたちは……用済みナンダ……。

小田喜城(模型)
なら、戦うシカ……ナイ……。

小田喜城(模型)
生き残るタメニハ……戦ワナクチャ、イケナイ……。

大多喜城
(な、なんだ……? 急激に、霊気が増大している……!?)

小田喜城(模型)
ドチラが本物か……武を以て決シテクレル――――ッ!!

小田喜城
――っ!?

大多喜城
そうはさせるかっ!!

小田喜城(模型)
う、クぅッ――ドウシテ、邪魔をスルノ?
大多喜城チャン……痛い、ヨ……。

大多喜城
……っ!? 
その顔で――軽々しく我が名を呼ぶなぁっ!!

小田喜城(模型)
グ、ぁ――ッ!!

大多喜城
はぁ、はぁ……。
(まずい……贋物と分かっていても、ヤツを攻撃するのは心が痛む……っ)

やくも
…………。

やくも
……そ、そんな……。
どうして、うちが作った模型が、動いてるだに……?

千狐
……やくも?

やくも
でも、そんなことが起こるわけ……いや、でも――。

千狐
やくも……貴方、何か心当たりがあるのね!?
ねぇ、教えて! あれは一体――


――ザザッ!

兜軍団
ザザッ! ザザザッ!!

千狐
くっ……此処にいたら、殿の足手まといになるわね……。

千狐
やくも、一先ず安全な場所に移動するわよ!
其処で、何があったか洗いざらい話してもらうんだから!

やくも
わ、分かっただに……。

殿
…………。

多聞山城
殿、一先ず向かってくる兜を殲滅しましょう!
そして、その上であの贋物を捕獲し、尋問するといたしましょう。

小田喜城(模型)
……また、贋物ッテ……言ッタナ……。

小田喜城(模型)
もう、許サナイ…………此処デ、討ち取ッテ、ヤル……!!

後半
滝山城

これで――終いじゃっ!!

小田喜城(模型)
グァっ、ァ……ぅぅぅ…………な、何テ……強さ、ナノ……。

小田喜城(模型)
コノママ、ジャ……ワタシたち、燃やされ……ちゃ、ゥ…………(ぱたり)

大多喜城
ようやく、動きが止まったか……。

小田喜城
……何だか、自分が倒されたみたいで……複雑な気分です……。

柳川城
それにしても、あの小田喜城さんの贋物は一体なんなのでしょうか?

千狐
――それは、やくもが作った模型ですわ。
先ほど、本人から話を聞きましたわ。

多賀城
なんだと!?
工房から武器と共に無くなったという、例の代物か!?

やくも
そうがや……ほら、ここを見て欲しいだに。
この模型の小田喜城が持ってるのが、うちが作った武器がや。

聚楽城
……やはり、そうだったのですね。

千狐
聚楽城さんも、やくもと同じ様に、
色々と心当たりがあるみたいですね。

聚楽城
……はい。

――そうして、聚楽城は事の顛末を口にし始める。

武具制作の際に、城娘を模した模型を作ったこと。
そして、それが動き出したことへの推量を――。

滝山城
……ふむ。強き想いに因って形作られた人型に、
魂が宿ったと……そう言いたいのか。

多聞山城
しかし、そのような事が起こりえるのでしょうか?

滝山城
奇異な事態ではあるが、可能性は零ではない。

滝山城
……が、我ら城娘のような
確固たる魂と同等のものとは思えぬ。

滝山城
恐らく、此の贋物が備えている自我の様なものは、
滅びに対する反射――と言った方が正しかろう。

多聞山城
成る程……それならば、奴らの言動に説明が付けられますわ。

多聞山城
原動の質が能動よりも、受動のそれに重きを置いていたが故に、
単調かつ希薄な自我しか映すことができなかったのでしょうね……。

多賀城
ふん。そんな理屈を幾ら並び立てたところで、
此処ではあまり意味などないのだ……。

多賀城
結局のところ、どんな所為であれ、あの模型はわらわたちを敵と見なし、
武器と殺意を向けてきた――それこそが直視すべき真実の姿なのだ。

徳島城
な、なんだか皆さん揃って、難しいことを仰ってますが……。

徳島城
要するに、あの模型は意識っぽいものを持ち合わせてしまった上に、
兜らと手を組んで、私たちを倒そうとしている……ってことですよね?

滝山城
ああ、それで間違いなかろう。

柳川城
けれど、どうして兜たちが模型と一緒にいるのでしょうか?

大多喜城
考えるまでもない……。
所領から逃げ出した模型たちを、偶然兜らは発見し、

大多喜城
そして、模型たちが抱える殺意や敵意が、
兜らの利するところであった……故に同調し、結果として共闘しているだけであろう。

鬼ヶ城
敵の敵は味方……ってことか。

多賀城
……ならば、このまま放っておくことはできぬのだ!

多賀城
とりあえず、やくもが作ったという模型を全て見つけ出し、捕獲するぞ!

徳島城
……でも、そうなると……ちょっと怖いですね。

多賀城
怖い? 何が怖いというのだ?

徳島城
だって、模型は私や多賀城さんのもあるのでしょう?

徳島城
そうなると、自分と同じ姿の存在と戦わなくてはいけないということに――

???
――フフフ……そんなに怖いノナラ……戦ワナケレバいいではないですか。

徳島城
え……?

徳島城(模型)
初めまして………………本当のワタシ……。

徳島城(模型)
ヨウヤク……会えマシタね……。

秘伝武具 蜂須賀虎徹

突如として意思を持ってしまった模型たち。
そのうちの一体である徳島城の贋物が、
今、本人の目の前に立ちはだかる。

前半
徳島城(模型)

ヨウヤク……会えマシタね……。

徳島城
そうですか……。
貴方が私に似せて作られた模型なのですね!

柳川城
小田喜城さんの時もそうでしたが、
こうして見ると見分けがつかないほど似ていますね。

殿
…………。

徳島城(模型)
フフッ、そう怖い顔をナサラナイで……。

徳島城(模型)
ダッテ……ワタシは、戦うツモリなどありませんもの。

滝山城
何じゃと……?

多聞山城
模型たちの行動原理は、死を忌避するためと考えていましたが、
あの口振り……逃げることを諦めたということでしょうか?

徳島城(模型)
ソウデハありません……。

徳島城(模型)
武器など向ケナクトモ……ワタシたちはわかり合える……。

徳島城(模型)
だって、こうして言葉ヲ交わすことが――

徳島城(模型)
ソシテ、共に踊るコトガできるのですから。

多賀城
踊る……だと!?
お主、いったい何を言って――


――ソウダ!
我々ハ踊ルコトガデキル!

兜軍団
エ~ラヤッチャ、エ~ラヤッチャ、ヨ~イヨイヨイヨイッ!

兜軍団
踊ル阿呆ニ見ル阿呆ッ!!
同ジ阿呆ナラ踊ラナ損々ッ!!!

多賀城
ば、馬鹿な……!
兜たちが阿波踊りを始めただとぉ!?

徳島城
あぁ……な、何という……ことでしょうか…………。

柳川城
徳島城さんが、拳を握って震えている――!?

聚楽城
無理もありません……。

聚楽城
阿波踊りは、蜂須賀家政が徳島入りし、富を蓄積した頃より
盛んになったと言われる――いわば徳島城さんとは切っても切れぬ大切なもの。

聚楽城
それが、ああして兜たちによって
挑発じみて繰り出されたとあっては憤懣やるかたないはず……。

多聞山城
徳島城……冷静さを保ちなさい。
ここで感情をむき出しにしては、奴らの思うつぼ――

徳島城
――何を言ってるのですか、多聞山城さん!

徳島城
あのような未熟な踊りを、阿波踊りなどと豪語して
踊り散らかされては許せるはずもありません!

小田喜城
お、怒るとこ……其処なんですね……。

徳島城
もぉ! こうなったら、
私が本当の阿波踊りというものを教授してあげます!

徳島城
さぁ、刮目せよ! これぞ日の本が誇る芸能の輝き!

徳島城
やっとさ~、やっとさ~、やっとさ~、やっとさ~っ!!

シノン城
――ふぉぉっ!?
な、何ですかそのダンスはぁ!?

シノン城
シノンも、やりま~すっ! いやむしろやらせてくださ~い!
ヤットサーッ! ヤットサーッ! ヤットサーッ!!

多賀城
……ふ、ふざけとる場合かっ!
敵前で踊ってどうするというのだ!

滝山城
だが、贋物を前にして徳島城が城娘に変身するよりかはずっといい。

滝山城
……現状で、どちらも同じ姿になられては見分けをつけるのは難儀じゃからな。

聚楽城
むしろ、敵もあのまま踊ってくれていた方が討ち取りやすいというもの……。

聚楽城
殿、此処は心を鬼にして――兜らを討ち取りに行きましょう!

徳島城(模型)
……ヤハリ、戦いハ避けらレナイ、か……。

徳島城(模型)
ナラバ……どちらが荒々しく舞えるか――勝負ですッ!!

後半
徳島城(模型)

く、はぁッ――こ、コレが……真ノ阿波踊り……なのですね……ッ!!

徳島城
何処の誰に教わったのかは知りませんが、
そのような変調で私を凌駕できると思ったら大間違いです!

徳島城(模型)
ヤハリ……贋物である、ワタシ……には、
何も、カモ……貴方ニは……遠く、及ばなイ…………。

徳島城
……。

徳島城
……そんなふうに悲しまないでください。

徳島城
貴方の踊りには、技術は無くとも……確かな想いがあった。

徳島城
それが生への執着であれ、その場しのぎの激情であれ……、
この胸にしかと伝わる、熱きものがあったのは間違いありません。

徳島城
だからいつか、また私と一緒に踊りましょう。
その時は、阿波踊りの正調を一から叩き込んであげます。

徳島城(模型)
イツカ、マタ……ですカ……。

徳島城(模型)
フフッ……そう言ってクレタダケデモ……、
あの工房から、逃げ出した甲斐はアッタノカモシレマセン……。

徳島城(模型)
徳島城……。

徳島城(模型)
貴方こそ……ワタシが、ナリたかった本当のワタシ……。

徳島城(模型)
コウして、話すことが……デキテ…………嬉し、カッ……た………………。

鬼ヶ城
……ようやく、動きが止まったようだな。

徳島城
彼女は我が贋物……。

徳島城
けれど、共に此の地で踊った記憶は、
いつまでも消えることのない、輝きとなるでしょう。

徳島城
……と、しんみりしてる場合ではありませんでしたね。
早く残りの模型も見つけなくてはです!

滝山城
いや、その必要はないようじゃ……。

徳島城
……え?

柳川城
御覧ください、殿!
向こうの方で、何やら怪しげな船が停泊しています!

殿
…………!


急ゲ……急ゲッ!

兜軍団
一刻モ早ク……模型ヲ連レテ……出航スルゾ!

シノン城
まさか……あれは、兜たちの船!?

聚楽城
それだけじゃありません!
船に乗っている者たちを見てください!

聚楽第(模型)
…………。

プラハ城(模型)
…………。

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
…………。

シノン城
あ、あれは――!!

聚楽城
間違いありません、やくもちゃんが作った模型たちです!

やくも
でも、どうして船なんかに乗せてるがや!?

???
簡単なコト……日ノ本に生キル場所が無ケレバ……
海ノ向コウデ……安寧ヲ探す……まで……。

多賀城
――っ!?
お主は…………まさかっ!?

多賀城(模型)
此処から先へハ……進マセナイ……。

多賀城(模型)
我が同胞ニハ、一切手出しサセナイのだ!

秘伝武具 多賀柵弩

同胞には手出しをさせない――恐るべき覇気と共に
現れた多賀城に瓜二つの模型を倒し、異国の地へと
渡航しようとする、兜船団の出立を阻止せよ。

前半
多賀城(模型)

我が同胞ニハ、一切手出しサセナイのだ!

多賀城
むっ……そろそろだとは思っていたが、
やはり、わらわの模型も出てきよったか!

多賀城(模型)
ほう……オヌシが、ワラワの原型か。

多賀城(模型)
フフッ……思ったヨリモ、カナリちっこい城娘ヨな。

多賀城
ぬぁっ!?
そんなこと言ったら、お主だってちっこいではないか!

多賀城
――って、これでは墓穴ほってるだけではないかぁ!
何なのだ、此の状況はぁ~~~っ!!

多聞山城
少し落ち着きなさい、多賀城。
微々たる差異なんかで揉めてる場合じゃないでしょう?

多賀城
――び、微々たるだとぉ!!

滝山城
そうじゃ、どちらも愛らしき小柄さゆえ、揉める必要などないではないか。

多賀城
これが揉めずにいられるか!
どちらが大きいか、はっきりさせなくては気が済まぬ!

鬼ヶ城
背の大きさなんか、今はどーだっていいだろうが……。
どーしても気になんなら、動きを止めた後にしろって。

鬼ヶ城
ってかよ、多賀城の贋物。
お前、さっきの言葉は……どういう意味なんだ?

多賀城(模型)
サッキの言葉?
はて、何のコトカナ……?

鬼ヶ城
とぼけてんじゃねぇよ。

鬼ヶ城
『日ノ本に生キル場所が無ケレバ……海ノ向コウデ……安寧ヲ探す……まで……』
――お前はさっき、確かにそう言った。

鬼ヶ城
まさかとは思うがお前ら……、
兜と共に異国へと渡ろうって気じゃないだろうな?

多賀城(模型)
フッ……サスガは城娘。
ソレなりに知恵は回るヨウだな……。

多賀城(模型)
我が同胞らは、アノ船に乗り……、
……此処ではナイ何処かヘト向かう。

多賀城(模型)
ソシテ……贋物でアロウと生きてイケル場所を探すノダ……。

聚楽城
逃げたところで、本当にそんな場所が見つかると思ってるのですか?

多賀城(模型)
聚楽城……。

多賀城(模型)
元はとイエバ、オヌシがやくも様に入れ知恵したコトで、
ワラワたちはこの世に生まレタ故、感謝すベキ相手であろうが……。

多賀城(模型)
同時に、我らヲ焼き払わんト画策したオヌシの
非道さにハ……憎しみスラ覚えている……。

聚楽城
焼き払う……?
貴方、いったい何を言って――

聚楽城
(――はっ!?
そ、そうか。あの時のお焚き上げの話を聞いて……)

聚楽城
それは誤解です!
私たちは貴方たち模型をきちんと――

多賀城(模型)
――ええイッ! 黙れ黙れッ!
今サラ弁舌を弄したトコロデ、我ラガ騙さレルなどと思うナッ!

多賀城(模型)
徳島城ガ時間を稼イデクレタおかげで、ようやく渡航が成就しようとイウノダ。
……此処マデ来て計画ヲ邪魔されてナルモノカ!

多賀城(模型)
兜たちヨッ! 最後の仕上ゲダ! オヌシらの力を貸せィッ!!


――ザザッ!!

兜軍団
ザザッ! ザザザッ!

シノン城
王様! 兜たちが一斉に攻めてきます!
すぐに戦いの準備をしてください――!!

後半
多賀城(模型)

ヌ、ァ……さすがハ、ワラワの原型……ナノだ……。
やはり、この程度の手勢では……勝てるハズモナイ、か……。

多賀城(模型)
ダガ……我が同胞が逃げるに……充分ナ時は稼ゲタ……。

多賀城(模型)
コレで……思い残すコトは……ナ、イ………………(ぱたり)

多賀城
仲間の為に奮起するとはな……。
贋物ながら、見事な大立ち回りだったのだ。

多聞山城
感心してる場合じゃないわよ!
ご覧なさい――兜たちの船が今まさに出ようとしてますわ!

――船上。

古桃形兜
クックック……コレデ城娘ニ瓜二ツノ存在ヲ、
異国ノ地ヘト連レテ行クコトガデキルゾ……!

古桃形兜
(ソシテ、異国ノ地ニテ上手ク煽動スレバ、
キット此奴ラハ人ニ仇成ス怪物トナルダロウ……)

突撃式トッパイ形兜
ノイシュヴァンシュタイン城……プラハ城……!

突撃式トッパイ形兜
原型ヲ討チ、本物ニ成リ変ワルコトガ出来レバ、
貴様ラガ生キル場所ガ生マレル……。

突撃式トッパイ形兜
故ニ、今一度気ヲ引キ締メヨ……此処カラガ真ノ勝負ゾ。

プラハ城(模型)
……エエ。分カッテイますわ。

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
我が原型ヨ……必ずヤ、貴様ノ首級ヲ……。

聚楽第(模型)
…………。

聚楽第(模型)
ア、アノ……どうしてワタシまで、異国ヘ行かねばナラナイノでしょう?

聚楽第(模型)
聚楽第ナラバ、日の本にイルハズですが……?

突撃式トッパイ形兜
馬鹿者――ッ! 貴様ハ本物ノ聚楽第の
恐ロシサヲ知ラヌカラ、然様ナコトガ言エルノダ!

聚楽第(模型)
……ソ、ソレホドまでに、我が原型は強き城娘ナノデスカ?

突撃式トッパイ形兜
無論ッ! 弓聖ト呼バレルホドノ腕前ダッ!
巷説ニヨレバ、一瞬ニシテ数多ノ敵ヲ射貫クラシイ……。

聚楽第(模型)
…………そ、ソウデスカ。

聚楽第(模型)
(自分ノ原型が褒メラレてる……ふふっ、悪い気はシナイですね……)

古桃形兜
――ムッ!? チョットマテ! 
殿一行ガ、何ヤラ不穏ナ動キヲ見セテイルゾ!

桃形兜
アレハ……マ、マサカッ!?

突撃式トッパイ形兜
アノ距離カラ……コチラニ向ケテ、攻撃シヨウトイウノカ!?

――浜辺。

多聞山城
柳川城、多賀城……よく狙いなさい。
何としても我々の弓で、あの船の渡航を阻止するのです!

柳川城
は、はい……。

多賀城
どうしたのだ、柳川城? 浮かぬ顔をしているが、
もしや、わらわと同じ様に火矢の扱いは慣れていないのか?

柳川城
い、いえ……そのようなことはありませんが……。

柳川城
ただ……本当に、この火矢を、
あの船に打ち込んで良いものかと考えていて……。

多聞山城
模型たちのことを気遣っているのですね……。

多聞山城
ですが、案ずることなどありませんわ。
これはあくまで船を止める為の手段……。

多聞山城
死を厭ったが故に逃げ出した模型たちなのですから、
船に火の手が回ればすぐに海へ飛び込むでしょう。

多賀城
……動けようと、意思を持とうと、
彼女たちは何処まで行っても模型。

多賀城
性質上、海へと投げ出されれば、その動きが鈍るのは明らか……。

多賀城
やや惨い手法ではあるが、そこを捕らえることこそ、
現状においての最善手なのだ。

柳川城
……分かりました。
そういうことでしたら――

柳川城
――この一矢、必ずや命中させてみせます!

多聞山城
ええ。期待していますわ!

多賀城
それでは、発射――なのだっ!!

――船上。

桃形兜
ヒィッ……ホ、ホントウニ撃ッテキタゾ!

兜軍団
ドウシヨウ! ドウシヨウ!
コノママジャ焼カレチャウヨ!

プラハ城(模型)
…………此処マデ、なのですネ……。

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
無念……ッ。

聚楽第(模型)
――いえ、マダ終わりデハありません!

突撃式トッパイ形兜
ジュ、聚楽第!?

聚楽第(模型)
我が原型が、一瞬で数多ノ敵を射貫クというノナラ……

聚楽第(模型)
数本ノ矢程度、打ち落とセヌ道理は――ないッ!!

多賀城
――なっ!?
わらわたちの矢を、全て打ち落とした……だと!!

多聞山城
何という、絶技……。

多聞山城
贋物であろうと……聚楽第は聚楽第、ということですか。

柳川城
ど、どうするのですか!?
これでは、模型たちが何処に逃げたか分からなくなります!

聚楽城
いえ……あの者たちが向かう先の見当は、既についています。

千狐
……え!? 本当ですか、聚楽城さん!?

聚楽城
はい。先ほどの船上における模型たちの会話から察するに、あの者たちは
本物のプラハ城さんとノイシュヴァンシュタイン城さんの許へと向かったようです。

大多喜城
そうか……異国にいる原型を討ち果たし、
本物に成り代わろうという魂胆なのだな。

鬼ヶ城
――っていうか、聚楽城!
お前、あんだけ離れてた船上の会話が聞こえたってのか!?

聚楽城
まさか。さすがに其所までの地獄耳は持ち合わせてません。

鬼ヶ城
じゃあ、どうやって奴らの会話を……?

聚楽城
単に模型たちの唇を読んだだけです。
人間や城娘よりも動きに特徴がありましたから、そう難しくはありませんでした。

鬼ヶ城
……そう難しくはないって……そりゃお前だからだろうが。

大多喜城
だが、奴らの目的が分かったところで、
どうやって異国の地へ向かう?

小田喜城
プラハ城さんやノイシュヴァンシュタイン城さんという城娘には、
千狐さんが会ったことが無いので、
転移術でひとっ飛びってわけにはいきませんし……。

徳島城
船を用意したとしても、海上で兜に襲われたらひとたまりもないです……。

多賀城
うぅむ……八方ふさがりとは、このことなのだ……。

千狐
せめて、ノイシュヴァンシュタイン城さんやプラハ城さんに会ったことがある人がいれば、
その人の記憶を媒として、異国の地へと転移することも可能だとは思うのですが……。

シノン城
え? そんなことでいいのですか?

鬼ヶ城
そんなことって、あのなぁ……。
異国の城娘とあったことがあるヤツなんて、そうそう――

鬼ヶ城
――って、シノン城!
お前、よく考えてみたら異国の城娘じゃねーか!

シノン城
そ~でござるよぉ~♪

シノン城
というより私、ノイシュヴァンシュタイン城ちゃんとも
プラハ城ちゃんともお友達ですし、

シノン城
今回の武具作成だって、二人のお願いを聞き入れた私が、
やくもちゃんに、こそこそ~ってお伝えしたのが始まりなのですからぁ。

やくも
そ、そうだっただに……すっかり忘れてたがや。

多賀城
ぽわわ~んとしているように見えて、
意外とすごい城娘なのだな、お主……。

シノン城
ふふっ、こう見えても私はロワール最古の城娘ですからね!
皆さんが思う以上に顔は広いのですよぉ。えっへん♪

殿
…………!

聚楽城
はい。これで模型たちを追う算段は付きましたね。

柳川城
では、一度所領へと戻り、回収した模型の皆さんを
安全な場所へと運んだ後、異国の地へと参りましょう!

秘伝武具 聚楽第石垣

海の向こうへと逃げていった兜と模型たちを
追うため、いよいよ殿一行は、シノン城の
協力のもと、異国への時空転移術を行うのだが……。

前半
――海岸での戦闘後、所領へと戻ってきた殿一行。

滝山城
で……模型たちの様子はどうじゃ、聚楽城?

聚楽城
工房への入れ納めは完了……ですが、
その間、意識を取り戻すことはありませんでした。

大多喜城
とはいえ、何かの拍子にまた動き出すやもしれぬ……。
依然として油断はできぬな。

小田喜城
一応、先ほどの話し合いで決まったように、
私や大多喜城ちゃん、それと鬼ヶ城さんとで、
模型たちの監視は続けますけど、

小田喜城
何だか、少し不安ですね……。

鬼ヶ城
な~にびびってんだよ?
俺様がいんだから、心配することねーって。

鬼ヶ城
それよか、殿。
海の向こうにある見知らぬ地に飛ぶんだろ? 
ちゃんと準備は出来てんのか?

殿
…………!

多賀城
うむ、わらわも準備は万全なのだ!

多賀城
……って、あれ?
多聞山城と滝山城は行かぬのか?

多聞山城
ええ。
我々には他にやらなくてはいけないことがありますからね。

多賀城
やらなくてはいけないこと……だと?

滝山城
ふふっ、そう不審げな顔をするでない。
何も今回の異事をほっぽる訳ではないのじゃからな。

聚楽城
すみません、実はお二人には私から
あることをお願いしてしまったのです……。

多聞山城
謝ることなどありませんわ、聚楽城。
むしろこれは、我々にしか出来ないことかもしれませんからね。

滝山城
うむ。それに、ある意味では、今回起きてしまった
一連の出来事を解決するための、最も重要な決め手となることかもしれぬからな。

多賀城
何だかよく分からぬが、お主らが無駄な行動をとるとも思えぬ。

多賀城
そちらも、万事つつがなく頼むぞ?

多聞山城
貴方こそ、殿に迷惑をかけぬよう頑張りなさいね。

滝山城
異国の地だからといって、はしゃぎすぎぬようにな。

多賀城
うぬぬ……言われずとも上手くやるのだ!

多賀城
わらわは多賀城なのだぞ? 子供扱いするでないわ!

シノン城
え~? でも、多賀城さんってちっちゃくて、すっごく可愛いですよぉ?

シノン城
ぎゅ~っ♪

多賀城
ぬぁっ!? 軽々しくわらわを抱っこするんじゃない~!

多賀城
って、お主だってよく見たら、そこまでお姉さんな城娘ではないだろうに!
……多聞山城や滝山城に比べたらちっちゃい部類なのだ!

シノン城
あ~! 多賀城さん! 今、シノンのどこを見てましたかぁ!?

シノン城
いいですか? こう見えても、シノンはロワールの地においては、
お姉さん的存在として、ユッセちゃんやシュノンソーちゃんたちに――

やくも
――ああ、もう分かったから落ち着くだにぃ!
ケンカする暇があったら、すぐに異国の地へ向かうがやぁ!

シノン城
そ、そうでした……!

シノン城
というわけで、多賀城さん!
私がお姉さんな城娘であることは帰還後にじっくり
精神的にも肉体的にも教えてあげますからね!

多賀城
ふん、やれるものならやってみろなのだ!

千狐
も、もぉ……お二人とも、あっちではケンカは無しですからね?

柳川城
それでは、殿。
皆さんの準備も出来たようですの、そろそろ出発しましょう。

殿
…………!

徳島城
――って、ちょっと待ってください、皆さん!

徳島城
異国の地へと向かうことには異存なしなのですが、
あの……まずはどちらに向かうつもりなのですか?

シノン城
どちら、とは……?

徳島城
え、いや……だからですね、模型たちは先刻の言動からするに、
原型――つまりは自分らの元となった城娘の許へと向かうつもりなんですよね?

徳島城
なら、プラハ城さんかノイシュヴァンシュタイン城さんの
どちらかの居場所へと模型たちは向かうことになるのですが、

徳島城
我々は、お二人のうち、どちらの許へと向かうのでしょうか?

やくも
……た、確かに。
大事なことやけど、すっかり抜け落ちてたがや……。

千狐
殿、こればかりは千狐たちには正解が分かりません。
……いったい、どうすればいいのでしょうか?

殿
…………。

千狐
え? 郷に入っては郷に従え?

小田喜城
なるほど、異国での出来事ならば、
異国の城娘の直感に任せるのが吉というわけですね。

大多喜城
となると――

シノン城
――シノンにぜ~んぶお任せするということですね!

シノン城
分かりました! そういうことならば、
ここはコイントスで決めちゃいましょう♪

聚楽城
こいんとす?

シノン城
投げた硬貨が落ちた際に、見えている面が表か裏かで、
行動の二者択一を決める……そんな感じの異国の儀式ですよぉ♪

やくも
そげな安直な方法で決めていいんかや?

シノン城
いいのです! 何故なら――

シノン城
――コイントスを制御できるのは神だけなのだから!

シノン城
……どやぁ♪

やくも
いや、名言っぽく言われても困るだに……。

シノン城
まぁまぁ、此処はシノンにお任せあれ、です♪

シノン城
ということで、表が出たらプラハ城ちゃんのところへ、
裏が出たらノイシュヴァンシュタイン城ちゃんのところへ向かうことにしましょう!

シノン城
ではでは~、コイントス開始で~すっ!!

――半刻後。

千狐
時空転移術は……なんとか、成功したようですわ、殿。

柳川城
此処が、プラハ城さんの居る場所なのでしょうか?

シノン城
いちおう私、プラハ城ちゃんを、むむむ~んってイメージしながら、
千狐ちゃんの転移術に協力しましたけどぉ……。

シノン城
う~ん……見たところ、
此処はノイシュヴァンシュタイン城ちゃんの住んでるところっぽいですね。

多賀城
ノイシュヴァンシュタイン城の住んでるとこって……、
じゃあ何か? 転移術は厳密には失敗ということなのか?

???
――いえいえ、そうではありませんよ、異国の皆さん。

聚楽城
だ、誰ですか!?

???
ふふっ、そう怖い顔をしないでください。

プラハ城
私の名前はプラハ城。
貴方たちが探している異国の城娘ですよ。

聚楽城
――な、何ですって!?

多賀城
どういうことなのだ?
何でノイシュヴァンシュタイン城の住処に、プラハ城がいるのだ?

多賀城
いや、そもそもどうしてわらわたちが此処にくる事を知ってるのだ!?

プラハ城
おやおやぁ? シノンちゃんから聞いてないんですか?

プラハ城
私の得手は杖……つまるところ魔法という名の
不思議な力を使うことができるのです。

プラハ城
まぁ、万能という訳ではありませんが、
この世界での異変ぐらいは簡単に知覚できますので、

プラハ城
日の本より、兜らが攻めて来ていることくらいならば、
既に察知していたと……そういうわけですね。

プラハ城
――って、シノンちゃん!
こういう大事なことはちゃんと説明しないとダメじゃないですかぁ。

シノン城
お~、またもやうっかりうっかりですぅ。

シノン城
王様、説明が遅くなってしまいましたが、
実はプラハ城ちゃんは、世界最大にして最古とも謳われる御城の魂を備える城娘なので、
ものすっご~い力を持ってるのですよぉ~!

多賀城
世界最大……(ごくり)

プラハ城
ふふっ、ど~しましたか多賀城さん?
そんなにじっと見つめられると少し恥ずかしいですぅ。

多賀城
べ、別にじっとなんて見つめてないのだ!

多賀城
(うぅぅ……な、なんて大きさなのだ……)

多賀城
(多聞山城や滝山城すらも凌駕するのでは…………?)

柳川城
それよりも、プラハ城さん。
貴方が兜の侵攻を察知して此の地に来たということは、

柳川城
日の本から渡来する兜らの船は、
全て此の地に集結するということなのでしょうか?

プラハ城
ええ。兜らの邪気の動きからして、
敵戦力は此の地に集まってきていると見て間違いありません。

プラハ城
……っと、悠長に話している場合ではありませんね。
どうやら、兜たちも皆さんと同じ様に此の地に到着したようです。


――攻メ込メッ、攻メ込メッ!

兜軍団
ノイシュヴァンシュタイン城ヲ討チ果タスノダッ!

兜軍団
モタモタシテタラ、殿タチガ来テシマウゾ!

殿
…………。

兜軍団
――ッテ、殿ォォォッ!?

古桃形兜
ド、ドウシテ……ヤツラガ此ノ地ニッ!?

聚楽第(模型)
先回りサレテイタ、というワケですか……。

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
神娘の転移術……恐ルベシ……。

プラハ城(模型)
デモ、ワタシの原型モいるのは好都合ダワ!
まとめてヤッツケちゃえばイイんだから♪

殿
…………。

聚楽第(模型)
…………。

聚楽城
……もう、逃げられませんよ。

聚楽城
悪いようにはしません。
どうか、私たちと共に日の本へ――

聚楽第(模型)
――黙レ、聚楽城。

聚楽城
……っ!?

聚楽第(模型)
私タチハ、やくも様ヤ貴方ヲ、親のヨウニ思ッテイタ。

聚楽第(模型)
……分カリマスカ?
敬愛スル両親ニ、オマエは用済みだと言ワレタ子の気持チガ?

聚楽第(模型)
愛スル者ニ、殺サレソウニなった者の気持チガ……分カリマスカ?

聚楽城
だからそれは違うと――

聚楽第(模型)
…………。

聚楽城
武で語れ、と……そういうことですか。

聚楽城
曲がりなりにも、聚楽第の姿を備えた貴方ですものね。

聚楽城
いいでしょう。
……聚楽城の槍術を以て、我が心を示します。

聚楽城
殿、どうかお力添えをお願いします――!

後半
聚楽第(模型)

……うっ、クゥぅ……。
届カナカッタ……ワタシでは、聚楽第には……ナレナカッタの、ですね……。

聚楽城
いいえ……。
貴方の弓には、弓聖の片鱗を見て取ることが出来た。

聚楽城
けれど、最後に己の技を鈍らせたのは、
心を焼かんとする程の激しき怨嗟の炎……。

聚楽第(模型)
ク、ぅ……弓とは、何と面妖ナ武技ナノデショウ……。

聚楽第(模型)
ケレド、不思議なものですね……。

聚楽第(模型)
貴方トノ戦イヲ通して、知らず……憎しみが、内奥カラ失セテイル……。

聚楽第(模型)
ソウ、カ……これが、武で語ルと……いうこと、ナノ……ネ……。

聚楽第(模型)
今ナラ、分カル……貴方ハ……本当ニ、私タちの……コト…………ヲ………………。

聚楽城
…………。

やくも
動きが、完全に停止しただに……。

やくも
このコは、うちが責任を持って運ぶだに!
聚楽城は次の戦いに備えるがや!

聚楽城
……はい!
よろしくお願いします、やくもさん。

プラハ城(模型)
フン……最後の最後で敵に絆サレルナンテ、ナンテ心ノ弱い子なの?

徳島城
――なっ!? 
いくら仲間といえど、そんな言い方ってあんまりじゃないですか!?

プラハ城
ええ。模型といえど、彼女は此処までの途次において、
武人として確実に心身の煌めきを成長させていたのは明らか……。

プラハ城
それに比べて、私に似せて作られた模型ときたら……。
はぁ……困ったものですねぇ。

プラハ城(模型)
な、何デスカその目ハ!?
如何に原型とイエド、哀れむような眼差シハ禁止ナンデスカラネッ!!

秘伝武具 聖ヴィート大聖堂

プラハ城の原型と模型とによる邂逅――。
敵意を露わにする贋物に対して、本物である
プラハ城本人は、どのような行動を取るのか。

前半
プラハ城(模型)

な、何デスカその目ハ!?
如何に原型とイエド、哀れむような眼差シハ禁止ナンデスカラネッ!!

プラハ城
…………。

プラハ城(模型)
ダ~カ~ラァッ! ソンナ目デ見るなって言ってるデショォッ!!

プラハ城
……少しは落ち着いたらどうですか、はしたない。
仮にも私の模型なのでしょう?

プラハ城(模型)
フンだ! 偉そうにシチャッテさ!
先に生マレタってだけで何様ノつもりヨ?

プラハ城(模型)
――あっ! ナルホドネぇ。私が贋物ダカラッテ、
ソコラヘンノ雑魚と一緒だと思ッテルんでしょ?

プラハ城(模型)
ダッタラ、この力を見なさい!

プラハ城(模型)
ハァ――ッ!!

徳島城
……え?

柳川城
徳島城さん! 避けてくださいっ!!

徳島城
――きゃぁっ!? なに、これぇ……っ!?

プラハ城(模型)
フフフ……どうよ、ワタシの魔法は?
本物ノアナタにだってひけは取らないンダカラ!

プラハ城
…………。

プラハ城(模型)
ドウシタノかしら? フフフ……、
今サラ怖じ気ヅイテモ、もう許シテあげないんだからね!

プラハ城
怖じ気づく? 私が、貴方を恐れると?

プラハ城
馬鹿なこと言わないでください。

プラハ城
魔法の力は、人を不幸にするものではありません。

プラハ城
そんな尊き力を、みだりに使った貴方を、
どうやってお仕置きしようか考えていただけです。

プラハ城(模型)
――ッ!?
(な、何ヨ、コレ? ……急に、胸ガざわついて……)

プラハ城(模型)
(怯エテイルノハ、私のホウダトデモ言うの……?)

プラハ城(模型)
ううんッ!! ソンナコト、アルワケナイッ!!
ワタシの此の力なら、誰にも負ケタリなんかシナインダカラ!

プラハ城(模型)
兜のミンナッ! 一緒に敵を倒シニイクワヨ!
原型ヲ滅ぼし、ワタシは未来ヲ掴ンデミセルンダカラッ!!

後半
プラハ城

さぁ、私の模型さん。
勝負に負けた者がどうなるか、たっぷりとその身に教えてあげましょう♪

プラハ城(模型)
あっ、ぅぅ……ちょ、チョッと、待ってェ……。

プラハ城(模型)
ワタシ、べ、ベツに……本気でアナタを討トウなんて思ッテなくて……。

プラハ城
あらあらぁ? 今ごろ命乞いですかぁ?

プラハ城(模型)
アワワワワッ……ち、違うの――じゃなくて、違イマス! プラハ城さまぁっ!

プラハ城(模型)
ワタシ、ただ焼カレタクナクテ……痛イノハいやデ……、

プラハ城(模型)
ダカラ……うぅぅっ……。

プラハ城(模型)
うわ~~~~~んっ! ゴメンナサイぃぃ~~ッ!!

プラハ城
ふふっ、そうですよぉ。
悪いことしたら、ごめんなさいです。ちゃんと言えましたね。

プラハ城(模型)
……ふぇ? ゆ、許シテくれるの?

プラハ城
勿論です♪ ちゃんと謝ったのですから、
これ以上、痛いことなんてするわけありません。

プラハ城
それに、此処にいる日の本の皆さんは、
貴方を心配しているからこそ、異国の地にまで来てくれたのですよ?

プラハ城(模型)
ホントに? 痛イコトも、熱イコトモ……しない?

プラハ城
ええ。だから、安心して日の本に帰りなさい。

プラハ城(模型)
……ウン。わかったヨぉ…………そういうコトなら、
ワタシも…………やくも様の、工房ニ……帰…………ルぅ…………………………。

徳島城
よかった……。
このコも完全に動きが、止まったようですね。

徳島城
ふぅ、一時はどうなるかと思いましたが、
何とか無事に回収できてよかったです!

多賀城
――って、ちょっと待て!
ノイシュヴァンシュタイン城の模型はどうした!?

シノン城
それに、あれだけ沢山いた兜たちの姿が見当たりません!

聚楽城
そんな! そ、それじゃあ……もしかして……!

聚楽城
ノイシュヴァンシュタイン城さんの許へ向かってしまったんじゃ!?

多賀城
くっそぉ! プラハ城の模型に注意を向けすぎてしまっていたのだ!

多賀城
殿、すぐに兜たちの許へと向かうぞ!

殿
…………!

秘伝武具 幻想聖盾

本物のノイシュヴァンシュタイン城を討つべく、
苛烈に進軍する模型と兜軍団を阻止するため、
ついに最後の戦いの火ぶたが切られた。

前半
ノイシュヴァンシュタイン城(模型)

あと、もう少シ……もう少シデ、我が原型ノ許ヘト辿り着ク……。


急ゲ……急ゲッ!

兜軍団
ノイシュヴァンシュタイン城ハ……目ト鼻ノ先ダッ!

シノン城
――悪いですが、其所までですよ、模型さん!

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
クッ……シノン城……。
もう、追イツイテきたのか……ッ!

聚楽城
残る模型は貴方だけです。

聚楽城
……言っても無駄だとは思いますが、
大人しく我々に下ってはくれませんか?

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
本当ニ、無駄ナ言ダナ……。

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
……大人しく死ヲ受け入レヨ、と……そう言ッテイルノダゾ、貴様は。

シノン城
やはり、貴方も誤解してるのですね。

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
……誤解、ダト?

シノン城
そうです! 私たちは、
貴方たち模型の皆さんを焼こうなどとは思っていないのです!

やくも
うちらは、工房であんたらの処遇について話した時、
たしかにお焚き上げの言葉を口にしただに……。

聚楽城
けど、その後の話し合いで、私たちは
貴方たちの里親を探そうと決めたのです!

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
里親……ダト?

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
ば、馬鹿ナ……ソンナコト、有り得るワケガ、ない……ッ!

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
貴様ラハ、最初から我々ヲ……我が子ノヨウニ思い……、
将来ヲ案ジテイタト……そういうコトなのか……!?

シノン城
当然でしょう!?
私たちは武具制作において、苦楽を共にした仲なのですよ!

やくも
心配するのは当然だに! 
あんたらのためにこげに遠くの場所まで来たのが証拠がや!

聚楽城
だから、もう武器を向けたりしないで……貴方たちは――

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
――ウルサイ。

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
誰ガ、信ジルものか……!

千狐
ま、まずい――!
戦意が、憎しみが……増大していっていますわ!

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
我々は皆、同じ様ニ貴様ら生みの親ニ、裏切ラレタ……!

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
ソウヤッテ信じさせて……また、裏切ル気なのだろう!?

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
ワタシハ……謀ラレタリナドしない……ッ!

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
仲間タチガ命を賭シテ、此処まで導いてクレタノダ!

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
……必ズヤ、原型ヲ滅し……贋物ヲ超越スルコトデ……、

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
ワタシは、真のノイシュヴァンシュタイン城となってみせル――!!

柳川城
く、ぁ……な、何という覇気でしょうか!?

プラハ城
憎しみを、そのまま力に変えているのでしょうね……。
……心苦しいですが、此処は戦う以外に道はありません。

多賀城
殿、準備はいいな……?

殿
…………!

柳川城
参りましょう、殿!
彼女を連れ、皆で日の本へと帰還するのです!

後半
柳川城

――今です皆さん!攻撃を集中させてくださいっ!!

徳島城
此処が勝負の決めどころですね!

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
ウッ、クゥッ――この、ままデハッ……!!

プラハ城
私も、全力でいきますよ!!

シノン城
ならば、シノンだってぇ――ッ!!

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
(ヤハリ……ワタシのような贋物では……ダメなの……?)

多賀城
見よ! ヤツの動きが止まったのだ!

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
(ドウシテ……誰モ……ワタシを……認メテクレナイノ?)

多賀城
聚楽城、一気に押し切るぞ!!

聚楽城
はいっ! 我が全霊の一撃――受けてみよっ!!

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
(何故……ワタシは、本物にナレナイノ……?)

椎形兜
――イヤッ!! マダ諦メルノハ早イゾッ!

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
……えッ!?

突撃式トッパイ形兜
見ロッ! 騒ギヲ聞キツケタノカ、
城カラ、オマエノ原型ガ出テキタゾ――ッ!

ノイシュヴァンシュタイン城
…………これは、いったい?
どうして、見知らぬ者たちが我が城内に?

シノン城
ま、まずいです、王様!
ノイシュヴァンシュタイン城ちゃん、事態を把握してないっぽいです!

プラハ城
あの様子だと、きっと城内でお昼寝してたに違いないです!
……何気にノイシュちゃん、寝るの大好きな城娘ですから!

徳島城
そ、そういうことは先に言ってください!
――って、このままじゃ兜らに襲われちゃいますよぉ!

柳川城
こうなったら、攻撃目標を兜たちに変更するしか――!!

椎形兜
フヘヘヘヘッ! モウ遅イワッ!
コノ距離ナラ、俺タチノ方ガノイシュヴァンシュタイン城ニ近イカラナ!

突撃式トッパイ形兜
オイ、模型ッ! 
オマエノ其ノ無数ノ剣デ、本物ヲ討チ取ッチマエッ!!

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
…………アア、了解し――

ノイシュヴァンシュタイン城
――まぁ。何と美しき城娘でしょうか!

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
な……にィ!?

ノイシュヴァンシュタイン城
ふふっ、貴方……どことなく私に似ていますね。

ノイシュヴァンシュタイン城
……このあたりの者でしょうか?

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
(彼女ガ……)

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
(ノイシュヴァンシュタイン城ガ……ワタシを、みている…………)

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
(ひとりの、城娘トシテ…………)

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
(……ワタシを、瞳に……映シ…………)

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
(美シイと……言ッテクレタ…………)

椎形兜
オイッ! 何ヲボサットシテンダ、贋物ッ!

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
…………。

突撃式トッパイ形兜
ソウダッ! サッサト、ソノ刀デ殺セ、贋物ッ!!

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
…………。

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
ワタシを……――な。

椎形兜
……ハ? 何ダッテ?

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
ワタシヲ……贋物と呼ぶなァァアア――ッ!!

突撃式トッパイ形兜
ギャァァァアアアアアッッ!!

千狐
ノイシュヴァンシュタイン城さんの模型が……、
……兜たちを、攻撃した!?

椎形兜
ド、ドウシテ……俺タチ、ヲ…………。

突撃式トッパイ形兜
仲間ダッタ……ハズ、ナノ…………ニ…………。

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
くぅ、ァ……ハァ…………ハァ……。

プラハ城
どうやら……持てる力の全てを使い果たしてしまったようですね。

多賀城
そんなことより、大丈夫なのか?
ノイシュヴァンシュタイン城が、模型に近づいていってるぞ!?

徳島城
心配することはないと思います……。
あの様子では、攻撃する力も意思も……恐らくは皆無でしょう。

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
ワタシは……ワタシは……。

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
贋物ナドデハ……ない……。

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
……贋物ナドデハ…………ない、のに……うっ、ウゥゥ……。

ノイシュヴァンシュタイン城
ええ。貴方は、真に美しい……。

ノイシュヴァンシュタイン城
だから……どうか、名を聞かせてはいただけませんか?

ノイシュヴァンシュタイン城
夢のように美しい……貴方の名を。

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
……ワタシは……………………。

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
ワタシは……アナ、タ………………。

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
…………アナタに……憧れ、タ…………しろ、むす…………め………………。

ノイシュヴァンシュタイン城
ど、どうしたのですか!?
……急に気を失うなんて……それに、こんなに酷い怪我までして!

ノイシュヴァンシュタイン城
とにかく、我が城にてすぐに手当をしなくては――

ノイシュヴァンシュタイン城
――って、あら?
貴方たちは……?

プラハ城
お久しぶりですね、ノイシュちゃん。

ノイシュヴァンシュタイン城
プラハ城さん?
……それにシノン城さんまで。

ノイシュヴァンシュタイン城
他にも、見慣れぬ城娘の方々が沢山。
……これは何かの催事でしょうか?

聚楽城
あの…………実は、私たちは――

そうして、聚楽城によりこれまでの経緯が話されると、
ノイシュヴァンシュタイン城は、美麗な顔に微笑を湛え、数度、小さく頷いた。

ノイシュヴァンシュタイン城
そうですか……どうりで、似ているはずですね。

ノイシュヴァンシュタイン城
ですが、模型が動き出すとは……ふふっ。
これも何かの運命と言えましょう。

ノイシュヴァンシュタイン城
せっかくこうして皆さんと会うことができたのです。
もう少し、我が城にて、貴方たちのお話を聞かせてもらえますか?

ノイシュヴァンシュタイン城
それに、この模型とも、もう少し一緒にいたいですしね。

殿
…………。

殿
…………!

――翌日。

夜・日の本某所。

聚楽城
――でね、色々あったんだけど、何とか兜も倒せたし、
模型たちも取り戻すことができたんだよぉ。

聚楽第
ふふっ、良かったね、聚楽城ちゃん。

聚楽第
でも、やっぱり私……思うんだけどね……。

聚楽城
……ん?

聚楽第
聚楽城ちゃんが、模型さんたちの前で焼くぞーとかって言わなければ、
こんなことにはならなかったんじゃないのかな?

聚楽城
――うぐっ!?

聚楽城
だ、だからそれは誤解だってぇ!

聚楽第
ふふっ、ごめんね。
ちょっと意地悪したくなっちゃっただけだから。

聚楽第
……けど、不思議な話だね。

聚楽第
私に瓜二つの模型さんが、
異国の地にまで逃げて行っちゃうだなんて。

聚楽城
……そうだね。

聚楽城
でもさ、瓜二つって言えば、私と貴方は、
他者から見れば見た目も声もそっくりな城娘だと認識されてる。

聚楽城
勿論、当人たちからすれば、互いの差異なんて
いくらでも言い合えるけど……。

聚楽城
もしかしたら、私は聚楽第ちゃんという鋳型から形作られた、
お人形さん……だったりして?

聚楽第
…………。

聚楽第
……そうですか。

聚楽第
とうとう、気づいてしまったのですね。

聚楽城
……え?

聚楽城
ちょ、ちょっと待って!
それ……さすがに冗談だよね? ねぇ?

聚楽第
冗談……?

聚楽城
もぉ、それ以上つづけるなら本気で怒るよぉ!

聚楽第
あはは、ごめんごめん。
久しぶりに聚楽城ちゃんに会えたから、嬉しくてつい……ふふ。

聚楽城
嬉しさのあまり、人の肝をキンッキンに冷やしてどうするのよぉ!

聚楽城
まったく、そんなふうに意地悪するなら、
やくもちゃんに頼んで作ってもらった装備品、あげないよ?

聚楽第
ああっ! ご、ごめんなさい……っ!
さっきのは本当に冗談だからぁ!

聚楽城
ふふっ、よろしい♪
プラハ城さんじゃないけど、悪いことしたら
ちゃ~んとごめんなさいしなきゃだよね?

聚楽第
……え? プラハ……じょぉ?

聚楽城
ううん、こっちの話♪

聚楽城
それにしてもさ、聚楽第ちゃん。
昔よりずっと笑うようになったね。

聚楽第
……そ、そうかな?

聚楽城
うん、そうだよ!
私が言うんだから間違いない。

聚楽城
私と貴方は、姿かたちは似てるけど、
抱える業にも備える魂の起点にも、僅かな差異がある。

聚楽城
私は、その名の通り、聚楽の詞を体現する城娘だけど、

聚楽城
貴方は、己が向かうべき滅びを識りながら、
聚楽たる生を全うしなければならない城娘……。

聚楽城
この差はでかい……
そりゃあもう、巨大化しきった鬼ヶ城ちゃんよりもず~っとね。

聚楽第
……た、たとえが分かりづらいよぉ。

聚楽城
まぁ。何が言いたいかっていうとだね……。

聚楽城
ただでさえ可愛いのに、そのくせ更に可憐な笑みを湛えちゃうとか、
反則すぎますよぉ~ってことなのぉ!

聚楽第
あはは、も、もう……くすぐったいよぉ!
いきなり抱きつく方が反則だと思う――って、
だ、だめ……そこ弱いの知ってるでしょぉ!

聚楽城
これくらいは我慢してよね?
今日は久しぶりの再会ですから、思いっきりいちゃつくって決めたんだからぁ♪

聚楽城
ってことで!

聚楽城
さっそく聚楽第ちゃんのねぐらへ向かってしゅっぱ~つ!
お風呂はぁ、勿論いっしょだからねぇ♪

聚楽第
もう、聚楽城ちゃんは相変わらずなんだからぁ。

そうして、楽しげな声音と共に二人の城娘は海辺を後にしたのだった――。

――三日後・所領。

やくも
んぉりゃぁあああっ――――!!

――かちーん!

やくも
とぉりゃぁあああっ――――!!

――かちーん!

やくも
もひとつオマケにぃ――――!!

――かちーん!

やくも
はぁ、はぁ、はぁ…………。

シノン城
今日も精が出ますねぇ、親方ぁ♪

やくも
おお、シノン城がや。

やくも
どうしただに? 今日の分の特訓は終わったがや?

シノン城
はい、小田喜城さんと一緒に早朝から頑張ってきましたよぉ♪

小田喜城
シノン城さん、飲み込みが早いから、
教えたら教えただけ上達していって、本当にすごいです。

大多喜城
だが、まだまだ精神面に甘さがあるのも確かだ。
明日も引き続き、我々との特訓には付き合ってもらうぞ。

シノン城
ええ~! 今日だけって話じゃなかったんですかぁ~!

鬼ヶ城
へへ、何だかんで小田喜城らもシノン城と仲良くやってるみたいだな。

鬼ヶ城
……にしてもよ、やくも。
この工房も何だか寂しくなっちまったな。

やくも
う~ん。まぁ、元に戻っただけなんやけど、不思議なもんだに……。

柳川城
模型の皆さんは、多聞山城さんと滝山城さんが
見つけてきた里親さんが引き取ることになりましたからね。

千狐
昨夜、徳島城さんたちが模型をそれぞれに抱えながら
出立しましたから、そろそろ到着してる頃でしょうか。

殿
…………。

殿
…………!

――同時刻・某所。

春日山城
おお、ようやく到着したようですね。

小田喜城(模型)
…………。

徳島城(模型)
…………。

多賀城(模型)
…………。

聚楽第(模型)
…………。

プラハ城(模型)
…………。

与板城
な、なんですかこれは!?

与板城
春日山城さま! もしかして、
また私たちに内緒でお高いものを購入したんじゃ――!?

坂戸城
とはいえ、等身大の城娘の模型か……。

坂戸城
……滅多に拝めるものではないぞ。

多聞山城
ええ。仰るとおりですわ。

多聞山城
これは殿の従者である神娘のやくもさんが作ったのですよ。

坂戸城
なんと……あの神娘がか。

与板城
ただ者ではないと思ってましたが、まさか此程とは思いませんでした!

滝山城
それにしても、本当に全て引き取ってくれるのか、春日山城?

春日山城
ええ。それに、私には毘沙門天のご加護がありますからね。
一度意思を持ってしまった人型の模型の管理には適任でしょう。

与板城
(とか言いつつ、半分くらいは趣味と実益を兼ねて引き取ったんじゃ……?)

坂戸城
(それ以上言うな……。
春日山城さまの模型好きは、我々では如何ともしがたい……)

春日山城
……とはいえ、見たところ、
既に動く気配は微塵もありませんし、
自意識と呼べるものも、風化してしまっているようですね。

多賀城
だが、動かぬからといって粗末に扱うのはなしだぞ?

多賀城
わらわの模型もあるのだから、ちゃんと大事にしてほしいのだ♪

春日山城
ええ。お任せください。

春日山城
……って、多賀城さん?
その武具はいったい?

多賀城
ああ、これか?

多賀城
ふふ、いいだろう? やくもに作ってもらったものでな。
その模型たちの力添えあっての傑作なのだ。

徳島城
えへへ、私のもあるんですよぉ。

春日山城
なるほど。今回の異事の発端ともなった武具というわけですか。

春日山城
この模型らも、こうして今は安んじていますが、
貴方がたが其の武器を粗末に扱うようなら、

春日山城
再び怨嗟により動き出してしまう可能性もあります。

春日山城
いいですか? 
新たな武具の扱いには充分、注意してくださいね。

多賀城
心得ておる。

多賀城
彼女らの想いに応えるべく、ちゃんと使いこなしてみせるつもりなのだ!

徳島城
そして、世の平和のためにこの刀と共に戦い抜いてみせます。

春日山城
ええ。そうすることが一番の供養となりましょう。

春日山城
……と、そういえば聞いていた話では、
引き取る模型は全部で六体だったはずですが?

与板城
ひーふーみーよー…………

与板城
あれ?
此処には五つしかありませんね?

坂戸城
もしかして、もう一体は後で持ってくるつもりなのか?

多聞山城
いえ、それについてなのですが、実は――――

――日の本より遠く離れた異国の地。

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
…………。

ノイシュヴァンシュタイン城
ふふっ、貴方は今日も夢のように美しいですね。

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
…………。

ノイシュヴァンシュタイン城
広き城内にて、ひとりで過ごすことにも飽いていたところですし。

ノイシュヴァンシュタイン城
無理を言って、貴方を引き取って正解でした。

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
…………。

ノイシュヴァンシュタイン城
ええ。分かっていますとも。

ノイシュヴァンシュタイン城
これからは、ゆっくりと二人きりで夢を語り合うとしましょう。

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
…………。

ノイシュヴァンシュタイン城
…………。

ノイシュヴァンシュタイン城(模型)
…………。

ノイシュヴァンシュタイン城
…………ふふ♪



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]春日山城うーん……。……うーん? ……うん?……殿?すみません! お越しいただいていたのに、今の今まで気づかずにいて!実は先日、坂戸城と謙信公の昔話をしてたのですが、その際、跡継ぎの話題が出たのです...

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