ストーリーテキスト/討伐武将大兜！山県昌景

討伐武将大兜！山県昌景[]

討伐武将大兜!山県昌景-前-

山県昌景の名を冠する巨大兜が、
とある温泉地を占拠しているとの報あり。
兜討伐のため、城娘たちと共に出陣せよ！

前半
――夜半・某所。 山県昌景 …………ハァァァ。 桃形兜(赤備え) ドウシタノデスカ、昌景サマ？ ソンナニ深イ溜息ヲツクト幸セガ逃ゲチャイマスヨ？ 山県昌景 幸セ……カ。 山県昌景 果タシテ、然様なものヲ享受スル資格が己にあるのダロウカ？ 桃形兜(赤備え) ……エ？ 山県昌景 先日ノ殿一行トノ戦ニオイテハ高島城ニ謀ラレ、 多くの配下ヲ失ッテシマッタ……。 山県昌景 何と情ケナキ醜態か……。 戦国最強ノ赤備えが聞いて呆れるワ。 山県昌景 …………ハァ。 桃形兜(赤備え) 昌景サマ……。 桃形兜(赤備え) （ドウシヨウ……思ッタ以上ニ落チ込ンデシマワレテイル） 赤備え軍団 （コウイウ時コソ、ボク達ガ何トカシナイト……ダヨ！） 赤備え軍団 （デモ、ドウシロッテ言ウノサ？） 赤備え軍団 ウ～～～～～～ン……。 猿形兜 ――キキッ！　ウキキッ！ 桃形兜(赤備え) 何ダヨ猿形！？ イマ忙シインダカラ、アッチデ大人シクシテテヨ！ 猿形兜 ウキキッ！　キキッ！ （いいから話を聞けって！　俺に良い考えがあるんだ！） 桃形兜(赤備え) チョ、チョット！　マトワリツクナ猿形！ ……モウ！　邪魔ダッテ言ッテルデショ！ 猿形兜 ――ウキッ！？　ウッキャーキャキャッ！ （痛ァッ！？　何シヤガルンダ、テメェコノッ！） 犬形兜 ガウガウ！　ガウッ！ （諦めろ。雑魚兜に俺らの言葉を解する知性など無いのだ） 猿形兜 ウキキッ！　ウキキキッ！ （ッチ……これだから桃形兜は……） 犬形兜 ガウガウ！　ガウッ！ （まぁ、そう言うな。俺にも良い考えがある……） 桃形兜(赤備え) ――ンッ！？ オイ！　何ヲシテルンダ犬形！？ 赤備え軍団 スゴイ！　木枝ヲ使ッテ地面ニ字ヲ書イテルヨ！ 赤備え軍団 ナニナニ……。 『猿形兜ガ気分転換ニ絶好ノ場所ヲ知ッテル』……ダトォッ！？ 猿形兜 ウキキッウキッ！　ウキャッキャ！　キキキキッ！　ウキキキッ！ （然り！） 桃形兜(赤備え) 物凄ク頷イテルナ……。 赤備え軍団 ヨシ！　ナラバ早速、ソノ場所ニ案内シテクレ！ 赤備え軍団 モチロン、昌景サマモ一緒ニネ！ 猿形兜 ウキキッ！　ウッキ～ッ！！ （おうよっ！　道案内は任せておけってんだ！） ――数日後・所領。 この日、外部から二人の城娘が殿の許へとやってきていた。 殿 …………。 長篠城 …………。 殿 …………。 長篠城 …………。 岩櫃城 ちょっ、ちょっとぉーっ！ いつまで二人で見つめ合ってるんですかぁ！ 岩櫃城 ていうか長篠城ちゃん！ 初対面なんですから、しっかり殿に挨拶してくださいよぉ！ 岩櫃城 それと、何のために所領に来たのかの説明も忘れずに！ ……あ、もしかして緊張のしすぎで忘れちゃったんですか！？ 長篠城 む……それくらい、ちゃんと覚えているさ。 長篠城 殿、ボクの名は長篠城。名前からわかる通り、城娘だ。 此度は故あってキミに会いに来たんだ。 長篠城 というのも、山県昌景の名を冠する巨大兜が とある温泉地に出現し、占拠しているらしいんだ。 やくも お、温泉地に巨大兜さんが――！？ やくも ぐぬぬ、うらやまけしからんだに！ 千狐 やくも、そうじゃないでしょ……。 柳川城 それで、その温泉があるとされる場所は何処なのでしょうか？ 長篠城 報告によれば、飛騨国とされている。 柳川城 となると、巨大兜が利用している魂の名からして、 少々厄介なことになりそうですね……。 長篠城 …………へぇ。柳川城、とか言ったか？　 キミ、意外と武田の将についての知識があるようだね。 やくも え？　どういうことがや？ 岩櫃城 実はですね、武田四天王の一人とされた山県昌景には、 温泉に関するちょっとした逸話があるのです。 やくも へぇ、それは初耳だに。 やくも あれ？　でも、それが今の話とどんな関係があるがや？ 長篠城 偶然か必然か……。 魂に縁ある事象に関わらんとする行動を巨大兜がとっている。 長篠城 つまり、ヤツの中で魂の定着率が上がりつつあるということさ……。 柳川城 最悪、武神として立ちはだかることもあると……そういうことですか？ 長篠城 うん。可能性は零じゃない……。 岩櫃城 だからこそ、今回は我々が直々に討伐の任にあたるよう 躑躅ヶ崎様から命を受けたのです。 長篠城 ……まぁ、キミと違って ボクは書状一枚だけ渡されての命令だったけどね。 岩櫃城 仕方ないじゃないですか。 躑躅ヶ崎様は長篠城ちゃんのこと苦手なんですから。 長篠城 面と向かってはっきり言われると逆に清々しいけど、 いい加減、彼女には慣れてもらわないとやりづらくてかなわない。 岩櫃城 だったら、躑躅ヶ崎様に会いに行くたびに、 新調した鉄砲を見せびらかさないでください！ 長篠城 あ、あれは……。 躑躅ヶ崎に早く鉄砲嫌いを克服してもらいたいと思ってつい―― 長篠城 ――って、今はそんなことを言ってる場合じゃなかった。 長篠城 殿、すまないがキミの力を貸してくれないか？ 兜たちを討伐し、人々の憩いの場である温泉を取り返したいんだ。 殿 …………！ 千狐 わかりました。それでは、殿。 準備の完了と共に、出立とまいりましょう！ ――飛騨国・某温泉地。 猿形兜 ……ウキキ！　ウキャッキャ！ （どうですか、昌景さま？　なかなかのもんでしょ？） 山県昌景 こ、此処ハ……！？ 山県昌景 不思議ダ。奇妙ナ懐カシサを感ジルぞ……。 猿形兜 ……ウキキ、キキキッ！ （そりゃあそうでしょう。 何せ、貴方様に備わっている魂に縁深き地なのですから） 山県昌景 猿形兜……。 山県昌景 だが、斯様なトコロで呑気に遊ンデイテ良いのダロウか……。 我々ニハやらねばナラヌことがごまんとアルのだぞ？ 桃形兜(赤備え) 昌景サマ！　アマリ思イ悩ンデイテハ心身ニ障リマス！ 赤備え軍団 偶ニハ戦イヲ忘レテ休ムコトモ大事デスヨ！ 赤備え軍団 温泉ッ！　温泉ッ！　混浴ッ！　温泉ッ！ 山県昌景 シカシ……。 猿形兜 …………ウキキ。 犬形兜 ガウガウ…………。 山県昌景 フ……ワカッタよ。 折角ノ心遣いだものな。 赤備え軍団 ソレジャア……。 山県昌景 アア。総員、今ヨリ此ノ地での休養を命ズル。 来タル殿トノ戦に備エテの戦略的休養を、ナ。 桃形兜(赤備え) ワーイ！　ヤッターヤッターッ！ 赤備え軍団 昌景サマー、今日ハボクラガ背中ヲ流シマスカラネー！ 赤備え軍団 ッテイウカ、コノ温泉ニ入ッタラ……身体ガ錆ビタリシナイノカナ？ 山県昌景 （フフ……皆ハシャギおってカラニ……） 山県昌景 （思エバ、この世に生を受けテカラ戦イバカリだった……） 山県昌景 （皆、私ノヨウナ者について来てくれたノダ……今日ぐらいは、何もカモ忘れて――） 岩櫃城 ――そこまでですよ、兜ども！ 山県昌景 …………ッ！？ 殿 …………。 千狐 良かった……どうやら、あの巨大兜には 未だ武神化している様子は無さそうですね！ 柳川城 ですが油断できる相手ではありません！ 皆さん、警戒を怠らないようお願いします！ 猿形兜 ウキキキッ！　キッウキキッ！ （なんてこった……こんな時に殿一行だとぉ！？） 犬形兜 ガウガウガウッ！ （それだけじゃない……見ろ、あの城娘を――。） 長篠城 この地は、数少ない人々の憩いの場だ。 長篠城 それすら奪おうというのなら、ボクは容赦などしない……。 山県昌景 き、貴様ハ――。 山県昌景 （何だ、この胸のザワツキは……？） 山県昌景 （恐怖……ソウダ、最モ形容に足ル言葉ハ、ソレしかない） 山県昌景 （……逃ゲロと、我が身に宿リシ魂が告げている……） 山県昌景 マサカ……貴様、長篠城かッ！？ 長篠城 そうだ……。 ……キミを葬るにはうってつけの城娘だろ？ 山県昌景 クッ…………。 赤備え軍団 昌景サマ！　ド、ドド、ドウシマスカ！？ 山県昌景 決マッテイル！　皆のもの、早々に武器ヲ執れッ！ 赤備え軍団 ――御意ィッ！！ 柳川城 殿、兜たちが戦闘態勢に入りました！ こちらも出陣の準備を――！
後半
山県昌景 ……ぐぁっ……ァ、ゥゥゥ……！！ 何トイウ、銃撃か……この、ママデハ……！ 長篠城 悪いが、キミに手心を加える気は無い……。 長篠城 山県昌景、討ち取らせてもらうぞ！ 山県昌景 ――ッ！？ 桃形兜(赤備え) 昌景サマ――ッ！ 赤備え軍団 マ、マズイ！　 今ノ銃撃、急所ニ直撃シチャッタンジャ……！？ 赤備え軍団 昌景サマノ身体ガフラツイテル……！ アノママジャ、温泉ノ中ニ落チチャウヨ！ 猿形兜 ウキキ――ッ！！ （つうか、もう落ちてんぞ！！） 犬形兜 ガウガウガウ――――！！ （昌景さまぁぁぁあああ！！）

討伐武将大兜!山県昌景-後-

長篠城が放った弾丸を受け、意識を失う巨大兜。
間もなく再起する巨大兜だったが、その様子に、
岩櫃城たちは妙な違和感を覚えるのだった――。

前半
山県昌景 ――鮮烈ナ一撃ダッタ。 山県昌景 胸に激シイ痛みを覚エ、 ソコデようやく己が意識ノ途切れを識る。 山県昌景 此処は――温泉ノ中、カ……。 山県昌景 沈ンデイク――――。 山県昌景 ……巨大兜の中にアッテ、最モ小柄とサレル己ガ器……。 山県昌景 ソシテ……コノ卑小な心マデモガ……。 山県昌景 深ク……深ク……沈ンデいく――――。 ？？？ ――ナニヲシテイル？ 山県昌景 声。 山県昌景 声ガ、聞こえタ……。 ？？？ ――取リ戻セ――――ノ、名ヲ――取リ戻セ――――。 山県昌景 アア、そうか。 山県昌景 コレが、魂と器ノ定着……。 山県昌景 前田殿モ、黒田殿モ、毛利殿モ……斯様な心境ダッタのだろうか……。 山県昌景 ……悪くハ、ナイ…………。 山県昌景 悪くハ、ナイぞ………………。 山県昌景 在るベキ己が刻々ト迫ってくる…………この感覚ハ――。 ？？？ ――――立テ――――起テ――――発テ――――。 山県昌景 ……………………………………。 千狐 ――殿！　巨大兜の再起を確認！ まだ戦う力が残っているようですわ！ やくも けど、長篠城がいればどうってことないだに！ このまま一気に倒しちゃえばいいがや！ 長篠城 ……そう、簡単にいくかな？ 柳川城 え？ 長篠城 キミならわかるだろう、岩櫃城。 アイツの、恐るべき変化の軌跡が……。 岩櫃城 ……ええ。あの巨大兜、 先刻とはまるっきり別の存在みたいになってる……。 やくも そ、そうなんかや？ うちには全然変わってないように見えるだに……。 長篠城 わからなくて当然だ。今ヤツに起きている変革は、 外面や表装じゃなく、もっと深い部分においてのことなのだから。 柳川城 （武田、真田と縁深き城娘だからこその知覚……ということなのでしょうね） 柳川城 殿、ご注意を……。 先の勝利に因りて油断すれば命取りとなりましょう。 殿 …………！ 山県昌景 ……………………。 桃形兜(赤備え) 昌景サマ！　大事アリマセヌカ！？ 山県昌景 アア…………。 山県昌景 …………戦ダ……。 山県昌景 今ノ我ニ必要なのは……戦…………。 ……ソレモ、飛切ノ強者……トノ、死闘ダ…………。 桃形兜(赤備え) 昌景、サマ……？ 赤備え軍団 何ダカ、様子ガオカシイヨウナ……？ 赤備え軍団 ……ホ、ホントウニ昌景サマ……ナンデスヨネ？ 山県昌景 山県昌景……。 山県昌景 ……ソウダ……。 山県昌景 コノ魂ノ名ヲ……より深きヘト……手繰り寄せ……。 山県昌景 ……取り戻すノダ…………。 山県昌景 最強ノ赤備えヲ…………取り戻すノダ…………。 岩櫃城 巨大兜の霊気が膨れあがっていく……！？ 長篠城 殿！　巨大兜が構えた……来るぞ――！！
後半
長篠城 こ、の――！！　どうして、倒れないっ！？ これだけの銃撃を受けて、動けるわけ……ないのに――！！ 山県昌景 ぐ、ヌ……ゥ…………！ 山県昌景 ……マダだ……マダ、届かヌ……！！ 山県昌景 より、速ク……より、鋭ク……私ハ動けるはずダッ！！ 山県昌景 ウォォォォオオオォオオオォオォオオオ――――ッ！！ 長篠城 ――なっ！？ 岩櫃城 長篠城ちゃん――っ！？ 長篠城 はぁ、はぁ…………だ、大丈夫だ……。 このくらいなら、まだ立っていられる…………。 柳川城 そんな……先ほどまで、こちらが圧倒していたはずなのに。 どうして斯様な状況に……？ 千狐 …………そ、そうか！ 千狐 あの巨大兜……戦いの中で、進化していってるんだわ！ やくも 進化……？ ど、どういうことがや！？ 千狐 ……魂と器が、今この間にも刻々とその隙間を埋めていっているんだわ。 千狐 密接に繋がり合わんとするそれら二つが、 今までとは比べものにならないほどの力を あの巨大兜に与え始めているのよ！ 柳川城 ということは……戦えば戦うほどに あの巨大兜は強くなっていくということですか……。 長篠城 （……けど、それはあくまで理論上の話…………） 長篠城 （あの様な急激な変化に対し、現状におけるヤツの器は脆すぎる） 桃形兜(赤備え) 昌景サマ！　コレ以上ハ危険デス！ 赤備え軍団 此処ハ一度退キマショウ！ 赤備え軍団 ジャナイト、身体ガ……昌景サマノ身体ガァッ！！ 山県昌景 離セッ！　もう少しで掴めるノダ！ 本当の己ヲ！　在るベキ己をぉォオオッ！！ 桃形兜(赤備え) ナリマセヌ！　御自愛クダサレ、昌景サマ！！ 山県昌景 エエイッ！　黙ラヌカ！ 主命ヲ聞けぬ家臣ナド不―― 山県昌景 ――グッ、ァ……！？ 桃形兜(赤備え) 昌景サマ！？ 岩櫃城 ――むっ！？ 巨大兜が……膝をついた！？ 長篠城 やはり……そうか。 長篠城 急激な成長に器がついていっていないんだ。 長篠城 討つべきは今……けれど、こちらも消耗しきっている。 長篠城 どうやら……痛み分けという結果に終わりそうだね、殿……。 殿 …………。 山県昌景 殿……。 山県昌景 次コソは……必ずや貴様ヲ、討チ……。 ……ソシテ……我ガ真ノ威名ヲ……取り戻シテみせる………………。 千狐 …………。 千狐 …………兜たちの撤退を確認。 長篠城 ……何とか、当初の目的は果たせたようだね。 岩櫃城 けど、あの巨大兜……。 次に会うときは今日よりもずっと強くなっているでしょうね。 長篠城 遅かれ早かれ、ヤツは武神化する定めにあったんだ……。 長篠城 ボクらは……それを早めたまでのこと。 長篠城 考えるべきは、次の戦でどうするか……なんだろうけど……。 長篠城 何だか…………ひどく……疲れた…………。 長篠城 すまない、岩櫃城……肩を貸して、くれないか？ 岩櫃城 おお……！ 長篠城ちゃんが私を頼るなんて珍しいですね！ 岩櫃城 ふむ、つまりはそれほどまでに消耗してしまっていると……そういうことですね！ 岩櫃城 わかりました！ では特別に、今日はおぶって運んであげましょう♪ 長篠城 別に、おんぶまでは頼んでないんだけど……。 長篠城 ま、いいか……。 キミ、乗り心地は悪くなさそうだし。 殿 …………。 長篠城 殿、キミたちも無事でよかった……。 此度の助力、心から感謝している。 長篠城 あれほどの敵を無事に退けられたのは キミや柳川城たちの力添えあってこそだ。 長篠城 だから改めて、礼を言わせてくれ……。 長篠城 本当に、ありがとう。 殿 …………。 殿 …………！ 岩櫃城 あー！　長篠城ちゃんだけずるいですよぉ！ 私だって殿の笑顔を賜りたいのにぃ～！ 岩櫃城 ――はっ！？　さては長篠城ちゃん！ 私から殿を奪おうとかって考えてませんか！？ 岩櫃城 そうだ……思えば、 所領で会った時も、じぃっと見つめ合ってたし……。 岩櫃城 もうっ！　長篠城ちゃんの泥棒猫ぉ！ 長篠城 泥棒猫って……。 久しぶりに聞いたな。 長篠城 というより、殿ってキミのものだったの？ ボク、初耳なんだけど。 岩櫃城 う……真面目に返されるとすっごーく応えづらいのですが……。 柳川城 …………。（じぃぃ） 岩櫃城 って、柳川城ちゃんも何だか感傷的な瞳でじぃっと見つめてくるしぃ～！ 岩櫃城 殿ぉ～！ 何とか言ってくださいよぉ～！ 殿 …………。 殿 …………？ 岩櫃城 で、でたぁ～！ 何の話でござるか的な微笑ぃ～！！ 岩櫃城 もぉ、こういう時は嘘でも岩櫃城大好き～とかって言ってくれればいいのにぃ！ うわ～～～～～～～～んっ！！ 長篠城 あ、ちょ、ちょっと――！？ 岩櫃城、何処に行くんだ！ やくも ……とんでもない速さで駆けていってしまっただに。 長篠城 まぁ、すぐに我に返って戻ってくるだろうけど……。 長篠城 ……ったく、おんぶしてくれるって話はどこいったんだか。 柳川城 でしたら、私が肩をお貸ししましょうか？ 長篠城 ……キミが？ 柳川城 は、はい。 お嫌でなければ、ですが……。 長篠城 …………。 柳川城 …………。 長篠城 イヤだなんて、とんでもない。 長篠城 柳川城……キミは戦場を共にした仲間だ。 その厚意、有り難く頂戴するよ。 柳川城 それでは、どうぞ私に身体を…………。 殿 …………。 千狐 そうですね、殿。新たに出会った城娘と こうして仲を深められたのは良き事だと思います。 千狐 それでは、岩櫃城さんが戻り次第、 所領へと帰還するとしましょう。 千狐 殿、此度の遠征も、本当にお疲れ様でした！

討伐武将大兜!山県昌景-絶-

山県昌景の名を冠する巨大兜との戦から数日後――。
再び所領にやってきていた長篠城は、
銃使いの城娘らと共に訓練をしていたのだが……。

前半
――所領。 その日は、長篠城を招いての銃の練習会が行われていた。 長篠城 ……。 長浜城 ねえねえ、今の見てた～？ あんなに遠くの的でもばっちり真ん中に当てちゃったよぉ！ 長篠城 ……ああ、そうだね。 長浜城 そうだね、って……もぉ！ もっとちゃんとした感想ちょーだいよぉ！ 長篠城 って言われてもなぁ。 長篠城 正直なところ、 ボクは誰かにものを教えるってのは得意じゃないんだ。 岩櫃城 長篠城ちゃん、いつも一人で練習してますもんね。 やっぱり銃仲間は作っておいた方がいいんじゃないですか？ 長篠城 失敬な。こう見えても練習に付き合ってくれる友人くらいいる。 岩櫃城 ――なんですと！？ 長篠城 そんなに驚くって……かなり失礼じゃないか？ 岩櫃城 ご、ごめんね。つい反射的に……。 岩櫃城 って、それよりも誰と練習してるの？　 すっごく気になるんですけど……！ 長篠城 高天神城とさ。 ……彼女とは昔から仲が良いんだ。 岩櫃城 えええええっ！？　た、高天神城さんって……遠江国を西から覆うように 張り出してる小笠山山塊の東南尾根尖端に位置する鶴翁山に築かれた めちゃめちゃ堅固な山城であるところの、あの高天神城さんですか！？ 長篠城 何だかやけに説明口調なのは気になるけど……。 キミの言う通り、その高天神城だよ。 長篠城 銃の腕前で彼女と並ぶ者はそういない。 長篠城 それに、練習が終わった後に淹れてくれる 彼女のお茶ときたら、これがもう絶品でね。 長篠城 ああ……今度はいつ会えるかなぁ。 長浜城 なんだか恋人に関しての惚気話みたいだねぇ～♪ 岩櫃城 え！？　長篠城ちゃんって、そっち系だったの！？ 長篠城 ち、違うよ！　高天神城とボクは友達だもん！ 岩櫃城 本当ですかぁ～？ 何だか怪しいなぁ……このこのぉ～。 長篠城 だから違うってばぁ～っ！ 岩櫃城 あわわっ！？　ご、ごめんなさい！　からかいが過ぎました！ お願いですから変身までしてヤバげな銃を向けないでくださいよぉ～！ 長篠城 ふん……。 今度また、ボクと高天神城の仲を茶化したら容赦しないからな。 岩櫃城 もぉ、洒落が通じないんですから……。 長篠城 何か言った？ 岩櫃城 い、いえ！　何でもないですよ！　あはは―――。 やくも はぁ～ぁ。 長浜城 って、あれれ？　どうしたの、やくもちゃん？ 何だか珍しく元気ないみたいだけど……？ やくも いやぁ、この前の巨大兜さんの討伐遠征のことを思い出してたんやけど……。 やくも 惜しいことしたなぁって思ったら、溜息が出ちゃっただに……。 長浜城 え？　惜しいことってー？ やくも ほら、あれがや……温泉だに。 岩櫃城 あぁ、あの温泉ですか。 岩櫃城 何だかあの時の流れ的には 皆さんでばしゃーんっと入浴しちゃう感じでしたが。 岩櫃城 結局、入ることができませんでしたからね……。 長浜城 たしか、兜たちが何か細工してるかもしれないから、 迂闊に入っちゃだめだぞーって注意されたんだっけ？ やくも だにぃ……。 やくも でも、やっぱり入りたかったがやぁ……。 長篠城 キミがそう言うのも無理はない。 長篠城 何せあの温泉には様々な伝説や民話があって、 多くの民から親しまれる名湯とされているからね。 やくも そういえば、あの温泉と山県昌景って武将さんとは ちょっとした縁があるって言ってたけど、どういう内容かは聞いてなかっただに。 長篠城 有名なもののひとつとしては、温泉発見の由来とされる『白猿伝説』だね。 長浜城 猿の伝説ぅ！？　なにそれー！？　 すっごーく気になるよぉ～！ 長篠城 少し前のことだけど、 信濃の国で上杉謙信と激しい戦をしていた武田信玄が、 越中を手に入れようと画策して飛騨を攻め入ったことがあったんだ。 長篠城 その時の大将のひとりであった山県昌景は、 沢山の軍勢を引き連れて峠越えをしようとしていたんだけど、 長篠城 頂上を越えるころには兵の多くは疲れきっていて、 おまけに硫黄岳から生じた毒霧によって倒れる者まで出る始末。 長浜城 ……それでそれで！？ 長篠城 もうダメかもと、皆が思った……その時さ――。 長篠城 老いた白猿が現れて、山県昌景たちを温泉へと導いてくれたんだ。 長篠城 そして、疲弊しきっていた兵たちは温泉へと入り、 元気を取り戻したとされている。 長浜城 すっごーいっ！　そのお猿さん、まだいるのかな？ 長篠城 ……食いつくとこ、そこなんだ。 やくも あー。そげな面白い話をされると、 余計に入りたくなるだにぃ～。 やくも けど、あの時は……。 長篠城たちが温泉に入ろうとしてたうちらを これでもかって邪魔してきたから――――。
後半
長篠城 ――ちょっ、ちょっと待ってくれ！ ボクたちは、そこまでした覚えはないぞ！ やくも あれ？　そうだったがや……？ 確か温泉に入ったら撃ち殺すぞーとかって言われた気が……？ 長篠城 そこまでは言ってないよ！　あの時の温泉には、 兜の毒気が混じってたから暫くは使っちゃ駄目だって言っただけ！ やくも けど、銃口を向けられて脅されただにぃ……。 長篠城 だって、あの時はそうでもしないと止まらなかっただろ？ 長篠城 それにキミ、すでに服も蛇も取っ払って入る気まんまんだったし。 岩櫃城 さすがの私でも、殿の前での脱衣は躊躇するというのに、 やくもちゃんってば凄すぎだよ。ある意味羨ましい……。 長篠城 そんなところで羨ましがってどうする……。 やくも ……はぁ～あ。 温泉、入りたかっただにぃ……。 長篠城 まぁ、そう肩を落とすな、やくも。 長篠城 現在、法術を得意とする城娘らによって、 あの温泉の浄化はきっちりと行われている。 長篠城 時が経てば、そのうち入れる機会もあるだろうさ。 やくも だにぃ……そげに待つのは辛すぎるがやぁ。 こういう寒い日にこそあっつい温泉にぃ―― やくも ――って、そうがや～っ！！ 入れる温泉が無いなら、所領に温泉を造っちゃえば良いだけだにぃ！ 岩櫃城 え？ 長浜城 所領に温泉……？ 長篠城 造れるのか――っ！？ やくも わからんけど、やってみる価値はあるだに！ やくも それに、幸いここには長浜城がいーけん、 白猿伝説みたいに、うちを温泉へと導いてくれるはずがや！ 長浜城 わぁ、ムチャぶりだぁ～♪ やくも ってことで、長浜城！　所領内のどこを掘れば 温泉がプシャーッってなるのか、うちに指し示してほしいがや！ 長浜城 うーん……じゃあ、ココらへんとか？ 長篠城 適当にもほどがあるだろ……。 岩櫃城 でも、案外うまくいっちゃったりして……？ やくも よっしゃ！　それじゃあ次は長篠城が 自慢の銃で地面を撃ちまくるだに！ 長篠城 は、……え？ 長篠城 …………。 長篠城 いやいやいや！ ボクの銃をそんなことのために使うとか無いから！ 長篠城 ていうか、そんなことして温泉が湧き出るわけないだろ！ 長浜城 えぇ～。長篠城ちゃんのケチぃ。 長篠城 ケチとかそう言う問題じゃないってば……。 長篠城 それに、キミたちの大事な領地に傷なんてつけられるわけないだろ！ やくも た、確かに……長篠城の言う通りだに……。 岩櫃城 でも……所領に温泉を、って考え、 ここでばっさり切り捨てちゃうのは勿体ないなぁ。 岩櫃城 ――んっ！？　いや、待てよ……！ 長浜城 どうしたの、岩櫃城ちゃん？ 岩櫃城 温泉を掘り当てるんじゃなくて、 岩櫃城 所領のお風呂のお湯を温泉っぽくしちゃえばいいんじゃないかな！！ 長浜城 おお～♪　逆転の発想だね！ やくも だにぃ！　その手があったがやぁ！！ 長篠城 なるほど……湯の成分を改変させるってことか。 それならば実現可能かもしれない。 やくも そうと決まれば、今すぐ大浴場に行って、 お湯に色んなもん入れ込んで試してみるがや！ 長浜城 うっきゃーっ！　やるやるー！　あたしもやるぅ～！ 岩櫃城 これでうまいこと温泉化に成功した暁には、 殿もきっと喜んでくれるはず……うふふふふ♪ 長篠城 （みんな楽観的だな。もう成功した気でいるみたいだ……） 長篠城 （というか、こういうことって殿に許可をもらってからやった方がいいんじゃ――） やくも ――長篠城！　ぼさっとしてないで あんたも一緒に大浴場に突撃するがやぁ～！ 長篠城 え、ちょっと待って、ボクは協力するなんて言ってな――うわぁぁあっ！？ こうしてこの日、突発的に発案された温泉化計画の名のもとに、 所領内の大浴場に様々なものを混入したやくもたちだったが――。 程なくして、 有り得ない臭気と変色を示し始めた大浴場の惨事を千狐に発見され、 全員まとめて、こっぴどく叱られたのだった。

特に記載のない限り、コミュニティのコンテンツはCC BY-SAライセンスの下で利用可能です。