ストーリーテキスト/薄れゆく魂の刻印

薄れゆく魂の刻印[]

薄れゆく魂の刻印 -序-

桜尾城の要請により、安芸国へと出立する殿。
彼女の友人が行方不明になった事を知り、
殿たちは捜索を開始しようとするのだが……。

前半
――安芸国某所。 孤軍奮闘する可憐な城娘の姿が、其処に在った。 亀居城 もう、倒しても倒してもキリがないノシ！ 亀居城 だけど少しずつだけど、兜の数が減ってるような気も――、 兜 ――ザッ！ 兜軍団 ――ザザッ、ザザザッ！！ 亀居城 ふぇ～んっ！？ 何でまた兜が増えちゃうの～っ！ 亀居城 ……うぅ。 一応、城下町の人達はみんな避難できたみたいだけど……。 亀居城 でも……だからって、あたしが此処から逃げたら、 悪い兜たちに大切な場所を奪われちゃう……。 亀居城 みんなの帰る場所が無くなっちゃうなんて、 それだけは……それだけは絶対に許せないノシ！ 兜軍団 覚悟セヨ……覚悟セヨッ！ 兜軍団 ――ムムッ！？ 亀居城 ……あれ？ どうしたんだろう？　 兜たちの動きがおかしいぞ……？ 亀居城 も、もしかして、あたしの強さに驚いて、 ようやく逃げる準備を始めたのかなぁ～ノシノシ♪ 亀居城 さっすがあたしノシ～！ よ～し、このまま亀さんみたくノシノシ作戦で追い打ちを――、 亀居城 ――って、えええええ～～～～～っ！？ 福島正則 アァアンッ！？　何ダ、テメエハッ！？ 亀居城 そ、そそそ、それ、それはぁっ、あわ、あわわわわっ！？ ああ、あ……あた、あたすっ……あ、あたしの台詞ノシーーーッ！ 亀居城 い、いったいどこにそんな巨体を隠してたノシ！？ おかしいノシ！　反則ノシ～っ！！ 今さら出てくるとかありえないノシ～～～っ！！！ 福島正則 ンダコラァ……ノシノシノシノシ、ウルセェ野郎ダナ！ ソンナニ俺様ニ殺サレテェカッ！？ 亀居城 や、野郎じゃないもん！ 亀居城だもん！　城娘だもん……ノシノシ！ 福島正則 ――ッ！？ 福島正則 カ、亀居城……ダト！？ 亀居城 そうノシ！ あたしがいる限り、ぜ～～～ったいに この場所は兜たちになんか渡さないんだよーっ！ 福島正則 フッ……成程ナ。 福島正則 ドウリデ中々コノ地ヲ攻メ落トセナカッタ訳ダ……。 福島正則 オイ、オ前ェラ！ 兜軍団 ――ザザッ、ザザザッ！！ 福島正則 奴ヲ拘束シロ！　 ンデモッテ、瘴気ン中ツッ込ンデオケ！ 兜軍団 御意ッ！　御意ィッ！！ 亀居城 ――ふぇっ！？ な、なに！　ちょ、ちょっとぉ～っ！ 兜軍団 捕獲ッ！　捕獲ゥッ！！ 亀居城 ……や、だぁっ！？　何するノシ～！ ヘンなとこ、くっ、うぅぅッ……触らない、でぇっ！！ もう、本当に許さないん、だから……くぁっ、あぁああっ……！ 福島正則 フン……観念スルンダナ。 福島正則 ナァニ、此処デ会ッタノモ何カノ縁ダ……。 大人シク言ウ事ヲ聞クッテンナラ殺シャシネエ。 亀居城 ぐすっ……うっ、うぅぅ……もう、だめ……ノシ……。 誰か……誰か助けてぇ……。 福島正則 俺様ガ思イ出サセテヤルヨ、亀居城。 オ前ガ一体何者ナノカヲ、ナ……。 ――数日後。 辰ノ刻、安芸国某所。 桜尾城 お待ちしておりました、殿。 桜尾城 この桜尾城からの突然の要請に応じて駆けつけて下さったこと、 感謝の言葉もありません。 殿 …………。 千狐 はい、困っている城娘を放ってなどおけませんわ！ やくも そうやね、困った時はお互い様だに！ 桜尾城 フフ、可愛い子猫ちゃんたち。 キミ達のその優しさにも、いつか必ず報いると誓いましょう。 やくも か、可愛い子猫ちゃん……たち？ 千狐 千狐は、猫ではないのですが……。 桜尾城 はは、照れた顔も実に魅力的ですね。 桜尾城 ――と、申し訳ありません。 話を戻しましょうか。 桜尾城 実は、少し前に ここら一帯は兜によって襲撃されてしまったのです。 千狐 土地の荒廃ぶりを見るに、 もしやと想っていましたが、やはりそうでしたのね……。 やくも それじゃあ、ここらの人たちはもしかして、みんな……？ 桜尾城 いや、それに関して案ずる必要はありません。 桜尾城 何故なら、此の地は我が朋友である亀居城が守っていましたから、 兜の襲撃に際して、故郷の皆を安全な場所へと避難させていた様です。 千狐 良かった……何とか最悪の状況は防げたということですね。 やくも 兜による犠牲者を出さずに済んだなんて、 その亀居城ってのはすっごく強いんやね！ 桜尾城 はい。 彼女はとても強く、そして勇敢な城娘です。 桜尾城 ……そう、勇敢すぎたが故に、 彼女は最後まで此の地に残り……。 桜尾城 そして、兜に囚われてしまったのです。 やくも 兜に、囚われた……！？ 千狐 ……だからこそ、亀居城さんの救出の為に、 千狐たちが呼ばれたということですね。 桜尾城 ……はい。 桜尾城 私ひとりでは到底無理であろうと、 貴公らの助力があればきっと可能なはずです。 桜尾城 共に、囚われた我が朋友、亀居城を救い出して頂きたい！ やくも よっしゃ、そうと分かれば早速捜索を開始するだに！ 千狐 ……待ってやくも！ やくも ど、どうしたんや、千狐……？ やくも ――ん？　 やくも ああぁあっ！？ 兜 ――ザッ！ 兜軍団 ――ザザッ、ザザザッ！！ 桜尾城 くッ……既に敵地にあることを理解し、 注意を払ってはいましたが、 まさか知らぬ間に兜に囲まれていたとは……。 桜尾城 こうなればこちらも戦闘の準備をせねばなりませんね！ 桜尾城 はぁーーっ！！ 千狐 桜尾城さんの身体が……っ！ やくも 輝き始めただにぃ！？ 桜尾城 ふ……この姿になったからには、容赦はしませんよ。 桜尾城 さあ、此の地を荒らす不届き者たちに、 天罰を与えてやりましょう！ 千狐 殿、くれぐれも油断なさらぬように……ですわ！
後半
桜尾城 見事な戦いぶりでした、殿。 さすがにございます。 桜尾城 とはいえ、こうして我らの居場所が 兜たちに判明した以上、気は抜けませんね。 桜尾城 恐らく先ほどのは先兵……。 これから後続の部隊たちが次々に――、 桜尾城 ――むっ！？ 危ない、殿っ！？ 殿 …………っ！？ 千狐 ど、どうしたのですか、桜尾城さん……？ 千狐 急に殿を……その、抱き締めたりなどして？ 桜尾城 いや……今何か、とてつもない殺気を感じたのですが……。 やくも そうは言っても、近くには兜さんらの姿は見えないだに。 千狐 あ、あの……それよりも、 もう殿を抱き締めている必要はないのでは？ 桜尾城 ……え？ 殿 …………！ 桜尾城 おっと、これは失礼しました、殿。 桜尾城 とはいえ、中々に良き抱き心地にありますな、殿は。 桜尾城 すんすん……。 それに、何とも言えぬ良い匂いがします。 桜尾城 もう一度、抱き締めさせてもらってもいいですかな？ 千狐 だ、駄目なのぉ！ 桜尾城 ――ッ！？ 桜尾城 千狐殿……？ 千狐 あ、いえ、今のは……その……。 桜尾城 …………。 桜尾城 成る程、そういうことでしたか。 これは礼を失しましたね。 千狐 え、いや……べ、別に、他意などありませんわ……。 やくも ……ん？　どういうことだに？ 何で千狐はそんな顔真っ赤にしちょーがや？ 桜尾城 ふふ……やくも殿もいずれ分かる時が来る。 桜尾城 そう遠くないうちに、ね。 やくも ……だに？ 桜尾城 それよりも、先刻の殺気は一体何だったのでしょうか？ 桜尾城 (気のせいにしては、あまりにも強烈な殺気だったのですが……) やくも ……あれ？ やくも 殿さん！？　 あっちの草陰を見るだに！ 千狐 ど、どうしたのやくも？ やくも 何かが、這い出てきてるだに！ 千狐 また新手の兜が来たのね！？ 桜尾城 ――お待ち下さい、殿！ 桜尾城 あの亀の如きまったりとした、ほふく前進は…………。 桜尾城 まさか――っ！？ 亀居城 ノシノシ～。 亀さんの様ニ、コッソリと～♪ わる～い腹黒殿へと接近しテやるノシ～♪

薄れゆく魂の刻印 -破-

探し求めていた亀居城が自ら姿を現すが、
その背後には兜の軍勢が潜んでいた。
蔵を狙う新手の兜に注意しつつ戦いに臨め！

前半
亀居城 ノシノシ～。 亀さんの様ニ、コッソリと～♪ わる～い腹黒殿へと接近しテやるノシ～♪ 桜尾城 ………。 亀居城 フッフッフ……コノまま殿の背後へ近づいて、 お尻にブスッと槍ヲ突き刺してヤるぅ……ノシノシ♪ 桜尾城 亀居城殿……いったい、何をしているのですか？ 亀居城 ……ふェ？ 桜尾城 ……。 亀居城 ――なっ、なななッッ！？ あたし、サッソク見つかっちゃってるノシ～ッ！ 亀居城 あたしのノシノシ作戦を こうもアッサリ見破ルなんて……どんな手を使ったの～ッ！？ 桜尾城 いえ……丸見えでしたが……。 桜尾城 って、そうではありません！ 桜尾城 亀居城殿……生きておられたのですね！ 桜尾城 消息を絶ったと聞いて、とても心配していたのですよ。 亀居城 …………はェ？ 亀居城 お兄さん、どちらサマですカ～？ 桜尾城 ――なっ！？ 桜尾城 お兄さん、ですと！？ 亀居城 ……違うノシ？ 桜尾城 …………。 桜尾城 ……私は女にございます、亀居城殿。 桜尾城 前に何度も、お確かめになったでしょう！？ 亀居城 ……そんなにカッコイイのに、女なの？ 桜尾城 ええ、そうです。 亀居城 ……ノシ……ノシ……ノシ……。 亀居城 ……むぅ～ッ！！ そんなにカッコイイのにィーーッ！！ 桜尾城 ――ッ！？ 急に槍を突き出すとは、一体なにを考えているのですか！ 亀居城 邪魔なトコロに立ってルから悪いノシ！ 亀居城 あたしはネ、殿を突き殺シに来たノシ！ 間に立つナラ、お兄さんもズブって突いちゃうんだカラ～ッ！ 桜尾城 殿を突き殺す……だと！？ ご乱心召されたか、亀居城殿！ 亀居城 うるさいノシッ！ 兜クンたち、ちょっとコノお兄さんの相手をしてあげるノシ！ 兜 ――ザザッ！ 兜軍団 ザザッ、ザザザッ！！ 桜尾城 馬鹿な……！ 亀居城殿と、兜が……一緒にいるだなんて……！？ 千狐 お下がり下さい、桜尾城さん！ 桜尾城 これは一体、どういうことなのですか……千狐殿？ 千狐 見たところ、亀居城さんは兜に操られているようです。 桜尾城 兜に、操られている……？ 亀居城 ノシノシ～ッ！ やーいやーい、こっちにはイッパイ仲間がいるんだゾ～！ コレでもう、あたしには手出しデキないでしょ～？ 桜尾城 …………。 桜尾城 いや、言動そのものはいつもの亀居城殿とは変わりないようですが……。 やくも あげな感じが常態って……どんな城娘なんや……。 千狐 ですが、彼女の霊気には不穏なものを感じます！ 千狐 それに、兜と共に行動しているのが何より異常なことですわ！ 桜尾城 ……くっ。 考えなかった事ではありませんが、 まさかあの亀居城殿が、兜に……。 亀居城 もう、なーにブツブツ言ってるのか知らないケド、 殿にも居場所はバレちゃったみたいだし、 こうなったら真正面からズブズブに突き殺シテあげるノシ～！ 千狐 兜たちが一斉に攻めてきますわ！ やくも 何だかおかしな動きをしてる兜もいるがや！ うちらの方やなくて、蔵の方に向かってるみたいだに……！ 桜尾城 兜め……この地そのものを破壊しようという腹積もりなのでしょう！ 千狐 操られているとはいえ、亀居城さん自身の手で 彼女の大切な場所を破壊させる訳にはいきませんわ……。 千狐 不穏な動きをしてる兜にも注意を怠らないようにしてください、殿！ 亀居城 ノシノシ～！ あんなに慌テちゃっテ……作戦は大成功みたいダネ♪ 亀居城 ヨーシ、それじゃあ一気にカタをつけるぞ～！ 全軍突撃ノシ～ッ♪
後半
亀居城 ふぇぇ～ん、イタイよぉ～ッ！ ぐすッ、ひぐッ……ヒック……あたしもう戦えないよぉ～。 兜 ……頑張レ、亀居城……ッ！ 兜軍団 ……戦エ、亀居城……ッ！ 亀居城 ヤダヤダヤダ～ッ！ もうおうち帰るゥゥゥー！ 兜 ……困ッタ……。 兜軍団 ……実ニ……困ッタ……。 桜尾城 殿、敵の士気は今や風前の灯火！ 今こそ、亀居城殿を助けに行きましょう！ 千狐 はいっ、今しかありませんわ、殿！ やくも うちも手伝うだに！ ？？？ ――サセネェヨ、コノ……クソ野郎共ガァァァアアアアッ！！ 桜尾城 な、今のこの怒号は……？ それに、とてつもなく凶悪な霊気が……迫ってきている……っ！？ 亀居城 ……ふぇ？　 亀居城 コノ足音は……まさかッ！？

薄れゆく魂の刻印 -急-

突如として現れた巨大兜は
己が闘争心を満たす為に殿へと襲いかかる。
恐るべき力を持つ強敵を全力で迎え討て！

前半
亀居城 コノ足音は……まさかッ！？ 福島正則 何ダ何ダ、ソノ情ケ無ェ面ハヨォ…？ 亀居城……オメェガ殿ヲヤリテェッテ言ウカラ任セタンダゼ？ モウ少シクライ根性見セタラドウダ？ 亀居城 お父様ァ～ッ♪ 助けに来てくれたんだねぇ～ノシノシ♪ 千狐 ――お父様！？ やくも 一体どういうことがや……？ 桜尾城 か、亀居城殿……。 桜尾城 『お父様』より『父上』の方が呼び方としては可愛いと思いますぞ！ 千狐 そう言う問題ではありませんわ！ ふざけてる場合ですか桜尾城さん！ 桜尾城 す、すみません……しかし、こうでもしなくては、 この現状によって気が触れてしまいそうで……。 桜尾城 一種の自己防衛の手段と考えて頂きたい……。 亀居城 お父様～ッ！ 殿タチったら、すっごくツヨイのぉ……。 亀居城 だからネ、だからネ……あたしの仇を取ッテほしいノシ～！ 福島正則 ……誰ガ、オ前エノ為ニ戦ウカヨ、阿呆。 亀居城 またまたソンナこと言ってぇ。 お父様は何だカンダ言いながら殿と戦うツモリなんデショ～？ 福島正則 是ハ俺様ノ意志ダ……俺様ハ自分ノ魂ニ従ッテ、アノ野郎ヲ倒ス……。 福島正則 勿論、逃ゲタリナンカ、シネェヨナァ……殿？ 殿 …………。 桜尾城 何て、威圧感なのでしょう……。 桜尾城 あれほどの強大な兜が存在していたとは……。 千狐 しかし、あの兜を倒さねば、 亀居城殿を救うことはできません！ 亀居城 見て見て、お父様～ッ♪ 殿たちが真っ青ナ顔ニなってるノシ～。 亀居城 お父様に勝てないノ、本能的ニ気づいちゃったんダネ～♪ 福島正則 亀居城……オマエ少シ黙ッテロヤ。 コレカラ大事ナ喧嘩スルンダカラヨォォ……。 亀居城 ハ～イ！ お父様の為に、大人しくノシノシしてるネ～♪ 千狐 亀居城さん……。 千狐 あの様子ですと、亀居城さんは 強力な操心術をかけられてしまっているようですね……。 千狐 これ以上、兜たちと共に居ては、 亀居城さんが元に戻ることは出来なくなってしまうかもしれませんわ……。 桜尾城 外道め……！ 我が朋友の心を弄ぶ、その所業……絶対に許しはしない……。 福島正則 フン……殿以外ニモ根性ノ有リソウナ奴ガ居ルミテェダナ。 福島正則 イイゼェ……マトメテ相手シテヤルヨォォ……。 オラァッ、全軍、盛大ニ突撃開始ダァアアアアアアアーーッ！！ 桜尾城 ふっ……威勢はいいが、何てことは無い。 桜尾城 あの巨大兜の動き……あれではまるで亀の如きのろさではありませんか！ 桜尾城 存外、簡単に倒せてしまうかもしれませんね、殿。 亀居城 アァ～ッ！　今、亀をバカにしたなぁ！ 亀居城 お父様の力と頑丈さはスゴイんだから～ッ！ 亀居城 懐に入っちゃエば誰モお父様に勝てないノシ～ッ！！ 千狐 殿、亀居城さんの言葉は偽りではありません！ 千狐 近づかれてしまっては敗北は必至……。 千狐 何とかして接近される前に倒すしかありませんわ！
後半
亀居城 ウ、ソ……そんな、お父様が……負けタ……？ 亀居城 ねえ、シッカリしてよ……お父様ぁッ！ 負けちゃヤダよォ……。 福島正則 アァァアンッ！？ 誰ガ負ケルダッテ……？ 福島正則 寝言ハ寝テ言エッテンダヨォオオオッ！ 亀居城 わ～いッ♪　 お父様が立ったァ～ッ♪ 亀居城 そうダヨネ！　 さっきは手加減シテタだけだもんネ！ 福島正則 当タリ前ェダロ……サッキノハ、ホンノ小手調ベダ……。 コンナ面白イ喧嘩、一度デ終ワラセチマッタラ勿体ネェゼッ！ 千狐 まさか……さっきまでの戦いが本気ではなかったなんて……。 やくも やっぱりあの巨大兜は普通じゃないだに……！ まだまだ力を隠してるなんて、卑怯過ぎるがや～！ 福島正則 ッシャアアア！　ソウト決マレバ即撤退ダッ！ 来タルベキ決戦ニ向ケテ準備ヲスルゾ！ ……全軍、俺様ニ続ケェェッッ！ 亀居城 ハ～イッ！　 ノシノシ～ってついて行くカラねぇ、お父様ぁ～♪ 桜尾城 ま、待って下さい、亀居城殿！ 亀居城 ――ん？ 亀居城 どうしたのお兄さん？ 桜尾城 ……約束です、亀居城殿。 亀居城 ……ヤクソク？ 桜尾城 ええ、これは私から貴方に対する……一方的な約束です！ 桜尾城 この桜尾城と殿が、 ……必ずや、貴方の心を取り戻して見せます。 亀居城 ……ノシ？ 亀居城 よく分からないケド、ソンナ悲しそうな顔しないでいいノシ！ 亀居城 殿をズップリとコノ槍で突き殺スのハ、あたしだもん！ またスグに戻ってキテあげるカラね～♪ 亀居城 だ～か～ら～、よーく首をゴシゴシして、 楽しみに待ってるといいヨ～！ 亀居城 そしたらね～、ノシノシって忍び寄って～、 お兄さんのコトも、マトメテ突き殺シテあげるノシ～♪ 桜尾城 ……ええ、楽しみに待っていますとも。 桜尾城 次に会う時こそが、貴方の心を解放する時なのですから……。 福島正則 ――オイ、亀居城ッ！ サッサトツイテコイッテ言ッテンノガ聞コエネエノカッ！？ 亀居城 待ッテ待ッテ～！ 今スグ行くから～、お父様ァ！　 ノシノシ～！ 福島正則 ッタク、オマエトキタラ、 何カラ何マデ亀ミテェニノロノロト……世話ノカカル野郎ダ。 亀居城 もぉ～っ！　 野郎じゃないっテ、何度言えば分かっテくれるノシ？お父様ァ！　 ノシノシ～！ 福島正則 ダァッ、纏ワリ付クンジャネエ！ 踏ンヅケラレテモ知ラネエカラナ…………ッタク……。 桜尾城 …………。 桜尾城 …………亀居城殿。 千狐 行って……しまいましたね……。 やくも 何だか、すごく疲れただに……。 桜尾城 ……そうですね。 桜尾城 先ほどは、気を張っていたから良かったのですが、 こうして我に返ると、亀居城殿が……憎き兜の手中にあると思うと……、 桜尾城 くっ……ぅぅ……。 殿 …………。 桜尾城 ……殿？ 殿 …………。 殿 …………！ 桜尾城 ふ……。 桜尾城 貴公は、本当に不思議な方ですね。 桜尾城 こうして傍にいるだけで、心身に力が宿ってくる……。 桜尾城 萎れかけていた勇気が、再び天へと花開くようだ……。 やくも うちらも傍にいるがや！ 一緒に亀居城を取り返す為に頑張るだに！ 千狐 千狐も全力でお手伝いさせて頂きますわ！ 桜尾城 ありがとう……子猫ちゃんたち。 桜尾城 仲間というものを、これほど心強く思ったことはありません。 桜尾城 そうとなれば、さっそく対策を考えましょう。 敵はより苛烈に攻め入ってくるはずです。 桜尾城 殿、しばし休息を取った後、 敵の再来に向け、しっかりと準備を進めて参りましょう！

薄れゆく魂の刻印 -離-

大型兜との戦いを終えたばかりの殿たちに、
再び兜たちの不穏な影が忍び寄る……。
飛行型兜の攻撃に警戒しつつ出陣せよ！

前半
――大型兜との戦いより数刻後。 桜尾城 はぁ……亀居城殿。 千狐 桜尾城さん……。 やはり、亀居城さんのことで心を痛めているようですね。 やくも ……あげなことがあれば当然やね。 やくも 千狐が大型兜に向かって『お父様』なんて言ったら、 うちはびっくりし過ぎて泣き出す自信あるだに……。 千狐 千狐が……大型兜を、お父様……！？ 千狐 ……考えるだけで恐ろしいことだわ。 やくも まあ、殿さんに向かって言うんやったら、 結構しっくりくるかもしれんね。 千狐 と、とと、殿を……お父様ですって！？ やくも ……ん？ もしかして、桜尾城と同じで父上の方が呼称的に好みかや？ 千狐 そう言う問題じゃないのーっ！ 千狐 (殿は、千狐にとってお父様ではなくて……もっと、こう……) 殿 …………。 千狐 あ、お父様ぁっ♪ 殿 …………っ！？ やくも (殿さんが急に来たからって、まさか本当に言うとは……っ！？) 千狐 ち、違うんです、殿……今のは、あの……間違えたというか……。 殿 …………っ！ 桜尾城 ……さすがですね、殿。 貴公も、異変に気づかれたようですね……。 やくも ……異変？　殿さんの見てる方角に何かいるがや？ 桜尾城 すぐに分かりますよ……やくも殿。 ？？？ ……ノシ……ノシノシ……。 桜尾城 そこにいるのは分かっていますっ！！ さあ、ノシノシしていないで、 正々堂々姿を現したらどうですか、亀居城殿！ 亀居城 ――ノシッ！？ 亀居城 あ～もォッ！！　どうしてスグに気づかれちゃうノシ～？ やくも か、亀居城だに！ まさか、もう攻めてきていたなんて……！？ 桜尾城 大型兜は……一緒ではないのですか？ 亀居城 えへへっ♪　お父様にハ内緒デ来ちゃったノシ！ 亀居城 ダッテね、お父様ったら、 もう一度あたしが攻めテモ、負けルに決まってルとかッテ言うんダヨぉ～！ 桜尾城 亀居城殿……。 桜尾城 未だ、あの異形をお父様などと呼んでいるのですね……。 亀居城 ムムぅ～ッ！　お兄さん、何カ問題デモあるノシ～？ 桜尾城 亀居城殿……ヤツは貴方の城主、福島正則ではありません。 亀居城 ――ッ！？ 桜尾城 先刻の戦いにて、私は気づいてしまいました。 あの巨大兜の偽りの魂の正体に……。 桜尾城 そして同時に、貴方が何故それほどまでに 易々と兜に操られ、あの巨大兜に心酔するのかも……。 亀居城 ……う、ウルさいノシ！ 亀居城 お兄さんハ、あたしの敵！ だから、敵の言うコトなんてウソに決まってるノシ！ 亀居城 もう話すコトはないノシ！ さあ兜クンたち！　遠慮なんかシナイでいいから、 あのウルサい敵を殲滅するノシ～ッ！！ 三十二間星形兜 ……了解。 三十二間星形兜 予定通リ……殿ヲ狙イ討ツ……。 やくも な、なんや！？ あげな場所から急に飛行型の兜が出てきただに！ 桜尾城 予期せぬ場所からの奇襲と遠距離攻撃……っ！？ このままでは殿の身が危ない！ 千狐 こちらも遠距離攻撃で飛行型兜を撃ち落とすべきですわ、殿！ 亀居城 今さら準備シタッテ遅いノシ！ 亀居城 覚悟シロ、殿～！ あたしの自慢の槍に、大人シクぶっ刺されるノシ～ッ♪
後半
亀居城 むぎゅぅぅ……も、モウ……戦えないノシ……。 亀居城 このままじゃ、殿に……ヒドイこと……されちゃうノシ……。 三十二間星形兜 何ヲ、シテル……急ゲ……退却……ダ……。 桜尾城 させるか……、 はぁーーっ！！ 三十二間星形兜 ――ヌグァァァアッ！！ やくも すごいだに……！ 桜尾城の矢が、見事に兜を貫いたがや！？ 亀居城 そんな……コレじゃぁ、逃げるコトも……できない、ノシ……。 亀居城 ……お父様ァ……助ケテ……。 亀居城 うッ、うぅ……グスッ……痛イのは、イヤだよォ……お父様ァ……。 桜尾城 お労しや……亀居城殿。 桜尾城 この様な状況になってまで、 未だあの異形を父と呼ぶのですか！ 亀居城 ――ひぅッ！？ や、ヤメテ……よぉ……離シテ……離シテったらァ！ 千狐 桜尾城さん！ 操心術の解けていない亀居城さんを羽交い締めにするのは危険ですわ！ もし攻撃でもされたら……。 桜尾城 ――何が危険なものか！ 千狐 ……え！？ 桜尾城 今こそ……今こそしかと観ぜよ、亀居城殿！ 桜尾城 そしてその眼で、この荒れた地を視るのだ！ 桜尾城 分かるか？　是ぞ、貴方の為した業だ……。 桜尾城 その身に受けし真なる城主の刻印は、 この様な惨事を貴方に望んだだろうか……！？ 亀居城 知ら、ナイぃ……！ ……もう、ヤダぁ……ひぐッ、アぁ……い、痛イ……よぉ……！ 桜尾城 痛くしているのだ！　当然だろうっ！？ やくも (……いつも冷静な桜尾城が、すごい変貌ぶりだに……) 千狐 (それだけ亀居城さんに対しての想いが強いということよ……) 亀居城 お父様ァ……怖イよォ……帰りタいよォ……。 桜尾城 ――っ！？ 桜尾城 いつまで……。 桜尾城 いつまで甘き夢に揺蕩うつもりか！ 桜尾城 こうなれば……許せ、亀居城殿！ ――その刹那、 容赦無き平手の一打が、亀居城の白面の頬を襲った。 亀居城 ……っ！？ 亀居城 ……な、何するノシ……。 亀居城 桜尾城ちゃんが、ぶったノシ～～～っ！ 亀居城 城主にもぶたれたことないのにぃ！！ ふぇ～～～ん！　痛いよぉ！　ぜったい腫れちゃうノシ～～～っ！ 桜尾城 ――なっ！？ 亀居城殿、今なんと！？ 亀居城 ……え？ 亀居城 ぜったい腫れちゃうノシ……？ 桜尾城 もっと前の方です！ 亀居城 ふぇ～～～ん……？ 桜尾城 もっと前っ！ 桜尾城 ――って、ああもう！ 亀居城殿！　私の名が分かるのですね！？ 亀居城 ……ノシ？ 分かるに決まってるノシ！ 亀居城 お友達の桜尾城ちゃんノシ～♪ 桜尾城 ……ええ、そうです。 桜尾城 私こそが、貴方の朋友、桜尾城にございます。 桜尾城 して亀居城殿っ！ この桜尾城は男にございましょうか……？ 亀居城 ……ふぇ？ 桜尾城 さあ、いざ答えられよ！ 亀居城 な、なんだか怖いノシ～！ 亀居城 ていうか、桜尾城ちゃんは女の子でしょ～！ 亀居城 前にい～っぱいお風呂で確かめたもん！ 忘れるわけないノシ～♪ 桜尾城 …………おお！ 桜尾城 間違いない……。 桜尾城 紛う方なき亀居城殿にございます！ 亀居城 ――むぎゅぅぅっ！？ 亀居城 何で急に抱きつくノシ～？　甘えたいお年頃ノシ～？ 桜尾城 これは、親愛と喜悦の抱擁にございます、亀居城殿。 亀居城 ……ノシ～？ 亀居城 まあいいや～。 桜尾城ちゃんは相変わらず優しい匂いがするねぇ～。 あたしの大好きな匂いノシ～♪ 桜尾城 ……ふふ。 亀居城 ……ノシ♪ 千狐 …………。 千狐 (なんて、長い抱擁なのかしら……) 千狐 (いえ、そうではありませんわ、千狐！) 千狐 亀居城さんが無事、 正気を取り戻されたようで、本当に良かったですわ！ やくも あげな思い切りの良いはちられ方されちゃー、 戻らん方がおかしいってもんやね！ 千狐 それに、亀居城さんを真に想う桜尾城さんだったからこそ、 彼女の心を取り戻すことができたのですわ。 亀居城 ……ノシ～？　あたしの心を取り戻す？ 亀居城 何だか今いち状況がつかめな―― 亀居城 ――て、ああぁあああ～っ！？ 驚きの声と共に亀居城が指差す先に、 巨大なる異形の姿があった。 福島正則 アノ馬鹿……勝手ニ敵ノ所ニ突ッ込ミヤガッテ……。 俺様ノ計画ガ台無シジャネエカ……ッ！

薄れゆく魂の刻印 -結-

再び姿を現した巨大兜・福島正則。
激越たる怒号と共に破壊の暴威が迫り来る。
此処ぞ終局。全身全霊を以て敵を討つべし！

前半
福島正則 アノ馬鹿……勝手ニ敵ノ所ニ突ッ込ミヤガッテ……。 俺様ノ計画ガ台無シジャネエカ……ッ！ 亀居城 うわっ、わわっ、はわわわわっ！！ ど、どうしよう……あのデカブツ……また、あたしを狙ってるノシ～！ 福島正則 デカ、ブツ……？ 福島正則 亀居城……マサカ、テメェ……俺様ガ分カラネェノカ……？ 亀居城 わ、分かるよ！　この場所を奪いに来た悪い兜の親玉ノシ！ 福島正則 …………クソ……最悪ナ展開ダゼ……マッタク……。 桜尾城 ふふ、残念だったな巨大兜。 福島正則 ……テメェ。 桜尾城 我が朋友、亀居城殿の御心は、しかと在るべき場所に還してもらったぞ！ 福島正則 マサカ……アノ状態カラ、正気ヲ取リ戻サセルトハナ……。 福島正則 ッタクヨォ……有リ得ネェコト、ヤッテクレンジャネエカァアアアアアア――ッ！！ やくも だにぃっ！？　明らかに怒ってるがや……！ 千狐 それだけじゃないわ！ 千狐 前に戦った時よりも、ずっと力が増大している……！ やはり、今回こそが本気の戦いと決めて攻めてきたみたいね。 亀居城 ……み、みんな！　 ノシノシしてないで、すぐに逃げるノシ！ 亀居城 あいつに近づかれたら誰も勝てっこないノシ！ 亀居城 あたしは一度戦ったことがあるノシ！ 何とか時間を稼ぐから、その隙にみんな―― 亀居城 ――くっ、うぅぁ……あ、れ？ 何で、あたしの身体……こんな、怪我してるノシ？ 桜尾城 無理をなさらぬように、亀居城殿。 桜尾城 貴方は先ほどまで兜に心身を操られ、 殿と戦っていたのですから……！ 亀居城 あ、あたしが兜に……操られていた……？ 亀居城 ていうか、殿って誰？ 殿 …………。 亀居城 むむむぅ……？ 殿 …………。 亀居城 殿は、あたしの……味方なのぉ？ 殿 …………。 殿 …………ノシ。 亀居城 …………っ！？ 亀居城 わかったノシ！ 殿のこと、信じるノシ～♪ 桜尾城 さあ、亀居城殿は戦える身体ではありません！ 私と共に安全な場所へ避難を！ 亀居城 分かったノシ！ 後のことは殿に任せるノシ～！ 福島正則 ……亀居城。 福島正則 ッタク……是デ、戦ウ意思モ力モネぇヤツハ消エタ様ダナ……。 福島正則 オラァッ！　お前ラ、コッカラガ正念場ダァッ！ 全員、気合イ入レ直シヤガレェエエエッ！！ 突撃式トッパイ形兜 大将……何時デモ、行ケマスゼ……。 砲撃式トッパイ形兜 コノ一撃ハ……絶対ニ外シャシネエ……！ 一ノ谷形兜 ブ、シュゥゥゥゥゥウウウウウウ……！ 福島正則 アア、ソウダ！　殺ル事ハ何時モト何モ変ワラネェ……。　 福島正則 只管前ニ進メッ！　 一瞬デモ振リ返ッタ奴ァ殺ス！　怯ンダ奴モ殺ス！ 眼前ノ敵ダケヲ見ロッ！　シャオラァッ、全軍突貫開始ダァァァアアア――ッ！！ やくも 殿さん！　兜さんら一斉に攻め込んで来ただに！ 千狐 あの巨大兜を絶対に近づけさせてはなりませんわ！ 殿、亀居城さんたちの為にもここで決着をつけましょう！
後半
福島正則 ――バ、馬鹿ナ……ハァ、ハァ……グッ……ク、ソ……何テ、奴ラダ……、 俺様ノ……本気ノ進撃ヲ、凌ギ切ルトハ…………ア、有リ得ネぇ……。 殿 …………。 桜尾城 ……殿、この異形に止めを刺すは今です。 桜尾城 今こそ貴公の一撃で以て、この悲劇に幕を下ろしましょう。 殿 …………！ 福島正則 ――ッ！？ 亀居城 ……ま、待つノシ。 千狐 亀居城さん……？ やくも ……何で、巨大兜の前に亀居城が立ってるがや？ 桜尾城 な、何をしているのですか、亀居城殿！？ 桜尾城 まさか、未だ操られているとでも言うのですか……？ 亀居城 ううん……あたしは、ちゃんとしてるよ。 亀居城 桜尾城ちゃんの名前も、しっかり口にできるノシ……。 桜尾城 それでは何故……？ 桜尾城 何故、兜を庇うような真似を！？ 亀居城 わからない……。 亀居城 ……このデカブツは、本当の正則ちゃんじゃないの、あたし……分かってるのに……。 福島正則 亀居城……テメェ……。 亀居城 …………ノシ。 福島正則 …………。 福島正則 ……ノ……キ…… 亀居城 ……え？ 福島正則 コノ……クソ餓鬼……ガ……。 福島正則 ……漢ノ喧嘩ニ、女ガ割ッテ入ッテ……邪魔シテンジャネぇエエエ――ッ！！ 亀居城 ――きゃぁっ！？ 福島正則 俺様ニ……コノ俺様ニ……情ケヲ……掛ケヤガッタナ……！ 福島正則 許サネェ……コノ恥辱……必ズヤ雪イデミセル……。 福島正則 亀居城……今度、俺様ノ視界ニ入ッタラ……問答無用デ、ブチ壊シテヤルヨ……。 亀居城 …………。 亀居城 ……うん。 亀居城 今度会う時は、あたしだって……情けをかけてなんかあげないノシ！ 福島正則 …………。 福島正則 ……オラぁ、何ボサットシテル！　全軍撤退ダ！ 千狐 …………。 千狐 ……兜が、撤退していきますわ。 やくも 見逃してええんかや？ 桜尾城 尻払の様子からして、今からの無理な追撃は被害を増やすだけです。 これ以上は無用の力みというものでしょう。 やくも それもそうやね……。 亀居城 ……あ、あの。 桜尾城 ……ん？　どうしました？ 亀居城 ごめんなさいノシ……。 亀居城 あたしのせいで……兜を、逃がす結果になって……。 桜尾城 …………。 桜尾城 …………ふ。 桜尾城 何を言うのです、亀居城殿。 これで兜との貸し借りの清算が出来たと思えば安きものにございましょう。 亀居城 ……え？ 桜尾城 本当ならば、亀居城殿はあの巨大兜に命を奪われていたはずです。 桜尾城 しかし、何の気まぐれかヤツはそうしなかった……。 桜尾城 そう、これは……情けに始まった奇事なのです。 ならばその幕もまた、情けによって降ろされるのが道理と言えませんかな？ 亀居城 桜尾城ちゃん……。 桜尾城 とはいえ、ヤツが亀居城殿の心身を弄んだのもまた事実。 桜尾城 次にヤツと遭った時こそは、 この桜尾城、容赦はしない……。 亀居城 ……うん。 亀居城 あたしだって、絶対にぜ～ったいに容赦しないノシ！ 桜尾城 ……と息巻いてみましたが、今の我らは満身創痍。 とりあえずは身体を休めることが先決でしょうな。 千狐 でしたら、我々の所領にて怪我を癒やされては如何でしょうか？ 亀居城 ……殿の所領！？ 亀居城 なにそれ～！？　とっても魅力的な響きノシ♪ 亀居城 是非とも連れて行ってほしいノシ～♪ やくも どんな場所かも聞いとらんのに即決がや……！？ 亀居城 だってぇ、あたしを助けてくれた殿の所領なんでしょ～？ 亀居城 なら悪い場所なはずないノシ～！ 早く行きたいノシ～♪ 桜尾城 ふっ……すっかり懐かれてしまったようですね、殿。 桜尾城 といっても、この私も殿を慕う城娘のひとり。 共に所領へと向かい、互いに傷を癒やすといたしましょう。 亀居城 それじゃあ、みんなで仲良くノシノシ帰るノシ～♪ やくも って、どこ行くだに、亀居城！ 千狐の転移術が…… やくも って、聞いてないがや。 桜尾城 周囲に囚われない奔放さ……さすがは亀居城殿ですね。 千狐 あの……見えなくなるくらいに、 どんどん先に進んで行ってしまってますが……？ 桜尾城 ご安心を、私が責任をもって連れ戻してきます。 桜尾城 ……っと、その前に、殿。 桜尾城 此度の貴公の助力に改めて礼を言わせて頂きたい。 桜尾城 貴公を頼ってよかった……心から、そう口にできます。 桜尾城 この恩は、我が生涯をかけて必ずや返す所存……。 殿 …………！ 桜尾城 はい。それでは私は亀居城殿を捕獲してきます！ やくも 捕獲って……。 千狐 何はともあれ、色々とありましたが、 殿、亀居城さんを無事に救出できて本当によかったですね。 千狐 では、お二人が戻り次第 所領へと帰還し、戦いの傷を癒やすとしましょう。

薄れゆく魂の刻印 -絶-

――兜と共に過ごした記憶。
脳裏に残る思い出の地に足を運んだ亀居城は、
其処で己の心を決しようと試みるのだが……。

前半
――数日後。 申の刻、安芸国某所。 亀居城 ノシノシ～♪ 亀居城 今日はあたしの大切な場所の修復を手伝ってくれてありがとうノシ！ 亀居城 おかげで、すっごく綺麗になったノシ～♪ 千狐 お役に立てたようで何よりですわ。 やくも けど、こうして兜に襲撃された地の 修復作業をしてみて改めて思うだに……。 やくも 殿さんは此の地でもの凄い戦いしてたんやね……。 とてもじゃないけど、一日だけじゃ元には戻せそうにないだに。 桜尾城 なに、焦ることは何もないのですよ、子猫ちゃん。 やくも ――ぴゃぅっ！？ やくも な、何で肩を抱き寄せるがや……？ 桜尾城 おっと、やくも殿の愛らしさに我知らず手が伸びてしまったようです。 やくも ……意味がよく分からんだに。 やくも そげなことより、お腹すいたがや！ やくも そろそろ片付けして、今日のところは所領に戻るだに。 亀居城 あたしもお腹すいたノシ～！ 今日はいっぱいいっぱい食べちゃうよ～♪ 桜尾城 ふふ……それでは、やくも殿と亀居城殿が無邪気に食べる様を肴に、 私と殿は晩酌といきましょうか。 殿 …………。 殿 …………！ 千狐 と、殿……？ 桜尾城 安心して頂きたい、千狐殿。 桜尾城 勿論、貴方の上品さもしかと試食……いやさ視食させて頂く所存。 千狐 は、はい……？ 桜尾城 あぁ、後はそこに我が親愛なる吉田郡山城殿が加われば、 今宵の所領は違え様なき天上の理想郷と化すのに……。 千狐 …………。 やくも …………。 亀居城 あはは、相変わらずだねぇ～、桜尾城ちゃんは。 亀居城 殿は知らないかもしれないけど、 桜尾城ちゃんはね、吉田郡山城ちゃんっていう城娘のことが大好きノシ。 亀居城 ただね、二人が揃うと、 あたしにヘンなことしてくることが多いから、 あんまり一緒にさせない方がいいと思ってるノシ！ 千狐 そ、そうなのですね……。 やくも なあ、そげなことより、はやー所領に戻ろうやぁ……。 桜尾城 申し訳ない、やくも殿。 無駄話によって随分と待たせてしまいましたね。 桜尾城 お詫びといっては何ですが、夕餉は私がお作りいたしましょう。 亀居城 はいは～い！　あたしもお手伝いするノシ～♪ やくも おお～！　二人の手料理かや～♪ 楽しみだに！　そうと決まれば一刻も早く帰るにぃ！ 千狐 それでは殿、所領へと戻りましょうか。 そうして、所領へと戻る殿一行。 ――翌日、戌の刻、安芸国某所。 亀居城 …………ノシ。 亀居城 ダメだって分かってるのに、ひとりで此処に来てしまったノシ……。 亀居城 …………此処が。 亀居城 あたしが兜たちと、共に過ごした場所……か。 亀居城 …………。 亀居城 ……お父様。 亀居城 ううん……ちがう。 あれは兜。正則ちゃんじゃない……。 亀居城 今日は、しっかりとあの時の自分と決別する為に此処に来たんだもん！ 亀居城 よーし……。 亀居城 す～は～、す～は～……。 亀居城 ……兜は敵ノシ～っ！！ 亀居城 …………。 亀居城 ノシノシ～～～っ！！ 亀居城 …………。 亀居城 これで良し……ノシ♪ ？？？ ……敵……敵……。 亀居城 ……え？ 兜 ――ガサッ！ 亀居城 か、かか、兜ノシっ！？ まだこの場所にいたんだ……！ 兜軍団 ……敵……敵……否……同胞……。 亀居城 ど、どうしよう……囲まれちゃったノシ……。 兜軍団 ……同胞ニテ……想起セヨ……我ガ―― 桜尾城 ――待て、兜共よっ！！ 兜軍団 何奴……？ 亀居城 ――桜尾城ちゃんっ！？ 亀居城 どうしてここに……？ 桜尾城 昼間に貴方が所領からこっそり抜け出していく姿を眼にしましてね、 こうして後を追ってきたというわけですよ。 亀居城 見られてたんだぁ……ちょっと恥ずかしいノシ……。 桜尾城 それよりも、このままでは不味いですね。 兜の数が多すぎる……。 桜尾城 殿たちも今こちらに向かっていますが、 果たしてそれまで持ちこたえられるか……。 兜軍団 ……瘴気……展開……。 桜尾城 ――くっ！ この重厚なる気は……！？ 桜尾城 そうか、これこそが亀居城殿の心を捕らえた瘴気というわけか……！ 桜尾城 しかし我が根源たる桜尾城の神聖を、 これしきの邪で侵すことができると思うてか！ ――その時だった。 桜尾城の意識外から、思わぬ一撃が打ち込まれた。 桜尾城 ――っ！？ か、亀居城……どの……？ 亀居城 ……う、そ……なに、これ……？ 亀居城 ち、ちがうの、桜尾城ちゃん……ア、あたし…… こんなコと……すルつもり、じゃ……。 桜尾城 ば、馬鹿な……亀居城殿も、 我が……聖なる霊気の傍に在れば……、 この程度の微量の瘴気に心が屈するはずは……ないと、いうのに……！？ 亀居城 どうしよウ……カラダ……勝手ニ……うぅぅっ……、 怖イ……怖いヨぉ、桜尾城ちゃん……。 桜尾城 ……か、亀居城殿ぉ……。 桜尾城 やはり……千狐殿が言っていたことは真実であったか……。 桜尾城 瘴気が抜けきるまでは、所領の清浄なる気を浴びて養生せよ……。 桜尾城 ……亀居城殿の中の、 わずかな瘴気の残滓が、呼応したというわけか……。 兜軍団 亀居城……亀居城……。 亀居城 ……兜……クン？ 亀居城 みんな……コノお兄さんを、どうスルの……？ 兜軍団 ……其ノ心ヲ……捕ラエル……。 桜尾城 ……無念。 桜尾城 だが、殿ならば……必ずや、我らを……くっ、うぅぅ……。 苦しげな桜尾城の声音は、 密集し始めた不穏な瘴気の中に掻き消えていった……。 ――数刻後、安芸国某所。 やくも 何処にもいないだに！ 桜尾城も亀居城も、どこ探しても見つからないがや！ 千狐 何としても早く見つけ出さないと……嫌な予感がするわ。 殿 …………。 千狐 殿、どうされましたか？ 千狐 ――っ！？ 桜尾城 …………殿。 亀居城 ……ノシノシ♪ 千狐 桜尾城さん！　亀居城さん！ 千狐 良かった、二人ともご無事だったのですね。 やくも 亀居城、勝手に所領を抜け出したりしたら危ないだに。 やくも さあ、一緒に所領に帰ろ―― 亀居城 隙アリ、ノシ～♪ やくも ――だにっ！？ やくも 何するがや！？ 急に槍なんか突きだして、うちが避けてなかったら即死だったに！ 桜尾城 今ノを避けルとは……！？ 亀居城 モウ、今ノで確実に仕留めタと思ったのニ～。 千狐 ……ど、どういうこと？ 千狐 まさか――っ！？ 兜 ――ザザッ。 兜軍団 ザザッ、ザザザッ！！ 千狐 やはり……兜らの瘴気に……。 桜尾城 泣くのハよしテおくレ、可愛い子猫チャン。 桜尾城 愛らしいキミには、いつダッテ笑顔が似合うのダカラ……フフ。 桜尾城 サア笑っテおくれ……。 私ノ矢で、ソノ可憐さを永遠のモノにしテあげヨウ……。 やくも 桜尾城までおかしくなってるだに！ 亀居城 待っててネ、お父様……！ 亀居城 今コソ腹黒殿をブチュって突き刺しテ、 首級を手土産ニ、会いに行くノシ～♪ 千狐 殿……これ以上、彼女たちの真意に反する蛮行を見過ごしてはなりませんわ！ 千狐 どうかそのお力で、彼女たちの心を解放してください！
後半
亀居城 ――くぅ……うぅ、痛いよぉ……ほんとうに、痛い……の……。 ……も、もう……こんなの、嫌だよぉ……。 兜 ……戦エ、亀居城……。 兜軍団 ……負ケルナ……亀居城……。 亀居城 違う……。 亀居城 そうじゃ、ない……是は、躯の痛みじゃ……ないノシ。 兜軍団 ……何、ダト？ 亀居城 痛いのは……。 亀居城 痛いのは……魂の方なんだぁ！ 兜軍団 ――グァアアアアアッ！！ 兜 何故……武器ヲ、向ケル……亀居城……。 亀居城 はぁ……はぁ……もう、好きにはさせない……。 亀居城 あたしの石垣には……正則ちゃんの、刻印があるノシ……。 亀居城 ……それは、あたしがあたしである証……。 亀居城 それを、誰にも穢させやしない！ 亀居城 もう誰にも……あたしの魂を……穢させやしないノシ！ 兜 ……バ、馬鹿ナ……ッ！？ 兜 ……撤退セヨッ！　全軍、撤退セヨォォッ！ 桜尾城 ……何処に、 逃げようと言うんだい、子猫ちゃん？ 兜 ――ヒィッ！？ 桜尾城 ……ほう、こいつは興味深い。 兜でも恐怖するのだな……。 兜 ヤ……メ……ッ……。 桜尾城 下衆が……我が魂に泥をつけたこと、あの世で後悔するがいい！ 兜 ――ギャァアァァアアアアアアア！！ 千狐 …………。 千狐 二人とも……元に戻ったのでしょうか？ やくも にしては、桜尾城が物騒すぎるだに……。 桜尾城 安心してください、皆さん。 桜尾城 この桜尾城、殿のおかげで無事に――、 桜尾城 ――く、つぅぅっ…………。 桜尾城 はは……少々、身に傷を負いすぎたようですね。 やくも しっかりするだに！　うちが肩を貸すだに！ 千狐 ……か、亀居城さんは！？ 亀居城 …………。 殿 …………。 亀居城 ごめんね、殿。 ひとりで勝手に行動して……また、操られて……。 亀居城 ……でもね……ようやく思い出したの……。 亀居城 あたしの心魂は、しっかりとこの身に宿ってるということを……。 亀居城 だからね……もう、迷ったりしない……。 亀居城 もう、惑わされたりも……しない……！ 亀居城 それを……殿に伝えたかったの……。 亀居城 だから……だからぁ……ぐすっ……。 亀居城 これからも……殿と一緒に……いさせてほしいノシ……。 殿 …………。 殿 …………！ 桜尾城 ……良かったですね、亀居城殿。 亀居城 うん……良かったノシ……。 亀居城 本当に、よかったよぉ……うぇ～～～～んっ！ こうして、一人として欠けることなく、 殿たちは所領へと帰還するのだった。 ――丑の刻、所領。 既に所領の者達は皆、深き眠りについていた。 殿と、ひとりの城娘を除いて――。 亀居城 ノシノシ～。 亀居城 ノシノシノシノシ～♪ この調子なら寝ている殿に気づかれずに近づけるよぉ～。 亀居城 ――ノシ！？ 亀居城 な、何でこんな時間まで殿が起きてるノシ！？ 亀居城 はっ！？　もしかして、殿……なにかしてたノシ？ 亀居城 あの……えっと……邪魔しちゃってごめんなさいぃ。 亀居城 ……え？ 亀居城 なにもしてない？ 亀居城 目が冴えちゃって眠れなかっただけ……？ 亀居城 な～んだぁ♪ あたしと同じだったんだねぇ！ 亀居城 ……ノシ！？ だからって部屋に忍び込むのはおかしい？ 亀居城 はぅ……ご、ごめんなさいぃ……。 亀居城 でも、寂しかったのぉ……。 亀居城 せっかく所領に来たのに、 ひとりだけの部屋で寝るのは寂しいノシ。 亀居城 ……え？　まだ瘴気が完全に抜けきってないから、 みんなとは別の部屋にしてる……？ 亀居城 それは知ってるけど……でもぉ……。 亀居城 ……ふぇ？ 亀居城 寂しいなら、此処にいろ……？ 亀居城 うん！　うんうん！ それじゃあ、お言葉に甘えて殿のそばにいるねぇ～♪ 亀居城 ……ノシ。 亀居城 ……ノシノシ♪ 亀居城 えへへ、どうしよう。 殿と一緒にいると嬉しくてもっと目が冴えてきちゃったよぉ～！ 亀居城 ……そうだ！ 亀居城 ねえ、殿！ 亀居城 眠くなるまで亀さんごっこしようよぉ♪ 亀居城 ――ノシ！？ 知らないの、殿？ 亀居城 ほら、こうやって……。 亀居城 ノシノシ～って、ゆっくりと亀さんみたいに動くのぉ～。 亀居城 こうやって……ノシ、ノシ、ノシ……。 亀居城 …………ノシ。 亀居城 ……あ。 亀居城 何か今、少し眠くなってきたノシ……。 亀居城 どうしよう、殿……？ 亀居城 このままじゃ、あたし寝ちゃうノシ！ 亀居城 って、別に寝ちゃいけないわけじゃなかったノシ！ 亀居城 それじゃあ、殿。 あたし、もう寝るよぉ～。 亀居城 うん！　殿もあんまり夜更かしして 亀さんごっこばかりしてちゃだめなんだからねぇ？ 亀居城 それじゃあ、おやすみなさいノシ～♪

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