ストーリーテキスト/絢爛晶と導かれし城娘5

ページ名:ストーリーテキスト/絢爛晶と導かれし城娘5

目次

絢爛晶と導かれし城娘5[]

序幕[]

――所領。
うららかな日差しの照った、ある昼下がり。

やくも
うと、うと……むにゃ。
でへへ、もう食べられないだにぃ……♪

殿
…………。(スヤァ……)

千狐
お待たせなのっ、お茶とお菓子が準備できましたよ~♪
って二人とも寝てるの……。

一行は、穏やかで何事もない日々を享受していた――はずだった。

???
お――い! たのも――っ!!
誰ぞあるかーっ!!!

千狐
こんっ、この声は……?

やくも
むにゃむにゃ……もう一個だけ……ふひひ……!

殿
…………!(がばっ)

千狐
あ、おはようございます殿。
ちょうどお茶とお菓子が入りましたなの!

殿
…………?(ごくごく……もぐもぐ……)

殿
…………!(しゃきーん!)

千狐
あと今し方、何やら来客の声が――

(がたがたっ、ばたーん!)

駿府城
おお~、おぬしらここにおったか!
ようやく見つけたぞ、はっはっは!

殿
…………!

千狐
あなたは……駿府城さん?
というか、そのお姿は……!

駿府城
うむ、話が早いな千狐よ。
この姿こそ、我がこの地へ馳せ参じた事由に他ならぬ。

駿府城
つまるところ、
ぬしらは散々目にしてきたであろう――地気の乱れの産物よ。

殿
…………っ!

駿府城
日の本の各地で再び『力の吹き溜まり』が生じておるのじゃ。
先日から、我らが東海をはじめ、
北陸にも大きな乱れが生じていてな……ふう。

駿府城
斯様な地気の噴出、地に満る力の吹き溜まり……。
例によって、放っておくわけにはいかぬ。
誰ぞ、悪意を以て利用しようと企む輩がおらぬとも限らぬでな!

駿府城
ぬ、茶と菓子じゃと……我が貰っても良いのか、千狐?
かたじけない! なにぶん急いで参ったゆえ、一息つく暇もなかったわ!

駿府城
おおぉ、甘味が五臓六腑に染み渡る……!
心なしか更なる力も漲るかの如く……いや、待て……?

殿
…………?

駿府城
この感覚……我が駿河で感じたものと同じ……?
いや、それ以上の――

(どどどどっ……!)

千狐
ま、また誰か来たなのっ!

(がたがたっ、ばた――ん!)

柳川城
と、とととと殿――っ!?
こ、この姿は一体……私、どうしてしまったのでしょうかっ!?

殿
…………っ!?

駿府城
柳川城までもが……? これは……!

(どどどどどっ……!)

千狐
じゃ、じゃあこの足音は……。

(がたがたっ、ばた――ん!)

立花山城
ちょっと、今身体が光ったと思ったらこれって……!
何がどうなってるの!?

殿
…………!?!?

駿府城
やはりそういうことか。
今まさに、此地でも地気が吹きあがっておるという訳じゃな……。

駿府城
(それも、とてつもない規模で……!)

――――

駿府城
ずず……ふう。
して、状況は飲み込めたか? 柳川城、立花山城。

柳川城
は、はい、なんとか……それにしても、地気の乱れ。
これまでも各地で鎮めてはきましたが――

立花山城
こうして我が身に変化が起こるなんて、
なんだか奇妙な感じね……体中がむずむずするわ。

駿府城
(ふむ……)

駿府城
まあ無理もなかろう!
我もこの装いへ変じてしばらくは、矢鱈に目が冴えて
夜も眠れなんだからな! ははは!

柳川城
そ、そんな症状が……。

駿府城
何、心配はいらぬ。身の内より湧き出る力を
御するのに慣れておらぬだけのこと。

駿府城
然らば、殿よ!
二人の為にも疾く、地気の乱れを鎮めにいくべきではないか?

殿
…………!

立花山城
確かに、演舞を通して力を使いこなせるようになれば一石二鳥ね。
身体の火照りも取れるはずだし……。

殿
…………?

立花山城
べ、別に大丈夫よ!
むしろ身体が熱くなるくらい、調子が良いってこと!

立花山城
(それに、演舞で力を使い果たせば……。
 さっきから殿を見る度に騒ぐ、
 この胸の高鳴りもきっと落ち着くはずだわ……!)

柳川城
(や、やっぱり、
 立花山城さんも私と同じ感覚なのでしょうかっ……!)

駿府城
よし、決まりじゃな。
となれば善は急げじゃ、一旦此の地の乱れを鎮めた後、
日の本中を巡りに参ろうぞ!

柳川城
いったん、ですか……?

駿府城
ふふ、まあやってみれば判るじゃろうて。
なあに、本当に一度で済んでしまえば万々歳じゃからの!

殿
…………!

千狐
はい、それでは出立の準備と参りましょう!
ほら、いい加減やくもも起きるのよっ!

やくも
うにゃっ……なんやね千狐、騒がしい……!
……あ、そういえばお茶とお菓子はどうしたがや?

千狐
いつまで寝ぼけてるの!
しゃきっとしなさい、地気の乱れを鎮めにいくわよ!

やくも
え、ちょ待……うちのお茶は!?
お茶菓子は、どうなっただに~~!?

天を舞うは決意の白翼 -壱-

地気の乱れを鎮めるべく、所領を後にした一行。ちょうど
その頃付近の神社では、名島城、福岡城、肥前名護屋城
が、所領へ立ち寄る前に祈願に立ち寄っていたのだった。

前半

――所領付近、とある神社の境内。

福岡城
くあぁ……ぞんたくぞんたく……良い日和だね~……。

名島城
ええっと、海が平和でありますようにっと……それからそれから……。

福岡城
名島城ちゃん、いっぱいお願いしてるな~。
ねえねえ、肥前名護屋城ちゃんは神さまに何をお願いしたの?

肥前名護屋城
そ……そんなのとーぜんっ!
今年こそは大坂城に負けない、日の本イチ輝く
トップオブトップアイドルになることに決まってるじゃない!

福岡城
おぉ~! 野心に燃えてる~♪

福岡城
道中も暇さえあれば作曲してたもんね~。
ふっく~も、新曲楽しみにしてるよ~!

肥前名護屋城
ふふん、期待してなさい♪
バッチバチに尖った流行先取りのゴールデンソングで
日の本中を熱狂させてやるんだから!

福岡城
がんばれ、がんばれ~♪

名島城
――二人とも、待たせちゃってごめんねー!
それじゃ、殿ちゃんの所領に挨拶に行こっか!

肥前名護屋城
ずいぶんと長かったじゃない、名島城。
そんなにたくさん願っちゃったら、神様も困っちゃわない?

名島城
実は、お願い事はそんなにしてなくて……えへへ。
一番大切なことを、じっくりとご報告していただけなんだ。

肥前名護屋城
え、なになに一番大切なことって。
気になるじゃない!

名島城
ふふ、ちょっと気恥ずかしいんだけどね?
こうやって、城娘として三人で旅行できるのが幸せだなって思って。

名島城
仲良くみんなで一緒にいられる日々が、ずっと続きますようにって、
感謝とお祈りしてたら……ついつい長引いちゃった!

福岡城
わぁ~、じゃあふっく~と一緒だね~!
二人でお願いしたんだし、きっと叶うよ~♪

肥前名護屋城
あ……ああ、あたしだって同じよ!
だからお願いしたのは三人よ、三人!

福岡城
あれれ?
肥前名護屋城ちゃんは、さっきトップアイドルになることって――

肥前名護屋城
それはそれ!
あたしも……二人と一緒に旅ができてとっても楽しかったし。
だから、こんな日がずっと続いてほしいって思ったのは本当!

肥前名護屋城
それに、
マイペースな福岡城と案外しっかり者な名島城コンビのおかげで、
道中は曲のインスピレーションも湧きまくりだったしね♪

名島城
あははっ。
案外、肥前名護屋城ちゃんが一番お願いしていたのかも?

福岡城
へへへ~、欲張りさんだ~♪

肥前名護屋城
そうよ♪
あたしは欲しいものは何でも手に入れたい女なの!

肥前名護屋城
たとえ神様の力を借りなくたって、
あたしの輝きでぜーんぶ掴み取ってみせるんだから♪

名島城
肥前名護屋城ちゃんのそういうところ、とっても心強いな。
ねっ、福岡城ちゃん!

福岡城
うん♪
これならみんなの祈願成就、間違いなしだよ!

肥前名護屋城
なんか、アイドル以外の部分で褒められるのって
ヘンにくすぐったいわね……!

――――

柳川城
あそこにいるのは……名島城さん!
それに、以前も鎮めにご協力いただいたことのある、
福岡城さんたちも!

殿
…………!

駿府城
これは僥倖じゃの。
事情を話し、共に鎮めを為してもらうとしようか。

柳川城
はいっ。
まずは社に所縁の深い私が……演舞の先陣を切らせていただきます!

合戦中

名島城
わわっ、柳川城ちゃんに……立花山城ちゃん!?
まさかここで逢えるなんて……!

立花山城
名島城……そう、あなたも来ていたのね。

福岡城
お~? これも神様のお導きだね~!

肥前名護屋城
ゲリラライブなんて久しぶりね!
サイッコーにテンション上がっちゃった♪

柳川城
みなさん、ご協力ありがとうございました!
これで地気の乱れは……――

駿府城
むむぅ……やはり一筋縄ではいかぬようじゃの。

殿
…………?

後半

立花山城
怪訝そうな顔ね、駿府城。
私の感覚ではここの乱れは鎮まっているようだけど……。

駿府城
ああ、力の吹き溜まりを解消できたことは間違いなかろう。
……『今、地表に出てきている分』に関しては、な。

殿
…………!

柳川城
つまり、此の地にはまだ地気の乱れが生じうると……?

駿府城
先だって柳川城と立花山城の装いが変わった時分、
我が感じた乱れの大きさはこんなものではなかった……。

駿府城
おそらく、未だ我らには手出しできないところに、
地気の乱れは眠っておるのじゃろう……。
さながら、噴火を待つ火山のようにの。

柳川城
なるほど……だから先程も、『一旦』と仰っていたのですね。

駿府城
じゃが、ここで一度鎮められたのは大きいぞ。
地縁の深い柳川城の力が、良く働いた結果じゃの♪

柳川城
それでも……このまま此の地を去るのはやはり不安が……。

駿府城
そう心配せずともよいじゃろう。
駿府も同様に、一度我らの手で鎮めた後は安定しておるからのう。

名島城
あ、だったら……みんなが帰ってくるまで、
此の地は私が見張っておくよ!

福岡城
名島城ちゃん……?

名島城
ごめんね、福岡城ちゃん。
私……しばらくここに残ることにするよ。

殿
…………?

名島城
うん、平気だよ殿ちゃん。
ちょうど所領に挨拶に行くところだったしさ!

名島城
何より、せっかくこうして出会えたんだもん。
私は、出城として……立花山城ちゃんのお役に立ちたいんだ♪

殿
…………!

立花山城
ありがとう……恩に着るわ、名島城。
このお礼、いつか必ず果たすから。

名島城
えへへ、どういたしまして♪
立花山城ちゃんも頑張ってきてね!

肥前名護屋城
ちょっとちょっとー!
な~に一人で気張ろうとしてるのよ、名島城!

名島城
肥前名護屋城ちゃん……勝手に決めちゃってごめん!
二人は先に行っていて大丈夫だから――

福岡城
違う違う~!
ふっく~たちも残るって言ってるんだよ~!

名島城
え、でもまだ旅程は……。

肥前名護屋城
そんなの、あんたが居なかったら楽しみも半減じゃない!
第一、真っ先にあたしらに頼らないなんて水臭いっての!

福岡城
そうだよ~!
ず~っと三人一緒って、ここの神さまにお願いしたばっかりでしょ~?

名島城
二人とも――

肥前名護屋城
ふふん、言ったでしょ?
あたしは欲しいものは全部手に入れるのよ♪
……仲間との共同作業も、ね!

名島城
そうか……そう、だよね……ありがとうっ!
肥前名護屋城ちゃん、福岡城ちゃん……みんなで一緒に、頑張ろう!

立花山城
(名島城、貴方も良い友人に囲まれているようね……。
 それが知れただけでも、私は嬉しいわ)

柳川城
……どうやら、
ここはお三方に甘えてしまっても良さそうですね、殿。

殿
…………!

駿府城
ああ!
福岡城たちの好意を無駄にせぬためにも、
さっそく次の地に参るとしよう!

地に満つるは誓いの紅華 -壱-

鬼と忍の関係について理解を深めようと、鬼ヶ城の元を
訪れた千方窟。しばし鬼談義は盛り上がるも、鬼ヶ城は
忍に対してあまり良い印象を抱いていない様子で……?

前半

――紀州南部、某所。
沿岸部の岩肌で、二人の城娘が話に華を咲かせている。

千方窟
……ふむふむ!
此の地の『鬼』の字は、『強きモノノフ』という起源だったか。

鬼ヶ城
ああ、昔からメチャクチャ強え海賊の拠点だったんだぜ。
いつの間にやら、誰が呼んだか鬼ヶ城ってな!

千方窟
やはり、強く恐れられる者には人であっても『鬼』の名が付くか。
その居城もまたしかり……うむ、興味深いぞ!

鬼ヶ城
鬼にまつわる伝承ならまだまだあるけどよ……。
しっかしまた、どういう風の吹きまわしだ?

鬼ヶ城
紙に書き記しながら話を聞かれるっつーのは、
なんだか慣れないっつーか……。

千方窟
おお、それはすまぬことをしたな……!
いやなに、我に縁深い『鬼』と『忍』の関係について、
より詳しく紐解いてみたいと思ったものでな。

千方窟
故に、こうしてその名を持つ者の元へ出向き、
色々と聞き込み学んでみようと思い立った次第なのだ!

鬼ヶ城
それで、まずは近場の俺様のとこへ来たってか。
なるほどなぁ。

千方窟
うむ!
鬼とは調べれば調べる程、まこと興味深い。
モノノフ、山伏、祖霊に地霊、神に妖怪……そして地獄の鬼!

千方窟
様々な力持つものが、『鬼』の一字で表されておる!
我も書を読むのは苦手だが、こうして話を聞く分には実に楽しい♪

鬼ヶ城
我もって、俺様が苦手とは一言も言ってねーだろがっ!
……まあ、苦手だけどよ!

千方窟
ははは! そなたとは似た者同士だと、我の勘が囁いていたからな!

鬼ヶ城
そ、そうかぁ……?

鬼ヶ城
お……だがよ、ちょっと待ってくれ。
千方窟お前、さっき『忍』にも縁があるとか言ってなかったか?

千方窟
むっ、そなた……忍に興味があるのかっ!?

鬼ヶ城
あ、いやなんつーか……。
そんなキラキラした目で見られると言いにくいんだがよぉ……。

鬼ヶ城
近くの伊賀上野城ってやつが、いかにもな忍者なんだが……。
俺様はこの忍の良さってのが、イマイチ良く分かんねえんだよな。

千方窟
ほほう……?

鬼ヶ城
やっぱ戦場では目立ってなんぼだろ?
陰でコソコソしてねえで、
鬼みてえにガーッと暴れるのが一番じゃねえか?

千方窟
ふぅむ……一家一忍の野望を目指す我としては、
影の主役たる忍の魅力、
一度はその目で確かめてもらいたいものだが……。

鬼ヶ城
(イッカイチニン……ってなんだ?)

千狐
――――こんっ!
紀州の乱れの根源へ、転移成功なのーっ♪

千方窟
ぬわわっ、ななな何奴!? 曲者ーっ!!

鬼ヶ城
あーっ、待て待て千方窟!
クナイを投げるな、そいつは敵じゃねええーっ!!

やくも
せ、千狐ぉ――っ!?

―――――

――……

千狐
て、転移したとたん、凄まじい殺気だったの……。

やくも
むはは!
あげに真っ青な顔の千狐、うちも久しく見てなかっただに!

千方窟
うう、すまぬ……我としたことが、咄嗟のことに取り乱してしまった!
間一髪、鬼ヶ城の制止が間に合ったから良いものの……。

立花山城
まあ、いきなり目の前に現れた私たちにも非があるわね。

柳川城
はい……千狐さんも無事だったことですし、
あまり気に病まないでください、千方窟さん。

駿府城
しかし、此の地でも共に演舞を納めてくれる同胞に出会えるとは、
我等は実についておるぞ。かたじけないことじゃ!

鬼ヶ城
ああ、その点に関しては任せてくれ。
俺様も思う存分、大暴れしてやっからよっ!

千方窟
おおっ、そうであった……!
これぞ棚から百鬼百忍の大好機、クヨクヨしている場合ではないな!

殿
…………?

千方窟
さあさあっ、今こそ出合え! 『忍』の元祖たる輩たちよーっ!

金鬼
(……ノッシ、ノッシ!)

風鬼
(ふわ~~、ブワ――ッ!)

水鬼
(プクプクプク……!)

隠形鬼
(……………………ッ!)

鬼ヶ城
のわああっ、いつの間に!? んだぁこいつらは!?

殿
…………!?

千方窟
ふっふっふ……忍の極意、
この機をもって、そなたたちに披露して進ぜよう!

合戦中

金鬼
(ノッシ、ノッシ……グッ!)

水鬼
(プクプクプク……プク!)

鬼ヶ城
お、鬼だか忍だかよく分かんねえけどよ!
俺様だって『鬼』の城だってこと、見せつけてやるぜっ!

立花山城
山城として、私も千方窟たちに負けていられないわね……!

駿府城
はっはっは、その意気じゃ立花山城!
演舞を通せば、その力の御し方も自ずと慣れてこよう!

千方窟
よ~し、これにて乱れとやらも平定だ!
四鬼の皆もよく働いてくれたな!

立花山城
ふう……なるほど、これがこの装いの力ってわけね。
どう? 柳川城は慣れてきたかしら?

柳川城
はい、当初よりは……!
それでもやはり、未だ自在に操るとはいきませんね。

立花山城
そうよね……大きすぎる力も、中々難しいものだわ。

後半

鬼ヶ城
なあ千方窟……。
さっき出てきた奴らはお前のいう……『忍』だったのか?

千方窟
ふふふ、そうとも!
彼の者たちこそ『忍』の元祖にして……
しかもそなたと同じ、『鬼』でもあるのだ!

鬼ヶ城
鬼……!

千方窟
彼らは私の友人の、四鬼といってな。
その起源は、異能の力を持ち藤原千方へ仕えた者たち――

千方窟
つまりは『鬼』と呼ばれる力ある者であり、
同時に忍術を使う、『忍』の祖でもあったのだ。

鬼ヶ城
鬼と忍者が同じ存在……?
うぅん、ピンとこねえけど……そういうことも、あんのか……。

千方窟
そう、不思議な交わりだ……故に、我はもっと知りたいのだ。

千方窟
鬼とは何か、忍とは何か……それが我に至るまで、
そして我の先にどう変わっていったのかを、な。

鬼ヶ城
……そうか。
俺様はショージキ、忍者なんて卑怯な
手品師くらいなもんだと思ってたがよぉ……。

鬼ヶ城
お前たちと、鬼として同じ名に連なっていると思うと……へへっ!
そいつもケッコー悪くねえ気がしてきたぜ。

千方窟
おおおっ、本当か?
我が忍の地位向上に一役買えたのであれば、この上なく嬉しいぞ!

鬼ヶ城
ああ、お前と四鬼が見せた忍術ってやつも、
俺様の暴れっぷりに負けねえくらい、中々大したもんだったしな!

鬼ヶ城
ははは!
こりゃあ、伊賀上野城の忍術も見せて貰わねえとだ!

立花山城
……此の地はもう問題なさそうね、色々と。

駿府城
ああ、地気の乱れにも残滓は見当たらぬ。
これで、紀州の吹き溜まりは鎮め終えたとみて良いじゃろう。

殿
…………♪

柳川城
そうなると、次はいよいよ……!

駿府城
うむ、では向かうとしようかの。
東海の乱れの根源、我が駿河の地へと……!

二幕[]

――駿河国某所、とある茶屋。

駿府城
ん~……美味いっ!
やはりここの茶だんごは絶品じゃのぉ~♪

殿
…………♪(もぐもぐ)

やくも
ふむっ、はむっ……!
ふぁ~まっはふはや、ふひもほーおもふはに!

千狐
ちょっとやくも、飲み込んでから話しなさいって!
お行儀悪いし、のど詰まっちゃうわよ!

やくも
はいほーふ、はいほーふはに……ングッ!?

やくも
むぐぐぐぐうっ……!??

千狐
もー言わんこっちゃないのっ! はいお茶お茶!!

立花山城
――はあ。
地気の乱れが生じてるなんて嘘みたいに思えるくらい、平和な光景ね。

柳川城
はい……ですが、
そのおかげで、こうして肩の力を抜けるのはありがたいです。

立花山城
そうね。
この装いになったら、嫌でも当事者として意識せざるをえないもの。
……束の間の休息を楽しめるのは、かけがえのないことだわ。

柳川城
うふふっ♪

立花山城
な、何よ……。

柳川城
いえ。
ただ……立花山城さんがはっきりそういうことを言うなんて、
珍しいなあって思っただけですよ。

立花山城
ふ、ふん……!
貴方こそ、私をからかうなんて度胸がついてきたじゃないの。

柳川城
そ、そうですか?
そんなつもりじゃなかったんですが……。

柳川城
……でも、確かに私たち、
この姿と一緒に、何かが変わったのかもしれませんね。

立花山城
…………貴方も、そう思う?

柳川城
はい。
身体に満ちる力に後押しされて、
心の内も外へ出しやすくなったような……そんな気がするんです。

立花山城
やっぱり、そうよね……私も同じよ。

立花山城
駿府城の言う通り、力の使い方は多少慣れてきたけど……。
こっちのほうはまだ慣れないわ。
……迂闊なことを言っちゃいそうでね。

柳川城
(わ、分かる……!)

柳川城
……頑張りましょうね、立花山城さん!

立花山城
え、今度は何……さっきから貴方、ちょっと気味が悪いわよ。

柳川城
ふふ、まだまだ乱れを鎮める道中は長いわけですし。
この装いの者同士、一蓮托生の証です♪

立花山城
で、握手ね…………まあ良いわ、乗ってあげる。

柳川城
…………!

立花山城
……その代わり、ちゃんと私の演舞に付いてきなさいよ。
もたもたしてたら、相方だろうと容赦なく置いていくんだから!

柳川城
はい、ありがとうございます……! えへへ!

立花山城
その笑い方が慣れないのよね……貴方、
地気の力の影響じゃなくて、変なモノでも食べたんじゃないの?

柳川城
あら、私そんなに笑ってますか?

立花山城
ええ、そりゃもう!
さっきからヘラヘラしっぱなしよ!

駿府城
(どうやら……二人の方は順調そうじゃな。うむうむ!)

駿府城
……さて皆の衆、英気は養えたかの?

やくも
けほけほ……英気を養うどころか、三途の川が見えただに……!

千狐
やくもは完全に自業自得なのっ!

立花山城
疲れはちゃんと取れたわ。
立花山城、いつでも行けるわよ。

柳川城
私も、問題ありません!

殿
…………!

駿府城
ようし、結構結構!
では出立いたすとしよう!

やくも
あ、最後にもう一本だけ……にひひ♪

千狐
もー懲りないんだから! ほら、急ぐわよやくも!

立花山城
あら、じゃあ私ももう一本貰おうかしら。

柳川城
で、では私も……!

千狐
ちょ、お二人まで!?

殿
…………♪(もぐもぐ)

駿府城
(さあて、あやつはしっかり留守番しとるかのう……?)

天を舞うは決意の白翼 -弐-

東海の乱れの中心地、駿府。そこでは今川館が、救援に
駆け付けた躑躅ヶ崎館の応対を行っていた。武田の
救援を喜びつつも、何かを言いよどむ今川館の本心とは。

前半

――駿河国某所、東海の地気の乱れの根源。
その城内では、今川館がとある城娘の前で固まっていた……。

今川館
あの、その……っ。
助け……来てくれて、あり……――……う……なのじゃ……!

躑躅ヶ崎館
うん?
すまぬが、もちっと大きな声で喋ってくれぬかのう?

今川館
えと……躑躅ヶ崎館ちゃん、
来てくれて、あ、ありがとう……なのじゃ!

躑躅ヶ崎館
かかかっ、労いの言葉など不要じゃ!
儂は駿府に乱れの根源在りと聞き及び、
他ならぬ晴信と義元殿の縁より馳せ参じたまで。

躑躅ヶ崎館
お主にも思うところはあろうが、後の世のことはしばし留め置かれたい。
城娘としても、斯様な不測の事態に駆け付けるは当然の義理事ゆえな。

躑躅ヶ崎館
して、乱れを鎮める演舞の段どりは如何する?
儂はいずれ、甲斐の乱れの対処に戻る必要があるが……それはそれ。

躑躅ヶ崎館
此の地は他でもない今川の所領じゃ、お主が決めると良かろう!

今川館
う、うむ……!

今川館
(ちらり)

蹴鞠の毬
(…………)

今川館
…………~っ。

――襖の向こう側。

駿府城
んん~?
何をもぞもぞやっとるんじゃ、今川館のやつ。

駿府城
せっかく武田の支援を得られたのじゃ、
ビシッとバシッと今川としての意向を伝えれば良いものを。

立花山城
とか言って、貴方も引っ込んだままじゃない。
出ていったら何か不味いの?

駿府城
いや、我が居て不都合ということはないはずなんじゃが……。

柳川城
今川館さん、何やら言いたいことがありそうなご様子ですね……。

殿
…………?

今川館
……そ、そうじゃ!
まだ茶の一つも出せておらなんだな……!
躑躅ヶ崎館ちゃん、ちょっと待っていて欲しいのじゃ!

躑躅ヶ崎館
む、気遣いなど……っと、もう居らぬか。
かかっ、見た目通りすばしこい奴だのう!

――――

今川館
……はぁ。
わらわとしたことが、つい逃げ出してしもうた。

今川館
……躑躅ヶ崎館ちゃんも忙しいじゃろうし、
やっぱり今日は演舞だけで――

駿府城
な~にやっとんじゃ今川館!
お茶くみなどらしくないではないか。

今川館
ぶわああっ! すすす駿府城!?
いつのまに帰って来とったんじゃ!?

駿府城
ははは、今さっきじゃ!
遅くなってすまなんだの!

殿
…………。

今川館
わう、殿まで……!
ううぅ、恥ずかしいところを見られてしまったのじゃ……。

立花山城
なんだか気まずそうだったけど……
躑躅ヶ崎館と、何か確執でもあるの?

今川館
そ、そんなことはない!
躑躅ヶ崎館ちゃんの方は、
義元亡き後のことでなんだか引け目を感じてるみたいじゃけど……。

今川館
わらわは過ぎた事柄よりも、
今こうして、みんなで仲良くできることが一番だと思っておる!

今川館
じゃから、城娘として一致団結できる日々は夢のようなのじゃ!
……ただ……。

柳川城
ただ……?

今川館
……わらわは、ずっとあの子と仲良くなりたかったのじゃ。
中々、城娘として出会う機会がなかった故……こう言っては何じゃが、
この救援はとっても嬉しかった……!

今川館
……でも、躑躅ヶ崎館ちゃんは『義理事』と言っておった。
甲斐における地気の対処にも、忙しそうにしておるしの。

今川館
…………わらわ、本当は蹴鞠や連歌で一緒に遊びたいのじゃ。
ずーっと前から、初めて会ったときには
遊戯と宴でもてなそうと思っておったのに……。

殿
…………!

今川館
でも、今はそれどころではないし……かといって次はいつ会えるやら。
いや、そもそもわらわに会ってくれるのか?
個人的な関係など、迷惑ではないじゃろうか……??

今川館
そう考えていると、頭が痛くなってきての……。
じゃから、その、駿府城……わらわの代わりに……――

駿府城
たわけ!(ぺちん)

今川館
はうっ……!

駿府城
躑躅ヶ崎館は他ならぬおぬしの為……義元殿と信玄公の、
義兄弟の縁で助太刀に参じておるのじゃ。

駿府城
こうしておぬしが居るにも関わらず我が出てしまっては、
武田と……何より、今川にも礼を失するのではないか?

今川館
駿府城……。

駿府城
……躑躅ヶ崎館と正面から向き合うのじゃ、今川館よ。
おぬしも、長らくそれを望んでいたはずじゃろう。

柳川城
……お気持ち、よく分かります今川館さん。

柳川城
自分の気持ちと相手の気持ちが釣り合わなかったら……、
すれ違っていたらどうしようと、つい悩んでしまいますよね。

今川館
分かってくれるか、柳川城……。

柳川城
けれど、心を抑え込んでいるだけでは前には進めません。
それに、本来実るはずの想いすら遂げられずに消えてしまう、
というのは、悲しいことですし……。

柳川城
結果はどうあれ、やはり想いは伝えるべきだと……
今の私はそう思えるんです。

立花山城
…………。

今川館
……柳川城も、そう思うか。
そうじゃな……やはりわらわも、逃げずに向き合わねばならぬよな。

今川館
現に……躑躅ヶ崎館ちゃんはこうして来てくれたのじゃから!

殿
…………!

今川館
殿まで……ふふ、ありがとうなのじゃ。

今川館
皆、すまぬがわらわの背中を見守っていてはくれぬか。
……震えていて、みっともない背姿かもしれぬがの。

――――

躑躅ヶ崎館
ん、戻ったか今川館――ぬ、おお……!
駿府城に殿までも、これはまた随分と豪華な土産じゃのう。

今川館
躑躅ヶ崎館ちゃん、その……今回の助力、とっても嬉しいのじゃ。
だから……今すぐ、一緒に演舞を行ってほしいのじゃ!

躑躅ヶ崎館
うむ、そうか!
今川の居城に受け入れて貰えるのであれば……。
武田としても、願ってもないことじゃ。

今川館
それで……実はもう一つ……頼みたいことが……。

躑躅ヶ崎館
ほう、なんじゃ? 遠慮せずに申してくれい。

今川館
(ちらっ……)

蹴鞠の毬
(…………)

柳川城
(……にこっ!)

今川館
…………っ!

今川館
あのっ……! 無事に乱れを鎮め終わった暁には、
少しばかり、わらわと一緒に蹴鞠で遊んではくれぬかの……!
も、もちろん、時間があればで良いぞっ!

躑躅ヶ崎館
なに、けまり……?

躑躅ヶ崎館
……ふっはははは!
なんだそのようなことか! 無論、喜んで誘いを受けよう!

躑躅ヶ崎館
安心せい、甲斐の地は要害山城がしっかり取り仕切っておる。
義兄弟の饗応を拒むほど、儂も急いではおらぬさ!

今川館
そうか、そうか……!
かたじけないのじゃ……!

駿府城
ふう……どうやら無事にまとまったようじゃな。
まったく、世話のかかるやつじゃわい。

立花山城
ふふっ。
とか言って、駿府城が一番心配そうにしていたじゃないの。

殿
…………!

柳川城
はい、この柳川城……今川館さんの演舞を全力で支援させていただきます!

合戦中

躑躅ヶ崎館
かかかっ!
武田が誇る騎馬隊の武勇で、地気の乱れなど踏み鎮めてくれようぞ!

今川館
わらわだって……!
海道一の弓取り、ここに在りと示してみせるのじゃ!

柳川城
手ごたえがありました……この装いの力、
使い方が分かってきた気がします……!

殿
…………!

柳川城
えへへ……ありがとうございます、殿♪

後半

今川館
そうれっ!
蹴鞠はこ~やって繋げるのじゃ~♪

躑躅ヶ崎館
ううむ、これは中々奥深い……が、儂とて負けぬぞお! そりゃ!

立花山城
これで東海の乱れは止まった……のかしら、駿府城?

駿府城
はっはっは!
なんじゃ、もう肌身で感じるまでに至ったか!

柳川城
ということは、やはりこの感覚……!

駿府城
うむ……二度の演舞を経てもまだ気配が消えぬとは。
九州の地と同様、此の地の乱れもまた根深いようじゃな。

殿
…………!

柳川城
そうですね、しばらくはこの駿府の地にとどまり、
地気の見張りと対処に専念すべきかと――

今川館
お~い、柳川城!
そっちに毬がいってしもうたゆえ、蹴り返してくれぬかー!

柳川城
あ、はい! お任せください!
せーのっ……それっ!

今川館
かたじけないのじゃー!

今川館
あと、そうそう……!
背中を押してくれたこと、本当に感謝しておるでな!
この恩は、決して忘れぬのじゃー♪

柳川城
いえいえ! 私はただ……――

柳川城
(それに、勇気をもらったのはむしろ私の方……。
 貴方の背中、とっても眩しかったですよ、今川館さん……!)

地に満つるは誓いの紅華 -弐-

越後の山道を駆ける十河城と伊賀上野城。二人は上杉
の忍として名高い、軒猿の調査に来たのだった。春日山城
不在の折、蜂ヶ峰城に聞き込みを開始する二人だが……?

前半

――越後国、某山中。

十河城
伊賀上野城ちゃん、風邪の具合は大丈夫?
もう目的の御城も近いけど……大変そうなら、少し休んどこっか?

伊賀上野城
風邪、ですか?
拙者は健康そのものでありますが……。

十河城
で、でもさっき……。
山道に人が居たら、そういう妖怪だって
勘違いされそうなくらいにはスゴいくしゃみだったよ?

伊賀上野城
あれは、不思議と鼻がムズムズしていただけで……今は平気です故。
心配をかけたのなら、申し訳ござらぬ。

伊賀上野城
(大方、鬼ヶ城殿がまた拙者に対して管を巻いていたのだろうな……)

十河城
おおう、深いため息……。!
ま、まあ大丈夫なら良かったよっ。

十河城
我ら忍城娘倶楽部西国支部、今回は期待の新規開拓だもんね!
取材班、はりきって元気にいこ~♪ にんにん♪

伊賀上野城
越後国はもう、北越支部をたてるべきなのでは……?

十河城
まあまあ、そこは下見をかねてってことで♪
それでは真相を確かめに参ろうか……『軒猿』の正体や如何に~!
……ででーん!

手持ち看板
『突撃大調査!! 幻の忍、軒猿は実在するのかっ!?』

伊賀上野城
うお……まさかわざわざ作ってきたのですか、それ。

十河城
にへへ~、雰囲気づくり雰囲気づくり~♪

――――

???
…………ニン。

――越後国某所、城内。

十河城
たのも~っ!
上杉の主城、春日山城ちゃんは居りますかな~?

伊賀上野城
失礼いたします。
我ら、此の地に伝わる軒猿という忍びについて、
話を伺いに参った次第でござる。

(しーん……)

十河城
およ、お留守かな?

伊賀上野城
まさか、誰も居ないというわけは――

???
おー………………。
お客さん………………待ってた…………。

十河城
むむ、背後から……!?
い、いつの間に……。

伊賀上野城
貴方様、城娘とお見受けいたしました。
失礼ながら……春日山城殿であられますかな?

蜂ヶ峰城
ん……………違う…………。
私…………………………蜂ヶ峰、城………………。

伊賀上野城
これは失敬……。
すると、春日山城殿は御留守ということでありましょうか。

蜂ヶ峰城
……………………………………うん。

十河城
(この子、間がチョー長い……!)

伊賀上野城
我ら、忍城娘のかくかくしかじか、こういうものでして……。
越後は上杉に伝わる、『軒猿』について調査に参った次第であります。

蜂ヶ峰城
……………………………………。

十河城
…………??

蜂ヶ峰城
……………………これ。

伊賀上野城
ははあ、お茶と……おはぎですな?

蜂ヶ峰城
………………うん。
それ……………………川渡餅…………………………。
………………どうぞ………………召し上がれ…………。

伊賀上野城
こ、これはかたじけない……有難く頂戴いたします。

十河城
(ちょ、伊賀上野城ちゃん……!
 話を聞くの、かなり大変そうな予感がビシバシするんだけど……!)

伊賀上野城
(焦らないでください、十河城殿。
 困難な状況における情報収集もまた、忍びの大切な責務……)

伊賀上野城
(それに……気づきましたか?
 蜂ヶ峰城殿が、ちょうど二人分の茶菓子をもって現れたことに)

十河城
(ハッ……確かに!
 アタシたちが来ることが、事前に分かっていたみたいだった!)

伊賀上野城
(この場には、微かですが拙者たち以外の気配も感じます。
 これは聞き込み甲斐がありそうです……!)

蜂ヶ峰城
…………………………。
……………………どう?

伊賀上野城
……ど、どうと言いますと……?

十河城
――はっ!

十河城
お茶もお菓子もとっても美味しかったよ~!
いやあ、山道の後の甘いお菓子はしみるでござるな~♪

蜂ヶ峰城
………………………………。

蜂ヶ峰城
……………………………………むふー。

伊賀上野城
(流石です、十河城殿。
 拙者、完全に空気を掴み損ねておりました……)

十河城
(喜んでくれてるみたいだし、このまま踏み込んでみよっか……!)

蜂ヶ峰城
おかわり…………………………。
あるから…………………………。

伊賀上野城
ああ、いや。
拙者どもにはお気遣いなく………ぬっ、こ、これは……!?

十河城
今食べたはずのおはぎが、いつの間にか補充されてるっ!?
忍のアタシたちですら気づかないなんて……!

蜂ヶ峰城
…………………………。
…………………………………………川渡餅。

十河城
わわ、ゴメン……!
おはぎじゃなくて川渡餅だよねー! かわたりもち!

伊賀上野城
しかし、この早業……蜂ヶ峰城殿でないのなら、
やはり『軒猿』の仕業と見えますが……そこはどうでありましょう?

蜂ヶ峰城
………………………………じー。

十河城
(ごくり……)

伊賀上野城
(ごくっ……!)

蜂ヶ峰城
………………………………。
お茶……………………………………おかわり……いる?

伊賀上野城
い、頂きます……。

十河城
(あ、諦めないで伊賀上野城ちゃ――ん!)

蜂ヶ峰城
……………………。
………………………………ん。

伊賀上野城
……どうかされましたか、蜂ヶ峰城殿?

蜂ヶ峰城
……………………来る、って。
また……………………お客様。

十河城
そ、それは一体、
どのように察知されておるのでござるか~?

伊賀上野城
(ううむ、気配はすれど姿は見えず……。
 相当な手練れと見えるな、軒猿……!)

蜂ヶ峰城
…………………………地気の、乱れ。
鎮める、ため……………………だって。

伊賀上野城
なんと、地気の乱れ……。
噂に聞く、力の吹き溜まりが此の地にも……?

十河城
地気……思い出した!
いやーな思い出も一緒についてきたけど……それは置いといて!

十河城
ってことは、ちゃっちゃと鎮めちゃった方が良いんじゃないかな?
城娘もこうして揃ってることだし、善は急げだよ!

蜂ヶ峰城
………………………………そう…………なの?

十河城
(伊賀上野城ちゃん、演舞で派手に力を使えば軒猿の姿も見えるかも!
 お客さん……多分御頭たちだろうけど、
 みんなが来てややこしくなる前に!)

伊賀上野城
(なるほど。一か八か……やってみますか)

伊賀上野城
蜂ヶ峰城殿、我ら忍も力を貸しますゆえ、
是非演舞をお願いしたいでござる。

十河城
人手が多いと助かるから、
軒猿たちにもお手伝いして貰えるかな~……なんて!

蜂ヶ峰城
む………………………………。
…………………………わかった。

十河城
(やった~♪)

一方その頃、殿一行はというと……。

やくも
もぐもぐ……ひゃああ旨いぃ!
このふき味噌、御飯をたべる手が止まらんくなるだにぃ!

千狐
やくも、そろそろ行かないとなの……!

駿府城
やれやれ。
休憩がてら飯処に寄ると、いつもこの有様じゃのう!

殿
…………♪(もっもっ)

合戦中

蜂ヶ峰城
みんな……………………。
力………………貸して………………!

伊賀上野城
城外に多数の気配を感じる……!
ついに、軒猿の姿をこの目で確かめられるのだなっ。

立花山城
北陸の乱れの根源って聞いてたけど……。
これ、もうだいぶ鎮まってる感じじゃない?

殿
…………?

駿府城
ふむ。
我らが到着する前に、誰ぞ演舞を行っていたのかの。

柳川城
春日山城さんたちが、既に対処にあたっているのかもしれませんね。
私たちも急ぎましょう、殿!

殿
…………!

後半

伊賀上野城
演舞の完了と共に、音もなく去り行くとは。
鮮やかな引き際です、これが軒猿……!

十河城
せっかくだし忍同士でお話したかったなぁ~!
ねえねえ蜂ヶ峰城ちゃん、
軒猿さんたちと、腰を据えてお話ってできないのかな?

蜂ヶ峰城
むー………………………ごめん。
だめ……………………守秘、義務………………。

伊賀上野城
上杉の忍として厳格な規律がある、ということですね。

伊賀上野城
直接お話しできないのは残念ですが……しかしその存在を確認、
実力といい、得られたものは十分に大きかったですとも。

十河城
いや~、来た甲斐があったね!
会報の一面は業界騒然、この特報に決まりだよっ! ばばば~んっ!

手持ち看板
『上杉の影、軒猿は実在したっ!
 取材班が見たその正体とは……!?』

伊賀上野城
それだと、逆に胡散臭くなってませんか……?

伊賀上野城
こほん……十河城殿の看板芸はともかくとして。
此度は大変お世話になり申した、蜂ヶ峰城殿!

蜂ヶ峰城
ううん……………………こちら、こそ。
演舞…………手伝って、くれて…………………。
ありがとう…………………………!

十河城
おあっ、そうだった!
演舞と言えば、アタシのとこは大丈夫なのかな?
四国は、うどんたちの命運や如何にっ……!?

伊賀上野城
取材も無事に完了したことですし、身共は早々に帰り支度ですな。

十河城
かくして取材班は、
シュシュっとトンボ返りで帰路に着くのであ~る!

伊賀上野城
(十河城殿の取材原稿、後でしっかり確認しておかねば……)

蜂ヶ峰城
あ…………………………。
お土産……………ある…………………!

蜂ヶ峰城
…………………………行っちゃった。

???
ニン……ここは拙者共にお任せを。

蜂ヶ峰城
送って、くれる………………?
ありがと…………………………。
ばれちゃわないように……………気を付けて、ね…………!

軒猿
はっ!
この身に懸けて、蜂ヶ峰城様の川渡餅をお届けして参るでござる。
――――散ッ!

蜂ヶ峰城
いって、らっしゃーい………………♪

その日十河城と伊賀上野城が宿に入ると、不思議なことに、
先んじて二人分の川渡餅の包みが届けられていたという――
(出典『忍倶楽部会報 春爛漫卯月号』)

天を舞うは決意の白翼 -参-

帰還した一行は、遂に所領付近の乱れの根源へと至る。
待ち受けるのは柳川城に縁深い支城の二人。柳川城は
笹原城の期待に応えるべく、満を持して演舞を試みる。

前半

笹原城
お~い、柳川城ちゃ~~~ん!

殿
…………!

柳川城
あれは笹原城さんに……雨城さんですね!

雨城
お待ちしていましたよ。
此の地の鎮めには、やはり柳川城ちゃんが相応しいですもの。

笹原城
わあ……!
なんだか柳川城ちゃん、
とっても綺麗でオトナっぽくなってる……!

柳川城
わ、私が殿に相応しい大人びた美女だなんてそんなこと……!
えへへへ……!

駿府城
そこまでは言っとらんぞ。

立花山城
そういえば……久留米城はいないのね。

雨城
久留米城ちゃんは今、助っ人を呼びに行っているんです。
……柳川城ちゃんのためにって。

笹原城
そうそう!
『柳川城ちゃんが困らないように、とっておきの
 頼れる精鋭を集めてきます! これが私の愛です!』

笹原城
って言って、飛んでいっちゃったの!
お姉ちゃん、と~っても張り切ってたんだよ?

柳川城
久留米城ちゃん……そのお気持ちだけでも、私は嬉しいです。

雨城
ふふ、柳川城ちゃんの方が先に着いてしまったのは、
誤算だったみたいですけどね。

駿府城
久留米城の助っ人とやらを待ちたいところじゃが……。
先程から膨れ上がり続けておる、
力の吹き溜まりを放置しておくわけにもいくまい。

殿
…………!

立花山城
そうね。案の定、地気の乱れは根深いみたいだし。
先に一手打っておくのが、得策じゃないかしら。

雨城
そういうことでしたら、私たちにも是非お手伝いさせてください。

雨城
一応これでも手は尽くしていたのですが、
我々だけでは現状維持が精一杯で……。

柳川城
今回の、いえ、此の地の乱れは特に大きいもののようですから。
気に病まないでください……むしろ、よくここまで抑えてくれました。

柳川城
雨城さん、笹原城さん……ありがとうございます。
私の留守を守ってくれたこと、感謝してもしきれません!

雨城
うふふ……そのお礼は、
久留米城ちゃんが帰ってくるまで取っておいてくださいな♪

柳川城
はい……そのときは、必ず!

笹原城
ねえねえ、はやく演舞しようよー!

笹原城
私、ますます綺麗になった柳川城ちゃんの演舞、はやく見たいんだー!

柳川城
へっ……?

駿府城
おう、柳川城の舞は凄いぞぉ!
もうなんというか、大人の色気がムンムンじゃ!

立花山城
あの大胆不敵にもしおらしい大人な演舞には、
私も一目置かざるをえないわね……ふふ。

柳川城
ちょ、お二人とも……!

殿
…………♪

柳川城
殿まで、うう…………!

笹原城
わぁ……柳川城ちゃん、やっぱりオトナになったんだ……!

柳川城
(ぐっ、笹原城さんの期待に満ち溢れた目を
 曇らせるわけにはいきませんっ……!)

柳川城
さすれば――――不肖柳川城、推して参りますよ!

笹原城
わぁ~!(ぱちぱちぱち)

雨城
よっ! 堅城柳川、ここにあり~♪

柳川城
それではみなさん、私に続いてください!
――――いざ、鶴翼の舞うが如く!

合戦中

柳川城
此の地の乱れは、私の手で鎮めてみせます……っ!
殿、聡明なる御下知を!

殿
…………!

柳川城
ふぅ……!
ひとまず、溢れ出た吹き溜まりは一掃できたようですね。

雨城
お疲れ様でした、柳川城ちゃん。
ふふ……流石、私たちの本城です!

笹原城
すごいすご~い! 本当に、かっこよかったよー!
これが、オトナの演舞なんだね……!

柳川城
お二人とも……こちらこそ共に演舞を執り行えて、光栄です!

後半

駿府城
残るはやはり、地気の乱れの根源……。
あと一押しといったところかのう。

殿
…………。

駿府城
うむ!
今は各々休息をとり、焦らず最後の詰めに備えるべき時じゃな!

やくも
いやあ、柳川城も立派になったもんだに!
うちも鼻が高いがや~!

千狐
なんでやくもが偉そうなのよ……!

立花山城
でも本当、頼もしくなったわ。
支城たちの前で、臆することなく……
期待を越えた演舞をやりきったんだもの。

駿府城
ああ、まさに此の地を鎮めるに相応しい城娘じゃ!
自信を持つが良い、柳川城よ。

殿
…………♪

柳川城
みなさん……ありがとうございます!
頂いた発破、とても励みになりました……!

???
――――――…………ーん!

雨城
おや、この声は……。

???
……城ちゃん!
柳川城ちゃ――――――ん!!!

笹原城
あ、久留米城お姉ちゃんが帰ってきたんだね♪

久留米城
ふう、ふう……!
柳川城ちゃんが先に到着しているのは不覚でしたがっ……!
あなたと契った久留米城……遅ればせながら、ここに推参ですっ!

殿
…………!

柳川城
久留米城ちゃん……!
お待ちしておりました!

久留米城
(幸か不幸か、まだ地気の乱れは残っている様子……!
 柳川城ちゃん、私の愛……受け取ってくださいね!)

地に満つるは誓いの紅華 -参-

帰還した一行は、遂に所領付近の乱れの根源へと至る。
雑賀城と邂逅した立花山城。憎まれ口を叩き合い
つつも、不思議と気心の知れた二人が演舞へ向かう。

前半

雑賀城
……お、噂をすればなんとやらか。

立花山城
雑賀城……へえ。
まさか、貴方がここにいるとはね。

雑賀城
不服そうな憎まれ口とは相変わらずだ……むしろ、安心したよ。

立花山城
そう言う貴方は、ずいぶん調子が良さそうね。
……お隣の子のおかげかしら?

根来城
皆様、お初にお目にかかります。
私は紀州の根来城と申す者です。

殿
…………!

根来城
雑賀城がご迷惑をおかけしたようで、すみません。
昔から輪を乱すのが得意な子でして。

雑賀城
おいおい、
しょっちゅう雑賀衆を分断していた、根来のキミがそれを言うのかい?
あれには大層手を焼いたものだけどね。

根来城
またまた人聞きの悪いことを言ってくれますね。
それだけ、信仰の力が民衆の支えになっているという証でしょうに。
むしろ喜ばしいことだと思いますけど?

根来城
第一、雑賀衆の鉄砲なんて根来衆の後追いじゃないですか。
根来の影響を受けるのは、後続集団としての宿命なのでは?

雑賀城
はは、言うじゃないか。

根来城
ふふふ、貴方こそ。

雑賀城
ははははは……!

根来城
うふふふふ……!

立花山城
なるほど、どうりで雑賀城がぴんぴんしているわけね。

柳川城
お、お二人は仲がお悪いのでしょうか……?

雑賀城
ああ悪い、悪いとも!
悪いということにしておいてくれ! このっ!

根来城
む、それはこちらの台詞です!
腐れ縁にもほどがあるんですよ、貴方は! おりゃ!

やくも
なんか、猫のじゃれ合いみたいだに……!

駿府城
(ふ……真に不仲なら、
 わざわざ二人連れでここまで来んじゃろうて)

駿府城
さて、そろそろ本題に移っても良いかの。
……地気の様子も、芳しくはないようじゃからな。

殿
…………。

雑賀城
ああ。
ボクらで抑え込んではいたが、そろそろ限界のようだ。
……実際、キミたちは良い頃合いに駆け付けてくれたよ。

立花山城
ふふ、貴方が他者の為に動くなんてね。
誰かに雇われたってわけでもないんでしょ?

雑賀城
なに、大事らしいからやむなく腰を上げただけだ。
ちょうど、他に仕事も無かったしね。

根来城
(あら、私の記憶とはだいぶ違いますけど……?)

根来城
(……まあ良いです、貸しにしてあげましょう。
 ふふふ……なれ寿司、いや、灰干し秋刀魚で手を打とうかしら?)

雑賀城
キミの方こそ、やけに丸くなったじゃないか立花山城。
正直ボクとしては、
あの頃のキミと同一人物だとは信じられないくらいさ。

立花山城
そうね……ひとが変わったように見られても、否定はできないわ。

立花山城
……気づいたから、かしら。
こうして皆の中に私が存在できているのは、奇跡みたいなものだって。

立花山城
感謝すべき、護るべき縁……寄る辺なんだってね。

柳川城
(立花山城さん……)

雑賀城
…………そうか。
いや、これは参ったな。

根来城
はい。
素直で……想いに満ちたお言葉でした。
相手によっては妙に奥手になる雑賀城にも見習ってほしいくらいです。

雑賀城
いちいち一言余計なんだ、キミは。

根来城
なーに甘っちょろいことを言ってるんですか。
今の煽り合いで立花山城さんに完敗したのは、
他ならぬ意地っ張りと素直さの欠如ゆえだというのに……!

雑賀城
な、ボクがいつ意地を張ったというんだ!
キミはともかく、殿たちに下手な意地など張ってたまるか!

根来城
呆れました、自覚無しとは……。
灰干し秋刀魚三尾で手を打つつもりでしたが、これではダメですね。
六尾に変更です。

雑賀城
さ、秋刀魚……? 待て待て、何の話だ!

立花山城
はいはい。
それじゃ、仲良し二人組にも演舞を手伝ってもらいましょうか。

雑賀城
仲良しじゃない!

根来城
仲良しじゃありません!

千狐
息ぴったりなの……!

立花山城
……殿、見ててね。
さっきの言葉が嘘じゃないってところ、貴方に証明してみせるから。

殿
…………!

立花山城
いくわよ、みんな!
――――この刻の未来は、私が護る……そして掴んで見せるわ!

合戦中

立花山城
地気の乱れ、平穏を脅かすもの。
他ならぬこの地で生ずるのなら、私が鎮めるまでよ!

殿
…………!

立花山城
ちっ、まだ残滓が……!
なかなか……簡単にはいかないみたいね。

雑賀城
そう焦らなくても良いだろう。
確実に地気は祓われているんだ……
この規模の演舞とは俄かに信じがたい程、凄まじい効率でね。

根来城
ちなみに今のは、
『あっぱれだ立花山城、ここまでの力を扱えるとは恐れ入ったよ』
くらいの意味です。

雑賀城
くっ、余計なことを言うな根来城!

柳川城
(ふふ、否定はしないんですね……)

後半

立花山城
ここでも、あと一押しが足らない……もどかしいわ、ね……!

雑賀城
ふ、安心するといい。
ボクに抜かりはないよ。

雑賀城
……キミが存分に力を発揮できるような援軍を、既に手配済みさ。
直に――

柳川城
ちょ、ちょっと待ってください。
立花山城さん、大丈夫ですか……?
変身も解けて……お顔の色まで……!

殿
…………!

立花山城
だ、大丈夫よ……気にしないで……――――

雑賀城
って、どこがだ! ふらふらじゃないか……!
さあ、ボクの肩に掴まれ。

雑賀城
……たく、無茶をするのは相変わらずだな、キミは。

立花山城
貴方は……随分と優しくなったものね。

雑賀城
そうかな……だとしたら、誰かさんとお揃いだ。
ボクとしては、大いに不服だけど。

立花山城
ふふっ……奇遇ね。
私も、よ……。

柳川城
……っ、足元から地気の奔流を感じます!
もしやこれが、立花山城さんに悪影響を……?

駿府城
(確かに地の奥底で再び力が噴出を始めておる……。
 しかし、妙じゃ……)

駿府城
(ならばなぜ……地表に力の吹き溜まりが生じない?
 あまりに、大地の動きと大気への表出が釣り合っておらぬ……!)

立花山城
はぁ、はぁ……っ……。

天を舞うは決意の白翼 -肆-

今川館が甲斐へ向かった後、入れ違うように北条の城娘
たちが救援に現れた。『今川への救援』に対し、駿府城は
今川の名代として対応するべきか否か、しばし黙考する。

前半

――駿河国某所。
躑躅ヶ崎館が甲斐へ戻ってから数日……。

未だ地気の乱れが残る駿府の地へとどまっていた一行の元へ、
新たな救援の知らせが入った。

駿府城
なんとまあ、武田の次は北条とはのう!

駿府城
今川館が残っておれば、さぞかし舞い上がったじゃろうに……。
あやつめ。

駿府城
『次はわらわが武田を助ける番なのじゃ~!』

駿府城
とか言って、意気揚々と躑躅ヶ崎館についていきよってからに!

千狐
二人とも、連歌の話題ですっかり意気投合してたの……!

立花山城
でも、北条の城娘が駆け付けるなら心強いわね。
地気の乱れを鎮めきるには、あと一押しが足りないところだったし。

駿府城
うむ、それはそうなのじゃが……。

殿
…………?

駿府城
この書状の宛名は、あくまで今川館じゃ。
小田原城もまた躑躅ヶ崎館と同じく、
此の地へ救援を送った大儀は今川との縁にあるというわけじゃな。

柳川城
しかし現在、今川館さんはご不在ですね……。

駿府城
ああ。
此度は致し方ないが、留守を預かった我が対応するほかあるまい。

駿府城
(……今川の名代としてか? いや――)

――――

小田原城
そうですか……今川館さんがいらっしゃらないのは残念ですね。

小田原城
けれど、私たちの目的に変わりはありません。
地気の乱れの根源を解消するため、北条の城娘も力を振るいましょう。

駿府城
わざわざ御足労頂いたのに、面目ない。
……それにしても、よもや五色備えまで勢ぞろいとはのう!

平井城
私たちの所領は大方、地気の吹き溜まりも片付いちゃったからね~。
ふふ、どこかの張り切り屋さんが頑張ったおかげかも?

玉縄城
えっへん!
地気の乱れ対応といえば、当事者経験済みのこのあたしっ!
一皮むけてますます頼れる五色備えの赤担当、玉縄城にお任せあれ~♪

川越城
おぉ……平井城のからかいも意に介さないなんて。
今の玉縄城は、確かに一味違うみたいね。

伊豆下田城
玉縄城ちゃんは、あの経験で本物の自信を手に入れたんだものね。
実際大活躍だったし……ほら、なでなでしてあげるからいらっしゃいな。

栗橋城
ほ、本物の自信を手に入れた同僚相手にしては、
子ども扱いが過ぎませんこと……?

駿府城
はっはっは!
実に賑やかで頼もしい限りじゃ!

やくも
う~ん、五人揃うとやっぱし華やかだにぃ!
豪華な花見団子みたいやね!

柳川城
でも、これなら根深い地気の吹き溜まりも
解決できるかもしれません……!

立花山城
ええ、三度目の正直に相応しい顔ぶれだわ。
もちろん、殿や私たちも含めてね。

小田原城
それでは、演舞を執り行うといたしましょうか。
我ら北条の城娘……義兄弟の縁に依って、今川の――

駿府城
おっと。
小田原城よ、すまぬが少し待ってくれい。

駿府城
此度の救援は……今川の代理としてではなく、
この駿府城が正式に、徳川の城娘として頼みたいのじゃ。

殿
…………!

小田原城
それは……。
駿府城さん、訳を聞かせて貰ってもよろしいでしょうか?

駿府城
躑躅ヶ崎館の際には、今川館が先んじて面会もしておった。
我が不在だった以上、駿府は今川館の預かり。
あやつが今川として対応するのが当然至極だったのじゃが……。

駿府城
此度は、それとは真逆じゃ。
今川館が居らず、我が預かる今、
此の地は、徳川の地として規定されておる。

小田原城
なるほど。徳川の城娘としては、
北条と今川のみの約定はまかりならない……というわけですか。

駿府城
……それも、心情として『無い』と言えば嘘になるかもしれぬ。
じゃが、それは我が目を瞑れば済むだけの話。

駿府城
小田原城よ……北条との縁は、徳川とて浅からぬはずじゃ。
……此の駿府の地で共に過ごした、家康と氏規殿の縁を想えばの。

小田原城
…………!

駿府城
人質同士という立場から、果ては気の置けない友として。
最後には、袂を分かつことになろうとも、
同じ境遇から徳川と北条を結びし二人の絆、我は決して忘れえぬ。

駿府城
今一度、城娘として徳川と北条が手を結ぶために――
彼らの縁をもって、敢えて徳川の駿府城として頼みたいのじゃ。

駿府城
このような危機に、城娘が垣根を超えて手を携える世の為……!
この通りだ……北条の力を貸してくれぬか、小田原城よ。

小田原城
……頭をお上げください、駿府城さん。

小田原城
貴方の想い、北条の城娘として……確かに受け取りました。
……徳川の方から、よもや氏規様のことを聞き及べようとは。

小田原城
私とて、お二人の間柄を忘れたことはありませんとも……。
無論……家康殿から所領安堵を受けた、氏盛様の御恩もです。

駿府城
小田原城……すると……。

小田原城
ええ、喜んで。
北条の城娘として……徳川への助太刀、ここに承ります!

駿府城
おぉ、かたじけないのじゃ……!

小田原城
……この約定、皆に異存はありませんか?

栗橋城
ふふっ。
小田原城様のそのお顔を見れば、
異存などあろうはずがありませんわ?

川越城
うんうん、同感!
貴方が納得なさっているなら、私たちにはそれでもう十分ですから。

平井城
それに、やることは変わらないってね♪
そうでしょ、歴戦の赤担当さーん?

玉縄城
もちもちの、もっちのろんです!
シュッ、シュッシュ……!
情熱込めた素振りも完璧ですので……いつでもどうぞっ!

伊豆下田城
と、いうわけです小田原城様。
……五色備えは、既に準備万端ですよ?

小田原城
みんな……ありがとう!

殿
…………♪

柳川城
そうですね、殿。
この明るい雰囲気……駿府城さんと小田原城さんのおかげで、
後顧の憂いなく演舞に臨めそうです……!

小田原城
それではいざ……北条と徳川の縁に依り、此の地を鎮めんがため!
北条の兵たちよ、我に続け――ッ!

平井城
はいはーい!
広がる竹根は知性の竹根! 平井城、推参!!
……やった~、いっちばんのり~♪

玉縄城
むぐぐっ!
玉縄の桜は情熱の桜! 玉縄城、推参!!
……うわぁあん! 平井城ちゃんに一番槍取られた―! 

川越城
気高き道は勇気の道! 川越城、推参!!
あらら残念! 私も一番、こっそり狙ってたんだけどなあ~。

伊豆下田城
まだまだ、真の勝負はこれからよ……っ!
深き海は優しさの海! 伊豆下田城、推参!!

栗橋城
荒ぶる流れは誇りの流れ! 栗橋城、推参!!
……全くもう! 貴方たち、はしゃぎすぎですわよっ!

立花山城
(そ、そういう感じなのね……五色備えって……)

駿府城
ふはははっ!
我とて天下普請の城、演舞で北条に後れを取るつもりは毛頭ないとも!

駿府城
――――ではゆくぞ皆の衆!
力を尽くし、共に地気の乱れを祓うとしようか!

合戦中

やくも
うは~! やっぱり決め台詞のある変身はたまらんがや~!

柳川城
立花山城さん……私たちも、二人用の口上を作ってみますか?
案外、似合うかもですよ……!

立花山城
何を言うかと思えば……。
ま、殿がそういうの好きって言うなら、考えても良いけれど。

殿
…………?

柳川城
長らく燻ぶっていた、地気の乱れの気配ももう感じられません……。
此の地の吹き溜まりは、完全に消滅したようです!

駿府城
これで東海周辺の乱れも、じきに鎮まるはずじゃの……!

駿府城
皆、よくぞ演舞を完遂してくれた……!
礼を言わせてくれ!

殿
…………!

後半

立花山城
ようやく、一段落ってことかしら。
ふぅ……ちょっと肩の荷が軽くなったわね。

柳川城
はい……皆さんのおかげで、
この装いで行う演舞への自信もついてきましたし……!

殿
…………♪

小田原城
……駿府城さん、お疲れ様でした。

駿府城
小田原城……此度はまっこと世話になったのう。
おかげで胸のつかえがボロボロ取れまくりじゃわい! わはははっ!

小田原城
それはこちらも同じことです。
……城娘が垣根を越えて手を携える世、
その礎づくり、私もお手伝いできればと思います。

駿府城
おおっと!
我としたことが、いつの間にそんなことを口走ったかのう……。

小田原城
ふふ……色々と落ち着いたら、またお会いしましょうね。
駿府にいた頃の氏規様のお話、もっとお聞きしたいですし♪

駿府城
任せよ、あんなことやこんなことまで微に入り細を穿ち、
おっそうじゃそうじゃ! その時は、今川館も一緒にな!

駿府城
おぬしが助けに来たと知れば……あやつは心底喜ぶじゃろうからの!

地に満つるは誓いの紅華 -肆-

春日山城たちが帰還、いよいよ北陸での本格的な演舞が
始まる……と思いきや、何やらぎこちない様子の支城たち。
その理由を知った立花山城は微笑みと共に一計を案じる。

前半

――越後国、某所。

春日山城
ふう……戻りましたよ、蜂ヶ峰城。
私の留守中、大事はなかったですか。

蜂ヶ峰城
おかえり、春日山城……………………。
……………大事、ない…………………。
……………………でも、色々、あった。

柳川城
あっ、春日山城さん! お邪魔しています!

殿
…………!

駿府城
おおっ、上杉の棟梁が戻ったか!
さすれば此の地の演舞も、いよいよ本腰のいれどきかのう!

春日山城
なるほど、確かにこれは……色々あったようですね。

与板城
あのぉ、お邪魔します……って、
私たちが言うのもなんか変ですよね、坂戸城ちゃん。

坂戸城
あ、ああ……そうだな……。

鮫ヶ尾城
………………っ。

殿
…………?

柳川城
あら、与板城さんたちまで……!

立花山城
上杉の城娘ってことは……なるほど、それで春日山城が居なかったのね。

春日山城
ええ。
北陸の乱れの中心である此の地で演舞を行うため、
支城たちの協力をとりつけに回っていたのですよ。

与板城
(……あの、坂戸城ちゃん。
 さっきから鮫ヶ尾城ちゃん、ずっと険しい顔でだんまりですけど……。
 やっぱり、内心穏やかじゃないんでしょうか……)

坂戸城
(ううむ……春日山城さまの面前ゆえ、かろうじて
 私たちとは相容れぬという怒りを押し殺しているのだろうか……)

与板城
(そんなぁ! 私たち三人、
 めちゃくちゃ窮地で支え合って共闘した仲じゃないですかっ……!)

坂戸城
(わ、私に言われても困るぞ……!)

鮫ヶ尾城
(ぬぬぬ……!
 二人ともこっちをチラチラ見ながら内緒話してるっす……!)

鮫ヶ尾城
(まさか、あの二人に限って
 そんなこと有り得ないとは思うっすけど……。
 うう……万が一あれが景虎サマの噂話だったらと思うと……)

鮫ヶ尾城
(あーっ! 絶対に聞きたくないし、
 ますますこっちから話しかけられなくなるっすーっ!)

立花山城
なんかあの三人、様子がおかしくない……?

柳川城
た、確かに……以前お会いしたときよりもぎこちないような……。

殿
…………?

春日山城
お恥ずかしながら、仰る通りの有様でして。
しかしこればかりは、私にはどうにも……。

立花山城
気になるわね。
殿と柳川城は既に何か知っているみたいだけど……
その事情、私にも教えてくれる?

――――

立花山城
なるほど、景勝と景虎……城主同士の因縁ね……。

春日山城
謙信公亡き後、遺言が無かったゆえの跡目争いでもありますから。
私は立場上、口を出しにくいのですよね……。

柳川城
で、でも……一時は手を携えて戦っていらしたはずでは……。?

春日山城
はい……その時の経験も、確かに活きているはずなのですが。

春日山城
現に、私が三人を集めて此度の事情を話した際には、
『立場は違えど上杉の為、一致団結する』と、
口をそろえて快諾してくれましたから。

春日山城
あの目、口ぶりに……嘘はなかったはずです。

立花山城
(憎しみを越えて、想いの向かう先は同じだと理解はしていても、
 まだ互いに信頼しきれない――か)

立花山城
ふふっ。

柳川城
立花山城さん……?

立花山城
何でもないわ。
似たようなヤツを知っているって気づいたら、笑っちゃっただけよ。

柳川城
…………?

立花山城
鮫ヶ尾城、坂戸城、与板城。
――――ちょっと、隣の部屋に来てもらって良いかしら。

――別室。

鮫ヶ尾城
のわっ、な、なんすかいきなり……!

坂戸城
私たちは、演舞の準備で忙しいのだが……。

立花山城
あら、貴方たちがこんな状態で、
まともな演舞ができると思って?

与板城
うっ、それは……。

立花山城
今から三人に、ちょうどぴったりの話を聞かせてあげるわ。
……とんだ愚か者のお話をね。

立花山城
……そいつは、こことは異なる世界からやって来たの。
元の世界では護るべきモノを救えず……藁にもすがる思いで、
最後の最後に、別の可能性を求めた一人の城娘。

立花山城
その城娘が新しい刻で見たものは、
元居た世界の有様と、何もかも違っていた。

立花山城
その世界の護るべきモノには、
あんなにも欲していた沢山の仲間がいて……。
……その傍らには、『そいつ』ではない別の城娘がいた。

立花山城
『そいつ』は、今度こそ護るべきモノを救うと誓いながら……。
愚かにも、嫉妬と憎しみに身を焦がしていたわ。

立花山城
護るべきモノの傍らにいる城娘、彼女への……憎悪に。

立花山城
『私のときは、仲間などいなかった』
『私は、あれだけ努力しても上手くいかなかった』
『なのに、お前はこんなにも恵まれている……腹が立つ――』

立花山城
おかしくないけど……やっぱり、おかしいでしょう?
だって、護りたいものは同じはずなのに……。

立花山城
それに、そいつが本当に護りたいモノは、もう――――

立花山城
……………………でもね。
そいつはやっと、護りたいモノを、護り抜くことができたのよ。
多くの願い、祈り、縁、力のおかげで……。

立花山城
…………何より、憎んでいた城娘と手を取りあい、
未来を託すことができた、そのおかげで…………。

立花山城
……………………。

立花山城
……………ま、こんなところかしら。

鮫ヶ尾城
立花山城さん、あんた……。

立花山城
……貴方たち、それぞれが上杉を大切に思っているんでしょう?
それは、お互いによく分かっているはずよね。

立花山城
だったら、ちゃんと向き合うことよ……。
愚か者と、同じ轍を踏む必要はないわ。

坂戸城
……かたじけない、立花山城。
実に、身につまされる話だった。

与板城
はい……私もです……!

鮫ヶ尾城
じ、自分もっす……!

坂戸城
…………ぅん。

与板城
ぇと…………!

鮫ヶ尾城
…………~っ!!

立花山城
まぁ、頭では分かっていてもそうなるわよね……ふふ。

立花山城
良いわ――――私が手本を見せてあげる。

――襖の向こう。

柳川城
うぅ、全然、聞こえないです……!

駿府城
わざわざ部屋を変えた話に聞き耳とは。
柳川城も存外、助兵衛じゃのう♪

柳川城
ち、違います!
なんだか……私のことを話しているみたいで、気になって!

駿府城
ふはは、何も違わぬではないか!
……にしてもこの川渡餅とかいうやつ、美味いの!

蜂ヶ峰城
…………………………むふー。

春日山城
それにしても立花山城の話……大分、長引いているようですね。

柳川城
ここはやはり、私がお茶を差し入れに――

勢いよく開く襖
(バッシィイイイン!!!)

柳川城
ひゃああああ!?

殿
…………!?

立花山城
あら、良いところにいたわね柳川城。
これから私たち二人で……演舞、かますわよ。

柳川城
い……今からですか!?

立花山城
そう、今から。
……あの三人に、実演してみせないとね。

柳川城
な、何をです……?

立花山城
決まってるじゃない――――
愚か者が貴方の手を取って、どこまで前に進めるかってことよ!

合戦中

春日山城
柳川城に立花山城、
よもやたった二人で、これほどの地気を発散できるとは……!

駿府城
フフ……(後方師匠面)

坂戸城
いかん、このままでは私たちの出る幕がないっ……!
上杉に尽くすため、参るぞ! 与板城、鮫ヶ尾城!

鮫ヶ尾城
言われるまでもないっすーっ!
どおりゃあああ!!!

与板城
あっ、二人とも……置いていかないでくださいよ~っ!

立花山城
ぜー……はー……!
どう……? ざっと、こんなものよ……!

柳川城
はあ……ふぅ……。
と、飛ばし過ぎです、立花山城さん……!

駿府城
全く、張り切り癖も考えものじゃな……。
此度は、功を奏したようじゃがの!

後半

駿府城
うむ……此の地深く根を張っていた地気の乱れも、
もはや跡形もなく鎮まっておるわい!

殿
…………!

春日山城
突発的な演舞にはなりましたが……皆、よくぞ尽くしてくれました!

鮫ヶ尾城
はぁ、はぁ……!
目の前で他所の城娘さんにあれだけ活躍されたら、
そりゃあ黙ってられないっす!

与板城
はい、上杉の城娘だってできるってとこ……見せないと!
ふう、ふう……!

坂戸城
私も、はぁ……久々に焦った気がするぞ……っ。
……どこか心地よく、一体感を覚える焦りではあったがな!

鮫ヶ尾城
へへ、同感っす……!

与板城
私も、焦っちゃいました……えへへ。

坂戸城
ふ……与板城は、特別派手に出遅れていたものな。

与板城
ん、んなっ……坂戸城ちゃん、なぜ今それを……。
せっかく良い感じの雰囲気だったのに!

鮫ヶ尾城
ふふふ……確かにあの慌て顔は、面白かったっすね!

与板城
鮫ヶ尾城ちゃんまで……も~っ!

蜂ヶ峰城
皆、お疲れ……………………。
お茶……………………淹れてある…………!

鮫ヶ尾城
おおっ、さすが蜂ヶ峰城サマ!
有難く頂戴するっす~♪

与板城
もー、二人そろって調子良いんですからぁ……ずず……あちち!

坂戸城
ははは、焦るな焦るな!

春日山城
やれやれ。
変革とは、得てして外よりもたらされるもの……ということでしょうか。

蜂ヶ峰城
みんな、仲良し…………………………むふー♪

――――

柳川城
…………あの、立花山城さん。

立花山城
……無茶ぶりしたことなら、先に謝っておくわ。
付き合わせちゃって、ごめんなさいね。

柳川城
そうじゃないんです。
……お礼を言いたくて。

立花山城
へえ……?
振り回した挙句お礼を言われるなんて、おかしなこともあるものだわ。

柳川城
…………いえ。
憎んでいた城娘と……手を取り合ってくれたこと、です。

立花山城
……聞いてたのね。

柳川城
す、すみません……!

立花山城
ま……貴方が良いなら、良いわよ。
今更隠す話でもないし。

立花山城
…………私も、嬉しかったわ。

柳川城
え……?

立花山城
貴方が、あの茶屋で一蓮托生だって言ってくれたとき。
……私も、嬉しかったのよ。それだけ。

柳川城
じゃあ、これからも……たとえこの装いが解けても、
一蓮托生の相方で居てくれますか?

立花山城
…………さあ?

立花山城
でも、殿と貴方がそれを望むなら……やぶさかではないわ。

柳川城
…………♪

立花山城
声をたてずに笑うんじゃないの!

柳川城
ええっ?
笑い方が気味悪いって言ったの、立花山城さんじゃないですかーっ!

立花山城
貴方はもう、ほっぺをこうしてなさいっ! こうっ!

柳川城
ふぁー! ふぁへてふははい~っ!

三幕[]

――所領付近、とある神社の境内。
日の本各地の乱れを鎮めた一行は、
満を持して出立の地へと舞い戻っていた。

殿
…………!

柳川城
帰ってきましたね、私たちの所領――

立花山城
そして、地気の乱れ最後の根源へとね……!

駿府城
ふうむ……この宙に満ちる地気の、なんと濃いことよ。

やくも
帰ってみれば、万事すっかり解決済みだっただに!
……とかいう都合の良い話は、やっぱり無いもんやね。

千狐
やくもの能天気さには、正念場を前にしても力が抜けるの……。

やくも
わはは、力まんで済むっちゅうのはええことだに!

名島城
……立花山城ちゃん! 殿ちゃんたちも!
無事に戻ったんだね……良かった!

立花山城
名島城……! 貴方も、元気そうで何よりだわ。

福岡城
ふぁあ~……!
ふっく~も、お昼寝我慢して頑張ったよぉ~!
ずぉんたぁ~~く……!

肥前名護屋城
あたしと名島城がちゃんと見回りしてるんだから、
少しくらい寝ててもいいのに……ほら、
足元しっかり見てないと転ぶわよ!

柳川城
福岡城さんに肥前名護屋城さんも……。
不在を任せきりになってしまって、申し訳ありませんでした。

肥前名護屋城
良いの良いの!
なんだかんだ、身体を動かしながらあちこち尋ねまわるのも
良い刺激になったしね♪

駿府城
む、あちこちと言うと……。

名島城
うん……突発的な力の吹き溜まりには対処できているけど、
日々地気は濃くなるばかりで、あんまり芳しくはない状況かも。

福岡城
三人じゃ手が回らないから、手分けして他の城娘ちゃんたちに
協力をお願いしにいったりしてたんだよ~!

立花山城
……どうやら、駿府や越後のときみたいに、
ここでも集中的な演舞が必要みたいね。

肥前名護屋城
あ、でもでも!
みんなの協力のおかげで、分かったこともあったのよ?

名島城
そう、九州の地に発生した、
過去に類を見ない程大規模な地気の乱れの根源……。
その場所が特定できたんだよ。

殿
…………!

名島城
最初はひとつの大きな吹き溜まりかと思ったけど……違ったんだ。

名島城
……巨大な乱れの根源は、二つあったのよ。
それも、隣り合うように近接して。

千狐
二つも……!?

肥前名護屋城
そ!
でね、その二つの中心地ていうのは――

柳川城
柳川城と――

立花山城
立花山城……ね?

肥前名護屋城
ええーっ!?
じゃんけんで勝ち取ったあたしのドヤ顔確定セリフ、
先に言われちゃったんですけど!?

福岡城
すご~い!
二人とも、どうして分かったの~?

駿府城
……地気にあてられた、その装いのなせる業か。
まあ、当人的には『勘』としか言いようがないがの!

柳川城
ええ……なんとなく、そう思ったというか。

立花山城
再びここへ戻ったとき、直感で分かったのよね。
……まったく、厄介な力だわ。

駿府城
じゃが……その装いで此の地を発ったときから、
おぬしたちも大きく成長したはずじゃ。

駿府城
ただただ当惑するしかなかったあの日とは違う。
各地で地気の乱れを鎮めてきたおぬしらなら、
巨大な乱れの渦中での演舞も……今やお手の物じゃろう?

殿
…………!

立花山城
なるほど、
だから先に日の本を回ったってわけね。

駿府城
んにゃ、そこは半分結果論じゃな。
おぬしらが力に慣れるまで各地で肩慣らし、というのは本当じゃが。

駿府城
たとえあそこで粘っても、
バカでかい乱れの根源がいつ本格的に動き出すかは予想不能だった、
というのもまた本当のことじゃ、はっはっは!

柳川城
しかし……結果として私たちは、
対処に必要な力を使いこなすことができるようになりましたね。

立花山城
ええ。おかげさまで、もう不安はないわ。
たとえこの先待ち受けるのが……
日の本最大の、地気の乱れだとしてもね。

駿府城
うむ、その意気じゃ!

肥前名護屋城
あたしたちはしばらく、
ここを中心に見回りと鎮めにあたっているつもり。
……だからマネージャーたちも、安心して仕事してきてよね?

福岡城
乱れの中心地は、今も他の城娘ちゃんたちが監視してるはず……!
みんなが行ってあげたら、きっと安心するよ!

名島城
立花山城ちゃん……無理はしないでよね。

立花山城
ふふ。
名島城、貴方もね。

柳川城
いよいよ、大詰めですね……!

駿府城
ああ、我らも最後の舞台へ進むとしよう。
九州……否!
日の本最大の地気の乱れ発生源……その二城へとな!

殿
…………っ!

天を舞うは決意の白翼 -伍-

頼れる助っ人――熊本城、佐賀城を引き連れ戻ってきた
久留米城。戯れ歌に歌われた三城が、柳川城と本気の
対決を挑む……彼女の力を限界まで引き出すために。

前半

久留米城
柳川城ちゃん、遅れてすみませんでしたっ!
あなたと契りし久留米城、頼れる助っ人たちと共に参上ですっ!

柳川城
久留米城ちゃん……。
私の為に……ありがとうございます!

久留米城
でへ……おおっと!
そのお礼は、地気を鎮め終わるまで取っておいてくださいっ!

柳川城
(ま、まだおあずけ!?)

立花山城
で、その助っ人の方は……。

熊本城
くまっと登場ーっ♪
肥後のサイキョーお姉ちゃんこと、熊本城!
ここに推参ですっ!

佐賀城
さ……さがっととうじょー……。
肥前の奇術師、沈み城こと……佐賀城……!
ここに推参だ……っ!

殿
…………!

熊本城
ほらほら佐賀城ちゃん、もっと元気よく♪

佐賀城
だ――っ!
なんでこんなこっぱずかしい口上が必要なんだよっ!

熊本城
え~だって、口上と一緒に『ばばーんっ!』と助っ人が出てきたら、
と~ってもかっこいいじゃないですかぁ!

佐賀城
アタシはそういう趣味じゃねえんだって!
それに……二つ名が奇術師ってのも気に入らねえ!

佐賀城
アタシはもっと、
正面からガツンといってバァーっと戦う方が性にあってんだ!

熊本城
う~ん、それは私に言われても~……!

やくも
…………熊本城は、五色備えと仲良くやれそうやね!

千狐
そ、そうかしら……?

駿府城
はっはっは!
そういうことか……久留米城め、
中々面白いメンツを集めたものじゃのう!

殿
…………?

駿府城
ふむ、こんな言い回しを聞いたことはないかの?
『柳川三年、肥後三月、肥前、久留米は朝茶の子』……とな。

雨城
佐賀城と久留米城はたやすく落とせるが、
堅城と知られる熊本城は落とすのに三か月、
難攻不落の柳川城は三年かかる……という意味の言葉ですね。

笹原城
へ~、そうだったんだ~!

雨城
さ、笹原城ちゃんは知っておいてください……。
というか、久留米城ちゃんが出掛ける前に
説明してたじゃないですか……!

久留米城
こほんっ、そのと~り!
つまり今、晴れてこの柳川の地へ、
かの戯れ歌に謡われた城娘たちが集ったというわけですが――

久留米城
……しかーしっ!
当事者としてこんな言いぐさ、断じて黙ってられません!

佐賀城
おうっ! なーにが朝茶の子だあ!
んな寝言いってるふてえ野郎は、
茶碗ごと茶漬けを頭にかぶせてやらあ!

熊本城
無論、私とて同じです。
清正公さんの名に懸けて、三か月なぞに甘んじるつもりはありませんよ?

熊本城
千年も万年も残り、
堅城とは如何なるものかを、天が下に見せつけてやりますとも♪

久留米城
そうです! 大体なんですか!
三城足しても三か月とお茶漬け二杯って……舐め過ぎですよっ!

雨城
(久留米城ちゃん、半分本気で怒ってそうですね……)

久留米城
よって……我々はこれより、三年の名を冠する柳川城ちゃんに対し、
がちんこ演舞対決を申し込むことにします!

殿
…………!?

柳川城
がちんこ、演舞、対決……ですか!

佐賀城
まっ、平たくいやあガチ勝負だな!

立花山城
柳川城の力を限界まで引き出すための、強硬策ってわけね……。
これが、久留米城の――

久留米城
(――これが、私の愛の鞭なんですっ!)

久留米城
柳川城ちゃん……この申し出、受けてくれますね?

柳川城
…………はい。
もちろんです、久留米城ちゃん……!

久留米城
……ありがとう、柳川城ちゃん。

柳川城
(貴方の想いをしっかり受け止めて……この柳川城、
 地気の乱れを鎮めるに足る、全力の演舞で応えます!)

柳川城
柳川城の尚堅きこと……!
他ならぬ此の地で、天下に……いいえ! 殿に、証明してみせますとも!

殿
…………!

合戦中

駿府城
演舞とあらば、無論我らも参じねばのう!
戯れ歌組に後れを取るでないぞ、立花山城!

立花山城
もちろんよ……!
迂闊な隙を見せたら、あの子たちの見せ場をとってやるんだから!

柳川城
(くうっ、手ごわい……!
 本気のお三方を、一人で抑えきるのは……限界かもしれません!)

殿
…………っ!

後半

久留米城
私たちが押しています……っ!
でも……このまま、勢いを緩めずに行きますよっ!

佐賀城
おうよっ――手を抜くつもりは毛頭ないぜっ!

熊本城
まだまだ、こんなものではないでしょう……柳川城さん!

柳川城
ぐ……地気の乱れを、鎮めきるためにも……!
…………まだ、ここで諦めるわけにはっ!

三城による怒涛の波状攻撃に押し込まれ、
今にも墜ちるかと思われた白き鶴。

殿
…………っ。

久留米城
貰いました、柳川城ちゃんっ!
これで私たちの……勝ち――――

だが、その時。

???
――――全く、どうして私を頼らないんだか。

熾烈な演舞を縫うかのように。
 一陣の艶風が――剣戟を、銃弾を――
  鶴を穿たんと殺到する、あらゆる刃を打ち払った。

柳川城
……!?
これは――っ

佐賀城
なにっ、今のが防がれた!? マジか!!

熊本城
ほう。
…………柳川の背に出しは、二神山というわけですか。

而して―――――――白翼の背に、紅の華が宿る。

立花山城
……水臭いじゃないの、柳川城。

柳川城
立花山城さん、どうして……これは……!

立花山城
あら、自分の戦いに手出し無用だって言いたいの?
……ま、私はそれでも構わないけど。

立花山城
でも……万が一貴方が負けて、
もし地気を鎮められなかったら……殿と私が困るのよ。

柳川城
立花山さん……。

立花山城
…………相方は、二人で一人でしょ。

立花山城
貴方の戦いなら、半分は私が請け負う――――良いわね?

柳川城
…………はいっ!
そうでした、私たちは……一蓮托生……!

柳川城
援護をお願いします、立花山城さんっ!
地気を鎮め、勝利を掴むために……!

久留米城
むぅう~良いところだったのに!
横槍なんて、小癪ですっ!

久留米城
ふっふふ……だがしかぁ~し!
たかが城娘一人増えたところで、手負いの鶴など恐るるに足らず!
一気に決めにいきますよっ! 佐賀城さん、熊本城さんっ!

佐賀城
(うおぉい……なんつーかそれは……)

熊本城
(逆転負けする悪役みたいな台詞になってますよぉ、
 久留米城ちゃん……!)

立花山城
来るわ……息を合わせて……!

柳川城
はい……一手早く、反攻に転じる、ですよね!

立花山城
分かってるじゃない。
……後ろは気にせず、貴方は前だけ見て突進しなさい。

柳川城
了解――――っ、今です!
中央に突破口……立花山城さんっ!!

立花山城
任せなさい――はぁああああ!!!

柳川城
――――間隙、見えたっ!!
そこです――――っ!

――――――

―――……

久留米城
うわああぁあん、負けちゃいましたぁああ~~!

久留米城
結構、本気で悔しいけどぉ……でもっ!
これで良かったんですぅうう!

佐賀城
立花山城が出てきたときは、正直反則だろって思ったが……。
あの連携を見たら、納得するしかねぇよなあ?

熊本城
ええ。
時に風のように、時に波のように……やがては山にも火にも転じ得る。
二人の動きは、まるで生きた紅白の魂そのもの。

熊本城
目まぐるしい変幻自在の連携、実に見事という他ありません。
……素晴らしい、演舞でしたね。

駿府城
あれほどの二人が、傍らでおぬしを慕っておるのじゃからのう。
……まっこと殿は、果報者じゃわい!

殿
…………!

柳川城
久留米城ちゃん……今度こそ、ちゃんと言わせてください。

柳川城
…………ありがとう、と。

久留米城
ううぅ、柳川城ちゃんごめんねえ……!
でも……これが私にできる、一番の方法だったの……!

柳川城
ええ、ええ……分かっています。
貴方の想い、これ以上ないほど十分、届きましたから。

柳川城
此の地の乱れを鎮められたのは、貴方のおかげです。
…………本当にありがとう!

久留米城
う……うわぁ~~~ん!

立花山城
(久留米城を抱いた柳川城の顔……。
 信じられないくらい、優しく、大人びて見える……)

立花山城
(支城たる久留米城もまた、柳川城のかけがえのない存在なのね。
 …………私にとって、名島城が大切なように)

雨城
ぐすっ……良かったです、二人に何事もなくて。
容赦なく本気でぶつかり合ってて、見ているこっちが倒れるかと……!

笹原城
久留米城お姉ちゃんの愛、今回はすごかったなぁ……。
あれも、オトナになったってやつなのかな……?

笹原城
(綺麗になった柳川城ちゃんも、かっこよかったし……。
 オトナって……大人って、やっぱりすごいんだ……!)

やや誤った大人への理解を深め、天を仰いだ笹原城。

白鶴の腕に抱かれた支城の咽び声が、未だ昇るそこには……。
地気の濁りを微塵も感じさせない、涼やかな夜空が広がっていた。

地に満つるは誓いの紅華 -伍-

先の演舞から様子のおかしい立花山城。時を同じくして、
地鳴りが起きる程強大な地気の乱れも発生する。異様な
状況下で、駿府城はとある仮説に思い当たる――

前半

立花山城
はぁ、はぁ……くっ……!

柳川城
立花山城さん、大丈夫ですか?
少し、横になったほうが……。

立花山城
大丈夫だから……離れていて柳川城……!

柳川城
…………っ!

雑賀城
おかしい……ボクにも分かるほど、
足元から伝わる地気の奔流が大きくなっているのに――

根来城
変ですよね。
肝心の地気の乱れ、力の吹き溜まりのぞわぞわした感覚が、
全く感じられないなんて……。

(ずずずず……)

殿
…………!?

やくも
うおおっ、じ、地鳴りだに!?

雑賀城
これは……大地が、唸っている!?
これまでにない、巨大な地気のうねりだぞ……!

千狐
一体、何がどうなってるなの!

駿府城
(地鳴りを起こすほどの異変とは……各地の根源を先んじて封じた結果、
 唯一塞がっていないこの地脈から、日の本中の地気の乱れが
 吹き出そうとしておる……とでも言うのか……?)

立花山城
うっ……ぐううっ…………!

柳川城
立花山城さん!
大変です、地鳴りに呼応するように立花山城さんのご様子まで……!

駿府城
…………待て、
立花山城、まさかおぬし――――

立花山城
だめよっ…………! 私に……近づかないでっ……!

殿
…………っ!

(ビカッ――――!)

殿が手を差し伸べようとした、その瞬間……。
立花山城から放たれた眩い光と共に、衝撃波が一行を襲った。

雑賀城
うっ……この光は……!?

立花山城
みんなっ…………逃げ、て……!

柳川城
立花山城さんの姿が、勝手に……!
くっ……地気の乱れも凄い勢いで吹きあがっています!

駿府城
やはりそうかっ!
よせ立花山城! おぬしの身体が保たぬぞっ!!

殿
…………!?

駿府城
あぁ、ようやく合点がいったわ!
あやつめ、自分ひとりの身で……
地表へ噴き出した全ての地気を封じ込めようとしておるのじゃ!

柳川城
…………っ。

根来城
そ、そんなことができるのですか……!

駿府城
おそらく、先程の演舞で地脈の根源を特定したのじゃろう。
そして、鎮めきれぬのならばと、自らの身を地脈へ繋いだ……!
地気の乱れを一手に引き受け……地表に漏らさぬようにな!

駿府城
本来なら一人の城娘に適う業ではないが、
此の地に縁深い立花山城なら、それを可能にしたとて不思議はない……!

柳川城
それじゃあ、立花山城さんには今も地気の乱れが……!

駿府城
ああ! 既に身に余る力が零れ始めておる!
あやつの身体は限界のはず――なんとしても、止めるぞ!

柳川城
……はいっ!

雑賀城
全く、立花山城め……!
キミの厄介ごとを一人で抱え込む性質だけは、健在みたいだなっ!

立花山城
来ないで……私一人で……じゅう、ぶん……っ!
…………ぐっ……!?

立花山城
う……! うぁ……あぁ、ああああああああっ!!!

(ズドドドドドッ……!!!)

駿府城
力の……暴走かっ!

雑賀城
くっ……なんて圧だっ! 近づくどころじゃないぞ!

根来城
しかし、このままでは立花山城さんが……!

鹿児島城
――――あらあら~?
なんだか着いて早々、大変なことになっているみたいですわね~?

佐土原城
わたしも見たよ~!
さっきずごごごご~っていってから、
ぴかってなって、またズどっか~んしてたよね!

内城
うう……開幕から大一番とは!
無理を言ってでも、岩剣城と鶴丸城を連れてくるべきでしたか……!

鹿児島城
今更言っても、詮無きことですの~。
この三人で活躍できるよう、頑張りましょうね~!

雑賀城
来てくれたか――島津の城娘たち!
万が一の為の、虎の子の援軍だったが……
まさにこの状況にうってつけというわけだ!

根来城
方々、早速変身なされています……頼もしい限りですね!

駿府城
鹿児島城たちよ、すまぬが細かい話はあとじゃ!
みな……今は力が暴走した立花山城を止め、
無事に確保することを最優先で頼むぞ!

柳川城
……立花山城さんっ!

立花山城
私の、こ……は…………良いから……逃げ、て……!

殿
…………っ!

合戦中

立花山城
ぐっ……だめ……みんな、離れて……!

柳川城
そんなこと、できるわけないじゃないですかっ!
……必ず地気の乱れを鎮めて帰るんです……あなたと、一緒に!

殿
…………!

内城
私のチェストが通じない……届かないだなんてっ!

佐土原城
ど、どすこ~いっ!!
踏ん張らないと、ずごごごに吹き飛ばされちゃうよぉ~!!

鹿児島城
フランキ砲の弾すら通さないとは……まさに、地気の城壁ですわ……!

後半

立花山城
はぁ……う、ぁ…………!

殿
…………っ!

駿府城
眩い光……立花山城の意識は、既に危ういか……くっ!
それに比して暴走する力が大きくなるばかりじゃ……!

内城
私たちに、打つ手はもう……!

立花山城
…………っ……!!

(ゴォオオオオ……!!!)

佐土原城
うわあ~~っ!?
ピカピカもずごごごも、これ以上は無理だよぉ!

鹿児島城
殿どん……ここはもう、危険ですわっ……!

殿
…………っ。

駿府城
ふ、そう言われて引くおぬしではないか。
…………相分かった。

駿府城
ここは一か八か、我が装いの力を以って――

柳川城
いえ……私が、行きます……!

殿
…………!

柳川城
この装いの力は、駿府城さんと同じ類のもの。
立花山城さんと共に地気にあてられたことや、
近しい地縁からして……私の方が適任かと。

駿府城
しかし柳川城、我も言ったが一か八かの賭けにすぎぬ!
装いの力頼りで強引に接触を図るのは、あまりに――

柳川城
……それに、駿府城さん。
私はあの人に、確かめなきゃいけないことがあるんですよ。

柳川城
……大事な、ことなんです。

殿
…………っ!

柳川城
ありがとうございます、殿。

柳川城
それでは柳川城、行ってまいります。
安心して下さい……二人で、必ず戻ってきますから!

駿府城
……あのような無茶を止めぬとは。
おぬし、そこまで信じておるのだな……柳川城と、立花山城を。

殿
…………。

駿府城
はあ……全く、たわけた連中じゃ。

駿府城
かようなハチャメチャ……天下普請の城たる我が
指をくわえて見過ごすわけにいかぬじゃろうて!

殿
…………!

駿府城
皆の衆、柳川城が地気の壁を突破できるよう……力を貸してくれ!
我は、この力で柳川城を後ろから押し上げる……!

柳川城
(くうっ……立花山城さん、待っていてくださいっ……!)

立花山城
(あぁ……私、ここまでなのかしら)

立花山城
(誰も、危険な目に合わせたくなかったのに。
 とんでもない失態だわ……結局、護りきれたのかも分からないなんて)

立花山城
(殿……柳川城……お願い。
 みんな、無事でいて……)

???
――……さん! 立花山城さんっ!

立花山城
…………柳川……城?

柳川城
はぁ、はぁ……良かった、やっとお返事が聴こえました……!

柳川城
でも……許しませんからねっ、立花山城さん!
私、怒ってるんですから!

立花山城
なにをバカな……早く逃げなさい、貴方……!

柳川城
バカって……それはこっちの台詞ですっ!

柳川城
……一蓮托生が嬉しかったって!
二人で一人の相方だって言ってくれたこと……!
あれは、嘘だったんですか!?

立花山城
…………ふふ、はっきり言うように……なったじゃない。

柳川城
どうして……あの時私を助けてくれた貴方が、
今度は私に一言の相談もなしに……こんなこと……!

柳川城
そんなの……ずるいじゃないですかっ……!

立花山城
だってこれは……危険、すぎるもの……。
此の地に集まっていた、地気の乱れは大きすぎた……。

立花山城
貴方を、殿を……みんなを……!
危険に晒したく、なかったのよ……。

立花山城
犠牲になるのは……余所者の私ひとりで………十分だわ……!

柳川城
いいえ、違いますっ!
立花山城さんは余所者なんかじゃありません!

立花山城
…………!

柳川城
欠けてはならない、大切な仲間で……!
ここから一緒に笑って帰る、私の相棒なんです!

立花山城
相、棒……?

柳川城
はい……!
相棒は、『どんな時でも』二人で一人……!
いつでも頼って……支え合える存在のことです!

立花山城
…………。

柳川城
さあ、手を、取ってください……立花山城さん……!

立花山城
………………っ。

柳川城
…………っ!

――――――

――――……

立花山城
お願い……力を貸して、柳川城……!
地気を鎮めて……私、みんなの元へ帰りたいの……!

柳川城
ええ、もちろんです。
ありがとうございます……ちゃんと、手を取ってくれて。

立花山城
私の方こそ――――ありがとう。
…………ええっと。
どう言えば相棒って感じになるのかしら……。

柳川城
ふふ、今ので十分ですよ♪
……では、参りましょうか。

柳川城
私たちは――

立花山城
二人で、ひとつ……!

――――殿を、守り続ける為に。

――――――

――――……

二人を包んだ白い光は山を覆い……音もなく宙を満たしていた。
しばしの、時が止まったかのような感覚――

光が徐々に引き、そして潰えたとき。
殿たちが見たものは、紅白の花鳥が手を取り合ったまま
地に臥している姿であった。

そして、静寂にすぎる井楼山の木々は……。
此度の騒動が終結したことを、何よりも雄弁に物語っていたのである。

終幕[]

――所領。
うららかな日差しの照った、ある昼下がり。

千狐
やくも~、お茶が出たわよ~?

やくも
ふが、ふにゃ……ぐう。

千狐
もー、あなたがお茶を飲みたいって言ったんでしょ!
ほらっ、お~き~な~さ~い~っ!

やくも
むがごが……! むにゃ、もう朝だにぃ……?

千狐
何寝ぼけてるの、さっきお昼食べたばっかりでしょう!

柳川城
……すう、ふぅ……うぅん……んん~……?

立花山城
………むぅ……うるさいわねぇ………?

千狐
え――

柳川城
ふぁああ……はれ、もう朝ですか?

立花山城
ううん……なんだか、寝たりない気分だわ……!

千狐
あわ、あわわわわっ!

やくも
んがっ、どうしただに千狐?
あ、そういえばお茶――

千狐
緊急事態なのーっ! ……ほらやくもも来なさいっ!!
殿、殿ぉ――――!

やくも
ふがふごっ……!?
う、うちのお茶あぁ~~……ぁ……!

立花山城
…………何だったのかしら、今の。

柳川城
さ、さあ……?

柳川城
それにしても、私たち……お昼まで寝ちゃったみたいですね。

立花山城
そうみたいね……だけど不思議じゃない、誰も起こさないなんて。

柳川城
いつもなら、千狐さんが布団をひっぺがしに来て……。
やくもさんが布団に抱き付いたまま振り回されているのが、
朝の見慣れた光景ですもんね……♪

立花山城
うふふ。
貴方もた~まに寝坊して、起こされる側になってたじゃない?

立花山城
布団に抱きつくのも、やくもそっくりで……!

柳川城
んなっ……そういう立花山城さんだって!
文机に突っ伏したまま寝落ちしていたとき、
布団で寝なさいって結構本気で怒られてたじゃないですかー!

柳川城
あの時の叱られた子供みたいな立花山城さんの顔、
私は絶対忘れませんからね!

立花山城
まあ、珍しく言うようになったじゃない柳川城……。

柳川城
え、そう、ですか……?

立花山城
あら……でも、どこか懐かしいような……?

柳川城
私も……板についているような、いないような……?

(どどどどどっ……!)

立花山城
今度は何かしら……今日は随分と騒々し――

(がたがたっ、ばた――ん!)

久留米城
柳川城ちゃんっ!!
目が覚めたって本当なんですかっ!?!?

名島城
立花山城ちゃん、身体はもう平気なの!?

柳川城
え、ええっと……!

立花山城
ちょっと、二人とも落ち着きなさいよ……!

駿府城
はっはっは、無理もなかろうさ!
三日三晩眠り込んでいたおぬしらを、
支城たちは心休まる暇もなく心配しておったのじゃからのう!

駿府城
(一応、身体に特段心配はないと
 何度も伝えてはいたのじゃが……まあ、気持ちはわかるからのう)

柳川城
三日三晩も……?
駿府城さん、それではあの後地気の乱れはどうな――――

柳川城
――あっ!

殿
…………!

立花山城
殿……よかった!
無事だった――――

立花山城
……はっ!

駿府城
うむ。
二人とも、ようやっと思い出したようじゃな?

柳川城
あれから……もう、三日も……?

立花山城
でも……こうして、みんなが平和に暮らしている……。
これがもし夢でないのなら……いふぁふぁっ……ふふぇふぁふぁいで!

名島城
ほ~ら、夢じゃないでしょ?

名島城
立花山城ちゃんと柳川城ちゃんのおかげで、
地気の乱れは、完全に解消されたんだよ。

名島城
全く、無理はしないでって言ったのにね……。
でも良いわ……今のほっぺのつねりで、チャラにしてあげる♪

立花山城
本当に、現実なのね……!
良かった……ふぅ……!

名島城
あぁちょっと、安堵し過ぎて気絶とかはやめてよね!

久留米城
わぁああ~ん!!
柳川城ちゃんがっ……無事で良かったですぅう!

柳川城
久留米城ちゃん……ずっと、心配してくれてたんですね。
ごめんなさい……でも、ありがとうございます……!

久留米城
わぁあん! 覚えててくれたのも良かったぁ~~!!

柳川城
忘れませんよ……忘れません、絶対に……!

殿
…………♪

駿府城
おおっ、そうじゃそうじゃ!
二人の目も覚めたことじゃし……ようやく宴の準備ができるわけだのう!

駿府城
わははっ!
では皆を集めるとしようか、広間で作戦会議じゃ!

名島城
あ、じゃあ私たちはそろそろ行くね……!
二人とも、積もる話はまた後で~♪

名島城
ほら、久留米城ちゃんもいこいこ! 宴の準備だ!
雨城ちゃんたちや……なんだかんだ言いながら気を揉んでた
雑賀城ちゃんも連れ出してね♪

久留米城
わぁああん、柳川城ちゃん、また後でぇええ~~!

立花山城
ふふ、雑賀城がまだ残っているなんてね。
あの子ったら……どうやって揶揄してやろうかしら。

柳川城
まぁ……素直にお礼を言えば、喜んでくれるんじゃないですか?

立花山城
……私と雑賀城には、憎まれ口の方がお似合いだと思わない?

柳川城
うふふ……そうかもしれません。

立花山城
はぁ……それにしても。
この騒々しさが、こんなに愛おしいものだなんて思わなかったわ。

柳川城
はい……。
私たちの所領を護り抜くことができた……そして――

立花山城
殿の傍らで、共に護り続ける平和そのもの……ね。

殿
…………!

柳川城
殿、私は……これからも、貴方の側で、貴方を支え続けます。

柳川城
太平の世が来ても、ずっとずっと……!
いつか、貴方の一番になるために……!

立花山城
過去というしがらみから、きっと私は逃れられない。
……でも、貴方の側にいられることが、ここに存在できることが、
今の私には一番の幸せ……護るべきものなのよ。

立花山城
だから、私も……貴方を、貴方の幸せを支え続けると誓うわ。

殿
…………。

柳川城
(私たちは――)

立花山城
(――もう、迷わない)

――――共に殿を護り続ける、相棒がいるのだから。



特に記載のない限り、コミュニティのコンテンツはCC BY-SAライセンスの下で利用可能です。

シェアボタン: このページをSNSに投稿するのに便利です。


最近更新されたページ

左メニュー

左メニューサンプル左メニューはヘッダーメニューの【編集】>【左メニューを編集する】をクリックすると編集できます。ご自由に編集してください。掲示板雑談・質問・相談掲示板更新履歴最近のコメントカウン...

[裏]真田丸

裏]真田丸(チャリン……チャリン……チャリン……)……貴殿か。今日は、話をしたい気分じゃない。足を運んでくれたのに、すまない。一文……二文……三文……四文……五文……六文……銭を数えていなければ、一瞬...

[裏]淀城

]淀城あ~……。あ゛ぁ~……きもちわる。夢見は悪いし、頭はズキズキ痛むし……。ほんっとに最悪な日よ、今日は。誰でも良いから……。どつき回して、ぐちゃぐちゃにしたい気分。…………。……で、なに?そこに突...

[裏]桜尾城

]桜尾城殿……どうかしましたか?……ふふ、今回は間違えませんでしたよ。あなたの安らぐ顔もまた、私の喜びなのですから。私は今……海を見ていました。このどこまでも凪ゆく、厳島の海を……。厳島周辺は神域とい...

[裏]川越城

]川越城お客様かしら……どうぞ。貴方は、確か……ちょっと待ってね……。うん……たぶん、『殿』よね……?やっぱり……人違いでなくて、良かったわ。ふふ。今丁度、過去の私が遺した日記を読み返していたのよ……...

[裏]小田原城

]小田原城…………。……あら、殿。ようこそいらっしゃいました。ああ……いえ、ご心配なく。少し考え事をしていただけですから。今、ちょうど……。昔の出来事に思いを馳せていました。今の私を形作る、原点とも呼...

[裏]小牧山城

目次1 性能1.1 特技1.2 [改壱]特技1.3 所持特技1.4 [改壱]所持特技1.5 計略1.6 [改壱]計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3...

[裏]室町第

裏]室町第殿……ふふふ。どうせまた来るって、そんな気はしていたわ。私がどんなに忠告をしても、貴方は自分の信念を曲げない。本当に……つくづく、強い人ね、殿は。私のせいで、どれほど悪いことが起こっても殿は...

[裏]大宰府

]大宰府おお、殿か。よく来てくれたな。今な、手紙を整理しておったのじゃ。最近は毎日、誰かしらから届くのでな……。この手紙は……、『大宰府ちゃん親衛隊』を自称する者たちからじゃな。大野城、鞠智城、基肄城...

[裏]坂本城

]坂本城大殿様……また来たのね。ふふ……別に、追い返したりしないわよ。というより……私も今ね、大殿様と話せたら、って考えてたところだったの。だから……少しの間、私の話し相手になってくれるかしら?……ふ...

[裏]佐和山城

]佐和山城……また来たのね、あなた。足を運んでくれたところ悪いけど、面白いものは何も見れないわよ?相変わらず、大坂城様のらいぶに向けて、準備をしているだけだもの。……ん、なに?『なぜ、そこまで大坂城様...

[裏]伊勢長島城

]伊勢長島城も~、なんなのあいつら!信じらんない!寄ってたかってライブの邪魔をして!いったいどこから情報が漏れたの?もしかして、殿じゃないでしょうね……!?……そんなわけないか。あたしは、あんたにな~...

[花嫁衣装]鹿児島城

目次1 性能1.1 特技1.2 計略1.3 [改壱]計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3性能< ロケト城 - [花嫁衣装]シャンティイ城 >[花嫁衣...

[花嫁衣装]鮫ヶ尾城

]鮫ヶ尾城はあ……春日山城サマの祝言、想像するだけでドキドキしてしまうっす!ね、ちびサマ~♪……ん?どうしたっすか、トノ?えっ、『主城のことより自分はどうなのか』っすか……?うぐ……これは痛いことを言...

[花嫁衣装]許昌城

]許昌城うーん……。ううーん……。……おや、殿か?すまない、考え事をしていて来訪に気づいていなかった。この間、殿と話してから、結婚に関して城娘達と話をしたのだ。繁栄という目的へ至る手段としての婚姻……...

[花嫁衣装]萩城

目次1 性能1.1 特技1.2 [改壱]特技1.3 計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3性能< [花嫁衣装]チャンドラ・マハル - [花嫁衣装]新田...

[花嫁衣装]秋田城

目次1 性能1.1 特技1.2 [改壱]特技1.3 計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3性能< 延岡城 - [花嫁衣装]ロンドン塔 >[花嫁衣装]秋...

[花嫁衣装]春日山城

]春日山城うーん……。……うーん? ……うん?……殿?すみません! お越しいただいていたのに、今の今まで気づかずにいて!実は先日、坂戸城と謙信公の昔話をしてたのですが、その際、跡継ぎの話題が出たのです...

[花嫁衣装]新田金山城

目次1 性能1.1 特技1.2 [改壱]特技1.3 計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3性能< [花嫁衣装]萩城 - [花嫁衣装]アイリーン・ドナン...