美濃国―― ――関ヶ原。 柳川城
ここが……関ヶ原。 千狐
辿り着きましたね……ようやく。
世に蔓延る兜たちの本陣に……。 稲葉山城
――皆、覚悟は決まったな？ 佐久間金沢城
当然！ むしろ、
この時を待ちわびてたくらいよ！ 大仏城
ですが……ここからは、
より慎重に進んでいかないといけませんね。 久留米城
そうですね……私たちの力にも、限りがあります。
頭を討たない限り、
いつまでも戦いは終わりませんから……。 板島丸串城
兜たちの主として語られている『あの御方』……。
その居場所を、まずは捉えなければならないね。 殿
…………！ 笹原城
ん～……だけど、どこを探せばいいのかなぁ。 柳之丸
兜たちの主と言うくらいだから、
手下に堅く守られて……奥の奥の、
ずーっと奥の方に居るんじゃないかな？ ？？？
いや……その心配は無用だ。 殿
…………っ！！ ？？？
初めまして……殿。それから城娘たち。 やくも
…………！ 千狐
あの力……間違いありません。
あれが兜たちの主なの！ 那古野城
さっそくお出ましか……話が早いなっ！ ？？？
『初めまして』……か。 ？？？
そうか、思えば……。
お前たちと顔を合わせるのは、初めてになるのか。 殿
…………。 足利義昭
私の名は……足利義昭。
今となってはこの名に、大した意味は残っていないがね。 殿
…………！ 柳川城
足利、義昭……！ 足利義昭
…………。 足利義昭
ああ……複雑な心境だよ。 足利義昭
私の主観において、お前とは……長い付き合いなんだ。 足利義昭
ずっと、会いたかった……。 足利義昭
そしてずっと……この手で殺してやりたいと思っていた。 足利義昭
本当に……本当に長い間……ずっと……。 ―― ―――― 足利義昭
おかしい……過ちだ。間違っている……！ 足利義昭
私は、足利将軍家が後継……義昭であるぞ。
此の身に流れる血の尊さが……分からぬというのか！？ 足利義昭
尾張の大うつけが……百姓風情の狡猾な猿めが……。
揃いも揃って、私の言葉に耳を傾けようともしない！
畜生ども……畜生ども！ 足利義昭
……だというのに、ああ。
老いていく、弱っていく。
死の足音が、着々と迫ってくる。 足利義昭
だが……諦めはせぬ。
果たすことはできなくとも……この願いは潰えぬぞ。 足利義昭
私のこの願い……だけは……。 ―― ―――― 足利義昭
…………。 足利義昭
…………ん？ 足利義昭
なぜ……私は生きている？ 足利義昭
病に倒れ、床に臥し……。
全てが終わった……そのはずだ。 足利義昭
何故、終わらない……私はどこへ向かう？
この苦しみは……いつまで続く？ ―― ―――― 足利義昭
あれから……どれだけの時が過ぎた……？
私はいつからここに居る？ 足利義昭
……いや。そもそも……私とは何だ？ 足利義昭
確かなのは……魂を焦がす程の、憎しみ。
時を経る毎に、それだけが際限なく高まっていく。 足利義昭
自らを象る輪郭が崩れて、この暗闇に溶け出していくようだ。
この憎悪が……遍く世へと広がっていくようだ。 足利義昭
私の居ない世界は……なおも進んでいく。
小競り合いを繰り返しながら失墜し、迎合し……。
無数に存在した勢力が徐々に数を減らしていく。 足利義昭
直に日の本は、一つに結束するのだろうか。
それこそが……歴史が歩むべき、正しき道筋なのだろうか。 足利義昭
ふふ……ふふふふ……。 足利義昭
……否。断じて否。
何が戦国……何が決戦。……何が太平だ？ 足利義昭
間違っている。今の世は過ちだらけだ。 足利義昭
憎い……憎い憎い。
憎い憎い憎い憎い憎い……此世の全てが憎い。 足利義昭
幾星霜を経ようとも……。
この憎悪が色褪せることだけはあり得ない。 足利義昭
西も東も関係ない……。
今の世を謳歌する畜生どもに災厄を……災厄を！ ……時を同じくして。関ヶ原ではこの時、
天下を二分する大合戦が幕を引こうとしていた。 ゴゴゴゴゴゴゴ―――― 戦局は東軍に傾き、
勝敗が決する――その時だった。
紅蓮の炎を纏った『災厄』が、空から墜ちてきたのは……。 それは因果か……偶然か。
その身全てを此世への『憎悪』と化した、
彼の願いに応えたのか……それとも―― 足利義昭
これは……なんだ？ どういうことだ……？
燃える、燃える……燃えていく。
関ヶ原に集った兵どもが、次々と……。 足利義昭
……む？ 足利義昭
なんだ……これは。
この手触りは……石？ いや、珠……か？ 足利義昭
凄まじい力を感じる。
此世のものとは思えぬほどの……。
これは……いつからここにあった？ 足利義昭
ふふ……ふふふ、ふふふふ……。
いや……もう思い悩むことはあるまい。 足利義昭
これは運命……あるいは、私の力が手繰り寄せた奇跡。
この珠があれば、全てが意のままだ。 足利義昭
さぁ、行こう。新たな世の始まりだ。
壊していこう……正していこう。
此世が犯した過ちを、塗り替えよう。 ―― ―――― 足利義昭
…………。 足利義昭
長い……長い、道のりだった。 足利義昭
だが、その旅も……ここで終わる。
この戦いを以て、幕引きだ。 殿
…………。 柳川城
あれが『あの御方』……。
全ての兜を生み出す存在……！ 足利義昭
さぁ……始めよう。そして終わらせよう。 佐久間金沢城
望むところよ……一番槍は私に任せて！
はああぁぁぁぁっ――！ 佐久間金沢城
――ん、なに……この感覚……？ 柳之丸
どうしたの……サクカナちゃん？ 佐久間金沢城
分からない……分からないんだけど、
巨大化して応戦しようとしたら……何か、違和感が……。 今川館
考えられる原因は……一つしか無いな……。 殿
…………。 足利義昭
私は、世の理に触れることを許された……尊き存在。 足利義昭
城娘が持つ『巨大化』の力にしてもそうだ。
それは此世に満ちる力の数多ある使い道……その一つに過ぎない。 足利義昭
私が望めば……それらを制することは、難しくはない。 千狐
敵が……城娘たちの能力に、
干渉してきてるというの……？ 柳川城
多少の難儀は覚悟の上でしたが、
これは、苦しい戦いになりそうですね……。 殿
…………。 殿
…………！ 柳川城
承知しました。出陣します！
それでは、殿……どうか、聡明な下知を！ | 
