ストーリーテキスト/第69話_如何なる運命でも_~播磨~

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第69話 如何なる運命でも ~播磨~[]

巨大兜による砲撃、その刹那に見た微笑み。
それは現か幻か……立ち上る砂埃が晴れた先で
殿たちが目の当たりにしたものとは……。

前半

――――

巨大兜が放った砲撃が着弾し……、
激しい爆発音と共に、砂埃が舞い上がる。

固く目を瞑り、
身を寄せ合っていた一行は……やがて、
恐れていた痛みと衝撃が訪れなかったことを知る。

そして、砂埃が晴れると……その向こうには――

やくも
…………。

やくも
……あれ? ぶ、無事だに?
てっきりうちは、あの砲撃でやられてしまったんかと……。

千狐
これはいったい……?
もはやこれまでかと、覚悟を決めて――

千狐
――コンッ!!
待って……そこに誰か倒れていますよ!?

立花山城
ぅぐ……あぁ……はぁ、はぁ……。

千狐
た、立花山城さんっ!
貴方がどうしてここにっ!?

柳川城
……立花山城? あ、貴方が……?

柳川城
(ドクン……ドクン……ドクン……)

柳川城
(なんでしょうか……この感覚は)

柳川城
(知っている……? いや、分かる。
 私の心が彼女のことを……覚えて、いる……)

椿尾上城
見ろ、酷い怪我だ!
……すぐに手当てをしなければっ!

千狐
せ、千狐の力を注ぎます!
少しでも力を取り戻してくれれば良いのですが……!

立花山城
待っ……て。大丈、夫……だから。少しだけ、殿と……。

立花山城
殿……殿は、どこ……?

殿
…………!

立花山城
――ねがい、……を……って……。

殿
…………?

立花山城
……手を……おね、がい……。

殿
…………。

震えながら差し伸べられた立花山城の手に、
そっと……殿の手が重ねられる。

立花山城
…………。

立花山城
ああ……暖かい。
この感触……分かる。貴方の手のひらだわ。

立花山城
無事だった、のね……。
あぁ……良かった。

立花山城
……お願い。強く……もっと強く、握って……?

殿
――…………ッ!?

――

――――

立花山城
貴方、どうやら死にたいようね……!

峻厳たる声音と共に、朔夜の如き漆黒が眼前に広がり、
闇を従えるようにして、少女が現れたのだ。

殿
(――天女の類いか……!?)

陰を背負いながらもなお暗く、その妖艶な姿に
殿はここがあの世ではないのかと一瞬疑った。

程なくして、"謎の敵兵"は地に倒れ伏した。
少女の操る癒やしの気が殿に力を与え、勝利へと導いたのだ。

立花山城
私の名は『立花山城』……。
伝えなければならない事は山ほどあるけれど、今は敵の殲滅が先よ。
さあ殿、立って?

立花山城
新手の敵が来るわよ!

――――

立花山城
……ほら、じっとしてなさい。
今、治してあげるから……。

立花山城
……ったく。無理は禁物って、日頃から言ってるじゃない。
私よりも貴方の命の方が、
よっぽど大事なのよ……分かってる?

立花山城
……な、なにニヤニヤしてるのよっ、ばか!
私はただ、当たり前のことを言っただけでしょ?

立花山城
……にしても。
この世界で兜に立ち向かえるのは、
貴方と私以外に居ないのかしら……?

立花山城
私以外の城娘が顕現していたって、おかしくないのに……。

立花山城
……なんて、無いものねだりをしても仕方がないわよね。
私は立花山城。貴方を守れなきゃ、
何のために生まれたのか分からなくなっちゃう……!

立花山城
癒やすだけじゃ……駄目なのよね。
兜を討つ力を備えなきゃ、私たちに未来はない……。

立花山城
見ててね……殿。
次の戦では、兜たちに目にもの見せてやるんだから!

――――

村の子供
く、苦しい……苦しいよぉ、お母さん……。

村の女
ぅぐ……く、苦しい。
村の皆が、次々と……どうして、こんなことに……?

立花山城
こ、これは、もしかして……?

立花山城
待って。それじゃ、貴方は……。
これまで……私の隣に居ながら、ずっと――

立花山城
――ち、違うの。こんなはずじゃないの。
……ごめんなさい。

村の老人
見つけたぞ、あの少女だ!
仲間の仇を追え! 追えええ!

立花山城
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ

――――

織田信長
フウウゥゥゥゥ……。
ようやく……ヨウヤク、此の時が訪れたノダ……。

立花山城
ごめんなさい……ごめんなさい。
私をかばったせいで、こんなことに……。

立花山城
血がこんなに……全然止まらない。
殿の身体が、どんどん冷たくなってく……。

立花山城
このままじゃ……嫌。
嘘よ……こんなの、嘘。

立花山城
ねぇ……ねぇってば。
返事をして……お願い、だから……。

立花山城
…………。

立花山城
…………誰か。

立花山城
ねぇ……見ているんでしょう?
神様でも何でもいい……誰か、この人を助けてよ。

立花山城
この人を守るためなら、
私はどうなっても構わない……だから、誰か――!

織田信長
……諦メヨ。

織田信長
ココが貴様らの運命の、終焉……。
案ズルことはない。
すぐに貴様も同ジ場所へ送ッテやろう。

織田信長
ヨクゾここまで生キ抜いた。
世ヲ守るための孤独ナ戦……敵ながら天晴。

織田信長
貴様の最期は、予が手づから下シテやる。
褒美代ワリだ……受ケ取レ。

織田信長
……さらばダ。

立花山城
…………。

立花山城
…………い、いやぁ……。

立花山城
……いやああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ

殿
――…………。

立花山城
殿……ねぇ、殿……?

立花山城
私……頑張ったよ?
振り返ったら、辛いことばっかりだけど……。
何度も諦めかけて……足を止めたけど。

立花山城
できることは……思いつく限り、全部やったの。

殿
…………クッ。

立花山城
ごめんね……こんなことを言っても、困っちゃうよね。
分かってる……けど、どうしても伝えたかったから……。

立花山城
平気よ。片想いには……慣れっこだもん。

立花山城
世界が幾度、巡っても……、
貴方がどんな貴方でも。
私はきっと、この運命を受け入れる。

立花山城
……だから、良いの。

立花山城
これで、良いの……。

千狐
動かないでください、立花山城さん!
傷に障りますから、安静に――!

石田三成
グガアアァァァァァァァアアア!!!

殿
…………!

椿尾上城
……き、巨大兜がまた、力を溜め始めたようだぞ!

赤穂城
こっちは怪我人を抱えてるんだぜ!
少しくらいは休ませてくれてもいいのによ……ちくしょう!

殿
…………。

柳川城
(……このままでは、全滅は免れない……!)

柳川城
(殿を生かすために、成すべきことを考えなければ。
 何に代えても殿の命だけは――!)

???
……ふぅ。

???
……まったく。酷い有様だな、おい。
城娘たちが不安がってるじゃないか。

殿
…………?

???
……立て。立つのだ。
此奴らの主は、お前なのだろう……『殿』?

???
辛くても、苦しくても……こいつはお前の役目だ。
力を貸すことはできても、
代わってやることだけは……誰にもできない。

殿
…………。

???
よく見てみろ……奴の姿を。

石田三成
グガ、グギ、ギ……ギィィィイイイイ……!!

???
大きな力と悪意によって……歪められてしまっている。
当人すらも望まぬ形でな。

殿
…………。

???
あまりに惨い姿だ、これ以上は見てられん。
せめてもの手向けとして……戦の中で逝かせてやってほしいのだ。

???
他ならぬこの私からの願いだ。
……聞き届けてもらえるだろうか?

柳川城
…………。

柳川城
(貴方は……もしかして……)

殿
…………。

柳川城
殿……ご下知を!
皆が貴方の言葉を待ちかねていますよ!

柳川城
私の手を取って……さぁ、立ち上がりましょう!

殿
…………。

殿
…………!

後半

石田三成
グ……ゥググガァァァアアアアア!?

石田三成
フゥ、フゥゥウウ……!
グギ……ギィ……。

千狐
――コンッ! やりました!
巨大兜の力が失われていきます!

殿
…………。

???
怒っても仕方あるまい……既に勝敗は決したのだ。

???
お前の想いは……私や、
ここに居る者たちが未来へ連れていくだろう。

石田三成
…………。

???
だから……お前はもう休め。
先に逝って、ゆっくりするといい……。

???
いつか……。
どこかの世でまた巡り逢えたら、その時はよろしく頼む。

???
……では、さらばだ。

石田三成
…………。

石田三成
……………………。

やくも
…………。

やくも
き……巨大兜は……?

???
完全に力を失って……沈黙した。
『あの御方』の介入でもない限り、もう動くことはないだろう。

赤穂城
そ……そんじゃ、もう安心して良いってことだな?
ふぃ~~……やっと一息つけるぜ……。

椿尾上城
…………。

椿尾上城
(……悪寒が、止んだ?)

椿尾上城
(では、やはりこの巨大兜が源だったのか……いや、それとも……)

殿
…………。

???
……ふぅ。これにて落着、か。

???
間一髪というところだったが……、
手遅れにはならなかったようだな。

赤穂城
……おい、そこの赤髪のねーさん!
あんた……いきなり現れて、あっちらの手助けをして……、
いったい、何が狙いなんだ!?

やくも
そもそも、どーして倒したはずの巨大兜が現れたんだに……?

???
待て、待て……。
順序を誤れば取り返しはつかないぞ。

???
何をおいても、まずは立花山城だ。
彼女の容態よりも優先するべきことは、他にあるまい?

柳川城
――っ、そうです! 立花山城さんは?
彼女は無事なのですかっ!!

千狐
――こちらです!
立花山城さんは、ここに!

立花山城
はぁ、はぁ……はぁ……。

千狐
ダメなの……。
さっきから、ずっと……力を注いでいるのに……!

千狐
このままでは、応急処置にもなりません。
一度床に寝かせて、しっかりと手当てをしなければ……!

立花山城
ぅ……声が、聞こえる……?

立花山城
皆は……?
殿は、城娘は……無事なの?
巨大兜は、倒せたの……?

柳川城
はい……巨大兜は討伐できました……。
で、ですが……。

立花山城
…………?
その声は、柳川城……ね?

立花山城
本当に……忌々しい女。
自分がどれだけ恵まれているかも知らずに、
のうのうと生きながらえて……。

柳川城
立花山城さん……。

殿
…………。

立花山城
でも……私の力じゃ、
この人を……この世界を、幸せにできない……。

立花山城
私じゃ……駄目なのよ。

柳川城
…………。

立花山城
殿の隣に居るのは、貴方じゃなきゃいけない。
だから柳川城……お願い。

立花山城
戦って……勝って、勝ち続けて……生きなさい。

立花山城
お願い……お願いよ……。
私の愛する人の未来を……守って。

立花山城
私には……もう…………。
こ、……か……でき……い……から……。

立花山城
……ごめん、ね……。

立花山城
…………。

立花山城
……………………。

柳川城
……立花山城さん?

柳川城
立花山城さん……立花山城さんっ!
起きてください、目を覚ましてください!

???
不味いな。手遅れでなければ良いのだが。
……おい、殿。すぐに所領へと出立を――

殿
…………。

殿
…………。(ふらっ)

――バタァンッ!

柳川城
と、殿……? どうしたのですか、殿っ!?

???
まったく……次から次へと、忙しない……!

???
……千狐、転移術の用意を。
すぐに所領へ向かってくれ。

千狐
は、はい……ですが……!

???
……出会ったばかりの私が、信用できないか?

???
分かった……。
ならば、ここで名を明かしておこう。
……すでに察しの付いている奴も居るだろうがな。

石田三成
私は『石田三成』……兜娘の一人だ。
ひとまず……お前らと敵対するつもりはない。
味方と思ってくれていい。

やくも
――んなっ!?

千狐
い、石田三成……?
かぶと……むすめ?

柳川城
やはり……そうだったのですね。

柳川城
敵対するつもりはないということは……、
先程の私たちの疑問にも、
答えてくれる……そう考えて良いのですね?

石田三成
もちろんだ……私は、そのつもりでここに来たのだからな。

石田三成
腰を落ち着けたら……私が知る限りのことを教えよう。

石田三成
決戦が始まる……その前に。

――――

九尾
……決戦、とな。

九尾
……そうか。
お前はこれから始まる戦を、そう評するのか。
くふ……くふふ……。

九尾
それにしても……考えもしなかった。
まさかこの妾が、此世に夜明けが訪れることを期待するとは。

九尾
しかし、それも無理からぬ事。
『殿』がこれほどよく戦ったのは、いったいいつ以来のことか。

九尾
…………。

九尾
じゃが……それに比べ、
神娘を名乗るあの狐の、情けなきこと……情けなきこと。

九尾
これは妾が一つ、叱ってやらねばいかんのう。

九尾
くふ……くふふ……。

――

――――

立花山城
…………い、いやぁ……。

立花山城
……いやああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ

――

――――

???
……む? そこに居るのは柳川城か……。
いや、違うな……此奴はいったい――?

???
…………。

???
……おい、起きろ。兜に踏み潰されてもしらんぞ。

立花山城
…………。

???
……こら、起きろっ! 起きんかーっ!!

立花山城
…………っ!?

立花山城
こ、これは……?

立花山城
(私……生きてる?
 そんなわけが……私は確かに、巨大兜の手で命を……)

???
呑気な奴め……。他の城娘たちは今頃、戦いを繰り広げているというのに。

立花山城
……え? ……し、城娘?

立花山城
貴方、今……城娘って言った?
ちょっと待って……ここには私以外の城娘が居るのねっ!?

???
ふ……兜が居るのだ、当然だろう。
各地で今も、民を守るために戦っているはず。

???
……無論、
殿の下で戦う城娘も、数多く居るがな……。

立花山城
…………っ!!

立花山城
……殿が、城娘と戦っている……?
ど、どういうことなの……これは……。

???
初々しい反応だな……いつかの自分を思い出すようだ。

???
混乱するのは無理もない。
だが……難しく考えることはない。

???
……貴殿の妄想か、神のお告げか。
はたまた、どこかの世界の『私』が迎えた結末か。
それは、貴殿の好きなように受け取れば良いのだ。

立花山城
…………。

???
……何であれ。確かなのは、
此世はまだ、兜の手には落ちていないということだ。

???
城娘の存在は先に申した通り。
……そして当然、殿も存命だ。
貴殿が見た『結末』はまだ、遥か遠くにある。

立花山城
……貴方はいったい何者なの?

???
天下の布武を追い求める者、とでも答えておこうか。
城娘としての願いに生きる者……でも良いか。
……ふふっ。

立花山城
布武……願い?

???
……”兜の野望を砕く”ことだ。
そして……此世を奴らの手から救わねばならぬ。

???
我や……貴殿の中にある『結末』の記憶。
それは此世を救いへと導く、心強い助けとなるはず。
……貴殿が抱えた願いを叶えることにもつながるだろう。

立花山城
私の願い、それは……殿を守ること……。

立花山城
貴方は私に……、
もう一度それを目指せって言うの?

???
……怖いか?

立花山城
…………。

???
……諦めるというのなら、止めはせぬ。
戦に背を向けて生きることも、一つの選択だ。

立花山城
…………。

立花山城
……ううん。

立花山城
今の私に何ができるかは分からないけれど。
殿は……私の全てだから。

立花山城
……殿を守りたい。
私の命と引き換えにしても。

???
うむ……そうか。ならば好きに生きるがよい。

???
…………。

???
しかし、決して気は抜くな……。
危機とは常に、思いもよらぬ形で訪れる。

???
我や貴殿のように、別の世に起源を持つ者は、
敵方にも存在するのだからな……。

立花山城
…………。

立花山城
ええ……分かったわ。
色々教えてくれて、どうもありがとう。

???
最後に……これだけは覚えておけ。
敵は、全知でなければ全能でもない。

???
勝利は貴殿が思っているほど遠くはない。
夜明けは確実に近づいているのだ。

立花山城
…………。

立花山城
もう……同じ過ちは繰り返さない。

立花山城
貴方のことは、私が守り抜いてみせるからね……殿。

立花山城
……そうだ。
最後に、貴方の名前を教えてもらえるかしら?

???
……うむ、良かろう。
貴殿とはまた相まみえることになるだろうからな。

岐阜城
我は……天下布武の宿願を背負い、
狭間にて命を宿し、この世にて生を受けた城娘。
……『岐阜城』だ。



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