ストーリーテキスト/硝煙纏いし三世の縁

ページ名:ストーリーテキスト/硝煙纏いし三世の縁

目次

硝煙纏いし三世の縁[]

硝煙纏いし三世の縁 -序-

涼風そよぐ所領にて、談笑している柳川城たち。
曇天続く日々から晴天か雨の到来を願う
やくもだったが、来たのはとある城娘だった……。

前半
――所領。

柳川城
すっかり涼しくなってまいりましたね。

久慈城
本当に。夏の暑さが嘘だったかのようです。

やくも
……でもここのところ曇り空が多くて今一つすっきりしないだにぃ。

やくも
ぱぁーって爽やかに晴れるか、
ばーって雨が降ってほしいがや。

千狐
そう言われても天気のことはどうしようもないわよ……。

青葉城
話は聞かせてもらったぞ!

久慈城
じぇじぇじぇ!?

やくも
あんたは確か……青葉城!?

青葉城
久しいな、アミーゴ!
変わらず元気そうで安心したぞ。

青葉城
それはそうと、天気がすっきりしないというのなら
いっそ雨乞いをしてどどんと雨を降らせてみるというのはどうだ?

柳川城
あ、雨乞いですか?

青葉城
あるいは大砲でも持ってきて雲を吹っ飛ばして晴天に変えてみるか?

千狐
そ、それは効果があるのでしょうか?

青葉城
分からん!

青葉城
だが誰もやっていないのなら、やってみる価値はあると言えないか?

やくも
何というか……破天荒さは相変わらずだに。

青葉城
はっはっは、褒めても土産のずんだ餅くらいしか出ないぞ。

久慈城
……と、ところで今日は所領に遊びに来られたのですか?

青葉城
いや、救援要請をしに来たんだ。

柳川城
救援要請!?

青葉城
ああ。済まないが殿はどちらにおいでかな?

千狐
千狐が案内いたしますわ、こちらです。

青葉城
うむ、感謝する。

――屋内。

青葉城
やぁ、殿。元気そうで何よりだ。

殿
…………?

青葉城
あぁ、救援を要請したいというのは本当だ。

青葉城
ここ一週間で突然兜たちが攻め入ってくる数が増えたんだ。
これ以上増えてしまえば我々の手に負えなくなる可能性がある。

青葉城
何でも先んじて動くことが大事だ。
なれば、私が信頼している殿たちに助けを乞うのは当然と言えよう。

久慈城
……我々、と仰いましたね。
青葉城さんの他にはどなたがいらっしゃるのですか?

青葉城
白石城という城娘だ。
私の腹心と言っても過言ではない。

やくも
むむ……青葉城の腹心ってことは、
おんなじくらいぶっ飛んでるがや?

青葉城
はっはっは!
そうだったならきっと騒がしい毎日が送れただろうな!

青葉城
だが、白石城は真面目な城娘でね。
いつも私を支えてくれる、そんな子だよ。

柳川城
青葉城さんにとって、とても大事な方なんですね……。

青葉城
あぁ、そうだ。

青葉城
それで、殿。
お願いはできそうかな?

殿
…………!

青葉城
ふふ、感謝するぞ。

千狐
では、仕度が整い次第
白石城さんの許に向かいましょう!

――陸奥国。

千狐
殿、転移術は無事成功しましたわ!

久慈城
白石城さんはどちらに……?

青葉城
ふむ……。

青葉城
おぉ、いたいた。
あそこだな。

青葉城
白石城、待たせたな!

白石城
……青葉様、今どういう状況かお分かりでいらっしゃいますか?

青葉城
ん?


――ザッ!

兜軍団
――ザザザッ!!

青葉城
あぁ、兜どもと対峙しているな。

青葉城
さて、皆。
早速で悪いが力を貸してくれ。

久慈城
じぇっ! もちろんです!

殿
…………!

柳川城
ええ、迎え撃ちましょう!
殿、御下知をお願いいたします!

後半
柳川城

……ふぅ。ひとまずこれで落ち着けますね。

白石城
まずは突然の救援要請について、謝罪いたします。

白石城
ですが、お陰で助かりました。
ありがとうございます。

殿
…………!

久慈城
いえいえ、無事で良かったです。

白石城
改めまして、私は白石城。
青葉様の支城であり、身の回りのお世話などもしております。

白石城
青葉様よりお話は伺っております。
何でも、青葉様とは旧知の仲であり、兜たちとも戦い慣れているとか?

青葉城
ああ、彼らの力は本物さ。
それは、先の戦いを通じてお前も理解しただろう?

白石城
確かに、見事な采配でした。
皆様の助力があれば、とても心強いですね。

柳川城
困った時はお互い様です。
遠慮なく、私たちを頼ってくださいね。

青葉城
ふふっ、頼んだぞ!

千狐
ところで……何故此地が兜に狙われているのでしょうか?

白石城
……詳細な理由まではまだ予測しかできておりません。
ですが、どうやら煙硝蔵を狙っているようなのです。

やくも
煙硝蔵?
それってもしかしてあの建物かや?

白石城
ええ、そうです。
あの中には火薬が詰まっているのです。

千狐
火薬……!?

青葉城
そう、私専用のな。

久慈城
青葉城さん専用……とは、
つまりお持ちになっている銃で使う弾薬用、ということでしょうか?

白石城
ええ、その通りです。

白石城
一緒に硝石や硫黄、木炭といった原材料なども保管しておりますが、
まぁ、火がついたら、最悪ここら一帯が爆発四散するものとお考えいただければと。

殿
…………!?

柳川城
そ、それは恐ろしいですね……。

青葉城
そこは心配していないがな!
何せ私と白石城が守護する此地に君たちが来てくれたのだから。

青葉城
万が一にも吹っ飛ばされる心配はしなくて大丈夫だろう。

やくも
あり得るかもしれないから『万が一』って言うけん、安心できんがや……。

白石城
そうならないために、どうかお力をお貸し願えればと。

青葉城
そんなに心配そうな顔をせずとも大丈夫だぞ白石城。
殿たちは信頼できる猛者だからな!

白石城
……青葉様が調子に乗ることの方が私は怖いですけれど。

青葉城
そうだとしてもお前が止めてくれるだろう?

白石城
……まぁ、できる限りは、ですが。

柳川城
(多分青葉城さんのことですから大丈夫だとは思いますが……)

久慈城
では、陣立てを整え、
兜の襲来に備えるといたしましょう、御屋形様!

殿
…………!

硝煙纏いし三世の縁 -破-

白石城が治める領地を共に守護するために、
早速陣立てを整えた殿一行。
だが、とある兜の影が急速に差し迫っていた……。

前半
――殿たちが陣立てして数刻後。

青葉城
そうだ、やくも。
天気の件だがどうする?

やくも
天気……って、所領で話してた、
雨乞いだとか大砲で吹っ飛ばすとかの話かや?

白石城
……大砲で吹っ飛ばす?

青葉城
ああ。ここのところ所領の方では曇りが続いてるようで、
それでいっそ晴れか雨にしたらどうかという話になってな。

青葉城
そのための手段として雨にするための雨乞いか、
晴れにするために雲を大砲で散らすというのはどうかと提案したんだ。

白石城
はぁ……。
青葉様、他所で無茶苦茶はやらないでくださいねと言っているのに。

青葉城
む、心外だな。
まだ何もしてないぞ。

白石城
思いっきりやろうとしてるじゃないですか!

白石城
その方法だって、自分のところで試してみたわけじゃないんですから。
せめて確かめて結論を出してから人に勧めなさい!

青葉城
何だ、ここでやるのならいいのか。
じゃあ戦が終わって落ち着いたら試してみるぞ。

白石城
でしたらご自由にどうぞ。

柳川城
あ、止めたりはしないのですね……。

白石城
言ったところで青葉様は聞きませんからね。
とにかくやらせてみて学習させようと思いまして。

久慈城
な、なるほど……?

白石城
本当に危ない時にはさすがに私も止めますが……。

青葉城
ん? ということはエスパニョール式の挨拶をしようとした時、
頬に二度接吻するのだけはやめろと言っていたのは……。

白石城
単にはしたないからです!

青葉城
だがエスパニョールではこれは普通のことで……。

白石城
いいですか? いくら青葉様が気に入っていたとしても、
日の本とエスパニョールでは文化が大きく異なります!

白石城
ただでさえ相手をいきなり抱きしめるだけでも混乱を生みかねないのに、
加えて頬に二度も接吻などしてご覧なさい!

白石城
相手が悪ければ良くて喧嘩、下手したら戦いに発展しかねませんよ!

青葉城
むぅ。

白石城
ですから、やるならせめて親交の深い相手とだけにしてくださいね。

青葉城
……分かった。

青葉城
じゃあ、明日からお前との挨拶でだけ接吻することにする。

白石城
そうですか。それなら……。

白石城
……えっ、い、今なんて言いました?

青葉城
親交の深い相手となら構わないと言ったのはお前だぞ?

青葉城
だったら、一番深い仲であり、
かつエスパニョール式の挨拶を知っているお前が適任じゃないか。

白石城
い、いや、確かにそうは言いましたが……。

青葉城
いいじゃないか、接吻くらい。
今更恥ずかしがる仲でもないだろう?

青葉城
……それとも、お前は私との接吻は嫌か?

白石城
いえ、その……嫌とかそういう問題ではなくてですね。
……わ、私は、そのぉ…………。

白石城
……って、青葉様!
私をからかうのはやめなさいと、いつも言っているでしょう!

青葉城
はっはっは。
そんな愛い反応を見せられては、やめる訳にはいかんなぁ。

白石城
全く、貴方ときたら……。

白石城
……あ、み、皆様。
大変お見苦しきやり取りを見せてしまい申し訳ありません。

やくも
なんだかよく分からんけど、二人は仲がええんやね!

殿
…………!

青葉城
まぁ、白石城は私にとって乳母にも等しき相手だからな。

白石城
私の城主と、青葉様の城主の関係も同じようなものですからね。
それがそのまま、移ったのでしょう。

柳川城
城主の縁からでしたか。
それなら親しいのも道理ですね。

久慈城
ところで、青葉城さんがえすぱにょーるという国の
挨拶にこだわってる理由は何なんでしょう?

青葉城
あぁ、日の本式の挨拶より、
もっと親交の深さを示せると思ってな!

青葉城
あの国はとにかく文化がカッコいい!
人々も陽気で情熱的だったし、エスパニョールは良いぞぉ!

柳川城
すると、青葉城さんはエスパニョールを訪れたことが?

青葉城
もちろんだ!

白石城
ある日突然、友達を作りに行ってくる、と仰るので了承したら、
いきなり大きな船を造り荷物を積み込み始めて……。

白石城
てっきり国内の話かと思っていたので、どこに行くつもりなのかと聞いたら
エスパニョールと言われて頭を抱える羽目になりましたよ……。

久慈城
(えすぱにょーるという国が気になりましたけど、
 どうやら泳いで行ける距離にはなさそうです……)

千狐
き、規模の大きな話ですわね……。

白石城
結果的には、無事に帰ってこられてよかったですけど。

青葉城
やはり、これからは日の本の外にもどんどん目を向けていくべきだからな!

青葉城
な、殿もそう思うだろう?

殿
…………。

やくも
はぇー、殿さんも色々考えてるんやね……。

やくも
…………ん?


――ザッ!

兜軍団
――ザザッ!!

柳川城
兜が再び来ましたね……!

青葉城
ふふ、では再び迎撃と参ろうか。

白石城
派手に暴れるのは構いませんが、
うっかりで流れ弾を蔵に当てないでくださいね。

青葉城
はっはっは、それで炎上するもまた戦の華だな!

青葉城
さぁ殿。
華麗で洒脱な下知を頼む!

後半

セメテ、ヒトツダケデモ持ッテ――。

青葉城
させるか! これで終いだ!

兜軍団
ギャアアアァァァアアアアア!

青葉城
――アディオス。

青葉城
ふふっ、決まったな。

白石城
相変わらずお強いのは結構ですが、
戦闘に無駄が多いのが気になりますよ。

青葉城
仕方ないじゃないか、カッコよさを優先しているのだから。

青葉城
それに、できた隙はいつだってお前が埋めてくれるしな。

白石城
私が青葉様のご面倒を見られないなら、
他の誰も貴方を見られませんからね。

白石城
……さて、それはそうと、これまでの戦いにより見えてきたことがあります。

久慈城
と、言いますと……?

白石城
まず、此度の兜たちの狙いは蔵にあるということ。

白石城
そして、先程の兜の発言……。
どうやら何かを持っていこうとしているということ。

青葉城
多分、煙硝蔵の中身が欲しいんだろう。

青葉城
だが、兜がわざわざ此地にある私の弾薬や火薬を
持っていこうとするのも不自然だ。

青葉城
これまで、此地周辺ではそれほど兜たちは活発ではなかった。
だが最近になって急に押し寄せて来るようになったということは……。

白石城
……兜たちに指示しているものが存在するということでしょうか?

青葉城
推測に過ぎないがな。

千狐
……いえ、確かに急速に巨大な霊気が近づいてきていますわ!

柳川城
なんと……!

白石城
当たりですね。

青葉城
ということは巨大兜がこちらに向かってきているということ……。

白石城
加えて、此地と青葉様に縁のある煙硝蔵の中身を欲している……。

青葉城
その時点で相手の巨大兜が冠する名はある程度絞れるな。

久慈城
陸奥に縁のある巨大兜……ということでしょうか?

青葉城
ああ、そうだろうな。

青葉城
ちなみに、弾薬なら私のところにも一応はある。
それでも白石城の許に来たということは……。

青葉城
おそらく……相手は、白石城にも縁のある者。
すなわち、片倉小十郎の名を冠した巨大兜だ。

片倉小十郎
――フゥゥゥ……サスガの御明察でゴザイます、青葉城様。

硝煙纏いし三世の縁 -急-

ついに片倉小十郎の名を冠する巨大兜が姿を現した。
白石城の治める此地を踏み荒らし略奪を目論む
敵に容赦はいらない、打ち破れ!

前半
片倉小十郎

――フゥゥゥ……サスガの御明察でゴザイます、青葉城様。

殿
…………!

千狐
片倉小十郎の名を冠する巨大兜……!

片倉小十郎
……オヤ、貴方ガタもいたノデスね。
若君への手土産がココデ増やせるト良いのデスガ。

久慈城
手土産……?

白石城
大方、殿たちの首級を伊達政宗の名を持つ巨大兜に、
という魂胆なのでしょう。

白石城
ですが……一度敗れた相手の前だというのに、
ずいぶんと余裕がおありのようで。

青葉城
どうせ何か策でも用意しているのだろう。

青葉城
仮にも片倉小十郎の名を冠しているのだ。
奴の知恵は侮れぬ。

青葉城
……だがそれでも粋に決めてみせるのが私の流儀だがな。

白石城
……青葉様は巨大兜を前にしても変わりませんね、本当に。

青葉城
それはそうだろう。
いつ如何なる時でも粋や洒脱を愛するのが私だからな。

片倉小十郎
……マァ、コチラもこの侵攻ヲ読マレテいることハ重々承知ノ上。

片倉小十郎
それデモ、此度ハ致し方ナキこと……。
ナレバ、できるダケ早く用件ハ済マセたいトコロですね。

白石城
……用件、ね。

白石城
何を求めるにしろ、主君の許に真っ先に馳せ参じようとしないとは。
所詮は虚魂、忠義も実の伴わないものですね。

片倉小十郎
フフ……ご忠告痛ミ入リます。

片倉小十郎
シカシ、此度ノ戦はムシロ若君のタメノ戦デモあるノデス。

片倉小十郎
此地ノ霊力ヲ帯びた弾薬ヤ硝石ヲ手に入レ、
それから向カウのが最善ト判断したマデですよ。

青葉城
……なるほど、つまり今、伊達政宗の名を冠した巨大兜は
まともに戦える状態ではないということか。

久慈城
ええっ?

柳川城
それは……もしや、以前私たちと戦った時の傷が癒えていないと?

白石城
えぇ、おそらくはそうなのでしょう。

白石城
以前青葉様から伺った限りでは、
貴方がたは伊達政宗の名を冠した巨大兜を陸奥の地にて退けたことがおありとか。

千狐
えぇ、その通りですわ。

白石城
聞いた時期から察するに、
おそらく伊達政宗の名を冠した巨大兜がまだ回復しきっていないのでしょう。

白石城
なればこそ、此地の霊力をまとった品々を欲するのも道理と言えます。
目的は縁の深い品々を使うことでの霊力の補填でしょうから。

青葉城
確かに、私のかつての城主は伊達政宗だ。

青葉城
その名を冠した巨大兜が、
私と白石城が治める此地に関係するものを欲しがるのもわかる。

青葉城
……だが、我が城主ですらない偽物の存在に、
わざわざ私のものをくれてやる道理はない。

久慈城
当然です!
敵にただで物資を差し出すなど、ありえませんから!

青葉城
ましてや、私の弾薬だぞ?
持っていかれては単純に困るからな。

片倉小十郎
エエ、そういう反応モ自明デショウとも。

片倉小十郎
デスカラ、力づくデモ頂イテいくダケです。

青葉城
ま、そうなるのだろうな。

白石城
青葉様、こんな時までカッコつけてる場合ではないですよ。

青葉城
そうは言っても、私が動揺してしまっては示しがつかないだろう?

片倉小十郎
――フゥゥゥ……茶番ハ終わりマシタか?

片倉小十郎
デハ、蔵ノ中身ヲ頂きまショウ!

柳川城
来ます……!
殿、ご下知を!

白石城
さぁ、兜たちを排除いたしましょう!

後半
白石城

やあああぁぁぁぁあっ!

片倉小十郎
グゥッ……!

青葉城
おぉっ、いい一撃が入ったな。

やくも
これなら一発で倒せそうがや!

白石城
……いえ、そうはいかないようです。

久慈城
え……?

片倉小十郎
――フゥゥゥ……ナルホド、概ね予想通リとイエルでしょう。

柳川城
あまり効いていない……?

青葉城
というより、踏み込んでこないといった方が正しいか。

片倉小十郎
ヤハリ一筋縄デハ行きまセンネ……。
ココハ一度、撤退といたしマショウ。

兜軍団
――撤退! 撤退!

千狐
兜たちが引いていく……?

白石城
言葉の割に本気をあまり感じられませんね。

白石城
どうやら、これは敵情視察のつもりかと。

白石城
伊達政宗の名を持つ巨大兜の件もあります。
おそらくは現時点でのこちらの戦力が如何ほどなのかを警戒したのでしょう。

青葉城
私も同じ考えだ、白石城。

青葉城
今のは所詮小手調べ……。
次に向かってくる時が、おそらく全力を賭して来る時だろう。

青葉城
ま、とはいえそれほど深刻に考えすぎることもないさ。
こちらには殿たちもいるのだからな。

白石城
……殿たちを頼りにしているのは分かりますが、
油断は禁物ですよ、青葉様!

白石城
慢心していればいずれ足元を掬われます。
その時になってから助けを求めても遅いんですからね!

青葉城
何故だ?
だって白石城が助けてくれるだろう?

白石城
私の援護が間に合わないかもしれないでしょう!

青葉城
なんだ、それはあり得ないから大丈夫だ。

青葉城
そもそも戦の最中に、援護が間に合わないような位置に
お前が立っていたことがあるか?

白石城
……そりゃあないですよ。
万が一青葉様に何かあったら悔やんでも悔やみきれませんもの。

青葉城
ほら、な?

久慈城
なるほど、青葉城さんが信頼を置いているというのも頷けます。

白石城
……むぅ。
青葉様ったらまたそうやって。

青葉城
まぁまぁ、そうむくれるな。

青葉城
これもまた、私なりの信頼の証なのだよ?

白石城
分かってますよ。
分かってるからこそ、青葉様を甘やかして許してる自分に呆れてるんです。

青葉城
ふふ。

千狐
(……白石城さんも大変そうですね)

殿
…………!

白石城
も、もう!
殿までそんなことを仰るのですか!?

青葉城
はっはっは!
よくわかってるじゃないか!

青葉城
――さぁて!

青葉城
まだ戦は続くとはいえ、ひとまず片付いたんだ。
こちらも一時休憩といこうじゃないか。

千狐
そうですわね。
殿、ひとまずはお疲れ様ですわ。

殿
…………!

青葉城
あぁ、もちろん巨大兜への警戒は怠るまい。

青葉城
奴は冷静にして慎重……。
次にまみえる時には大胆に、しかし落ち着いてお相手しなくてはな。

柳川城
ええ、気を付けましょう、殿!

殿
…………!

硝煙纏いし三世の縁 -絶壱-

巨大兜の再度の襲来に備え、殿一行はより
警戒を強めながらもひとまず眠りについた。
その翌日、一人の城娘が準備を始めていた……。

前半
――巨大兜の襲来の翌日。

久慈城
さて、と。

柳川城
久慈城さん?
そのようなお姿でどこに行かれるのですか?

久慈城
心配しなくても大丈夫ですよ。
ちょっと近くの海に潜りに行ってくるだけですぅ。

柳川城
え、何故ですか?

久慈城
おそらく、向こうが次に来る時は苛烈な戦いとなるでしょう。

久慈城
なれば、こちらも元気を補充する必要があります。
そのために皆さんには新鮮な海産物を食べていただこうかと思いまして。

青葉城
ふむ、海女か……。

青葉城
久慈城、海女の仕事は私にもやれるだろうか?

白石城
……青葉様?

青葉城
止めてくれるな、白石城。

青葉城
殿たちはここに留まっていてくれるのだ。
なれば、主人であるこちら側がもてなすは道理。

青葉城
私自ら取ってきた食材で、少しでもその恩義に報いられるならと……。

久慈城
……お気持ちだけいただいておきますね。

久慈城
何せ、海女は一朝一夕にできる生業じゃありませんから。

青葉城
だ、ダメか?

久慈城
ええ。ただの見よう見まねでは危険が伴います。

柳川城
えぇっ?

久慈城
まず、海女は潜って海の底まで行く必要があります。

久慈城
大体十六尺半……それが平均的な深さでしょうか。
命綱をつけているとはいえ、身一つで潜るのですよ。

やくも
そ、それだけ深いのに平均がや?

久慈城
時には倍の三十三尺に及ぶこともあります。

やくも
むむむ……。

久慈城
水温の冷たさに手はかじかみ、
ともすれば岩場で体のあちこちが傷つきます。

久慈城
自分の肺活量を見誤れば、
例え命綱があっても手遅れになることも……。

柳川城
なんと……。

久慈城
そんな危険と隣り合わせの生業なので
始める前には、必ず身を清めてから海の馴染みの場所に向かい、
いつも潜らせていただける感謝の気持ちを持ち、

久慈城
頑張っても決して欲を出さずに、海の恵みをひとつひとつ
分けてもらうという姿勢でのぞみます。

久慈城
傍から見たら、潜って貝など取ってくるだけ、でしょうけれど。
生半な覚悟では海女は務まらないのです。

青葉城
……だとしても、私は海女の仕事を舐めたつもりはない。

青葉城
この心根は本気だ。

白石城
青葉様、あまり久慈城さんにご迷惑をかけては……。

久慈城
これだけ聞いても退かないんですね?

青葉城
ああ!

久慈城
じぇっ! 分かりましたっ!
じゃあ、私と一緒に潜るだけ潜ってみましょう!

白石城
え、えぇ?
いいんですか?

久慈城
何でも体験してみないと学べないって、
白石城さんも言ってましたしね。

青葉城
おぉ、感謝するぞ!

やくも
よーし! うちも行くだに!
久慈城が一緒にいるんやったら多分大丈夫がや!

千狐
ちょ、ちょっとやくも!?

久慈城
いいですよ、一緒に行きましょうか。
ここまで来たら乗りかかった舟ですから!

やくも
わーい! だんだんね!

柳川城
あの、あまり無理はなさらないでくださいね……。

久慈城
もちろんですよ。
では、行ってきまーす!

殿
…………!

青葉城
うむ、楽しみにしていてくれ!

――久慈城たちの出発から数刻後。

久慈城
じぇっ! ただいま戻りましたー!

殿
…………!

やくも
ひぃ……体が重いだに……。

青葉城
さ、さすがに慣れぬことをすると疲れるな……。

白石城
お帰りなさい。
お風呂沸かしてありますから入っちゃってくださいね。

青葉城
あ、ありがたい……。

やくも
その前に!
青葉城、勝負するがや!

青葉城
むっ、そうだったな!

柳川城
勝負……?

やくも
取れた獲物の量と質で勝負って、
向こうで決めてただに!

青葉城
そして私は受けて立ったのだ!

白石城
はぁ……。

久慈城
あ、ちゃんと危ないことしないように見てましたし、
特に何事もありませんでしたよ、白石城さん。

白石城
ありがとうございます。
わざわざすみません……。

久慈城
いえいえ。
途中から二人とも疲れたみたいで、砂浜で遊んでましたしね。

やくも
ではいざ尋常に!

青葉城
勝負!

後半
やくも

見たかや!? 数こそ少ないけど、
久慈城から太鼓判をもらったほどの巨大貝だに!

青葉城
ふふふ……やくもよ。
私の獲物は、一匹だ。

やくも
ありゃあ?
こりゃうちの勝ちかや?

青葉城
だがな、たかが一匹、されど一匹!
刮目せよ!

青葉城
でやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

やくも
何でわざわざ変身して、
って、で、でかっ!?

青葉城
見たか! これこそ我が渾身の一匹!
たまたま海中を泳いでいた巨大鮭だ!!

やくも
くぅぅ……手強いだに……!

白石城
はい、そこまで。お風呂に入ってくださいね。
体が冷えてしまいますよ。

白石城
久慈城さんもお風呂に行ってて大丈夫ですよ。
料理は私がやりますから。

久慈城
え、いいんですか?

白石城
ええ、これくらいはさせてください。
青葉様が食材を取って来たのなら、料理するのは私の役目です。

久慈城
それなら、お言葉に甘えます。
ありがとうございます。

白石城
いえいえ。

――皆が風呂に入り、出た後。

白石城
さ、ご賞味ください。

千狐
まぁ、とても美味しそうですわ……!

青葉城
白石城、私の鮭はどれだ?

白石城
はいはい。
ちゃんとこちらにありますよ。

白石城
青葉様が取ってきてくださった鮭は、
あらの煮汁で炊いたご飯にはらこと一緒に乗せましたよ。

白石城
青葉様、ずっと食べたい食べたいって言ってましたからね。
ようやくご希望のものが作れましたよ。

青葉城
んー、これこれ!

久慈城
あ、はらこ飯ですね?
ちょっと私の知ってるものとは異なるみたいですが……。

白石城
あら、そうなんですか?

やくも
美味しけりゃ何でもいいがや!
いただきまーす!

やくも
(もぐもぐもぐ…………)

やくも
美味しいだにぃ!!
はらこがぷちぷちして、出汁の効いたご飯も美味しいがや!

柳川城
貝も凄く美味しいです!
焼いただけなのに、旨味が強くて……!

殿
…………!

青葉城
やくも、やるな。
この貝美味いぞ。

やくも
青葉城もよく鮭なんて捕まえてきたやね?
しかもこんな美味しい奴。

青葉城
うむ、では今回は引き分けだな。

やくも
やね!

白石城
(まぁ、食材の大半を賄ってくださったのは久慈城さんなんですが)

久慈城
ふふっ。

――久慈城は、そっと両手を合わせた。

無事に浜に帰れたことに、そして皆を幸せにできたことに。
何より、これから先の苦難も乗り越えられるようにと静かに心で祈ったのだった。

硝煙纏いし三世の縁 -離-

兜たちの侵攻に備えて籠城を始めてから幾日かが
過ぎた。警戒心高まる早朝、起きていた白石城は
静謐な空気の中で一人虚空を見つめる……。

前半
白石城

…………。

白石城
…………。

青葉城
相変わらず早いな。

白石城
あ、おはようございます青葉様。

青葉城
あぁ、おはよう。(ぎゅう)

白石城
やっぱり抱擁はするんですね……。

白石城
……まさか頬に接吻もするおつもりですか?

青葉城
ふふっ、本気だと思ってたのか。

白石城
青葉様のご冗談は時々本気ですからね。
警戒するに越したことはありません。

青葉城
うーむ、期待されていたとなるとしたくなってくるな。

白石城
接吻したら怒りますからね?

青葉城
ふふ、しないよ。
白石城が嫌なら仕方ない。

白石城
全くもう……。

青葉城
しかし、今日はよく晴れたな。
すっきりとした空気が気持ちいいぞ。

白石城
…………。

青葉城
……何だ、妙に元気がないな。
懸念でもあるのか?

白石城
ええ……。
少し、考えておりまして。

白石城
次に巨大兜が来襲した時、
本当に我々は奴を撃退できるのでしょうか。

白石城
もちろん、策は練りましたし各々の戦力も把握しているつもりです。
ですが、こちらが甚大な被害を受けないでいられるかが心配で……。

青葉城
何だ、そんなことか。

青葉城
心配するな。我ら二人は共にある。
対して向こうは片割れがいない。

青葉城
もうこの時点で我らは勝利しているといっても過言ではない。
そうだろう?

白石城
……心の持ちようの話だけではないですよ、青葉様。

白石城
私は……かつて此地で起きたあの戦いのことが忘れられないのです。

青葉城
……上杉氏がここを治めていた時の、あの戦いか。

白石城
はい……。

白石城
あの時……政宗様は火を放ちました。
城下町から、この城まで……。

白石城
取り戻すための策といえばもちろんそれまでです。
それを責めるつもりは私にはありません。

青葉城
結果的に白石の地は伊達領に戻ったわけだしな。

白石城
はい。

白石城
ですが、不安なのは片倉小十郎の名を冠したあの巨大兜が
そのことに思いが至らないはずがないという点……。

青葉城
……つまり、お前の懸念というのはその時の再現を今ここでやられることか。

白石城
……はい。

青葉城
だが、火をかけてしまえば奴らの目的である煙硝蔵も吹っ飛ぼう。
そんな手段を選択するとは思えないがな。

白石城
えぇ、これが本来の片倉小十郎様であるならばそうでしょう。

白石城
しかし、相手は魂の在り方も不安定な巨大兜……。
偽の魂を持つものが、冠した名の者のそのままの行動をとるとは限りません。

白石城
万が一、巨大兜が暴走に至り、
本来の目的も、果たすべき忠義でさえも抑止になりえないとしたら……。

青葉城
なるほど……お前の心配ももっともだとは思う。

青葉城
けれどな、白石城。今一度問いたい。

白石城
……何でしょうか。

青葉城
これまでの我らの戦いにおいて、一度でも負けてよいなどという戦いはあったか?

青葉城
此地を、守るべき人々を、
何を犠牲にしても勝ちさえすればよいなどという戦いはあったか?

白石城
……あるわけないじゃないですか、そんなの。

白石城
相手を打ち倒すのは当たり前。
その上で此地と生きる人々を守り抜く。

白石城
自分は被害を抑え、相手には甚大な被害を。
それが私の想定する勝利ですから。

青葉城
だろう?

青葉城
だったら、此度の戦と、これまでの戦と、
何が違うと言うんだ?

青葉城
ただ、相手方に巨大兜がいるだけということ。
敵が何をしてくるのか分からないなんてのはいつものことじゃないか。

白石城
…………。

青葉城
確かに、此地に巨大兜が攻め込んでくるのは珍しい事態と言えよう。
だからこそ殿たちに救援要請を出したわけだしな。

青葉城
とは言えども、これは所詮『戦』であることに変わりはない。

青葉城
故に、相手が仕掛けてくる策に関して備えることこそあれど、
全てを守り抜くという覚悟はいつもと同じだ。

白石城
……本当に青葉様は平時と変わりありませんね。

青葉城
そういう白石城の心配性もな。

青葉城
まぁ、そのおかげで私は何度も助けられてきたのだから
悪いことでは決してないのだが。

白石城
今までどれだけ青葉様の破天荒さに振り回されて来たと思ってるんですか。
そりゃあ心配性にもなりますよ。

青葉城
おや、嫌だったか?

白石城
……嫌ではありませんけど、もう少し大人しくしていただけたら理想ですね。

青葉城
残念だがそれは理想のままで終わるだろうな。

白石城
でしょうね。

白石城
…………ん?

青葉城
……向こうが騒がしいな。
ということは、来たか?

千狐
こちらにいらっしゃいましたか、青葉城さん、白石城さん!
もうじき兜たちが攻め入ってきますわ!

青葉城
あぁ、やはりか。
さ、行こう白石城。

白石城
ええ、青葉様。


――ザッ!

兜軍団
――ザザザッ!!

久慈城
じぇじぇっ!?
この前より数が多いですよ!?

柳川城
それに、明らかに手強そうな兜も混ざっておりますね……。

青葉城
来たのだろうさ、本隊が。

白石城
えぇ……おそらくこれから巨大兜が来るのでしょう。

殿
…………!

久慈城
そうですね、今の内に倒せる限り倒してしまいましょう!

久慈城
さぁ、行きますよ!

後半
久慈城

はっ!

兜軍団
グワアアアアアアアアア!!

柳川城
たぁっ!

兜軍団
ウワアアァァァアアアアア!!

白石城
……うーん、なかなか減ってるように見えませんね。

兜軍団
――ザザザッ!!

柳川城
はぁ、はぁ……。

柳川城
何とか戦い続けることはできそうですが、
これが延々続くとなると、厳しいかもしれません……。

青葉城
物量作戦による疲弊が狙い……にしては、なんというか。
片倉小十郎の名を冠している割にやることが単純だな。

白石城
ですが、確かにこちらは少人数……。
単純ながらも有効な手段と判断したのでしょう。

久慈城
うぅ、次から次へとひっきりなしです……。

兜軍団
――ザザザザザッ!!

青葉城
柳川城、あと少しだけ持ちこたえられそうか?

柳川城
今のところは大丈夫ですが……、
何かあるのですか?

白石城
まだ敵は多いとはいえ、
めぼしいところは優先して潰しています。

白石城
このままの勢いを維持できるなら、
もう姿を現さざるを得ないというのが私と青葉様の予測です。

やくも
ってことは……。

千狐
……巨大な霊気がこちらに近づいてきていますわ!

青葉城
な、予想通りだ。

青葉城
向こうとしてもいたずらに消耗するのは避けたいはず、
ならばある程度押せている今しか、もう機はないと踏んだのだろう。

白石城
いよいよ本気で向かってきますね。
殿、覚悟を固めましょう。

殿
…………!

兜軍団
――ザザザザザッ!!

片倉小十郎
サァ、決着の時デス……。

硝煙纏いし三世の縁 -結-

押し寄せ続ける兜たちの大軍の向こうから、霊気を
漲らせ現れたのは片倉小十郎の名を冠する巨大兜。
白石城の郷里を守るため、今こそ眼前の敵を討て!

前半
片倉小十郎

サァ、決着の時デス……。

殿
…………!

青葉城
ようやく来たか。
随分のんびりとしたお着きだな。

片倉小十郎
コレは青葉城様……。
ご心配セズトモ貴方ノ敗北を以テ知らシメテ差し上げマショウ。

片倉小十郎
我ガ軍の強サヲ、そして私ノ若君ヘノ忠義を……。

白石城
そのようなことが叶うとお思いですか?

片倉小十郎
白石城……フフ。

片倉小十郎
嘗テの我が居城の名ヲ持ツ貴方ト、
肩を並ベテ居られたらサゾ素晴ラシキコトでしょうね……。

白石城
……私と貴方が?

片倉小十郎
兜と城娘……。
そのヨウナ垣根を越え、剣でナク杯を酌み交ワセレバ……。

白石城
…………。

柳川城
(白石城さん……?)

青葉城
なんだ、白石城。
あっちにつくか?

白石城
……もしも、そうだと言ったらどうなさいますか?

青葉城
ま、それも一興だろう。

青葉城
私とお前は本気で喧嘩なんてしたことがなかったんだ。
その機会と思えばいいだろう。

白石城
ふふっ、青葉様と私が本気で喧嘩ですか?

白石城
でしたら、青葉様が勝ちますよ。
私には本気で貴方を傷つけることなんてできません。

青葉城
どうだろうな。白石城は私のことをよく見てきているのだから、
案外私の心を全て読み切って勝つかもしれないぞ?

白石城
本当に貴方の心を全て読んでいたら、
毎日ご面倒を見たり、お叱りせずに済むんですけどね。

青葉城
そうか?
いつもは知らぬふりをしているだけじゃないのか。

青葉城
白石城は言葉ではよく厳しいことを言うが、
結局私を甘やかしてくれるからな。

白石城
ふふっ、もう。

青葉城
それで白石城。どちらにつく?

白石城
今更それを聞きますか?
私の居場所は青葉様のお傍しかありえませんよ。

青葉城
ふっ、そう言うと思ったよ。

久慈城
良かった。例え相手が巨大兜だとしても、
お二人の仲を割くことなどできませんよね。安心しました!

青葉城
心配させてしまったか?
それは済まないな。

片倉小十郎
――フゥゥゥ……マァ、期待してイルワケではナカッタのですがネ。
城娘ハ我ラ兜トハ相容れませヌ故。

片倉小十郎
何ヨリ、若君が城娘を傍ニ侍らセルコトヲ厭ウでしょう。
ナレバ、私モ若君のタメニ滅すマデ……。

片倉小十郎
例エそれガ、嘗てノ居城ノ名ヲ持っている城娘でアロウトモ。

白石城
こちらは最初からそのつもりでしたけどね。

白石城
いくら嘗ての城主の名を冠していようと、兜は兜。

白石城
そもそも仕えるべき主君が傍にいるのに、二心を抱くなどありえません。

片倉小十郎
エエ、ソウデしょうとも。
その点ニついてダケは同意イタシますよ。

片倉小十郎
……デスから、後はオタガイの忠の刃にヨル鍔競り合イトいたしマショウ。

殿
…………!

千狐
霊気が膨れ上がった……来ます!

青葉城
許せよ、白石城。
本来はお前の戦いともいえるだろうが……。

青葉城
私とお前は二人で一つ!
故に助太刀しよう!

白石城
嫌だと言ったって青葉様は聞かないでしょう?

白石城
どうぞ、貴方の御意のまま!

片倉小十郎
小賢シキ切刃なぞ、私の体ニ刺サル前に折リ砕イテ差し上げマショウゾ!

後半
片倉小十郎

グッ……ガ、ハッ…………!

片倉小十郎
マズイ……このままデハ、またアノときの二の舞に……。

青葉城
さぁ、華麗なるトドメをくれてやろうか。

片倉小十郎
(シカシ……このまま退イタところデ若君の助ケとナル火薬や硝石ハ手に入ラヌ)

片倉小十郎
(ナラバどうする……少ナクトモ手ぶらで若君の許ニ馳せ参ジルわけには……)

白石城
これ以上戦ったところで、蔵の中身は手に入らないと分かっているでしょう?

白石城
それとも……もう一度復活を待つ身となるのを所望ですか?

片倉小十郎
……二度モ器を壊サレテはタマリませんね。

片倉小十郎
(カクなる上は……あの方法ヲ用イル他ナイやもしれマセン……)

片倉小十郎
――フゥゥゥ……致シ方ない、撤退シマしょう。


小十郎様ヨリ撤退命令!!

兜軍団
全軍撤退! 全軍撤退ッ!!

久慈城
あぁっ、巨大兜たちが退いてしまいます!

白石城
いえ、これでいいのですよ。

白石城
今追撃して無理に倒したところで、
いずれまた此度のように復活するでしょう。

青葉城
結局それではいたちごっこに過ぎないからな……。
追うのに無用な力を使うくらいなら、来たるべきときに向けて力を溜めておいた方が良い。

久慈城
じぇ、そういう考え方もあるのですね……。

千狐
……兜たちの霊気が離れました。
どうやら完全に撤退したようですわ。

やくも
無事勝てただにぃ!

白石城
ふぅ、なんとか吹っ飛ばずに済みましたね。

青葉城
だから言っただろう?
殿達に加勢を頼めば盤石だと。

白石城
ええ、お陰でなんとか被害を最小限に抑えられました。
この程度で済んで、正直ほっとしましたよ。

白石城
殿。
此度の戦への救援、誠に感謝いたします。

白石城
今後もしも殿たちが窮地に陥ることがあれば、
この白石城、すぐに駆けつけてご助力いたしましょう。

柳川城
それは頼もしい限りです。

殿
…………!

白石城
あぁ、でも……。

白石城
青葉様の面倒を見るのに忙しくなければ、という
枕詞がついてしまいますが……。

久慈城
そ、それは……。

青葉城
なぁんだ。
そんなことならいつだって救援に行けるじゃないか。

白石城
……本気で仰ってます?

青葉城
もちろん。

白石城
…………はぁ。

やくも
ホントに白石城は心配性なんやね。
青葉城のことならちょっとくらいほっといても大丈夫だと思うがや?

白石城
では、やくもさん。
いきなり青葉様に抱擁と接吻をされても動じずに返せますか?

やくも
もちろんだに!

白石城
…………。

千狐
やくも、これ以上白石城さんに心労をかけるんじゃないの。

やくも
え、何がや?

青葉城
心労とは心外な。
ただの交友を深める挨拶だというのに、なぁ?

やくも
だにー!

千狐
うちのやくもがすみません……。

白石城
いえいえ……。

千狐
(白石城さんの苦労がよくわかりますわ……)

殿
…………。

青葉城
あぁ、今度はぜひ遊びに来てくれ。
私自らこの辺りを案内してあげようとも!

殿
…………!

柳川城
ええ、楽しみにしております。

千狐
それでは殿、所領に帰還いたしましょうか。
此度の遠征もお疲れさまでした。

硝煙纏いし三世の縁 -絶弐-

巨大兜との戦いから一週間後。白石城が治める地も
ようやく騒乱から落ち着きだしていた頃、とある
二人の城娘が悩みの種を携えて来たのだった……。

前半
白石城

ふぅ……。
すっかり平穏が戻りましたね……。

白石城
さて、もう日も落ちましたし
そろそろ夕餉を……。

白石城
……ん?

???
――あの方がそうなのでしょうか……?

白石城
(はて、見慣れぬ方々ですね……)

???
――聞いてみればいいのよ……。

???
もし、お尋ねするわ!

白石城
はい……?

???
貴方が白石城さんかしら?

白石城
ええ、そうですが……。

淀城
お初にお目にかかります。
私は山城国の城娘、淀城でございます。

龍岡城
そして私は信濃国の城娘、龍岡城よ。
よろしくお願いするわね。

白石城
はぁ……、よろしくお願いいたします。

白石城
……しかし、なぜそのような遠い場所から
わざわざ此地までいらしたのでしょうか?

龍岡城
……実は、会って早々に不躾で申し訳ないのだけれど、
お願いしたいことがあって来たの。

白石城
お願い、ですか?

淀城
はい、我々は火薬を求めているのです。
それも、黒色火薬を。

淀城
ですが、どこも品切れであったり、
在庫があっても予算より遥かに高くて手が出せず……。

淀城
その時、やくも殿から貴方が火薬を大量に所有していると伺いまして、
なんとか分けてはもらえないかと交渉しに参った次第です。

白石城
……それほど火薬を必要としているとは穏やかならぬ話ですね。
事情をお伺いしても?

龍岡城
もちろんよ。

龍岡城
実は、今新しく病院を建てるための資金を貯めようと思って、
色々節約計画を立ててるんだけど……。

龍岡城
一番悩んでるのが火薬代でね……。
というのも、私の武器は大砲だから、一度に使う火薬が多いのよ。

白石城
ははぁ、なるほど……。
安易に買おうとすると高くつきますものね……。

龍岡城
そう! 本当に高くて!
舶来品の硝石を使っているからというのはわかるのだけれども!

龍岡城
せめて自分で作るにしても、硝石は発掘できないし、
国内で取れたものもやっぱり高いし……。

龍岡城
だから、もし安定して火薬を所持できているのなら
せめて供給元だけでも教えてほしくて来たの……。

白石城
うーん……。

白石城
……ちなみに、淀城さんはなぜ?

淀城
私は、敬愛する二条城様と指月伏見城様、木幡山伏見城様の
お三方に花火を見せて差し上げたく存じまして……。

淀城
というのも、二条城様と木幡山伏見城様のお二人は
ここのところあれこれと忙しく、非常にお疲れのご様子。

淀城
それ故、何かさっぱりと気分を一新するものはないかと考えた結果、
涼しき時期に見る花火も乙なものと伺いまして。

白石城
確かに。花火は夏のものという印象がありますが、
涼しくつつましげな秋にあえて華やかなものを見るというのも悪くありませんね。

淀城
でしょう?

白石城
……ところで、指月伏見城さんという方のお名前が入っておりませんでしたが。

淀城
指月伏見城様は、ここのところ気温が低くなってきたため
どうにもやる気が出ないからさっぱりしたい、とのことだそうで……。

白石城
あぁ、最近特に気温の低下が著しいですからね……。
朝などはお布団が恋しくなることもありますよ。

淀城
なるほど、やはりそういうものなのですね……。

白石城
……ですが、困りましたね。
確かに火薬類はありますが、私はあくまで管理しているだけでして。

白石城
実際には青葉様の持ち物でもあります故、
私の一存では決められないのですよ……。

龍岡城
(むむ……手強いわね)

淀城
(龍岡城さん。ここは計画『乙』にて……)

龍岡城
(そうね……)

白石城
(……何故ひそひそ話を?)

龍岡城
……そうだわ、いけない。私ったら自分のことばかり。
どうぞ、つまらないものですけれど召し上がって。

白石城
……何ですか、この包み?

龍岡城
私特製のフランスの焼き菓子の詰め合わせよ。
日持ちするからゆっくり楽しんでいられるわ。

淀城
私も手土産を持参してきました。
どうぞ、南蛮菓子の詰め合わせです。

白石城
うぅっ、か、甘味……!

白石城
…………。(ごくり)

龍岡城
あら……甘味がお好きなの?

龍岡城
協力してもらえるのなら、
今後も定期的にお菓子を送るわよ?

淀城
私の方でもオランダの菓子や、
京の菓子などもお送りできますよ。

白石城
お菓子がたくさん……。

白石城
…………。

白石城
いっ、いやいや!!
ダメですダメですっ!!

白石城
第一、こんなところを青葉様に見られたらっ……!

青葉城
白石城、戻ったぞー。

殿
…………。

柳川城
なかなか活気のある様子で、とても楽しかったですね。

千狐
あら? 龍岡城さんと淀城さん?
何故ここに……?

白石城
あ、青葉様。
おっ、お帰りなさいませ……。

龍岡城
(この人が青葉城さんね……)

龍岡城
(さっき、白石城さんが見られたらマズい、みたいなこと言ってたわよね……?)

淀城
お、おお! 青葉城様!
お初にお目にかかります、淀城と申します!

淀城
此度はぜひ名高き貴方と訓練したく、
はるばるやって参りまして……!

青葉城
お? そうなのか。

龍岡城
(ちょ、ちょっと、淀城?)

淀城
(青葉城様といえば、あの伊達政宗公の居城……!
 下手を打てばただでは済みませんから……!)

龍岡城
(や、やっぱり怖い人なの!?)

淀城
(申し訳ないですがここは緊急対策『丙』にて!)

龍岡城
(わかったわ!)

青葉城
ん? 何か相談事か?

淀城
いえいえ! ちょっとした確認をしていたまでです!
さ、さぁ! やりましょう!

白石城
え?

龍岡城
あら白石城さんはこちら側についてくれるのね、とっても嬉しいわ!

白石城
えええ?

青葉城
よーし、どうせなら殿も一緒にどうだ!

殿
…………!

青葉城
いい返事だ!
よーし、行くぞ!

淀城
はい! 淀城、参ります!

龍岡城
私も行くわよ~っ!

白石城
ええええええ!?

後半
淀城

うぅ……、お、お見事です……!

龍岡城
つ、強い……。

白石城
いたた……さ、さすがです青葉様……。

青葉城
む、すまん白石城。
ちょっとやりすぎてしまったようだ……。

白石城
いえ、いいんです……。
これも惑いかけた私への罰ですから……。

青葉城
罰……?

龍岡城
ううっ……これじゃあダメそうだわ……。

龍岡城
どうしよう……硝石とかってそこら辺から取れたりしないわよね……。

青葉城
ん? 硝石?
この辺では取れないが……。

青葉城
何もそんなことしなくとも、私が所有している硝石や火薬をお分けするぞ?
次の買い付けの時に一緒に買ってきてもいいし……。

龍岡城
ほ、本当っ!?

青葉城
あぁ。気持ちが収まらないというなら物々交換でも構わないぞ。
例えばちょっと珍しい甘味とか。

龍岡城
ちょ、ちょうどここに珍しい甘味があるわよ!!

淀城
で、でしたらぜひ私も……!
こちらに南蛮菓子が御座いますれば!

青葉城
おっ、もちろんいいぞ。

龍岡城
よ、良かったぁぁ~~~っ!!
ありがとおぉ~~~っ!!

淀城
あぁ、青葉城様! まことに感謝いたします!!

青葉城
泣くほど困っていたのか、それなら今後も
お互い助け合うとしようじゃないか。

青葉城
それはそれとして、良かったな、白石城。
しばらく美味しいおやつには困らないぞ。

白石城
…………。

青葉城
ん、どうした?

白石城
いえ、諸行の無常さというものを感じておりまして……。

青葉城
うん?

殿
…………?

白石城
殿、お気遣いなく……。
ちょっと脱力しているだけですから……。

殿
…………?

柳川城
いったい、私たちがいない間に何があったのでしょう……。

――いくら自分を律して高めたところで、破天荒な主人には勝てない。

白石城は己の甘さを恥じながらも、
青葉城の突拍子のなさに苦い笑いを浮かべることしかできなかった。



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