ストーリーテキスト/白き牡丹と黒烏

白い牡丹と黒烏[]

白き牡丹と黒烏 -序-

信濃国の集落に突如として兜が出現し、
人々を襲っているという報せを受けた殿は
実態を探る為、仲間と共にいま出陣する！

前半
――子の刻、信濃国某所。 兜軍団 イザ、進軍ッ！ 本陣ヘ向ケ、進メ、進メ、進メェェェェッ！ 兜のものとは思えぬ、 統率のとれた見事な侵攻であった。 統制された暴力が、人々の安寧を踏みつけるように跳梁（ちょうりょう）すると、 長閑だった村落には、煙るような恐怖と諦念だけが残った。 ？？？ そんな……私たちの村が……。 ？？？ アレは、ちゃんと村のみんなが蔵に隠してくれたから、 時間は稼げるはずだよ……私達もはやく逃げないと……。 ？？？ ……わかりました。 二人の童女が安寧を求めて走り出すと、 悔しさの涙が、残心の足跡となって闇夜に溶け落ちていった。 ――明朝、信濃国某所。 千狐 殿、ようやく信濃に到着しましたね。 千狐 風聞によりますと、 此の地に兜の軍勢が押し寄せ、集落を襲っているとのことです。 やくも そげなこと千狐が言いよーから急いで来たのに、 兜さんどころか、人っ子一人いないだに。 やくも もしかして、既にここらの人たちは、 兜さんに全員やられてしまったがや？ 千狐 可能性はないとは言い切れないわね……、 とにかく辺りを調べてみましょう。 やくも ――あっ！？ 今あっちの方で何か動いただに！ ここの生き残りかもしれんけん、見に行くね！ 千狐 やくもっ！ 勝手にひとりで歩き回っては危ないわよ！ やくも うちらのこと敵だと思っちょーかもしれんけん、 味方だってこと報せんといかんだに！ やくも おーい、そんなとこに隠れてないで出てくるにぃ！ 殿さんとうちが助けに来たけん、もう安心するだに！！ 兜 ――ガサッ。 やくも ……え？ 兜軍団 ――ガサッ、ガサッ、ガサッ。 やくも ひぇぇえ―――っ！？ か、兜さんだにぃっ！ 殿さん、助けてほしいがやぁー！！ 千狐 もうっ、だから言ったのに！ 殿、急ぎやくもを助けに参りましょう！
後半
千狐 お見事です、殿！ 兜達が次々と退いていきますわ。 やくも た、助かっただにぃ……まさか兜さんだとは思わなかったね。 やくも ……ん？ 兜が何か落としていったみたいやけん……花、みたいやね。 千狐 綺麗な白牡丹ね……うっすらとだけど、 不思議な力を感じるわ。でもどうして兜から花が……おや？ ？？？ すごいすごいすごーーーいっ！？ あんなにいっぱいの兜を追い払っちゃうなんて、みんなやるねー！ ？？？ こら！　礼儀を弁えなさい！ 初対面の方々にそのような馴れ馴れしい態度は失礼ですよ！ ？？？ うぅー、何もそんなに怒らなくたっていいじゃんかぁ……。 千狐 よかった……まだ無事な方々がいたのですね！ やくも うちの名前はやくもって言うがや！ で、あっちが千狐。 それで、こっちにいる強くてかっこいーのが殿さんだにぃ！ 松本城 お殿様に、千狐ちゃんに、やくもちゃんかぁ……。 うん！！　みんな、仲良くしようねっ！ 私は『松本城(まつもとじょう)』だよ！ 深志城 もう……礼も無ければ緊張感も無いのですから……。 深志城 私の名は『深志城(ふかしじょう)』です。 この度は、兜を討ち払っていただき有り難う御座います。 村を代表して、厚く御礼申し上げます。 千狐 松本城さんに深志城さん……ということは城娘なのですね？ ですが、なぜでしょうか……城娘特有の気が、 貴方たちからは全く感じられませんわ……。 深志城 本来であれば、回復するはずの力も、私たち城娘の魂に縁のある 『小笠原牡丹』を兜に強奪されてしまった為、 失った力を取り戻すことができないのです……。 千狐 小笠原牡丹……この白い花のことですね？ なるほど、だから兜がこの花を落としていったという訳ですか……。 やくも じゃあ一刻も早く、その小笠原牡丹を集めるだに！ 松本城も深志城も力を取り戻せれば、 ここらの兜さんを退治するのももっと簡単になるはずがや！ 松本城 話がはやくて助かるよー！ うんうん、さっきの戦いを見てたから断言するよ！ 君達ならすぐに花を集めることができるはずだよぉー！ 深志城 もうっ、せっかくあちらのご厚意を頂戴しているというのに、 何故あなたはそのように軽薄な態度をとるのですか！ 松本城 うわ～～～んっ！　 だからそんなに怒らなくたっていいじゃんかぁ！ 助けてくれるっていうから、つい嬉しくなっちゃったんだもん……。 深志城 私も同じ気持ちではありますが、礼を軽んじてはいけません！ やくも まぁまぁ、二人とも仲良くするね！ これから一緒に頑張っていくだにぃー！ 松本城 おお―ーーっ！！ 小笠原牡丹をきっちり取り返すぞーっ！ 深志城 言ったそばからあなたときたら……はぁ。 千狐 （心中お察ししますわ、深志城さん……。） 松本城 それじゃあまずは村の現状を確認しに見て回ろうよ！ 村人たちが蔵に隠してくれた小笠原牡丹がまだ残ってるかもしれないしね。 千狐 そうですね。この場所の地形を理解して 兜の攻め込んでくる地点などを把握する意味も兼ねて、 さっそく見回りに参りましょう、殿。

白き牡丹と黒烏 -破-

松本城と深志城の失われた力を取り戻す為、
殿達は此の地の兜討伐を誓うが、その背後
には既に動物型の兜が忍び寄っていた……。

前半
松本城 はぁ……ここの蔵に隠しておいた小笠原牡丹も、 ぜーんぶ持って行かれちゃってるね……。 深志城 あんなに沢山あった花が全部……ですか。 予想していたとは言え、一つ残らず無くなっているとは……。 やくも 元気だすだにー！ まだ他の蔵だってあるけん、 気を落としちゃいかんだにぃ！ 松本城 うん、そうだね！ やくもちゃんって優しいんだねー。 やくも えへへー、そうでもないだにぃ！ さあ、次の蔵を見にいくがやー！ 千狐 それにしても……腑に落ちないことがありますわ。 深志城 どうしたのでしょうか、千狐さん？ 千狐 松本城さんや深志城さんと縁のある小笠原牡丹を、 なぜ兜は早々に奪っていったのでしょうか。 深志城 それは私達の力を失わせる為の作戦だからではないのですか？ 千狐 ではその作戦を考案したのは何者なのでしょうか……？ 兜は、それ単体では綿密な戦術を駆使するような 戦い方はできないはずなのですが……。 やくも せ、千狐ぉー！　殿さーん！ 話し込んでないであっちの方を見るだに！ 松本城 動物型の兜がこっちにいっぱい向かってきてるよぉー！？ 千狐 松本城さんと深志城さんは安全な場所へ避難してください！ 殿、ここは私達で窮地を切り抜けましょう！
後半
松本城 わーいっ！ また兜たちを追い払っちゃったー！ お殿様ってばやっぱりもの凄く強いんだねー！ やくも ふふ～ん、殿さんの強さはまだまだこんなもんじゃないけんね！ この程度で驚いてたら身が保たんだにぃ！ 松本城 えー！？　さっきのは全力じゃないってこと？ 松本城 すっごいや！　お殿様って本当に何者なの、ねえねえねえっ！？ 何食べたらそんなに強くなれるのー？　 お餅？　ねえ、もしかしてお餅だったりするー？ 松本城 こらっ！　お殿様を困らせてはいけません！ それに礼儀がなっていませんよ！ 松本城 うぅ……また怒られちゃった……。 しばらくは大人しくしてるよぉ……。 千狐 小笠原牡丹を狙っての戦術……先ほどの兜の動きを見るに、 やはり敵は目的をもって私達を襲ってきているようですね……。 千狐 殿、何か嫌な予感がします。 今のうちに体勢を立て直し、来たる襲撃に備えましょう！

白き牡丹と黒烏 -急-

千狐の抱いていた不穏な予感に応じるように、
突如として巨大兜が現れた。強力な兜だけで
構成された軍勢を、その武で討ち払うのだ！

前半
松本城 はぁ～あ……けっこうな数の蔵を確認したけど、 隠しておいた小笠原牡丹は殆ど奪われちゃってたよぉ……。 やくも でも殿さんのおかげで、こっちだって徐々に 小笠原牡丹を取り返しちょーけん、しっかりするだに！ 松本城 そ、そうだね！ 奪われてばかりじゃないんだもん、落ち込む必要ないよね！ 松本城 うぉーっ、負けてたまるかぁー！ まだまだ頑張るぞーっ！！ 深志城 ……………………。 松本城 ど、どうしたの……深志城ちゃん？ もしかして、また私……怒らせちゃった……？ 深志城 そうではありません……ただ、 何か聞こえませんか……？ やくも 言われてみれば確かに妙な音がするだに……。 それに、どんどんごーぎになってないかや……？ 松本城 なんでだろう……胸の奥がざわざわするよぉ……。 何か、とんでもないのが近づいてきてるような……。 千狐 この音は……まさか、巨大兜では！？ 深志城 きょ、巨大兜……？ 松本城 もしかして……あの大きなのじゃ、ないよね……？ ――ソレは、真紅の豪傑だった。 一足の駆動が大地を壊し、一手の微動が大気を殺す。 視触の全てを滅する威圧が、今、殿たちの前に立ち塞がる。 山県昌景 武田四天王ガ一人ニシテ……、 最強ノ赤ヲ掲ゲシ吾ヲ阻ムカ……。 山県昌景 勲功ヲ積ミ……勝利ヲ重ネ……屍体ヲ産ミ……罪過ヲ束ネ……、 果テニ朱ヲ賜リ……依リテ赤ヲ浴ビ……吾ハ戦紅ノ原初ト成レリ……。 ……今再ビ、顕現セシハ……何ヲ得ントスル……。 山県昌景 幾千ノ戦経ヨウトモ……此度ノ死遭ハ未踏ノ地平……。 然ラバ覚悟セヨ……吾ノ赤ニ隙ナド皆無……。 山県昌景 イザ参レ未知ノ敵ヨ……真ノ赤備エガ武、今此処ニ君臨セリッ！！ 松本城 ――なっ……ななっ何なのあれぇっ！？ 今までの兜と、全然違うじゃんっ！ あんなのに襲われたら、村は壊滅しちゃうよ……。 深志城 あれほどまでに恐ろしい敵と、本当に戦うのですか……？ 勝てるわけ、ありません……逃げた方がいいのではないでしょうか……？ やくも たしかに怖いけど……村を守る為にも、花を取り返す為にも、 ここで逃げるわけにはいかんけん、腹くくるしかないだに！ 千狐 やくもの言うとおりですわ！ 何としてもここで迎え討つしかありません！ 千狐 今の殿のお力なら必ずやあの巨大兜を倒せると千狐は信じています！ 小笠原牡丹と、そしてこの村を守る為に、いざ参りましょう！
後半
深志城 本当にあの巨大兜を倒してしまうなんて……信じられません……。 松本城 ねーねー、お殿様ーっ！　見てみてー！！ こんなにいっぱい小笠原牡丹を取り返せたよー！ 千狐 やはり、兜たちはかなりの数の小笠原牡丹を集めていたようですね。 全てというわけではありませんが、少しでも取り返せてよかったですわ。 やくも う～～～んっ！！ すっごく良い香りが身体ぜんぶを包み込むような気がするだにぃ！ 戦いの疲れが一気に癒やされるような感じがするがやー。 松本城 深志城ちゃん、これだけの数があつまれば、 もう私達の力が戻ってもおかしくないんじゃないかな？ 深志城 ……それはあまりにも楽観的すぎますよ、松本城さん。 かなりの数を集めたと言え、まだまだ足りないと言わざるを得ません。 千狐 ですが、確かにお二人の身体に薄らと城娘の力が宿っていくのを感じますわ。 松本城 あ～早く力を取り戻して、お殿様と一緒に戦いたいよぉ！ 守られているばっかりじゃ、何だか居心地が悪いもん。 深志城 私も同意見です。 城娘であるはずなのに戦えないのは、 こうも悔しいものなのですね……。 やくも 焦ることないね！ 今はじっくり力を溜めることに専念するのがいいだに！ 千狐 そうですね……どうにか巨大兜を倒すことはできましたが、 まだまだ小笠原牡丹は兜が所持していますわ。 引き続き奪われた花を取り戻す為、私達も協力させてください。 松本城 うんっ！ じゃあ今だけは、いっぱいい～っぱいお殿様に甘えちゃうからね！ 深志城 だからそのような馴れ馴れしい態度は失礼ですよ、松本城さん！ 助けて頂いているということをしっかりと認識してですね―。 松本城 わ、分かったからそんなに怖い顔しないでよぉー。 深志城 もう、松本城さんときたら……。 深志城 す、すみません、お殿様……。 あの……どんなに礼を尽くそうと、貴方様に迷惑をかけているのは同じこと。 ですがどうか……最後まで私達へのご助力をお願いします。 千狐 はい、こちらこそ宜しくお願い致しますわ！ 千狐 それでは殿、暫しの休息を経てから、 再び小笠原牡丹の収集を開始しましょう！

白き牡丹と黒烏 -離-

小笠原牡丹を求めて村を探索する殿たちに
不意の砲撃が襲いかかる。攻撃範囲の広い
戦力で構成された兜軍団と短期決戦に挑め！

前半
松本城 いやぁー、巨大兜はお殿様が倒してくれたし、 そのおかげで花集めも順調だし、 何だかいいことばっかりだねー！ 松本城 ――あっ！？ ねえねえお殿様ぁー！ また小笠原牡丹を見つけたよぉ！ 深志城 お殿様、こちらにもいくつかありますね。 どうやら先ほど退けた兜達が 落としていったもののようです。 千狐 コンッ！ 殿ぉー、千狐も見つけたのー！ いっぱい、いっぱいなのーっ！！ 深志城 ……コンっ？ 松本城 ……なのー？ 千狐 ……あ、いや、その……。 た、沢山こちらにも小笠原牡丹が……あはは……。 千狐 そ、それよりも、やくもが妙に静かですね？ いつの間にやらひとりであんなに離れた場所にいるし……。 一体どうしたのかしら……？ やくも （さっきから、うちだけ全然お花さん見つけられんだに……） やくも （このままじゃ、殿さんに使えん神娘だと思われるにぃ……） やくも ――あッ！？ あそこに、えっぱい小笠原牡丹が落ちてるだに！ やくも わーいだにぃっ！ これで殿さんに自慢できーけん、 誰かに先を越されー前に、うちがもらうが―― 兜 ――撃テェッ！！　撃テェッ！！ やくも な、ななな、なんだにぃーっ！？ ひぃっ、ちょっと……やめ、やめるがやぁーっ！！ 松本城 ――っ！ お、お殿様ぁッ！？ やくもちゃんが兜に襲われてるよー！ 千狐 もう！　巨大兜がいなくなったとはいえ、 兜はまだあたりに潜んでいるとあれほど言ったのに……。 殿、やくもを助けに参りましょう！
後半
千狐 周囲に兜の気配が無くなりました！ 撃退成功です。さすが殿ですわ！ やくも 殿さ～ん！ 助けてくれてだんだんね。 もうダメかと思ったにぃ……。 松本城 でも助かってよかったね、やくもちゃん！ 私、改めてお殿様の強さに惚れ惚れしちゃったよぉー！ 松本城 それでは、いっぱい頑張ったお殿様には 私からお祝いにお餅をプレゼントしまーす！ 松本城 はい、あ～んしてお殿様ぁー♪ 深志城 松本城さん！ またお殿様にそのような態度をとって……。 何度注意すれば分かっていただけるのですか！ 松本城 ――ひぁっ！？ ……わ、わかったよぉ。 失礼なことは、もうしないから怒らないでぇ……。 松本城 でもこのお餅、 すっごく美味しいんだよぉ！ 深志城ちゃんも食べるー？ 深志城 はぁ……分かっているのかいないのか……。 千狐 …………………………。 松本城 も、もしかして千狐ちゃんも怒ってるの～？ 千狐 い、いえ、そんなことはありませんよ。 千狐 ただ、先ほどの戦いや、 やくもが襲われた時の状況が、 奇妙に感じられたのです……。 松本城 奇妙……？ 千狐 小笠原牡丹を利用してやくもをおびき寄せ、 計画的に遠距離攻撃によって掃討しようとした……。 そんな感じがしたのです。 深志城 兜だけの戦い方にしては、 いささか周到過ぎると仰りたいのですね？ 千狐 はい……。 やくも なるほど…………さっぱり分からんだに。 千狐 …………深志城さん、松本城さん。 千狐は、巨大兜がまだ、 生きているような気がするのです……。 松本城 じょ、冗談だよね……？ だって、さっきお殿様がちゃんと倒したじゃん……。 やくも そうだがや、あれで生きてるなんておかしいだに！ 深志城 ですが、可能性がないとは言い切れませんね。 千狐さんの予感は先刻も当たりましたし……。 用心するに越したことはないでしょう。 千狐 殿……心配させてしまうようなことを 口にして申し訳ありません……。 深志城 （千狐さんの不安が、取り越し苦労であればいいのですが……）

白き牡丹と黒烏 -結-

倒したはずの巨大兜が生きていた！？
最後の戦いに向けて総動員される兜軍団を、
今こそ全身全霊の武勇で討ち払え！

前半
やくも 殿さーん！ うちも、こげにお花さん集めたね！ もっともっと褒めてほしいだにぃ。 松本城 ふっふっふ……やくもちゃん、 まだまだあまいね！ あんころ餅くらい甘々だよ！ 松本城 じゃ～んっ！ 私なんかこんなにいっぱい集めたもんねー！ お殿様ぁ～、私のことも褒めてぇー♪ やくも ひぇぇぇ……そんなにえっぱいのお花さん、 いったいどこから……！？ やくも で、でもよく見るだに！ うちの方がお花さんの色艶がいいがや！ やくも 殿さん！ 量より質を重視してほしいだにぃー！ 松本城 もぉー、やくもちゃんズルいよぉー！ だったら私のだってねぇ――。 深志城 すっかり仲良しですね、あの二人……。 深志城 仲良きことはいいことですが、 親しき仲にも礼儀ありですよね、千狐さん？ 千狐 …………そ、そんな……。 松本城 ど、どうしたのですか？ 顔色が悪いですよ、千狐さん……？ 千狐 敵が近づいてきています……。 それも、とても強大な力が……。 やくも ……せ、千狐。 うちも、ちょんぼしやけん感じるね……。 すぐ近くまできてるだに……。 松本城 ねえお殿様ぁ……。 この足音ってさ、 もしかして、またアイツなんじゃ……。 深志城 ……まさか、 ほんとに巨大兜が生きて――？ ――その時だった。 深志城の言葉を遮るように、 紅き異形が、悠然とその姿を現した。 山県昌景 見ツケタゾ……我ガ仇敵……。 我ガ忠義ヲ穢シタ罪……、 忘レタトハ言ウマイナ……？ 山県昌景 勝頼様ハ、コノ山県昌景ガ導ク……！ ……千挺ノ銃撃スラ、 我ヲ阻ムコト能ワズ……。 山県昌景 覚悟セヨ……覚悟セヨ……！ 今ヨリ此ノ地ヲ……紅血ニ染メン……！ サア参ラレヨ……雌雄ヲ決シヨウゾォォォォオ――――ッ！！ 松本城 はぅぅっ……本当に生きてたんだ……。 それに何だか、前より怒ってるような……？ 深志城 威圧感も先と比べものにならないほどに 凶悪なものになっている気がします……。 やくも でも、殿さんが負けるわけないけん、 うちは絶対に勝つって信じてるだに！ 千狐 殿、ここで決着をつけましょう！ 敵も持てる武力を総動員しているようです。 こちらも全身全霊で迎え討ちましょう！
後半
千狐 兜の討滅を確認しました。 今度こそ、本当に巨大兜を倒しましたわ、殿！ 松本城 すごいすごいすごーーーいっ！！ またお殿様が巨大兜をやっつけちゃった！ 深志城 明らかに先刻よりも強さを増した敵を、 見事に討ち破るなんて……。 感服致しました、お殿様。 松本城 あっ！？　見て見てお殿様っ！ さっきの兜の大軍が、あんなに たくさん小笠原牡丹を落としていったよ！ 千狐 すごい……まるで村全体に 小笠原牡丹の美しい白が広がっていくようですわ。 松本城 いやー、小笠原牡丹は、 またまたいろんな人の想いに 救われたわけだね、深志城ちゃん！ 千狐 『また』とはどういうことですか？ 深志城 小笠原牡丹は、林城の城主、 小笠原長時(ながとき)が 愛でていた白牡丹が起源とされています。 松本城 でね、一五五〇年に武田信玄が信濃に攻め込んだ時、 領地を踏み荒らされる前に、大事に 育ててきた白牡丹だけは守らなきゃって考えたの。 深志城 そして長時は、 兎川寺（とせんじ）の住職に花を託し、 居城を焼き払って落ち延びたのです。 松本城 住職が他界した後も、長時との約束を 守ろうと兎川寺檀家の久根下氏が、 お花を『殿様の白牡丹』と呼んで守り続けてくれたんだよ！ 深志城 それから四〇〇年の時を経て、 久根下氏と小笠原氏の末裔が出会い、 林城の支城であった松本城へと戻ってくるのです。 やくも えっぱいの人たちの想いの中で育ったんやけん、 こげに美しい大輪を咲かせるのも納得だにぃ！ 松本城 むむー？ 何だか他人行儀な言い方だね、やくもちゃん？ 松本城 その想いの中にはね、 すでにお殿様たちの優しい気持ちも 含まれてるんだからねー！ 深志城 その通りです。 此度のお殿様たちのご助力がなければ、 小笠原牡丹を守ることなど到底できませんでした。 深志城 本当に……本当にありがとうございます。 松本城 私からも、ありがとーお殿様！！ 千狐 殿、小笠原牡丹を取り戻すことが出来て良かったですね。 これでこの村の小笠原牡丹は全て……あれ？ 千狐 そういえば、松本城さん達は、 未だ城娘としての力を完全に取り戻せてはいませんね……？ やくも ほんとだに！ これはどういうことがや？ 松本城 何言ってるのさ、単純なことじゃないか～。 深志城 ……すみません。 実はまだ、奪われた小笠原牡丹は、 全て取り戻せてはいないのです……。 やくも ……な、何だか 全部集まったような雰囲気やったけん、 勘違いしとっただにぃ……。 やくも でも、ここまで来たら最後まで付き合うだに！ やくも その代わり、 もっともっとお餅ほしいだにぃー！ 松本城 うん、いいよぉー！ それじゃあそこの木陰でお餅食べながら 休憩して、それからまた一緒に頑張ろーね？ 深志城 それでは、私もご一緒させていただきます。 少しだけお腹もすいてきましたからね。 千狐 殿、私達も松本城さんのお餅をいただきましょう！ 腹が減っては戦はできませんからね。 千狐 ですが、巨大兜の脅威は一先ず去りました。 少し早いかもしれませんが、 殿、ご苦労様でした。

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