ストーリーテキスト/異界門と運命の観測者

ページ名:ストーリーテキスト/異界門と運命の観測者

異界門と運命の観測者[]

-前-[]

前半
――――某所。

黄昏に染まった平野に、巨大な異形が立っていた。

異形の名は伊達政宗。
『独眼竜』と謳われし将の虚魂をその身に宿す、
巨大兜なる存在である。

伊達政宗
…………。

伊達政宗
……成る程。
コレガ、俺の感じていた妙なチカラの正体という訳カ。

桃形兜
……マ、政宗サマ。
コノ、空間ニ開イタ穴ノヨウナモノハナンナノデスカ?

伊達政宗
詳しいことは俺も知らヌ。
……ダガ、大凡ノ心当たりはある。

伊達政宗
此頃、『九尾』なる妖怪が永イ封印から目覚め、
摩訶不思議な術を以て城娘の打倒を企んでいると聞いタ。

伊達政宗
其奴の操る術は此世ト異世トを繋ぎ、
異世ノ強者を呼び出せる『門』を虚空に開くという。

伊達政宗
――丁度、其処にある穴のようにナ。

桃形兜
エエッ!?
デハコノ穴ハ、九尾トヤラガ開イタ『門』ナノデスカ?

伊達政宗
さあナ。
だが、これだけ強いチカラの波動が漏れ出ているのダ、
大層なシロモノであることは間違いなかろう。

伊達政宗
……しかし、此の『門』からは妖術ノ痕跡を感じられヌ。
これは一体どういうことダ?

伊達政宗
もしや、この『門』は九尾の仕業デハなく――。

桃形兜
政宗サマ……?

伊達政宗
……イヤ。
俺にトッテは、コレが生じた理由などどうでも良い。

伊達政宗
異世ト繋ガルとされる『門』が目の前に在るのダ。
ナラバ、それを使わヌ道理ハ無かろウ!

桃形兜
オオ!
九尾ト同様ニ『異世ノ強者』ヲ喚ブノデスネ!?

突撃式トッパイ形兜
ヨッシャー!
コレデ、ニックキ殿ヲ倒スコトガデキマスネッ!

伊達政宗
――馬鹿者ッ!!

兜軍団
ヒッ――!?

伊達政宗
イイカ、殿ハ俺の獲物ダ!
何処の馬ノ骨とも知ラヌ輩に譲ル訳にはいかぬッ!

桃形兜
デ……デハ、イッタイナニヲスルノデスカ……?

伊達政宗
知れたコト。
俺自らがコノ『門』をくぐり、異世に赴くのダ。

伊達政宗
そして、殿を倒すタメの秘策を得て此世に戻って来る!
武器デモ剣技デモ構わぬ、必勝ノ手段を得て――な。

突撃式トッパイ形兜
サ……サスガ政宗サマッ!
アクマデ殿トノ決着ニコダワルナンテ、カッコイイゼッ!

兜軍団
政宗サマ、カッコイイッ!
政宗サマ、カッコイイッ!

伊達政宗
フッ……。
そう思うのナラ、貴様らも俺を見習うが良イ。

伊達政宗
異世ノチカラを己が物とし、共に勝利を掴むノダッ!

兜軍団
承知ッ!
承知ィィ――ッ!

伊達政宗
では往クゾッ!
我が宿願を果たすため、いざ未知の世界へ!!

兜軍団
応――ッ!

こうして鬨の声を上げた異形たちは、
虚空に浮かぶ『門』へと消えてゆくのであった――。

――数刻後・所領。

殿
…………。

千狐
お呼び立てして申し訳ありません、殿。

千狐
ですが、急ぎ殿に報告したいことがあるのです。
まずは、こちらをご覧ください。

そう言って、千狐が指し示した先――。
何もないはずの空間には、大きな『穴』が開いていた。

殿
…………!

柳川城
これはまさか……『異界門』ですか!?

千狐
はい、どうやらそのようです。
気付いた時には、これが……。

やくも
確か、違う世界に通じているっちゅうヤツやね。
けど、なんでうちらの所領にそげなもんが――。

やくも
――ハッ!
もしや、ここから誰かが出てくるってことかや!?

やくも
ほんなら、きっと殿さんの味方になってくれる人やね!
どんな人が出てくるか楽しみだに~♪

千狐
……いいえ。
残念だけど、やくもの予想は多分外れているわ。

やくも
……はえ?

千狐
むしろその逆――。
この『門』から感じる悪しき霊気は、兜のものよ。

やくも
だにぃっ!?
じゃあ、この先には兜さんたちがおるんかや?

柳川城
……それは、少し妙ですね。

柳川城
『門』の先は此世ではない何処かへと繋がっているはず。
何故、そんな所に兜が……?

千狐
……今はまだ、分かりません。

千狐
この謎を解き明かすには、
千狐たちも『門』の先に行くしかありませんわ。

柳川城
そうですね、もしも兜が悪事を企てているとなれば、
放っておく訳にはいきません!

千狐
ですから殿!
此度の調査について、何卒ご決断を……!

殿
…………。

殿
…………!

千狐
ありがとうございます、殿!

やくも
決まりやね!
殿さんならそう言ってくれると思っただに~!

柳川城
殿の警護はお任せください。
如何なる敵が相手でも、私がお守りします!

千狐
では、準備が整い次第、出発しましょう!

――数刻後。

『門』をくぐり抜けた殿一行は、
見たこともない地へと辿り着いた。

千狐
ここが、『門』の先の世界……。

千狐
巨大な建物が、見渡す限りに広がっているわ……!
一体、どこまで続いているのでしょう……?

やくも
この石畳も、継ぎ目が全くないだに!
粘土を固めたにしちゃ、やけにしっかりしとるけど……。

やくも
ここの技術は、うちらの世界よりも
だいぶ進んでいるみたいやね……。

柳川城
はい、こんな場所は今まで見たことがありませんっ!

柳川城
……しかし、いたる所に貼られている、
大きな貼り札のようなものは何でしょう?

柳川城
なんだか、どこかで見たような気もするのですが……。

千狐
異世とは、なんとも不思議な所なのですね……。

千狐
……っと、呑気に見物をしている場合ではありませんね。
千狐たちの目的を果たしましょう!

千狐
殿! 早速ですが、この世界を調査するにあたって
注意すべきことが2つありますわ。

千狐
1つ目は、兜の存在です。
目視はできませんが、やはり周囲から兜の気配を感じます。
奴らとの接触には十分にお気を付けください、殿。

千狐
そして2つ目ですが、活動時間についてです。
千狐たちが通ってきた『門』はまだ健在ですが、
あまり時間が経ちすぎると、自然消滅してしまう可能性があります。

殿
…………。

柳川城
つまり、この地の調査には時間制限があるのですね。
では、早急に事を進めないと……。

やくも
けど、一体何から始めればいいだに……?

???
――わあっ!
その衣装、すっごいね~!

千狐
――えっ?

千狐が声のした方向を振り返ると、
一人の少女がぱたぱたと駆け寄って来た。

???
そのコスプレ衣装、すっごくよく出来てるねぇ♪
見たことないキャラだけど、なんの作品かな~?

殿
…………?

柳川城
えっと、私たちのことでしょうか?
あなたは一体……?

???
あっ、ごめんなさい!
素敵な衣装を見て、つい熱くなってしまったのです。

???
えっとね、まゆしぃは――。

少女が何かを言いかけた時、
白い服に身を包んだ二人の男女がやってきた。

???
まゆり!
この非常事態に一体何をやっている?

???
そうよ、まゆりまではぐれちゃったら大変だわ。

???
早く橋田たちと合流して、ここから逃げましょう。

???
あ、うん、ごめんね~。

千狐
えっと、あなたたちは……?

倫太郎
俺の名は岡部倫太郎という。
うちのまゆりが迷惑を掛けたな、コスプレ少女よ。

まゆり
皆からは、『オカリン』って呼ばれているんだよ♪

やくも
なんだか面白いあだ名なんやね。
じゃあ、うちもそう呼ぶだに!

倫太郎
……まぁ、好きに呼ぶといい。

倫太郎
で、こっちの帽子を被った方が、椎名まゆりだ。

まゆり
トゥットゥルー♪
気軽に『まゆしぃ』って呼んでくれると嬉しいなぁ。

???
……なら、最後は私の番ね。

紅莉栖
初めまして、牧瀬紅莉栖よ。
どうぞよろしく。

倫太郎
ちなみにこいつは俺の助手で、愛称はクリスティーナという。
覚えておくといい。

紅莉栖
助手でもティーナでもないわ!
初対面の人にいい加減なこと言うなっ!

やくも
オカリンに、まゆしぃに、それにクリスティーナやね!
よろしくだに~!

紅莉栖
ああっ、早速誤解されてる……!

紅莉栖
違うのっ!
それは岡部が勝手に呼んでいるだけで――!

倫太郎
ええい、呼び名などどうでもいいではないかっ。

倫太郎
それよりも、今度はお前たちのことを教えてくれないか?
何やら訳ありのようだが……?

千狐
はい。
千狐たちは……。

そして、千狐は自分たちのことと、置かれている状況について
岡部たちに語った。

まゆり
いかいもん? かぶと?

まゆり
え~っと……、何のことだろう?

紅莉栖
悪いけど、にわかには信じられない話よね……。

紅莉栖
ここにいる岡部みたいに厨二病を発症してる、
って訳ではないみたいだけど……。

倫太郎
人を危ない奴みたいに言うんじゃない。
哀れみの目を向けるのもやめろっ!

倫太郎
……だが、心当たりがない訳でもないな。
その兜というのは、もしや『奴ら』のことではないのか?

柳川城
『奴ら』……?

紅莉栖
このアキバに突然現れた、奇妙な連中のことよ。
外見はかなり大きくて、鎧を着ているような――。

千狐
それは、兜の外見に一致しますね。
やはり、この街には兜が……。

倫太郎
奴らが暴れたせいで、この街は一気にパニックに陥った。

倫太郎
今やアキバの街全体が封鎖されているようだ。
殆どの人は無事に避難できたらしいが……。

紅莉栖
けど、問題の兜たちは未だにこの街中をうろついているの。
見つかったら危険だから、注意して。

やくも
なるほど、だからこの街には人が殆どいなかったんやね。

まゆり
まゆしぃたちも避難している途中だったんだけど、
途中でお友達とはぐれちゃったんだ。

倫太郎
……くそっ、一体どうしてこんなことに。
こんなこと、今までどの世界線でも起きなかったぞ……。

千狐
世界線、とは……?

倫太郎
すまない、こちらの話だ。

倫太郎
それよりも、お前たちはこれからどうするつもりだ?
俺たちは、はぐれた仲間たちを――。

???
――うわああああああっ!?

岡部の言葉を遮るように、野太い悲鳴が辺りに響き渡った。

倫太郎
この声……ダルかっ!
どこにいる!?

まゆり
――!
オカリン、あそこっ!


はぁ、はぁ……!
もうダメだお。僕の人生、ここで終了だお……!

鈴羽
諦めるのは早いよ、橋田至っ!
こうなったら、あたしが時間を稼いで――!

フェイリス
無理しちゃ駄目ニャ、スズニャン!
ダルニャンも、少し落ち着くのニャー!

倫太郎
あれは……ダルに、鈴羽に、フェイリス!


お、オカリンっ!?
良かった、やっと合流できたお……。

千狐
岡部さんたちのお知り合いでしょうか?
もしや、この人たちが……?

倫太郎
ああ、はぐれてしまった俺たちの仲間だ。
……そう言えば、ルカ子は?

鈴羽
漆原るかは、柳林神社に居るみたい。
一時的な避難所として開放しているから、
その手伝いをしているらしいよ。

倫太郎
そうか。
ひとまずは無事のようで、安心したぞ……。

鈴羽
……いや。
安心するのはまだ早いよ、岡部倫太郎。

フェイリス
フミャァ……ゴメンだニャ。
フェイリスたちは、ここに来る途中でヤツらに見つかってしまったのニャ。

倫太郎
何?
と、いうことは……。

千狐
……!
兜たちの霊気がこちらに近付いてきます!

千狐
この感じは、雑兵のようですが……。

やくも
なら大丈夫やね!
いつもの兜さんなら、柳川城がぱぱっと倒してくれるだに~!

メイド兜
――ザザッ。

メイド兜軍団
――ザザッ、ザザザッ!

やくも
…………。

やくも
……なんかいつもと違うだにぃ!?

何かに目覚めた兜
…………。

千狐
こ、こちらも、
なにやら奇妙な格好をしていますね……。

メイド兜
ゲェッ!?
ト、殿タチガイルゾッ!!

メイド兜軍団
ナ、何デコンナ所ニオマエ達マデッ!?

柳川城
そ、それはこちらの台詞ですっ!

やくも
というか、その格好は一体何だにっ!?

メイド兜
フッ……。
コノ姿コソ、ボクタチガコノ地デ得タ新タナチカラッ!

メイド兜軍団
ソノ名モ、冥土形態ッ!

千狐
……め、めいどけいたい?

メイド兜
ボクタチハツキトメタ!
コノ地デ、『冥土』ト呼バレルモノガ流行ッテイルコトヲ!

メイド兜軍団
『冥土』トハ、即チアノ世ノコトッ!
ツマリ、コノ姿ハ地獄ノ使者ヲ意味スルモノニ違イナイ!

メイド兜軍団
ダカラ、コレハオマエタチヲアノ世送リニシテヤルトイウ、
ボクタチノ意志ノ表レナノダッ!

紅莉栖
……な、なんだかものすごい解釈違いをしているわね。

フェイリス
フニャーッ! アキバのメイドはそんな物騒なものじゃないのニャ!
フェイリスたちは、皆にささやかな癒しを与える存在なのニャー!

何かに目覚めた兜
…………。


……あっちのわらわら居る奴に対して、
こっちは随分と物静かだお……。

何かに目覚めた兜
……俺ハ解カッチマッタノサ。

何かに目覚めた兜
大切ナモノヲ声高ニ叫ブダケガ全テジャナイ。
多クヲ語ラズ、無駄ヲ省イテ楽シムノモマタ一興ダト……!

やくも
何を言っとるのか、よくわからんだに……。

柳川城
ともかく、これ以上奴らをこの地にのさばらせる訳にはいきませんっ!
さあ、大人しく元の世界へと帰りなさいっ!

メイド兜
ウルサイ、ウルサーイッ!
オマエタチナンカ、ミンナ纏メテ土ニ還シテヤル!

メイド兜軍団
オ還リナサイマセッ!
オ還リナサイマセッ!

千狐
と、殿! 兜たちが攻めてきます!
奇怪な見た目に惑わされぬようご注意ください!

柳川城
どんな見た目であろうと、殿には指一本触れさせません!
……変身っ!

気力に満ちた叫びと共に、
柳川城の身体がまばゆい光に包まれていく。

――そして光の放出が止んだ時、
その姿は戦装束に包まれ、何倍もの大きさに変化していた。

倫太郎
……なっ!
これは一体……!?

まゆり
す……すっごーいっ!
おっきくなっちゃったーっ!

柳川城
これこそが、私たち城娘の力……!
この力で、皆さんをお守りしますっ!

柳川城
さあ、準備は整いました!
――柳川城、行きますっ!

後半
柳川城

これで終わりです!
はああーっ!

メイド兜軍団
ギャアアアアッ!

フェイリス
この界隈では、強引な客引きは禁止されているのニャ。
これ以上の狼藉はフェイリスが許さないニャン!

フェイリス
……というか、『メイド』と『冥土』は全然関係ないのニャ。
形だけじゃなく、中身も充実させてから出直してくるニャ♪

メイド兜軍団
ガーン!


そっちの君も、大事な戦利品でひとを殴るのはどうかと思うお。
本当に大切なら、もっと丁重に扱った方がいいんじゃね?

何かに目覚めた兜
ガガーン!

何かに目覚めた兜
ム……無念ナリ……。

千狐
……戦闘終了、ですね。
お疲れ様です、殿!

殿
…………。

鈴羽
あんな大きな奴らを、いともたやすく倒すなんて……。

倫太郎
……まさか、お前たちは本当に、
異世界からやって来たというのか……?


え、異世界!?
なになに、どゆことなん……?

千狐
では、改めてご説明しましょう。

千狐
千狐たちは、ここではない世界――異世から、
この世界の異変を調査しにやってきたのですわ。

新たに合流した岡部の仲間たちも含めて、
千狐たちは今一度、事情を話した――。

紅莉栖
――ふむん。

紅莉栖
突拍子もなさすぎて、
普通だったら『はいはい厨二病乙』って信じないところだけど……。

鈴羽
牧瀬紅莉栖に賛同する訳じゃないけど、
こことは別の世界があるなんて、あたしには信じられないよ……。

倫太郎
だが、こうして俺たちは彼女らの力を目の当たりにしたのだ。
事実として、受け止めるしかない。

紅莉栖
それにしても、『異界門』とは一体……。

まゆり
ねえねえっ。
さっきの柳川城さん、すごかったねえ!

まゆり
こう、むくむくーっておっきくなって、一気に兜を倒しちゃうんだもん!

柳川城
すごいだなんて、そんな。
私はただ、殿をお守りしたい一心で……。


そうそう。
巨大化美少女とか、ニッチな所攻めすぎだろ常考。


……だが、それがいい!


あ、ところでまゆ氏。さっきの「むくむくーって~」のとこ、
ちょっと大人っぽい感じでもっかい言ってくれない?

まゆり
んー?

フェイリス
……ダルニャン、ブレないのはいいけど、
こういう時はもう少し、場の空気を読むべきだと思うのニャン。


おうふ、サーセン……。

鈴羽
……あはは。
まあ、橋田至の悪癖は置いておくとして……。

鈴羽
まずは、あの兜って奴らの対策を考えた方がいいと思う。
さっきのが敵戦力の全て……って訳じゃなさそうだし。

千狐
……えっ?
と言うことは、千狐たちに協力してくださるのですか?

倫太郎
ふっ、何を今更。

倫太郎
俺たちはさっき、お前たちに助けられたんだぞ?
それを忘れるほど恩知らずじゃないさ。

倫太郎
それに、兜たちがこのアキバを標的としているのなら、
これは最早俺たちにも関わる問題だ。

倫太郎
だからこそ、ここに約束しよう。
我ら『未来ガジェット研究所』の全ラボメンは、
この事件の解決のため、お前たちに全面的に協力すると!

殿
…………。

殿
…………!

千狐
皆さん……ありがとうございます!

柳川城
はい! この地のことを知り尽くした皆さんが味方となれば、
まさに百人力かと!

やくも
……けど、対策って言っても何をどうすればええんかね?

紅莉栖
兜がここに来た目的さえ分かれば、
対策の立てようはあると思うけど……。

フェイリス
でも、現時点で兜の目的を探るのは、難しいと思うニャ……。

千狐
では、皆さんの身の回りに、何か変わったことはありませんでしたか?
例えば、兜たちが現れた時とか……。

鈴羽
んー……。

鈴羽
……そう言えば、確かあの時も実験の最中だったよね?
あの、電話なんとかって発明品の。


ああ、『電話レンジ』のこと?

倫太郎
『電話レンジ(仮)』だ。
8号機の名前は、まだ仮のものだからな。

倫太郎
……ともかく、確かに俺たちは実験を行っていた。
ちょうど、奴らが現れる前までな。

やくも
なんだかよく分からんけど、
その、『でんわれんじ』ってのはいったい何だに?

倫太郎
本来なら秘匿したいところだが……。
まあ、可能な範囲でよければ答えよう。

倫太郎
俺たちのラボでは、様々な発明品を開発しているんだ。
今話題に挙がった『電話レンジ(仮)』もその一つだ。

倫太郎
お前たちに言っても伝わらないかもしれないが、
あれはまさしく『タイムマシン』と呼べるシロモノ――。

倫太郎
――『世界を変える発明』と言っても過言ではないだろう。

千狐
世界を変える、発明……!

殿
…………!

???
――ほう、それハ興味深いナ。

倫太郎
なっ――?

柳川城
この声、まさか兜――!?

千狐
しかも、この禍々しい霊気は……!

伊達政宗
フッ、『世界を変える発明』トハ面白い。
そのチカラ、俺に寄越セ……!

-後-[]

前半
伊達政宗

フッ、『世界を変える発明』トハ面白い。
そのチカラ、俺に寄越セ……!


ひえっ……!
なんだかめちゃくちゃ強そうな奴が出てきたお……!

まゆり
お……オカリン。
怖いよー……。

倫太郎
ああ……。
危険だから、まゆりは下がっていろ。

鈴羽
あの雰囲気……明らかに他の奴よりもやばいね。
千狐、あいつは一体……?

千狐
あれはかつて殿と戦った、
『伊達政宗』の名を冠する巨大兜ですわ!

倫太郎
伊達政宗だと!?
あれが、あの『独眼竜』と呼ばれた武将だというのか……?

柳川城
いえ、あれはあくまで将の虚魂を利用しているだけ……。

柳川城
『伊達政宗』の在り方を真似ているだけの、
偽者にすぎません!

伊達政宗
……ほう。
言ってくれるデハないカ、小娘。

伊達政宗
貴様には、俺の部下たちが随分ト世話になったヨウだ。
本来ナラ、将タル俺がタップリと礼をくれてやる所ダガ……。

伊達政宗
今俺ガ欲してイルものハ、貴様の亡骸ではナイ。

伊達政宗
……そこの人間ッ!
貴様が持つとイウ『世界を変える発明』を、この俺に寄越セ!

倫太郎
狙いは、俺たちの未来ガジェットだと……?

やくも
そ、そげなもん奪って、一体何をするつもりなのかや!?

伊達政宗
フッ、愚問だな。

伊達政宗
その発明の『世界ヲ変えるチカラ』ヲ使って、
異世に自由に干渉する術を手に入れる!

伊達政宗
そして、異世のあらゆるチカラを我が物として、
名実共に最強の存在とナルのダッ!

殿
…………!

倫太郎
ば、馬鹿な!
『電話レンジ(仮)』で、異なる世界に干渉するだと……?

倫太郎
アレにそんな機能はついていない!
お前の目論見は、最初から破綻しているぞ!

紅莉栖
…………。

紅莉栖
……いえ。
もしかしたら、限定的な条件下においては可能かもしれない。

倫太郎
く、クリスティーナ……?

紅莉栖
兜たちが現れたのは、
確か今朝行った実験の最中だったわね。

倫太郎
あ、ああ。
『電話レンジ(仮)』の起動実験をしていたのだったな。

倫太郎
……まさか、それが原因で
兜たちを呼び寄せてしまったと言うのか!?

紅莉栖
……分からないわ。

紅莉栖
けど、あの装置には作動時のプロセスにおいて
『カー・ブラックホール』を生成する機能がある。

紅莉栖
あれには、時空間に影響を与える可能性があるの。
それが何らかの偶然で、殿たちの世界に干渉してしまったのかも……。

伊達政宗
フッ、やはりアノ『門』を作ったのは貴様らの仕業か。
通りで妖術の痕跡が感じられぬ訳ダ。

やくも
……かーぶでっどぼーる?

まゆり
なんだか、とっても痛そうな名前なのです……。

倫太郎
……『カー・ブラックホール』だ。

倫太郎
確か、『電子を注入することで、リング状の特異点を
形成するブラックホール』……だったか。

倫太郎
その特異点を通ることができれば、
理論上は、時空間の移動が可能になるという。

倫太郎
つまり、俺たちの世界と殿たちの世界は、その影響によって
偶然繋がってしまったかもしれない……ということだ。

やくも
…………はぇ?

まゆり
……???

柳川城
(お2人とも、話を解っていない表情をされていますね……)

倫太郎
しかし、この状況がただの偶然の結果だと?
俺は、悪い夢でも見ているのか……?

千狐
……小難しい理屈は千狐には分かりかねますが、
紅莉栖さんの仰った可能性は否定できませんね。

千狐
このところ、日ノ本の時空はより不安定になっていましたし、
もしかしたら、外からの影響を受けやすくなっていたのかも……。

伊達政宗
……フン。
理由ナドどうでもいい。

伊達政宗
肝要なのは、そのチカラが今この瞬間より俺のモノとなることダ……!

紅莉栖
――いいえ、そんなことはさせない!

伊達政宗
……なに?

紅莉栖
最強の存在、ですって……?
バッカじゃないの!?

紅莉栖
そんなくだらない欲望のために技術を悪用しようだなんて、
絶対に許しておけないわっ!

倫太郎
よせ、紅莉栖!
あまり刺激するなっ!

倫太郎
あいつを怒らせたら、何をされるか分からないんだぞ!

紅莉栖
だからって、勝手なことばかり言われて
黙っていられる訳がないでしょう!?

紅莉栖
あんたはそれでいいの?
『鳳凰院凶真』は、自分の研究を悪用されて黙っていられるの!?

倫太郎
なッ……!

倫太郎
(……確かに、紅莉栖の言う通りだ)

倫太郎
(俺たちの研究は、誰かを傷付けるためのものなんかじゃない!
 俺は……、俺は…………!)

伊達政宗
……サテ、そろそろ終わりニしよう。

伊達政宗
異世のチカラを得て、殿との因縁もココデ決着をつけル!
さあ、覚悟しロ――!

紅莉栖
くっ――!

???
フフ……フハ……フハハ……、

???
フゥーハハハ!
よくぞ言った、クリスティーナよ!

紅莉栖
――えっ?

倫太郎
むしろ、もっと言ってやれ!
貴様など、異世界の力に頼ってばかりの卑怯者だと!

伊達政宗
なん、ダト……?

柳川城
お、岡部さん……?

倫太郎
フン……。
今の俺は岡部倫太郎などではない!

倫太郎
我こそは狂気のマッドサイエンティスト・鳳凰院凶真だッ!

やくも
ほうおういん、きょうま……?

倫太郎
ちなみに文字で表すとフェニックスの鳳凰に院、
そして凶悪なる真実と書いて『鳳凰院凶真』となる。
覚えておくがいい、ヒュドラの継承者よッ!

やくも
……もしかして、
そのヒュドなんたらって、うちのことかや……?

千狐
ええと……、
あの方は一体どうしてしまったのでしょう?

フェイリス
そう言えば、皆はああいう凶真を見るのは
初めてだったかニャ?


どっちかっつーと、あれが普段のオカリンなんよ。
ま、『厨二病乙!』って感じなんだけどさ。

紅莉栖
まあ、言ってることは訳分からんし、
誰でも最初は面喰らっちゃうわよね。

まゆり
でも、こういう時のオカリンは、とっても頼りになるんだぁ♪

千狐
そ、そうなのですね……。

やくも
なんだかよくわからんけど、カッコイイだに!

倫太郎
いいか、よく聞け巨大兜とやら!

倫太郎
この狂気のマッドサイエンティストを差し置いて、
世界を混沌に陥れようだなどとは片腹痛いッ!

倫太郎
貴様のような奴に、このアキバの街を好きにはさせんぞ!
フゥーハハハハハ!!

伊達政宗
貴様ァ……!
斯様な矮躯ノ分際で、コノ俺を愚弄するかッ!

倫太郎
フン、体躯の大小で優劣を語るとは浅はかな奴め。
独眼竜の二つ名が泣いているぞッ!

鈴羽
ああ、岡部倫太郎の言う通りだよ。
戦場では、油断した奴から倒れていくんだ!

伊達政宗
グッ――!
おのれ、小賢シイ人間共がァッ!

伊達政宗
貴様ラは塵一つ残さず滅シテくれる!
天をも喰らう我が剣技、其の身に刻メェッ!!

倫太郎
(――よし、挑発に乗った!)

倫太郎
聞け、お前たち!
俺がこうやって奴を挑発しているのは、
あの巨大兜を倒す、乾坤一擲の策のためであるッ!

倫太郎
どんなに巨大な奴であろうと、
精神的に動揺すればきっと隙を見せるはず。

倫太郎
その隙を作り出すことこそが、この作戦の要。
そして、諸君らにもその手助けをしてもらいたい!

倫太郎
我ら『未来ガジェット研究所』の力で、
このアキバの街を兜の魔手から守るのだッ!
フゥーハハハハハ!

紅莉栖
…………。

紅莉栖
……まぁ、あんたがそう決めたのなら、仕方ないわね。

紅莉栖
私たちにできることは、少ないかもしれない。
……けど、やれることは何でも協力するわ!

まゆり
まゆしぃも、皆のことを応援するっ!
だからお願い、皆が大好きなこの街を、守って!

鈴羽
オーキードーキー!
ここが、一流の戦士の力の見せどころだねっ!


ぼ、僕はできれば安全な所に避難したいんだけど……。

フェイリス
でも、もし作戦が失敗して街がめちゃくちゃになったら、
ダルニャンの好きな『メイクイーン+ニャン2』も無くなってしまうけど、
それでもいいのかニャ?


うおぉー!
フェイリスたんのためにも、兜なんか僕がぶっ飛ばしてやるおーッ!

倫太郎
感謝するぞ、お前たち……!

倫太郎
……そして殿、お前にも頼みがある。

殿
…………?

倫太郎
俺たちが奴らの気を引いて、一瞬の隙を作る。
だから、殿にはその隙を突いてほしい。

倫太郎
……頼めるか?

殿
…………。

殿
…………!

倫太郎
ありがとう、殿。

倫太郎
――では、これより奴を倒すための作戦名を発表する!

倫太郎
作戦名は、『燃え狂いし巨人作戦<オペレーション・スルト>』!
さぁ、ミッションスタートだッ!!

後半
伊達政宗

グゥ、オォオ――!

鈴羽
巨大兜が膝をついた!

倫太郎
激しい怒りに囚われて、判断を鈍らせたな。
これこそが『怒り狂える巨人作戦<オペレーション・スルト>』だッ!

柳川城
この勝機、逃す訳にはいきませんっ!

柳川城
……さあ、覚悟してくださいっ!

伊達政宗
クッ――!
斯様ナ所デ、果てる訳ニハいかぬ――!

伊達政宗
総員撤退ッ!
俺タチが通った『門』へと駆け込めェ!

メイド兜軍団
撤退、撤退ィィ――!

伊達政宗
殿! 決着はいずれつけてやル!
その時が来るマデ、精々勝ち誇ってイルがいい!

殿
…………!

千狐
――兜たちの撤退を確認しました。
霊気の反応を見るに、どうやら元の世界へと帰還したようです。


と、いうことは……!

柳川城
ええ、我々の勝利ですっ!

フェイリス
やったニャ~!
アキバの平和は、守られたのニャン!

倫太郎
ああ。
……やったな、殿!

殿
…………!

やくも
(ぐきゅるるる~……)

やくも
……安心したら、お腹が減ってきただに。

まゆり
だったら、まゆしぃたちのラボに来るといいよ~!

まゆり
そして、皆でパーティーをするのです!
ねえねえオカリン、いいでしょ?

倫太郎
ああ、いいだろう。
盛大な祝勝会にしようではないか!

柳川城
らぼ……とは何でしょう。
皆さんのお住まいのことでしょうか?

倫太郎
フッ、よくぞ聞いてくれたな。

倫太郎
ラボとは、我が『未来ガジェット研究所』のことで、
様々な発明品がひしめき合うデンジャラスな場所なのだ!

やくも
発明品っ!?
それは興味あるだに!

紅莉栖
いやいや、実際はただの借り部屋だし、
あるのは殆どがガラクタの山でしょうが。


まあ、最近はビル自体の老朽化が進んできて
床が抜けやすいから、ある意味ではデンジャラスかもね……。

鈴羽
けど、祝勝会はいい案だね。
当然、あたしも参加するよっ!

フェイリス
じゃあ、フェイリスも『メイクイーン+ニャン2』から
何かお料理を作って持ってくるのニャ!

やくも
やっただにぃ♪
そうと決まれば、早速――。

千狐
……あの、盛り上がっているところ
たいへん言いにくいのですが……。

千狐
千狐たちは、そろそろ元の世界に戻らねばなりません。
なので、祝勝会には参加できそうになく……。

やくも
な、なんでや千狐ぉ!?
もうちょっとくらい、ゆっくりしていきたいだに!

千狐
できることなら千狐だってそうしたいわ。

千狐
けど、最初にも言ったように、ここに居られる時間は限られているの。
千狐たちの通ってきた異界門が閉じてしまったら大変よ。

やくも
そ、そうだった……!
すっかり忘れていただに……。

まゆり
そっかー。
残念だったねぇ、やくもちゃん。

やくも
せめて、オカリンの言う発明品をひと目見ておきたかっただに……!

倫太郎
なんだ、そんなに我が未来ガジェットが気になるのか。

柳川城
やくもさんは、工作や発明がお好きですからね。

柳川城
私たちの扱う武器も、
やくもさんに手入れしてもらっているんですよ。

まゆり
やくもちゃん、かわいそう……。

まゆり
ねえねえオカリン、何とかならないかなぁ?

倫太郎
うむ、そうだな……。

倫太郎
ここなら、ラボまでそう遠くないか。
……よし。

紅莉栖
ちょっと岡部、どこに行く気!?

倫太郎
すぐに戻るから、少しの間待っていろ。

程なくして、岡部は戻って来た。
両手いっぱいに、何かを持って――。

倫太郎
……ふぅ、流石に1人で持つには重いな。

やくも
こ、これは……っ!?

倫太郎
ご所望の未来ガジェットだ。
いくつか見繕ってきたから、餞別に持っていくといい。

やくも
わーい! やっただにぃ♪

千狐
良かったわね、やくも!
……でも、いただいてしまって良いのでしょうか?

倫太郎
気にするな、これらは元々販売を想定して作ったものだ。
ラボに置いておくよりも、やくもに貰われていった方がいい。


それってつまり、在庫しょ――。

紅莉栖
橋田、それ以上いけない。

やくも
――おおおっ!?
これを見ていたら、着想がむくむくと湧いてきただに!

やくも
所領に帰ったら、早速作業に取り掛かるだに!
だんだんね、オカリン!

倫太郎
うむ。
……では、今度こそお別れだな。

柳川城
ええ。短い間でしたが、お世話になりましたっ!
また機会があれば、皆さんとお会いしたいですね。

まゆり
うんっ! 次は、ぜひラボにも遊びに来てねぇ~♪

鈴羽
ラボに来てもらうのもいいけどさ、
あたしとしては、君たちの世界にも興味あるなぁ。

フェイリス
スズニャン、グッドアイディアニャ!
今度はフェイリスたちが、殿たちの世界に行くのもアリかニャ!

紅莉栖
そう簡単にはいかないと思うけど……。

千狐
いえ、もしかしたら、それも可能かもしれませんよ。

千狐
この一件で、皆さんとの間に縁が結ばれました。
その縁を頼りに、皆さんをお呼びすることもできるかもしれませんっ!

紅莉栖
そうあっさりと否定されてしまうと、
科学者としては複雑な気持ちになるな……。

紅莉栖
……けど、とても夢のある話ではあるわね。
実は私も、ちょっと気になっていたの。


むほっ! そっちの世界に行けば、
柳川城氏みたいな美少女にたくさん会えるってこと!?


それなんてギャルゲ? まさに楽園だおっ!

紅莉栖
別れ際くらい自重しろ、HENTAI!

倫太郎
……フッ。
騒がしい見送りとなってしまって悪いな、殿。

倫太郎
お前たちのお陰でこの街は救われ、
『電話レンジ(仮)』も守ることができた……。

倫太郎
……だから、俺はこの邂逅をとても貴重だと思っている。

倫太郎
ありがとう、殿。
叶うものならば、また会おう!

殿
…………。

殿
…………!

千狐
……皆さん、お別れは済ませましたね。

千狐
では、帰りましょう!
千狐たちの世界へ――!

――数刻後・未来ガジェット研究所。

殿たちとの別れを済ませ、ラボメンたちは既に解散していた。

ただ一人、岡部倫太郎を除いて――。

倫太郎
……俺だ。

倫太郎
『奴ら』の撃退は、異世界の勇者たちによって達成した。
これより、作戦の最終段階に移行する。

耳に当てた赤い端末に向けて、何やら語りかける岡部。
しかし、端末からは何の応答も返って来ない。

この岡部の振る舞いは、ただの演技――。
つまり、居もしない相手に語りかけるという、岡部の癖だった。

倫太郎
……今回の一件は、俺にとって予想外の連続だった。
ふと気が付いたら、街中に謎の敵が溢れていたのだからな。

倫太郎
最初は『SERN』から送られた刺客だと思ったが、
まさか、異世界から来た未知の敵だったとは。

倫太郎
それを無事に切り抜けられたのは、殿たちのお陰だ。
彼らの協力がなければ、俺たちは今頃どうなっていたか……。

倫太郎
…………。

倫太郎
……だが、問題は未だに残っている。

倫太郎
あの時のアキバが封鎖されていたとはいえ、
殿や兜たちの存在は、いずれ世に拡散されてしまうだろう。

倫太郎
そうなれば、彼らの力を狙って『SERN』が動く可能性がある。
それだけは、何としても阻止しなければならないのだ。

倫太郎
だから、俺は……。

岡部はそう言うと、何やら端末を操作し始める。

……すると、部屋の奥に鎮座する装置――
『電話レンジ(仮)』が、猛烈な勢いで放電を始めた。

倫太郎
兜がこの世界に現れた原因は、
今朝に俺たちが行った、『電話レンジ(仮)』の起動実験にある。

倫太郎
ならば過去にDメールを送って実験を中止にすれば、
全ては『無かったこと』になる。

倫太郎
兜の襲来も、殿たちの活躍も、
この世界は全て忘れてしまうという訳だ……。

倫太郎
……なに?
彼らとの思い出を否定するのか、だと?

倫太郎
それは違うな。
ただ、『SERN』の魔手が彼らに伸びないようにするには、
これが最善の方法であるというだけだ。

倫太郎
それに、俺には世界線間の記憶を保持できる
『リーディング・シュタイナー』の能力がある。

倫太郎
たとえ世界が彼らを忘れてしまっても、俺だけは忘れない。
――あの素晴らしき邂逅を、な。

倫太郎
……では、俺はそろそろ行くとしよう。
機会があれば、また話そうではないか。

倫太郎
――これが運命石の扉(シュタインズゲート)の選択だ。
エル・プサイ・コングルゥ。

岡部が指に力を込めると、
端末から目に見えぬ電波が放たれる。

その電波をきっかけに、
世界はあるべき形へと書き換わってゆくのだった――。



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