ストーリーテキスト/異界門と聖槍の騎士

異界門と聖槍の騎士[]

異界門と聖槍の騎士 -前-

皆が寝静まった夜の所領を見回る千狐は
見知らぬ男の姿を目にし、声をかける。
その出会いが変事の始まりとも知らずに……。

前半
――丑の刻・所領。 千狐 よし、これで戸締まりは完璧ですわ！ 千狐 城娘の皆さんも寝ているようですし、 千狐もはやく自分の部屋に―― 千狐 ――って、あれ？　 あそこにいるのは誰でしょうか……？ 王子 …………。 千狐 だ、誰ですか、貴方は！？ 王子 …………。 千狐 (な、なぜ黙っているの……？)　 千狐 (いや、それよりもこの方から感じられる霊気は――！) 千狐 まさか、貴方……。 此処とは異なる世界から来たのでしょうか？ 王子 …………(コクリ) 千狐 …………。 千狐 ふふっ……そのような大事な答えを頷きだけで済ますとは。 ずいぶんと寡黙な方のようですね。 千狐 まぁ、いいでしょう。 貴方を信じることにしますわ。 王子 …………。 千狐 ずいぶんと簡単に信じる？ 迂闊すぎやしないか、ですか？ 千狐 ……もう。 千狐を甘く見ないでいただきたいですわ。 千狐 これは、信じるに足るものを、 貴方から感じ取った上での決断です。 千狐 そもそも、邪気を孕む者であれば この所領には立ち入れませんし、 何より、その武具からは神聖な気と加護を感じます。 王子 …………。 千狐 ええ。こう見えても、千狐は神娘ですから。 ……といっても、貴方には分かりませんよね。 千狐 ――あら？　 千狐 貴方、怪我をしているではないですか！？ 千狐 もう、なぜすぐに仰らないのですか……。 大丈夫、これくらいなら手当てできますわ。 王子 …………。 千狐 …………はい、これでよし、と。 千狐 明日になれば、痛みもひくでしょう。 王子 …………。 千狐 ……そんな、もう行かれるのですか？ 暫し所領で休まれていけばいいのに……。 王子 …………。 千狐 ……なるほど。倒すべき敵を追っている最中だから 急がなくてはいけないというのですね。 千狐 ならば、千狐たちも協力しますわ！ 我が主君であらせられる殿ならば 必ず貴方の力になれるはずですもの！ 王子 …………。 千狐 ……え？　これは自分の世界での不始末？ だから、自分の手で全てを終わらせたい……？ 千狐 ……分かりました。 そういうことでしたら、その意を尊重しますわ。 千狐 けれど、やるべきことを終えたら、 是非また此処にお立ち寄りください。 その時は殿にご紹介―― 千狐 ――って、話はまだ終わっていませんのに！ はぁ、もう行ってしまいましたか……。 千狐 それにしても、あの方の眼……。 殿にも似た、強い使命感に満ちた輝きを湛えていました。 千狐 ……きっと、多くの期待を背負っているのでしょうね。 ささやかながら、ご武運をお祈りしていますわ。 ――翌日・九州某所 ソーマ ……報告。 どうやら、王子の姿を完全に見失ってしまったようです。 ソーマ ほんとうに申し訳ありません、ミレイユ様……。 ミレイユ そのように頭など下げないでください。 ソーマちゃんが謝る必要などどこにも無いのですから。 ミレイユ いいですか？　今回のことは、 全て王子の単独行動が招いた結果なのです。 ミレイユ なので、後でしっかりと叱らないといけませんね。 サキ ほんと、ミレイユの言う通りよ！ サキ まったく、王子ったら敵を深追いして、 異界へ続く『門』までくぐっちゃうんだもの！ ケイティ 突発的に開いた異界門を何とか私たちも通ることができましたが、 それにしてもこの世界で王子を探すとなると骨が折れますね……。 サキ けど、何とか見つけ出すしかないわ！ いくらあいつでも、異世界で一人きりじゃさすがに危険だもの。 ……一刻も早く手掛かりを見つけないと！ ロイ まぁ、そう慌てなさんな。 あの王子がそう簡単にやられるとお思いか？ ミレイユ ふふ、ロイさんの慌てず騒がずな性格は昔から変わりませんね。 ロイ 恐縮です、ミレイユ様。 まあこれしき、王国魔術師ならば当然の立ち振る舞いかと。 ミレイユ ――ですが、ロイさん？ 此処は王子にとっても不慣れな異世界なのです。 もう少し、危機感をもってくださいね？ ロイ ……わ、分かりました。 ロイ こ、コホン！　え～、見たところ、 向こうに集落らしきものが見えますな。 まずはあそこで王子の情報を集めるのがいいかと。 モーティマ (異世界の集落か……。 とりあえず、なんか美味いもんがありゃいいけどな） ミレイユ ん？　何か言いましたか、モーティマさん？ モーティマ い、いや何も！　それよりも先を急ごうぜ！ 王子の身に、もしものことがあっちゃ大事だからな！ サキ なんかモーティマがいつもと違って まともなこと言ってない……？ ソーマ ミレイユ様の前だとモーティマさんも 何だかんだで萎縮してしまうみたいですね。 ケイティ それでは皆さん。気を引き締めて、 王子の情報を探しに前方に見える集落へと向かいましょう！ ――薩摩・某城下。 兵士 ……ふぅ。本日の見回りも特に異常はないな。 幸いなことに兜の姿も見当たらぬし―― モーティマ ――おい、美味いもんが食えるとこは何処にあるんだ？ 兵士 ひぃぃっ！？　 き、貴様いつのまに某の背後に……っ！！ 兵士 その出で立ち……まさか、新手の兜かっ！？ モーティマ あぁん？　カブト……だと？ 何言ってるんだコイツは？ ロイ なに、モーティマ殿の風貌に驚いてしまっているのでしょう。 初対面の方にはもっと紳士的に振る舞わなくてはいけませんぞ。 ロイ これは礼を失しましたな。 私は王国魔術師のロイと申しま―― 兵士 ――み、見慣れぬ赤衣に奇妙な杖っ！？ 兵士 貴様ぁっ！　さては南蛮の怪僧だな！！ 兜を味方につけて我等が領地を狙いにきたか！？ ロイ ……か、怪僧！？ ロイ (そうか、この世界では我々の風体は些か奇異に映るということなのだろう) ロイ (ふむ……この方の身につける武具と喋り方から察するに、 此処ら一帯の生活様式や文化は、我々の世界でいう 東方の国のサムライの文化に近いと見て間違いないだろう……) ロイ (となると…………まずいっ！？ このまま金髪碧眼のミレイユ様を目の当たりにすれば、 目の前の男性の恐慌が更に増す可能性が！！) ミレイユ どうしたのですか、ロイさん？ 何だか争うような声が聞こえましたが？ ロイ い、いけません、ミレイユ様！ ここは我々だけで何とか話を―― 兵士 ――なっ、金色の髪に……青い瞳、だとぉっ！？ ロイ (万事休す……か。 せめてサキ殿であればこの方の警戒心も解けたであろうに……) 兵士 う、美しい……。 ロイ …………え？ ミレイユ …………？ 兵士 あの、何か困り事でしょうか？ よければ某がお力になりますぞ……！ ミレイユ まぁ、なんと心優しき方なのでしょうか！ ぜひとも力を貸してください。 兵士 ええ、某ができることならば何なりと！！ ロイ ハァ…………どこの世界も男というものは 根本的には何も変わらないということですか。 モーティマ おい、なんで俺を見んだよ！ サキ ねえねえ、それよりもさ！ 単刀直入に聞くけど、私たちある男を捜してて、 王子っていうんだけど、知らないかな？ 兵士 ……オウジ？ すまぬ、それだけでは少し情報が足らぬな。 もっとこう、特徴や生き様なんかを教えてはくれぬか？ モーティマ そうだなぁ……とりあえず、前髪が長いな。 兵士 前髪が長い……と。 他には？ ソーマ 強くて、優しくて、とっても勇敢な御方です。 兵士 強くて、優しくて、とっても勇敢……と。 ふむ、だいぶ絞れてきたな。他にもあるか？ ケイティ 多くの仲間と共に邪悪な敵と戦い、 世界を救おうと日々努力されています。 兵士 多くの仲間と共に……世界を救う、か……。 兵士 ――！？ 兵士 (さては、この方たちも『殿』に会いたいって手合いだな？ 最近こういうの増えたなぁ。まあ、あれだけ活躍してれば当然か) 兵士 なら日向に向かうといいさ。 殿ならば、きっと兜を退治してるはずだからな。 ソーマ 殿？　日向？ あの、私たちは王子を探しているのですが？ ロイ お伝えし忘れていましたが、王子は我々の主君でして、 此処にいる皆と同じく、異国の武具を身にまとっているのです。 兵士 ……異国の武具、か。 まあ何にせよ、殿に会いに行くのがいいと某は思うぞ。 兵士 最近じゃ、異国の者たちも仲間に取り込んでるって噂を耳にするし、 あんたらが探しているオウジっていうのが強いなら、仲間に引き入れているはずだしな。 ケイティ 王子が仲間に引き入れられる……？ サキ あいつ……異世界だろうと 困ってる人に頼られたら、ほいほいついて行っちゃいそうよね？ ソーマ そ、そこまで軽率ではないと思いますが……。 ソーマ あ、でも……助けを求める方がいたら、 王子は放っておけませんから……有り得るの、かも……？ モーティマ な、なに馬鹿なこと言ってんだよ！ 王子が……あいつが、俺たちと王国を見捨てて、 異世界に永住するなんて……ありえねぇよ……。 ケイティ ……いずれにせよ、ミレイユ様。 今は日向という地へ向かうのが上策かと……。 ミレイユ どうやら、そのようですね……。 ミレイユ それでは、日向へと進軍しましょう！ 何としても王子を見つけ出すのです！ ――数刻後。 日向国・某所。 柳川城 覚悟してください！　これで、終わりですっ！！ 兜 ――グッ、ゥゥゥ…………ム、無念……………………。 千狐 さすがですわ、柳川城さん！ 殿、これで此処らの兜は全て倒せたようですね。 やくも 今回はビックリするくらい楽勝やったね！ それじゃあ、所領に戻って疲れを癒やすだにぃ！ 柳川城 そうですね、それでは帰還すると―― 柳川城 ――っ！？ お待ちください、殿。 何者かがこちらに向かってきてます！ 殿 …………。 モーティマ さっきの戦い、少しだけだが見させてもらったぜ。 その強さ……お前が殿で間違いないな？ やくも な、なんか怖そうなのが出てきただにぃ！！ 新しい巨大兜さんか何かがや！？ 千狐 落ち着いて、やくも！ あれは人間よ！ サキ ちょっとモーティマ！ どうしてあんただけ先行してんのよ！ 団体行動ってことを少しは考え―― サキ ――ん！？　なにこのコ！　狐の尻尾と耳がついてるわ！？ ……なるほど、この世界にも妖怪がいるのね！ 千狐 ……よ、妖怪！？ 千狐 コン！　千狐は妖怪なんかじゃないのぉ！　れっきとした神娘なのぉっ！！ 柳川城 千狐さん、落ち着いてください……！ 柳川城 それよりも、貴方たちはいったい……？ モーティマ 俺か？　俺は山賊頭のモーティマ。 此処とは別の世界から来たんだが……って、分かんねぇか。 モーティマ まぁ、とにかく、俺は仲間の『王子』を探してるんだよ。 モーティマ さっき立ち寄った集落で得た情報によりゃ、 どうやらそこの殿ってヤツが手掛かりになるって聞いてな。 こうして、わざわざ会いに来たってわけよ。 柳川城 お、オウジ？ ……殿、ご存じですか？ 殿 …………？ サキ ねえ、本当に知らない？ こう、煌びやかな鎧を身にまとった、すらっとした男なんだけど……。 千狐 別の世界に……煌びやかな鎧……？ 千狐 ――はっ！？ まさか、昨日の方のことを言ってるのでしょうか？ モーティマ ほぉ……どうやら心当たりがあるみたいだな。 モーティマ 悪いがこっちも時間がなくてな。 手短に、王子に関する情報を教えてくれないか？ 千狐 ……い、イヤですわ。 モーティマ はぁ？　知ってて教えないってのはどういう了見だ？ 千狐 ……あ、貴方を、 信用することができないからです……。 千狐 昨夜、王子と思われる方に、 たしかに千狐は出会いました……。 千狐 傷を負っていた王子を千狐は手当てしましたが、 その傷を負わせたのが貴方ではないという確証がありません。 千狐 もし、貴方が王子の命を狙う賊徒であるならば、 千狐が何かを話すことは、王子の身を危険に晒す可能性があります。 モーティマ ……くそ。 もっともらしいこと言いやがって面倒くせぇ……。 モーティマ なぁ、どうしても俺を信用できないっていうのか？ 千狐 …………ええ。 モーティマ …………。 千狐 ――っ！？ サキ ……ちょっと！　そんなふうに睨んだらダメだって！ あの狐の女の子、怯えちゃってるじゃない。 サキ このままじゃ、聞ける話も聞けなくなっちゃうわ。 モーティマ …………こうなりゃ、仕方ねぇな。 サキ ――え？ モーティマ 少し気が引けるが……。 今は王子もミレイユも、ましてやアンナもいねぇ。 ……ここは、山賊の流儀に則って力尽くで吐かせるしか―― サキ ――ちょ、ちょっと何言ってるのよ！ そんなことあたしが許すと思ってるの！？ モーティマ だがよ、せっかく見つけた手掛かりなんだぞ！？ 悪ぃが俺は……諦めるつもりはないぜ。 サキ …………でも。 だからってこんなことは……。 モーティマ フン……無理すんな。お前はそこで大人しく見てればいい。 こういう汚れ仕事は俺の担当だ……ひとりで何とかするさ。 サキ …………。 サキ …………わ、わかったわよ！ あんただけじゃ無茶するだろうから、あたしも行くわよ！ サキ ……けど、ちゃんと手加減しなさいよね？ これはあくまで話を聞くために仕方なく……なんだから。 モーティマ ったりめぇだ。俺だって王子軍の一員なんだぞ？ あいつの名を汚すような真似はしねぇよ。 やくも ――殿さん！　 あのふたり、戦う気みたいだに！？ 柳川城 そんな……今は、人間同士で争ってる場合ではないというのに……。 柳川城 ――っ！？ 柳川城 殿、ご覧ください！　あちらの方角から、 モーティマさん達の援軍らしき軍勢が見えます！ 殿 …………！？ ソーマ ――――み、ミレイユ様！！ どうやら、先行していたモーティマさんたちが、 殿と思われる方に、戦いを仕掛けているようです！ ミレイユ 恐らくは何かの誤解か、早合点による不和が原因でしょう。 ミレイユ ……仕方在りませんね。 双方の被害を最小限に抑える為に、私たちも戦場に向かいましょう！ ミレイユ しかし、こちらの戦力が無用に増えては余計な疑いを与えるだけです！ 向かうのは私とソーマちゃんのみとします。 ミレイユ ケイティちゃん。貴方たちは戦闘には参加せず、 両陣営の負傷者の手当てに専念してください。 ケイティ わ、分かりました！ ミレイユ様の指示通りに動きましょう、ロイさん！ ロイ 承知しましたぞ！ やくも ……す、すごい数の兵たちがこっちにくるだに……。 千狐 …………。 千狐 …………ごめんなさい、殿。 千狐のせいで、このようなことになってしまって……。 殿 …………。 やくも なぁ、殿さん……。 いったいどうするがや？ 殿 …………。 殿 …………！ 柳川城 そうですね……。 今は応戦するしか手はないかと。 柳川城 心苦しいかもしれませんが、殿……出陣の準備を！
後半
モーティマ ――く、そぉ……こいつら、なかなかやりやがる！ だが、王子のことを聞くまでは負けるわけには………………。 ミレイユ そこまでですよ、モーティマさん。 これ以上争うというのなら、私が貴方を討ちます。 サキ そ、そうだよ。もうやめよう、モーティマ？ これ以上は死人が出てもおかしくないわ……！ モーティマ ……っち。けど、王子のことはどうすんだよ！？ そこにいる妖怪の女狐が王子について何か知ってるみたいなんだぞ？ 千狐 だから、千狐は妖怪じゃないのぉー！！ やくも ああもう、またケンカになったら洒落にならんだに！ 千狐もおっさんも落ち着くがやぁ！！ ミレイユ あの、千狐さん……で、いいのですよね？ 私の名はミレイユ。此処とは異なる世界より来た者にございます。 ミレイユ モーティマさんから話を聞いているかは分かりませんが、 私たちは主君である王子を探して、此の地までやってきました。 ミレイユ もし、王子について何かを知っているのであれば、 どうか、教えていただけないでしょうか？ 千狐 …………っ！？ (この人、昨日所領に来た方と同じように聖なる気を感じる。 それに、王子という方をとても案じているのが分かるわ……) 千狐 ……わ、分かりました。 ミレイユさんを、千狐は信じようと思います。 モーティマ おい！　俺ん時とはぜんぜん反応が違うじゃねーか！！ サキ ちょっと、話がこじれるから、 あんたは黙ってなさいってば！ ミレイユ ありがとうございます、千狐さん。 それでは、落ち着いて話せる場所へと移動しましょう。 やくも それなら、この近くにある美味しい茶屋にいくだに！ あそこの団子は絶品がやぁ～♪ ソーマ そういえば、こちらの世界に来てから何も食べていないから、 もうお腹がぺこぺこですぅ……。 ミレイユ ふふっ、では案内をお願いします、千狐さん。

異界門と聖槍の騎士 -後-

瘴気の影響によって殿と敵対するミレイユ。
受けた攻撃力分の反撃を行う彼女の特殊な
能力に注意しながら、この戦いに勝利せよ！

前半
ケイティ …………では、千狐さんの力があれば、 王子の霊気というものを探って居場所を突き止められると？ 千狐 はい。一度お会いしてますから、 同じ霊気を感じ取るのはそう難しくないと思いますわ。 モーティマ ……だそうだぜ、ロイ。王国魔術師のお前なら、 もしかして同じようなことができるんじゃねぇのか？ ロイ 試したことはありませんが……。 どれ、一つ頑張ってみましょうかね。 ミレイユ ロイさん、無茶はいけませんよ？ 出来ないなら出来ないと言った方が……。 ロイ 何を仰るのですが、ミレイユ様。 王国魔術師の力は侮れないのですぞ？ ロイ うむむむ…………はぁぁああーっ！！ やくも おおっ！？　何だか杖が光り始めてるだに！ 殿 …………！ ロイ …………ふぅ。 モーティマ 終わったみてぇだな。 ……で、結果はどうだったんだ？ ロイ ……いや、その……何と言ったらいいのでしょうか。 ミレイユ ダメだったのですね？ ロイ …………お恥ずかしい。 やくも もぉ～！　ミレイユさんが言ったように無茶はいかんだに！ やくも ここは千狐に任せて、ロイのおっちゃんも うちと一緒に大人しくしてるのが吉がや！ ロイ お、おっちゃん……！？ ミレイユ それでは千狐さん、よろしくお願いします！ 千狐 はい、お任せくださいですわ！ 千狐 むむむぅ…………。 ケイティ ……(ゴクリ) 千狐 ――コンッ！？ 見つかりましたわ！　これは間違いなく王子の霊気です！ ケイティ 本当ですか！？　王子は今、どこに……！？ 千狐 それが……。 千狐 この日向にいるようですわ！ モーティマ 本当なのか！？ じゃあ、すぐ近くにいるってことかよ？ 千狐 そうです。ただ……。 ソーマ ……何か、問題でも？ 千狐 はい……王子のすぐ近くに、 禍々しき霊気の存在を感じるのです。 ケイティ 恐らく王子は、この世界に逃げ込んだ魔物と 今まさに戦っているのでしょうね……。 ソーマ なら、一刻も早く私たちも加勢しなければ……！ ミレイユ 皆さん、手分けして周囲の探索を開始しましょう！ 何としてでも、王子を見つけるのです！ サキ 分かったわ、ミレイユ！ じゃあ、ソーマとモーティマはあたしと一緒に来てちょうだい！ ソーマ 分かりました！　 モーティマ おっしゃ、任せろ！　 ソーマ ――あっ！？ 見てください、背の高い木があります！ あそこに登って、上からあたりを確認してみますね！ ソーマ …………って、あれ？ 木陰に、誰かが……？ 兜 ――ザザッ！ サキ ……え？　なに、コイツ？ 兜軍団 ――ザザッ、ザザザッ！！ モーティマ おわわっ！？　な、なんだ急に！？ 妙なヤツらに囲まれちまったぞ！ やくも まずいがや！　あれは兜さんって言って、 すっごく危険なヤツらなんだにぃー！！ ミレイユ ロイさん、ケイティちゃん！ すぐに助けに行きましょう！ ケイティ はい！ ロイ ようやく、私の魔術の出番ですな！ 兜軍団 ――っ！？ 何ダ奴ラハ？　城娘デハナイゾ！ 兜軍団 エエイッ！　構ウナ！ 刺シ殺セ！　突キ殺セェッ――！！ ロイ その程度の刺突で、このロイが怯むとお思いか！？ ――よしっ、魔法による範囲攻撃で隙が生じました！ ケイティ殿、あとは頼みましたぞ！ ケイティ お任せください！　はぁっ！！ 兜軍団 ――ギャァアァアアアッ！！ ケイティ ……ふぅ、何とかなりましたね。 ソーマ 危ないところをありがとうございます、ケイティさん。 やくも す、すごいだに……。 一瞬で兜さんたちを倒してしまったがや。 やくも ケイティもロイのおっちゃんも、 さっきの戦いには参加してなかったから分からなかったけど、 めちゃめちゃ強いだにぃ！！ 千狐 (確かに……あれほどの方々が、 殿と共に戦ってくださればどれだけ心強いか……) 兜 …………グッ、ゥゥ……只デハ……朽チヌ……。 兜 ……今ダ…………瘴気ヲ…………蒔ケ…………ッ！ ソーマ ……えっ！　えぇぇ！？ な、何ですか、これは……！ ミレイユ ――！？ ミレイユ ソーマちゃん、ここから離れてください！ この瘴気は―― ミレイユ ――うっ……くぁ、ァァ……みんな、はやく……にげて、くださイ……！ ケイティ ミレイユ様ぁ！！ ロイ ケイティ殿、すぐにミレイユ様のもとに向かいますぞ！ ケイティ はい！ サキ ――待って、ケイティ！　ロイ！　 その瘴気に不用意に近づいちゃダメだってば！ モーティマ おい、何がどうなってるんだ……？ あの不気味な色の瘴気ん中に、 ケイティたちが包み込まれちまったぞ！？ 千狐 …………さ、最悪だわ。 あの瘴気、どうやら人心を操る効果を含んでいるみたい！ ソーマ そんな……！　じゃあミレイユ様は、 私たちを助ける為に、自らの身を挺して……？ やくも いいから、あんたらは後ろに下がるだに！ 全員が操られたら手に負えないがや！ ソーマ けど、ミレイユ様が……。 モーティマ おい、見ろよ。 薄気味悪い瘴気が晴れていくぞ！ ミレイユ …………。 ソーマ ――あっ！？ ミレイユ様！　よかった、ご無事だったのですね？ ミレイユ …………フフ。 ソーマ ミレイユ……さま？ モーティマ おいおい……。 あんな不気味な笑い方するミレイユなんざ、見たことねぇぞ……？ サキ 当然よ……既に、正気じゃないんだから！ ミレイユ …………フフフ。 ミレイユ 王子の捜索ヲ邪魔スル者タチは、 全て……我が聖槍にて突き穿チ、滅ス……。 ケイティ ご命じクダサイ、ミレイユ様……。 ……私タチの倒すベキ相手ヲ……。 ドウカ……お示しクダサイ……。 ロイ ……マァソウ慌テナサンナ。 魔法ノチカラハ侮レンノダゾ……ククク……。 千狐 そ、そんな……。 完全に、瘴気に心を囚われてしまってますわ！ 千狐 そこに倒れ伏した兜たちのことです……。 きっと仲間同士を争わせようと企んだのでしょう。 ソーマ 仲間同士を争わせる……？ ソーマ ミレイユ様と戦うなんて、私にはできません！ ソーマ いったい、どうしたら…………。 殿 …………！ ソーマ …………え？ モーティマ 仲間同士で争うなんて馬鹿げてる、だと？ サキ じゃあ何よ、あなたが一人でどうにかするっていうの？ 殿 …………。 殿 …………！ 柳川城 はい、私たち城娘もいます！ やくも そういうことだに！ ここは殿さんと城娘たちに任せるがや！ サキ ……分かったわ。 悔しいけど、ここはそうするしかなさそうね。 サキ ……ただ注意して、殿。 サキ ミレイユは、先刻の戦いでは手加減をしていた……。 けれど今回は、瘴気の影響を受けて全力で向かってくるはずよ。 千狐 ぜ、全力……？ もしかして、耐久力や防御力などが上がるということでしょうか？ サキ そんなのは序の口よ……。 それよりも、もっと厄介なことがあるわ。 柳川城 厄介なこと……とは？ サキ 実は、ミレイユには特殊な力があるの……。 サキ ……原理はよくわからないけど、彼女は受けたダメージを、 そっくりそのまま攻撃してきた相手に与え返すのよ！ やくも そんなの卑怯だに！ それじゃあ怖くて攻撃できないがや！ サキ でもやらなきゃ、こっちが一方的にやられちゃうでしょ！ やくも それは、そうやけどぉ……。 殿 …………。 殿 …………！ サキ ふん、こんな時に笑えるなんて、 あんた、大した度胸じゃない。 サキ 期待、してるからね？ 殿 …………！ 柳川城 それでは出陣です、殿！ 何としてでもミレイユさんたちを正気に戻しましょう！
合戦中
『千狐』 　　スキルを発動したミレイユさんは、耐久と防御が増加して、 　　攻撃してきた相手へダメージを与え返すみたいなの！ 『やくも』 　　なんかよく分からんけど、ミレイユさんの反撃スキルは、 　　城娘たちのダメージ計略や特殊な特技に対しては無効らしいだにぃ！
後半
千狐 何とか、勝てたみたいですね……。 ケイティ ……あ、あれ？　私はいったい……何を？ やくも よかったがや！　ケイティが正気に戻っただに！ ロイ 王国魔術師として、何たる不覚……。 ロイ いや、それよりもミレイユ様は！？ ミレイユ様は無事なのですか！？ ミレイユ ……フフフ。 ミレイユ 未ダ、負ケル訳ニハいきません……。 ミレイユ 王子ガ、私ノ助けを待って……イルのです……カラ……。 柳川城 くっ……なぜ、まだ起ち上がることができるのでしょう……！？ 柳川城 異世界の人間とは、これほどまでに頑丈なのですか？ サキ ミレイユが異常なのよ！ あれはもう、人の域を超えてるわ！ ソーマ お願いです、ミレイユ様！ 攻撃する手をお止めください！ ミレイユ ハァ……ハァ……邪魔ヲ……しない、デ……私ガ……王子を……。 王国を……まも、ル……守るト……あの日……誓っタ……ノ……です……。 柳川城 歩みが止まらない…………っ！？ 柳川城 (ですが、これ以上殿に危害を加えるというのなら、 私は……たとえ恨まれようと、心を鬼にしてミレイユさんを討つしか…………) サキ もう、こんな時にどうしてあいつがいないのよ！ サキ 王子！　あんた、この近くにいるんでしょ！ だったら、さっさと出てきなさいよぉ！ サキ じゃないと……あんたの大事な人が死んじゃうのよ！ ――その刹那。 美しき鎧をまとった勇士が、一陣の風が如く姿を現し、 聖なる槍を構える少女の眼前に立ちはだかった。 ケイティ …………え？ サキ ……う、そ？　ほんとうに、来てくれた……！？ モーティマ ったく、あの野郎……。 来るのが遅すぎんだよ。 ソーマ ――王子っ！！ 王子 …………！ やくも ――あ、危ないだに！ あんなふうにミレイユさんの前に立ったら……！ サキ ううん……きっと大丈夫よ。 王子の神器があれば、この程度の瘴気くらい訳ないんだから！ やくも じん、ぎ……？ ど、どういうことがや？ 王子 …………！ 千狐 ――王子が、武器を掲げましたわ！？ ミレイユ ……あ……ァァ……王子……ようやく、貴方ヲ……見つけ、ラレタ……。 …………本当に……心配……シタノ……です………………。　 ミレイユ 私ハ…………王子、アナタ……ヲ…………。 千狐 し、信じられません！　ミレイユさんの霊気が、 囚われていた心が……浄化されていきますわ！ 王子 …………。 ミレイユ …………ん。 ミレイユ あ、れ？　王子……？ ミレイユ 王子ではありませんか！？ 王子 …………。 ミレイユ …………そうですか。 私たちが助けに来たはずなのに、 逆に王子に助けられてしまったのですね。 ミレイユ これでは、近衛騎士団長失格です……。 王子 …………。 ソーマ ミレイユ様！　王子！　よかった……よかったですぅ！　 お二人が無事で、本当に……うぅぅ……。 サキ もう、なに嬉し泣きしてんだか。 モーティマ そういうお前も少し目が潤んでねぇか？ サキ う、うるさいわね！　そんなわけないでしょ！ まったく、いい加減なこと言わないでよね！ ロイ こらこら、せっかく王子とミレイユ様が無事だったというのに、 ケンカなどしてる場合ではありませんぞ。 ケイティ 王子、よくぞご無事で……。 本当に、心配したのですよ。 王子 …………！ ケイティ ……え！？ ということは、この世界に逃げ込んだ魔物は しかと討ち果たしたのですね！ ケイティ ならば、当初の目的は完了です、王子！ ケイティ それでは、我々の世界へ戻りましょう！　 アンナさんを始め、多くの方々が王子の帰りを待っています！ 王子 …………。 モーティマ お、おい！　どこいくんだよ！？ 殿 …………？ 王子 …………。 殿 …………。 殿 …………！ 王子 …………！ やくも おぉぉ……っ！ やくも 何やよくわからんけど、殿さんも王子も いい笑顔で握手しとるだに！？ 千狐 互いに多くの仲間を率いる者同士、 通じるものがあるのでしょう。 ケイティ ええ、どうやらそのようですね。 やくも なぁ、もう少しくらい此処に留まることはできんがや？ せっかく出会えたのに、これでお別れなんて寂しいだに……。 ロイ 我々もそうしたいのだが、 異界へと通ずる門は長くは保たないのだ。 千狐 完全に閉じきる前に帰らねば、 戻る手段を探すのが困難となる、ということですね。 やくも なら……仕方ないだに。さっき茶屋でケイティに話したような 王子たちを招いての所領での宴を開くんは我慢するがや……。 ミレイユ …………。 ミレイユ あの……殿。 殿 …………？ ミレイユ 貴方のおかげで、私たちは こうして王子との再会を果たすことができました。 ミレイユ どれだけの言葉を重ねようと、 この恩に報いることはできないでしょう。 ミレイユ ですので、我が礼意を示す為、 この『聖槍ロンゴミニアド』の力をお貸ししましょう。 殿 …………！？ ミレイユ 聞けば、貴方は王子と同じように邪悪な敵と戦い、 世界を救おうとしているそうではないですか。 ミレイユ ならば、きっとこの聖槍の力が役に立つはずです。 千狐 ……す、すごいですわ！ とてつもない力をこの槍から感じます！ やくも はぇ～。この『ロンゴンゴンゴ』とかいうのは、 そげに強力な武器なんやね！　 やくも 殿さん、これで鬼に金棒だに！ ケイティ (ロンゴミニアドなのですが……まぁ、いいでしょう) サキ …………。 サキ (それじゃあ、ロイ。そろそろ……) ロイ (ええ、手はず通りにお願いいたしますぞ……) ロイ ええ……それでは、僭越ながら私も 殿たちへの恩へ報いる為、 最後にとっておきの魔術をご覧に入れましょう！ モーティマ (……ん？　おい、ケイティ。 ロイのやつ、いったいどうしたんだよ？ あんなことするようなヤツだったか？) ケイティ (――しっ。お静かに。 この世界に来る前に話したことをお忘れですか？ ロイさんとサキさんはそれを実行するのです……) モーティマ (この世界に…………？　 ああ、アレか。ったく、面倒くせぇ……) ロイ オホン、あ～では、 この杖の先をよーく見つめていただきたい！ やくも んぁ？　杖の先？ 何かあるがや？ 千狐 とっておきの魔術っていうくらいだから、 素敵なものが突然ぼわぁーって出るのよ、きっと！ 柳川城 楽しみですね、殿！ 殿 …………！ サキ (殿、みんな……ごめんね) ――サキが勢いよく地を蹴る。 そうして繰り出された神速の当技によって、 殿一行はその場に気を失って倒れた。 サキ …………ねえ、ロイ。 本当に、こんなことする必要あるの？ ロイ ……ええ。 ロイ 異界者同士の接触によって生じた記憶というものは、 時として当事者の世界の理を崩す可能性を孕む……。 ロイ 我々の世界のような魔法文化が殆ど見受けられない このような世界なら尚のこと危険度は増すでしょう……。 ロイ 故に、我々との記憶は、 極力残さぬ方がいいのです。 サキ ……理解はしたけど、やっぱ納得はできないわ。 モーティマ 魔術師には魔術師の理論ってのがあんだろうさ。 こればっかりは俺たちが口を挟むべきじゃねぇよ。 ロイ ………………よし。 簡易的な魔法での処置ではありますが、これで良いでしょう。 彼らが目覚めた時、今日のことは夢の出来事だったと認識するはずです。 ソーマ ……あ、あの、ロイさん？ ロイ ……何でしょう？ ソーマ えっと、ですね……記憶のこととかは何となく分かったのですが、 その……このまま気絶している殿たちを 此処に置いていくなんてことは……しないですよね？ ロイ …………。 ロイ …………え？ サキ え？　じゃないわよ！ 殿たちが風邪ひいちゃったら可哀想じゃない！ ケイティ それよりも、先ほどの兜のようなモノたちに 襲われる可能性の方が高いのでは……？ モーティマ 何にしても、さすがに此処に放っておくわけにはいかねぇよな。 サキ なら、やくもちゃんが茶屋で話してた 所領とかっていう、殿たちの本拠地まで運ぶしかないわね。 ケイティ 幸い、場所の子細は私が聞いています。 馬を駆れば、日暮れまでには辿り着けるでしょう。 ミレイユ それでは、異界門が閉じきる前に急いで運びましょうか。 王子 …………！ ――翌日。 卯の刻・所領。 殿 …………ぐぅ。 千狐 殿ぉ～、朝ですわ！ そろそろ起きてください！ やくも 朝餉もできてるだに！ 早く起きて、一緒に食べるがやぁ！ 殿 …………？ 殿 …………。 殿 …………！ 柳川城 ……ど、どうしたのですか殿？ 柳川城 ……ん？　異世界の方たちと戦う夢を見た……ですか？ 千狐 ――え！？ やくも ――殿さんもかや！？ 殿 …………？ 柳川城 実は、私を含め、千狐さんとやくもさんも そのような夢を見たと、先ほど話していたのです。 やくも 不思議なこともあるもんやね。 やくも といっても、そんなにはっきりとは覚えてないけん、 正直どんな人たちと戦ってたのかは分からんだに。 やくも まぁ、そげなことよか、はやー朝餉を食べるだに！ せっかく柳川城が早起きして作ってくれたもんを 冷ましてしまうのは失礼がや。 千狐 とか何とか言って、 やくもが早く食べたいだけでしょう？ やくも それもあるだにぃ♪ 千狐 それでは、殿。 千狐の手をお取りください。起こして差し上げますわ。 やくも あ～！　うちもやるだにぃ！ 柳川城 な、なら私もお手伝いします！ 殿 …………！ 千狐 せ～のっ！ 千狐 ――って、あら？ やくも 殿さん、なんで布団の中に武器なんか隠してるがや！？ 柳川城 これは、槍……ですね？ 護身用に買われたものですか？ 千狐 それにしても、珍しい武器ですね。 見たところ、西洋のもののようですが……。 やくも 殿さん、誰かに寝込みを襲われる心配しちょーなら、 今夜はうちが隣で布団敷いて、お守りするってのでもええよ？ 柳川城 ――えっ！？ 柳川城 ならその役目、私も立候補したいです！ 千狐 や、柳川城さん……？ 柳川城 ……あ、も、申し訳ありません……つい。 柳川城 って、それよりも朝餉でしたね。 柳川城 殿、さあどうぞこちらへ。 今日は殿のお好きなお魚をですね……――――。 千狐 …………。 千狐 それにしてもこの槍……。 千狐 見ていると、何かを思い出しそうになるような……。 千狐 ……むぅ～。 千狐 そうだわ！　たしかこれ、ロンゴ―― やくも ――千狐ぉ！　殿さんが待ってるだに！ いただきます出来ないから、はやー来るがやぁ！ 千狐 ……あぁ、もう。 何か思い出しかけたのに消えちゃったじゃない……。 千狐 まぁ、いっか。 千狐 もし必要なことなのであれば、 いつかきっと思い出すはずだもの…………ね？

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