ストーリーテキスト/甘露求める悪戯夜行

ページ名:ストーリーテキスト/甘露求める悪戯夜行

目次

甘露求める悪戯夜行[]

甘露求める悪戯夜行 -序-

平遥古城にて開催されるパーティーを目当てに、
続々と招待客たちが集まってくる。だがその頃、
御城付近にて怪しげな動きをする城娘の影が……。

前半
某日。平遥古城の付近――

ヴェルサイユ宮殿
ふふ……ここが平遥古城ね。
長い道のりだったけど、ようやく辿り着いたわ……。

ヴェルサイユ宮殿
今宵、ここで……。
ハロウィンの仮装パーティーが開かれるわけね。

ヴェルサイユ宮殿
これでわたしも……日の本の王様とやっとお会いすることができる。
ふふ……楽しみだわ♪

ヴェルサイユ宮殿
…………。

ヴェルサイユ宮殿
ただ、問題が一つあるのよね。

ヴェルサイユ宮殿
そう……わたしがパーティーに招待されてない、
っていう大きな問題が……。

ヴェルサイユ宮殿
…………。

ヴェルサイユ宮殿
……ど、どうしよう。

ヴェルサイユ宮殿
情報をキャッチして、勢いだけでここまで来たけれど、
ここからどうするのか全く考えてなかったわ……。

ヴェルサイユ宮殿
『着けば何とかなる』って思ってたのだけど、
わたし、どうやって何とかするつもりだったのかしら……。

ヴェルサイユ宮殿
何も思いつかないわ……うぐぐ、どうすれば……!

???
――そこで何をしておる?

ヴェルサイユ宮殿
ひぇっ!?

ブラン城
む……? おお、
誰かと思えばヴェルサイユではないか。久しぶりだな。

ヴェルサイユ宮殿
あら、ブラン城じゃない。
き、奇遇ね?

ブラン城
奇遇? ……ということは貴殿、
今宵のパーティーに招待されたわけではないのか?

ヴェルサイユ宮殿
招待? ええと、その……。

ヴェルサイユ宮殿
パ、パーティーというのは初耳だわ。
わたしは偶然、ここを通りかかっただけだもの……そう、偶然ね?

ブラン城
…………。

ブラン城
(偶然って……貴殿の城からここまで、
 どれだけの距離があると思っているのだ……)

ブラン城
(そもそも貴殿、
 ハロウィンルックでバッチリめかし込んでおるではないか……)

ブラン城
(……などと、率直な感想を述べるところではなさそうだが……)

ヴェルサイユ宮殿
ところで……なんだか、あちらの御城が賑わっているようだけど。
貴方の言うパーティーというやつかしら?

ブラン城
うむ。妾は諸用で城を発つのが遅れてしまったのでな。
すでに御城の中では、王も含めてパーティーを楽しんでいる頃合いだろう。

ヴェルサイユ宮殿
そ、そう……王様がね。

ヴェルサイユ宮殿
ところで、ブラン城?
王様は……やっぱり、御城の中からは出てこないものなのかしら?

ブラン城
ん? 王が御城の中から……?

ヴェルサイユ宮殿
ええ。例えばほら、気まぐれに御城の周りを散歩したりとか、
そういうことはしないのかなー、って……。

ブラン城
うむ……王にとっては異国の地だからな。
観光などで出歩くことは考えられるが……何とも言えんな。

ヴェルサイユ宮殿
ふ、ふぅん……そっか。そうよね……。

ブラン城
…………。

ブラン城
(なるほど、そういうことか。ならば……)

ブラン城
時にヴェルサイユよ。
……貴殿、この後の予定は空いておるか?

ヴェルサイユ宮殿
……え?

ブラン城
ここで出くわしたのも一つの縁。
どうだ、妾と一緒にハロウィンパーティーを楽しむというのは?

ヴェルサイユ宮殿
ええっ、いいのっ!?

ブラン城
無論、主催者である平遥古城の判断を仰ぐ必要はあるが……。
まぁ、門前払いを食らうことはないだろう。どうだ、行くか?

ヴェルサイユ宮殿
(なんて幸運なのかしら!
 はるばる足を運んできた甲斐があったわね……!)

ヴェルサイユ宮殿
うん、行きたい……!
わたしもパーティー行きたい!

ブラン城
(まったく、建前を守るのを忘れるほど喜びおって……)

ブラン城
(ここまで来るのも一苦労だったろうに。
 ……どうしても王に会いたかったのだろう)

ブラン城
(その気持ちに気づいてしまった以上、
 放っていくわけにはいかんからな……)

――――

――――平遥古城。

ブラン城
――というわけなのじゃ。
不躾ですまぬが、妾の友人も参加して良いかの?

平遥古城
もちろんだよ!
一人くらい増えたところで、何てことはないさ♪

平遥古城
その上……こんなに愛くるしい城娘ともなれば、
歓迎しない理由はどこにもないね!

平遥古城
……で、そちらのお嬢さんのお名前は、なんて言うのかな?

ヴェルサイユ宮殿
ヴェルサイユ宮殿と申します。
この度は寛大な措置、誠に感謝いたします。

平遥古城
ヴェルサイユ宮殿! フランスの城娘だね?
絢爛華美な御城だって評判は、この国にまで届いてるよ!

平遥古城
今後ともよろしくね、ヴェルちゃん♪

ブラン城
こら平遥古城。幼い容姿をしているが、
こちらは名のある御城なのだぞ。もう少し礼節というものを――

ヴェルサイユ宮殿
気にしないで、ブラン城。

ヴェルサイユ宮殿
ここは平遥古城さんの御城、それも今はパーティーの最中だもの。
堅苦しいのは抜きにしましょう。ね?

ヴェルサイユ宮殿
……ですからどうぞお気軽に、ヴェルちゃんと呼んでください。
こちらこそよろしくお願いしますね、平遥古城さん♪

平遥古城
うんうん♪ 思いっきり楽しんでいってね♪

ブラン城
…………。

ブラン城
すまぬ、ヴェルサイユ。
要らぬ節介を焼いてしまった……。

ヴェルサイユ宮殿
ううん。気を遣ってくれてありがとう、ブラン城。

ヴェルサイユ宮殿
……でも、ここは異国の地。『絶対王政の象徴』なんて看板を掲げたところで、
今日のパーティーは楽しめないわ。そうでしょう?

ブラン城
…………。

ブラン城
うむ、確かにその通りだな。

ヴェルサイユ宮殿
それで、ええと……。
王様、王様の姿は……?

やくも
殿さん殿さんっ、すごいだに!
あっちの方に見たことないお菓子が!

ヴェルサイユ宮殿
(……っ! 今『トノ』って……!)

殿
…………。

ヴェルサイユ宮殿
あれだわ……あの人が、
わたしたち城娘を束ねる王様……。

ヴェルサイユ宮殿
招待された城娘たちと談笑しているみたいね。
……わ、わたしもあの輪の中に……!

ヴェルサイユ宮殿
自分から行かなきゃ。ここではわたしも、一人の城娘に過ぎない。
敬われ、もてなされる立場にはないのよ、ヴェル……!

ヴェルサイユ宮殿
よし、今よ――!

ヴェルサイユ宮殿
お、王様っ!

殿
…………?

ヴェルサイユ宮殿
お初にお目にかかります、王様。
わたし、ヴェルサイユ宮殿と申します。

ヴェルサイユ宮殿
王様の噂は、以前よりかねがね……。

柳川城
ヴェルサイユ宮殿さん……フランスの方ですね。
欧州では知らぬ者は居ない程の城娘です……!

殿
…………!

ヴェルサイユ宮殿
(ええと、何か話題を……話題を、なにか――)

千狐
コンッ!? この気配は!?

殿
…………!


――ザザッ!!

兜軍団
ザザッ! ザザザッ!!

柳川城
兜……それもかなりの数です……!

平遥古城
やばいよやばいよ!
ボクのパーティーがめちゃくちゃにされちゃうよ~!

平遥古城
あいつらに損害賠償って請求できるのかなっ!?
いや、とっ捕まえて根こそぎ剥ぎ取れば、むしろ黒字か!?

ブラン城
落ち着け! 金勘定の前にまずは命!
妾たちでこの会場を守り抜くのだっ!

ヴェルサイユ宮殿
兜ですって? くぅ……こんな時に……。

ヴェルサイユ宮殿
なんて言ってる場合じゃないわね……わたしも戦わなきゃ……!

平遥古城
ハロウィンの本番はこれからなんだ。
誰も傷つけさせるわけにはいかないよ……。

平遥古城
それじゃ殿クンっ、下知をお願い!

後半
柳川城

はああぁぁぁっ!!


ギャアアアアアアァァァァッッ!!

ブラン城
兜はこれで全て……皆、無事か!?

平遥古城
料理とお菓子は、良し。
ハロウィングッズも良し、と……。

平遥古城
被害は最小限で食い止められたみたいだね。
はぁ、良かったぁ~……。

やくも
もぐ……危ないところだっただに……。

千狐
この兜たち……やはり以前と同じく、
お菓子を目当てに集まったのでしょうか……?

柳川城
わかりません……何にせよ、
周囲に警戒を払う必要がありそうですね……。

やくも
もぐ……兜さんたちも相変わらず、んぐ。
……どこにでも現れるだに……もぐ、もぐ……。

千狐
もう少し緊張感をもちなさい……やくも……。

ヴェルサイユ宮殿
…………。

ヴェルサイユ宮殿
すごいわ、王様……!
突然現れた兜にも動じず、的確な指示を次々と……。

ヴェルサイユ宮殿
素敵だわ……噂で聞いていたよりも、ずっと……!

ヴェルサイユ宮殿
……でも、この混乱のせいで、
話しかけるタイミングを逃してしまったわ……。

ヴェルサイユ宮殿
いいえ……諦めるのはまだ早いわよ、ヴェル。
パーティーはまだこれからだもの……。

ヴェルサイユ宮殿
……このパーティーで絶対、
王様と仲良くなってみせるんだから……!

甘露求める悪戯夜行 -破-

兜の侵攻を退けた一同は、パーティーを再開して
歓談を楽しむ。しかしそんな中、上手く溶け込む
ことができず、やきもきする城娘が一人……。

前半
平遥古城

いやぁ、会場や皆が無事で良かったよ。

柳川城
ですが……良いのでしょうか。
いつ兜が攻めてくるとも限らないのに、宴を再開するなんて……。

平遥古城
いいのいいの。心構えだけもっておけば大丈夫だって♪
もしかしたら攻めてこないかもしれないし!

平遥古城
ずっと気を張ってたら疲れちゃうよ。
ねぇ、殿クン?

殿
…………!

やくも
だに。こんなに素敵な宴を催してくれたのに、
中止にしてしまうなんてもったいないがや。

平遥古城
そうそう。それに、パーティーが中止になんてなったら大赤字。
ボクにとってはそれこそ死活問題だよ。

千狐
な、生々しい話ですね……。

平遥古城
生々しいけど、ボクにとっては無視できない現実なんだ。

平遥古城
経費を差っ引いても尚、ボクの手元にお金が残ったなら……。
働いてくれた人たちに喜びが行き渡ったっていう、何よりの証拠になるからね。

平遥古城
もちろん、そこにお客さん……、
殿クンたちの笑顔が付いてくれば、言うことなしだけどさ♪

平遥古城
というわけでやくもちゃん。
お持ち帰り用のお菓子については、こちらの一覧を確認してね。

平遥古城
やくもちゃんなら、特別ご奉仕価格でお応えするよ♪

やくも
!!

やくも
買った、買っただに!
ここに載ってるお菓子、全部もらうだに!

やくも
千狐! 来月のお小遣いの前借りを所望するがや!

千狐
ほどほどにしておきなさい、やくも。
どうせ来月になったら後悔することになるんだから……。

ブラン城
すかさず商売……抜け目の無い奴じゃの、平遥古城は……。

ヴェルサイユ宮殿
…………。

ヴェルサイユ宮殿
(ど、どうしよう……)

ヴェルサイユ宮殿
(王様に近づくことができたのはいいけど、
 お喋りするタイミングが全然掴めないわ……)

ヴェルサイユ宮殿
(えっと……普段はどうしてたんだっけ)

ヴェルサイユ宮殿
(頭を下げてもらって……それから、
 『苦しゅうない』とか『近う寄れ』みたいなこと言って……)

ヴェルサイユ宮殿
(って違う違う……ここはわたしの国じゃないんだってば。
 もっと、私から歩み寄らないと……)

ヴェルサイユ宮殿
(それから、それから……。
 仲を深めて、王様にわたしの手紙を……!)

柳川城
――では、ヴェルサイユ宮殿さんは如何でしょうか?

ヴェルサイユ宮殿
……え? な、何の話かしら?

やくも
用意してきた仮装の話だに!

千狐
皆さん素敵な仮装をされているので、
どんな由来があるのか伺っていたのです♪

ヴェルサイユ宮殿
あ、この仮装のことね……えっと。

ヴェルサイユ宮殿
これは私の国に多くの言い伝えが残る、
魔女をイメージしたものなの。

やくも
魔女! 妖術使いのことだに?

千狐
日の本風に言うと、そうなるのかしら……。

柳川城
異国の童話の中だと、
かぼちゃを馬車に変身させたりなどしていますね。

ヴェルサイユ宮殿
ええ、そうね。
かぼちゃはハロウィンにも縁が深いものだから、お供の幽霊にはその仮装を――

???
――よぉし、今です! 虎姑婆の出陣です~!

安平古堡
がおーー!

ヴェルサイユ宮殿
――きゃっ!?

安平古堡
がお~! 虎ですよぉー。
怖ぁい怖ぁい虎さんなのですよぉ~。

安平古堡
お菓子をくれない悪い大人は、
わたしがみーんな食べちゃうですよー!

殿
…………。

安平古堡
…………。

安平古堡
……あれ?

千狐
安平古堡さん!
貴方もこのパーティーに招かれていたんですね!

柳川城
お久しぶりです、安平古堡さん。
虎の仮装、とっても可愛らしいですよ。

安平古堡
え、可愛いです? えへへ……そうかなぁ?

安平古堡
じゃなくて! 今日は皆をびっくりさせて、
ぶるぶるさせるつもりでここまで来たんです!

安平古堡
わたしは総督ちゃんに、とりっくおあとりーとして、
お菓子をたんまりもらわなきゃいけなくて……!

殿
…………。

殿
…………!

安平古堡
わぁ、お菓子がいっぱい!
……いいのですか、総督ちゃん?

殿
…………!

安平古堡
やったぁ♪
それじゃ遠慮なく、いただきますです!

安平古堡
もぐもぐ……ふふ、甘くて美味しい♪
とりっくおあとりーと、大成功です♪

安平古堡
ん……大成功?
あれ、これで良かったのでしょうか……?

平遥古城
まま、細かいことはいいじゃない。
まだまだ脅かす機会はあるわけだし、今日は存分に楽しんでいってよ♪

安平古堡
はいっ! 平遥古城ちゃんには大感謝なのです!
お菓子は美味しいし、賑やか……皆、仮装に身を包んで――

安平古堡
――わぁっ!
とっても綺麗な魔女さんが居るのですっ!

ヴェルサイユ宮殿
わ、わたしのことかしら?

安平古堡
ですです! その衣装、すっごく素敵なのです!

ヴェルサイユ宮殿
……くす、どうもありがとう♪

ヴェルサイユ宮殿
わたしの名前はヴェルサイユ宮殿。
はじめまして、可愛くて恐ろしい虎さん♪

安平古堡
はいっ! よろしくです!

安平古堡
ふふっ……新しいお友達とも出会えるなんて♪
お菓子の他にも楽しみがいっぱい――

安平古堡
――むむっ!?

ブラン城
……ん? どうしたのだ、険しい顔をして?

やくも
(到着して早々、忙しいやつだに……)

安平古堡
なんだか今、あっちの方からイヤ~な気配を感じたのです。
……虎だからでしょうか?

ヴェルサイユ宮殿
と、虎だから?

安平古堡
はい。今のわたしは肉食獣……。
ですから、獲物の気配には敏感なのです。

ヴェルサイユ宮殿
関係あるのかしら……?

ブラン城
ないだろうな……。

平遥古城
……とはいえ、今しがた兜に襲われたばかりだからね。
杞憂だとしても、確認くらいはしておきたいよ。

平遥古城
ねぇ、殿クン。また手間を掛けさせちゃって申し訳ないんだけど、
キミも付き合ってくれないかな……?

殿
…………。

殿
…………!

平遥古城
ありがとう、助かるよ♪

平遥古城
それじゃ……安平古堡ちゃん。
その『イヤ~な気配』を感じた方へ案内してほしいんだけど、お願いできるかな?

安平古堡
了解です!
それじゃ皆さん、わたしの後に続いてください!

安平古堡
パーティーも総督ちゃんも!
わたしが守ってみせるのですー!

後半
安平古堡

やりました!大勝利なのです~!

やくも
まさか、ほんとに兜さんたちが居るとは思わんかっただに……。

千狐
ええ。今回は、
千狐も気配を感じ取れなかったのに……。

柳川城
……虎だからでしょうか?

ブラン城
かもしれんな……。

平遥古城
……ともあれ、兜の脅威は去った!
これで無事、パーティーも続けられるね!

柳川城
やっぱり続けるつもりなのですね……。

平遥古城
もちろんだよ!
安平古堡ちゃんの働きを無駄にするわけにはいかないからね!

平遥古城
さぁ殿クン、付いてきて!
お楽しみはここからだよ!

殿
…………!

やくも
だにぃ~!

ヴェルサイユ宮殿
…………。

安平古堡
…………。

安平古堡
……ヴェルちゃん? 戻らないのです?

ヴェルサイユ宮殿
あっ、そうね。少し、ぼーっとしてしまって。
……行きましょうか。

安平古堡
それじゃ、手をつないで戻るのです!
虎と魔女が手を組めば、向かうところ敵なしです♪

ヴェルサイユ宮殿
…………。

ヴェルサイユ宮殿
元気ね……安平古堡さんは。
見ているだけで、こっちまで笑顔になってしまうくらい。

安平古堡
ありがとです! 本当は総督ちゃんを怖がらせたかったのですが、
ヴェルちゃんを笑顔にできたなら……それはそれ、なのです!

ヴェルサイユ宮殿
わたしも……貴方のように素直でいられたら……。

安平古堡
ん……何か言いましたか、ヴェルちゃん?
何だか悲しそうなお顔なのです……?

安平古堡
……ん?

安平古堡
ヴェルちゃん、ポケットから何か落ちたのです。

ヴェルサイユ宮殿
……あら?

安平古堡
……これは、お手紙です。
誰かに渡すつもりなのです?

ヴェルサイユ宮殿
…………。

ヴェルサイユ宮殿
え、ええ。出そうと思っていたのを忘れて、
そのままにしていたみたい……。

安平古堡
それじゃ、大事にとっておかないと大変です。
次は落とさないように気をつけるのです。

ヴェルサイユ宮殿
そうね……助かったわ、安平古堡さん。

安平古堡
どういたしましてなのです♪
さ、早くパーティーに戻るですー!

ヴェルサイユ宮殿
ちょ、わわ……引っ張らないで、安平古堡さんっ!?

ブラン城
…………。

甘露求める悪戯夜行 -急-

パーティーの喧騒から離れて、ひと休みする
ヴェルサイユ宮殿。その後を追って現れた
ブラン城は彼女の心労を気遣い、声を掛ける。

前半
ヴェルサイユ宮殿

…………。

ヴェルサイユ宮殿
……この辺りまで来れば、大丈夫かしら。

ヴェルサイユ宮殿
よいしょ、っと……。

ヴェルサイユ宮殿
……ふぅ。

ブラン城
休憩か?

ヴェルサイユ宮殿
――きゃあっ!?

ヴェルサイユ宮殿
はぁ、ブラン城……。

ヴェルサイユ宮殿
脅かさないでよ。
さっきも後ろから脅かされたばっかりなんだから……。

ブラン城
可愛くて恐ろしい虎さん、だったか?
あの驚きぶりは傑作だったな。

ヴェルサイユ宮殿
からかわないでよ、もぉ……。

ブラン城
幼い城娘に懐かれてたじろぐ……なんて姿の貴殿は、
滅多に見れんからな。からかいたくもなるさ。

ヴェルサイユ宮殿
『滅多に』どころじゃないわ、初めての経験よ。
わたしだってびっくりしてるもの……こんな自分が居たなんて。

ヴェルサイユ宮殿
それに、思い知ったわ……。自分がこれまで、
周りの城娘たちに守られていたんだ、って。

ブラン城
…………。

ヴェルサイユ宮殿
わたしのことを敬って、お姫様みたいに扱ってくれる子たちに囲まれてきたから……、
わたし、ここまで来れたのよね……。

ブラン城
お姫様って……ふふっ、自分で言うのだな?

ヴェルサイユ宮殿
だって本当にそうだったんだもん!
でも今は、どうにか変わろうとしてるのよ、悪い?

ブラン城
『だもん』か。
……普段のヴェルサイユに戻ってきたな。

ヴェルサイユ宮殿
い、今のはつい勢いで……!

ブラン城
良いではないか。存外、
そういった一面を見せた方が打ち解けられるかもしれないぞ?

ヴェルサイユ宮殿
そういうものなのかしら。
けど、そう簡単にできるもんじゃないのよね……。

ブラン城
…………。

ブラン城
……隣、失礼しても?

ヴェルサイユ宮殿
ええ、どうぞ。

ブラン城
…………。

ブラン城
……悪くなどないさ。

ヴェルサイユ宮殿
……え?

ブラン城
先ほどの問いへの答えだ。……悪くなどない。
貴殿の努力、妾は素晴らしいと思う。

ブラン城
地位を盾にワガママ放題するお姫様のままでいるよりは、余程な。

ヴェルサイユ宮殿
うぐ……やっぱりそう見えてた?

ブラン城
ふふ、なぜショックを受ける?
……貴殿自身が言ったことじゃないか。

ブラン城
ただ、まぁ……似たようなことを言う者が、
妾の知る限りでも二人……いや、三人くらいは居たような……。

ヴェルサイユ宮殿
そっか……やっぱりそうなのね……。

ブラン城
いや待て。四人、それとも五人か。
む、十人くらいだった気も……。

ヴェルサイユ宮殿
からかってるわ!
そうでしょう! またからかってるのねっ!?

ブラン城
はははっ。
ヴェルサイユがここまで愉快な奴だとは知らなかったな。

ヴェルサイユ宮殿
もう、こっちはちっとも愉快なんかじゃないわよ……。

ブラン城
……まぁ、冗談はさておき。
貴殿を悪く言う話など、妾は聞いたことはないぞ。これは本当だ。

ヴェルサイユ宮殿
…………。

ブラン城
貴殿は、ただ担がれているだけのお姫様などではない。
皆、そのことを理解しているのだ。

ヴェルサイユ宮殿
そうかしら……。

ブラン城
うむ……妾も同じ気持ちだ。

ブラン城
伴も連れず、ただ一人でここまで足を運び……不器用ながらも、
異国の城娘たちと仲を深めようとしている。

ブラン城
貴殿が、貴殿なりに……、
前へ進もうとしていることが、よく伝わってきた。

ヴェルサイユ宮殿
…………。

ヴェルサイユ宮殿
なんだか……あれね。
面と向かってそう言われると、少し……恥ずかしいわ。

ヴェルサイユ宮殿
けど、そう言ってもらえて嬉しい。……ありがとう。

ブラン城
……ふふ、どういたしまして。

ブラン城
……で、渡さなくていいのか?

ヴェルサイユ宮殿
……え?

ブラン城
手紙……王に向けたものなのだろう?

ヴェルサイユ宮殿
…………。

ヴェルサイユ宮殿
目聡いわね。
……ポケットから落ちた時に気づいたの?

ブラン城
そこまで見通したわけじゃない。

ブラン城
妾が分かったのは……あの手紙が貴殿にとって大事な物であること。
それから、安平古堡に嘘をついている、ということだけだ。

ヴェルサイユ宮殿
それでカマをかけてみた、と。
くす……なんかさっきからわたし、良いとこなしね。

ブラン城
わずかだが、貴殿より長生きしているのでな。
若干知恵は回るのだ。

ヴェルサイユ宮殿
…………。

ヴェルサイユ宮殿
実はね……うちの宮殿で今、
パーティーの用意を進めてるの。

ブラン城
ハロウィンパーティーか?

ヴェルサイユ宮殿
うん。我ながら無計画すぎて呆れるけど……、
王様を呼べたら、と思って。

ヴェルサイユ宮殿
でも難しいものね、殿方をお誘いするのって。

ヴェルサイユ宮殿
言葉にしようとしても、恥ずかしくて、
怖くて……固まってしまうのよね……。

ブラン城
ふふ……貴殿自身の手で誰かを招待することなど、
貴殿にとっては初めての経験だものな?

ヴェルサイユ宮殿
な、なに笑ってるのよっ。わたしは真剣に悩んで――

ヴェルサイユ宮殿
――ッ!?

ヴェルサイユ宮殿
ブラン城、今の感覚は……。

ブラン城
うむ……イヤ~な気配、どころではないな。
兜の軍勢が接近してきている……!

ヴェルサイユ宮殿
すぐに王様のところへ戻りましょう……分断されると厄介だわ。

ブラン城
ああ、急ごう!

後半
平遥古城

はぁ、はぁ……しつこい奴らだよ。
そろそろパーティーも締めに入るっていうのに……。

千狐
もう兜の気配は感じられないので、
安心して良いとは思うのですが……。

やくも
虎さんの方は、いかがだに……?

安平古堡
む~、むむむ……。

安平古堡
……先ほどのような気配は、感じられないのです!
すぐさまパーティーを再開するべきだと思うのです!

やくも
承知しただに~!

千狐
(せ、千狐よりも安平古堡さんの方が、
 信頼を寄せられてるの……!)

殿
…………。

ヴェルサイユ宮殿
(王様が、すぐ傍にいるわ……今よ、手紙を渡すの……!)

ブラン城
…………。

ヴェルサイユ宮殿
お、王様っ……!!

殿
…………?

ヴェルサイユ宮殿
この、招待状……受け取ってほしいの……!

ヴェルサイユ宮殿
あの……あのね。実は近々、
わたしの宮殿でパーティーを開こうと思ってて……。

やくも
パーティー?
ここでやってるみたいな、はろうぃんの宴だに?

ヴェルサイユ宮殿
うん、そうなの……それで、もし良ければ王様を……、
それから他の皆も、招待しようと思ったんだけど、えと……。

ヴェルサイユ宮殿
その……いかが、かしら?

殿
…………。

ヴェルサイユ宮殿
……も、もちろん『良ければ』の話よ?

ヴェルサイユ宮殿
皆、ここでパーティーを楽しんでいる最中だもの。
それに、平遥古城さんが招待したお客様を、横取りするような形になってしまうし……。

平遥古城
気にすることないよ、そんなの!
ボクの御城のパーティは今晩限りのものだからね。

ヴェルサイユ宮殿
今晩限り……そうなの?

平遥古城
うん。ボクはまだハロウィンを知って間もないからね。

平遥古城
今年のパーティーは感触を掴むことを目的にして、
小さめの規模で開催することにしたんだ。

平遥古城
ただ……来年のハロウィンでさらに儲けを出すなら、
他の国の様子も調査しなきゃいけないって、思ってたんだよね。

平遥古城
だから、ヴェルちゃんのパーティーには、
ぜひ参加させてもらいたいなーって。……いいかな?

ヴェルサイユ宮殿
も、もちろん! 歓迎するわ!

安平古堡
わたしも参加したいのです!
ヴェルちゃんのお家と聞いたら、黙っているわけにはいかないのです~♪

ヴェルサイユ宮殿
安平古堡さん……ありがとう。

やくも
殿さん、うちらも参加するだに!

千狐
千狐も参加を希望します♪
フランスのハロウィンがどんな物なのか、味わってみたいです!

柳川城
それにヴェルサイユ宮殿さんと言えば、フランスでも屈指の美しさを誇る宮殿。
……ハロウィン以外にも、見どころが沢山あるに違いありません。

殿
…………。

殿
…………!

やくも
うおぉぉ~、やっただにぃ!
こうなったら、来年のハロウィンまで保つくらいお菓子を買い込むがや~!

千狐
……言っておくけど、やくも。
再来月のお小遣いを前借りするのは、許しませんからね?

やくも
…………っ!?

やくも
り、理不尽だに!
再来月のお小遣いは大事なうちの資産がやっ!!

千狐
コンッ! 理不尽はどっちなの!? 前借りしてるお小遣いは、
千狐の懐から出てるってこと、忘れてないかしら!?

柳川城
まぁまぁ、お二人とも落ち着いて……。

ヴェルサイユ宮殿
…………。

ブラン城
良かったな、ヴェルサイユよ。

ヴェルサイユ宮殿
ブラン城、わたし……言えた。ちゃんと言えたよ?

ブラン城
ふっ……なにを涙ぐんでおるのじゃ。

ヴェルサイユ宮殿
だって、だって……すごく怖かったんだもん。

ヴェルサイユ宮殿
断られたらどうしよう、
嫌われたらどうしよう、って……。

ブラン城
……だが、貴殿はそれを乗り越えた……よくやったぞ。
従者たちが見ていたら、それこそ泣いて喜んでいただろう。

ブラン城
だが……本番はこれからだぞ?
主催者として招待客を、目一杯もてなさなくてはな。

ヴェルサイユ宮殿
……うん、そうね。がんばらなくちゃ……!

甘露求める悪戯夜行 -絶壱-

ハロウィンから遡ること、数週間。過酷な夏の
商戦を切り抜け、休養を迎えた平遥古城の前に、
日の本のあきんど城娘が姿を現す……。

前半
ハロウィンパーティーの開催から遡ること、数週間――

平遥古城
…………。

平遥古城
…………はぁ。

平遥古城
はぁ~……。

平遥古城
……なーんか、
さっきからため息ばっかりついてるなぁ、ボク。

平遥古城
やっぱり、疲れが溜まってるのかなぁ。

平遥古城
つい最近まで、
あちこち飛び回ってばっかりだったもんな~……。

平遥古城
浜辺から浜辺を渡り歩き、商売に次ぐ商売……。

平遥古城
増えていく黒字だけを支えに、忙しい夏を乗り越えて……。

平遥古城
そしてやってきた待望のお休み……なのに。

平遥古城
なのに、どうして……どーしてこんなに、憂鬱なのかなぁ~。

???
それはあなたが、生粋のあきんど城娘だからですよ。
平遥古城さん……。

平遥古城
ん……今の声は、まさか……!

平遥古城
もしかしてそこに居るのは……キミかい? 近江八幡城?

近江八幡城
はい~、ご明答です!
ご無沙汰しておりました~!

平遥古城
おおっ! 久しぶりじゃないか、
近江八幡城! 会えて嬉しいよ!

近江八幡城
ええ、お互い商売に熱を上げてばかりで、
ゆっくりお茶をする機会もありませんからねぇ~。

平遥古城
そうなんだよ! 忙しいのはありがたいことだけど、
キミは数少ない同志だからね!

平遥古城
まぁ、今日はゆっくりしていってよ!
久々に落ち着いて話をしようじゃないか♪

近江八幡城
なるほど。ということは、つまり……。
平遥古城さんは今、暇を持て余していらっしゃる、と?

平遥古城
そりゃそうさ。
この時期は何を売るにも中途半端だからね。

平遥古城
どうにか物を売ろうとしても皆、財布の紐はきっちり締めてる。
夏の行楽で緩んだ反動なのかなぁ。

平遥古城
かといって、クリスマスの準備をするには早すぎるし……。

近江八幡城
わかります、わかります。大した利益がでないなら、
いっそのこと休養にしてしまおう……なんて、考えてしまいますよね。

平遥古城
でしょ? もちろん、
この時期を休みにするつもりで夏場に稼いだんだけどさぁ。

平遥古城
なーんか、ごろごろしてても、
気持ちが盛り上がってこないんだよねぇ。

近江八幡城
あきんどにとっては、なかなか苦しい時期ですよねぇ~。

平遥古城
うん……けど、キミだってそうだろ?
ボクと同じ様に暇を持て余したから、
ここまで遊びに来てくれたんじゃないのかい?

近江八幡城
ん~……半分正解、といったところでしょうか。

近江八幡城
確かに今のわたしは、暇を持て余しています。……ですが、
遊びにきたのかと言われると……そうではないんですねぇ~。

平遥古城
…………。

平遥古城
……まさか、商売の話かい?

近江八幡城
ふふっ。目の色が変わりましたね、平遥古城さん。
やっぱりあなたは、生粋のあきんど城娘です♪

平遥古城
もったいぶらずに聞かせてくれよ。
……それともお得意の『ここから先は別料金』というやつかな?

近江八幡城
いえいえ、そんなことはいたしません♪

近江八幡城
確かに、情報が金にも勝る価値を生み出すことはありますけど……、
儲けどうこうの前に今は、人の手を借りたい状況なんですよねぇ。

平遥古城
つまり……見返りは金銭じゃなく、ボクの協力ってことだね?

近江八幡城
その通りです♪

近江八幡城
もちろん、話を聞いてからのご判断で構いません!
その場合はわたしも休養をいただくだけですから♪

平遥古城
わかった……それじゃ、話を聞かせてもらおうか。

近江八幡城
承知っ! ではでは、
今回わたしからご紹介しますのは~……こちら!

近江八幡城
ばばん! 『はろうぃん』です~♪

平遥古城
ハロウィン?
馴染みのない響きだけど……異国の言葉かな!

近江八幡城
そのとーりっ! はろうぃんは異国の催事!
あっち風に言うと『いべんと』というやつです~!

近江八幡城
詳細については、う~ん……どこから話せばいいものやら……。

近江八幡城
起源や歴史に触れると日が暮れてしまうので、
内容だけ、おおざっぱに説明しますと――

近江八幡城
人々があやかしを模した衣装に身を包み、
街を練り歩く……そのような催事となります!

平遥古城
へぇ、あやかしを模した……日の本で言う、肝試しみたいなものかな?

近江八幡城
いめーじはそれに近いです……が!
肝試しとは大きな違いがあるんですねぇー。

平遥古城
……というと?

近江八幡城
日の本の肝試しというものは……とにかく恐怖!

近江八幡城
怖~いお話を聞いて、お化けにまつわる場所に行って、
ぞくぞく……その体験を楽しむ行楽です。

近江八幡城
対する、はろうぃんは……仮装することはあくまで手段。

近江八幡城
その目的は……皆で騒ぎ、楽しむことにあるんです♪

平遥古城
へぇ……!

近江八幡城
はろうぃんの夜……街を練り歩く仮装行列は、
適当なお家の戸を叩いて……出てきた方にこう言うんです。

近江八幡城
お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ……つまり、そう。

近江八幡城
Trick or Treat……と!!

近江八幡城
(にこー)

平遥古城
そこだけやけに発音が良いね……。

近江八幡城
ふふん、舌が千切れるくらい練習しましたからね♪
……大事なところでしょ、ここ?

平遥古城
(そ、そうかな……?)

平遥古城
……でも、興味は出てきたよ、ハロウィン。
詳しい話を聞かせてほしいな。

近江八幡城
いいですとも! ……わたしとしては、
人を集めて宴会を催すのが良いと思っておりまして!

近江八幡城
内容は……そうですね、例えば――

後半
近江八幡城

――という感じです!如何でしょうか?

平遥古城
いいねいいね、聞いてるだけでワクワクしてきちゃったよ!
ぜひボクも一枚噛ませてほしいな!

近江八幡城
まいどあり~! えへへっ♪

平遥古城
……で、最初に言ってた『手を借りたい』って話だけど……、
このパーティーでボクに何を任せるつもりなんだい?

近江八幡城
そう! そこが今日の本題なんです!

近江八幡城
わたしの方では、少し前から準備を進めていまして……。

近江八幡城
つい先日、仮装や料理、お菓子に飾り付け……。
これらの材料諸々の目処がついたところなんです。

近江八幡城
ただ、わたしの力で動かせる人が、
あまり多くなく……足踏みしておりまして……。

平遥古城
ボクの御城と兵士を借りたい、ってことだね。

近江八幡城
……です。

平遥古城
とはいえ、今から用意を始めるとなると、
不安も少なくないよね。

近江八幡城
ですねぇ。赤字を叩いて、
くりすますに響くような事態は避けたいです……。

平遥古城
んーそれじゃ……今年は小さめの規模で開催するのはどうだい?
その結果を見て、来年の方針を定める……ってことで。

近江八幡城
ふむ……。
今年は冒険せず、様子見に徹するわけですね。

平遥古城
そういうこと。消費する時間を考えると、割に合わない働きかもしれないけど、
来年への投資と思えば、悪くない手だと思うよ♪

近江八幡城
ですねぇ……そもそも、
はろうぃんが無ければわたしも暇になってしまいますし……。

近江八幡城
んー…………。

近江八幡城
わかりました! 平遥古城さんの案に乗りましょう!

平遥古城
交渉成立、だね♪

近江八幡城
そうと決まれば、腰を落ち着けてはいられません!
具体的なお話を詰めましょうか!

平遥古城
えぇっ、もう始めるのかい?
少しくらいゆっくりしてもいいと思うけど……。

近江八幡城
そうはいきません!
はろうぃんへの秒読みはすでに始まっているのです!

近江八幡城
それに、平遥古城さんと手を組むからには、
下手を打つわけにはいかないです!

近江八幡城
あきんど仲間として……それから大事なお友達として、
はろうぃんを大成功に導かなければっ!

平遥古城
…………。

平遥古城
うん、そうだね……絶対成功させよう。

平遥古城
ここから忙しくなるけど、
無事にパーティーが終わったら改めて……打ち上げでもしようよ。

近江八幡城
承知しました! それではまず、
パーティーの規模や招待する人数を――

近江八幡城
――あ、そうだ!
平遥古城さんもあれ、練習しておいてくださいね?

平遥古城
ん? あれって……何のことだい?

近江八幡城
Trick or Treatに決まってます!

近江八幡城
もー、忘れないでくださいよ!
一番大事なことなんですから! 

平遥古城
ああ……それね……。

近江八幡城
念押しで聞いておいてよかったです。
では、見本としてもう一度……。

近江八幡城
Trick or Treat!!

近江八幡城
(にこー)

平遥古城
(そのキメ顔は必要なんだろうか……)

こうして、近江八幡城と平遥古城はハロウィンパーティー成功に向けて、
忙しい日々を送ることになるのだった――

甘露求める悪戯夜行 -離-

自身の宮殿に一同を招待したヴェルサイユ。
このパーティーを成功に導くべく、彼女はその
胸の内に強い決意を宿していたが……。

前半
平遥古城でのパーティーを終えてから数日――

フランスに転移した一行は、ヴェルサイユの宮殿にて、
ハロウィンパーティーの始まりを迎えようとしていた――

ヴェルサイユ宮殿
皆、今日は急な招待にも関わらず、来てくれてありがとう。

ヴェルサイユ宮殿
お菓子もお料理もいっぱい用意してるから、
好きなだけ楽しんでいってね♪

やくも
好きなだけ……!
お菓子と料理を、好きなだけ……!

千狐
(やくもが眼をギラつかせてるの……)

平遥古城
いやぁ、それにしても驚いた。
パーティーの規模はもちろん、この宮殿の広さにも!

平遥古城
ヴェルサイユ宮殿の噂は前から聞いていたけど、
ここまでの規模だとは……想像もしていなかったよ。

柳川城
はい……建築や技術の様式の違いにも驚きましたが、
この規模の宮殿は早々見られるものではありませんね……。

殿
…………。

安平古堡
お庭も御城も、とっても広いのですー♪
ぐるーっと探検してみたいのです!

ヴェルサイユ宮殿
わかったわ♪ 迷子になると大変だから
後でわたしが案内するわね♪

安平古堡
えへへ、楽しみです♪

ヴェルサイユ宮殿
(良かった……皆、楽しんでくれてるみたい……)

ヴェルサイユ宮殿
(ブラン城には感謝しないといけないわね……)

ヴェルサイユ宮殿
(少し前は、考えられなかったもの……こんな風に、
 王様や異国の城娘たちと一緒にパーティーを楽しむなんて)

ヴェルサイユ宮殿
(あとはこの機会に、王様ともっと仲良くなって――)

千狐
――コンッ!?


――ザザッ!!

兜軍団
ザザッ! ザザザッ!!

安平古堡
兜です!
大軍が押し寄せてきてるのですー!

ブラン城
平遥古城の御城に続き、こちらでもか。
まったく、目障りな奴らめ……。

ヴェルサイユ宮殿
兜……! こんな大事な時に現れるなんて……!

ヴェルサイユ宮殿
でも、絶対に邪魔はさせないわ……!

ヴェルサイユ宮殿
念願が叶って、
ようやくハロウィンパーティーを開催できたんだもの……!

ヴェルサイユ宮殿
兄様には指一本、触れさせないんだからっ!

後半
ブラン城

ふぅ……ひとまずこれで、安心か……。

平遥古城
大きな被害も出なかったみたいで良かったよ……。

平遥古城
こんな豪華なパーティーが中止になんてなったら、
幾らの損失になるか……。

ブラン城
戦いながらそんなことを考えておったのか。
まぁ間違いではないが……。

やくも
…………。

やくも
そういえば、ヴェルサイユ宮殿。
一つ気になることがあったんやけど……。

ヴェルサイユ宮殿
……ん、なにかしら?

やくも
さっき殿さんのことを『兄様』って、
呼んでた気がするけど……聞き違いだに?

ヴェルサイユ宮殿
!!

ヴェルサイユ宮殿
な、何のことかしら……わたしはずっと『王様』って呼んでいたけど?

やくも
だに……やっぱり聞き違いだったがや……?

ヴェルサイユ宮殿
そうね。突然兜が現れて、皆混乱していたもの。
多少の聞き違いが起きても、不思議じゃないわ。

ヴェルサイユ宮殿
……そんなことよりも、皆さん。
パーティー会場に戻りましょう?

ヴェルサイユ宮殿
邪魔が入ってしまったけど、お楽しみはこれから。
城娘の皆様はもちろん、兄様も――

ヴェルサイユ宮殿
――あ。

やくも
…………。

ヴェルサイユ宮殿
…………。

平遥古城
語るに落ちるとは、正にこのことだね……。

殿
…………。

ヴェルサイユ宮殿
え、えと……に、兄様っていうのはその……。

ヴェルサイユ宮殿
…………っ!

ヴェルサイユ宮殿
じ、実は前から私……、
頼り甲斐のある、兄のような存在に、憧れていて……。

ヴェルサイユ宮殿
気持ちが緩んでしまったからかしら。
……つい、口をついて出てしまったの。

ヴェルサイユ宮殿
まだ知り合ったばかりで、それも王様のような方を相手に……、
失礼なことをしてしまったわ。ごめんなさい。

やくも
別に謝ることはないだに!

千狐
ええ! 親愛の証なのでしたら、
ヴェルサイユ宮殿さんに非などありませんわ!

やくも
だに! 殿さんも気にしたりなんかしないがや!

殿
…………。

殿
…………!

ヴェルサイユ宮殿
わたしの好きなように呼んで、いい……?
ほんと?

ヴェルサイユ宮殿
それじゃヴェル……王様のこと兄様って呼んでも、いいの?

殿
…………!

ヴェルサイユ宮殿
嬉しい♪ ヴェルね、
ずっとこんな兄様が欲しいと思ってたの♪

千狐
ヴェルサイユ宮殿さん……。
始めの頃よりも随分朗らかになったような気がします。

平遥古城
だね。礼儀正しい子だなーって最初は思ったけど、
本来は無邪気な子だったのかもしれないね。

柳川城
…………。

柳川城
(呼び方は親愛の証、ですか……)

柳川城
(兄様、かぁ……)

柳川城
(私も、ふとした瞬間に違う呼び方でお呼びしてみたり、とか……)

柳川城
(例えば、そう――旦那様、とか……!)

柳川城
(あぁいえ、それは少し急すぎるでしょうか!?
 まずは段階を! 段階を踏んで徐々に――)

やくも
…………。

やくも
(柳川城が一人でモジモジしてるだに……)

平遥古城
とにかく、兜を追い払うことができて良かったよ。
これでパーティーも――

平遥古城
――ん? あれ、おかしいな……。

ブラン城
どうした、平遥古城?

平遥古城
うん、安平古堡ちゃんの姿が見えないんだけど、
大丈夫かなーって……。

ヴェルサイユ宮殿
…………!

ヴェルサイユ宮殿
確かに姿が見えないわ。いったい、いつから……?

ブラン城
兜との戦が始まる前には、確かにいたはずだが……。

柳川城
戦の最中にはぐれてしまった、ということでしょうか……。

殿
…………。

ヴェルサイユ宮殿
大変だわ……また兜が攻めてくるかもしれないのに……!

ヴェルサイユ宮殿
すぐに見つけて、合流しなくちゃ……。
皆さん、捜索を始めましょう!

甘露求める悪戯夜行 -結-

はぐれてしまった安平古堡を捜索する殿一行。
そんな中ヴェルサイユは、かつて自身が味わった
苦い体験を思い出し、皆に語り始める……。

前半
やくも

安平こほ~、
どーこ行っちゃっただに~……?

やくも
にしてもこの御城、どこまで続いてるんだに。
このままじゃ、歩くだけで日が暮れてしまうがや……。

千狐
千狐たちがパーティーをしている場所だけでも充分広いと思ったけど、
あれが、ほんの一角に過ぎなかっただなんて……。

ヴェルサイユ宮殿
わたしの宮殿では普段、馬車で移動しているのよ。
歩いて回るには、丸一日あったって足りない程の広さがあるから……。

やくも
日が暮れるどころじゃなかっただに……!

柳川城
ですがそれだけ広いと、迷子になっているところを何方かに拾ってもらう……、
なんてことを期待するわけにもいきませんね。

ブラン城
うむ……誰とも出くわさずに放浪を続ける、
という可能性も考えられる……。

平遥古城
流石はヴェルサイユ宮殿……御城の中で遭難、
なんて冗談みたいなことが起きてしまうわけだ……。

ヴェルサイユ宮殿
…………。

ヴェルサイユ宮殿
実は、わたしも昔……、
この宮殿の中で迷子になってしまったことがあるの。

柳川城
ヴェルサイユ宮殿さんも?

ヴェルサイユ宮殿
当時はまだ、城娘として顕現したばかりだったから、
わからないことも多くて……。

ヴェルサイユ宮殿
あの時のことは……今でもよく覚えてるわ。

ヴェルサイユ宮殿
どこへ行っても人の姿が見えなくて、
助けを呼んだけど、返事はなくて……。

ヴェルサイユ宮殿
自分だけ別の世界に飛ばされてしまったんじゃないか、
そんなことを考えてしまったくらい。

ヴェルサイユ宮殿
だから、少しでも早く……安平古堡さんを見つけてあげたいの。

ヴェルサイユ宮殿
きっと、あの頃の私と同じ思いをしているはずだから……。
少しでも早く、安心させてあげたい……。

殿
…………。

ブラン城
……うむ、そうだな。
この広さだと難儀するが、夜がふける前に安平古堡を見つけられるように――

平遥古城
――待って!

平遥古城
ねぇ千狐ちゃん。今ボク、あそこにイヤーな物が見えちゃったんだけど。
気のせいだったりしないかな……?

ヴェルサイユ宮殿
イヤな物?
もしかして、安平古堡さんにまつわる、何か……?

千狐
…………。

千狐
いえ、違います……あそこに見えるのは――

兜軍団
城娘……討伐セヨ……。
   城娘……討伐セヨ……。
      城娘……討伐セヨ……。

やくも
兜さんだにっ!?

平遥古城
まだ隠れてたんだね……しぶとい奴らだ……。

ヴェルサイユ宮殿
…………。

ヴェルサイユ宮殿
すぐに討伐を!
安平古堡さんが巻き込まれてるかもしれないわ……!

ブラン城
待て、ヴェルサイユ!
あまり無茶はするなっ!

殿
…………!

柳川城
はいっ!
私たちもヴェルサイユ宮殿さんの後に続きましょう!

ヴェルサイユ宮殿
待っててね、安平古堡さん……すぐに向かうから……!

後半
ヴェルサイユ宮殿

はぁ、はぁ、はぁ……。
兜はこれで全部かしら……?

ブラン城
戦の最中、安平古堡の姿は見えなかったが……。

平遥古城
うん……安平古堡ちゃんが囚われているっていう事態は、
心配しなくていいみたいだね。

平遥古城
でも、流石に疲れたね。戦に捜索に……それからまた戦。
弱音を吐いてる場合じゃないけど、かなり過酷だよ……。

殿
…………。

柳川城
はい、なんでしょうか……殿?

殿
…………。

柳川城
……はい、そうですね。
確かに仰る通りかと……。

柳川城
ヴェルサイユ宮殿さん……一つ提案なのですが。
ここは一度、パーティー会場に戻って休憩をとりませんか……?

ヴェルサイユ宮殿
え……?

柳川城
お気持ちは分かりますが、
兜との戦で、私たちも疲弊しています。

柳川城
このままでは、安平古堡さんの捜索もままならなくなってしまうかと……。

ヴェルサイユ宮殿
…………で、でも。

ブラン城
ヴェルサイユ……王と柳川城の言う通りだ。

ブラン城
この捜索もいつまで続くかわからない。
遅かれ早かれ、休憩は必要になるだろう。

殿
…………。

ヴェルサイユ宮殿
兄様…………。

ヴェルサイユ宮殿
……わかったわ。
一度皆で、パーティー会場に戻ることにしましょう……。

――――

ブラン城
しかし、このまま時間が経つと、
やっかいなことになるのう……。

平遥古城
うん、せめて何か……手がかりでもあればいいんだけど……。

ヴェルサイユ宮殿
…………。

やくも
は~あ……えっぱい歩いたからお腹がぺっこぺこだに。
お菓子で補充しないと――

殿
…………!

やくも
――ん? どうしたんだに、殿さん。
そんな驚いた顔して……?

安平古堡
もぐ……もぐもぐ……。

安平古堡
……んふ?

やくも
っ!!

千狐
そ、そこにいるのは……!

安平古堡
あぁっ! みんなやっと戻ってきたのです~!

安平古堡
おかえりなのです。遅いから心配してたんですよー?
このお菓子を食べたら、探しにでかけようかと、もぐ……。

やくも
あ、あ……あ……。

やくも
安平古堡が……お菓子を独り占めしようとしてるだに~!!

平遥古城
驚くのはそっちじゃないでしょ……。

柳川城
はぐれた後、
一人でこちらへ戻っていたのですね……。

殿
…………!

千狐
ええ……何事もなくて、本当に良かったです……。

安平古堡
もぐ、もぐもぐ……。

安平古堡
みんな、何ぼーっとしてるですか?
早くパーティーを再開するです♪

ヴェルサイユ宮殿
安平古堡さん……。

安平古堡
ヴェルちゃんもおかえりなのです♪

安平古堡
なんだかヴェルちゃん、疲れてるように見えるのです。
ヴェルちゃんも一緒にお菓子を――きゃっ!?

ヴェルサイユ宮殿
良かった……本当に。
何かあったら、どうしようかと……!

安平古堡
ヴェルちゃん……そんなに強く抱きしめられると、苦しいです……。

ヴェルサイユ宮殿
ごめんね……安平古堡さんが無事だったから。
安心して、つい……。

安平古堡
ヴェルちゃん……。
わたしのこと、心配してくれてたです……?

ヴェルサイユ宮殿
当たり前じゃない。こんな広い宮殿で、
一人ぼっちなんて……寂しすぎるもの……。

ヴェルサイユ宮殿
あなたが無事で……良かったわ……。

安平古堡
…………。

安平古堡
ヴェルちゃん……。

安平古堡
う、うぅ……ごめんなさい。
ごめんなさいです……。

ヴェルサイユ宮殿
ふふ……どうして安平古堡さんが泣いてるの?

安平古堡
だって、ヴェルちゃんにいっぱい心配かけちゃったのに、わたし……。
そんなこと知らずにお菓子食べてて……。

安平古堡
だから、ヴェルちゃんにごめんなさい……って思って、わたし……!

ヴェルサイユ宮殿
…………。

ヴェルサイユ宮殿
いいのよ、無事だったなら……。

ヴェルサイユ宮殿
でも、また離れ離れになると心配だから……。
わたしの傍から離れないようにしてね?

安平古堡
わかったのです……。
ヴェルちゃんの傍からずーっと離れないようにするのです……!

ヴェルサイユ宮殿
きゃ……ふふ、そこまでくっつかなくてもいいのよ……?

こうして問題を解決した一行は、何一つ憂うことなく……、
笑顔溢れるハロウィンの夜を楽しんだのであった――

甘露求める悪戯夜行 -絶弐-

ハロウィンパーティーの終幕から数日後。
ヴェルサイユは片付けもそこそこに、閑散とした
宮殿にてだらしのない笑みを浮かべていた……。

前半
ヴェルサイユ宮殿でのハロウィンパーティーから数日後――

ヴェルサイユ宮殿
…………。

ヴェルサイユ宮殿
……えへへ。

ヴェルサイユ宮殿
…………。

ヴェルサイユ宮殿
えへへ、兄様……次はこっちに行きましょ。
ね、兄様ぁ……。

ブラン城
ヴェルサイユ……ヴェルサイユ。
妾の声が聞こえておるか?

ヴェルサイユ宮殿
あら……ブラン城じゃない。
まだ宮殿に残ってたのね?

ブラン城
さっきからずっと貴殿の前に居たのだが……。

ヴェルサイユ宮殿
そうだったかしら?
ごめんなさい、少しぼーっとしてて。

ヴェルサイユ宮殿
それで……わたしに何か用かしら?

ブラン城
用も何もない! パーティーを終えて以降、
貴殿が呆けてばかりいるから、妾が残っておるのだろう!

ブラン城
お陰で後片付けも遅れてしまって……。
妾が居なければどうなっていたと――

ヴェルサイユ宮殿
ごめんね、ブラン城。お話は後にしてもらえる?
わたし今、とっても忙しいの。

ブラン城
忙しい? 椅子に座って、
空を眺めているようにしか見えぬが……?

ヴェルサイユ宮殿
あなたの眼にはそう映るのかしら?

ヴェルサイユ宮殿
今はちょうどね……兄様と安平古堡さんとで、
優雅にティータイムを楽しんでいたところなのよ……。

ブラン城
…………。

ブラン城
貴殿が王や、異国の城娘たちと仲を深めたのは喜ばしいことだが、
物思いに耽ってばかりいるのは、どうかと思うぞ……。

ヴェルサイユ宮殿
そうよね……そうなんだけどねぇ……。

ブラン城
…………。

ブラン城
聞こえとらんな、これは……。

ブラン城
ヴェルサイユの奴……。
このまま放っておいても、良いことはなさそうだが……。

ブラン城
妾に、何かできることはないものか――

???
ちょっと、邪魔するわよ! ヴェルサイユはいるかしら?

ブラン城
む、誰か来たようだな……?

ヴェルサイユ宮殿
来客?
……ってことはもしかして! もしかして!?

ヴェルサイユ宮殿
……誰かが、
先日のパーティーの忘れ物を取りに来たとかじゃないかしら!?

ヴェルサイユ宮殿
平遥古城さんとか、安平古堡さんとか! 兄様とか!?

ブラン城
忘れ物? そんな物はなかったような気がするが……?

ヴェルサイユ宮殿
いいえ、きっとそうに決まってるわ!
予定外の来客なんて、わたしの宮殿には滅多にいないもの!

ブラン城
そこまで力強く言うことか……。

ヴェルサイユ宮殿
とにかく、こうしてはいられないわ。
客人を笑顔で迎えなくちゃ!

――――

カゼルタ宮殿
……誰もいないのかしら?
勝手に入っちゃうわよー?

ヴェルサイユ宮殿
いらっしゃーい♪
よく来てくれたわね!

カゼルタ宮殿
っ!?

カゼルタ宮殿
貴方が私のことを笑顔でお出迎えとは、
どういう風の吹き回しかしら……。

カゼルタ宮殿
もしかして、
貴方もようやく私のことを認め――

ヴェルサイユ宮殿
…………違う。

ヴェルサイユ宮殿
兄様じゃない……。

カゼルタ宮殿
……え?

ヴェルサイユ宮殿
ちょっと、誰か!
部外者が入ってきているわよ? 誰かー!

カゼルタ宮殿
待ちなさい、部外者じゃないわよっ!?

カゼルタ宮殿
挨拶を交わしたのは一度や二度じゃないし、
お話もしたこともあるわっ! 忘れたのっ!?

ヴェルサイユ宮殿
…………。

ヴェルサイユ宮殿
言われてみれば、見覚えがあるような……ないような……。

カゼルタ宮殿
カゼルタ宮殿……と言えば、流石に思い出せるでしょう?

ヴェルサイユ宮殿
カゼルタ……カゼルタ……。

ヴェルサイユ宮殿
あぁ、カゼルタ宮殿なら知ってるわ。
何度か話したことがあるわよね?

カゼルタ宮殿
そうよね! あぁ、安心したわ。
てっきり私、完全に忘れられてしまったかと――

ヴェルサイユ宮殿
……つまり貴方は、
カゼルタ宮殿に縁ある城娘ということね?

カゼルタ宮殿
違ーう!
私がそのカゼルタ宮殿だって言ってんのっ!!

ブラン城
(むごい……)

カゼルタ宮殿
このやり取りも何度目だと思ってるの!?
いい加減覚えてくれたっていいじゃない!

カゼルタ宮殿
もー許せないわ……今日という今日は、
私の名を貴方の頭に……!

ヴェルサイユ宮殿
あら……元気が有り余ってるみたいね、貴方?

ヴェルサイユ宮殿
最近、あまり体を動かしていなかったし……、
軽く運動に付き合ってもらいましょうか?

ブラン城
運動って……彼奴の様子を見るに、
そんな生易しいもので終わるとは思えんが……。

ヴェルサイユ宮殿
大丈夫よ、ブラン城。
冗談で済む程度で抑えるから♪

カゼルタ宮殿
『ナポリ王国のヴェルサイユ』と呼ばれたこの美しさ、
知らしめてあげるんだからっ!!

後半
カゼルタ宮殿

うぅ……ぐす、やられちゃった……。

ブラン城
というか貴殿、結局何をしに来たんだ……。

カゼルタ宮殿
用ってほどのことはないわ……ただちょっと、
近くを通りかかったから立ち寄ってみたの……。

ブラン城
(最近、似たような言い訳を聞いた気がするな……)

ブラン城
…………。

ブラン城
ヴェルサイユよ……貴殿、
本当にこの城娘のことを覚えておらぬのか?

ヴェルサイユ宮殿
見覚えはあるけど……顔と名前まではね。

ヴェルサイユ宮殿
わたしに対抗意識を燃やしている城娘なんて、
数え切れないほど居るもの……。

ヴェルサイユ宮殿
一人一人を律儀に覚えていたら、頭がパンクしてしまうわ。

ブラン城
なるほどな……貴殿の立場なら仕方ないと言えるかもしれん。

ブラン城
……で、このカゼルタ宮殿のことは……どうするつもりだ?

ヴェルサイユ宮殿
…………。

ヴェルサイユ宮殿
いつもなら、門までお送りして、
お帰りいただくところだけど、そうね……。

カゼルタ宮殿
はぁ……未だに名前も顔も覚えられてないなんて……。

カゼルタ宮殿
ハロウィンパーティーにも呼ばれなかったのも、当然よね……。

カゼルタ宮殿
今日はもう、大人しくお家に帰りましょう。……そして、
ヴェルちゃんの肖像画を見ながら一人でモッツァレラを――

ヴェルサイユ宮殿
カゼルタ……カゼルタ?

カゼルタ宮殿
――ん?

ヴェルサイユ宮殿
さっきから地面に横たわったままだけど……無事かしら?

カゼルタ宮殿
あ、ええ……大きな怪我はしてないと思うけど……。

ヴェルサイユ宮殿
そう、それは良かった。……けど、
あなたもわたしも目一杯体を動かして、疲れてしまったでしょう?

ヴェルサイユ宮殿
だから、休憩がてら……あちらの方で、
お茶をご一緒できたらと思うのだけど……いかがかしら?

カゼルタ宮殿
…………。

カゼルタ宮殿
…………?

ヴェルサイユ宮殿
ちょっと、カゼルタ? わたしの声、聞こえてる?

カゼルタ宮殿
き、聞いてる……聞いてるわ!

カゼルタ宮殿
ただ今、余りに信じがたい出来事が起こったから……。

ヴェルサイユ宮殿
ふふ、何を言ってるのかしら?

ヴェルサイユ宮殿
ほら……早く行きましょう、カゼルタ?
お喋りする時間が無くなってしまうわ。

ブラン城
…………。

ブラン城
ふ……随分優しくなったものだな、ヴェルサイユよ?

ヴェルサイユ宮殿
何を言っているの?
わたしの優しさは、以前から変わらないわよ?

ヴェルサイユ宮殿
ただ、変わったとするなら……、
この優しさを向ける先が以前よりも、増えたってことかしらね。

ブラン城
どうやら……妾の不安は、
杞憂で終わってくれるようだな……。

ヴェルサイユ宮殿
……ん? 何かいったかしら?

ブラン城
いや、何でもない。ただの独り言だ……。

ヴェルサイユ宮殿
そう? それならいいのだけど……。

ヴェルサイユ宮殿
というかカゼルタ、いつまでぼーっとしてるの?
置いていってしまうわよ?

カゼルタ宮殿
今行く! 今行くからー!

ブラン城は、ヴェルサイユ宮殿の後を歩みながら、
以前よりも幾分大きくなった彼女の背中を見て、
一人……静かに微笑むのだった。



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