ストーリーテキスト/甘美に彩る情の調味

ページ名:ストーリーテキスト/甘美に彩る情の調味

目次

甘美に彩る情の調味[]

甘美に彩る情の調味 -序-

所領にて、殿たちは思い思いに平穏を甘受していた。
しかし、突如として響き渡った叫び声により、
一行の平和は終わりを告げたのだった……。

前半
――所領。

やくも
あんの甘味海賊ー!
もー許せんだにぃぃぃぃぃぃ! 

柳川城
や、やくもさん?

千狐
どうしたのよ、急に……。

やくも
おおっ、二人とも!
これを見てほしいがや!

柳川城
空っぽのお皿と……書き置き?

千狐
なになに……。

千狐
『美味そうだったのでみかじめ料として
 もらっていってやるです。甘崎城』……?

やくも
以前はようかん! もっと前はかすてら!! 更に前はお饅頭!!!

やくも
そして今回の大福!
今までは泣き寝入りしとったけど、もう今度という今度は許せんだに!!

やくも
千狐! 頼むがや!
甘崎城の書置きを媒にして、あいつの許に転移してほしいだに!

千狐
だめに決まってるでしょう。
気安くほいほい転移して、肝心な時に力が使えなかったらどうするの!

やくも
そんなぁ……千狐はうちがあの大福を
どれだけ楽しみにしていたか、知らないんかや……?

千狐
何も泣かなくてもいいじゃない……。

千狐
もう、しょうがないわね。
とっておきのお饅頭を半分、分けてあげるから――

千狐
――って、あれ……?

やくも
……どうしただに?

千狐
ない……ない!
しまっておいたはずのお饅頭がどこにもない!

やくも
……あ。

やくも
千狐、書き置きの隅っこに小さい文字で……。

やくも
『追伸 美味そうな饅頭も見つけたので
 ついでにもらっていってやるです。』とあるがや……。

千狐
……ゆ、許せない! 殿から頂いた大事なものなのに!

千狐
千狐を怒らせたらどうなるか……思い知らせてやるの!

殿
…………。

柳川城
殿、このままだと千狐さんとやくもさんが
甘崎城さんと大喧嘩になってしまいそうです……。

柳川城
とはいえ、たしかに甘崎城さんの振る舞いが少々目に余るのも事実……。

殿
…………。

柳川城
そうですね、私たちも同行いたしましょうか。

やくも
殿さんが来てくれるだに!? なら頼もしいがやぁ!

千狐
では、仕度が済み次第、すぐに出立し甘崎城さんにお仕置きをいたしましょう!

こうして、復讐の炎を燃やす千狐とやくものお目付け役として、
殿・柳川城も共に甘崎城の許へ向かうことになった――。

――伊予国。

大洲城
うーん、どうしましょ……。

大洲城
少し調べれば当ては見つかると思っていたのですが……。

大洲城
――ん? あの光は……?

千狐
到着です!
転移は成功したようですが……此地はどこでしょうか。

やくも
どこだっていいだに!
そんなことより、標的はどこがや!?

大洲城
お、お殿様!? それに皆さんも?
急にどうされたんですか?

柳川城
大洲城さん! ということは……此地は、伊予国でしたか。

やくも
丁度良かった!
大洲城! 緊急事態だに!

大洲城
緊急事態?
というと……戦ですか?

柳川城
落ち着いてください、やくもさん……。

柳川城
大洲城さん、今回お邪魔したのは理由がありまして……。

柳川城
実は、甘崎城さんを探しているのですが……。

大洲城
甘崎城ちゃん?
……もしかして、あの子がお殿様たちにご迷惑をおかけしてしまいましたか?

やくも
そうだに! 何度も何度もうちのお菓子を強奪していくがや!
あれじゃあ海賊というよりただの泥棒だに!!

千狐
千狐もやられましたの!

大洲城
まぁ……そんなことが……。

大洲城
まったくあの子ったら……お菓子なら、
勉強すればご褒美にあげますと言っているのに……。

千狐
それで……甘崎城さんは今こちらにいるのですよね?

大洲城
確かに、甘崎城ちゃんはよくうちに遊びに来ますが……、
今日はまだ姿を見ていないですね……。

大洲城
それに、あの子は普段、船であちこちを旅して回っているようで、
足取りがつかめないことの方が多いんです。

大洲城
でも、お殿様たちが此地に転移してきたということは、
もう近くまでは来ているものかと思いますよ。

やくも
むぅ……だったら、大洲城には悪いんやけど、
こちらでちょっと待たせてほしいがや……!

大洲城
えぇ、どうぞ……。
お茶でもお持ちしましょうか?

柳川城
あ、いえ、お気になさらず……。

殿
…………。

柳川城
……ところで大洲城さん、先ほどは
何か悩んでいるように見えましたが、どうされたのですか?

大洲城
あ……はい、実は私、ばれんたいん向けに
ちょこ作りの教室を開催できないかと考えておりまして。

やくも
ばれんたいんに、ちょこ……っていうと、
前に安土城が言ってた、異国の菓子を贈り合うお祭りかや?

大洲城
はい! 正にそれです!

大洲城
想いと共にちょこを贈り合うという慣習……。
もっと多くの城娘に広められたら、素敵だと思いませんか?

柳川城
確かに、素敵だと思います。

大洲城
ですが、教室を開くためには先生として
ちょこ作りを指導できる城娘さんが必要で……。

柳川城
なるほど、教師役の方が見つからないゆえに
悩んでいらしたんですね……。

大洲城
はい……。異国のお菓子となると、やはり難しく、
安土城さんに手ほどきをしたという勝竜寺城さんも今はお忙しいようで……。

大洲城
他の方々に聞いても、一様に首を振られてしまって……。

千狐
ちょこ作りに詳しい城娘……。
他にどなたかいらしたでしょうか……?

やくも
そんなことより、甘崎城はまだ――

甘崎城
――大洲城、甘崎城が遊びに来てやったですよー。

甘崎城
お? 今日は殿たちも居るですか。珍しいですぅ。

やくも
…………。

やくも
ようやく来ただに、甘崎城……。
待ちくたびれたがや……。

千狐
お饅頭泥棒の罪はちゃんと償ってもらうの……!

甘崎城
お、お饅頭……?

甘崎城
(さ、さては前からみかじめ料として貰っていってたお菓子のことです!?)

甘崎城
(ま、まずいですぅ! よりによって大洲城の目の前でとっちめようとしてくるとはっ!
 絶対に後で長々とお説教されるに決まってるですよぉっ!)

やくも
食べ物の恨み、身を持って思い知るだにー!

甘崎城
(こっ、ここは何とか誤魔化すですぅっ!)

甘崎城
ふぇぇぇええええええええっ!?
ごっ……ごめんなさいですうぅぅぅっ!!

甘崎城
埋め合わせは必ずやぁぁぁっ!!
必ずやいたしますので、どうぞご勘弁をぉぉっ!!

やくも
埋め合わせとかなんとか以前に、うちの大福と千狐の饅頭を返すだに!

甘崎城
えっ、ええとぉ……あまりに美味しそうだったからつい、
どっちもすぐさま、ぱくっと……。

甘崎城
ででででもっ、お返しの当てはあるですからっ、
なにとぞ、なにとぞ今日のところはご勘弁を~っ!!

千狐
ご勘弁を、と言われても……。

大洲城
もう、甘崎城ちゃんたら!
人様から物を奪うような真似はしちゃいけませんって日頃から言ってるでしょう!

大洲城
やくもさん、千狐さん。甘崎城ちゃんがごめんなさい……。
今回の埋め合わせは必ずさせますから、一度矛を収めていただけませんか……?

やくも
……うー、大洲城がそう言うなら、仕方ないがや。

大洲城
本当にごめんなさいね……私の監督不足です。

大洲城
……ほら、甘崎城ちゃんも、ちゃんと頭を下げて!

甘崎城
うぅぅ……ごめんなさいです……。

大洲城
もう……。

大洲城
……皆さん、お騒がせして本当に申し訳ないです。
お詫び代わりとして、ひとまず今日は私の手料理を……って、

大洲城
……甘崎城ちゃん、手に持っているそのちょこはどうしたんです?
まさか、まだ他にも被害者が……?

甘崎城
ち、違いますよぉー。

甘崎城
これは異国のちょこ工場で、
ちゃんとした手順を踏んで頂戴したものですぅ。

大洲城
異国のちょこ工場……海の向こうにはそんなものがあるのですか?

甘崎城
ふらんすの……確かろわーる地方の辺りだったです。
何だか複雑そうな仕掛けで、いっぱいちょこを作ってたですよ。

やくも
丁度いいだに。
うちにも少し分けてほしいがや。

甘崎城
それはできない相談ですぅ。

甘崎城
なぜなら、帰りの船旅の間にほとんど食べてしまって、
ついさっき最後のひとつを食べ終わったところですから。

甘崎城
なので、これはただのちょこの『空き箱』ですぅ。

やくも
うぅ、ぬか喜びさせないでほしいだに……。

大洲城
甘崎城ちゃん、詳しくお話を聞かせてほしいのですがっ!

甘崎城
はい?

大洲城
それって、どのくらいの規模の工場でした?
材料の仕入れとかはどうしてるのかしら?
出来上がったちょこの種類は? 作っていたのはどんな人?

甘崎城
ちょ、ちょっとちょっと。
そんな一気に畳みかけられても答えられないですよ。

甘崎城
というか……そんなに気になるんだったら、
もうすぐ到着するちょこ作りの先生に聞いたらいいですぅ。

大洲城
えっ!? ちょこ作りの先生!?

柳川城
なんてお誂え向きな……。

甘崎城
あれ? 言ってませんでしたっけ?

大洲城
初耳ですよ!

甘崎城
少し前から、大洲城がばれんたいんに向けて準備を始めていることは気づいていたですよ。
すまーとなわたしはそれを敏感に感じ取り、すぐ行動を開始したです。

大洲城
だからいつもより留守にしてる期間が長かったんですね……。
それにしてもふらんすだなんて……。

甘崎城
ふらんすには、前から仲良くしている島仲間のモン・サン=ミッシェルがいるですよ。
だから、彼女の伝手を頼ってみたのですぅ。

甘崎城
とにかく、あと数日もしない内に、ちょこ作りの先生がここへやって来るはず……。
ですから、もう心配する必要はなし、というわけですぅ!

大洲城
な、なんということでしょう……。
甘崎城ちゃんが私のために海を越えて……!

殿
…………。

柳川城
甘崎城さんも大変だったでしょうに……。

甘崎城
ふっふーん♪ これくらい、わたしにはお茶の子さいさいですぅ♪

柳川城
大洲城さんの悩みも、これで解決しそうですね!

やくも
先生が来てくれるんやったら、
きっと美味しいちょこがたんまり食べられるはずがや!

やくも
むせるようなあま~い香り……。
とろ~んと蕩けるやわらか~いくちどけ……。
幸せが流れ出して口の中に充満するような甘さ……。

柳川城
……ん? なんだか本当に甘い匂いがしてきたような?

???
ギブミー……チョコレート……。

甘崎城
え?


ギブミー……チョコレート……。

兜軍団
ギブミー……チョコレート……。
  ギブミー……チョコレート……。
    ギブミー……チョコレート……。

殿
…………!

甘崎城
ひっ、ひえええええ!? 兜ですぅぅぅぅ!?

千狐
なんだか見た目がいつもと違います!

柳川城
どうやら、先程の甘い匂いは兜たちの装いのせいのようですね……!

甘崎城
とっ、とにかくっ、攻め込んできた兜はとっとと排除ですぅぅぅぅ~!

後半
大洲城

驚きました……。
まさか、突然兜が襲ってくるなんて……。

柳川城
いつもと違う身なりでしたし……、
また何か兜たちが良からぬことを企んでいるようですね……。

千狐
えぇ……引き続き、警戒を怠らずに参りましょう。

やくも
でも、ちょこ教室は予定通りやってほしいだに……。

大洲城
もちろんですよ。
甘崎城ちゃんがせっかく、ふらんすまで行って教師の方を手配してくれたんです。

大洲城
兜の動きに気を付けますが、
当初の目的はきちんと果たしますから!

甘崎城
ま、もしも、ちょこ教室に城娘たちが集まるんなら、
何かあったとしても、戦力として申し分ないはずですぅ!

やくも
確かにそうがや!

大洲城
ならば後は……開催の周知と、諸々の準備と……。

大洲城
それと、個人的な要望ではありますが、
もし、良い胡桃が手に入ればなぁと……。

柳川城
胡桃?
胡桃をちょこにいれるのですか?

大洲城
はい。
……とはいえ、当てがないんですよね。

甘崎城
ふっふっふ……諦めが良すぎやしませんか、大洲城。

甘崎城
大洲城はもっと周りを頼ることを覚えるべきです。
例えばそう、このわたしとか……。

大洲城
あ、甘崎城ちゃん……?

大洲城
まさか、胡桃にも心当たりがあるのですか?

甘崎城
ふっふーん♪ 胡桃を手に入れるなら、ずばり信濃ですぅ!

甘崎城
胡桃といえば信濃、信濃といえば胡桃!
そう言っても過言ではないと、前に膳所城が言ってました!

大洲城
まぁ! 凄いです、甘崎城ちゃん!
とってもとっても助かっちゃいました!

甘崎城
わたしだってやる時はやるのですぅ!

甘崎城
(来て早々に失態を見せる羽目になりましたからね……。
 少しでも挽回しとかないと、大洲城のお説教の時間が減らせないですぅ……)

柳川城
でしたら、次は信濃へと向かいましょうか。

甘崎城
ちなみに、膳所城は信濃にとっても仲良しの友達がいると言っていました。

甘崎城
その城娘は『高島城』というらしいです。
なんでも、一部の者からは『先生』と慕われているとか……。

柳川城
あぁ、高島城さんでしたか!

柳川城
しかし……いつの間に高島城さんは
そのような出世を遂げたのでしょうか……?

殿
…………?

大洲城
高島城先生……。
礼を失さぬよう、気をつけなければ……!

柳川城
では、高島城さんの許に出発するといたしましょう!

やくも
おーっ!

甘崎城
(ふっふーん♪ これでわたしの評価も
 うなぎのぼりならぬ、鯉が滝のぼりって奴ですよ!)

甘崎城
(…………ん?)

甘崎城
(なんだか、お腹がちくちくするような気が……?)

大洲城
……あら? どうかしたの、甘崎城ちゃん?

甘崎城
……いや、何でもないですぅ。

甘崎城
(……きっと、気のせいです、よね?)

甘美に彩る情の調味 -破-

信濃国は諏訪にて、高島城は一人忙しそうに準備を
進めていた。そこに自身を呼ぶ声を聞きつけ、
いったい何事かと緊張した面持ちでいると……。

前半
――信濃国。

高島城
ふー……もうあんまり時間がないわ……。

高島城
ちょっと失敗したわね。
もっと早くに準備を始めていれば、バタバタせずにすんだんだけど……。

高島城
…………ん?

高島城
なにかしら?
何か騒がしいのが近づいてきてるような……。

やくも
いただに! 高島城がや!

甘崎城
おー! あれが、かの有名な!
確かに風格のようなものを感じるです!

高島城
うわ、城娘たちの集団……って、
よく見たら殿も居るじゃない。大人数で何の騒ぎよ……?

高島城
名前を呼んでたってことは……目的は私? 全員が……?

高島城
ム、ムリムリムリ……ムリよあんな人数を一度になんて……。

高島城
ここのままだと囲まれるわ……ひ、ひとまず距離をとらないと……。

甘崎城
確保ぉ~!

高島城
ひぃっ!?

甘崎城
やりました!
これで大洲城のばれんたいんは成功間違いなしですぅ!

高島城
(速……っ! というか確保って!?)

大洲城
こらこら甘崎城ちゃん、あまり乱暴なことはしちゃだめですよ。

高島城
(囲まれたっ!?)

柳川城
ご無沙汰してます、高島城さん。
お元気でしたか?

殿
…………。

高島城
え、あ……。

柳川城
突然大勢で押しかけてしまってすみません。

柳川城
今日は、こちらの大洲城さんが高島城さんに
用事があるということで、お邪魔したのですが……。

大洲城
はじめまして、大洲城と申します!

大洲城
高島城先生に折り入って、お願いしたいことがあるのですが!

高島城
たっ!?

高島城
(高島城先生……!?)

高島城
(な、なによ、こんな大人数で!?
 い、いったい何が目的なの……!?)

千狐
(高島城さん、固まってしまってます……)

甘崎城
何だか、ただならぬ緊迫感が漂ってるですぅ。

柳川城
(緊張しているだけだと思いますが……、
 この場で事実を伝えてしまって良いものか……)

大洲城
(はっ……もしかして急に来たから怒ってる……?)

大洲城
(だ、だとしたら……今、この沈黙は怒りを必死に鎮めてらっしゃるからでしょうか!?)

大洲城
(お土産を渡そうかとも思いましたが……、
 今、渡してしまえばむしろ逆効果になってしまうかもしれません……!)

大洲城
(ならば、私にできることは、ただじっと高島城先生のお言葉をお待ちするのみ……!
 それが、今の私に表せる精一杯の誠意でしょう……!)

大洲城
…………。

高島城
(何で!? 何で何も言わないのよ!?
 せめて何か言ってよ!? さっきまであんなに元気だったでしょ貴方!?)

高島城
(うぅっ、ち、沈黙が痛いぃぃ……!)

高島城
…………。

やくも
ふ、二人とも黙り込んでしまっただに……。

甘崎城
えーい、埒が明かないですぅ!
こうなりゃ……!

高島城
(ひ、ひぃっ!? ふ、不良!?)

高島城
あ、わ、わ……私っ、と、取り込み中らからぁっっ!!

殿
…………!?

甘崎城
あぁっ、た、高島城せんせ~! 

大洲城
……行ってしまいました。
先生と呼ばれる程ですし、忙しい方なのでしょうか……。

――近くの森。

高島城
はぁ……思わず逃げてきちゃった。

高島城
で、でも仕方ないわよね。
あんな大人数に取り囲まれたら、耐えきれるわけないもの……。

高島城
さっきの城娘……大洲城って言ったっけ。
お願いしたいことってなんだったのかしら。

高島城
そういえば、
さっき、大きな声の……甘崎城が言ってたわね。

高島城
『これで大洲城のばれんたいんは成功間違いなしですぅ!』って……。

高島城
ばれんたいんと言えば、ちょこれーと、よね……。

高島城
…………。

高島城
もしかして、
私をちょこ作りの労働力として欲しているということかしら……?

高島城
ってことは、もし捕まるようなことがあったら……! 

――――。

――。

甘崎城
(高島城製幻想形・甘崎城)

大洲城
(高島城製幻想形・大洲城)

甘崎城
確保ぉ~!

甘崎城
これで大洲城のばれんたいんは成功間違いなしですぅ!

高島城
ひ、ひぃぃ………!

大洲城
こらこら甘崎城ちゃん、あまり乱暴なことはしちゃだめですよ。

大洲城
さぁ高島城先生、こちらへ……。
あなたにどうしてもやってもらいたいことがあるんです。

高島城
い、いや………!

大洲城
さぁ……台所の奥……更に奥へ……。

大洲城
ソウデス……ドウゾ、コチラノ暗ガリヘ……フフフフ……。

高島城
ま、まさか、貴方、兜のっ……!

高島城
い、いやああああああああああああっ!!

後半
高島城

い、いやいや……さすがに穿った考えよね……。(ぶつぶつ)

高島城
だいたい、城娘同士で誘拐だなんてそんな……。
兜の手先とか、殿が一緒にいる時点であり得ないし……。(ぶつぶつ)

甘崎城
……高島城先生~、お~い。
聞こえてないですぅ?

高島城
……はっ!?

甘崎城
おっ、やっと気がついたですか。

高島城
(ま、また囲まれ……いつの間に……!?)

大洲城
(高島城先生……いえ、高島城さんの怯えた様子……。
 先程囲まれた時と同じですね……)

大洲城
(やはり先程、柳川城さんからお伺いした通り、
 大勢で喋るのは苦手な方のようです)

大洲城
(でしたら、緊張をほぐすのは、やはり甘いものが一番……!)

高島城
(くぅぅ……も、もう逃げられない……!)

高島城
(あぁ、私、攫われて働かされるのね……。
 殿たちも向こうの味方だなんて、此世には夢も希望もないんだわ……!)

大洲城
あの……高島城さん。
今日はお土産にお菓子を持ってきているんですが、いかがですか?

大洲城
『志ぐれ』と言いまして、蒸し菓子の一種です。

高島城
しぐれ……?

大洲城
実は、私がいつもこっそり自分用にだけ作っているおやつですが……、
高島城さんにおすそ分けしようと思いまして。

大洲城
はい、どうぞ。
ぜひ、食べてみてください♪

高島城
そ、それじゃ、一つ……。

高島城
…………。(もぐもぐ)

高島城
(……あ、美味しい。なんだかあったかい味がする……)

大洲城
ふふっ、もう一ついかがですか?

高島城
うん……食べる……。

大洲城
(落ち着いたみたいですね……表情も柔らかくなったようです♪)

高島城
(うぅ、なんだか色々と考えすぎた気がする……)

高島城
(ま、まぁ……とりあえず、落ち着いたし……。
 少しは、頑張って喋れるかも……)

高島城
……ええと、その、ところで……、
あなたの用事って、何だったの……?

大洲城
はい、私たちの用事というのは――。

甘崎城
ちょこ教室ですー!

高島城
ち、ちょこ教室?

大洲城
はい。高島城さんは、ばれんたいんという行事についてご存知ですか?

高島城
え、えぇ、まぁ……。

大洲城
ご存知でしたか。

大洲城
私たち、ばれんたいんに向けて、
ちょこ作りの教室を開こうと思っているんです。

高島城
ちょこ作りの教室……ふーん。

甘崎城
わたしの協力もあって、先生の手配は無事に完了しました。

甘崎城
ですがそのあと、胡桃が欲しいと大洲城が言い出したのですぅ。

高島城
(なるほど、信濃は胡桃の名産地だからってことで訪ねて来たのね……)

高島城
……ところで、何で胡桃を?

大洲城
ちょこに入れたら美味しいかなって思ったのと、
使うからには良い物を求めたかったので!

高島城
……そ、そう。

高島城
その、胡桃なら、うちにもあるから、
好きなだけ、持っていけばいいわ。

大洲城
本当ですか、助かりますー!

大洲城
……あ、そうです!
もしよかったら、高島城さんも私たちのちょこ教室、参加してみませんか?

高島城
え、い、いや、私は……。

大洲城
高島城さんの美味しい手作りちょこを食べたら、
きっとお友達も喜んでくれると思いますよ?

高島城
(……お友達っ!?)

高島城
(なるほど、美味しいちょこが作れるようになって、
 上手くきっかけにできたら友達が増えるかも……?)

高島城
(それに……、松江城や膳所城にあげるにしても、
 下手に我流のものをあげるよりも、ちゃんとしたものをあげたいし……)

高島城
(だったら……正直、怖いけど、
 松江城と膳所城の、……ひいては、将来の友達のためにも……!)

高島城
わ、わかった……さ、参加するわ……。

大洲城
ありがとうございますー! これでまた教室が賑やかになりました!
高島城先生に感謝です!

高島城
うぐ、『先生』はもういいってば……。

甘崎城
おお、先生も満を持して参加ですか!
よろしくお願いするですぅ!

高島城
よ、よろしく……。

柳川城
無事に胡桃も手に入ったことですし、
材料に関しては準備万端ですね!

殿
…………!

大洲城
ありがとうございます、皆さん!
お陰さまで、何とかちょこ教室を開催することができそうです! 

大洲城
……では私、さっそく教室開催のお知らせを広めてきますね!
ふふ、今から胸が高鳴ってしまいます♪

甘美に彩る情の調味 -急-

ようやく材料も教師も、全ての手配を済ませることが
できた大洲城。いよいよちょこ教室の開幕となるも、
兜の軍団は黒い視線と共に攻め込まんとしていた。

前半
――数日後。

シャンボール城
ボンジュール♪
せんせーとして、フランスから来ました、シャンボール城でーす!

城塞都市カルカソンヌ
同じく、教師役として参りました。
城塞都市カルカソンヌです。

城塞都市カルカソンヌ
皆様、お手元に作り方をまとめた紙は行き渡りましたでしょうか?

シャンボール城
ではさっそく! 自分の心の思うまま、
美味しいチョコレートをつくりましょー!

城塞都市カルカソンヌ
わからないことがあったら気軽に尋ねてくださいね。

大洲城
よーし、早速頑張っちゃいますよ!

大洲城
ええと、まずはこうして、と……こんな感じで良いでしょうか……?

シャンボール城
わぁ、すごい!
大洲城おねーちゃん、すっごく手際が良いよ!

大洲城
お褒めいただき光栄です♪

高島城
…………。

城塞都市カルカソンヌ
あ、混ぜるのはゆっくりで大丈夫ですよ、高島城先生。
水が入らないように注意しながら、慎重に……。

高島城
……あ、あの、何で私を先生と?

甘崎城
ふっふーん♪ わたしが教えたです!
高島城先生のことなら、膳所城からちょろっと聞いていますから!

甘崎城
何でも、水が苦手な城娘に対して、
水泳教室を開いたことが発端であったらしいですね!

甘崎城
教室は大評判を極め、
『水泳と言えば高島城先生の教室』と全国に知れ渡ったとかなんとか……。

甘崎城
(何か凄い尾ひれつけちゃった気がしますが、まぁ良いですよね!)

城塞都市カルカソンヌ
まぁぁ……トレビアン!

高島城
(は、話にあり得ないくらいの尾ひれと背びれと胸びれまでくっついてるっ!?)

高島城
ちょっ、さすがに話盛りすぎでしょ!?

甘崎城
いやいや、もちろんいつもは
一人で黙々と花火を仕上げていく孤高の城娘さんだとは伺ってるですよ?

甘崎城
その手つきには一切の妥協もなく、
常に完璧を目指していくという姿勢は正に『先を生きる』者としての称号がふさわしいと……。

城塞都市カルカソンヌ
職人気質ということですか、素晴らしいです!
これはチョコレートの出来にも期待が持てますね♪

甘崎城
同感です!
高島城先生のちょこは真っ先にわたしがいただいていきますから、覚悟しとくですよ~!

高島城
(何よこの八方ふさがりの状況!?
 無駄に壁を厚くしないでよー!!)

小倉城
…………。

シャンボール城
小倉城おねーちゃん、調子はどーですか?

小倉城
至極順調ですよ。

シャンボール城
そっか、それは良かった♪

シャンボール城
……ところで、この黒い粉末はなに?

小倉城
秘密です。

シャンボール城
じゃ、こっちのネバネバした液体は?

小倉城
秘密です♪

シャンボール城
もー、小倉城おねーちゃん、秘密ばっかりー。

小倉城
うふふ、ごめんあそばせ。

――数刻後。

シャンボール城
ふぅ。
みんな、無事完成したねー!

城塞都市カルカソンヌ
えぇ。

城塞都市カルカソンヌ
あとはお待ちかね、
私たちが用意してきたチョコ菓子でチョコレート・ソワレです!

やくも
わ~い! ちょこの宴が始まるだに?
待ちかねたがや~!

やくも
……って、うわぁ。

柳川城
あの、小倉城さん、それ……。

小倉城
……え? 私のちょこれーとが何か?

千狐
何だか小倉城さんのちょこだけ、妙な気を放っているような……。

小倉城
あらあら、愛情を込めすぎてしまいましたかしら?

小倉城
うふふ。

殿
…………?

千狐
(いや、あれは……愛情というよりは、
 何でしょう……少々どす黒いものを孕んでいるような……)

千狐
(……あら? 何だか別の気が……?)

千狐
(これはっ……!)

柳川城
どうかしましたか、千狐さん?

千狐
皆さん、兜が接近してきております!
戦闘の準備を!

大洲城
やはり、来ましたか……!

兜軍団
――ザザザッ!

甘崎城
まったく。いつもいつも邪魔しなきゃ気が済まないですか?

城塞都市カルカソンヌ
異なる兜たちの話は聞いております……。
チョコ教室とソワレの平穏、私が守ってみせましょう……!

兜軍団
…………。(ジー)

柳川城
ん?
何やら一斉にどこかを見ているようですが……。

古桃形兜
禍々シキ……黒イチョコ……。
我ラガチカラニ……転化セン……。

小倉城
…………。

シャンボール城
小倉城おねーちゃんのチョコ見てるね……。

小倉城
これが……貴方たちのちょこだとでも……?

大洲城
(あっ、小倉城さん、怒ってますね……)

小倉城
愛しき私の殿のためのちょこ……。
決して貴方たちのものではない……。

小倉城
兜のような下賤にして胡乱な輩ども、
私のちょこに視線をやることすら許さない……!

大洲城
あぁっ、こ、小倉城さん待ってください!

大洲城
お、お殿様!
小倉城さんを援護するため、急ぎ御下知を!

後半
小倉城

殲滅完了……。

小倉城
ようやく、殿にちょこを食べてもらえますね……。

小倉城
ゆくゆくは……私のことも……。

殿
…………?

柳川城
あっ、あのっ!
これでちょこの宴ができますよ!?

大洲城
え? あ、そ、そうですね!

大洲城
ほら、小倉城さん!
早速しましょう、ちょこの宴を!

小倉城
…………。

小倉城
……そうですね。
皆様をお待たせするのも悪いですし。

柳川城
(ほっ……)

小倉城
でも……恋に限っては、あえて待たせて焦らすと……、
より深い甘さをもたらしますものね……?

殿
…………?

城塞都市カルカソンヌ
ん……あら……?

城塞都市カルカソンヌ
甘崎城さん、どうかしたのですか……?
急にうずくまってしまって……。

甘崎城
うぅぅっ……お腹が……っ、
急に、痛いのが強くなったです~っ……。

殿
…………!?

大洲城
急に強く……って、
もしかしてずっとお腹が痛かったのに我慢してたの!?

甘崎城
我慢っていっても……チクチクするくらいだったですよ……。

甘崎城
なのに、急にぃ……すっごく痛いですぅ~っ!!

城塞都市カルカソンヌ
……この痛がり方、尋常ではありません。
もしかして何か、良くない物を食べたのでは?

城塞都市カルカソンヌ
甘崎城さん、ずっと味見と称して皆さんのちょこを
ぱくぱく食べていましたし……。

シャンボール城
何か良くない物……?

高島城
味見と称して食べた……って……。

小倉城
……あら?

大洲城
やめてください皆さん、理由も無いのに仲間を疑うなんて……。

大洲城
第一、小倉城さんがそんなことをするはずがないじゃないですか。

小倉城
まぁ、信じてくれてありがとう大洲城さん……。

小倉城
えぇ、決して私ではありませんわ。

小倉城
だいたい、私が犯人なら、もっと上手く始末しておりますもの……。

大洲城
こ、小倉城さん?

小倉城
毒を盛るなんて、足の付きやすい手段……。
選んだ人は少しばかり配慮が足りておりませんわね。

大洲城
小倉城さん、弁明になってませんよ……。

甘崎城
うぅっ……違うです……。
お腹が痛かったのは……大洲城のところに遊びに来る前からですからぁ……。

大洲城
私のところに来る前、っていうと……。

やくも
あっ!
もしかして、直前で食べてたちょこがや!?

城塞都市カルカソンヌ
えっ?

柳川城
あぁ、確か……帰りの船旅の間に、
いただいたちょこを食べていた、と仰っておられましたね……。

千狐
確か……ふらんすは、
ろわーる地方の工場でもらったちょこ、と仰っていたような?

シャンボール城
えぇっ?
それって、もしかしてあの工場?

大洲城
ご存知なのですか?

シャンボール城
うん。最近、近くに急に工場ができたんだけど、
いつ見ても誰が働いてるのか分からなかったの。

シャンボール城
いつも甘い匂いはするから、ただのお菓子工場だと思ってたんだけど……。

殿
…………!

柳川城
なるほど……確かに、これまでに来た兜たちが、
甘い匂いをさせている装束を纏っている理由にも関係があるのかもしれません。

大洲城
だとしたら、早急にふらんすに向かい、
確かめる必要があります!

大洲城
けれど、甘崎城ちゃんを置いていくのも……。

城塞都市カルカソンヌ
それなら、私にお任せください。

城塞都市カルカソンヌ
ひとまず、すみれの香りで落ち着かせてあげてから、
なんとか解毒の方法を探してみましょう。

城塞都市カルカソンヌ
仮に、兜たちが来ても私一人で大丈夫です。
全て返り討ちにしてみせますから。

シャンボール城
カルカソンヌおねーちゃんなら大丈夫だね!

シャンボール城
だって、わたしたち姉妹を全員同時に相手にできるくらい強いもん!

千狐
そ、それは凄いですわ……!

大洲城
でしたら……申し訳ないですけれど、
甘崎城ちゃんをお願いいたします……!

城塞都市カルカソンヌ
えぇ。責任をもって、甘崎城さんのことはお守りしましょう。

大洲城
……そして、お殿様、お願いです。
甘崎城ちゃんが食べたちょこの真相を確かめるため、私に力を貸していただけませんか?

殿
…………!

大洲城
ありがとうございます! お殿様!

千狐
では、準備ができ次第、
すぐにでもふらんすへと向かいましょう!

甘美に彩る情の調味 -絶壱-

チョコ教室の開催から数週間前のこと。
バレンタインを知った大洲城は、好奇の心の赴くまま
友人と二人でチョコ作りに挑戦してみたが……。

前半
――ちょこ教室の開催から数週間前。

大洲城
ふー……ようやく準備完了、といったところですか。

小倉城
ええ、充分だと思います。

小倉城
それにしても……下準備まで
全てお願いしてしまってすみません。

大洲城
とんでもないです。
こうしてちょこを作れるのは小倉城さんのお陰なんですから。

大洲城
小倉城さんから作り方を教われなかったら、
今でもどうやって調べようかと途方に暮れていたでしょうし……。

小倉城
何を仰るやら。
私と貴方は固い絆で結ばれた、お友達でしょう?

小倉城
貴方が困っているのなら、
できる限りの力になって差し上げるのは当然ですわ。

大洲城
小倉城さん……。

小倉城
……まぁ、かくいう私も、勝竜寺城さんに
ちょこ作りを教えていただいた身ですが。

小倉城
どこも関係というものは、持ちつ持たれつ、ということですね。

大洲城
本当に、日ごろの交流というものがいかに大事か。
小倉城さんや皆さんとの絆に感謝です♪

小倉城
うふふ♪

小倉城
……では始めてまいりましょうか。
二人で協力して、美味しいちょこを完成させましょうね。

大洲城
はいっ!

――数刻後。

大洲城
こんな感じでしょうか……?

小倉城
うーん……。

小倉城
悪くはありませんが……今ひとつ、味がぼやけているような?

小倉城
もしかしたら、
ちょこに何か混ぜてみてもいいかもしれません。

大洲城
なるほど……確かに、ちょこ単一の味で勝負するには、
作りなれていないと、少々難易度が高いですものね。

大洲城
何でも、お料理は単純であるほど誤魔化しが効かないものですし……。

小倉城
……では、次は私のちょこを味見してみますか?

大洲城
えぇ……。

大洲城
…………。

大洲城
……あのー、小倉城さん?

小倉城
あら? どうかしましたか?

大洲城
その……ちょこから、何やら色々とはみ出している、といいますか……。

大洲城
妙に色が黒いですし、
なんだかでこぼこしていますし……いったい、何を入れたんですか?

小倉城
何を、と言いましても……。

小倉城
そうですね……まずはイモリの黒焼きを粉末状にしたものでしょう?

大洲城
…………!?

小倉城
後は、ヒキガエルの粘液、生牡蠣をすりつぶしたもの……、
人参に、南蛮コショウ、カンゾウに、卵、ニンニクなどなど……。

大洲城
え……えぇ……。

小倉城
最後に、私手ずから調合した、特製の隠し味を。

大洲城
ちょ、調合?

小倉城
えぇ。

大洲城
……あの、おおよそ食べるにしては不向きと言いますか、
経口摂取するには少々厳しいのではないかと思うのですけれど。

小倉城
まぁ、大洲城さんったら。
経口摂取だなんて、お薬じゃないんですから。

大洲城
いえ、本当に……。

大洲城
そ、そもそも何故、先程の材料を入れようと?

小倉城
ふふ、この材料はですね……私の秘策です。

小倉城
人の心を捉え、虜にしてしまう力を持つという素材を、
ありったけ集めてみたのです。

小倉城
どれ程効き目があるかわかりませんから、
できる限り詰め込んでみようと思いまして。

大洲城
……ええと、これから、味見するのですよね?

小倉城
えぇ、美味しくできあがっていると良いのですが……。

小倉城
良ければ、大洲城さんもどうぞ?

大洲城
(ひ、一口くらいなら……大丈夫でしょうか……?)

大洲城
え、えぇ……いただきます……。(ぱく)

大洲城
…………。(もぐもぐ)

小倉城
…………。(もぐもぐ)

大洲城
(うっ……こ、これは……!?)

小倉城
あぁ……なんだか、体が火照りますね……。

小倉城
成功と……考えていいでしょう……!

大洲城
た、確かに勝手に変身してしまいましたし……、
効き目は凄いですけれど……!

大洲城
でも……今の状態じゃ、ちょこ作りどころじゃないです……!

小倉城
うーん……確かに……。

小倉城
ここはひとつ、お互いを相手にして……、
火照りを少し、冷ましましょうか……。

大洲城
うぅ……た、確かに、他に方法も、思いつきませんし……。

大洲城
仕方、ないですね……。

小倉城
うふふ……お手柔らかに、お願いしますね……。

大洲城
こ、こっちの台詞ですよぉ……。

大洲城
……で、では……行きます!

後半
小倉城

ふぅ……ようやく火照りが冷めましたね……。

大洲城
さ、冷めはしましたが……、
お互い大破しないと止まらないとは……。

小倉城
……まぁ、ですが効き目をしっかりと確認できましたし、
私としては満足ですよ。

大洲城
う、うーん……さすがにちょっと効き目が強すぎるかと思います……。

大洲城
特に……ちょこはそれだけで強壮薬の力があるとお聞きしました。

大洲城
もしも、小倉城さんがお殿様に、このちょこをあげるのでしたら、
殿が食べた時に逆にお体に害を成してしまう可能性があるのでは……。

小倉城
……確かに、私たち城娘が食べても強烈でしたしね。

小倉城
分かりました。混ぜるものの割合や量を調整し、
程よい配合を見つけ直すとしましょう……。

大洲城
(ほっ……)

大洲城
(万が一、お殿様が小倉城さんのちょこを食べてしまったら……、
 色々と、まずいことになる可能性もありますもの……)

小倉城
それにしても……ちょこ作りって、とっても大変ですね。

大洲城
確かに……。
正直、ここまで手こずるとは思っていませんでした。

大洲城
私は小倉城さんから教えてもらえましたが、
作り方がわからずに困っている城娘は少なくないはずです。

小倉城
ええ……現に、私も人づてに作り方を教わっただけ……。

小倉城
今のやり方のままでは、
更に美味しいちょこにたどり着くのは難しいのかも知れませんね……。

大洲城
といいますと?

小倉城
調整と味見をひたすら繰り返すのではなく……しっかりとした知識を持つ
先生のような方に付きっきりで、といった環境であればあるいは……。

大洲城
(小倉城さんの場合、材料をなんとかしないと
 味見すらままならないと思いますが……)

小倉城
何か言いました?

大洲城
い、いえいえ!
確かに、先生になってくれる城娘さんを探してみるのは良い案かもしれません。

大洲城
そして、ちょこ作りを教えてくれる教室のようなものを開ければ……。

大洲城
そうです、教室っ!
小倉城さん、ちょこ作りの教室を開くんですよ!

大洲城
教室でちょこ作りを広めれば、
より多くの城娘が日頃の感謝や愛情を伝え合えるようになります!

小倉城
……競争相手を増やすだけでは?

大洲城
みんながみんな、小倉城さんの恋敵というわけではないでしょう?

大洲城
友人やお世話になった方、姉妹……。
ちょこを渡す相手は想い人以外にもいっぱい居ます!

大洲城
ちょこを作れる人が増えればきっと、ばれんたいんは笑顔で溢れたお祭りになります!
とっても素敵だとは思いませんか、小倉城さん!

小倉城
た、確かに理想ではあると思うけれど……。

大洲城
早速私、ちょこ作りの上手な城娘さんを探しに行ってきます!

大洲城
目途が立ったら、小倉城さんもお呼びしますねー!

小倉城
ちょっと、大洲城さん!

小倉城
……はぁ、行ってしまいました。

小倉城
全く、人の笑顔のためにいつもばたばたと……。
本当にお人好しなんですから……。

小倉城
……まぁ、今は一人で、隠し味の研究を進めるとしましょう。
どの道、私のちょこには誰も敵わないのですから……。

小倉城
ふふふ……。

甘美に彩る情の調味 -離-

異国の地へと転移した殿一行は、シャンボール城の
導きにより怪しい工場へとたどり着いた。中で何が
行われているのかを暴き、企みを挫け。

前半
――異国。

シャンボール城
着いたー!

高島城
ここが……ふらんすの、ろわーるなのね。

大洲城
まぁ、可愛らしい光景……。
本当はのんびり観光で来ることができれば良かったのですが……。

小倉城
仕方ありませんよ、全ては邪魔ものどもが悪いのですから。

殿
…………?

シャンボール城
うんっ! 分かったよおーさま!

シャンボール城
じゃあさっそく、工場まで案内するね!

――シャンボール城近辺。

大洲城
あれが……最近できたという工場ですか。

小倉城
……煙が上がっているのを見るに、
今も稼働はしているみたいですね。

千狐
何か怪しげな霊気を感じます……。
皆さま、ひとまず此方に身を隠し、様子を伺いましょう。

殿
…………!

高島城
(……ん? ちょうど誰か来たみたい?)

柳川城
(あれは……!)

兜軍団
――ザッザッザッ!

古桃形兜
オーイ、開ケテクレー。

桃形兜
ハイハイ、オカエリー。

シャンボール城
(工場の中から兜が出てきた!)

千狐
(やはり……感じていた霊気は兜のものでしたか……)

桃形兜
ドウダッタ?

古桃形兜
ダメダ……日ノ本ニ送リコンダ部隊カラノ連絡ハナカッタ。

桃形兜
アァァ……ッテコトハ、チョコハ取リ戻セナカッタワケカ……。

大洲城
(……え? 取り戻す、とは?)

古桃形兜
マダ計画途中ナノニ、
準備シテタチョコガ流出シタノハマズイナ……。

桃形兜
『チョコノ試作品ヲ受ケ取リニ来タ』ナンテ、
モットモラシイコト言ワレタカラ、ツイ……。

桃形兜
ボクガ騙サレタセイデ、大事ニシテゴメンネ……。

古桃形兜
ダカラ取引相手ノ素性ハ、
ヨク確認シロッテ言ッタダロウガ……。

柳川城
(あの……もしかして……甘崎城さんが食べたという、
 ふらんすの工場のちょこ、って……)

やくも
(……兜さんたちが作ってたちょこも盗んでた、ってことかや?)

小倉城
(盗む、というよりは、
 口先で誤魔化して手に入れていた、と言った方が正しいでしょうか?)

大洲城
(も~っ! あの子ったら、自業自得じゃないですか!
 元気になったら改めてお説教です!)

古桃形兜
……ダガ、部隊ガ帰ッテコナイッテコトハ、
十中八九、返リ討チニアッタカ、

古桃形兜
アルイハ、殿ニ見ツカッタカ……。

桃形兜
エッ……ジャア、殿ガココニ攻メ込ンデクルッテコト!?

古桃形兜
可能性ハ高イゾ……。

高島城
(ま、マズいんじゃ……ない?
 私たちが来るだろうって、読まれてるみたいよ……?)

殿
(…………)

古桃形兜
……ダカラ、今カラ備エニ来タンダ。
アレ、起動サセテクレ。

桃形兜
分カッタ! 今、動カスネ!

桃形兜
オーイ! ミンナー!
動カスヨー!!

兜軍団
オーッ!!!

千狐
(兜がぞろぞろと工場に入っていった……?)

兜軍団
ワッセ! ワッセ! ワッセ!

古桃形兜
……オ、動キ始メタナ。ドレ。

大洲城
(兜が、動く床の上に乗って……?)

小倉城
(……なかなか出てきませんね)

シャンボール城
(……あっ、出てきたっ!)

古桃形兜
……フゥ。変身完了ット。

シャンボール城
(あの姿って……!)

小倉城
(なるほど。兜たちが一様に妙な姿をしていたのは、
 工場で装いを変えていたから……)

やくも
(にしても……いったいどんなからくりで動いてるんかや。気になるだに)

兜軍団
ザッ!
 ザッ!!
  ザッ!!!

古桃形兜
仕方ナイ、予定ヲ早メルカ。
トリアエズ出来テル分ダケデモ、バラ撒イテキチマウゼ。

桃形兜
分カッタ、今持ッテクルネ。
毒入リチョコー。

大洲城
(毒入り……!?)

小倉城
(なるほど、道理で浅はかな手段だと思いました)

桃形兜
フフッ、人間ハオ祭リ好キダネ。
イッツモ浮カレテルヨ。

古桃形兜
マ、オ陰デ俺ラモ攻メ入ル隙ガアルワケダシナ。

桃形兜
ソウダネー。
……ハイ、持ッテキタヨ。

古桃形兜
ヘッヘッヘ、コンナモン食ッタラ、
例エ城娘デモ死ヌンジャネェカ?

桃形兜
今頃、チョコヲ奪ッテイッタ奴モ、
ノタウチ回ッテ苦シンデタリシテネー!

古桃形兜
ハハッ、ダトシタラ、トンダ間抜ケダナ!

大洲城
(…………!)

高島城
(何よ、自分たちだって騙されてる癖に。間抜けはどっちなんだか)

大洲城
(……確かに、甘崎城ちゃんがしたことは悪いことです)

大洲城
(けれど! 報いを受けたとて、命の危機に晒されていいわけありません!)

小倉城
(それに、ばら撒く、と言っておりました)

小倉城
(ということは、甘崎城のように人々をも苦しめるつもりなのでしょう……!)

シャンボール城
(許せないよ!
 悪い兜はこらしめなきゃ!!)

殿
(…………!)

柳川城
(えぇ、打って出ましょう!)

古桃形兜
サーテ、ジャア荷物ヲ……。

小倉城
――放て。

兜軍団
ギャアアアアアアアアアアアア!!

桃形兜
エッ、何ッ!?

シャンボール城
とつげきーーーっ!!

古桃形兜
ウワアッ! ヤッパリ殿タチガ来ヤガッタゾ!!

高島城
覚悟しなさいよね!

大洲城
悪い兜は、お仕置きです!

後半
古桃形兜

オイッ、ヤバイゾッ!!
手伝イニ来テクレッ!!

兜軍団
――ザザザザザザッ!!

大洲城
うぅっ、まだ出てきますね……!

小倉城
まるで工場で作られて出てきているかのよう……。

シャンボール城
うー、全然敵が減らないよぉ……。

大洲城
今のところなんとか討ち漏らしはしていないようですが……、
もし一体でも抜けさせてしまえば……。

小倉城
くっ……手数で押され始めましたわ……!

古桃形兜
ヨシ! イイゾ! イイゾ!

兎形兜
オッ、俺ダケナラ、ナントカ抜ケテ行ケソウダ!

古桃形兜
オォ、行ッテコイ!

兎形兜
……今ダ!

高島城
……あっ、一体抜けた!

柳川城
ど、どなたか止めてくださいっ!

兎形兜
今気ヅイタトコデモウ遅イ!
逃ゲ切ッテ、毒入リチョコヲ人間ドモニバラ撒イテ食ワセテヤルゾッ!

古桃形兜
ヨッシャア! 勝ッタダロコレ!

???
――残念ながら、兜はまたもや私に出し抜かれる定めなのですぅ!

兎形兜
……アッ、オ前ラハッ!

甘崎城
てぇぇーーいっ!!

兎形兜
ウギャアアアアアアアアアッ!!

大洲城
えっ! あ、甘崎城ちゃんっ!?

城塞都市カルカソンヌ
皆様、応援に駆け付けましたよ!

甘美に彩る情の調味 -結-

手数が足りず、あわや窮地に陥るかと思ったところに
日の本から甘崎城たちが救援に駆け付けた。
彼女らと力を合わせて兜たちを殲滅せよ!

前半
城塞都市カルカソンヌ

皆様、応援に駆け付けましたよ!

シャンボール城
カルカソンヌおねーちゃん!

大洲城
あ、甘崎城ちゃん、もうお腹は大丈夫なの?
痛くないの? 無理はしてない?

甘崎城
ふっふーん♪ この顔が無理をしているように見えるですか?

城塞都市カルカソンヌ
ご安心ください。
もうすっかり元気なようですから。

小倉城
まぁ。ちょこには毒が仕込まれていたと聞いたのですが、
いったいどうやって治したのです?

城塞都市カルカソンヌ
以前何度か、地元の修道院の修道士さんたちが、
薬草を育てて研究しているのを見学させてもらったことがありまして……。

城塞都市カルカソンヌ
その時の知識と経験を活かし、なんとか薬を作ったのです。

城塞都市カルカソンヌ
後は、ひとえに甘崎城さんの持ち前の体力のおかげで
ぐんぐんと回復し、あっという間に元気になったのですよ。

小倉城
なるほど……確かに、往々にして毒と薬は表裏一体ですからね……。

高島城
(……小倉城が言うと何だか意味深に聞こえるんだけど)

小倉城
何か?

高島城
ひっ!?
な、何も言ってないわよ!?

甘崎城
ふふん。
いつも世界をまたにかけてきた、わたしの体力さまさまですぅ!

大洲城
あぁぁ……良かった……無事で良かった……!(ぎゅうう)

甘崎城
わぷっ!?

甘崎城
…………。

甘崎城
心配させて、ごめんですぅ……。

大洲城
いいんです。ちゃんと元気になったんですから。

大洲城
……でも、戦いが終わったらお説教ですからね。

甘崎城
(うっ、忘れててはくれなかったですか……)

柳川城
時に……お二人はいったいどうやってここまで……?

やくも
……というか、
なんでさっきからずっとカルカソンヌは盾で背中を守ってるがや?

城塞都市カルカソンヌ
ふふ、皆さんの許にどうやって合流しようかと思っていたら、
この子が声をかけてくれたのですよ。

ツバサ
くぅ……くぅ……。

千狐
つ、ツバサ!?
伊予国に来てたの!?

城塞都市カルカソンヌ
私も驚いたのですが、突然目の前が光ったかと思うと、
ツバサちゃんが現れたのです。

城塞都市カルカソンヌ
何でも、早く皆の役に立ちたいからと術の練習を重ねていたら、
たまたま転移術が失敗し、伊予国に来た、と言っていましたね。

やくも
あぁ、確かに所領でもちょくちょく練習してるのは見かけてただに……。

やくも
……でも、こんな時に伊予国に飛ぶって、そげな都合のいい失敗あるかや。

千狐
……いえ、今の時期だからこそ伊予国に飛んだのかも。

千狐
ちょこ教室の話って、所領にも来てたじゃない?
多分、ツバサもちょこが食べたいって思ったんじゃないかしら……。

やくも
あぁ、開催地が伊予国ってのは知ってたはずやね。

ツバサ
にへへ……ちょこー……いよー……。

千狐
……やっぱりそうみたいね。
強烈に思い浮かべてしまったから、伊予国に飛んじゃったんだわ。

城塞都市カルカソンヌ
ふふ……でしたら、後でご褒美にショコラをあげないといけませんね。
おかげで、なんとか此地に転移できたのですから。

城塞都市カルカソンヌ
でも、力を使い果たしてしまったのか、着いた途端にすとんと眠ってしまいまして。
ひとまず私がおんぶして連れてきたのです。

ツバサ
むにゃ……いーにおい……。

千狐
そ、そうだったんですね……わざわざすみません。

城塞都市カルカソンヌ
ふふっ、いえいえ。

桃形兜
……アーッ! アノチビッコイノ!
ボクノコト騙シテチョコ奪ッテッタ奴ダ!

古桃形兜
……チビッコイノッテ何体カイヤガルケド、ドイツダヨ。

桃形兜
今、コッチ見テメチャクチャ生意気ナ顔シテル奴!

甘崎城
ふっふーん♪
わたしがちっちゃいからって見くびったのが悪いですよ~だ。

古桃形兜
……何カ腹立ツナ、アノクソガキ。

桃形兜
ムキーッ!
ミンナ! 城娘ドモヲ倒シテ後悔サセテヤローッ!

兜軍団
――ザザザザザッ!

シャンボール城
ふーん! そんな簡単に倒されてなんてあげないんだから!

シャンボール城
勝手にわたしの地に工場なんて建てて!
しかもおいしくてあまーいショコラに毒なんか入れて台無しにしちゃってぇ!!

シャンボール城
わたしだって、とってもとっても怒ってるんだからねっ!!

殿
…………!

城塞都市カルカソンヌ
勿論です! これ以上人の平穏を邪魔し、
甘い幸せを苦い悲しみに変えようなど許せません!

城塞都市カルカソンヌ
我ら一同のアムールで、悪は全て溶かしてみせましょう!

後半
シャンボール城

やったぁ♪ぜーんぶきれいに倒せたね!

小倉城
えぇ。見事綺麗に更地になりました。

高島城
(薄笑いしながらひたすら砲撃続けてたものね……。
 建物の跡すらないほど綺麗になっちゃってまぁ……)

城塞都市カルカソンヌ
もう毒入りショコラが人々の口に入ることもないでしょう。

大洲城
あぁ、ホッとしましたー。

甘崎城
よぉぉーし! それじゃあ早速、
兜に邪魔されてできなかったちょこの宴を……。

甘崎城
……おぉ?(ふらっ)

柳川城
っ、とと。大丈夫ですか?

甘崎城
うぅ~、まだちょっとふらふらするです……。

大洲城
無理もないでしょう?
病み上がりなのに、すぐに先陣切って戦いに来てしまったんだから。

大洲城
残念かもしれないけど、
ちょこの宴は体調がもう少し良くなったら、ですね。

甘崎城
うぇぇ~、ちょこ、食べたかったですぅ~……。

高島城
(ちょこを食べて痛い目に遭ったばっかりなのに、懲りないのね……)

ツバサ
んー……。

ツバサ
……あ。
千狐おねーちゃん、やくもおねーちゃん……おはよー。

やくも
あ、やっとツバサが起きただに。

千狐
……良くもまぁ騒がしい戦場でぐっすり寝てたわね。

ツバサ
えへへ……。
ツバサね、異国への転移は……一回で成功したんだよ……すごいでしょー……。

ツバサ
…………ぐぅ。

城塞都市カルカソンヌ
あらあら、また寝てしまいましたか。

千狐
まぁ、ツバサにとっては、一度で転移を成功させるための
霊力の消費が尋常じゃなかったんでしょう……。

千狐
それに、元々は転移術を練習してたはずなんだから霊力も消耗してたろうに。
……頑張ったわね。(なでなで)

ツバサ
……むにゃむにゃ……にへへー……。

シャンボール城
ツバサちゃんもだけど……みんなも疲れちゃったよね?

シャンボール城
だったら、今日はうちに泊まっていってよ!
明日になったら、ショコラを食べてたくさんおしゃべりしよ?

柳川城
いいのですか?

シャンボール城
当たり前だよぉ! せっかく来てくれたお客さんなのに、
なんにもおもてなししないで帰したら失礼だもん!

城塞都市カルカソンヌ
そうですね……わざわざ疲れた体をおしてまで宴をしても、
ショコラもゆっくり味わえませんし、何より楽しくないでしょうから。

千狐
でしたら……お言葉に甘えましょうか、殿。

殿
…………!

シャンボール城
それに、今日うちで休んでいけば、
明日とかには大洲城おねーちゃんもゆっくり観光できるでしょ?

シャンボール城
地元ならわたしが案内してあげるから、たくさん楽しんでいってね!

大洲城
まぁ、ありがとうございます!

高島城
(そうだわ……せっかく出不精の私が異国に来たんだもの。
 できたら、膳所城と松江城に何か、お土産でも……)

高島城
あ……あの……、
か、観光……私も、ついていって、いい?

大洲城
もちろん!

シャンボール城
大歓迎だよー♪

高島城
(ほっ……)

小倉城
ふふっ……新しい材料の仕入れも期待できそうね……。

高島城
(うっ、また良からぬこと考えてそうな顔を……)

小倉城
…………。

高島城
(だからどうして私を無言で見るの!?
 まさか心の声が聞こえてるの!? 小倉城ってそんな権能持ってた!?)

小倉城
(高島城さん……時折私をなんとも言えない顔で見つめてくるのは何でしょう……)

小倉城
(私としては、彼女と友好を育むのもやぶさかではありませんけどね……。
 なんとなく気が合いそうですし……うふふ)

シャンボール城
さ、みんな、今日はお疲れ様でした~!
ゆっくり休んでいってね~!

――疲れた体を休めるため、シャンボール城に続く一行。

そして――

――夜が更け、皆寝静まった頃。

大洲城
……あら? お殿様?
寝付けないのですか?

大洲城
…………。

大洲城
戦った後はいつもこんなもの、ですか。
確かに、気が昂ぶるのも分かる気がします……。

大洲城
けれど、適度にお体をいたわりませんと、
いつかお年を召した時に健康を損なってしまいますよ。

大洲城
……夜更けにお渡しするのもどうかとは思いましたが、

大洲城
つい日の本から持ってきてしまいましたので……はい、よかったらどうぞ。

大洲城
えぇ。ちょこ教室で作ったものです。
信濃の胡桃を入れた、甘さ控えめのちょこれーとですよ。

大洲城
甘すぎないちょこれーとも、胡桃も、
少し食べればぐっすり眠れるらしい……と伺いました。

大洲城
私も一度試してみたのですが、
確かによく眠れたように思います。

大洲城
……とはいえ、もちろん寝る前ですから、
たくさん食べちゃダメですよ?

大洲城
…………。

大洲城
美味しい、ですか?
良かった、お口に合って。

大洲城
常日頃のお殿様は忙しそうにしてらっしゃいましたから……。
少しでも、お疲れが癒せればと思ったんです。

大洲城
……ふふ、いつもお仕事お疲れ様です。
あんまり、無理しちゃダメなんですから、ね?

――大洲城は、ふわりと微笑んだ。

甘く芳しい香りの中、彼女の笑みはまるで
張り詰めていた精神を解きほぐしていくかのような、暖かな笑みだった。

甘美に彩る情の調味 -絶弐-

兜たちとの戦いから一週間後。シャンボール城と
城塞都市カルカソンヌがゆったりとお茶を楽しんで
いたところに、ある城娘がおずおずと訪れ……。

前半
――兜たちとの戦いから一週間後。

甘崎城
ごめんくださいですぅ~。

シャンボール城
あ! 甘崎城ちゃん!

城塞都市カルカソンヌ
その後、お加減はどうですか?

甘崎城
お陰様で快調以外のなにものでもないですぅ。

甘崎城
今日は感謝の印として……、
手作りちょこを持参させていただいたですよ。

シャンボール城
わっ、手作りのショコラ!?

城塞都市カルカソンヌ
あら、丁度良いですね。

城塞都市カルカソンヌ
今、シャンボール城ちゃんと二人でお茶してたんです。
良かったら、甘崎城さんもどうですか?

甘崎城
(むむ、大洲城にはちょこを渡してすぐ帰ってこい、と言われてるですが……、)

甘崎城
せっかく誘われたのに断るのも失礼ですぅ。
ということでお邪魔しますですよ~!

シャンボール城
どうぞどうぞ~♪

城塞都市カルカソンヌ
では早速、甘崎城さんのショコラをいただきますね。

甘崎城
どうぞどうぞ~。

シャンボール城
わたしもー!(ぱく)

シャンボール城
…………。(もむもむ)

シャンボール城
おいしー♪

城塞都市カルカソンヌ
ショコラの中に何か入ってますね?

甘崎城
ご名答ですぅ。

甘崎城
せっかくわたしが作るのに、
そんじょそこらのちょこじゃ面白くないですから。

シャンボール城
何だろう?
ほんのり苦いんだけど、とってもおとなの味~!

城塞都市カルカソンヌ
橙色の……あ、もしかして?

甘崎城
そうですぅ。
カルカソンヌのお察しの通り、小みかんの皮ですよ。

シャンボール城
小みかん?

城塞都市カルカソンヌ
オランジュによく似た果実です。
甘酸っぱくて美味しいらしいとは聞いていますが……。

シャンボール城
へぇー……!

甘崎城
みかんの皮はほろ苦い味わいを持ち、
しかも薬の素材として使われるくらい体にいいものですよ!

甘崎城
……そして、カルカソンヌが、
わたしに飲ませてくれた薬を作るのに、使った素材のひとつでもあるです。

シャンボール城
そーだったの!?

城塞都市カルカソンヌ
えぇ。オランジュの皮といえば、
よくコンフィチュールになっているものを見ることはありますが……、

城塞都市カルカソンヌ
どうやら、日の本では薬の素材としても有名なようですよ。

シャンボール城
へぇぇー……! ぜんぜん知らなかったー……!

甘崎城
他にも、みかんの皮は体をぽかぽかあっためる効果もあるです。

甘崎城
だから……。

甘崎城
そのぉ……今回、わたしが多大な迷惑をおかけして、
みんなとの関係を冷やしちゃいましたので……。

城塞都市カルカソンヌ
ふふ、交友を温めなおすためでもあるということですね。

城塞都市カルカソンヌ
大丈夫。誰しも間違いは犯すもの。
大事なのは、間違えないことではなく、省みることです。

城塞都市カルカソンヌ
甘崎城さんの誠意は伝わりましたから、
もう気にしなくていいんですよ。

甘崎城
そうですか……。

城塞都市カルカソンヌ
ほら、甘崎城さんも良かったら、
私が持参したお菓子を召し上がってください。

甘崎城
……実はさっきからずーっと気になってたですぅ!
ありがたくいただくですよぉ~!(ひょいぱく)

甘崎城
…………。(もむもむ)

甘崎城
ちょことはまた違って……あま~くて、ふわ~っといい香り……。
この紫の粒はいったい何なのですぅ~……?

城塞都市カルカソンヌ
私の地元の名産のひとつ、すみれの花を砂糖漬けにしたものですよ。

甘崎城
ほほ~う。日の本でも、
すっごーく昔は野菜を蜜漬けにしてたですが……最近あんまり見ないですねぇ。

シャンボール城
……あれ? すっごーく昔、って……。

甘崎城
ん~……確か……、
平城京や平安京がめちゃくちゃ現役だった頃とか、そのくらいですかねぇ?

甘崎城
まぁ、ざっくり言うと今から千年近くは昔ですぅ。

シャンボール城
せ!? 千年!?

シャンボール城
ってことは、甘崎城ちゃんってわたしよりずーっと年上だったんだ……。

甘崎城
ふっふーん♪
ちっちゃいから必ずしも年下ってわけではないのですよー。

甘崎城
そもそも! わたしは山海の守護と戦いをつかさどる神を祀った、
大山祇神社の東を守っていた城!

甘崎城
更に! 日の本では名を知らぬ者はいないであろう海賊、
村上水軍の拠点がひとつでもあるのです!

シャンボール城
わぁぁ! なんだかすっごく強そう!

甘崎城
強そう、ではないのです!
わたしはとってもつよ~いのですよ!

甘崎城
何せ、わたしの拳は海をも割るほどの威力を持っているのですから!

城塞都市カルカソンヌ
う、海を?

甘崎城
おっと、信じられな~いって顔をしてやがりますねぇ。

甘崎城
そう……もしも、もしもわたしが今回、
毒入りちょこを食べていなかったのなら。

甘崎城
そしたらきっと――。

後半
甘崎城

――って感じで、
最初っから、らっくらく~に兜どもを殲滅できてたはずなのですよ。

城塞都市カルカソンヌ
確かに、この前は病み上がりとはいえ、
襲い掛かってくる兜を次から次へと倒していましたものね。

シャンボール城
うん、凄かったよー!

シャンボール城
甘崎城おねーちゃんって、すっごい城娘なんだね!

甘崎城
あ、甘崎城おねーちゃん……!?

シャンボール城
え? だって、わたしよりおねーちゃんだよね?

甘崎城
…………。

甘崎城
おぉ……『おねーちゃん』という称号はかくも甘く響くですか……。
もっともっと呼んでもいいのですよ……。

シャンボール城
えへへー、甘崎城おねーちゃーん♪

甘崎城
おぅふ……。

城塞都市カルカソンヌ
ところで、今日はどうするの?
シャンボール城ちゃんのところに泊まっていくのかしら?

甘崎城
うーむ。正直、美味しいお茶とお菓子をいただいてたら、
居心地があんまりよいので帰りたくなくなってきたです。

シャンボール城
じゃあ、今日もうちに泊まっていっちゃえー♪

シャンボール城
なんなら、しばらくいてもいいよー?

城塞都市カルカソンヌ
そうね、もし大洲城さんが怒らないのだったらだけど……。

甘崎城
あ、大丈夫ですぅ。
大洲城には文で此方に滞在するって伝えておくですから。

甘崎城
(カルカソンヌはおやつを沢山くれて優しいですし、
 シャンボール城はわたしをおねーちゃんと呼ぶ……)

甘崎城
(欲しい物が全部揃った此地から、すぐに離れる道理はないですぅ)

城塞都市カルカソンヌ
あら、そうですか?

シャンボール城
わーい!
前に遊べなかった分もいっぱいあそぼーね、おねーちゃん!

甘崎城
勿論です!
今回は、日の本流の遊びって奴を教えてあげるですよ~。

シャンボール城
わぁ、たのしみー♪

――伊予国。

大洲城
……あら? 文?
まぁ、甘崎城ちゃんからだわ。

大洲城
何々……。

大洲城
『ふらんすの居心地が気に入ったので、
 しばらく帰りません。お土産を楽しみにしてるですよ~』……。

大洲城
……もう! 謝罪の印にちょこを配りに行くというから、
お勉強もお休みにして送り出したのに!

大洲城
――早く帰ってきなさーい!!

遠き異国には届かぬと知りながらも、
大洲城は伊予国の空に向かって叫ぶのだった。



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