ストーリーテキスト/犯人はこの中にいる!

ページ名:ストーリーテキスト/犯人はこの中にいる!

目次

犯人はこの中にいる![]

犯人はこの中にいる! -序-

イングランドの御城、ラムリー城の庭園に集った
城娘たち……言葉を失い、驚愕の表情を浮かべる
彼女たちの視線の先にあったものとは……。

前半

イングランドの御城、ラムリー城。
その周囲に広がる庭園。

一堂に会するは、
パーティーの招待客……その面々。

千狐
…………。

やくも
…………。

澄みきった空に太陽が昇り、
一日の始まりを告げる。そんな爽やかな光景の中――

ラムリー城
お、王様……。

ウィンザー城
し、信じられない……。

ウォリック城
何ということだ……。

――彼女らは驚愕し……言葉を失っていた。

コンウィ城
カーナーヴォン城さん……。

カーナーヴォン城
ああ、これは……。

ハーレック城
我らの前でこのようなことが起きるとは……。

桃形兜
…………。

そこに響き渡るのは、
悲嘆に暮れる叫びのみ……。

柳川城
殿、殿ーっ! 目を開けてください!
お願いですから……殿っ!

殿
…………。(しーん)

島原城
柳川城……落ち着きなさい。
この出血の量を見るに、殿はもう……。

柳川城
嘘です! これは何かの間違いです!
殿の身にこんなことが起きるなんて……私、信じませんから!

アイリーン・ドナン城
あうぅ……どうしてこんなことに……。

ウェストミンスター宮殿
分からない……。でも、一つだけ確かなことがあります。

ウェストミンスター宮殿
犯人は、この中にいる……!

ウィンザー城
…………ッ!?

ウォリック城
…………っ!

コンウィ城
…………!

カーナーヴォン城
…………。

ハーレック城
…………!?

アイリーン・ドナン城
…………!

島原城
…………。

ラムリー城
…………!

やくも
…………?

千狐
…………っ。

桃形兜
…………!!

柳川城
…………。

殿
…………。

――――

――御城の主、ラムリー城の証言。

ラムリー城
昨晩はパーティーを行っていました。
王様に手紙を送って、ご招待したのです。

ラムリー城
併せて、近隣の城娘も誘いました。
難しい間柄の子も居ますが、
少しずつでも交友を広げられれば、と……。

ラムリー城
パーティーは予定通り……いえ、
予定を遥かに上回る盛り上がりを見せました。

ラムリー城
久々に夜更しをしたのです。
眠ってしまうのが惜しくなるくらい、素敵な時間だったから……。

ラムリー城
なのに……あんなことが起きるなんて。

――――

殿
…………。

柳川城
嘘……嘘ですよ、こんなの……。

やくも
…………。

やくも
なぁ、千狐……うち、今起こってることが、
いまいち理解できてないんやけど……。

千狐
大丈夫よ、やくも……千狐も一緒なの……。

千狐
え、ええと……こういう時、千狐はどうすれば……。

桃形兜
何ダカ、大変ナコトニナッテルミタイダネ……。

千狐
そうなの……殿の身に、こんなことが起こるなんて――

千狐
――って、兜! どうして兜がここに居るのー!?

桃形兜
ヒ、ヒィッ!?

桃形兜
ゴメンナサイィィィィ!

ウェストミンスター宮殿
逃げられてしまいました……。
こんな時に兜とは、なんて間が悪いのでしょう……。

島原城
……まずいわね。この状況を敵に知られてしまったわ。

ウェストミンスター宮殿
ええ……この状況、
兜にとっては最上の好機と言えるでしょう。
すぐにでも、態勢を整えなければ……。

ウェストミンスター宮殿
…………。

柳川城
殿……殿ぉ……。
血がこんなに、流れて……。

ウェストミンスター宮殿
柳川城さん……柳川城さん。
私の声が聞こえますか?

柳川城
…………。

ウェストミンスター宮殿
お気持ちは分かります。
受け止めるべきこと、考えるべきこと……。
数え上げればキリがありません。

ウェストミンスター宮殿
……ですが、今は成すべきことを成す時。
何よりも先に……私たちはこの場を生きて、
切り抜けなければならないのです。

柳川城
成すべき、ことを……。

殿
…………。

柳川城
(悲しんでいても失うばかり……。
 きっと殿が私に望むのは、こういう事態において――)

柳川城
…………。

柳川城
そう、ですね……こういう時こそ、立ち上がらなければ。
ウェストミンスターさん……ありがとうございます。

ウェストミンスター宮殿
礼を言われるようなことは、決して。
貴方もお辛いでしょうが……。

柳川城
いいえ……それはお互い様ですから。

柳川城
…………。

柳川城
皆さん……間もなくここに兜が来ます!

柳川城
殿を失ったことを知られた今……、
兜がこの好機を逃すことは望めないでしょう!

柳川城
私たちだけで、此地を守り抜かなければならないのです!
すぐに準備を整えてください、お願いします!

アイリーン・ドナン城
か、兜がここに……間もなく?

アイリーン・ドナン城
……っ、そうだ! そういうことなら、
わたしの権能を使えば……んんぅ~~~!

アイリーン・ドナン城
――えぇいっ!

(ぼわんっ!)

殿
(アイリーン・ドナン城製幻想形・殿)

殿(幻想)
…………。

やくも
これは殿さん! ……を模した、幻想?

アイリーン・ドナン城
王様が倒れたって情報は、もう広まっちゃってるんだよね?
だから、目くらましになるかはわからないけど……。
少しくらいなら、目を引けるかなって!

柳川城
ありがとうございます、アイリーン・ドナン城さん!

柳川城
この姿を認めれば、兜は平時と同じく殿を標的とするはず……。
我々は、この幻想を中心に陣を構えることとしましょう!

柳川城
もう開戦まで猶予はありません……さぁ、準備を!

後半

突撃式トッパイ形兜
ナ、ナンダ……殿ハ倒レタンジャナイノカ……?

桃形兜
アレ、オカシイナァ。
確カニ見タハズナンダケド……。

突撃式トッパイ形兜
倒レテイナイドコロカ……、
コノ戦ノ中デモ、表情一ツ変エテナイ。
イツモ以上ノ気迫ヲ感ジル気ガスルゾ……!

突撃式トッパイ形兜
話ガ違ウ……勝チ戦ダッテイウカラ、
急イデ出陣シタッテノニ……!

突撃式トッパイ形兜
トニカク撤退……撤退ダッ!

兜軍団
撤退! 撤退! 撤退!

島原城
何とか、乗り切れたみたいね……。

ウォリック城
……おいウィンザー、無事か?

ウィンザー城
当然だろう。
お前に心配されるようでは、私もまだまだだな……。

コンウィ城
こちらも無事ですよ、柳川城さん!

ハーレック城
うむ、この程度の攻めで揺らぐ我らではない!

カーナーヴォン城
その通り!
我らアイアンリングが守り抜くと決めたのだから、
この勝利は必然!

ラムリー城
私の御城のために……皆さん、ありがとうございます。

やくも
…………。

やくも
やけど……殿さんは、もう……。

千狐
…………。

千狐
綺麗な顔なの。……こうして見ていると、
とてもそんな風には――うぅ、ぐす……うぅっ……。

殿
…………。

アイリーン・ドナン城
……ほっぺは血色も良いし、まるで眠ってるみたいだよ。

柳川城
はい……触れていると、まだ暖かさが感じられます。

柳川城
ですがこの通り……。
胸に手を当てても、心臓の鼓動が感じられず――

ラムリー城
…………っ!!

ウェストミンスター宮殿
……? ラムリー城さん、どうかしましたか?

ラムリー城
あの、柳川城さん……僭越ながら、
一つ申し上げたいのですが……。

柳川城
はい、なんでしょうか……?

ラムリー城
一般的に、心臓はですね……左胸にあるものとされています。

ラムリー城
左です……。
今、柳川城さんが手を添えている場所とは、
反対……左、なのです。

柳川城
え……?

ラムリー城
ですから今一度……王様の左胸に、手を……。

柳川城
…………。

柳川城
……あぁっ! 動いてます!
殿の心臓が、確かに脈打ってますよ……!

島原城
ちょっと待って。
殿の身体から滴る、この液体の香り……

島原城
(……ぺろっ)

島原城
なるほど……赤ワインだったのね。
どうしてこんなに紛らわしいことを……。

柳川城
良かった……。
ごめんなさい……私、早とちりしていたみたいで……。

ウェストミンスター宮殿
無理もありません……殿が意識を失っていた、
という事態に変わりはありませんもの。

島原城
そ、そうね……とにかく今は、
殿が無事だったことを喜びましょう。

アイリーン・ドナン城
はぁぁ……肝を冷やしたよぉ――あっ、でも!
王様をこのまま地べたに寝かしとくわけにはいかないよね!

千狐
そうですね!
身体を休められる場所に、すぐ運ばなければ!

ラムリー城
……ベッドの用意なら問題ありません!
ご案内します!

やくも
うちも殿さんを運ぶがや!
だにぃぃぃぃぃ――!!

ウェストミンスター宮殿
…………。

ウェストミンスター宮殿
(殿の治療も大切ですが……、
 問題はそれだけではありません)

ウェストミンスター宮殿
(人が傷つき、倒れたならば……そこには必ず原因がある。
 ……場合によっては、犯人も居る)

ウェストミンスター宮殿
(ビック・ベンを有するロンドンの象徴たる私が、
 この場に居合わせたことはきっと……偶然じゃない)

ウェストミンスター宮殿
(経緯を解明し、原因を突き止め……、
 これ以上の犠牲が出ることを食い止める。
 それを成し遂げる力が私には備わっているのです!)

ウェストミンスター宮殿
私が成すべきこととは、すなわち――そう! 事件の解決よ!

やくも
なーに独りで呟いてるだに!
ウェストミンスターも手伝うがや!

ウェストミンスター宮殿
あ、はーい。今行きまーす……。


犯人はこの中にいる! -破-

殿の身体に大事がないことが分かり、胸を撫で
下ろす城娘たち。しかしそんな中、事件の究明に
向けて闘志を燃やしている城娘が居た……。

前半

殿
…………。(すぴー)

アイリーン・ドナン城
見て……王様、静かに寝息をたててるよ……。

柳川城
命に別状が無かったようで安心しました。
ですが、目を覚ますまではまだ時間が掛かりそうですね……。

ウェストミンスター宮殿
ひとまず……私たちの方でも、
状況を整理しておきましょうか。
王様の証言で全て解決するかもしれませんが……。

ウェストミンスター宮殿
……助手ちゃん、
集めた情報を読み上げてくれますか?

千狐
り、了解なの。

やくも
(助手って、いつの間に……)

千狐
殿が意識を失った直接の原因は……後頭部。
こちらの打撲と見られています。

やくも
だに……でっかいタンコブができとったがや……。

アイリーン・ドナン城
じゃ……誰かが後ろから近づいて、
おにいちゃ――王様にずがーん、ってこと……?

ウェストミンスター宮殿
事故でないのなら……、
その可能性は充分ありえますね。

千狐
それから……発見時、殿の身体はワインにまみれていました。
皆が出血だと、勘違いしてしまうほどに。
殿のお怪我と関係あるかはまだ不明ですが……。

ウェストミンスター宮殿
それから……この場に居合わせた方々に、お話を伺っています。
助手ちゃん、続きをお願い。

千狐
はい……皆さんもご存知の通り、
昨晩は、この御城にてパーティーが行われていました。

千狐
ラムリー城さんから解散が告げられるまでは、
広間に一同が介していました。
その時点では、殿の元気な姿を皆が確認しています……。

アイリーン・ドナン城
ってことは、事が起きたのはその後……。

千狐
解散の号令があった後は……皆、
思い思いに過ごしていたようです。

千狐
部屋に戻って休んだ者。
引き続き広間に残り、パーティーを楽しんだ者。

千狐
証言によれば……いずれも、
二人以上で行動をとっていました。

ウェストミンスター宮殿
互いが互いの潔白を証明している、ということですね。
共犯の可能性も含めたら、絶対の信頼は置けませんが……。

柳川城
共犯って……!
城娘たちを疑うつもりですか、ウェストミンスターさん!

ウェストミンスター宮殿
落ち着いて……私は可能性の話をしているだけです。

ウェストミンスター宮殿
真実に近づくためには、慎重を期す必要があります。
瞳を曇らせないよう、注意しながら……。
客観的な事実を精査して、推理を進めないといけないのです。

ウェストミンスター宮殿
そしてその『可能性』の対象には……私も含まれます。
推理役が犯人……なんてオチも、
推理小説の典型の一つですからね。

柳川城
…………。

柳川城
そんなこと……考えられません。
今の私はもう、いっぱいいっぱいなんです……。

ウェストミンスター宮殿
ふふ……確かに、
貴方は推理役には向いていないかもしれませんね。
あまりに優し過ぎます。

ウェストミンスター宮殿
もちろん……貴方の案ずるところも、理解できます。
城娘たちが互いを疑い、不安に苛まれてしまうのは、
決してあってはならないこと。

ウェストミンスター宮殿
真相が明らかになったところで、
皆が幸せになれなければ本末転倒ですからね。

ウェストミンスター宮殿
……ですから、捜査の姿勢には常に、
気を配らなければならないでしょう。
柳川城さんのお言葉は、しっかりと心に留めておきますよ。

柳川城
はい……よろしくお願いいたします。

千狐
ですが……改めて考えると難しいですね。
少なくとも、確認できる限りで、
単独行動をとっている方は居ないのですから……。

ウェストミンスター宮殿
もう少し情報が欲しいですね。
たとえば、王様がどこでお怪我をされたか分かれば、
捜査の方向も絞れるのですが……。

アイリーン・ドナン城
事故だったら、
王様が見つかったあの場所で怪我をしたってことだよね?
それ以外の可能性は――

やくも
いや……殿さんは自分の足で、
あの場所に向かったはずだに。
皆が寝静まった後、一人でてくてくと――

ウェストミンスター宮殿
…………。

ウェストミンスター宮殿
やくもさんは、どうしてそれを知っているのです?

やくも
……へ?

千狐
やくもはパーティーが終わった後、
真っ直ぐ部屋に戻ってベッドに入ったはずでしょう?
千狐が寝顔まで確認しているの……。

やくも
あ、えー……それは――

やくも
……あっ、あー。そうだったがや!
うちはベッドですやすや寝とったんだに!
きっと夢でも見て……それと勘違いしとったがや!

ウェストミンスター宮殿
…………。

ウェストミンスター宮殿
そうですか。それならいいのですが……。

ウェストミンスター宮殿
やはり、情報が足りていないようですね。
改めて、王様が倒れていた現場に向かいましょうか。

アイリーン・ドナン城
うん! さんせー!

――――

一方、その頃――

ラムリー城
この本は……違う。
この本も、この本も……やっぱり違う。

ラムリー城
そうじゃないの。私が探しているのは――

島原城
――単独行動は、
避けた方が身のためじゃないかしら?

ラムリー城
――っ!?

ラムリー城
あ、貴方は――?

島原城
――島原城よ。

島原城
アナタからの招待状が、殿の許に届いた時……、
その場に居合わせたの。偶然ね。

島原城
それで、同行させていただくことになったのだけど、
まさか……こんな事態になるなんてね。

ラムリー城
……はい。
私も想像していませんでした。こんなこと……。

島原城
……それで?
アナタは一人で、何をしていたのかしら。
棚から、次々と本を引っ張り出していたようだけど。

ラムリー城
ええと……その。本を……探していました。

島原城
ふ……そんなの見れば分かるわ。
アナタなりに何か、考えがあったのでしょう?

ラムリー城
はい……。
私の御城には、沢山の本が所蔵されています。
私自身も、以前から本に慣れ親しんできました。

ラムリー城
ですから……この御城が所蔵する本の中に、
手がかりはないかと思いまして……。

島原城
……ふぅん。
今回の件と似通った物語が、
どこかにあるのでは……ということ?

ラムリー城
はい……。
私は、ウェストミンスターさんのように、
推理で協力することはできそうにないので……。

島原城
そうは言っても……この蔵書の量じゃ、
限界があるんじゃない?
アナタ一人でどうにかなるとは思えないのだけど。

ラムリー城
あ……そ、そうですね。ごめんなさい。
無駄な努力に終わってしまうかも、しれませんが……。

島原城
ちょっと、誰が無駄なんて言ったのよ?
やるのなら人手が足りないでしょ、って言ったの。

ラムリー城
……え?

島原城
ウィンザー城たちや、アイアンリング……。
パーティーの翌日ということもあって、
城娘の手を借りることは難しくない状況よ。

島原城
殿のために何かをしたい、という子も少なくないでしょう。
声をかければ、手を貸してくれるはずよ。

ラムリー城
なるほど……はい!
そうですね、仰る通りです!

ラムリー城
では早速、ウィンザー城さんたちに声を掛けて――

千狐
――コンッ!?
大変、大変なの!
兜が近づいてきているのー! 

ラムリー城
――今のは、千狐さんの……!

島原城
庭園の方向ね……すぐに向かいましょう!

――――

島原城
柳川城! 柳川城はどこ?

柳川城
その声は……島原城さんっ!?
こちらです! 私はここに居ますよ!

ラムリー城
千狐さんの声を聞きつけて……兜が現れたのですよね?

千狐
はい……先程よりも強い力を感じました!
おそらく、巨大兜の姿もあるかと……!

ラムリー城
巨大兜まで……そんな……!

アイリーン・ドナン城
王様の幻想も用意しておいたよ!
巨大兜に王様が居ないことを知られたら、大変だもんね!

殿(幻想)
…………。

ウェストミンスター宮殿
それにしても……ウォリック城とウィンザー城はまだなのかしら。
もう駆けつけていても、おかしくないはずだけど。

やくも
アイアンリングの城娘たちもおらんだにー!

???
ソノ城娘たちならもう、戦いヲ始メテいる……。
この御城はスデに、私の軍勢によって包囲サレテいるのデナ。

柳川城
……っ!

リチャード1世
久方ぶりダナ、日の本の王ヨ。
……再会ヲ心待ちにシテイタぞ。

リチャード1世
――と言イタイところダガ、
そういうわけにはイカナイらしい。

リチャード1世
報告ヲ受けて、マサカとは疑ッタが……、
この目デ捉えて理解シタ。

リチャード1世
ソコに居るのは私がよく知る、
日の本の王デハ……ないのダロウ?

リチャード1世
奴は我ガ物語にオケル無二の宿敵。
その姿ヲ見間違ウことなど、あるハズがない。

アイリーン・ドナン城
(本物の王様じゃないって、気づかれてる……!?)

ウェストミンスター宮殿
……さぁ? 何のことでしょう。
私には、貴方の言っていることが理解できませんが……。

リチャード1世
フム……それもよかろう。
抗うナラバ、その紛いものゴト討チ果タスのみ。


――ザッ!

兜軍団
――ザザッ! ザザザッ!!

柳川城
(先程よりも強大な勢力……。
 でも大丈夫……これも必ず、退けてみせる……!)

リチャード1世
その意地ヲどこまで貫ケルか、私に示シテみるがイイ。

リチャード1世
……さぁ、進メ! 兜たちヨ!

後半

アイリーン・ドナン城
はぁ、はぁ……。
もう、だめぇ……限界、だよぉ……。

殿(幻想)
…………。

殿(幻想)
(すー……)

やくも
ああっ……殿さんの幻想が消えていく……!

リチャード1世
ヤハリ、私の見立テは正シカッタらしい……。

リチャード1世
さぁ……聞カセテもらおうか。
本物ノ殿は、ドコに消えた?

犯人はこの中にいる! -急-

巨大兜、リチャード1世に殿の不在が露見し、
詰問を受ける城娘たち。返答に窮する柳川城だが、
その時、一人の城娘が口を開く――

前半

リチャード1世
さぁ……聞カセテもらおうか。
本物ノ殿は、ドコに消えた?

ウェストミンスター宮殿
…………。

柳川城
…………。

柳川城
(私たちの現状を知れば……兜たちは、
 力の全てをもって、襲いかかってくるかもしれない)

リチャード1世
ドウシタ? ……ナゼ口を開かぬ?

柳川城
(それだけは避けなければいけません。
 ……でも、だからといって何も答えずにいるわけにも――)

ラムリー城
…………。

ラムリー城
皆さん。私から提案なのですが……。

ラムリー城
ここは一つ、正直に状況を伝えてみてはいかがでしょうか……?

千狐
お、お待ち下さい……! そんなことをすれば、
千狐たちが窮地にあるという事実を明かすことになってしまいますよ!

やくも
そうだに! 兜たちは自信満々で攻撃を始めるがや!

ラムリー城
ですが……考えてみてください。

ラムリー城
兜たちにとって重要なのは、王様が不在かどうか。
その是非は、先の戦いですでに割れてしまっているのです。

ラムリー城
そんな状態で今……兜たちが、
行動を起こさずその理由を尋ねていることに、
私は違和感を覚えます。

島原城
……確かに。目的が私たちの殲滅なら、
質問を投げかけたりはしないはず……。

ラムリー城
そうなんです。
いずれにしても窮地にあるというなら……、
対話は決して悪い手段ではないと思います。

柳川城
そうですね……。
ここまで来れば、衝突は必至。
一つの手段として、試しておいて損は無いのかもしれません。

ウェストミンスター宮殿
分かりました……それでは――

リチャード1世
…………。

リチャード1世
相談はマダ続くのか?
これ以上待タセルようなら……、
同じ問ヲ繰り返すツモリはないが。

柳川城
待ってください。私がお答えします。

柳川城
殿は今、ここには居ません。
御城の奥で……眠っています。

リチャード1世
フム……先程とまるで違ウ答エが返ってきたナ?

柳川城
……今回は正直に答えました。偽りはありません。

リチャード1世
…………。

リチャード1世
(私ヲ誘ウための罠か? いや、シカシ……)

リチャード1世
……ナラバ、その理由は?
このような状況デ何故、殿は眠り続ケル?

柳川城
殿は、とある不幸に見舞われたのです。

リチャード1世
……不幸ダト?

柳川城
昨晩のこと……。
殿は頭を強く打ち、気を失われました。
そして未だ、目覚めてはいません。

柳川城
今、私たちは……殿の看病を続けながら、
その一件の捜査を行っているのです。

リチャード1世
何だと……奴が怪我ヲ?
そして眠り続ケテいる、ト?

ウェストミンスター宮殿
(さぁ……これを聞いて、巨大兜はどう出るのか……。
 襲いかかってくるか、それとも――)

柳川城
…………。

リチャード1世
ムゥ……。

リチャード1世
……聞カセろ。

ウェストミンスター宮殿
…………!

リチャード1世
その一件、放置シテはおけん。
……私にも詳シク事情を聞かせるのだ!

柳川城
…………。

柳川城
…………え?

――――

リチャード1世
手ガカリ、手がかりか……。

桃形兜
リチャード様ァ、
こっちは特に何もありませんでした。

リチャード1世
よし、ソノ調子で捜査ヲ続けろ。
手分けして、無駄が生ジナイようにな……。

桃形兜
ハイ……承知シマシタ……。

――――

ウェストミンスター宮殿
…………。

ウェストミンスター宮殿
……驚きましたね。
兜たちが、捜査に協力するなんて……。

柳川城
そうですね……。

千狐
千狐も信じられないの……。

やくも
やけど……リチャード1世なら、
こんなことも起きたっておかしくないような気がするがや。

やくも
元から、何を考えてるのかよーわからん奴だっただに……。

ラムリー城
ですが……やはり落ち着きませんね。
兜が傍に居るというのは……。

アイリーン・ドナン城
うん……わたしも……。

――――

桃形兜
…………。

桃形兜
アノ、リチャード様……一ツオ聞キシテモイイデスカ?

リチャード1世
……何ダ。

桃形兜
……ドウシテボクタチハ、城娘ノ手伝イナンテシテルンデスカ?
コノ隙ヲ利用シテ、一気ニ勝負ヲツケチャエバイイノニ……。

リチャード1世
……ならん。ソレだけは許サヌ。

リチャード1世
宿敵が床に伏シテいるのだ。
そんな状態で、背中カラ斬りかかるような真似はデキヌ。
名誉ナキ勝利は汚名も同ジだ。

桃形兜
ソレハ、ソウカモシレマセンガ……。

リチャード1世
トハイエ……やはり、
ここまでチカラを貸シテやる筋合いはないのダロウな。

リチャード1世
だが私は、タトエ宿敵であろうと……、
イヤ、宿敵ダカラこそ、知らぬ振りはデキヌのだ。

桃形兜
宿敵、ダカラコソ……。

リチャード1世
アノ御方の命でもアレバ話は変わるが、
未だ、此地ノ指揮は私に任せられている。

リチャード1世
お前タチにも思ウところはあるダロウが、
私の許に居ル間は、命令に従ッテもらうぞ……。

桃形兜
ハ、ハイ……。

リチャード1世
マァ……お前が気ヲ揉む必要はナイ。
コレは私の命令……全ての責は、私にアル。

リチャード1世
責任ヲ問われた際には、
リチャードに命ジられた……ソウ答えれば良イ。分かったな?

桃形兜
ハイ……承知シマシタ!

桃形兜
(リチャード様……カッコイイ……!)

突撃式トッパイ形兜
リチャード様!

リチャード1世
……何ダ?

突撃式トッパイ形兜
コンナ物ヲ見ツケタノデスガ……、
コレハ城娘ガ言ウ『証拠品』ニ当タルノデショウカ?

リチャード1世
フム……ワインの空き瓶か。

リチャード1世
その辺に転ガッテいたところで、
不自然には思エヌ。ダガ、一応城娘に――

島原城
――何をコソコソと話しているの?

リチャード1世
――ム……?

島原城
それから、その空き瓶は、
どこで手に入れたのかしら……?

リチャード1世
待テ、隠すつもりなど無い……。
今チョウド、お前たちに渡ソウとしていて……!

島原城
どうして慌てているの? ……怪しいわね。
まさかその空き瓶を凶器として――

桃形兜
――ヌ、濡レ衣ダ!

島原城
……濡れ衣? どういうことかしら?

桃形兜
リチャード様ハ、自分ノ立場ガ危ウクナルカモシレナイノニ、
城娘タチニチカラヲ貸シテイルンダゾ!

突撃式トッパイ形兜
ソレニリチャード様ガソノ気ニナレバ、
オ前タチヲ欺クコトナンテ容易ナノダ!
怪シマレルヨウナ真似ナド、スルモノカ!

島原城
へぇ……欺くことなんて容易い、ねぇ……?

桃形兜
オ前ノ方コソ、真犯人ヲゴマカスタメニ、
ボクタチニ罪ヲ被セヨウトシテルンジャナイノカ!
ダカラ、ボクハ濡レ衣ッテ言ッタンダ!

島原城
なぁんですってぇ……?

桃形兜
ヒイィッ……!!

島原城
私はただ、
その空き瓶の出どころを説明しなさいって言っただけ。
……なのにその態度はなに?

島原城
やっぱり……兜は兜なのね……。

桃形兜
ボ、ボクタチハ、
リチャード様ヲ愚弄スル無礼者ニ、
正当ナ対応ヲシタダケダ!

突撃式トッパイ形兜
ソウダソウダ!
オ前タチノ方コソ、相応ノ態度トイウモノガアルダロウ!
頼ミヲ聞イテヤッテルンダゾ!

兜軍団
ソウダ、ソウダ!
   ソウダ、ソウダ!
      ソウダ、ソウダ!

リチャード1世
ヌゥ、見る見るウチに敵意が広ガッテしまった……。
こうなっては、止メルことは叶ワヌか。

リチャード1世
袂を分カツのは本意デハナイが、
誰の味方をスルべきかは明白。
ココで守るべきは、兜たちダロウ……。

リチャード1世
やむを得ん、
本来の役目ヲ果たせると思ッテ戦うシカあるまい。
サァ……行くぞ。

後半

桃形兜
リチャード様、ゴメンナサイ。
ボク、ボク……。

リチャード1世
謝ルことはない、今はタダ退くことノミを考エヨ!

リチャード1世
……城娘タチよ!
信ジテもらえぬコトは承知で言ウガ、
犯人は我々デハナイぞ!

リチャード1世
トニカク、今日のところはココで失礼する! サラバだ!

兜軍団
撤退! 撤退! 撤退!

島原城
…………。

島原城
(ちょっとキツく言い過ぎてしまったかしら……)

千狐
結局いつもの展開、なの……。

柳川城
巨大兜が好戦的でなかったことに助けられましたね。
真意は掴めないままですが……。

やくも
案外、『殿と真っ向勝負したい』っていう、
言い分を信じていいのかもしれんだに……。

アイリーン・ドナン城
はあぁ……はらはらドキドキだったよぉ……。

ウェストミンスター宮殿
ですが……捜査の方は捗りませんでしたね。

ウェストミンスター宮殿
現場を探し回ってみたけれど……。
見つかったのは、兜が見つけたワインの空き瓶だけ。

ラムリー城
ワインの空き瓶……うぅん、ワインの空き瓶ですか……。

アイリーン・ドナン城
どうしたの、ラムリー城ちゃん? 何か気になることでもあるの?

ラムリー城
何だか少し、引っかかるような気がして。
……気のせいだと思いますが。

ウェストミンスター宮殿
現場からこれ以上の情報が得られないとなると、
アプローチの方法を考え直す必要がありそうですね……。

千狐
千狐もウェストミンスターさんのお手伝いをするの!

ラムリー城
私はしばらく、蔵書の調査を行いたいと思います。
思わぬところから手がかりが見つかるかもしれませんし……。

柳川城
では私は、殿の看病に力を注ぐことにします。
やはり何よりも、殿のお体のことが心配ですから……。

――眠り続ける殿を尻目に、
各々違った思惑を抱える城娘たち。

果たして一行は、
事件の真相に辿りつくことができるのか……。
そして殿は、無事に目を覚ますのか――?

犯人はこの中にいる! -絶壱-

巨大兜、リチャード1世を退けた明くる日。
柳川城は自らの身体を省みることなく、殿の傍に
控え、献身的な看病を続けていた……。

前半

――リチャード1世の名を冠する巨大兜を退けた、明くる日。

殿
…………。(すぴー)

柳川城
殿……早く良くなってくださいね……。

ラムリー城
――失礼します。
あら、柳川城さん……。

島原城
ほら……やっぱりここに居るっていったでしょう。

ラムリー城
はい、流石は島原城さんです♪

ラムリー城
あの……大丈夫ですか、柳川城さん。
昨日から、ちゃんとお休みをとれていないのではありませんか……?

柳川城
いえ……必要な分は最低限、しっかりと……。

柳川城
それよりも、目を離している間に、
殿の身に何か起きたら大変ですから。
……ラムリー城さんは、何か御用でも?

島原城
御用も何も……、
アナタのことを心配してきたに決まってるじゃない。

ラムリー城
お茶を持ってまいりました……上手く淹れられたので、
柳川城さんにも味わっていただこうかと思いまして。

柳川城
ああ……それは、ありがとうございます。
お気遣いさせてしまって……。

ラムリー城
なんて……実際のところは、
休憩するための口実のようなものなのです。

ラムリー城
私も昨日から、
本を漁って休むことができていませんでしたから……。

島原城
本当にね。もう肩が凝って仕方ないわ。

柳川城
ラムリー城さん、島原城さん……。

ラムリー城
ですからしばし、三人でお茶を楽しみませんか?
きっと喜んでいただけるはずですよ……はい、どうぞ。

柳川城
ありがとうございます。
それでは、遠慮なく……。

柳川城
ん……こく、こく……。

柳川城
……! 美味しいです、すごく……。

島原城
ええ、味は勿論だけど、
この香りも悪くないわ……。

ラムリー城
ふふ、気に入っていただけて嬉しいです♪

柳川城
こうして一口飲むごとに、
力も抜けて……心の凝りが、解れていくようです。

島原城
無理もないわ。
殿が倒れているのを目にしてから、
休む間もなかったでしょう、アナタ。

柳川城
確かに、疲れはありますが……辛くはありませんよ。
今の私にとってはむしろ、
何もしないでいる方が辛いんです。

柳川城
遠からず、殿の目覚めが訪れた時……、
隣に居るのは私でありたい。
ただただ、そう願っているだけです。

ラムリー城
…………。

ラムリー城
……柳川城さんは、殿を心から慕っているのですね。

柳川城
……え?

ラムリー城
柳川城さんだけではありません。
他の城娘たちも、そう……。

ラムリー城
此度の事件が起きてから……城娘や神娘、
皆さんは自然と団結し、王様のためにと絶えず動いています。
示し合わせたわけでも、命じられたわけでもないのに。

ラムリー城
その様子を見ていると、王様という方が、
皆にとってどれだけ大きな存在なのか……伝わってくるのです。

島原城
…………。

柳川城
……ラムリー城さんは、
それほどの思いはまだ……といったところですか?

ラムリー城
ええ、そうですね……。

ラムリー城
だって、信じたって悲しいことばかり起きるんです。

ラムリー城
まるで運命が『信じることを止めなさい』って、
私に言い聞かせてくるみたいに……。

柳川城
…………。

ラムリー城
私だって……ずっと誇っていたかった。
愛していたかったです。

ラムリー城
笑顔でお別れを……したかった。

ラムリー城
なのにいつからでしょう……。
私は、恐ろしくなってしまったんです。
好きな人に『好き』って言うことが、できなくなっていました。

柳川城
ラムリー城さん……。

ラムリー城
王様を見ていると……そんな記憶が蘇ってきます。
……押し込めていたはずのものが、顔を出すんです。

ラムリー城
その上……私も、皆さんの輪の中に加わりたい、
王様を信じてみたい、なんて。
そんなことを考えてしまう……。

柳川城
…………。

島原城
その思いを……、
アナタはどうするつもりなの?

ラムリー城
分かりません……まだ悩んでいます。

ラムリー城
でも私はそんな……迷ったり、
悩んだりしている自分のことが、
嫌いじゃないのかもしれません。

ラムリー城
だって、そうじゃなかったら……、
こんな話を、お二人にしていないと思うから……。

島原城
……何よ。
そんなことを言われたら、
なんだか、こそばゆくなってくるじゃない……。

柳川城
照れ隠しですか、島原城さん?

島原城
ち、違うわよっ!
よくもそんな歯の浮くような台詞を言えるわね、
って驚いてたの!

ラムリー城
ふふ……そうですね。
雰囲気に当てられたのか、
少し恥ずかしい台詞を口にしてしまいました。

ラムリー城
あの……柳川城さん、島原城さん。
王様の話を……もっと、聞かせてもらえませんか?

柳川城
殿の話を……ですか?

ラムリー城
貴方が知っている、
王様の素敵なところを……教えてください。

柳川城
……長くなりますが、構いませんか?

島原城
ふふ……幻滅しても知らないわよ、アナタ?

ラムリー城
ええ、もちろんです。
長ければ長いほど喜びますよ♪

柳川城
ふふ、承知しました。……そうですね。
それではまず、私と殿が出会ったところから――

後半

柳川城
すー……すー……。

柳川城
――はっ。

柳川城
あれ、空がいつの間にか、夕焼けに……。

ラムリー城
おはようございます、柳川城さん。

柳川城
すみません……私、
いつの間にか眠ってしまっていたみたいで……。

島原城
本当にね。これで多少は、
疲れも取れたんじゃなくって?

柳川城
え……?

ラムリー城
実は……先程、
柳川城さんにお勧めしたお茶は、
ハーブティーの一種だったのです。

ラムリー城
リラックスを促す他、
安眠へ導く効果もあって……今の柳川城さんにはぴったりかと。

柳川城
やっぱり、気を遣ってくださっていたんですね……。

ラムリー城
お茶を勧めただけです……大したことはしていませんよ。

ラムリー城
そういえば、一つ気になったのですが、
眠っている間の柳川城さんの表情が、
淡く……微笑んでいるように見えました。

ラムリー城
何か、夢でも見ていたのですか?

柳川城
……はい、そうですね。

柳川城
……殿と共に、
戦場を駆ける夢を見ていました。

柳川城
そんな時が少しでも早く訪れるようにと、
夢の中でも願っているのだと思います……。

島原城
ふふ……やっぱりね。
そんなことだろうと思っていたわ。

ラムリー城
……よく分かりました。
柳川城さんの頭の中は、殿のことでいっぱいなのですね。

柳川城
それは……その、ええと――

柳川城
とにかく……今日の夜は、
しっかり睡眠を取ろうと思います。
誰かの前で、うたた寝をしないように……。

島原城
ふん……アナタの場合、
もっと緩んだ姿を晒すべきだと思うけれど。

ラムリー城
……あ、そうです。……でしたら、
王様のベッドで一緒に寝る、というのはいかがでしょうか。

柳川城
えっ――!?

ラムリー城
それなら、王様の看病もおろそかにせず、
柳川城さんもしっかりと休息を取ることができますよ?

柳川城
殿と同じベッドに、二人で……。

殿
…………。(すぴー)

柳川城
…………。

柳川城
――いけません!
殿に無断でそのようなこと!

ラムリー城
あら……顔が真っ赤になってますよ、柳川城さん?

島原城
いったい、何を想像したのかしらね?

柳川城
な、何も想像していませんから!
からかわないでくださいよぉ~!

犯人はこの中にいる! -離-

捜査が始まってから数日。眠り続けていた殿が
遂に目を覚ます。真相に近づくための
証言が得られるのでは、と期待する一同だが――

前半

――ラムリー城の御城。

殿が意識を失った状態で発見され、
ウェストミンスター宮殿たちが真相の究明に動き出してから、
数日が経過していた――

ラムリー城
――ふわぁ。

ラムリー城
と、朝食の準備をしなくちゃ……。

ラムリー城
事件の解決も、迫る兜への応戦も、
空腹のままでは始まりませんから……。

ラムリー城
さて……食料庫の貯蔵は、
どの程度残っていたでしょうか。ええと――

ラムリー城
――ん?

ラムリー城
おかしいですね。これはいったい……?

――――

一方その頃。殿の部屋では――

柳川城
すー……すー……。

柳川城
ん……。

柳川城
いけない……私ったら。
殿を看病している最中に、
眠ってしまったみたい……。

(なで……なで……)

柳川城
ん……? なんでしょう、
私の頭に触れている……掌のような感触は……。

(なでなで……なで……)

柳川城
なんだか……すごく心地が良いです。
自然と、身体から力が抜けていくような……。

柳川城
もしかして、これも夢の中の出来事なのでしょうか……。

柳川城
でしたら、もう一眠り……。

柳川城
…………。

柳川城
……いいえ、違います。
これはもしや……っ!?

柳川城
(がばっ!)

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
…………!

柳川城
殿……!

柳川城
お目覚めになられたのですね。
良かったぁ……。

柳川城
……そうです。
すぐにこのことを、皆に知らせないと。
少々お待ちくださいね、殿……!

――――

ウェストミンスター宮殿
……なるほど。

ウェストミンスター宮殿
つまり、殿の記憶が残っているのは、
広間でパーティーを楽しんでいたところまで。
そこから途切れて……今に至っている、と。

殿
…………。(こくり)

島原城
重要な証言が得られると思ったのだけど……残念ね。

アイリーン・ドナン城
また振り出しに戻っちゃったね……。

殿
…………。

柳川城
いいえ! 殿が謝るようなことはありません!

柳川城
目を覚ましていただけただけで、私は……!

ラムリー城
そうですね。
頭を強く打っていたようですし、
無理もありません……。

やくも
…………。

やくも
と、殿さん……。ほんとに殿さんは、
なーんにも覚えとらんだに……?

やくも
あの夜のことは、なんにも……?

殿
…………。

殿
…………?

やくも
……い、いや。疑っとるわけじゃないがや。
ほんとに忘れとるんなら、いいんだに。

やくも
そういうことなら……、
うちはこれ以上言うことはないだに!

千狐
…………。

千狐
どうしてやくもは、
そんなに晴れやかな笑顔を浮かべているの……?

やくも
いや、なんでもないがや!

やくも
胸のつかえが――やなくて、
殿さんが元気で安心しただけだに!

千狐
(怪しい……)

島原城
(怪しいわね……)

ラムリー城
(あまりに怪しすぎます……)

ウェストミンスター宮殿
…………。

ウェストミンスター宮殿
(そうですか。
 そういうことなら、一つカマを掛けて――)

ウェストミンスター宮殿
なるほど……つまり、
やくもさんにとっては嬉しい誤算だった、
ということですね。

ウェストミンスター宮殿
もしも、王様に『夜遅く、やくもさんの姿を見かけた』なんて、
証言されたら……やくもさんも困ってしまいますものね?

殿
…………!?

やくも
そーだに! あの夜うちは、
『誰にも言わんように』って殿さんと約束したがや!

やくも
だから、本当のことを皆に知られるわけには、絶対に――

やくも
――はっ!

千狐
やくも……?

ウェストミンスター宮殿
口を滑らせましたね……やくもさん。

ラムリー城
王様と出くわした?
……御城の中で、深夜に?

アイリーン・ドナン城
いったいどういうことなの、やくもちゃん……?

やくも
…………。

やくも
あ、あれー……? 言ってなかっただに?
実はうち……あの夜、殿さんと出くわしてて――

ウェストミンスター宮殿
……言い忘れていた、ということはありませんよね。

ウェストミンスター宮殿
先日、千狐さんも言っていました。
先にベッドに入り、寝息を立てているやくもさんを確認した、と。

ウェストミンスター宮殿
そしてその際、やくもさんはこう答えていました――

――――

やくも
……あっ、あー。そうだったがや!
うちはベッドですやすや寝とったんだに!
きっと夢でも見て……それと勘違いしとったがや!

ウェストミンスター宮殿
――と。覚えてらっしゃいますね?

やくも
…………。

やくも
ど、どーしてうちは問い詰められてるんだに……?

やくも
も、もしかしてやけど、その……。
ウェストミンスターは……うちのことを疑っとるんだに?

ウェストミンスター宮殿
できることなら、疑いたくなどありません。

ウェストミンスター宮殿
けれど……手にした事実が、
真実への道を照らすなら……。
そこから、目を背けるわけにはいきません。

ウェストミンスター宮殿
事件があった夜、一人で御城の中を歩いていた。
それだけでも充分怪しむ根拠になるんですよ、やくもさん。

ウェストミンスター宮殿
そして何より、貴方はその情報を今まで、
私たちに明かしていなかった。後ろめたい理由があったのでは、
という思考に至るのも、必定……。

やくも
う、うぐ……。

ウェストミンスター宮殿
やくもさん、貴方は人を騙すことに向いていません。
……ですから、正直に教えてもらえませんか。

ウェストミンスター宮殿
あの夜、たった一人で御城の中を徘徊していた理由を。
そして、その事実は隠していた理由を……。

やくも
…………。

千狐
う、嘘よね……やくも。
きっと、またつまらない悪戯か何かで……。

やくも
…………っ。

やくも
う、うぅ……!

やくも
(――だっ!)

アイリーン・ドナン城
あぁっ!? やくもちゃんが逃げ出したよっ!

島原城
追いましょう……。
手荒な真似はしたくなかったけど、やむを得ないわ。

殿
…………。

柳川城
殿はこちらで休んでいてください……。

柳川城
心配には及びません。できる限り、
穏便に収められるようにしますので……!

後半

ウェストミンスター宮殿
見つけました、そこです!

アイリーン・ドナン城
かくほ! かくほー!

やくも
ううぅ……捕まってしまったがやぁ……。

千狐
やくも……どうして……?

ウェストミンスター宮殿
……逃走はここまでですよ、やくもさん。

ラムリー城
お願いです……正直に話してください……。

逃走も虚しく、捕らえられてしまったやくも……。
ついに、裁きの鉄槌が下される――!?

犯人はこの中にいる! -結-

逃走も虚しく、捕らえられてしまったやくも。
城娘たちが一堂に集い、彼女を問い詰める。
事件の真相は暴かれるのか、それとも――

前半

――やくもが捕らえられてから、数刻後。

殿が休んでいる部屋から少々離れた場所にて、
全ての城娘たちが一堂に集っていた……。

やくもの口から真相が語られることで、
事件が解決するのでは……あるいは、やくも自身がこの事件の――

――そんな、想像を膨らませながら……。

やくも
…………。

やくも
な、なんだかこの空気……。
うちが犯人みたいな感じになってる気がするんやけど!?

カーナーヴォン城
犯人と断定するつもりはないが……、
重要な情報を握っていることは間違いないのだろう?

ハーレック城
そうだ……真相を明かしてくれないと、
状況は膠着したままだぞ。

コンウィ城
犯人じゃないというのなら、
やくもさんの口からちゃんと説明してほしいです……。

千狐
そうよ……どうして何も教えてくれないの、やくも? 

やくも
そ、それは……やむを得ない理由があるんだに!

ウィンザー城
それでは納得できない……。
その『やむを得ない理由』こそが、
我々の求める手がかりなのだ。

ウォリック城
口を割らないというのなら……、
我々もそれなりの手を、考えなければならないが――

やくも
ぎゃーーー!
いやだに! 痛いのはいやだにーーー!

柳川城
待ってください!
ウィンザー城さん、ウォリック城さん!
手荒な真似だけはどうか……!

ウィンザー城
む、もちろん……。
穏便に済むのなら、それが何よりだが……。

柳川城
口を閉ざし続けても、状況は悪化するばかりです。
……お願いですからやくもさん、
正直に真実を話してはいただけませんか?

やくも
う~……それは、それは……!

アイリーン・ドナン城
……あっ、そうだ。
ふと思い出したんだけど……。

アイリーン・ドナン城
パーティーの夜……王様とやくもちゃんの間で、
こんなやり取りがあったんだよね。

――――

殿
(もぐもぐ……もぐもぐ……)

やくも
あぁ~、殿さん!?
今、口に運んだそれは……!

殿
…………?

やくも
さっきからうちが食べようと思って、
残しておいたお菓子だに!

やくも
美味しそうだから、
最後の最後に楽しもうと思ってたんに……!

殿
…………。

ラムリー城
大丈夫ですよ、やくもさん。
明日の晩にでもまた用意しますから……。

やくも
うぅぅ……!
うちはあのお菓子を、今食べたかったんだに……。

やくも
たとえ同じお菓子を作ってもらっても、
今日のと明日のは違うお菓子。
うちが食べそこねたのは戻ってこないだに……!

千狐
仕方ないじゃない……お菓子に、
やくもの名前が書いてあったわけでもないんだから……。

千狐
ほら、宴ももうお開きよ。
今日のところは休みましょう。ね……?

やくも
許せん。許せんだにぃ~……!

アイリーン・ドナン城
――って、やくもちゃんが恨めしそうに、
ギリギリ歯ぎしりしてたんだけど……。

島原城
つまり……目当てのお菓子を、
取られた腹いせに殿を……ということ?

柳川城
ですが……お菓子一つを巡っての話ですよね?
いくらなんでも、その程度で――

千狐
その程度でやくもが、あんな暴挙に――

千狐
…………。

千狐
――出ないとも、限らないような……。

千狐
むしろ、それが原因なら腑に落ちるような……。

やくも
くぉらー!
ちょっとは弁護してほしいだにー!

やくも
いくらうちでも、それくらいの分別はつくがやー!

ウェストミンスター宮殿
……ですが、
ここまで語ることを拒まれては、
疑惑は深まるばかりです。

ウェストミンスター宮殿
こうなってしまっては、仕方ありません。
……かくなる上は――

???
――お待ちください!

ウェストミンスター宮殿
――っ!? 

ラムリー城
……私が弁護しましょう。
やくもさんは、王様の一件とは無関係です。

やくも
ら、ラムリー城……!

ウェストミンスター宮殿
ラムリー城……まさか貴方、
事件の真相に辿り着いたというのですか……?

ラムリー城
いいえ……私が手にした情報は、あの夜、
やくもさんが何をしていたか……それだけです。

やくも
…………!

ラムリー城
ですが、それを明らかにすることで……、
やくもさんが王様のお怪我とは関係が無い、
ということの証明になるかと。

ラムリー城
私からお伝えする手がかりは、三つ。
手前勝手ではありますが……皆さん、ご静聴を願います。

ウェストミンスター宮殿
…………。

ウェストミンスター宮殿
分かりました……聞きましょう。
ラムリー城、貴方の推理を語ってちょうだい。

ラムリー城
……感謝いたします。

ラムリー城
それでは……まず、
一つ目の手がかりについて語りましょう。

ラムリー城
先日……件の捜査の最中のことです。
我が城の空き部屋にて、不審な痕跡を見つけました。

島原城
不審な痕跡……?

ラムリー城
部屋の片隅に……パンや、
その他様々な食品の屑が転がっていたのです。

ラムリー城
その部屋は、書庫を兼ねています。
棚いっぱいに本が敷き詰められ、入り切らなかった本は、
無造作に積み上げられている。……そんな空間です。

ラムリー城
本来であれば、
招待客の皆さんが足を踏み入れないはずの場所。
埃が積もることはあれど、誰かが食事を摂るとは考えにくい。

ラムリー城
そんな所に、なぜパンの屑が落ちていたか……。
分かりますか、やくもさん?

やくも
……そ、そんなの、分かるわけないだに。
うちは何にも知らんがや。

ラムリー城
……では、次の手がかりに話を移しましょう。

ラムリー城
今朝の出来事……。
皆さんの朝食を用意するべく、
食料庫を覗いた時のことです。

ラムリー城
私は驚きました……その中身が、
不自然な減り方を見せていたのです。
誰かが持ち去ったとしか考えられないような有様でした。

やくも
…………。

ウィンザー城
つまり……誰にも気付かれないように、
食料庫の中身を持ち去り……、
空き部屋にてそれを平らげた者が居ると?

カーナーヴォン城
殿下の件とは別に……、
食料泥棒の出現があったわけですか。

千狐
…………。

千狐
柳川城さん……千狐はどうも、
この一件の真相を理解してしまったようなのですが……。

柳川城
ええ……私もですよ、千狐さん……。

ラムリー城
ここまでの手がかりについて……。
何か言うことはありませんか、やくもさん?

やくも
な……なにもないだに……!
さっきから言っとるように、うちはなーんも知らんがや!

ラムリー城
……では、話を続けましょう。
といっても、間もなく話は終わるわけですが……。

ラムリー城
最後の手がかりをお見せしましょう。
……こちらの本をご覧ください。

ラムリー城
先ほどの話で挙がった、パン屑が見つかった部屋。
……そこに、無造作に積まれていたものです。

やくも
…………っ!

アイリーン・ドナン城
本……これがどうかしたの……?

ラムリー城
問題は……こちらのページです。
大きな足跡が残っているのが見えますね?

ラムリー城
ここからは推測になりますが……食料庫から食べ物を持ち去り、
部屋の中に駆け込んだ犯人は、慌てるあまり、
積み上げられていた本の山を、崩してしまったのです。

ラムリー城
そして……、
床の上に落ち、天に向けて開かれたページの上に、
犯人は図らずも――

ウェストミンスター宮殿
……足跡を、残してしまった。

ラムリー城
犯人も『これはまずい』と思ったのでしょう、
本を元通りに積み上げて……その部屋を後にした。
ですから本来、この足跡は誰の目にも止まるはずはなかったのです。

コンウィ城
ですがその後……王様がお庭で発見されて――

ウォリック城
手がかりを集めるため、
私たちの手で蔵書の収集が始められた……!

ラムリー城
その通り。
そしてこの足跡が何を示しているかは――
皆さん、もうお分かりですね?

ウェストミンスター宮殿
…………。

島原城
…………。

やくも
…………。

やくも
ま、待つだに……!
うちの言うことを聞いて――

ラムリー城
……いいえ。これ以上の証言は不要です。

ラムリー城
このページに残った足跡と、やくもさんの足……。
これらを照らせば、真実はすぐに明らかになるのですから。

やくも
…………っ!

ラムリー城
…………。

ラムリー城
……ですが、やくもさんが、
自らの行いを正直に語るなら……話は別です。

やくも
…………?

ラムリー城
空腹を我慢できず、
こっそりつまみ食いをしてしまったのは……もちろん、
咎められるべきことではあるかもしれません。

ラムリー城
けれど……罪というには、あまりに軽い。
可愛い悪戯のようなものです。

ラムリー城
そんなことより私は、貴方が嘘をついたまま、
この一件が解決してしまう方が……よほど、悲しいのです。

ラムリー城
ですから……やくもさん。ちゃんと謝りましょう?

ラムリー城
しっかり頭を下げれば、
誰も貴方を責めたりはしないはずですよ。
ですから……ね?

やくも
う……ううぅ……。

やくも
うちが悪かっただにぃ……。
つまみ食いしたり、それを隠そうとしたせいで、
いっぱい迷惑掛けてしまったがや……。

やくも
ごめんなさいだにぃ……。

千狐
許さないの!

やくも
だにっ!?

千狐
やくもが犯人だったらどうしよう……って、
千狐はずーっとドキドキしっぱなしだったの!

千狐
この償いは、ちゃんとしてもらうわよ!

やくも
そんな……話が違うだに、ラムリー城~……!

ラムリー城
ふふ……良かった。
これで一件落着です――ん?

殿
…………!

殿
…………!!

柳川城
あれ……あちらに見えるのは、殿ではありませんか?
お部屋で休んでいたはずでは……?

島原城
どうしたのかしら……何やら、
慌てた様子であちらを指差しているけど……?

アイリーン・ドナン城
――あぁっ、見て!
王様が指差してる先に、兜がっ!

リチャード1世
――ナッ!?


リチャード様……城娘ニ気ヅカレタミタイデス!

リチャード1世
むぅ……ナントイウことだ。
周囲に警戒ヲ払イながら、
ここまで接近を果タシタというのに……!

リチャード1世
仕方アルマイ。
ならば、我々は兜ノ本分に則り……、
奴らヲ攻め落トスとしようデハナイカ!


イ、良イノデスカ?
殿ノ容体ヲ確認スルノガ目的ダッタハズデハ!?

リチャード1世
ここまで来て、今サラ背中ヲ見せられるか!

リチャード1世
日の本の王も元気ヲ取り戻シテいるラシイ……。
トナレバ、手加減をスル理由はない! サァ、開戦だ!

柳川城
兜の軍勢がこちらに向かってきています……!

殿
…………!

柳川城
殿……よろしいのですか?
お体もまだ、回復したとは言えない状況で……。

殿
…………!

柳川城
承知しました……それでは、
我々は殿のご下知に従います。

柳川城
……それでは、出陣いたしましょう!

殿
…………!

後半

リチャード1世
グウゥ……コノママでは旗色が悪い。
……撤退だ! 撤退するぞ!


ハ、ハイッ! 御意ノママニッ!

兜軍団
撤退! 撤退! 撤退!

リチャード1世
(負けはシタが……ふふ、
 なぜダロウな。悪クない心地ダ)

リチャード1世
(先ノ戦イ……。
 怪我にヨル衰えヲ懸念シタが、杞憂だったラシイ)

リチャード1世
(ナラバ、
 再ビ我らの物語ガ交錯する時は、
 遠カラズやってくるダロウ)

リチャード1世
(日の本の王ヨ……。
 ソレマデお前が健勝であるコトを、私は願ッテいるぞ!)

リチャード1世
ふふ、フフフフ……ふふふふふ……!

千狐
…………。

千狐
兜の撤退を確認しました……。

柳川城
お体は大丈夫ですか……殿?
まだ完全に治ったわけではないのですから、
ご無理はなさらないでくださいね……?

殿
…………。

ウィンザー城
しかし、素晴らしい手腕だったな!
状況の把握、我々への指示……とても、
ベッドから飛び出してきたばかりとは思えないぞ!

ハーレック城
うむ! 流石は私の王だな!

やくも
ということで……ここで一つ、
うちから提案があるだに~!

やくも
兜も無事に追っ払ったことやし……。
殿さんの快気を祝って、ぱーてぃーを催すがや!

ウォリック城
うむ、名案だ! すぐに準備を始めようではないか!!

千狐
それじゃ、今日の騒動の原因になったやくもには、
ぱーてぃー開催のためにきりきり働いてもらうの!

やくも
どーしてだにぃぃ~!

ウェストミンスター宮殿
……はぁ。

ウェストミンスター宮殿
結局……。
王様の怪我の真相は掴めませんでしたね。

ラムリー城
……残念ですか?

ウェストミンスター宮殿
もちろん、心残りはあります。
けれど……これ以上の究明に、意味があるとは思えません。

ウェストミンスター宮殿
王様は目覚めた……皆が笑顔になった。
そして、誰も仲間のことなど疑ってはいない……これが全て。

ウェストミンスター宮殿
『真相が明らかになったところで、
 皆が幸せになれなければ本末転倒』……ということですね。

ラムリー城
……確かに、その通りですね。ただ――

ラムリー城
推理役を買って出たウェストミンスターさんから、
その言葉を聞くことになってしまったのは、少し残念ですが。

ウェストミンスター宮殿
う……自覚はしていますよ……。

ウェストミンスター宮殿
今回の事件、あまり活躍はできませんでしたし、
良いところはラムリー城さんに、
持っていかれてしまいましたから……。

ラムリー城
ふふ、ごめんなさい。冗談ですよ。

ラムリー城
私の推理も、大した手柄だとは思っていません。
やくもさんの件は、偶然手がかりが、
私のところに転がり込んできただけですから。

ラムリー城
それに、王様の事件も案外、
偶然や不運が重なっただけ……なんてオチかもしれません。

ラムリー城
知恵と洞察のみで真実に辿り着ける……という考えの方が、
誤りなのかもしれない。私はそうも思うのです。

ウェストミンスター宮殿
……そうですね。そうかもしれません。

ウェストミンスター宮殿
今回の事件のことは、
一つの思い出として心に留めておくことにしましょう。

ウェストミンスター宮殿
そして、次の機会では、
もう少し活躍できるよう……力を尽くしたいと思います。

ラムリー城
……では、私はその事件に居合わせないよう、
祈ることにしましょうか。……ふふ♪

ラムリー城
…………。

ラムリー城
(……見ていますか?)

ラムリー城
(貴方に紹介したい友人が……沢山できましたよ。
 良ければ今度、覗きにきてくださいね)

ウェストミンスター宮殿
……ラムリー城さん? 何か言いましたか?

ラムリー城
……いいえ、何でも。ただの独り言です。

ラムリー城
さぁ……御城に向かいましょうか。
今宵のパーティーに乗り遅れないようにしなければ♪

犯人はこの中にいる! -絶弐-

時は遡り……事件が発覚した朝の、前の夜。
ラムリー城に到着した殿一行は、彼女の歓待を
受け、賑やかなパーティーを楽しんでいた。

前半

事件発覚の前夜。
殿一行がラムリー城に到着したばかりの頃――

ラムリー城
皆さん、本日は遠路はるばる、
よくぞここまでいらっしゃいました。

ラムリー城
自慢の紅茶に加えて、料理にお菓子、お酒も少々……。
我が故郷の品々をご用意しましたので、
存分に楽しんでいってください!

やくも
だにぃ~~!

千狐
なの~♪

――――

ウォリック城
ほぅ……面白いことを言う。
私への挑発が何を意味しているか、分かっているのだろうな?

ウィンザー城
挑発……意味? 分からんな。
私は公然の事実を改めて言葉にしただけだが?

ウォリック城
いちいち癪に触る物言いをするな、貴様は。
……まぁ、良いだろう。これも良い機会だ。

ウォリック城
考えてみれば、このパーティーも……、
お前との雌雄を決するために用意された、
舞台だったのかもしれないな――

ラムリー城
断じて違いますっ!
喧嘩はここまで! ストップ、ストップですよ!

ウィンザー城
む……。

ラムリー城
勝負をするのは良いですが、
もう少し穏やかな方法で決着を着けてもらえますか?
他の招待客も居ますから……いいですね?

ウォリック城
そうだな……勝負の方法については検討しよう。
では、ワインの飲み比べでも――

ラムリー城
…………はぁ。

ラムリー城
驚きました……。
あんなに大きな声を出したのなんて、
いつ以来でしょうか。

ハーレック城
――忙しそうだな、ラムリー城。
手が足りないなら協力しようか?

ラムリー城
お心遣い感謝します、ハーレック城さん。
ですが心配には及びません。
皆さんは招待客なのですから、どうぞごゆっくり……。

ラムリー城
それにしても……、
こちらのテーブルは、随分穏やかですね。

カーナーヴォン城
ふふ、我々も喧嘩を全くしないというわけではありませんが、
あの二人に比べれば、可愛いものです。

コンウィ城
ウィンザー城さんとウォリック城さんも、
仲違いをしているわけではないのですよ。

コンウィ城
むしろ……相手の力を認め合い、
遅れをとるまいとするからこそ……、
ああしてぶつかり合ってしまうのでしょうね。

ラムリー城
余興の範囲で収まるなら、私も口出しはしませんが……。

カーナーヴォン城
……しかし、
ここまで賑やかなパーティーになるとは、
思いませんでしたね。

ハーレック城
ああ、大所帯で押しかけては迷惑かと思ったが……。
こういうことなら、アイアンリングの皆にも、
声を掛けてやれば良かった。

コンウィ城
出発の間際、フリント城が切なげな表情で、
こちらを見つめていたので、声を掛けようか迷ったのですが……、
惜しいことをしましたね。

ハーレック城
まぁ……呼んだら呼んだで、
またひと騒ぎ起こしそうな気がするがな……。

カーナーヴォン城
とはいえ、除け者のままは可哀そうです。
……次の機会があったら、あの子にも声を掛けてみましょう。

ラムリー城
ええ……。
次のパーティーにもご招待しますから、
その折には、ぜひ。

アイリーン・ドナン城
――ラムリー城ちゃん、ラムリー城ちゃん。

ラムリー城
……ん? どうしたのですか、アイリーン・ドナン城さん?

アイリーン・ドナン城
……見て見て! 今日はね、
わたしからラムリー城ちゃんにプレゼントを持ってきたの!

ラムリー城
プレゼント……ですか?

アイリーン・ドナン城
そうっ!
手作りの本を用意したんだよ!
はい、どーぞ♪

ラムリー城
これは……わぁ、凄いですね。

アイリーン・ドナン城
私が集めた未確認生物の知識が、ぎっしり詰まってるの♪
ラムリー城ちゃんが読書家だって聞いてね、
本を渡せば喜んでくれるかなーって♪

ラムリー城
どうもありがとうございます。
大変な手間だったでしょうに……。

アイリーン・ドナン城
んーん、このパーティーで、
ラムリー城ちゃんから貰ったものに比べたら、全然だよ!

アイリーン・ドナン城
まだまだお返しするつもりだから、
これからもよろしくねー♪

ラムリー城
はい……よろしくお願いします……。

ラムリー城
(か、可愛い……)

ラムリー城
(頭を撫でたりしたら、怒られるかしら……)

ウェストミンスター宮殿
ラムリー城さん、大丈夫ですか?
何やらボーっとしていたようですが……?

ラムリー城
あ、ああいえっ! なんでもありませんよ?
何か御用ですか、ウェストミンスターさん?

ウェストミンスター宮殿
はい……お二人の話を聞いていて、
ふと疑問が浮かびまして。

ウェストミンスター宮殿
本といえば、ラムリー城さん……。
この御城には多くの本が収められていると聞きます。

ウェストミンスター宮殿
そのラインナップには、
推理小説も含まれるのかしら……?

ラムリー城
……ふふ、焦らなくても大丈夫ですよ。

ラムリー城
実は、ウェストミンスターさんをお迎えするにあたって、
オススメの推理小説を選び出しておいたのです。

ラムリー城
きっとウェストミンスターさんにも、
ご満足いただけると思います♪

ウェストミンスター宮殿
……なんと! そうだったのですね……!

ウェストミンスター宮殿
それを知ってしまったからには、
このウェストミンスター宮殿……。
一冊たりとも読み逃すわけにはまいりません!

ウェストミンスター宮殿
さぁ、推理小説はどちらにありますか?
あちらの部屋かしら……いえ、そちらの部屋かしらっ!

ラムリー城
ま、待ってください、ウェストミンスターさん……!
今、私がご案内しますから……ウェストミンスターさ~ん!

後半

その後、招待客たちの熱も高まる中、
パーティーのお開きがラムリー城の口から宣言された……。

そして――

ラムリー城
はぁ~……疲れました。
ウェストミンスターさんとの、
推理小説談義が盛り上がって、こんな時間に……。

ラムリー城
後は片付けを残すのみですか。
もう少しだけ、頑張らなければ……。

ラムリー城
まさかパーティーの主催が、
これほどまでに過酷なお仕事だったとは、
思いもしませんでした……。

ラムリー城
ふわぁ……久々に夜更しをしてしまいましたね。

ラムリー城
それにしても、アイリーン・ドナン城さんから頂いた、
この本……何という重さでしょうか……。

ラムリー城
運ぶだけでも一苦労……。
眠気も相まって足元が、ふらふらします……。

ラムリー城
わ、とと……きゃぁっ!

カーーーン!

ラムリー城
いったぁぁ~~……!
なんですかぁ……足の小指に、固いものが……!

コロコロコロ……コロコロ……。

ラムリー城
空き瓶の転がる音……?
ウィンザー城さんたちが飲み比べで使ったものでしょうか。
どうしてこんな、広間の端っこに……?

ラムリー城
遠くに行ってしまう前に片付けなきゃ……。

コローン、コロコロ……コロコロコロ~……。

ラムリー城
ああ、ちょっと……!

コロコロコロ……コロコロ……。

ラムリー城
…………。

ラムリー城
お外の方まで転がっていってしまったようです……。

ラムリー城
参りましたね――ふぁ、ふあぁ……。

ラムリー城
……はぁ。眠い……。
このままだと立ったまま眠ってしまいそうです。

ラムリー城
今の出来事も、
明日になったら覚えているかどうか……。

ラムリー城
…………。

ラムリー城
今日のところは、ベッドに入りましょう。
空き瓶探しと片付けは、明日の朝に持ち越しですね……。

殿
…………。

殿
…………!

――――

そして……更に夜は深まり、皆が寝静まった頃――

やくも
そーっと、そーっと……物音を立てんように。
誰かに気づかれたら、水の泡がや……。

やくも
食べそこねてしまったあの美味しそうなお菓子が、
どうしても頭から離れんだに……。

やくも
やから、ちょこっと……ちょこっとだけ、
つまみ食いを許してほしいがや……。

やくも
でも大丈夫……食料庫を覗いて、
ほんの少し拝借するだけ……。
姿を見られなければ、安心安心――

殿
…………?

やくも
――うぉっ!? と、殿さんっ!
どうしてこんな時間に?

殿
…………。

殿
…………!

やくも
探しもの? ラムリー城の代わりに?
はぇー……親切は結構やけど、
外は真っ暗だに……大丈夫がや?

殿
…………!

殿
…………?

やくも
え……うち? ええと、実は……。

やくも
その、ちょっとつまみ食いでもしようかと思って……。

殿
…………。

やくも
い、今ここでうちを見たことは、
黙っておいてほしいんやけど、
お願いできないがや……?

殿
…………。

殿
…………!

やくも
お、恩に着るだに、殿さん!
この借りはいつか、必ず返すがや……!

殿
…………!

やくも
それじゃ、おやすみなさいだに!
足元にはよーく気をつけて歩くがや~!

殿
…………!

たとえ、どれほど確率の低い出来事だとしても……。
一度起こってしまったのなら、全ては必然。

あるいは……この夜、空に雲が掛かることなく、
月光が殿の足元を照らしていれば――

……もしもあの時、
ウィンザー城とウォリック城が飲み比べをしていなければ――

気を利かせたアイアンリングの面々が、
空き瓶を広間の端に寄せていなければ――

アイリーン・ドナン城からラムリー城へ贈られた本が、
もう少しだけ軽ければ――

ウェストミンスター宮殿があと僅か、
推理小説談義を早く切り上げていれば――

はたまた、ラムリー城が眠気に抗うことなく、
すぐさま片付けを諦めていれば――

殿
…………。

殿
…………♪

殿
…………!

どんがらがっしゃーん!
――たら~……。

鼻歌交じりに庭園を歩む殿を襲った……不運。

こうして殿は……空き瓶を踏んづけて、
したたかに後頭部を打ち付け、
数日間の昏睡に陥ることになる。

――これが此度の、迷宮入りした事件の顛末。

真実とは存外……蓋を開ければ、
拍子抜けしてしまうような、
あっけないものなのかもしれない――



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