ストーリーテキスト/犬神の憑霊

ページ名:ストーリーテキスト/犬神の憑霊

目次

犬神の憑霊[]

犬神の憑霊 -前-

犬が如き姿を持つ新たな妖怪の出現を確認せり――。
報じられた手掛かりをもとに、殿たちは所領を出立
するが、一行はそこで妙な人影を目の当たりにする。

前半
殿

…………。

千狐
殿、どうやらこの森を抜けた先が、
報告にあった地点のようですね。

やくも
……なんだか、不気味なところやけん、
はやー片付けて所領に帰りたいだに。

柳川城
聞けば、新手の妖怪の出現を確認したとのことでしたが……。

久保田城
はい。その通りです、柳川城さん。

久保田城
届いた文によれば、その妖怪は犬に似た姿を持つという話ですが――、

久保田城
――っ!?

千狐
どうしたのですか、久保田城さん?

久保田城
……向こうの木陰に何者かの影が見えたような。

やくも
さ、さっそく妖怪が出たがや!?

殿
…………。

???
――ほう。
私以外にも此地に城娘が辿り着いていたとは驚きだな。

久保田城
あ、貴方は……!?

柳川城
いま、私以外にも――と仰っていましたが、もしかして……。

???
ああ。そのまさかだよ。

岡崎城
我が名は岡崎城。
徳川家康との縁深き城娘がひとりなり。

やくも
徳川家康……!?

久保田城
岡崎城……その名も、備える歴も……耳にしたことがあります。

久保田城
たしか……家康は、岡崎城内で誕生し、人質時代の幼少期を経て、
彼女を拠点としつつ、天下統一という偉業への基礎を固めた……とか。

千狐
となると、相当な格を備える城娘のようですね。

岡崎城
これ。私を値踏みするのは構わぬが、
一方的というのは心地が悪い。

岡崎城
初対の儀を重んずる心があるのならば、
そろそろ、汝らも名乗ってみたらどうだ?

柳川城
も、申し訳ありません……!
どうやら礼を失していたようですね。

そう言うや否や、柳川城は順々に自軍の者たちを紹介し始める。

――そして、

柳川城
最後がこの私、筑後の城娘・柳川城にございます。

岡崎城
柳川城……だと?

柳川城
……え?
そ、そう……ですが、なにか?

岡崎城
…………。

柳川城
…………。

岡崎城
(なるほど……江戸城のやつめが言っていたのは、こういうことだったか)

岡崎城
ふっ、いや。何でもない。
汝の反応で大体のことは察した。

柳川城
……?

岡崎城
それよりも話を戻そう。
汝らは先の言からするに妖怪退治に出向いてきたのだろう?

千狐
え、ええ……そうですが……。

岡崎城
ならば私も協力させてもらうとしよう。
戦力は多いに越したことはないだろう?

殿
…………。

久保田城
ええ。こちらも異論はありません、城主様。

久保田城
(それに岡崎城さんのあの悠然たる様相……恐らくは相当な実力者かと存じます)

殿
…………。

殿
…………!

岡崎城
うむ。
では参るとしようか。

――四半刻後。


…………。

兜軍団
……………………。

久保田城
城主様……やはり思っていた通り、
此地は既に兜らに占領されているようですね。

柳川城
それに、ご覧ください、殿……。
兜の群の中心に見慣れぬ異形の姿があります。

???
………………。

やくも
だにぃ――!?
報告通り、本当に犬とそっくりの姿をしてるがや!

岡崎城
ふぅ……思った通り、新手の妖怪は『犬神』だったか。

柳川城
犬神?
岡崎城さん、あの妖怪のことを御存知なのですか?

岡崎城
あくまで伝承の域に留まる程度だがな。

岡崎城
そも犬神とは、
中国、四国、九州の農村地帯などにおいて
憑き物の類として知られている存在だ。

岡崎城
その正体は、鼠のような小動物であったり、
白黒斑のイタチのような生物――などと目されたり、

岡崎城
飢えた犬の首をはねて、その怨霊、
あるいは首そのものを祀ったものとも言われる。

岡崎城
しかし、あの姿形を見るに、どうやら人々の信仰や口伝よりも、
名にし負う犬の字義を媒として強靱な肉体を得た異形のようだな。

久保田城
となると、あまり伝承を鵜呑みにしても……、
此度の戦においては有利に働く事柄は少なそうですね。

犬神
――ガフフフ。
ソノ通リジャ、城娘タチヨ。

久保田城
――ッ!?

柳川城
そんな……っ。
我々の存在にこうも早く気づくなんて!?


犬神サマハ呪術ノ使手ナリ!

兜軍団
故ニ――ッ!!

兜軍団
気配察知ナド朝飯前ナノダッ!

岡崎城
……やれやれ。
なかなかに小賢しい奴原のようだな。

岡崎城
ならば――。

犬神
――ッ!?

岡崎城
この私がわざわざ足労を費やしたのだ。
少しくらいは楽しませてくれよ、妖怪。

犬神
ガフフフ……ソノ様相……。
ナルホド、法術使イノ城娘トイウワケカ……。

犬神
イイダロウ。相手ニトッテ不足ナシ……!
兜タチヨ、手筈通リノ陣ヲ展開スルノダ!!

兜軍団
承知――ッ!!

柳川城
久保田城さん! すぐに戦いの準備をお願いいたします!

久保田城
ええ……心得ております。

久保田城
妖怪相手とあらば、私の歌舞が役立つはず……。

久保田城
然らば流麗に――皆のため舞い歌うのみです!!

後半
柳川城

そこです――ッ!!

犬神
――ガフッ!?

千狐
やった! 直撃ですわ!!

犬神
……ガ…………。

犬神
ガフフフ……危ナイ危ナイ……ッ!
モウ少シデ討タレルトコロダッタゾイ。

柳川城
そんな……倒し切れていないなんてッ!?

犬神
サァ城娘ヨ……今度ハ此方ノ番ダ……。

犬神
今コソ我ガ呪術ノ恐ロシサヲ思イ知ルゾイ!

犬神
破ァ――ッ!!

柳川城
きゃあっ!?

久保田城
柳川城さん!?

殿
…………!

岡崎城
未熟者め……あの距離で犬神の呪術をくらうとは。

岡崎城
おい、柳川城! しっかりせぬか!
汝は斯様な攻撃程度で朽ちる城娘ではなかろう!

柳川城
う、ぅぅぅ…………。

久保田城
よかった……どうやら、負傷は殆どないようですね。

久保田城
いまは他の城娘の皆さんに前線を任せ、
後陣で柳川城さんを手当てしましょう!

やくも
けんど、大した怪我をせんでよかっただに……。

やくも
あげに威張ってたけど、犬神の呪術なんて大したことなかったんやね?

千狐
いや、待って……。

千狐
何か様子が変だわ!

やくも
はぇ……?

柳川城
く、ぅ……ぅぅ……。

殿
…………?

柳川城
ワンワンッ、ワオ~~~~~~~~~~~ンッ!

殿
――ッ!?

久保田城
そ、そんな!?

千狐
柳川城さんが、殿を押し倒して……。

やくも
……そのまま馬乗りになって顔中嘗め回してるだに!!

柳川城
クゥ~ン……クゥ~ン(ペロペロ)

犬神の憑霊 -後-

ワンワンッ、ワオ~~~~~~~~~~~ンッ!
突如として犬の遠吠えが如き叫声をあげた柳川城。
そんな彼女を前に岡崎城は己が見解を語り始める。

前半
柳川城

クゥ~ン……クゥ~ン(ペロペロ)

殿
…………。

やくも
うわ~~~~んっ! 柳川城がおかしくなっちゃっただにぃ~!!

千狐
や、やくも! 落ち着きなさい!
柳川城さんにも何か深い考えがあってのことかもしれないわ!

久保田城
城主様のあちこちを嘗め回すのが策だと!?

千狐
いや、そう問われると、確証はないと言いますか……。

千狐
……う~ん。

岡崎城
馬鹿者めが。

岡崎城
あれこそが犬神の呪術なのだよ。

久保田城
……え?

岡崎城
伝承によれば、犬神に憑かれた者は
様々な異常状態に陥るとされている。

岡崎城
ある者は、胃袋が裂けるほどの大食となり、
ある者は、不治の病におかされるとされる。

岡崎城
そしてまたある者は、発作めいたものを起こし、
唐突に犬の真似をする――とも言われているのだ。

やくも
ということは!

千狐
ええ、柳川城さんはきっと、呪術のせいで、
こんな妙な行動を取っているに違いありませんわ!

岡崎城
……いや、だからそれは先刻私が言ったであろうに。

久保田城
何はともあれ、呪術の影響による奇行であれば、
我が歌舞によって浄化するまでのことです……!

久保田城
いきますよ、柳川城さん!

柳川城
――ッ!?

柳川城
クゥ~ン……クゥ~ン(がくがくぶるぶる)

久保田城
……え?

やくも
なんか知らんけど、明らかに痛がってるだに!

千狐
そんな……久保田城さんの癒やしの歌舞が、
柳川城さん自身を傷つける刃になるなんて……。

岡崎城
この痛がりようは……そうか。
そういうことなのだな、柳川城。

久保田城
もったいぶらずに早く教えてください、岡崎城さん!

岡崎城
わ、わかったからそう急くな、久保田城よ!

岡崎城
コホン……つまりはだな。

岡崎城
犬神の呪術は、犬の真似事をさせるだけのものにあらず。

岡崎城
その肝要とは、いままさに柳川城の身に起きているような、
妖怪化にあるのだ。

千狐
妖怪化!?

やくも
ってことはもしかして、柳川城は畜生妖怪になったってことがや!?

岡崎城
言い方はアレだが……まぁ、大まかに言って然りだ。

岡崎城
だが純然たる妖怪――というわけではない。
恐らくは心身に対する表面的な偽装といった方が正確だろう。

岡崎城
いずれにせよ、その状態の柳川城に歌舞は逆効果だ。

久保田城
じゃあ、どうすればいいのですか!?

岡崎城
……慌てずとも策はある。

岡崎城
荒療治にはなるが、我が法術をもってすれば、この程度――、

岡崎城
――はぁッ!!

柳川城
くふぅ~んッ!?

柳川城
……って、あ、あれ?

柳川城
私、いったい今まで何を……。

殿
…………。

殿
…………。

柳川城
と、殿!?

柳川城
そそっ、そんなどうして!? どうして私、殿を押し倒して、こんな恰好で……!

岡崎城
仔細は省くが、犬神の呪術を受けた所為で、
汝は少し前まで異常状態にあったのだ。

岡崎城
いいか、柳川城。再び醜態をさらしたくなければ
以後――ヤツらの攻撃を死ぬ気で避けろ!

柳川城
は、はいっ!!

若松城
――おいっ! はやく戻って手を貸してくれ!!
妖怪たちのやつ、さっきよりも数を増してやがんぞ!

犬神
ガフフフ……無駄ダ無駄ダ……。

犬神
我ラノ呪術ノ前ニハ、城娘トテ無力……。

犬神
皆揃ッテ我ラガ走狗ニシテクレルワ!

岡崎城
畜生妖怪風情が言ってくれる。

岡崎城
既に汝らの奇異なる術は十全に楽しませてもらった。

岡崎城
なればこそ、今度は我が術を味わう番だ!

犬神
――ガフッ!?

岡崎城
光栄に思え。
我こそは神君出生の城娘――岡崎城なり。

岡崎城
真の神々しさ――とくと其の心身に刻むがいい。

後半
岡崎城

――さぁ、終焉だ。
派手に逝け、犬神。

犬神
ガフゥ――ッ!?

犬神
ソ、ソンナ……バカ、ナ……ッ!

犬神
我ラ犬神ガ……城娘、ナンゾ……ニィ……ッ!!

久保田城
すごい……。
妖怪たちをまとめて一掃するほどの法力を繰り出すとは。

柳川城
あれが……岡崎城さんの真の実力……なのですね。

岡崎城
何を言っている。
此度の快勝は汝らの助力あってこそのものだ。

岡崎城
……ヤツらの呪術はそれほどまでに強力なものだったゆえ、
私だけでの対峙であったならば、もう少し手を焼いただろう。

岡崎城
まぁいずれにせよ、汝らのおかげで
半分程度の力で勝つことができたわけだがな。

千狐
い、今ので……半分、ですか。

やくも
うち……岡崎城の方が妖怪みたいに思えてきただに。

岡崎城
……なにか言ったか、やくも?

やくも
だにぃ!?

やくも
岡崎城は美人で優しい城娘だって言っただけがやぁ……!

岡崎城
まったく……調子の良いやつだな、汝は。

岡崎城
――と、それよりも、だ。

岡崎城
早々に柳川城を手当てできる場所へと移るぞ!

久保田城
……え?

柳川城
あ、あの……私ならば、この通りそこまでの手傷を負ってはいませんが。

岡崎城
ああ。たしかに身体はそうかも知れぬ。

岡崎城
だが、私が先刻施した法術は、その場しのぎの手段でしかない。

岡崎城
勝利の安堵により、気が緩まってしまえば、たちまち――――、

柳川城
わお~~~~~~~~~~~ん!!

殿
…………!?

柳川城
ハッハッハ……クゥ~ン、クゥ~ン(ペロペロペロ)

岡崎城
――然様に行動が犬化する。

久保田城
そ、それを早く言ってください、岡崎城さん!?

千狐
と、とにかく急ぎ所領へと戻りましょう!
このままでは柳川城さんも殿も大変なことになってしまいますわ!

殿
…………。

殿
…………ノシ。

柳川城
わふ~☆(ノシ)

岡崎城
これッ、柳川城にお手をさせてどうする!?

殿
…………。

殿
…………。

岡崎城
やれやれ、順応性が高すぎるのも困ったものよな。

岡崎城
ほれ、さっさと行くぞ。
柳川城が正常に戻るまでは私も付き添ってやる。

岡崎城
(恐らく、此度の邂逅は……そうした意味合いもあるのだろうからな)

殿
…………?

岡崎城
いや、なんでもないさ。

岡崎城
さぁ、急ごう。
いい加減、柳川城の涎まみれのままでは汝も煩わしいだろうからな。

柳川城
ワンワンッ、ワオ~~~~~~~~~~~ンッ!

犬神の憑霊 -絶-

妖怪・犬神との戦いから、数日の時が経ったある日。
晴天下のもと、所領の一角を歩く、ひとりの城娘は、
物憂げな柳川城の姿を目し、声をかけるのだが……。

前半
――犬神との戦いから数日後。

館山城
ふふ、今日もいい天気ですね。

館山城
こんな日は、久留里城さんと一緒に、
安房の海岸を散歩するというのも――、

館山城
――って、あれ?

柳川城
…………。

柳川城
…………はぁ。

館山城
あれはたしか、柳川城さん……ですよね。

館山城
でも、何だか元気がないような……。

館山城
えーいっ、迷っていても始まりません!
領内の仲間が困っているのならば、助けにならなくては!!

館山城
柳川城さ~んっ!!

柳川城
――わふっ!?

館山城
わふ?

柳川城
ご、ごめんなさい……。
今のは、その……後遺症というか、何というか……。

館山城
後遺症……。

館山城
というと、もしや先の遠征の折に受けたという、
妖怪の呪術によるものですか!?

柳川城
……そ、そこまで御存知なのですね。

館山城
あ、いえいえ。そのような顔をなさらないでください。
知っているとは言っても、全てではございませんので。

館山城
あの日――同行されていた岡崎城さんの配慮もあって、
帰還後に柳川城さんが離家に隔離されていた理由の仔細は報されていませんし、

館山城
我ら同朋も不用意に詮索するのも悪いと思い、
こうして今日まで好奇の心を抑えていたのです。

柳川城
……いろいろとご迷惑をおかけしてしまったようで。
本当に申し訳ありません。

柳川城
はぁ…………。

館山城
(これは、重症ですね……霊気そのものが弱まっているのが解ります……)

館山城
あっ、そうです!

館山城
聞けば、遠征先で対峙した妖怪は、犬神という名だったそうじゃないですか。

柳川城
……そ、そうですが、それが何か?

館山城
犬神――ということは読んで字の如く、犬と縁深き妖怪ですよね?

館山城
ならば、そうした者からの呪いを相殺するには、
善なる気を宿す者――それも、犬と縁深き城娘であることが望ましいのは明白。

館山城
そしてこの私、館山城は――、

柳川城
――『里見八犬伝』なる物語に関する業を宿せし城娘。

柳川城
ということは……。

館山城
はいっ! きっとお力になれるはずです!

柳川城
――あ、あれっ!?
どうして変身までなされているのですか?

館山城
ふふ、そのような顔をなさらないでください、柳川城さん。

館山城
我が周囲を揺蕩う仁義八行の玉は、
城娘としての館山城が権能のひとつでして、

館山城
戦闘における加護だけでなく、災いから仲間たちを救う権能も内包しているのです。

柳川城
す、すごいですね……!

柳川城
それほどの力があるのなら、さぞ皆さんに頼られるのではないでしょうか?

館山城
―――と、思いますよね。

柳川城
え……?

館山城
ですが、その……うーん。何と言いましょうか。

館山城
あまりにも万事を完璧にこなしすぎて、賛辞以上に、
畏怖の念を強く相手に抱かせてしまうようでして……、

館山城
結果として、あまり皆さんと上手く馴染めていないのです……。

柳川城
……は、はぁ。

館山城
でも、だからこそ柳川城さんのお力になりたいのです!

館山城
ということで!

館山城
まずは、先日の討伐において、
柳川城さんの身に起きたことをお話ししてはもらえませんか?

柳川城
話、ですか……でも、その……少し恥ずかしい事柄なので……クゥ~ン……。

館山城
勿論、無理にとは言いません。

館山城
こちらも野次馬ならぬ野次犬根性でここに立っているわけではありませんので。

館山城
けれど、柳川城さんの裡に巣くう呪いは、陰気が合わさることで、
台所のいや~な汚れが如きしつこさで居座り続けることでしょう。

館山城
故に私のような存在へ全てを吐き出すことで、
内奥から綺麗にピッカリとさせてしまえば、完治も早まるのではないでしょうか?

柳川城
わ、ぅ……あ、あの……どうして私の手を握っているのですか?

館山城
勢いです!

館山城
……けど、内心すごくドキドキしてます!

館山城
だから、その……なるべくはやく返答をいただけると、嬉しいのですが……。

柳川城
館山城さん……。

柳川城
(ほんのりと桜色に染まった頬が、白皙の肌を美しく飾り立てている……)

柳川城
(整った顔の輪郭も……よく熟れた瓜のように滑らかで……綺麗……)

柳川城
(それに……なんて、澄んだ眼をしているのでしょうか……)

柳川城
(わかる……この方に?偽りはない)

柳川城
(ならば、信じてみてもいいのではないでしょうか……?)

館山城
…………。

柳川城
分かりました……。
それでは、貴方に仔細をお話しいたします。

館山城
ほ、本当ですか!?

柳川城
ええ。

柳川城
ですが……どうか、笑わずに聞いていただけますか?

館山城
はい。我が仁義にかけて、約定を捧げましょう。

柳川城
では、参ります……。

柳川城
あれは、私が犬神の呪術を真正面から受けてしまった直後のことです――。

後半
柳川城

――ということで、

柳川城
その……結果として、殿のあちこちを嘗め回してしまったのですが――、

柳川城
って、あれ?

館山城
はぁ……はぁ……。

柳川城
館山城さん!?
ど、どうして大破してるのですか!

館山城
だ、だって……柳川城さんが、あまりにも過激な言葉を口にするから……。

館山城
いささか……私には、刺激が強すぎたのですぅ……。

柳川城
で、ですが……事実なのですから、仕様が無いじゃないですか……。

柳川城
はぁ……。
やっぱり話すべきではなかったのかもしれませんね。

???
――何を言うか、柳川城。

柳川城
……!?

館山城
あ、あなたさまは!?

岡崎城
どうやら、柳川城が世話になったようだな。

館山城
岡崎城さん!?

館山城
えっと……いつからそこにいらしていたのですか?

岡崎城
柳川城めが、汝に仔細を語り始めた時点からだ。

館山城
そう、だったのですね……。
ぜんぜん気づきませんでした。

柳川城
…………。

岡崎城
まったく、柳川城よ。汝が外の空気を吸いたいと言うから、
一時的に離家における軟禁を解除したが……、

岡崎城
ふふ。なかなかどうして、面白き城娘に言の葉を贈ったじゃないか。ええ?

柳川城
あの……怒らないの、ですか?

岡崎城
怒る?

岡崎城
ああ。解呪が儀の最中に、
己が胸中を他者に語ったことを咎められると思ったのか。

柳川城
……はい。

岡崎城
やれやれ。雨天のもとに捨てられた子犬のような顔をするな。

岡崎城
館山城だからこそ、むしろ良かったのだよ、柳川城。

柳川城
……え?

岡崎城
そも、叱責に価する行ならば、汝が口を開いた時点で止めに入っている。

岡崎城
しかし、知っての通り、私は続けさせた。

岡崎城
……結果、どうだ、柳川城。既に己が胸奥には、
蒼穹にも似た晴れやかさが宿っているのではないか?

柳川城
――っ!?

柳川城
言われてみれば、たしかに……。

柳川城
先程まで身の内にあった濁りが、消えているような……。

館山城
ということは、もしかして――。

岡崎城
うむ。大破した甲斐があったな、館山城よ。

岡崎城
汝のおかげで、柳川城はようやく完全に回復したと言えよう。

館山城
ふふっ、よかったですね、柳川城さん。

柳川城
はいっ! これも、館山城さんのおかげです。

岡崎城
……おいおい。
今日までに甲斐甲斐しく付き添ってやった私を差し置く気か?

柳川城
あっ……ご、ごめんなさい、岡崎城さん。

柳川城
勿論、貴方には感謝してもしきれないほどの恩があります。

柳川城
いずれ、何かの形で報わせてください。

岡崎城
ふん。然様に大袈裟な言を吐くでない。

岡崎城
ちょっとした戯言ゆえ、気にする必要も、な。

館山城
ですが、どうして……。

岡崎城
……ん?

館山城
どうして、岡崎城さんはそれほどまでに柳川城さんを気に掛けるのでしょうか?

館山城
聞けば、生まれも遠地、出逢ったのもつい先日と、
あまり繋がりや縁といったものは感じられませんが……。

岡崎城
……なるほど。たしかに然様に思うのも無理はない。

岡崎城
だが、まぁ……。

岡崎城
…………ふっ。

岡崎城
いや、いずれ分かるときが来よう。
私と柳川城の繋がりが――な。

館山城
…………?

――その日の夜。

館山城
……こうして柳川城さんは無事に、解呪の儀を終えたのでした、と。

館山城
ふふ、これで今日の分は終わりですね。

館山城
それにしても、日が経つにつれ、
我が日記は、殿や城娘の皆さんの活躍を記した
自伝めいたものになってきていますね。

館山城
あ……そうだ! いつか、泰平の世が訪れた時、
この日記を自伝として発表するのもいいかもしれませんね。

館山城
そして、平和な世の礎を築かんと戦った、皆さんの勇姿を普く人々に伝え――、

館山城
――って、いやいや。待てよ。

館山城
そうなってくると、柳川城さんの名誉のためにも、
殿をペロペロしてしまった部分は削除した方がいいのでは……?

館山城
…………。

館山城
…………うーむ。

館山城
とはいえ後世に偽りを伝えてしまっては、
それがいつか正史となる危険もあります。

館山城
ゆえにここは心を鬼にして、

館山城
殿ペロ事件として、真実を正確に書き記すとしましょう!

こうして、情感たっぷりに綴られた館山城が日記の一頁は、
他日のものよりも異彩を放つ出来映えとなるのだが……。

後日、確認と了承を得んとして当事者に中身を見せた折、

羞恥に赤面した涙目の柳川城に、
その頁のみを破り取られてしまう館山城なのであった――。



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[花嫁衣装]鮫ヶ尾城

]鮫ヶ尾城はあ……春日山城サマの祝言、想像するだけでドキドキしてしまうっす!ね、ちびサマ~♪……ん?どうしたっすか、トノ?えっ、『主城のことより自分はどうなのか』っすか……?うぐ……これは痛いことを言...

[花嫁衣装]許昌城

]許昌城うーん……。ううーん……。……おや、殿か?すまない、考え事をしていて来訪に気づいていなかった。この間、殿と話してから、結婚に関して城娘達と話をしたのだ。繁栄という目的へ至る手段としての婚姻……...

[花嫁衣装]萩城

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[花嫁衣装]秋田城

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[花嫁衣装]春日山城

]春日山城うーん……。……うーん? ……うん?……殿?すみません! お越しいただいていたのに、今の今まで気づかずにいて!実は先日、坂戸城と謙信公の昔話をしてたのですが、その際、跡継ぎの話題が出たのです...

[花嫁衣装]新田金山城

目次1 性能1.1 特技1.2 [改壱]特技1.3 計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3性能< [花嫁衣装]萩城 - [花嫁衣装]アイリーン・ドナン...