ストーリーテキスト/牛鬼のなく頃に

牛鬼のなく頃に[]

牛鬼のなく頃に -前-

新たな妖怪――牛鬼という名の妖怪が
出現したとの報告が所領へと届けられる。
現地へ向かい、城娘と共に調査にあたるべし。

前半
――この日。 ひとりの城娘が殿へ会いに来ていた。 殿 …………。 殿 …………！ 兵庫城 お目にかかれて光栄です、殿。 兵庫城 私の名前は兵庫城。 摂津の城娘にございます。 殿 …………？ 兵庫城 はい。大垣城さまから、 貴方の話は聞いております。 兵庫城 何でも、先日の石田三成の名を冠する巨大兜との戦に おいては、見返りも求めず助力してくださったとか……。 兵庫城 改めて、大垣城さまに代わり感謝申し上げます。 やくも だに？　どうしてあんたが大垣城のことで礼を言うがや？ 兵庫城 それは……。 兵庫城 私にとって、大垣城さまは掛け替えのない存在だからです。 兵庫城 ええ……憧れ、と言っていいかもしれません。 柳川城 憧れ……？ 兵庫城 あ……も、申し訳ありません。 話が逸れてしまいましたね。 兵庫城 此度の来訪において、皆様にお伝えしたかったのは、 新たに現れた妖怪――牛鬼の討伐に関してでございます。 兵庫城 私や大垣城さまが手に入れた情報によれば、 強大な力を有する妖怪であることは間違いありません。 兵庫城 だからこそ、牛鬼と縁在る城娘である板島丸串城さんや 宇和島城さんに、協力していただけないかと思いまして……。 柳川城 なるほど……そういう事情だったのですね。 千狐 ですが、申し訳ありません……。 千狐 実は、板島丸串城さんたち親子は現在、藤堂高虎の名を 冠する巨大兜の調査のためにこの地を離れているのです……。 兵庫城 そ、そうだったのですね……。 兵庫城 私は、なんと間が悪い城娘なのでしょうか……。 殿 …………。 兵庫城 …………。 ？？？ ――兵庫城さん、そのように悲しげなお顔をなさらないでください。 牛鬼に縁ある城娘は、何も宇和島城さんたちだけではありませんよ？ 兵庫城 ……え？ 兵庫城 あ、貴方は――っ！？ 高知城 ふふ、お初にお目にかかります。私の名は高知城。 高知城 実を言うと牛鬼出現の噂については、 私も少し前から気になっていたのです。 高知城 よろしければ、此度の遠征……、 私が参加してもよろしいでしょうか？ やくも だに！？　高知城が戦いに行くがや――っ！？ 高知城 あら？　何故そこまで驚くのでしょうか？ やくも う～ん……いつも領内で家事ばっかりしてるから、 あんたには争い事の印象ってもんがないだに……。 高知城 うふふ、そういうことでしたか。 高知城 たしかに、やくもさんが心配されるのも無理からぬこと。 高知城 けれど、私も城娘の端くれ……。 他の城娘の方々に戦において遅れをとるつもりはありませんよ。 高知城 それに、私の影武者生成の能力は、 貴方様を御守りするには打って付けの異能ですからね？ 殿 …………。 高知城 ……ふふ。 兵庫城 高知城さん……。 兵庫城 貴方のお噂はかねがね聞き及んでおります。 ぜひとも、お力をお貸しください！ 高知城 ええ。 高知城 一緒に頑張りましょうね、兵庫城さん。 殿 …………。 殿 …………！ 柳川城 それでは殿。準備が出来次第、 報告のあった地へと出立しましょう！ ――数刻後。 千狐 殿、どうやらこの地が牛鬼の出現したとされる場所のようですわ。 殿 …………。 柳川城 禍々しい気が満ちていますね……。 いったい牛鬼とは如何な妖怪なのでしょうか？ 高知城 牛鬼……その姿は頭が牛で体は蜘蛛と言われ、 極めて凶暴な妖怪とされています。 兵庫城 たしか言い伝えによれば人畜に害を為すものが大半を占め、 沿岸部や山間部に、そういった伝承が残っているとか……？ 高知城 はい。そして、牛鬼は淵に出現する事例も多く残っており、 高知城 四国や畿内付近においては『牛鬼淵』や『牛鬼滝』といった 妖怪の名にまつわる淵や滝が多く存在しているのです。 やくも 高知城は牛鬼について、やけに詳しいんやね。 高知城 ふふっ。所領でお伝えしたように、私の生まれた地では、 牛鬼にまつわる伝承が多く残っていますからね……。 兵庫城 牛鬼は他に、どのような性質を備えているのでしょうか？ 高知城 そうですねぇ……。 高知城 たしか……牛鬼は出会うだけで人を病気にさせたり、 高知城 影を嘗めることで、対象を喰い殺したりするとも言われています。 柳川城 出会うだけで、病気に……？ 兵庫城 か、影を嘗める……っ！？ 千狐 な、なんとも恐ろしい妖怪ですね……。 高知城 それに磯女や濡れ女といった逸話もあってですね、 高知城 牛鬼は美しい女性に化けるとも言われているので、 皆さん、騙されないように気をつけてくださいね？ やくも ……だにぃ。ってことは、ここらへんにいる牛鬼は 綺麗な娘さんの姿で現れる可能性もあるってことやね。 兵庫城 もし人間の女性に化けて近づいてきたら、 一見して識別できないかもしれません……。 兵庫城 殿、気を抜かぬようにお願いいたします！ 殿 …………！ 牛鬼 ギュゥルルルルルルル…………。 兵庫城 ――ってぇ！ これでもかってくらい牛鬼っぽいの出てきましたけどぉ！！ やくも 無駄に使ったうちの警戒心を返してほしいだにぃ！！ 千狐 そ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ！ さっさと後ろに下がりなさい、やくも！ 殿 …………！ 高知城 ふふっ、ご安心ください。 落ち着いて対処すれば負けるはずはありません。 高知城 とはいえ、初めて戦う妖怪ですからね……。 まずは相手の出方を見つつ、その上で采配をお揮いください。 殿 …………！ 高知城 ええ……貴方様ならば、きっとできます。 高知城 さぁ、参りましょう。 我々と共に勝利を掴むのです！
後半
高知城 ふふ……これで、とどめです。 牛鬼 ――グガガガガガガッ！！ やくも 全弾命中――っ！！ 高知城、すごいだにぃ！ 千狐 今の攻撃で霊気は完全に消滅しましたわ！ 殿 …………。 殿 …………！？ 柳川城 ……え？　まだ敵の気配がする？ 兵庫城 こ、高知城さん！ 背後に、新手が――っ！！ 高知城 ――なっ！？ 牛鬼 ……ギュウルルルルルルル…………ベロロォォォ……ベロロォォォッ……。 高知城 んん――っ！？　そん、な……牛鬼に……影を、 嘗められて……しまう、なんて……くっ、ふぁぁっ！？ 兵庫城 高知城さん――っ！！

牛鬼のなく頃に -後-

牛鬼に影を囚われ、窮地に立たされる高知城。
しかし、其処に勝機の光明を見て取った兵庫城は、
己の砲筒を牛鬼と高知城の方角へと向ける――。

前半
高知城 んん――っ！？　そん、な……牛鬼に……影を、 嘗められて……しまう、なんて……くっ、ふぁぁっ！？ 兵庫城 高知城さん――っ！！ 千狐 ま、まずいです、殿！　あのままでは影を嘗め回された 挙げ句、高知城さんが喰い殺されてしまいますわ！！ 牛鬼 ……ギュウルルルルルルル…………ベロロォォォ……ベロロォォォッ……。 殿 …………！ 高知城 だ、だめ……です……殿…………そのように、 近づいては……いけま、せ……んん――っ！！ 殿 …………！！ 兵庫城 …………。 兵庫城 （おかしい……） 兵庫城 （高知城さんは窮地にあるはずなのに、この違和感は……なに？） 兵庫城 （それに……彼女ほどの城娘が……、 こうも簡単に背後をとられるなど有り得るのでしょうか？） 兵庫城 （よく考えるんだ、兵庫城……） 兵庫城 （牛鬼の逸話――） 兵庫城 （――美女に化けるとされる性質） 兵庫城 （そして……高知城さんの異能…………） 兵庫城 ――っ！？ そ、そうか……あれは――！ 柳川城 な、何をしてるんですか、兵庫城さん！ 砲筒を高知城さんへ向けるだなんて……！ 兵庫城 いいえ！　これでいいのです！ あれは高知城さんであって高知城さんにあらず！ 兵庫城 さぁ、覚悟なさい牛鬼！ 私の砲撃は、ひと味違いますよぉ！！ 牛鬼 ギュルル――ッ！？ 高知城（？） ―――――っ！？ やくも だにぃ！？　砲弾が高知城もろとも牛鬼に当たっただにぃ！！ 千狐 な、なんてことを……！ 千狐 兵庫城さん、貴方いったい何を考えて―― 兵庫城 ――お慌てにならないで、千狐さん。 兵庫城 だって高知城さんは、あのように目立つ位置でわざと 牛鬼に捕らわれ、敵方の隙を作ってみせたのですから。 兵庫城 そうでしょう、高知城さん？ 柳川城 ……え？ ？？？ ふふっ、兵庫城さん……貴方なら、囚われた『私』が 影武者であることを見抜いてくださると思っていました。 殿 …………！？ 高知城 殿。御心配をおかけして申し訳ありません。 高知城 ですが私はこの通り、無事にございますよ。 やくも ……だにぃ！？ ど、どうして高知城がそんなところにいるがや？ 千狐 お、おかしいですわ……！　だって、さっき……、 向こうの方で牛鬼に食べられそうになっていたのに……！ 柳川城 ……ま、まさか。 高知城さん、貴方……。 高知城 ええ。いつもの戦闘においては殿の御姿を模した影武者を 私の霊気によって形作るのですが、 今回はそれを応用したのです。 柳川城 そ、それならそうと、もっと早く仰ってくださればいいのに……。 高知城 そうしたかったのですが、なにぶん緊急なる 事態でしたので、説明する暇がなかったのです。 兵庫城 って、皆さん、お喋りは後ですよ！ 今は牛鬼たちを掃討するのが先です！ 柳川城 ……は、はいっ！ 殿 …………！ 兵庫城 参りましょう、殿！ 敵が混乱の最中にある今こそ攻め込む好機です！！
後半
兵庫城 ――最後の一撃です！　 これで、倒れてください！！ 牛鬼 ギュルルルルゥゥゥゥァァァアアアアアアアッ！！ 千狐 牛鬼の霊気……完全に消滅しましたわ！ やくも やっただにぃ！　他の妖怪や兜さんたちも、 みんなして逃げていってるがや～！ 高知城 ふぅ……何とか、窮地を脱することができたようですね。 やくも それにしても、高知城には驚かされただに！ まさかあれが影武者だったとは思わんかったがや。 高知城 ふふ。少しは見直していただけましたか？ やくも だにぃ♪　能ある鷹は何とかってやつやね！ 兵庫城 ……。 柳川城 あれ？　どうしたのですか、兵庫城さん。 何だか浮かない顔をしていますが……。 兵庫城 あ……す、すみません。 兵庫城 その、今回の戦……。 高知城さんのおかげで勝利することはできたのですが、 兵庫城 やはり、どうにも主を騙すのは、 いかがなものかと思いまして……。 柳川城 ……え？ 兵庫城 たしかに、此度の件に関しては 必要な欺きであったことは理解しているのですが、 兵庫城 えっと……私にとって、 ああいった特殊な戦い方は、その……、 兵庫城 憎き有岡城を彷彿とさせるといいますか……うーん。 高知城 なるほど……。兵庫城さんの築城主・池田恒興は あの荒木村重の討伐にて活躍された方ですものね。 高知城 裏切り、欺きといった事柄に関して、 敏感になってしまうのは当然のことでしょう。 高知城 そうした貴方の真っ直ぐな心根は美しきものなれば、 今後も、大切に守り抜いてほしい美徳と言えます。 高知城 ですがひとつ……あえて忠告するならば、 高知城 内助の功――ひいては慕う主を立派に男立ちさせるには、 時に、嘘も方便ということもあるのだと覚えておいてください。 兵庫城 ……は、はい。 兵庫城 （うぅぅ……確かに、高知城さんの仰ることも一理あるのですが……） 兵庫城 （けれど、私は大垣城さまのような穢れなき城娘を目指す城娘……） 兵庫城 （あぁ、悩ましい……実に、悩ましいですぅ……） 柳川城 ……ひょ、兵庫城さん？ 兵庫城 ――はっ！？ 兵庫城 す、すみません。少しばかり思索の海に溺れていたようで……。 殿 …………。 兵庫城 殿、改めて此度の助力、感謝いたします。 兵庫城 皆さんの協力がなければ、 牛鬼を討伐することはできなかったでしょう。 殿 …………。 兵庫城 はい！　このご恩は、いずれ何かの形でお返しさせてください。 兵庫城 それでは性急ではありますが、私は大垣城さまへの 報告がありますので、これにて失礼いたします……。 やくも ………………だにぃ。行ってしまったがや。 千狐 兵庫城さん……ですか。 清廉潔白という言葉が似合う素敵な方でしたね。 殿 …………。 柳川城 それでは、殿。 そろそろ我々も帰還するといたしましょう。 殿 …………！ 高知城 ふふっ、此度の遠征も、誠にお疲れ様でした。 高知城 今宵はしっかりと身体を休め、 また明日からの戦いに備えるといたしましょう。

牛鬼のなく頃に -絶-

――牛鬼討伐の遠征から数日後。
高知城は、所領に戻ってきていた宇和島城に、
牛鬼との戦いについて話をするのだが……。

前半
牛鬼討伐の遠征より数日後……。 宇和島城 ――ほわっ！？　 宇和島城 なんと！！　高知城ちゃんってば私がいない間に 殿と一緒に牛鬼と戦っていたって本当ですか！？ 高知城 はい。兵庫城さんから助力の要請をいただきまして、 私と柳川城さんたちとで現地へと向かった次第です。 鹿児島城 それはそれは……。 わたくしも協力できればよかったのですがぁ……。 高知城 いえいえ。鹿児島城さんも別件で所領を離れていたのですから、 そのようなお顔をなさらないでください。 宇和島城 でもでもぉ、やっぱり四賢候のひとりとしては、 高知城ちゃんの大活躍をこの目で見たかったですねー。 宇和島城 聞くところによれば、あの影武者の技を応用して、 自身そっくりの存在を生成してみせたとか……？ 高知城 ええ、まぁ。少しばかり難儀ではありましたが、 うまく牛鬼を欺くことができて良かったです。 宇和島城 くぅ～っ！！　いいですねぇ、羨ましいですねぇ！ 宇和島城 そういう技、私もぜひ身につけたいものです！！ 鹿児島城 ふふっ、宇和島城さんが高知城さんの技を覚えでもしたら、 それはそれは恐ろしいことになりそうですの～。 高知城 板島丸串城さんの苦労が倍――いえ三倍以上に増えるのが 容易に想像できるのがまた恐ろしいですね。 宇和島城 もぉ～！　みんなしてヒドいですよぉ～！ 宇和島城 まぁ、確かに仰るとおりなんですけどねぇ、あははは。 宇和島城 ……って、あれ？ 宇和島城 そういえば、今日は久しぶりの四賢候会議だった はずですが、福井城ちゃんはどうしたのですか？ 鹿児島城 えっと、福井城さんはですね、越前における 対兜用の防衛施設の強化を行ってるらしく、 鹿児島城 予想以上に時間がかかっているとのことで、 今日は不参加となってしまったんですの……。 宇和島城 やっぱり、そういった用事ですかぁ……。 福井城ちゃんって何だかいつも多忙な感じですもんねぇ。 宇和島城 それじゃあ今日は福井城ちゃんの分も がっつり夜まで女子会と洒落込むしか―― 兵庫城 ――高知城さん！　このような場所にいらしたのですね。 姿が見当たらないので、あちこち探してしまいましたよぉ。 高知城 あら、兵庫城さんではないですか。 宇和島城 おおおっ！　あなたが噂の兵庫城さんなのですねっ！！ 兵庫城 ……う、噂の？ 兵庫城 あの……貴方は？ 宇和島城 お初にお目にかかります！ 私は柳川城ちゃんの双子の姉、立花山城にございます！ 兵庫城 ――ええっ！？　ほ、本当ですか！？ 宇和島城 はい！　もちろん嘘です！ 兵庫城 ……う。 兵庫城 じゃあ、いったい貴方は誰なのですか？ 高知城 こちらは板島丸串城さんの愛娘――宇和島城さんですよ。 兵庫城 ――う、宇和島城さん！？ 兵庫城 （なるほど……この方が、私が最初に 牛鬼討伐の助力を頼もうとしていた方だったのですね） 兵庫城 （ふぅむ、今の受け答え……どうやら、 聞きしに勝るほどの嘘つきさんのようですね、注意せねば！） 兵庫城 で、では……あの、こちらの方は？ 鹿児島城 ……あ、わたくしは―― 宇和島城 ――鹿児島城さんですよぉ♪ 兵庫城 はいはい。またどうせ嘘なのでしょう？ さすがの私だってもう騙されませんからね。 鹿児島城 ……え？ 兵庫城 だって鹿児島城さんといえば、 あの島津忠恒と縁深き城娘さんですからね！ 兵庫城 こんな虫一匹殺せなさそうな、可憐な城娘のはずがありません！ 鹿児島城 ……しゅん。 宇和島城 あ～らら。 兵庫城 あ、あれ……？ 宇和島城さん……嘘です、って言わないのですか？ 宇和島城 ……んー。 宇和島城 ――嘘じゃないです！ 兵庫城 え……。 兵庫城 ――えええええっ！！ 鹿児島城 …………わたくし、鹿児島城ですのに。くすん。 兵庫城 あぅ……ご、ごめんなさい、鹿児島城さん！ えっと、まさかこんなにお可愛い城娘とは存じ上げなくて、その……。 鹿児島城 ふふ、お気になさらず、兵庫城さん。 実はそんなに落ち込んでいませんの。 鹿児島城 というのも、先ほどのようなことは色んな方から 言われてきましたので、もう慣れっこですの～。 兵庫城 ……そ、それならばいいのですが。 鹿児島城 それよりも、兵庫城さん。 今日はどうして所領にいらしたんですの？ 兵庫城 あっ……そ、そうでした！ 兵庫城 えっと、実はこの前の牛鬼討伐の件で、 殿にお礼をと、瓦せんべいをお持ちしたのです！ 宇和島城 おーっ！　瓦せんべいっ！ いいですねぇ、ばりぼりし放題ですー♪ 兵庫城 よかったら、皆さんもどうぞ。 高知城さんの分も含め、多めに持ってきましたので。 高知城 ありがとうございます、兵庫城さん。 それでは遠慮なくいただきますね。 鹿児島城 同じく、ですの♪ 宇和島城 ばりぼりばりぼり……ばばりぼりー♪ 兵庫城 （よかった……どうやら、皆さんのお口に合ったようですね） 宇和島城 で、兵庫城ちゃんが来てくれたおかげで、 さらっと福井城ちゃんの穴が埋まった雰囲気なわけですが！ 宇和島城 さてさてそこで、今日の女子会の議題はどーしましょうかねぇ？ 兵庫城 ……え？　議題？　女子会？　なんですか、それ？ 宇和島城 まぁまぁ、いいからいいから。 適当に相づちをうってれば大丈夫ですのでー♪ 兵庫城 むぅ、そうやって軽く流すぅ……。 宇和島城さんの性格、何となくわかってきました。 高知城 ……ふふ。それで議題についてですが、 せっかこうしてく兵庫城さんがいることですし、 高知城 先日の牛鬼に関して――というのはどうですか？ 宇和島城 いいですねぇ～。 私、ちょうど牛鬼に縁ある城娘ですしぃ。 宇和島城 ……あっ、何ならお話しついでに、 あれやっちゃいますか？　牛鬼まつり！ 高知城 ……え？　領内でですか？ 宇和島城 そうそう！　そうです！ 宇和島城 牛鬼の伝承は西国を中心として各地に残ってますが、 宇和島の牛鬼伝説は特に有名ですからね！ 鹿児島城 えっと、たしか――かつて家畜を襲っていた牛鬼を 山伏が退治したという言い伝えがあったのですよね？ 兵庫城 けど、どうしてそのような恐ろしい牛鬼を祀るようになったのですか？ 宇和島城 他の祭事においても含まれる要素ではあると思いますが、恐ろしいものや 厄災といったものへの封印と、鎮魂の意味を込めて神聖化した―― 宇和島城 ――いわゆる祟りを鎮める儀式……といった感じですね！ 兵庫城 なるほど……。 兵庫城 で、具体的に牛鬼まつりとはどのようなものなのでしょうか？ 宇和島城 うんとね、話すと長くなるのでぇ……。 宇和島城 兵庫城ちゃん、ちょっと耳貸してくれますかぁ？ 兵庫城 ……え？　み、耳？ 兵庫城 えっと、こう……ですか？ 宇和島城 うんうん、良い感じですよぉ。 宇和島城 それではぁ……（かぷっ♪） 兵庫城 ――ふにゃっ！？ 宇和島城 えへへ、冗談です！ 兵庫城 いや、なにふつーに私の耳をはむってるんですか、あなたはっ！！ 宇和島城 ――ぶへっ！ 宇和島城 な、何も変身までして叩くことないじゃないですかぁ～！ 宇和島城 まだまだ緊張気味な兵庫城ちゃんを やんわりと落ち着かせようと思っただけなのにー！ 兵庫城 だからって、あんなことするひとがいますか……！ 兵庫城 いいですか？　私の身体は大垣城さまのものなんです！ 今度ヘンなことしたら、本気で怒りますからね！！ 宇和島城 もぅ、お堅い城娘さんですねぇ……。 兵庫城 何か言いましたか……？ 宇和島城 いえいえなにもーっ！ 宇和島城 では、今度こそ ちゃんとご説明しますので、お耳を拝借…………。 兵庫城 ……ふむ。 兵庫城 ふむふむ……。 兵庫城 ……え？　いやでも、それって……。 兵庫城 えっ……ええっ……ええええええ――――っ！？
後半
兵庫城 ……はぁ……はぁ……宇和島城さん……。 そ、そのような危険なことは、やめた方が……いいのでは？ 宇和島城 いやいや、これぐらい激しくやらないと意味がないんですってぇ。 兵庫城 うぅぅ……で、でもぉ……そんなことされたら、身体がもちませんよぉ……。 高知城 ……あ、あのぉ、兵庫城さん……。 高知城 宇和島城さんの説明……、 かなり大袈裟に改変してますからね？ 鹿児島城 というより、七割くらい嘘のような気がしますの……。 兵庫城 そ、そうなのですか？ ……ほっ。よかった……。 兵庫城 あ、あまりにも衝撃的な内容だったせいか、 変身を維持することもできなくなってしまって……。 宇和島城 だったら、解除ーっ！ いつまでもビショビショだと殿がビックリしちゃいますよぉ？ 兵庫城 くっ……元はと言えば貴方のせいでしょうに…………。 兵庫城 まったく、まだ出会って間もないですが、宇和島城さんの 話は、その殆どが嘘でできてるような気がしてきました……。 宇和島城 いやいやいや～、それほどでもないですよぉ～。 兵庫城 いや、褒めてないんですけど……。 兵庫城 ですが、なるほど。 牛鬼を鎮める催事ですか……。 兵庫城 妖怪という存在は、現状においては、 兜と共に我らへと攻め寄ってきますが、 兵庫城 依然として、妖怪自身が持つ目的は判然としていません。 兵庫城 ……目的の不明瞭さだけに着目すれば、 兜以上に不気味な存在とも言えますし、 兵庫城 祭事によって、動きを牽制する手段とするのも、 意外と理に適っているのかもしれませんね……。 鹿児島城 確かに、兵庫城さんの仰る通りかもですの。 宇和島城 ふっふっふぅ、どうやら私の提案の真意に、 皆さんも気づき始めてしまったようですねぇ？ 宇和島城 純粋な武力だけで抑えきれぬ相手となれば、鎮めるという考え方も 持つべきなのでは、と宇和島城ちゃんは思ったわけですなーうんうん。 高知城 ……などと言ってますが、本当は宇和島城さんの 故郷のお祭りを皆さんに知ってほしいだけなのでは？ 宇和島城 えへへっ、さすがは高知城ちゃん！ よくわかってらっしゃる～♪ 宇和島城 いずれにせよ、ここのところ戦い続きですからね。 少しは賑やかなことして、ぱぁっとやらないとー！ 宇和島城 それにお母さんもいませんし、騒ぐなら今しかありません♪ 高知城 ……やはり、そちらが本音でしたか。 宇和島城 と――いうことで！ さっそく牛鬼まつり開催について殿と打ち合せしましょう！ 兵庫城 ……え？　わ、私も一緒にですかぁ！？ 宇和島城 はい！　それでもって許可をいただいたら、 そのまま一緒にお祭りを主催しちゃいましょう！ 兵庫城 しゅ、主催って……貴方ねぇ……。 宇和島城 それとも、私とじゃイヤですか？ 兵庫城 そ、そういうわけじゃありませんが……。 宇和島城 じゃあ一緒に楽しみましょうよぉ～！ 兵庫城 ……はぁ。仕方ありませんね。 兵庫城 なら、一つだけお約束を。 宇和島城 ……ん？ 兵庫城 私と一緒にいる時は、嘘をつかない。 兵庫城 約束……ちゃんと守れますか？ 宇和島城 はい！　無理です！ 兵庫城 ええ、それならば―― 兵庫城 ――って、何さらっと笑顔で拒否ってるのですか！ 宇和島城 だって、嘘は私の業の一つですからぁ。 兵庫城 むむむぅ……。 有岡城みたいなこと言ってぇ……！ 兵庫城 ならば、この兵庫城が貴方の性根を叩き直してあげましょう！ 宇和島城 ……へ？ 兵庫城 私の激しくもねちねちっとした指導を受ければ、 領内における牛鬼まつりが開催される頃には、 兵庫城 貴方も私や大垣城さまのように、 清廉潔白たる城娘として生まれ変わっていることでしょう！ 宇和島城 え～。そういうのはお母さんで間に合ってるんですけどぉー。 兵庫城 問答無用です！ さぁ、それでは殿のもとへと行きますよ、宇和島城さん！ 宇和島城 はぅあ～。 これじゃあお母さんと一緒にいるのと変わらないですよー。 高知城 ……あらあら。引きずられるようにして 連れて行かれてしまいましたね、宇和島城さん。 鹿児島城 色々と正反対な気質を持つお二人ですが、 意外と相性が良いかもしれませんの～。 高知城 ふふっ、そうかもしれませんね。 高知城 さぁ、それでは我々も宇和島城さんたちと共に、 殿の許へと向かいましょうか、鹿児島城さん。 鹿児島城 はいですの～♪ 高知城 …………。 高知城 （それにしても、領内における催し……ですか） ――しばらくは忙しくなりそうですね、と微笑みながら、 高知城は友と共に、殿の許へと歩を進めるのであった。

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