ストーリーテキスト/清らかなる酒を求めて

ページ名:ストーリーテキスト/清らかなる酒を求めて

目次

清らかなる酒を求めて[]

清らかなる酒を求めて -序-

兜の襲撃を受けている村があると聞きつけ、
現地へと向かう殿たちだったが、そこで
目にしたのは泥酔した村娘の姿だった。

前半
――午の刻、摂津国、某村付近。

千狐
殿、もう少しで目的の村に着きますわ。

千狐
風聞によれば、どうやらその村は、
兜の度重なる襲撃によって
疲弊しきっているということです……。

やくも
こうしている間にも村の人々が
怖い思いをしてるっちゅーことやね……。

やくも
こうしちゃおれんだに!
殿さん、急いでその村に向かうがや!

森を抜けると、殿たちの目の前に
村落と思しき光景が広がった。

やくも
ここが兜さんに狙われちょー村がや?

千狐
間違いないと思うわ。

やくも
それにしても、静かだに……。

やくも
元々だーれもいなかったと言われても
信じてしまいそうになるほどやね……。

千狐
確かにそうね……。

千狐
でも、このあたりは、
知る人ぞ知るお酒の名産地……。
誰もいないなんてこと、あるわけないわ。

やくも
お酒の名産地かやぁ……。

やくも
どうりでさっきからお酒の匂いが
ぷんぷんすると思っただに……。

千狐
……え? お酒の匂い?

千狐
いくらお酒の名産地といっても、
土地に匂いが染みつくなんてことは…………。

伊丹城
ん~? 
あなたたちは一体だ~れぇ? 
ヒック……ここらじゃ見ない顔ねぇ。

やくも
な、なんやあんたは!?

やくも
――って、すっごく酒くさいだに!
この娘さん、泥酔してるにぃ……。

伊丹城
なぁによ~!
わたひが酔っ払ってるなんて、
ろ~ひてわかるのぉ!

千狐
(うわ、うわわ……あの女性、
これ以上ないってくらい、やくもに抱きついてるわ……。)

やくも
わぷっ、ぷぷぷっ……酒の匂い、がぁっ……ぷはぁっ!?

やくも
も、もういややぁー! これ以上は頭おかしくなるだにぃ!! 
殿さーん、千狐ぉ、助けてほしいがやぁー!!

伊丹城
そんなに恥ずかしがらなくへもいいれしょー!
ほぉら、もっとぎゅってしてあげるからぁ~!

千狐
ちょ、ちょっとやめてください!

千狐
これ以上は、やくもが気絶しますわ!
どう見たって貴方は酔っ払ってますよ!

伊丹城
……ん~?
狐の女の子ぉ……?

千狐
あ、こ、こらっ!
急に千狐に抱きつかないでくださいっ!

千狐
――えっ!?
ちょ、ちょっと、そんな……やめっ、やめてよぉ……!!

千狐
……うぅぅ……すっごく、お酒くさいのぉ~!

千狐
殿ぉ……やくもぉ、何とかしてなのぉ~!!

殿
…………。

殿
…………!?

やくも
殿さん、どうしたがや?
千狐じゃなくて、草陰なんか見つめて……。

兜軍団
――ザザッ! ザザザッ!!

やくも
か、兜さんだにっ!?

やくも
やっぱりこの村が兜に狙われちょー噂は
本当だったんやね!

伊丹城
かぶとぉ? あれ、かぶとって言うんらぁ……。

伊丹城
あいつらのせいで、わたひ達は……こんな……、

伊丹城
こん、なぁ…………ぐぅ……ぐぅ………………。

千狐
はぁ、はぁ……よ、ようやく離れてくれましたわ……。

千狐
――って、そうではありません!

千狐
殿、目の前の兜たちを倒しましょう!
きっとヤツらがこの村を襲った張本人ですわ!

後半
千狐

さすがです、殿!
見事、兜たちを退けることができましたわ!

やくも
殿さんならあれくらいの相手、朝飯前だに!

やくも
……ん?

やくも
な、なんやあれは!?

先刻まで兜たちが立っていた場所に落ちているものを
やくもは手に取った。

やくも
こ、これは!?

やくも
……お、お酒だに!

やくも
……うぅ、さっきイヤな思いしたけん、
しばらくはお酒の匂いはかぎたくないにぃ……。

千狐
どうして兜がお酒なんかを落としたのかしら……。

千狐
(いや、あれは普通のお酒では……ないわ!
あれ自体に不思議な力が備わっているように感じられる……。)

千狐
やくも、ちょっとそれを千狐に貸し――、

伊丹城
あーーーっ!
『伊丹酒』じゃないのぉ!

伊丹城
すごいすごぉ~い!
まだ残ってるなんて、信じられないわぁ~♪

やくも
ひぃっ!?
あの娘さん、いつのまにか目ぇ覚ましちょーだに!

千狐
ふぇぇ……やっぱりお酒くさいのぉ~……。

千狐
――じゃなくてっ!

千狐
貴方はこのお酒を知ってるのですか!?
いえ、そもそも貴方はいったい何者なのですか?

伊丹城
わたし……?
わたひは伊丹城(いたみじょう)よぉ。

伊丹城
こう見えても、れっきとした城娘なんらからぁ~、ヒック……。

やくも
――ええ!?
この酔っ払いの娘さんが、城娘なんか!?

千狐
こ、こら!
そんな言い方失礼でしょ、やくも!

千狐
(そりゃあ、地面に寝そべりながらぐでんぐでんでな様を
目の当たりにしてれば、そう言いたくもなるけど……。)

伊丹城
わたしはねぇ、この地を護る為に、
さっきの兜? ってやつらと
少し前まで戦ってたの……ヒック……。

伊丹城
でもね……うぅぅ……この地に縁のある……、
その伊丹酒を兜に奪われちゃっへからぁ……ヒック……、
城娘としての力が、どんどんなくらって……いっひゃったのぉ……うぷっ……。

伊丹城
村を守る為にぃ……力を取り戻さなきゃぁって思っへね、
何とかそこいらの濁酒を飲んでみたもののぉ……ヒック……、
ただ酔っ払うだけで、全然力は戻ってこなひにょぉ……うぐぅぅ……。

千狐
……あ、ちょっと、大丈夫ですか?
こんなところで寝てはダメですよ、伊丹城さん!

伊丹城
らいじょ~ぶ、らいじょ~ぶっ!
酒は飲んでも飲まれるわけないものぉ~!

伊丹城
それにねぇ、きっとまだ兜は襲ってくるからぁ……、
こんな、ところ……でぇ……寝てたり……なんか……。
してちゃ……らめ……なんらか、らぁぁ……。

伊丹城
…………ぐぅ……ぐぅ……。

やくも
だめやね……気持ちよさそうに眠ってるだに。

千狐
そんなぁ……。

千狐
せっかく村のことを知ることができる機会だったのに。
いったい、どうしたらいいの……。

殿
…………。

千狐
殿……?
どうなされたのですか?
あちらに何か――、

千狐
――っ!?

千狐
あ、あなたは……!?

有岡城
…………もぐもぐもぐ…………。

有岡城
……見つかってしまいましたか、ふふふ。

清らかなる酒を求めて -破-

眼前に現れた娘は、自らを有岡城と名乗る。
伊丹城の知己である彼女との出会いは、
殿たちの命運を何処へと向かわせるのか……。

前半
有岡城

……ふふ。

有岡城
あなたが千狐ちゃんで、
こっちの子がやくもちゃん。
そして、あなたが殿ですね?

やくも
……な!?

殿
…………!?

千狐
どうして、千狐たちの名を……!?

有岡城
だって、貴方たちが兜を追い払ったあたりから、
ここでずっと聞き耳を立てていたのですもの、
皆さんのお名前くらいは覚えてしまいましたよ。

やくも
なるほど……ずっとそこで見てたっちゅーわけやね……。

やくも
で、あんたは一体何者なんやっ?

有岡城
そんなに怖い顔をしなくても大丈夫ですよ、やくもちゃん。

有岡城
わたしは有岡城と申します。

有岡城
そこで気持ち良く寝ている伊丹城ちゃんの
古馴染みであり、彼女と同じく城娘のひとりですよ。

千狐
(確かに……うっすらとだけど、
彼女の中にも城娘の力を感じるわ……。)

千狐
もしかして、有岡城さんも
伊丹城さんと同じく城娘の力の大半を
失ってしまっているのでしょうか……?

有岡城
……はい。

有岡城
伊丹城ちゃんも言っていた通り、
わたしたちの村は兜に襲われ、
大事にしていた伊丹酒を奪われてしまいました。

有岡城
奴等の狙いが人ではなく伊丹酒であることに気づいたわたしは、
伊丹城ちゃんにこの場の監視を任せて
村人たちを安全な場所に避難させてきたのです。

やくも
村の監視任せたって言っても、
肝心の伊丹城はあの通り酔いつぶれてるだに……。

有岡城
無類の酒好きである伊丹城ちゃんならば当然の結果と
いえるのかもしれませんが……。

有岡城
わたしがあくせくと村人たちを逃がしていた一方で
このように飲んだくれていたとなると、
心の水面に怒りの波紋が生じてしまうのは必定かと……。

千狐
……あの、有岡城さん?
伊丹城さんの身体を起こすのはいいのですが、
なぜ背後から抱きしめているのでしょうか?

有岡城
気付けとは、痛くなくては意味がないですからね……フフ。

有岡城
はぁッ――!!

伊丹城
――いっっったぁぁぁいっ!?

伊丹城
な、何するのよ!?

伊丹城
……って、あれ?
有岡城……?

伊丹城
ようやく戻ってきてくれたのね!!

伊丹城
うんうん、よかったよかった!
私、ずぅっと待ってたんだからね!

有岡城
ええ、何とかお互い無事で良かったですわね。

やくも
(なぁなぁ、千狐ぉ。)

千狐
(なによ、やくも……。)

やくも
(有岡城って城娘、今はあんな穏やかに笑っちょーが、
さっき一瞬だけやけん、ものすごく恐ろしかっただに……。
どっちの彼女が本当の有岡城なんや?)

千狐
(う~ん……今はまだ何とも言えないわね……。)

伊丹城
ねえねえ……えぇっと、殿……だっけ?
あの、こんな村にわざわざ来てくれたってことはさ、
もしかして私達の力になってくれるってことなのかしら?

有岡城
伊丹城ちゃん、いくらなんでもそんなことあるわけないわ。

有岡城
このご時世、無償で人を助けるなんて殊勝な方がいるわけ――。

殿
…………。

殿
…………!

有岡城
……え? 

有岡城
わたしたちの力に……なってくれるの、ですか……?

伊丹城
ほら見なさいよ~♪
やっぱり私の言った通りじゃない!

有岡城
そんな……信じられません。
わたしたちには既に何もないというのに……。

やくも
殿さんは見返りを求めて戦ったことなんて一度もないだに!

やくも
困ってる人がいたら手を差し伸べる……
それがうちの大好きな殿さんや!

千狐
ええ、そうですわ!

千狐
そして、千狐たちはこの村の危機を知り、
助けとなる為にここに来たのです!

有岡城
……信じて、いいのでしょうか。

伊丹城
有岡城……今の私たちにとっては、
この人たちを信じることが最善の手だと思うわ。

有岡城
……わかりました。

有岡城
それでは、あちらの敵はお任せいたしましたよ、殿。

伊丹城
……あちらの?

やくも
……敵?

千狐
……任せる?

突撃式トッパイ形兜
敵影捕捉……是ヨリ、掃討ヲ開始スル!
皆ノ者、我ニ続ケ……続ケェェェエエエッ!!

やくも
ひぃっ!! 兜さんだにぃぃッ!?

千狐
まさか、千狐たちが気づかぬ間に忍び寄っていたなんて……!?

千狐
戸惑ってる暇はありませんね、殿。
急ぎ、兜を迎撃しましょう!

後半
有岡城

……本当に、わたしたちを助けて下さるなんて……。

有岡城
殿……あなたという御方は、なんと素晴らしき武人なのでしょう。

有岡城
有岡城、感激いたしました!

伊丹城
あーらら、有岡城があんなに人に懐くなんて珍しいわねぇ。

伊丹城
にしても、やっぱり兜は伊丹酒を集めて回っているようね。

伊丹城
まったく……。
人様の大事なお酒を何だって奪おうなんてするのかしら。

千狐
おそらく、そのお酒に秘められた特殊な力を狙っているのでしょう。

伊丹城
特殊な力……?

千狐
はい。
伊丹酒は、伊丹城さんや有岡城さんの城娘としての
力の源泉であることからも分かるように、強い力を秘めています。

千狐
その特殊な力は、
兜にとっても絶好の糧となると考えてほぼ間違いないでしょう。

有岡城
やはり、そうでしたか……。

伊丹城
有岡城、あなたもしかして分かっていたの?

有岡城
何となく、ですけどね……。

有岡城
だって、そうでなくては、兜が酒だけを狙う理由の説明になりませんもの。

有岡城
生命の行動原理とは、
往往にして心身の糧を得ることに起因しますからね……。

伊丹城
でも、あのちっこい兜たちが酒を飲んでる様子はなかったわ。
いったい、誰の為に酒を集めてるって言うのよ?

やくも
……兜さんが、誰の為に働くか……。

やくも
ま、まさか!?

千狐
――そう、巨大兜ですわ!

やくも
うわ~~~んっ!!
うちが言うつもりだったのに、何で先に言うんやぁ!

千狐
ご、ごめんね、やくも。
別に悪気があったわけじゃないのよ……。

伊丹城
ねえ、巨大兜って……なんなの?

千狐
今まで戦ってきた兜よりもずっと巨大な身体を持ち、
比べものにならない程に強大な力を有する兜のことですわ。

有岡城
あの……それってもしかして、
あんな感じの兜じゃないですよね……?

千狐
……え? 

有岡城の指差す方に殿たちが視線を向けるのと同時に、
聴く者すべてを震え上がらせるような怒号が響いた。

黒田長政
グォォォォォォオオオオオオオッッッッッ――!!!
ワシの酒は……ドコじゃぁぁぁあああッッッ!!

清らかなる酒を求めて -急-

ついに姿を現した巨大兜・黒田長政。
その目的が伊丹酒にあるというのならば
この地の人々の為、今こそ敵を討つべし!

前半
黒田長政

グォォォォォォオオオオオオオッッッッッ――!!!
ワシの酒は……ドコじゃぁぁぁあああッッッ!!

有岡城
あ、あれが……巨大兜?

伊丹城
何て禍々しい気なの……。

伊丹城
こうして対峙しているだけで、
倒れてしまいそうになる程の威圧感だわ……。

有岡城
あれが、わたしたちの大事な伊丹酒を狙っている
張本人というわけですか……。

やくも
間違いないがや!
きっと自分の力を更に強くしようって魂胆だに!

千狐
このまま放っておく訳にはいきませんわ!

千狐
――って、有岡城さん!?
どこに行くのですか!?

有岡城
巨大兜さんに少しばかりお説教を……フフフ。

千狐
な、何を言ってるのですか!?
近づいては危険ですわ!

黒田長政
何だキサマはぁ……!?
ワシの……ワシの酒はドコじゃぁアアアアアッッッ!!

有岡城
あなたのような傍若無人な方に振る舞う酒など、
この地には一滴も在りはしませんよ。

黒田長政
……なんじゃとォ?

有岡城
それよりも、わたし達の大事な伊丹の清酒を
返しては頂けませんか?

有岡城
今すぐに己の過ちを認め、
相応の謝罪を口にすることが出来るのならば、
有岡城特製のこの饅頭と交換してあげてもよろしいのですよ?

黒田長政
…………下らぬことをベラベラとぉ……。

黒田長政
ワシの酒はドコじゃと……聞いておる
だろうガァァァァアアッッッ――!!

巨大兜は雄叫びと共に、その双腕にて大地を殴打した。

有岡城
な、何という腕力でしょう……!

有岡城
村に設置されていた橋のいくつかが
今ので壊れてしまったようですね……。

有岡城
それに……破壊された橋の下からは、
海洋型と思しき兜が出現……ですか。

有岡城
(単体の力は言うに及ばず……、
統率力もそれなりにあるのですね……。)

有岡城
(巨大兜……ですか。
中々に面白い存在のようですね……フフフ。)

千狐
有岡城さん!
今すぐそこから離れて下さい!
この場は千狐たちが引き受けます!

伊丹城
心配しなくても、大丈夫よ。

伊丹城
有岡城の逃げ足の速さは天下一品なんだから。
気づいたら目の前から姿を――、

伊丹城
――って、もういないし。

やくも
本当や……いつのまにかいなくなってるだに……。

千狐
そんな、一瞬しか目を離していないのにいったいどうやって……?

千狐
でも、好都合ですわ!
殿、このままあの巨大兜を引き付けて、
ここで討伐してしまいましょう!

後半
伊丹城

まさか、本当にあの巨大兜を倒しちゃうだなんて……。

伊丹城
殿……貴方って、実はかなりすごい人なのね!?

伊丹城
よーし、取り返した伊丹酒でさっそく祝いの――、

千狐
――まだ、油断してはいけませんわ!

伊丹城
……え?

やくも
と、殿さん! あれを見るだに!!

兜軍団
黒田様……御膳酒ヲ……、
御身ニ……ドウカ御身ニィィィッ!!

黒田長政
酒……ワシの酒ェッ……呑むァ……呑むィィ……呑むならぶぁァアアッッ!!
日ノ本イチ……い、イチッ、いぢぃぃ、ノォォォォオオッッッ――!!

黒田長政
グゥォォォォォォオオオオオオオッッッッッ――!!!

千狐
そんな……先程までボロボロだったのに……、
立ち上がったわ……!?

やくも
やっぱり伊丹酒は兜さんにも力を与えるんや……。

伊丹城
くそ……あんな得体の知れないヤツらに
私たちの大事なお酒が利用されるなんて……!

黒田長政
ワシの酒ェッ……再び、取り戻しに来るゾォォオッ!!
覚悟シテおくのだ……ワシの……酒ぇ……酒ぇええええッッッ!!

千狐
……………………。

千狐
何とか……退いてくれましたね。

千狐
あのまま攻め込まれていたらと思うと、
ぞっとしますわ……。

有岡城
本当ですね……何とか無事に済んで良かったです。

やくも
――ひゃぅっっ!?
い、いつのまに背後にいたがや!?

千狐
有岡城さん!
よかった、お怪我はないのですね?

有岡城
おかげさまで、わたしも大事ないですよ。

有岡城
ただ、着物を纏って水路を移動するのは
少しばかり骨でした……はぁ。

やくも
よく見たら、ずぶ濡れだに!

千狐
もしかして、川を泳いで逃げたのですか?

伊丹城
まあ、そうじゃなきゃ、
あの状況で巨大兜の前から姿なんか消せないわよねぇ。

伊丹城
それにしても、よく海洋型の兜に出会さなかったわね?

有岡城
運が良かったのですよ。
昔から、逃げる時だけは天が味方してくれるのです、ふふ。

有岡城
(というより、
既に兜の動きは大方把握できてしまったから、
と言った方が正しいのでしょうけどね……フフフ。)

伊丹城
まあ、何にせよ無事でよかったわ。

伊丹城
それよりも、これからどうしようか。
あの様子じゃ、また兜が攻めてくるのは間違いないわ。

千狐
ですが、現状では巨大兜の気配はかなり遠くまで
離れていっているのが千狐には分かります……。

千狐
ですので、再びの襲撃に備えるだけの時間はありそうですわ。

伊丹城
なら、少し休憩してから
外壁や村周辺の設備の補強の為に資材を探しに行きましょう?

伊丹城
この辺りの地理なら任せてちょうだい。
しっかり案内してあげるわ!

やくも
じゃあ資材が手に入ったら
うちが色んなもん直したる!
何か作ったりするのはうちの得意分野だに!

やくも
差し当たっては壊れた橋を修復したるけん、
うちに任しときぃっ!

有岡城
そういうことでしたら、
微力ながらわたしも是非お手伝いさせてください!

千狐
それでは、一先ずは休憩しましょう。
殿も連戦にてお疲れでしょうから、
たっぷりと休息をとってくださいね。

清らかなる酒を求めて -離-

殿たちの警戒の隙をついて兜が攻めてきた。
伊丹酒の力によって更なる敏速さ獲得した
兜達の猛攻を、何としても退けよ!

前半
――有岡城たちとの出会いから、五日後……。

有岡城
はい、お饅頭ですよぉ、殿。
あ~ん、してください。

殿
…………。

千狐
――なっ!?

千狐
何をしてるのですか、有岡城さん!

有岡城
何って……。

有岡城
殿にお饅頭を、分けてあげてるだけですが?

千狐
それは、その……見れば分かりますが……。

千狐
(……う、うらやましすぎるのぉ……!)

千狐
(いつも殿の傍にいる千狐ですら、
あ~ん、なんてしたことないのにぃ……!)

やくも
どうした、千狐?
そげな怖い顔して……もぐもぐもぐ……。

やくも
有岡城のお饅頭を分けて欲しいなら、
うちから頼んであげーけん、遠慮しないで言うだに。

千狐
そういうことじゃないのー!

千狐
って、やくももお饅頭食べてるの!?

やくも
だって……んぐんぐ……、
有岡城がくれるっていうから……ゴクン……。
遠慮しちゃ悪いと思ったけん、えっぱいもらっただに!

千狐
もうっ! 食べながら話したりしないの!
お行儀悪いわよ!

有岡城
まあまあ、そんなに目くじら立てないでください。

有岡城
ほら見て下さい。
千狐さんの分だって、ちゃんと用意してるのですからね。

千狐
わぁ~♪ 美味しそうなの~!

千狐
――って、そうではなくてですね!

千狐
皆さん、緊張感が足りないと思います!

千狐
兜たちはまたいつ此の地に攻めてくるか分からないのですよ?

千狐
今一度、気を引き締めなくては、
突然の襲撃に抗することはできませんわ!

やくも
とは言ってもなぁ……。

やくも
伊丹城は今日もお酒飲んでるけん、
気を引き締めよーなんて無理な気がするだに……

伊丹城
ちょっとちょっとぉ!
変な言いがかりはやめてよね、やくもちゃん?

伊丹城
私、今日はお酒飲んでないわよ!

やくも
なら証拠を見せるだに……!

伊丹城
ふぅ~~~。
……ほら、息だってお酒クサくないでしょ?

やくも
ほ、ほんとうだに……!?

やくも
……あれ?
でも、じゃあ何でさっきから周囲がお酒クサいがや?

千狐
確かに……言われてみれば、どこからかお酒の匂いがするわ……。

伊丹城
え、やだ……ちょっと怖いんだけど……。

伊丹城
ねえ、有岡城……どういうことなの?

有岡城
心配することないですよ、伊丹城ちゃん。

有岡城
だって、この匂いは……、

有岡城
向こうにある、伊丹酒が納められた蔵を、
兜があさってるのが原因だって分かってますから。

伊丹城
な~んだ、兜のせいか。
原因が分かってるなら何にも心配は……、

伊丹城
……へ? 兜……?

やくも
蔵を……あさってる……?

兜軍団
黒田様ニ……伊丹ノ酒ヲ……、
黒田様ニ……伊丹ノ酒ヲォオオ……。

千狐
て、敵襲ですわーっ!?

やくも
こらぁーっ!!
うちが見てないところで、
何をコソコソやってるだにぃ!


……発見サレリッ!?

兜軍団
作戦変更……作戦変更……ッ!
即時、敵ヲ掃滅セヨッ!

伊丹城
ね、ねえ……向こうから走ってくる兜だけど、
何だか前に戦った時よりも、動きが速くなってない?

有岡城
あらあら、そうみたいですねぇ。

有岡城
(巨大兜だけでなく、
小型の方も伊丹酒から力を得たようですね……フフフ。
身体の大小に関係なく、器用さは備えているようね……)

やくも
少しくらい走る速さが速くなったからって、
殿さんにとっちゃ、どうということはないだにっ!

千狐
殿、敵が攻め入ってきます!
ここで迎え撃ち、兜による伊丹酒の奪取を阻止しましょう!

後半
伊丹城

ふっふっふー!
見たか、殿の実力を!

有岡城
伊丹城ちゃん、逃げてく兜に威張るのはいいですが、
わたしたちは何もしてないことを忘れないで下さいね~?

千狐
…………おかしいですわ。

伊丹城
どうしたの、千狐ちゃん?

千狐
てっきり、巨大兜も一緒にいるのだと思っていましたが、
気配が感じられませんでした……。

伊丹城
……確かに、腑に落ちないね。

伊丹城
あれだけ酒を求めていたのに、
何で小さな兜と一緒に攻めてこなかったんだろう。

やくも
……巨大兜が、攻めてこなかった理由……。

やくも
――ハッ!?

やくも
きっと、二日酔いだに!

やくも
前に殿と戦った時、しこたま飲んでたけん、
まだ立ち上がることもできないくら頭がんがんしちょーやね。

千狐
やくも、場の空気を和ませようって気持ちは嬉しいけど、
今は真面目に考えてちょうだい。

やくも
…………っ!?

やくも
(ま、真面目に考えて導き出した答えだったのに……!)

伊丹城
ねえ、有岡城……。

伊丹城
あなたなら、既にもう、何か分かってるんじゃないの?

有岡城
伊丹城ちゃん……。

有岡城
少しだけ、わたしを買いかぶりすぎですよ。

有岡城
ただ……先ほどの敵がそもそも斥候だったとしたら、
少々まずいことになりそうです……。

伊丹城
まさか、本軍がすぐ近くに控えているとでも……?

有岡城
可能性が無いとは、言い切れないですね。

有岡城
(いや、そうでなくては面白くありません……)

有岡城
(きっと、奴等はより苛烈に攻め入ってくるはず……)

有岡城
(殿……次こそがあなたの真価が試される時です……)

有岡城
(わたしの心を曇らせるような、
無様な戦いは、しないでくださいね……?)

清らかなる酒を求めて -結-

黄昏の茜が、摂津の天地を染めし時、
美酒を求める巨大な兜が再び姿を現した。
今こそ全霊を賭して、眼前の脅威に挑め!

前半
伊丹城

……陽が、茜色に染まっていくわ。

伊丹城
どうしてだろう……嫌な予感がどんどん大きくなってくるわ……。

有岡城
逢魔が時とはよく言ったものですね……。

有岡城
城娘の力を失えど、
近づいていくる邪なる気の存在は、
今のわたしにもしっかりと感じることができます……。

千狐
……はい。
敵は、もうすぐそこまで来ているようですわ。

やくも
と、殿さん!?
あっちの方から……大きな足音が聞こえてきただに……。

殿たちが向ける視線の先に、
巨大な人型の夕影が、ゆっくりと歩を進めてきていた。

黒田長政
戻ってきたゾ……。

黒田長政
ワシはァァッ……戻ってきたゾォォォオオオッ――――!!!

伊丹城
――くぅっ……。
相変わらずの馬鹿でかい怒声ね……!
耳が痛くてかなわないわ……。

やくも
あんなの、こけおどしがや……!
どうせまた、殿さんに負けるに決まってるだに。

千狐
…………!

千狐
……ち、違う……。
ただ戻ってきたわけじゃないわ……!

伊丹城
どういうこと……?

千狐
前に戦った時の巨大兜とは、
身に宿している気の大きさが違いすぎます!

千狐
信じられない……。
あれほどの力を、隠し持っていたなんて……!

黒田長政
グゥォォォォォォオオオオオオオッッッッッ――!!!

黒田長政
ワシの酒ェッ……今度こそ……奪い尽くしてやるゾォォォオオオッ!!!

やくも
――なっ、なんや、あれ……!?

やくも
あたりに散らばっちょー伊丹の酒を、
手当たり次第に飲みまくってるだにぃ!

伊丹城
より己の力を高めようとしてるんだわ……。

伊丹城
私たちの大事な酒が、あんな奴の力になるなんて……!

千狐
伊丹城さん……。

やくも
そげなことより、
二人はさっさと此処から離れるがや!

伊丹城
……くそ、私たちはただ見てることしかできないなんて……!

有岡城
伊丹城ちゃん……この場は殿に任せるしかありません。

有岡城
さ、邪魔になってはいけません。
安全な場所に行きましょう……。

有岡城
(あの巨大兜……奪い取っていた伊丹酒の力を使い、
あれほどまでに自己を強化するとは……)

有岡城
(想像以上です……兜とは、これほどの存在でしたか……フフフ)

黒田長政
覚悟せィッ……不届者めェ……。

黒田長政
ワシから酒を遠ざけた愚行をォ……あの世で後悔しろォォォオオオッ!!!

後半
黒田長政

酒ェッ……ごふッ、ぐぅぅ……うゥゥ……ッ、
何故、ワシのォッ、サ、酒をォォ……さげをォォォ……ガッ、あッ、ァァあぁ……。

伊丹城
ふざけるなっ!
伊丹の酒は、貴様のような不浄の輩が口にすべきものではないわ!

伊丹城
殿、お願い!
はやくあいつにトドメを――。

有岡城
――危ない、伊丹城ちゃん!!

兜軍団
穿ァツ……穿ツゥゥ……ッ!
黒田様ヲ脅かす輩ヲ……遠ザケヨッ!!
黒田様ヲ脅かす輩ヲ……遠ザケヨォオッ!!

伊丹城
くっそ……後衛を備えていたなんて……っ!
有岡城がいなかったら、あの槍で貫かれているところだったわ。

有岡城
落ち着いて伊丹城ちゃん!
力を取り戻せていない今、無闇に前に出てはいけません。

やくも
そうだに……!
撤退する時の兜さんの守りは、尋常じゃないくらい堅いがや。

やくも
悔しいけど、今は手を出さない方がいいだに……。

千狐
そうね……。
巨大兜も相当な痛手を負ったようですし、
当分は悪事を働くことはできないでしょう。

伊丹城
……そういうことなら、しょうがないわね……。

有岡城
…………。

有岡城
(後衛を退けて目標に肉迫したところで、あの巨大兜を完全に滅する手段は、
今の殿たちには無いというのが、実情といったところなのでしょうね……)

有岡城
(……兜、ですか)

有岡城
(もっと我等の敵を深く知らなくては、殿はこの先も苦しみ続けることに……)

千狐
……?
あの、有岡城さん……どうしたのですか?

有岡城
……え?

有岡城
あ、いえ……。
どうやら、敵を退けられたという安堵によって、
少しの間、放心してしまっていたようです。

千狐
無理もありませんわ。
ずっと、気を張ってこの地を守ろうとしていたのですから……。

やくも
(むぅぅ……伊丹城も有岡城も何だか疲れ切ってるみたいだに……)

やくも
(よし、そうとなれば……!)

やくも
なぁなぁ、一度所領に戻って、
みんなでしっかり休息を取るっていうのはどうがや?

伊丹城
……所領?

千狐
所領は、我々の拠点です。

千狐
たしかに、やくもの言うとおり、
一度所領にてしっかり身体を休めた方がいいと思いますわ。

伊丹城
どうする、有岡城?

有岡城
あら? 伊丹城ちゃんには、
こんな素晴らしい申し出を断る理由があるのですか?

伊丹城
ないない、在るわけないって!

有岡城
それじゃあ決まりですね。

有岡城
ただ……心配なことが二つあります。

千狐
心配なこと? 
……な、何でしょうか?

有岡城
私たちがいない間の、
この地の守りはどうしましょうか?

やくも
うちや仲間の城娘が交代で警備にあたるだに!

有岡城
では、もう一つの心配事に関してです。

有岡城
……あの、ここから所領に行くには、
どれくらいの時間を要するのでしょうか?

やくも
……あぁ、そういうことかや。

やくも
それについてはな~んも心配いらないだに!

有岡城
……え?

やくも
だって、千狐の転移術があるけん、
時間なんてまったくかからんだに。

伊丹城
転移術……?

有岡城
何だか面白そうな術を使えるようですね……ふふ。

有岡城
では、その素敵な転移術にて、
我々を所領へと誘って頂けますか?

千狐
はい。任せて下さい!

千狐
では、殿。
一度、しっかりと休息をとった後、
伊丹酒の収集を再開することに致しましょう!

――子の刻、所領。

既に所領の者達は皆、
戦の疲労と勝利の誇らしさを抱き、深き眠りについていた。

殿と、ひとりの城娘を除いて――。

伊丹城
……お? よかったよかった、まだ起きてたみたいね♪

伊丹城
有岡城のやつ、何だかんだですごく疲れてたみたいで、
部屋についた途端、すぐに眠っちゃったよ。

伊丹城
…………。

伊丹城
あはは……どうしよう。
何か、殿に色々と話したいことがあったんだけど、
……緊張してとんじゃったみたい……。

伊丹城
あ、何よその顔ぉ……?

伊丹城
仕方ないでしょう?

伊丹城
今はお酒も入ってないし……。

伊丹城
それに……、
素面で殿と二人きりだと……何かどきどきしちゃうのよ……。

伊丹城
って、こんなの柄じゃないわね……あはは。

伊丹城
ただ、お礼だけちゃんと言っておきたかったのよ。

伊丹城
私たちの故郷を守る為に、
力を貸してくれて、本当にありがとう。

伊丹城
本当なら、今日の勝利を祝って夜通し酒盛りだぁー、とかって思ってたんだけど、

伊丹城
まだ私も有岡城も、城娘の力を取り戻してないから……。

伊丹城
だから、ちゃんと私たちの本当の力と姿を取り戻したら、

伊丹城
その時は、一緒にお祝いのお酒……飲もうね?

伊丹城
…………。

伊丹城
…………うん!

伊丹城
それじゃあ明日からも、よろしくね?
では、おやすみなさい、殿♪

清らかなる酒を求めて -絶-

――有岡城、兜の手中に落つ。
伊丹城のその言葉を受け、殿たちは
再び摂津へと向かうこととなる……。

前半
――戌の刻、摂津国、某村付近。

有岡城
…………はぁ。

有岡城
いったい、いつになったらわたしの力は完全に戻るのでしょうか……。

有岡城
一刻も早く、殿の力になりたいとは思えど、
現実は己の不甲斐なさを突きつけてくるばかり……。

有岡城
…………と、いけませんね。

有岡城
気ばかり焦って、こんな場所に独りできてしまっては、
殿を心配させてしまいます……もう戻らなくては……。

兜軍団
――ザザッ、ザザザッ!!

有岡城
……えっ!?

兜軍団
…………城娘…………。
城娘…………。
……………………城娘……。

有岡城
…………?

有岡城
…………そう。

有岡城
そういうことですか。

有岡城
その瘴気にて、我が心身を奪おうというのですね……。

兜軍団
伊丹ノ酒……飲ミ干セ…………。

兜軍団
……取リ戻セ……大イナル力……。

兜軍団
……思イ出セ……己ガ真ノ姿……。

兜軍団
覚醒セヨ……城娘……覚醒セヨ……城娘……。

有岡城
…………ふふ。

有岡城
殿……ごめんなさい。

有岡城
わたしは……アナタの為に…………我が心ヲ……。

兜の手より譲り受けた伊丹の清酒を、
有岡城は、瞳を閉じてゆっくりと飲み干していく……。

すると、徐に彼女の身体を柔い光が包み込み――

――次の刹那。
有岡城は、在るべき姿で摂津の地に立っていた。

有岡城
…………是が、わたし。

有岡城
そう……是こそガ、有岡城なのです、殿…………フフフ。

――亥の刻、所領。

伊丹城
殿、大変なことになったわ!!

千狐
きゅ、急にどうしたのですか、伊丹城さん?

伊丹城
どうしたもこうしたもないわよ!

伊丹城
有岡城が……兜の手に落ちたわ……!

やくも
――えっ!?

やくも
それは……いったいどういうことだに!?

伊丹城
説明なんてしてる暇ないわ!

伊丹城
とにかくすぐに有岡城のところに行かないと……。

伊丹城
じゃないと……有岡城が、
自分の手で大切なものを壊すことになる……。

伊丹城
それだけは絶対に阻止しないと……。

千狐
……分かりました!

千狐
殿、大至急、有岡城さんの許へと向かいましょう!

殿
…………。

殿
…………!

――子の刻 、摂津国、某村付近。

千狐
目的の場所に到着しました!

千狐
で、有岡城さんはいったいどこにいるのですか?

伊丹城
おかしい……先刻まで、この地で兜と肩を並べていたはずなのに……。

やくも
兜と肩を……!?

やくも
それってつまり、兜の仲間になったってことがや!?

千狐
落ち着いてやくも!

千狐
恐らくは、瘴気による操心術のはず……。
そうでなくては、有岡城さんが千狐たちを裏切るわけないわ!

伊丹城
裏切るわけない、か……。

伊丹城
…………。

千狐
……伊丹城さん?

???
フフフ……。
ようやく来て下さっタのですね、殿。

やくも
だ、誰や!?
姿を現すだにぃっ!!

有岡城
まァ……すごい剣幕ですネ、やくもちゃん。

やくも
……あ、有岡城……!?

千狐
その格好は、いったい……!?

有岡城
フフフ……どうですか、殿?
これが、わたしの、本当ノ姿です……お気に召しましタカ?

殿
…………。

伊丹城
有岡城……あなた、本当に兜に操られているの?

有岡城
……操られていル?

有岡城
瘴気によって、操られていル……。

有岡城
エエ、そうですヨ、伊丹城ちゃん。

有岡城
わたしは今、兜に操られてイルのです♪

有岡城
だから、殿を裏切るコトは、道理に適った行為……デスヨネ?

伊丹城
…………っ!

伊丹城
有岡城……あなた、まさか……!?

兜軍団
――ザザッ、ザザザッ!!

千狐
伊丹城さん、危ないですわ!

伊丹城
くそ……これ以上近づけないだなんて……!

有岡城
フフフ……いい反応ですヨ、兜たち。

有岡城
アナタ達のおかげで、今のわたしは完全なる力を取り戻し、
殿の前に立つことが出来ている……。

有岡城
殿……わたしは、
もうアナタに守られるだけの存在ではアリません。

殿
…………。

有岡城
怖がらなくてもイイのです……。

有岡城
アナタを二度と戦えない身体にした後、
わたしが大事ニ大事ニ、安全ナ場所ニ閉じ込めテ、
ずぅっとお世話してあげますからネ……フフフ。

やくも
…………何や、恐ろしいこと言ってるだに……。

千狐
どう見たって、今の有岡城さんは正常ではないわ……!

千狐
殿、これ以上、彼女の心が兜に弄ばれる前に、
何とか正気に戻すしかありません!

伊丹城
殿……気をつけて。

伊丹城
力を取り戻した有岡城は……強いよ。

伊丹城
でも、私はあなたが勝つって信じてる……。

伊丹城
だから……私の大事な友達を、助けて……お願い……。

殿
…………。

殿
…………!

有岡城
さあ、お喋りはそこまでですよ、殿。

有岡城
……死なない程度に、痛めつけてあげますカラ……ネ♪

後半
千狐

……ど、どうやら……勝てた、ようですね……?

やくも
それにしてもありえない強さだったがや……。

やくも
……というより、
有岡城があんな怪力の持ち主だったなんて、
知らんかっただに……。

有岡城
…………う、ぅぅぅ……。

伊丹城
有岡城……っ!
待ってて、今助けに行くわ!

有岡城
……伊丹城……ちゃん?

有岡城
……あれ?
ここは? それに、わたし……どうして……?

有岡城
――くっ、つぁ……はぁ、はぁ……。

有岡城
伊丹城……ちゃん……。
どうして……わたし、こんなに身体が、痛いのかしら……?

伊丹城
ばか……動かないの!
あなたは、先刻まで殿と戦ってたのよ……。

有岡城
……わたしが、殿……と?

有岡城
その冗談……あんまり笑えないです、伊丹城ちゃん。

伊丹城
……覚えてないなら、それでいいよ。

伊丹城
ああ……それで、いいんだ……有岡城……。

有岡城
……?

有岡城
変な伊丹城ちゃん……。

千狐
なんにせよ、
有岡城さんが無事で良かったですわ。

やくも
何が『無事で良かったですわ』だに!

やくも
見ての通り、有岡城の身体はボロボロがや……。

伊丹城
安心して、やくもちゃん。
さっきの兜たちの戦いのおかげで、
ここには伊丹酒がいっぱいあるんだから。

やくも
伊丹酒……?

やくも
――そ、そうかや!?

やくも
伊丹の酒を口にすれば、
有岡城は元気になるんやったね!

伊丹城
そういうことよ♪

伊丹城
それじゃあ、有岡城救出のお祝いをかねて、
私もい~ぱい、取り戻した伊丹酒を飲んじゃうわよぉ~♪

伊丹城
それ~、ドボドボドボ~っと♪

千狐
あの、えっと……伊丹城さん。

千狐
ほどほどに……本当に、ほどほどにお願いしますね?

伊丹城
らいじょ~ぶらってばぁ~♪
わたひが泥酔するとかぁ~、滅多にないんらからぁ~♪

やくも
――酔っ払うの早すぎだにっ!?

千狐
もぉ……誰が所領まで担ぐと思ってるのよぉ……。

やくも
転移術の都合上、伊丹城を担ぐんは
千狐の役目やけん、ご愁傷様だに……。

千狐
言われなくても分かってるもん……。

千狐
…………。

千狐
あ~もうっ!!

千狐
こうなったら、千狐も今日は飲むのー!

やくも
……はぇ?

やくも
いやいやいや、それはダメだに!

やくも
千狐が酔っ払ったら、
所領に帰れなくなるだにぃ~っ!!

千狐
止めないで、やくも!

千狐
今日くらいは千狐だって、千狐だってぇ……うぅぅぅ……。

殿
…………。

殿
…………!

有岡城
あ、あの……。

有岡城
はやく、わたしにも……伊丹酒を…………。

こうして、摂津の夜は更けていくのだった。

――同日、寅の刻、所領。

夜明けの冴えた空気が、
わずかに震えるのを殿は感じた。

気づいた時には、
その美しき城娘が、眼前に立っていた。

有岡城
殿は……まだ、床には就かれないのですか?

有岡城
――え? わたし、ですか?

有岡城
身体はまだ少し痛みますが、
何だか全然眠くなくて……。

有岡城
……だから、こうして来ちゃいました。

有岡城
それに……お腹もすいちゃいましたので、
こうしてお饅頭を食べているのです……もぐもぐもぐ……。

有岡城
…………。

有岡城
で、殿はいつから気づいていたのですか?

有岡城
……ふふ、誤魔化しても無駄ですよ。

有岡城
わたしが、操られているふりをしていたの、
分かっていたのでしょう?

有岡城
せっかくわたしがあなたを安全な場所に閉じ込めて、
兜との飽くなき闘争の螺旋から救ってあげようとしたのに……。

有岡城
ねえ、殿……。

有岡城
ここで、戦いの続き……しますか?

有岡城
…………。

有岡城
……ふふふ。

有岡城
なぁんて、冗談ですよ。

有岡城
びっくりしちゃいましたか?

有岡城
実はさっき、伊丹城ちゃんに、
わたしの身に起こっていたこと、ぜんぶ教えてもらったのです。

有岡城
だから……その……ごめんなさい。

有岡城
兜に簡単に心を明け渡し、兜達の手先となってしまうなど、
城娘として……最も恥ずべき事柄の一つですよね……。

有岡城
もっと、強い自分にならなくては……。

有岡城
……そしていつか、あなたの仲間として、
共に兜と戦えるようになりたいです……。

有岡城
……それが、今のわたしの……誠心にございます。

有岡城
それでは、今日のところは失礼しますね。

有岡城
…………。

有岡城
……殿。

有岡城
わたしの心を……救ってくれて、ありがとう……。

有岡城
もう、大丈夫ですから……ね。



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