ストーリーテキスト/浜に轟けどんどこどーん

ページ名:ストーリーテキスト/浜に轟けどんどこどーん

目次

浜に轟けどんどこどーん[]

浜に轟けどんどこどーん -序-

肥前国へ転移した一行を唐津城が出迎える。
しかし同じ頃、付近では兜の軍勢が息を潜め、
宴の開催を今か今かと待ちかねていた……。

前半

立花山城
……さて。
唐津城の御城に到着したわ。
これでようやく、この水着を活かせるわけね。

栗橋城
海から離れていることもあって、
わたくしの御城では、海水浴は出来ずじまいでしたものね……。

立花山城
まぁ……水着に着替える意味はあったと思うけどね。
殿にもたっぷり見てもらえたことだし。
……ね、柳川城?

柳川城
え……あ、まぁ……。
そう……かもしれませんね……はいぃ。

白鷺城
……ここが唐津城さんの御城。

白鷺城
(新しい城娘との出会いが、また……。
 上手くお喋りできるかしら……)

栗橋城
……ふふ。大丈夫ですか、白鷺城さん?

白鷺城
……あ、はい。少々考え事を……。

烏城
俯いてばかりではもったいないわ。
せっかく海に来たんだから、
もっと景色を楽しみましょう……ね?

白鷺城
……はい。
そうですね……ありがとうございます。

???
との~! とーのー!!

殿
…………?

唐津城
来てくれてありがと~!
えへへ……久しぶりに会えたねっ、殿♪

殿
…………!

唐津城
殿が来てくれるって決まってから、
アタシ……楽しみで、楽しみで……。
夜も眠れなかったくらいなんだから!

唐津城
今年の夏は、一緒に素敵な思い出をいっぱい作ろうね♪

やくも
……ところで唐津城は、勉学の方は順調なんだに?

唐津城
……えっ、勉学?

千狐
高鍋城さんの学び舎で、勉学に励まれていましたよね?
度々、高鍋城さんに追い回されていたので、
今日は大丈夫なのでしょうか……と思ったのですが。

唐津城
……高鍋城ちゃん?
あー、うん……勉学ね、勉学……。

唐津城
…………。

唐津城
そ、それなら大丈夫。
宿題はもう全部終わらせたから!
あとは夏が終わるまで遊ぶだけ!

殿
…………。

烏城
……なんだか、嫌な予感がするわね。

柳川城
同感です……。

唐津城
い、いいじゃない、細かい話は!
とにかく今日は、みんなで海を楽しもうよ……ね?

殿
…………!

栗橋城
ここにいらっしゃるのは、唐津城さんだけなのですか?

唐津城
ふふん……実はね、他にも城娘を招待してるんだよ♪

唐津城
さっき島原城ちゃんがここに着いて、
あとはー……丹波亀山城ちゃんもそろそろ着く頃かな。
ねぇ、島原城ちゃん?

唐津城
…………。

唐津城
――あれ? 島原城ちゃんは?

立花山城
貴方がここに現れた時から、
島原城の姿は無かったけど……?

唐津城
あれぇ……おっかしいなー?
さっきまで傍に居たはずなんだけど……?

――――

突撃式トッパイ形兜
――シテ、進捗ノ程ハ?

桃形兜
……ハッ。
近隣ノ兜タチハ、
着々ト此地ニ集マリツツアリマス。

突撃式トッパイ形兜
城娘タチノ気配ハ?

桃形兜
……ゴ安心クダサイ。
周囲ニ人影ガ無イコトハ確認済ミデス。

突撃式トッパイ形兜
……デハ、夏ヲ楽シム用意ハ?

桃形兜
……無論、ソチラモ抜カリ無ク。

突撃式トッパイ形兜
……サーフボードハ?

桃形兜
無論。

突撃式トッパイ形兜
シュノーケルハ……浮キ輪ハ?
……スイカハ!?

桃形兜
無論無論、無論デゴザイマス……!

突撃式トッパイ形兜
……ソウカ。
フフ、フフフ……。

突撃式トッパイ形兜
――時ハ来タ!

突撃式トッパイ形兜
兜タチハ今、佳境ノ只中ニアル。
ダガ、ソンナ中ニアッテモ――イヤ、ソンナ中ダカラコソ!
夏ヲ楽シマナケレバナラナイ……ソウダロウ!?

兜軍団
ソウダソウダ!
   ソウダソウダ!
      ソウダソウダ!

突撃式トッパイ形兜
……ヨッテ!
今年コソハ城娘ニ邪魔サレルコトナク、
夏ヲ満喫スルタメニ力ヲ尽クス!

突撃式トッパイ形兜
モシ城娘ニ気付カレタトシテモ、構ワナイ。
コノ軍勢デ、蹂躙シテヤル――!

???
――ふぅん。

島原城
面白そうな話をしてるじゃない?

突撃式トッパイ形兜
――ハッ、城娘ッ!?

島原城
予感はしてたのよね……。
唐津城の頭は、殿と遊ぶことでいっぱいだし、
兜がこの隙に付け入るかも……ってね。

突撃式トッパイ形兜
グ、グギギ……!

突撃式トッパイ形兜
ヤ、奴ヲ逃ガスナ!
仲間ト合流スル前ニ捕ラエルノダッ!

兜軍団
御意ッ! 御意ッ! 御意ッ!

島原城
……あら、意外ね。
もう少し慌てふためくと思ったのに。

島原城
(……流石に一人では分が悪いわね。
 ここは退き、唐津城の許へ向かいましょう。
 殿の一行が到着していたら、好都合なのだけど)

合戦中

島原城
――殿、殿は居る!?
力を貸してちょうだい、兜の軍勢よ!
付近に潜んでいたの!

殿
…………!?

唐津城
か、兜……!?
大変……殿と過ごす夏が邪魔されちゃうよ!
絶対、アタシが食い止めてみせるんだから!

島原城
理解が早くて助かるわ。
再会を喜ぶのは、兜を片付けてから……良いわね?

島原城
……ふぅ。ひとまず、
これで山場は乗り越えたかしら。

唐津城
ありがとう、島原城ちゃん……!
本当にあ゛り゛がどぉ~~!

島原城
ちょっと、あんまりくっつかないでよ。
暑苦しいじゃない……。

島原城
それに、お礼を言うのはまだ早いわ。
兜はまだ、他にも潜んでいるんだからね……。

後半

柳川城
……どういうことなのですか、島原城さん?
兜がまだ、他にも潜んでいるとは……?

島原城
この先に、兜の本拠があるの。
今の戦で私たちが討ったのは、ほんの一部に過ぎないわ。

殿
…………!

唐津城
――っ!?

唐津城
そんなぁ……それじゃ、
殿たちと一緒に夏を楽しむ計画は……?

島原城
……もう、情けない顔をしないの。

島原城
夏を楽しみたいという思いは、ここに居る全員同じ。
だったら……やることは一つ。

島原城
邪魔をするというなら、返り討ちにしてやるまでよ。

浜に轟けどんどこどーん -破-

撤退を余儀なくされた兜の軍勢は、再び身を隠し
今後の方策を練り始める。するとそこに、
ある城娘が姿を現し、兜たちに助力を申し出る。

前半

突撃式トッパイ形兜
ブ、部隊ハ、ドレホド残存シテイル……?

桃形兜
先ノ戦デ、多クノ兵ヲ失ッタ模様デス……。

突撃式トッパイ形兜
マサカ、殿マデ此地ニ訪レテイタトハナ。
ナント間ノ悪イ……。

桃形兜
コノ事態、我ラノ手ニハアマルカト……。

突撃式トッパイ形兜
トナレバ、残リノ兜ヲ連レテ攻メ込ムカ……。
ソレトモ、我ラニトッテ安息ノ地ヲ探スベキカ。

突撃式トッパイ形兜
シカシ、ソンナ場所ガ見ツカル保証ナド――

???
――どうしたんだい? 皆、暗い顔をして?

桃形兜
――ッ!?

丹波亀山城
悪巧みなら、ボクも混ぜてくれよ?

突撃式トッパイ形兜
――城娘ッ!?
先ノ者ニ続イテ、マタシテモ……!

兜軍団
――ザザッ! ザザザッ!!

丹波亀山城
――っと。なんだい、つれないな。

丹波亀山城
刀を抜くのは、
ボクの魂胆を聞いてからでもいいんじゃないか?

丹波亀山城
せっかくこのボクが、
知恵を貸してやろうと思っていたのに。

桃形兜
知恵ヲ? ……城娘ガ、兜ニ?

突撃式トッパイ形兜
待テヨ……聞イタコトガアル。

突撃式トッパイ形兜
丹波亀山城ト言エバ、
『裏切リ』ヲソノ身ニ刻マレタ城娘。

突撃式トッパイ形兜
詳シクハ知ラナイガ……過去ニハ兜ニ味方シ、
城娘タチト敵対シタコトガアルト言ウ。

桃形兜
ナント……ソレハ誠デスカ?

丹波亀山城
ふふ……その通り。よく知ってるじゃないか。

丹波亀山城
海辺で仲良しこよしだなんて、
面白くないと思っていたんだ。

桃形兜
ダガ……殿ノ一行モ加ワッタ今、
我々ニ勝機ナド……。

丹波亀山城
……いや。
逃走を決め込むには、まだ尚早だよ。

突撃式トッパイ形兜
……ナンダト?

丹波亀山城
殿が現れたことを気に病んでいるようだが……裏を返せばそれは、
城娘と殿を一網打尽にする、好機と考えることもできる。

丹波亀山城
これだけの軍勢とボクの頭があれば、
それを成し遂げることは……難しくない。

突撃式トッパイ形兜
……ホウ。

突撃式トッパイ形兜
……ソレデハ、
詳シイ話ヲ聞カセテモラオウカ、丹波亀山城?

――――

千狐
――コンッ!?

やくも
どうしたんだに、千狐!?

唐津城
……来た、来たよ殿!
また兜がずらーっと、軍をなして……!

島原城
ったく、兜の奴ら……懲りないんだから……!

白鷺城
――お、お待ちください。
敵は兜だけではないようです……!

栗橋城
……本当ですわ。
軍の中に一人、装いの違うものが……あれは――

殿
…………!?

柳川城
――丹波亀山城さんっ!?

――――

丹波亀山城
ふふ……さぁ。
殿たちはこれにどう応じるかな……。

合戦中

柳川城
――丹波亀山城さん!
どうして貴方が、兜の軍勢と……?

丹波亀山城
敵に向かって言葉を投げかけるとは、悠長だね。
ボクの真意なんて、状況を見れば明らかだろう?

柳川城
…………。

丹波亀山城
お喋りはここまでだ。
さぁ、兜よ……進軍せよ!

丹波亀山城
ふ、兜の奴らめ……。
ボクが裏切り者であることは知っていたのに、
ボクに裏切られることまでは頭が回らなかったらしい。

柳川城
大丈夫ですか、丹波亀山城さんっ!?

後半

立花山城
ちょっと……無事なの?
兜の爆弾に巻き込まれていたように見えたけれど……。

丹波亀山城
直前で離脱しようと思ったのだけど、
失敗してしまったね。

丹波亀山城
気にすることはない。自業自得というやつさ。
ボクみたいな城娘には、お似合いの末路だよ。

白鷺城
……そんなことはありません。

殿
…………!

白鷺城
兜の軍勢は……丹波亀山城さんに、
従っていました。整然と統一されてはいましたが、
それ故に、御しやすい動きになっていました。

白鷺城
恐らくは、わたくしたちが対処しやすいように、
上手く誘導してくださっていたものかと……。

栗橋城
やはりそうでしたのね……。

烏城
――つまり、私たちが兜に勝てたのは、
丹波亀山城ちゃんのお陰だったのね……。

丹波亀山城
……ふ、どうだろうね。そう言いながら、
本心では殿の首を狙っていたのかもしれないよ?

柳川城
どちらでも構いません……。
丹波亀山城さんがお怪我をしているのは、
事実なのですから……。

丹波亀山城
相変わらずお人好しなんだね……柳川城は。

柳川城
それは丹波亀山城さんも同じこと。
相変わらず、素直じゃないんですから……。

柳川城
とにかく、
しばらくじっとしていてください。
私が手当しますから……。

丹波亀山城
好きにすればいいさ。
どの道この状況じゃ、ロクに身動きもとれないからね……。

浜に轟けどんどこどーん -急-

兜との戦いを乗り切り、海辺で一息つく白鷺城。
そんな彼女の前に現れる、浮かない表情の唐津城。
声を掛けるか悩む白鷺城だが、果たして……。

前半

ざざーん……ざざーん……。

白鷺城
ふぅ……。
打ち寄せる波の音……心が洗われるようです。

白鷺城
この景色をお殿様や、城娘の皆様と一緒に楽しめたら――

???
――うーん。う~ん……。

白鷺城
……ん?

唐津城
ん~……どうしようかなぁ~。
でもなぁ、う~ん……。

白鷺城
あちらにいらっしゃるのは、唐津城さん……。

白鷺城
難しい顔をしています。
どうやら、お悩みのご様子……。

白鷺城
ここは邪魔にならないよう、
そっとこの場を離れるべき――

白鷺城
…………。

――――

唐津城
う~ん……うぅ~ん……。

白鷺城
あの……唐津城さん。

唐津城
……ぉ?

白鷺城
ど、どうしたのですか?
一人で唸って……考え事ですか?

白鷺城
よ、良かったら……。
わたくしが相談相手になれたら、なんて……。

唐津城
……ほんとっ?
アタシの悩み、聞いてくれるの?

白鷺城
ぁ、えっと……はい。
できる限り、力になれればと……!

唐津城
あっりがとー、白鷺城ちゃん!
すっごく心強いよ!

唐津城
まぁ、悩みといっても……アタシ自身も、
よく分かってないんだけどね……。

唐津城
ただ……なんとなく、そのぉ……。
このままでいいのかなーって。

白鷺城
このままで……と言いますと?

唐津城
うん……。
アタシね……この夏に、
殿と一緒に遊ぶのを楽しみにしてたの。

唐津城
高鍋城ちゃんの宿題とか、
兜が攻めてきたりとか……色々あったけど、
無事に乗り越えて、遊ぶことは実現できそうな感じじゃない?

白鷺城
そうですね……皆さんの力もあって、
浜辺は平穏を取り戻しました。

唐津城
うん……だけど、
なんか腑に落ちないんだよね……。
もやもや~っとするの。

白鷺城
もやもや~……。

白鷺城
……唐津城さんは、
お殿様のためにもっと、
何かをしてあげたいと思っているのですね……。

唐津城
もっと……何か? ……うん、そうかも。

唐津城
アタシばっかり楽しむんじゃなくて、
殿やみんなを楽しませるために、
何かできたら……このもやもやも晴れるかも……!

白鷺城
はい……そうかもしれませんね……!

唐津城
そしたら、具体的に何をするか考えなきゃ。
アタシにできること、アタシにできること……ん~。

唐津城
う~ん……ぉ?

唐津城
ぉ、おおー! 思いついた!
閃いちゃったよ、名案だー!

唐津城
アタシとも縁があるし、
殿も城娘たちにも喜んでもらえる!
おまけにこの季節にはぴったり!

白鷺城
……え? ……えっ?
それは、どういう……?

唐津城
こうしちゃいられない!
そうと決まったら、すぐに準備を始めなきゃ!

唐津城
相談に乗ってくれてありがとね、白鷺城ちゃんっ♪

白鷺城
あ、唐津城さん……!

白鷺城
――行ってしまいました……。

白鷺城
どうしよう……わたくしも後を追うべきでしょうか。
唐津城さんのお手伝いをできれば――

???
――ザザッ! ザザザッ!!

白鷺城
――っ!?

白鷺城
今の音は……?

――――

兜軍団
抜き足差し足、忍び足……。
   抜き足差し足、忍び足……。
      抜き足差し足、忍び足……。

白鷺城
――――っ!

白鷺城
(兜の軍勢……こんなに沢山……!?
 全て倒したと思っていたのに、
 まだ残っていたの……?)

白鷺城
(こ、このままでは、
 唐津城さんの願いが……潰えてしまう)

白鷺城
(こうしてはいられない……すぐに知らせなければ!)

合戦中

白鷺城
み、皆さん! 大変ですっ!
また……兜が現れましたっ!

殿
…………!

白鷺城
先陣はわたくしが切ります!
兜の対処はお任せください!

栗橋城
残った兜はこれで全て……ですわね。

白鷺城
……良かった。
唐津城さんの御城を、
守り抜くことができました……!

殿
…………!

後半

柳川城
ありがとうございます、白鷺城さん。

立花山城
貴方が危機を知らせてくれたお陰で、
被害を最小限に食い止めることができたわ。

やくも
だに! 白鷺城のお陰がやー!

千狐
本来なら、千狐が気づくべきだったのに……。
コン……面目ありません、なのぉ……。

丹波亀山城
ま、最初は随分驚かされてしまったけどね。

烏城
貴方があんなに声を荒らげるなんて、
今までなかったものね。

栗橋城
みんなのために必死になってくれたんですよね。
本当に、お疲れ様でした……。

白鷺城
そんな、わたくしなんて……そんな……!

白鷺城
う、うぅ……ううう……!

烏城
ち、ちょっと……急にどうしたのよ?
泣くことないじゃない……!

殿
…………。

浜に轟けどんどこどーん -絶壱-

教え子の行方を心配して、唐津城の御城に訪れた
高鍋城は、挙動不審な唐津城の姿を見つける。
僅かな躊躇の後、後を追うことに決めるが……。

前半

高鍋城
……ふぅ。
流石にこの時期の暑さは堪えますね。

高鍋城
さて……唐津城ちゃんは上手くやっているのでしょうか。

高鍋城
宿題はきっちり終えていますし、
これ以上はお節介になってしまうのですが……。

高鍋城
日頃が日頃なだけに、
つい心配になって……来てしまったのですよね。

高鍋城
この予感が当たらないことを、祈るばかりですが――

唐津城
(こそ……こそこそ)

高鍋城
…………!

唐津城
(きょろきょろ、きょろきょろ)

唐津城
(たたたたた……)

高鍋城
…………。

高鍋城
あれは、唐津城ちゃん……。

高鍋城
……後を追ってみましょう。
何やら嫌な感じがします……!

唐津城
おっ待たせー!

島原城
……もう、遅かったじゃない。

丹波亀山城
言い出しっぺはキミだろう?
夕暮れに間に合わなくなっても知らないぞ?

唐津城
えへへ、ごめんごめん♪
こっから先は、休みなしで頑張るからさ!

高鍋城
(あれは、島原城さんに……。
 あちらは丹波亀山城さん、だったかしら……)

高鍋城
(それにしても、
 『間に合わなくなっても』とはいったい……?)

高鍋城
(唐津城ちゃんのことです……。
 何か、良からぬ企みをしているのかも)

高鍋城
(殿に伝えるか……。
 それとも、ここで私が直接――わ、ととっ……!?)

がさ、がさがさっ!

丹波亀山城
――誰っ!

高鍋城
し、しまったぁ……!

島原城
高鍋城!? ……どうしてここに?

高鍋城
あ、後をつけていたのですよ……。
唐津城ちゃんの不穏な動きを見かけたものですから。

高鍋城
さぁ……白状しなさい、唐津城ちゃん。
いったい貴方は、何を企んでいるのです?

唐津城
え……ええと……えっとぉ……。

唐津城
(だだっ!)

島原城
唐津城っ!?

丹波亀山城
どうして逃げるんだい、唐津城っ!?

唐津城
アタシたちは今、忙しいの!
説明は後回し! それじゃ高鍋城ちゃん、さいならー!

高鍋城
――ちょっと! 待ちなさい唐津城ちゃん!

合戦中

唐津城
不味いよ、二人共……!
高鍋城ちゃんに捕まったら、大変なことになっちゃう!

島原城
高鍋城って、そんなに恐ろしい城娘だったかしら……?

丹波亀山城
穏やかで理知的な子だったと思うのだけど、
ボクの記憶違いだったかな……?

唐津城
そんなことないってばぁ!
アタシを捕まえる時の高鍋城ちゃんは、
鬼より恐ろしくて、兜よりも冷酷なんだから!

唐津城
とにかく今は、逃げることに集中して! 分かった!?

唐津城
来る……来てるぅ……!
高鍋城ちゃんが近づいてるよぉ~!
助けて……島原城ちゃん、丹波亀山城ちゃん!

島原城
助けてって言われても……。

丹波亀山城
そもそもボクたち、どうして逃げてるのかな……?

後半

高鍋城
さぁ、追い詰めましたよ……唐津城ちゃん!
貴方の悪事も、もはやこれまでです!

唐津城
あ、悪事なんかしてないもん!
アタシはただ、みんなとお祭りを――

???
――唐津城さん、唐津城さーん!

高鍋城
…………?

白鷺城
やりましたよ。
烏城さんや栗橋城さんたちも協力してくれるそうです。

白鷺城
これならきっと、
夜までにお祭りの準備が整うはず――

白鷺城
…………。

白鷺城
…………あら?
この状況は……?

――――

高鍋城
な、夏祭り……ですか?

唐津城
白鷺城ちゃんと話したのがきっかけで、思ったの。
アタシから殿たちのために何ができるかな……って。

唐津城
でね、アタシには自慢の太鼓櫓があるじゃない?

唐津城
元々は、時を知らせるために建てられたものだけど、
太鼓は夏祭りを盛り上げる品でもあるよね?
それで……これはもうやるっきゃない、って思ったの!

唐津城
……そしたら、それを聞いた他の城娘たちも、
手伝ってくれることになってね!
大急ぎで準備を進めてたの!

高鍋城
そうだったのですね……。
私はてっきり、また悪戯でも企んでいるのかと。

唐津城
もー……ひどいなぁ、高鍋城ちゃんは。

島原城
日頃の行いのせいでしょう? アナタも反省しなさい。

丹波亀山城
そもそも……逃げたりなんかせず、
すぐに事情を説明していれば、
ここまでこじれることもなかったはずだ……。

唐津城
それは……そうかもしれないけどぉ……。
高鍋城ちゃんが凄い剣幕で押し寄せてくるから……。

白鷺城
あ、あのぉ……。

白鷺城
そんなことより皆さん、時間が……。

唐津城
――あぁっ、そうだったよぉ!
こんなことしてる場合じゃなかった!

唐津城
それじゃ高鍋城ちゃん! また後でー!

高鍋城
…………。

高鍋城
(お祭りで皆を……。
 唐津城ちゃん……そんなことを考えていたなんて)

高鍋城
(勉学を忌避して、
 逃げ回ってばかりだと思っていましたが、
 いつの間にか、大きくなっていたのですね……)

高鍋城
…………。

高鍋城
待ってください、唐津城ちゃん!
夏祭りの準備、私にも手伝わせてくださーい!

――――

そして――

唐津城
わーい! 出店だ、出店だ♪
島原城ちゃんも早く~♪

島原城
ま、待ちなさいって……!
引っ張らなくてもちゃんと付いていくから!

高鍋城
駆け足はいけませんよ、唐津城ちゃん!
前を向いてゆっくり歩きなさーい!

――――

白鷺城
わぁ……素敵なお店ばかりです……。
どれに立ち寄ろうか、目移りしてしまいます……♪

烏城
焦ることはないわ、白鷺城ちゃん。
時間はあるんだし、ゆっくり巡りながら決めましょう。

栗橋城
ええ♪
この空気の中でうろつくのも、
夏祭りの楽しみ方の一つですわ。

白鷺城
は……はい。
それではまずは、あちらから……。

――――

やくも
うおおおぉぉぉぉぉぉーーーー!!

千狐
ま、待ちなさいやくも!
ちゃんと他の皆の分も、残さなきゃダメなの~!

――――

柳川城
ええと……つ、次は、
あちらに向かうのはいかがでしょう……?

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
……はい? 
『目をつぶってじっとしていろ』ですか?

柳川城
(え、ええっ……!?
 それって、それって……!)

柳川城
――待ってくださ……まだ、心の準備が……!

殿
…………!

柳川城
……え?

柳川城
……は、葉っぱ?
髪に……引っかかっていた?

柳川城
あぁ、はは……そうだったんですね……。

柳川城
(はぁ……。
 殿と二人きりの時間……願ってもないことですが、
 どきどきして、おかしくなってしまいそうです……!)

――――

立花山城
…………。

丹波亀山城
良かったのかい……立花山城?

立花山城
あら……なんの話かしら?

丹波亀山城
……決まってるだろう。
殿の傍に居なくてもいいのか、ってことさ。

立花山城
…………。

立花山城
今のままでも幸せなのよ、私は。
充分過ぎる程にね。

立花山城
だから……これで良いの。
今以上を望んだりなんてしたら、
罰が当たってしまうわ……きっと。

丹波亀山城
難儀な城娘だね、キミって奴は……。

立花山城
ふふ……貴方にだけは言われたくないわね。

立花山城
…………。

立花山城
……さっきの言葉は、私の本心よ。

立花山城
夏を満喫する城娘たちと、殿……。
それをこうやって眺めているのが、私の幸せなの。
……元から輪の外に居た、私にとってはね。

丹波亀山城
…………。

丹波亀山城
……そうかい。
それじゃ、ボクもご一緒させてもらおうかな。
爪弾き者のボクには……ここが一番しっくりくるみたいだ。

立花山城
……どうぞ。
気が済むまで、ごゆっくり。

祭りの喧騒に身を浸し、走り回る者。
恥じらいながら、慕う者とのひと時を楽しむ者。
そして、その様を外側から眺め……微笑む者。

過ごす時間は違えど……そのどれもが、
各々にとって掛け替えのない思い出として刻まれながら、
夏祭りの夜は更けていくのだった――

浜に轟けどんどこどーん -離-

所領の付近に移動し、引き続き夏を楽しむ一行。
新たに招かれた平井城は、皆と離れ一人で
読書を楽しむが、そこに唐津城が現れて――

前半

――唐津城での夏祭りから、数日後。

夏の行楽を堪能した一行はその後、
殿の所領から程近いところにある海岸へと移動した。

そこには、新たに招かれた城娘の姿もあったのだが――

平井城
…………。

――ちりーん、ちりーん……。

平井城
――ふぅ。心地の良い風ね。

平井城
日差しを全身に浴びながら、
浜辺で遊び回るのは、いかにも夏という感じだけど……。

平井城
こうして……日陰で風を感じ、
風鈴の音色を聞きながら読書に勤しむのもまた、
夏の一興よね。

平井城
万が一に備えて、
一人くらいは見張り役を立てておいた方が良いだろうし。

唐津城
――そうなの?

平井城
――っ!

平井城
ええと、貴方は確か……唐津城さん、だったかしら。

唐津城
そだよ! 夏といえば、海といえばでおなじみの唐津城!
ちなみに、この前の夏祭りでは太鼓を叩いたんだー♪

平井城
そ、そうなの……。

唐津城
ちなみにこのさんぐらすは、
肥前名護屋城ちゃんから貰ったの♪
知ってる? 新人とっぷあいどるなんだって!

平井城
へ、へぇ……。

平井城
それで……唐津城さんは、どうしてこちらに?

唐津城
うんっ!
平井城ちゃんが一人で休んでたから気になっちゃって!
体調崩したりとかしちゃったのかなぁって……。

平井城
ああ、そういうことだったのね。
私なら大丈夫よ。日陰で読書を楽しんでいただけだから。

唐津城
へぇ~……読書かぁ。

平井城
ええ、だから唐津城さんはお気になさらず……ね?

唐津城
うん、分かった!
それなら安心だね!

平井城
…………。

唐津城
(じーーーー)

平井城
…………。

唐津城
(じぃぃぃーーーーーーー)

平井城
…………。

平井城
……唐津城さん?

唐津城
……ん? どうしたの、平井城ちゃん?

平井城
それはこっちの台詞。
……どうしたの? まだ何か、私にご用があるの?

唐津城
――うんっ!
平井城ちゃんは今、本を読んでるんでしょ?

唐津城
だから、それを読み終わるまで待ってようかなって!
そしたら、平井城ちゃんとも一緒に遊べるでしょ?

平井城
…………。

平井城
……そういうことだったのね。

平井城
誘ってくれて、どうもありがとう。
とっても嬉しいわ……けれど、私は参加できないの。

唐津城
え~、どうして?

平井城
海は楽しいことばかりじゃない……危険も沢山隠れてるわ。
皆が遊ぶことに集中してしまうと、
有事の対応が出遅れてしまうかもしれない。

平井城
だから、輪の外から安全を確認する子が、
一人くらいは必要なのよ。

唐津城
ふーん……そうなんだ。
平井城ちゃんは頭がいいんだねぇ……。

???
……まったく。
まだそのようなことを考えていたのね。
あなたという子は……。

平井城
――――っ。

平井城
……そういえば、
貴方もこちらに来ていたんだったわね……栗橋城。

唐津城
あ、栗橋城ちゃん! こんにちはー♪

栗橋城
ふふ、ごきげんよう。
今日も元気ですわね、唐津城さんは。

栗橋城
……そちらの黒備えとは大違いですわ。

平井城
……はぁ。

平井城
……わざわざ嫌味を言うために、ここまで?

栗橋城
だって、もったいないじゃありませんか。
せっかくの夏だというのに、日陰にこもっているなんて。

栗橋城
唐津城さんと一緒に、
海水浴を楽しんでも良いのではなくって?

平井城
……それに対しては、さっきお答えした通りよ。

平井城
こういう時には、私のような役割は不可欠なの。
安全を考えるなら、異論を挟む余地はないはずだわ。
……それの何が悪いっていうのよ?

栗橋城
その結論を、あなた一人で勝手に下してしまうことですわ!

平井城
…………!

栗橋城
一人で分かったような気になって、
大人ぶっているのが、気に食わないんですの!

栗橋城
あなたが問題に直面して、それが一人で対処できるものだった時、
わたくしに相談したことがあって?
……他の五色備に相談したことがあって?

平井城
そ、相談なんかいらないわよ……だって、一人で対処できるんだもの。

栗橋城
……平行線ですわね。予想はしていましたけど。

栗橋城
こうなったら、最後の手段ですわ――えぇいっ!

平井城
――あぁっ、私の本が!
何をするの! 返しなさいよっ!

栗橋城
大事な物なら、自分の手で取り返してみなさい!
さ……逃げますわよ、唐津城さん!

唐津城
……おおっ、追いかけっこだね?
りょうかいしたよ~♪

平井城
あ、ちょっと……待ちなさいってば~!

合戦中

平井城
――っ!!
あそこに見えるのは、兜の軍勢……!?

唐津城
追いかけっこをしてる場合じゃなくなっちゃったね……。

栗橋城
ええ、状況を殿に伝えなければ……すぐに!

栗橋城
――ふぅ。兜の気配は消え失せました。
これで一安心――

平井城
――捕まえたっ!

栗橋城
――きゃあぁっ!? ず、狡いですわよ平井城!

平井城
何も狡くなんかないわ、一時休戦にしただけだもの!
私の本は返してもらうわよ……!

後半

平井城
はぁ、はぁ……やっと、捕まえた……!

栗橋城
はぁ、はぁ……。

栗橋城
平井城、いいですか?
あなたのような分からず屋のために……。
一つだけ、言っておきます。

平井城
はぁ、はぁ……何よ?

栗橋城
あなたの事を気にかけている城娘は、結構居ますのよ。
あなたが思っているより、ずっと多く。

平井城
…………!

栗橋城
あなたが日陰で一人、本を読み耽っている時。

栗橋城
その寂しげな様子に気づいている子が、必ず居る……。
そんなあなたのために、何かしたいと思う子も……きっと居ます。

栗橋城
……そのことを、忘れないでくださいね。

平井城
…………。

平井城
栗橋城、あなたは――

唐津城
――平井城ちゃーんっ♪

平井城
きゃあっ!? ちょっ、唐津城さん!?

唐津城
平井城ちゃん、かっこ良かったよー!
すごい勢いで浜辺を駆けてくの!
どどどどどーーーって♪

唐津城
次はアタシが逃げる番ねっ!
絶対逃げ切ってみせるんだから~♪

平井城
わ、私は別に、
遊び目的で追いかけっこをしていたわけじゃ……!

栗橋城
……ふふっ。よろしいんじゃなくて?

栗橋城
先程追いかけっこをして分かりましたが、
あなたには運動が足りていませんわ。
日頃から軍師を自称して引きこもってる弊害です。

平井城
――なっ!?

栗橋城
ですから今日は、
日が暮れるまで唐津城さんにしごかれてきなさい。

平井城
でも……。

栗橋城
ご心配なく。見張りはわたくしがきっちり務めますわ。
それとも……わたくしのことが、信じられませんか?

平井城
…………。

平井城
いいえ……信じられるわ。……あなたのこと、信じる。

平井城
さ……それじゃ行きましょうか、唐津城さん。
追いかけっこをするんだったわね?

唐津城
――うん! 行こ行こっ♪

浜に轟けどんどこどーん -結-

疲れ知らずの唐津城を前に、一人、また一人と
脱落していく城娘たち……不満に頬を膨らませる
唐津城だが、そこに新たな城娘が現れる……。

前半

平井城
ぜぇぜぇ……ぜぇ、ぜぇ……。

平井城
…………。

平井城
もう無理……このままだと、し……死ぬわ。

島原城
甘く見ていたわ……まさか、これほどとはね。

丹波亀山城
予想を裏切られたね……全てが想定外だ。

白鷺城
わたくしの脳裏にも……死がよぎりました。

烏城
ま、ママぁ……助けてぇ。

殿
…………?

千狐
ど……どうしたのですか、皆さん?

やくも
死ぬとか裏切られたとか、物騒な言葉が聞こえたんやけど……?

栗橋城
……ふふっ。
その答えは恐らく……彼女ですわね。

唐津城
ちょっとみんなー、もうへばっちゃったの?
まだ太陽は昇ったばっかりだよ?

立花山城
なるほどね……合点がいったわ。

柳川城
さすがは唐津城さんです……。

唐津城
もー、だらしないなぁ……アタシはまだピンピンしてるのに!

烏城
……日頃から槌を振り回してる貴方と一緒にしないでよぉ。
私は、鈴より重いものを持ったことが無いんだから……。

殿
…………。

???
おい……何があったんだ、いったい?

???
死屍累々、という言葉しか思いつかない状況だが……。

殿
…………?

亀田御役所土塁
やぁ、亀田御役所土塁だ!
初めまして……という気はしないが、
こうして顔を合わせるのは初めてだな!

亀田御役所土塁
ご招待いただいたこと、心より感謝するよ!

殿
…………!

丹波亀山城
ほら……唐津城、来たよ。
次の犠牲しゃ――遊び相手だ。
今度は彼女と一緒に遊んでくるといい。

柳川城
(……犠牲者って言いましたね)

立花山城
(……犠牲者って言ったわ)

合戦中

唐津城
やったやったぁ! えへへ、嬉しいな♪
それじゃ遊ぼ、亀田ちゃん!

亀田御役所土塁
ん……ああ、もちろん付き合うぞ!
幼い城娘の遊び相手なら慣れたものだからな!

亀田御役所土塁
さぁ、それでは海へ向かおうか♪

亀田御役所土塁
……ふぅ~、遊んだ遊んだ。
皆の言う通りだったな……幼い城娘の体力は、本当に恐ろしい。

…………!

亀田御役所土塁
だが、日が暮れるまでにはまだ時間がある。
唐津城に負けないように、もうひと頑張り――ん?

亀田御役所土塁
(いつの間にか、
 殿と二人きりになっているじゃないか……!)

亀田御役所土塁
(この状況……もしや、
 以前から夢に描いていた『あれ』を実行に移す時では……?)

後半

亀田御役所土塁
…………!(ごくり)

殿
…………。

亀田御役所土塁
な、なぁ……殿?
一つお願いがあるんだが……聞いてもらえるか?

殿
…………?

亀田御役所土塁
実は、ずっと前から……、
殿にしてほしいことがあって……!
その……その……!

亀田御役所土塁
わ、私の頭をなでなでしてもらえないだろうか……っ!!

殿
…………。

亀田御役所土塁
あ、ええと……ほら!
四稜郭や七飯台場から、話は聞いていたんだ……色々と。

亀田御役所土塁
それで私も……一度で良いから、
殿に甘やかされたい……なんて!
も、もちろん無理にとは言わないが!

殿
…………。

殿
…………!

亀田御役所土塁
……い、いいのか?
そんなにあっさりと受け入れてしまって……?

殿
…………!

亀田御役所土塁
あ、ありがたい……では、隣を失礼して……。

亀田御役所土塁
……よし。
私の準備は万端だ……いつでもやってくれ!

殿
…………。

殿
…………!(なでなで、なでなで)

亀田御役所土塁
ふ、ふにゃ……ふにゃぁぁぁ……♪

亀田御役所土塁
(こ、これは……想像以上の心地良さだ……♪)

亀田御役所土塁
……あ、良ければ顎の下辺りも頼む!
ああ、それから……そっちの方も……!

殿
…………♪(なでなでなで)

亀田御役所土塁
ふにゃ……ふにゃああぁぁぁ……♪

立花山城
…………。

柳川城
…………。

立花山城
まずい事態になっているわね。

柳川城
…………はい。かなり。

立花山城
ところで……私たちは、なぜ身を隠しているのかしら。

柳川城
し、知りません……ただ、
何か、見てはいけないものを見ているような気がしたので……。

立花山城
……で、どうするの。あの二人……?

柳川城
え……それは……。

立花山城
『亀田御役所土塁さんは、蝦夷地の城娘……。
 殿とは滅多に会えない間柄ですし、
 今日くらいは二人きりで過ごさせてあげても』――

立花山城
――なんてことを、
貴方なら言うような気がしたのだけど?

柳川城
確かに、そのような思いもあるのは事実……ですが――

柳川城
亀田御役所土塁さんのあれは、流石に看過できません……!

立花山城
同感だわ……放っておいたら、
押し倒しそうな勢いだものね……。

柳川城
ここだけの話ですが……。

柳川城
ああ見えて殿は、来る者拒まずの流され体質……。
あのように押しの強い城娘には、滅法弱いのです。

柳川城
私には分かります……長い間、殿を見てきましたから。

立花山城
…………。

立花山城
……そこまで分かっているのなら、なぜ貴方は――

柳川城
か、過去のことを振り返っても仕方ありません!
重要なのは、私たちが今何をすべきかです! 違いますか!?

立花山城
ち……違わないけど……。

唐津城
殿、殿ぉ~~!

立花山城
ん……今の声は――?

唐津城
やっと見つけたぁ!
もー、亀田ちゃんばっかりずるい!
アタシのこともなでなでしてよぉ!

亀田御役所土塁
む……すまなかった。
つい独り占めしたくなってしまって……。

亀田御役所土塁
なら、その……。
唐津城も殿に、なでなで……されてみるか?

唐津城
うんっ!
アタシもなでなでしてもらって、
亀田ちゃんみたいに、ふにゃぁ~ってなるー♪

亀田御役所土塁
そ、そこまで見ていたのか……!
頼む……忘れてくれぇ……!

立花山城
…………。

柳川城
……なんというか、
うまい具合に中和されましたね。

立花山城
そ、そうね……。

柳川城
……いえ、待ってください。
これはもしかして、私たちにとっても好機なのでは……!

立花山城
好機……私たちにとっても?

柳川城
い、今なら私も撫でてもらえるかなぁ……なんて。

立花山城
…………。

立花山城
(散々悩んだ挙げ句、結局何も言い出せない……。
 というオチが浮かぶわね)

立花山城
(私が焚き付けてやるべきかしら……)

柳川城
な、なんですか……私の顔に何か……?

立花山城
……いいえ、なんでも。
ほら、ぼさっとしていていいの?
殿になでなでしてもらうんでしょう?

柳川城
そ、そうですね……急ぎましょうっ!

浜に轟けどんどこどーん -絶弐-

長かった夏休みの終わりを目前に控えた日。
殿と過ごす時間を勝ち取るべく、
城娘たちの仁義なき争いが今、始まる……!

前半

所領付近の浜辺にて日々、海水浴を楽しむ城娘たち。

しかし、それも永遠に続くものではない。
夏には必ず終わりが訪れる……そして、城娘たちには帰るべき御城がある。

かくして……皆が揃って海を楽しめる最後の日。

城娘たちが一堂に会した今、
浜辺は神妙な沈黙で満たされていた――!

殿
…………。

千狐
……こほん。

千狐
殿争奪! 真夏のどきどき大水泳大会! なのーーーー!!

やくも
(ぱちぱちぱちぱち)

殿
(ぱちぱちぱちぱち)

やくも
るーるは簡単!
沖に向かって泳ぎだして、目印の岩に触れる!
そこから折り返して、戻ってくる!

やくも
一番乗りには……この夜!
殿さんと二人きりで、祭りを楽しむ権利が与えられるがや!

殿
――……!?

立花山城
し、知らなかったのね……。

柳川城
はぁ……殿を褒美代わりにするなんて。
どうしてこのようなことに……。

丹波亀山城
仕方ないだろう。
皆、最後の夜を共に過ごしたい、と譲らなかったんだから。

亀田御役所土塁
なでなで……さらなるなでなでを……!

白鷺城
お殿様を、一晩中独り占め……それから、それから……!

唐津城
えへへ、アタシはまだまだ元気だよ!
競争なら負けないもんね♪

島原城
言っておくけど……本当なら、
アナタの方から私に頭を下げるべきなのよ……?

烏城
む、無理にとは言わないけど……思い出を一緒に作れるなら、
挑戦くらいはしてみたい、というか……。

栗橋城
……どうやら争いは避けられないようですわね。
城娘たちは皆、殿を慕っていますから♪

平井城
いいじゃない、夏っぽくて。
勝負で決めるのなら、文句も言えないでしょうし。

柳川城
それは、そうかもしれませんが……!

立花山城
諦めなさい……柳川城。
殿を譲りたくないのなら、自分の手で勝ち取るしかないわ。

立花山城
おまけに、
勝たせたら洒落にならないことになりそうな子も、
何人か混じっているし……。

立花山城
まぁ、棄権するつもりなら……。
ふふ、私にとっては好都合だけどね?

柳川城
…………っ!
わ、分かりました……私も参加します!

千狐
それでは皆さん……位置についてください!

合戦中

千狐
皆さん、準備は良いですね……?

千狐
――では……殿争奪!
真夏のどきどき大水泳大会……用意――

千狐
はじめっ! なのぉ!!

平井城
ぅぐ……やっぱり、
連日唐津城さんの遊び相手を務めた疲労が……!

烏城
あと少し……あと少しで、殿と二人きりで……!

亀田御役所土塁
殿のなでなでは私のものだぁぁっ!!

後半

千狐
しゅーりょ~~~~~! なの!

千狐
それでは……やくも! 結果発表を!

やくも
了解だにぃ!

やくも
決着直前まで続いたギリギリの攻防……それを制し、
見事優勝を収めたのは……!

唐津城
(アタシだ……絶対アタシ!)

島原城
(私よ……私、私、私っ!)

栗橋城
(いえ、わたくしが……!)

丹波亀山城
(単純な競走はやっぱ厳しいか……謀略ならお手の物なんだけど)

白鷺城
(いっそのこと、この隙にお殿様を連れ去れば――?)

柳川城
…………。

殿
…………。

立花山城
…………。

立花山城
…………え?

――――

立花山城
……見て、殿。
端から端まで、夜店でいっぱい。

立花山城
なんだか……不思議な気分ね。
貴方と二人でお祭りだなんて。

殿
…………。

唐津城
――殿、殿ぉ! 今度はあっちに行ってみようよぉ♪

烏城
見なさい、殿!
夜闇に溶け込むような、この浴衣の美しさを♪
この漆黒の衣をまとった今の私は、正に無敵――

亀田御役所土塁
なぁ殿……手が空いているならなでなでを……。

島原城
……ふん。どうしてこの私が、
その他大勢のような扱いを……!

平井城
お願い栗橋城、運んでぇ……もう歩けそうにないの……。

栗橋城
ちょっと! まとわりつかないでくださるっ!?

白鷺城
ふふ、ぞろぞろと賑やかに……これはこれで楽しいです。

丹波亀山城
ま……こうなるような気がしてたけどね。

立花山城
…………。

立花山城
……ちょっと、貴方たち。うるさいんだけど。

丹波亀山城
仕方ないじゃないか。
全員同着で勝敗つかず……なんて、
奇跡的な結果になってしまったんだからさ。

唐津城
だから、みんなで一緒にお祭りを楽しむことになったんだよね♪
アタシはこれで良かったと思うよー!

殿
…………。

立花山城
……はぁ。

立花山城
(私も、柄にもなく熱くなってしまったわね。
 一通り楽しんだら、
 柳川城に一位を譲るつもりだったのに……)

柳川城
…………。

柳川城
……ぐすん。

立花山城
ふふ……なにしょぼくれてるのよ。

柳川城
だって、あと少し……あと少しだったんです……。

立花山城
それは……ここに居る全員、
同じことを思ってるでしょうけど……。

立花山城
まぁ……今はお祭りを楽しみましょう。
夜店を回ったりとか……あとは、
花火の用意もあるって聞いたし……。

柳川城
…………。

柳川城
なんだか……立花山城さんって、お姉さんみたいですよね。

立花山城
――えっ?

柳川城
落ち着いていて、頼れるけど……たまにちょっと可愛くて。

柳川城
立花山城さんに出会う前から……思っていたんです。
私にお姉ちゃんがいたら、どんなだろう……って。

柳川城
だから、私……。
立花山城さんと一緒に過ごせる今が、
幸せです……とっても。

立花山城
…………。

立花山城
……貴方みたいなのが妹だったら、相当苦労するでしょうけどね。

柳川城
……ですね。
すみません。いつも世話を掛けてしまって。

立花山城
…………。

立花山城
……なんだか、怖くなってしまうわね。

柳川城
……え?

立花山城
癖かしら……。
昔から、失った時のことばかりを考えてしまうのよ。
幸せを感じた時には、特にね。

柳川城
立花山城さんは、たまに難しいことを言います……。

立花山城
色々、見てきてしまったからでしょうね。
積まなくても良い経験ばかりを、無駄に積んでしまった……。

立花山城
……振り返ると、知れて良かったことより、
知らなければ良かったことの方が、ずっと多い……。

柳川城
…………。

立花山城
……でもね。

立花山城
出会えたことを、後悔したことはないわ。
きっとこれからも……そう。

立花山城
だから……ありがとね。
今、貴方が話してくれたこと……忘れないわ。

柳川城
…………。

殿
…………!

柳川城
――と、殿っ! 聞いていたのですか?

殿
…………!

立花山城
いやらしいことするじゃない……盗み聞きなんて。

柳川城
あ、あれ……?
いつの間にか、他の城娘も居なくなっています……!

立花山城
私たち三人だけ……か。
気を遣わせてしまったかしら……。

――どぉん!どぉん、どぉん!

殿
…………!

柳川城
あ、花火が……。

立花山城
……余計なことを考えるのはよしましょう。
こんなに綺麗な花火が、夜空を飾ってくれているんだもの。

柳川城
そうですね……仰る通りです。

殿
…………。

――殿……そして、その傍らに寄り添う柳川城と立花山城。

肩を並べて空を見上げた三人はその後、
口をつぐみ……空に次々と咲き誇る、花火の彩りを堪能するのだった――



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