ストーリーテキスト/永き夜、明けた頃に

永き夜、明けた頃に[]

永き夜、明けた頃に -序-

兜に城を囲まれ、行方をくらました城娘を救うため、
越前国に訪れた一行。しかし目的地に付いた直後
一行は彼女と思わぬ形で再会を果たすことに……！

前半
？？？ …………。 ？？？ ……吉継様。 ？？？ 『これで良かった』 ……貴方はきっと、そう仰ってくれるはずです。 ？？？ ……私は幸運なのです。 城娘という生においても、仕えるべき主と巡り合うことができた。 ？？？ 仮に、皆と違う道を歩むことになったのだとしても……。 それもまた、一つの巡り合わせ。 ？？？ 仕方ありません。 戦乱の世に生きる限り、誰かと対立することは避けられないのです……。 ？？？ …………。 ？？？ そうですよね？　……吉継様。 越前国・某所――。 金ヶ崎城 着きました。 皆さん、ここが敦賀城ッス……。 やくも ここまで長い道のりだっただに……。 息を潜め、身を隠しながらそろそろと……。 千狐 …………。 千狐 状況は良くありませんね……。 千狐 金ヶ崎城さんが言っていた通り、 この辺りからは兜の気配が感じられます。それも無数に……。 柳川城 では、無闇に動き出さない方が良さそうですね……。 千狐 えぇ、状況が掴めるまでは、 このまま身を隠すのが良いかと……。 金ヶ崎城 ……殿、それに皆。 金ヶ崎城 今日は本当に感謝ッス。 あたしのために、足を運んでくれて……。 殿 …………。 千狐 殿の仰る通りです。 金ヶ崎城さんのお友達が危機にさらされていると 聞いては、黙っているわけにはいきません！ 柳川城 そのお友達の名は……敦賀城さん、と言いましたか……。 金ヶ崎城 そうッス。 少し前に、佐和山城と一緒に遊びに行ったんスけど……。 金ヶ崎城 その日は、皆で楽しい時間を過ごしたんス……。 けど、しばらくして敦賀城から届いた手紙に、返事を書いたッス。 金ヶ崎城 けど……その手紙を届けることはできなかったッス。 その頃にはもう、敦賀城の周りを兜が包囲してて……。 柳川城 駆けつけてみたらこの状況……ということですか。 金ヶ崎城 そうッス……。 やくも 敦賀城から届いたっていう手紙は、どんなことが書かれてただに？ 金ヶ崎城 いつも通り、雑談や近況の報告くらいで、 変わったことは何もなかったッス……。 金ヶ崎城 ただ最近の敦賀城は、元気をなくしている風に見えて……、 それがずっと引っかかってるッス。 やくも あっ……見るだに！ 兜 …………。 やくも 城の周りを兜さんがうろついてるがや！ 千狐 本当です。 攻め立てるでもなく、様子を見るでもなく……堂々と……。 殿 …………。 千狐 もう占拠されてしまった後ということでしょうか……。 柳川城 それにしては、争った形跡が見えないのが気になりますが……。 金ヶ崎城 そんな、あの敦賀城が兜にやられてしまうなんて……。 柳川城 金ヶ崎城さんがそこまで仰るということは、やはり……。 敦賀城さんはかなりの手練……ということなのですね。 金ヶ崎城 そうッスね……一言で表すと……達人ッス。 やくも たつじん？ 金ヶ崎城 城主さんとの縁で、 敦賀城は視力を持たずに生まれてきたッス。 金ヶ崎城 けど、その代わりに他の器官……聴覚や嗅覚、そして触覚が、 凄まじく研ぎ澄まされてるんス。 金ヶ崎城 危機を察知したり、攻撃を避ける能力はピカイチ。 ……まるで未来が見えているのかのような動きッス！ やくも ほぇー。視力に頼らず……そんなすごい城娘がおったんやね……。 千狐 …………。 やくも どうしたんだに、千狐？　そんな怖い表情して……？ 千狐 ……あの、金ヶ崎城さん。 これはたとえばの話なのですが……。 千狐 もし、その敦賀城さんがこの辺りにいたら……。 身を隠している千狐たちに気づくでしょうか……。 金ヶ崎城 そりゃー見逃すはずが無いッス！ 金ヶ崎城 前に隠れんぼや鬼ごっこで遊んだ時なんて、 隠れるところを覗き見てたのかってくらい迷いなく、真っ直ぐあたしの方へと……。 兜 ――ザザッ！ 金ヶ崎城 向かって、きて……って、あれ？ 兜軍団 ザザッ！　ザザザッ！！ 金ヶ崎城 か、兜ッ！？ 金ヶ崎城 いつの間にこんな近くまで？ ちゃんと身を隠していたはずっすよ！？ 殿 …………。 柳川城 まさかそんなことは、と思いましたが……。 嫌な予感が的中してしまったようですね……。 金ヶ崎城 な、何がスかっ！？　どういうことッスか？ 柳川城 ここまで、私たちの動きに不備はありませんでした。 柳川城 気配を絶ち……敵とは充分に距離をとっていました。 柳川城 見つかるはずのない状況です。 ……いつもの兜が相手なのであれば。 金ヶ崎城 え……？ 柳川城 つまり、此の度の相手は兜ではない……。 柳川城 その者は、既に私たちの動向を捉え、 包囲するように命令を下していた……。 柳川城 この状況は、 今回の相手が優れた察知能力を持っていることを示しています。つまり……。 金ヶ崎城 嘘ッス……そんなこと……。 柳川城 つまり……敦賀城さんは兜に加担している。 そう考えるのが自然です……。 敦賀城 ……ご名答。 金ヶ崎城 敦賀城っ！！ 敦賀城 お陰で種明かしをする手間が省けました。 ありがとうございます。 千狐 では、兜が悠々と城の周りを歩いていたのも……。 城を兜の拠点として用いていて、敦賀城さんを警戒する必要がなかったから……。 敦賀城 その通り。見事な推理です。 ただ……答えに辿りつくのが少々遅かった。 敦賀城 ……さて、築き上げたこの優位、 利用しない手はありませんよね。 敦賀城 兜たち、存分に暴れてきなさい。 我が主に宿敵の首級をお届けするのです。 兜軍団 城娘……殲滅セヨ……。 　　城娘……殲滅セヨ……。 　　　　城娘……殲滅セヨ……。 金ヶ崎城 敦賀城……。 柳川城 金ヶ崎城さん！ 今は言葉を交わしている余裕がありません！　応戦の準備を！ 金ヶ崎城 そうッスね……分かったッス……！ 金ヶ崎城 ……敦賀城の目は、あたしが覚まさせてやるッス！
後半
金ヶ崎城 とりゃああぁぁぁっ！！ 兜 ギャアアアァァァァァァ！！ 敦賀城 な……っ！？ 金ヶ崎城 敦賀城、もうこれ以上はやめるッス！ 一度戦うのを止めて、話を聞かせてほしいッス！ 敦賀城 …………。 敦賀城 ……そろそろ潮時ですか。 敦賀城 おおよその戦力は掴めました。 最初の目的は完遂したと見て良いでしょう。 敦賀城 ここは一度退きますよ、皆さん。 兜 撤退ッッ！！ 兜軍団 撤退、撤退ィィ――ッ！ 金ヶ崎城 敦賀城っ！　なんで無視するッスか！？ 金ヶ崎城 どうしてこんなことを……？ あたしたちは兜を倒すために生まれたはずッス……なのにどうして！ 敦賀城 …………。 金ヶ崎城 敦賀城っ！！ 敦賀城 …………。 敦賀城 ……私は、貴方とは違うものを信じると決めた。 それだけのことです。 敦賀城 次の戦は雌雄を決する場となるでしょう。 私を斬る覚悟が無いのなら、一刻も早くここから去りなさい。 敦賀城 ……それでは、また。 金ヶ崎城 敦賀城、待つッス！　あたしの話はまだ……！ 金ヶ崎城 敦賀城――――っ！！ 千狐 …………。 千狐 兜の撤退を確認……。 金ヶ崎城 敦賀城……っ。 千狐 ……敦賀城さんの霊気を探ってみましたが、 瘴気に侵されているようには見えませんでした。 柳川城 つまり、敦賀城さんは自らの意志で今の立場を選んだ、ということですか……。 やくも だにぃ……やっかいなことになってきたがや……。 金ヶ崎城 …………。 千狐 金ヶ崎城さん……お気持ちお察しします。 ひとまずは戦の疲れを癒やし、これからどうするかを……。 金ヶ崎城 ……大丈夫ッス。 金ヶ崎城 敦賀城……。 冷たい態度だったけど……あたしの声に応えてくれたッス。 金ヶ崎城 だからきっと……心が全部、 真っ黒に染まったわけじゃないんだと、そう思ったッス。 金ヶ崎城 だからまだ、説得する余地はあるッス！ あたしは敦賀城のこと、信じ続けるッス！ 殿 …………！ 金ヶ崎城 殿も信じてくれるんスか。 ありがたいッス……感謝するッス！ 殿 …………。 柳川城 ……そうですね。きっと手はあるはずです。 柳川城 ……では、敦賀城さんに目を覚ましてもらうために何ができるか、 考えることにいたしましょう！

永き夜、明けた頃に -破

仲間の心を取り戻そうと、話し合いを進める
一行だが、答えは未だ見えないままであった。
そこに再び、敦賀城が兜の軍勢を連れて現れる……。

前半
敦賀城 …………。 敦賀城 ここは静かです。 敦賀城 どこよりも静かで、どこよりも暗い……。 敦賀城 そして……あらゆる場所から、隔絶されている。 ？？？ …………。 敦賀城 …………？ 敦賀城 誰？　そこに居るのは誰ですか？ 殿 …………。 敦賀城 ……貴方でしたか。 敦賀城 ……先程は見事な采配でした。 敦賀城 貴方の存在は、話には聞いていましたが、 まさかこのような形で対面するとは……。 敦賀城 本当に、全く予期していませんでした。 私が、兜の下に付くという未来など……。 敦賀城 …………。 敦賀城 もし、どこかで……道を違えていたら、 違う形で貴方と関わる未来もあったのでしょうね。 敦賀城 …………。 敦賀城 ……これ以上考えるのは止めにしましょう。 道はすでに分かたれたのです。 ？？？ 敦賀城……。 敦賀城 そうです、敦賀城……。 もう考えても仕方ないのです。敦賀城……。 ？？？ 敦賀城……。 ？？？ 敦賀城、聞イテイルノカ？ 敦賀城 …………っ。 敦賀城 ……失礼、少しうたた寝をしていました。 全く、兜たちの指揮を執るのは楽ではありませんね……。 突撃式トッパイ形兜 …………。 突撃式トッパイ形兜 敦賀城ヨ……ヨモヤ、 カツテノ仲間ニ情ケヲ抱イテイルノデハアルマイナ？ 突撃式トッパイ形兜 オ前ノ実力ハ疑ウ余地モナイガ、 相手ハ、ツイ先日マデ肩ヲ並ベテイタ仲間タチ。 突撃式トッパイ形兜 勝負ドコロデ決断ガ鈍ルヨウナコトガアッテハ、 我々ノ勝利モ遠ノクバカリダゾ。 敦賀城 …………。 敦賀城 心配は無用。 敦賀城 私の心は、新たな主と共にあります。 貴方がたと同じように。 敦賀城 戦場で向き合えば容赦はしません。 次は……私自身の手で、彼女たちを葬ってみせましょう。 敦賀城 …………。 敦賀城 （見知らぬ城娘の姿もありましたが、相手の戦力は想定内……） 敦賀城 （兜たち個々の力は心許ないものの、従順さには信用を置いていい。 　……そこに私の力が加わるとすれば、勝利へ導くことは十分可能……） 敦賀城 （一つ予期していなかったことがあるとすれば、あの男の存在でしょうか） 敦賀城 （殿……兜たちがこぞって敵視する男……） 敦賀城 （兜に与すると決めた以上、私はあの男も斬らなければいけない） 敦賀城 （あの男も、金ヶ崎城も、皆……一人残らず……） 敦賀城 …………。 その頃、殿一行――。 千狐 やはり心当たりはないのですか、金ヶ崎城さん？ 金ヶ崎城 ……思えば、前から敦賀城は一人で物思いに耽っていることが多かったッス。 金ヶ崎城 表情には出していなかったけど、何か悩み事を抱えていたのだとしたら……。 千狐 心の隙間をつかれたのでしょうか、それとも脅しでも受けたか……。 金ヶ崎城 …………。 金ヶ崎城 もう一度話す機会がほしいッス。 敦賀城が何を考えているか知ることができれば……。 柳川城 そうですね。次の戦では、 敦賀城さんを傷つけることなく無力化することを目指しましょう。 柳川城 ですが、もし……。 柳川城 …………。 金ヶ崎城 ……考えなくていいッス！　『でも』とか『もし』なんて！ 金ヶ崎城 あたしは最後まで敦賀城を信じるッス。それで敦賀城に斬られるのなら―― 兜 ――ザザッ！ 兜軍団 ザザッ！　ザザザッ！！ 千狐 来ましたっ！！　兜の軍勢です！ やくも 敦賀城の姿も見えるだにっ！ 敦賀城 …………。 金ヶ崎城 敦賀城、待つッス！　あたしの話を――！ 敦賀城 ……罠は無し。 潜伏している城娘も……無し。 敦賀城 準備は整いました……全軍、進みなさい。 兜軍団 進軍セヨッ！ 進軍セヨッ！ 進軍セヨッ！ 金ヶ崎城 敦賀城……！ 敦賀城 さぁ、開戦です。 敦賀城 この私からは、誰も逃れることはできませんよ……。
後半
敦賀城 …………。 ？？？ ソレナラ、敦賀城……俺の下に付いタラいい……。 生キル意味がほしいんダロウ……？ ？？？ お前の力がアルト、俺は非常ニ心強いんダガ……。 ？？？ 何ヨリ、俺に仕エルことになったと聞けば、 吉継だって喜んでクレルはずサァ、ククク……。 敦賀城 ――っ！ 敦賀城 （今のは……夢？） 敦賀城 （気を失っていた？　いったいどのくらい？　戦況は――） 金ヶ崎城 ……そこまでッス。敦賀城。 敦賀城 …………。 敦賀城 居ない……兜たちが、どこにも……。 柳川城 兜たちは皆、逃げ去っていきました……。 残っているのは敦賀城さんだけです。 敦賀城 ……ふふ。 敦賀城 元は敵同士、始めから期待などしていませんでしたが、 こうもあっさり見限られるとは……。 敦賀城 ……さぁ、後は煮るなり焼くなり、好きにしてください。 まぁ、生かしておいても良いことはないと思いますが……。 金ヶ崎城 ……敦賀城。 敦賀城 …………。 敦賀城 躊躇っているのですか、金ヶ崎城？ でしたら、私自ら―― 金ヶ崎城 ――うるさいッス！！ 敦賀城 ――っ！ 金ヶ崎城 そっちの方こそ、四の五の言わず刀を取って、 あたしに斬りかかったらいいじゃないッスか！ 金ヶ崎城 戦ってる最中だってそうッス。 敦賀城はずっと、あたしから目を背けるように戦ってたッス……。 金ヶ崎城 あたしに覚悟を決めろとか言った癖に……！ 自分ができもしないことを口にするんじゃないッス！ 敦賀城 …………。 金ヶ崎城 ほんとに、ぐす……敦賀城は、 何考えてるのか全然分かんないッス……。 金ヶ崎城 あたし、そんな頭良くないから、ぐす……。 口に出してちゃんと説明してもらわないと、分かんないッス……。 敦賀城 金ヶ崎城……。 金ヶ崎城 だから……教えてほしいッス。 敦賀城が何を考えてるのか……あたし、知りたいッス……。 敦賀城 …………。 敦賀城 困ります、そんなことを言われても……。 敦賀城 何を考えているのか、なんて……。 敦賀城 そんなこと、私にだって……。 敦賀城 どうするのが正しいのか、私には……。 敦賀城 うぅ、ぅ……ぐす、うぅ…………。 敦賀城 ……ぅ…………。 敦賀城 ……………………。 柳川城 敦賀城さん……気を失ってしまったようです……。 やくも 苦しんでいたみたいだに……。 千狐 事情は分かりませんが……。 思い悩んでいたようですね……城娘と兜の間で……。 金ヶ崎城 …………敦賀城。 柳川城 ひとまず、兜も追い返したことですし、 敦賀城さんがゆっくりお休みできるように――。 ？？？ マッタク、か弱い女の子に寄ッテたかって、可哀相ダネェ。 死ぬより辛い生なんて、掃いて捨テルほど転がってるッテいうのにヨォ……。

永き夜、明けた頃に -急-

豊臣秀吉の名を冠する巨大兜が、姿を現した。
敦賀城の心を惑わす巨悪を討ち果たすため、
城娘たちを連れて、いざ出陣せよ！

前半
？？？ マッタク、か弱い女の子に寄ッテたかって、可哀相ダネェ。 死ぬより辛い生なんて、掃いて捨テルほど転がってるッテいうのにヨォ。 柳川城 あの姿は……巨大兜……！？ やくも なんだか、やけにいかついのが出てきたがや……。 千狐 見覚えはないですが……漂う霊気からして、 巨大兜であることは間違いありません……。 殿 …………。 ？？？ あぁ、ソウカソウカ。自己紹介が必要でしたネェ。 豊臣秀吉 コノ器に宿リシ虚魂の名ハ、秀吉。 ……豊臣秀吉。以後、お見知りオキいただければ、幸いでさぁ。 柳川城 豊臣秀吉の名を冠する巨大兜……！ 金ヶ崎城 ……なるほど、そういうことッスか。 金ヶ崎城 あんたが敦賀城を騙して、配下に取り込んだんッスね。 豊臣秀吉 ……アン？ 豊臣秀吉 敦賀城を騙した？　俺が？ ヨシテくだせぇ、人聞キの悪イ。 豊臣秀吉 俺ぁ、寂しそうにしてる敦賀城に声ヲ掛けてアゲタだけですヨ。ククク。 金ヶ崎城 ごまかすなッス！ 金ヶ崎城 あたしが敦賀城に送った手紙が届かなかった……。 邪魔するよう兜に指示した奴がいることは分かってるッス！ 豊臣秀吉 ……そうか、手紙のことはご存知だったんデスかい。 豊臣秀吉 もう少しモッタイぶって楽しもうと思っタノニ、残念残念。 豊臣秀吉 ……デモ、騙したワケじゃないってのは本当デスゼ？ 確かに多少のお膳立てはシマシタけどネ、策や調略っていうホド立派なもんじゃない。 豊臣秀吉 ただ俺ぁ、ちょうどいいトコロに扱いやすそうな奴がいたもんダカラ、 試しにちょこっと声ヲ掛ケテみた。それだけのことダァ。 豊臣秀吉 敦賀城はネ、意味が欲しカッタんですヨ。 金ヶ崎城 ……意味？ 豊臣秀吉 原因はあいつの城主サァ。 名を大谷吉継ツッテ、俺の家臣だった男なんダガ……これが良イ働きをする男でネェ。 金ヶ崎城 ……その方の話は知ってるッス。聞いた話じゃ、 最期は負け戦と知りながら、友のために参陣して命を落とした、と……。 豊臣秀吉 美談だねぇ、実に素晴ラシイ生き様だぁ。 豊臣秀吉 ソンナ吉継の存在は敦賀城にトッテ、誇りであり、憧れ。 だが同時に……枷でもあったワケダ。 柳川城 枷……？ 豊臣秀吉 吉継が俺に尽くしたヨウニ、あるいは友情のために死ンダように……敦賀城はネェ、 ソウイウ大義を欲していたんだ。つまりは生きる意味ってことダ。 豊臣秀吉 兜を倒すコトガ城娘の役目と理解シナガラ、 満タサレないと感じていたのは、そのせいサ。 豊臣秀吉 ……トマァ、こんな調子で兜相手に悩みヲ打チ明ケチマッテル時点で、 敦賀城がどれだけ狂ッテタかってのが分かるってもんだ、ククク。 金ヶ崎城 敦賀城……そんなことを……。 豊臣秀吉 敦賀城は都合のイイ逃げ道ヲ求メ、俺は便利な手駒を欲した。 両者の利害は一致し、敦賀城は新タナ主を得たワケだ。メデタシめでたし。 金ヶ崎城 狡猾な……何もめでたいことなんてないッス！ 豊臣秀吉 イイヤ、この上なくめでたいねぇ。 むしろ水を差シタのはアンタたちの方ダァ。 豊臣秀吉 せっかく敦賀城が居場所を見ツケタってのに、 ドウシテ邪魔をするんデスかい？ 金ヶ崎城 なっ……！？ 豊臣秀吉 あーあァ、目を覚ました敦賀城はドウナッテしまうのかねぇ。 苦しむんジャナイですかネェ。 金ヶ崎城 そんなことない！　あたしはこれから先もずっと敦賀城の友達ッス！ 豊臣秀吉 違う違う、アンタたちの話ジャありませんヨ。 俺が言っているのは敦賀城が自身をドウ思うかってことでさぁ。 豊臣秀吉 一度壊れた絆は元通りにナドならない……なのに、 これから先、ずーっと取り繕ッテ生キテいくことになるんジャナイかねぇ。 豊臣秀吉 アノまま秀吉様の下デ、戦ノ中デ死ねてイタラ、どれほど幸せだったか。 ……そんな風に思うかもしれねぇナァ。ククク。 金ヶ崎城 …………っ。 柳川城 これ以上は耳を傾けないでください、金ヶ崎城さん！ 私たちの心を乱すことが、敵の狙いです！ 金ヶ崎城 わ、わかったッス……！ 殿 …………。 豊臣秀吉 なんですかナンデスカ、皆さん怖い顔をシテ。 お喋りはモウお終いですカイ？ 豊臣秀吉 寂しいですネェ……俺ぁ、 アンタ方とお会いすることを待ちわびテタっていうノニ……。 豊臣秀吉 でも、仕方ナイですヨネェ……。 豊臣秀吉 俺の話を聞く気がナイってなると、 もう……戦ウしかないじゃないデスカ。 千狐 ……っ！　巨大兜の霊気が膨らんでいきます！ 豊臣秀吉 そうするしかないですよねぇ。 揃いも揃ッテやる気に満チ溢レテルみたいですし……。 金ヶ崎城 お前だけは許せない……あたしの手で懲らしめてやるッス……！ 豊臣秀吉 正シイ方が勝ツとは限らないが……、 正しさを主張スルことは、勝った奴にシカ許されねぇ。 豊臣秀吉 ……マ、お互い最善ヲ尽くしましょうや。 ドッチが死んでも文句は言イッコなしですぜ？ 柳川城 きます！　殿、どうか聡明なご下知を！
後半
金ヶ崎城 やったッス！ 豊臣秀吉 ととっ……チョイとお巫山戯が過ぎちまいマシタか。 豊臣秀吉 なるほどネぇ、コレが殿の力……ククク、こりゃスゲエや。 豊臣秀吉 マダマダ楽シミてぇところだが、 こんなトコロで幕を引くのは、あまりに勿体ナイ……そうデショウ？ 殿 …………。 豊臣秀吉 次はモット充分な戦力を揃えてくる。 アンタらもその間、準備を整えてオクとイイ。 豊臣秀吉 サァ、者共……一旦帰りますヨ。 兜 ――ザザッ！ 兜軍団 ザザッ！　ザザザッ！！ 豊臣秀吉 …………。 豊臣秀吉 あぁ、ソウダ。 一つ忠告させてもらうぜ、殿……。 殿 …………。 豊臣秀吉 コノ後……、 敦賀城ガ大人シクなったとしても、安心シナイ方がイイ。 豊臣秀吉 そいつは良くも悪くも律儀デ義に篤イ城娘サァ。 一度は俺に忠誠ヲ誓ってるし、今も葛藤を抱えテイル。 豊臣秀吉 自分がこれからドウスルべきか……。まだ決メかねてるハズさ。 豊臣秀吉 無闇に信用すると、後ろからグサリッ！ ……なぁーんてこともアルかもしれナイゼ。クククッ。 豊臣秀吉 それじゃ……また今度、お目に掛かりやショウ……。 千狐 …………。 千狐 兜たちの撤退を確認……。 やくも あの巨大兜、また兜さんを連れて攻め込むって言ってただに……。 千狐 はい。それに、去り際のあの言葉……。 金ヶ崎城 …………。 金ヶ崎城 大丈夫ッス！ 敦賀城が殿にぐさり……なんて、あたしが絶対させないッス！ 柳川城 ……そうですね。金ヶ崎城さんの言う通りです。 殿 …………。 柳川城 （……ですが、あながち楽観視できる状況ではないのも事実） 柳川城 （敦賀城さんへの信用を揺さぶることが狙いかと思いますが、 　頷ける部分もあります……） 柳川城 （しばらくの間は、敦賀城さんから目を離さないようにしましょう……） 金ヶ崎城 とにかく、早いとこ敦賀城を城に運んで休ませるッス！

永き夜、明けた頃に -絶壱-

敦賀城の異心が発覚する、数ヶ月前のこと。
彼女の憂いを感じ取った金ヶ崎城は、少しでも元気を
取り戻そうと、友を連れて城へと出立するのだった。

前半
敦賀城の異心が発覚する、数ヶ月前のこと――。 金ヶ崎城 たのもー！ 金ヶ崎城 敦賀城、金ヶ崎城が来たッスよ！　たーのもーー！ 佐和山城 たのもーって、道場破りではないのだぞ……。 敦賀城 ……はいはい、どなたですか？ 敦賀城 道場破りに渡すような看板はかかげていないのですが……。 敦賀城 ……あら。金ヶ崎城に……佐和山城も？ 金ヶ崎城 こんちわッス！　遊びに来たっすよ！ 佐和山城 久しぶりだな。調子はどうだ？ 敦賀城 ……えぇ、まぁ。まずまずといったところでしょうか。 敦賀城 で、お二人は……今日は、どのような御用でここまで？ 金ヶ崎城 ……え、用ッスか？ 敦賀城 わざわざここまで足を運んだのです。何か用があったでしょう？ 金ヶ崎城 え、えぇーっとそーッスね……。よう、用、といえば、その……。 金ヶ崎城 ふ、船……！　船に乗りたいッス！ 金ヶ崎城 要港として栄えた敦賀港自慢の船！ ……どうすか？　行楽にはぴったりじゃないッスか？ 佐和山城 （……思いつきだな） 敦賀城 （……思いつきですか） 敦賀城 敦賀港の船……貴方の言う通り、確かにそれは見事なものです。 敦賀城 ……ですが、行楽として乗り回すことは許可できません。 金ヶ崎城 えー……どうしてッスか？ 敦賀城 敦賀港を行き交う船はどれも、役目を与えられて働いています。 そんな中、私たちが遊び半分で船に乗っていたら、示しがつかないでしょう。 金ヶ崎城 敦賀城が相手なら誰も文句言ったりしないッスよ。……怒ると怖いし。 敦賀城 その通りです。だからこそ、 上に立つ者は規律を守らなければならないのです。 金ヶ崎城 うぅ～……今日の敦賀城は冷たいッス……。 敦賀城 何をメソメソしているの。 遊びに付き合うつもりが無いとは言ってないのですよ？ 敦賀城 他の遊びはないのですか？ 何も、船に乗ることだけが目当てではないでしょう？ 金ヶ崎城 そりゃそーッスよ！　敦賀城とやりたいことがいっぱいあって……。 金ヶ崎城 え、えーと……えーと……。 金ヶ崎城 …………えー。 金ヶ崎城 …………。 敦賀城 金ヶ崎城、なにも無理に捻りだそうとしなくても……。 金ヶ崎城 待つッス！　あったッス！ 敦賀城とやりたいこと、今思い出したッス！ 金ヶ崎城 鬼ごっこ！　鬼ごっこもしたいと思ってたッス！ もちろん敦賀城が鬼で！ 敦賀城 ……鬼ごっこ？ 金ヶ崎城 この前は『負けるわけないッス』と言いながら惨敗を喫したッスけど、 今日は負けないッスよ！ 金ヶ崎城 なにせ今回、あたしは策を用意してるんスから！ 敦賀城 …………金ヶ崎城。 敦賀城 ……一応忠告しておきますが、 船を使って逃げることは禁じ手ですよ。 金ヶ崎城 えっ。 金ヶ崎城 ……へ、へぇーそうッスか。 まぁ、あたしには関係の無いことッスけど。 金ヶ崎城 というか、今しがた敦賀城に乗るなと言われたばかりじゃないッスか。 乗るわけ無いッス、はは。 佐和山城 （乗るつもりだったな……） 敦賀城 （乗るつもりだったようですね……） 金ヶ崎城 （参ったッス……） 金ヶ崎城 （正直、敦賀城が元気になるならなんでも良いッスけど、 　簡単に捕まってしまうのも、なんだか癪ッス……） 金ヶ崎城 （かくなる上は、かくなる上は……！）
後半
敦賀城 ふぅ……少し休憩を……。 ……あら？ 佐和山城 よぉ……追いかけなくていいのか？ 敦賀城 ……貴方の方こそ、逃げなくて良いのですか。 一応今、私が鬼なのですが……。 佐和山城 私は敦賀城と話がしたくてここまで来たんだ。 鬼ごっこの方は、まぁ……金ヶ崎城が楽しめるんならそれで良い。 敦賀城 あの子が居ると退屈しなくて済みますよ、本当に。 佐和山城 あれでも、あいつなりにお前を元気づけようとしてるのだぞ。 佐和山城 無計画がすぎるのは考えものだがな。 敦賀城 ……分かっているつもりです。 佐和山城 ……敦賀城。 佐和山城 悩みの種は……城主のことか？ 敦賀城 …………。 敦賀城 貴方にはお見通しでしたか。 佐和山城 なに、当てずっぽうさ。ただ、お前のことだから、 些末なことに頭を悩ませたりはしないだろう……。 佐和山城 だが、尊敬する吉継様のことなら話は別、 もしかすれば……といった感じかな。 敦賀城 ふふ……本当にあなたは、 私のことをよくご存知なのですね。 佐和山城 ふっ、そこはお互い様だろう？ 敦賀城 …………。 敦賀城 私はいつになっても、吉継様の背中を追っています。 敦賀城 時折現れる兜を倒す日々……。 それこそが城娘の本懐と知りつつも、満たされない自分がいるのです。 敦賀城 吉継様ならどうしただろうか、と……。 私の行いは果たして正しいのだろうか、と……考えずにはいられないのです。 敦賀城 ……お陰で、金ヶ崎城にも心配を掛けてしまって……。 佐和山城 そう簡単に割り切れるものでもないさ。……私にも経験がある。 敦賀城 ……三成様のことですか。 佐和山城 そうだ。我が城主……石田三成。 私は以前、その魂を宿した巨大兜と戦った。 佐和山城 勝利を収めた後、 私は……三成と言葉を交わし、死にゆく奴を看取った。 敦賀城 辛かったでしょう。 自分だったらと想像を巡らせるだけで、胸が痛みます……。 佐和山城 ……そうだな。それからしばらくは、 抜け殻のようになっていたのを覚えている。 敦賀城 佐和山城は、その悲しみから……どうやって立ち直ったのです？ 佐和山城 ……ふふっ。 佐和山城 ……どうして、私が立ち直ったことを前提に話を進めているんだ？ 敦賀城 それは、もちろん……今の佐和山城がお元気なように見えるから……。 佐和山城 確かに、元気にはなったな。 だが立ち直ったわけではないぞ。 佐和山城 三成との別れを思い出せば……あの時の苦しみは、容易に蘇ってくる。 佐和山城 夜更けなどには……前触れなく脳裏に浮かんで、私を苦しめることもある。 敦賀城 …………。 敦賀城 ……この苦しみに、終わりなどはないのですね。 佐和山城 そうだ。 我々は、喪失の苦しみから逃れることはできない。 佐和山城 大切な物を守りたいと願うから……ずっと苦しみ続けるんだ。 佐和山城 だが……そんな中でも、一人ではなく二人でいられたら……。 少しだけ、楽になるかもしれない。 敦賀城 …………。 佐和山城 友を頼れ、敦賀城。 佐和山城 助けになるかどうかはわからぬが……。 私はお前が困っていたら、いつでも飛んでいくつもりだぞ。 佐和山城 私とお前は……互いの城主にも負けない絆で結ばれている。 身勝手ながら、私はそんな風に思っている。 佐和山城 ……なんてな、はは。 雰囲気にあてられてつい、恥ずかしい台詞を吐いてしまった。 敦賀城 ……恥ずかしいなどとは思いませんよ。決して。 敦賀城 実は私も勝手に、 佐和山城と堅い絆で結ばれていると、思っていたんです。 敦賀城 奇遇ですね。ふふっ。 佐和山城 敦賀城……。 敦賀城 手紙……送りますね。 佐和山城 ……あぁ。お前からの手紙なら、 いの一番に返事を書こう！ 佐和山城 鬼ごっこでも隠れんぼでも、呼んでくれればいつでも付き合うぞ。 佐和山城 何なら呼ばれなくても赴くぞ！ 敦賀城 ……ふふっ、よろしくお願いします。 金ヶ崎城 おーい、二人ともー！ 金ヶ崎城 鬼が腰を降ろして談笑とは、どういう了見ッスか！？ いい加減休憩は終わりにするッス！ 金ヶ崎城 それと、あたしの気持ちも考えるッス！！ あたし一人で逃げ回っていても、なーんも面白くないッス！ 佐和山城 はいはい、今行くぞー。 ……ほら、敦賀城。お前も休憩は終わりだ。 敦賀城 仕方ありませんね……もう少しだけお付き合いしましょうか。 敦賀城 てっとり早く終わらせたいので、 刀を使おうかと思いますが……よろしいですね？ 金ヶ崎城 よろしくないに決まってるッス！！ 鬼ごっこのどこで刃物を振り回す必要があるッスか！？ 敦賀城 （そうです……私には掛け替えのない仲間がいる） 敦賀城 （胸の内に巣食うこの不安より……、 　周囲に散らばる希望に目が向く時が、きっと来るのでしょう） 敦賀城 （だからこれでいい……今は、これでいいのです）

永き夜、明けた頃に-離-

自身の城で目を覚ました敦賀城にはもう、秀吉への
忠義も、城娘としての矜持も残ってはいなかった。
そんな彼女に、柳川城は優しく声を掛けるが……。

前半
豊臣秀吉 城娘全てと敵対するタァ、大シタ覚悟だ。 豊臣秀吉 歓迎スルゼ、敦賀城。 お前は素晴らしい忠臣だよ。吉継にダッテ目劣りしネェ。 敦賀城 （あの時、私は――安心を覚えた） 敦賀城 （これでいいのだ。これで少しは、悩みも晴れるだろう……そう考えた） 殿 …………。 敦賀城 またですか。 敦賀城 ……あなたの心には曇りや淀みをまるで感じません。 敦賀城 私を疑おうとも、憎もうともしない。一途に私を信頼し続けている。 敦賀城 きっと貴方は、他の城娘にもそうやって向き合ってきたのでしょうね。 敦賀城 それは強さ。貴方はきっと、 自分が信じると決めたことを貫く強さを持っている……。 敦賀城 羨ましい……私も、そんな強さを持つことができれば―― 敦賀城 ――――っ！ 敦賀城 …………そうですか。 敦賀城 まだ生きているのですね、私は……。 柳川城 その言葉……まるで、死ぬことを望んでいたように聞こえます。 敦賀城 貴方……。 敦賀城 確か名は……柳川城さん、と言いましたか。 柳川城 はい……。 敦賀城 不思議なものですね……。 先程まで争っていた相手と、ゆっくりお話ししているというのは……。 敦賀城 ぐっ……いたた……。 柳川城 ……そのまま横になっていてください。 しばらくは動かない方が良いと思います。 柳川城 手加減をする余裕が、ありませんでしたから……。 敦賀城 優しいのですね、貴方は……。 柳川城 私には……敦賀城さんが、 あの巨大兜に心から忠誠を誓っているとは、思えなかったので……。 敦賀城 だから、こうして手厚く看護してくれている……。 敦賀城 ですがその一方で……張り詰めた部分も感じ取れます。 敦賀城 貴方はまだ、私を疑っている。 いつ私が敵意を見せても応じれるように、緊張を保ったままで……。 柳川城 ……それは。 敦賀城 厳しさと優しさが、矛盾なく共存している……。 芯の通った、強き心。 敦賀城 素敵です……。 貴方の心は触れていて、心地が良い……。 柳川城 敦賀城さん、まさか……貴方は、他者の心を読むことができるのですか？ 敦賀城 そんな大それたものではありません。 物が見えない分だけ、別の感覚が鋭くなっただけのことです。 敦賀城 実力の程は……貴方がたがその身で味わった通り。 柳川城 …………。 柳川城 弁明は……されないのですね。 敦賀城 ……私は、自分の行ったことの重みを、 ある程度は理解しているつもりです。 敦賀城 ですから……今の私に、 許しを乞う資格がないことも、よく分かっています。 柳川城 …………。 敦賀城 ところで、貴方がたの主の気配がないようですが……。 柳川城 ……殿のことでしたら、今は皆さんを連れて外の様子を窺っていますよ。 しばらくすれば、また戻ってくると思います。 敦賀城 あら……そうですか。 柳川城 ……？　何か気になることでもありましたか？ 敦賀城 いえ、柳川城さんがここで留守番をされていることが、 少し意外だったものですから。 敦賀城 貴方の心から溢れる、殿への思慕を鑑みると……。 殿の傍を死守するはずなのに、と思いまして。 柳川城 なっ…………！ 柳川城 …………。 柳川城 そんなところまで分かってしまうのですね……。 敦賀城 ふふ、分かってしまうんです。困りものですね。 柳川城 …………。 柳川城 殿が席を外したのは、先程のことなのですよ？ 柳川城 少し前までは、敦賀城さんの傍につきっきりだったんです。 柳川城 ただ、金ヶ崎城さんと殿は、 いつまで経っても敦賀城さんの元を離れようとしなかったものですから……。 柳川城 それで、気分の転換も兼ねて、見回りに出ていただくこととなったのです。 柳川城 それに私の一存で、足並みを乱すわけにはまいりません……。 敦賀城 そうでしたか。 敦賀城 ……ではやはり、私が眠っている間に感じた温かさは、 幻ではなかったのですね。 柳川城 眠っている間に？ 敦賀城 殿と……言葉を交わしました。 彼の気配を私の無意識が感じ取り、夢の中に映し出したのでしょう。 敦賀城 あの方は……包み込むような優しさで、私に安らぎを与えてくれた。 柳川城 …………。 柳川城 敦賀城さんが『殿のために戦いたい』と仰ったら……。 きっと殿は、喜んで受け入れてくれると思いますよ。 敦賀城 ……そう、ですか。 敦賀城 …………さて。そろそろ、 私も外へ出なければなりませんね。ぐぅっ……！ 柳川城 敦賀城さん、まだ安静にと言ったじゃないですか。 今は傷を癒すことに集中して……！ 敦賀城 そうしたいところですが……敵が迫ってきています。 柳川城 ……っ！？ 敦賀城 数も非常に多いです。秀吉公……もとい、 件の巨大兜が手勢を揃えて戻ってきたようです。 敦賀城 もちろん、私の言葉を信じるかどうかは貴方次第ですが……。 柳川城 …………。 柳川城 ……そんなこと、決まっています。 柳川城 ……一緒に行きましょう。 さぁ、私が肩を貸しますから身を預けて……。 ――――。 柳川城 殿、皆さん……！ 殿 …………！ 千狐 柳川城さん！　それに、敦賀城さんも……。 やくも 大変だに！　兜さんの大軍がわんさか押し寄せてきてるがや！ やくも ほら、あっちの方角から……！ 兜軍団 城娘……殲滅セヨ……。 　　城娘……殲滅セヨ……。 　　　　城娘……殲滅セヨ……。 柳川城 やはり、敦賀城さんの察知した気配に間違いはなかった……。 金ヶ崎城 …………。 金ヶ崎城 敦賀城、目を覚ましたんスね……。 敦賀城 …………。 金ヶ崎城 …………大丈夫、ッスよね？ 金ヶ崎城 ……敦賀城はもう、 あたしたちの仲間と思って……いいんスよね？ 敦賀城 …………。 敦賀城 信じてください、と……そう言ったら信じてもらえるのですか……？ 金ヶ崎城 信じるに決まってるッス！ なに当たり前のこと言ってるんスか！ 敦賀城 金ヶ崎城……。 金ヶ崎城 ……積もる話は後回しにして、 今はあいつらを倒すことだけ考えるッス！ 金ヶ崎城 それじゃ殿、指示を頼むッス！ 殿 …………！ 金ヶ崎城 よぉっし、いくッスよぉッッ！
後半
金ヶ崎城 喰らえぇぇぇぇぇっ！！ 兜 ギャアアアァァァァァァァァッ！！ 金ヶ崎城 はぁ、はぁ……やったッス……！ 千狐 これで全部片付きましたか……？ 敦賀城 いえ、むしろ本番はここからのようです……。 豊臣秀吉 その通りィ……クックック。 兜の緒を緩めるには、マァダ早いですよォ……。

永き夜、明けた頃に-結-

再び姿を現した、豊臣秀吉の名を冠する巨大兜。
それに対し敦賀城は、怯むこと無く向き合い、
胸の内にある気持ちを敢然と、言葉にする。

前半
豊臣秀吉 その通りィ……クックック。 兜の緒を緩めるには、マァダ早いですよォ……。 金ヶ崎城 出たッスね……豊臣秀吉の名を冠する巨大兜……！ 豊臣秀吉 コレハコレハ。皆さんお揃イデ……。 豊臣秀吉 おや、敦賀城も居るのカイ？ 深手ヲ負ってイタように見えマシタが、もう出歩いて大丈夫なんですカネ？ 敦賀城 兜の軍勢を前に、 眠っているわけにはまいりません……。 敦賀城 それに……貴方に一言、 礼を言っておきたかったのです。 豊臣秀吉 ホゥ、礼ですか……？ 敦賀城 貴方がくれた、耳障りの良い事実……。 それに従って生きることが、どうしてあんなに辛かったのか、今なら分かります。 敦賀城 貴方の言うことは一つの正しさで……もしかしたらその先には、 私を救う何かが待っていたのかもしれない。 敦賀城 けれど、そこに至ったとしても私はきっと……。 満足したり、幸せを感じることはできなかったはずです。 豊臣秀吉 それが、吉継ノ望む生き方だとシテモ……カイ？ 敦賀城 吉継様から私が受け継いだものは、 秀吉様に仕えることでも、三成様のために死ぬことでもありません。 敦賀城 ……自分の信念を貫く、その生き様です。 敦賀城 だから私も、無闇に吉継様の背中を追うことは止め……、 この刀を、自分が信じるもののために振るいます。 豊臣秀吉 カツテの主君である、 俺に刃向かってデモ……その道を選ぶノカ？ 敦賀城 えぇ、そうです……。 敦賀城 吉継様が忠義を尽くす主君を自らのご意志で選んだように……、 私も、自分が感じたものに従って戦います。 敦賀城 一度、貴方の許で戦い、 そして離れることで……私は過ちに気づけたのです。 敦賀城 だから……礼を言わせてください。 ありがとうございました。 豊臣秀吉 …………。 豊臣秀吉 クックック……そうですか、『過ち』ですか。 そんじゃ貴方は、今の自分が正しいと、そう考えテルってわけデスネ？ 敦賀城 ……何が言いたいのです？ 豊臣秀吉 イヤなに、あまりに虫が良スギやしないかと思ってネ……ククク。 豊臣秀吉 敦賀城、アンタは殿一行と敵対し……。 城娘たちに危害を加えタ……。 豊臣秀吉 そんなアンタがこれから先、決意を新たにしたトコロで……。 そこにどんな重みが生まれるか、俺にはまるで分からないんでサァ。 殿 …………。 豊臣秀吉 だってそうデショウ？　明日……或イハ次の瞬間に、 またアンタが考えを翻サナイと、誰が保証スル？ 敦賀城 …………。 金ヶ崎城 耳を貸してはいけないッス、敦賀城！　あいつは―― 敦賀城 いえ、大丈夫ですよ金ヶ崎城……。 敦賀城 確かに、虫が良すぎる。貴方の言う通りです。 豊臣秀吉 そう……。 誰よりお前自身が分かっているハズなんだヨ、敦賀城……。 豊臣秀吉 目には見えないものを感じ取るお前のことだ……。 豊臣秀吉 今ダッテ感じるだろう？ 周囲の城娘がお前に向ケル、疑心ヲ……。 豊臣秀吉 仲間を仲間と思エズ、自分で自分の心に刀を突き立てる……。 誰かに利用サレル人生より、よほど辛い時間が待ち受けてると思いますがネェ？ 敦賀城 ……それでいいのです。 敦賀城 皆さんはこれからも、私を疑い続けることでしょう。 敦賀城 それでも彼女たちの心からは同時に、こんな思いも感じられるのです。 敦賀城 『信じたい』『信じさせてくれ』……疑念の中にも、 彼女たちが誠実に私を想ってくれているのが、はっきり伝わってくる……。 豊臣秀吉 …………。 敦賀城 咎められ、罰を科すと言われれば、喜んで受け入れます。 自分の働きを、誰かに認めていただこうとも思いません。 敦賀城 ただ私は、この身に自由が許されている間は……私のために刀を振るいます。 険しい道のりでも、その先に後悔はないと……確信しています。 豊臣秀吉 敦賀城ォ……。 敦賀城 ですから、これから私が貴方を斬る理由は……、 大義や名分などといったものではございません。 敦賀城 貴方に抱いた身勝手な怒りを、思うままぶつける……ただそれだけ。 金ヶ崎城 この金ヶ崎城も力を貸すッス！ 金ヶ崎城 あたしもはらわたが煮えくり返ってるッス！ 今すぐお前を叩っ斬ってやりたいッス！ 柳川城 ……どうやら、考えていることは皆同じのようですね。 柳川城 敦賀城さんを守るため、 巨悪を討ち果たすため……私も力を尽くします。 殿 …………！ 敦賀城 皆さん……。 豊臣秀吉 クク……アーハッハ！ これが友情って奴ですかい？　ナンッテ美しいんダァ！ 豊臣秀吉 それじゃ俺も、 お前らのソノ想いに応えてやらネェとなぁ……。 豊臣秀吉 敵役に張り合いがなくっちゃ、 感動も半減しちまう……そうでショウ？ 敦賀城 敵役……ですか。 敦賀城 それでは……私の一太刀で倒れ伏すところまで、 上手に演じていただきましょうか？
後半
敦賀城 はぁぁぁああああっ！！ 豊臣秀吉 ぐぅゥゥゥぅおおっ！？ 豊臣秀吉 おやおや、参りましたネェ……。 豊臣秀吉 愛憎入り乱レルところが見たかったんだが……。 城娘の心ってのはドウヤラ、思っていたヨリも単純にできているらしい……。 豊臣秀吉 ま、俺が書いた筋書きじゃ、 この程度の結末が関の山ってコトですかねぇ。 豊臣秀吉 ま……試みを一つ、実行に移すこともデキタし、 今回はここまでとしましょうか。 豊臣秀吉 今日は随分働いたカラ、 またしばらく休みをイタダキたいところだが、サテ……どうなるコトやら。 豊臣秀吉 ……殿、アンタとはまたお会いすることもあるでショウ。 殿 …………。 豊臣秀吉 その時はマタ、手段を選ばず戦わせてもらいますノデ、 どうかお手柔らかに。クククッ。 兜軍団 撤退ッ！　撤退ッ！ 　　撤退ッ！　撤退ッ！ 　　　　撤退ッ！　撤退ッ！ 千狐 …………。 千狐 兜の撤退を確認……。 やくも 厳しい戦いだっただにぃ……。 柳川城 豊臣秀吉の名を冠する巨大兜との戦を……無事に乗り切ることができました。 討伐には至りませんでしたが、今はこの結果を喜びましょう……。 金ヶ崎城 ッスね……これも皆のお陰ッス。 本当に頭をいくら下げても足りないくらいッス……。 敦賀城 私からも言わせてください。 頭を下げて済む程度の過ちではないことは承知の上ですが……。 敦賀城 申し訳ございませんでした。 ……そして、ありがとうございました。 殿 …………！ 柳川城 えぇ。これにて一件落着、ですね。 金ヶ崎城 それじゃみんな！　度重なる戦で疲れも溜まっていることだろうし、 今晩は城でゆっくり休んでいくと良いッス！ やくも 大賛成だにー！　うちはもう一歩も動けんから、 千狐におぶってもらうことにするがや～！ 千狐 きゃっ……ちょっとやくも、 寄りかかってこないで～！ 敦賀城 （私の御城で休むことがすでに決定している……） 金ヶ崎城 ……敦賀城、今日はあたしと同じ布団で寝るッス～！ 金ヶ崎城 積もる話はその時に……いいッスよね？ 敦賀城 ……本当に敵いませんね、貴方には。 敦賀城 もちろんいいですよ。一緒に寝ましょう……。 私も、貴方には言いたいことが山程あるのです。 金ヶ崎城 へへ、夜になるのが今から待ち遠しいッスね！ 金ヶ崎城 そうと決まればほら、早く城に向かうッスー！ 敦賀城 きゃっ……ちょっと金ヶ崎城、引っ張らないでください。 まだ全快というわけではないのですから……。 ――――。 ――――。 ――――その夜。 殿 …………。 敦賀城 眠れないのですか？ 敦賀城 それとも……貴方と二人で話したい、 という私の気持ちを察してくださったのでしょうか……？ 殿 …………。 敦賀城 私の想いは……先程、 豊臣秀吉の名を冠する巨大兜に向けて話した通り。 敦賀城 ……憎まれ、蔑まれてもいい。 何らかの形で殿のお役に立ちたい。その一心です。 敦賀城 何も求めません。何も望みません。 ……これから私は、そうやって生きていきます。 敦賀城 たとえ殿が、私を拒絶しようと、何らかの形で―― 殿 …………。 殿 …………！ 敦賀城 ……そんな。 敦賀城 あなたは私に、お仕えすることを……、 主と呼ぶことを、許してくださるというのですか？ 殿 …………！ 敦賀城 ……身に余る処遇です。 敦賀城 本当に、私のような城娘には、勿体ない……。 殿 …………！ 敦賀城 …………。 敦賀城 そろそろ、夜が明けますね。 敦賀城 今日は空気が澄んでいますから……、 きっと、綺麗な日の出が見えると思いますよ。 殿 …………。 敦賀城 そうですね。では、 ここで共に……日が登るのを見届けることにしましょうか。 敦賀城 …………。 敦賀城 本当に、ありがとう……殿。 敦賀城 ……貴方と出会えたことは、私にとって救いです。 敦賀城 貴方には……、 私が見てきた景色を想像することができるでしょうか。 敦賀城 ……今も、私の前には暗闇が広がっています。 静かで冷たい闇が、どこまでも……。 殿 …………。 敦賀城 そんな中……私は光を見つけたのです。 敦賀城 暗闇の世界の中で、ぽつりと……暖かい光を、感じました。 敦賀城 今だって、ここに居る貴方に思いを馳せれば……、 その光を感じることができます。 殿 …………。 敦賀城 貴方は今もきっと……、 素敵な笑顔を浮かべているのでしょうね。 敦賀城 いいんです……見えなくたって。 敦賀城 私の心にはしっかりと、貴方の姿が映っているのですから。 敦賀城 眼前に広がる暗闇の中に、 あなたの笑顔を思い描けば……ほら、そこに。 殿 …………。 殿 …………。

永き夜、明けた頃に-絶弐-

騒ぎが落着して以降、敦賀城が寂しさを感じぬように
金ヶ崎城は連日に渡って宴を繰り広げていた。
そんなある夜、寝室に揺らめく城娘の影が一つ――。

前半
豊臣秀吉の名を冠する巨大兜との戦を越え、 しばらくが経ったある夜――。 指月伏見城 むくり。 指月伏見城 ……寝れん。 指月伏見城 ……腹が空いて仕方ない。 指月伏見城 長浜城よ、長浜城よーい。 長浜城 ぐー……ぐー……。 指月伏見城 起きるのじゃ長浜城よ……妾の願いを聞き届けてくれ……。 長浜城 んゅ……。 長浜城 なんですかぁ、晩ご飯ならさっき食べたでしょ、おばあちゃん……。 指月伏見城 だーれがおばあちゃんじゃー！ 長浜城 うっきゃぁ、すみません！ 寝ぼけてたんですごめんなさいぃ～！ 指月伏見城 敦賀城が、縁ある城娘を招き連日宴を開いていると聞いて、 喜び勇んできてみれば……。 指月伏見城 日付も変わらぬ内にお開きじゃと……？ 宴は外が明るくなるまでと相場が決まっておるというのに！ 長浜城 （連日の宴……その原因は金ヶ崎城さんが、 　見境なく招待状を送りまくっているから、と伺いましたが……） 長浜城 （敦賀城さん……おいたわしや……） ？？？ 焼きおにぎり……。 指月伏見城 むっ？　その声は……？ 金ヶ崎城 焼きおにぎり……あるッスよ、へへ……むにゃ……。 指月伏見城 金ヶ崎城……！ 指月伏見城 焼きおにぎり……焼きおにぎりがあるのじゃな？　いったい何処に？ 長浜城 落ち着いて、指月伏見城さん。たぶん寝言です……。 指月伏見城 目覚めよ……起きるのじゃ金ヶ崎城。 ……焼きおにぎりを欲する者がここにおるぞ。 金ヶ崎城 ……はっ！？ 指月伏見城 目を覚ましたか……金ヶ崎城よ。 金ヶ崎城 はい……。 金ヶ崎城 あたし、今……暗闇の中で、 焼きおにぎりを求める声を聞いたッス……。 指月伏見城 金ヶ崎城よ……おぬしと焼きおにぎりの間には深い縁がある……そうじゃな？ 金ヶ崎城 そうッス。最近、焼きおにぎり好きを自称する城娘が一人、 名を上げているという噂もあるッスが、この座は絶対に譲れないッス……。 指月伏見城 では金ヶ崎城。焼きおにぎりを、焼きおにぎりを作るのじゃ……。 指月伏見城 立ち上がれ……！ それこそがおぬしの、唯一にして無二の役目……！ 金ヶ崎城 分かったッス！ 金ヶ崎城 よっしゃぁ、台所へ向かうッスよォォォオオーーーー！！ 指月伏見城 うぉおおおお！ 金ヶ崎城のあとに続くのじゃぁーーー！ 長浜城 （あたしにはもう止められそうにないですね、これは……） ――――。 数刻後――――。 金ヶ崎城 できたッスー！！ 指月伏見城 素晴らしいぞ金ヶ崎城よ！ おにぎりに焼き目を付けるだけでここまで化けさせるとは！ これはもはや、一つの発明と言っていい！ 敦賀城 美味しそうな匂いです、本当に。 私までお腹が空いてきてしまいます。 長浜城 ですね。本当に――。 長浜城 って、敦賀城さんっ！？ 敦賀城 貴方たちは……。 こんな夜更けに台所で焼きおにぎり作りとは、何を考えているのですか。 長浜城 あれだけ周囲に注意を払いながら作ったというのに。 なんてあっけない……。 敦賀城 もう城内に香ばしい匂いが充満していますよ。 早く布団に戻りなさい。 金ヶ崎城 相変わらず敦賀城は頭が固いッス。 たまには夜更ししたって良いじゃないッスか……。 敦賀城 たまには、って……貴方のお陰で、 最近は宴の無い夜の方が珍しいくらいじゃないですか……。 敦賀城 まぁでも、そんなに遊びたいのなら……。 いいでしょう、付き合ってあげても。 金ヶ崎城 ほんとッスか！？ 敦賀城 ……鬼ごっこでもしましょうか。 金ヶ崎城は好きですよね？　私と鬼ごっこするの……。 金ヶ崎城 え……いや、別に好きというわけでは……。 敦賀城 ……思う存分、逃げ回っていただきますよ。 へとへとになって、胃袋が何も受け付けなくなるまで……。 金ヶ崎城 や、やっぱり怒ってるッス～～！？ 指月伏見城 ……くくく。 指月伏見城 ……面白い！ 簡単にありつけては面白くないと思っていたところじゃ……。 指月伏見城 焼きおにぎりは勝った者の総取り！　それで良いな？ 敦賀城 良いでしょう……。 敦賀城 その代わり、私に捕まった方から順番に布団へぶち込んでいきますからね。 指月伏見城 望むところじゃ！　ではゆくぞーーっ！
後半
金ヶ崎城 やっぱり負けちゃったッス～……。 長浜城 あっという間でしたね……。 長浜城 素早く、迷いの無い動き……。 夜の暗さは敦賀城さんにとって障害にならないのですね。 金ヶ崎城 むしろ、逃げるあたしらの方が敦賀城を見失ってしまってたッス……。 指月伏見城 うむ、流石は敦賀城じゃな。 見事な身のこなしじゃった……。 長浜城 とかいって、一番意気込んでた指月伏見城さんが、 真っ先に捕まってましたけど……。 長浜城 目当ての焼きおにぎりは取り上げられちゃいましたし……。 指月伏見城 よい、よい。まだ腹は減っているが、ふわぁぁ……。 走り回ったお陰で、うまい具合に眠気が回ってきた……。 金ヶ崎城 あたしも眠くなってきたッス～……。 指月伏見城 うむ、充分楽しんだし寝るとするか。 そら、行くぞ二人とも。 長浜城 もー、気分屋なのも大概にしてくださいよ～……。 敦賀城 …………。 敦賀城 ……ようやく静かになりました。 敦賀城 もうじき朝です……。取り上げた焼きおにぎりは、 朝に食べてもらうことにしましょう。 敦賀城 さて……私も布団に戻るとしますか。 ……あら？ ？？？ どうした？ 何だか騒がしいが……怪の類でも現れたか？ 敦賀城 いいえ。遊び足りないと騒ぎだした城娘がいたのです。 鎮圧しましたので心配は要りません。 佐和山城 なんだ、そうだったのか。 残念だな、乗り遅れてしまうとは……。 敦賀城 いいんです。貴方が乗っかっていたら、 余計ややこしいことになっていたでしょうから……。 佐和山城 そうか……まぁ、それもそうだな。 敦賀城 えぇ……。 佐和山城 …………。 佐和山城 その、なんだ……すまなかったな。 巨大兜の件、力になれなくて……。 敦賀城 なんですか、急に。 ……というより、どうして貴方が謝るのです？ 佐和山城 前に言っただろう。お前の危機を知ればすぐに飛んでいく……と。 その約束を、果たせなかったから……。 敦賀城 …………。 敦賀城 仕方のないことです。……聞きましたよ。 敦賀城 私に巨大兜が接近していた頃……。 佐和山城は兜たちに囲まれ、危機に瀕していたのでしょう？ 敦賀城 私にとって貴方が大きな心の支えだった。 あの巨大兜は、それをよく知っていたのですね……。 敦賀城 私を孤立させるために、 あの巨大兜は……周到に策を練っていたようです。 佐和山城 そうだな。不甲斐ないことだが……私の力では、 兜の包囲を破ってお前の城まで辿りつくことはできそうになかった。 敦賀城 不甲斐なくなどありません。 こうして以前と同じように接してくれるだけで、私にとっては充分すぎます。 佐和山城 そう言ってもらえるのは嬉しいが……。私としては、 殿に手柄を取られてしまったことが、残念で仕方ないよ。 佐和山城 お陰で、敦賀城の心も殿に奪われてしまったようだし……。 敦賀城 な、心って……！ 突然何を言い出すのですか、貴方は……。 佐和山城 ははっ、 敦賀城がそこまで慌てるとは、どうやら満更でもないらしいな。 佐和山城 しかし、まぁ……こうして、お前と再び話すことができるのも殿のお陰と思えば、 やはり、殿には感謝をしなければならぬのだろうな。 敦賀城 …………。 佐和山城 ……そうだ、敦賀城。 せっかくだし今日は一緒に寝ないか？ 敦賀城 え……？ 佐和山城 金ヶ崎城とは一緒に寝たと聞いたぞ。 私だけ仲間はずれだなんて、寂しいではないか。 敦賀城 …………え、えと。 その……。 佐和山城 …………。 佐和山城 はははっ。なーんてな、冗談だよ。 お前の困る顔が見たかっただけだ。 佐和山城 さてと、もう一眠り、っと……。 敦賀城 別に、構いませんが……。 佐和山城 …………え？ 敦賀城 構いませんが、と申したのです！ 私も、もう少し話したいと思っていたところでしたから！ 敦賀城 ただ、先程の言葉が冗談で、 私と一緒に寝る気が無いというなら……それもまぁ、構いませんが！ 佐和山城 お、おぉ…………！ 佐和山城 敦賀城……お前今、猛烈に照れているな……！？ 敦賀城 ぅぐ……。 佐和山城 『構いませんが』とな？ そうかそうか。『構いませんが』か！　なるほど！ 敦賀城 茶化さないでください……。 佐和山城 こう……恥じらいつつも相手を受け入れ、 それでいて身を委ねている感じが……なんとも敦賀城らしい……！ 敦賀城 解説もしないでくださいっ！ 佐和山城 照れるな照れるな♪　許してくれ、 素直な敦賀城が見れて、嬉しくなってしまったのだ。 佐和山城 ま、話の続きは布団の中で聞こう。 そら、行くぞ♪ 敦賀城 ぅ～～…………。 夜の廊下に響き渡る、佐和山城の軽快な足音。 その後を追う敦賀城は苦い表情を浮かべていたが、 彼女の足音にもどこか、佐和山城のような……、 喜びを孕んだ響きが感じられた――。

特に記載のない限り、コミュニティのコンテンツはCC BY-SAライセンスの下で利用可能です。