ストーリーテキスト/武神降臨！黒田長政

武神降臨！黒田長政[]

武神降臨!黒田長政

――豊前国に巨大兜が出現したとの報あり。
若松城と共に現地へと向かった殿は、其処で
武神と化した巨大兜の姿を目の当たりにする。

前半
――どうして？ どうしてわたしを殺そうとするのですか？ 怖い……。 ……怖いよ……。 ………………父上……。 ………………。 黒田長政 …………。 毛利元就 ――長政殿。 未ダ内奥ノ混乱ハ収マラヌカ？ 黒田長政 毛利殿……。 黒田長政 ……いえ。 黒田長政 武神降臨の儀による魂の定着はつつが無きものにて候……。 毛利元就 デハ、其方ハ何ニ黙シテイタトイウノジャ？ 黒田長政 声が……。 黒田長政 ……この器に宿る魂の囁きが、聞こえたような気がしたのです。 黒田長政 巨大兜にて顕現した当初の惑いではなく……。 黒田長政 あれこそが……この魂に潜みし激情の根源なのだと解するに、漸く至ったのです。 毛利元就 ……フム。 摂津ニテ狂イ倒レテイタ其方トハ思エヌ言ジャナ。 毛利元就 シテ……其ノ怒リノ矛先ハ、ヤハリ石田治部殿ニ向イテオルノカ？ 黒田長政 ……否。 黒田長政 先の大戦――関ヶ原における対峙など結果でしかありませぬ。 黒田長政 そう……この魂が孕みし憤怒は、荒木村重の謀叛の折に生じしもの……。 毛利元就 有岡城ノ戦イト呼バレシ戦カ……。 毛利元就 伊丹酒ヲ奪ワントシタ其方ノ過去ノ行動モ、 然様ナ過去ニ因シテイタトイウ訳ジャナ。 黒田長政 しかし、この怒りにも限が生まれた今、 嫌が応にも我が激情に終止符は打たれましょう……。 黒田長政 なれば彼奴を討ち、比類無き武を示すことで、この魂に報いようかと存じまする。 毛利元就 フム……如何ナ理デアロウト、 其ノ武神タルチカラヲ奮ウ覚悟ガアルノナラバ止メハセヌ。 毛利元就 進マレヨ、長政殿……アノ御方モ其レヲ望ンデイヨウ。 黒田長政 ……承知。 黒田長政 さぁ、皆の者よ――我に続くのだ！！ 兜 ――御意ッ！ 兜軍団 出撃準備、完了！ 兜軍団 今コソ仇敵ヲ討チ果タサンッ！！ 今コソ仇敵ヲ討チ果タサンッ！！ 今コソ仇敵ヲ討チ果タサンッ！！ ――三日後・所領。 ひとりの城娘が、息を切らして所領へと駆け込んできた。 若松城 はぁ……はぁ……と、殿さん……うっ、くぅぅ……。 殿 …………っ！？ 千狐 ど、どうしたのですか若松城さん！？ いったいその怪我は……？ 若松城 そ、それが……くっ、うぅぅ……。 若松城 兜が……ま、前に『筑前』で出会した、あの…… 黒田長政の名を冠する巨大兜が……豊前に、現れて……、 若松城 福岡城のやつ……長政タンが苦しんでるって……、 ……勝手に、ひとりで飛び出していくもんだから……、 若松城 私も……付いていったんだけど……はぁ……はぁ……。 若松城 そしたら……あの巨大兜……、 前に会った時とは……く、比べものにならないほど強くなってて……。 若松城 ……今は、伊丹城たちも救援に駆け付けてくれて……、 何とか戦線を維持してる状態だけど……、 若松城 ……このままじゃ、みんな……殺されちまう……、 若松城 頼むよ、殿さん……力を、貸してくれ……！！ 殿 …………！ 柳川城 はいっ！　 すぐに豊前へ向かいましょう！！ ――豊前国某所。 黒田長政 …………もう終わりか、城娘よ？ 伊丹城 くっ…………何と、禍々しき力……。 前に対峙した時とは、あまりにも在様が異なりすぎる……。 有岡城 これが……音に聞く、武神降臨の儀を経た巨大兜の力なのですね……。 伊丹城 けれど、これしきで倒れるわけには……いかないのよ！！ 黒田長政 そうだ……立て……。 この程度では我が激情は収まらぬ……。 福岡城 ――長政タン！　 もう止めて！ 黒田長政 …………。 福岡城 ふっく～は……長政タンと争いたくなんてない……。 福岡城 ……こんなこと、してほしくないのぉ……。 黒田長政 ……福岡城。 黒田長政 闘争の意思無き者は失せよ……。 黒田長政 我が激情の向かう先に……其方は存せぬ。 福岡城 で、でも……。 伊丹城 ヤツの言うとおりよ……ここは退きなさい、福岡城！ 伊丹城 あなたは……あの異形に、かつての主を重ねすぎているわ。 有岡城 それに、あの巨大兜の怨嗟は……、 ……わたしたちに向いているようですからね。 福岡城 だからって……見過ごせないよ！ 福岡城 あの巨大兜は……長政タンの魂を―― 有岡城 邪魔だと……そう言ってるのがわからないのですか？ 福岡城 ――っ！？ 有岡城 おや、これは失敬……痛みと苛立ちでつい悪口が……。 有岡城 ですが、あなたの優しさはここにあっては目障りなのですよ。 有岡城 あの巨大兜がわたしたちを誅戮せんと臨む様に……、 有岡城 私たちもまた、城娘たる業の下に奴を滅ぼさねばならぬのです。 有岡城 それでも邪魔するというのならば……、 わたしが、あなたを監禁して差し上げてもよろしいのですよ？ 福岡城 ……うぅ。 福岡城 無駄だよ……有岡城ちゃん。 有岡城 ……え？ 福岡城 ふっく～を逃がそうと脅しをかけてるなら無駄なの！ 有岡城ちゃんが優しい城娘なの、ふっく～わかってるんだから！ 福岡城 それに、若松城ちゃんが殿たちを呼びに行ってから もうかなり時間が経ってるし……もう少し粘れば―― 若松城 ――福岡城、待たせたな！　 殿さんたちを連れてきたぜ！ 福岡城 若松城ちゃん！ 殿 …………。 伊丹城 殿……よかった、来てくれたのね！ 有岡城 申し訳ありません……あの巨大兜との因縁は、 わたしたちだけで決着をつけようと思ったのですが……。 有岡城 武神化した巨大兜の力を、少々侮っていたようです……。 柳川城 武神化――っ！？ ということは、あの巨大兜は……。 千狐 はい、先に戦った前田利家の名を冠する巨大兜同様、 文字通り命を賭けて、この地での戦いに臨んでいる様です！ 黒田長政 やはり……来たか、殿よ……。 黒田長政 嘗ての借り……今こそ返させてもらうぞ。 柳川城 ――殿、巨大兜が戦闘態勢に入りました！ こちらも戦いの準備をっ！！ 殿 …………！ 黒田長政 行くぞ殿……我が激情の猪突にて貴様を滅してくれようぞ！
後半
伊丹城 終わりだ、異形のモノよ！ はぁぁあ――っ！！ 黒田長政 ――ぐぅあっ、ぁああぁぁぁぁっ！！ 黒田長政 い、伊丹城、めぇ…………き、貴様ぁぁああッッッ！！ 有岡城 わたし、有岡城のこともお忘れなくですよ……ふふっ。 黒田長政 な……いつの間に、背後をッ！？ 有岡城 いくらあなたが黒田の名を冠していようと、 監禁などと生ぬるい処し方で済むと思わないでくださいね。 有岡城 さぁ……潔く、散りなさい！ 黒田長政 （こ、ここまで……か……） 福岡城 ――待って！　 有岡城ちゃん、待ってなのぉ！ 有岡城 ……福岡城さん？ 有岡城 何を言っているのか、自分でわかっているのですか？ 伊丹城 まさか、この異形に情けをかけろとでも……？ 福岡城 違う……違うよ……。 福岡城 ふっく～が、やる……。 伊丹城 ……え？ 福岡城 ふっく～が……長政タンを……、 福岡城 ううん、長政タンに良く似た……その魂を、討つの……。 有岡城 ……本気、ですか？ 福岡城 うん……。 福岡城 ……その義務がふっく～にはあるはずなの。 有岡城 …………。 有岡城 ……そう言われては、致し方ありません。 有岡城 殿も、異論はありませんね？ 殿 …………。 福岡城 ありがとうなの、殿。 黒田長政 …………福岡城。 福岡城 長政タン……。 黒田長政 …………。 福岡城 …………。 黒田長政 我が言動は……全て、縁結びし魂の囁きに……因る……、 黒田長政 其方が泣くことはない……これで良かったのだ……これ、で…………。 福岡城 ……うん。 小さく頷きを返し、福岡城は己が矢を解き放つ。 黒田長政 ――くぅッ、ぁ……ぁぁ…………。 身を穿たれた異形は僅かに苦悶したが、 程なく、その声音は掻き消えていった。 福岡城 ゾンターク……ゾンターク………………長政タン…………。 黒田長政 ……………………………………………………………。 福岡城 …………。 若松城 ……よく、頑張ったな。 福岡城 若松城ちゃん……。 福岡城 ふっく～はね……ふっく～は、ね……ぐすっ……うぅぅ……。 若松城 ああ、わかってるよ……。 こうするしか……無かったんだ。 伊丹城 …………。 伊丹城 ……終わったのね。 有岡城 …………ええ。 千狐 巨大兜の霊気の消滅を確認……。 千狐 殿、黒田長政の名を冠した巨大兜を、 見事討ち果たすことができたようですわ。 殿 …………。 柳川城 これでまた一体、巨大兜の脅威を取り除くことができましたね。 やくも さっすが殿さんがやぁ～！ この調子で、これからもどんどん巨大兜さんを倒していくだにぃ！ やくも ……って、言いたいところやけど。 福岡城 うぅぅ……長政タン…………長政タン……。 やくも ………何だか、素直に喜べないだに。 伊丹城 そんな顔しないで、やくもちゃん。 伊丹城 巨大兜が人のように振る舞うのは、あくまで悪用している魂の所為……。 伊丹城 罪無き者たちを殺め、人々の営みを破壊してきたモノにとって、 是は当然の報いであり……必然の帰結なんだから。 殿 …………。 伊丹城 ええ。 何れにせよ、巨大兜を討ち果たせたことは確かだわ。 伊丹城 すぐに所領に戻って、この吉報を他の城娘たちにも伝えなきゃね。 千狐 それでは、殿。 所領へと帰還するとしましょう！ 有岡城 …………。 千狐 コンッ！　 秘技・時空転移術なのぉ――っ！！ ……。 …………。 ………………。 消えかける意識の中で、再び『黒田長政』の魂から、問いの言が放たれた―― ――どうして？ どうしてわたしを殺そうとするのですか？ 怖い……。 ……怖いよ……。 ………………父上……。 有岡城 ――父上、ですか。 まさか、其処まで巨大兜が魂に左右される存在だとは思いませんでした。 黒田長政 ……あ、有岡城？ 黒田長政 なぜ、ここに……？ 黒田長政 いや、それより……『わたし』は、死んだのではないのか？ 有岡城 ええ……。 有岡城 でも、死んだのは器としてのあなた……。 有岡城 魂の死は……これから起こるのですよ。 黒田長政 では……止めを、刺しにきたのか？ 有岡城 まさか……。 だいたい、止めなら福岡城さんがきちんと刺したでしょう？ 黒田長政 ならば、なぜ……？ 有岡城 聞こえてしまったからですよ……。 有岡城 あなたの魂の声が……。 有岡城 悲哀に満ちた、幼子のような涙声が……ね。 有岡城 だから……。 有岡城 最後くらい誰かが傍にいてあげないと、可哀想ではありませぬか。 有岡城 ……まぁ、所領への時空転移術を勝手に逃れて、 わたしだけこの地に留まっているので、 おそらくは、すぐに千狐さんが戻ってくるとは思います。 有岡城 ですから、あまり悠長に話している時間はありませんけどね。 黒田長政 ……其方。 黒田長政 どうして、この魂の声を識ることができたのだ……？ 有岡城 そう……ですね。 有岡城 あくまで推測ですが……おそらくは、あなたの瘴気の所為……。 有岡城 ほら、覚えてませんか？ 有岡城 わたしは、一度あなたの生み出した瘴気によって心身を侵されている……。 有岡城 その過去が、あなたが抱える魂との媒となったのではないでしょうか？ 黒田長政 …………。 有岡城 そして、わたしは先刻の戦いで……垣間見てしまった……。 有岡城 ――あなたの心魂の気色を、ね。 黒田長政 そうか……この憤怒を、見たというわけか……。 有岡城 ええ。 身を焼かんばかりの、怒りの在り様を。 有岡城 だからこそ、確信を持って言えます……。 有岡城 ……その憎しみは、いずれ現に伝播する。 有岡城 器にではなく、魂にでもなく、呪いとして、この世に残り続ける……。 有岡城 だからこそ、わたしが禊ぐのです。 黒田長政 …………。 有岡城 ……さぁ、巨大兜よ。 有岡城 あなたが、キリシタンであった黒田長政に影響された器ならば、 いまここで懺悔なさい……。 黒田長政 …………。 黒田長政 …………何と、賢しき城娘か……。 黒田長政 然らば……この魂が言にて贖わん……。 黒田長政 ……我が憤怒の根源は……。 黒田長政 関ヶ原の戦における……石田治部殿に対してでは、無い……。 黒田長政 それは……貴様の嘗ての城主―― 有岡城 ――荒木村重による、黒田勘兵衛の監禁……。 有岡城 其処に因する怒りと断じて……よろしいのですね？ 黒田長政 ……ああ。 黒田長政 我が父が……義を守らんと、土牢の苦しみに耐え……、 織田信長を……裏切るまいとしていた最中……。 黒田長政 ……信長は、わたしを殺そうとした……。 黒田長政 秀吉様も……庇ってはくれなかった……。 有岡城 そして……あの時、あなたを救ったのは―― 有岡城 ――竹中半兵衛の義侠心だった。 有岡城 だから、貴方は織田、豊臣の無情を恨んだ……。 黒田長政 …………。 有岡城 …………。 有岡城 もしかしてあなたは……殿や、わたしたちではなく……、 有岡城 織田信長と豊臣秀吉の名を冠する巨大兜を 討ちに行こうとしていたのでしょうか？ 黒田長政 ……ふっ。 黒田長政 そこまで、見透かされていようとはな……。 黒田長政 ……だが、 黒田長政 一つだけ大きな勘違いをしておるようだ。 有岡城 ……勘違い？ 黒田長政 ああ……。 黒田長政 この魂が囁く『わたし』が……一番殺したかった相手とは……、 黒田長政 ……わたし自身なのだ。 有岡城 父を救えなかった、己が卑小を怨んでいたとでも？ 黒田長政 おそらくは……な。 有岡城 随分と身勝手で……強欲な憤りですね。 黒田長政 ……全くだ。 黒田長政 だからこそ……其方らに討たれてほっとしておる……。 黒田長政 ……戦乱の世など……永く、続けるべきでは……ないのだ……。 黒田長政 この身に宿る魂が……今は、静かに……そう囁いておる……。 黒田長政 ……まったく……何と身勝手な……想いの変遷か…………。 黒田長政 このような……不安定な…………魂、など……兜には……そぐわぬ……。 黒田長政 我らが…………創造主は……どうして、このようなものを……わた、し……に…………。 黒田長政 実、に………………不可、解な…………もの、よ………………な………………。 黒田長政 ………………………………………………………………………………………。 有岡城 …………。 有岡城 ……安らかに眠りなさい、名も無き器よ。 有岡城 貴方の言の葉も、共にしたこの時も……、 すべて我が魂の裡に仕舞っておきましょう。 有岡城 それが、きっと……わたしの抱える業の―― 千狐 ――有岡城さ～～～んっ！！ 有岡城 おや、もう戻ってきてしまいましたか。 千狐 すみません、有岡城さん。 千狐 千狐の転移術が未熟なばかりに、 有岡城さんだけ所領へお連れするのに失敗してしまったようです。 有岡城 ふふっ……お気になさらずに、千狐さん。 有岡城 むしろ、あなたの転移術が完璧だったからこそ、 わたしだけがここに残ることができたのです。 千狐 ……え？ 有岡城 ふふっ……何でもありませんよ、千狐さん。 有岡城 今のは、独言……。 有岡城 そう、全てはただの独言……だったのですから。 黒田長政 …………………………………………。

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