ストーリーテキスト/横切る破滅と黒兎

横切る破滅と黒兎[]

横切る破滅と黒兎 -序-

日の本各地で城娘たちが失踪しているとの報あり。
兜の仕業に違いないと調査に乗り出した城娘らと
協力し、行方不明となった城娘たちを救い出せ。

前半
――永遠に生きられたなら。 それは古来より多くの者たちが願い求めど、 叶わずに果てていった呪いじみた夢の一つ。 ……くだらぬ。 新宮城 実にくだらぬ夢よなぁ……。 新宮城 ……。 新宮城 ……ん？ 武士 ――お、お助けくだせぇ！ 兜が……兜が、すぐそこにぃっ！！ 見知らぬ男に息も絶え絶えといった様子で縋り付かれ、 これが幼き娘だったらなー、などと内心で溜息を漏らす。 そんな倦怠に満ちた内奥をなんとか無視して、 彼方より迫る無数の足音へと視線を転じると―― 兜 ――ザザッ！ 兜軍団 ザザッ！　ザザザッ！！ 新宮城 （兜、か……我が領内にまで近づいてくるとは珍しい） 武士 城娘さまぁ……どうか、どうか兜らを倒してくだせぇ……！！ 新宮城 うーむ……妾は面倒事は好かぬのじゃがのぉ。 新宮城 というより、おぬし……。 新宮城 此処で死ぬのも一興かもしれぬぞ？ 武士 ……え？ 新宮城 人は永遠には生きられぬ。 新宮城 此処で死のうが、明日死のうが大差ないではないか？ 武士 な、何を仰るのですか！？ 城娘さまともあろう御方が、人間を見捨てるというのですか！？ 新宮城 そう言われてもなぁ……。 妾も好きで城娘として顕現した訳ではないしのぉ。 兜 ――城娘ッ！　城娘ヲ発見セリッ！ 兜軍団 覚悟、覚悟ッ！ 新宮城 のわ――っ！　いきなり何をするんじゃ――！ 兜軍団 容赦無用！　一斉穿殺ッ！！ 新宮城 ちぃ、調子に乗りおって……はぁぁ――っ！！ 兜軍団 ギャァァァァアアアア――ッ！！ 新宮城 まったく、妾の平穏を乱しよってからに。 死を以て償え……というやつじゃな。 武士 …………あ、ありがとうございます！ 危ないところをお助けいただき、何と感謝したらいいか―― 新宮城 ――ん？　何じゃおぬし、まだいたのか？ さっさと何処かに行け。妾は自室に戻って寝るゆえ邪魔するでないぞ。 武士 そ、そうはいきませぬ！　 命の恩人たる城娘さまに何か礼をさせてくだされ！ 新宮城 ――なにっ！？　礼じゃとっ？ 武士 は、はい！　拙者にできることなら何でもしますぞ！ 新宮城 おお、何でもとな――！？ 新宮城 ならば……そうじゃな。 新宮城 おぬし。子はいるか？ 武士 はい！　まだ幼いですが、娘がふたり！ これがもう目に入れても痛くないくらいに可愛くて……えへへ。 新宮城 そうかそうか。幼いか。それはいいのぅ♪ 新宮城 ならば礼代わりにどちらか妾に差し出せ。 それをもって此度の礼として認めようぞ。 武士 ……え？ 新宮城 何じゃ、聞こえなかったのか？ 娘じゃよ娘。娘をどちらか寄越せと言っておるのじゃ。 武士 じょ、冗談ですよね……？ 新宮城 本気じゃ♪ 武士 …………。 新宮城 …………。 武士 …………。 新宮城 早うせぬか！　何なら妾の黒兎たちに お持ち帰りするよう命じたっていいんじゃぞ！ 武士 ひぃぃぃっ！！　な、何だこの城娘はぁ！？ 兜よりもおっかねぇ～だぁ～！ 新宮城 あ、これ！　どうして逃げるのじゃ！ まだおぬしの娘はいただいておらぬ―― 新宮城 ――って、何という逃げ足の速さじゃ。 まったく、近頃の武士は礼儀というものを知らぬなぁ。 新宮城 ……まぁいいか。結果として邪魔者は消え去ったのじゃ。 妾は、なれ寿司でもパクつきながらごろ寝を決め込むとするかのぉ。 ？？？ ――待テ、新宮城。 新宮城 ん？　誰じゃ？　妾を気安く呼び捨てるのは――。 石田三成 …………。 新宮城 ――のわぁっ！？　い、いきなり何じゃおぬし！ 巨大兜がそんな風にふらりと現れていいのか！？ 新宮城 というか、何故に妾の許へ来たのじゃ？ あっ！　もしかして雑魚兜を倒したことを怒っとるのか？ 新宮城 だったら非はそちらに―― 石田三成 ――頼ム。 力を……お主の力を貸シテほしい。 新宮城 は……？ 妾の力、じゃと？ 石田三成 然様……。 聞ケバお主、不老不死ノ神薬を作れるそうではないか。 新宮城 ――っ！？ おぬし何処から其の話を……？ 石田三成 出所などドウでもイイ。 ……今は、我に協力するか死ぬか選べと言ってイルのだ。 新宮城 それは選択の提示などではなく脅迫じゃ、愚か者！ 新宮城 そもそも、おぬしら兜は半永久的に生き続けられる存在ではないのか？ ――そう問いかけて、妾はあることに気づく。 新宮城 武神降臨の儀、か……。 石田三成 ……其所マデ知っているならば話ハ早い。 石田三成 我ニハもう時間が無い……。 ……いずれ此ノ器にも死が内包されよう。 石田三成 しかし、ソレでは太閤様ノ恩義ニ報いるコトが出来ぬ。 我にとって死は……太閤様ヘノ裏切りなのだ。 新宮城 死を内包することで武の神へと至るというのに、その死すら厭うとは……。 新宮城 おぬしら兜も、人に負けぬほどに欲に塗れておるのぅ。 石田三成 …………否定はセヌ。 我自身、斯様な思いに至ッタコトは奇妙に感じている。 新宮城 …………そうか。 ――迷いは、思ったほどなかった。 善悪というものが妾の中でそれほど大仰な天秤の上にないことは、 此世に生を受けた時から感じていたことのひとつでもある。 だが、城娘ゆえか、兜らに協力することはやはり嫌悪がつきまとう。 だからこそ、後ろめたさを滅するが如く、対価を求めてみせるのだ――。 新宮城 よかろう。 妾の業と技の範囲内でよければ協力してやろうではないか。 石田三成 ホ、本当かッ！？ 新宮城 とはいえ、ただ働きは死んでも御免じゃ。 それ相応の褒美はもらうぞ？ 石田三成 背に腹は代えラレヌ……。 お主が望むものナラバ、何デモ用意シテミセヨウ……。 新宮城 むふふ……今の言葉、決して忘れるでないぞ？ 新宮城 ならば今すぐに集めてみせよ！ 妾の黒兎たちよりも早く！　そして大量に！ 新宮城 幼き城娘を……な！ ――数週間後・所領。 千狐 な、何ですって――っ！ 各地で次々と幼き城娘たちが兜に襲われている！？ やくも しかも、襲われた城娘さんたちは、 そのまま連れて行かれてしまうって、一体どういうことがや！？ 高遠城 理由まではさすがに、この高遠城も分からねぇが……、 高遠城 実際に事件は起きてしまっている……！ 今重要なのは其所だろ、神娘のお二人さん？ 高遠城 まぁ、初対面のアタシがいきなり所領に乗り込んできて 力を貸してくれってんじゃ信用ならねーかもしれねぇが、 高遠城 既にアンタらも顔馴染みである 笹原城や大仏城らも行方が分からなくなってるって話だ。 柳川城 ――笹原城さんが！？ そんな、久留米城ちゃんが傍にいるはずなのに、どうして……！？ 高遠城 久留米城は笹原城を守ろうとしたみてぇだが、 巨大兜らの猛攻の前に為す術なくやられちまったらしい……。 高遠城 一応、今回の事件の調査でアタシは久留米城に会ってきたが、 相当な霊気を消費しちまったのか、今は歩くのもやっとな状態にある。 高遠城 臓腑がねじ切れちまいそうなほどに悔しかったんだろうな。 ……アイツ、笹原城だけじゃなくアンタにも詫びてたよ。 柳川城 久留米城ちゃん……。 高遠城 他にも、多くの城娘たちが今回の兜たちとの戦いで 疲弊している状況ではあるんだが……。 高遠城 そいつら全員が口をそろえて、言っていた言葉がある。 高遠城 ――『黒兎たちに気をつけろ』ってな。 千狐 黒兎……？ どういうことなのでしょうか、殿。 殿 …………。 柳川城 そうですね、事態が明確に分からずとも、 とにかく今は事件解決へと乗り出すとしましょう！ 柳川城 （久留米城ちゃん……私が必ず、笹原城さんを助けてみせますからね！） 殿 …………！ 高遠城 それでこそ、殿だ。 さすがは躑躅ヶ崎の姉御が認めただけのことはある。 高遠城 連れて行かれちまった城娘たちの居場所に関しては、 既に仲間の調査によってあらかたの位置は掴んでいる。 高遠城 ってなわけだから、 アンタらの準備が出来たらすぐにでも攻め込むとしようぜ？ 千狐 はい！　それでは殿、出立の準備をお願いいたします！ ――数刻後。 千狐 殿、高遠城さんの仰っていた地はどうやらこのあたりのようですね。 やくも 此処に幼い城娘さんばかりを集めてるんかや……。 兜さんが何を考えちょーか問い質さないといかんだに！ 柳川城 ……そういえば、高遠城さん。 此の地には既に仲間の方が先行しているという話でしたが？ 高遠城 ああ。アイツ、上手くやっているといいんだが――。 ？？？ 上手くも何も、どんだけ長い間 アタシに密偵めいたことやらせてんだよ、高遠！ 殿 …………？ 佐賀城 あぁん？　アタシは城娘の佐賀城だよ。 佐賀城 確かアンタらんとこには姉貴が厄介になってるはずだが……。 佐賀城 ほら、村中城って名の城娘で……って、その様子じゃ、 アタシのことは何も聞かされてねぇようだな。 殿 …………。 柳川城 た、確かに……かなり似ていますね。 やくも けど、こんだけ大きな城娘さんなら、 兜さんに連れ去られる心配はないだにぃ！ 佐賀城 うっせーな！　アタシのどこ見て でけぇって言ってんだお前は！ 高遠城 佐賀城、そんなことでいちいち青筋立ててんじゃねーよ。 それより首尾はどうなってるんだ？ 佐賀城 ふん。彼処見てみろよ……。 予想通り雑魚兜どもがうじゃうじゃいるぜ。 高遠城 ……なるほどな。守りの厚さからして、 あの辺りに大事なもんを隠してるのは間違いないようだ。 柳川城 笹原城さんが、彼処に囚われているのですね……。 千狐 でしたら、一刻も早く助け出すとしましょう！ 高遠城 よしっ、それじゃあ殿！ まずは雑魚どもを蹴散らしに行こうじゃないか！ 殿 …………！ 佐賀城 っしゃ、ようやく暴れられるぜ！ 佐賀城――変身っ！ 高遠城 同じく、高遠城――変身っ！！ 兜 ――ムムッ！　城娘ヲ発見セリッ！ 兜軍団 皆ノ者、デアエーッ！　デアエーッ！！ 高遠城 さぁて、大事な初戦だ。 準備運動も兼ねて、きっちりと勝ちに行こうじゃないか！ 佐賀城 派手にぶちかましてやろうぜ、高遠！ 殿たちも遅れずについてこいよ――っ！！
後半
柳川城 ――はぁっ！！ 烏帽子形兜 ギャァァァアア――っ！！ 高遠城 ふぅ……まぁざっとこんなもんかね？ 佐賀城、そっちはどんな感じだ？ 佐賀城 歯ごたえなさ過ぎて欠伸を噛み殺す方がつれぇ。 こんな雑魚どもいくら相手したって満たされやしねーよ。 兜軍団 ――ヒィッ！！　ナンテ強サダ！ 佐賀城モ高遠城モ尋常ジャナイゾッ！！ 柳川城 （…………わ、私は！？） 千狐 ……あ、あれ？ やくも どうしたがや、千狐？ 千狐 これを見て、やくも。 やくも 扇……がや？　 しかも一個だけじゃなくて他にもいくつか落ちてるだに。 ……綺麗な代物やけど、いったいどうしてこんな所に？ 高遠城 ――っ！？ そ、それは……『丹鶴姫の扇』じゃないか！ 柳川城 ご存知なのですか？ 高遠城 此の地に縁のある聖なる力を宿した扇なんだが、 これが落ちているということは……いや、まさか……そんな……。 佐賀城 んだよ、はっきりしねーな、高遠！ 言いたいことがあるならさっさと言えよ。 高遠城 …………。 千狐 …………だ、大丈夫ですか高遠城さん？ 高遠城 心配をかけて、すまない……。 高遠城 その扇に宿る聖なる力は何かに使えるかもしれない。 とりあえず、拾い集めておいてくれないか？ やくも ま、まぁ、そういうことなら集めておくだに……。 殿 …………。 殿 …………！ 佐賀城 どうしたんだ、殿？ 向こうに何か見え―― 高遠城 ――っ！？ 笹原城 だ、だれかぁ……助けて……このままじゃ……ぐすっ……、 また、私たち……うぅぅ……。 大仏城 うぇ～～～ん……もう、耐えられないですぅ……。 ……福島城ちゃんたちに会いたいよぉ……。 柳川城 あ、あれは――笹原城さんと大仏城さん！？ 佐賀城 間違いねぇ……兜たちに連れ去られたっつぅ城娘たちだ！ やくも こうしちゃおれんだに！ 殿さん！　すぐに助けに行くがやー！ 千狐 ま、待ってやくも！ 笹原城さんたちの背後から誰か来るわ！ 新宮城 ――これこれ、何処へ行こうというのじゃ？ まだまだ妾のなれ寿司は沢山余っておるぞぉ？

横切る破滅と黒兎 -破-

ついに笹原城たちの許へと辿り着いた殿たち。だが、
そんな一行の前に現れた新宮城という名の城娘は、
己が野望のために敵として立ちはだかることに……。

前半
新宮城 ――これこれ、何処へ行こうというのじゃ？ まだまだ妾のなれ寿司は沢山余っておるぞぉ？ 笹原城 も、もうお寿司は食べ飽きたよぉ……ぐすっ……。 大仏城 ……美味しいのは分かりますが……、 十日も同じ献立だと……ぐすっ……さすがに辛いですぅ……！ 新宮城 うぅ、困ったのぉ。 そう言われても他に幼き城娘が喜ぶ食べ物など―― 新宮城 ――あっ、そうじゃ！　 ならば今度は秋刀魚ではなく、鮎のなれ寿司ならばどーじゃ？ 大仏城 うわ～んっ！　結局なれ寿司じゃないですかぁ～っ！ 笹原城 ぐすっ……そろそろ甘い物も食べたいよぉ～！ 千狐 …………。 やくも …………。 佐賀城 …………。 高遠城 …………。 柳川城 み、皆さん何で黙ってるのですか！ 柳川城 笹原城さんたちが泣いてるんですよ！？ すぐに助けに行かなくては――！ 佐賀城 って言われてもなぁ……。 高遠城 何だか思ってたような窮地ではないせいか、 とんでもない勢いで面喰らってしまったぞ……。 やくも というより！　うちらが心配してるのをよそに、 紀州名物・なれ寿司をえっぱい食べてたなんてうらやまけしからんだに！ 千狐 そういう問題じゃないでしょ、やくも！ 千狐 事情はどうあれ、お二人が泣いてるのです！　 殿、すぐに助けに行きましょう！ 殿 …………！ 新宮城 ん？　おぬしらは？　見たところ城娘もいるようじゃが。 いったい何の用があって斯様な地に来たというのじゃ？ 佐賀城 兜たちがちっこい城娘たちを次々と連れ去ってるって噂を聞いてな。 色々と調べた結果、アタシらは此の地に辿り着いたってわけよ。 新宮城 おお、そのことか！　実は妾もその事件を聞きつけてのぅ。 こうして一足先に笹原城らを保護していたのじゃ。 高遠城 しらばっくれても無駄だぜ……新宮城。 新宮城 ……はて？　どうして妾の名を？ おぬしのような図体も態度もデカい城娘に知り合いなぞいたかのぅ？ 高遠城 貴様に覚えが無くとも、この高遠城にはあるのさ！ 躑躅ヶ崎の姉御から色々と聞かされてるんでね。 高遠城 『丹鶴姫』の伝承に深き縁を結び、此世に現れた城娘……。 大の子供好きで、臣下の黒兎と特殊な扇を以て幼き者どもを誘うとか。 新宮城 …………っ！？ 高遠城 加えて、先刻の兜との戦闘後に拾った『丹鶴姫の扇』が 貴様と出会った途端に妙な共鳴を見せ始めてる……。 高遠城 故に……どう考えたって貴様が新宮城であることは間違いない。 新宮城 大げさな物言いじゃな。 ……で、結局おぬしは何が言いたいのじゃ？ 高遠城 分からねぇのか、新宮城？ 貴様が今回の事件の首謀者だろって言ってるんだぜ。 新宮城 ふふ……。 高遠城とか言ったか？　なかなかに知恵が回るようじゃな。 新宮城 こうなってしまっては隠しても意味はなかろう――っ！ ほれ、兜たちよ。妾と幼き城娘を守るために姿を現すがよい。 兜軍団 ――バレタ……バレタ……。 新宮城……ドウスル……？ 新宮城 そうさなぁ。妾はただ、我が領内を幼き城娘でいっぱいに したかっただけ故、正直なところ争い事は好ましくないのじゃが……。 新宮城 こーもデカい城娘たちに領内を侵されてしまっては さすがの妾も気分が悪い。早々にご退場願おうかのぉ。 高遠城 ――っ！？ 新宮城 どれ、久しぶりに戦いに臨むとするかのぉ。 新宮城 そして――幼き城娘は、妾こと新宮城が必ずや守ってみせる！！ 佐賀城 いやっ、おめーが悪玉だろうが！ なに正義面してんだよっ！ 高遠城 んなこと言ってる場合じゃねーだろうが！ 佐賀城、さっさと戦闘態勢に入れ！ 柳川城 殿！　我々も出陣しましょう！ 笹原城さんたちを助けるためです……負ける訳にはいきません！
後半
新宮城 う～む、困ったのぉ……おぬしら意外とやるではないか。 強いなら強いと先に言ってくれればいいものを……ぐすっ。 佐賀城 今さら泣き真似が通じるなんて思わない方がいいぜ？ アンタを倒したら、速攻で笹原城たちを返してもらうからな。 新宮城 そ、そうはさせぬぞ――っ！ 全ての災厄から幼き城娘を守ると妾は誓ったのじゃ！ 佐賀城 いや……だから何でお前が正義面して――。 新宮城 ふふふ――油断しおったな、佐賀城……。 戦いの最中に気を抜くとは、まだまだ二流よなぁ。 佐賀城 ――なっ！？ 新宮城 黒兎たちよ……妾を邪魔する愚か者を痛め付けてやるのじゃ！ 佐賀城 くぅぁっ――――う、うそ……だろ……？ こんなの……あり、かよ………………。 高遠城 佐賀城――っ！！ 新宮城 おっと、おぬしもこれ以上進むのならば容赦はせぬぞ？ 高遠城 くっ……先刻の戦いは手を抜いてたってわけか。 新宮城 当然じゃろう？ 初めから手の内を全て見せるなど愚者のすることじゃ。 笹原城 うぅぅ……柳川城お姉ちゃん……助けてぇ……。 柳川城 笹原城さん！　待っていてください！ すぐに私が助けてみせます――っ！！ 新宮城 むっ……？ 新宮城 柳川城お姉ちゃん――じゃとぉ！ 新宮城 おぬしぃ……誰の許可を得て 笹原城のお姉ちゃん的地位に座しているつもりじゃ！ 柳川城 ……え？　きゅ、急に何を……？ 新宮城 聞くがよい愚者どもよ！　妾の名は新宮城――っ！ 全ての幼き城娘の母であり姉として君臨する者ぞ！ 千狐 全ての幼き城娘の……、 やくも ……母であり姉？ 柳川城 そんな馬鹿な……何かの間違いに決まっています！ 新宮城 うむ！ 確かに今は、そう言われても仕方が無かろう。 新宮城 ――じゃがしかしっ！　いつかはそうなるつもりじゃ！ 故に妾は、我が領内に全国の幼き城娘を集めさせ、 新宮城 新たな共同社会を作り、あわよくば新国を形成し、 幼き城娘たちを未来永劫まもっていくつもりじゃっ！ 高遠城 ……何が新国だ。 次から次へ出鱈目なことを口にしやがって……っ！ 高遠城 いいか、柳川城！　アタシら二人で左右同時に攻め込むぞ！ 新宮城がどれだけの手練であろうと、全力での挟撃なら活路はあるはずだ！ 柳川城 分かりました！　合図はお任せします、高遠城さん！ 新宮城 ――むっ！？　何じゃおぬしら！ わらわは幼き城娘を守りながら戦うというのに二人がかりか！ 新宮城 まったく、これだから身体ばかり むちむちと育ったデカめな城娘はイヤなんじゃ。 新宮城 仕方あるまい！　お～い、三成や～いっ！ 約束通り、妾と幼き城娘たちを守護するのじゃ～！ 高遠城 ――はぁっ？ み、三成……だとぉっ！？ 千狐 殿！　彼方から巨大兜の姿が――！！ 殿 …………！？ 石田三成 殿……悪いガ新宮城の邪魔はサセヌぞ……！！

横切る破滅と黒兎 -急-

新宮城の要請に応じて現れた石田三成の名を冠する
巨大兜。城娘を守るために戦うという奇妙な言動に
面喰らいながらも一行は強敵との戦いに挑む……。

前半
石田三成 殿……悪いガ新宮城の邪魔はサセヌぞ……！！ 殿 …………！ 新宮城 こらーっ、三成！　ちょっとばかし来るのが遅いのじゃ！ 新宮城 ひとりでも幼き城娘らを連れて行かれてしまったら、 約束は反古となることを理解しておらんのか！？ 石田三成 クッ……わ、分かっているトモ……。 我ガ、必ズヤ幼き城娘とお主を守ッテミセル……。 やくも ど、どういうことがや？ 巨大兜さんが、城娘さんを……守る？ 高遠城 経緯は分からないが、あの巨大兜を倒さない限りは 笹原城たちを助けることはできない……それだけは確かだ。 佐賀城 なら……やることは一つしかねーだろ？ 柳川城 佐賀城さん！？　怪我はもう大丈夫なのですか！？ 佐賀城 新宮城の阿呆が無駄口叩いてる間に、 何とか戦えるくらいには回復した……心配は無用だ、柳川城。 柳川城 ならば……皆で力を合わせ、巨大兜を討ち果たしましょう！ 石田三成 笑止……勝つのは我ゾ……。 石田三成 （新宮城との約束ノため……決して負けるわけにはイカヌ……） 新宮城 ふっふっふ……三成のやつめ、やる気満々じゃのぉ。 新宮城 では、我々は巻き添えを食らわぬよう、 安全な場所で見物と洒落込むのじゃ♪ 笹原城 ……え？　 ちょ、ちょっと……何処へつれていくつもりなのぉ！？ 大仏城 ――きゃぁぁっ！？ 新宮城 これ黒兎たちよ。幼き城娘らを運ぶ時は そっと、やさしーく、時に大胆にじゃ！ 新宮城 くれぐれも怪我などさせるでないぞ？ 殿 …………！ 新宮城 ……というわけで、三成！ おぬしの健闘に期待しておるゆえ、負けるでないぞ？ 石田三成 任せておけ……。 永遠の命を得るためダ……必ずヤ勝利してミセよう……。 石田三成 サァ……往クゾ、殿――ッ！ お主を倒シ、我ガ野望ノ礎トシテくれるわッ！！
後半
石田三成 ――グ、ゥぅ……マサカ、これほどマデ……強くナッテいたとは……。 石田三成 ダガ……此処で退けば……、 新宮城の信頼スラモ失ってシマウ…………ッ！ 高遠城 その肝心の新宮城だが……、 高遠城 貴様が劣勢なのを察した途端、 城内へ逃げていってしまったぞ？ 石田三成 ……な、ナンダト！？ 佐賀城 城娘に見捨てられる巨大兜って……。 もうどっから突っ込んでいいか分からねーよ。 石田三成 だ、黙れ――っ！ 新宮城が城内へと退いたのナラバ、ソモソモの目的は果たしたも同義ッ！ 石田三成 全軍！　一時撤退ダ！ 暫し籠城シ、再戦ニ備えるゾッ！！ 柳川城 ま、待ちなさい！ そう簡単に逃げ切れると思ってるのですか！ 高遠城 ……待て柳川城！　此処は新宮城の領内だ。 深追いすれば返り討ちに遭うのは目に見えている。 柳川城 ですが……笹原城さんや大仏城さんが……っ！ 佐賀城 それに関しては、そんなに心配する必要は無いと思うぜ。 佐賀城 アンタも見ただろ？　新宮城のやつ、やってることは不可思議だが、 少なくともちっこい城娘たちを傷つけようって意思が無いのは明らかだ。 佐賀城 高遠、オマエだってそう思うだろ？ 高遠城 そうだな。ヤツの行動から察するに、 幼い城娘たちを保護しようという言葉に嘘はなさそうだ。 佐賀城 とはいえ、アイツが巫山戯た城娘ってことには変わりねぇ。 佐賀城 何が全ての幼き城娘の母であり姉として君臨する者、だ。 ……どう考えても普通じゃねーぜ！ 高遠城 普通じゃない……か。 高遠城 たしかに……佐賀城の言うとおり、 新宮城は真の意味で正常じゃないのかもしれない。 佐賀城 ……あ？　どういうことだよ？ 高遠城 これは、躑躅ヶ崎の姉御から聞いた話だが……、 高遠城 城娘の中には、長期に渡る単身での活動の所為で、 心外の事象に左右されやすくなる性質を孕んじまうヤツがいるらしい。 高遠城 だからこそアタシらは本能的に それぞれに師弟や兄弟、親子などの関係を維持し、 その共同体を守ろうとする……とのことだ。 佐賀城 ……んだよ、そんなの初めて聞いたぜ？ 高遠城 だろうな。アタシも躑躅ヶ崎の姉御に聞かされてなければ、 恐らく知ることのできなかったであろう事柄だ。 千狐 ですが、これまでの経験から言えば、 高遠城さんの話には頷けるものがありますわ。 千狐 丹波亀山城さんや、高島城さんの一件からしても……、 城娘は孤立すればするほどに不安定さがにじむようですし。 柳川城 そこに邪なる兜という存在が接近すれば、 不安定さの中に悪意というものが染み入るのは自明……。 高遠城 なればこそ、今後のことを考慮しても、 新宮城には城娘としてあるべき正常さを備えてもらう必要がある。 高遠城 今回の一件を力尽くで解決したところで、 その後再び幼い城娘を連れ去られては元の木阿弥だからな。 佐賀城 ……よくわかんねーな。 つまり何をすりゃいいんだよ？ やくも そうだに！　うちなんか ずっと前から何を話されてるのかさっぱりがや！！ 高遠城 そ、そう怒るなってやくも……。 高遠城 いいか？　再びの戦いに備えることは勿論だが、 高遠城 それと併せて、皆には、この扇の収集に努めてもらう！ 柳川城 それは……『丹鶴姫の扇』！？ 千狐 なるほど！　新宮城さんと縁のある代物が有する聖なる力をもって、 彼女が正道を歩めるようにしてあげるということですね。 高遠城 ああ。その通りだ、千狐。 佐賀城 けどよ、これまで見てきた奇々怪々な言動が アイツにとっての正道だったらどーすんだよ？ 高遠城 その時はその時さ。 高遠城 性根が腐ってるなら、躑躅ヶ崎の姉御と共に それ相応の荒療治を施すまで……ってな。 佐賀城 （コイツ……躑躅ヶ崎館と組ませるととんでもねーことするからな。 いくら変人とはいえ、新宮城をヤツらに委ねるのは避けたいところだぜ……） 高遠城 いずれにせよ、これから忙しくなるぞ。 柳川城も殿も、協力してくれるな？ 殿 …………！ 柳川城 はい！　笹原城さんたちを救えるのなら、どんなことでもしてみせます！ 柳川城 と言ってみたものの……ここで、一つ疑問があるのですが。 高遠城 ……何だ、柳川城？ 柳川城 新宮城さんたちは籠城態勢に入ってしまったわけですが、 その点に関しての対策は、どうしたらいいのでしょうか……？ 高遠城 ああ、そのことか。 高遠城 安心しろ、柳川城。アタシの軍略にかかれば、 あの程度の籠城を崩すのは造作ない。 柳川城 ほ、本当ですか！？ して……どのような策を使うおつもりなのですか？ 高遠城 ふふっ……まぁ、そう焦りなさんなって。 この策にはちょいとばかし時間がかかるからな。 高遠城 ってことで、殿。アタシには色々と準備があるんでね。 少しの間、『丹鶴姫の扇』集めの方は任せたぜ？

横切る破滅と黒兎 -絶壱-

石田三成の名を冠する巨大兜と新宮城の関係――。
不意の疑問が言葉となったのを契機とし、兜たちは
城壁で囲まれた区域内で奇妙な談義を始め出す。

前半
――殿一行と石田三成の名を冠する巨大兜との戦いから数刻後。 新宮城 ふぅ、やれやれ……。 まったく殿一行というのは噂以上の荒くれものじゃのぅ。 新宮城 怪我はないかえ、笹原城、大仏城？ 笹原城 う、うん……私たちは大丈夫だけど……。 大仏城 あの……いつになったら解放してくれるのですか？ 新宮城 ――な、何じゃと！？ そんなに妾と一緒にいるのはいやか？ 新宮城 妾、こんなにもおぬしたちに尽くしてるというのに……。 どうしてこんなにも嫌われておるのじゃ……えーんしくしく。 笹原城 あ、いや……べ、別にそういうわけじゃないけど……。 大仏城 そ、そうです……嫌いだなんて言ってないですよぉ……。 新宮城 じゃあ、妾のこと……好きか？ 笹原城 ま、まぁ……好きか嫌いかで言えば……。 大仏城 好き……と言った方が正しいような……。 新宮城 ――おほぉっ♪　ならば良いのじゃ♪ 妾もおぬしたちのことは大好きじゃぞ～♪ 笹原城 ――むぎゅっ！？ 大仏城 く、苦しいですぅ……新宮城さん……！ 新宮城 おっと、すまぬ。嬉しさのあまり抱擁がちとキツすぎたかの？ 新宮城 よし、それでは妾の黒兎たちが風呂を 沸かしてくれたようじゃから、一緒に入るとしようかのぉ♪ 笹原城 ……え！？　 大仏城 きょ、今日も……ですか！？ 新宮城 当然じゃ♪ 毎日清潔にしなくてはせっかくの美人さんが台無しじゃぞ？ 大仏城 そ、そうではなくてですね……。 笹原城 私たち……ひとりでもちゃんと入れるのにぃ……。 新宮城 何をぶつぶつ言っておるのじゃ？ ほれ、さっさと裸になって妾に身を委ねるがよいぞ！ 笹原城 服くらい自分で脱げる……って、ちょ、ちょっとぉっ！ 大仏城 新宮城さん、乱暴なことはやめてくださいぃ～～～！ 新宮城 よいではないかぁ、よいではないかぁ～なのじゃ♪ ……。 …………。 古桃形兜 …………行ッタカ。 烏帽子形兜 全ク、新宮城ノヨウナ城娘ハ珍シスギテ理解ガ追イツカヌ。 古桃形兜 アア。マサカ三成サマモ頭ガ上ガラナイトハ コレハ一体ドウイウコトナンダ？ 桃形兜 新宮城ミタイナノガ、好ミッテコトナノカナ？ 古桃形兜 ッテコトハ、意外ト尻ニ敷カレルノガ好キナンダナ、三成サマ。 椎形兜 ンー。デモ、ソレデ言ウト、 オレ的ニハ佐賀城ノ方ガ敷カレ甲斐ガアル気ガァ……？ 古桃形兜 ハ？　何イッテンダ、オマエ？ 椎形兜 イヤダカラ、尻ダッテ。 人魚形兜 皆ガイル前デ軽々シク尻トカ言ワナイデヨ、変態！ 椎形兜 バッ……チ、チゲェシ！ ソウイウ意味ノ尻ジャネーシッ！ 桃形兜 マァデモ……佐賀城ッテ ブッキラボウニ見エテ、面倒見ヨサソウダヨネ。 佐賀城 (※兜製幻想形・佐賀城) 佐賀城 んだよ、桃形？ お前まーた風邪ひいたのか？ 佐賀城 ったく、昔っからほんと軟弱なやろうだな。 佐賀城 はぁ……しかたねぇ。 ちょっと待ってろ、何か作ってきてやるからよ。 佐賀城 ……ほら、どうだ？　食欲なくても卵粥なら食えんだろ？ 火の扱いは苦手だが、こんぐらいならアタシだって出来んだよ。 桃形兜 アリガトウ、佐賀城チャン。 イツモイツモ迷惑カケテバカリデ、ゴメンネ。 佐賀城 気にすんじゃねーよ。 アタシが好きでやってんだから。 佐賀城 ――って、勘違いすんなよ！ 好きってのはそういう意味じゃねーからな！ 桃形兜 （ボク、別ニ何モ言ッテナインダケドナァ……） 佐賀城 ……んじゃ、アタシはそろそろ敵んとこ行ってくるわ。 桃形兜 エ！？　佐賀城チャン独リデ行クノ！？ 佐賀城 病気のお前を連れて行くわけにもいかねーだろ？ 佐賀城 分かったら病人……じゃなくて、病兜は大人しく そこで寝てろって。すぐに終わらせて来てやっからよ。 桃形兜 ――イヤダ！　ボクモ一緒ニイクッ！ 佐賀城チャンヲ独リデイカセル訳ニハイカナイヨッ！ 佐賀城 ったく……こういう時ばっか男らしいこと言いやがるんだから。 佐賀城 いいぜ。なら、ついてこいよ。 一緒に殿の馬鹿野郎をぶっ殺しに行くぞ！ 桃形兜 ウン！　ブッ殺シニイクッ！ 佐賀城 それじゃあ、出撃だ桃形っ！ あのクソ野郎を八つ裂きにしてやろうぜ！
後半
桃形兜 …………テナ感ジデサ、佐賀城トダッタラ 殿タチヲ一網打尽ニデキルンジャナイカナ？ 古桃形兜 イヤ、ツーカ出来テナクネ？ 桃形兜 何デダロウ。不思議ダネ。 烏帽子形兜 ッタク、想像ン中デ負ケテチャ、 実戦デ勝テルワケナイダロウガ。 古桃形兜 ……ソノ点、新宮城ハ凄イヨナ。 佐賀城ヲ一瞬デ倒シチマッタシ。 椎形兜 アー。アノ大破ップリハ凄カッタナ。 佐賀城 (※兜製幻想形・佐賀城) 佐賀城 …………。 古桃形兜 …………スゲェ。 桃形兜 ……ウン。スゴイヨネ。色々ト。 椎形兜 デモサ、ソンナコト言ッタラ新宮城モ、スゴソウ―― 新宮城 ――ん？　妾の何が凄いのじゃ？ 桃形兜 ゲェッ！　新宮城！ 古桃形兜 イ、イラシテタノデスカ？ 椎形兜 ハハ、テッキリ未ダ笹原城ラト風呂ニ入ッテイタノダトバカリ。 新宮城 あまり長湯させても身体に悪かろう？　 新宮城 それに、あの娘らも疲れていたのか、 布団に入ったらすぐに寝入ってしまったぞ。 古桃形兜 （布団カァ……） 桃形兜 （イイナァ……ボクラナンテ地面デ転ガルダケナノニ） 新宮城 それよりも、おぬしら。 改めて見ると、存外かわいい姿をしておるのぅ？ 桃形兜 ……エ？ 新宮城 さすがに幼き城娘と比べたら大きさ的にびみょーじゃが、 新宮城 もう少し小さくすることが出来るならば、妾の国に住まわせてやってもよいぞ？ 桃形兜 小サクスルコトガ出来レバッテ……ナ、何ヲナサル気ナノデスカ！？ 新宮城 ……もぎり取る、とか？ 桃形兜 ドコヲーッ！！ 新宮城 はは、冗談じゃよ、じょーだん♪ 新宮城 じゃが、兜らにもそれぞれ意識のようなものがあるとは驚きじゃ。 新宮城 世に出てきたばかりの時は、無機質で気味の悪いヤツらじゃと思っておったが。 新宮城 ふむ……これも、此世の導かんとする理の一端が成した結果ということか。 桃形兜 ……エ？ 新宮城 気にするでない、ただの独り言じゃ。 新宮城 さて、妾もそろそろ寝るとするかの。 おぬしらもあたたかくして寝るのじゃぞ？　よいな？ 桃形兜 ……ハーイ。 椎形兜 了解ッスゥ……。 古桃形兜 …………。 古桃形兜 何カ、新宮城ッテ優シイナ。 椎形兜 ケド、ヤッパ得体ガ知レナイノハ怖イヨネ。 桃形兜 ネー。 烏帽子形兜 ソレニ、城娘ヲ連レ去ッテキテルノ、殆ドアノ黒兎ダシナ。 古桃形兜 …………。 古桃形兜 一応……オレ達モ掠ワレナイヨウニ、今日ハ皆デ手ェ繋イデ寝トコウカ。 桃形兜 …………ウン。一蓮托生。 そうして此の日、桃形兜たちは皆一様に手を繋ぎ、 満月の美しい夜を過ごすことになるのだった――。

横切る破滅と黒兎 -離-

『丹鶴姫の扇』の収集に区切りをつけた殿一行は、
合流した高遠城と共に、新宮城との再戦へ臨む。
この戦に勝利し、捕らわれている城娘を救出せよ。

前半
――籠城開始から数日後。 新宮城 時に三成よ。 おぬし、今でも永遠の命を欲する心は変わらぬか？ 石田三成 当然ダ……そうでなくては、 誰が城娘ノためニ奔走スルものか……。 新宮城 ふむ……。 新宮城 だがな、三成。 死というものはそれほど厭うべきものじゃろうか？ 石田三成 ……何ガ言イたい？ 新宮城 限りあるからこそ命は美しい。 新宮城 そうは思わぬか、三成？ 石田三成 ……陳腐ナ言葉だ。 然様なコトは誰にでも言エル。 新宮城 だが、それでも確かに妾の言葉じゃ。 新宮の名を持つ城娘ゆえに宿る重みもあるじゃろう。 石田三成 …………。 新宮城 …………。 石田三成 …………お主ノ価値観を解する気は無い。 我ラハ互いに目的のために与してるにスギヌ。 新宮城 そう……じゃったな。 新宮城 すまぬ、無用な言であった。 ……引き続き幼き城娘らの守護を頼む。 石田三成 …………アア。 新宮城 …………。 新宮城 ……行って、しまったか。 大仏城 ――あ、あの……。 何を話していたのですか、新宮城さん？ 笹原城 あの巨大兜……いつもより何だか怖い感じだったよ……？ 新宮城 おお、大仏城に笹原城！ 然様なところにおったのか。 新宮城 なに、互いに益体のない言葉を投げ合っていただけじゃよ。 おぬしらが心配することなど何もありはせぬ。 新宮城 （わかっておる……） 新宮城 （……結局のところ、互いに無い物ねだりなだけなのじゃ……） ――数日後。 千狐 殿、かなりの数の『丹鶴姫の扇』が集まりましたね！ やくも はふぅ……こげに大量の扇を集めるんは骨が折れただにぃ。 柳川城 ですが、これだけあれば高遠城さんの求める個数には足りているかと。 佐賀城 ……で、肝心の高遠はまだ帰ってきてないのか？ 千狐 はい、籠城を解除する策のための準備ということで 暫しの間この地を離れるという話でしたが……。 佐賀城 アイツ……本当は何も策が思い浮かばなかったから、 尻尾巻いて逃げ出したんじゃねーだろうな？ 高遠城 ――んなことするか、阿呆が！ 佐賀城 どぅわっ！？　た、高遠！？ いつの間に戻ってきたんだよ！ 高遠城 つい先刻だ。 ったく、人があっちこっち走り回ってたってのに、 ひでぇ言い草じゃねーか、え？　佐賀城さんよぉ？ 佐賀城 う、うるせぇな。 こんだけ待たせたアンタがわりぃんだよ。 佐賀城 ……んなことよか、 アンタの策ってやつの準備はばっちりなのか？ 高遠城 ああ。万事問題ない。 駆け付けてくれた彼女たちさえ居れば、 既に策は成功したも同然なのだからな。 佐賀城 は？　か、彼女たち……？ どういうことだ、高遠？ 高遠城 ふふふ、まぁ見てろって……。 ――数刻後。 千狐 殿、いよいよ此の時が来ましたね。 新宮城さんたちとの決着をつけにいきましょう！ 殿 …………！ やくも なぁ、殿さん。 何か前に来た時と違って此処らの様子がおかしい気がするだに……。 柳川城 不気味な霊気が辺りに満ちている……。 これも新宮城さんの力の一つなのでしょうか？ 佐賀城 へっ、妙な小細工しやがって。 こんなんでビビるかってんだよ。 佐賀城 全ての準備は整ってるんだ。 高遠、アンタの策で新宮城のヤツらを引っ張り出してやれ！ 高遠城 応よ！　 高遠城 んじゃ、アタシらはそこらの物陰に隠れているから、 後は手筈通りに頼むぞ――幼き城娘たちよっ！ アイリーン・ドナン城 うん！　何だかよくわからないけど、 この紙に書いてあることを読めばいいんだよね？ 亀居城 これぐらいなら簡単ノシ！　安心して任せるノシ～♪ 不来方城 はぁ……何で俺まで……。 アイリーン・ドナン城 それじゃあいくよぉ―― アイリーン・ドナン城 ――新宮城おねえちゃ～んっ！ ドナンたちもぉ～、おねえちゃんの妹にして～♪ 亀居城 それでもって、みんなでずぅ～っと仲良くノシノシするノシ～！ 不来方城 し、新宮城……お、おねぇちゃ～ん……。 不来方城 （くぅ……こんなの根城姉さんに見られたらどーすんだよ、俺……） ……………………（し～～～ん） 佐賀城 おい、高遠……。 何も起きねぇぞ？ 高遠城 しっ――。 黙って頭下げとけ……。 佐賀城 いってぇな！　何すんだ―― 新宮城 ――おおっ！　これはまた何と可愛らしい城娘たちじゃ！ 新宮城 わざわざ会いに来てくれるとは、妾ちょー感激なのじゃっ！ 高遠城 （かかった――っ！！） 新宮城 のわ――っ！？　しかも異国の幼き城娘がいるのじゃ！ すごいのじゃ！　妾の人気はついに海をも越えたのか！？ 佐賀城 （騙されてるとも知らねぇでのこのこ出て来やがって……よし、行くぞ殿！） 殿 …………！ 柳川城 新宮城さん、そこまでです！ 新宮城 ……え？ 佐賀城 もぉ逃げられねぇぜ。 ここが年貢の納め時ってやつだ。 新宮城 なんじゃ、おぬしら！ まだ妾の領内をうろちょろしておったのか？ 新宮城 まぁよい。そんなことより、今の妾は絶賛取り込み中じゃっ！！　 見よ！　幼い城娘たちがこぞって妾の子になりたいと申し出ておるのじゃぞ！ アイリーン・ドナン城 ま、ママになってほしいとまでは言ってないよぉ～！ 新宮城 ――えぇぇっ！？？ 不来方城 いや、どんだけ驚いてんだよコイツ……。 新宮城 そんな……妾とノシノシしたいと言っていたのは嘘じゃったのか？ 亀居城 それは嘘じゃないよ～！ 亀居城 でもね、ノシノシするのは ちゃんと殿や柳川城ちゃんたちにごめんなさいしてからノシ！ 不来方城 新宮城。むりやり城娘を連れ去った罪は、しっかりと償ってもらうからな。 新宮城 そ、その姿は……！？　いったいどういうことじゃ？ なにゆえ妾に武器を向ける……！ 新宮城 ――はっ！？　さてはおぬしら、 妾の妹になりたいというのも嘘だったのじゃなっ！？ 佐賀城 冗談か本気か知らねぇが、気づくのが遅すぎんだよ新宮城。 こんなちっこい城娘らがわざわざアンタんとこに来るわきゃねーだろうが。 新宮城 うぬぬぅ…………佐賀城めぇ……。 新宮城 ……これだから…………。 新宮城 これだからムチムチした城娘はイヤなのじゃ――っ！！ 高遠城 ――っ！？ 急激に新宮城の霊気が膨れあがってる……！ 新宮城 妾、久しぶりに超絶怒ったのじゃ！ 新宮城 穢らわしい大人たちの謀略に幼き城娘の純粋さを利用した罪―― 新宮城 ――万死に値すると知れ！ 佐賀城 まーた自分が正義の側に立ってるような物言いしやがって、ったく……。 佐賀城 おら、かかって来いよ新宮城。 この前は油断したが、今日こそはアタシが勝たせてもらうぜ。 新宮城 ……無駄じゃ。先の戦でおぬしの力は高が知れておる。 やられたくなければ早々に逃げ―― 佐賀城 ――本気を出してなかったのはテメェだけだと思ってんじゃねぇぞ、新宮城。 新宮城 ……なっ！？ 佐賀城 こっからは全力でいかせてもらうぜ……。 新宮城、アンタもマジでかかってこいや。 新宮城 （何と荒々しき霊気じゃ……） 新宮城 面白い……ならば心してかかってくるがよいぞ、佐賀城！ 妾が格の違いというものを教えてやるのじゃ！
後半
新宮城 ふふ……佐賀城よ、まさかおぬしが此処までやるとは思わなんだ。 新宮城 こうなれば妾の黒兎たちの力を全て解放し―― 大仏城 ――もうやめてください、新宮城さん！ 新宮城 ……なっ！？　だ、大仏城？ 笹原城 そうだよ！　城娘同士でケンカするなんて、どう考えてもおかしいよ！ 新宮城 笹原城……おぬしまで……！ 妾は幼き城娘のために戦っているというのに……なぜ、じゃ……？ 佐賀城 ――おい、戦いの最中に気を抜くのは二流だったんじゃねぇのか？ 新宮城 な――しまった……っ！！ 佐賀城 借りは返させてもらうぜ、新宮城！ これで終わりだぁ――っ！！ 新宮城 ――くぁっ、ぅぅ……！ ま、まさか……妾が斯様な失態を晒すとは……！ 新宮城 た、頼む……妾はどうなっても構わぬ。 じゃから……幼き城娘の命だけは、どうか助けてやってくれ……。 佐賀城 だからよぉ！　何で最後の最後までアタシらが悪者みてぇな言い方すんだ！ アタシらは笹原城たちを助けに来たんだって言ってんだろ！ 新宮城 ……じゃが、妾だって幼き城娘らを守りたいという気持ちは本当じゃ！ 佐賀城 ああもぅっ！　話にならねぇ！　さっさと変身解いて下りやがれ！ これ以上がたがた言うってんなら、今度は顔面ぶん殴るぞ？ 高遠城 よさないか、佐賀城！　アタシの言葉を忘れたのか！？ 新宮城はいま異常状態にあるかもしれないんだぞ！ 佐賀城 ……ちっ。だったら早くその『丹鶴姫の扇』とやらで、 正常な状態に戻してやれってんだ……。 新宮城 ……な、何をする気じゃ、おぬしたち……？ 高遠城 感謝するんだな、新宮城。 殿たちがアンタのためにこんだけ沢山の扇を集めてくれたんだ。 柳川城 お願いです、新宮城さん！ この扇に宿る聖なる力で正気に戻ってください！ 新宮城 （此奴ら……） 新宮城 （……そうか。妾の心の揺らぎを、あの扇で鎮めようとするつもりか） 新宮城 （とは言うが、そもそもコレが妾の正道なのじゃが……うーむ、どうしたものか） 新宮城 （まぁ確かに、胸の奥のもやもやがすぅっとはしてきたが、 じゃからと言って今さら新国樹立の野望を棄てるのもなぁ……） 笹原城 ねぇ、新宮城ちゃん……こんな所で兜たちとなんか一緒にいるのは良くないよ。 大仏城 そうです……私たちと一緒に、殿のところへ……い、行きませんか？ 大仏城 独りだと……不安になって、ヘンなことしちゃうかもしれませんし……。 新宮城 笹原城……大仏城。 けれど、妾は幼き城娘らだけの国を作らねば……。 新宮城 （……ん？　ちょっと待てよ？） 殿 …………。 新宮城 （殿、とか言ったか？　 此奴、見たところかなりの数の城娘を従えてるようじゃし……） 新宮城 （もしかしたら、殿の所領には多くの幼き城娘がいるのやもしれぬ……！） 殿 …………。 新宮城 …………むふふ。 殿 …………？ 不来方城 なぁ殿。新宮城の処遇はどうするんだ？ 見たところ、先刻みたいな敵意は無さそうに見えるけど……？ アイリーン・ドナン城 ということは、『丹鶴姫の扇』の効果がちゃんと機能してるってことだよね？ 亀居城 なら、この辺りの兜たちを追い払ったら 新宮城ちゃんと一緒に所領に戻ってみんなでノシノシするノシ～！ 殿 …………。 殿 …………！ 新宮城 ――ほ、本当かっ！？ 妾も、おぬしの所領に連れて行ってくれるのか？ 千狐 はい！　今後の此の地の防衛に関しては、我々の仲間と協力して 交代でそれぞれが務めれば兜らの脅威も退けられるはずですしね！ 新宮城 そうか……。そういうことならば、 無理に此の地で幼き城娘を囲う必要もないということじゃな。 新宮城 ならば、妾も連れて行ってほしい。 ……其処でなら、これまでの償いも出来るはずじゃからな。 殿 ……！ ？？？ ――ソンナ勝手が許されると思ッテイルノカ、新宮城？ 新宮城 こ、この声は……三成っ！？ 石田三成 約定を違エルことは許さぬ……。 ……お主ダケハ決して殿には奪わせはセヌぞ！

横切る破滅と黒兎 -結-

新宮城の心変わりに憤る石田三成の名を
冠する巨大兜と対峙する殿一行。
この戦いに勝利し、一連の事件に終止符を打て。

前半
石田三成 約定を違エルことは許さぬ……。 ……お主ダケハ決して殿には奪わせはセヌぞ！ 佐賀城 んだよ、アイツ。あの妙な言い草……、 どんだけ新宮城のこと気に入ってんだ？ 高遠城 新宮城……あれほどまでに巨大兜がアンタに拘るのはどう見ても異常だ。 約定がどうのと言っているが、いったいヤツと何を取り決めたっていうんだ？ 新宮城 うーむ。それがのぉ――。 殿 …………！？ アイリーン・ドナン城 ふ、不老不死の薬！？ 亀居城 すっごいノシ！　新宮城ちゃんは、 本当にそんなお薬を作れるノシ～？ 新宮城 さてな。妾は一度として あの巨大兜に不老不死の薬を作れるとは言ってないし、 必ず作ってみせるとも言っておらぬ。 石田三成 ――ナッ！？　何ダト！ 石田三成 …………。（回想中） 石田三成 …………ッ！？ 新宮城 ……どうじゃ？　 妾、不老不死の薬が作れるなど一言もいってないじゃろ？ 石田三成 …………タ、確カに……。 石田三成 ダ、ダガ……お主は我ニ協力スルと言ったデハないか……！ 新宮城 妾の業と技の範囲内でよければ、という補足つきじゃがな。 新宮城 期待させてしまってすまぬが、そもそも妾に縁在る不老不死に関する伝承は、 どちらかと言えば、人間を対象としておるゆえ兜は埒外なのじゃよ。 新宮城 一応は努力してみたが、兜という存在の不可思議さも相まって、 おぬしの期待に応えうるような神薬は作れなんだ……悪いが諦めてくれぬか？ 石田三成 ……ク、ソォォォ――ッ！！ 許さぬ……許さぬゾ、新宮城ォォォッ！！ 佐賀城 けっ、何が許さねぇだ。 そもそも兜が城娘に頼ろうってのが御門違いなんだよ！ 高遠城 とはいえ同情の余地は無くもない……。 新宮城、今回の事態はアンタの軽はずみな言動が招いた結果だ。 新宮城 ……猛省じゃ。 敵である兜とはいえ、純粋さを裏切ってしまったのじゃからな。 新宮城 じゃからこそ、此処は妾がなんとかしてみせようぞ……。 おぬしらは早々に退け。怒りに満ちた三成はかなりの強敵じゃ。 佐賀城 ――バカ言ってんじゃねぇよ。新宮城。 新宮城 え？ 佐賀城 アンタはこれから殿の所領に行くんだろ？ だったらこんな所で死なせる訳にはいかねーよ。 新宮城 佐賀城……。 新宮城 おぬしがもう少し幼ければ、あやうく惚れてしまうところじゃったぞ。 佐賀城 バカ言ってねぇで、さっさと戦う準備をしやがれ！ 新宮城 やれやれ、まさかおぬしのようなデカめの城娘と共闘するとはの。 これだから人生というのは不可思議なものじゃ。 高遠城 おい、何ふたりで盛り上がってんだ？ アタシらもいるってことを忘れないでくれよな。 亀居城 ノシノシ～！　私もみんなと一緒に頑張って戦うノシ～！ 不来方城 ようやく本来の俺らしい見せ所がやってきたってわけだ！ そんじゃ行こうぜ、アイリーン・ドナン城！ アイリーン・ドナン城 うん！　王様も、一緒にがんばろーね！ 殿 …………！ 石田三成 ……新宮城……お主ダケは決して許シハしない……。 我の全力ヲ以テ……滅し尽クシテくれる――ッ！！
後半
高遠城 終局だ、巨大兜よ！我が調略の前に敵は無いっ！！ 石田三成 ――グァ、ァ……ドウシテ、勝てぬノだ……。 ……今ノ我でハ……ヤハり、抗うコトは……デキヌというのか……！？ 新宮城 三成……。 石田三成 ……ソノヨウナ目で……我を見ルナ……ッ！ 千狐 ――っ！？　殿、注意してください！　 巨大兜の霊気が異常な増大を見せています。 石田三成 死ヲ受け入れるシカ……チカラヲ得られぬト言うのなら……、 ……我ハ……我ハァァアァァアア――――ッ！！ 佐賀城 ま、待ちやがれ！　これだけの城娘を相手に 逃げられると思ってんのか、こらぁっ！！ 石田三成 ウグゥゥゥゥアァァアァァァァァアァァァァア―――ッ！！ 新宮城 まずい！　三成のヤツめ、大仏城たちの方へと向かっておる！ 黒兎たちよ！　今すぐに彼女らを安全な場所へと導くのじゃ！ 笹原城 ――うわっ、わわわっ！！ 大仏城 きゃぁぁぁ――っ！！ やくも やっただに！　 間一髪、巨大兜さんとの接触を防ぐことが出来たがやぁ♪ 千狐 ……けれど、巨大兜の逃亡を許してしまいましたわ。 不来方城 でもよ、此の地にいる城娘が誰ひとり死なずに済んだんだ。 これ以上を望むのは欲張りってもんさ。 柳川城 そうですね、不来方城さん！ アイリーン・ドナン城 あれ？　此の地にいる城娘……って言うけど、 新宮城さんがお持ち帰りした城娘って笹原城さんと大仏城さんだけなんですか？ 新宮城 ん？　そんなわけなかろう。 兜らと黒兎らの働きもあって、ほれ……あの通りじゃ。 丸山城 ――はぁ～、何だかとんでもなく疲れましたねぇ天神西館さん。 結局、脱出するために城内の兜をぜーんぶ退治するはめになっちゃいましたよぉ……。 天神西館 ですが、これでようやく殿の許へと帰れますよ、丸山城さん！ 若松城 ――って、ちょっと待てみんな！　 新宮城のやつ、どうして殿さんたちと一緒にいるんだ！？ 能島城 まさか、殿を倒そうと自ら打って出たってのか！ 許せねぇ、今すぐあたしらも加勢するぞ！ 三木城 そんなことよりぃ……な、何かぁ……食べ物ぉ……ちょーらいぃぃ……。 千狐 丸山城さんに天神西館さん……それに若松城さんや能島城さんに加え、 三木城さんまで捕まってたのですか――っ！？ 不来方城 いや、まだまだたくさん城ん中から出てくるぞ！ 新宮城のやつ……いったいどれだけの城娘を持ち帰ってやがったんだ！？ 柳川城 ――み、皆さん落ち着いてください！ 新宮城さんはもう貴方たちに危害を加える気などありません！ やくも そうだに！　『丹鶴姫の扇』でまともな城娘に戻ったがや！ 新宮城 ……そ、その言い方は何かひっかかるのじゃが……。 新宮城 というより、妾は一度として娘たちに危害を加えた覚えはないのじゃ！ 此処では何不自由なく、食べ物や遊び道具を与えていたのじゃぞ！ 大宝寺城 ぶおお～んっ！　ぶおお～んっ！ （確かに！　新宮城ちゃんはすっごく優しかったよぉ～！） 柳川城 だ、大宝寺城さんもいらしてたのですね……。 佐賀城 まぁ、だからといって新宮城のやったことは非難されて当然だ。 殿の所領に戻ったら、みっちりとアタシが説教してやっからな。 新宮城 ――なっ！？　何故おぬしも所領に来るのじゃ！ 殿の所領は妾以外、幼き城娘のみしか存在してはいけぬのじゃぞ！ 千狐 ……え？ やくも じゃあ、うちらもダメなんかや？ 新宮城 おぬしらは可愛いしちっこいから合格じゃ♪ 柳川城 で、では……私は？ 新宮城 ん～。 新宮城 ぎりぎりじゃな！ 柳川城 ――ぎりぎりっ！？ 高遠城 真に受けてんじゃねーよ、柳川城。 佐賀城 ったく、その様子じゃ全然反省し足りてねぇようだな……。 佐賀城 仕方ねぇ。こうして出会っちまったのも何かの縁だ。 新宮城。アンタがまっとうな城娘として生きてけるように、アタシが面倒みてやるよ。 新宮城 ――だが断るのじゃ！ 佐賀城 うっせぇ！　いいから黙ってついてこい！ 新宮城 ぬわぁっ！　や、やめるのじゃ～！ 襟首掴むのはやめ――ぁっ、うぅっ……い、痛いのじゃぁ～！ 高遠城 ……ふふっ。アイツら、意外と相性が良いのかもしれねぇな。 高遠城 佐賀城のやつは、ああ見えて面倒見がいいからな。 新宮城みたいなヤツは放っておけないんだろうよ。 殿 …………！ 高遠城 それじゃあ、事件は解決した訳だし、 アタシは躑躅ヶ崎の姉御んとこに戻るよ。 高遠城 殿。アンタと戦えて楽しかったぜ。 縁があれば、また一緒に戦場を駆けようぜ。それじゃあな！ 殿 …………。 殿 …………！ 千狐 それでは、殿。 我々も所領へ帰還しましょう！ 千狐 此度の遠征も、本当にお疲れ様でした！

横切る破滅と黒兎 -絶弐-

――アンタに会いたがってる城娘たちがいる。
佐賀城のその言葉に驚喜する新宮城だったが、
彼女に前に続々と現れたのは…………。

前半
――新宮城が所領に来てから数日が経過していた。 新宮城 むっふっふ……。 さぁて、今宵はどの幼き城娘たちをお持ち帰りしよ～かのぉ。 大宝寺城 あっ、新宮城ちゃ～ん！ 何してるのぉ～？ 新宮城 おおっ！　新宮歩けば幼子に当たると行った具合に さっそくの大宝寺城なのじゃ♪ 新宮城 よしっ！　決めたぞ！ 今宵、妾の相手をしてもらうのはおぬしじゃ♪ 大宝寺城 わわっ！？　急に抱き付いてきてどーしたの？ っていうか新宮城ちゃんの相手って……？ 新宮城 それは妾の部屋に来てからのお楽しみじゃ♪ 菓子も沢山あるゆえ、きっと退屈はせぬぞぉ？ 大宝寺城 えっ！？　お菓子いっぱい！？ 大宝寺城 なら喜んで行くよ～！　ぶおお～んっ！　ぶおお～んっ！ 佐賀城 おい、こんなところで何やってんだ、おめぇは！ 新宮城 何じゃ、佐賀城か。おぬしのようなデカブツに用は無い。 さっさと何処かへ行くがよい。しっし。 佐賀城 誰がデカブツだ！ つーか、ちびっこたちをお持ち帰りすんのはやめろって何度言やぁわかんだよ！ 新宮城 ……え？　ダメなのか？ 佐賀城 初耳じゃっ、みたいな顔して惚けても無駄だ！ 佐賀城 ……まったく、せっかくお前に会いたいって奴らを連れてきたのに、 んなふざけた態度じゃ会わせんのも気が引けるぜ。 新宮城 なに！？　こんな夜更けに 妾に会いたい幼き城娘たちがいるじゃと！ 新宮城 佐賀城！　さっさと此処へ連れてくるがよい！ 佐賀城 ……先走りやがって。 後悔しても知らねぇからな。 新宮城 むっふっふ……これで妾の楽園がよりいっそうの発展を―― 高遠城 ――おっす、新宮城。 殿たちとの生活はうまくいってるか？ 新宮城 ……。 新宮城 ……………………。 高遠城 ん？　どうした？　何だか元気がねぇな？ 風邪でもひいてんのか？ 新宮城 たわけっ！　いきなり予告も無しに バインバインの城娘が出て来たから卒倒しそうになっていただけじゃ！ 新宮城 まさか、おぬしが妾に会いたがってる城娘じゃなかろーな？ 高遠城 いいや。アタシはあくまで引率さ。 アンタに会いたがってるのは、そりゃあ可愛い城娘ばかりだぜ！ 新宮城 むほーっ！　それを早く言わぬか高遠っ！ ほれっ、さっさと呼ぶがよい！　幼き城娘、出てこいなのじゃー！ 平戸城 どうも～、ウチの名前は平戸城ばい。 新宮城さんのお噂はかねがねぇ～。 新宮城 …………。 新宮城 …………うーん。 佐賀城 おいっ！　初対面の城娘相手にそんな顔すんじゃねぇ！ 失礼だろーが！ 新宮城 だがのぉ……ちょっと育ちすぎじゃぁ。 平戸城 ……え？　育ちすぎ……？ 佐賀城 き、気にしないでくれ。 新宮城はまだちょっと色々とおかしい状態でな。 新宮城 何がおかしな状態じゃ！　おぬしに妾の何がわかる！？ 佐賀城 何もわかんねぇから困ってんだろうが！ 高遠城 ……やれやれ。 二人とも相変わらずケンカばかりのようだな。 菩提山城 ですが、互いに不明瞭な部分が多くあるからこそ、 惹かれ合うということなのかもしれませんね……こほっ、こほっ……。 新宮城 ――むむっ！？ 菩提山城 お初にお目にかかります。私の名は菩提山城。 兜との一件、非常に興味深く聞かせていただきました……こほっ……。 新宮城 おぬし……。 菩提山城 はい？ 新宮城 もう少し背が低ければ合格じゃったのに、惜しいのぉ。 菩提山城 合格……？ 菩提山城 ……ああ。そういうことですか。 こほっ、こほっ……何だか馬鹿にされた気分ですね。 高遠城 まぁ、怒らんでやってくれ。 新宮城には殆ど悪意というものがねぇからな。 菩提山城 ええ。一連のやりとりを見て、何となくは理解しました……こほっ。 菩提山城 ただ、私が知りたいのは……というより今日ここに来たのは、 新宮城殿の力が、これからの兜との戦いにおいて大事な戦力になるかどうかです。 新宮城 何じゃ、おぬし。妾の力を測りに来た手合いか。 新宮城 悪いことは言わん。妾はこう見えて平和主義者ゆえ、 戦事においては期待などしないでほしいのじゃ。 菩提山城 ……とは言いますが、佐賀城殿や高遠城殿の話を聞く限り、 殿と戦った時の貴方は、比類無き力を発揮していたとか……こほっ、こほっ……。 新宮城 あれは幼き城娘を守るために仕方なくじゃ。 そうでなくては誰があのように疲れることをするものか。 菩提山城 ……なるほど。 菩提山城 こほっ……ならば、こうされたら、少しは戦う気になりますか？ 大宝寺城 ――えっ！？　ど、どういうこと菩提山城ちゃん！？ 急に私を引っ張ったりして……？ 菩提山城 新宮城殿……これで貴方が抱きしめていた大宝寺城は私のものです。 どうですか？　怒りましたか？　私が憎いですか？　……こほっ、こほっ。 新宮城 ふっ…………妾を怒らせようとしても無駄じゃ。 大宝寺城の身体も温もりも既に覚えたからのぉ。 菩提山城 は……？ 新宮城 むふふ――『丹鶴姫の扇』によって増幅された霊力を使えば、 幻術によって大宝寺城を増やすことくらい造作も無い。 大宝寺城 ――あ、あれ？　私……ど、どうなっちゃってるの？ 佐賀城 なんじゃこりゃあああ――っ！！ 大宝寺城がめちゃくちゃ沢山いやがるぞ！？ 菩提山城 これが新宮城殿の力……なのですか？ まったく、規格外にも程がありますね。 平戸城 でも、凄い力ばい♪ ウチもあんな幻術つかってみたかねぇ。 高遠城 感心してる場合か！ こんなところ殿に見られでもしたら大変だぞ！ 殿 …………？ 佐賀城 って、ふつーにいんじゃねぇかよ、殿ぉ！ 新宮城 なんじゃ、殿も大宝寺城が欲しいのか？ そうかそうか、やはりおぬしは趣味が良いのぉ。 新宮城 だが残念じゃ。既に妾たちにそれぞれ割り当ててしまってるからのぉ。 殿の分の大宝寺城は生憎と無いのじゃ。我慢しておくれ。 殿 …………。 柳川城 殿、落ち込んでいる場合ではありません！ 今はこの異常事態を何とかしなくてはっ！ 千狐 と、とりあえず大宝寺城さんたちを一カ所に集めて、 それから対処法を考えるとしましょう！ 新宮城 何じゃ、おぬしら！？ 妾の大宝寺城を奪おうというのなら、それなりに抵抗させてもらうぞ！ 新宮城 というわけで往くぞ、同士たちよ！ 各々全力で大宝寺城を守り抜くのじゃ！ 佐賀城 いや、勝手に巻き込んでんじゃねーよっ！ 平戸城 とか言いつつ変身してる佐賀城ちゃんは偉いばい♪ 菩提山城 だが、成り行きはどうであれ、新宮城殿の力を間近で見られる上に、 噂の殿とも手合わせできるのなら……面白いかもしれませんね……こほっ。 高遠城 軍師としての血が騒ぐってか？ まぁ、確かに。殿とは共闘はしたが手合わせはまだだったからな。 高遠城 つーわけだ、殿。いきなりで悪ぃが、胸を借りるぜ！
後半
菩提山城 そん、なっ――どうして、私が……？ 戦略に間違いはなかったはずなのに……。 平戸城 まさかこんなに強いなんて……思わんかったばい……。 高遠城 くぅっ……ぬ、抜かったぜ……。 だが、まだこっちにはとっておきの策が―― 佐賀城 ――バカ、これ以上アツくなってどーすんだよ？ 殺し合いがしてーんなら、兜たち相手にやれってんだ。 新宮城 そうじゃそうじゃ。 いつの時代も平和に生きるのが一番。 幼き城娘を愛でることこそが泰平の世を導くと知れ！ 佐賀城 元はと言えばアンタが大宝寺城を増やしたのがいけねぇんだろうが！ つーか、何でひとりだけ変身解除してんだよ、こらぁっ！！ 新宮城 むぉっ！？　何をする！　乱暴はよさぬか！ それに術は既に解けておるじゃろうが？ 大宝寺城 うん、何かよくわからないけど、戻ってるよぉ♪ 佐賀城 ったく、人騒がせな。おい、皆も変身解除しろ。 殿に迷惑かけっぱなしじゃ示しがつかねぇだろ？ 平戸城 そうばい、城娘同士やけん、やっぱり仲良くするのが一番やね♪ 菩提山城 新宮城殿、先ほどの非礼を詫びます……こほっ、こほっ……。 貴方の力に興味があったがゆえの軽率な行動でした。 新宮城 然様な顔をするでない菩提山城。もう過ぎたことじゃ。 おぬしも幼き城娘を愛でて心を落ち着かせるがよいぞ。 菩提山城 いや、私は別に……。 平戸城 まぁまぁ、これも新宮城さんを知るためばい。 あちらの流儀にあわせて親睦を深めるのがよかとよ。 菩提山城 んー。まぁ、平戸城殿がそう言うなら……こほっ、こほっ……。 殿 …………！ 高遠城 おっ、いいねぇ、殿！　せっかくこうして城娘が集まったんだ。 今日はぱ～～～っと盛大に宴といこうじゃねーか♪ 新宮城 なんと！？　幼き城娘でいっぱいの大宴会とな！？ むふぁ～♪　所領に来て本当に良かったのじゃ～！ 佐賀城 おい、新宮城……。 わかってると思うが羽目外しすぎるなよ？　 新宮城 大丈夫じゃ。そう心配するでない。 お持ち帰りは三人ぐらいまでで我慢してやるのじゃ。 佐賀城 何もわかってねぇじゃねーか！！ 高遠城 ははっ……まったく、佐賀城と新宮城は見ていて飽きねぇな。 高遠城 っと。それじゃあ殿。アタシらはそろそろ宴の準備といこうか。 さっきは迷惑かけちまったからな、準備ぐらいはきっちり手伝わせてもらうぜ！ 殿 …………。 殿 …………！ 数刻後――。 新宮城 むっふっふ、今宵の宴は実に愉しかったのじゃ。 これも、殿の仲間となった役得よのぉ。 新宮城 とはいえ……妙な目付役がついてしまったのは不本意じゃがな。 佐賀城 うっせぇな。アタシだってしたくてアンタにつきまとってんじゃねぇんだよ。 新宮城 ならばさっさと所領に戻って寝ればいいじゃろうが。 佐賀城 アンタがひとりで所領を抜け出さなきゃ、そうしてたさ。 佐賀城 ……ったく。あんなに宴の間は楽しそうだったのに、 どうして急にいなくなったりするんだ？ 新宮城 ……そうじゃなぁ。 新宮城 何というか、居心地が良すぎて 逆に居づらいなぁ～、と思っての。 佐賀城 はぁ？　訳わかんねぇよ。 新宮城 妾はずっと独り身だったゆえ、あのような賑やかな場は慣れておらぬのじゃ。 佐賀城 ……なるほどな。 佐賀城 でもよ、あんだけ大勢の仲間がいるってのは、いいもんじゃねぇか。 ひとりぼっちで、また妙なこと考えついたりやったりする暇も無くなるってもんよ。 佐賀城 それにな。アタシだって殿たちからすれば新参者のひとりなんだ。 今のこの状況に関しちゃアタシとアンタは同類だろ？ 新宮城 おぬしには村中城がおるじゃろうが。 佐賀城 まぁ、そりゃあそうだが……。 佐賀城 ……でもよ、アンタにはアタシがいるだろ？ 新宮城 ……。 新宮城 ……ふ。 新宮城 何だかんだと口うるさいが、おぬしは良い奴じゃな。 佐賀城 そう言うアンタは意外と寂しがり屋だ。 新宮城 寂しがり屋……か。 新宮城 まったくもってその通りじゃな……。 新宮城 だからこそ妾は、生命の躍動を最も感じさせる 幼き城娘を絶えず求めてしまうのかもしれない。 新宮城 だってそうじゃろ？ ――誰も、永遠を独りで生きようなどと思うわけがない。 新宮城はそう告げると、少しだけ寂しそうに笑いながら、 月を映した夜の海に美しき双眼を向けるのだった――。

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