ストーリーテキスト/春を迎えて吉兆芽吹く

ページ名:ストーリーテキスト/春を迎えて吉兆芽吹く

目次

春を迎えて吉兆芽吹く[]

春を迎えて吉兆芽吹く -序-

年の瀬が迫る中、甲府城近くの森林に響き渡る
「なーむなむー♪」の声と爆音……そして、苛烈な
攻撃の合間を縫うように走る兜の姿が、二つ……。

前半
――甲府城付近の森林。

???
なーむなむー♪

どーん!

どかーん!

突撃式トッパイ形兜
コノ有様……ナントイウコトダ……。

突撃式トッパイ形兜
桃形!
桃形ハ無事カッ? 桃形ィィィ!

桃形兜
ハイ、ドウニカ……!

突撃式トッパイ形兜
……他ノ者タチハ?

桃形兜
ドウヤラ、ハグレテシマッタヨウデス……。

桃形兜
イヤ、ソレトモ……モウ……!

???
んー? どうやら、
ネズミちゃんがちょろちょろ~ってしてるみたいだなぁ~。

???
こっちか……いや、こっちかなぁ……?

桃形兜
気ヅカレタッ!?

突撃式トッパイ形兜
逃ゲルゾ! トニカク走ルンダ!

桃形兜
ハイッ!!

――――

甲府城
それっ、なーむなむー♪ なむなむ~っと♪

どかーん!どかーん!

千狐
…………。

柳川城
これは、なんという……。

やくも
この分だと……甲府城だけで、
みんな片付けてしまいそうがや……。

殿
…………。

甲府城
うん、そうみたいだね♪
兜の残党も……残りはわずか!

甲府城
あとちょっとナムナムすれば片付くと思うから……待っててね、殿!

甲府城
それじゃもういっちょ、なーむなむー♪

どかーん!

???
ギャアアァァァァァ!

千狐
…………。

やくも
だけどこれは、なんというか……。

やくも
ほんの少しだけ、
兜さんが可哀そうに思えてしまうだに……。

千狐
そうね……。
ここまで一方的にやられているのを見ていると……。

千狐
ですが、理解しました……年末の宴にご招待された際、
お手紙に書かれていた『安全は保証するよ!』という、
甲府城さんの言葉を……。

柳川城
甲府城さんの力……兜を寄せ付けないという、
自信から発せられた言葉だったのですね。

一条小山城
そのとーりずら!

一条小山城
……でも、甲府城の魅力はそれだけじゃないだよ!

千狐
一条小山城さん……。

一条小山城
甲府城のあの横顔をみるずら!

一条小山城
兜の気配を察知し、攻撃を繰り返す……。
その最中にあっても甲府城の可愛さは、
とどまることを知らないずら!

一条小山城
流石は甲府城……やっぱりワシの妹は最っ高の城娘ずら♪

千狐
一条小山城さんは、甲府城さんととっても仲良しなのですね♪

一条小山城
当然ずら♪

一条小山城
城主様を失って寂しい思いをすることもあったけど……、
甲府城と二人で支え合ってきたから、ここまで来ることができただよ。

一条小山城
ワシの今があるのも、甲府城の今があるのも!
二人で力を合わせたからこそ、ということずら♪

一条小山城
それに――はっ!?

やくも
ど、どうしただに! 一条小山城?

一条小山城
こ、甲府城のほっぺたを見るずら!

一条小山城
甲府城のほっぺたが、ほんのり赤くなってるだよ……。
いつもより大人っぽくて……あまり見たことのない表情ずら!

一条小山城
なんというか、なんというか……!
お姉ちゃんとしてはちょっと……複雑な気分ずら……!

やくも
…………。

柳川城
確かに、甲府城さんの頬が……上気しています。
それに息も上がっているようです。

千狐
大人っぽいかはともかく、
疲労が溜まっていることは間違いないですね……。

柳川城
やはり……甲府城さん一人に任せるのは、
少々無理があるのかもしれません……。

殿
…………。

殿
…………!

一条小山城
承知したずら、殿!
それじゃ皆で、甲府城の手伝いをするだよ♪

――――

突撃式トッパイ形兜
ク、ココニ来テ城娘ノ気配ガ増エルトハ……!

桃形兜
ドウシテ、ドウシテコンナコトニ……。

突撃式トッパイ形兜
余計ナコトハ考エルナ。運ガ悪カッタノダト諦メテ……今ハタダ、走ルノダ。

桃形兜
運ガ、悪カッタ……。

桃形兜
ソウダ……アノ城娘ニ出会ワナケレバ……。
僕タチガ今頃、優雅ニオ正月ヲ楽シンデ――

後半
甲府城

よぉし、これで御城の周りのお掃除は完了!

一条小山城
よく頑張っただよ、甲府城! 流石はワシの妹ずら!

甲府城
えへへ、殿の前だからいつもより頑張っちゃった♪
お姉ちゃん、僕の戦い見てくれた?

一条小山城
あったりまえずら!
紙と筆があったら、描き残しておきたいぐらいの勇姿だっただよ!

一条小山城
甲府城のような城娘が妹で、ワシは本当に鼻が高いずら♪

甲府城
やったぁ、お姉ちゃんに褒められちゃった♪

殿
…………!

甲府城
うん、殿も手伝ってくれてありがとう!

甲府城
何体か逃しちゃったかもしれないけど……、
もう戻ってくることはないはずだよ♪

やくも
だに……兜さんたちだって、
同じ目にはもう遭いたくないと思ってるはずがや……。

千狐
ええ、そうね……。

甲府城
ともあれ、これで心置きなく、殿と一緒に宴を楽しむことができるよ♪

甲府城
それじゃ、僕の御城に向かおうか! 皆ついてきて~!

春を迎えて吉兆芽吹く -破-

周辺の兜を討伐し、宴開催の懸念を払拭した一行は
甲府城の御城に帰還する。するとそこでは、
晴れ着姿に身を包んだ、ある城娘が待ち構えていた。

前半
兜を討伐し、懸念を払拭した一行は……、
甲府城・一条小山城の案内で、
彼女たちの御城に到着したのだった――

天童城
…………あら?

天童城
殿! お久しぶりです!
ふふっ、またお会いできて嬉しいです♪

柳川城
天童城さん!
貴方も甲府城さんの招待を受けていたのですね!

天童城
はい! 実は以前から、
甲府城ちゃんとは仲良くさせてもらっていて……。
将棋友達と言えば良いでしょうか。

千狐
将棋友達……。
確かに、天童城さんと将棋の縁の深さについては、
存じ上げていますが……甲府城さんも?

甲府城
うん! 最近、小峯城ちゃんに教えてもらったんだけど、
性に合ってたみたいですっかりハマっちゃって♪

甲府城
それに、殿が相当な指し手だってことを天童城ちゃんから聞いてね!
ぜひお相手してみたいなーって思ったんだよ♪

甲府城
だから今回の宴では、一緒に宴を楽しみながら将棋も指しちゃおう、
っていう魂胆で皆を招待したんだ♪

天童城
……そして、私の故郷・天童の地は、
お蕎麦が名物であることでも有名です。

天童城
お蕎麦といえば、この時期の風物詩ですから……。
手作りのお蕎麦で殿や、皆さんにお楽しみいただければ、と思ったのです♪

一条小山城
将棋……。

一条小山城
もしかして……また将棋をやるつもりずら?
甲府城ぉ……?

甲府城
うん、そのつもりだけど……どうかしたの、お姉ちゃん?

一条小山城
だって甲府城……一度将棋を指し始めると、
ワシの声が届かないくらい集中しちまうずら……。

一条小山城
甲府城に延々無視されるなんて……。
あんな恐ろしいことが続いたらワシは、
まともでいられる自信がないだよ……。

甲府城
それは悪かったと思ってるよぉ……ごめんね、お姉ちゃん?

甲府城
ただ対局が進んでくると……。
どうしても、盤面に意識が向いちゃって……。

一条小山城
ワシは……ワシは甲府城と一緒に羽根つきがしたいずら……。

天童城
ふふ……では、日が暮れるまでの間、
お外で遊んできてはいかがでしょうか?

天童城
お蕎麦や宴の準備が整うまでは、
まだしばらく掛かりますから♪

一条小山城
っ!! それは名案ずら!

一条小山城
そうと決まれば甲府城、すぐに外へ向かうずら!

甲府城
そうだね!
お姉ちゃんと羽根つきしないと、お正月って感じがしないし♪

甲府城
殿たちも一緒に行こう! 皆で一緒に遊ぼうよ♪

殿
…………!

――――

甲府城
ふっふっふ……。
お姉ちゃんと羽根つきかぁ。腕がなるなぁ……。

甲府城
負けた方がもらう罰は……、
去年と一緒でいいんだよね、お姉ちゃん?

一条小山城
もっちろんずら! この勝負が終わる頃には、
甲府城の可愛い顔は真っ黒になってるだよ!

甲府城
ふふ、生意気言っちゃって……お姉ちゃんは可愛いなぁ。

甲府城
今年もいつも通り、
お姉ちゃんの顔を真っ黒にできると思うと……、
今からニヤニヤが止まらないよ♪

一条小山城
いつも通り?
それは聞き捨てならないだよ!

一条小山城
毎年毎年、羽根つき勝負に負けて、
顔を真っ黒にしてるのは、甲府城の方ずら!

一条小山城
……と。そんなことを言うより、
さくっと勝負をつけてしまう方が話は早いだよ……!

甲府城
そうだね……どっちが本当のことを言ってるかは、
勝負の結果が明らかにしてくれるし……。

一条小山城
それじゃ行くだよ、甲府城!
覚悟するずら!

後半
甲府城

やったぁ!僕の勝ちぃ~♪

一条小山城
くぅ……あと一歩だったのに、届かなかったずら……。

柳川城
白熱した勝負でしたね……。

千狐
はい……どちらが勝ってもおかしくない戦いでした……。

甲府城
――ということで、お姉ちゃん?
負けた方はどうなるか、分かってるよね?

一条小山城
わ、分かってるずら……。
ほら、じぃっとしててやるから、後は好きにするがいいし!

甲府城
ふふっ♪ それじゃ失礼しまーす♪

甲府城
何を書こうか迷ったけど、
お姉ちゃんと言えばやっぱこれだよね……♪

甲府城
こうして……こう、と……。

甲府城
はいっ、かんせーい♪

一条小山城
…………。

一条小山城
…………ずら?

千狐
ずら、なの……。

やくも
ずら、だにぃ……。

甲府城
あははっ♪ いいよお姉ちゃん、とっても素敵!

甲府城
……それじゃ決着も付いたし、次は他の子に交代して――

一条小山城
待つし……!
勝負はまだ終わってないだよ……!

甲府城
……ん?

一条小山城
勝負は時の運……たった一回の勝負じゃ、
どちらが勝者かは決められないだよ!

一条小山城
いくら可愛い妹が相手でも、
ワシは甲府城のただ一人の姉……!
おまんをコテンパンにするまで、諦める訳にはいかんずら!

一条小山城
だから、もうひと勝負!
ワシの挑戦を受けるずら、甲府城!

甲府城
ふっふっふ……いいよぉ、お姉ちゃん。
受けて立ってあげる。

甲府城
諦めなかったことを後悔するくらい、
全身墨まみれにしてあげるからね……♪

一条小山城
よぉし! それじゃいくずらー!

こーん!

天童城
…………。

天童城
ふふ、そういうことですか……。
読めましたよ……なるほどなるほど。

やくも
読めたって……何のことだに?

天童城
どうやら、甲府城さんと一条小山城さんは、
毎年この調子で、ほぼ互角の勝負を繰り広げているようです。

柳川城
ほぼ互角、ですか。ということは……?

天童城
はい♪ ひと段落つく頃には、
両者のお顔は真っ黒に……ということですね。

千狐
なるほど……。
お二人がそれぞれ勝者が自分だと言い張っているのも、
そのためだったのですね……納得しました。

一条小山城
そりゃ、もういっちょいくずらー!

こーん!

甲府城
――甘いよ! 今度は僕が攻めさせてもらうからね!

かーん!

一条小山城
ずらっ!

こーん!

甲府城
えいっ!

かーん!

殿
…………!

柳川城
はい、そうですね……素晴らしい勝負です。
お客さんを集めてもいいくらいの……。

やくも
けど……うちらが参加しても、
太刀打ちできそうにないがや……。

千狐
そうね……千狐たちはこのまま、
二人の勝負の行方を見守って――

???
待った待った待ったぁぁぁぁぁーーーーー!

千狐
――コンッ!?

どどどどどどど――

福山城
福っち抜きでお楽しみするのは、ここまでだよー!

甲府城
ふ、福山城ちゃん……!?

福山城
お正月遊びは羽根つきだけじゃないんだよ!
甲府っち、一条っち!

福山城
次は福っちが楽しい遊びを教えてあげるから、福っちも混ぜてー!

春を迎えて吉兆芽吹く -急-

一行の前に現れた新たな招待客・福山城。羽根つき
とは別の遊びに興じることになる一行だが、彼女が
提案した凧あげが、思わぬ波乱を呼ぶことに……!

前半
福山城

次は福っちが楽しい遊びを教えてあげるから、福っちも混ぜてー!

甲府城
他の遊びか……そうだね。
僕たちばっかりが楽しんでても仕方ないし、
次は羽根つき以外の遊びにしようか、お姉ちゃん?

一条小山城
むぅ……確かに、勝負に熱中しすぎて、
皆のことをすっかり忘れちまってたずら……。

一条小山城
羽根つき勝負はこの辺にして、
殿たちも楽しめるような遊びにするだよ♪

福山城
そうそう!
殿っちたちも楽しめるような遊びに――!

福山城
――ん? あれ、あれあれ!?

殿
…………?

福山城
もしかして……もしかして!
あなた、殿っち? そうでしょ? 絶対そうだ!

殿
…………!

福山城
わー、すごいすごい! 初めて殿っちに会えたよ♪

福山城
福っちね、殿っちと一度お喋りしてみたいなーって、
ずっと前から思ってたの!

福山城
そしたらね、甲府っちからお誘いの手紙がきたんだよ!
殿っちと遊ぶからおいでーって!

福山城
だから福っち、すぐに自分の御城から飛び出してきたのー!

殿
…………!

福山城
うん、福っちも会えて嬉しいよー!
今日の宴は、一緒にたくさん楽しもうね、殿っち♪

天童城
何だか、とても元気な子が現れましたね……。

柳川城
ふふ、そうですね。
見ているとこちらまで元気になれそう――

福山城
わー、綺麗な着物! お姉さんも城娘?

柳川城
――わ、私ですか?

柳川城
はい、そうですよ。名前は柳川城と言います。
よろしくお願いしますね、福山城さん。

福山城
うん、よろしくね! 柳川っち!

柳川城
その手に持っているものは凧ですね?
福山城さんは、凧あげがお好きなのですか?

福山城
うん、そうだよ!
福っちの御城のあたりは『蝙蝠山』っていう名前で知られてるの!

福山城
だから福っちは、蝙蝠さんの凧を作ってあげたんだー!
可愛いでしょ!

福山城
……あれ?
そういえば、どうして柳川っちはこれが凧だって分かったの?

柳川城
私の故郷には『柳川凧』というものがありまして、
現地の人々に古くから親しまれているんです。

柳川城
ですから、凧についてはよく存じ上げているんですよ。

福山城
へぇー、そうなんだ!
じゃ柳川っちは、凧あげ名人ってことだね!

柳川城
名人、と言われるとわからないですが……、
人並み程度に触れているくらいで――

福山城
ねぇねぇ! それじゃ柳川っちは、福っちの凧も高くまで飛ばせる?

柳川城
福山城さんの凧、ですか?

福山城
うん……何回も挑戦してるんだけどね、
上手に飛ばせなくて困ってるの……。

福山城
作り方が悪かったのか、飛ばし方が悪いのか、
どっちなのかなーって……。

柳川城
そうですね……見たところ、
乱れや破れた箇所もありませんし、
飛ばすことに問題はないように見えますが……?

福山城
……ねぇ、それじゃ柳川っちの手で、
この凧を飛ばしてあげることはできないかな?

柳川城
私の手で……ですか?

福山城
うん……福っちのせいで蝙蝠さんが、
空を飛べずにいるなんて、かわいそうだもん……。

福山城
だから、凧上げ名人の柳川っちの力で、
蝙蝠さんを飛ばしてあげたいなーって……!

柳川城
あ、いえ……ですから名人というわけでは……。

柳川城
ですが、まぁ……良いでしょう。
……上手にできるかは分かりませんが、一度試してみましょうか。

福山城
やったぁー! ありがとね、柳川っち♪

福山城
それじゃー柳川っち!
もうちょっと開けた場所に移動して、凧上げしてみよ?
いこいこ、しゅっぱーつ!

甲府城
ふふ、福山城ちゃん……。
柳川城さんにあっという間に懐いちゃったね♪

千狐
千狐たちも福山城さんたちの後を追いましょう、殿!

殿
…………!

――――

柳川城
とと……こうして……風を受けながら、
慎重に糸を伸ばして、と……!

福山城
わー! すごいよ、柳川っち!
凧がどんどん上がってくよー!

福山城
福っちがやるとすぐに落っこちちゃうのにー!

柳川城
凧あげは、飛ばし始めてから安定するまでが難しいのですが、
強めの風が吹いていたのが、幸運でした……。

柳川城
これを味方につければ福山城さんも上手に上げられると思いますよ。

柳川城
では、この辺で福山城さんに交代を――

福山城
待って、柳川っち! そのまま続けて!

柳川城
はいっ!?

福山城
この調子なら、もっともっと高くまで上がりそうだよ!
蝙蝠さんも、もっと高く高く飛びたーいって言ってるみたい!

福山城
だからお願い、柳川っち!
糸をもーっと伸ばして! それから思いっきり走るの!

柳川城
は、走るのですか、この状態で!?

福山城
うん! めいっぱい走って風を味方につけるの!
そしたらきっと、凧も高くまで上がるはずだよ!

福山城
心配しなくても大丈夫! 福っちも一緒に走るから!
こっちだよ、来て来てっ!

柳川城
あ、待ってください福山城さん!
走ります、走りますから!
だからそんなに引っ張らないでー!

後半
柳川城

はぁ、はぁ……いかがでしたか。
……このような、感じで……。

福山城
すごいすごいすごーい!
あんなに高くまで凧があがるなんて、びっくり!

福山城
やっぱり柳川っちは、凧あげ名人なんだね~!

福山城
蝙蝠さんも、柳川っちありがとーって言ってるよ!

柳川城
喜んで、いただけて……嬉しいです……。

柳川城
ただ少し、休憩を……くだ、さ……はぁ、はぁ……。

甲府城
福山城ちゃん……。
あんなに走り回ったのに、息が全然乱れてないよ……。

一条小山城
福山城、おそるべしずら……。

春を迎えて吉兆芽吹く -絶壱-

宴の会場である甲府城に向けてひた走る、小峯城。
その途上で彼女は、主催者たる姉妹の姿を見つける。
果たして、二人の視線の先にあったものとは――。

前半
小峯城

…………ふぅ。

小峯城
ここまで来ればもう、甲府城の御城は目と鼻の先か……。

小峯城
甲府城の奴、将棋にすっかりハマってしまった、
と手紙で語っていたが……どこまで腕をあげていることやら。

小峯城
すでに天童城も到着しているとの話だし……ふ、楽しみだな。

小峯城
――ん?

小峯城
あそこに見えるのは、甲府城ではないか……?
それに一条小山城の姿もあるが……。

――――

甲府城
…………。

一条小山城
…………。

小峯城
二人で身を縮めてこそこそと……どうかしたのですか?

一条小山城
ずらっ!?

甲府城
わぁ、小峯城ちゃんだ! いらっしゃい♪

一条小山城
――おお、誰かと思えば小峯城ずら!
まったく、びっくりさせんでほしいし!

甲府城
そろそろ到着すると思っていたよ♪
今日は僕の招待に応えてくれて、ありがとね!

小峯城
それはそうと……二人とも、こんなところで何をしていたのです?

小峯城
もうすぐ日も暮れようという頃合いですが……。

甲府城
それなんだけど……あれを見てみて、小峯城ちゃん。

小峯城
あれ、と言いますと……。

――――

柳川城
…………。

柳川城
…………はぁ。

――――

小峯城
あそこに居るのは……柳川城さんですね。

小峯城
難しい表情を浮かべて、
何やら考え込んでいるようですが……?

甲府城
そうなの。……だけどね、
その理由が、僕たちにもよく分からないんだよ。

甲府城
さっきまで福山城と楽しげに走り回っていただけに、
何があったのかなぁって、心配で……。

一条小山城
……小峯城は、
柳川城の手に抱えられているものが、見えるずら?

小峯城
柳川城さんの手に……あれは鞠、でしょうか。

甲府城
うん。僕とお姉ちゃんは、
あの鞠が何か関係しているんじゃないか、
って思ってるんだけど……。

一条小山城
何にせよ、まだ情報が足りないだよ。
事情がわかるまで、もうしばらく様子見をするずら……。

――――

柳川城
……しかし、疲れましたね。凧あげは本来、
あそこまで過酷な遊びではなかったと思うのですが……。

柳川城
おまけに、凧あげ名人という称号までいただいてしまって……。

柳川城
…………。

柳川城
本当は……この蹴鞠を使って、
殿と一緒に戯れたかったのですが……。

柳川城
以前……見事に蹴鞠を扱う殿の姿を見て以来、
暇を見つけてはひっそりと練習を重ねてきた、この遊び……。

柳川城
叶うなら、今回の宴の折に、
その成果を殿に見ていただきたいのですが……。

柳川城
……それから、殿と私で一つの蹴鞠を使って戯れたり……!

柳川城
その後には、殿からお褒めの言葉をいただいて、
他には、頭を撫でてもらったり……!

柳川城
その後には、殿と一緒に……!

後半
柳川城

ああ、素敵……とても楽しそうです。
ふふ、ふふふ……。

甲府城
なるほど……そういうことだったんだね。

柳川城
っ!?

小峯城
急に笑い出したから、
どうしたのかと心配してしまいましたが……。

一条小山城
殿と二人で蹴鞠遊び……か。
柳川城も可愛いところがあるずら♪

柳川城
甲府城さんに一条小山城さん。
それに、小峯城さんまで……!

柳川城
もしかして、先程の私の呟き……、
聞かれてしまっていましたか?

小峯城
それは、まぁ……。

一条小山城
独り言と言うには、随分大きな声だったずら……。

柳川城
そんな……!

甲府城
でも……そうだよね。
いつも殿の傍にいるとはいえ、柳川城ちゃんだって、
殿と二人で過ごしたいに決まってるよね……。

小峯城
考えてみれば、殿はいつでも各地を飛び回っているのです……。
こういったお休みが無ければ、
柳川城さんでも、殿とゆっくり過ごすことはできないのですよね……。

一条小山城
このお正月の宴は、柳川城にとっても貴重な時間だったずら……。

甲府城
……そういうことだよね、柳川城ちゃん?

柳川城
それは……ええと……!

柳川城
み、皆さんの仰る通りなのですが、
改めて言葉にされるのは……すごく恥ずかしいというか……!

一条小山城
ふふっ♪ そうかもしれんけど、
聞いてしまったものは仕方ないだよ。

一条小山城
よし! ここは一つ、
柳川城が殿と二人きりで過ごせるように、
ワシらがお手伝いするだよ!

柳川城
えぇっ!?

小峯城
それは良い案ですね。
柳川城さんと主が、蹴鞠を楽しむ時間を作ってあげましょう。

一条小山城
……柳川城のことだからきっと、誰かがお膳立てでもしないと、
気を遣って殿の隣をワシらに譲ってしまう……そんな気がするずら。

柳川城
ぅ、それは……。

柳川城
……す、すみません。
では、皆さんのご厚意に甘えることになってしまいますが……、
お願いしても良いでしょうか……?

甲府城
もちろんだよ♪ 柳川城ちゃんにも、
今回の宴が良いものだったって思い出を、持って帰ってほしいからね♪

柳川城
ありがとうございます……!

一条小山城
それに……あんなに幸せそうな顔で妄想しているのを見たら、
放っておくことなんて、できっこないずら……。

小峯城
そうですね……あそこまで楽しみにしているのを見ては……。

柳川城
幸せそうな……私、そんな表情を浮かべていたのですか?

一条小山城
それは、もう……殿への想いが溢れまくってただよ……。

甲府城
見ている僕たちも、思わず顔が緩んじゃったよね。
しっかり者に見える柳川城ちゃんにも、可愛いところがあるんだなぁーって♪

柳川城
お、お願いです!
そっちの方は忘れたことにしてください……!

春を迎えて吉兆芽吹く -離-

甲府城姉妹の御城にて新年を迎えた殿たちだが、
想定外の事態が発生したことで、天童城の御城へと
向かうことになった。その事態とはいったい……?

前半
甲府城・一条小山城の御城にて、
年越しの宴を楽しんだ殿一行だが……その後、
とある事情により、天童城の御城へ向かうこととなっていた――

天童城
それにしても、驚きましたね……。

天童城
あれだけ用意した蕎麦が、
全て食べ尽くされてしまうだなんて……。

甲府城
僕もびっくりだよ。
天童城ちゃんがうちの御城に着いた時には、
あんなに沢山あったのにね……。

千狐
…………。

千狐
とのことだけど……やくも?

やくも
う、うちはそんなにえっぱい食べてないだに!
いつもとそんなに変わらんがや!

千狐
その『いつも』がとんでもない量だって言ってるの!

千狐
お蕎麦の量には限りがあるから、
皆の分も残すようにしましょうね、ってあんなに言ったのに……!

天童城
気にしなくていいんですよ、千狐さん。

天童城
招待客の皆さんに天童のお蕎麦を楽しんでいただくことが、
私の目的だったのですから。

天童城
ただ、やくもさんの胃袋には驚嘆の一言に尽きるな、と……。

天童城
あれほどの速度でお蕎麦を食べるとは……。
この天童城の権能をもってしても、読み切ることはできませんでした。

やくも
えへへっ、それほどでもないがや♪

千狐
少しは反省してほしいの……。

小峯城
……段々と、周囲の地形が見慣れたものに変わってきましたね。
天童城さんの御城まで、もうまもなく……というところでしょうか。

甲府城
やくもちゃんの胃袋もそうだけど、千狐ちゃんの転移術にも驚きだね!
天童城ちゃんの御城の傍まで、一瞬で移動しちゃうんだから♪

天童城
御城に到着したら、
すぐにお蕎麦の準備を始めますので、楽しみにしていてくださいね。

天童城
私の御城には、蓄えがまだまだあります……。
皆さんがご満足いただけるまで、お蕎麦を振る舞うことができますよ♪

天童城
ですから、やくもさんもお気になさらず……、
好きなだけお蕎麦を食べていってください♪

やくも
ほんとがやっ!?

やくも
それは楽しみだに♪
この時期に食べる蕎麦は格別……!
いくら食べても飽きるということはないがや!

千狐
天童城さん……そんなことを言っていると、
やくもが本当に御城の蓄えを食べ尽くしてしまいますよ……。

甲府城
お蕎麦はもちろん楽しみだけど……。
天童城ちゃんの御城に行けるってだけで、僕は嬉しいよ♪

天童城
以前から『機会があれば』とお手紙でやりとりしていましたものね♪

甲府城
うん! 将棋の盛んな場所って聞いてたから、
いつかは行ってみたいって思ってたんだ~♪

小峯城
将棋好きにはたまらない場所ですからね、天童の地は。

天童城
もちろん、盤と駒の用意もありますから、
思う存分対局を楽しむこともできますよ♪

天童城
殿も、もしよろしければお相手してくださいね♪

殿
…………!

柳川城
(殿と将棋、ですか……)

柳川城
(嗜み程度にしか触れたことはありませんが、
 この機会にじっくり学んでみても良いかも――)

福山城
(じぃーーーーー)

柳川城
――っ!?

柳川城
(な、なんだか……すごく見られてます……)

柳川城
(先日の凧あげの一件以来……ことあるごとに、
 視線を浴びせられる日々……)

柳川城
(おそらく羨望……のような感情を向けられているのだとは思いますが、
 やはり少々、落ち着かないです……)

柳川城
あの……福山城さん?
先程からじぃっと私の方を見ていますが……何か、ご用ですか……?

福山城
ご用? ご用ってほどのことはないけど、
なんというか、んー……。

福山城
柳川っちが凧あげ名人だから、福っちは目が離せないんだよ!

柳川城
た、凧あげ名人だから……?

福山城
うん!
弟子は師匠の動きをじーっと観察して、
技術を盗むものなんだよ!

福山城
だから福っちは、
柳川っちの動きを見逃さないように、目を光らせてたの!

柳川城
盗むといっても、私……今はただ歩いていただけで、
盗まれるような技術は、見せていなかったと思うのですが……。

福山城
んーん、そんなことないよ!

福山城
何気ない動きにも、手がかりが隠されてるかもしれないでしょ?
だから福っちは、真似できそうなところはできるだけ真似するつもりなの!

福山城
歩調とか、歩く時に腕を振る大きさとか……、
あとは呼吸の長さとか、他にもいっぱい!

柳川城
そんな細かいところまで……福山城さんは勉強熱心なのですね。

福山城
うん!
今年は、去年よりもいっぱい殿っちを助けたいから、
福っちはいーっぱい勉強するの!

福山城
だから福っちはね、
柳川っちにとっても感謝してるの!

福山城
柳川っちと出会えたお陰でね、
福っちはすっごく成長できたんだよ♪

福山城
凧も、前より上手に飛ばせるようになったし――あ!

福山城
そうだ! 福っち、
柳川っちに練習の成果を見せるのを忘れてたよ!

柳川城
練習の成果……ですか?

福山城
そう! あれから福っちね、一人でたくさん練習したんだ!
福っちの凧……蝙蝠さんが上手く飛べるように、って!

福山城
見てて、柳川っち!
福っちがこれから、蝙蝠さんを飛ばすから!

福山城
行くよー、蝙蝠さん!
福っちが空の高ーいところまで、連れてってあげるからね♪

後半
福山城

やった~♪ 飛んだよ、柳川っち!
蝙蝠さんがぱたぱた~って! 見てた?

柳川城
ええ、見ていましたよ。綺麗に飛んでいました。

福山城
福っちは小さくて、
まだまだ足りないところがいっぱいだから……。
沢山お勉強しなくちゃいけないの!

福山城
凧あげもそうだけど……色んなことを、
色んな城娘から学びたいーって思ってるんだ!

福山城
そうしたらきっと柳川っちみたいに、
殿の役に立てるかっこいい城娘になれると思うの!

柳川城
そうですか……そうだったのですね……。

柳川城
その気持ちがあるならきっと……福山城さんは大丈夫です。

福山城
そうかな? 殿の役に立てるかなぁ?

柳川城
ええ、もちろんです。
……これは、福山城さんのこれからに注目、ですね♪(なでなで)

福山城
えへへ、やったぁ! 柳川っちに褒められたよー!

柳川城
(ふふ、懐かれてしまったようですね……)

柳川城
(ですが、この感じ……。
 故郷の笹原城ちゃんたちを思い出しますね。
 ……何やら、懐かしいです)

福山城
……一条っちー?
一条っちも福っちの今の動き、見てたよね?

一条小山城
ん……あぁ、もちろん見てたが……それがどうしたずら?

福山城
一条っちもぼやぼやしてちゃだめだよ、ってこと!
このままだと、福っちに置いてきぼりにされちゃうからね?

一条小山城
な……なんでワシがおまんに置いてきぼりにされなきゃならんし!?

一条小山城
ワシはこう見えても甲府城の姉、
長い歴史を背負った由緒正しい城娘ずら!

一条小山城
おぬしにぼこ呼ばわりされるような城娘ではないだよ!

福山城
一条っちが甲府っちのお姉さん?
ってことは、福っちよりもずーっとお姉さんってこと……?

福山城
……またまたー! ご冗談を!

一条小山城
冗談じゃないし!? どうして信じてくれないだよ!

一条小山城
くぅ、ワシのこと馬鹿にして……そこまで疑うなら、
今ここでワシの力を見せてやるだよ!

福山城
一条っちの力?
いいねー! 見てみたい!

福山城
それじゃ……天童っちの御城までどっちが早く着けるか、競争する?

一条小山城
受けて立つだよ! ワシに挑戦するとは、良い度胸ずら!

一条小山城
それじゃいくずら……さん、にー、いち……!

福山城
はじめー!

甲府城
ちょっと、二人ともー! 競争するのはいいけど、
天童城ちゃんの御城がどこにあるのか分かってるの? ふたりとも~!?

春を迎えて吉兆芽吹く -結-

天童城の御城に到着した一行は、蕎麦を食べたり
将棋を指したりと、各々の楽しみに興じていた。
そんな中、悲しげな表情をした城娘の姿が……。

前半
天童城の御城に到着した殿一行は、
思い思いの時を過ごし、正月の休みを満喫していた――

天童城
皆さーん、お蕎麦のお代わりができましたよー♪

やくも
待ってただにー!

やくも
ずる、ずるずる……。

やくも
甲府城たちは、お蕎麦のお代わり要らないがや……?

甲府城
んー……この一局が決着したらいただこうかな……。

甲府城
…………。

甲府城
じゃ次は……こう指して、みようかな……。

小峯城
…………!

小峯城
そうきましたか……では私は、そうですね……。

天童城
ふふ、お二人とも随分集中していらっしゃるようですね。

福山城
天童っちも、甲府っちたちと一緒に将棋するの?

天童城
そうですね……お二人の対局が終わったら、
どちらかに交代してもらおうかと思っています。

天童城
または私一人で甲府城さんと小峯城さんを相手に、
二面指し……というのも良いかもしれませんね。

柳川城
二面指し……天童城さん一人で、
二人を同時にお相手するということですか……。

やくも
はぇー……。ただでさえ難しそうなのに、
二人同時になんて……想像を絶するだに……。

天童城
私などまだまだです。名人と呼ばれるような指し手なら、十人……、
いえ、百人を同時に相手することだって不可能ではないのですよ。

やくも
ひゃく!? 世の中には凄い人がいるんやねぇ……。

甲府城
でも、二面指しっていうのは名案だね!
それじゃ次は、天童城ちゃんに胸を貸してもらおうかな♪

小峯城
ええ。どれだけ天童城さんに近づけたか……、
確かめさせてもらいましょう。

一条小山城
…………。

一条小山城
むぅ……恐れていたことが起きてしまっただよ……。

福山城
恐れていた事態? どうかしたの、一条っち?

一条小山城
やっぱり、甲府城は将棋漬けずら……。

一条小山城
甲府城の笑顔が見られるのは嬉しいけど、
お姉ちゃんとしてはちょっと寂しいだよ……。

福山城
…………。

福山城
(一条っち、あんまり将棋が得意じゃないのかな……?)

福山城
(ん~……福っちも将棋のことは全然わからないから、
 傍で見てても眠くなってきちゃうんだよね……)

福山城
(どうしよ……福っちも一緒に、
 将棋のお勉強した方が良いかなぁ……)

福山城
(……あ、でもそうすると、
 一条っちが一人ぼっちになっちゃうよね……んー)

福山城
……ん~、とりあえず!
福っちはお外で遊ぶことにしよーかな!

福山城
一条っち! もし良かったら、
福っちに羽根つき教えてくれない?

一条小山城
お? 福山城は羽根つきに興味があるんけ?

福山城
あるある! 大ありだよ!
お正月を楽しむなら、羽根つきは欠かせないもん!

一条小山城
おお、それは素晴らしい心がけずら!
羽根つきのことなら、何でもワシに聞くといいし♪

福山城
ありがとー! それじゃ福っちは、
お礼に凧あげを教えてあげる♪

一条小山城
それじゃ甲府城、
ワシはちょっくら福山城と外で遊んでくるだよ♪

甲府城
わかったよ、お姉ちゃん。
怪我しないように気をつけてねー♪

やくも
こんな寒い中で、羽根つきなんて……。
うぅぅ~、聞いてるだけで身体が震えてしまうがや。

やくも
将棋のことはよう分からんけど……、
うちはあったかーい部屋の中で蕎麦を食べているのが、一番幸せだに♪

柳川城
そうですね。せっかくのお正月休みですから、
たまにはこのような穏やかな時間も……ふわぁ……。

柳川城
と、いけません……あくびが……。

柳川城
(ですが、お腹を膨らませてこう、
 ゆっくりとしていると……つい、眠気が……)

天童城
ふふ♪ お蕎麦は沢山ありますから、
たーんと食べてくださいね、やくもさん。

やくも
わーい♪

千狐
やくもはもう……少しは身体を動かさないと、
お休みが明けてから後悔することになるわよ?

やくも
むぅ……確かに、
食っちゃ寝ばかりしているのは身体に良くないだに……。

天童城
…………!

福山城
そうだね~。
おせちやお蕎麦をお腹いっぱい食べて、毎晩宴の繰り返し……。
心なしか、福っちのお腹にもお肉がついちゃったような気がするもん……。

天童城
…………。

天童城
お、お肉……!

福山城
ということで福っちは! 今日の羽根つきで、
それをぜーんぶチャラにしなくちゃいけないの!

天童城
お肉を……チャラに……!

福山城
それじゃ出発するよ、一条っち!

一条小山城
行ってくるずら~!

甲府城
行ってらっしゃ~い♪

天童城
…………。

天童城
(確かに私も、ここ数日を振り返ると……何かを食べたり、
 ごろごろしていた記憶しかありません……!)

天童城
(めでたい時期だから、お正月が終わるまでだから……と、
 自分をごまかしてきましたが……)

天童城
(多少は身体を動かさないと、
 大変なことになってしまう気がします……!)

天童城
(お二人と将棋を指すのも貴重な時間……ですが、
 今の私にとって何が最も重要かは……明白!)

天童城
甲府城さん、小峯城さん……。

天童城
先程の二面指しの件ですが、
夕餉の後でも良いでしょうか……?

甲府城
うん……大丈夫だけど……?

天童城
申し訳ありません。私、急用ができてしまいまして……、
すぐに外にでなければいけないのです……!

甲府城
急用? それってどういう――

天童城
待ってください! 一条小山城さん、福山城さーん!
お二人の羽根つき勝負、私もご一緒しますー!

天童城
さぁ、存分に身体を動かすのよ、天童城……!

天童城
そして、チャラに……お肉を、チャラにするんです……!

後半
天童城

はぁ、はぁ……まだです……私はまだ戦えますよ……!

福山城
すごいよ天童っち!
一条っちと互角の勝負を繰り広げるなんて……!

福山城
それに動きも豪快だし……なんていうか、
その……ばいんばいん、って感じで!

一条小山城
食らいついてくるな、天童城。
だが、最後に笑うのは、このワシずら……!

一条小山城
さぁ……ワシの必殺技に驚愕するがいいし!

――――

小峯城
(あちらの勝負は佳境に差し掛かったようですが、
 私たちの勝負は、一足先に決着しそうですね……)

小峯城
(……ん? そう言えば、この状況は……。)

甲府城
こっちはダメ……こっちにいっても、ダメ、と……。

甲府城
うぁー……これ、詰んでる? 詰んでるよね……?

小峯城
…………。

甲府城
粘ってみたけど、やられちゃったぁ……。
やっぱりまだまだ小峯城ちゃんには届かないかぁ。

小峯城
(甲府城さん、甲府城さん……)

甲府城
ん……?

甲府城
(どうしたの小峯城ちゃん? 急に小声で……?)

小峯城
(周りを見てみてください。
 城娘の多くが今、外に出払っています……)

小峯城
(これは先日お話ししていた作戦を実行する、好機では……?)

甲府城
(作戦って、殿と柳川城ちゃんの……あれのこと?)

小峯城
(その通りです!)

甲府城
(確かにそうだね! よぉし……それじゃ、
 千狐ちゃんとやくもちゃんにも声を掛けて……!)

――――

柳川城
ん、んぅ……?

柳川城
ぁ……いつの間にか寝てしまっていたみたい……。
居心地が良くて、つい……。

柳川城
あれ……?
お部屋の中が、静かになっているような……?

殿
…………。

柳川城
あ、殿……。
そうですか、他の皆さんはお外に……。

柳川城
(あれ、この状況は……もしかして……)

柳川城
(と、殿と二人きりになってます……!?)

柳川城
(うぅ……胸が緊張で、ドキドキしています……)

殿
…………。

柳川城
は、はい……すみません。
これほど落ち着いた時間は、
久しぶりだったので……うとうとと……。

殿
…………。

柳川城
そうですね。昨年も、多くの戦いがありました……。

柳川城
苦難は幾つもありましたが、殿が私たちを導いてくれたお陰で……、
こうして、また新しい年を迎えることができました。

柳川城
私、柳川城は……今年も、今後も変わらず……、
貴方を傍でお支えするつもりです。

柳川城
どんな些細なことでも構いません。
……いつでも、私を頼ってください。

柳川城
殿の力になることが……私にとって、一番の喜びですから。

殿
…………!

柳川城
今年も一年、よろしくお願いしますね……殿。

殿
…………!

柳川城
(――はっ、そうです。
 この機会に、ずっと温めていた蹴鞠のお話を……!)

柳川城
と、時に殿……最近私、蹴鞠に凝ってまして……。
もし良ければ、ご一緒に――

――頬を染めながら、たどたどしい調子で言葉を紡ぐ柳川城。

勇気を振り絞った彼女からの誘いに、殿は微笑みを浮かべ……。
迷いなく、頷きを返すのだった――

春を迎えて吉兆芽吹く -絶弐-

つながらない記憶、自身を『リーダー』呼ばわり
する周囲の城娘たち……夢か現か分からぬ場所で、
小峯城はアイドルとして舞台に立つことに……?

前半
小峯城

すー、すー……。

???
リーダー……リーダー……!

???
ちょっと、聞いてる? リーダー?

小峯城
――――はっ!?

小峯城
すみません……少し、うたた寝をしてしまって……。

甲府城
ふふ、もしかして……、
緊張して昨晩は眠れなかった、とか?

小峯城
え……?

甲府城
まだ寝ていたいって気持ちは分かるけど、もう出番は目前だよ?
多少は動いて、身体をあっためておかなきゃ!

甲府城
今日は僕たちの大舞台なんだから……頼むよ、リーダー?

小峯城
……リ、リーダー?

小峯城
リーダーというのは……、
私のことで合っていますか、甲府城さん?

甲府城
もー、当たり前じゃない!

甲府城
それから、僕の事は『甲府っち』って呼んでって、
いつも言ってるでしょ、リーダー!

甲府城
ステージの上で呼び間違えないように、気をつけてよね?

一条小山城
まーまー、そうトゲトゲするなし、甲府っち!

甲府城
一条っち……。

一条小山城
寝起きに頭がぼやーっとするくらい、珍しいことじゃないだよ!

一条小山城
ステージに上がれば、最高のパフォーマンスでファンを魅了する……、
そんな、いつものリーダーに戻ってくれるずら!

一条小山城
ワシはリーダーのことを信頼してるし!

甲府城
それは、もちろん……僕だってリーダーのことを信頼してるけど……。

小峯城
…………。

小峯城
(おかしい……これはいったい、どういうことだ……?)

小峯城
(つい先程まで私は、天童城の御城にて眠っていた……。
 本来なら、布団の上で目を覚ますはず――)

小峯城
――そうか!

小峯城
なるほど……理解しましたよ。

小峯城
ここは私の夢の中……そういうことですね……!

小峯城
時に夢は……その者の抑圧された思いや、
願望を映し出す……そう聞いたことがありますが……。

小峯城
まさか、この私が、
アイドルグループのリーダーになっているだなんて……。

小峯城
これが私の胸に秘められている、願い……ということですか……。

一条小山城
……ほら、リーダー!
もうすぐライブが始まることだし、ワシらを叱咤するし!

甲府城
そうだね! 本番前に一つ、
リーダーから気合の入った言葉が欲しいな!

小峯城
気合の入った言葉……ですか……。

小峯城
(夢の中とはいえ……私の本来の役目は、忍……)

小峯城
(そんな私が……アイドルとして、
 皆にどんな言葉を伝えられるというのか……)

小峯城
…………。

小峯城
言えない……。

小峯城
現実の世界で、
アイドル好きであることをひた隠しにしてきた私には……何も――

???
大丈夫ですよ……小峯城。
何も躊躇うことなんてありません。

小峯城
……っ、その声は……!

小田原城
小峯城は、自分の思うままに振る舞えばいいんです。

小峯城
小田原城……!

一条小山城
ふ、副リーダー……!

小峯城
副リーダー?
小田原城も、このグループの一員なのですか……?

小田原城
小峯城は……ずっと、悩んでいたのですよね。

小田原城
本来は忍として、相応しい働きをしなければならないのに……、
自分がアイドルになっていいのだろうか、と……。

甲府城
そんな……!
まさか、リーダーがグループから脱退……!?

一条小山城
こ、これが音楽性の違いって奴ずら……?

小田原城
……でも、私は知っていますよ。

小田原城
小峯城は、本当は……誰かを笑顔にすることが、大好きな城娘なんです。

小峯城
…………。

小田原城
大切な誰かを喜ばせたい、そのためなら何だってしたい。
……そう強く願うからこそ、貴方は忍として、
あらゆる任務をこなすことができる……。

小田原城
そんな思いを胸に燃やす貴方だからこそ、
できるパフォーマンスがある……私は、そう思います……。

小峯城
小田原城……。

小田原城
でもね……私、時々こうも思うのですよ。
……小峯城は真面目すぎる、と。

小峯城
真面目すぎる……ですか?

小田原城
別に良いじゃないですか。
たまに忍で、たまにアイドル……そんな城娘が居たって。

小田原城
忍とは、耐え忍ぶ者を指す……確かにそうかもしれませんけど、
自分の願いを全て押し殺す必要などないのですよ。

小田原城
それに……今の小峯城は、最高に可愛いです♪
この可愛さの前では、それ以外の悩みなんて些末な事ですよ♪

甲府城
そうだね! 副リーダーの言う通りだよ♪

一条小山城
ワシも副リーダーの意見に同意ずら!

小峯城
…………。

小峯城
(なぜだろう。
 小田原城の言葉に、私の心が解きほぐされていく……)

小峯城
(ここは夢の中で……ここに居るのは、
 その中に描きだされた、小田原城に過ぎないはずなのに……)

小峯城
(でも……私が同じような状況に置かれたら、
 本物の小田原城もきっと……こんな言葉で私を励ましてくれる。
 ……そんな気がする)

小田原城
さぁ……悩むのはここまで!
もう時間ですよ、小峯城! ステージへと向かいましょう!

小峯城
……はいっ!

後半
???

……きて、起きてー……

???
もうすぐお昼だよー、小峯城ちゃーん?

小峯城
ん……?

小峯城
…………。

小峯城
ここは……天童城の御城ですか……。

小峯城
どうやら、現実の世界に戻ってこられたようですね……。

甲府城
現実の世界……?
ふふ、小峯城ちゃんはまだ寝ぼけてるのかな?

甲府城
それより、大事件だよ♪ ……今日はね、
殿が皆の分のお餅をついてくれるんだって!
こんな機会、滅多に無いよね!

小峯城
もうすぐ昼とは……大変な寝坊をしてしまったようですね……。

甲府城
うん、僕もびっくりしたよ……。
いつもなら小峯城ちゃんは、一番に布団から出るのに。

甲府城
まぁ、小峯城ちゃんは普段から真面目過ぎるくらいだし、
たまには良いんじゃないかな!
寝坊できるのも、お正月の醍醐味って言えると思うし♪

小峯城
ふ……優しいのですね、甲府っちは……。

甲府城
……小峯城ちゃん?

甲府城
甲府っちって……ぼ、僕のこと……だよね?

小峯城
…………!

小峯城
その……つい、
何かの弾みで出てきてしまったようで。すみません……。

甲府城
あ、違うよ? びっくりしただけで、嫌だった訳じゃ……。

甲府城
小峯城ちゃんがそう呼びたいなら、
『甲府っち』でも、いいし……。

小峯城
…………。

小峯城
(それにしても、先程の夢。
 色々と学ぶべきところがありそうですね……)

小峯城
(今日からあいどるの頂上を目指して一直線、というのは難しくとも……、
 忍という役割に縛られず、少しは自分らしく振る舞ってみるのも、
 必要かもしれません……)

甲府城
……あ、そうそう! そういえば!

甲府城
あの歌……小峯城ちゃんが口ずさんでた歌は、
なんだったのかなぁ……?

小峯城
私が口ずさんでた歌……?

甲府城
うん! 僕が小峯城ちゃんを起こしに来た時にね、
眠ってる小峯城ちゃんが歌を口ずさんでて……、
それがとっても素敵な曲だったの!

小峯城
…………。

小峯城
それは恐らく……私が作った曲でしょうね……

甲府城
小峯城ちゃんが作った曲?
小峯城ちゃん、そんな特技があったの!?

小峯城
特技というか、趣味のようなものです……。

小峯城
実は私……ここだけの話ですが、
あいどるというものに、少々憧れがありまして……。

甲府城
そうなんだ! それじゃ僕と一緒だ♪
僕も大坂城ちゃんに憧れてるんだよー!
あいどる城娘って、皆きらきらしてて素敵だよね♪

小峯城
そうですか、甲府城さんも……。

甲府城
ねぇね、小峯城ちゃん!
その、さっき寝言で口ずさんでた曲の続き……、
聴かせてくれないかな?

甲府城
僕の見立てだとね……あの曲は絶対売れると思うの!
大ヒット間違いなしだよ!

小峯城
大ヒットなんて、過大評価です……。
他のあいどる城娘の見様見真似ですから……。

甲府城
それでも僕は、良い曲だと思ったのー!
小峯城ちゃんが幾ら謙遜しても、
僕の評価は揺るがないもん♪

小峯城
ふふ、そうですか……。
お褒めに預かり光栄です。

小峯城
それでは、少しだけ……歌ってみせましょうか。

小峯城
ただし……このことは他言無用でお願いしますね?

甲府城
うん、わかったー♪

今まで、他人に聴かせることを避けてきた、その歌声は……、
甲府城の心に深く染み渡り、彼女を大いに喜ばせた。

そして何より……その甲府城の笑顔を見た小峯城も、
この上なく満たされた心地を得たのだった――



特に記載のない限り、コミュニティのコンテンツはCC BY-SAライセンスの下で利用可能です。

シェアボタン: このページをSNSに投稿するのに便利です。


最近更新されたページ

左メニュー

左メニューサンプル左メニューはヘッダーメニューの【編集】>【左メニューを編集する】をクリックすると編集できます。ご自由に編集してください。掲示板雑談・質問・相談掲示板更新履歴最近のコメントカウン...

[裏]真田丸

裏]真田丸(チャリン……チャリン……チャリン……)……貴殿か。今日は、話をしたい気分じゃない。足を運んでくれたのに、すまない。一文……二文……三文……四文……五文……六文……銭を数えていなければ、一瞬...

[裏]淀城

]淀城あ~……。あ゛ぁ~……きもちわる。夢見は悪いし、頭はズキズキ痛むし……。ほんっとに最悪な日よ、今日は。誰でも良いから……。どつき回して、ぐちゃぐちゃにしたい気分。…………。……で、なに?そこに突...

[裏]桜尾城

]桜尾城殿……どうかしましたか?……ふふ、今回は間違えませんでしたよ。あなたの安らぐ顔もまた、私の喜びなのですから。私は今……海を見ていました。このどこまでも凪ゆく、厳島の海を……。厳島周辺は神域とい...

[裏]川越城

]川越城お客様かしら……どうぞ。貴方は、確か……ちょっと待ってね……。うん……たぶん、『殿』よね……?やっぱり……人違いでなくて、良かったわ。ふふ。今丁度、過去の私が遺した日記を読み返していたのよ……...

[裏]小田原城

]小田原城…………。……あら、殿。ようこそいらっしゃいました。ああ……いえ、ご心配なく。少し考え事をしていただけですから。今、ちょうど……。昔の出来事に思いを馳せていました。今の私を形作る、原点とも呼...

[裏]小牧山城

目次1 性能1.1 特技1.2 [改壱]特技1.3 所持特技1.4 [改壱]所持特技1.5 計略1.6 [改壱]計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3...

[裏]室町第

裏]室町第殿……ふふふ。どうせまた来るって、そんな気はしていたわ。私がどんなに忠告をしても、貴方は自分の信念を曲げない。本当に……つくづく、強い人ね、殿は。私のせいで、どれほど悪いことが起こっても殿は...

[裏]大宰府

]大宰府おお、殿か。よく来てくれたな。今な、手紙を整理しておったのじゃ。最近は毎日、誰かしらから届くのでな……。この手紙は……、『大宰府ちゃん親衛隊』を自称する者たちからじゃな。大野城、鞠智城、基肄城...

[裏]坂本城

]坂本城大殿様……また来たのね。ふふ……別に、追い返したりしないわよ。というより……私も今ね、大殿様と話せたら、って考えてたところだったの。だから……少しの間、私の話し相手になってくれるかしら?……ふ...

[裏]佐和山城

]佐和山城……また来たのね、あなた。足を運んでくれたところ悪いけど、面白いものは何も見れないわよ?相変わらず、大坂城様のらいぶに向けて、準備をしているだけだもの。……ん、なに?『なぜ、そこまで大坂城様...

[裏]伊勢長島城

]伊勢長島城も~、なんなのあいつら!信じらんない!寄ってたかってライブの邪魔をして!いったいどこから情報が漏れたの?もしかして、殿じゃないでしょうね……!?……そんなわけないか。あたしは、あんたにな~...

[花嫁衣装]鹿児島城

目次1 性能1.1 特技1.2 計略1.3 [改壱]計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3性能< ロケト城 - [花嫁衣装]シャンティイ城 >[花嫁衣...

[花嫁衣装]鮫ヶ尾城

]鮫ヶ尾城はあ……春日山城サマの祝言、想像するだけでドキドキしてしまうっす!ね、ちびサマ~♪……ん?どうしたっすか、トノ?えっ、『主城のことより自分はどうなのか』っすか……?うぐ……これは痛いことを言...

[花嫁衣装]許昌城

]許昌城うーん……。ううーん……。……おや、殿か?すまない、考え事をしていて来訪に気づいていなかった。この間、殿と話してから、結婚に関して城娘達と話をしたのだ。繁栄という目的へ至る手段としての婚姻……...

[花嫁衣装]萩城

目次1 性能1.1 特技1.2 [改壱]特技1.3 計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3性能< [花嫁衣装]チャンドラ・マハル - [花嫁衣装]新田...

[花嫁衣装]秋田城

目次1 性能1.1 特技1.2 [改壱]特技1.3 計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3性能< 延岡城 - [花嫁衣装]ロンドン塔 >[花嫁衣装]秋...

[花嫁衣装]春日山城

]春日山城うーん……。……うーん? ……うん?……殿?すみません! お越しいただいていたのに、今の今まで気づかずにいて!実は先日、坂戸城と謙信公の昔話をしてたのですが、その際、跡継ぎの話題が出たのです...

[花嫁衣装]新田金山城

目次1 性能1.1 特技1.2 [改壱]特技1.3 計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3性能< [花嫁衣装]萩城 - [花嫁衣装]アイリーン・ドナン...