ストーリーテキスト/拈華微笑の釣り野伏

ページ名:ストーリーテキスト/拈華微笑の釣り野伏

目次

拈華微笑の釣り野伏[]

拈華微笑の釣り野伏 -序-

日向国に兜軍団が出現したとの報あり――。
現地へと向かった殿一行は其処で、槌を揮い
奮戦する佐土原城の姿を目の当たりにする。

前半
――所領。

一人の城娘が、
もう一人の城娘を布団から引きずり出そうとしていた。

宇土古城
内城さんってばぁ、いい加減にお布団から出てくださいよぅ!

内城
……今はまだ、その時ではありません。

宇土古城
何を言ってるんですか? もうお昼ですよ、お昼!

宇土古城
内城さん以外の城娘は、その……一部の方を除いてみーんな起きてますよ!

宇土古城
というか、それどころじゃないんですってば!
貴方にも縁のある日向国で兜が暴れてるんですよぅ!

内城
そんなに心配する必要はありませんよ……。

内城
なにせ、日向国には私の妹――佐土原城がいるのですから。

宇土古城
で、ですから――。

内城
すみません……少しだけ、お静かに……。
今、集中しなければならないことがありますので。

宇土古城
天井のシミを見つめることの
どこに集中力が必要なんですかっ!?

内城
しー……。

内城
もう少し……もう少しであのシミが別の何かに見えそうなのです。

宇土古城
その集中力を少しは私の話に向けてくださいよぅ~っ!

内城
――はっ!?

内城
見えました……。
ほら、どことなく我が四姉妹の末娘・佐土原の姿のように――

宇土古城
――だから、その佐土原城ちゃんの窮地なんですぅっ!!

内城
何故それを先に仰らないのですかっ!

宇土古城
うわぁっ!? 急に変身しないでくださいっ!?

内城
こうしてはおれません! 急ぎ救援に向かわないと――。

千狐
――きゃっ!?

内城
ご、ごめんなさい、千狐さん。
急いでいたもので……あの、お怪我はありませんか?

千狐
はい……何とか。

千狐
ですが、どうしたのですか? 
滅多に部屋をお出にならない内城さんが、そんなに慌てて……。

やくも
そーだに、みょーに騒がしいと思って見に来たら、
急に部屋から駆け出してくるなんて、らしくないだに。

内城
実は……――。

柳川城
なるほど……。
日向国の異事と、妹である佐土原城さんの窮地……ですか。

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
はい! 我々もすぐに仕度をし、
内城さんと共に日向の地へと出立しましょう!

――日向国・某城内。

千狐
殿、転移術は無事成功ですわ!
さっそく佐土原城さんが戦っている場所を探しましょう!

柳川城
――っ!?

宇土古城
今の地響きのような音は……?

柳川城
殿、あちらを……!

殿
…………!

突撃式トッパイ形兜
……押セ……押セ……。
十ヲ以テ……一ヲ攻メヨ……。

兜軍団
攻メヨ……責メヨ……殺メヨ……。

千狐
こんなにも多くの兜たちがいるなんて……っ!

内城
まさか、あの中に佐土原が……。

???
どっすこ――――いっ!!???

兜軍団
グギャァァァアアアアアアアアッ!!

殿
…………!?

???
うりゃ~っ!
死にたかヤツはどいつじゃ~っ!

宇土古城
すごい……兜の大群を一撃で。

宇土古城
あの子が日向国の民からの報告にあった――。

内城
佐土原っ! 
よかった……無事だったのね。

佐土原城
……あれっ? 
その声はもしかして…………、

佐土原城
わぁ~い、やっぱり内城おねえちゃんだぁっ♪

佐土原城
えへへ、見て見てぇっ! 
わたし、悪い兜をい~っぱい倒したんだよっ♪

突撃式トッパイ形兜
馬鹿メ……戦ノ最中ニ気ヲ抜クトハ!
油断シタコト……後悔サセテクレルッ!

やくも
だにぃっ!? こんな時によそ見なんかしちょー場合じゃないがやぁ!

佐土原城
え……っ?

突撃式トッパイ形兜
佐土原城、其ノ首モラッ――

内城
はぁあ――っ!

突撃式トッパイ形兜
ギャァァアアアアアアアアアアッ!!

内城
痴れ者め!
私の妹に手を出すなぁ――っ!!

柳川城
私も、内城さんに続きます……!
殿、聡明なる御下知をお願い致します!

後半
内城

佐土原っ!
大丈夫? どこか怪我をしたところはない?

佐土原城
えへへ、大丈夫だよぉ。

佐土原城
だって、おねえちゃんが助けにきてくれたんだもん♪

内城
よかった……。
……本当に、心配したのよ? 

佐土原城
あぅ……ごめんなさい。

佐土原城
でも、久しぶりに
おねえちゃんに会えてうれしいなぁ。

やくも
だにぃ~。
ふたりは仲のええ姉妹なんやねぇ。

宇土古城
ふふっ。内城さんったら、
佐土原城さんの窮地と聞いた途端に
血相を変えて飛び出してましたもんね。

殿
…………。

佐土原城
ねぇねぇおねえちゃん。
わたしね、おねえちゃんたちがくるまで
一人でい~っぱい悪い兜を倒したんだよ?

内城
そう……偉いわね。

佐土原城
えへへ~、もっと褒めて褒めてぇ♪
ギュ~ってして、すりすり~ってしてぇ♪

内城
…………。

内城
……佐土原、先程の隊で敵は全てですか?

佐土原城
……え?
(あ、あれ? もっと褒めてもらえると思ったのに)

佐土原城
えっと、まだ全部倒したわけじゃないと思うけどぉ……。

内城
そうですか……では、当面は警戒が必要そうですね。

佐土原城
…………。

宇土古城
……大丈夫、佐土原城ちゃん?
痛いところがあるなら言ってね? 傷薬をあげるから。

佐土原城
え? あの、お姉さんは……?

宇土古城
ふふ、肥後国の宇土古城よ。
日向国の佐土原城ちゃんとはお隣さんね。

佐土原城
…………。

佐土原城
えへ~♪ 宇土古お姉ちゃん、よろしくだよぉっ♪

宇土古城
――きゃっ!?

宇土古城
え、ええと……佐土原城ちゃん?
そんなにくっつかれると、お姉さん……ちょっと恥ずかしいな。

佐土原城
にへへ~♪ すりすりすり~♪

千狐
随分と人懐っこい城娘のようですね、佐土原城さんは。

殿
…………。

内城
なにはともあれ、

内城
兜による襲撃が今後も続くことは想像に難くありません。
急ぎ、対策を講じなければ……。

千狐
そうですね……。

柳川城
それでは殿。
我々も此の地に陣を敷き、兜たちの襲撃に備えるとしましょう!

拈華微笑の釣り野伏 -破-

久々の再会を喜んだ内城・佐土原城姉妹。
迫りくる巨大兜の気配を内城が察する中、
彼女の褒誉を得んと、佐土原城は奮闘する。

前半
内城

それでは佐土原、

内城
貴方が先刻まで交戦していた兜の情報を
殿たちにもわかるように詳しく教えてもらえますか?

佐土原城
うん、分かったよぉ、おねえちゃん!

佐土原城
それじゃあ説明するよぉ、お殿さま?
ちゃんと聞いててね?

殿
…………。

佐土原城
えっとねぇ……まず、兜たちの部隊がこのお城に攻めてきたのは、
さっきので、えーと……あれ、何回目だっけ?

佐土原城
とにかく、これまでは攻めてくるたびに
一人でがんばって退治してたの!

千狐
度重なる兜の進行をたった一人で……!

千狐
見かけによらず、と言うと失礼ですが、佐土原城さんはお強いのですね。

佐土原城
へへ~ん、戦に関してはけっこー自信あるんだぁ♪

佐土原城
でも、ホントのことを言うと
兜たちが最初から本気で攻めて来てたら危なかったかも……。

柳川城
では、敵は手を抜いていると?

佐土原城
うん、すぐにこの地を制圧したいって感じじゃなかったと思う。

佐土原城
だって、それなら最初から大軍で攻めてくるはずでしょ?
なのにそうしなかったってことは……、

佐土原城
兜たちはどうしてもこの地を攻略したいんじゃなくて、
なにか別の目的があって、この地に部隊を派遣してるんじゃないかなぁ。

内城
なるほど……確かに一理あるかもしれませんね。

やくも
はぇ~。
こーんなちっこくて可愛いのに、大した分析力やねぇ。

柳川城
流石は佐土原城さん。
島津の軍神とも呼ばれた、島津家久と縁の深い城娘なだけはありますね。

佐土原城
にへへ~、もっと褒めて褒めてぇ~♪

宇土古城
あ、あのぉ……佐土原城ちゃん?

佐土原城
なぁに、宇土古お姉ちゃん?

宇土古城
その……ダメってわけじゃないんだけど、
あんまり長く膝の上に座られると、お姉さん困っちゃうなぁ……なんて。

佐土原城
だってぇ~、内城おねえちゃんのよりも
宇土古お姉ちゃんのお膝の方が柔らかくて気持ちいいんだも~ん♪

宇土古城
――ひゃっ!? 

宇土古城
も、もう……。
そんなにくっつかれたら、くすぐったいでしょう?

佐土原城
…………(ちらっ)

内城
…………。

内城
……佐土原城、宇土古城さんを困らせてはいけませんよ。

佐土原城
(……あれ、なんで? おねえちゃん、もっと怒ると思ったのに……)

内城
……それはさておき、皆さん。

内城
妹の話と、先刻の兜たちの統率の取れた動きから判断すると、
此度の一件は裏で巨大兜が糸を引いているようにも思えませんか?

柳川城
確かに、その可能性は高そうですね……。

殿
…………。

佐土原城
だいじょーぶだよぉ!
どんな兜が来ても、必殺の『釣り野伏』でボッコボコにしてやるんだから!

柳川城
釣り野伏――戦国時代に九州の覇者となった
島津氏のお家芸ともいうべき計略のことですね。

佐土原城
そう! 部隊をみっつに分けて、中央の部隊が引きつけた敵を
左右に隠しておいた部隊がガチャーンって挟んでぇ――。

内城
――――ッ!

内城
殿、敵襲です! 急ぎ出陣のご準備を!

千狐
え? 兜の姿なんてどこにも――。


――ザッ!

兜軍団
――ザザッ、ザザザッ!!

やくも
ひぃいっ!? 
茂みの中から兜さんたちが生えてきただにぃっ!

佐土原城
(――はっ! ここは内城おねえちゃんにいいところを見せる好機……!)

佐土原城
よぉ~し! 行っくどぉ~っ!
島津の戦ば、見せつけたるー!!

後半
佐土原城

わーいわーい♪勝ったどーっ!

宇土古城
すごーい! 佐土原城ちゃん、大活躍だったね!

佐土原城
にへへ~、褒めて褒めてぇ~♪

佐土原城
(よぉし、これだけ頑張ったんだもん。
今度は、内城おねえちゃんも褒めてくれるよね?)

内城
…………。

佐土原城
おねえ、ちゃん……?

佐土原城
わたし、いっぱい活躍したよね……?

千狐
(……内城さん、どうしたのでしょう?)

千狐
(なんだか佐土原城さんに対して、さきほどから少し冷たいような……?)

殿
…………。

宇土古城
……内城さん、少しは褒めてあげたらどうですか?
佐土原城ちゃん、すっごく頑張ってたじゃないですか……!

内城
……来る。

宇土古城
え……?
く、来るって……何がでしょうか?

内城
――伏せてッ!!

殿
…………!

一同が身を伏せた、その直後――。

ヒュンッ――と鋭く唸りながら
無数の矢が彼らの頭上で空を切った。

やくも
ひぇっ……あ、危うくハチの巣になるところだっただにぃ。
殿さん、庇ってくれてだんだんね!

柳川城
待ってください! まだ身を起こしてはなりません!


――ザザッ!

兜軍団
――ザザッ、ザザザッ!!

やくも
だにぃっ!?
いつの間にか囲まれてるだにぃ!

千狐
それに、その向こうに立っているのは……!

???
……成る程ナ。何度部隊を送り込んデモ
ナカナカ攻略できねえカラ、もしやトハ思っタガ……。

佐土原城
あ、あれは――っ!?

佐土原城
だ……。

佐土原城
……誰だっけ?

やくも
知らんのかいっ!?

内城
そうか……やはり、貴方が黒幕だったのですね。

内城
……長宗我部元親。

長宗我部元親
ヤハリ貴様らが邪魔シテやがったカ……島津の城娘。

拈華微笑の釣り野伏 -急-

遂に現れた、長宗我部元親の名を冠する巨大兜。
此の地の侵略を阻む佐土原城を抹殺せんとする
兜の悪逆を挫くため、殿一行は出陣する。

前半
長宗我部元親

ヤハリ貴様らが邪魔シテやがったカ……島津の城娘。

佐土原城
へっへ~ん! どんなもんじゃーい!

宇土古城
褒められてないからね!?
今は胸を張るところじゃないのよ、佐土原城ちゃん!

佐土原城
ほぇ、そうなの?

長宗我部元親
チッ、舐めヤガッテ……。

長宗我部元親
マァイイ。
コレ以上無駄口を叩けネェようにシテやれば済むコトだ。

長宗我部元親
野郎共、先遣隊を潰シタのはアノ城娘ダ。
同胞の仇、此処で討ってヤロウぜぇッ!

兜軍団
応ォォォォオッ!!

佐土原城
あ、あれ? わたし……なんか狙われてるっ!?

内城
――待ちなさい!

長宗我部元親
……ン?

内城
巨大兜よ、なぜ此の地を狙うのですか?

長宗我部元親
フン……貴様に話ス義理はネェナ。

内城
では、義理はなくとも利があるとしたら?

長宗我部元親
……ホウ?

内城
此の地の守護が佐土原城の使命なれば、
侵攻してきた貴方の部隊と対立するのは当然のこと。

内城
ですが、もしも貴方の目的が
此の地の攻略とは別のところにあるのだとしたら――。

長宗我部元親
……話シ合イで解決デキルかもシレネェ、トデモ言うツモリか?

内城
『百戦百勝は、善の善なる者に非ざるなり』。
貴方ならその意味が分かるのではないですか?

宇土古城
内城さん……。

宇土古城
(ひょっとして、兜たちの注意を
佐土原城ちゃんからそらすため……なのでしょうか?)

長宗我部元親
……確カニ、戦ヲ回避し且つ双方ノ目的ガ達せラレルナラ、
互イニ兵力を損耗サセル必要はネェ訳ダ。

長宗我部元親
戦わずシテ勝ツ……カ。
フッ、アノ島津義久に縁ノ深イ城娘ラシイ発想ダナ。

佐土原城
そ、それじゃあ――。

長宗我部元親
イイダロウ、話を聞いてヤル……

長宗我部元親
――トデモ言うと思ったか?
コノ俺を見くびるンジャネエッ!!

内城
……っ!

長宗我部元親
欲シイモノは自ら戦ッテ手に入レル。
ソレが強者のヤリ方だ……。

長宗我部元親
テメェは城に引き篭モッテ弟達に指示ダケ出してりゃヨカッタ、
名門・島津の御曹司、義久のヨウには生きられネェってコトさ!

内城
……あくまで此処で私たちを討ち、
其の上で己が目的を達しようというのですね?

長宗我部元親
アア、ダカラこそコイツらヲ連れてキタ……。

長宗我部元親
一領具足兜よ、今コソ武功ノ立て時ゾ!

やくも
――ひぇっ!?

やくも
な、なんね……あの兜さんは!?
やたらぶっそーな鍬を持ってるだにぃ!

柳川城
あれは――!

宇土古城
柳川城さん、何かご存知なのですか?

柳川城
はい。一領具足とは長宗我部氏が
武装農民や地侍を対象に編成、運用した兵のことです。

柳川城
平時には農民として生活し、領主からの動員がかかると
ひと揃いの具足を携えて直ちに招集に応じる精強無比な農兵団……。

柳川城
長宗我部元親による四国制覇は、
彼らの活躍に支えられていたと言っても過言ではありません!

殿
…………。

内城
殿、お下がりください。ここは私が。

佐土原城
(内城おねえちゃん、いつになく真剣そう……)

佐土原城
(それだけあの巨大兜を警戒してるってことだよね?)

佐土原城
(ってことは、アイツを倒せば今度こそ褒めてもらえるかも――!)

宇土古城
……あら?
佐土原城ちゃん、どこに――

宇土古城
――って、!?
ダメよ佐土原城ちゃん、一人で突撃なんかしたら……!

佐土原城
どぉ~りゃ~っ!
長宗我部元親、覚悟ぉ――ッ!!

長宗我部元親
フッ、猪めガ。
ソッチから突っ込んで来るナラ好都合ダゼッ!

内城
……まったく。
あの娘ったら、後先考えずに突っ込んでいくんですから……。

内城
ですが、放っておくわけには参りません……。
殿、出陣のご準備をお願いします!

後半
長宗我部元親

チッ、コノ程度ノ兵数ジャ押し切れネェカ……。

殿
…………。

長宗我部元親
(……マ、急いで此ノ地を攻略スル必要もネェか)

長宗我部元親
(佐土原城ノ妨害のセイデ期待シタ程の成果は上がってネェが、
地気ノ収集コソガ最優先すべき事柄なのダカラな……)

長宗我部元親
……総員、一時撤退ダ。

兜軍団
承知デスゼ、御頭ァッ!!

佐土原城
待て~っ! 兜たちぃ~!
まだ戦は終わっとらんど~!

長宗我部元親
……ソウ焦るんじゃねぇよ、猪…………。
俺達をコケにシテくれた借リハ、近いウチに返スさ……。

長宗我部元親
首を洗ッテ待ッテイろ……島津の城娘……。
次ニ会う時が、貴様らの最後ダ…………――――。

佐土原城
…………。

千狐
て、敵が退却して行きますわ……。

やくも
けど、これでひと安心――

やくも
――とは言えんよーな状況やね。

佐土原城
……うぅっ……。

宇土古城
……佐土原城ちゃん?

佐土原城
ぐすっ……こ、怖かったよぉ……っ。

宇土古城
…………。

宇土古城
(……そっか。張り詰めていた緊張の糸が切れちゃったのね)

宇土古城
……よしよし。もう大丈夫よ。
私の胸でよければ、好きなだけ泣いていいからね?

佐土原城
……ホント? すりすり~ってしてもいい? 

宇土古城
ええ。それで、貴方が落ち着くなら……。

やくも
…………。

やくも
……なんか、宇土古城って本物のお姉さんみたいやねぇ。

千狐
だ、ダメよやくも……!
本当のお姉さんがいる前でそういうことを言ったら。

佐土原城
あ、そうだ。内城おねえちゃんはどこに――。

内城
…………。

佐土原城
(って、すんごいこっち見てるぅ――ッ!!)

内城
…………。(つかつか)

佐土原城
(無言でこっちに歩み寄ってきてるぅ――ッ!!)

佐土原城
(どどど、どうしよう……?)

佐土原城
(わたしが一人で巨大兜を倒そうとしたこと、怒ってるのかな?)

内城
……佐土原。

佐土原城
はひっ! ごごご、ごめんらさいっ……。

内城
勘違いをしないで……。

内城
……私は怒っているわけではありません。

佐土原城
……え?
じゃあ、褒めてもらえるの……かな?

内城
佐土原……。

内城
私は失望しているのです。

佐土原城
へ……? 

佐土原城
な、なんで……?

内城
なんで、ではありません。

内城
功を焦って独断専行した挙げ句、巨大兜を取り逃がすとは何事ですか。

佐土原城
う……。

佐土原城
ぐすっ……ごめんなさい……。

内城
……言葉だけでなら何とでも言えます。

内城
思えば、私が此の地に来たのがいけなかったのでしょうね……。

佐土原城
……え?

内城
傍らに私がいることで安堵が生まれ、
貴方の中に不要なる慢心を生じさせるというならば、

内城
私は所領に帰ります……。

佐土原城
そ、そんなぁ……!

悲哀を湛えて立ち尽くす佐土原城。

その脇を内城が無言で通り過ぎるかに見えた、次の刹那――。

内城
『心こそ 軍する身の 命なれ』

佐土原城
……ふぇ?

内城
その言葉の意味が分かれば、必ず勝利を導けるはずですよ。

佐土原城
心こそ……軍する身の、命なれ……?

佐土原城
…………!

宇土古城
う、内城さん……?
冗談ですよね、帰るなんて……。

柳川城
そ、そうですよ。
巨大兜は再び此の地へ攻めてくることを宣言していたのですよ?

内城
案ずることはありません……。
その実、妹は私よりも戦上手ですし。

宇土古城
内城さん……。

殿
…………。

内城
では、後のことはよろしくお願いしますね、殿。

宇土古城
ま、待ってください!

宇土古城
本当に佐土原城ちゃんを想うならば、
此の地に残るのが本当の――

佐土原城
――もういいよ、宇土古お姉ちゃん。

宇土古城
……え? 

佐土原城
内城おねえちゃんを行かせてあげて?

宇土古城
で、でも……。

佐土原城
わたしは、宇土古お姉ちゃんたちがいてくれれば大丈夫だから。

殿
…………。

千狐
殿ぉ……。
内城さん、本当に行ってしまいましたわ……。

宇土古城
……佐土原城ちゃん、これでよかったの?

佐土原城
う……。

佐土原城
うんっ! これでいいんだよぉ!
内城おねえちゃんがお部屋に籠もるのは、わたしを信頼してる証だもんっ!

佐土原城
だからわたしは、おねえちゃんの期待に応えてもっともっと頑張るんだぁ!

宇土古城
佐土原城ちゃん……。

佐土原城
へへ~ん、まっかせてぇ!
さっきも言ったけどわたし、戦は得意なんだから!

殿
…………。

柳川城
(……佐土原城さんは戦国時代に九州を席巻した
島津四兄弟の四男、家久に縁の深い城娘……)

柳川城
(数々の武功を立てることを通じて長男・義久の期待に応えた、
家久の影響を強く受けてしまっているのかもしれませんね……)

佐土原城
……あれあれぇ? 
お殿さま、みんな、どうしたの? なんか元気ないよぉ?

宇土古城
う、ううん。なんでもないの、なんでも……。

殿
…………。

佐土原城
よぉし、それじゃあ気を取り直していこーっ!!

佐土原城
たしかに内城おねえちゃんはいなくなっちゃったけど
お殿さまたちは引き続き此の地を守るのを手伝ってくれるんだよね?

千狐
はい! 内城さんの分まで精一杯、助力いたしますわ!

佐土原城
わ~いっ♪
それじゃあ、今度こそ必殺の釣り野伏で巨大兜を一緒に倒そうね!

宇土古城
ふふっ。佐土原城ちゃんったら、本当にその戦法が好きなのね。

佐土原城
うんっ! だって釣り野伏は島津の代名詞だもん!

佐土原城
巨大兜め、待っとれよーっ!
島津の戦ば、見せつけたるど―っ!

佐土原城の威勢のいい掛け声により、
殿一行はひとまず活気を取り戻す。

だが、そんな彼らを物陰から密かに覗く者の姿があった……。

???
(フフフ……馬鹿ナ城娘タチメ)

烏帽子形兜
(俺タチガコウシテ聞キ耳ヲ立テテイルトモ知ラズニ、
自分タチノ作戦ヲベラベラト喋ルトハナ……)

拈華微笑の釣り野伏-絶壱-

殿一行の秘策を掴んだ間諜の兜たち――。
妹の傍を離れた内城を薄情と断じた烏帽子形兜は、
姉たる者には包容力が必要だと論じるのだが……。

前半
殿一行との戦いから数刻後・兜陣営――。

長宗我部元親
……成ル程。ヤハリ例の作戦デ来るカ。

烏帽子形兜
ハイ、間違イ無イカト。
コノ桃形兜モ同ジ内容ヲ耳ニシテオリマス故。

桃形兜
ボ、ボクモ間違イ無イト思イマス!

長宗我部元親
ソウか……ヨシ、良くヤッタ。
今日はモウ下がってイイゾ……。

烏帽子形兜
ハッ。失礼シマス。

桃形兜
シ、失礼シマス!

――半刻後。

桃形兜
フゥ~、緊張シタラ疲レチャッタヨ。

烏帽子形兜
ダナ。御頭ノ前デ話ス機会ナンテ滅多ニ無イモンナァ。

烏帽子形兜
……シッカシ、アノ城娘タチガ馬鹿デ助カッタゼ。

桃形兜
助カッタ?

烏帽子形兜
ダッテヨ、アイツラ俺ラガ聞イテルトモ知ラズニ
自分タチノ作戦ヲベラベラ喋ッチマウンダゼ?

桃形兜
アー。
ボク達ガ茂ミノ中ニ隠レテタ時ネ。

烏帽子形兜
ププッ……オ陰デ何ノ苦労モセズニ
欲シカッタ情報ガ手ニ入ッタワケダ。

桃形兜
モシカシタラボク達、
間諜ノ才能ガ有ルンジャナイ?

烏帽子形兜
イヤイヤ、御頭ノ目ノ付ケ所ガ良イノサ。

烏帽子形兜
元親様ハ、アア見エテモ
チャント俺タチ臣下ヲ見テテクレテルンダゼ?

烏帽子形兜
……ソレニ比ベテ、アノ城娘ハナンダ?

桃形兜
アノ城娘?

烏帽子形兜
内城ノ事ダヨ。
アイツ、イクラ何デモ妹ノ佐土原城ニ冷タインジャネエカ?

桃形兜
アー、ワカルー。
妹ガ狙ワレテルノニ、一人デ帰ッチャウナンテ酷イヨネ。

烏帽子形兜
ヤッパリヨ、姉ッテノハ『包容力』ガ有ッテナンボダヨナ?

桃形兜
……『ホウヨウリョク』?

烏帽子形兜
カァーッ、コレダカラ桃形ハ!

烏帽子形兜
イイカ? 『包容力』ッテノハナ、
『守ラレタイ』ト誰カニ思ワセル様ナ『何カ』ナンダヨ。

桃形兜
『何カ』ッテ何サ?

烏帽子形兜
マァ聞ケッテ。例エバ、
サッキ見タ城娘タチノ中ニ、宇土古城ッテノガ居タダロ?

桃形兜
宇土古城ッテ……アノ桜餅ミタイナ色ノ?

烏帽子形兜
ソウソウ、桜餅――ッテ、オマエ中々ミズミズシイ感性シテルナァ!

桃形兜
エヘヘ……。

烏帽子形兜
……デ、ダ。

烏帽子形兜
オマエナラ、ソノ宇土古城ト内城ノ
ドッチニ守ラレタイト思ウ?

桃形兜
ウーン……。

桃形兜
……甲乙ツケガタイナァ。

烏帽子形兜
オイオイ、オマエノ目ハ節穴カ?

烏帽子形兜
ドウ考エテモ宇土古城ダロウガ。

桃形兜
デ、デモ……内城モ凄ク強イ城娘ナンダヨネ?

烏帽子形兜
ッタク……。
ソウイウンジャネエンダヨ、『包容力』ッテノハ。

桃形兜
……???

烏帽子形兜
想像シテモミロ……。

烏帽子形兜
モシ、オマエノ姉ガ宇土古城デ、
アノ極悪非道ナ殿カラ守ッテクレルトシタラ……?

桃形兜
エッ?
宇土古城ガ、ボクノ姉……?

桃形兜
(…………想像中)

宇土古城
(※兜製幻想形・宇土古城)

宇土古城
……桃形くんっ!? 
どうしたの、その怪我は……。

桃形兜
ダ、大丈夫ダヨ。
チョット階段デ転ンダダケダカラ……。

宇土古城
そんなこと言って……本当は殿にやられたんでしょう?

桃形兜
…………ウン。

宇土古城
ほら、怪我したところ見せて?

宇土古城
お姉ちゃん特製のお薬で、
痛いの痛いの飛んでけ~ってしてあげるからね。

桃形兜
宇土古オ姉チャン……。

桃形兜
(……優シイナァ)

桃形兜
(コレガ『包容力』ッテイウヤツナノカナァ……)

宇土古城
それじゃあ、このお薬をここに入れて、と……。

桃形兜
…………エッ?

宇土古城
ん?
どうしたの、桃形くん?

桃形兜
エット……オ姉チャンガ抱エテル、ソレッテ……?

宇土古城
ああ、これのこと?

宇土古城
これは『注射器』っていってね、
この針で桃形くんの体にお薬を注入するのよ♪

桃形兜
マ、待ッテヨ。
ソンナ太イノガ刺サルトコロナンテ、ボクノ体ニハ――。

宇土古城
あ。その背中に突き出てる筒なんて
針を刺すのに丁度いいんじゃない?

桃形兜
ダ、ダメダヨ!
ココハ、ソウイウノヲ刺シテイイ穴ジャナクテ……。

宇土古城
ぐすっ……そんなにお姉ちゃん特性のお薬を注入されるのが嫌なの?

桃形兜
ソ、ソウイウ訳ジャナイケド……。

宇土古城
なら早速、ぶっといお注射打ちましょうね~♪

桃形兜
(ア、アンナノデ刺サレタラ、ボク……壊レチャウヨ……)

桃形兜
(コ、コウナッタラ……!)

桃形兜
アー、ナンダカ痛ク無クナッチャッタナー!

宇土古城
え? まだお注射打ってないんだけど?

桃形兜
エ、エート……、
良ク分カンナイケド、痛イノ飛ンデッチャッタミタイ!

宇土古城
……本当?
実は痛いの我慢してるんじゃないの?

桃形兜
ホ、本当ダッテバ!
ホラ、見テヨコノ顔。チットモ痛ソウジャナイデショ?

宇土古城
…………。

桃形兜
ソ……ソウダ!
宇土古オ姉チャン、コレカラ一緒ニ殿ヲ倒シニ行コウヨ!

宇土古城
え? 
でも、さっきの怪我は殿にやられたんでしょう?

桃形兜
ウン! 
デモ、今ノボクナラアイツヲ倒セル気ガスルンダ!

桃形兜
ナニシロ今ノボクハ、
モウトンデモナク調子ガイイカラネ!

宇土古城
……そっか。
桃形くんが行くなら、私もついて行ってあげなくちゃね。

宇土古城
だって私は、桃形くんのお姉ちゃんなんだから!

宇土古城
待ってなさい、殿!
私の桃形くんを苛めるなら、注射より痛い目に遭ってもらいますからね!

後半
宇土古城

うぅぅ……殿たちがあんなに強いなんて……。

桃形兜
ウ、宇土古オ姉チャン、アノ……。

宇土古城
――桃形くん! 
よかった、無事だったのね? 

桃形兜
ボ、ボクハ平気ダケド、
ソノ、オ姉チャンノ服ガ……。

宇土古城
……ふふ、気にしないで。
服なんて後で直せばいいんだから。

宇土古城
それより痛いところはない?
怪我があったら治してあげるから、ちゃんと言うのよ?

桃形兜
宇土古オ姉チャン……。

桃形兜
(…………優シイナァ)

烏帽子形兜
…………オーイ、大丈夫カァ?

桃形兜
――ハッ!?
ア、アレ? オ姉チャンハ……?

烏帽子形兜
オイオイ……シッカリシテクレヨ。
想像力豊カッテ次元ノ話ジャネェゾ、オマエ?

烏帽子形兜
ソレヨリ、ドウダ! 
圧倒的ダッタダロウ、宇土古城ノ『包容力』ハ?

桃形兜
ウン、スゴカッタ……。

烏帽子形兜
ダロ? 
ヤッパ姉ニスルナラ宇土古城ダヨナ?

桃形兜
……デモ。

烏帽子形兜
ン?

桃形兜
宇土古城ノ『包容力』ガ凄イコトハ分カッタケド……、

桃形兜
内城ダッテ、ボク達ガ知ラナイダケデ、
本当ハ色ンナ良イ所ガアルンジャナイカナァ?

烏帽子形兜
ウ、ウルセェ! イチイチ口答エスンジャネェヨ!

烏帽子形兜
イイカ? 
戦ジャ兵ノ心ヲヒトツニシタ方ガ勝ツンダ。

烏帽子形兜
殿一行ミタイニ仲間割レシテタラ、
勝テル戦ニモ勝テナクナッチマウゼ?

桃形兜
ソレハ……ソウダケドサ。

烏帽子形兜
分カレバイインダ、分カレバ。

烏帽子形兜
ツーワケダ。

桃形兜
ウ、ウン。

桃形兜
エート……姉ナラ宇土古城、姉ナラ宇土古城……。

――何カ釈然トシナイ。

桃形兜の中に残り続けた違和感の正体は、
結局解き明かされることはなく、夜は過ぎていくのだった。

拈華微笑の釣り野伏-離-

巨大兜の襲撃に備え、釣り野伏を構えんとする
佐土原城。一方、空元気にて殿たちを鼓舞する
彼女を見かねた宇土古城は、とある賭けに出る。

前半
――殿一行との戦いから数日後。

兜陣営では巨大兜が兵達に下知をくだしていた。

長宗我部元親
……以上。
作戦は今、伝エタ通りダ。

烏帽子形兜
素晴ラシイ……コレナラ我等ノ勝利ハ間違イアリマセンネ。

長宗我部元親
貴様ラ間諜ニヨル内城離脱ノ報ガ、
作戦ノ輪廓ヲ形成スル要となった。

長宗我部元親
此度ノ戦……勝利の暁には存分なる褒賞ヲ約束シヨウ。

烏帽子形兜
ハッ……有リ難キ幸セニゴザイマスル。


(イイナァ……)

兜軍団
(カンチョー……イイナァ……)

兜軍団
(今度……ボクモ志願シヨウ……ット)

長宗我部元親
サァ、行くぞ野郎共!

長宗我部元親
敵軍は先に比べて寡兵……当然、士気も落チテいるダロウ!

長宗我部元親
対スル俺達には策モ兵モ意気モアル……。

長宗我部元親
コノ戦、絶対に落とすワケには行かネェぞ!!

兜軍団
――応ッ!!

数刻後――。

佐土原城
――それじゃあ、
柳川城さんはあっちの茂みで、
宇土古お姉ちゃんは反対側の樹の裏ね。

柳川城
……承知しました。
あの茂みの中に隠れていれば良いのですね。

佐土原城
うんっ。それでそれで、

佐土原城
わたしとお殿さまたちが劣勢を装って戦いながら
兜の軍団を二人の間に引き付けるから――。

柳川城
おびき出された長宗我部元親を、
私と宇土古城さんの二人で挟撃するわけですね?

佐土原城
そのとぉーり!

佐土原城
これぞ島津のお家芸、『釣り野伏』なのだぁー!

宇土古城
……佐土原城ちゃん、本当にこれでよかったの?

佐土原城
ほぇ? よかったって、なにが?

宇土古城
その……内城さんを連れ戻さなくてもよかったのかなぁ、って。

佐土原城
…………。

佐土原城
えへへ、だいじょーぶだよぉ!

佐土原城
内城おねえちゃんがここにいないってことは、
わたしのことを信頼してくれてるってことだもん!

宇土古城
でも……。

佐土原城
だいじょーぶ、だいじょーぶ♪
これまでだって、わたし一人でも何とかなってたし!

佐土原城
今回はたまたまおねえちゃんが助けに来てくれたけど……、

佐土原城
本来は内城おねえちゃんが戦わなくて済むように
代わりに戦うのがわたしの役目なんだから!

宇土古城
(……そっか)

宇土古城
(内城さんと佐土原城ちゃんは、昔からそういう関係の姉妹だったんだ)

宇土古城
(なら、部外者の私がとやかく言っても仕方ないわよね……)

宇土古城
(…………)

宇土古城
(でも、本当は寂しいんじゃないの……?)

宇土古城
(もっとお姉さんに……内城さんに優しくしてほしいんじゃないのかな?)

殿
…………。

宇土古城
……佐土原城ちゃん。

佐土原城
なぁに、宇土古お姉ちゃ――

佐土原城
――んにゃっ!?

千狐
……え?

佐土原城
う、宇土古お姉ちゃん……?

佐土原城
なんで……ぎゅーってしてくれるの?

宇土古城
……薬売りから大名に出世した、
小西行長に縁のある城娘だからかな。

宇土古城
私ね、傷ついてる子を見ると
癒やしてあげなくちゃ気が済まなくなっちゃうの。

佐土原城
き……傷ついてなんかないよ?

佐土原城
ね、お殿さま? わたし、ピンピンしてるもんねー?

殿
…………。

宇土古城
……本当にそう?
痛かったり、苦しかったりするところがあるんじゃないの?

佐土原城
それは……。

宇土古城
佐土原城ちゃん……。

宇土古城
もっと素直になっていいんだよ?

宇土古城
今だけは、私を本当のお姉ちゃんだと思って甘えていいから……ね?

佐土原城
う……。

佐土原城
宇土古お姉ちゃんっ……!

宇土古城
ふふ……よしよし。
遠慮しないで、もっと近くにおいで。

佐土原城
ぐすっ……うぅぅ……っ。

佐土原城
怖い、よぉ……。

佐土原城
ひっぐ……寂しいよぉっ……!

佐土原城
う、ぅぅ……どうして……。

佐土原城
どうして、内城おねえちゃんは……、
こんな時に……一緒にいてくれないのぉっ!

宇土古城
うんうん……怖かったよね、寂しかったよね。

宇土古城
……でも、もう大丈夫だよ。

宇土古城
だって、貴方はもう一人じゃないんだから。

殿
…………!

佐土原城
すんっ……お殿さま、みんな、ありがとう……っ。

宇土古城
よしよし……泣ける時にいっぱい泣いておこうね。

宇土古城
大きくなったら、泣きたくても泣けなくなっちゃうんだから。

佐土原城
ぐすっ……うんっ、宇土古お姉ちゃん……。

佐土原城
えへへ……すりすりすり~♪

千狐
ふふっ。よかったですね、佐土原城さん。

やくも
うぅ……うちもなんだか、宇土古城に甘えてみたくなってきただにぃ……。

宇土古城
(……大丈夫、ちゃんとわかってる。
佐土原城ちゃんが本当に抱きしめられたい人は、私じゃないってことくらい)

宇土古城
(でも……今だけは代わりにお姉ちゃんを演じさせてね、内城さん)

柳川城
――――っ!

柳川城
殿、敵襲です! 急ぎ迎撃のご用意を!

殿
…………!

佐土原城
よぉ~し、やったるど~っ!
柳川城さん、宇土古お姉ちゃん、手筈通りにお願いね?

宇土古城
うん、任せて!

宇土古城
それでは皆さん、作戦開始です!!

後半
佐土原城

ちぇーすとーっ!!

兜軍団
ギャァァァァアアアアアアアアアアアッ!!

佐土原城
よぉし、これで雑兵はだいたい片付けられたね!

千狐
すごい……さすがは島津の城娘ですわ!

やくも
この調子なら、残りの兜さんたちも簡単に討伐できるはずだにぃ~!!

殿
…………。

殿
…………!?

千狐
こ、この強大な霊気は……!

長宗我部元親
フフフ……ヨウヤク追イ詰めたゼ、殿……。

長宗我部元親
ソロソロ鬼ゴッコも終いにシヨウじゃネェか!

佐土原城
そ、そんなぁ……巨大兜が、もう此処まで攻め込んできてるなんてぇ!!

佐土原城
これじゃあ、やられちゃうよぉ~っ!!


ククッ……佐土原城、破レタリ!

兜軍団
タリッ! タリィッ! タリィィッ!

佐土原城
――な~んちゃってね!

兜軍団
……エッ?

佐土原城
これもぜ~んぶ作戦の内なんだから――!

佐土原城
よぉし、いっくどー! 釣り野伏、展開っ!!

長宗我部元親
――ナン、ダトォッ!?

柳川城
巨大兜、覚悟ぉっ!

宇土古城
天の裁きを受けなさいっ!

兜軍団
ヒィイッ!
御頭ァッ、左右カラ伏兵ガァッ!

長宗我部元親
チィッ……予め伏兵ヲ忍ばセタ地点に
マンマと誘導されチマッタってワケかッ!!

佐土原城
へっへ~ん! これぞ島津の『釣り野伏』だーっ!

佐土原城
覚悟しろ、巨大兜!
この佐土原城が、お前の悪巧みを打ち砕いてやるー!!

長宗我部元親
クソッ! やはり島津の城娘ハ一筋縄でハいかぬトイウことか!!

長宗我部元親
――ナァんて言うとデモ思ったカ、佐土原城ォ……?

佐土原城
へ?


――ザザッ!

兜軍団
――ザザッ、ザザザッ!!

佐土原城
う、うそ……!
どうしてあそこに伏兵が――っ!?

柳川城
それも、私たちより更に外側に……!

宇土古城
そんな……敵を囲んだつもりが、逆に囲まれてしまうなんて……。

長宗我部元親
フッ……コノ俺がソウ易々と
島津の計略に掛カルと思うトハ、馬鹿なヤツらだ……。

長宗我部元親
俺が冠している名からスレバ、釣り野伏ヘの
警戒は容易に想像デキソウナモンダガナァァ!

佐土原城
くっ……わたしの釣り野伏を逆に利用するだなんて……!

殿
…………!

やくも
な、なぁ千狐。
もしかしてうちら、かなーりマズい状況なんじゃ……?

千狐
も……もしかしなくても絶体絶命の窮地なのーっ!

長宗我部元親
総員に告げル……、

長宗我部元親
今コソ、目障りな奴原ヲ殲滅セヨ!!


――御意ッ!

兜軍団
包囲、殲滅ッ!!

佐土原城
うぅ……もう、逃げ場が……ないよぉ……。

柳川城
(ですが、この身に代えても殿だけは――)

宇土古城
(佐土原城ちゃんだけは絶対に守る!)

大切な者を守るべく、身を挺した二人の城娘。
その身に無数の凶刃が迫る――。

だか、次の瞬間――。

兜軍団
ギャァァァァアアアアアアアアアアアッ!!

――耳を聾する程の叫喚が、
降り注いだ銃弾に貫かれた兜達の口から迸った。

長宗我部元親
ナ……何奴ッ!?

柳川城
あれは――!

???
……待たせたわね、柳川城ちゃん。

久留米城
かつて交わした契りにかけて、貴方は私が守ってみせるわ!!

拈華微笑の釣り野伏-結-

親友の窮地を救うべく突如馳せ参じた久留米城。
誰もが驚愕する中、佐土原城の計略を看破した
巨大兜のそれすらも凌ぐ智謀の存在が明かされる。

前半
久留米城

かつて交わした契りにかけて、貴方は私が守ってみせるわ!!

柳川城
く、久留米城ちゃん……!?

柳川城
そんな……どうして此処に……?

久留米城
どうして……?

久留米城
ふふ、理由なんて一つしかないわ!

久留米城
大好きな柳川城ちゃんが困っているから……!

久留米城
……ただそれだけのことよ!

千狐
そ、それだけの理由で駆け付けてくるだなんて……。

やくも
すごいけど、何か怖いだにぃ……。

内城
……もう、そんな訳ないじゃないですか。

殿
…………!

長宗我部元親
貴様ハ……!

宇土古城
――内城さん!? 
所領に帰ったんじゃ……。

内城
まさか。
可愛い妹の窮地を前にして一人で帰ったりするものですか。

佐土原城
内城おねえちゃん……。

内城
佐土原。
私がいない間、一人でよく頑張りましたね。

佐土原城
……うんっ!

長宗我部元親
貴様ラ……マサカ、コノ俺を謀ッタというノカ?

内城
……貴方が我ら島津の計略、
『釣り野伏』を読んでくることは想定していました。

内城
よって、それを前提とした二段構えの釣り野伏を仕掛けるべく、

内城
私は離脱したフリをして、久留米城さんに救援を要請したのです。

久留米城
……正直、書状が届いた時は
「なんで私が島津の城娘を助けなきゃいけないのよー!」って思いましたけど、

久留米城
愛しの柳川城ちゃんの窮地とあらば、
助けに行かないわけにはいきませんからね!

長宗我部元親
二段構えの釣り野伏トハ……………小賢シイ真似を……ッ!

内城
ふふ……そうでもしなければ、大軍を以て
捲土重来してくるであろう貴方に対抗するのは困難でしたからね。

内城
ですが、この計略を十全に機能させるためには
囮となる我が妹、佐土原の奮戦と演技力が不可欠でした。

千狐
……ということは、
佐土原城さんは内城さんの計略に気づいていたのですか?

内城
はい。

内城
そして佐土原は、私の期待に見事に応えてくれました。

烏帽子形兜
ダ、ダガ……我ガ偵察ニオイテハ内城ト佐土原城ガ示シ合ワセテイタ
様子ナド微塵モナカッタトイウノニ……一体ドウヤッテ……!?

佐土原城
そんなことする必要ないもんっ!
わたしと内城おねえちゃんは、離れてても心はひとつなんだから!

宇土古城
佐土原城ちゃん……!

佐土原城
まったく……。
みんなは内城おねえちゃんのことを勘違いしすぎなんだよぉ!

佐土原城
だいたい、いくらお外が好きじゃないからって、
おねえちゃんはわたしを見捨てるようなことは絶対にしないし……、

佐土原城
それにおねえちゃんは、お部屋から一歩出るのも渋るくらいなんだから、

佐土原城
此処から所領までの距離を一人で歩いて帰れるわけないよぉ!

宇土古城
た、確かに……!

内城
(えと……褒められているんですよね、私?)

内城
……コホン。

内城
とにかく、これで形勢逆転ということになりますね?


ヒィィィッ……!! コ、コウナッタラ逃ゲルシカ――、

久留米城
逃げる? 

久留米城
私の柳川城ちゃんに刃を向けておいて、逃げられると思ってるんですか?

兜軍団
シ、シマッタ!! カ、完全ニ囲マレテルゥ~ッ!

長宗我部元親
騒ぐんジャネェッ! 
囲マレタとはイエ、依然兵数デハコッチが上回っテンだ!

長宗我部元親
行くぞ、野郎ドモ! 狙いは殿の首ひとつダ!

兜軍団
ギョ、御意ィィィィィィィッ!!

内城
……やれやれ。
未だ置かれた状況を理解できていないようですね。

内城
釣り野伏にかかった今、
貴方たちは謂わば、まな板の上の鯉だというのに……。

内城
然らば、存分にお見せしましょう。
島津の戦、その目に刻み込むがいい――!

後半
久留米城

――柳川城ちゃん、ここが攻め時だよ!

柳川城
はい! 一緒にいきましょう、久留米城ちゃん!

長宗我部元親
――グッ、ァ……!!
バカ、な……こんなヤツ、らに……圧サレテイル、だとッ!?

宇土古城
巨大兜の怯みを確認――っ!!

内城
佐土原、今こそ……島津の恐ろしさをヤツに刻むのです!

佐土原城
うぉぉりゃああああああ!!

長宗我部元親
グアァァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!!

殿
…………!?

長宗我部元親
ハァ……ハァ…………。
……コレだから、島津の城娘……ハぁ……ぐ、ゥゥ……。

兜軍団
御頭! コレ以上ハ危険デス!
早々ニ撤退ヲ……!!

長宗我部元親
チィッ……あと僅カ……此の地ノ気ヲ頂戴スル目算ダッタガ……。

長宗我部元親
仕方ナイ…………野郎共、撤退ダ!


応――ッ!!

兜軍団
撤退、撤退ッ!!

佐土原城
ま、待てぇーっ! 巨大兜ーっ! 首、置いてけーっ!

内城
止まりなさい、佐土原。
それ以上追ってはなりません。

佐土原城
で、でも大将首を取らなくちゃ――

内城
無駄に功を焦る必要はありません……。

内城
……それに、

内城
貴方が無事だったことが、何よりの戦果なのですから。

佐土原城
……え?

宇土古城
佐土原城ちゃん、戦いはもう終わったのよ。

宇土古城
これ以上、自分の気持ちに嘘をつく必要なんてないの。

宇土古城
あなたが本当にしたいのは、敵将の首を取ることじゃないでしょう?

佐土原城
…………。

佐土原城
…………ぅ……。

佐土原城
うぇええ~~んっ! 内城おねえぢゃ~~んっ!!

佐土原城
ぐすっ、ひぅぅっ……怖かったよぉ、寂しかったよぉぉ……っ!!

内城
よしよし……作戦だったとはいえ、辛い思いをさせてしまいましたね。

佐土原城
ひっぐ、うぅっ……おねえちゃん、わたしね……、
おねえちゃんに認めてほしくて、ず~っと一人で戦ってたんだよ……?

内城
ええ、知っていましたとも。

内城
此の地での貴方の活躍は、いつも耳にしていましたからね。

内城
……だからこそ、会いに行くのを控えていました。

内城
余計な干渉をしないことが、貴方への信頼の証だと思ったから。

内城
……でも、

内城
こんな時くらいは本音を言ってもいいですよね?

佐土原城
おねえちゃん……。

内城
……佐土原。

内城
大好き、ですよ。

佐土原城
……うんっ。

佐土原城
わたしも、おねえちゃんのこと……。

佐土原城
……大好きだよ。

内城
…………ふふ。

佐土原城
えへへ……。
やっぱり、内城おねえちゃんにぎゅ~ってされるのが一番落ち着くよぉ。

宇土古城
(よかったね、佐土原城ちゃん……)

やくも
ほんと、姉妹ってえぇもんやねぇ。

殿
…………。

千狐
はい。以心伝心のお二人だからこその勝利、ですね。

久留米城
けど、たまにはあーして、言葉で本音を伝えなくっちゃね。

柳川城
言葉で本音を伝える、ですか……。

久留米城
……ん?

柳川城
(私もたまには、日頃の感謝を殿にお伝えしなくては……)

柳川城
……コホン。
殿、実は折り入ってお話ししたいことが……。

殿
…………?

久留米城
ちょ~っと待ったぁ――――っ!!

柳川城
――きゃっ!? 

柳川城
ど、どうしたのですか久留米城ちゃん?

久留米城
フーッ、フーッ……。

久留米城
させない……告白なんか絶対させないんだから~っ!

柳川城
な……ち、違いますっ!

柳川城
私はただ、殿に日頃の感謝をお伝えしようと……。

久留米城
……え?

柳川城
…………。

久留米城
…………。

久留米城
……ご、ごめんなさい……早とちりしちゃって。

柳川城
い、いえ……。

柳川城
それより、そろそろ放してもらえるとぉ……。

久留米城
あ……そ、そうだよね?

久留米城
さすがに抱きついたままじゃ柳川城ちゃんも暑いし……あは、あはは……。

久留米城
ハァ……。

久留米城
(あーもう、ばかばか……これじゃあ、柳川城ちゃんに嫌われちゃうよぉ……)

殿
…………。

内城
殿。此度の遠征へのご協力、誠にありがとうございました。

佐土原城
ありがとうございましたー!

佐土原城
……あ、あとねあとね、
お殿さまにひとつお願いがあるの。

殿
…………?

佐土原城
助けてくれたお礼に、これからは
わたしにもお殿さまの戦いのお手伝いをさせてくださいっ!

殿
…………。

殿
…………!

佐土原城
わぁ~い♪ これで今日からは
内城おねえちゃんと宇土古お姉ちゃんのところに遊びに行けるね!

宇土古城
……え?

宇土古城
な、なに言ってるの佐土原城ちゃん?
内城さんが帰ってきたんだから私のことなんて……。

佐土原城
……宇土古お姉ちゃんは、わたしと遊ぶのはイヤ?

宇土古城
イヤだなんて……。

宇土古城
そんなこと思うわけないでしょう?

佐土原城
それじゃあ……、

宇土古城
うん! これからも一緒に遊ぼうね?

佐土原城
わ~いっ♪
じゃあ今度、海にお魚さんを釣りに行こうねっ!

内城
…………。

やくも
(だに? 何だかフクザツそうに見えるがや……)

柳川城
(競合する者が現れたことで、思うところがあるのでしょうね……)

久留米城
(分かる……その気持ちすごく分かるわ、内城ちゃん……)

殿
…………。

殿
…………。

千狐
それでは我々も所領へ帰還するとしましょう。

千狐
此度の遠征も誠にお疲れ様でした。
今宵はしっかりと疲れを癒やしてくださいね、殿。

拈華微笑の釣り野伏-絶弐-

自慢の腕前を披露する佐土原城を中心に
和気藹々と海釣りを楽しむ殿たち。
そんな中、独り憂色に染まる城娘がいた……。

前半
長宗我部元親の名を冠する巨大兜との戦から数日後――。

釣り好きな佐土原城に誘われて、殿一行は海釣りを楽しんでいた。

佐土原城
わぁ~い! また釣れたど~っ!

宇土古城
すごーい! 
佐土原城ちゃん、これで何匹目?

佐土原城
えっとねぇ……ひい、ふう、みい――

佐土原城
――たくさんっ!

宇土古城
うんうん、たくさん釣れたねぇ。

佐土原城
えへへ~♪

柳川城
ふふ……宇土古城さんったら、
佐土原城さんとすっかり仲良しになったようですね。

殿
…………。

佐土原城
内城おねえちゃ~ん、見て見てぇ~!
こ~んな大っきいイサキが釣れちゃったぁ!

内城
くぅ……すやすや……むにゃ……。

佐土原城
じろ~っ……。

内城
――はっ!?

内城
まぁ、また大きいのを釣ったのね。

内城
偉いわ佐土原。後でお刺身にしましょうね。

佐土原城
えへへ~♪ 
ぴっちぴち、ぴっちぴちぃ~っ!

久留米城
…………。

久留米城
うぅ……全然釣れないわ……。

久留米城
ぶっちぎりの釣果を上げて
柳川城ちゃんの視線を独り占めにする作戦だったのに……。

久留米城
……だいたいなによ、あの佐土原城って子は?

久留米城
あの子が一人で釣りまくって目立つから、
柳川城ちゃんが私を見てくれないんじゃない……!

久留米城
くっ……見てなさいよ。
今に大物を釣り上げてギャフンと言わせてやるんだから!

佐土原城
よーし、この調子でどんどん釣ったるどー!

佐土原城
ふんふふ~ん♪
くっじらっ、くっじらっ、くじらよ~うか~ん♪

佐土原城
――はっ!?

宇土古城
どうしたの、佐土原城ちゃん?

佐土原城
内城おねえちゃん、引いてるっ!
お魚さんが餌に食いついてるよぉっ!

内城
すやぁ~……。

佐土原城
って、寝てる――ッ!?

佐土原城
だ、誰か内城おねえちゃんを助けてあげて!
このままじゃ釣竿がお魚さんに持っていかれちゃうよぉ!

宇土古城
ご、ごめんなさい。
私の竿にもちょうど魚が掛かっちゃったみたいぃ……!

柳川城
……仕方ありません。ここは私が――!

内城
むにゃむにゃ……。

内城
……あら、柳川城さん?
なぜ私の釣竿を一緒に持ってくださっているのですか?

柳川城
説明している時間はありません!
さぁ、一緒に釣り上げますよ!

内城
……なるほど、事情は飲み込めました。

内城
では行きますよ――それっ!!

佐土原城
おぉ~っ!
でっかいアカムツだぁ~っ!

宇土古城
すっごーい! 内城さん、高級魚ですよっ!

内城
ふふ、手伝ってくださった柳川城さんのお陰ですよ。

内城
彼女が後ろから竿を持ってくださらなかったら、
私は今頃、魚に引っ張られて海に落ちていたかもしれません。

柳川城
わ、私はただ、手が空いていましたので……。

内城
まあまあ、そうご謙遜なさらず。

柳川城
うっ……ど、どういたしまして……。

久留米城
…………。

久留米城
くぅ~っ!
なんですか、今の二人の共同作業みたいな釣り方は!

久留米城
柳川城ちゃんとそういうことをしていいのは私だけなのにぃ~っ!

久留米城
おのれ、内城・佐土原城姉妹……!
愛しの柳川城ちゃんの私への関心を奪うなんて――

宇土古城
――あぁっ!
久留米城さん、引いてますよ!

久留米城
え……?

久留米城
――きゃぁあっ!?
な……なんて重さ……本当に魚なの、これ?

柳川城
久留米城ちゃん、大丈夫ですか!?
すぐに私も手伝いますね!

久留米城
――っ!?

久留米城
(ど、どうしよう……柳川城ちゃんが、
私を後ろから抱きしめる感じになってるぅぅ……!!)

久留米城
(はぅぅ……こんなの、頭がどうにかなっちゃいそうだよぉ……
竿に集中できな、いぃ……っ!)

殿
…………!

柳川城
はい! 私がちゃんと竿を握ってますので……殿も全力でお願いします!!

久留米城
よぉーし! 見てなさい、内城・佐土原城!
貴方たち姉妹には負けないんだから――っ!!

後半
久留米城

どぉりゃぁ――――っ!!

宇土古城
おぉーっ! 大物ですよ、これは!

柳川城
こ、この魚は……。

柳川城
鯛ではないですか!
こんな立派なのは初めて見ましたよ!

久留米城
ふふ、どうですか柳川城ちゃん?
私の釣りの腕前も中々のもの――

佐土原城
――すっご~い!
おねえちゃん、寝ながら大物を釣り上げてるぅ~っ!

久留米城
…………え?

久留米城
――んなっ!?

久留米城
なな……なんですかっ!?
あのイルカみたいに巨大な魚は!?

殿
…………!

内城
むにゃにゃ……うぅ~ん……♪

内城
ふわぁ…………あら?

内城
いつの間にか大物が釣れていますねぇ。

宇土古城
――大物は貴方ですよっ!

宇土古城
寝ながら巨大魚を釣り上げるなんて、
御伽草子の主人公ですかっ!?

佐土原城
ふっふーん。
内城おねえちゃんは、やる時はやる城娘なのだー!

柳川城
(なら、先刻の私の手助けは必要なかったのでは……?)

久留米城
…………で……、

久留米城
でも、その魚って食べられるのでしょうか?

宇土古城
え?

久留米城
その……今日の釣りは食料調達も兼ねているわけですし、
食べられない魚だったら困りますよね?

柳川城
あの、その魚は……。

久留米城
だ、だいたい私こんな魚見たことも聞いたこともないですし、
色も地味だし、よく見ると顔もちょっと怖いというか……。

柳川城
久留米城ちゃん……。

久留米城
……ん?

柳川城
実は、内城さんが釣り上げた魚はですね……、

柳川城
『クエ』という幻の高級魚なんですよ!

久留米城
…………くえ?

佐土原城
うんっ! 滅多に釣れないから
お店とかにはあんまり出回らないけど、

佐土原城
刺し身でよし、鍋でよし、
唐揚げにしても絶品の凄いお魚さんなんだよっ!

内城
あら、そうだったんですか。

内城
ふふっ、佐土原は物知りさんね。

佐土原城
えへへ~、釣り博士って呼んでもいいよ?

久留米城
な……。

久留米城
なんなんですか、この二人は!?
姉妹揃って才能ありすぎですよぉっ!

宇土古城
お、落ち着いてください久留米城さん……。

久留米城
うぇえ~ん!
私だって大きい鯛釣ったのにぃ~っ!

佐土原城
――――えぇっ!?

佐土原城
久留米お姉ちゃん、鯛釣ったのっ!?

久留米城
く……久留米お姉ちゃん?

佐土原城
――うわっ、うわわーっ!! 
すっごーい! おっきい鯛だぁっ!

佐土原城
ねぇねぇ、どうやって釣ったのぉ?

久留米城
どうやってって……餌はエビを使ったけど。

佐土原城
えぇぇぇっ!? エビちゃんで鯛を!?

佐土原城
あ、あの……よかったら、
そのエビちゃんと、くじらようかんを交換しませんかっ!?

久留米城
しませんっ!

久留米城
というかなによ、くじらようかんって?

佐土原城
これー♪

久留米城
――きゃぁあっ!?
そ、袖から何かにゅるんって黒いものがぁ~っ!

佐土原城
へへーん、引っかかった引っかかったー!

佐土原城
これはただの鰻だよぉ~っ!

久留米城
引っかかってないし、鰻は普通袖に入れませんっ!

久留米城
……あと、言い忘れてましたけど
私は貴方のお姉ちゃんじゃありませんからね?

佐土原城
え、なに言ってるの?

佐土原城
わたしより大きい城娘さんは、みんなお姉ちゃんだよ?

久留米城
…………!

久留米城
……はぁ。まったく、子供なんだから。

佐土原城
……?

久留米城
気にしないで。
私にも妹がいることを思い出しただけだから。

久留米城
それよりほら、エビが欲しかったんでしょう?

佐土原城
……ほぇ?

佐土原城
え、エビちゃんくれるのっ!?

久留米城
ふふっ、敵に塩を送るってやつよ。
勝負はまだこれからなんだから。

佐土原城
そっかぁ……へへ。

佐土原城
ありがとう、久留米お姉ちゃん。
お礼に後で本物のくじらようかんをあげるね。

久留米城
……そう言われちゃ、受け取らないわけにはいかないわよね。

久留米城
それに、ようかんというからには、
きっと私の点てたお茶とも合うだろうし。

佐土原城
うんっ!

佐土原城
でも、その前に……、

佐土原城
久留米お姉ちゃんからもらったエビちゃんで、
美味しいお魚さんをもっとも~っとたくさん釣らなくちゃね!

久留米城
ふふん、私も負けないわよぉ!

――かくして、その晩の食卓では、
皆が釣った魚を使った彩り豊かな料理と共に、

久留米城が点てた茶と、くじらようかんなる銘菓が一座を賑わせたのだった。



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