ストーリーテキスト/忠義の死角

忠義の死角[]

忠義の死角 -序-

突如、殿のもとへと果たし状が届いた。
板島丸串城と名乗る者からのその文に応じ、
殿たちは伊予国へと向かうのだが……。

前半
――伊予国某所。 その城娘は、夜闇に紛れて現れた 空漠たる不穏な影と対峙していた。 板島丸串城 ……あ、あなたは誰なの？ ？？？ 某ガ誰か、ダト……？ 板島丸串城 だってここからじゃ、 あなたの姿も顔も、 よく見えないんだもん……。 ？？？ 此ノ手で造り上ゲタ城ニ、 其ノ様な問いヲ投ゲラレルトはナ……。 板島丸串城 この手で作り上げた城……！？ 板島丸串城 も、もしかして……、 板島丸串城 あなたは……高虎さま！？ ？？？ 言ニテ語ルハ愚者ノ行。 真ナル事象は心デ至レ。 板島丸串城 分かる……分かるよ、高虎さま！ 板島丸串城 だって、あなたの魂の形を、 あたしは覚えてるもん……！ 板島丸串城 よかった……ぐすっ……。 また、会うことができて……本当によかった……。 ？？？ フム……。 板島丸串城 ど、どうしたの……高虎さま？ ？？？ 貴様デハ、足ラヌ。 ？？？ 改修ガ……必要ダナ。 板島丸串城 ……え？ ？？？ 我が主ヘノ忠義ヲ示すニ、 貴様の様ナ城ハ相応しくナイと言ってイル……。 板島丸串城 た、高虎さま……！？ どうしてそんなヒドイこと、言うの……？ 板島丸串城 よく見て！ あたし、まだまだ一線で戦えるよ！ 高虎さまの城娘として、立派に戦えるんだよ！ ？？？ …………。 ？？？ ナラバ、示セ。 ？？？ 邪悪ナル『殿』を倒シ、 其ノ身ガ、某ノ望に足ル器でアル事ヲ示スノダ……。 板島丸串城 ……『殿』？ 板島丸串城 殿って誰さ……っ！？ ？？？ …………我ガ仇敵。 我ガ忠義ヲ妨げル者…………。 板島丸串城 ……よ、よく分からないけど、 高虎さまの邪魔をする奴なら……あたしが倒してみせるよ！ ？？？ 最早……言葉ハ要ラヌ。 忠義……行動ニテ示セ。 板島丸串城 分かってる……あたし、頑張るから。 板島丸串城 だから……だからね、高虎さま……。 あたしのこと、見捨てないで……！ ？？？ …………。 ？？？ 忠厚タル者ニハ須ク報イようゾ……。 板島丸串城 うん！ 絶対に、私がその殿ってヤツを倒して見せるからね！ 不穏な影に、 陽光のような眩しい笑顔を向ける板島丸串城は、 高らかにそう宣言してみせる。 だが、そんな板島丸串城たちを見つめる者の存在に、 当人たちは気づいていなかった。 引田城 そんな……板島丸串城さんに会いに来たというのに、 まさかこんなことになっているだなんて……。 引田城 こうなったら、友人である私が 何とかするしかありません……！ 引田城 『殿』という極悪人を私が倒せば、全ては解決する……。 引田城 よぉし、そうと決まれば、さっそく準備をしなくては……。 行きましょう、虎頭さん！ ――辰ノ刻、所領。 やくも 殿さーんっ！！　大変だにーっ！！ 千狐 こらっ、室内を走ったりするんじゃないの！ 殿の前でみっともないでしょう？ やくも ひぃ～、ごめんなさいだにぃ……。 やくも ――って、今はそれどころじゃないがや！ やくも 殿さんに果たし状が来たんだにぃ！ 千狐 ……え？　果たし状？ 千狐 何をバカなことを言って…… 千狐 …………って、これ！？ 千狐 本当に殿に向けての果たし状じゃない！ 殿 …………！？ やくも 送り主の名前もちゃんと見るだに！ 千狐 名前？ 千狐 えっと……板島丸串城？ 千狐 そ、そんな……。 千狐 ……城娘から果たし状が来るだなんて……。 やくも 殿さん、どうするだに？ やくも うちら、知らぬ間に何か恨まれるようなこと したんなら、謝りに行くがや……？ 殿 …………。 千狐 そ、そうですね。 誤解かもしれませんし、 まずは事情を聞きに行きましょう。 こうして、殿たちは 板島丸串城の待つ地へと出立することとなった。 ――午の刻、伊予国某所。 千狐 果たし状にて指定されていた場所は おそらくこの辺りかと思います、殿。 やくも ――あっ！？ 殿さん、あそこを見るだに！ 兜軍団 城娘……発見セリ……ッ！ 城娘……発見セリ……ッ！ 引田城 そんな……兜に囲まれてしまうなんて……。 引田城 どうしよう、虎頭さん……。 このままじゃ、板島丸串城さんの為に、 『殿』という極悪人を討つこともできないですぅ……。 千狐 …………。 千狐 兜に取り囲まれているあの方が、 板島丸串城さんなのでしょうか……？ やくも この場所にいるっていうことはきっとそうに違いないだに！ やくも 可哀想に……殿さんを待ってる間に、 兜に襲われてしまったんやね……。 やくも おーい、そこのあんたー！ 今から殿さんが助けに行くけん、もう少し頑張るだにぃ！ 引田城 ――え！？ 私を、助ける……！？ 引田城 いえ、それよりも、 今、『殿』という名が聞こえたような……？ 兜 ……新手ノ到来……。 兜軍団 即刻……排除セヨッ……排除セヨォォォッ！ やくも 兜さんたちがこっちに向かって来ただにぃ！ 千狐 殿、今は果たし状のことは忘れて、 目の前の困っている城娘を助けることだけを考えましょう！ 引田城 （…………間違いない） 引田城 （やはり、あの武人を『殿』と呼んでいます……！） 引田城 （ここは、助けられるフリをして、 兜の猛攻に乗じて殿を討つべきですね……） 引田城 ……よし、今だ！ 虎頭さんっ、一緒に攻撃ですよ！ 千狐 ――きゃっ！？ 千狐 そんな……なぜ助けようとする千狐たちを攻撃するのですか！？ 引田城 ……卑怯と誹られて当然の行為なのは百も承知です。 引田城 ですが、友人である板島丸串城さんの為、 私はここで殿を討たねばならないのです！ どうか、覚悟してください！
後半
引田城 うぅぅ……返り討ちとは……。 ごめんなさい、板島丸串城さん……。 千狐 どうして、助けようとした千狐たちを 襲ったりなどしたのですか？ 引田城 ……そ、それは……。 やくも やっぱり果たし状を送りつけるほどやけん、 殿さんのことを憎んでるんかや？ 引田城 は、果たし状？ 引田城 ……私は、そのようなものは知りませんが……？ 千狐 え？　で、でも千狐たちは、 板島丸串城さんから果たし状を送られたから この地に来たのですよ……？ 引田城 板島丸串城さんから、果たし状……。 引田城 なるほど……そういうことでしたか。 やくも ひとりで納得してないで説明をしてほしいだにぃ……。 引田城 申し訳ありません。 それではまず誤解を解くことから始めましょう。 引田城 私の名は引田城。 板島丸串城さんの顔馴染みである城娘です。 引田城 先ほどは、兜から助けて頂いた身でありながら、 殿に武器を向けてしまい、本当にすみませんでした……。 千狐 何か、深い理由があったのですか？ 引田城 ……はい。 引田城 実は……私は友の為に殿を討とうと、 そう、心に決めていたのです……。 やくも 友の為に殿さんを……？ どういうことがや！？ 引田城 友人である板島丸串城さんは、 とある理由で殿を討たねばならない状況に 追い込まれていました……。 引田城 それを知った私は、 板島丸串城さんを危険な目にあわせたくないという一心で、 彼女よりも先に殿を討とうと決心したのです……。 やくも そんな事情があったんやね……。 千狐 ……引田城さんは、 未だ、殿を討たなければならないと、 そう考えているのでしょうか？ 引田城 ……そのような考えは、もうありません。 引田城 何故なら、こうして対峙したことで、 殿が噂に聞いていたような悪人ではないと分かりましたから。 既に私には敵意など、ありはしません……。 千狐 良かった……。 ならば、早く板島丸串城さんにもお会いして、 誤解を―― ――その時だった。 凄まじい爆発音と共に、 地面が大きく揺れるのを殿は感じた。 やくも ――ひにゃっ！？ ほ、砲撃……っ！　いったい誰がこんなとこに撃ちこんどるがや……！？ 引田城 この砲弾は……まさか！？ 見知った気配を感じた引田城が 視線を向けた先に、その城娘の姿は在った。 板島丸串城 ――あちゃあ……外しちゃったかぁ。 板島丸串城 でも、次は外さないよ！ さあ覚悟しろ、邪悪の化身『殿』っ！！

忠義の死角 -破-

果たし状の送り主である板島丸串城が現れた。
殿を討たんとする砲撃に止まる様子は無い。
ならば言葉ではなく、武で彼女を説得せよ！

前半
板島丸串城 さあ覚悟しろ、邪悪の化身『殿』っ！！ やくも な、何やあの城娘さん！？ 大砲をこっちに向けてきてるだに！ 千狐 あの剣幕と敵意……。 千狐 恐らく、彼女が板島丸串城さんで間違いなさそうですわ！ 引田城 いけません、板島丸串城さん！ 殿を撃ってはいけません……！ 板島丸串城 ――なっ！？ 何で引田城ちゃんがそんなところにいるのさ……！？ 引田城 あなたと殿を戦わせたくなかったから……、 だから、私はこうしてこの場所にいるのです！ 板島丸串城 殿と私を戦わせたくなかったから……？ 板島丸串城 な、何だかよく分からないけど、 引田城ちゃんがそういうなら、殿を撃つのは止めるよぉ……。 引田城 ……板島丸串城さん！ よかった、これで板島丸串城さんが傷つくことはありませんね。 やくも 話の分かる城娘さんで良かっただにぃ！ やくも お～い、板島丸串城～！ そんな離れたところにいないでこっちにくるがやぁ～！ 板島丸串城 …………ふふ、あんなに油断しちゃって……。 やくも なあなぁ～、聞こえないのかやー？ やくも こっち来て、みんなで仲良く―― 板島丸串城 今だっ！！　くらえっ、砲弾発射っ！！ やくも ――って、えええええ！？ やくも 何でやぁっ！？ また大砲を撃ってきただにぃ……！！ 千狐 あの様子からして、誤射というわけではなさそうですね……！ 板島丸串城 簡単に騙されちゃうなんて、 殿っていってもたいしたことないね！ 板島丸串城 さあ、もう一発お見舞いしてやる！ 板島丸串城 当たれぇぇぇっ！！ 殿 …………！ 千狐 い、今のは本当に危なかったですわ、殿……！ 引田城 板島丸串城さん！ なぜ止めてくれないのですか！？ 引田城 殿はあなたの城主が言うような悪い方ではありません！ 引田城 今すぐに砲筒を向けるのを止めて下さい！ 板島丸串城 黙れ、偽物！ 引田城 ……え？ 板島丸串城 いいかい、殿？ あたしを騙そうと、引田城ちゃんに良く似た女の子を 連れてきたんだろうけど、その手はくわないよ！ 引田城 ち、違います！ 本当に私は引田城です……！ 引田城 それにほら、 虎頭さんだって、こうして板島丸串城さんに向けて 何度も呼びかけていているではありませんか！ 板島丸串城 うるさいぞ、引田城ちゃんの偽物め！ 板島丸串城 だいたいね、虎頭さんの声って、 あたしは一度も聞こえたことないから たとえ本物であったとしても分からないもん！ 引田城 あぅ……そ、そんなぁ……。 兜 ――ガサッ！ 千狐 ……え！？　か、兜っ！？ 兜軍団 ――ガサガサガサッ！ やくも ひぃぃっ！　いつの間にか囲まれてたみたいだにぃ……！ 板島丸串城 ……ん？　何だあのへんてこりんなヤツらは？ 板島丸串城 …………まあ、いいや！ 板島丸串城 良く分かんないけど、ヤツらが殿を取り囲んでくれてるし、 身動きの出来ない殿をあたしは撃つだけだよ！ 千狐 っくう……このままでは本当に殿の命が危ないですわ……！ やくも こうなったら戦うしかないだに！ 引田城 あぁ……恐れていたことが、現実に……。 私はいったいどうしたら……。 板島丸串城 今さらやる気になったところで、 こっちの優勢は変わらないよ！ 板島丸串城 全員、あたしの大砲でやっつけてやるんだから！ 板島丸串城 それじゃあ、本気で行くよーっ！！
後半
板島丸串城 そんな……。 あれだけ優勢だったのに、負けちゃうなんて……。 板島丸串城 これじゃあ、ほんとにあたし……高虎さまに見捨てられちゃう……。 引田城 板島丸串城さん！ 大丈夫ですか！　今すぐそちらに行きますからね！ 千狐 待って下さい、引田城さん！ 千狐 今、あちらに行くのは危険ですわ！ 引田城 ど、どうしてですか……？ 千狐 板島丸串城さんのいる地点に、 不穏な瘴気が満ち始めています……！ やくも ほ、本当だに！？ あれって、まさか……兜の仕業なんかや？ 板島丸串城 こ、この気配は……高虎さま！？ 板島丸串城 どうしよう……こんな姿を見られたら、 あたし絶対に改修されちゃうよぉ……。 板島丸串城 こうなったら、今は一度退いて、再起を図るしか……！ 引田城 あっ！？　 待って、板島丸串城さん！ いったいどこに行くというのですか！ やくも 逃げられてしまっただに……。 やくも 仕方ない、こうなったら追いかけるしかないがや！ 千狐 待って、やくも！ やくも な、なんで行かせてくれんだに！？ 千狐 敵が、近づいているの……。 やくも ……え？ 千狐 凶悪な霊気をまとった兜が、近づいてきてるのよ！ 引田城 も、もしかして……あの巨大な兜のこと……ですか？ やくも 巨大な兜……？ やくも ――あああぁぁぁっ！？ 藤堂高虎 ……何故、未ダ殿ガ生きている？ 藤堂高虎 板島丸串城は……。 藤堂高虎 板島丸串城は何ヲしているのダァァァアアアッ！！

忠義の死角 -急-

瘴気と共に姿を現した巨大兜・藤堂高虎。
怒りに我を忘れ、暴れ狂う巨大兜を、
己が武によって鎮め、此の地から退けよ！

前半
藤堂高虎 板島丸串城め……板島丸串城めェッ……！ 藤堂高虎 自らノ責務を放棄シ、 某ヘノ忠義カラ目ヲ逸ラスとはぁ……。 藤堂高虎 やはり改修シテオクベキだった……。 藤堂高虎 改修してオクベキだったァァァアアアッ！！ やくも ひぇぇぇっ！？ 巨大兜さんのやつ、突然あたりの城郭を壊し始めたがやぁ！！ やくも 何であげに怒り狂ってるだにぃ……？ 千狐 ……見当もつかないわ。 千狐 でもあの巨大兜、板島丸串城さんの名を何度も呼んでいるわね……。 千狐 …………板島丸串城の名を……何度も、呼んでいる……？ 千狐 ……そ、そうか！ 千狐 引田城さん！ 板島丸串城さんに殿を倒せと命じたのは、あの巨大兜なんだわ！ 引田城 そんなまさか……！？ あれが板島丸串城さんの、城主……？ 引田城 （いや、でも私が板島丸串城さんと城主が話しているのを見たときは、 夜だったせいか、その姿形をはっきりと見たわけではありませんし……） やくも もしそれが本当だとすれば、 城娘と巨大兜が結託してるってことがや……？ やくも そんなのおかしいだに！ 板島丸串城は操られている様子は無かったがや！ 千狐 ええ……だからきっと、何か裏があるはずだわ！ 千狐 とはいえ、 今のままでは全てが憶測の域を越えることはない……。 千狐 こればかりはきちんと板島丸串城さんから話を聞かないといけないわね。 藤堂高虎 喧シキ悪徒共めェ……。 何を御託並ベ立テテイルのだァッ！！ やくも 殿さん！　巨大兜がこっちを睨みつけてるだに！ 藤堂高虎 最初カラ某自ラが打って出るベキだったノダ……。 藤堂高虎 ああ、ソウダ……。 貴様ラを滅し、板島丸串城を破壊し、 ソシテ完璧ナ城を造ってミセル……。 藤堂高虎 其れコソがァッ、 至極ノ城ヲ建テンと望ム者トシテの務めナリィィイイイッッッ！！ 兜軍団 ――ザザッ、ザザザッ！！ 兜軍団 突撃セヨッ！　突撃セヨォオオオッ！ 千狐 殿、敵が一斉に押し寄せてきますわ！ ここで迎え撃ちましょう！
後半
藤堂高虎 殿……ヤハリ、貴様ハ我が忠義を妨げる悪徒ダ……。 藤堂高虎 貴様ダケは必ず滅ぼしてヤル……覚悟シテいろ……。 引田城 巨大兜が……退いていきます。 千狐 よ、良かった……。 何とか退けることができたようですね。 やくも でも、また戻ってくるようなこと言ってただに……。 殿さん、どうしたらいいがや？ 殿 …………。 引田城 あの……ここで、待ってみてはどうでしょうか？ 千狐 ……え？ 引田城 巨大兜は言うに及ばず、 きっと板島丸串城さんも、 再び殿を狙ってくるはずです。 引田城 であれば、ここで陣営を構え、 双方に備えるのが妥当ではないでしょうか？ 千狐 そうですね。 千狐も、それが良いと思います。 やくも ならさっそく敵の襲来に向けて準備を――、 やくも ――って、だめやぁ……。 お腹が空きすぎて動けんだにぃ……。 引田城 それならば、私にお任せ下さい！ 千狐 ……え？　引田城さん？ 引田城 じゃ～ん！　見て下さい、これを！ やくも ……な、鍋だに！ やくも って、だからどうしたがや……。 やくも さすがのうちでも鍋ばっかりは食えんだにぃっ！！ 引田城 ち、違いますよぉ……。 引田城 今からこれを使って、特製うどん鍋を作るのです！ 引田城 讃岐の城娘として、 絶対に美味しいって言わせてみせますからね！ やくも わーいだにぃ！ 空きっ腹にうどん鍋だなんて最高がやぁ！ やくも で、どこにうどんの麺があるだに？ 引田城 ……え？ やくも ……あん？ 引田城 うどんの麺……持ってないんですか？ やくも ……はぇ？ 引田城 いや、だから……麺です。うどんの……。 やくも 持ってるわけないがやーっ！ 千狐 （お腹空いてるから、ちょっと気が立ってるわね、やくも……） 引田城 ご、ごめんなさいぃ。 そうですよね、普通持ってないですよね……。 引田城 はぁ……いっつも肝心なところで私ったら……はぁぁぁ……。 千狐 ま、まあそう気を落とさないでください、引田城さん。 千狐 量は少ないですが、 遠征用に持ってきた食料がありますから、 やくもの空腹はこれで満たすことができますわ。 やくも うぇぇ、また乾き物だにぃ……。 千狐 ……嫌なら食べなくてもいいのよ？ やくも 冗談だにぃ！　食べさせてほしいだにぃ！ 千狐 殿も、今のうちに敵に備えて準備をしておきましょう。 板島丸串城さんや巨大兜との再戦はそう遠くないはずですからね。 こうして、 来たるべき戦いの時を迎える為に、各々が準備を進める中、 人知れず、ある城娘に、異変が生じていた。 ――同時刻、伊予国、某森内。 板島丸串城 はぁ……はぁ……。 板島丸串城 何とか、ここまで逃げて来られたけど、 こんなにボロボロじゃ、もう戦えそうになんかないよ……。 板島丸串城 あたし……このまま、高虎さまに壊されちゃうのかな……？ 板島丸串城 …………はぁ。 その時、板島丸串城はある異変に気づき始める。 板島丸串城 ……なに、これ？ 板島丸串城 瘴気……？ 板島丸串城 それも、すごく濃い……。 板島丸串城 嫌な感じがするのに……何でだろう……。 板島丸串城 力が、沸いてくる……！ 板島丸串城 それに、何だかぼぅっとして……おかしい、な……。 板島丸串城 ……でも、この匂い…… 板島丸串城 ……すごく、懐かしい……。 板島丸串城 高虎……さ、ま……。 そうして、 濃厚な瘴気が完全に板島丸串城を包み込んだかと思うと、 次の瞬間には、 それら一切が掻き消えた。 板島丸串城 ……………………。 板島丸串城 邪悪ナル『殿』を倒シ、 我ガ身ガ、主ノ望に足ル器でアル事ヲ示ス……。 板島丸串城 絶対に……示シテみせるからネ……高虎サマ。

忠義の死角 -離-

砲撃音と共に、再び板島丸串城は姿を表した。
大量の大砲兜によって包囲されたこの死地を、
己が武を以て、何としても切り抜けろ！

前半
――大型兜との戦いより数刻後。 引田城 敵を迎え撃つ準備は出来ているというのに、 未だに攻め込んできませんね……。 やくも むぅ……。 夜になってから暗闇ん中を攻め込んできたら、 迎え撃つ側はいろいろと大変だに……。 やくも あぁ、もぉー！ 焦らされるのは嫌いやけん、 攻めるんならさっさと攻めてくるだにぃ！ 千狐 （……やくもったら、 また少し、お腹が空いてきて気が立ってるわね……） 千狐 ――っ！？ 千狐 この霊気は……！？ 千狐 殿、警戒してください！ 兜たちの気配が向こうの方から複数――、 ――その時だった。 千狐の言葉を遮るように、 遠方から鮮烈な砲撃音が響き渡った。 やくも い、いったい何だにぃ……っ！？ 引田城 この砲撃は……まさか！ 板島丸串城 フフフ……。 千狐 ……あれは、板島丸串城さん！？ 板島丸串城 今度コソ、この手デ……殿ヲ仕留めテみせル！ 板島丸串城 見ていて、高虎サマ……。 板島丸串城 ……もう二度と、アナタを幻滅させたりしナイ……。 大砲兜 配置、完了……装填準備……開始ッ！ やくも 殿さん！　うちら、いつのまにか大量の大砲兜に囲まれてるだにぃ！ 引田城 そんな……あり得ないです……。 何故、板島丸串城さんが兜と一緒に攻めてくるのですか……？ 引田城 先の戦いでの板島丸串城さんは、 偶然集まっていた兜の包囲に乗じて大砲を撃ち込んでいただけなのに、 今の状況は、まるで手を組んでいるようにしか見えません……！ 千狐 ……恐らく、この辺りに満ちている 瘴気によって兜に心を奪われてしまったのですわ。 引田城 兜に、心を……？ そんな……まさか……。 板島丸串城 呑気に話シテル場合……？ こっちハ容赦ナンカしてあげないんダカラね！ 大砲兜 装填完了……発射ッ、発射ッ、発射ァッ！！ 千狐 くっ……殿、兜が一斉に大砲を撃ち込み始めました！ やくも このままじゃ、周囲の城郭や天守にも当たりかねんだに……。 引田城 殿……お願いです！ 板島丸串城さんを止めてください！ 引田城 ここは板島丸串城さんにとって縁のある大切な地です。 心を弄ばれたままの彼女に、自らの守るべき地を 破壊させるわけにはいきません……！ やくも なら、ここは少し手荒にいくしかないだに！ 千狐 そうするしか……ないようね。 千狐 殿、何とか兜の猛攻を凌ぎ、 板島丸串城さんを正気に戻しましょう！
後半
板島丸串城 ――くっ……うぅぅ……。 何で、あたし……こんなところで、倒れてるの……？ 引田城 板島丸串城さん！ 板島丸串城 ……引田城……ちゃん？ 引田城 板島丸串城さん！良かった……。 私が分かるのですね！？ 板島丸串城 ……な、何を言ってるの？ 板島丸串城 それに、どうしてあたしの身体……こんなにボロボロなの……？ 千狐 板島丸串城さん……貴方は、先ほどまで兜に心を操られ、 共に殿を討とうとしていたのですわ。 板島丸串城 あたしが、兜と……？ 板島丸串城 （……ダメだ、記憶が……途切れてる……） 殿 …………。 板島丸串城 ――っ！？ 板島丸串城 （殿が目の前に……。やつは、高虎さまの……憎き敵……！） 板島丸串城 殿……あんたは、生きてちゃいけないんだ！ 板島丸串城 あたしがここで、息の根を止めてやる……！ 殿 …………！？ やくも ――なっ！？ やくも 急に殿さんに殴りかかるなんて、何考えちょーがや！？ 板島丸串城 離せ……っ！ 板島丸串城 あたしの邪魔を……するなぁっ！ やくも 絶対、離さんだにっ！！ 板島丸串城 うぅぅっ……離してよぉ……。 板島丸串城 殿を討たないと……あたしは……あたしはぁ……っ！！ 千狐 落ち着いてください、板島丸串城さん！ 貴方の霊気から察するに、もう兜の操心術は解けています！ 板島丸串城 解けてなんかないよ！ あたしはまだ兜に操られてるの！ 板島丸串城 じゃなきゃ……もう殿を討とうだなんて、思えないじゃんかぁ……。 板島丸串城 殿はもう……あたしを、助けてくれた恩人なんだ……。 板島丸串城 心を操られてでもしてなきゃ、 襲う理由が……無くなっちゃうよぉ……。 引田城 板島丸串城さん……。 引田城 私は、あなたが虚言を操る城娘だと知っています……。 引田城 ですが、それはあくまで戦での不意打ちや、 戦況を有利にする為の技術であったはず……。 引田城 だからこそ、あなたの虚言は、 大切な人を傷つけ、自らをも偽る為の悪癖ではありません！ 板島丸串城 ……でも。 それでも……あたしは……。 引田城 もう、無理をしないでください。 引田城 今は傍に私がいます。 友として、私はあなたの力になりたいのです……。 板島丸串城 引田城ちゃん……。 板島丸串城 ……ありがとう……本当に、ありがとう……。 引田城の温かな抱擁の中で、 板島丸串城は何度も礼の言葉を口にする。 ――気づけば、頭上の陽に 暮れの茜がにじみ出していた。 やくも ……ようやく、板島丸串城らも落ち着いたみたいやね。 やくも これで一息つけそうだに。 千狐 …………いや、まだ気を抜くのは早いわ、やくも。 やくも ……え？ 千狐 近づいてきてる……。 やくも 近づいているって、何がや……？ 千狐 巨大兜の……禍々しい霊気が、すぐ近くにまで迫ってきてるわ！ 千狐が向ける視線の先に、 その巨体は悠然と姿を現した。 藤堂高虎 板島丸串城、やはり貴様ハ出来損ナイノ城ダ。 最早、世ニ在スル価値ナド……無イ。

忠義の死角 -結-

ついに、巨大兜と対峙した板島丸串城は、
己が信じていたものが偽りであった事を知る。
彼女の鬱憤を晴らすべく、敵を討ち果たせ！

前半
藤堂高虎 板島丸串城、やはり貴様ハ出来損ナイノ城ダ。 最早、世ニ在スル価値ナド……無イ。 板島丸串城 高虎……さま？ 板島丸串城 その姿は、いったい……？ 藤堂高虎 …………。 板島丸串城 それではまるで兜……。 いや、でも……魂の形は、確かに高虎さまのもの……。 板島丸串城 な、何が……どうなっているの……？ 引田城 板島丸串城さん……。 引田城 やはり、あなたは巨大兜の姿を、 目にしてはいなかったのですね？ 板島丸串城 巨大兜……？ 板島丸串城 それじゃあアレは、 あたしの城主……高虎さまでは、ないというの？ やくも よく見るだに！ どうやったらあれがあんたの城主に見えーがや？ 板島丸串城 じゃあ、あたしは……、 心を操られる前から、兜に……騙されていたというの……？ 千狐 巨大兜はかつての城主らの魂を模造し、悪用しているのです。 板島丸串城さんが騙されるのも、無理はありませんわ。 板島丸串城 ……そんな。 板島丸串城 人を騙すのはあたしの専売特許だっていうのに……。 板島丸串城 まさか、あんなヤツにお株を奪われるなんて……。 板島丸串城 許せない……。 板島丸串城 人の大切な思い出すら虚仮にして……。 板島丸串城 絶対に……許さないんだから！ やくも 許さないって……いったい何をするつもりだに！？ 板島丸串城 あたしがアイツを撃ち倒すのよ！ 千狐 いけません！ 千狐 貴方は先刻の戦いでの傷が癒えていないのですよ？ 無理はしないでください！ 板島丸串城 でも……これじゃあまりにも自分が情けないよぉ……。 引田城 板島丸串城さん、ここは堪えてください。 今は、殿たちに任せるのが賢明です……。 やくも そうがや！ 殿さんがしっかりあんたの鬱憤を晴らしてくれるだに！ 板島丸串城 ……殿が？ あたしの……為に？ 殿 …………。 殿 …………！ 板島丸串城 分かったよ……。 板島丸串城 そこまで言うなら、殿を……信じるからね。 引田城 それでは、板島丸串城さん。 私達は安全な場所へ下がりましょう……。 藤堂高虎 ……何処へ行ク、板島丸串城ォオオオッ！！ 藤堂高虎 貴様ハ某ガ徹底的ニ破壊シ、 ソノ上でヨリ美シキ城ヘト改修スルノダ！ 藤堂高虎 拒ム事ハ許さヌぞ……。 藤堂高虎 貴様の不出来ハ我ノ責……故に身濯ハ必定……ッ！ 藤堂高虎 大人シク、某ニ改修されるノダァァァアアアアアッッッ！！ 千狐 殿！　板島丸串城さんの元へ巨大兜を向かわせてはいけませんわ！ 千狐 何としてでも、ヤツを此処で食い止めましょう！
後半
藤堂高虎 ――ギ、グゥァ……何故ダ……何故、我ノ邪魔をスル……？ 醜キ城ニ価値ハ無イと……貴様モ……解シテ、いるはず……。 殿 …………。 やくも 殿さんとあんたを一緒にすんなや！ やくも 必要の無い城なんて在るわけ無いだに！ 藤堂高虎 盲信……其れコソが愚者ノ悪癖……。 藤堂高虎 ……貴様等ノ愚ハ……何れ己自身で識ルが良イ……。 藤堂高虎 板島丸串城……。 板島丸串城 …………。 藤堂高虎 所詮貴様ハ出来損無イダ……。 板島丸串城 …………っ！？ 藤堂高虎 某ガ手を下さずトモ……滅びハ免れ得ヌ……。 板島丸串城 ――――さい。 藤堂高虎 …………何？ 板島丸串城 うるさいって……言ってるんだよぉ！！ やくも 板島丸串城のやつ、大型兜に向けて砲撃しただに……！？ 藤堂高虎 ――クッ、馬鹿な……何処にソノ様な力が……ッ！？ 板島丸串城 あたしは……。 板島丸串城 あたしは出来損ないなんかじゃない……。 板島丸串城 兜ごときに、あたしを否定なんかさせない！ 板島丸串城 板島丸串城を愛してくれた全ての人達を、 お前なんかに否定させたりしないんだからぁ！ 藤堂高虎 グぅ、ァ…………板島丸串城ォォオオオオオッ！！ 千狐 何て激しい攻撃なの……！？ 千狐 ですが、あの身体でこれ以上の攻撃は無茶ですわ！ すぐに止めさせてください！ 引田城 板島丸串城さん！　もう撃たないでください……！ このままでは本当に、あなたの身体が……。 藤堂高虎 愚か者ガ……奴め、死兵と化ス気カ……！？ 藤堂高虎 相手をスルには、危険ニ過ギル……退却スルぞ！ 兜軍団 ――即時退却ッ！　即時退却セヨォッ！ 板島丸串城 はぁ……はぁ……。 板島丸串城 あたしは……出来損ないなんかじゃ……ない……。 やくも ……驚いたがや。 兜たちが、全員撤退していっただに……。 引田城 板島丸串城さん……立てますか？ 板島丸串城 うん……ありがとう、引田城ちゃん。 板島丸串城 それと、あのね……。 今さらって、思うかもしれないけど……。 板島丸串城 引田城ちゃんのこと、 偽物なんて言っちゃって……ごめんね。 引田城 ……え？ 引田城 まさか、そんなことを気にされていただなんて……ふふ。 やっぱり板島丸串城さんは優しいですね？ 板島丸串城 あっ、ちょっとぉ！？ 板島丸串城 はぅ……ぅぅ、そんなに抱きつかれると、恥ずかしいよぉ。 引田城 あれだけ私の方へ砲弾を撃ち込んだのですから、 これくらいは我慢してください♪ 板島丸串城 あぁ……やっぱりそこはちょっと怒ってるんだぁ……。 やくも まあ何はともあれ、二人が無事で良かっただに！ 板島丸串城 殿にも……その、いろいろと迷惑かけちゃって……ごめんね。 千狐 板島丸串城さんは兜に騙されていたのです。 そんなに気に病まないでください。 板島丸串城 で、でも……。 殿 …………。 殿 …………！ やくも 殿さんも気にするなって言っちょーけん、 泣く必要なんてないだに！ 板島丸串城 殿……。 板島丸串城 ありがとう！ この恩は、絶対にちゃんと返すからね！ 千狐 それでは、殿。 そろそろ所領へ戻りましょうか。 やくも そうやね、お腹もぺこぺこやけん、 はやく戻ってご飯にしたいだに。 引田城 はぁ……。 引田城 ここにうどんの麺さえあれば、 疲れている皆さんに特製うどん鍋を振る舞えるというのに……。 引田城 虎頭さん……私、今すごく悲しいです……。 板島丸串城 ――え？　うどん？ 板島丸串城 うどんの麺なら、あるけど……？ 引田城 …………！？ 引田城 ……今、なんと……？ 板島丸串城 だから、うどんの麺ならあるって――、 引田城 ――ほ、ほほ……本当ですかっ！？ 板島丸串城 うん！ いつ引田城ちゃんが遊びに来ても良いように、城の中に常備してあるもん。 引田城 さすが板島丸串城さんです！ 引田城 やはり持つべきものはうどんを愛する友ですぅ！ やくも ……ってことは、引田城の特製うどん鍋が食えるがや？ 引田城 はい！　 備蓄が尽きるまで、とことん作っちゃいますよぉ！ やくも 望むところがやぁ！ 作った分だけうちが平らげるだにぃ！ 千狐 もう、やくもったらあんなに喜んじゃって……。 千狐 ……グゥぅぅ～～～。 殿 …………！？ 千狐 ……え、あ……あの、今の音は……その……。 板島丸串城 今の音はあたしのお腹の音だよ～♪ あはは、ごめんね、お腹すいちゃった。 板島丸串城 ほら、殿、早く食べたいからあっち行こ♪ 殿 …………！ 千狐 ……。 千狐 あ、あの……板島丸串城さん。 板島丸串城 （いいよいいよ、このくらい気にしないで♪ 殿のこと好きなんでしょ？） 千狐 えっと……その……。 千狐 ……ありがとうございます。 引田城 （虎頭さん、千狐さんもお腹が空いているようですし、 一刻も早く美味しいうどん鍋を作らなくてはなりませんね？） 引田城 さあ虎頭さん、今こそ私たちの存在感を見せつける時です！ 引田城 腕によりをかけて作りますから、 期待して待っててくださいね、殿？ こうして、平穏を取り戻し始めた伊予の夜気に、 ゆっくりとうどん鍋の香気が満ち、 殿たちは、互いの無事を喜び合うのであった。

忠義の死角 -絶-

――兜の残党が気にかかる。
そんな板島丸串城たちの不安に、
やくもはある道具を取り出すのだが……。

前半
やくも ぷっはぁ～。 やくも もう、食えないだにぃ。 身体ん中、うどんでいっぱいがやぁ……。 千狐 引田城さんの特製うどん鍋、とても美味しかったです！ 引田城 ふふ、お気に召したようで嬉しいです。 板島丸串城 あたしは前にも食べたことがあるけど、 その時よりも美味しい気がするよ！ 引田城 違いに気づいてくださったようですね？ 実は少しだけ味付けを変えてみたのです！ 引田城 あ、それはそうと板島丸串城さん？ 口のまわりが汚れてますよ……。 板島丸串城 ――ん、んんっ……。 もう、自分で拭けるってばぁ。 板島丸串城 まったく、引田城ちゃんは いつまで経ってもあたしを子供扱いするんだから……。 引田城 そんなつもりはないんですけどねぇ……ふふ。 千狐 それでは、そろそろ片付けをして、 所領へと戻りましょうか、殿。 やくも そうやね、後は寝るだけだに！ やくも ……で、板島丸串城と引田城はどうするがや？ 千狐 先ほどの食事の際に、お二人とも これからは殿と行動を共にすると仰っていましたし、 さっそく所領へ行きますか？ 引田城 はい、是非ともご一緒させて頂きたいと考えています。 板島丸串城 ……だけど、一つだけ気になることがあるんだ。 千狐 気になること……？ 板島丸串城 あたし達がこの地を離れることで、 ここらの警備……つまり兜に対する守りが薄くなるのが心配なんだ。 板島丸串城 きっとまだ兜の残党がいるはずだろうし、 そいつらだけでも片付けていきたいなって……そう思ってて……。 千狐 確かに、そうですね。 千狐 ですが、すぐに対処するのは難しそうですし……。 ……殿、いったいどうしたらいいでしょうか？ やくも ……ふっふっふ。 千狐 どうしたの、やくも？ 急に変な笑い方して……？ やくも こんなこともあろうかと、 うちは密かにある道具を造っていたんだに！ やくも これがその道具がやーっ！ 板島丸串城 おおっ！？　何か名状しがたい形の道具だね！ 引田城 で、これはいったいどのような代物なのでしょうか？ やくも 聞いて驚くなだにぃ！ やくも なんと、これを設置することで、 兜さんがここら一帯に寄りつかなくなる道具だにぃ！ 千狐 ……え？　それ、本当なの！？ やくも 実際は瘴気が集まらないようにする為の道具やけん、 何も置いておかないよりかは幾分かましになるはずだに。 板島丸串城 おおー！？ やくもちゃんって、何だか思ってた以上に頭良いんだね！ やくも えへへ、それほどでも…………あるだにぃ！ やくも （……ん？　『思ってた以上に』……だに？） 板島丸串城 ねえねえ、そんなことより早く使ってみようよ！ 引田城 そうですね、これでこの地が少しでも安全になるのなら、 すぐに駆動させてほしいです。 やくも 任せておくがや！ やくも よ～し、っと。 やくも これで起動成功だに！ 板島丸串城 すごーい！ 何かガタガタ鳴り出してるぅ！ 引田城 思った以上に大きな音が生じるのですね。 千狐 ね、ねえ……やくも。 本当にこれ、大丈夫なの……？ やくも 大丈夫に決まってるだにぃ！ やくも 大丈夫に……決まって……。 やくも ……あれ？ 板島丸串城 ん？　何だか、周りの空気が変だよ……？ 引田城 けほっ、けほっ……これは、もしや……。 千狐 こ、これは……！？ 千狐 瘴気ですわ！ 千狐 ここら一帯に残っていた兜の瘴気が急激に集約され始めてます！ 引田城さんも、板島丸串城さんも早くここから逃げないと大変なことになりますわ！ 板島丸串城 ――うッ、くぁァ…………！ 板島丸串城 どう、しよう……力が、抑え……られない……っ！ このまま……だと……、 また、あたし……操られちゃ……うぅ……。 引田城 ……はぁ……はぁ……。 殿……私たちから、離れ……て…………。 千狐 ああ……そんな……。 板島丸串城 …………殿を討ツ……憎キ、殿を……コノ手で……。 板島丸串城 ……ち、がう……あたしは、殿を……傷つけたく、ない……のにぃ……っ。 千狐 板島丸串城さん！？ 千狐 まだ、千狐たちの声が聞こえますか？ お願いです、どうかそのまま意識を保ち続けてください！ 今すぐに、転移術で安全な場所にお連れしますから……！ 板島丸串城 だ、め……今、近づかれたら……攻撃、しちゃう……。 板島丸串城 いやだ、よ……それだけは、ぜったいに……いや、なんだ……。 引田城 私たちが……傷つくのは、構いません……。 だから、どうか……殿の手で……、 この瘴気から……私、たちの心を……解き放って……。 兜 ――ザザッ！ 兜軍団 ザザッ、ザザザッ！！ 千狐 ……板島丸串城さん達の前に、兜たちが割り込むように現れた……。 これではもう、声を届けることも出来ませんわ……。 やくも ど、どうしたらいいがや……？ やくも うち……こげなことになるなんて……思ってなくて……ぐすっ……、 殿さん……信じてほしいだにぃ……。 千狐 今は泣いてる場合じゃないわ、やくも！ 千狐 板島丸串城さん達は殿のことを信じて、 力を向けるようにと言葉を投げられました……。 千狐 だから殿……どうか、武器をお取りください。 千狐 彼女たちの想いに応える為、 今は武によって、二人の心を取り返すしかありませんわ！
後半
千狐 よかった……何とか、兜を全て討伐し、 板島丸串城さんたちを解放することができましたわ。 やくも ぐすっ……ひぐっ、ひっく……本当にごめんなさい……殿さぁん……。 千狐 大丈夫よ、やくも。 千狐 あのろくでもない道具は、 千狐がちゃ～んと跡形も無く壊してあげたから。 やくも ――いたっ、いたたたっ、痛いだにぃ！ そんなに強く二の腕をぎゅぅぅってしないでほしいがやぁ！ 千狐 これくらいで済んだことを喜ぶのーっ！ やくも うわ～～～～んっ！ 本当に反省してるだにぃ……許してほしいがやぁ……！ 引田城 あ、あの……。 やくもさんも、悪気はなかったみたいですし、 もうそのへんで許してあげてはどうでしょうか、千狐さん？ 板島丸串城 そ、そうだよ。 もう十分千狐ちゃんがお灸を据えたわけだし、 あたし達だってこの通り、大した怪我を負ったわけでもないしさ。 板島丸串城 （それに、これ以上はやくもちゃんの身が保たなそうだしね……） 引田城 （虎頭さんが少し怯えてしまってます……。 ……今後は、あまり千狐さんを怒らせないようにしましょうね） 千狐 ……わかりました。 お二人がそう言うのなら、このへんにしておきます。 千狐 ほら、やくも。 しっかりお二人にも、ごめんなさいするのー！ やくも ごめんなさいだにぃ……。 板島丸串城 うん、分かったよ、やくもちゃん！ だからもう泣かないで！ 引田城 それに見てください、殿。 さきほどのやくもさんの道具のおかげで、 周囲の瘴気は全て消え、兜の残党も全て討伐できたみたいですよ！ 板島丸串城 むしろ、やくもちゃんのおかげで、 この地の当面の危険は取り除けたってことだよね！ やくも ほ、本当かや……？ 板島丸串城 うん！　怪我の功名ってやつだね！ やくも それなら……よかっただにぃ……。 やくも 役に立てて……ぐすっ……よかっただにぃ……。 板島丸串城 あ……また、泣き出しちゃった……。 引田城 よっぽど千狐さんのお叱りが身に染みた様ですね……。 千狐 ご、ごめんね、やくも……？ 千狐 千狐も少し、怒りすぎたわ……。 千狐 やくもは殿やみんなのことを想って行動しただけだものね。 千狐 ほら、もう泣かないで……。 千狐 みんなと一緒に所領に帰りましょう？ やくも ……うん。 こうして、後顧の憂い無く、 板島丸串城たちは、殿と共に所領へと旅立つのであった。 ――同日、寅の刻、所領。 既に所領の者達は皆、深き眠りについていた。 殿と、ひとりの城娘を除いて――。 板島丸串城 ……ねえ、殿。 板島丸串城 殿にとって、お城って何なのかな？ 板島丸串城 あ、いや……何て言うのかな……。 板島丸串城 やっぱり今回のことで、色々と考えちゃってさ。 板島丸串城 あの巨大兜はさ、高虎さま本人ではなかったわけだけど……。 板島丸串城 それに似た魂に、 お前は要らない城だ、って言われるのは、 けっこうくるものがあったよ……。 板島丸串城 …………。 板島丸串城 高虎さまは、築城の名手だったから、 たくさんのお城を造った人なんだ。 板島丸串城 そんな人ともなるとさ、 一つ一つのお城になんて、 そんなに愛着を持たないのかな？ 板島丸串城 ……。 板島丸串城 ……殿も、さ。 板島丸串城 少なくない数の城娘を、仲間にしてるよね？ 板島丸串城 あたしも、これからその一人になるわけだけど……。 板島丸串城 ……あたしのこと、少しでも……大事にしてくれるのかな？ 板島丸串城 …………。 板島丸串城 ……いいの？ そんなこと簡単に言っちゃって？ 板島丸串城 でも、殿ならたくさんの城娘を、 ちゃんと大事にしてくれそうだって、何となく分かるよ。 板島丸串城 ……あたし、さ。 板島丸串城 けっこう、嘘つきな城娘なんだけどね……。 板島丸串城 殿には、できるだけ嘘はつかないようにしたいな。 板島丸串城 だって、たくさんの嘘をついた先でさ。 板島丸串城 いつか、あたしの真心が、 自分でも見えないところに隠れちゃったら、いやだもん……。 板島丸串城 なーんて、ちょっと真面目な話……、 してみちゃったりして……あはは。 板島丸串城 …………。 板島丸串城 それじゃあ、寝る前に改めて言っておくね。 板島丸串城 明日から、この板島丸串城を……どうぞ、よろしくお願いします！ 板島丸串城 …………えへへ。 板島丸串城 それじゃあね、殿。 板島丸串城 おやすみなさい。

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