ストーリーテキスト/忍ぶれど、あさぼらけ

ページ名:ストーリーテキスト/忍ぶれど、あさぼらけ

目次

忍ぶれど、あさぼらけ[]

忍ぶれど、あさぼらけ -序-

所領にて一時の平穏を享受していた殿たち。
しかし突然大多喜城が息を切らせて参上した。
緊急の要件だという、その内容とは――。

前半
――浮世に忍び、影と働く。

表が侍の武舞台ならば、
我らが舞うは裏舞台ぞ。

惑わし隠れ、姿を消すが定めといえど、因だけは消えはせぬ。

煙に巻いて、紛らわし取り繕うたとて、縁だけは隠せませぬ。

――しのぶれど色に出でにけりわが恋は

ものや思ふと人の問ふまで――

――所領にて。

大多喜城
殿!
いらっしゃるか!!

千狐
お、大多喜城さん?
どうなさったのですか?

大多喜城
緊急の要件ゆえ、急ぎ参った!

大多喜城
我が知己である伊賀国が城娘、
百地丹波城が窮地に陥っているのだ!

柳川城
百地丹波城さん……?

柳川城
その方はもしや、以前大多喜城さんが仰っていらした方ですね!?

大多喜城
そうだ……!

大多喜城
頼む! 我とともに彼女の許へ急ぎ加勢を!

やくも
殿さん、行こうがや!

殿
……………………!

大多喜城
……!
かたじけない!

千狐
伊賀国ですね!
殿、すぐにでも転移術で向かいましょう!

伊賀国――。

桃形忍者
フン。シブトイ娘ダニン!

桃形忍者軍団
ニンニン! ニンニン!

???
……ぐっ……。
これ以上はかなり厳しいですわ……。

???
けれど、私が引いてしまえば待つのは一方的なる蹂躙……!

???
それは……伊賀上忍たる私の矜持が許しませんわ……!

桃形忍者
モウ諦メルニン! ボロボロノ体デコレ以上何ガデキ――

桃形忍者
ウワッ!?
急ニ何、眩シイニーーーーン!!

???
――っ、あの、光は……?

千狐
殿! 転移術成功いたしました!

柳川城
どうやらここがその場所のようですね……。

???
……あぁ、貴方たちは!

???
お待ち申し上げておりましたわ……!

大多喜城
百地丹波城!
済まぬ、待たせた!!

百地丹波城
いいえ……!
貴女は来てくれると、そう思っておりました!

大多喜城
我が其方を捨て置くはずがなかろう……!

やくも
ひぇっ!
体中傷だらけだにぃ……!

百地丹波城
このようなお恥ずかしい姿を晒してしまって御免なさいね……。

大多喜城
何を言う……。
満身創痍でも戦ったという立派な証ではないか!

やくも
そうだにぃ!!
名誉の勲章だがや!!

百地丹波城
まぁ……ふふっ。
ありがとうございます……。

桃形忍者
何ガ名誉ノ勲章ダニーン!

桃形忍者
タダ、オ前ガ弱イッテダケダニーン!

大多喜城
おのれ……!

大多喜城
我が同胞を痛めつけてくれた報い、すぐにでも受けさせてくれる!!

桃形忍者
フーンダ、戦ニ卑怯トイウ言葉ハ無イニン!
勝テバ官軍ダニ~ン!!

桃形忍者軍団
負ケレバ賊軍! 負ケレバ賊軍!

大多喜城
笑止千万!

大多喜城
矜持無き野卑な賊ごとき、我らの敵ではないっ!!

柳川城
私も続きます、大多喜城さん!

大多喜城
うむ、共に参ろうぞ!

大多喜城
さぁ殿、御下知を!
すぐに殲滅いたしましょうぞ!!

後半
大多喜城

――これで終いだっ!!

桃形忍者
ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!
…………ダニン。

百地丹波城
うぅ、さすがに限界ですわ。

千狐
だ、大丈夫ですか……?

百地丹波城
変身を解けば、少しは――。

百地丹波城
……ふぅ。
これでなんとか。

大多喜城
城娘姿も維持できなくなるほど力を使い果たしてしまったか……。

百地丹波城
そうですわね……。

百地丹波城
でも、まだ動くだけの元気はありますわ。

大多喜城
それでも、遅くなって本当に済まなかった……。

百地丹波城
いいえ。
こうして生きておりますもの。

百地丹波城
生きてさえいれば万事良し、ですわ。

やくも
百地丹波城が笑う元気があるうちに
来れて良かったがや!

百地丹波城
ええ。お早い救援、まことに感謝いたします。

百地丹波城
――改めまして、お初にお目にかかります。
私、百地丹波城と申します。

百地丹波城
伊賀の三大上忍が一人、
百地丹波様が築いたといわれる城ですわ。

百地丹波城
普段は伊賀の上忍として、
仲間と共にこの地を守護しておりますの。

大多喜城
時に、どうして其方は一人で戦っていたのだ?

大多喜城
確か以前訪ねた時は
千賀地氏城と藤林長門守城がいたはずでは……。

百地丹波城
ええ、本来私たち三人なら奴らの相手をするなど
造作もなかったのですが……。

百地丹波城
ちょうど折の悪いことに、
今彼女たちは別の地にて戦いに赴いてしまっているのですわ……。

大多喜城
む……。
留守を狙われたということか。

百地丹波城
忍びが隙を狙われて窮地に陥るなど、お恥ずかしいことですわ。

百地丹波城
まだまだ修行が足りませんわね……。

大多喜城
……そう自分を責めるな。
其方は立派に務めを果たされているのだから。

百地丹波城
……大多喜さまにそう言ってもらえるなら何よりの慰めになりますわ。

柳川城
ところで、一体兜たちはこの地に何をしにきたのでしょうか……?

百地丹波城
それが……。
奴らは奉納してあった『縁切鋏』を盗んでいってしまいましたの……。

やくも
はさみ?
なんで鋏なんて盗んでくがや……?

百地丹波城
おそらく、盗んでいった『縁切鋏』に宿る霊力が目的なのでしょう。

百地丹波城
この地の各所で奉納されている『縁切鋏』は、
奉納する際に霊力による浄化をいたしますゆえ。

千狐
なるほど……。
鋏ひとつひとつに宿る霊力自体は少なくとも、数を集めれば……。

百地丹波城
そう。
侮れない量の霊力が集まりますわ。

大多喜城
だが、逆に言えばそれらを取り戻し、集めれば
其方の霊力回復にも役立てられるのではないか?

大多喜城
奪われた鋏はこの地にも其方にも縁あるものだ。
一石二鳥だろう。

百地丹波城
そうですわね……。

百地丹波城
……というわけで、お礼もロクにできないのが心苦しくあるのですが、
手伝ってはいただけませんでしょうか……?

柳川城
もちろんです。
百地丹波城さんが霊力を取り戻すまではお手伝いいたしますよ。

殿
……………………!

百地丹波城
まぁ、ありがとうございます……。

千狐
では殿。
『縁切鋏』を集めながら兜たちを一掃して参りましょう!

忍ぶれど、あさぼらけ -破-

縁切鋏を集め始めた殿たち。
その途中でやくもが鋏に疑問を呈すると、
百地丹波城は己にまつわる話を始める……。

前半
柳川城

少しずつですが、集まってはきていますね。
『縁切鋏』。

大多喜城
刃物である故、少々持ち運びに苦労はするがな……。

やくも
それにしても……なんでこれって『縁切鋏』って呼ぶがや?

千狐
見た目には普通の鋏と同じですけれど……?

百地丹波城
――文字通り、『縁を切るための鋏』だからですわ。

やくも
えぇっ!? 縁を切っちゃうがや!?

やくも
そんなのダメだにぃ!
縁は大事にした方がいいがや!

百地丹波城
ご安心を。
切るといっても、すべての縁を切るものではありませんわ。

百地丹波城
悪縁を断ち切れることを願い奉納する……。
それが『縁切鋏』なのです。

柳川城
悪縁……ですか。

百地丹波城
そう。文字通りの悪い縁、ですわ。

百地丹波城
良い縁を結びなおすために、
どうしても断ち切りたいという縁だけ切るのです。

大多喜城
我ならばまず間違いなく兜との縁切りを願うでしょうな。

百地丹波城
あら、兜との縁を切ってしまえば
大多喜さまの好きな、戦自体なくなってしまうかもしれませんわよ?

大多喜城
それはそれで少々寂しい話ではあるが、構わぬ。
天下の太平のためには致し方ないことだからな。

大多喜城
それに、槍を振るうことだけが戦とは限らん。
人の心でも戦は起こるものだ。

百地丹波城
……そうですわね。

柳川城
『縁切鋏』を奉納すれば悪縁を切れるのですか?

百地丹波城
神仏に願う、という形になりますけれどもね。

百地丹波城
とはいえ、心願成就を待つ猶予もない方もおられます。

百地丹波城
そのような方々に対しては、私、縁切り代行も行っておりますの。

柳川城
縁切り代行?

百地丹波城
ええ。
世の中、すべての人が良い縁に必ずしも恵まれるとは限りません。

百地丹波城
ほどきたくとも絡めとられてしまい、身動きが取れなくなってしまうような悪縁……。
私はそれをほどき、千切ることも生業としているのですわ。

大多喜城
そういえば、以前も申しておったな。

大多喜城
……なぜそのようなことを?

百地丹波城
それは私の主でもあった、百地丹波様の逸話に関連があるのですわ。

百地丹波城
かつて、丹波様はたまたま出会った式部と恋に落ちました。
深く将来を約束し、ともにあろうと誓いました。

百地丹波城
ですが、迎えに行かれた丹波様とすれ違ってしまい、
式部は一人丹波様の砦に到着しました。

百地丹波城
美しい式部を見た丹波様の妻は嫉妬に狂い、
式部を殺して古井戸に投げ込んでしまったのです。

やくも
ひぃぃ……!

百地丹波城
砦に戻った丹波様は、式部の愛犬に案内され、
式部が井戸で死んでいるのを見つけました。

百地丹波城
そして、丹波様の妻もまた、
同じ井戸に身を投げて死んでしまったのですわ……。

柳川城
……なんて、悲しいお話でしょう。

千狐
それでは誰も報われませんわ……。

百地丹波城
丹波様は井戸を埋め、シキミを植え、塚としました。

百地丹波城
そうして自身は高野山に登り僧となり、二人を弔ったということです……。

やくも
せめて二人が安らかに眠れるといいだに……。
なむなむ……。

百地丹波城
このことから、その場所をシキミ塚、または式部塚と呼ぶようになりました。

百地丹波城
この塚に鋏を奉納しますと、悪縁を断ち切るという謂れがあるのですわ。

百地丹波城
ですから私も、悪い縁に苦しむ人が少しでも減るようにと思いまして、
縁切り代行を行うようになったのですわ。

大多喜城
なんと、そうであったのか……。

大多喜城
しかし、縁切り代行とは穏やかな話ではないな……。

百地丹波城
ええ、ですが致し方のないことでもあるのですわ。

百地丹波城
私は私なりに誰かのお役に立ちたいんですの。
そのためなら泥を被ることとて厭いませんわ。

柳川城
(今の話、殿はどうお思いなのでしょう……?)

殿
……………………。

柳川城
……………………。

百地丹波城
あら、どういたしましたの?
そんなに目を潤ませて……。

柳川城
その、縁切りというのを考えていたら
とても恐ろしいことのように感じてしまいまして……。

柳川城
他人から見たら悪縁と言われようと、
その方にとっては大事な縁かもしれません。

柳川城
縁切りは他者への裏切りを願うことに他ならない、と思うと、
それは少々……酷なことのように存じます。

百地丹波城
……貴女の言うことももっともだとは思いますわ。

百地丹波城
けれど、
すべての方が気高く強くいられるわけではございませんの……。

百地丹波城
それに、『縁切鋏』は私にとっても大事なものですから……。

柳川城
え? それは、どういう――。

百地丹波城
……お話の続きは改めてにいたしましょう。

百地丹波城
そこに兜たちが隠れておりますわ。

桃形忍者
何デバレタ!?
完璧ニ隠レ切ッテタノニン!?

やくも
ほ、本当にいただに!

百地丹波城
黒い襟布がはみ出ていましたわ。
うふふ、お粗末な隠れ身ですこと。

桃形忍者
クソッ、
オシャレダカラッテ頭巾ノ余リヲ長メニ垂ラサナキャヨカッタニン!

千狐
いつの間にこんな数の兜が……!

柳川城
何体いようとかまいません!
殿、指示をお願いします!

後半
大多喜城

他愛もない。
掃討完了だ。

百地丹波城
……力を使い果たして変身もままならない身故、致し方ないことですが
やはり見ているだけというのは歯がゆいものですわね……。

柳川城
気にしないでください。
我々は貴女の力になるために来たのですから。

百地丹波城
……忍者とは、基本的に頼れるのは己のみなのです。
いつだって、戦うときは一人……。

百地丹波城
ですから、あまり誰かに頼るというのに慣れていないのですわ。
弱音を吐いてもお許しくださいね。

やくも
ぜーんぜん構わんだにぃ!
これを機にえっぱい頼るといいだに!!

百地丹波城
うふふっ、そうさせていただきますわね。

大多喜城
そもそも、其方はいつも一人で頑張りすぎではないか?

百地丹波城
そのように見えておりましたか?

大多喜城
ああ。

百地丹波城
そんなつもりではなかったのですが……。
知らず、気負っていたのかもしれませんわね。

大多喜城
もっと我や、千賀地氏城と藤林長門守城たちを頼れ。
同胞ではないか。

百地丹波城
……はい。

大多喜城
それに……頼られた方が我も嬉しいぞ。

百地丹波城
まぁ、大多喜さま……。

大多喜城
そ、そんな熱っぽい目で我を見つめるでない!

百地丹波城
うふふ、頬を染める大多喜さまもお可愛らしいですわ。

大多喜城
あまりからかってくれるな……。

大多喜城
……それに、縁切り代行とて、其方一人で行っておるのだろう?
見返りが多いからか?

百地丹波城
いいえ。
少量の金子と、縁切りの証として鋏を頂いておりますの。

百地丹波城
これはあくまで私がやりたくてやっていることですから。
危うくもないですし、いわば副業ですの。

百地丹波城
大多喜さまが心配なさるようなことはありませんわ。
どうぞ、ご心配なさらず。

大多喜城
む……其方がそう言うのなら……。

千狐
なるほど……。
だから鋏がこの地だけでなく百地丹波城さんとも縁深く、
力になるということなんですね。

百地丹波城
ええ、きっとそうなのでしょう。

やくも
ところで、さっきから実はずっと気になってたんやけど
縁切り代行って具体的にどんなことするんだがや?

百地丹波城
あらあら、
ずいぶんとご興味がおありですのね?

百地丹波城
しかし具体的にというと……。
そうですわねぇ……。

百地丹波城
依頼主はほとんど女性の方ですわね。
皆さん口々に誰それと縁を切りたい、などと仰られます。

千狐
まぁ……。

百地丹波城
暴力を振るう夫、自分の稼ぎを使い込む男……。
離れた方が良いとわかっていても離れられない。

百地丹波城
そういった悪縁を断ち切り、幸せをみつけるための工作を
ちょこっとだけするのが私のお仕事ですわね。

百地丹波城
まぁ、荒事はありませんから穏やかなものですわよ。

やくも
(ひぃ、目が笑ってないだに……)

百地丹波城
他にも……自分がずっと一途に思っていた男が、
見目麗しく優しいために多くの女性に好かれているのを見て
もやもやしてしまうとか……。

柳川城
(ぴくっ)

百地丹波城
もちろん、そういったようなお悩みを聞いても
いきなり切るような乱暴な真似はしませんわ。

百地丹波城
きちんと事実を探った上で、
切るに値する悪縁だと判断したら切らせていただいてますの。

百地丹波城
逆に人道にもとるようなご依頼だった場合はお受けしませんの。

百地丹波城
私は悪縁を断つためにやっているのであって、
良縁を千切るためではありませんから。

柳川城
なるほど……。

百地丹波城
……柳川城さん、お耳を拝借いたしますわね。

柳川城
えっ?

百地丹波城
(それで、お相手は殿……もとい、御頭ですの?)

柳川城
(なっ!? なななななな何がですかぁ!?)

百地丹波城
(うふふ、先程からずーっと御頭のことをチラチラ見ておりますもの)

柳川城
(あっ、あぅ……い、言わないでくださいね……!?)

百地丹波城
(ええ、大丈夫ですわ。決して口外などいたしませんことよ)

やくも
そんなにぺったりくっついて内緒話するなんて。
柳川城はすっかり百地丹波城が気に入ったんやね!

柳川城
え!?
あ、えと、そ、そうなのです!!

百地丹波城
ええ、とっても気が合うお方ですの。
今後とも仲良くしてくださいませね。

柳川城
は、はい!

百地丹波城
(もしもご依頼がありましたらいつでもお話をお聞きしますわ)

百地丹波城
(もちろん、惚気話も歓迎いたします。ふふふっ)

柳川城
(の、惚気話だなんて……)

殿
…………?

柳川城
(うぅ、顔が熱いです……)

百地丹波城
――さて、気楽なお話はここまでといたしましょう。

百地丹波城
……そこの木の裏。思いっきり気配が漏れておりますわ。
姿を現しなさい!

???
――フム。
城娘のチカラ無しと言えど、忍びとしてのチカラはあるようでゴザルな!

大多喜城
何者だ!

服部半蔵
拙者は、スベテの忍びのアコガれ!!
服部半蔵でゴザル!!

忍ぶれど、あさぼらけ -急-

服部半蔵の名を冠する巨大兜が出現した。
新たな敵の出現に動揺する殿たち。
百地丹波城と共に奴を討て!

前半
服部半蔵

拙者は、スベテの忍びのアコガれ!!
服部半蔵でゴザル!!

大多喜城
服部半蔵の名を冠する巨大兜だと……!?

やくも
もう見た目からして忍びだにん!

服部半蔵
ニンニン!

千狐
やくもの言葉に反応したのか、
嬉しそうですね……。

百地丹波城
………………………。

大多喜城
も、百地丹波城?

大多喜城
そんなに険しい顔で震えて一体どうし――。

百地丹波城
……こんなのが服部半蔵の魂を模した兜ですの?

大多喜城
えっ。

服部半蔵
拙者はマサに忍びのナカの忍び!

服部半蔵
どんなテキが相手でも
トクイの忍法で大冒険ニンジャ活劇しちゃうでゴザル!

柳川城
い、言っている意味は分かりませんが、
手ごわそうな相手ですね……!

大多喜城
あ、ああ。
そうだな。

服部半蔵
さぁ! いざいざジンジョーに!
拙者とショーブするでゴザル!!

百地丹波城
……ふざけないでいただけますかしら?

服部半蔵
ニニンっ!?

百地丹波城
大体、自分の気配も消せないようなうつけが
忍び気取りだなんて笑わせますわね。

服部半蔵
なんかバカにサレタ気分でゴザル!

服部半蔵
――良かろう!
トクベツに拙者のニンジュツをヒトツお見せするでゴザル!

大多喜城
こ、これはさすがにまずいのではないか……?

百地丹波城
それほど心配しなくても大丈夫かと思われますわ。

服部半蔵
コーカイしても遅いでゴザルよ!!

服部半蔵
ニンポー!
うずらガクレの術!!

柳川城
どのような術かは分かりませんが
皆さん、警戒を……!

服部半蔵
………………………。

大多喜城
……丸くなったまま、動かないな。

やくも
あれ、何してるがや?

大多喜城
分からん……。

服部半蔵
………………………。

大多喜城
……いや、もしかしたら油断させて隙をつく術やもしれん……!

やくも
そんなら油断したらいかんがや!

服部半蔵
拙者はイシでゴザル……。
拙者はイシでゴザル…………。

柳川城
……石?

大多喜城
……百地丹波城、奴は何をしているのだ?

百地丹波城
何もしていませんわ。

大多喜城
えぇ?

柳川城
……そもそも、あれはどういう術なのでしょうか?

百地丹波城
うずら隠れの術とは、
手足を丸めて石になりきり、隠れる術ですわ。

柳川城
つまりあれは……。

百地丹波城
石になりきってますわね。

柳川城
えぇ……。

百地丹波城
おまけに隠れてすらいませんわ。

大多喜城
……ず、ずいぶんと、其方とは違うようだな。

百地丹波城
いくら大多喜さまといえど
アレと一緒にしたら怒りますわよ?

大多喜城
す、すまない。

服部半蔵
……ハッ!

服部半蔵
ドウだ!
拙者のニンジュツにオソれいったでゴザルか!?

千狐
(何故得意げなのでしょうか……)

殿
……………………。

服部半蔵
……おッ!?
どうやら声もデナイようでゴザルなっ!

服部半蔵
拙者にオソレおののいたところでもうオソイ!
逃がさないでゴザル!

柳川城
うっ……!
すさまじい霊力です……!

大多喜城
確かに霊力だけは立派だな……。

服部半蔵
二ニニンっ!?
ナンカまたバカにサレタ気がするでゴザル!

服部半蔵
拙者はツヨーイ忍びっ!
思いシラセてやるでゴザルぅ!

大多喜城
来るぞ!
殿、こちらも迎撃準備を!

後半
大多喜城

――ええい、ひらひらとやりにくい!

柳川城
放った矢すら避けるとは……。
なんという身のこなし……!

服部半蔵
ナカナカ良い抵抗でゴザルよ!

服部半蔵
デモやっぱり拙者が一番ツヨイのでゴザル!

服部半蔵
ハッハッハ!!

大多喜城
フン、何を偉そうに!

大多喜城
威勢だけはいいが
もう貴様らの軍はボロボロではないか!

桃形忍者
キュウ…………。

服部半蔵
!?

服部半蔵
ひ、ヒガイ甚大でゴザル!?

柳川城
周りが見えていないということなのでしょうか……。

百地丹波城
ええ。
それも全く。

服部半蔵
……ヨ、よかろう!

服部半蔵
此度はイチド退くでゴザルよ!

服部半蔵
モノドモ!
撤退でゴザルウウウ!

桃形忍者軍団
撤退! 撤退!

百地丹波城
………………………。

百地丹波城
なんとか、退けられましたわね。

大多喜城
ふぅ……。

大多喜城
まっこと戦いにくい相手だったな。

柳川城
言動こそ支離滅裂でしたが、
相手としては手ごわかったですね……。

大多喜城
ああ……。

大多喜城
隙だらけなのか、隙がないのか。

大多喜城
なんだかよくわからない相手であったな……。

百地丹波城
あれで意外とまともな戦い方でしたわね。

大多喜城
確かにな……。

百地丹波城
……先ほどの戦を見ている限りでは、
どうもこちらの様子を伺っている節が見えましたわね。

柳川城
えぇ……。

大多喜城
まるでこちらの実力を測るような目つきであったな。

百地丹波城
……まぁ、
アレが本当にそこまで考えているのかはわかりませんけどもね。

大多喜城
う……うむ……。

百地丹波城
伊賀忍というものはどのような手段をもってしてでも
必ずや目的を達成せんとするもの。

百地丹波城
御頭、どうかお気をつけなさいませ。

やくも
アレも一応伊賀忍だがや?

百地丹波城
……まぁ、確かにそのような疑問は残りますわね。

大多喜城
しかし、其方の言う通りだとしたら、
我らの実力を測って如何とするのだろうか……。

百地丹波城
さぁ……それは現時点では何も言えませんわね。

百地丹波城
何か良からぬことを企んでいる……としか。

大多喜城
……まぁ、そうであろうな。

柳川城
ですが、今は良しといたしましょう。

柳川城
引き続き、『縁切鋏』を集めることが最善と存じますから。

千狐
えぇ、そうですね。

百地丹波城
このようなお手間を取らせてしまい、申し訳ありませんわ。

百地丹波城
どうぞ引き続き、よろしくお願いいたします。

忍ぶれど、あさぼらけ -絶壱-

兜たちをなんとか退けることに成功した一行。
これまでにいなかった敵、新たな巨大兜。
再度の襲来に備えて一時の休養を取ることに……。

前半
百地丹波城

……………………。

柳川城
あら? 百地丹波城さん。
まだお休みになられていなかったんですね。

百地丹波城
ええ。

百地丹波城
少し……考えることがありまして。

柳川城
(守護するべき地を兜たちに侵され、力も消耗しているのですから、
 気落ちしてしまうのは当然でしょうね……)

柳川城
(ここは私が元気づけて差し上げなくてはなりませんね)

柳川城
……もし、何か心中で澱みが溜まっておられるのでしたら、
遠慮なく私に吐き出してくださっても大丈夫ですよ。

百地丹波城
まぁ、お心遣い感謝いたしますわ。

百地丹波城
ですが、こればかりはなんとも……。

柳川城
……私は忍びの者ではありません。

柳川城
ですが、
関係ない立場だからこその視点というのもございますよ。

百地丹波城
……そうですわね。

百地丹波城
では、聞いていただけますかしら。

柳川城
ええ、もちろん。

百地丹波城
――実は、少し懸念していたことがあるのですわ。

百地丹波城
今日、兜たちの中に忍びの格好をしていたものがおりましたでしょう?

柳川城
えぇ、あれは私も見たことがない敵でした。

百地丹波城
で、あれば。
おそらくは今日の戦いで初めて出現したのでしょう。

百地丹波城
あのように忍びの真似事をしだす兜が現れたということ。
私は一つの脅威だと考えております。

柳川城
確かに……。

柳川城
これまで戦ってきた兜に比べて、俊敏さや多彩な技など、
異なる点が数多くありました。

柳川城
今後もあのような兜が増えていけば、たとえ一体一体は小さくとも
積み重なればいずれは大きな脅威となるやもしれませんから……。

百地丹波城
……そのような懸念もなくはないですけれど、
私の懸念はもっと違うところにあるのですわ。

百地丹波城
四方髪……という術をご存知でしょうか?

柳川城
よもがみ、ですか?

柳川城
いえ……。

百地丹波城
四方髪というのは、忍びの術が一つ。
他の人物に化ける術ですの。

百地丹波城
本来は、忍びが己の身を守るために使う術ですわ。

柳川城
そ、そのような術があるのですね……。

百地丹波城
……もしも、仮にも忍びの姿を取っている兜らがこの術を使ってきて、
例えば大多喜さまに変身でもしようものならどうなるか……。

…………。

――――――――。

大多喜城(偽)
……ふふ。
とうとう追い詰めたぞ、城娘。

百地丹波城
くっ……大多喜さまのご尊顔を悪用して私に迫るとは、
なんと卑怯な…………!

大多喜城(偽)
貴様にとって、この容貌は大事な存在のもののようだな。
ならば……。

大多喜城(偽)
百地丹波城よ。今すぐに此の地を解放せよ。

大多喜城(偽)
我の言うことが聞けぬとは……言うまいな?

百地丹波城
そ、そんなっ……ずるいですわ、大多喜さま……!
私が逆らえないのを良いことにっ……!

百地丹波城
(うぅぅ……落ち着け百地…………)

百地丹波城
(……あれは、大多喜さまではない)

百地丹波城
(偽物、なのに……っ)

百地丹波城
(わかっていても……心が、屈してしまいそうになる……)

大多喜城(偽)
百地丹波城……無理をすることはない。
お前はよく頑張った。

大多喜城(偽)
後は私に心身を委ねればいい……。
フフフ……。

百地丹波城
嗚呼……いけませんわ、大多喜さま……!

百地丹波城
私は……私はぁっ……………………ッ!!

桃形忍者
フフッ、堕チタナ……。

大多喜城(偽)
……馬鹿なやつめ、懊悩に囚われた城娘など取るに足らぬわ。
今だ、進軍せよ!!

桃形忍者軍団
突撃! 突撃!

後半
百地丹波城

――などということになり、おそらくは寸刻で
開城となってしまったかもしれません。

百地丹波城
あな恐ろしや……。

柳川城
は、はぁ……。

百地丹波城
……柳川城さん、今貴女は『そんなはずない、下らない』なんて
お思いになられましたわね?

柳川城
え? い、いえ!
そんなことは……!

百地丹波城
いいえ、怒っているのではありませんわ。

百地丹波城
ただ、世の中にはありえないなんて思ったことも、平然とあったりするのですわ。

百地丹波城
……例えば、四方髪で敵の忍者兜が御頭に化けたと仮定してごらんなさい?

柳川城
と、殿に……?

柳川城
……………………。

……………………。

――――――――。

殿(偽)
…………。

柳川城
い、いけません、殿……!

柳川城
いくら貴方といえど、こ、こんなこと……っ!

殿(偽)
……………………。

すっ、と殿の籠手に包まれた腕が伸び、
木目の刻まれた板壁にドン、と音が立った。

殿(偽)
……………………!

柳川城
~~~~~~~~~~~ッ!?

――――――――。

柳川城
……………………。

百地丹波城
……ね? かなり危険でしょう?

柳川城
…………!(こくこくこくこく)

百地丹波城
もちろん、兜たちの武威に注意が必要なことは当然ですわ。

百地丹波城
けれど、そういった搦め手を使ってくることもありえます。
十全に注意を払わなくてはなりませんわ。

柳川城
そっ……そうですね……。

百地丹波城
……ところで、御頭にはどのように迫られたいと?

柳川城
えっ!?

百地丹波城
うふふ。
情熱的に迫られたいのでしょうか?
それとも少々奥手に可愛らしく?

柳川城
な、何を言ってるんですかぁ!?

百地丹波城
あら、これは失礼しましたわ。

百地丹波城
あまり詮索されては気分がよくありませんものね?

柳川城
そ、そうで……。

柳川城
って、ち、違いますよ!!

柳川城
べ、別に殿に壁際に追いつめられてドンとされた上で
口吸いなどされるだなんて妄想、私はしていません!

百地丹波城
……あらあら、まぁまぁ。

柳川城
…………。

柳川城
……!?
ち、違います! 本当にしてませんからね!?

百地丹波城
えぇ、大丈夫。

百地丹波城
誰にも口外いたしませんわ。

柳川城
だ、だから本当にしてないですから!!

百地丹波城
承知しておりますわ。うふふっ。

柳川城
ホントにホントに、違いますからね!?

その後、何度も否定し念を押す柳川城だったが、
それを見て百地丹波城は微笑ましそうに笑うばかり。

一人勝手にドツボにはまっていく柳川城を見て、
自分もこれくらい思える誰かが欲しい、と願う百地丹波城だった。

忍ぶれど、あさぼらけ -離-

巨大兜の襲撃から数日が経った。
引き続き縁切鋏を集めていく折に、
百地丹波城が一行へにこやかに呼びかける……。

前半
百地丹波城

さぁさ、皆さま。
『縁切鋏』集め、お疲れ様ですわ。

百地丹波城
根を詰めすぎては体に毒ですもの。
この辺りで一服いたしましょう。

やくも
わぁーいだにぃっ!
今日のおやつは何がや?

百地丹波城
今日は私の地元の名産『背黒餅』と、
やくもさんのご要望にお応えした『茹で菱の実』ですわ。

千狐
やくも、貴女ねぇ……。

やくも
だって忍びの食事って何食べてるのか気になるだに。

百地丹波城
『これぞ忍び飯』というものを食してみたいとのご要望でしたので、
今回は菱の実を茹でてまいりましたの。

柳川城
菱の実、ですか。

柳川城
忍びとどのような関係があるのでしょうか?

百地丹波城
保存食にもなる、武器の一つですわ。

千狐
まぁ、忍びの方は武器を食すのですか?

百地丹波城
もちろん、いつも食べているというわけでは
ありませんけどもね。

百地丹波城
これはいわゆる『巻き菱』というものですの。

大多喜城
確か忍びが逃走の際、
追手の足を止めたり、速度を落とさせるために投げるものと言っていたな。

百地丹波城
えぇ、そうですわ。

百地丹波城
これには天然の菱の実を使っているのです。

百地丹波城
もちろん鉄製のものを使うこともありますけどね。

千狐
これがもとは武器だったのですね。

百地丹波城
そう恐る恐る手を伸ばさなくても大丈夫。

百地丹波城
茹で菱の実は噛みついたりしませんわよ。

千狐
ごくり……。

柳川城
では、私もおひとつ頂きます。

百地丹波城
えぇ、どうぞ。

やくも
……(ひょいぱく)

柳川城
これは…………。

千狐
まるで栗のようにぽっくりとした食感ですね。

柳川城
それに、ほんのりした甘さが塩気で引き立てられています。

千狐
本当ですね。

百地丹波城
気に入っていただけましたかしら?

柳川城
素朴な味で、つい手が伸びてしまいます。

千狐
とても美味ですわ。

やくも
山盛りえっぱい食べたいだに!

百地丹波城
あらあら、そんなに気に入ってもらえたんですのね。

大多喜城
こちらの背黒餅も、
以前食べた時と変わらない上品な味わいだな。

柳川城
何故これは『背黒』という名前がついているのでしょうか?

柳川城
見た目には黒くないのですが……。

百地丹波城
伊賀では、
農家の人の背が黒く焼けている姿を『元気な働き者の証』としていますの。

百地丹波城
細長く丸めた餅を人の背に見立てて、火箸などで背の部分を焼いてあります。

大多喜城
つまり、『元気な働き者のおやつ』というわけだな。

百地丹波城
その通りですわ。

百地丹波城
ちなみに、夏の盛りには
祇園祭で無病息災・五穀豊穣を願って奉納されることもありますの。

柳川城
なるほど……。
由緒あるおやつなんですね。

柳川城
これお茶に合いますね、殿……。

殿
……………………!

百地丹波城
御頭にも気に入っていただけたようで
良かったですわ。

柳川城
色々とご用意してくださってありがとうございます。

百地丹波城
いいえ、わざわざ『縁切鋏』の収集を
お手伝いいただいているのですもの。

百地丹波城
これくらいは当然で――。

百地丹波城
――っ!?

百地丹波城
――そこっ!!


グアアアアアアアアアアアアアアア!

やくも
頭上から兜さんが落ちてきただに!?

百地丹波城
お気をつけください!

百地丹波城
そこかしこから兜共が迫ってきております!


バ、バレタ!?


エエイ、コウナリャヤケクソダ!!
覚悟シローーーーーーーッ!!

大多喜城
何度来たとて同じこと!
我が槍の錆にしてくれるわっ!!

後半
大多喜城

ふぅ……。
全く、油断がならぬ。

柳川城
本当に……。
どこに潜んでいるものかわからないものですね……。

百地丹波城
……………………。

大多喜城
……む?

大多喜城
どうした、戦は終わったぞ百地丹波城。

百地丹波城
……なりませんわ、大多喜さま。
武器を収めては。

大多喜城
何?

百地丹波城
……またもや、奴がやってきたようですから。

柳川城
奴、というと……。

???
ククク……コンドこそ完璧でゴザろう……。

百地丹波城
姿を現しなさい。

服部半蔵
……ニニン?

服部半蔵
もしかしてマタバレてるでゴザルか?

大多喜城
阿呆か。
しゃべった時点でバレておるわ。

服部半蔵
ニニニンッ!?

服部半蔵
ナンでマイドマイドバレてるでゴザルぅ!?

千狐
今のはただの自爆ですわね……。

服部半蔵
クッ……。
だ、だが拙者には秘策がアルでゴザル!

大多喜城
何だと?

柳川城
秘策とは……?

服部半蔵
ズバリ!

服部半蔵
百地丹波城をミカタにつける作戦でゴザル!

百地丹波城
はい?

大多喜城
……バカか?

百地丹波城
でしょうね。

服部半蔵
ま、マテマテでゴザル!

服部半蔵
拙者の話はサイゴまで聞くでゴザルよ!!

千狐
……聞く意味ありますかしら?

百地丹波城
ないんじゃないでしょうか?

服部半蔵
拙者知ってるでゴザル!

服部半蔵
伊賀忍は、金さえあれば
ミカタしてくれるもんでゴザろう!?

柳川城
何を言って……。

百地丹波城
まぁ、間違ってませんわね。

柳川城
……えっ?

服部半蔵
だから拙者は
百地丹波城をヤトワセテもらうでゴザル!

忍ぶれど、あさぼらけ -結-

突然、百地丹波城を雇うと言い出した巨大兜。
だが奇妙なことこそ言えど相手は強大な敵、
力を取り戻した百地丹波城と共に討て。

前半
服部半蔵

だから拙者は
百地丹波城をヤトワセテもらうでゴザル!

百地丹波城
……………………。

やくも
はぁ?
何言ってるがや?

千狐
どのような理由があれ、
城娘が兜たちに味方するなんてありえません!

服部半蔵
そりゃあ、武士ならチガウでゴザロウ。

服部半蔵
武士はこれはと思った主君に
ズット仕えるのがホマレでゴザロウから。

服部半蔵
けれど、伊賀忍は
そういうコトはキニシナイのでゴザル。

千狐
何ですって……!?

服部半蔵
金さえモラエルなら、タトエ相手が犬でも
お仕えするでゴザル。

百地丹波城
…………。

百地丹波城
……そうですわね。

柳川城
えぇっ!?

百地丹波城
伊賀忍は、基本的に仕える主君を必要としない……。

百地丹波城
裏を返せば、相応の報酬を出せる相手になら
仕える用意があるということですわ。

大多喜城
ふむ。以前そう言っていたな。

柳川城
そんな……!

服部半蔵
そうでゴザルよ。

服部半蔵
さっ、ソノホウの値をイエでゴザル。

服部半蔵
オネダンいくらでもカマワンでゴザルよ!

百地丹波城
そうですわねぇ。

百地丹波城
――では、貴方様の御命にて。

服部半蔵
…………ニン?

服部半蔵
ちょっとナンて言ったかわかんなかったでゴザル!

百地丹波城
あら、はっきり申し上げませんとわかりませんの?

百地丹波城
値がいくらであろうとも、
お断りしますと申し上げているのですわ。

服部半蔵
……ニニニニンッ!?

服部半蔵
ナンデでゴザルか!?

服部半蔵
今ならオトクな高額カイトリで
金銀財宝ガッポガッポも夢じゃないでゴザルよ!?

百地丹波城
まぁ。
本当にわかっておりませんのね?

百地丹波城
私は、伊賀忍である前に、この地を守護する城娘ですわ。

百地丹波城
伊賀忍としての私は買えても――

服部半蔵
ニニニニニニニニニンッ!?

百地丹波城
――城娘としての誇りは銭金では買えませんわっ!!

服部半蔵
なっ、ナンでヘンシンできるのでゴザルか!?

百地丹波城
さぁ、どうしてでしょうか。

百地丹波城
貴方がいつまでも私を買うなどと、
夢物語をぐだぐだと語っていてくれたおかげですわね。

服部半蔵
はぁ!?
イミがわからないでゴザルよ!?

大多喜城
ならば理解できるように言ってやろう。

大多喜城
貴様が百地丹波城の誇りを傷つけたからだ。

百地丹波城
その通りですわ。

百地丹波城
……激しい感情は城娘の霊力を増幅いたしますものね。

服部半蔵
ヒドイでゴザル!

服部半蔵
あんなにオモワセぶりなことイットイテ!

大多喜城
そんなもの、勝手に信じた貴様が悪い。

大多喜城
伊賀忍の前に城娘である百地丹波城が寝返るなど、
あるはずないであろうが。

服部半蔵
ムキーーーーーーーーーーー!

服部半蔵
こうなりゃヤケでゴザル!!

服部半蔵
者ドモ!
戦うでゴザルよ!!

桃形忍者軍団
樹上飛行ノ術!

桃形忍者軍団
水遁ノ術ゥ!!

千狐
殿!
兜たちが頭上と水辺からそれぞれやってきております!!

やくも
気を付けるだにぃ!!

服部半蔵
そして、拙者のニンジュツでコンドこそ
タオシテやるでゴザルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!

大多喜城
むっ、前回戦った時より霊力が増しておる……!

百地丹波城
どれほど霊力が大きかろうとも、所詮は未熟な忍び!

百地丹波城
私が負けるはずありませんわ!

百地丹波城
御頭!
百地丹波城は貴方の下知のままに!

後半
百地丹波城

これにて、貴方との縁も終いですわっ!!

服部半蔵
ニニンッ…………!

服部半蔵
ま……マケタでゴザル…………!

服部半蔵
も、モウ無理でゴザル!
て、撤退でゴザーーーーーーーーーーール!!

柳川城
兜たちが撤退していきます……!

大多喜城
うむ、ようやっとだな……。

千狐
これで、この地にも平和が戻りましょう!

百地丹波城
皆さま、長きに渡る『縁切鋏』の収集と、
巨大兜との戦いへの力添え。

百地丹波城
本当にありがとうございました!

大多喜城
殿、我からも礼を言わせてくれ。

大多喜城
我が知己を救っていただき、
まことにかたじけのうござった!

殿
……………………!

百地丹波城
今後、もしも伊賀の忍びの力が必要とあらば
いつでもお申し付けくださいませ。

百地丹波城
ぜひ、無償でご奉仕をさせていただきますわ。

大多喜城
おや、相応の報酬がないと仕えないのではなかったのか?

百地丹波城
ええ、もちろんそれは変わりはしませんわ。

百地丹波城
ですが、御頭は縁あって出会えたお方。

百地丹波城
その絆に対して値段などつけられませんわ。

やくも
百地丹波城が味方なんてこれほど心強いことはないだにぃ!

百地丹波城
うふふっ。
お任せくださいな!

百地丹波城
……そうですわ、柳川城さん。

柳川城
はい、なんでしょうか?

百地丹波城
お耳を拝借いたしますわね。

柳川城
え?

百地丹波城
(今度遊びに行かせていただきます折には、
 ぜひ御頭との惚気話、聞かせてくださいませね)

柳川城
(ひぅ…………!)

殿
……………………?

柳川城
(さ、最後の最後にやめてください……)

大多喜城
おい、百地丹波城。

大多喜城
あまり柳川城どのをからかってやるでない。

百地丹波城
まぁ、大多喜さま。

百地丹波城
そんなつもりはありませんわよ?

大多喜城
……柳川城どの、済まぬ。

大多喜城
前から百地丹波城はこういうところがあってな……。

柳川城
い、いえ……。

柳川城
少し驚いただけですので……。

やくも
さーて!
そろそろ帰るだにぃ!

千狐
ええ、そうね。
殿、此度の遠征も本当にお疲れ様でした!

――数刻後、某所にて。

服部半蔵
……只今、モドッタでゴザル。

???
戻ッタカ、半蔵。

???
シテ、此度は……。

服部半蔵
守護者のヒトリである
百地丹波城のチカラを奪うことにイチドは成功したでゴザル……。

服部半蔵
ゴザル、が……ガァァ…………ッ!

服部半蔵
そのアト負けてチカラを取り戻されてしまったでゴザルウウウウウ!

服部半蔵
ニィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!

???
ヨイヨイ……落ち着け。

???
人生、何事も忍耐が肝要。
今ハ、機が熟スのを待つノミぞ……。

???
……イズレ其方の武威が必要トナル時が必ず訪レル。

???
其ノ時まで……弛マヌ努力ヲ続けるのダ……。
半蔵ヨ。

服部半蔵
ハッ!!

服部半蔵
家康様ノ御言葉……。
我ガ胸にシカト刻み申シタでゴザル!

徳川家康
……………………。

忍ぶれど、あさぼらけ -絶弐-

伊賀での戦いから数日が経過していた。
千狐たちが平和を享受していると、おずおずと
悩み相談をもちかけてくる城娘が訪れて……。

前半
柳川城

……はい、お茶が入りましたよ。

千狐
お茶菓子も用意しましたわ。

小田喜城
す、すみませんわざわざ。

柳川城
いえいえ。

柳川城
それで、一体どうされたのですか?
内緒の相談があると仰ってましたが……。

小田喜城
あっ、ちょっと待っててくださいね…………。

千狐
そ、そんなに執拗に見回さなくても、
ここには私たち以外誰もいませんわよ?

小田喜城
そ、そうですよね……。

小田喜城
じゃ、じゃあ、改めて聞いていただけますか……?

千狐
ええ、もちろんですわ。

小田喜城
実は……。

やくも
(このおせんべ硬すぎて噛み砕けないがやぁ!)

百地丹波城
やくもさん、それはかなり硬いので
この木づちで割り砕いて少しずつ食べるといいですわ。

やくも
そうだったんがや!

やくも
いやぁ、さすがは…………ん?

小田喜城
あれっ!?

柳川城
も、百地丹波城さん!?

百地丹波城
うふふ、先日ぶりですわね。

千狐
い、いつの間に!?

百地丹波城
まぁ、私これでも忍びですから。

百地丹波城
ちなみにやくもさんが食べていらっしゃる『かたやき』は
私からのお土産ですわ。

やくも
ちょっとびっくりしたけど、だんだんね!

百地丹波城
いえいえ。

小田喜城
あ、貴女が百地丹波城さんですか。

百地丹波城
ええ、そうですわ。

百地丹波城
大多喜さまからお話は伺っております。
小田喜さまですわね?

小田喜城
あっ、はい。

小田喜城
私も大多喜城ちゃんからお話聞いてます。

小田喜城
確か、縁切りを生業としているとか……。

百地丹波城
えぇ、そうですわよ。

小田喜城
……それなら、きっとこれも何かの縁ですね。

小田喜城
一緒に、悩みを聞いてもらえますか?

百地丹波城
構いませんわ。

小田喜城
ありがとうございます!

小田喜城
実は、大多喜城ちゃんのことで今悩んでるんです……。

柳川城
え?
大抵いつも一緒にいらっしゃいますよね……?

小田喜城
……その、いつもっていうのが問題なんです。

小田喜城
大多喜城ちゃん、すごく過保護なんです……。

百地丹波城
まぁ、大多喜さまが?

千狐
大多喜城さんというと、
いつもとても毅然としていらっしゃるように見えますが……。

小田喜城
多分、私と一緒にいないからそう見えるんだと思います……。

小田喜城
食事の心配に始まって、遊びに行こうとするとどこに行くのか必ず聞かれ、
門限に少しでも遅れると心配されて泣かれますし……。

小田喜城
夜は必ず一緒にお風呂入りたがりますし、
寝る時も私が寝付くまで横で見守ってるんです……。

百地丹波城
まぁ…………。

柳川城
そ、想像できませんね……。

小田喜城
最初の頃は素直に嬉しかったんですけど……。

小田喜城
最近は少し窮屈に感じてきてしまいまして……。

小田喜城
それに、いつでも私にべったりだから
大多喜城ちゃんは自分のことができてるのか心配で……。

柳川城
確かに言われてみれば……。

柳川城
所領で小田喜城さんをお見かけするとき、
隣に必ず大多喜城さんがいらっしゃいますね。

小田喜城
で、ですよね……?

小田喜城
そこで……百地丹波城さんにお願いがあるのですが……。

百地丹波城
まぁ、なんでしょう?

小田喜城
縁切りって、あの、ほんのちょこっとだけできませんか?

やくも
縁切りぃ!?

小田喜城
あっ、バッサリ切ってほしいわけじゃないです!

小田喜城
ただ、ほんとーにすこーしだけ、ちょこーっとだけ切れないかなって……。

小田喜城
そしたら、大多喜城ちゃんの中で私への心配が薄くなって
ほどほどくらいにならないかなって……。

百地丹波城
いえ、縁切りってそんなお餅をちょっと分けるみたいに
切れるものではありませんから……。

小田喜城
そ、そうですか……。

百地丹波城
仮に私が切ったとしたら
おそらく敵対するはめになりますわよ。

小田喜城
て、敵対!?

百地丹波城
ええ、例えば――。

後半
百地丹波城

――なんてことになりかねませんわ。

小田喜城
ひ、ひえぇぇ……。

小田喜城
そ、それはダメですぅぅ!!
縁切りの依頼は取りやめにしてくださいぃ……!!

百地丹波城
大丈夫、切ったりしませんわ。

小田喜城
よ、良かったぁ……。

千狐
でも、それじゃあ小田喜城さんは
どうしたらいいんでしょうか……?

百地丹波城
それなら、とても単純にして効果的な解決法がありますわ。

小田喜城
ほっ、本当ですか!?

小田喜城
どうしたらいいんでしょうか!?

百地丹波城
ずばり、腹を割ってしっかり話し合う。

百地丹波城
これに尽きますわ。

小田喜城
え……?

小田喜城
で、でも、もし大多喜城ちゃんに嫌われちゃったら……。

百地丹波城
その点については心配いりませんわ。

百地丹波城
貴女様と大多喜さまは深い縁で結ばれている仲ですもの。

百地丹波城
この程度のお話をしたところで、
大多喜さまが貴女様を嫌うなんてありえませんわ。

小田喜城
…………。

小田喜城
……そうですよね。

小田喜城
それに、たとえ嫌われたとしても、大多喜城ちゃんのためでもあるんだから、
ちゃんと顔を見て話すべきですね……。

百地丹波城
少なくとも、私はそう思いますわ。

小田喜城
……わかりました!
じゃあ、早速ですが行ってきます!

やくも
……あっという間に飛び出して行っただに。

柳川城
小田喜城さん、大丈夫でしょうか……?

百地丹波城
悪い結果にはならないと思いますわ。

百地丹波城
まるで吉野の白雪のような方でしたもの、
小田喜さま。

百地丹波城
それに、大多喜さまはきちんと人の話を聞いてくださる、
器の大きい方ですから。

柳川城
そうですね……。
では、上手くいくことを祈りましょうか。

百地丹波城
ええ。

百地丹波城
結局、
人と人との付き合いは言葉に表さなくては上手くいきませんもの。

百地丹波城
鋏が縁を切る道具なら、
言葉こそが縁を結ぶ道具ですからね。

――浮世に漂い、此世に遊ぶ。

どんな槍や刃でも、生じた因は断てませぬ。

どんな鋏や刀でも、結んだ縁は切れはせぬ。

――あさぼらけ有明の月とみるまでに

吉野の里にふれる白雪――



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]伊勢長島城も~、なんなのあいつら!信じらんない!寄ってたかってライブの邪魔をして!いったいどこから情報が漏れたの?もしかして、殿じゃないでしょうね……!?……そんなわけないか。あたしは、あんたにな~...

[花嫁衣装]鹿児島城

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[花嫁衣装]鮫ヶ尾城

]鮫ヶ尾城はあ……春日山城サマの祝言、想像するだけでドキドキしてしまうっす!ね、ちびサマ~♪……ん?どうしたっすか、トノ?えっ、『主城のことより自分はどうなのか』っすか……?うぐ……これは痛いことを言...

[花嫁衣装]許昌城

]許昌城うーん……。ううーん……。……おや、殿か?すまない、考え事をしていて来訪に気づいていなかった。この間、殿と話してから、結婚に関して城娘達と話をしたのだ。繁栄という目的へ至る手段としての婚姻……...

[花嫁衣装]萩城

目次1 性能1.1 特技1.2 [改壱]特技1.3 計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3性能< [花嫁衣装]チャンドラ・マハル - [花嫁衣装]新田...

[花嫁衣装]秋田城

目次1 性能1.1 特技1.2 [改壱]特技1.3 計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3性能< 延岡城 - [花嫁衣装]ロンドン塔 >[花嫁衣装]秋...

[花嫁衣装]春日山城

]春日山城うーん……。……うーん? ……うん?……殿?すみません! お越しいただいていたのに、今の今まで気づかずにいて!実は先日、坂戸城と謙信公の昔話をしてたのですが、その際、跡継ぎの話題が出たのです...

[花嫁衣装]新田金山城

目次1 性能1.1 特技1.2 [改壱]特技1.3 計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3性能< [花嫁衣装]萩城 - [花嫁衣装]アイリーン・ドナン...