ストーリーテキスト/忍び寄る番人の足音

忍び寄る番人の足音[]

忍び寄る番人の足音 -前-

――妖怪と兜の混成軍が紀伊国に現れたとの報あり。
和歌山城からの手紙により異事を知った殿一行は、
鬼ヶ城らと共に紀伊へと出立する。

前半
――紀伊国・某所。 其所には、地面を見つめ、 険しき表情を映す、ひとりの城娘がいた――。 和歌山城 ふむ……。 和歌山城 この巨大な足跡……およそ人のものとは思えぬな。 和歌山城 そして、周囲に散乱した憤怒に満ちたる霊気の残留……。 和歌山城 これらを考慮するに、妖怪と兜の混成軍の行軍とみて間違いない……。 和歌山城 ……となると、少々まずいことになっているな。 和歌山城 既に殿たちからの報告で、鬼、河童、天狗の封印が 兜らの手によって解かれたという話だが……。 和歌山城 天狗たちが、この紀伊の山林に出向いたということは、 もしかしたら、『ヤツ』との接触を図っているのかもしれぬ……。 和歌山城 …………。 和歌山城 紀伊の地を守るは我が役目……。 和歌山城 だが今回ばかりは単身で手に負える事態とも思えぬ。 和歌山城 なれば私も……彼に協力を仰ぐべき時が来たということか。 そう呟くと、彼女はその秀麗たる顔を上げ、曇り始めた空を見つめるのだった――。 ――二日後。 鬼ヶ城 っしゃー！　今日も俺様の波乗りは絶好調だぜぇ！ 鬼ヶ城 今んとこ、兜らとの戦いの予定も無いみてぇだし、 久しぶりに、とことん遊び倒して―― 鬼ヶ城 ――って、あれ？　向こうから誰かが…………。 能島城 お～いっ！　鬼ヶ城～！ 鬼ヶ城 んだよ、能島城じゃねぇかーっ！ 鬼ヶ城 どーしたぁー？　お前も、一緒にやりたいのかぁ？ 能島城 違うっつーの！　手紙だ、て・が・みぃ！ お前宛に手紙が届いてんだよぉ！ 鬼ヶ城 はぁ？　ったく、こんな時にいったい誰から―― 鬼ヶ城 ……ってこれ！　和歌山城からじゃねーか！ 鬼ヶ城 アイツから手紙とか、イヤな予感しかしねぇんだが……。 能島城 いいからさっさと読んでみろって。 もしかしたら兜討伐の手伝いしろーとかってやつかもしれねーだろ？ 鬼ヶ城 えー、どれどれ…………。 鬼ヶ城 ――っ！？ 能島城 おっ、やっぱり兜討伐の話か？ 鬼ヶ城 …………いや、今回は単なる兜討伐とは違うみてぇだ。 能島城 え……？ 鬼ヶ城 紀伊国に妖怪と兜の混成軍が現れたらしい。 能島城 ま、まじかよ！？ それってかなりマズい状況なんじゃ……？ 鬼ヶ城 ああ……文面的に、切羽詰まった事態なのは間違いなさそうだ。 鬼ヶ城 すぐに殿に報せて、俺様たちも紀伊に向かうぞ！ 能島城 了解だぜ！　そうとなりゃ、全速力で所領に戻ろうぜ！！ ――数刻後・紀伊国某所。 千狐 ……というわけで、鬼ヶ城さんのもとに届いた 和歌山城さんからの文を頼りに此の地にやってきたわけですが……。 長浜城 どうやら此の地に妖怪がいるのは間違いなさそうだね。 不穏な気が、そこかしこにむんむんしてるもん……。 能島城 ったくよぉ、毎回毎回、妖怪たちが姿を現す場所ってのは なんでこう、薄気味悪いところばかりなのかねぇ？ 鬼ヶ城 ……加えて、今日んところは空模様が怪しすぎるしな。 見ろよ。何だかゴロゴロ鳴ってるし、一雨きそうな感じだぜ。 和歌山城 ――そうなんだ、鬼ヶ城。 今まさに雷でも落ちかねん勢いだろう？ 鬼ヶ城 ぬわっ！？　わ、和歌山城！？ 鬼ヶ城 お前、どっから出てきやがったんだ！ 和歌山城 ふふっ、さてね。 それとなく気配を消して近づいてみただけなのだが……、 和歌山城 鬼ヶ城……敵地に来たってのに隙だらけなのは感心しないな。 鬼ヶ城 う、うるせぇ！　今のはたまたまだ、たまたま……！ （ったく、昔っからコイツは、こういうコトするから苦手なんだよ……） 殿 …………。 和歌山城 やぁ殿、久しぶりだな。 きみにまた会えて、本当に嬉しいよ。 殿 …………。 殿 …………！ 和歌山城 ああ。今回ばかりは、私だけでは心許なくてね。 和歌山城 恥を忍んで、救援を頼んでしまったというわけさ。 鬼ヶ城 ……ていうかよ、わざわざ俺様たちに頼まなくても、 仲の良い名古屋城や水戸城らに助けを求めりゃよかったんじゃねーのか？ 和歌山城 …………。 和歌山城 それは、出来ぬ。 鬼ヶ城 何で？ 和歌山城 何ででもだ。 鬼ヶ城 …………。 和歌山城 …………。 鬼ヶ城 …………。 和歌山城 …………。 鬼ヶ城 お前もしかして、未だに雷が苦手なのをアイツらに話してな―― 河童 ――クケケケケッ！ オイオイオイッ、ドーシテコンナ所ニ城娘ガインダァ？ 柳川城 殿！　妖怪たちが姿を現しました！ 殿 …………！ 鬼 ンガァッ……美味ソウナ城娘ガ沢山イルナ。 チョウドイイ、皆マトメテ喰ラッテヤルドォッ！ 天狗 相変ワラズ胃袋ノミデ思考シオッテ……。 イイカ、鬼ヨ。今日ハ勝手ナ行動ハ許サヌカラナ？ 鬼 ンガガッ……面倒クサイガ約束ハ守ルド！ ヤツラヲ仲間ニ引キ入レルタメダデ……。 和歌山城 （奴らを仲間に……引き入れる？） 和歌山城 （やはり――そういうことだったか……！） 和歌山城 ようやく姿を現したな、妖怪たちよ！ 和歌山城 貴様らの企みは、既にこの和歌山城が見抜いている！ これ以上の悪は、絶対に許しはせぬぞ！ 和歌山城 和歌山城、いざ……変身っ！！ 天狗 ――ムッ！？ 何ダ、アノ城娘ノ異様ナ霊力ノ高マリハッ！？ 兜 ア、アレハ……ソンナ、和歌山城ダッテェ！？ 兜軍団 何デコンナトコロニ和歌山城ガッ！？ 兜軍団 アイツ……確カ物凄ク強イ城娘ッテ噂ジャ……！？ 千狐 す、すごい……和歌山城さんが変身した途端、 敵が一斉に警戒心を強めましたわ！！ やくも それだけ和歌山城が強いって証拠だに！ 今回は、安心して見てられそうがや！ 和歌山城 ふふふ……今さら慌てても無駄だ、兜どもよ！ 和歌山城 此の姿になったからには、手加減は―― ――その時だった。 一行の遙か頭上――曇天を埋め尽くす不気味な色を映した雲群から、 身体を震わすほどの雷鳴が轟き始めた。 和歌山城 ――ひぃっ……きゃあああぁぁあっ！！　 殿 …………？ 和歌山城 今、か、雷がぁぁ――！　 と、殿ぉ！　たひゅけてぇ！！　か、雷は……き、きらいなんだ～っ！！ 殿 ――！？ 柳川城 ……え？ やくも ……だに？ 千狐 ……わ、和歌山城さん？ 鬼ヶ城 ったく、やっぱり雷が怖くて俺様たちに助けを求めたって訳か。 千狐 ど、どういうことでしょうか？ 鬼ヶ城 どうもこうもねーよ。 見たまんま……こいつ、雷が大の苦手でな。 鬼ヶ城 俺様も紀伊の城娘だから知ってるんだが、 ここらの山林付近は天気の移り変わりが激しくてよ……。 鬼ヶ城 大方、妖怪との戦闘時に雷の影響で戦えなくなることを心配して、 俺様たちに助けを求めたんだろうさ。 和歌山城 こ、ここっ……こればっかりは……ど、どうしようもないんだ……うぅぅ。 和歌山城 殿ぉ……す、すまないが……、 か、雷がゴロゴロしなくなるまで……代わりに、戦ってはくれないだろうか？ 殿 …………。 殿 …………！ 鬼ヶ城 仕方ねぇ。城娘には得手不得手ってもんがあるからな。 鬼ヶ城 大破するくらいビビっちまってるんなら、今ばかりは協力してやるぜ、和歌山城！ 長浜城 困った時はお互い様ってやつだね♪ 長浜城 それじゃ、殿ぉ～？　和歌ちゃんの代わりに、 ぱぱぱーっと妖怪たちをやっつけにいっちゃお～！
後半
鬼ヶ城 っしゃおらぁ――！！こいつでどうだぁ！！ 鬼 ――ンガァッ！？ コ、コイツラ……前ヨリモ、強クナッテルドッ！ 鬼ヶ城 ったりめぇだ！　鬼の名を持つ城娘としちゃ、 いつまでもお前らなんかにビビってらんねぇんだよ！ 能島城 初めて鬼たちと戦ってから今まで、 妖怪に対抗する手段はいろいろと考えてきたからな！ 長浜城 法術や歌舞が得意な城娘たちからの援護もばっちりだよぉ～！ 和歌山城 ふっ……口ほどにもない奴だ。 鬼ヶ城 ――お前はさっきまで雷に怯えてただろうが！！ 和歌山城 そ、それは言わないでくれ……。 和歌山城 だが……最後の方はそれなりに手助け出来ていただろう？ 鬼ヶ城 ほんっっっとに最後だけだったけどな。 鬼ヶ城 古桃形兜一体だけしか倒してなかったし……。 和歌山城 うぅ……面目ない。 千狐 とはいえ、前よりもずっと妖怪との戦いにも慣れてきましたし、 今回の戦いにおいては、殆ど苦戦してる様子はありませんでしたわ。 やくも みんな、えっぱい修行してたけん、日々の努力が実ったってことやね！ 河童 ク、クケケ……ンダヨ、城娘ノヤツラ、 前ヨリモ強クナッテルナンテ……タダノ馬鹿ドモッテ訳ジャネェッテコトカイ……。 兜 感心シテル場合ジャナイデショ！？ 兜軍団 ネ、ネェ……コレカラドウスルノ！ 兜軍団 サッキ、作戦ガドーコー言ッテタジャン、天狗サン！ 天狗 慌テルデナイ桃形ヨ。 既ニ我ガ策ハ展開サレテオル。 鬼ヶ城 はんっ、何が策は展開されてる、だ！ ここに来て負け惜しみなんざみっともないぜ？ 天狗 負ケ惜シミカドウカハ、己ガ目デ確カメルノダナ……ククク。 鬼ヶ城 なんだと？　どういうこと―― 柳川城 ――待ってください、鬼ヶ城さん！ ヤツらの言うとおり、どこか様子が変です！ 鬼ヶ城 な、何がどう変だっていうんだよ……？ 柳川城 先刻の戦い……あまりにも、手応えがなさ過ぎると思いませんか？ 柳川城 我々が行ってきた対妖怪における準備を差し引いたとしても、 私には、手を抜かれたようにしか思えません……。 能島城 た、確かに……言われてみれば、 わざわざ紀伊に攻め込んできたってわりには、 兜らの数も明らかに少ない気もするな…………。 鬼ヶ城 ……ってことは、後陣が控えてるってことか？ 鬼ヶ城 けどよ、ちょっとばかし数が増えたくらいで、どうってことは―― ？？？ ――誰ダ、我ラガ聖域ヲ侵スノハ？ 鬼ヶ城 なっ！？　何だ、今の声は……？ 長浜城 鬼でも河童でも、ましてや天狗でもない……すごく、不気味な声だったよ……？ 能島城 それに……この、バカみたいに強い霊気は何なんだよ……？ 鬼ヶ城 殿、気をつけろ……足音がどんどんデカくなってきてる……。 ――向こうから何かヤバいのが出てくるぞ！！ ？？？ 異境ノ輩メ……不浄ノ地、我ラガ聖域ヲ何ト心得ルカ？

忍び寄る番人の足音 -後-

不気味な足音と共に姿を現した妖怪、一本だたら。
嘗ては逃げることしか出来なかった、その強大な
敵を倒すべく、今こそ全力を以て立ち向かえ！

前半
？？？ 異境ノ輩メ……不浄ノ地、我ラガ聖域ヲ何ト心得ルカ？ 鬼ヶ城 ――なっ！？ う、うそだろ……アイツが、何でこんなところに……！？ 長浜城 鬼ヶ城ちゃん……あいつを知ってるの！？ 鬼ヶ城 ああ……殿が俺様の城娘としての魂を取り戻してくれた時に、 あのバケモノと一度、紀伊で出会したことがあるんだ……。 鬼ヶ城 あの時は千狐の転移術で何とか戦わずに済んだが……くそっ！ よく考えてみりゃ、此の場所そのものが、あの時の山林の付近だったってことかよ。 天狗 フム……漸ク顔ヲ見セヨッタカ、一本ダタラ。 天狗 全ク……囮染ミタ闘争ヲ此ノ地デ展開シ、 汝ヲ戦場ニ誘イ出スノニハ少々骨ガ折レタゾ。 一本だたら 天狗ヨ……何故ニ貴様ガ此処ニ？ 天狗 此度ハ汝ニ協力ヲ願イ出ニ来タノダ。 天狗 汝ノ知ラヌ間ニ下界ハ様変ワリシテオル。 見ヨ、此ノ『兜』ノ存在ヲ…………。 兜 ……ヒィッ！？ ボ、ボクデスカッ！！ 一本だたら …………。 一本だたら …………アア、此奴ラナラ何度カ目ニシタ事ガアル。 一本だたら マァ其奴ラハ皆、我ガ聖域ヲ侵シタ故―― 一本だたら ――全テ喰ラッテヤッタガナ……ウジュルルル。 兜 ナ、ナンダッテ……！？ 兜軍団 ボクラヲ……タ、食ベタ……！？ 兜軍団 アワワワワッ……！！ 一本だたら 天狗ヨ……貴様モ我ガ聖域ヲ侵ストイウノナラバ、只デハ済マサヌゾ？ 天狗 馬鹿者メガ……汝ノ縄張リ意識ヲ知ラヌ訳デハナイガ、 今ハ然様ナ言ヲ吐イテオル場合デハナイノダ。 一本だたら ……ドウイウコトダ？ 天狗 世ハ此ノ兜ヲ始メ……彼処ニ見エル城娘トイウ名ノ怪異ヲ生ジサセタ。 天狗 ……是ダケデモ尋常ナラザル世理ノ乱レヲ認識デキルダロウ？ 天狗 故ニ、我ハ今……鬼ヤ河童ラト共ニ、 封ジラレシ同胞ノ復活ヲ目指シ徒党ヲ組ンデイル……。 天狗 ……此ノ意味……賢シキ汝ニナラ、解ス事ガ出来ヨウ？ 一本だたら 同胞ノ復活……。 一本だたら ……ソレハ、全テノ妖怪ノ復活……トイウ事カ？ 天狗 然リ……。 一本だたら ………………。 一本だたら ソウカ…………フフ……フフフフッ……。 一本だたら 良カロウ……ナラバ、我ラガ主ノ復活モマタ、 貴様ラノ計画ノ裡ニ在ルトイウコト……。 一本だたら 然ラバ、此ノ一本ダタラ……大望ヲ果タサンガタメ、 今再ビ……聖域ノ外ヘト進マン……。 天狗 ……ソウダ、ソレデ良イ……一本ダタラヨ。 天狗 デハ、我ラト共ニ……先ズハ目障リナ城娘ラヲ駆逐スルトシヨウ。 和歌山城 天狗め……。 和歌山城 やはり、此処に潜む一本だたらの存在を知り、 その上で、紀伊に侵攻してきたというわけか……。 鬼ヶ城 やはり、ってどういうことだよ？ お前まさか、何か情報を掴んでたってのか？ 和歌山城 情報……というよりは推察の産物と言った方が正確だな。 和歌山城 我が紀伊国においては、少し前から 妖怪一本だたらに関する目撃情報が多々あった……。 和歌山城 故に、妖怪と兜の混成軍が此の地に迫ってきたとなれば、 既に封印が解かれていた一本だたらを仲間にしようと画策するのは自明の理。 和歌山城 だからこそ、きみたちに救援要請の文を送ったのだが、 もしかして……気づいてなかったのか？ 鬼ヶ城 気づくも何も、紀伊であのバケモノに出会したのはずっと前なんだよ！ 覚えてるわきゃねーだろうがっ！！ 鬼ヶ城 つーか、お前も雷にビビってる暇があんなら、 もっと早く、そういう大事なことは説明しろってんだ！ 和歌山城 うっ……そんなに言わなくたっていいじゃないか……。 長浜城 もぉ、和歌ちゃんをいじめてる場合じゃないでしょ！ 今はあの一本だたらとかいうのをどーにかしなきゃ！ 能島城 どーにかって……言われてもよ……。 能島城 あの一本だたらという妖怪……これまでの妖怪とは 比べものにならないほどに強そうだぜ……？ 鬼ヶ城 ……けど、あの時みたいに逃げるわけにはいかねーだろ？ 和歌山城 うむ、鬼ヶ城の言う通りだ。 和歌山城 これだけの城娘が揃ってるのだ……きっと、何とかなるはずだ。 鬼ヶ城 とか言って、また雷が鳴っても面倒みねーからな？ 和歌山城 それに関しては安心するが良い。 和歌山城 見よ、鬼ヶ城！　既に我らが頭上の天空は落雷の気色を消し、 御天道様と共に、この戦いを見守っておられるのだからな！ やくも 要は晴れてきたってことやね……。 和歌山城 というわけで、殿よ……心配をかけ申した！ 和歌山城 和歌山城、これより全力にて戦う所存――！！ 殿 …………！ 河童 クケケケッ！　ドウヤラ城娘ラモ準備デキタミテーダナ！ 河童 ンジャ、ソロソロ互イニ真剣勝負トイコージャネーカ！ 鬼 今度コソ……全力デ喰ッテヤルド、城娘ェ……。 兜軍団 ボクラモ……妖怪タチト一緒ニ突撃スルゾ！ 兜軍団 エイッ、エイッ……応――ッ！！ 一本だたら ウジュルルル……行クゾ、不浄ナル者ドモヨ……。 我ガ聖域ヲ侵シタ罪……死ヲ以テ償ッテモラオウ……！！
後半
和歌山城 騎虎の勢撃――妖怪どもよ、これで終いだっ！！ 一本だたら ――グッ、ァアッ……城娘、メェッ……！！ コレホド迄ノ力ヲ……有シテイルトハ――ッ！？ 千狐 す、すごい……和歌山城さんが一本だたらを圧倒してますわ！ 能島城 雷には滅法弱ぇが、やっぱりアイツはただもんじゃねー！ さっすが和歌山城だぜ！ 兜軍団 ……ソ、ソンナ……一本ダタラガ、圧サレテルダナンテ……！ 和歌山城 さぁ、妖怪……そして兜どもよ。決着といこうか。 天狗 フフッ……馬鹿メ。 斯様ナ所デ、一本ダタラヲ討タス様ナ愚ハ犯サヌワ！ 天狗 皆、退路ハ用意シテアル……一本ダタラノ聖域ヘト逃ゲ込ムノダ！ 一本だたら ナッ……フザケルナ！　 我ガ聖域ニ兜ヲ入レルナド―― 天狗 ――何ヲ言ウカ一本ダタラ！ 我ラハ既ニ目的ヲ同ジクスル仲間……受ケ入レヌ理ハ無カロウ？ 一本だたら グムムムッ……止ムヲ得ヌ……。 今回バカリハ特例ゾ……皆、急ギ退避セヨ……。 河童 ンダヨッ！　マダ満足シテネェッテノニ……マァ、次ニ期待ッテトコカ。 鬼 グガガガッ……次コソハ必ズ喰ラッテヤルド……。 兜軍団 ――撤退ッ！　撤退ッ！！ 能島城 おいっ！　待ちやがれぇ！ そう簡単に逃げられると思ってんのか！ 和歌山城 待て、能島城！ これより先は一本だたらが集う地だ。 進めば返り討ちに遭うだけだぞ！！ 能島城 そ……そりゃあ、そうかもしれねぇが…… 能島城 ――あぁっ、くっそぉっ！！ 此処まで追い詰めといて、どうにもできないとか、ふざけんなよ！ 和歌山城 苛立つのも分かるが、今は冷静になるしかあるまい……。 和歌山城 奴らの根拠にて、一本だたらを何体も相手にするわけにはいかないだろう？ 千狐 この先の地には……あの強敵が、何体も……。 やくも 今度戦う時に、大勢の一本だたらが出て来たら、 うちらは、本当に勝てるがや？ 柳川城 そ、それは……。 長浜城 ……うーん。 能島城 厳しい戦いになるのは明らかだよな……。 鬼ヶ城 ――でも、策がねぇってわけでもないだろ？ 和歌山城 というと？ 鬼ヶ城 俺様たちが、今よりもうんと強くなりゃいい。 それだけだ……違うか、和歌山城？ 和歌山城 ……ふっ、相変わらずだな、きみは。 和歌山城 だが、そういうところは嫌いじゃない。 無駄に自信家なところも、それを体現するような馬鹿力もね。 鬼ヶ城 へっ、誉めるんだったらもうちっと、ちゃんと誉めろってんだよ。 殿 …………。 和歌山城 さて、それじゃあ私はそろそろ行くとするよ。 名古屋城や水戸城にも、今回の件は伝えなくてはいけないからね。 和歌山城 ということで殿、此度は本当に世話になった。 和歌山城 この礼は後日、改めて所領へ出向き、確とさせていただくとしよう。 殿 …………。 殿 …………！ 千狐 それでは、殿。我々も所領へと帰還しましょう！ 千狐 此度の遠征も、本当にお疲れ様でした。

忍び寄る番人の足音 -絶-

一本だたらとの戦いから数日後――。
和歌山城と桜尾城は、修練に励む城娘らを
見守りながら、或る事柄について話をし始める。

前半
一本だたらとの戦いから、数日後。 早朝・所領付近の海岸――。 亀居城 ――てやぁっ！　はぁっ！　とぉりゃ～っ！　ノシノシ～！！ 大高坂山城 まだまだ、脇が甘いわノシノシちゃん！ そんなんじゃ、一本だたらには勝てないわよぉ！ 亀居城 むぅぅ～！　だったら、もっともっと頑張るノシ～っ！！ 鬼ヶ城 へへっ、その意気だぜ亀居城！ 俺様もとことん特訓に付き合ってやんぜ！ 防己尾城 とはいえ、亀居城の成長は目覚ましいものがある……。 防己尾城 この調子なら、すぐに教えることなど無くなってしまいそうだな。 桜尾城 …………。 桜尾城 …………。 （亀居城殿があれほど頑張っているとは、実に良き事にございますな） 和歌山城 やけに嬉しそうじゃないか、桜尾城。 桜尾城 これは和歌山城殿……。 桜尾城 その様子ですと、殿への挨拶はもう済ませてきたのですかな？ 和歌山城 ああ。先日の妖怪討伐の協力に関しての礼は、 紀伊の梅干しをたんまりと贈ることで果たしてきたところだ。 和歌山城 といっても、まだまだ礼はしたりないがね。 今は、他に殿のために出来ることがないかと模索中だ。 桜尾城 なるほど。お噂通り、義理堅い御方のようですな。 桜尾城 それにしても、彼の妖怪……一本だたらとの戦いは、 想像を絶するほど過酷なものだったとか……？ 和歌山城 ああ、まさに激戦というに相応しきものだったよ。 和歌山城 見てくれ。ヤツにやられたこの腕の傷は、未だに治りきっていない……。 まったく……此処までの手傷を負わされるとは思ってもみなかったよ。 桜尾城 …………。 桜尾城 (和歌山城殿ほどの城娘が、此程に手こずるのだ……。 ……亀居城殿がお焦りになるのも無理はない) 和歌山城 ――ところで、桜尾城。 きみは彼女らとの修行には参加しないのかい？ 桜尾城 そうしたいのは山々ですが、 今現在は近接武器を得手とする城娘同士の立会ですからね。 桜尾城 いかに我が心が愛らしき子猫ちゃんたちの内に混じりたいと望もうと、 衝動のままにみっともなく行動するほど、私は愚かではありませんよ。 桜尾城 ……それに、こうして皆が修行に励む光景というのは 遠目に見ていても、それはそれは得難きものにございますからね。 和歌山城 得難きもの、か……。 和歌山城 その感慨に関しては、私もきみと同程度に解することができよう。 和歌山城 なにせ、可憐なる城娘らが、ああして大人数で組んず解れつ……だからな。 桜尾城 ふふっ、なかなかに話せる方のようで安心しましたぞ、和歌山城殿。 和歌山城 なに、目を見れば分かるさ……。 和歌山城 きみも、私寄りの城娘だということがね。 桜尾城 これはこれは……お噂通りのご慧眼であらせられますな。 亀居城 ――ふぅ……ちょっと休憩ノシ～。 亀居城 桜尾城ちゃ～ん、喉渇いちゃったからお水が欲しいノシ～！ 亀居城 って、あれ？　和歌山城ちゃんがいるぅ～！ 亀居城 おはようノシ～♪　気持ちの良い朝ノシ～っ！！ 和歌山城 ああ、おはよう。 和歌山城 ところで亀居城。先の訓練……。 どうやら複数の敵に対しての戦を想定していた様に見えたが、もしかして……。 亀居城 うん！　一本だたらが、 複数体出てきた時のことを想定してたノシ！ 亀居城 だってね、千狐ちゃんがこの前言ってたの！ 亀居城 コココンコーッ！　今後は一本だたらたちがい～っぱい出てきて、 戦いが大変なことになるコンッ！　だからみんな修行しまくるココン～ッ！ 亀居城 ――って！ 和歌山城 そ……そんなに千狐は、コンコン言ってただろうか……？ 桜尾城 亀居城殿にとっては、千狐殿はそのように映っているのでしょう。 亀居城 でもねぇ、修行は沢山してるのに、 まだまだ上手く戦える自信がないのぉ……。 亀居城 もし明日とか明後日に一本だたらたちと戦うことになったらどうしようノシ……。 桜尾城 そう、心配することは在りませぬぞ、亀居城殿。 亀居城 ……ふぇ？ 桜尾城 亀居城殿は、この桜尾城が身命を賭してお守りいたします故、 何も心配することなどありませぬと……そう言ってるのです。 桜尾城 それに、今ならば和歌山城殿もいらっしゃいますしな。 和歌山城 そうだな、きみたちが戦闘に加わるというのならば、 先の戦いとは異なる、新たな戦術も考案できるだろうしな。 和歌山城 たとえば、こんなふうにね――。
後半
亀居城 おぉぉ～！　すごいノシ～！ その戦い方なら、たくさんの一本だたらが来ても、勝てるノシ～！ 桜尾城 しかし、それには亀居城殿の更なる修練が必要となってきますな。 和歌山城 そうだな。今のままでは、先に言ったような戦法は難しいだろう。 亀居城 むむむぅ、道は険しいノシ～。 亀居城 でも、焦らずじっくり亀さんのように地道にノシノシ行くノシ～！ 和歌山城 ああ、それが良い。きっと、きみにはうってつけなやり方だからな。 亀居城 えへへ～、和歌山城ちゃんから御墨付きをもらっちゃったノシ～♪ 亀居城 ……あ、でもさぁ、さっきの和歌山城ちゃんの話で、 ちょっと不思議に思ったことがあったんだけどさぁ……。 和歌山城 ん？　どうしたのだ？ 亀居城 和歌山城ちゃんて、どうして戦ってる時に、 雷を落としたり出来るノシ～？ 亀居城 殿から聞いたけど、和歌山城ちゃんは雷が苦手なんでしょ？ 和歌山城 …………。 和歌山城 ――た、確かに！？ 和歌山城 ……というのは冗談として、自らの力ならば、 雷に打たれることはない故、恐れる必要がないのだ。 和歌山城 それに、恐れるからこそ、雷のことは熟知している。 和歌山城 加えて、雷への恐怖は、 城娘たる魂が抱える私の業であり、我が力の一端でもある……。 和歌山城 恐怖の対象が、その実、己を形成する大きな一部であることは、 この世においては、そう珍しいことではないのだよ、亀居城。 桜尾城 そもそも、戦うことへの恐怖が、自衛たる力を形成し、 戦へと駆り立てる――ということはザラですしね。 和歌山城 まぁ、詭弁と言われればそれまでだが、 恐怖と好奇は紙一重……その実、表裏一体なのかもしれぬな。 亀居城 ……うーん。 亀居城 何だかよく分からないけど、和歌山城ちゃんは、 雷が怖くても、頑張ってる格好いい城娘ってことノシ！ 和歌山城 ……ふふ。まぁ、そういう認識でいいだろう。 大高坂山城 ――こ～らぁ！　ノシノシちゃ～んっ！ いつまで休憩してるのぉ～？　そろそろ特訓再開するわよぉ～！ 亀居城 分かったノシ～！　今すぐ行くノシ～！ 亀居城 ってことで、行ってくるね！　桜尾城ちゃん、和歌山城ちゃん♪ 桜尾城 ええ。怪我などせぬよう、お気をつけて。 和歌山城 精一杯頑張ってくるといい、亀居城。 亀居城 は～いノシ～！　いっぱいノシノシしてくるノシ～！ 和歌山城 …………。 和歌山城 ふふ……無邪気なものだな、あの子は。 桜尾城 そこが、亀居城殿の魅力の一つにて候。 和歌山城 ああ。かの有名な吉田郡山城が夢中になるのも、何となく分かった気がするよ。 和歌山城 彼女でなくとも、あれほど可憐な城娘はお持ち帰りしたくなる……。 和歌山城 殿のお許しあらば、我が大奥にて、 彼女を大切に保護することもやぶさかではない……。 桜尾城 ――なんですと！？ 和歌山城 な……ど、どうした急に？ 桜尾城 今、何と申したか、和歌山城殿？ 和歌山城 え？　ああ、保護することもやぶさか―― 桜尾城 ――もう少し前です！ 和歌山城 殿のお許しあらば？ 桜尾城 行き過ぎですぞ。 和歌山城 我が……大奥？ 桜尾城 ――大奥っ！？ 和歌山城 うむ、大奥だ……！ 桜尾城 おぉ、なんと甘美な響きでしょうか。 桜尾城 きっと其処には、未だ見たことの無いような光景が在るのでしょうな。 和歌山城 何だ、興味があるのか？ 桜尾城 これ以上ないほどに……！ 和歌山城 ならば、いつの日かきみを招待してあげよう。 和歌山城 ……が、それよりももっと手っ取り早い方法もあるぞ？ 桜尾城 と、言いますと？ 和歌山城 きみたちの所領に、大奥を作るのさ。 桜尾城 ――っ！？ 桜尾城 な、なるほど……その手がありましたか！ 桜尾城 …………と、感心してみたものの、 現状の如き戦いの日々の中にあっては、実現は難しいでしょうな。 和歌山城 資材も人材も、その殆どが戦いのためにと費やされている……。 はぁ、嘆かわしきは現世の乱れよな。 桜尾城 しかし、だからこそ追い求める甲斐がある……。 桜尾城 想像できることは、いつか必ず実現できるものだと、私は考えていますからね。 和歌山城 ふふっ……きみはなかなかに夢想家のようだ。 桜尾城 なに……未だ、童心を捨てきれぬだけですよ。 三本松城 ――桜尾城さ～んっ！　 そろそろ弓の訓練を始めるのですが～、こっちに来て、一緒にやりませんかぁ～！ 三本松城 柳川城さんや島原城さんたちもいますし～！　きっと楽しいですよぉ～！ 桜尾城 ……っと、どうやら子猫ちゃんたちが、 この桜尾城をお呼びのようですな。 和歌山城 それは残念だ。もう少しきみと話がしたかったのだが……。 桜尾城 …………。 桜尾城 ……そのようなお顔をなさいますな、和歌山城殿。 桜尾城 今日という日は、まだ始まったばかりです……。 桜尾城 訓練の後、二人きりでまた、 ゆるりと大奥談議に興じるとしましょうぞ。 和歌山城 桜尾城……。 和歌山城 ああ、約束だぞ？ 桜尾城 ええ。貴公と私の間に結ばれし、違えがたき約束にございます。 そうして、万人を魅了するに足るほどの美しき微笑を浮かべた桜尾城は、 ゆっくりと、三本松城らの待つ砂浜へと歩き出すのであった――。

特に記載のない限り、コミュニティのコンテンツはCC BY-SAライセンスの下で利用可能です。