ストーリーテキスト/御霊は宵闇に騒ぐ

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目次

御霊は宵闇に騒ぐ[]

御霊は宵闇に騒ぐ -序-

涼を納めるべく、殿に最高のもてなしを
用意した城娘から招待を受けた殿一行は、
彼女の御城に向けて、歩を進めていた……!

前半
――上野国、某所。

この季節には欠かせない、
『ある催事』が開かれるにあたって、
招待を受けた殿一行だが――

柳川城
肝試し……ですか。

柳川城
納涼を目当てにしたこの催事も、
もう恒例となりつつあるわけですが……。

やくも
きょろ……きょろ、きょろ……。

千狐
どうしたの、やくも? そんなに周囲を見回して……?

やくも
奴らは……気を抜いた瞬間に襲ってくるだに……。

柳川城
奴ら……?

やくも
脅かすと言われている以上、うちらは何としても動じない……、
という姿勢で臨まなくてはならんがや。
それが礼儀というものだに……。

千狐
どうあがいても……結局やくもは、
脅かされることになりそうな気がするのだけど……。

殿
…………。

???
殿、柳川城、千狐、やくも! 来てくれたのだな!

やくも
(びくぅっ!)

前橋城
よくぞ足を運んでくれた!
今日という日が来ることを、私は心待ちにしていたぞ!

やくも
な、なんだ……前橋城だに……。

前橋城
今宵の肝試しは、期待してくれて良いぞ!

前橋城
夏を楽しむことをそっちのけに、せっせと準備を続けた装飾の数々……。
加えて、この催しを存分に楽しんでもらうため、
強力な助っ人を呼んでいるのでな!

前橋城
まぁ、気乗りがしなかったのか、恥ずかしかったのか……。
古河城の奴が参加しなかったことは、
残念ではあるが……。

千狐
強力な助っ人……?

白河小峰城
お殿様……ようこそいらっしゃいました。
この度は脅かし役として、
前橋城さんから招待いただきまして……。

伊予松山城
こんばんわ、殿。お会いするのは、先日の騒動以来かしら。
脅かす側と脅かされる側……今宵は、
それぞれの立場を思い切り楽しみましょうね♪

柳川城
白河小峰城さんに、伊予松山城さん。
お二人もいらしていたのですね。

白河小峰城
はい……前橋城さんとは、
以前から仲良くさせていただいておりまして……。

白河小峰城
そして、伊予松山城さんと私は、
共に蒲生氏に縁ある城娘同士なのです。

伊予松山城
加えて、肝試しというこの催しに、
ぴったりの逸話も持ち合わせているのよ。
楽しみにしていてね。ふふふ……。

やくも
い、伊予松山城……!

やくも
ここで会ったが百年目だに。
あの恨み、うちは忘れとらんがや……!

伊予松山城
……う、恨み? なんのことかしら……?

やくも
この前伊予国に行った時、
うちらを置いてさっさと温泉旅行に行ってしまったがや!

やくも
うちは伊予松山城たちを見送りながら、
内心……嫉妬の炎をメラメラ燃やしとっただに!

千狐
恨みって……それは、千狐たちが忙しくて、
温泉に立ち寄る暇が無かっただけでしょう?

やくも
それはそれ、これはこれ! だに!
うちはまだ伊予国の温泉巡りを諦めてはいないがや……!

殿
…………。

白河小峰城
さて……殿たちが到着したわけですが、
招待客はこれで揃ったのでしょうか、前橋城さん?

前橋城
うむ、それがな。
あと一人到着すれば全員揃うのだが、
少々遅れているようで……。

やくも
……とか言いつつ、後ろからガバーって現れて、
うちを脅かすつもりだに……!

やくも
これまでの肝試しで、色んな経験を越えてきたうちには、
通用しないだに……! 絶対に油断せんがや!

前橋城
いや、本当に遅れてるだけなのだが……。

前橋城
…………。

前橋城
(駄目で元々、という思いで招待したのだが……むぅ)

前橋城
……この人員で肝試しを開催することも、
予期しておいた方が良いかもしれんな……。

――――

――同刻、前橋城の付近。

岩殿山城
……はぁ。

岩殿山城
参ったわね……随分到着が遅れてしまったわ。

岩殿山城
前橋城さんからの招待を受けて、
悩んだ末に出発……その後もやはり止めようか、
なんて悩んでいる内に、開催の当日を迎えてしまって……。

岩殿山城
…………。

岩殿山城
やっぱり私には、
このような社交的な場は合わないのでしょうか……。
でも――

???
シテ、首尾ハドウダ……?

岩殿山城
――ッ! 今の声は……?

桃形兜
ハイ、準備ハ万端デス!

桃形兜
城娘ノ奴ラ、肝試シニ夢中デ、
僕タチノ動向ニハ、全ク気ヅイテイナイ様子デス!

突撃式トッパイ形兜
ソウカ……ヨシ。コノ調子ナラ、
城娘ハモチロン、殿の首モ……!
フフ、フフフ……。

岩殿山城
(城娘と、殿を……?)

岩殿山城
…………。

岩殿山城
……参ったわね。

岩殿山城
こうなってしまったら……、
黙って帰るわけにはいかないじゃない。

――――

前橋城
――うむ、仕方あるまい。
ならば彼女の到着は諦めて、肝試しを――

???
ギャアアァァァァーーー!

殿
…………。

殿
…………?

兜軍団
オバケ、オバケダァーーーー!

岩殿山城
ほら、もう諦めなさぁい……。
どの道、最後は私に捕まるんですから……!

柳川城
あ、あれは……!

やくも
で、出ただにー! 新たな城娘が、
兜を引き連れて登場しよったがやぁ~!

殿
…………。

前橋城
いや待て……兜を引き連れて、
というより、あの感じはどうみても……。

伊予松山城
侵入した兜を追いかけて、という風に見えるわね……。

殿
…………!

前橋城
うむ、助太刀だな! すぐに出陣しよう!

後半
岩殿山城

ふぅ……何とかなったみたいですね。
突然の事で、どうなることかと――

前橋城
――岩殿山城! 来てくれたのだな!

前橋城
遅かったではないか!
何かあったのかと心配したぞ!

岩殿山城
そ、それは……。

前橋城
まぁ良い、来てくれたのだからな!
先の戦でも共に戦ってくれたこと、感謝するぞ♪

岩殿山城
……いえ、
礼を言われるようなことなんて何も……。

前橋城
よし! 兜を退け、客も揃った!
これでようやく、肝試しを開催できる!

前橋城
準備も概ね整っているのでな、
夜を迎える頃には、殿たちを思い切り怖がらせてやれるはずだ!

白河小峰城
では……私たちも力を合わせて、
一気に準備を整えてしまいましょうか。

伊予松山城
そうね……到着早々で申し訳ないけれど、
貴方にも協力を頼めるかしら、岩殿山城さん?

岩殿山城
…………。

岩殿山城
ええ……そうね。私も力を貸しましょう。

御霊は宵闇に騒ぐ -破-

兜の侵攻を退けた後、城娘たちは今宵に控えた
肝試し大会の準備を進めていた。しかしその中で
浮かない表情をする城娘が、一人……。

前半
――兜の侵攻を退けてから、しばらく。

城娘たちは、肝試し大会の準備を進めていた――。

岩殿山城
…………。

岩殿山城
ごめんなさい……私、
少し休憩をもらってもいいでしょうか……。

前橋城
ああ、構わないが……、
体調が優れないのか? 大丈夫か?

岩殿山城
ええ、少しだけ。でも平気……。
すぐに良くなると思うから。

岩殿山城
それじゃ……。

前橋城
…………。

白河小峰城
元気……ありませんでしたね。岩殿山城さん。

伊予松山城
そうね。準備の最中にも時折手を止めて、
何か考え込んでいるように見えたけど……。

前橋城
(岩殿山城……)

白河小峰城
…………。

白河小峰城
ああ……何だか、私も疲れてしまったようです。
提案なのですが……ここは一つ、
皆で揃って休憩を取りませんか?

伊予松山城
ええ、そうしましょうか。
準備の完了まではまだしばらく掛かるのだし。

伊予松山城
だから前橋城さんもゆっくりお休みして。……ね?

前橋城
……すまない、
白河小峰城、伊予松山城。心遣い感謝する。

前橋城
では、私はしばらく席を外させてもらう。

白河小峰城
承知しました。いってらっしゃいませ。

――――

岩殿山城
……はぁ。

岩殿山城
やっぱり心労が尽きないわねぇ。
これだけ多くの城娘と共に居ると。

岩殿山城
……難しいものですね。
いざ、交友を深めるとなると……。

岩殿山城
……仲良くお喋りしている、ただそれだけのことなのに。
ふとした瞬間に不安が浮かんできてしまう。

岩殿山城
裏切り、離別、悲しい最期、
そんな結末がどうしても頭を過ぎって――

前橋城
――なんだ、こんな所にいたのか。

岩殿山城
…………っ。
前橋城さん……。

前橋城
隣、失礼しても良いか?

岩殿山城
ええ、どうぞ……。

前橋城
なんだか、表情が固いな……?
それに、体が強張っているように見える。

岩殿山城
……そうでしょうか。
自分では意識していなかったけれど。

岩殿山城
やっぱり緊張しているのかしら。
ここに居るのは、あまり面識の無い城娘ばかりだから……。

前橋城
うむ、確かにそうだろうな。
お前にとってはあまり接する機会の無い者ばかり……。

前橋城
……だが、何故だろうな。私の目には、
その緊張に少々……、
違った思いが籠もっているように見えるのだ。

岩殿山城
違った思い……?

前橋城
お前が今、私に感じている思いを、
言葉にするとそれは……『警戒』と言うんじゃないか?

岩殿山城
…………っ。

前橋城
言葉を選ばずに言うのなら……、
『敵意』と言った方が近いかもしれない。

岩殿山城
…………。

岩殿山城
……鋭いのですね。できることなら、
気づかない振りをしていてほしかったのだけど。

前橋城
正直なところ、迷っていた。
口にするべきか、否か……。

前橋城
だがもし……、
お前が心底私たちを敵視しているとなると、
辻褄の合わないことがある。

前橋城
肝試しの手伝いに参加することも、私の招待に応じたのも、
先程、共に戦ってくれたことも……。
どれも、説明がつかないからな。

岩殿山城
……それはどうでしょう。私が内心で、
謀反を画策しているかもしれないでしょう?

岩殿山城
私は岩殿山城……小山田信茂の裏切りや、
断崖から赤子を投げ落とした千鳥姫……。
冷酷な逸話の数々で知られる城娘ですよ?

前橋城
……可能性の話をするなら、そんなことも有り得るだろう。
だが、どの可能性に目を向けるかは……私が選ぶことができる。

前橋城
そして私は、選んだのだ。

前橋城
岩殿山城が葛藤しながらも、
『私たちに歩み寄りたい』とそう思っている可能性を。
お前が此地に来てくれた時にな……。

岩殿山城
…………。

前橋城
それに……そもそも構わないのだ。
お前が私を裏切る……万が一、
それが現実のものになったとしても。

前橋城
たとえ裏切られたとしても悔いることはない。
そう思える相手を『仲間』『友』と呼ぶのだと、
私は考えている……。

岩殿山城
仲間……友……。

岩殿山城
……そう。強いのですね、貴方は。

岩殿山城
…………。

岩殿山城
貴方は……覚えていますか?
……私と貴方が、敵対していた頃のこと。

前橋城
覚えているとも。
私が北条氏の御城だった時代の話だな。

前橋城
御館の乱で、私たちは勝頼の軍に降伏した……。
その後は、織田・豊臣・徳川……時代の変遷と共に、
様々な者の支配を受けてきた……私も、お前も。

岩殿山城
そう……紆余曲折はあったけれど、私たちは仲間同士。
ましてや今は、兜という共通の敵が存在しています。

岩殿山城
私の不安だって、きっと杞憂なのでしょうね。
それは理解している。しているのですけど、私の心は……。

岩殿山城
過去の記憶に囚われて――

千狐
――前橋城さん、岩殿山城さんっ!
どこに居りますか、こちらですかっ!?

岩殿山城
…………っ?

前橋城
……千狐? どうしたんだ、何が起きた!

千狐
兜が現れました!
また軍をなして、この御城に攻め込んできたのですっ!
先程よりも数も力も、強めているようで……!

前橋城
なんと……すぐに動き、態勢を整えねば……!
まずは殿と合流し、意向を尋ねて……。

前橋城
――岩殿山城、お前の力も借りたい!
共に私の御城を守ってくれ……頼めるか!?

岩殿山城
…………。

岩殿山城
……ええ。行きます。貴方と一緒に。

後半

殿
…………!

柳川城
良い調子です! 一時は追い込まれていましたが、
皆様の見事な連携もあって、
少しずつ押し返しつつあります……!

白河小峰城
ですが、兜の数が一向に尽きません……!

伊予松山城
戦いはまだまだ続く、ということね……。

前橋城
まだ余力は残っている……。
皆で力を合わせれば、必ず乗り越えられるはずだ!

岩殿山城
力を、力を合わせて……勝利を……。

御霊は宵闇に騒ぐ -急-

城娘たちが奮戦を見せる中、兜もそれに呼応する
ように力を高めていく……果たして一行は、
無事に肝試しを開催することができるのか……?

前半

兜軍団
城娘……討伐セヨ……!
   城娘……討伐セヨ……!
      城娘……討伐セヨ……!

殿
…………!

千狐
兜たちの霊気が強まっていく……このままじゃ……!

前橋城
岩殿山城……そういえば、身体は大丈夫なのか?
体調が優れないと言っていたような気がするが……。

岩殿山城
忘れてしまったわ、そんなこと。
それに、甘えたことを言っていられる場合ではないでしょう?

前橋城
そうだな……ここに居る兜を全て討たねば、
私たちに未来はない。最善を尽くすだけだ。

岩殿山城
足を引っ張ったりはしないから、ご心配なく。
日頃から、岩殿山の頂上より周囲の様子に目を光らせていますから。
周囲の警戒についてはお手の物です。

前橋城
そうか……それは頼もしいな。

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
承知しました! それでは出陣いたしましょう!

後半

岩殿山城
これでお終いですっ!!


ギャアアアァァァァァァ!

岩殿山城
気配は感じなくなったけれど……、
全て片付いたのでしょうか。

千狐
はい……霊気はもう感じられません!
皆さん、本当にお疲れ様でした……!

前橋城
ふぅ……何とかなったようだな……。

白河小峰城
ありがとうございます、岩殿山城さん。
戦の最中には、何度も助けられてしまって……。

伊予松山城
私も助けられてしまったわ。
……ありがとうね、岩殿山城さん。

岩殿山城
褒められるほどのことじゃないわ。
私の力なんか、全然……。

前橋城
……そうだな。一人の力では成し得なかった。
……これは、皆で掴んだ勝利だ。

岩殿山城
皆で掴んだ……。

前橋城
城娘として、まつわる歴史や願いを背負う以上、
過去に縛られることからは避けられない。
だから私は、お前の悩みを軽んじたりはしない……。

前橋城
だが……お前は守ってくれたじゃないか。
私の御城と、仲間たちを……。

前橋城
……意識してかは知らぬが、岩殿山城。
戦の最中、お前は私に背中を預けてくれた。

岩殿山城
…………。

前橋城
それが先刻話した、お前の苦悩の答えになっている。
……そう考えることはできないだろうか。

岩殿山城
そう、ね……貴方の言う通りです。

岩殿山城
今の戦いで……少しだけ、
未来に希望を見出だせたような気がします。

前橋城
……岩殿山城。

伊予松山城
その『希望』というのには、
私や白河小峰城も含まれている……と、
そう考えて良いのかしら?

岩殿山城
伊予松山城さん……。

白河小峰城
二人だけで盛り上がるなんて、狡いですよ。
仲間外れにしないで、私たちも混ぜてください。

岩殿山城
仲間外れになんて……そんなことはしませんよ。

岩殿山城
肝試しの準備だって、
まだ済んでいません……そうでしょう?

前橋城
……その通りだ! 今宵に控えた肝試しも、
皆の協力が無ければ成功は望めない!

やくも
おお、そうだったがや!

やくも
兜さんを片付けたっちゅうことは、
めいんいべんとの開催ってことやね!

やくも
どんな事があろうと、
鋼のように鍛え上げられたうちの度胸で、
ぜーんぶ跳ね除けてやるだに!

殿
…………。

千狐
この後どうなるか、目に浮かぶの……。

柳川城
兜の邪魔は入りましたが……あと少しで、
肝試しの準備が整うのでしたね。

前橋城
うむ、少々遅れは生じたものの……なに、
気にするほどのことではない!

前橋城
この後……殿たちには、
巨大なお化け屋敷と化した、
私の御城を殿たちに回ってもらうつもりだ!

前橋城
もちろん私たちは、脅かし役として全力を注がせてもらうぞ!

前橋城
さぁ、準備を整えようではないか! 皆で一緒にな!

岩殿山城
皆で一緒に……ですか。

岩殿山城
あまり馴染みの無い言葉だわ……。

岩殿山城
けれど……悪くないわね。ふふっ。

前橋城から貰った言葉を、
岩殿山城は胸の内で幾度も繰り返す。

悩みに終わりなどは無く、
これからも苦しめられ続けるのかもしれない。

しかしそれでも……。
今日の戦を乗り越えて得た灯りを頼りに、
前へ……前へと進んでいく。

その足取りは……昨日までよりも希望に溢れた、
力強いものになる。それだけは間違いないだろう。

御霊は宵闇に騒ぐ -絶壱-

平穏を取り戻した前橋城の御城にて遂に、肝試し
大会が開催される。お化け屋敷と化した城内を
巡ることとなった一行を襲ったものとは……?

前半

――前橋城に押し寄せる兜を撃破してから、しばらく。

一行はついに、肝試しの開催に漕ぎ着けていた――!

前橋城
さて、準備は整った!

前橋城
それでは只今より、肝試しの開催といこうじゃないかー!

やくも
うおおぉぉぉぉぉ!

前橋城
決まりごとは簡単!
殿、柳川城、千狐、やくもを二組に分けて、
決められた順路通りにぐるっと城内を一周してもらう! ただそれだけだ!

白河小峰城
……ということで、
まずは組分けをすることといたしましょう。

伊予松山城
くじを用意したから、さっそく引いちゃってね~。

やくも
くじ引きで組み合わせを……。

やくも
(頼りがいのある殿さん……もしくは、
 柳川城と一緒になりたいとこやけど……)

千狐
なんだか、凄く失礼なことを考えてる気がするの……。

柳川城
(く、暗闇で殿と二人きり……!)

柳川城
(お願いします、お願いします……神様でも何でも構いません、
 何としても私と殿を同じ組に……!
 この夏が終わる前に最高の思い出を……)

柳川城
ぶつぶつ……ぶつぶつ……。

岩殿山城
や、柳川城さん……何やらブツブツと……。

前橋城
準備はいいな?
それでは皆、くじを引いてくれ!

やくも
いくだに……せぇ~のっ!

殿
…………!

――――

そして――

???
ぎゃあああぁあぁぁぁぁ……!

やくも
で、出た出たっ! 出たがやぁ~!!

やくも
ぬるぬるして柔らかいもんがぺたーって!
まるでこんにゃくみたいな感触のが!

やくも
あああ、あっちには人魂みたいなんが浮かんどるがや!

千狐
コッ、コォッ……!
やくも、お願いだから手を緩めて……、
呼吸ができないのぉ……!

やくも
絶対、作りもんなんかじゃないだに、あれは!
ここには、ちみもーりょーがばっこしとるがや!

やくも
殿さんに頼んで、
早ぉー退治してもらわんといかんだにぃ!

千狐
とにかくやくも、千狐の首から手を離し……、
視界が徐々に霞んできたの……!

後半

その頃、殿と柳川城は――

柳川城
何やら叫び声が遠くから……。
今のは、やくもさんたちのものでしょうか。

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
そうですね……私たちも進みましょうか。
順路はこちらですね……。

柳川城
(と、殿と二人きり……しかもこんな暗がりで……!)

柳川城
(うぅ、何だか目眩が……緊張のせいでしょうか……)

柳川城
(だめだめ、こんなことを考えている場合ではありません。
 ……折角の機会なのですから、殿とお喋りを……!)

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
そうですね……時の流れの早さには、本当に驚かされます。

柳川城
早いもので、夏の季節も半ば……。
もうしばらくすれば暑さの盛りも過ぎて、
直に秋の気配が見え隠れし始めることでしょう。

柳川城
前の夏には、体調を崩して寝込んでしまう時期がありました。
ですから今年は……皆さんと一緒に、
この季節を楽しめたことが、何より嬉しいです。

殿
…………。

柳川城
ですが、体調についてはまだまだ油断できませんね。

柳川城
この先、気候や気温の変化も激しくなってきますし、
服装や過ごし方には、一層気を払わなければ。

殿
…………!

柳川城
ふふ、そうですね。やくもさんはいつも薄着ですし、
また千狐さんが世話を焼くことになりそうです。
私も力になってあげなければなりませんね。

殿
…………。

殿
――――っ!?

柳川城
殿っ!? 危ないっ、私の手を掴んで――!

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
足元が段差になっていたのですね。
……転ばなくて良かったです。

柳川城
薄暗いですし、気をつけなければ――

柳川城
――はっ!? す、すみません!
つい手を握りしめたままに! すぐに離しますので!

柳川城
それでは、ゆっくりと進んでまいりましょう!
足元に注意を払いながら!

柳川城
(うう、とっさに手を離してしまいました……)

柳川城
(あのまま繋いでいられたかもしれないのに……私のバカバカ……)

――――

そして、両組の肝試しは無事に終了し――

やくも
はぁ、はぁはぁ……。

やくも
あーーーー……。

やくも
とんっでもない目にあっただにぃ……。

千狐
それは千狐の台詞……死ぬかと思ったの……。

柳川城
千狐さんたちは随分脅かされたようですね。

柳川城
私と殿の方は、あまり……いえ、
全くと言って良い程事件が起きなかったのですが……。

殿
…………?

白河小峰城
(申し訳ありません。
 実は、私と伊予松山城さんの判断で……)

柳川城
(お二人の……?)

伊予松山城
(何せ、お二人があまりに仲睦まじい姿を見せていたものだから……)

柳川城
……なっ!

白河小峰城
(ですから……これはもう、
 思い切って夜の散歩を楽しんでいただこうかな、と……)

柳川城
…………。

柳川城
そ、そういうことだったのですね。

柳川城
何と言いますか、その……。

柳川城
お心遣い、ありがとうございます……。

やくも
叫んで走って……なんだか、どっと疲れたがやぁ。

千狐
殆どやくもの一人相撲だったと思うけど……。

柳川城
ですが、そうですね……。
こちらに到着してからというもの、
休まずに動きっぱなしであったことも事実です。

やくも
もー、うちは一歩も動けんがや……。

やくも
千狐ぉ……。
うちを連れてふかふかの布団の上まで、
転移してほしいだにぃ……。

千狐
そんなことに力を使えるわけないでしょう。
……ちゃんと自分の足で歩きなさい。

伊予松山城
…………。

伊予松山城
……あ、そうだわ。それでは、
殿たちに一つご提案があるのだけど……。

殿
…………?

伊予松山城
お疲れのようでしたら、この後、
伊予国まで転移して温泉を楽しむ……。
というのはいかがでしょうか。

千狐
伊予国で温泉、ですか……。

伊予松山城
温泉というのは、疲れを癒やすにはぴったりの場所よ。
前回、機会を逃したやくもさんの無念を、
晴らすこともできますし……。

伊予松山城
もちろん、移動の際には、
千狐さんの力をお借りすることになってしまうけれど……。

千狐
今日会った時にも、
『恨み』って言っていた程でしたからね……。

やくも
賛成賛成、大賛成だにぃーー!

やくも
夏に入る温泉も乙ってもんがや、
殿さんもそう思うだに!?

殿
…………。

殿
…………!

千狐
承知しました。……では、
伊予松山城さんのお言葉に、
甘えさせてもらうことにしましょうか。

やくも
やっただにぃ~~~♪

白河小峰城
伊予松山城さん……。
ふふ……上手くいきましたね?

伊予松山城
ええ……今の話の流れなら、思いもしないでしょう。

伊予松山城
よもや私の御城にて、
肝試しの準備が万全に整っている、などとは……。

伊予松山城
後ほど殿にお願いしようと思っていたけれど、
その必要が無くなったわ。

白河小峰城
楽しみですね。肝試しはもう終わった、と思ってもらえれば……。
その分、恐怖を目の当たりにした際の衝撃も増すはずですね。

伊予松山城
楽しみだわ……ふふ、ふふふふ……。

伊予松山城
前橋城さん、岩殿山城さんも……、
ぜひご一緒に。いかがかしら?

前橋城
ああ、此地での催しは全て終わったからな。
誘っていただけることは非常にありがたい。
……岩殿山城はどうだ?

岩殿山城
……そうね。

岩殿山城
それでは、私も行くことにしましょうか。
……急いで後片付けを済ませないといけませんね。

御霊は宵闇に騒ぐ -離-

前橋城の肝試し大会から数日。伊予松山城の
誘いに応え、伊予国に転移した一行は早速、
目当ての温泉を楽しんでいたのだが、しかし――

前半

――前橋城での肝試し大会から、数日後。

伊予松山城の誘いに応え、
伊予国に転移した一行は早速、
目当ての温泉を満喫していた――

かぽーーーーん……。

千狐
はぁ~……い~い湯なのぉ~……。

(※しばらく、声のみでお楽しみください)

柳川城
ですね……日頃の疲れが、
温泉に溶け出していくようです……。

やくも
伊予国に永住したいくらいだにぃ……。

やくも
――お、そういえば男湯の方は……。
殿さーん、楽しんどるだに~?

殿
…………。

殿
…………♪

やくも
せっかくこんな機会をもらえたんやし、
うちらと一緒に入れば良かったんに……。

やくも
今からでも遅くないがや。
うちがひとっ走り行って殿さんを――

柳川城
だ、だめですよそんなこと!

千狐
そうなの! 殿と混浴だなんて、
色々と大変なことになってしまうの!

――――

その頃、伊予松山城は――

伊予松山城
ふふ、殿たちは温泉を満喫している様ね……。

白河小峰城
はい、そのようですね。

前橋城
……それでいったい何の用なのだ、伊予松山城?

岩殿山城
私たちに話がある、とのことですが……?

伊予松山城
時間を作ってくれてどうもありがとう。
話というのは、殿たちが温泉から上がった後のことなんだけど……。

白河小峰城
実は私たち……この後、
殿たちを脅かしてあげようと思っていまして……。

前橋城
……ほう、なるほど。
悪巧みの相談か。面白そうな話じゃないか。

岩殿山城
とはいえ、前橋城さんの御城と同じように、
肝試しをするなら、準備が必要になるかと思いますが……。

伊予松山城
実はね、準備はもう整っているの。
前橋城さんの御城にも負けず劣らずの出来栄え……。
後は皆の力を借りるだけ、というところなの。

前橋城
なんと、そうだったのか!
準備がいいじゃないか。

白河小峰城
殿たちからすれば……温泉を出たと思ったら、
いきなり肝試しに、という状態になるわけですね。

伊予松山城
元々、殿たちを招待するつもりではいたのだけど……、
やくもさんのお陰で、円滑にことを運ぶことができたの。

白河小峰城
きっと、存分に楽しんでいただけることと思います。
今の殿たちは観光気分……まさか、
肝試しがまだ続いているとは思わないでしょうから。

岩殿山城
ふふ、やくもさんのあの反応を、
もう一度見れると思うと、わくわくしてしまいますねぇ……。

伊予松山城
……では、皆さんを脅かせるように準備を――

千狐
――――コンっ!?

千狐
気の所為でしょうか……今、
何者かの視線を感じたのですが……。

柳川城
し、視線!?
……それって覗き――!

やくも
殿さんだに!

やくも
男湯で一人ぼっちの殿さんが、
寂しそうにこっちを見てるんだに!
そうに決まっとるがや!

柳川城
(そんな……まさか、
 殿がそんなことを……!?)

柳川城
(いえ……でも、
 殿がそのつもりなら、私……。
 ああでもやっぱり……!)

柳川城
うう、私は……どうすれば――!


ジィ――――……。

千狐
――コンッ!?
見てください、兜ですっ!
先程感じたのは、兜の気配だったのですね!

やくも
大変だに、すぐに応戦せんと!
殿さーん、聞こえてるだにー!?
下知を頼むがや!

殿
…………!

柳川城
だ、だめです殿!
今こちらに入られると、不味いことに……!

やくも
何を言っとるだに、柳川城!
そんな余裕はないがや!
兜が現れとるんだに!?

柳川城
そ、それはそうなんですけどぉ……!

岩殿山城
――――っ!?

前橋城
今の叫び声……聞こえたか?

伊予松山城
ええ! 兜が現れた、って……!

白河小峰城
不味いですね。入浴中の皆さんは、
今、無防備……急いで助力に向かいましょう!

後半

柳川城
はぁ、はぁ、はぁ……。
これで兜は全て、撃破できましたか……?

千狐
とんでもない目に遭ったの。
入浴中に攻め込んでくるなんて……。

やくも
温泉にまで現れるんやね。
伊予国は怖ろしい所だに……。

伊予松山城
温泉で安らぐ隙を狙われたのね……。
助太刀が間に合って良かったわ。

殿
…………。

やくも
温泉で安らぐ隙を……つまり、
兜さんたちはうちらが温泉に入っているのを、
覗いてたってことがや?

千狐
そう思うと気分が悪いですね、凄く……。

柳川城
はい。急激に怒りが込み上げてきますね……。

柳川城
(その上……殿が覗いた、
 なんて勘違いをしてしまうとは……。
 申し訳ありません、殿……。)

やくも
伊予松山城には感謝やね……。
あのままやと殿さんと柳川城が、
すっぽんぽんのまま戦うことになってたがや……。

柳川城
そうですね……皆さんが私たちを守ってくれたお陰です……。

殿
…………。

やくも
――ん?
ところで伊予松山城たちは、
どうしてそんな衣装を着とるだに?

千狐
確かに……まるで、
これから肝試しを行うかのような……?

白河小峰城
……あ。

伊予松山城
……はぁ。残念だけど、
これ以上隠し通すことは難しそうね……。

――――

殿
…………。

千狐
なるほど。
伊予松山城さんの御城でも肝試しを……!

伊予松山城
びっくりさせてあげたかったのだけど……残念だわ。

前橋城
まぁ、無事だったのだから良かったではないか。
驚きは薄れたとしても、肝試しを行うことはできるのだし――

千狐
待ってください、皆さん……何か、嫌な気配が――!?


――ザザッ!

兜軍団
――ザザッ!! ザザザッ!!

殿
…………!

白河小峰城
これは……!

岩殿山城
どうやらまだ、兜の侵攻は終わっていないようですね……。

前橋城
一難去ってまた一難……、
連戦というわけか。まったく忌々しい……!

伊予松山城
このままじゃ温泉に浸かるどころか、私の御城も危ういわ……。
お願い殿、力を貸してくれる?

殿
…………!

御霊は宵闇に騒ぐ -結-

温泉を囲うようにして、なおも攻め立ててくる
兜たち。殿一行はこの軍勢を討ち、伊予国に
平穏を取り戻すことはできるのか……?

前半

兜軍団
城娘……討伐セヨ……!
   城娘……討伐セヨ……!
      城娘……討伐セヨ……!

やくも
あの兜さんたち、もしかして……。

やくも
温泉に入っとるうちらに、嫉妬してるんだに?

岩殿山城
いえ、そういうわけではないと思うけど……。

前橋城
気の緩んでいるところに付け込んで、
一気に制圧しよう、という魂胆か……?

伊予松山城
良い度胸じゃない……。
伊予国の誇り、温泉を荒らそうとするなんて……!

伊予松山城
いいわ、返り討ちにしてあげる!
此地に手を出したこと、後悔すると良いわ……!

後半

千狐
やりました、皆さん! これにて覗き魔……、
もとい、兜の撃退完了です!

伊予松山城
ありがとね、皆……お陰で私の御城も守られたわ。

前橋城
しかし、疲れたな。
こうも過酷な戦が続いては、
満足に皆を脅かせるかどうか……。

伊予松山城
…………。

伊予松山城
そうね……それじゃ、
肝試しは明日の夜に延期しましょうか。
疲れが残っていては、折角の催事も楽しめないもの。

やくも
えーーー……そんなぁ。
そこをどうにかしてくれんだに……?

千狐
無茶を言わないの、やくも。
戦の直後で皆、お疲れなんだから……。

伊予松山城
……ふふ、残念がることはないわよ、やくもさん。

伊予松山城
肝試しは明日の夜。
けれど……今夜何も行わない、
とは言っていないでしょう?

伊予松山城
身体を動かさなくたって、肝を冷やすような、
怖ろしい思いを味わうことはできる……
そう思わない?

やくも
それって、もしかして……!

白河小峰城
つまり……怪談会を行う、ということですね?

伊予松山城
……そう、怪談話!
灯りを囲んで話すだけなら、
戦の疲れは気にしなくてもいいでしょう?

岩殿山城
眠たくなってしまったら、
その場で寝てしまうこともできますね。

白河小峰城
先刻も軽く触れましたが……ここに集ったのは皆、
怪談と縁を持つ城娘ばかり。
きっと、肝試しとは違った恐怖を味わえることと思います♪

やくも
おおお、怪談会! それは楽しみだに♪

千狐
……なんて言いながら、
誰よりも大きな声をあげて怖がるんでしょ、やくもは……。

やくも
そんなことには絶対ならんがや!
……と言いたいところやけど、
うちはもう、虚勢を張るのは止めにするがや!

千狐
あら……?

やくも
皆の脅かしをありのまま受け入れて、思いっきり怖がる!
それがこの催しの正しい楽しみ方や、ってうちは気づいたんだに!

柳川城
要するに、今までと特に変わりは無いということですね……?

千狐
…………。

千狐
(こ、今晩はできるだけやくもと距離を取ることにしましょう。
 また首を締め上げられたら、洒落にならないの……)

柳川城
それでは、伊予松山城さんの御城に移動して、
怪談会の準備を――くしゅんっ。

柳川城
――ぅ、失礼しました。
急に寒気が……。

伊予松山城
無理もないわ……湯船から上がって、
大急ぎで身だしなみ整えて、戦って……。
髪を拭いている暇なんか無かったものね。

白河小峰城
それでは……もう一度温泉に入って、
身体を芯から温め直すことにしませんか?

前橋城
うむ、名案だ。
肝試しが先延ばしになったのなら、
私たちも共に入れるからな。

やくも
よぉし、それじゃー皆で一緒に――

やくも
――って、でも……そしたら殿さんが、
また一人ぼっちになってしまうがや……。

殿
…………。

殿
…………!

やくも
気にしない、って……そうかもしれんけど、
一人で入るより、うちらと一緒の方が、
楽しくなるに決まってるだに……。

やくも
寂しい思いをしとる殿さんを差し置いて、
うちらだけ温泉を楽しむことなんて、できるわけないだに!

伊予松山城
そうね……確かに少し可哀そうかも……。
どうしたらいいのかしら、柳川城さん?

柳川城
な、なぜ私に訊くのでしょう……?

伊予松山城
それは、だって……上手いことやれば、
柳川城さんの好機になるかもしれないじゃない?

柳川城
こ、好機……!?

柳川城
(殿と一緒に温泉……好機……!?)

柳川城
…………。

柳川城
だ、だめです! だめだめ!
そんなの絶対にいけません!

白河小峰城
……そうですか。では、柳川城さんは女湯に……、
希望する者だけが殿と一緒に、というのはいかがでしょう?

岩殿山城
ふふふ……なるほど、それは名案ですね。

柳川城
ど、どこが名案ですかっ!?
そんな破廉恥な行為、絶対に許しませんからねっ!?

柳川城
私たちは女湯に、殿は男湯に!
これ以外は認めませんから! 決して!

前橋城
ふふっ、面白い……。
なかなか、からかい甲斐のある奴なのだな、柳川城は!

伊予松山城
しばらくは退屈しなくて済みそうね。
今夜の怪談会も楽しみだわ……。
貴方もそう思うでしょう? ね、殿?

殿
…………。

殿
…………!

御霊は宵闇に騒ぐ -絶弐-

怪談会が催された後……皆が寝静まった夜深く。
思いがけず目を覚まし、散歩に出かけた伊予国は
その先で思わぬ者と遭遇することになる……。

前半

――皆で怪談会を楽しんだ後、深夜。

各々が布団に入り、すっかり寝静まった頃――

伊予松山城
すー……すー……。

???
…………だに。
……がや、…………だにぃ~……。

伊予松山城
んぅ……?

伊予松山城
(人の声? まるで、すすり泣くような――)

(ずしっ)

伊予松山城
ぅぐ……!?

伊予松山城
お、重い……いったい何事……?

やくも
だにぃ~……うちは、うちは悪くないがやぁ……。

やくも
お供え物に手を付けたのは、
そこの狐耳の、千狐っていう――

伊予松山城
…………。

伊予松山城
やくもさん……。
寝返りをうっている内に、
私の布団まで来てしまったのね……。

伊予松山城
夢の中でもうなされるなんて。
怪談話を聞かせた側としては、喜ぶべきことなのかしらね……。

伊予松山城
…………。

伊予松山城
ふぅ……なんだか、目が冴えてしまったわ。
すぐに寝付くことはできなさそう……。
少し、散歩でもしてこようかしら。

――――

伊予松山城
我が御城ながら……雰囲気が出ているわね。

伊予松山城
夜の闇に、静けさ……。
このまま適当にうろついていたら、
迷子の幽霊の一人でも――

???
ふふ……一人で何を呟いているの?
歌でも詠むつもりかしら?

伊予松山城
――誰っ!?

???
こんばんは。
こんな時間に出くわすなんて奇遇ねぇ。

伊予松山城
こ、これは……?

伊予松山城
私は、悪い夢でも見ているのかしら。
……それとも、怪異に化かされでも……。

???
貴方に今の私がどう見えているかは知らないけれど、
その動揺……私が何者か、心当たりがあるのかしら?

伊予松山城
……何が目的? 何のために私の前に現れたの?

???
嫌な視線ね……そんなに警戒しなくてもいいじゃない。
私はただ、片時の自由を使って、
思い出の地を散歩していただけよ?

???
貴方に咎められるようなことなんて、するつもりはないわ。
だから……放っておいてくれる?

伊予松山城
ま、待ちなさい! どこへ行くつもり? 私と話を――!

後半

伊予松山城
はぁ、はぁ、はぁ……ま、待ちなさいって!
少しで良いから、私と話を――!

???
私が何者なのか、そんなに気になるの……?

???
貴方が会いたいと思っているのは……誰かしら?
盆踊りの晩に、村一番と讃えられた娘?
それとも……城主の呼び出しに応えて、のこのこと姿を現した妊婦?

伊予松山城
…………。

???
……それとも、
こう言ってあげれば貴方は納得するのかしら?

???
『私がここに来たのは、貴方を殺すためだ』って……。

伊予松山城
…………。

伊予松山城
(嘉明様……忠知様……)

伊予松山城
……貴方がそのつもりなら、
私に躊躇う理由はないわ。

伊予松山城
今の私は、多くの命の上に成り立っている。
……その事実はちゃんと自覚してるもの。

伊予松山城
だから、私の首が欲しいなら――

???
――つまらない話ね。

伊予松山城
…………。

???
貴方が死んだって、
とうの昔に此世を去った私の気が晴れるだけ。
……誰の命も帰ってこない。

???
この御城が憎くてたまらない……確かに、
そんな思いに囚われていた時もあったわ。
けど、過去を思ったって悲しみが増えていくだけなのよね。

???
そんなことより今は……明日のことを考えていたいわ。

伊予松山城
明日の……。

伊予松山城
……それで、良いのかしら。
私も……明日を思って生きても良いのかしら。

???
…………。

???
後悔して、立ち止まっているだけで許されるなら、
そんな楽なことってないわよね。

???
私は……そんな簡単に、貴方のことを許したりはしないわよ。

伊予松山城
…………。

???
私は……貴方のこと、ずっと見てる。
ずっと恨んでるわ。これからも、ずっと……。

???
だから貴方は……死ぬ気で生き抜きなさい。
死ぬ気で楽しんで、死ぬほど苦しんで……それから逝きなさい。

???
逃げることだけは、絶対に許さないわ。

伊予松山城
分かった……心に留めておくわ。

???
…………。

???
それはそうと、この御城の飾り付け、
素敵ね……気に入ったわ。

伊予松山城
……ええ。時間をたっぷり掛けたもの。
肝試しのためにね。

???
肝試しは……明日の夜だったわね。

???
あの蛇の女の子……脅かし甲斐がありそうじゃない。
ふふ、乱入してちょっと悪戯しちゃおうかしら。

伊予松山城
……ぜひお願い。
きっと楽しんでくれると思うわよ。

???
そう……それは面白そうね。――あら?

???
誰か……こちらに向ってきているわね?
貴方を探しているみたい。

伊予松山城
あら……私が布団を離れていることに、
誰かが気づいたのかしら……?

???
こんなところを見られたら、ややこしいことになりそうね。
私はこの辺で、失礼しようかしら。

伊予松山城
……そう。できるなら、
もう少し話したかったのだけど……。

???
…………。

???
言ったでしょう。過去を思っても、
悲しみが増えていくだけ……。

???
だから、長居しないに越したことはないのよ。
とうに終わっている私は、
存在そのものが『過去』みたいなものだから。

伊予松山城
…………。

???
貴方も早く戻りなさい……あまり夜更ししていると、
明日の肝試しに差し支えが出るわよ……?

???
それじゃあね……。

伊予松山城
ええ、それじゃ……。

――――

白河小峰城
……伊予松山城さん?
そこに居るのは、伊予松山城さんですか?

伊予松山城
ああ、白河小峰城さん……。

白河小峰城
……心配しましたよ。
やくもさんの寝言で目を覚まして身体を起こしてみたら、
伊予松山城さんの布団がもぬけの殻で……。

伊予松山城
心配してくれたのね……どうもありがとう。

白河小峰城
……声が聞こえたような気がしたのですが、
誰かとお喋りでも?

伊予松山城
…………。

伊予松山城
ええ。旧い……、
友人と顔を合わせたものだから……。

白河小峰城
お友達……。
その方は伊予松山城さんに、何と?

伊予松山城
笑っていたわ。
御城の飾り付けを見て、『素敵ね』と。

白河小峰城
そうですか……それは良かったですね。

伊予松山城
…………。

伊予松山城
過去というものは……誠に、難儀なものね。

伊予松山城
書き換えることは叶わず、誰かと分かち合うこともできない。
私にはただ……それを背負って、
歩みを進めていくことしかできない。

白河小峰城
気持ちは分かります。
私も……伊予松山城さんと同じく、
尊い犠牲の上に建てられた御城ですから。

伊予松山城
そうだったわね……。

伊予松山城
…………。

白河小峰城
……伊予松山城さん?

伊予松山城
……よし! クヨクヨするのはもうお終い!
まずは、明日の肝試しを成功させること……、
そのためにできることを考えなきゃ。

白河小峰城
ええ……そのお友達もきっと、
楽しみにしていることと思いますよ。

伊予松山城
そうね……それじゃ、布団に戻りましょうか♪

白河小峰城
そうですね。明日のために、
しっかり休みを取っておかないと。

――そう微笑み掛けた後、
白河小峰城は床の間へ向けて歩み始める。

伊予松山城も、その背を追おうと歩を進める――
その間際、踏み出しかけた足を止めて、後ろを振り向く。

伊予松山城は『彼女』が立っていた場所を見つめ、
しばらく何事か考えた後……、
晴れやかな笑顔を浮かべて、再び歩き始める。

明日も明後日も、その先も……、
きっと良い日になる。してみせる。
そんな思いを胸に秘めながら。



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