ストーリーテキスト/幽けき冷の肝試し

ページ名:ストーリーテキスト/幽けき冷の肝試し

目次

幽けき冷の肝試し[]

幽けき冷の肝試し -序-

寝苦しき夏の夜、やくもたちは眠れずに困っていた。
なんとか眠れる方法はないかと模索していると、
ある一室から何やら聞こえてくる声が――。

前半
――とある夏の夜。

やくも
うぅぅ……なんだかここ最近暑いからか寝苦しいだにぃ……。

千狐
あら、やくも……?

やくも
あれ、千狐も起きてたがや?

千狐
えぇ……。ちょっと眠れなくて……。

柳川城
やくもさんもでしたか……。

やくも
ありゃあ、柳川城もかや……。

柳川城
夜も暑く感じられるなんて本当に、夏、ですね……。

やくも
にしてもこれじゃあ例年より暑いがやぁ……。
眠れないのは困るだにぃ……。

???
――うして…………だったとさ……。

???
――うわぁ……こわーい…………!

千狐
あら? なんだか盛り上がっているような声が……。

柳川城
ここ、泊まりにいらしてる松江城さんの部屋ですよね?
いったい…………。(すっ)

大宝寺城
じゃあ松江城お姉ちゃん!
おやすみー!

松江城
はい、おやすみなさい。

松江城
……ぐすっ。
そして、こんばんは、皆さん。

柳川城
ええ、こんばんは。
……このような夜更けに何をなさっていたのですか?

松江城
実は、皆さんに怪談話をせがまれまして……。

千狐
か、怪談?

松江城
えぇ。涼をとるには肝を冷やすのが一番……。

松江城
あ、団扇の風をお裾分けします。(ぱたぱたぱた)

やくも
あぁ~、涼しいだにぃ……。

やくも
……ってそれだがや!

松江城
えっ? ぐ、ぐすっ、な、なんですか……っ!?

千狐
こら、やくも。夜に大声出さないの。

やくも
あちゃ、ごめんだに。

やくも
でも、肝を冷やせば気持ちも涼しくなるっていうのは道理だと思ったがや。

柳川城
な、なるほど……。

千狐
確かに一理あるとは思いますが……。
肝を冷やすということは、恐怖を味わう羽目になるということで……。

柳川城
ですね……。

松江城
えへ。わたし、怪談話には自信がありますから、
暑さを忘れさせるくらいお手の物ですよ。

柳川城
うぅ、涼を得られそうなのはありがたいですが、
それと引き換えに恐ろしい思いをするとなると……。

松江城
うーん、涼しさと怖さは等価ですから、
それは仕方ないですねぇ……ぐすっ。

松江城
……そうだ、どうせ肝を冷やすのならいっそ肝試しを開催しませんか?
わたしの地元にならちょうどいい場所もありますし……。

やくも
肝試し! それだにぃ!

やくも
ようし、そうと決まれば肝試し用の装飾を作るだに!

松江城
それだと脅かし役の人手もいりますね……ぐすっ。

松江城
……そうだ、怪談仲間の城娘たちに連絡してみましょうか。

柳川城
か、怪談仲間……!?

やくも
おぉー! いいだに、いいだにぃ!

やくも
よぉし! 肝試しに向けて頑張るがやぁ!!

松江城
わたしも本領発揮です、とっても楽しみ……えへっ。

――数週間後。

やくも
殿さん! こっちだにぃー!

殿
…………!

柳川城
こ……ここは……墓地……!?

千狐
ちょっとやくも! まさかお墓で肝試しするつもり!?

千狐
ここでは死者が眠っているんだからそれを妨げるような真似は――。

やくも
千狐、よく見るだに。
これ全部張りぼてだがや。

千狐
張りぼて? そんなわけ……。

柳川城
せ、千狐さん!?
この墓石、板に描いた絵です!

千狐
えぇっ!?

殿
…………!?

やくも
ここはもともとただの空き地だにぃ。

やくも
松江城がこの辺なら大丈夫っていうから、
みんなで絵を描いたり、板を組んだりしてそれっぽいものを作ったがや!

千狐
頑張りすぎよ、やくも……。

やくも
えっへん!

やくも
さ、もうみんな待機してるから行くがやぁ!

千狐
ちょ、ちょっと、押さないでよぉ……っ!

柳川城
うぅ……なんだか、作り物とわかっていてもこの雰囲気は……。

???
――めしやぁ…………。

柳川城
ひっ!(ぎゅっ)

殿
…………!

千狐
い、いったい、何者が――。

帰雲城
ふわめしやぁ~。

やくも
…………。

帰雲城
…………。

やくも
…………。

帰雲城
……怖い?

やくも
全然。

帰雲城
…………ふわぁ。

千狐
ほっ……帰雲城さんでしたか。

帰雲城
…………怖い?

千狐
いえ、とても可愛らしいですわ。

帰雲城
ふわぁ、だめかぁ…………。

殿
…………。(もふもふ)

帰雲城
あぅ、もふもふしないでぇ…………。

柳川城
あぁ、てっきり本物の幽霊がいるのかと……。

柳川城
…………はっ!?

殿
…………。

柳川城
とととと殿っ! あ、あぁ、そのっ、う、腕に抱き着くなどっ……!
失礼しましたっ!

殿
…………。

柳川城
(は、恥ずかしい……)

帰雲城
うぅ~ん、やっぱり人を怖がらせるって難しいね……。

帰雲城
わたし、いつも怪談友達にも怖くないって言われるんだよぉ……。

帰雲城
……しょんぼり。

やくも
そんなら、特訓したらどうがや?

やくも
うちらと一緒に肝試ししてみれば、なんか上手くいくかもしれんだに!

帰雲城
なるほどぉ……!

帰雲城
じゃあ、早速、今のダメだったところを考えてみるよ。

帰雲城
ふわふわおばけさんはどう思って……って、おねむかぁ。

千狐
でも、最初の声だけで驚かすところはなかなか怖かったと思いますわ。

帰雲城
ふむふむ。

柳川城
あとは……そうですね。
出てくるときが少々ゆっくりだったので、そこはあまり怖くなかったです。

帰雲城
おぉ、そうなんだぁ……。

桃形兜
テユーカ、見タ目ガ可愛スギルカラ怖クナイヨ?

帰雲城
見た目はどうしようもないよぉ……。

桃形兜
デモヤッパ見タ目ハ大事ダシ…………。

帰雲城
…………。

帰雲城
ふわ?

桃形兜
……ッテ、オワァァァァ!? オ前城娘ジャネーカ!?

古桃形兜
オイ、勝手ニ先ヘ行クナ……ッテマタ殿カ!

古桃形兜
丁度イイ! 墓荒ラシツイデニ殿タチモブッ倒スゾ!

千狐
墓荒らし……?

古桃形兜
コノ時期ニアエテ墓ヲ荒ラスコトデ、
人間タチハ墓ヲ守ルコトノ重要サニ気ヅク……!

古桃形兜
タダデサエ少ナイ人員、町ヲ守ラナケレバナラナイノニ
墓ニモ人手ヲ割カザルヲ得ナクナル!

古桃形兜
ソウスレバ、何ヲ守ルベキカワカラナクナッタ人間ドモハ
混乱シ、アットイウ間ニ守ルベキ物ノ重サデ勝手ニ潰レテイクッテ寸法サ!

柳川城
そんなことを考えていたとは……。

やくも
ホントだがや。
たまたまここが偽物の墓場やったから良かったものの……。

桃形兜
……エッ、何ダッテ?

やくも
ここはうちらが頑張って作った張りぼてだにぃ。

兜軍団
張リボテェ!?

古桃形兜
アッ!? コノ墓石ト卒塔婆、本物ノ風景カト思ッタラ絵ジャネーカ!

古桃形兜
嘘ダロ……。
モウ他ノ部隊全部ニ来イッテ伝令出シチャッタヨ……。

兜軍団
エェ……。

千狐
他の部隊……!?

殿
…………!

柳川城
えぇ、どちらにせよ見逃すわけには参りません!
殿、ご下知を!

帰雲城
そうだよぉ。悪いこと考えてる兜は祟っちゃうぞぉ……!

桃形兜
何ソレ。怖クナイヨ。

帰雲城
むぅ、わたしだってホントは怖いんだぞぉ!

帰雲城
ふわめしやぁ~っ!!

後半
帰雲城

ど~ん!!

兜軍団
ギャアアアアアアアアアアアアアア!!

柳川城
これでひとまず目につく兜は全て掃討しましたが……。

柳川城
先程の話が本当なら、兜たちが大挙してここに押し寄せて来るのですよね?

帰雲城
それはマズいよぉ~……。

千狐
やくも! 後は誰が脅かし役で控えてるの!?

やくも
ええと、八王子城、丸岡城……の二人のはずがや!

柳川城
え? 主催の松江城さんは……?

やくも
松江城は自分の城の装飾と、
抱えてる仕事が終わってから合流するって聞いてるだに。

やくも
ここに来る前にも確認しといたけど、
まだ終わってないって言ってたから多分来てない……と思うがや。

柳川城
でしたら、ここから松江城さんのところは距離もありますし、
大丈夫でしょうか……。

帰雲城
大丈夫だと思うよ~。松江城ちゃん強いしぃ……。

千狐
ではまずここから先に控えている城娘の皆様にお声掛けをしなくては……!

柳川城
……で、でもあの、もしかしなくともこの先に進むのですよね?

やくも
あ、脅かし用の仕掛けとかそのままだから気ぃつけるだに。

やくも
あとみんな肝試しが続いてると思ってるだろうから、
多分普通に脅かしてくると思うがや?

柳川城
……ですよねぇ。

千狐
うぅ、とはいえ行かないわけには参りません……。

帰雲城
ふわぁ、兜が来るのが先か、脅かしに耐えて仲間を見つけるのが先か……。

帰雲城
なるほど、これは恐怖だね……。

殿
…………。

柳川城
と、殿。参りましょう……。

殿
…………!

幽けき冷の肝試し -破-

兜たちが、肝試しの場に攻め入ってくる――。
殿一行は急いで八王子城を探し出し、
戦いに備えようとしたが、突如異変が……。

前半
柳川城

うぅ……八王子城さんのいるところはまだでしょうか……。

千狐
やくも、この張りぼて雰囲気ありすぎよぉ……。

やくも
でもじっくり怖がってる余裕がないのが残念がや……。

帰雲城
お~い、八王子城ちゃ~ん……。

帰雲城
兜が出たから、戦いに行くよ~…………。

………………。

帰雲城
ふわぁ……この辺じゃないのかなぁ……?

…………トン、トン……。

千狐
……今、何か叩くような音がしませんでしたか?

殿
…………?

千狐
確か、あちらの方からとんとん、と……。

???
――よよ…………。

柳川城
……え?

???
――よよよ……よよよ……。

柳川城
えっ、ええっ……!?

千狐
ど、どなたか泣いていらっしゃるようですわ……。

千狐
……あ、あの、もしかして迷い込んでしまった方でしょうか?

???
――よよよ……よよよ……。

千狐
こ、声はするのに姿が見えません……!

柳川城
は、張りぼての裏側にいらっしゃるのでは……?

やくも
そこの張りぼては中に入れるようにはなってないがや……。

柳川城
でっ、ではっ、この声はっ……!?

帰雲城
あ、本物の幽霊さんだと思うよ~。

柳川城
や、やめてくださいぃっ!

???
――……ぅう。

殿
…………?

???
――苦しい………助けてくれぇ…………。

殿
…………!?

やくも
……いくらなんでも本格的すぎるがやぁ。

やくも
ちょっと、八王子城。
さすがにもう少し手加減してもいいんじゃないかや……。

???
――痛いぃ……苦しいぃ…………。

やくも
あ、あれ? 八王子城?
この張りぼての井戸に入るって言ってたのに……。

???
――誰だぁ…………?

やくも
ひぃぃっ!! 声だけ聞こえるだにぃぃ!!

帰雲城
あ、ここも幽霊さんがいる。

帰雲城
……ふわぁ? でもこっちの声は届いてないみたい。
困ったなぁ……。

やくも
帰雲城は何でそんなに平然としてるがやぁぁ!!

帰雲城
あー……。一応見慣れてるから……。

やくも
見慣れるほど幽霊ってそんなに今世に溢れてるだに!?

帰雲城
割と……。

やくも
ぎゃあああああ! そんな事実知りたくなかったがや!!

殿
…………!

帰雲城
うん、わたしは平気だけど
八王子城ちゃんがどこにいるのかさっぱりわからないよぉ……。

帰雲城
幽霊さんたちに聞こうにも、どうもこっちの声は聞こえてないみたいだし……。

帰雲城
困ったよぉ、早くしないとここにも兜たちが来そう……。

???
――ぼおおおおーん! ぼおおおおーん!

帰雲城
ふわ!?

???
――ぼおおおおーん! ぼおおおおーん!

殿
…………?

帰雲城
これ、法螺貝? 誰が吹いてるんだろ……。

???
――ぼおおおおーん! ぼおおおおーん!

帰雲城
……あっちから聞こえるね。

殿
…………!

柳川城
と、殿!?
どこへ行かれるのですか!?

柳川城
そちらはただの草むらでは……!?

殿
…………。

殿
…………!

八王子城
あぁ、殿……?

八王子城
嬉しい、見つけてくださったのですね……。

千狐
は、八王子城さん!?
何故そんなところに……?

八王子城
実は、皆さまが来られるのを待っておりましたところ、
近くに兜が来ているのを見つけまして……。

八王子城
なんとか討伐せんと、幽霊さんたちにもかく乱をお願いして
先程まで戦っていたのです。

八王子城
ですが、やはり多勢に無勢……。
とっさに幽霊さんたちが庇ってくださったので、
なんとか隠れ、回復を図っていたのです……。

やくも
兜さんがここに来てるがや!?

八王子城
えぇ、その辺りに……あら?

柳川城
今この辺りに兜はおりませんが……。

八王子城
いったいどこに……?

???
――ぼおおおおーん! ぼおおおおーん!


ウワァァァァァ!? サッキカラ何ナンダコノ法螺貝!?

兜軍団
誰カ撤退命令出シタノカ!?

兜軍団
イヤ、勝ッタンジャナイノカ!?

兜軍団
エッ!? アイツ帰ッチャッタゾ!?


嘘ォ!? 大丈夫ナノカ!?

???
――ぼおおおおーん! ぼおおおおーん!


法螺貝ヲ吹クノ止メロォォォォォォ!

兜軍団
ナンダコレ! ドウシタライインダヨォォォォ!?

兜軍団
ソモソモ方向ハコッチデアッテンノカァァァァ!?

帰雲城
――見つけた!

帰雲城
お~い! 殿~! みんな~! こっちにいるよ~!!

殿
…………!


ゲッ! 殿ト城娘ダ!

柳川城
こんなところに……!

千狐
随分と外れの方に向かっていたのですね……!

八王子城
……ふぅ、私もようやく回復いたしました。

八王子城
それでは、早速お掃除の続きと参りましょう!

後半
八王子城

はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

兜軍団
ウワァァァァァァァァァァァ!!

八王子城
……どうやら、この辺りの兜は全て討伐したようですね。

八王子城
皆さん、ご協力ありがとうございました。

柳川城
いえ、そんな……。

やくも
……あれ? 八王子城、どこ向いて喋ってるだに?
殿さんはこっちにいるがや?

八王子城
もちろん、殿たちにも感謝はしておりますよ。
探しに来てくれてありがとうございます。

殿
…………!

千狐
殿たちにも、ということは……。

八王子城
あ、先程のですか?
霊の皆様方にお礼を申しておりました。

柳川城
……で、ですよね。

帰雲城
あれ? 法螺貝の人だぁ~。

やくも
えっ、どこにいるがや!?

八王子城
あぁ、四郎兵さん、本当に助かりました。

八王子城
あの時だけでなく、今回もまた助けていただけるなんて……。
勇ましい響きのおかげで、私の霊力も早く回復して応戦できました。

八王子城
今はお盆なのに働かせてしまって申し訳ありませんが……。

四郎兵
――ぼおおおおーん! ぼおおおおーん!

八王子城
ふふ、そうですか?

柳川城
(た、多分、四郎兵さんとお喋りなさってるのでしょうが、
 はた目には八王子城さんが一人で喋ってるようにしか見えません……)

帰雲城
四郎兵さん、ありがとぉ~!

四郎兵
――ぼおおおおーん! ぼおおおおーん!

千狐
……一見何もないところから法螺貝の音だけするのは不思議だわ。

八王子城
……さて、ここに兜が現れたということは、
他のところにも来ている可能性が高い、ということですね?

殿
…………!

八王子城
……やはり、もう殿たちはすでに戦っておられたのですね。

帰雲城
次は丸岡城ちゃんのところに行かないとなんだよ~。

八王子城
そうですね、彼女を一人にはしておけません。

八王子城
では殿。丸岡城さんの許に向かいましょう。

幽けき冷の肝試し -急-

兜たちは数を減らしたとはいえ、まだ残っている。
最後に控えしは丸岡城。しかし彼女の許には
既に兜の影が……。急いで加勢に向かえ!

前半
桃形兜

……コノ辺リデアッテルンダヨネ?集合場所……。

古桃形兜
多分ココジャネェノ?

古桃形兜
……ニシテモ、夜ノ墓場ッテチョット他ニハナイ雰囲気ダヨナ……。

烏帽子形兜
分カルゼ、ナンテイウカ、チョットシタトコロニ何カガ潜ンデソウナ感ジナ。

桃形兜
ソレソレ。

桃形兜
……ン?

桃形兜
……ヒッ!? 人魂ッ!?

古桃形兜
ウワッ、出タァッ!?

烏帽子形兜
…………ン?

烏帽子形兜
ヨク見ロヨ、コレ作リ物ダゾ。

古桃形兜
……ア、ホントダ。吊ッテル糸ガ見エル。

桃形兜
ナ、ナンダァ……。ホットシタァ……。

烏帽子形兜
オ前ビビリダナァ。

桃形兜
ダッテ、怖イモノハ怖インダモン……。

古桃形兜
……トコロデ、他ノ部隊ノ連中ハイツニナッタラ来ルンダ?

烏帽子形兜
……確カニナァ。モウツイテテモオカシクナインダガ。

烏帽子形兜
何カアッタノカネェ……。

桃形兜
……アレ、雨降ッテキタヨ。

古桃形兜
ン? オカシイナ。
サッキマデ雲ヒトツナイ晴レダッタノニカ?

烏帽子形兜
……オイ、霧マデ出テキタゾ。

古桃形兜
墓場デコレハ流石ニデキスギダロ……。

桃形兜
墓場……雨ト霧……。

桃形兜
ウゥ、思イ出シチャッタ……。

烏帽子形兜
ア? 何ガ?

桃形兜
前ニドコカデ聞イタンダケド……。

桃形兜
トアル兜ガ、夜ニ歩イテタラ、
途中デ墓場通ラナクチャイケナクテ、仕方ナク行ッタンダッテ。

桃形兜
ソシタラ、サッキマデ晴レテタノニ、
突然雨ガ降リダシテ、霧モ出テキタンダッテ。

古桃形兜
ヘェ、丁度今ノ俺タチト同ジダナ。

桃形兜
……ソレデ、ソイツハ霧ノ中ヲ必死ニナッテ進ンデ、
前ニ前ニト進ンデイテ気ガツイタンダ。

烏帽子形兜
何ニ?

桃形兜
後ロカラ、何カガツイテキテル、ッテ。

古桃形兜
……エ?

――ザアアァァァァ……。

古桃形兜
……雨ノ音シカシネェヨ、ビビラセンナ。

烏帽子形兜
ッテユーカオ前イツマデ話シテンダヨ。
モウ怪談ハイイッテ。

桃形兜
後ロカラ、ズル、ズル、ッテ何カガ這ウ音ガ聞コエテキテ、
ソノ兜ハ逃ゲルヨウニ走ッタンダ……。

――ザアアァァ……。

――…………ズル、ズル……。

古桃形兜
……今ノ音、ッテ……。

烏帽子形兜
気、気ノセイニ決マッテンダロ!

烏帽子形兜
オイッ! イイ加減ニシロォッ!

桃形兜
ヤガテ、耐エラレナクナッタソノ兜ハ、
後ロヲ見テシマッタンダ……。

古桃形兜
…………ゴクリ。

烏帽子形兜
……アァ、見テヤルヨ!
何モイナイッテ証明シテヤラァ!!(クルッ)

桃形兜
ソコニハ、巨大ナ大蛇ノ下半身ヲ持ッタ、
片目ノ潰レタ幽霊ガッ!!

――ザアアァァァァ……。

烏帽子形兜
…………。

烏帽子形兜
何モイネージャン。

古桃形兜
……ホントダ。

桃形兜
…………。

烏帽子形兜
全ク、散々話ヲ引ッ張ッテコレカヨ。(クルリ)

丸岡城
…………ばー。

烏帽子形兜
ヒャアアアアアアアアアアアア!!
出タアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

丸岡城
兜は成敗、です。

丸岡城
てーい……!

古桃形兜
バタン……。

烏帽子形兜
キュー……。

丸岡城
…………。

丸岡城
……良し、です。

丸岡城
……あ、殿が来てるんですね?
わかりました、今行きます……。

――ザアアァァァァ……。

やくも
……この雨、不思議だにぃ。
確かに降ってるのに着物が濡れてないがや。

帰雲城
多分、これ雨の幽霊なんだと思うよぉ~。
面白いねぇ~。

帰雲城
霧も、出てるのに不思議と向こうがわかるよ~。
雲とはまた違ったふわふわだぁ~。

八王子城
これが出ているということは……、
丸岡城さんはもしかしたらすでに兜と戦っておられるかもしれませんね。

柳川城
では、一刻も早く見つけ出して加勢しなくては……!

丸岡城
皆さん、来てくれてありがとうございます……。

柳川城
ひいぃぃっ!?

丸岡城
あ…………。

丸岡城
驚かしてごめんなさい……。

千狐
ま、丸岡城さんでしたか……。

殿
…………。

丸岡城
ええ、兜が来ていたのが見えたので、
急遽お静さんにお願いして雨と霧の霊を出してもらいました……。

丸岡城
敵である兜はかく乱されても、
味方である皆さまの妨げはしません……。

八王子城
なんとも不思議で便利ですね……。

帰雲城
ふわぁ、この霧のゆーれいさん、ふわふわですき~。

丸岡城
……ふみゅ。

兜軍団
ウワァァ!? 霧ガ濃スギテ前ガ見エネェェェ!!

千狐
……どうやら後続が来たようですわね。

柳川城
さぁ、今の内に兜たちを倒してしまいましょうか!

丸岡城
偽の場とはいえ……墓荒らしには、
相応の祟りを与えましょう……。

後半
丸岡城

この恨み……晴らさで……。

兜軍団
ウギャアアアアアアアア!!

八王子城
……ふぅ。
これでここら一帯に来ていた兜たちは掃討完了でしょう。

帰雲城
ふわ、やっと落ち着いたね~。

丸岡城
…………。

丸岡城
お静さんが、お疲れ様、だそうです。

柳川城
(だからそのお静さんという方はいったいどこに……)

八王子城
まぁまぁ、こちらこそお世話になりました。

帰雲城
ありがと~。
落ち着いたときにまた遊ぼうね~。

やくも
……もうこの光景にもいい加減慣れてきただに。

千狐
千狐はまだたまにヒヤッとするわ……。

帰雲城
……よーし。

帰雲城
なんだか、みんなのおかげで怖いって何なのか、
どうやったら怖がらせられるのか分かった気がする!

丸岡城
それは良かったです……。

帰雲城
さぁ、早速成果を見せるよ!

八王子城
まぁ、楽しみです。

帰雲城
んっと……まずはこう……!
もくもく~!

柳川城
これは……霧、とはまた違うような?

帰雲城
それはね、雲の幽霊さんだよ~。

柳川城
同じ幽霊でも、なんだかこれだと少し和みますね。

帰雲城
それでね、次に音だよ。

帰雲城
ふわふわぁ~……。
ふわふわぁ~…………。

やくも
口で言ってるがや……。

帰雲城
そしたら……。

殿
…………。

帰雲城
ふわめしやぁ~っ!!

殿
…………。

殿
…………。(もふもふ)

帰雲城
…………ふわぁ。

丸岡城
ちょっとまだ可愛い……。

八王子城
でも着眼点は良かったと思いますよ。

帰雲城
……ほんと?

八王子城
ええ。

丸岡城
精進……あるのみ……。

帰雲城
ふわぁ、頑張るよ……!

丸岡城
あとは、それこそ松江城さんに聞くのがいいのかも……。

帰雲城
ふわ……。

帰雲城
……確かに!

柳川城
……それほど松江城さんって
人を怖がらせるのがお上手なんですか?

丸岡城
すっごく上手……。

八王子城
流石といいますか、やはり松江城さんの場合、
地元が地元ですからねぇ。

柳川城
え!?

帰雲城
ふわぁ、前に言ってたけど、松江城ちゃんのとこは
怪談のふるさとって言われるくらいなんだって。

柳川城
…………。

千狐
見かけによらないとは正にこのことでしょうか……。
まさか普段あれほど温和な松江城さんが……。

丸岡城
松江城さんの怪談話は、一聴の価値あり、ですよ……。

八王子城
ええ、おすすめですよ。

柳川城
か、考えておきますね……。

殿
…………。

帰雲城
そうだね、殿。
兜のこともあるんだし、どっちにしろ松江城ちゃんのところに行かないとね。

帰雲城
それじゃ~、ふわぁ~っと行こう~!

幽けき冷の肝試し -絶壱-

とある夏の、寝苦しき晩。兜たちが輪になって、
こそこそと語っている。目の前にはロウソクが百本。
そう、これは兜たちの百物語――。

前半
――とある夏の晩。

桃形兜
――振リ返ルト、ソコニハ足ノナイ幽霊ガッ!!

古桃形兜
ヒエェ……。

椎形兜
怖……今度カラ何カ見カケテモ近ヅカネェヨウニスルワ……。

桃形兜
ジャア、ボクノ話ハコレデ終ワリ。

桃形兜
フーッ。

突撃式トッパイ形兜
残リノ火ガツイテル蝋燭ハ何本ダ?

椎形兜
ヒー、フー……アト四本ダナ。

古桃形兜
ハー、意外ト百話分イケルモンダナ。

桃形兜
ネー。

桃形兜
マァ、百物語ッテイウケド、
物語ヲ話シテナクテモイイミタイダカラ楽ッチャ楽ダヨネ。

突撃式トッパイ形兜
大体、石ヲヒックリ返シタラ虫ガタクサン
ウゾウゾシテターナンテ、怪談ッテ言エナイシナ。

桃形兜
エェ、ボクアレ凄イ怖カッタノニィ……。

椎形兜
トリアエズ、次ハ俺ガ語ラセテモラウゾ。

椎形兜
……コレハ、トアル怨念ノコモッタ川ノ話ダ。

桃形兜
ワクワク……。

椎形兜
地元ノ人間ガヨク利用シテイル綺麗ナ川ヲ、
トアル旅人ノ男ガ渡ロウトシタ。

椎形兜
スルトナント、川底カラ突然、
大量ノ蛭ガ現レ、男ノ体ヲ覆イ尽クシテシマッタ……。

桃形兜
ヒエェェッ……気持チ悪イ……。

椎形兜
体中ノ血ヲ吸ワレ、男ハ死ンダ。

椎形兜
ソノ理由ハナゼカ。
ソレハ、近クニアッタ城デ、カツテ殺戮ガ行ワレタコトニ起因スル……。

椎形兜
ソコデ、我々兜調査隊ハ山ノ奥ニアルトイウソノ城ニ向カッタ!

突撃式トッパイ形兜
……ン?

椎形兜
調査ノ結果、昔ソノ城デ惨劇ノ犠牲者トナッタ人タチノ血ガ、
川ニ流レ込ミ、蛭トナッテ自分タチヲ殺シタ仇ヲ待ッテイルトイウコトガ明ラカニ!

古桃形兜
チョット待テ、ソレ怪談カ?

桃形兜
エ? ジャア死ンダ男ハ仇ダッタノ?

椎形兜
出身地ガ仇ト同ジダッタンダト。

桃形兜
何ソノ理不尽!

椎形兜
怪談ッテノハ往々ニシテ理不尽ナンダヨ。
ハイ、オ話オワリオワリ。

椎形兜
フーッ。

桃形兜
エーッ、コンナノアリ?

古桃形兜
今更ダロ。
サ、次ハ俺ダ。

古桃形兜
トアル武者ガ、ドコダカ忘レタケドマァ何カドッカノ島ニ来タ。

突撃式トッパイ形兜
ドコダヨ。
覚エテオケヨ、適当スギルダロ。

古桃形兜
デ、エート、ソノ島デ肝試シシテ、死ンダ。

突撃式トッパイ形兜
怪談語ルノ下手クソカヨ。

桃形兜
死ンダッテ、イッタイ何ヲヤッテ死ンダノ?

古桃形兜
ソレガナ、ソノ島ヲ右ダカ左ダカカラ回ルト呪ワレテ死ヌラシイ。

桃形兜
ソコ一番忘レチャイケナイトコジャナイ!?

桃形兜
ドウスルノ、ボクタチガソコニ行クコトニナッタラ!!

古桃形兜
…………気合イデ頑張ル?

桃形兜
今ドキ根性論トカヤメテヨ!
ソレ何ノ解決ニモナラナインダッテバ!

古桃形兜
フーッ。

椎形兜
シカモソレデ火ヲ消シチャウノカヨ。

桃形兜
ウワァァァン!!
頑張ッテドッチ回リガ正解ナノカ思イ出シテヨー!

突撃式トッパイ形兜
アホラシ……。
後二本ダシ、片方貰ウゾ。

突撃式トッパイ形兜
サテ……俺ガ話スノハ離魂病ノ話ダ。

桃形兜
リコンビョーヨミ?

突撃式トッパイ形兜
離魂病ナ。
魂ガ離レル病ト書クンダ。

椎形兜
フゥン、魂ガ離レルト何ガ起コルンダ?

突撃式トッパイ形兜
離レタ魂ハ、モウ一人ノ自分ノ姿ヲ取リ、
自分ガ本物ニ成リ代ワルベク、本物ヲ殺シニ来ルンダ……。

突撃式トッパイ形兜
ダカラ……モシモ自分ソックリノ奴ニ出会ッタラ、
何ガ何デモ逃ゲルンダゾ。

突撃式トッパイ形兜
捕マッタラ……命ノ保証ハナインダカラナ……。

桃形兜
ヒイィ……怖イヨォ……。

古桃形兜
ゾットシネェ話ダナァ……。

突撃式トッパイ形兜
……フーッ。

椎形兜
……コレデ、最後一本。

椎形兜
誰カ語リタイ奴イルカ?

桃形兜
ア……ジャア、ボクヤルー。

椎形兜
ホイ。

桃形兜
アリガトー。
…………ゴホン。

桃形兜
コレハ、アノ邪悪ナ殿ト戦ッタ兜カラ聞イタンダケド、
何ト、殿ガ従エテイル城娘ノ中ニハ幽霊ヲ操レル奴ガイルラシイ。

椎形兜
幽霊ヲ操ル城娘……!?

八王子城
※椎形兜想像図。

古桃形兜
ブルブル…………。

丸岡城
※古桃形兜想像図。

突撃式トッパイ形兜
幽霊ヲ操ル城娘ネェ……。

帰雲城
※突撃式トッパイ形兜想像図。

桃形兜
ソノ兜、命カラガラ撤退シテキタノニ、
後デ色ンナ幽霊ニ襲ワレテ祟リ殺サレチャッタラシイヨ……。

古桃形兜
ソッチノ方ガ怖ェナ。
運良ク生キ残レテモ祟リデ死ヌンジャドウシヨウモネェシ。

椎形兜
……ナァ、離魂病ノ話ガアッタケドサ、
アレモ言ッチマエバ幽霊ミタイナモンジャン?

椎形兜
ソシタラサ、コウイウ状況モ有リ得ンノカナ――。

後半
突撃式トッパイ形兜

オー、潰シ合イシテテクレルナラ楽ダヨナ。

桃形兜
デモサ、自分ガ自分ヲ殺シニ来ルッテ怖イヨネ……。

桃形兜
ソモソモ自分トハ何ヲ以テシテ自分ッテイウノカナ……。

桃形兜
自分トハ……自我トハ……。

古桃形兜
知ラネーヨ。
イイカラトットト最後ノ蝋燭ノ火消セヤ。

桃形兜
オットット。忘レテタ。
……ジャ、消スヨ?

椎形兜
ゴクリ…………。

桃形兜
……フーッ。

ワッ!

椎形兜
……一瞬真ッ暗ニナッタカラビックリシタゼ。

突撃式トッパイ形兜
ソレマデ明ルイ環境ニイテ目ガ慣レチマッテタカラナ。
ホントハ月明カリダケデモ結構明ルイモンダケドヨ。

古桃形兜
……デ、百物語ッテ終ワッタラ何カアルンダッケ?

桃形兜
サァ……。

桃形兜
確カ幽霊ガ出ルトカ、鬼門ガ開イテ参加者全員アノ世送リトカ、
何カ良クナイコトガトニカク起キルトカ、何モ別ニナイトカ……。

桃形兜
……特ニ何モ起キナイね?

椎形兜
マ、所詮ハ迷信カ。

突撃式トッパイ形兜
……本当ニ何モ起キテナインダヨナ?

古桃形兜
何ダヨ、急ニ怪談話ノ主人公ミタイナコト言イ出シテ。

突撃式トッパイ形兜
イヤ……何ダカ、何カガオカシイ気ガシテナ……。

椎形兜
エェ……ヤメテクレヨ。
実ハ怪異呼ビ出シチャイマシタ~ナンテ洒落ニナラネーヨ……。

桃形兜
特ニ何モオカシナ感ジハシナイけど……。

桃形兜
ダヨネー。

桃形兜
ッテイウカ、コノ大量ノ蝋燭片付ケルノ大変ソウ……。

古桃形兜
アー……。

古桃形兜
……マァ、最悪集メテ溶カシテ固メ直セバ……。

突撃式トッパイ形兜
……念ノ為、点呼ヲ行ウ!

椎形兜
ウワッ、何ダヨ急ニ。

突撃式トッパイ形兜
イーチ!

古桃形兜
ニーイ。

椎形兜
サーン。

桃形兜
よーん。

桃形兜
ゴー。

桃形兜
ローク。

突撃式トッパイ形兜
…………。

椎形兜
別ニ人数変ワッテル訳デモネーシ、ヘーキヘーキ。

古桃形兜
気ノセイダッテ。

突撃式トッパイ形兜
……ウーン?

桃形兜
ソレヨリ、蝋燭片付ケヨーヨ。
明日モ早インダシサ。

桃形兜
ソウダネー。

桃形兜
オ片付ケ、オ片付けー♪

突撃式トッパイ形兜
……ソウダナ。

奇妙な違和感は、きっと気の所為――。

何か納得できないものを抱えつつも、
兜たちの夜は更けていくのだった。

幽けき冷の肝試し -離-

殿一行は肝試しの場所から離れた松江城の許へ。
一方で、松江城はお盆の仕事をあれやこれやと
こなしていたが、その近くに兜の影が迫っていた。

前半
松江城

皆さん、遠路はるばるお疲れ様です。

松江城
親類縁者をお探しの方、会話相手をお探しの方、
その他何かお困りでしたらこちらにどうぞ。

人魂
あの……。
肝試しの人手を探していると伺ったのですが……。

松江城
えへ、ありがとうございます!

松江城
でしたら、会場はこちらになりますので、
あとは現地の霊の方々と協力して持ち場へお願いします。

人魂
はい……。
ふふ……頑張るぞ……。

松江城
ぐすっ、頑張ってくださいね。
あと、やりすぎは禁物でお願いしまーす。

人魂
お嬢ちゃん……話を聞いてくれるかい……。

松江城
はい、なんでしょう?

人魂
子孫がね……お墓参りに来てくれないんだ……。
おかげで……寂しくてねぇ……。

松江城
あぁ……ぐすっ……。
それは寂しいですよね……。

人魂
残してきた子供たちや……孫も心配で……。
ちゃんと元気で……やっていけてるのかねぇ……。

松江城
ぐすっ……今このような時代ですしね、分かります……。

松江城
……どうでしょう、ぐすっ。
夢枕に立って来ない理由を聞いてみる、というのは……?

人魂
そうしたくても……あまり私には力がなくてねぇ……。

松江城
それなら、少しわたしの力をお分けしますよ。
夢の中に出ることくらいはできるはずです。

松江城
ぐすっ……んっ……!

人魂
…………おぉ?

松江城
どうでしょうか……?

人魂
凄い……これなら、行ってこれそうだよ。

人魂
早速行ってくるよ。
ありがとうね、お嬢ちゃん……。

松江城
いえいえ。
上手くいくこと、陰ながらお祈りしておりますね、ぐすっ。

松江城
…………。

松江城
ふぅ……。
今年のお盆も慌ただしいですねぇ、ぐすっ……。

???
あのぉ……もし……。

松江城
はい?

幽霊
すみませんが……ここは、どこでしょうか……?

松江城
(ぐすっ、この幽霊さん……今まで見たことがない方ですね……)

松江城
ここは、出雲国の松江城近くです。

幽霊
はぁ……どうも……。

松江城
……あの、ぐすっ、
もしかして迷い込まれてしまったのでしょうか?

幽霊
迷い……込む……?

幽霊
…………そう、なのだろうか?

松江城
ご自分のお名前や、お家の場所は分かりますか……?

幽霊
……わから、ない……。

幽霊
気が付いたら……浮いていて……。
何だか、綺麗な光が、たくさん、揺れていたから……。

松江城
それを目指してここに来た、というわけですね?

幽霊
はい……。
なんだか……懐かしい、気がして……。

松江城
(たくさんの光を懐かしく感じる、ということは、
 微かな光が多くある光景を日常的に見ていたということ……)

松江城
(ということは、普段高い位置から町の光を見ていたとか……?)

幽霊
私は、どうしたら、いいでしょうか……。

松江城
そうですね……。

松江城
光が見えてここに来たということは、
おそらく貴方の縁者がこの地にいると思います。

松江城
ですから、わたしと一緒に後で探しに参りましょうね。

幽霊
はぁ……。

松江城
今の時期は、どこも人魂さんたちで溢れています。
貴方の見た光というのも、多分人魂さんたちの行列かと。

松江城
たくさんあるはずの行列の中から選んでここに来たのなら、
きっと縁に引っ張られたのです。

幽霊
そう……なんですね……。

幽霊
……はぁ。

松江城
……ぐすっ?

松江城
この大量の気配、まさか……!


――ザッ!

兜軍団
――ザザザッ!!

幽霊
ひ、ひぃぃ!?

松江城
やっぱり兜……!
ぐすっ、でも、どうしてここに……?

松江城
とにかく、皆さんをお守りしないと……!

幽霊
た、助けてくれぇ!

松江城
あっ……!?

桃形兜
……ウワッ、何カ今ゾワット来タ。
何カ冷気ガ通リ抜ケテッタ気分……。

古桃形兜
エ?

兜軍団
ゾ、ゾワワ……ッ。

古桃形兜
エ、オ前ラモ?
怖、ココ何ガインダヨ……。

松江城
だ、ダメですっ!
ぐすっ、も、戻ってきてください!

桃形兜
アノ城娘、誰ニ話シカケテンノ……?

古桃形兜
イヤ怖イワ……。
早ク終ワラセヨウゼ……。

兜軍団
オ……、
オォー……。

松江城
(あぁ……見えなくなってしまいました……ぐすっ。
 また迷ってしまわれたら次は見つけられないかもしれない……!)

千狐
――こちらです!
もう兜の気配が……っ!

殿
…………!

松江城
お、お殿様!?

帰雲城
松江城ちゃ~ん!

八王子城
ご無事ですか!?

松江城
皆さん! ぐすっ、来てくれたのですね!

丸岡城
私たちの方にも兜が出たのです……。
ですから、松江城さんの方にもきっと、と……。

松江城
そうでしたか……ぐすっ。

松江城
でも、とても心強いです。
皆さん、どうか力をお貸しください!

柳川城
もちろんです!
そのために私たちが来たのですから!

松江城
ではありがたく、松江城の本領、発揮させていただきます!

後半
やくも

よーし!兜さんはぜーんぶ片付いただに!

やくも
……って、松江城!?
いきなり走り出してどこへ行くがや!?

松江城
はぁっ……はぁっ……!

松江城
ゆ、幽霊さん!
どこにいらっしゃいますか!?

松江城
ぐすっ、お、お願いです!
返事してくだ――。

幽霊
うぅぅ……。(ぶるぶる)

松江城
あぁっ、ぐすっ、良かった。
そこに隠れてらしたんですね。

松江城
もう離れてはダメですよ?

幽霊
も……申し訳ない…………。

千狐
――や、やっと追いつきましたわ。

柳川城
……その方はどなたでしょうか?

松江城
迷子の幽霊さんです、ぐすっ。

柳川城
ゆ、幽霊?
これほどはっきり見えるとは……。

八王子城
……あら?
柳川城さんにも見えているのですか?

殿
…………。

丸岡城
ふみゅ? 殿にも見えているそうです……。

松江城
あぁ、多分わたしのせいですね、ぐすっ。

松江城
この時期だけはわたしの力も強まる傾向にありまして、
その影響か、傍にいる方が幽霊さんを見てしまうのも珍しくないのです。

やくも
い、言われてよく見たら装飾した覚えのない
人魂がえっぱいあちこちにふわふわしてるだに……。

帰雲城
ふわぁ。

人魂
…………。(ぼそぼそ)

松江城
……え?

八王子城
……今のは、私の聞き違えではありませんよね?

丸岡城
私も、しかと聞きました……。

柳川城
え? どうしたのですか……?

帰雲城
大変だよ。
兜たちの大軍がこっちに向かってくるって……!

やくも
えぇっ!? さっきので終わりじゃなかったがや!?

千狐
……本当ですわ!
多数の霊気がこちらに向かってきております!

丸岡城
構いません……。
何体いようとも倒してみせましょう……。

八王子城
ええ。
もうひと踏ん張り、ですね。

幽霊
ひぃぃ……アレがまた来るのか……。

松江城
大丈夫ですよ。
わたしたちは兜と戦い慣れていますから。

松江城
それに、兜に貴方の姿は見えていないようでした。
だから、危害を加えられるようなことはありませんよ。

幽霊
うぅぅ……分かってはいても……。(ぶるぶる)

帰雲城
ふわぁ……?

帰雲城
(何だろう。この人、どこかで見た気がするよ……?)

帰雲城
(うぅー。思い出せそうで思い出せないよ……)

――ザッ。


――ザッザッザッ。

兜軍団
――ザザザザザッ!!

松江城
……ぐすっ、来ましたね。

やくも
うわっ、凄い数だに……。

丸岡城
……少々手こずりそうですね。

八王子城
ですが、退くという選択肢はあり得ません。
ここで全員幽世へと送って差し上げましょう。

幽霊
ぶつぶつ……ぶつぶつ…………。

柳川城
だ、大丈夫、ですか……?

幽霊
あぁ……あれは……。

幽霊
そうだ…………。

幽霊
思い出した…………。

帰雲城
…………。

幽けき冷の肝試し -結-

迫りくる兜の大軍に、苦戦を強いられる殿たち。
盆に集った魂たちの安寧のために、そして
尊き命の平穏のためにも、敵を全て討伐せよ!

前半
幽霊

思い出した…………。

帰雲城
…………。

幽霊
そうだ……。
あれは……本領安堵の宴の前日で……。

幽霊
突然のことだった……。
私は、何が起きたのか分からなかった……。

兜軍団
――ザッザッザッ!

やくも
うぇ、更に来るがや……?

幽霊
突然……城内に、物凄い勢いで何かが流れ込み……。

幽霊
気がつけば……私は空からただ下を見ていた……。

帰雲城
(本領安堵の宴の前の日、突然城内に何かが流れ込む……?)

帰雲城
(もしかして…………?)

幽霊
何もかもが……もう、そこにはなかった……。

幽霊
城も……町も……。
愛した白川の地の姿も…………。

幽霊
まるで……あの兜という者たちが勢いの如く……。
全てを……奪って…………。

帰雲城
……ねぇ、もしかして、氏理さま?

幽霊
……え?

帰雲城
わたし、帰雲城だよ。
氏理さまのいたお城の、城娘だよ。

帰雲城
あなたは、内ヶ島氏理さまじゃないの?

幽霊
うじ……まさ…………。

氏理の霊
あぁ……そうだ……。
私は……内ヶ島氏理だった……。

帰雲城
ふわぁ、やっぱり氏理さまぁ!(もふぅ)

氏理の霊
そうか……。
お前、帰雲城か……。(もふもふ)

氏理の霊
……また、我々は奪われてしまうんだなぁ……。

帰雲城
……ふわ?

氏理の霊
敵が多すぎる……。
いくらお前たちが歴戦の者といえど、数ばかりはどうにも……。

人魂
――コラッ!! 何を弱気になっておるか!!

丸岡城
ふみゅっ!?

八王子城
え? い、今どこから……?

人魂
情けない! しっかりせんか馬鹿者!!

人魂
この者たちは例え数で負けていようとも、
戦意を漲らせて立ち向かおうとしておるではないか!

氏理の霊
し、しかし、ここは白川郷ではありませんし、
土地勘もない場所です……。

氏理の霊
何か助けになりたくとも、これでは……。

松江城
大丈夫ですよ、なんとかしますから。

丸岡城
そうです……。
見た目には、強そうには見えないかもしれませんが……。

八王子城
安心して、大船に乗った気持ちでいてくださいな。

殿
…………!

氏理の霊
うぅ…………。

千狐
……こちらの声、聞こえているのでしょうか……。

柳川城
どうでしょう……。
なんだか、閉じこもってしまっているような……。

帰雲城
…………。

帰雲城
……氏理さま。
ね、大丈夫だよ。

氏理の霊
え……?

帰雲城
わたしのお友達は、みーんな強いんだよ。

帰雲城
今まで、何度だって兜に立ち向かってきたし、
何度だって勝利を収めて来たんだよ。

帰雲城
氏理さまだって、戦った覚えがあるでしょ?
そりゃあ、相手は兜じゃなかったけど……。

氏理の霊
あ……あぁ……。

帰雲城
あの時の勇気を思い出して、氏理さま。

帰雲城
わたしも占拠されて、どうしよう、って思ってたら、
氏理さまはみんなを守る為に降伏してくれたんだよ。

氏理の霊
……そうだ……。
ただ、あの時は必死で…………。

人魂
そう。
何かを守る為に、あるいは得る為に必死になる。

人魂
必死になっている姿を見た周りが、
勝手に勇気があるだのなんだの褒めたたえることがあるがな。

氏理の霊
でも、私は……それどころじゃなかった……。
ただ失うことが怖くて怖くて……。

人魂
それでいい。
人生なんてのはそんなもんの繰り返しじゃ。

人魂
言いたい奴には好き勝手言わせておけ。
所詮は人の目、人の口よ。カッカッカ。

帰雲城
……それに、あの時はどうしようもできなかったし、
守ってあげられなかったけど……。

帰雲城
今なら、わたしが氏理さまを守れるよ。


――全軍、突撃ィィィィィィィィィィ!!

兜軍団
ウオォォォォォォォォォォ!!

帰雲城
今度こそ、わたしの大事なもの全部、守るんだ!

帰雲城
ふわめしやぁぁぁぁぁ!!

後半
帰雲城

ふわっ!
全部倒したかな!?

千狐
……はい!
辺りにもう兜たちの気配はありません!

八王子城
良かった、これにて掃討完了ですね。

丸岡城
皆さん、お疲れ様です……。

殿
…………!

帰雲城
……氏理さま?
終わったよ。

氏理の霊
す、凄い……。
あれだけの大軍を……たったそれだけの人数で……。

帰雲城
ね。城娘は強いんだよ!

人魂
カッカッカ! よくやった!
さすがはワシが作った城だな!

氏理の霊
……え?
帰雲城を作った、って……。

人魂
何じゃ、ワシが誰だか気づいとらんかったのか?(もふぅもふぅ)

帰雲城
ふわ~♪

氏理の霊
……ひ、ひいお爺様!?

松江城
(あぁ……、やっぱりこの方も縁者だったんですね。ぐすっ。)

松江城
(何だか氏理さんと似た波長だなとは思っていましたが、ひいお爺様でしたか)

人魂
……ともあれ、うちのひ孫が迷惑をかけたの。
すまんかったな。

松江城
いえいえ。
無事に縁者の方に会わせてあげられてよかったです。

八王子城
霊の方々の安寧のお手伝いをするのが私たちのお役目……。
だから、気にすることはないのですよ。

氏理の霊
は、はぁ…………。

丸岡城
皆さんはこれから一緒に過ごされるんですか……?

人魂
最初はそれも良いかと思っておったが、
ひ孫がこの有様ではのんびりなんぞしてられんわい。

人魂
ちと早いが、今回はひ孫を連れて帰るかの。

帰雲城
そっかぁ。
ちょっと残念だけど、仕方ないね~……。

人魂
まぁそう悲しむな。
縁が結ばれれば、いずれまた会う機会があるかもしれんしの。

帰雲城
ふわぁ……。

帰雲城
じゃあ、それまでいい子にして待ってるよ……。

人魂
うむ、またな。

氏理の霊
あ……帰雲城。その……。

帰雲城
ふわ?

氏理の霊
……今度は、私もいいところ見せられるように頑張るからな。(もふぅもふぅ)

帰雲城
ふわぁ~♪

氏理の霊
じゃあ…………。

松江城
…………。

松江城
ぐすっ、お帰りになられましたね。

帰雲城
……なんだか、急に静かになっちゃった。

八王子城
そうですね……。

丸岡城
何だか、どたばたしてあまり肝試しができませんでしたね……。

柳川城
個人的には十分だった気もしますが……。

やくも
なぁに、また肝試ししたくなったらやればいいだに。
夏はまだまだ続くんやし、あの張りぼてもしばらくは置いておくがや。

松江城
そうですね。
ぐすっ、今度こそわたしも参戦させていただきます。

千狐
た、ただでさえ怖かったのにもっと怖くなりそうですわね……。

松江城
……ですが、ひとまず今日のところは皆帰りましょうか。

松江城
兜たちが暴れた後のお掃除もありますからね。

帰雲城
……そうだね。
それに、二人にどぶろくと、ようかんお供えしなきゃ。

帰雲城
殿、今度お裾分けしに所領に行くよ。
それまでは、またね。

殿
…………!(もふぅもふぅ)

帰雲城
ふわぁ♪

――帰雲城は雲一つない夜空を見上げる。

きっと、これからも二人は自分を見てくれているのだろう。
そう思うと、ふわふわとした心もなんだかぽかぽかとしてくるのだった。

幽けき冷の肝試し -絶弐-

時は遡って、困り果てていたとある城娘を
所領で一時保護することにした殿たち。
彼女が帰る前に、とやくもはひとつお願いをする。

前半
――肝試しの日より、一週間前。

――所領。

ウチヒサル城
いやぁ、ホントお世話になっちゃって悪いねぇ~。

千狐
いえ、お気になさらず。
困ったときはお互い様ですわ。

柳川城
しかし、災難でしたね。
台風に巻き込まれて船が壊れてしまうなんて……。

ウチヒサル城
ホントだよ……。
これはもうダメかもなーって色々と覚悟してたんだけど……。

ウチヒサル城
まさかあたしと同じ城娘が助けに来てくれるなんて思わなかったぁ。
これぞ奇跡だよねぇ~。

やくも
ハトたちも無事で良かったがやぁ。

ウチヒサル城
クルッポー♪
異国の出会いに感謝感謝~。

ウチヒサル城
……さて、しばらくいさせてもらうんだから
何かしなきゃとは思うんだけど……。

ウチヒサル城
何かできることはあるかな?

やくも
それなら、ぜひ頼みたいことがあるだに!

ウチヒサル城
おっ、何かなやくもっち~?

やくも
ぜひ、ウチヒサル城の地元の怖い話を聞きたいがや!

ウチヒサル城
こ、怖い話?
何でまた?

千狐
……実は、しばらくしたら肝試しをしようという話があるのですわ。
それで、やくもが最恐の装飾を作るんだーって張り切っているのです……。

やくも
良いものを作る為に、古今東西のあれこれについて知っておいて損はないだに!

やくも
ということで、教えてほしいがや!

ウチヒサル城
肝試しかぁ。急ぎの用事がなかったら参加したかったなー。

ウチヒサル城
……って、怖い話、ねぇ。

ウチヒサル城
う、うぅ~ん……。
急にそう言われてもなぁ……。

???
――失礼、殿はいらっしゃるだろうか?

柳川城
あら? 和歌山城さん!

和歌山城
おや、柳川城。
息災なようで何よりだ。

やくも
久しぶりやねー。
あ、殿さんなら今は席外してるけど多分すぐ戻ってくると思うがや。

和歌山城
ふむ、なら待たせてもらうとしようか。

ウチヒサル城
わー、和歌山ちゃ~ん!
あの時、わざわざ海に飛び込んでまで助けに来てくれてありがとうね~!

ウチヒサル城
おまけに船の修理工まで手配してくれるなんて、
ホントに頭が上がらないよ~。

和歌山城
気にしないでくれ。
私はあくまで君の笑顔を守りたかっただけなのだから。

ウチヒサル城
かぁーっこいい~!

やくも
あ、ちょうどいいだに。
どうせなら和歌山城にも怪談一丁お願いするがや!

和歌山城
ほほう、怪談?
確かに汗ばむこの季節にはいいが……。

ウチヒサル城
あたしからもおねが~い。
実は、最初に怪談頼まれたんだけど、どう語っていいか分からなくて……。

和歌山城
なるほど、そういうことなら一つ話して差し上げよう。

柳川城
(和歌山城さんが真剣なお顔に……!)

和歌山城
……それは、ある夏の日だった。
とある子供が、一体の人形を拾った。

和歌山城
人形は古ぼけていて、薄汚れた代物だったが、
その子供は妙に気に入ってしまった。

和歌山城
いついかなる時にも一緒にいたが、
やがて成長した子供は人形の不気味さに気づいた。

千狐
不気味さ……?

和歌山城
……その人形は、日に日に髪が伸びていく。
そのうえ、置いた覚えのないところにあることが多い。

和歌山城
気味悪がった子供は、人形を捨ててしまった。

ウチヒサル城
一度拾ったくせに捨てちゃうのかぁ……。

和歌山城
……だがその夜、寝床に入った子供は気づく。
捨てたはずの人形が、自分の傍に横たわっている、と。

柳川城
あぁ……そんな気がしておりました……。

和歌山城
何度捨てても戻ってくる人形……。
しかも、心なしか、戻るたびにその表情が歪んでいく。

和歌山城
やがて、困り果てた子供は近くの神社で人形供養をお願いすることにした。

和歌山城
これならもう戻ってこないだろう、と安心した子供は家に帰って……。

和歌山城
――怒りと悲しみの混ざった表情を浮かべた人形が、真っ先に目に入った。

やくも
ありゃあ、ずいぶん懐かれちゃったんやね……。

千狐
そ、それよりは恐怖の方が先に立つわ……。

和歌山城
子供は泣いて謝り、もう一緒にいることはできないと伝えた。
だが人形は子供に抱き着き、とうとう涙を流し始める。

和歌山城
そんな時、神社から人形が消えたことに気付いた神主が、子供の家を訪ねてきた。

ウチヒサル城
おぉっ! 主役の登場だね!

和歌山城
神主は人形を大事に抱えてやり、落ち着かせてやった。
拾ってもらったのがよほど嬉しかったのだろうと神主は言う。

和歌山城
だが、もう次に行くときだと人形に言い聞かせ、神主は人形を連れて帰った。

和歌山城
そうして、人形は神社で手厚く供養され、今は静かに佇んでいるという……。

ウチヒサル城
……おしまい?

和歌山城
おしまい。

和歌山城
ちなみにこの話、実話でね。

千狐
……それが一番怖いと思いますわ。

やくも
なるほど……。これはいい話が聞けただに。
和歌山城、だんだんね!

柳川城
何でも一度縁あった品というのは大事にしなくてはなりませんね……。

ウチヒサル城
ふむふむ……。
でも、なんとなくわかったかも?

ウチヒサル城
じゃっ! さっそくウチヒサルちゃん、いっきま~す!

やくも
おぉ~。
楽しみだに!

ウチヒサル城
これは、本当にあった話なんだけど…………。

後半
ウチヒサル城

こうして、男は地下都市から二度と出ることはできませんでした……。

ウチヒサル城
…………。

ウチヒサル城
こんな感じでどうかな!?

柳川城
とても真に迫ったお話でしたね。

和歌山城
はは……なかなかお上手だったよ。

殿
…………!

和歌山城
おや、殿。おかえり。

殿
…………。

ウチヒサル城
あれっ、王様、いつの間に聞いてたの?

ウチヒサル城
うぅ、でもすっごい笑顔……。
あたしのお話怖くなかった?

やくも
……いや。
ウチヒサル城、語るの上手すぎるがや。

ウチヒサル城
へっ?

千狐
あの……ウチヒサル城さん……。
それ、実話なんですよね……?

ウチヒサル城
え、うん。そうだけど……。

千狐
うぅっ……これは今夜夢に出るわ……。

和歌山城
まさか、きみがそれほど怪談を語るのが上手いとは……。
これは噂の松江城もうかうかしてはいられないだろうな。

ウチヒサル城
松江城ちゃん? って子がいるの?

和歌山城
あぁ。彼女の地元は怪談のふるさととも言われていてね。
その名に恥じぬ通り、松江城も怪談話を語るのが上手らしい。

ウチヒサル城
へー……。

ウチヒサル城
あーあ。肝試しにあたしも参加できるならなぁ。
つくづく残念だよ~。

柳川城
そうですね……。
今度また機会があるときにご一緒できるといいのですが。

千狐
……あら? なんだか静かにしてると思ったら、
やくも、何してるの?

やくも
さっきウチヒサル城から聞いた化け物の想像図を描いてみただに!

やくも
正体がよくわからないままだと落ち着かないから、
あえてこうして姿を描いてやることで少しでも恐怖を消すがや!

ウチヒサル城
へぇ~、どれどれ……。

ウチヒサル城
……!?

和歌山城
これは……凄まじい出来だな。

やくも
個人的にはまぁまぁって感じだに。

千狐
これでまぁまぁって……どれだけのものを描けば満足するのよ……。

柳川城
そのまま肝試しで出てきたらかなりの迫力でしょうね……。

やくも
…………!

やくも
今の柳川城の言葉のおかげで一個、悩んでた問題が解決しただに!
だんだんね~!

柳川城
え?

千狐
ま、まさかこの怪物を出すの!?

やくも
ううん。さすがに日の本でこのまま出すには雰囲気合わないがや。

ウチヒサル城
え~なになに~?
あたしにだけこっそり教えてよ~!

ウチヒサル城
ねっ! お願いやくもっち!
どうせ当日はあたし肝試し行けないんだからさぁ~!

和歌山城
私もぜひ拝聴したい。
肝試しの日程を聞いた限り、残念だが参加はできなさそうだからね。

やくも
じゃ、二人にだけこっそり教えてあげるだにぃ。

やくも
(……ぼそぼそ)

ウチヒサル城
そ、それ本気で言ってるならすっごい……。

和歌山城
なるほど……。
だが実現できれば確かにかなり……。

やくも
ね、いい案がや?

千狐
いったい……。

柳川城
気になりますね……。

やくも
あ、殿さんと千狐と柳川城は参加するんだから、
当日までのお楽しみ、だにぃ~。

ウチヒサル城
ふふっ、当日体験できるなんて羨ましいぞぉ~?

和歌山城
私たちの分まで、殿も存分に楽しんできてくれ。

殿
…………!

――この時のやくもの思いつきとは、張りぼての材料費節約のため、
絵で見た目の大半を補うことだったという。

本物の墓地と見紛うばかりの光景が殿たちを迎えるのは、
これから一週間後のことだった……。



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