ストーリーテキスト/導かれし若楓の山道

導かれし若楓の山道[]

導かれし若楓の山道 -序-

三本松城から送られてきた書状を目にし、
殿一行は指定された場所へと向かうことに。
だが、そこで思わぬ光景を目の当たりにする。

前半
――辰ノ刻・所領。 千狐 おはようございます、殿。 今日も良い天気ですね。 千狐 昨晩は遅くまで兵書を読まれていたそうですが、 眠くはありませんか？ 殿 …………。 殿 …………！ 千狐 ならばいいのですが……。 あまり無理はなさらないでくださいね？ 千狐 今日は特に遠征の予定もありませんし、 久しぶりにゆっくりと、あたりを散歩など―― やくも ――殿さ～んっ！！ おはようだにぃ！ 千狐 や、やくも……！ 千狐 （……せっかく殿と散歩の約束をしようと思ってたのに……はぁ） やくも あ、そうだ！　これ見てほしいだに！　 はい、殿さん宛てに手紙が来とったがや。 柳川城 ……あ、差出人は どうやら三本松城さんからのようですね。 千狐 ……城娘からの手紙ということは、 救援の要請かもしれませんね、殿。 殿 …………。 殿 …………！ 柳川城 ……こ、これは！？ やくも 二人とも、そげに驚いた顔してどうしたがや？ 千狐 やはり、救援の要請ですか――！？ 柳川城 い、いえ……。 そうではなくて。 柳川城 どうやら、三本松城さんは 殿にご友人を紹介したいそうです。 千狐 ……え？ 友人を……紹介？ 柳川城 はい、村尾城さんという方らしく、 是非とも殿に会っていただきたいとのことです。 やくも おおっ！？　 村尾城ってことは、城娘さんやね？ やくも もしかしたら殿さんの味方になってくれるかもしれんだに！ すぐに会いにいくがやー！！ 柳川城 殿、どういたしますか？ 殿 …………。 殿 …………！ 柳川城 そうですね、私もお会いしてみたいです！ それでは出発の準備を整えてきますね。 千狐 （……殿に紹介したい城娘、ですか……） 千狐 （何にせよ、救援の要請でなくてよかった……。 これなら久しぶりに殿も心を休められるでしょう） やくも ――ん？　どうしたがや、千狐？ ひとりでニヤニヤして。 何かヘンなことでも企んでるかや？ 千狐 な、何も企んでなんかないわよ！ 殿のことを考えてただけなのぉ！ 殿 …………？ 千狐 あ、いえ……べ、別に深い意味とかはありませんので、 その……どうかお気になさらないでください……。 殿 …………！ 千狐 はい！　 それでは準備が整い次第、出発しましょう！ ――数刻後。 千狐 殿、どうやら三本松城さんの手紙に指定されていた 集合場所はこのあたりのようです。 柳川城 見晴らしのいい場所ですね。 これならすぐに三本松城さんを見つけられるかと……。 やくも ――って、ちょっと殿さん！ あれを見るだに！　 誰かが怪我して倒れてるがや！！ 三本松城 ……ふぇぇぇん…………お殿さぁん………… ぐすッ……助けてくださいィ……。 千狐 ――さ、三本松城さん！？ そんな、何故あのような姿で……！？ 柳川城 とにかく、すぐに助けにいきましょう！ やくも 三本松城、しっかりするがや！ いま手当てするから…………って、あれ？ 三本松城 フフフッ♪　騙してゴメンナサーイ！ 実はゼンゼン怪我なんかシテなかったのですゥ！ 三本松城 サァ、出てきてミンナ！ 今こそワル～イお殿さんをやっつけちゃいマショウ！ 犬形兜 ――ガウッ、ガウガウッ！！ 猿形兜 ――ウキキッ、キキッ！！ 柳川城 そんな……どうして兜が！？ 千狐 ま、まさか……！ 千狐 間違いありません！ 殿、三本松城さんの霊気が異常な状態にあります！ おそらくは兜による瘴気の影響かと……。 三本松城 もォ、なに言っテルかヨク分からないですけど、 お喋りシテル暇がアルなら、私の舞をちゃーんと見てクダさぁ～い♪ 三本松城 ではではァ…………。 三本松城 ――殺伐タル舞ノ開演とイキマショウ！ お殿サン！　お命ちょうだいなのデス！！ 千狐 殿、兜たちが向かってきますわ！ こちらも応戦の準備を――！
後半
柳川城 兜の沈黙を確認。 どうやら勝てたようですね。 やくも 千狐、三本松城の様子はどうなってるがや！？ 千狐 だめ……さっきの戦いで気を失ってしまったようだわ。 やくも ……そうかやぁ。 なあ殿さん、どうするだに？ 殿 …………。 柳川城 そうですね。とりあえずは、安全な場所へと移動しましょう。 此処にいては、いつまた兜が襲ってくるかも分かりませんから……。 千狐 では、すぐに転移術で所領へ―― ？？？ ――そんなことは、私がさせないわよ！ 柳川城 ……え？　 だ、誰ですか、あなたは……！？ ？？？ 貴方たちに名乗る名など無いわ！ いいから、今すぐ三本松城ちゃんを放しなさい、この悪党ども！！

導かれし若楓の山道 -破-

突如として殿一行の前に現れた村尾城。
三本松城の危機と知り激昂する彼女は、
思わぬ助っ人と共に殿に襲いかかる……。

前半
？？？ 貴方たちに名乗る名など無いわ！ いいから、今すぐ三本松城ちゃんを放しなさい、この悪党ども！！ 千狐 せ、千狐たちが……悪党！？ ？？？ 何よ、その驚いた顔は？　私の大切な友達を 一方的に傷つけておいて、違うとでも言うの！？ 柳川城 い、一方的に……！？ それは誤解です！　これには事情が……。 ？？？ 誤解？　事情？ ……どういうことよ？ やくも うちらは三本松城を助けようとしてただけだに！ だから、武器をおろしてほしいがや！ ？？？ 助けようとしてたって……。 あのね、もう少しましな嘘ついたらどうなの？ ？？？ だいたいね、先刻あなたたちが 寄って集って三本松城ちゃんに怪我させてたのを、 私は、この目ではっきりと見たんだから！ 柳川城 だからそれは、こちらも仕方なくの応戦だったわけで……。 やくも そうだに！　最初に攻撃をしかけてきたのは 三本松城の方だに！　うちらはむしろ被害者―― ？？？ ――黙りなさい、悪党！ やくも ひぃぃっ！？　 村尾城 三本松城ちゃんを傷つけただけでなく、 自らを被害者と偽り、責任逃れをしようとは……。 ？？？ その性根、叩き直してあげるわ！ ？？？ （――と、啖呵を切ってみたものの、 相手は複数人で、こっちは私ひとり……） ？？？ （三本松城ちゃんが、紹介したい人がいるっていうから 急いで来たって言うのに、どうしてこんなことに……） 殿 …………。 ？？？ （――――っ！？　ど、どうしよう……。 あの男……何だか私のこと、すごい見つめてる……） ？？？ （あいつが、数にものを言わせて襲いかかってきたら、 さすがの私も勝ち目は……） ？？？ （あぁ、でもでも……っ！　 三本松城ちゃんを見捨てて逃げられるわけないじゃない！） 村尾城 （……勇気をださなきゃ……友達を助けるのよ、村尾城！） 村尾城 ――って、あれ？ 兜 ――ザザッ！ 兜軍団 ――ザザッ、ザザザッ！！ 千狐 まずいですわ、殿！ 新手の兜たちが姿を現しました！！ 村尾城 ……な、何なの、この妙なヤツらは？ 突撃式トッパイ形兜 オット……警戒シナクテイイ。 我々ハ、貴様ノ味方ダ……村尾城。 村尾城 ――なっ！？　何で私の名前を！？ 突撃式トッパイ形兜 三本松城カラ話ハ聞イテイルダロウ？ 彼女ガ紹介シタイト言ッテイタノハ我々ナノダ。 村尾城 ……あ、あんたたちが？ 兜 紹介……紹介ッ！ 兜軍団 友達……友達ッ！！ 村尾城 …………。 突撃式トッパイ形兜 …………。 村尾城 （あ、怪しすぎる……） 村尾城 （ていうか、そもそもヒトなの、こいつら？ よく見ると、黒い煙が背中から出てるし……） 突撃式トッパイ形兜 フッ……疑ワレルノハ慣レテイル。 其方ガイブカシムノモ、無理ハナイ。 突撃式トッパイ形兜 ダガ、三本松城ヲ救イタクハ無イノカ？ コノママデハ、アノ男ニ友人ガメチャクチャニサレルゾ？ 村尾城 ――め、めちゃくちゃっ！？ 兜 メチャクチャ！　メチャクチャ！ 兜軍団 イイノカ？　村尾城？ ソレデイイノカ？　村尾城？ 村尾城 ……そ、そんなの……ぜったいダメよ…………。 突撃式トッパイ形兜 ナラ迷ウナ、村尾城。 ……イイカラ、我々ヲ信ジテ共ニ戦ウノダ！ 村尾城 …………。 村尾城 分かった……三本松城ちゃんの為だもの！ 私、貴方たちを信じてあげるわ！ 突撃式トッパイ形兜 ソレデイイノダ、村尾城！ デハ、全軍前進！　奴ヲ倒スゾ！ 兜 ――鋭ッ、鋭ッ！ 兜軍団 ――応ゥゥッ！！ やくも ええぇっ！？　あの娘さん、 兜さんと一緒にこっちに攻めてくるだに！？ 柳川城 殿、戦闘は避けられそうにありませんね……。 千狐 殿、すぐに出陣の準備をしてください！ 三本松城さんを助けるためにも、負けるわけにはいきませんわ！
後半
村尾城 あ、ぅぅ……そんな、負けちゃうなんて……。 これじゃ、三本松城ちゃんが……三本松城ちゃんがぁぁ……！ 突撃式トッパイ形兜 ……何ヲシテイル村尾城。 マダ我々ノ負ケト決マッタ訳デハ―― 柳川城 ――逃がしはしません！　覚悟ぉっ！！ 突撃式トッパイ形兜 ギァアァァアア――ッ！！ 村尾城 そんな……仲間も、みんなやられちゃった……。 これで、終わりね……。 千狐 ちょ、ちょっと待ってください！ 千狐たちにはもう攻撃の意思はありません！ 千狐 それに、兜たちとの会話を聞くに、 貴方は村尾城という名の城娘で間違いないのですよね？ 村尾城 そうだけど……それが何だっていうのよ……？ 柳川城 私たちは三本松城さんから、 友人の村尾城さんを紹介したいという 書状をいただいたからこそ、此処に来たのです。 やくも だから、うちらが戦う理由なんて最初からないだに！ 村尾城 ……え？　そ、それじゃあ貴方が、 三本松城ちゃんの言ってた、殿なの……？ 殿 …………！ 村尾城 そんな……それじゃあさっき私が一緒に戦ってた 奇妙なヤツらは何だったの……？ 千狐 あれは兜といって、邪悪なるモノたちなのです。 村尾城 ……か、かぶと？　そういえば、そんな名前を 三本松城ちゃんが前に口にしてたような気がする……。 村尾城 でも待って！　貴方たちが敵じゃないのなら、 どうして最初に言ってくれなかったのよ！ やくも それは、あんたがうちらの話を ちゃんと聞かんかったからだに！ 村尾城 い、言われてみれば、確かに……。 村尾城 その……ご、ごめんなさい。 千狐 ちょっと、やくも。そんなに怒らないの！ 友達が襲われていたら、誰だって取り乱すわよ。 やくも ……まぁ確かに、千狐が良く分からんヤツらに 連れ去られそうになってるのを目の当たりにしたら、 うちもたぶん村尾城みたいに激昂するはずやね……。 柳川城 何にせよ、誤解が解けてよかったですね。 これで、三本松城さんの怪我の手当も―― 柳川城 ――って、あれ？　 柳川城 そんな…………殿！　 三本松城さんの姿がありません！ 殿 …………！ やくも 殿さん！　三本松城なら彼処にいるだに！ 三本松城 ――元就…………サ……マ…………。 やくも ……何だか様子がおかしいだに。 どうしてひとりでフラフラとあんな場所を歩いてるがや？ 村尾城 きっと、怪我で意識がもうろうとしてるのよ！ 私が連れ戻しに行ってくるわ！ 千狐 ――っ！？　 ま、待ってください、村尾城さん！ 村尾城 何よ！　 すぐに連れ戻さないと、三本松城ちゃんが危ないわ！ 千狐 いけません……あの方角に、危険な邪気を感じます……。 それに、うっすらと瘴気も漂ってきてますわ！ 村尾城 邪気……瘴気……？ 貴方、いったい何を言って―― 村尾城 ――っ！？ 毛利元就 ――ククク……三本松城ヨ。 ヨクゾ戻ッテキタ。 サァ、新タナ策ヲ開始スルトシヨウ……。

導かれし若楓の山道 -急-

今回の異事の元凶である巨大兜がついに
その姿を見せる。捕らわれた三本松城を
助ける為に何としてもこの戦いに勝利せよ！

前半
毛利元就 ――ククク……三本松城ヨ。 ヨクゾ戻ッテキタ。 サァ、新タナ策ヲ開始スルトシヨウ……。 三本松城 …………ハイ……私、もっと…… 元就サマのお役に……たちタい、です……。 三本松城 ……デモ……今ノままじゃ、 私……戦えナイ……役に、たてない……。 毛利元就 ククク……構ワヌ、構ワヌ。 其方ノ出番ハモウ少シ先ジャ。 三本松城 …………？ 毛利元就 ソレマデ回復ニ専念シテオクガヨイ。 此奴ヲ安全ナ場所ニ運ベ！ 兜 ――承知ッ！ 兜軍団 サァ、三本松城殿、我ラト共ニ……ッ！！ 村尾城 ……な、何なの……あれ……？ 村尾城 どうして三本松城ちゃんが、あんな化物のところに 自ら進んで逃げ込んでるのよ！！ やくも 落ち着くだに！　 三本松城は兜さんの瘴気に操られてるせいで、 今は正常な状態じゃないがや……。 村尾城 そんな……どうにかならないの？ 殿 …………。 村尾城 ……え？　 貴方なら、どうにかできるっていうの？ 殿 …………。 殿 …………！ 村尾城 ……ほ、本当に？ 本当に三本松城ちゃんを助けられるの？ やくも 殿さんを信じてほしいだに！ やくも 今までだって、何度も巨大兜さんと戦ってきたけん、 今回だって殿さんが何とかしてくれるはずがや！ 柳川城 微力ながら、私もお手伝いします、殿！ 毛利元就 ……ククク……良キ覇気ヨノゥ。 サァ、カカッテクルガ良イ……。 毛利元就 儂ノ策ハ……既ニ展開サレテイルノダカラナ……ククク……。 千狐 殿、相手は策謀に長けた巨大兜です。 くれぐれも注意してください。 村尾城 …………ねえ、殿。 殿 …………？ 村尾城 貴方のこと……信じてるから。 村尾城 だから……負けないで。 殿 …………！ 柳川城 それでは出陣です、殿！ 巨大兜を倒し、三本松城さんを救出しましょう！
後半
千狐 殿、お見事ですっ！ 巨大兜の攻撃が止まりましたわ！ 村尾城 すごい………… あのデカブツと対等に渡り合うなんて。 殿 …………。 村尾城 な、何見てるのよ！？ 別に、感動なんてしてないんだから……！ 千狐 皆さん、警戒を解かないでください！ まだ巨大兜は起き上がれるようですわ！ 毛利元就 ……グ、ギギ……相変ワラズ、ヤリヨル……ノォ……。 ダガ、是モ……想定通リジャ……ククク。 村尾城 何が想定通り、よ！ いいから、さっさと三本松城ちゃんを返しなさい！ 毛利元就 ククク、イイジャロウ……。 皆ノ者、三本松城ヲ此処へ連レテクルノダ。 兜 ――承知ッ！ 兜軍団 サァ、三本松城殿……元就サマノ許へ……ッ！！ 三本松城 ……ん……あ……あれ？ なんで私、こんなところに？ 毛利元就 ウム……ドウヤラ瘴気ノ影響下カラ脱シタヨウジャナ。 是モ…………全テ計画通リジャ……。 三本松城 ――きょ、巨大兜！？　どうしてこんなところに！？ 兜軍団 コラ、ジットシテイロ……！ 三本松城 ――いっ、痛いですぅ……！ お願い、離してください！　なんでこんなことするのですか！ 村尾城 ――三本松城ちゃん！　 待ってて、今助けるから！ 三本松城 村尾城ちゃん……！ だめ……いま兜たちに近づいたら……危ない、よぉ……！ 毛利元就 ククク……安心スルガヨイ。 約束通リ、三本松城ハ返シテヤル。 毛利元就 ダガ……ソレハ村尾城……。 其方ノ身体ト引換ジャ……。 村尾城 ――な、何ですって！？ 千狐 しまった……最初から、 ヤツはそのつもりで……！ 毛利元就 ナニ、悪イ取引デハナイジャロウ？ 掛ケ替エノ無イ友ノ命ヲ救ウ為ジャ。 村尾城 …………くっ。 千狐 村尾城さん！　 そのような誘いに乗ってはだめですわ！ やくも そうがや！　兜さんが約束なんか守るわけないだに！ 殿さん、話なんかせずに、 このままあの巨大兜さんを一気に倒した方がいいがや！ 毛利元就 ホゥ……儂ヲコノママ討チ果タスツモリカ。 ククク……其レハ実ニ怖イノゥ……。 毛利元就 アマリノ恐怖ニ、ウッカリ人質ヲ殺シテシマウカモシレヌナァ。 三本松城 ひうっ……ぅぅぅ………………。 村尾城 ――やめて！　 これ以上、三本松城ちゃんを傷つけないで！ 毛利元就 ナラバ……ドウスルベキカ、 分カッテオルナ？ 村尾城 ……ええ。 村尾城 ……私のことは好きにすればいい。 村尾城 だから…… 今すぐに三本松城ちゃんを解放しなさい！ 毛利元就 ククク……交渉成立ジャナ……。 柳川城 村尾城さん！　行ってはダメです！ このままでは、貴方まで瘴気によって操られてしまいます！ 村尾城 ……いいの。これしか方法がないんだから。 村尾城 それに……私、信じてるもの。 柳川城 ……え？ 村尾城 貴方たちの主君が、私をきっと助けてくれるって。 村尾城 ……だから、何も怖くなんかないわ。 村尾城 それじゃ……後のことは、頼んだわよ？ 殿 …………！ 毛利元就 ククク……実ニ健気ナ城娘ヨ。 コレハ操リ甲斐ガアルト言ウモノジャ。 毛利元就 ソレデハ三本松城ヲ解放シ、我々ハ一時後退スルトシヨウ。 毛利元就 殿ヨ……再ビ見エヨウゾ……ククク……。 千狐 ……………………兜たちが退いていきますわ。 やくも ……三本松城は、何とか無事に取り返せただに。 三本松城 …………ぐすっ、ごめんなさい、村尾城ちゃん……。 私のせいで、村尾城ちゃんが……うぅぅぅ。 柳川城 …………三本松城さん。 千狐 殿……敵の口振りからして、 そう遠くないうちに再び兜たちは攻めてくるはずです。 千狐 ……村尾城さんを助けるためにも、 態勢を整え、敵の襲撃に備えましょう！

導かれし若楓の山道 -絶壱-

――もし、あの時こうしていれば。
掴むことの出来なかった勝利に対して、
人知れず想いを馳せる者がいた…………。

前半
――村尾城が兜に連れ去られてから数刻後。 犬形兜 …………。 猿形兜 ウキキッ！　キキッ？ （どうしたんだ、こんなところでぼうっとして。らしくないぜ？） 犬形兜 ガウッ……ガウガウッ！！ （何だ、お前か。驚かせるなよ、まったく） 猿形兜 ウキッ！　ウキキ、キキッ？ （はは、まぁそんな怒んなって。で、何を思い悩んでたんだ？） 犬形兜 ガウ、ガウガウ……。 （っち、お見通しかよ。かなわないな、お前には……） 犬形兜 ガウガウ、ガウ……？ （いや、実は今日のことを思い返しててさ。 ほら、瘴気で操ってた三本松城って城娘と共に、殿と戦っただろ？） 猿形兜 ウキキッ！　ウキキキッ。 （ああ、もちろん覚えてるさ。俺たち力を合わせて戦ってたよな。 人間に言わせりゃ、犬猿の仲からは程遠いんだろうがよ） 犬形兜 ガウッ……ガウガウガガウ。 （茶化すなって。それよりもさ、俺は思うんだ……。 あの戦い……もっとこう、やりようがあったんじゃないのかって） 猿形兜 ウキ……？ （というと……？） 犬形兜 ガウッ、ガウガウ……ガガウッ！！ （つまり、動物型兜中心の編成ではなく、俺が考えた理想的な編成で臨めば、 あの戦い……勝てたんじゃないのかって思っちまうんだよ） 猿形兜 ウキキ……ウッキーッ！！ （ほう……面白そうだな。いいだろう、少し聞かせてみろよ） 犬形兜 ガウ……ガウガウッ！ （フッ……お前ならそう言うと思ったぜ！） 犬形兜 ガウッ……ガウガウガウッ！！ （いいか……まず、戦いの時間帯は夕刻だ。 暗くなっていく天の利を味方につけ、俺たちはこんな風に攻めていくんだ――）
後半
犬形兜 …………ガウッ、ガウガウ？ （……と、まあこんな感じの戦いになるんだが……。 どうだ、なかなか良い勝負だっただろう？） 猿形兜 ウキキキキッ！ （いや、負けてんじゃねえかよ！） 猿形兜 ウキ、ウキキィッ！ （つうか、そもそも俺が編成に入ってないってのはどういうことだよ！） 犬形兜 ガウッガウガウッ？ （そこはほら、勝ちを優先した場合、お前じゃ役不足ってことだろ？） 猿形兜 ウキキッ！？　キキキッ！！ （なんだとぉ！？　俺のどこが役不足だってんだよ！） 犬形兜 ガウッ？　ガウガウッ？ （なんだ、やるか？　今こそどっちが強いかはっきりさせてもいいんだぜ？） 猿形兜 ウキキッ！　キキーッ！ （望むところだ！　今日こそは手加減しねぇからな！！） 桃形兜 …………。 桃形兜 ……マッタク、アイツラマタ喧嘩シテ。 ドウセ腹デモ空イテルンダロウ。 桃形兜 ホラ、コッチニ来イ。 元就サマカラ頂イタ茶菓子ガアルカラ、分ケテヤル。 犬形兜 ――ガウッ！？ （茶菓子だと！？） 猿形兜 ウキッ、キキッ！ （クソッ、一時休戦だな！） 桃形兜 オォ～、ヨシヨシ。 イイコダァ……フフ、二匹デ仲良ク食エヨ？ 犬形兜 ガウッ！ 猿形兜 ウキキッ！ 桃形兜 ハハッ、何言ッテルカ分カラヌガ、 オマエタチニハ、悩ミガ無サソウデ羨マシイヨ。 桃形兜 …………。 桃形兜 サテ……ト。 桃形兜 ソレジャ自分ハ、瘴気ヅケニシテアル 城娘ノ様子デモ見テクルカナ…………。 犬形兜 ガウッ！ （村尾城の見張りか……頑張ってこいよ、桃形の坊主！） 猿形兜 ウキキッ！ （……村尾城か。次の殿との戦いで、ヤツがどれだけやれるか見物だな！） 犬形兜 ガウガウッ！ （安心しろ。お前はどうせ編成に含まれねぇさ） 猿形兜 ウキキキーッ！ （うるせぇな。お前もきっと含まれないに決まってら） 犬形兜 …………。 猿形兜 …………。 犬形兜 ……クゥ～ン。 （……やめようや。これ以上はお互い悲しくなるだけだ……） 猿形兜 …………ウキキ……。 （……そうだな……ハァ） こうして、兜たちの夜は静かに更けていくのだった。

導かれし若楓の山道 -離-

再び攻め込んできた兜の軍勢。そこには、
瘴気によって操られた村尾城の姿があった。
飛行兜の奇襲に注意しつつ、戦いに勝利せよ。

前半
やくも …………うーん。 千狐 どうしたの、やくも？ やくも いや、兜さんがいつ攻めてくるか分からんから、 こうしてずっと見張ってるんやけど……。 やくも この空き時間に何かできないもんかなぁ、と思って……。 千狐 何かって、何よ……？ やくも 勉強……とか？ 千狐 （や、やくもが……勉強！？） 千狐 （……何かの冗談かしら？） やくも あとは、けん玉の腕を磨くとか……？ 千狐 ……え？　けん玉？ 千狐 ――もうっ、何言ってるのよ！ 遊んでたら見張りにならないじゃない！ やくも そ、それはそうやけど……。 やくも じゃあ、三本松城のアレはいーんかや？ 千狐 …………三本松城さんの、アレ？ 三本松城 ――よっ……はっ……ここで、 くるっと回ってぇ……。 三本松城 ――はいっ！　できました！ 千狐 あの、三本松城さん……？ 何をしているのでしょうか？ 三本松城 何って、鷺舞を舞っているのですよ！ 千狐 それは見ていたので分かりますが、 いつ兜が攻めてくるか分からない状況でどうして……？ 三本松城 そういう状況だからこそですよ、千狐さん！ これは村尾城ちゃんとの再会のために必要なことなのです！ 千狐 え？　 それはどういう―――― やくも ――あぁあぁっ！？ ちょっと二人とも、そげなこと話してる場合じゃないだに！ やくも 殿さん！　 兜さんがいつの間にか忍び込んでるみたいがや！ 兜 ……フフフ。今サラ気ヅイテモ遅イワッ！！ 皆ノ者！　一気ニ攻メ込ムゾ！！ 柳川城 そ、そんな……彼方にも兜の姿が！？ 火焔形兜 ――シュゴッシュゴッンゴゴゴゴォォォッ！！ 千狐 くっ……しっかりと守りを固めていたというのに、 どこから忍び込んできたというの？ 村尾城 ――フッ……。 あれで守りを固めテイタとは笑わセる。 三本松城 村尾城ちゃん！！ 千狐 三本松城さん、近づいてはダメですわ！ 千狐 感じられる霊気から察するに、 今の村尾城さんは兜の瘴気によって操られているようです。 三本松城 大丈夫です、千狐さん！　 これでも兜に心身を囚われていた身ですからね、 それくらいはちゃんと分かってます！ 三本松城 ですが、そんな私だからこそ、村尾城ちゃんを 兜の瘴気から解放する手段があることも心得てるつもりです！ やくも ――本当がや！？ ならすぐにその方法を試してほしいだに！ 三本松城 了解しました！　 では、さっそく準備に取り掛かります！ 三本松城 ……ですが、 ちょっとだけ周囲の兜が邪魔ですね。 千狐 ……と、いうと？ 三本松城 申し訳ないですが、ここに集まってきてる兜たちを やっつけてもらえないでしょうか？ やくも 分かってはいたけど、 やっぱりそうするしかないんやね……。 やくも よっしゃ、殿さん！ そうと決まればすぐに出陣の準備だに！ 殿 …………。 殿 …………！ 村尾城 ……フン。どうやらヤル気みたいネ。 でも、既に勝敗は決しテルようなものだワ！ 村尾城 元就サマ……私の智略デ殿を討ち取リ、 その首級を捧げてみせマス……。 村尾城 サァ、全軍突撃ヨッ！！
後半
村尾城 ……ア、うゥ……なん、デ……。 奇襲は成功シテタはず、なのに……。 村尾城 どうシテ私ガ……負けルノよ…………。 村尾城 ……一度、元就サマの許へ退くシカ……ッ！ やくも 三本松城！　村尾城が逃げようとしてるみたいだに！ はやく、何とかするがや！ 三本松城 任せてくださーい！ 三本松城 村尾城ちゃん！　 今すぐに兜の瘴気から解放しますからね！ 三本松城 そーれ！　いっきますよー！ 村尾城 ……クッ、な、ナニをしようっていうの……！？ やくも ……んっ？ やくも おっ……おぉぉぉ！？ やくも 三本松城が村尾城の前で、 鷺舞を舞い始めたがや！？ 三本松城 よっ……ふっ、はぁっ……どうですか、村尾城ちゃん！ 私の舞で、どんどん邪悪な気が心身から抜けていく感じがするでしょう！ 村尾城 …………。 村尾城 …………何をシテルの、アナタ？ 三本松城 ……え？ 村尾城 マサカ、そんなヘタくそナ舞を見せて、私ノ元就サマへの忠誠心ヲ ドウニカしようなんて思ってるンジャナイデショウネ？ 三本松城 へ、下手くそ――！？ やくも だ、だめがや……ぜんぜん正気に戻る気配がないだに！ 千狐 ――いえ、まだ決めつけるには早いわ、やくも！ やくも ……え？ 村尾城 クッ……もう、止めなさいって……！ ソンナ未熟な舞……見て、られない……ウゥゥ……。 三本松城 私の舞が未熟なのは自分が一番わかってます！ でも、だからといって止めたりなんかしません！ 三本松城 技が足らないなら心で補う！　心が及ばないなら命で賄う！ 身代わりとなって私を助けてくれた村尾城ちゃんを、 今度は私が、命懸けで救ってみせます！ 村尾城 ……ハァ……ハァ……あんな、に……稚拙……なの、ニ……ッ。 ドウして……ドウして……こんなにも、胸ガ……苦しいノ……？ 村尾城 …………三本松城……ちゃん……もう、 わた……し………………。 やくも ――村尾城が倒れただに！？ 三本松城 村尾城ちゃん！ 千狐 ……大丈夫、気を失っただけみたいですわ。 千狐 それに、村尾城さんの霊気が正常化しました……。 柳川城 では、三本松城さんの舞が、 村尾城さんの心を兜から取り返したということですね！ ？？？ ――ソウ、上手ク事ガ運ブト……本気デ思ッテイルノカ？ 三本松城 ――だ、誰ですか！？ 千狐 この邪悪な気は……ヤツしかいませんわ！ 毛利元就 ククク……。

導かれし若楓の山道 -結-

巨大兜・毛利元就が新たな策と共に襲来する。
傍らには軍旗を掲げる兜の姿。異様な士気を
備えて襲い来る兜の軍勢を、いざ討ち果たせ。

前半
毛利元就 ククク……。 三本松城 ついに現れましたね、巨大兜！ 瘴気によって操られた恨みは忘れてませんよ！ 三本松城 ――ということで、先手必勝！ 雲海乱れ撃ちです！ 三十二間星形兜 笑止……貴様程度ニ、 元就サマヲ傷ツケサセヤシナイ……。 三本松城 ――なっ、こちらの攻撃が届かない！？ 千狐 巨大兜の周囲に大量の兜が集まってます……。 これでは攻撃が届きそうにないですね。 毛利元就 ……フッ、ソウ焦ルデナイ。 毛利元就 此度ノ戦ニ向ケ……態々、 新タナ兵ト策ヲ用意シタノジャカラナ……。 柳川城 新たな兵……？ 柳川城 ――っ！？ あ、あの兜は……！ 千狐 まずいですね、殿。 ……どうやら旗持の兜のようです。 やくも ……ん？　なぁ、千狐。兜さんが旗を持ってるから何だっていうがや？ あげなもんなら、ぜんぜん危険な感じはしないだに……。 千狐 旗持単体なら、確かに危険はないのかもしれないわ……。 千狐 でも、それ以外の兜の様子を見て、やくも……！ 砲撃式トッパイ形兜 グゥォオオオオッ！　 ミナギッテキタァァアーーッ！ やくも ――えっ！？　何か知らんけど、 見たこともないほど兜さんが元気になってるだに！ やくも あれはいったいどういうことがや？ 柳川城 旗持の存在が、兜全体の士気を上げているんだと思います……。 やくも 旗があるだけで、そげん効果があーなんてどういうことがや！ 納得できんだに！ 千狐 けど、逆に考えれば、あの旗を持ってる兜を倒せば、 高まった士気を下げることもできるはずだわ！ やくも くぅぅ……こんなことなら、うちも殿さんの 顔を描いた旗を作っておけばよかっただに！ 殿 …………。 毛利元就 ククク……我ガ策ノ恐ロシサヲ理解シタヨウジャナ……。 毛利元就 サァ、我ガ軍旗ヲヨリ高ク掲ゲヨ！ 全軍、進撃開始ジャ！！ 柳川城 殿、兜が向かってきます！ 出陣の準備をしてください！
後半
毛利元就 ――グッ……殿メ……我ガ策ヲ超エル……カ。 毛利元就 ダガ、此ノ状況モ想定内ジャ。 ……次ノ立策ニ関スル情報モ十分ニ集マッタ……。 毛利元就 全軍、退却ジャ……！ 三本松城 こらぁ！　 そう簡単に逃げられると思わないでください！ 兜 ――ザザッ！ 兜軍団 ――ザザッ、ザザザッ！！ 千狐 後備の対応が早すぎる……！ 三本松城さん、深追いは危険ですわ！ 三本松城 うぬぬぅ……いいところまで追い詰めたのに、悔しいですぅ！！ 柳川城 ですが、こうして村尾城さんを助けることができました。 柳川城 巨大兜は討ち果たせませんでしたが、 私たちの勝利と言って良いと思います！ 村尾城 ええ、私から見ても文句なしの戦果だと思うわ。 やくも ――おわっ！？　 村尾城、いつのまに気が付いてたがや？ 村尾城 殿たちが頑張って戦ってる時からよ。 村尾城 ……ていうか、けっこう前から起きてたのに、 みんな兜に夢中で気づいてくれないんだもん。 三本松城 村尾城ちゃーんっ！！ 良かったぁ、元気になったんだね！？ 村尾城 おかげさまでね。 村尾城 ――って、こ、こら！ そんなにくっつかないのぉ！ 三本松城 えぇ～！　 これくらいいいじゃないですかぁ！ 村尾城 わ、わかったから。 後でいくらでも抱きついていいから、今は我慢して……。 三本松城 我慢って……どうしてですかぁ？ 村尾城 だって……私にはまだ、やるべきことがあるもの……。 三本松城 ……やるべきこと？ 村尾城 やっぱり忘れてる……。 村尾城 いい、三本松城ちゃん？　 そもそも此処に私を呼んだのは誰だったかしら？ 三本松城 はいはいはーい！　 私でーす！ 村尾城 じゃあ、どうして三本松城ちゃんは私を呼んだの？ 三本松城 私の舞をい～っぱい見てもらうためー！ 村尾城 満面の笑みで嘘つかないのぉ！ 三本松城 ごめんなさいごめんなさい！ 大丈夫、ちゃんと覚えてますよー！ 三本松城 此処に皆さんを呼んだのは、 お殿さんに村尾城ちゃんを紹介するためですねー！ 村尾城 そういうこと。 村尾城 というわけで、ちゃんと私のこと…… 殿に紹介しなさいよね。 三本松城 はーい！ 三本松城 ではではー、お殿さん！ 改めまして、こちらが私の大事なお友達の村尾城ちゃんです！ 三本松城 お二人がいーーーっぱい仲良くしてくれたら私、 とっても嬉しいですー！！ 殿 …………。 村尾城 …………。（どきどき） 殿 …………。 村尾城 …………。（あ、あれ？） 殿 …………。 村尾城 …………。（どうして何も言ってくれないの？） 殿 …………！ 村尾城 え？ ……あ、うん。わ、分かったわ！ 村尾城 それじゃまずは、お友達から……ってことで。 その……よろしくね、殿。 殿 …………！ やくも そんなら、うちも村尾城と友達になりたいだにぃ！ 柳川城 私もぜひ！ 千狐 千狐も同じく、ですわ！ 村尾城 え、ちょっと……そんないきなり……、 ま、まだ心の準備が……っ！ 三本松城 はいはい、押さないでくださいみなさーん！ 村尾城ちゃんは逃げたりしませんからねー！ 三本松城 少し恥ずかしがり屋な村尾城ちゃんですから、 ゆっくり親睦を深めていってくれると嬉しいでーす！ 村尾城 …………べ、別に恥ずかしがり屋じゃないし……。 三本松城 えへへっ、何はともあれ、 こうして無事に村尾城ちゃんを助けることができて良かったです！ 三本松城 お殿さん、本当にありがとうございましたー！！

導かれし若楓の山道 -絶弐-

兜の残党を討とうと躍起になる村尾城に再び
瘴気の魔の手が忍び寄る。兜たちを強化する
旗印兜の効果に注意しながら、戦いに臨め！

前半
兜 ……ハァ……ハァ……。 三本松城 こらぁー！　 待ちなさい、兜ぉー！！ 村尾城 あっ！？　あっちへ逃げたわ！　 このまま追いかけるわよ、三本松城ちゃん！ 兜 ハァ、ハァ……未ダ、捕マルワケニハ……イカナイッ！！ 兜 （何トカ……アノ場所マデ辿リ着カナクテハ……！） 三本松城 なんて逃げ足の速い兜なのぉ！ でも絶対に追いついてみせますからねー！ 村尾城 それにしても、まだ此の地に兜が残ってたなんて……。 村尾城 巨大兜を追い払って安心したまま、 殿たちと一緒に所領ってとこに向かうつもりだったけど……。 村尾城 念の為、此処ら一帯を見回っておこうっていう 柳川城ちゃんの進言は正しかったようね、殿！ 村尾城 ……って、殿？　 あれ？　千狐ちゃんたちも……いない？ 三本松城 どうやら、知らない間に、 私たちだけ先行しすぎてたみたいですね……。 三十二間星形兜 今ゴロ気付クトハ……何ト愚カナ城娘カ……。 三本松城 ――また新手！？ ですが、此処は私が……！ 村尾城 待って三本松城ちゃん！ 兜 ――ザザッ！ 兜軍団 ――ザザッ、ザザザッ！！ 村尾城 ……まわりをよく見て。 かなりの数の兜よ……。 三本松城 ――この布陣はっ！？ もしかして私たち……誘い出されたってことですか？ 三十二間星形兜 フッ……。理解シタトコロデ現状ヲ打破デキルワケモナイ……。 村尾城 …………。 村尾城 ふふっ……それはどうかしら。 三十二間星形兜 ……ナン、ダト？ 村尾城 （三本松城ちゃん。今から、私が兜たちの注意をそらすわ。 その隙に此処を脱して、近くにいる殿たちを呼んできて） 三本松城 （だめだよ！　村尾城ちゃんだけを置いていけないです！） 村尾城 （いいから言うことを聞いて！　 ……大丈夫。策はちゃんと用意してあるから） 三本松城 （……わ、わかりました。私、絶対すぐに戻ります！ だから、くれぐれも無理はしないでくださいね？） 村尾城 （分かったわ……） 村尾城 （それじゃあ……いくわよ！） 三十二間星形兜 オイ、貴様ラ！　何ヲコソコソト―――― 村尾城 ――は～い、注目！ 今から、この村尾城様がとっておきのうんちくを披露してあげるわ！ 三十二間星形兜 ……ハ？　ウン……チク？ 村尾城 ええ、そうよ。 年間三百冊以上を読破する高位読書家（自称）の私が厳選したうんちくよ！ 三十二間星形兜 ……ネ、年間三百ダトッ！？ 村尾城 さぁて……それじゃあ動物っぽい見た目の兜もいることだし、 犬に関することでも話してあげようかしら。 犬形兜 ……ガウ！？ 村尾城 犬はね……。 村尾城 実は猫舌なのよ！ 三十二間星形兜 ――何ィッ！？ 兜 犬ナノニ……猫舌！？ 三十二間星形兜 ツ、ツマリドウイウコトダ！？ 犬形兜 ガウガウガウッ！！ （熱い食べ物が苦手ってことだよ！　言わせんな、恥ずかしい！） 三十二間星形兜 何ヲ言ッテルカ分カラン！ クソ……キ、気ニナッテ戦イニ集中デキン……。 村尾城 （ふふっ、どうやら効果抜群みたいね） 村尾城 （うまく三本松城ちゃんも逃げられたみたいだし、 もう少しだけ時間を稼げば、殿がきっとすぐに来てくれるわ……） 三十二間星形兜 ――ナンテ言ウトデモ思ッタカ？ 村尾城 ……え？ 三十二間星形兜 興味深イ話デハアッタガ、 其ノ程度デ我々ノ戦意ヲ削ゲルト思ウナ！ 三十二間星形兜 今ダ！　 此奴ヲ元就サマ特製ノ瘴気デ心身共ニ捕ラエルノダ！ 兜 ――承知ッ！ 兜軍団 瘴気、散布ッ！　 散布ゥゥゥッ！！ 村尾城 ――うっ……こんな……ものぉっ！！ そう何度も……操られて……たまるもんですか！！ 村尾城 こちとら一度操られてんのよ！ この程度の瘴気なら、まだ何とか……耐えられるわ！ 村尾城 （……とか言ってみたけど、 そんなに我慢できそうに……ない、かも……） 三十二間星形兜 ……小癪ナッ！ コウナッタラ……瘴気、最大解放！ 兜軍団 最大ッ！！　解放ッ！！ 村尾城 ――ひぅっ！　そ、そんな…… 瘴気の濃度が……増して、いく……っ！ 村尾城 ……デ、も……私……もう、 瘴気ニなんか……負けなイん………だか、ラ………！ 三十二間星形兜 抵抗ナド無意味………… 其ノママ堕チテシマエ……。 三本松城 ――――村尾城ちゃん！　 お殿さんを連れてきたよ！　いま助けるからね！ 殿 …………！ 村尾城 殿…………ウ…………ゥゥ…………。 村尾城 殿ヲ……討ツ…………私ガ………… 討……ツ……ゥゥ……！ 柳川城 そんな……。 村尾城さん！　武器をおろしてください！ 三十二間星形兜 フフ……殿、来ルノガ少シ遅カッタヨウダナ。 三十二間星形兜 村尾城……元就サマニ代ワッテ、 今度ハ私ガ貴様ノ身体ヲ使ッテヤル……。 三十二間星形兜 サァ……出陣ダ！ 村尾城 …………了解。 柳川城 殿……村尾城さんが、 此方に向かってきます……。 やくも ――あっ！？ やくも 彼処を見るだに、殿さん！ また前の戦いん時みたいにでっかい旗を持っちょる兜さんがいるがや！ 千狐 厄介ね……しかも、既に旗持の兜たちは持ち場に配置されている……。 殿、まずはヤツらを先に撃破することに注力すべきかと！ 柳川城 ――殿！　兜たちが来ます！　 すぐに出撃の準備を……！
後半
三十二間星形兜 ――チィッ、後一歩ノトコロデ……！ 仕方ナイ、元就サマノ許ヘ帰還スルゾ！ 兜 承知ッ！　 兜軍団 退却開始ィ！　皆、遅レルナァッ！！ 千狐 …………兜の撤退を確認。 千狐 殿、我々の勝利です！ 村尾城さんも無事に助け出すことができましたわ！ 柳川城 ですが、戦いでの消耗と瘴気による影響で昏睡してます！ 早く何とかしないと……！ 三本松城 よーし、まっかせてください！ 私の舞で、また村尾城ちゃんを元気にしてみせますよー！ やくも 止めるがや！　気ぃ失ってるんやから どれだけ上手く舞っても意味ないだに！ 三本松城 ――そ、そうでしたぁ……。 じゃあいったい、どうしたらいいのでしょうか……？ 千狐 とにかく今は、村尾城さんを所領へと運びましょう。 心身共にかなりの傷を負っているはずですからね……。 殿 …………！ 千狐 はい、殿！　それでは……！ 秘技、時空……転移術なのーーーっ！！ ――夜、所領。 既に所領の者たちは皆、深き眠りについていた。 殿と、ひとりの城娘を除いて――。 村尾城 …………だーかーら！　 もう怪我は大丈夫だってば！ 村尾城 うん、千狐ちゃんがしっかり手当してくれたからね。 村尾城 ……ていうか、兜に襲われた時よりも、 此処で目をさましてからの方が 個人的にはびっくりなことが多かったんだから！ 村尾城 ……まず、私が目覚めた瞬間に 三本松城ちゃんが眼前で鷺舞を舞いまくってたことよ！ 村尾城 いや、もうあれは驚くってより怖かったわ……。 村尾城 ……でも、私を瘴気から解放しようとして やってくれてたことだから、嬉しくないっていったら嘘よね。 村尾城 あっ、それと！　この所領は何なのよ！ 柳川城ちゃん以外にも城娘が沢山いるんじゃない！ 村尾城 ……え？　あ、いや……あんまり城娘の友達いないから……、 なんていうか、ちょっと驚いちゃって……。 村尾城 ……。 村尾城 って、こんなことが言いたかったんじゃなくて。 村尾城 ……えっとね、殿。 村尾城 今日何度口にしたか分からない言葉だけど……さ。 村尾城 ……助けてくれて、ありがとう。 村尾城 ……私と三本松城ちゃんが先行しすぎたせいで 自ら死地に飛び込んじゃったわけだけど……。 村尾城 三本松城ちゃんを逃がした後で、 ひとりで兜たちと相対してた時……実は、すごく怖かったの……。 村尾城 ……ううん。生き死にとかそういうことよりも、 また心を操られて、殿と戦うことになるのが怖かったのよ……。 村尾城 ……し、しょうがないでしょ！ 村尾城 だって……私、今まで本ばかり読んできたから、 あんな窮地に立たされたことなんてなかったんだもん……。 村尾城 ……でも、ね。 村尾城 三本松城ちゃんの為に、 自分が時間を稼ぐって決めた時、 不思議と迷いや後悔はなかったの……。 村尾城 たしかに怖かったけど……すっごく怖かったけど……、 あの時、自分の心が臆さなかったことが、今の私の矜持になった……。 村尾城 ……って、何言ってるんだろ、私。 ごめん、今のは忘れてちょうだい。 村尾城 ――い、いいから忘れなさいって言ってるの！ 村尾城 …………。 村尾城 …………ふふ。 村尾城 いや、何か不思議だなぁって思って。 村尾城 だって、三本松城ちゃんが紹介したい人がいるっていうから 本を読む時間を削って渋々あの場所に出向いたっていうのに、 気づいたらこうして、その人と二人きりで笑って話をしてるんだもの。 村尾城 ……だ、だからって妙な勘違いはしないでよね！ 村尾城 貴方とは、お友達……なんだから。 村尾城 ……あ、違うか。 村尾城 これからは、私も貴方の仲間のひとりなんだった。 村尾城 ……そうなんだぁ、じゃないわよ！ さっき千狐ちゃんと一緒にいる時に、貴方にも伝えたでしょうが！ 村尾城 ……まったく。 忘れっぽいんだか、惚けてるんだか……。 村尾城 コホン……それじゃ、貴方の仲間になるということで、 ここで一つ、とっておきのうんちくを聞かせてあげるわね。 村尾城 ……そ、私に関するうんちくよ。 村尾城 私はね……。 村尾城 惚れた相手には、 けっこう尽くす城娘……なんだからね？ 村尾城 …………へぇ、じゃないわよ！ 村尾城 もう、にぶいんだから……。 村尾城 何でもない！　もういい！　私、寝る！ それじゃあね、殿！ 村尾城 …………え？ 村尾城 …………はいはい、分かってるわよ。 村尾城 ……殿も風邪ひかないように、 温かくして寝なさいよね。

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