ストーリーテキスト/天下統一6章

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目次

6章 継承編[]

第64話 群島に忍ぶ ~隠岐~[]

中国地方の乱れを治めてから、数週間。
兜の影を追いつつ、束の間の平穏を味わう一行の
許に、ある城娘からの報せが届く……。

前半

――宇喜多直家の名を冠する巨大兜の討伐から、数週間。

一行は岡山城に滞在し、
彼女の歓待を受けながら、巨大兜の気配を追っていた――

やくも
…………。

やくも
…………ふわぁ。

やくも
中国地方を襲った毒も、綺麗さっぱり。
今は平穏そのものだに。

やくも
こんな日々が、ずっと続いたらええんやけど……。

千狐
何をだらけたこと言ってるの、やくも。
中国地方に残ったのは、新たな手がかりを探すためでしょう?

やくも
ぅぐ……。

千狐
巨大兜の数は減り、確実に力を弱めているわ。

千狐
巨大兜の足取りを掴んで、着々と撃破していくことが、
千狐たちにとっては何よりの近道なのよ。

やくも
そうは言うけど、そんな簡単に掴めるもんでもないだに。
巨大兜の足取りなんて……。

やくも
やからうちも、気張りすぎず……。
こーやって、適度に休憩を挟みながら調査を――

???
――殿っ! 殿はいずこに!?
ここに殿が居ると伺って、参ったのですが……!

???
事態は火急! 一刻の猶予もありません!
……いらっしゃるならどうか、お返事を!

やくも
…………。

やくも
今の声は……。

千狐
ぐーたらするのはここまでみたいね、やくも。

千狐
すぐに皆さんをお呼びしなきゃ。
手伝ってくれるわね……やくも?

やくも
だ、だにっ!!

――――

殿
…………。

月山富田城
お初にお目にかかります、殿。
……私は月山富田城。出雲国の城娘です。

柳川城
兜の出現を察知したというのは、本当ですか?

月山富田城
……事態は、日課の巡回をしていたことに始まります。

月山富田城
それも全ては、
山陰の主城の名に相応しい働きを示すため。

月山富田城
他にも、日本五大山城……天空の城。
様々な名を背負う私は日頃から――

やくも
……よ、要点!
要点を掻い摘んで教えてほしいがや!

月山富田城
……失礼。
殿との対面に……知らず、
私も高揚してしまっていたようです。

月山富田城
端的に申しますと……、
我が御城から北上した先にある隠岐国。
そこから、兜の霊気を感じました。

殿
…………!

やくも
だに……隠岐国ってのは、どこにある国がや?

千狐
出雲国から海に出て、
北上した先の沖合にある島々のことね。

月山富田城
私の御城は、日本海の沿岸からほど近い場所にあります。
今日も、海岸の付近を散歩――巡回していたのですが……。

柳川城
そこで、海の向こうから兜の存在を感じ取った、と……。

月山富田城
……はい。

月山富田城
直接、この眼で確かめたわけではありませんが、
兜の動きがあることは、間違いありません。

岡山城
隠岐国にて兜に動き……ですか。

岡山城
……申し訳ありません、殿。
お力添えしたいのは山々ですが……、
我が国は未だ、先の戦から復旧する最中にございます。

岡山城
鳥取城、美作一ノ瀬城が故郷に帰った今、
私が此地を離れるわけには……。

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
そのお気持ちだけで十分ですよ、岡山城さん。
岡山城さんにはすでに十分過ぎる程、力を貸していただきました。

柳川城
隠岐国の平穏は必ずや、私たちの手で取り戻してみせます。

柳川城
ですから……岡山城さんは心置きなく、
此地を守ることに専念してください。

岡山城
ありがとうございます……。

月山富田城
隠岐国の諸島には、幾度か足を運んだことがあります。

月山富田城
この記憶があれば、
千狐さんの転移術の助けにもなることでしょう。

千狐
感謝いたします、月山富田城さん!

千狐
それでは殿!
準備を整え、隠岐国へと出立いたしましょう!

殿
…………!

――――

――数刻後。

ビュオオオォォォォ――

千狐
く……ここは少々、風が強いですね。

柳川城
そうですね……うぅ……。

殿
…………?

やくも
だに? 柳川城、
なんだか顔色が良くないけど……どうしたがや?

月山富田城
おそらく……この潮風の影響ですね。

月山富田城
御城にとっては、
腐食の原因にもなり得ますが……。
ここは一際、勢いが強い。

柳川城
はい……どうやら、そのようです。
私、柳川城は海辺近くに建てられた御城ですから、
慣れたつもりではいたのですが……。

月山富田城
仕方ありません。
これは御城である以上、避けられぬことです。

柳川城
すみません。
戦では足を引っ張らないようにしますので……!

殿
…………!

千狐
そうですね。柳川城さん、月山富田城さんのためにも、
少しでも早く兜を片付けて此地に平穏を取り戻さなければ――

兜軍団
ニン……ニンニン……ニン。

やくも
――あぁっ、見るだに殿さん!
あそこ、兜さんがえっぱい!

千狐
しっ……! 声を落としなさい、やくも……!

やくも
むぐっ……!

兜軍団
国ト言エド、所詮ハ小サナ島ノ連ナリ。
一ツズツ、着々ト征服スル……デゴザル。

殿
…………。

柳川城
ニン……ゴザル……?

やくも
なーんか聞き覚えのある口調だに……?

千狐
ともあれ、兜に気づかれていない今が好機。
ここを叩かない手はありません!

殿
…………!

月山富田城
承知しました……すぐに出陣しましょう!
隠岐の諸島を守るために!

後半


ギャアアアァァァ!

千狐
戦況は優勢……その調子ですよ!
柳川城さん、月山富田城さん!

殿
…………!

月山富田城
陸地から離れたこの場所ならば、
兜に逃げ場はありません!
このまま一掃いたしましょう!

柳川城
はい、承知しました!


マ、マズイ……コノママデハ全滅シテシマウ。
マサカ、コレホド早ク殿ガ現レルナンテ……。


ダガ、死ニ急グコトハナイ……。
事前ニアッタ命令通リ、本陣ヘ退クノダ!


本軍ト合流デキレバ、コノ戦況モ覆セルハズ。
半蔵サマノ許ヘ戻ルンダ、スグニ……!

千狐
(半蔵……?)


教ワッタ術ヲ使ッテ、北東ヘ……金山ヘ向カウノダ!


……全隊、水蜘蛛ノ術ッ!


御意ッ!

やくも
あ……ああっ!?

やくも
見るがや! 兜たちが、水の上にプカプカ~って……!

兜軍団
撤退! 撤退! 撤退!

やくも
…………。

やくも
……行ってしまったがや。

殿
…………。

千狐
聞こえましたか、殿。
去り際の兜たちの言葉が……?

殿
…………!

柳川城
『半蔵様』……兜たちは、確かにそう言っていましたね。

月山富田城
そしてもう一つ『金山』という言葉。
……兜たちが撤退していった北東という方角を考えれば、
自ずと目的地は見えてきますね。

千狐
佐渡国……そこに彼らの本拠があるのですね。

柳川城
そして、おそらくは服部半蔵の名を冠する巨大兜の姿も……!

殿
…………。

殿
…………!

千狐
そうですね。恐らく佐渡も此地と同じく、
兜の侵略に晒されているはず……!

千狐
殿、すぐに佐渡へと出立いたしましょう!

第65話 葵巴を偲ぶ ~佐渡~[]

越後国の沖合に位置する島……佐渡国。
巨大兜、服部半蔵はその地にて殿の到着を
待ちながら独り、物思いにふけっていた。

前半

――数日前。殿が巨大兜・宇喜多直家を討った直後。

服部半蔵
拙者が……殿ノ首ヲ?

???
生憎、すぐに動かせる手駒が他に居なくてね。
忍の長たるお前にしか頼めない任なのだ。

???
難しい策は必要ない。
日の本のどこかに陣を張れば、奴らは必ずそれを嗅ぎつける。

???
そうすれば……万全の態勢を整えた上で、
殿を迎え撃てることだろう。

服部半蔵
……御意。ナラバ、我が主君にソノ旨を――

???
いや、それは不要だ。
お前の最期については、私の方から伝えておこう。

服部半蔵
…………。

服部半蔵
秀吉様と同ジク……、
拙者も厄介払イ、ということでゴザルか?

???
……無意味な問いかけだな。

???
その答えを知ったとして、お前はどうする?

???
意志なき傀儡として、
手づから操っても結果に大した違いはないのだ。
私はそれでも構わないが……お前はどうしたい?

服部半蔵
…………。

服部半蔵
……失礼シタ。

服部半蔵
貴方の命に従オウ。
殿討伐ノ任、喜ンデ拝命するでゴザル。

???
ああ、そうだ……それが正しい。

???
此世の未来は私に任せて……お前は戦へ赴くといい。
悔いることなく、躊躇うことなく……な。くく、くくく……。

服部半蔵
ハ……承知したでゴザル。

――――

服部半蔵
…………。

服部半蔵
思エバ……これで良カッタのかもしれぬ。

服部半蔵
拙者のヨウナ忍風情が、主君の目指ス未来にツイテ……、
これ以上、何ヲ語ることがあろうか。

服部半蔵
拙者になせるコトなど……モウ、分かりきっているデハないか。

服部半蔵
…………。

服部半蔵
ダガ、一ツ心残りがアルとするなら――


半蔵サマァァァァァッ!


ホ、報告デス! 殿ト城娘ノ軍勢ガ姿ヲ現シマシタ!

服部半蔵
…………。

服部半蔵
……来たでゴザルか。

千狐
コンッ! 転移成功なのっ!

殿
…………!

月山富田城
ご案内感謝します、鶴ヶ岡城さん!
貴方のお陰で、無事に此地まで辿り着けました!

鶴ヶ岡城
とんでもございません……!
上杉氏や直江氏と縁深きこの場所……本来であれば、
殿からの報せよりも先に私が気づくべきでした。

鶴ヶ岡城
此地に蔓延る兜を討つためでしたら、
この鶴ヶ岡城、力は惜しみませんよ!

やくも
辺りは穴ボコだらけ……。
これじゃ、兜さんがどっから出てくるか――あぁっ!?

兜軍団
探セ、探セ……運ベ、運ベ……。

兜軍団
金デモ銀デモ構ワナイ……アラユル財ヲ、主ノ許ヘ……。

兜軍団
探セ、探セ……運ベ、運ベ……。

やくも
見るだに、殿さん……。
兜さんがあちこちでえっぱい、行ったり来たりしとるだに。

殿
…………。

柳川城
あれは……金属でしょうか。
私たちの存在にも気づかず……ひたすら運び続けているようです。

鶴ヶ岡城
目的は何でしょう。
単に財力のためなのか、それとも……。

服部半蔵
……久方ぶりでゴザルな、殿ヨ。

殿
…………!

服部半蔵
……お主らの到着を、待ちわびていたでゴザル。

服部半蔵
必ず拙者ノ尻尾ヲ掴み、
ココまで辿り着くと……予期シテイタ。

やくも
『ニンニン』め……! やっぱりお前だったがや!

服部半蔵
…………。

服部半蔵
お主ら、ココが佐渡国と知ッテ、
足を踏ミ入れたでゴザルか……?

服部半蔵
上杉景勝の名ヲ冠する巨大兜が落チタ今……、
ここは我が主君、徳川家康様ガ領地。

服部半蔵
これ以上進ムと言うナラバ、
手加減をするツモリはないでゴザルが……!

柳川城
…………。

柳川城
(言葉通り、すぐにでも飛びかかってきそうな、好戦的な姿勢……)

柳川城
(何があったのでしょう。
 私たちを『試す』と言っていた以前とは、まるで違う……)

柳川城
(何かを急いでいる? いや、追い詰められている?
 そんな風にも見えますが……)

やくも
景勝だの家康だの……そもそも、
此地を兜に明け渡した覚えなんて最初っから無いだに!

やくも
そっちの方こそ、
これ以上居座るっていうなら今すぐとっちめてやるがや!

殿
…………。

服部半蔵
良カロウ……元より拙者もそのつもりダッタでゴザル。

服部半蔵
覚悟ハ良いでゴザルな……殿ヨ?

殿
…………。

殿
…………!

服部半蔵
死力ヲ尽くし……この魂ノ全てをお主にぶつけヨウ。

服部半蔵
伊賀に始まりし忍、服部家ガ頭領……半蔵。参ル!

後半

服部半蔵
無念……無念でゴザル。

殿
…………!

やくも
し、喋りだしたがや……もう動けんはずやのに……!

鶴ヶ岡城
…………。

鶴ヶ岡城
大丈夫……この兜は、もう……。

服部半蔵
ウウ……ウゥゥ……。

服部半蔵
口惜シイ……口惜しい……。

服部半蔵
忠義ヲ……魂を、玩具のヨウニ弄ばれた、
コノ運命が……それに抗エヌこの弱さが。

服部半蔵
全テは拙者の不足ゆえ、誰ヲ咎めるつもりもナイが……。
タダただ……この結末が口惜シイ。

服部半蔵
殿。殿ヨ……。

殿
…………。

服部半蔵
我が主君は……家康サマは。ただ未来ヲ……太平の世ヲ……。

服部半蔵
殿よ、ソノ意志を……どうか――

服部半蔵
…………。

服部半蔵
……………………。

殿
…………。

千狐
…………。

千狐
巨大兜が……完全に沈黙しました。

殿
…………。

やくも
ニンニンが……泣いとっただに。

千狐
……千狐にも、泣いているように見えたの。

柳川城
はい……涙は見えなくとも、
あの声の中には言葉で現せぬほどの無念が、溢れていました……。

月山富田城
『ただ未来を……太平の世を』
巨大兜は、そう言っていましたね。

鶴ヶ岡城
真意の全ては分かりませんが、兜と人……。
相容れぬ立場にあっても、
彼は己の正しさを忘れてはいなかったのでしょう。

柳川城
…………。

鶴ヶ岡城
そして忘れていなかったからこそ……悔やみ続けた。最期の時まで。

殿
…………。

一行はその後しばらく、
動かなくなった巨大兜・服部半蔵の亡骸を見つめていた。

彼の魂が残した無念を、悼むように――

第66話 天比登都柱 ~壱岐~[]

佐渡国にて巨大兜の討伐を成し遂げた一行。
だが、時を同じくして、殿を討つべく人知れず
動き始めた巨大兜の姿が、そこに一つ……。

前半

???
……そうか。

???
つまり、準備は整ったということだな……清正?

加藤清正
シュウウゥゥゥ……シュルルルルル……。

加藤清正
は……ソノ通りです、我が主。全テは滞りナク。

加藤清正
吾は与えられた役目ヲ果タシタ。
次は……我が主、以前申し上ゲタ『望み』ヲ、
叶えてイタダク時が訪れた。そう考えて良いデスネ?

???
『最期を選ばせてほしい』……それがお前の望みだったか。

???
少々意外だった。
まさかお前が、私の下から逃れることを望むとは。

???
お前は此世での生を、
謳歌しているものだと思っていたよ。

加藤清正
確かに……楽シンデいました。

加藤清正
かつての生では到底出会エヌ、奇妙ノ数々。
心が踊ラナカッタと言えば……嘘になる。

加藤清正
生前励ンダ築城術の探究に、
勝ルとも劣らナイ……魅力ヲ感じた。

加藤清正
特に……巨大兜・上杉謙信が此世デ顕現に至ルまでの、道程。
あれには筆舌に尽クシがたいものがアリマシタ。

加藤清正
城娘ノ在り方……巨大兜の在り方。両者の通ヅル点と異なる点。

加藤清正
娘と願い……鎧ト魂。
それらは器に従ッテ、自在に変化スル。

加藤清正
彼ら彼女らが、どのヨウナ器に注ガレルのか。
誰ト共に生キルか、どこに光ヲ当てるか。
源にあるのは、祈りか無念か……狂気か。

加藤清正
はたまた……抗ウ事の許サレヌ、『あの御方』ノ命なのか。

???
…………。

???
その物言いは私を揶揄しているようにも聞こえるな……清正?

加藤清正
トンデモナイ……吾は貴方に、感謝しているのです。

加藤清正
長らく吾は、貴方ノ膝下で働き……、
此世の理ヲ規定する術、ソノ一端を垣間見タ。
そして、多クを学びマシタ。

加藤清正
ソレハ……他の巨大兜の生き様トハ、
全く異ナルものであったことでしょう。

加藤清正
しかしソノ日々の中で、吾は――

加藤清正
…………。

???
…………。

???
良い。今ばかりは、
何を言おうと不問にする……思うままに話せ。

加藤清正
…………。

加藤清正
我が主……貴方は果たして、ドコへ行キ着クつもりなのか?

???
…………。

加藤清正
今の吾は、過ギゆくモノが『此の時』に、
磔にサレテいるだけの存在。……それは、貴方も同じコト。

加藤清正
思うがママの世ヲ実現シタとして、どこに興ヲそそられよう?
ナラヌものがならぬから、此世は面白イというのに。

???
…………。

???
……勝利に見放された、愚者の弁だ。

加藤清正
……返ス言葉もございマセン。

???
……して、殿との戦いの……勝算は?

???
『最期を選ぶ』とはまさか……、
自ら討ち死にを選ぶ、ということではあるまいな?

加藤清正
負ケルつもりなど、毛頭ありマセン。
勝っても終い、負けても終イの戦デスカラ、
『最期』と言ッタまでのこと。

加藤清正
策ヲ巡らせ、兵を操り……。
文字通り、全霊を投じて殿を討つ所存です。

???
そうか……ならば行くがいい。

???
殿の首を持って帰ってくることを、期待しているぞ。

加藤清正
……承知。

加藤清正
…………。

加藤清正
最後に……感謝ヲ。

加藤清正
此の身に……生と役目ヲ与えてくださったこと、
伏シテ……伏して、礼を言う。

加藤清正
……では。

――――

???
…………。

???
……蛇め。

???
もう少し頭が悪ければ、長生きできただろうに。

――――

やくも
だにぃ……。

やくも
東西南北、海海海海……見渡す限りの水平線。
最近は、こんな景色ばっかり見とるような気がするがや。

――服部半蔵の名を冠する巨大兜を討伐してから、しばらくが経った。

あの後、所領に帰還した殿たちは、
近隣の城娘たちの力を借りながら、兜の影を追い続けていた――

唐津城
えへへ♪ こっちだよー、柳川お姉ちゃ~ん♪

柳川城
待ってください、唐津城さん。
あまり離れては危険ですよ……!

千狐
迷いの無い足取り……唐津城さんは、
この辺りの地形を熟知していらっしゃるのですね。

唐津城
うんっ、案内ならまっかせて♪

唐津城
ここには先生と一緒によく来てたからね、
アタシにとってはお庭みたいなもので――

唐津城
…………。

唐津城
…………あれ?

柳川城
どうしたのです、唐津城さん。急に固まってしまって……?

唐津城
アタシ今……『先生』って言った? 言ったよね?

柳川城
え……あ、はい……『先生と一緒に』と確かに……。

唐津城
先生……先生……。

唐津城
あれぇ……先生って誰のことだろ?

やくも
口にした張本人が分からんなら、真実は闇の中だに……。

佐賀城
夢でも見たんだろ。この前も寝言で口にしてたぜ。
『先生、ごめんなさいぃ~』って額を布団に擦り付けながらな。

柳川城
ね、寝ながら土下座ですか……!?

唐津城
ん~……? すごく腑に落ちるような、
全然身に覚えが無いような……?

殿
…………。

唐津城
まー、いっか。
今は兜を見つける方が大事だもんね!
こういうのは、必要な時が来れば思い出すだろうし。

佐賀城
そうだそうだ、難しく考えない方がいい。
単純で真っ直ぐなのが、唐津城の良いとこなんだからさ。

唐津城
むぅ……褒められてる気がしないよぉ……。

唐津城
見ててよ……こうなったら、
一番に兜を見つけて手柄を独り占めしちゃうんだから!

柳川城
唐津城さん! ですからあまり離れてはならないと――

柳川城
――行ってしまいました……。

やくも
佐賀城が後を追っかけてったから、きっと心配いらんがや。

千狐
それにしても、唐津城さん……張り切ってましたね。

やくも
柳川城に良いところを見せたいんだに。
『お姉ちゃん』って慕っとったみたいやし!

柳川城
……良い子です、本当に。
一緒に居るだけで、こちらまで元気になってきますね。

殿
…………!

柳川城
はい。これが終わったら……、
所領でゆっくりお話でもしたいものです。

――――

――その頃、唐津城と佐賀城は……。

唐津城
むむむ……感じる。感じるよ……。

唐津城
アタシの全神経が、危険を察知してる……!

佐賀城
勢い任せにいい加減なことを言ってら……。

唐津城
いい加減じゃないもん! ほんとだもん!

佐賀城
ああ、そうかい。
だったら兜の居所を教えてくれるか?
ビシィッと指差してよ。

唐津城
……い、いいよ? その代わり、
いきなり兜に囲まれて腰抜かさないでよね?

佐賀城
準備はとうにできてる……さくっと教えてくれ。

唐津城
ふ、ふんだ……後悔しても知らないんだから。

唐津城
それじゃいくよ。兜の居所はズバリ……むぅぅぅぅ……。

唐津城
ばばんっ! はいっ、あそこだよ!


…………。


――エェっ!?

唐津城
えぇ~~~っ!?

佐賀城
おいおい……本当に居たじゃねぇか。
――とか、驚いてる場合じゃないな。

佐賀城
……おーい! 柳川城、聞こえるか! 助力を頼む!

――――

柳川城
は、はいっ! 只今っ!

柳川城
……佐賀城さんの許へ参りましょう!
少々走りますがよろしいですか、皆さん?

やくも
うぉ、うぉおおっ!?

千狐
コンッ!? 急にどうしたの、やくもっ!?

やくも
かっ、兜さんが出てきよったがや!
こっちからも、あっちからも!

柳川城
島のそこかしこで、兜が……!

殿
…………。

柳川城
殿……此度は、平時よりも広域な戦場での争いとなります。
よって……城娘同士の連携や、
遠方に位置する敵への対処が、より困難になることでしょう。

柳川城
難しい戦いになりますが……どうか、聡明な下知を!

後半

佐賀城
はぁ、はぁ……。
と、突然出てきやがって。驚かすんじゃねぇよ。

唐津城
…………。

佐賀城
唐津城、大丈夫か? おーい、唐津城。聞こえてるかー?

唐津城
びっ……くりしたぁ~……。

唐津城
当てずっぽうに指差したら、そこから兜が出てきたんだけど……。

佐賀城
やっぱり当てずっぽうだったのかよ……。

佐賀城
ふぅ……何にしても、ご苦労だったな……殿。

佐賀城
……で、これからどうする?
もう少しこの辺りを調べていくか?

殿
…………。

殿
…………?

千狐
はい。確かに……此地、
壱岐からの兜の気配は途絶えました。
討伐に成功したと言っていいでしょう。

千狐
ですが……。

やくも
……まだ、兜の霊気が感じられるだに?

千狐
いいえ……何も感じないわ。ただ、胸騒ぎがするの。

柳川城
胸騒ぎ……。

千狐
霊気を捉えたわけではありません。
……感覚というより、勘と言った方が正しいです。

千狐
ですが、間違いないの。
きっと此地にはまだ、何かが潜んでいる……。

殿
…………。

唐津城
……佐賀城ちゃん。

佐賀城
……なんだ。

唐津城
ちなみに、アタシの勘だとね――

佐賀城
無駄話は後で聞く。

唐津城
ひどいっ!?

佐賀城
唐津城の勘はともかく……。
こういう時の予感は信用した方がいい。
そんで、やるなら徹底的にだ。

佐賀城
壱岐はもちろん、隣の対馬まで……。
草の根かき分けて、兜の姿を探すことにしようぜ。

殿
…………!

第67話 玄海を越えて ~対馬~[]

千狐の予感を信じ、一行は壱岐に続いて対馬に
上陸し、兜の影を追い続ける。そこに巨大兜、
加藤清正が待ち構えていたかのように姿を現す。

前半

――先の戦から、数日。

壱岐を出た一行は、一路北西へ。
九州を更に離れて、対馬へと向かっていた――

唐津城
じょうりく~、っと……。

佐賀城
壱岐の捜索は完了した……ってことは、
千狐がさっき感じた胸騒ぎの原因は此地、対馬にあるんだよな。

やくも
……ごくり。

唐津城
ただの勘違いで平和そのもの……だったら嬉しいんだけど……。

殿
…………。

柳川城
ある程度近づけば、兜の霊気も捉えやすくなるはずです。
千狐さんの感覚を頼りに、慎重に進んでいきましょう。

千狐
では……まずは海沿いを進みながら散策して――

???
追エ、追エェェーーーー!!

佐賀城
――ん? この声は……?

殿
…………!

柳川城
承知しました。声の元を追ってみましょう……!

???
はぁ、はぁ……やっぱ、
このままで戦うのは辛いか……。

兜軍団
コノ娘、信ジ難イチカラダ……本当ニ人間ナノカ……!?

兜軍団
ダ、ダガ、ヨウヤク追イ詰メタゾ……!

???
んー、『追い詰めた』?
そいつはどうかな……。
勝利を確信するにゃ、まだ早いと思うがね。

兜軍団
……ナンダト?

???
アタシはまだ力を残してる……。
勝負の決着は、そいつを見てからに――してもらえるかなっ!!

???
はああぁぁぁぁっっ!!

殿
…………!

やくも
うぉっ……! 見るだに千狐、
あのお姉さんの持っとる珠から、光が……!?

千狐
コンッ……こんな光、見たことないの……!?

???
ふうううぅぅぅ……。
よぉし、これで準備は終いだ。

兜軍団
コ、コレハ……!?

???
よくもやってくれたな、この野郎。
……一体も逃さねぇから、覚悟しとけ。

柳川城
姿を変え、巨大化した!?
城娘の力は感じられませんでしたが……!?

殿
…………。

兜軍団
…………。

兜軍団
テ……撤退ッ、撤退イィーー!!

???
お、おいっ!
なんだお前ら、ビビってんじゃねぇよ!
勝負はまだこれからじゃねーか!?

兜軍団
イ、命ダケハ勘弁ヲォォォォーーーー!!

???
んだよ、意気地がねぇな。
……まぁいい。すぐに追いついて、懲らしめてやる――

???
――ぁん?
なんだぁお前ら? 奴らの味方か?

殿
…………。

柳川城
お、落ち着いてください。
私は柳川城……城娘の一人です。
兜の影を追って、殿や仲間たちと共にここに訪れました。

???
しろむすめ……との……?

???
……おーおーおー! アンタが殿か!
それからアンタらは城娘! そうかそうか! はっはっは!

唐津城
お姉さん、アタシたちのことを知ってるの?

???
ああ、話に聞いたことがある!
民のために戦ってくれてる、ありがたいお方たちだろ?

千狐
それで、貴方はいったい……?
見たところ、城娘ではないようですが……。

???
アタシも兜を追っかけてたんだよ。
奴ら、人を片っ端から傷つけやがる。
アタシの仲間も沢山犠牲になったんだ……許せねぇ。

佐賀城
……気持ちは分かるが、アンタは生身の人間だろ。
あんな真似をしてたら、命が幾つあっても足りないぜ?

???
へーきへーき。
こう見えてアタシ、結構できるんだぜ。

???
アタシは元々、陸奥国の出身でよ。
米を作って暮らしてたんだけど――見てくれ。
ある朝、目を覚ますと……この珠を握りしめてたんだ。

千狐
それは……先程、変身の際に輝いていた珠……。

???
んでよ、ついでに……降りてきたんだよな。びびびー、っと。

やくも
びびびー……?

???
ん~、言葉で上手く説明できないんだが……。
得体の知れない力を感じたんだ。
胸の内からこう、沸々と湧き上がってくるみたいな……。

???
それは、まるで……誰かの力が、
此の身に宿ったような感覚だった。

???
これまでにないほど心身は充実していたが……正直、不安だった。
だからよ、自分の心に向かって試しに尋ねてみたんだ。
『お前は誰だ!』ってな。

唐津城
それで……返事はあったの?

???
いや、うんともすんともだ。
……だが代わりに、脳裏に妙な情景がよぎったんだ。

柳川城
情景……?

???
記憶……のように感じられたが、分からねぇ。
まるで覚えの無い出来事なのに、
アタシ自身が体験したことみたいに感じられたんだよ。

???
そして……これがまた驚きなんだが、
その記憶の中でアタシは周りの者たちから、
『伊達政宗』と呼ばれてたんだ!

殿
…………!?

千狐
だ、伊達政宗……!?

柳川城
千狐さん……今の話、どう思いますか?

千狐
正直……にわかには信じがたいです。
ですが、この方からは悪しき力を感じません。
巨大兜とは違った形で、武将の魂が作用した結果なのかも……。

???
伊達政宗っていやぁ有名な将軍様の名だ。
陸奥国で知らない奴はいねぇ。

???
よぎった記憶は断片的なものだったし……分かったことは多くない。
でも、得体の知れないままよりは、幾らか気持ちは軽くなった。

???
でよ……胸の内から、ある衝動が絶えず湧き上がってくるんだ。
兜を倒せ、世に平穏を取り戻せ……ってな。

殿
…………。

???
アタシは学もねぇし、難しいことは分かんねぇ。
だから、アタシなりに勝手に解釈することにした。

???
アタシに起こった変化の数々は、政宗様からのご加護で……、
『兜を倒せ』っていう意志を果たすために与えられたんだ、ってな。

???
つまり、今のアタシは、
胸の内に宿ったこの魂の意志を叶えるための、
写し身みたいなもんなんだ。

佐賀城
伊達政宗公の写し身……か。

伊達政宗
そう! だから皆、
アタシのことは『伊達政宗』って呼んでほしい。
政宗とか伊達ちゃんでも歓迎だぜ♪

唐津城
うんうんっ! よろしくね、伊達ちゃん!
アタシは唐津城だよ♪

伊達政宗
おう、よろしくな唐津城!

佐賀城
(早速打ち解けてやがる……)

千狐
それで……こちらの島へは、どういった経緯で?

伊達政宗
故郷を出てからは、
日の本をぶらつきながら兜を退治してたんだ。んで、
その旅路の中で船に乗る機会があったんだが……これが楽しくってよ。

伊達政宗
船旅を楽しみながら、
兜の気配を追ってたらここに着いたってわけさ。

伊達政宗
――と、そうだ。何はともあれ、兜を追わねぇと。
話の続きはその後でも遅くねぇよな、殿!

――――

千狐
…………!

やくも
どうしただに……千狐?

千狐
あ、あ……あれを見て……。

殿
…………。

殿
…………!

千狐
今、理解しました。
敵は、強大な力を……巧妙に隠していた。
だから千狐は、今まであの存在に気づかなかったの……!

加藤清正
シュウウゥゥゥゥ……シュルルルルル……。

伊達政宗
なんだぁ……あの馬鹿でかいのは……!?

柳川城
……っ! あの巨大兜は……!

殿
…………!

唐津城
千狐ちゃん、あの姿に見覚えがあるの?

千狐
千狐がまだ、柳川城さんや殿と出会ったばかりで……、
はぐれてしまったやくもを探していた頃のことです。

柳川城
遠方の対岸にあの姿を認めた私たちは、
身を隠し……その場をやり過ごした。

柳川城
一度、その姿を見たきりになっていましたから、
気にかかってはいましたが……。
まさか、ここで再会することになるとは。

加藤清正
お前タチも……ヤハリ、あの日のことを覚エテいたか……。

殿
…………!

千狐
お前たち『も』ということは……もしや……?

加藤清正
アア……もちろん気ヅイテいたとも。

加藤清正
城娘ヲ束ねる力を備エタ……殿。
お前ガ目前に居タということにな。

加藤清正
オ前も……薄々、勘付イテいたのではないか?
吾ノ此の身に収マル虚魂が……加藤清正のものデアル、と。

殿
…………。

加藤清正
ソウダ……自分デモ意識しない内に、
吾の存在ヲ認識し……ソシテ、避けていたのだ。

柳川城
(加藤清正……賤ヶ岳七本槍の一人として、
 各地で武功を挙げた将。そして、殿とは浅からぬ縁が……)

殿
…………。

加藤清正
それにしても因縁ト言うべきか、奇縁と言ウベキか。
お前にマツワル記憶は数え上げればキリがない。
ナァ……そうであろう?

殿
…………。

加藤清正
ドウシタ……何を躊躇ッテいる。
ココマデの戦で、思ウ所でもあったか。

加藤清正
秀吉様か、直家か……半蔵か。
彼ラの散リ様に、何かヲ感ジタか?

加藤清正
ソレトモ……巨大兜に姿を変エタこの吾に、
未ダに思い入れでも?

殿
…………。

加藤清正
残念だ。
これが共に戦場ヲ駆けた朋友であれば、
酒デモ酌み交ワシつつ、賑やかに夜ヲ明かすトコロだが……。

加藤清正
吾は兜……お前たちは城娘だ。

加藤清正
衝突は避ケられぬ。
ドチラカが果てることでしか、終ワリは訪れぬ。

加藤清正
まぁ、良かろう。
躊躇ッテ死ぬも、潔く死ヌも……手前らの勝手次第だ。

加藤清正
サァ、始めようぞ……!

千狐
――コンッ!?

千狐
き、巨大兜の霊気が高まっていきます……!

やくも
やばいだに……これは絶対、やばい奴だに!

唐津城
ねぇ佐賀城ちゃん……今から全力で撤退するっていうのは――

佐賀城
ビビってんじゃねぇよ!
あいつをぶっ倒さなきゃ、何も変わんねぇだろうが!

伊達政宗
だな! ここで踵を返すなんてあり得ねぇ!

殿
…………。

柳川城
…………。

柳川城
……殿。

柳川城
……殿、参りましょう。

柳川城
私たちは、信じるしかありません。
私たちにならできると……そして、進んだ先には光があると。

殿
…………。

柳川城
ええ……きっと大丈夫です。私たちが付いていますから。

柳川城
さぁ……どうか、聡明なご下知を。

殿
…………!

後半

加藤清正
ぬ……ヌゥ、ヌウゥゥゥゥ……!

伊達政宗
ちくしょう……なんてしぶとい奴だ……!

伊達政宗
(こうなったら、あの手を使うしかねぇか。
 いやしかし、殿の一行に迷惑を掛けるわけには――)

柳川城
巨大兜の力は、確実に弱まっている……。

柳川城
勝利まではもう一息……一気に押し切りましょう!
唐津城さん、佐賀城さんっ!!

唐津城
うん、承知したよっ!!

佐賀城
っしゃあ! いっくぜぇえええ!

柳川城
はああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!

加藤清正
グ、グオオオォォォォォオオオオオオ!!!?

千狐
巨大兜が崩れ落ちましたっ!!

やくも
やっただに、やっただにぃ~!!

殿
…………!

伊達政宗
お……終わったみたいだな。

――――

伊達政宗
……ふうぅぅぅ。

千狐
姿が、元に……大丈夫ですかっ?

伊達政宗
ああ……ちょっと疲れちまっただけだ。

伊達政宗
(しっかし、あの力を使う羽目にならなくて良かったぜ。
 今のアタシにゃ、あの力は御しきれねぇ。
 誰を傷つけるか分かったもんじゃないからな……)

加藤清正
…………。

殿
…………。

加藤清正
お前は、相変ワラズ……優シイ眼をしているな。

加藤清正
この身ヲ得てから、人とは幾度モ接シテきたが……、
そのような眼デ吾を見る者は、一人足りとも居ナカッタ。

加藤清正
その眼を見テいると、
人ダッタ頃の……忘レかけた記憶が揺さぶらレル。

加藤清正
……お前は、我らの魂スラも、
救オウとシテイルのだな。馬鹿ナ奴め。

殿
…………。

加藤清正
だが……ココカラ先は、そう簡単にはいかぬぞ。
気ヲ付けろ、殿……あの御方はもう、動キ始メテいる。

加藤清正
確かに……これまでお前が見テキタものは、いずれも真実ダ。
秀吉の諦念も、直家の狂気も……半蔵の忠心も。

加藤清正
虚魂といえど、
彼らが散リ際に見セタ輝きに偽りはナイ。

加藤清正
だが、お前がコレカラ目の当たりにスルものは……そのどれトモ違う。

加藤清正
マヤカシ……まやかしなのだ。

殿
…………。

加藤清正
兜の言葉に耳を貸スナ……。
心ヲ通ワセようなどと、決シテ考えるな。

加藤清正
…………ふ。

加藤清正
吾がこれだけ言オウとも……。
きっとお前は、まんまと策に嵌ッテしまうのだろうな。

加藤清正
だが、それで良イのかもしれぬ。
お前がソコマデ冷徹であれたら……、
ココマデ来ることもできていなかったのダロウからな。

殿
…………。

加藤清正
…………。

柳川城
…………。

加藤清正
……ソコの城娘が、柳川城か。

加藤清正
(……確かに、力の片鱗は感ジル。
 だが、目覚めにはホド遠い。
 打開の手立テとなるかは、彼女次第か)

加藤清正
(イヤ、いずれにシテモ……去りゆく吾には関係のないこと、ダナ)

加藤清正
…………。

加藤清正
急ゲ、立花山城……。
さもないと、手遅れにナル……ぞ……。

殿
…………?

柳川城
立花山城……?

加藤清正
…………。

加藤清正
……………………。

唐津城
…………。

唐津城
あれ……静かになっちゃった。

唐津城
というか……動かなくなっちゃった?
つんつん、つんつんつん。

佐賀城
……つんつんすんな。そっとしておいてやれ。

唐津城
なんか、思ってたのと違ったよ……。
巨大兜って、みんなこんな感じなの?

唐津城
アタシが想像してたのは、もっと……、
見るからに悪そうな奴で、倒したらスカッてするような展開で……。

唐津城
今の気持ちは……なんなんだろ。
アタシね、この巨大兜が動かなくなっちゃって、
ちょっとだけ……悲しいの。

佐賀城
…………。

佐賀城
……ああ、そうだな。

伊達政宗
……くぅ~~~!! だめだ!
こうしちゃいられねぇ!

伊達政宗
少しでも早く、少しでも多く! 兜を狩らねぇと!

千狐
お、お待ちください! 貴方にはお話を――

伊達政宗
大丈夫大丈夫、事情はだいたい分かったからよ♪
アタシもアンタらも兜を追って、ぶっ倒す!
要はそういうことだろ?

伊達政宗
とにかく今は、身体を動かしたい気分なんだ!

伊達政宗
お互い死んでなかったら、また会おうぜ!
んじゃ~な~♪

唐津城
ああ、伊達ちゃん……。

やくも
行っちゃっただに……。

千狐
そ、そちらが大丈夫でも、
千狐たちはまだまだ聞きたいことがいっぱいあったの……。

殿
…………。

やくも
殿さん? ぼーっとしちゃって、どうしただに?

千狐
殿……?

殿
…………。

やくも
(殿さん……巨大兜を見つめたまま、黙りこくってしまっただに)

千狐
(何かあったのかしら……?)

柳川城
…………。

柳川城
(お二人とも、心配には及びません)

柳川城
(殿は何か……思う所があるようです。
 しばらく、そっとしておきましょう)

やくも
(んー、やけど……)

柳川城
(ご安心ください。私が傍で見守っていますから)

千狐
…………。

千狐
(やくも……ここは柳川城さんに任せましょう。
 千狐たちは、戦の後始末をするの)

千狐
(残党を探したり、荒れた地を復旧したり……やることは山積みなんだから)

やくも
(だにぃ……分かったがや)

佐賀城
よっしゃ。
それじゃアタシらは、島内の見回りをしてくるぜ!
行くぞ唐津城、残党狩りだ!

唐津城
わわっ、待ってよ! 佐賀城ちゃーん!

殿
…………。

柳川城
…………。

柳川城
(……殿)

――――同じ頃。

???
…………。

???
……清正が逝ったか。

???
やはり奴も……生前の記憶によるしがらみからは、逃れられなかったか。

???
いや、それとも……奴自ら、しがらみに従うことを選んだか。

???
清正の奴も、勿体ないことをしたものだ。
……戦いも、ようやく佳境に入ろうというのに。

???
しかし……今の殿はどうやら傷心の様子。

???
そこで、私から贈り物を届けることにしよう。

???
くくく……殿の奴も、
これを見ればたちまち元気を取り戻すに違いない。

???
なぁ……お前もそう思わないか……?

石田三成
…………。

第68話 怨嗟の鳴動 ~但馬~[]

但馬国に迫る危機を知り、転移を果たした
殿たち。身を潜めながら兜の気配を注意深く
探る中、一行は何者かの気配を察知するが……。

前半

――但馬国、某所。

壱岐……そして対馬の兜を討ち、
所領に帰還した殿一行。

しかし、直後……。
ある城娘から救援を求める報せを受け、
息をつく間もなく所領を発ったのだった――

殿
…………。

千狐
周囲に満ちる……霊気。
……間違いありません。手紙にあった通り、
ほど近い場所に兜が潜んでいると見て、間違いないかと。

赤穂城
……ありがとな、みんな。
禄に面識も無い、
あっちからの願いを聞き入れてくれて……。

赤穂城
あっちが住んでる播磨国と……お隣の但馬国。
城娘たちで力を合わせて、何とか守りぬいてきたんだけど……。

赤穂城
ここ最近……急に力を強めてきやがって……。
捌き切ることが難しくなっちまったんだ。

赤穂城
情けない話だが……これ以上、
皆を危険に晒すわけにもいかないからな。
そこで殿さんたちに、助けを求める手紙を送ったってわけだ……。

柳川城
……無理もありません。
私たちも現地の城娘に力を借りながら、
どうにか乗り越えている状況です……。

柳川城
ですから、そこに危機が迫っているというなら、
私たちに躊躇う理由はありません。此度も、
赤穂城さんのためにこの力を振るわせていただきます。

殿
…………。

赤穂城
ありがとなぁ……この礼は、
忠義をもって代えさせてもらうからさ、
今後はいつでもあっちに頼ってくれ。

殿
…………!

やくも
それで……。
兜の本陣がどこにあるかは、
もう掴めてるんだに?

赤穂城
ああ……そこについても難儀しててな……。

赤穂城
本当なら、
こっちから殴り込みを掛けてやりたいとこだけどよ、
向こうもそう簡単に尻尾を掴ませてくれねぇ。

赤穂城
ここ数日は、息を潜めながら相手の出方を伺ってる状態だよ……。
太鼓も叩けねぇし、蕎麦を啜ることもできねぇ……忌々しいぜ。

やくも
…………ほぅ。

やくも
……蕎麦?

千狐
やくも、そこはあまり重要じゃないと思うんだけど――

がさがさ……がさ……。

殿
…………!

柳川城
……皆さん、お静かに。
何者かの気配が、こちらへ近づいているようです。

赤穂城
まさか……兜か?

柳川城
分かりません……ですが、
どうやら向こうは、私たちの姿を捉えていない様子。

柳川城
ここは息を殺して、様子を伺いましょう……。

赤穂城
…………。(ごくり)

がさ……がさ……がさがさ……。

がさ、がさがさ――がさっ!

赤穂城
――はっ、あれは……!

椿尾上城
…………。

椿尾上城
――む。ここは……。

やくも
…………。

やくも
あれは……いったい、誰だに?

――――

椿尾上城
改めて……私の名は、椿尾上城。
筒井順慶様を守護する役目のために建てられた御城だ。

椿尾上城
まさか、噂に聞く殿の一行と、
ここで遭遇するとはな……これも一つの定めか。

椿尾上城
結果、私の勘が当たっていたことの証左にもなったわけだが……。

柳川城
勘……ですか?

椿尾上城
ああ。前触れもなく……妙な胸騒ぎを感じたのだ。
今までに味わったことのない、悪寒……。
根拠は無かったが、凶兆を示していると即座に理解した。

椿尾上城
そこで私は、周辺の城娘に守護を任せ、
自身の感覚を信じるがまま、歩みを進めることにしたのだ。

千狐
そうだったのですね……それで、この但馬国まで……。

椿尾上城
うむ……残念ながら、
今のところそれらしい手がかりは掴めていないが……。

赤穂城
いーや、残念なことなんて一つもないぜ、椿尾上城!
あっちらは心強い同志を得たんだ、それだけでも充分過ぎるぜ!

椿尾上城
心強い……同志?

赤穂城
ああ、そうさ! 人手が増えりゃ、
打てる策にも幅が生まれる!

赤穂城
となれば、こっちから打って出ることもできるだろ?
近くに兜が潜んでるのは分かってるんだから!

殿
…………。

赤穂城
な、殿さん? いいだろ? だったら命じてくれ!

赤穂城
あっち、もう我慢の限界なんだよ!
皆を苦しめる兜どもを成敗してやりたいんだ!

殿
…………。

殿
…………!

赤穂城
よぉ~~~っし! 承知した!

赤穂城
戦の前線は、この赤穂城に任せろ!
それじゃ、いっくぜえぇっ!

後半

赤穂城
よっしゃあ! 勝利勝利、大勝利だ~!

赤穂城
そんじゃ太鼓を叩いて勝利を祝うか!
ついでに米もたんまり炊こう!
卵をかけて食うと美味いんだ♪

やくも
だにぃ~! 祝いの宴を開くがや~♪

椿尾上城
…………。

椿尾上城
周囲に満ちていた兜の霊気は、全て滅した。
……それで間違いないんだな、千狐?

千狐
え……は、はい。そのはずです。
逃げたか、討たれたか……いずれにしても、
兜の気は感じられなくなっています。

赤穂城
ん……どうした?
まだ気がかりが晴れねぇって顔をしてるな。椿尾上城?

椿尾上城
……分からない。分からないのだ。

椿尾上城
得体のしれない不安と恐怖で、胸が締め付けられるようだ。
近い将来、良からぬことが起きる……そんな気がしてならない。

赤穂城
お、おいおい……顔が真っ青じゃねぇか。
ほら、あっちの身体に掴まんな?
支えてやるから……。

椿尾上城
す、すまない……。

殿
…………。

殿
…………?

千狐
……はい。
椿尾上城さんの懸念、
思い過ごしとはとても思えません。

柳川城
周囲を探れば、その正体も掴めるはず。
此地を拠点に、注意深く……進んでまいりましょう。

赤穂城
だな、太鼓も宴も後回しだ。
同志が苦しんでるってのに浮かれちゃいられねぇ……。

椿尾上城
苦労を掛けるが……何卒、よろしく頼む……。

――――

赤穂城
――む。なんか雲行きが怪しくなってきたな。
あっちが住んでる播磨国の辺りまで来ちまったみたいだが……。
何か感じるかい、椿尾上城?

椿尾上城
…………。

椿尾上城
あ、ああ……間違いない。
確実に近づいている。

椿尾上城
近くはないが……遥か遠く、というわけでもない。
今この時も、私たちを覗き見ている者の気配を――

???
グガ……グギギ、グウウゥ……。

殿
…………。

殿
…………!?

石田三成
グギ……グギギ、グギイイィィィィ!!

赤穂城
おいおい、何だいあのでっかいのは!?
あれが件の巨大兜ってやつかい!

柳川城
それに、あの姿は……!?
討伐を果たしたはず。なのに……!

やくも
だに……摂津国にて戦った時、確かに……!

石田三成
ガ、アァ……アァァ……!
グガアアァァァァアアァアアアア!!

響き渡る叫びに込められた……怨嗟の念。

再び相まみえることとなった、石田三成の魂。
縁浅からぬ、総大将の面影。
使命と決意……それと同時に生まれる憐憫の情。

入り混じる感情を抱えたまま……殿はしばし、
巨大兜を見据え、立ち尽くしていた。

石田三成
フウウウウウゥゥゥゥゥゥ……!

千狐
――コンッ!?
いけません、巨大兜の砲口がこちらにっ!!

椿尾上城
く……!
私たちがたどり着くのを待ち伏せていたのか!

殿
…………!!

柳川城
なりません、殿を置いて逃げるなど!
いくら貴方のご下知と言えど、それだけは聞けません!

石田三成
グガアアァァァァァァァァッ!!!

柳川城
(もう猶予がない……!
 ならば、此の身を盾にしてでも殿を――)

――ドオオオオオォォォォォンッ!!

――放たれた巨大兜の砲撃は、
寸分の違いも無く殿を捉えていた。

誰もの脳裏に『死』がよぎった。その時――

???
――させないっ!!

殿
…………!!

立花山城
…………。

立花山城
…………。

刹那にも満たない程の僅かな時間の中、
彼女が浮かべた微笑み。
初めて見るはずのその表情に、殿は訳も無く……懐かしさを覚えた。

第69話 如何なる運命でも ~播磨~[]

巨大兜による砲撃、その刹那に見た微笑み。
それは現か幻か……立ち上る砂埃が晴れた先で
殿たちが目の当たりにしたものとは……。

前半

――――

巨大兜が放った砲撃が着弾し……、
激しい爆発音と共に、砂埃が舞い上がる。

固く目を瞑り、
身を寄せ合っていた一行は……やがて、
恐れていた痛みと衝撃が訪れなかったことを知る。

そして、砂埃が晴れると……その向こうには――

やくも
…………。

やくも
……あれ? ぶ、無事だに?
てっきりうちは、あの砲撃でやられてしまったんかと……。

千狐
これはいったい……?
もはやこれまでかと、覚悟を決めて――

千狐
――コンッ!!
待って……そこに誰か倒れていますよ!?

立花山城
ぅぐ……あぁ……はぁ、はぁ……。

千狐
た、立花山城さんっ!
貴方がどうしてここにっ!?

柳川城
……立花山城? あ、貴方が……?

柳川城
(ドクン……ドクン……ドクン……)

柳川城
(なんでしょうか……この感覚は)

柳川城
(知っている……? いや、分かる。
 私の心が彼女のことを……覚えて、いる……)

椿尾上城
見ろ、酷い怪我だ!
……すぐに手当てをしなければっ!

千狐
せ、千狐の力を注ぎます!
少しでも力を取り戻してくれれば良いのですが……!

立花山城
待っ……て。大丈、夫……だから。少しだけ、殿と……。

立花山城
殿……殿は、どこ……?

殿
…………!

立花山城
――ねがい、……を……って……。

殿
…………?

立花山城
……手を……おね、がい……。

殿
…………。

震えながら差し伸べられた立花山城の手に、
そっと……殿の手が重ねられる。

立花山城
…………。

立花山城
ああ……暖かい。
この感触……分かる。貴方の手のひらだわ。

立花山城
無事だった、のね……。
あぁ……良かった。

立花山城
……お願い。強く……もっと強く、握って……?

殿
――…………ッ!?

――

――――

立花山城
貴方、どうやら死にたいようね……!

峻厳たる声音と共に、朔夜の如き漆黒が眼前に広がり、
闇を従えるようにして、少女が現れたのだ。

殿
(――天女の類いか……!?)

陰を背負いながらもなお暗く、その妖艶な姿に
殿はここがあの世ではないのかと一瞬疑った。

程なくして、"謎の敵兵"は地に倒れ伏した。
少女の操る癒やしの気が殿に力を与え、勝利へと導いたのだ。

立花山城
私の名は『立花山城』……。
伝えなければならない事は山ほどあるけれど、今は敵の殲滅が先よ。
さあ殿、立って?

立花山城
新手の敵が来るわよ!

――――

立花山城
……ほら、じっとしてなさい。
今、治してあげるから……。

立花山城
……ったく。無理は禁物って、日頃から言ってるじゃない。
私よりも貴方の命の方が、
よっぽど大事なのよ……分かってる?

立花山城
……な、なにニヤニヤしてるのよっ、ばか!
私はただ、当たり前のことを言っただけでしょ?

立花山城
……にしても。
この世界で兜に立ち向かえるのは、
貴方と私以外に居ないのかしら……?

立花山城
私以外の城娘が顕現していたって、おかしくないのに……。

立花山城
……なんて、無いものねだりをしても仕方がないわよね。
私は立花山城。貴方を守れなきゃ、
何のために生まれたのか分からなくなっちゃう……!

立花山城
癒やすだけじゃ……駄目なのよね。
兜を討つ力を備えなきゃ、私たちに未来はない……。

立花山城
見ててね……殿。
次の戦では、兜たちに目にもの見せてやるんだから!

――――

村の子供
く、苦しい……苦しいよぉ、お母さん……。

村の女
ぅぐ……く、苦しい。
村の皆が、次々と……どうして、こんなことに……?

立花山城
こ、これは、もしかして……?

立花山城
待って。それじゃ、貴方は……。
これまで……私の隣に居ながら、ずっと――

立花山城
――ち、違うの。こんなはずじゃないの。
……ごめんなさい。

村の老人
見つけたぞ、あの少女だ!
仲間の仇を追え! 追えええ!

立花山城
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ

――――

織田信長
フウウゥゥゥゥ……。
ようやく……ヨウヤク、此の時が訪れたノダ……。

立花山城
ごめんなさい……ごめんなさい。
私をかばったせいで、こんなことに……。

立花山城
血がこんなに……全然止まらない。
殿の身体が、どんどん冷たくなってく……。

立花山城
このままじゃ……嫌。
嘘よ……こんなの、嘘。

立花山城
ねぇ……ねぇってば。
返事をして……お願い、だから……。

立花山城
…………。

立花山城
…………誰か。

立花山城
ねぇ……見ているんでしょう?
神様でも何でもいい……誰か、この人を助けてよ。

立花山城
この人を守るためなら、
私はどうなっても構わない……だから、誰か――!

織田信長
……諦メヨ。

織田信長
ココが貴様らの運命の、終焉……。
案ズルことはない。
すぐに貴様も同ジ場所へ送ッテやろう。

織田信長
ヨクゾここまで生キ抜いた。
世ヲ守るための孤独ナ戦……敵ながら天晴。

織田信長
貴様の最期は、予が手づから下シテやる。
褒美代ワリだ……受ケ取レ。

織田信長
……さらばダ。

立花山城
…………。

立花山城
…………い、いやぁ……。

立花山城
……いやああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ

殿
――…………。

立花山城
殿……ねぇ、殿……?

立花山城
私……頑張ったよ?
振り返ったら、辛いことばっかりだけど……。
何度も諦めかけて……足を止めたけど。

立花山城
できることは……思いつく限り、全部やったの。

殿
…………クッ。

立花山城
ごめんね……こんなことを言っても、困っちゃうよね。
分かってる……けど、どうしても伝えたかったから……。

立花山城
平気よ。片想いには……慣れっこだもん。

立花山城
世界が幾度、巡っても……、
貴方がどんな貴方でも。
私はきっと、この運命を受け入れる。

立花山城
……だから、良いの。

立花山城
これで、良いの……。

千狐
動かないでください、立花山城さん!
傷に障りますから、安静に――!

石田三成
グガアアァァァァァァァアアア!!!

殿
…………!

椿尾上城
……き、巨大兜がまた、力を溜め始めたようだぞ!

赤穂城
こっちは怪我人を抱えてるんだぜ!
少しくらいは休ませてくれてもいいのによ……ちくしょう!

殿
…………。

柳川城
(……このままでは、全滅は免れない……!)

柳川城
(殿を生かすために、成すべきことを考えなければ。
 何に代えても殿の命だけは――!)

???
……ふぅ。

???
……まったく。酷い有様だな、おい。
城娘たちが不安がってるじゃないか。

殿
…………?

???
……立て。立つのだ。
此奴らの主は、お前なのだろう……『殿』?

???
辛くても、苦しくても……こいつはお前の役目だ。
力を貸すことはできても、
代わってやることだけは……誰にもできない。

殿
…………。

???
よく見てみろ……奴の姿を。

石田三成
グガ、グギ、ギ……ギィィィイイイイ……!!

???
大きな力と悪意によって……歪められてしまっている。
当人すらも望まぬ形でな。

殿
…………。

???
あまりに惨い姿だ、これ以上は見てられん。
せめてもの手向けとして……戦の中で逝かせてやってほしいのだ。

???
他ならぬこの私からの願いだ。
……聞き届けてもらえるだろうか?

柳川城
…………。

柳川城
(貴方は……もしかして……)

殿
…………。

柳川城
殿……ご下知を!
皆が貴方の言葉を待ちかねていますよ!

柳川城
私の手を取って……さぁ、立ち上がりましょう!

殿
…………。

殿
…………!

後半

石田三成
グ……ゥググガァァァアアアアア!?

石田三成
フゥ、フゥゥウウ……!
グギ……ギィ……。

千狐
――コンッ! やりました!
巨大兜の力が失われていきます!

殿
…………。

???
怒っても仕方あるまい……既に勝敗は決したのだ。

???
お前の想いは……私や、
ここに居る者たちが未来へ連れていくだろう。

石田三成
…………。

???
だから……お前はもう休め。
先に逝って、ゆっくりするといい……。

???
いつか……。
どこかの世でまた巡り逢えたら、その時はよろしく頼む。

???
……では、さらばだ。

石田三成
…………。

石田三成
……………………。

やくも
…………。

やくも
き……巨大兜は……?

???
完全に力を失って……沈黙した。
『あの御方』の介入でもない限り、もう動くことはないだろう。

赤穂城
そ……そんじゃ、もう安心して良いってことだな?
ふぃ~~……やっと一息つけるぜ……。

椿尾上城
…………。

椿尾上城
(……悪寒が、止んだ?)

椿尾上城
(では、やはりこの巨大兜が源だったのか……いや、それとも……)

殿
…………。

???
……ふぅ。これにて落着、か。

???
間一髪というところだったが……、
手遅れにはならなかったようだな。

赤穂城
……おい、そこの赤髪のねーさん!
あんた……いきなり現れて、あっちらの手助けをして……、
いったい、何が狙いなんだ!?

やくも
そもそも、どーして倒したはずの巨大兜が現れたんだに……?

???
待て、待て……。
順序を誤れば取り返しはつかないぞ。

???
何をおいても、まずは立花山城だ。
彼女の容態よりも優先するべきことは、他にあるまい?

柳川城
――っ、そうです! 立花山城さんは?
彼女は無事なのですかっ!!

千狐
――こちらです!
立花山城さんは、ここに!

立花山城
はぁ、はぁ……はぁ……。

千狐
ダメなの……。
さっきから、ずっと……力を注いでいるのに……!

千狐
このままでは、応急処置にもなりません。
一度床に寝かせて、しっかりと手当てをしなければ……!

立花山城
ぅ……声が、聞こえる……?

立花山城
皆は……?
殿は、城娘は……無事なの?
巨大兜は、倒せたの……?

柳川城
はい……巨大兜は討伐できました……。
で、ですが……。

立花山城
…………?
その声は、柳川城……ね?

立花山城
本当に……忌々しい女。
自分がどれだけ恵まれているかも知らずに、
のうのうと生きながらえて……。

柳川城
立花山城さん……。

殿
…………。

立花山城
でも……私の力じゃ、
この人を……この世界を、幸せにできない……。

立花山城
私じゃ……駄目なのよ。

柳川城
…………。

立花山城
殿の隣に居るのは、貴方じゃなきゃいけない。
だから柳川城……お願い。

立花山城
戦って……勝って、勝ち続けて……生きなさい。

立花山城
お願い……お願いよ……。
私の愛する人の未来を……守って。

立花山城
私には……もう…………。
こ、……か……でき……い……から……。

立花山城
……ごめん、ね……。

立花山城
…………。

立花山城
……………………。

柳川城
……立花山城さん?

柳川城
立花山城さん……立花山城さんっ!
起きてください、目を覚ましてください!

???
不味いな。手遅れでなければ良いのだが。
……おい、殿。すぐに所領へと出立を――

殿
…………。

殿
…………。(ふらっ)

――バタァンッ!

柳川城
と、殿……? どうしたのですか、殿っ!?

???
まったく……次から次へと、忙しない……!

???
……千狐、転移術の用意を。
すぐに所領へ向かってくれ。

千狐
は、はい……ですが……!

???
……出会ったばかりの私が、信用できないか?

???
分かった……。
ならば、ここで名を明かしておこう。
……すでに察しの付いている奴も居るだろうがな。

石田三成
私は『石田三成』……兜娘の一人だ。
ひとまず……お前らと敵対するつもりはない。
味方と思ってくれていい。

やくも
――んなっ!?

千狐
い、石田三成……?
かぶと……むすめ?

柳川城
やはり……そうだったのですね。

柳川城
敵対するつもりはないということは……、
先程の私たちの疑問にも、
答えてくれる……そう考えて良いのですね?

石田三成
もちろんだ……私は、そのつもりでここに来たのだからな。

石田三成
腰を落ち着けたら……私が知る限りのことを教えよう。

石田三成
決戦が始まる……その前に。

――――

九尾
……決戦、とな。

九尾
……そうか。
お前はこれから始まる戦を、そう評するのか。
くふ……くふふ……。

九尾
それにしても……考えもしなかった。
まさかこの妾が、此世に夜明けが訪れることを期待するとは。

九尾
しかし、それも無理からぬ事。
『殿』がこれほどよく戦ったのは、いったいいつ以来のことか。

九尾
…………。

九尾
じゃが……それに比べ、
神娘を名乗るあの狐の、情けなきこと……情けなきこと。

九尾
これは妾が一つ、叱ってやらねばいかんのう。

九尾
くふ……くふふ……。

――

――――

立花山城
…………い、いやぁ……。

立花山城
……いやああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ

――

――――

???
……む? そこに居るのは柳川城か……。
いや、違うな……此奴はいったい――?

???
…………。

???
……おい、起きろ。兜に踏み潰されてもしらんぞ。

立花山城
…………。

???
……こら、起きろっ! 起きんかーっ!!

立花山城
…………っ!?

立花山城
こ、これは……?

立花山城
(私……生きてる?
 そんなわけが……私は確かに、巨大兜の手で命を……)

???
呑気な奴め……。他の城娘たちは今頃、戦いを繰り広げているというのに。

立花山城
……え? ……し、城娘?

立花山城
貴方、今……城娘って言った?
ちょっと待って……ここには私以外の城娘が居るのねっ!?

???
ふ……兜が居るのだ、当然だろう。
各地で今も、民を守るために戦っているはず。

???
……無論、
殿の下で戦う城娘も、数多く居るがな……。

立花山城
…………っ!!

立花山城
……殿が、城娘と戦っている……?
ど、どういうことなの……これは……。

???
初々しい反応だな……いつかの自分を思い出すようだ。

???
混乱するのは無理もない。
だが……難しく考えることはない。

???
……貴殿の妄想か、神のお告げか。
はたまた、どこかの世界の『私』が迎えた結末か。
それは、貴殿の好きなように受け取れば良いのだ。

立花山城
…………。

???
……何であれ。確かなのは、
此世はまだ、兜の手には落ちていないということだ。

???
城娘の存在は先に申した通り。
……そして当然、殿も存命だ。
貴殿が見た『結末』はまだ、遥か遠くにある。

立花山城
……貴方はいったい何者なの?

???
天下の布武を追い求める者、とでも答えておこうか。
城娘としての願いに生きる者……でも良いか。
……ふふっ。

立花山城
布武……願い?

???
……”兜の野望を砕く”ことだ。
そして……此世を奴らの手から救わねばならぬ。

???
我や……貴殿の中にある『結末』の記憶。
それは此世を救いへと導く、心強い助けとなるはず。
……貴殿が抱えた願いを叶えることにもつながるだろう。

立花山城
私の願い、それは……殿を守ること……。

立花山城
貴方は私に……、
もう一度それを目指せって言うの?

???
……怖いか?

立花山城
…………。

???
……諦めるというのなら、止めはせぬ。
戦に背を向けて生きることも、一つの選択だ。

立花山城
…………。

立花山城
……ううん。

立花山城
今の私に何ができるかは分からないけれど。
殿は……私の全てだから。

立花山城
……殿を守りたい。
私の命と引き換えにしても。

???
うむ……そうか。ならば好きに生きるがよい。

???
…………。

???
しかし、決して気は抜くな……。
危機とは常に、思いもよらぬ形で訪れる。

???
我や貴殿のように、別の世に起源を持つ者は、
敵方にも存在するのだからな……。

立花山城
…………。

立花山城
ええ……分かったわ。
色々教えてくれて、どうもありがとう。

???
最後に……これだけは覚えておけ。
敵は、全知でなければ全能でもない。

???
勝利は貴殿が思っているほど遠くはない。
夜明けは確実に近づいているのだ。

立花山城
…………。

立花山城
もう……同じ過ちは繰り返さない。

立花山城
貴方のことは、私が守り抜いてみせるからね……殿。

立花山城
……そうだ。
最後に、貴方の名前を教えてもらえるかしら?

???
……うむ、良かろう。
貴殿とはまた相まみえることになるだろうからな。

岐阜城
我は……天下布武の宿願を背負い、
狭間にて命を宿し、この世にて生を受けた城娘。
……『岐阜城』だ。

第70話 古より人を化かす者 ~三河~[]

播磨国から帰還した一行。眠りから
目を覚ました殿に真実を伝えるべく、
三成が口を開き、言葉を紡ぎ始める――

前半

……。

…………。

………………!

殿
――…………っ!!(がばっ)

殿
…………?

立花山城
すぅ……すぅ……。

やくも
むにゃ……。
うと……うと……。

殿
…………。

やくも
…………ん。

殿
…………。

殿
…………!

やくも
…………っ?

やくも
と、とと……殿さんが……!
殿さんがぁ……目を覚ましただにぃ……!

――――

石田三成
……よし。皆、揃ったな?

千狐
殿、殿ぉ……。
良かったの……安心したの~……!

柳川城
…………。

石田三成
で……身体は大丈夫なのか?
まだ目覚めたばかりなのだ……。
もうしばらく、養生しても――

殿
…………!

石田三成
――そうか。そうだな。
お前なら、そう言うだろうと思っていた。

石田三成
ならば……語ろう。
この三成が知る限りの事実を……。

やくも
ようやく聞けるんやね……三成の話が……。

石田三成
さて、何から話すべきだろうか。
其方らの頭には今、
多くの疑問が浮かんでいるだろうが……。

石田三成
まずは……そうだな。
立花山城という城娘について、話しておこう。

石田三成
すでに察しの付いている者も居ると思うが……、
彼女は、この世界の住人ではない。

千狐
この世界の住人じゃ――

やくも
――ない……!?

柳川城
…………。

殿
…………。

石田三成
この世界には、無数の可能性が存在する。
揺らぎ、分かたれ……収束し、再び分かたれる。
今この瞬間にも無数の可能性が生まれ、潰えているのだ。

石田三成
そして……。
この『可能性』こそが私たちの活路にして、
敵方の最も懸念するところ。

石田三成
より合わせた糸のように連なる、無数の可能性をすべて断ち切り……、
ただ一つ『自らの勝利』に収束させる。
それが兜の主たる『あの御方』の目的なのだ。

千狐
では、立花山城さんがこの世界の住人ではない、というのは……?

石田三成
……そうだ。立花山城の居た世界は、
私たちの世界とは違う道を辿り……結末を迎えた。

石田三成
聞けば、他の城娘や神娘の居ない……過酷な世だったそうだ。
最後は敗北を喫し、殿の命を目の前で奪われたという。

柳川城
殿の命を、目の前で……。

石田三成
その後悔、悲しみが……今の立花山城を動かしている。
もう二度とあのような結末は迎えまい、とな。

殿
…………。

石田三成
将の魂を宿した、私……。
兜娘を導いたのも、立花山城の功だ。

石田三成
目覚めて間もない私を守り、力の使い方を教えてくれた。
それが無ければ、私はとうに息絶えていただろう。

石田三成
おそらく、立花山城は……知っていたのだな。
目前の敵を倒していくだけでは決して、
兜を滅することは叶わぬ……と。

やくも
そんなにえらい力を持っとるなんて……。
『あの御方』っちゅうのは、いったい何者なんだに?

石田三成
……うむ。
やはり伝えておくべきだろうな。
奴の名は……。

石田三成
奴の名は……。

石田三成
…………。

千狐
……どうしたのですか、三成さん?

石田三成
しばし……考えていた。

石田三成
『あの御方』が何者か……。
其方らがそれを知る必要は……あるのだろうか、と。

殿
…………?

石田三成
『あの御方』も……元は一人の将だった。
世を治めんと願う、立派な主君だった。

石田三成
だが……今は違う。
きっと……奴はもう、自分の名や過去など……。
どうだって良いのだろう。

石田三成
奴はただ、全てを憎悪している。
奴にとっては今の世を形作る全てが……過ちなのだ。

石田三成
奴は……私の知る、どんな人間とも違う。
信長様とも、秀吉様とも、家康とも……。

石田三成
ゆえに私は、恐ろしい。
心底……奴が恐ろしいのだ。

千狐
(三成さん……震えているの……)

石田三成
私には……分からない。
『あの御方』についてより深く知ることで、
其方にどんな影響があるのか。

石田三成
私の願いを素直に伝えるなら……。
其方が、奴の名も志も知らぬまま一体の『兜』として滅すること。
それが最も正しく、綺麗な結末だと思う。

石田三成
きっとそれは叶わぬ願いなのだろうが……すまない。
今の私から、奴の正体を明かすことは控えさせてほしい。

殿
…………。

殿
…………!

千狐
はい、それが聞けただけでも充分です。
ありがとうございます、三成さん。

やくも
だに! どの道、
倒すっちゅーことに変わりはないがや!
――柳川城もそう思うだにっ?

柳川城
…………。

殿
…………?

千狐
……どうしました、柳川城さん?
顔色が優れないようですが……?

柳川城
――あっ、いえ……その……。

石田三成
……迷いか?

柳川城
…………。

柳川城
……はい。

殿
…………。

柳川城
……先の戦い、
私は殿をお守りすることができませんでした。

柳川城
覚悟はありました。
いざとなれば、命を懸けるつもりでした。

柳川城
でもあの時、ほんの僅かに……。
立花山城さんの方が早く、
矢面に立って巨大兜の攻撃を受けました。

柳川城
その刹那の差が……、
私にはとても遠く、感じられました。

千狐
……柳川城さん。

柳川城
これから戦いは、更に過酷さを増すことでしょう。
そんな中で私は……殿を支えることができるのでしょうか。

柳川城
本当は……殿の隣にいるべきなのは、私じゃなく――

石田三成
――やめろ。

柳川城
…………っ。

石田三成
……気持ちは分かる。
力不足を悔いるのも、自信を失うのも……無理のないこと。

石田三成
――だが、柳川城。
その言葉を口にすることだけは……許されん。

柳川城
……三成さん。

石田三成
立花山城の言葉を思い出せ。
お前なら分かるはずだ……。
彼女の葛藤が……彼女の決意が。

――だから柳川城……お願い。

――戦って……勝って、勝ち続けて……生きなさい。

――私の愛する人の未来を……守って。

柳川城
…………。

石田三成
弱さを盾に、自らの役目から目を背けるのは、
最も安易で……最も愚かな行いだ。

石田三成
最後まで向き合え……柳川城。

石田三成
立ち止まりながらでも、支えられながらでも良い。
ただ……決して諦めるな。

石田三成
お前にしかできないことが、ここにはある。
それを忘れるな。

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
(……殿)

柳川城
そう……ですね。

柳川城
ありがとうございます……三成さん、殿。
今の言葉……心に刻んでおきます。

石田三成
準備を整えたら美濃国……関ヶ原へ向かえ。
奴はあの地にて、殿の参陣を待ち構えている。

千狐
……関ヶ原? ですがあの辺りには、
結界が張られていて、近づくことも叶わない状態で……。

石田三成
大丈夫だ……すでに道は開かれている。
其方らと合流する直前、結界が力を弱めていることを確認した。

殿
…………!

石田三成
『あの御方』も理解したのだろう。
城娘と兜……この争いは自らの手で決する以外にない、とな。

――――

――こうして一行は、
立花山城の看病と所領の守りを三成に任せ、
決戦の地、関ヶ原に向けて出立したのだった。

柳川城
如何ですか……千狐さん?

千狐
……はい。
確かに、かつて此地に張り巡らされ、
千狐たちを退けていた結界の力は……弱まっています。

千狐
ただ、代わりに……兜の力の高まりが感じられるの。
今まで感じられなかったほどの……。

殿
…………。

柳川城
では……ここから先も、
慎重に進んでいった方が良さそうですね。

やくも
だにぃ……千狐の転移術で、
ぴゅ~っと敵の本陣までひとっ飛び、やったら良かったんに……。

柳川城
引き続き……ご案内をお願いできますでしょうか。
柳之丸さん、那古野城さん。

柳之丸
うん、もちろんだよ。
三河国を守るためだったら、協力は惜しまない。

那古野城
それに……殿たちが来てくれて、
わたしたちも助かってるんだ。

那古野城
結界が焼失したのも、兜の活発化も、
突然の出来事だった……。

柳之丸
どうにか民は避難させたけど、
これからどうしたらいいんだろう……って、
困り果ててたんだ。

やくも
んで……うちらは今、どこに居るんだに?
三河国を進んどるっちゅう話やったけど――

やくも
――ぎぇっ!? なんだに、これはぁ!?

千狐
ど、どうしたの、やくもっ!?

やくも
ここ、これを見るがや!
狐の像が、数え切れん程並んどるだに!
見渡す限り……えっぱい!

???
然様……何を隠そう、ここは豊川稲荷。
稲荷を祀る寺社としては日の本有数……。

???
此地において狐は、稲荷神の御使い。
祈願成就の御礼として、多くの狐像が奉納されている。

???
つまり……ここに並んだ狐像たちは、
民が寄せる信仰の証と言えよう。

殿
…………!?

やくも
おおっ、ここは豊川稲荷やったんやね!
なるほどなるほど! 納得したがや♪

やくも
――って何者だに、あんたっ!?

???
む……そうか。
汝らとは初対面になるんじゃったか。
まったく、面倒な事この上ない……。

柳川城
……下がってください、殿。
あの者からは、ただならぬ力が感じられます……!

殿
…………。

やくも
な、なぁ千狐……あれは、もしかして――?

千狐
……ええ、間違いないわ。
彼女の漂わせる力。あれは妖怪の――

やくも
――千狐の……親戚か何かだに?

千狐
――なっ!?
どこをどう見たらそうなるのーっ!

やくも
だ、だって……耳も尻尾も、千狐そっくりやし……。

???
……ふむ。なかなかの慧眼じゃ、蛇の神娘。
吾と千狐の間に、汝が見出した共通点……。
それはある意味、正しいと言える。

やくも
当たった、当たったがや!

千狐
喜ばないのー!
というか、どうして千狐じゃなくて、
あの妖怪の方を信用するのよ!

???
神の御使いか……人を化かす妖の類か。
起源は一つ……そこに光が差し、影が生まれた。

九尾
それが汝、千狐であり……吾、九尾なのじゃ。

やくも
ほら……なんかそれっぽいこと言っとるし……。

千狐
やくも……しばらく黙ってなさい……。

柳川城
九尾といえば、狐の妖として広く知られています……。
強い力を持っていることは間違いありません!

九尾
古来より此地に生きる吾らにとっては、
城娘は招かれざる客……相容れない存在。

九尾
殿……それらを統べる汝と会った以上、衝突は避けられぬ。
討滅を果たすため、吾も力を尽くさねばならん――!

殿
…………!?

千狐
――……っ!
あちこちから、妖怪の力が……!
どうやら取り囲まれているようです!

殿
…………!

千狐
大丈夫ですっ!
千狐が今……気を集めて、態勢を整えますから――

千狐
――コンッ!?
これは……そんなっ!?

千狐
(これほどまでの気が……
 千狐が扱うことなんて、とても……!?)

千狐
――きゃあああああぁぁぁぁぁぁっ!?

柳川城
千狐さんっ!?

やくも
千狐を中心に、途轍もない量の気が……!
これはいったい……!?

九尾
先も言った通り、此処は稲荷神を祀る地としては日の本でも有数。
満ちたる力は、汝程度の小娘が御するには、あまりに強大なものじゃ。

九尾
千狐……汝がそれに見合う力を持たぬのなら……必然、
汝のその身諸共、砕け散ることになるじゃろう。

やくも
く、砕け散る……!?

柳川城
これは……罠だったのですね……!

柳川城
妖怪をけしかけ、
豊川稲荷に満ちる強い気を、千狐さんに扱わせる。
そして、千狐さんを――!

殿
…………!

柳川城
止めてください、千狐さんっ!
このままでは貴方の身が持ちません!
ここは一度退いて――!

千狐
――退いて……どうするのですっ!?

千狐
あの妖怪は、千狐たちを敵視しています!
ここを逃れても、先延ばしにしかならないでしょう!

千狐
殿も……柳川城さんも、立花山城さんも!
皆戦って、傷ついて……千狐はいつも、
それを傍で見ていることしかできなかったの!

千狐
千狐が力を尽くすべき時は……今なのです!
ここで千狐が諦めたら、皆に顔向けできないのっ!!

千狐
く、うぅ……うううぅぅぅぅっ……!!

やくも
――千狐っ!!

殿
…………!

九尾
…………。

九尾
…………ほぅ。

柳之丸
これは……!

千狐
はぁ、はぁ……はぁ……!

千狐
すみません、殿……!
此地に満ちた気はあまりに大きく……、
千狐の力では、この場に留めておくだけで精一杯なの!

千狐
集めた気も、時間を追うごとにこぼれ落ちていっています。
この瞬間にも、刻一刻と……!

千狐
ですから、いますぐ出陣を!
九尾を討ってください……!

千狐
殿……お願いしますっ!!
千狐のことは気にせず、どうか!

殿
…………。

殿
…………!!

柳川城
承知しました、殿!
千狐さんの身に害が及ぶ前に、勝負をつけましょう!

後半

九尾
……ここまでか。

九尾
なるほど。此度の『殿』も……『千狐』も、
吾の知る彼らとは明らかに違う。

九尾
これはやはり……、
幾度も刻を生きる度、忘れ去られるものと、
積み重ねられていくものがある……ということか。

九尾
なれば……やはり、
それが城娘どもを動かす『願い』ということなのか。

千狐
……九尾。

千狐
先程の口ぶり、気になっていましたが……。
やはり貴方は……千狐たちのことを知っていたのですね?

九尾
くふ……くふふ……。

九尾
狐は古来より人を化かし、奪い……傷つけてきた。
それは妖に限った話ではない。

やくも
……な、何が言いたいんだに。

九尾
所詮、狐は狐……。
吾もそこの神娘も、本質を求めれば、
大した差異はない……そういうことじゃ。

殿
…………。

九尾
吾らの日の本を奪った、目障りな城娘ども。
忘れるな……吾はいつでも、汝らの首を狙っている。

千狐
待って……待ちなさい、九尾!
千狐はまだ、貴方に聞きたいことが――!

九尾
何を信ずるべきか……疑うべきか。
見誤れば、汝らに未来は無いぞ。

九尾
……ではな。

殿
…………。

柳之丸
……行ってしまったようだ。

那古野城
妖怪の気配も失せたみたいだな……。

千狐
九尾……。

柳川城
千狐さん……。

千狐
……進みましょう。

千狐
九尾の企みは気になります。ですが……、
目前に迫った決戦よりも優先することなど、今はありません。

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
……承知しました。
それでは……柳之丸さん、那古野城さん。
引き続き、案内をお願いできますか?

柳之丸
よっし♪ それじゃガンガン進んでこー!

那古野城
先頭はわたしに任せろーっ!

第71話 海道の覇者 ~遠江~[]

迂回しつつ慎重に、決戦の地へと侵攻を
続ける殿一行。絶え間なき緊張に心労を
重ねる中、巨大兜の高笑いが響き渡る。

前半

柳之丸
ふぅ……ようやく遠江国に到着、か……。

那古野城
敵の軍勢を避けて、迂回の連続。
こんなに慎重に進んでちゃ、
何日掛かるか分かったもんじゃないよ……。

柳之丸
でも、不用心に突き進んでたら、
命が幾つあっても足りないもんね……。

那古野城
そうなんだけど……焦れったくなっちゃってさ。
関ヶ原まで、あとちょっとなのに……。

柳川城
無理もありません……敵の本陣は目前。
心身共に、休まる間もありませんから……。

やくも
やけど……この先に待っとるのは兜たちの元締め……。
これが最後やと思って、気張るしかないだにぃ……!

殿
…………。

殿
…………?

千狐
――はい。今も感じられます。
強力な兜たちの気が……無数に――!

???
――ヒャーヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!

???
先程カラ応戦モセズ、逃ゲ回ルバカリ。
余ノチカラニ恐レヲナシタカ! 下賤ナ城娘メ!

???
――違う!
わらわはただ、そなたと話を――!

殿
…………!

柳之丸
――今の声は……?

千狐
千狐の耳にも聞こえたのっ!

柳川城
誰かに危機が迫っているようです……すぐに向かいましょう!

――――

???
イイ加減諦メテ、降伏スルガ良イ!

???
頭ヲ垂レテ這イツクバレバ、
苦シマズニ逝カセテヤッテモ良イゾ!

殿
…………!

千狐
あれは、巨大兜……!
途轍もない力を感じるの……。

???
む……。
なんじゃ、そなたらは……?

???
いや……話に聞いたことがある。
もしや、そなたらが各地で兜を討滅しているという……?

那古野城
そう、殿の一行だ!
この先に居る兜の主を倒すべく、進んでたんだよ!

柳川城
貴方は城娘ですね?
どうしてこんなところに、一人で……?

今川館
わらわの名は今川館。駿河国の城娘じゃ。
そしてあの巨大兜が冠する名は……今川義元。

柳之丸
今川……義元……!

今川館
わらわたちの接近を退けていた、
此地の結界が弱まったのは……つい先日のこと。
それと同時にわらわは、懐かしい気を感じたのじゃ。

今川館
わらわは直感した。これは、
かつての城主、今川家に類する者の魂である……と。

千狐
それで、此地へ向かったのですか……ただ一人で。

今川館
危険は承知の上じゃった……。
だが……堪らなくなってしまったのじゃ。

今川館
すぐ近くにわらわの縁者が居る。
自らの足で、会いにいくことができる。
そう思ったら……!

殿
…………。

今川館
そして、わらわは……。
今川義元の虚魂を有する兜と、対峙したわけじゃ。

今川館
言葉を交わすことで……何か、
得られるものがあればと期待したのじゃが……。
見ての通りの有様じゃ。

今川館
わらわの名を伝えても……まるで通じん。
『貴様のことなど記憶にない』などと言いよる。

今川義元
…………。

今川義元
コレマタ、煩イ小蝿ガワラワラト。
鬱陶シクテ仕方ガナイ……。

今川義元
シカシ所詮、小蝿ハ小蝿……。
何匹集マロウガ、高貴ナル余ノ障害ニナルハズモナイ。

今川館
…………。

殿
…………。

殿
…………?

今川館
いや……大丈夫じゃ、殿。

今川館
既に言葉は尽くした……。
ここまで伝えて通じぬのなら、もう思い残すことはない。

今川館
共に戦い……義元を討とう。
……頼む、力を貸してくれ。

柳之丸
今川館……。

殿
…………。

殿
…………!

今川義元
ヨウヤク……ヨウヤクナノダ。

今川義元
信長、秀吉……邪魔者ドモガ消エ失セ、
余ガ頂ニ立ツ時ガ……ヤッテキタノダ。

今川義元
サッサト根絶ヤシニシヨウ。
ソシテ、再ビ始メルノダ……頂ヘ向カウ、余ノ覇道ヲ。

後半

今川義元
ヌウウウウゥゥゥォオオオオオオオ……!?

やくも
巨大兜が膝を付いたがや!

千狐
やりました! お見事です、殿!

柳川城
お怪我はありませんか……殿?

殿
…………!

柳川城
苦しい戦でしたが……無事に乗り越えることができました。
これでまた一歩、兜の本陣へと――

今川義元
――何故ダッ! 何故ダ何故ダ何故ダ!!
何故ナノダァァァァァアアアア!

柳川城
――っ!?

殿
…………!

今川義元
余ハ……余ハ義元デアルゾ!
今川家ガ十一代目当主、義元!!

今川義元
古来ヨリ受ケ継ガレシ今川ノ嫡流!
魂ニ流レル高貴ナルチカラ!
ソレラヲ有スル余ガ、誰ニ劣ッテイルトイウノカ!

今川義元
認メン……認メンゾ!
余ハ決シテ、認メンゾォォォォオオ!!

やくも
あぁっ……巨大兜が逃げてくがや!

今川館
――急げ! 後を追うのじゃ!

――――

今川義元
アァ、アァァ……グ、畜生……!
失ワレテイク……余ノ、チカラガァ……!

柳之丸
…………。

今川義元
……グ、グゥゥ……!

今川義元
――見ルナ!
ソノヨウナ目デ余ヲ見ルナァ!

今川義元
余ヲ憐レムナ、見下スナ……!
敬エ、慄ケ……畏レロッ!

今川館
……義元。

柳川城
今川館さん、危険です……離れてください……!

那古野城
奴が立ち上がる前に、
トドメを刺した方が良いんじゃないか……!

今川館
……待ってくれ。
もう義元に、そんな力は残っていない。

今川館
見逃してくれなどと言うつもりはない。
ただ、少しだけ……話を……。

殿
…………。

今川館
殿……ありがとう。

今川義元
ヤメロ……ヤメロ……!
見ルナ……見ルナ……見ルナァッ!!

今川館
…………。

今川義元
見ルナ……。
見ナイデクレ……今川館ヨ……。

今川館
義元……。
何が、そなたをそうも急き立てるのだ?

今川義元
……ナンダ?
オ前モ『身ノ程ヲ知レ』ト言イタイノカ、今川館……。

今川義元
知ッテオル……余ノコトヲ『暗愚』ダナンダト、
揶揄シテイル輩ガ居ルコトハ。

今川義元
ダガ……ソレガ何ダ?
天下ヲ諦メル理由ニナルノカ?

今川義元
愚カナ願イハ、潰エテ然ルベキ……ソウ言イタイノカ?

今川義元
何ガ悪イ……!
天下ニ向ケテ手ヲ伸バスコトノ……。
頂ヲ目指スコトノ、何ガ悪イ!?

今川館
…………。

今川館
……義元。
そなたの願いは、わらわが――

???
巡り合わせ……。
全テは巡リ合ワセなのです……義元様。

殿
…………!?

那古野城
ま、また新たな巨大兜が現れたぞ……!

千狐
つ、強い力を感じるの……。
ですが、なんでしょう……その内にまだ、
底知れぬ何かを秘めているような……?

今川義元
……忌マワシイ。

今川義元
所詮……余ハ、
貴様ノ引キ立テ役ニ過ギナカッタトイウコトカ。

???
ソレを言うなら、誰もが同ジ。
我も……次代ヲ担ウ誰かの引キ立テ役に過ぎません。

???
愚カナ者も、賢シキ者も……。
此処が箱庭であっても。

???
運命に翻弄サレながら、
チカラを尽クシ……足掻クしかない。
人も、兜も城娘も……そこに違いはアリマセン。

???
一つデモ間違いがアレバ、あるいは無ケレバ……。
我が『元康』トシテ生き抜く世もあったコトと思イマス。

今川義元
……見エ透イタ世辞ヲ言ウナ。

今川義元
…………。

今川義元
自分ノ身ノ程ハ……理解シテイタ。

今川義元
『アノ御方』ニシテミレバ余ハ、
貴様ヲ『元康』トシテ留メ置クタメノ、
道具ニ過ギナカッタノダロウ。

???
…………。

今川義元
ソレニ従ッテイレバ……余ニハ、
満チ足リタ未来ガ待ッテイタノカモシレナイ。

今川義元
ダガ……ソレデモ余ハ、我慢ナラナカッタノダ。
『アノ御方』ノ思惑ノ内ニ居ルコトガ……。

???
ドレホドのチカラを持とうと……、
貴方様ノ誇りを奪ウことはデキナカッタ。

今川義元
ヒャヒャッ、ヒャヒャヒャヒャ……。
ナルホド。ソウ言エバ格好ハツクカ。

???
……義元様。
貴方様ノ最期は、確かに見届ケました。

???
ソノ願いは代ワッテ、この我が――

今川義元
偉ソウナコトヲ言ウナ……小僧ガ。

今川義元
情ケモ……気休メモ要ラヌ。

今川義元
ヒャッ……ヒャヒャヒャヒャ……。
マッピラ御免ダ。
余ノ願イハ……余ダケノモノ。

今川義元
下賤な貴様らに……。
高貴ナルコノ魂ハ、いつ……マデモ。

今川義元
触レ、させは…………しな、い…………。

今川義元
…………。

今川義元
……………………。

???
…………。

???
……逝ッタか。

殿
…………。

???
……殿ヨ。

???
サァ、世を分カツ時が来た。
表か裏か。昇ルか……降るか。

徳川家康
……貴殿のチカラヲ、この『徳川家康』に示シテみせよ。

第72話 おわりはじまり ~尾張~[]

義元が逝き『徳川』の名を得た巨大兜を前に
一行の士気が高まっていく。だが開戦の間際、
巨大兜が胸裏に秘めた志が見え隠れする――

前半

徳川家康
……貴殿のチカラヲ、この『徳川家康』に示シテみせよ。

殿
…………!

那古野城
あ、あの巨大兜……途轍もない力だ……!

今川館
あの巨大兜が『徳川家康』を名乗ると同時に、
力が膨らんでいったように見えたが……!?

柳之丸
な、なぁ……わたしたち、
これからあいつと戦わなきゃならないのか……?

やくも
やけど……なんだに、この違和感は……?

柳川城
確かに……おかしいです。

殿
…………。

千狐
これまでの兜が漂わせていたような、
狂気や殺意が……感じられないの。

殿
…………。

殿
…………?

徳川家康
ム……『話がしたい』?
我に何カ、尋ネタイことがアルと?

柳川城
…………。

柳川城
貴方の家臣……。
服部半蔵の名を冠する巨大兜がかつて、言っていました。

服部半蔵
我が主君は……家康サマは。ただ未来ヲ……太平の世ヲ……。

服部半蔵
殿よ、ソノ意志を……どうか――

柳川城
――悔しげにそう言い残して……。

徳川家康
……半蔵。

徳川家康
ソウカ……貴殿らは、
半蔵の最期ヲ看取ッタのだったな。

柳川城
そして……今私たちが感じている、違和感……。
貴方は明らかに……これまで出会ってきた兜と違っている。

柳川城
その容貌は正に、兜そのもの……にも関わらず。
不思議なことに貴方からは、悪しきものを感じません。

徳川家康
……それが、貴殿らヲ陥レルための欺瞞ダッタとしたら?

柳川城
ですから私たちは戸惑い……尋ねているのです!

柳川城
貴方が正気を保っていて、真に世の太平を願うならば……、
私たちが争う理由など、無いのではありませんか?

柳川城
手を携えて『あの御方』に立ち向かう……。
そんな道だってあるはずですっ!
違いますか、徳川家康の名を冠する兜よ……!

徳川家康
…………。

徳川家康
……オ人好シめ。

殿
…………。

徳川家康
……礼ヲ言ッテおこう。

徳川家康
殿ヨ……ソシテ、そこの城娘……柳川城と言ッタか。

徳川家康
相容レヌ立場にあるコノ我に向キ合イ、
手を差し伸ベタ……。
我は、貴殿らの言葉ヲ忘レナイだろう。

柳川城
…………。

徳川家康
シカシ……それは叶ワヌ願いなのだ。

殿
…………!

柳川城
何故ですかっ!!

徳川家康
虚ロナ魂も、この鎧も……我ノ物ではない。
今は『あの御方』の気まぐれで、
意のままに操ル機会ヲ与エられているに過ぎぬ。

徳川家康
次の瞬間にも、コノ砲口は……、
民を捉エ、撃チ抜かんとスルやもしれぬ。

徳川家康
兜の存在がアル限り、太平ノ世は訪レヌ。
誰がどのような願いを抱コウと……それは揺ルギなき事実。

徳川家康
ならば、ドウスル……どちらが進む?
我か……貴殿らか。誰が、どうしてソノ資格を得ル?

柳川城
それは……。

殿
…………。

徳川家康
殿ノ方はモウ、我が意を解シタようだな……。

徳川家康
――ハアアァァァァァァァッ!!

千狐
き、巨大兜の力が、更に膨らみましたっ!

徳川家康
手に入レタイのダロウ……叶えたいのダロウ?

徳川家康
ナラバ、迷う理由は無いはずだ。
貴殿らはコレマデも、そうやって進ンデきたのだから。

柳川城
くっ……。

今川館
……やはり、戦うしかないのか……!

殿
…………。

殿
…………?

柳川城
はい……感じます。巨大兜の気が、
これほどの悲しみを孕んでいるのは……初めてです。

柳川城
徳川家康の名を冠する、
あの兜の望みは、きっと……。

殿
…………。

柳川城
――はい。

柳川城
私も、殿と同じ想いです。
歩みを止めるわけには……いかないですよね。

柳川城
……出陣しましょう。
私たちの願う世を、叶えるために。

殿
…………!!

後半

徳川家康
グ、ヌゥ……ぉぉ……。

徳川家康
オオオおぉぉぉぉぉ……――

殿
…………。

今川館
巨大兜が、動きを停止したのじゃ……。

那古野城
やった、のか……?

徳川家康
道は……ヤハリ、貴殿らの前に通ジテいたのダナ。

柳川城
徳川家康……貴方はやはり、
私たちに此世を託すために――

徳川家康
手加減はしなかった……貴殿ノ首を獲ルつもりで戦ッタ。

徳川家康
悔いは無い……。
巡り合ワセ……全テは、巡り合わせナノダ。

殿
…………。

徳川家康
殿ヨ……城娘を統べ、太平ヲ叶えんと戦ウ者よ。

徳川家康
貴殿は各地ヲ巡り、
多くの願イをその身に宿シながら……。
数々の名将を下シテきた。

徳川家康
そして遂に、我に勝利シタ。
徳川家康の名ヲ冠する兜に……!

徳川家康
『徳川家康』とは、戦国が辿り着イタ一つの結末。
アル世において、誰もが揺るがぬと信ジタ幕引き。

徳川家康
それを貴殿が下した。
ふふ、フフフフ……下シタのだ……!

徳川家康
ここから先は……誰も知ラナイ。
ドノ世でも語ラレなかった歴史が、今……始まろうとシテイル。

徳川家康
貴殿か『あの御方』か。
ここまで来レバ、道は二つに一つ。

殿
…………。

徳川家康
ふ……話が長くなってシマッタ。
この続きは、またにしよう。

徳川家康
全テが終ワッタ後……。
互いが健勝であったなら、その折に。

殿
…………。

殿
…………!(こくり)

千狐
決戦の地はもう目前……ですね。

やくも
だにぃ……いよいよがや……。

柳川城
この先に関ヶ原が……そして兜との最後の戦いが……。

殿
…………。

殿
…………!

こうして一行は関ヶ原の地へ向け、再び歩み始めた――

――――

???
……待て。

殿
…………!

稲葉山城
わしの名は……稲葉山城。

稲葉山城
ここで、貴殿らの到着を待っていた。
足を止めて一度、わしの話を聞いていけ。

やくも
な、なんだに……?

今川館
その身に帯びる力……おぬしも城娘……じゃな?

稲葉山城
今の貴殿らでは『あの御方』には……敵わない。
その前に……成さねばならぬことがある。

柳之丸
……成さねば、ならぬこと?

稲葉山城
目を瞑ってみよ。今の貴殿らなら、
心を落ち着ければ……自然と見えてくるはずだ。

那古野城
その隙に、斬り掛かってきたりしないだろうな……?

柳川城
……大丈夫ですよ、那古野城さん。
この方から害意は感じられません。

殿
…………。

殿
…………ッ!?

千狐
……殿っ? どうされたのですか!

やくも
殿さん、大丈夫だにっ!?

――

――――

佐久間金沢城
――――

大仏城
――――

久留米城
――――

柳川城
(――っ! あの子はっ!?)

殿
…………!

やくも
…………はぇ?

千狐
殿、柳川城さん……今のは……?

柳川城
あれは、おそらく……。
私たちが歩んでこなかった世界における出来事……。

柳川城
……久留米城ちゃん。
どうして私は、今の今まであの子のことを――

稲葉山城
きっかけを与えられたなら、わしの役目はそれまでじゃ。
何を成すべきかはもう分かるな……千狐?

千狐
今、脳裏を過ぎった世界の数々……、
そこへ転移しろ、ということですか?

稲葉山城
豊川稲荷の霊気に触れ、
九尾を退けた今の貴殿なら……可能じゃろう。

稲葉山城
此世と違った歴史を歩んだ、別の世へと……、
片時、つながりを得ることができるはず。

殿
…………。

稲葉山城
もし……わしの思惑通りにことが運べば、
その世界には……新たな可能性が与えられる。

稲葉山城
それが、こちらの世界と結びつくことで……、
貴殿らの『願いの成就』へと、収束させることができるのじゃ。

稲葉山城
『あの御方』との決戦が近づいたことで、
この世界は今、混沌を極めておる。

稲葉山城
あらゆる世との結びつきが、強固になっておるのじゃ。

稲葉山城
なんにせよ……それら城娘とのつながりは、
『あの御方』に立ち向かう貴殿らにとって、
心強い支えとなることじゃろう。

稲葉山城
……どうじゃ? ここまでの話で、
自分たちが成すべきことを理解してもらえたじゃろうか。

千狐
…………。

殿
…………。

千狐
本来、交わるはずのない世界への転移。
転移先においては多少、記憶の混濁が生じる可能性がありますが……。
覚悟は……良いですか?

殿
…………!(こくり)

千狐
それでは、参りましょう!
未来を奪われた全ての城娘に……救いをもたらすの!!

千狐
コンッ! 秘技、時空……転移術なの―――っ!!

殿
…………!

――――

???
…………。

???
家康、稲葉山城……。
やってくれたな。

???
だが……まぁ良い。
初めから分かっていたのだ。
いつかは……この時が訪れると。

???
ここまでの筋書きは上々……そして役者は――
さて、どうだろうか……。

???
せめて……最期まで、
希望を捨てずにいてもらいたいものだな。

???
ああ、やっと始まるんだな……。
ふふ……ふふふ、ふふふふ……。

???
このくだらない世に……やっと幕を引ける。
長く、長く焦がれてきた終焉が遂に……訪れるのだ。

???
さぁ 終わりを始めようか。



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