ストーリーテキスト/天下統一5章

ページ名:ストーリーテキスト/天下統一5章

目次

5章 戦禍編[]

第56話 紅蓮の火口 ~薩摩~[]

巨大兜の討伐から時を経て、雑賀城から報告を
受ける殿一行。しかしその時、千狐が兜の
気を感じ取り、急遽出陣することに……!

前半
島津義弘

ヌゥ……うぐ……ウウウオォォォ!

島津義弘
人ヲ滅ボシ、此世ヲ統ベル……?
イヤ、儂が目指すんは、島津ノ家ば……薩摩国ば守るコト……!

島津義弘
分カラヌ……分カラヌ……!
この身ハ……儂ハ何ヲスレバ良か……!?

豊臣秀吉
ククク……居タ、居タ。
シカシどうしたことか。まるで、獣ノようジャナイカ……。

豊臣秀吉
魂ノ行方と、あの御方ノ意向。
二つのしがらみに苦シメられてイル様子……。

豊臣秀吉
薩摩の雄の名ガ聞コエテこないからと様子ヲ見に来テみれば、
コノヨウナことにナッテイタとはな……。

島津義弘
……誰ダ?

島津義弘
儂ン領地に、足踏ミ入レルんは……?

豊臣秀吉
アア、すみませんネ。怪シイ者デハありやせんヨ。
アンタからすれば、同胞ミタイナもんでさぁ。

島津義弘
同胞、ジャト……?

豊臣秀吉
俺ノ名は豊臣秀吉……。
といっても、今のお前に分かってモラエルかは分からねぇが……。

島津義弘
豊臣、秀吉……?
モシヤ太閤様……太閤様ナノカ……?

豊臣秀吉
ホゥ……多少の記憶は残ッテいるか……。

島津義弘
イヤ、儂に分カルんはタダ、貴方が……儂ヲ屈服サセ、
日の本ば統ベタ強キ者である、トイウことだけ……。

島津義弘
他は……思い起コソウとしても、
つながらん記憶の断片ば浮カブばかり……。

豊臣秀吉
(……ヤハリ、記憶の混濁が激シイか。
 ならば一つ、取り戻す機会を与えテミルカ……イヤ――)

豊臣秀吉
(――コイツは島津義弘……甘クみちゃイケネェ。
 下手に知恵や力を付ケラレルよりは、コノ状態の方が御しヤスイ……)

豊臣秀吉
…………。

豊臣秀吉
……よし。ナラバ義弘、俺がお前に道ヲ示シテやろう。

島津義弘
ヌ……貴方様が儂に、道ヲ……ソレハ真デスか?

豊臣秀吉
ナァニ、ソンナに畏マルことはネェ。
先んずる者ノ宿命ッテ奴サ……。

島津義弘
宿命……。

豊臣秀吉
あぁ。運命、因果、偶然……捉え方はソレゾレだが、
凡庸タル我々は、ソレラに流サレながら……楽シム術を求めるシカないのよ。

島津義弘
……ソシテ貴方が、儂の運命ば知ッテイル、と……?

豊臣秀吉
……ああ、ソウイウことだ。
では、本題に移ロウカ。今ノお前が向カウべきなのは――

――数日後、所領。

雑賀城
――報告は以上だ。
立花山城の尾行でボクが目にしたものは、これが全て……。

殿
…………。

柳川城
手紙を送り、祠でお参り……ですか。

やくも
立花山城の目的は、なんなんだに……?

雑賀城
…………。

立花山城
むしろ――

立花山城
――このままだと、柳川城が死ぬことの方が問題よ。

雑賀城
(…………)

雑賀城
(……いや)

雑賀城
(これについては、ボクの心にしまっておこう。
 情報の揃っていない現状では、混乱を招くだけだ……)

雑賀城
(それにボクは、立花山城がきっと……)

雑賀城
結局、立花山城の行動に、
どんな意図があったのかは分からなかった……。

雑賀城
でもボクは旅を共にする中で、
立花山城という城娘の心の一端を……垣間見た気がした。

雑賀城
ボクたちとは違う方法で、殿を支えたい。
……そう言っている気がしたんだ。

殿
…………。

雑賀城
いや……良くないな、こういう曖昧な物言いは。
ボクは、確かな情報を手に入れることはできなかった……それが全てだ。

雑賀城
尾行役を買って出たというのに、
役に立てず……申し訳無い。

柳川城
謝らないでください。
報告いただけた内容も、充分貴重な情報でした。

やくも
だに!
雑賀城以上に上手くこの任を果たせる城娘は、居なかったがや!

雑賀城
……ありがとう。
期待に沿う働きができるよう、今後も力を尽くすよ。

殿
…………!

雑賀城
彼女の動向は引き続き追うことにする。
新しい情報を掴んだら、すぐに報告しよう。

柳川城
…………。

柳川城
(立花山城……)

柳川城
(その名を聞く度、胸の内に走る……疼痛)

柳川城
(彼女が私……柳川城と、
 深い関わりを持っていることは間違いない)

柳川城
(でも私は……それを思い出すことができずにいる。
 いったい何故……)

やくも
柳川城……何か心配事だに?

柳川城
あっ……いえ、なんでもありません。
今後のことを考えていました……。

雑賀城
今後のこと……か。難しいね。今分かっている情報だけだと、
次にどのような手を打つべきか判断がつかない。

柳川城
はい……柴田勝家の名を冠する巨大兜との交戦以降、
兜側の足取りが掴めない状態が続いています……。

やくも
このまま待機していても焦りが募るばかり、がや。
……なぁ、千狐もそう思うだに?

やくも
…………。

やくも
……あれ、千狐? そういえば、さっきから千狐の姿が――

千狐
殿、殿ぉ~~~!

千狐
大変、大変なのー!

やくも
どうしただに、千狐? そんなに慌てて……。

千狐
所領を出て周辺の見回りをしていたら、強い霊気を感じたの!
……間違いありません、巨大兜です!

殿
…………!

雑賀城
巨大兜の霊気……場所の特定はできているのかい?

千狐
はい、大まかな位置は把握できました。
接近すれば、より詳細な情報も得られるかと思います……!

雑賀城
ボクも同行するよ。
情報収集よりも、巨大兜を討伐する方が優先度は高そうだ。

殿
…………!

柳川城
承知しました! すぐに出陣いたしましょう!
それでは千狐さん、案内をお願いします!

千狐
はいっ! 承知しました!

――――

飫肥城
はぁ、はぁ、はぁ……。

飫肥城
なんて強い力……巨大兜の力が、
これ程のものだったなんて……。

島津義弘
コノ景色……潮風……覚えトル。確かに儂はココに居った……。

島津義弘
ソシテ、その記憶に伴ッテ浮かんできよる、
苛立チ、悔シサ……その感情にも覚えばアル。

島津義弘
だが、ソレダケ……今の儂に分カルんはただ、ソレダケ……。

飫肥城
…………?

島津義弘
島も……山も……答エテはくれん。
儂が歩ムベキ道も、闇に閉ざされトル……!

島津義弘
グゥ、何故ジャ……こうしていても……憤りば募ルばかり……!
グ、ウゥ……ゥォオ……!

島津義弘
アアアアアアアァァァァァァァ!!

飫肥城
きゃあぁっ!?

飫肥城
地震……巨大兜の咆哮に呼応するように……?

飫肥城
ここにきて、更に力を増すなんて……!

飫肥城
このままでは、私も長くは保たない……。
応援を呼ばなければ――!

千狐
――見えました、殿!
千狐が感じ取った気は、あの巨大兜のもので間違いありません!

飫肥城
……っ! 貴方たちは……!?

飫肥城
そういえば、話に聞いたことがあります。
兜たちと戦いながら各地を巡っている、という……。

千狐
その通りです!
巨大兜の気を感じて、こちらに急行しました!

やくも
助太刀しに来たんだに!

やくも
……にしても、さっきから山がゴロゴロいったり、
地面が揺れたりしてるけど……。
これも、あの巨大兜の力なんだに……?

飫肥城
あの器に収められた魂の名は、島津義弘。
薩摩の国の主君として名を馳せた将の一人……!

飫肥城
そして此地、桜島は……、
島津氏の領地として深い縁で結ばれた場所なのです。

柳川城
その深い縁が、島や山に影響を与えているのですね……。

飫肥城
はい。火山の活動は活発化し、
兜たちはその力を我が物としています。

雑賀城
なるほど……今回の戦では、
兜の動きに注意を払った方が良さそうだね……。

千狐
これ以上此地を荒らされてしまう前に、巨大兜を討たなければ……!

島津義弘
…………。

島津義弘
増エタ……不思議な力ば漂ワセテ、
儂ノ道ヲ遮るモンが、マタ……。

島津義弘
ソレニ、あの軍ノ長と見ラレル男。
奴トハ初めて会うた気がセン……。

島津義弘
イヤ、関係はナカ。
儂の邪魔スルつもりなら、蹴散ラスだけだど……!

千狐
巨大兜の力が膨らんでいく……!
殿、ご下知をお願いします!

殿
…………!

後半
飫肥城

食らいなさい!やあああぁぁぁっ!

島津義弘
グオオオオオォォォォァァァァ!?

柳川城
飫肥城さんの矢が巨大兜を捉えました!

島津義弘
コレハ……身体ガ動かん。意識も、遠ノイテ……。

島津義弘
どうスレバ……儂はドウスレバ良イ……!
教エテクレ、太閤様ァ……秀吉様アアァァァ!

飫肥城
…………。

島津義弘
何処にオラレル……! 儂はマダ戦エル、まだ働ケル……!

島津義弘
立チ止マレヌのじゃ……頼む、戦ワセテくれ……薩摩武士の誇りのタメに……!

島津義弘
太、閤……様……!

島津義弘
…………。

島津義弘
……………………。

千狐
…………。

千狐
巨大兜の霊気消失を確認しました……。

やくも
火山から感じられたイヤな気も、
薄れていってるみたいだに……。

やくも
にしても……今回の巨大兜は、
何だか様子がおかしかっただに……。

千狐
確かにそうね……。
今まで対峙してきた巨大兜と比べると、
理性の無い怪物のようで……。

雑賀城
おそらく、魂に刻まれた記憶の大部分が、
まだ取り戻されていなかったのだろう。

雑賀城
顕現して間もなかったのか……それとも、別の理由があったのか。
今となっては、推測することしかできないけどね。

飫肥城
…………。

飫肥城
島津義弘……あの巨大兜は、
ずっと苦しんでいるようでした。

飫肥城
わからない、答えがほしい、と。
ずっと、そう繰り返して……。

飫肥城
巨大兜は強くて、怖くて……。
討伐すべき脅威であることは、分かっていました。

飫肥城
でも、少し……ほんの少しだけ……。

飫肥城
助けられたら良かったのにって、
そんなことを思ってしまいました……。

やくも
…………。

千狐
……飫肥城さん。

雑賀城
……器の崩壊によって、島津義弘の魂は解き放たれた。
それは捉えようによっては、救われたと言ってもいいと思う。

飫肥城
…………。

雑賀城
だから……落ち込むことなんてないんだよ、飫肥城。

雑賀城
君は、自分のやったことに胸を張っていいんだ。

飫肥城
雑賀城さん……。

やくも
だに! うちらの到着まで、
よく持ちこたえてくれたがや!

殿
…………!

千狐
今後、兜の動きを察知した際には遠慮なく、
千狐たちを頼ってくださいね!

飫肥城
皆さん……! はい、ありがとうございます!

雑賀城
記憶が戻れば、器との定着は高まり……、
それに伴って力も増していく。

雑賀城
島津義弘という名高き将をここで討てたのは、
ボクたちにとって幸運だったと言えるだろう。

柳川城
…………。

柳川城
(戻らない記憶。
 失った記憶を求めて……苦しむ……)

柳川城
(それは城娘にも……同じことが言えるのでしょうか……)

やくも
ほぇー……雑賀城は物知りなんやね……。

千狐
ほぇー、って……今の話、理解できたの? やくも?

やくも
ったりまえだに!

やくも
よーするに、あれだに。そのー……。

やくも
兜さんには、色んな兜さんがおる! っちゅーことがや!

殿
…………。

雑賀城
すごく大雑把だけど……まぁ、間違ってはいないね。

千狐
大雑把にもほどがあるの……。

雑賀城
今回のように理性なく破壊を繰り返す者がいれば……、
水面下で策を巡らせる者も居る。そういうことだ。

飫肥城
策を巡らせる……。

雑賀城
例えば――そう。今回、
島津義弘の名を冠する巨大兜を焚き付けた者が居たようにね。

やくも
焚き付けた……それって……?

柳川城
…………。

柳川城
先程、巨大兜が口にしていた……秀吉。
それは正しく、かつて日の本を統べた者の名前……。

千狐
彼の名を冠する兜が動き始めた……ということですか……。

殿
…………。

雑賀城
すでにボクたちは、奴の思惑に乗せられている。
……そう考えた方が、良いのかもしれない。

殿
…………。

柳川城
そうですね。どうやら今の私たちに、
安堵している余裕はないようです。

柳川城
次なる戦に備え、
私たちも動き始めることにいたしましょう……!

第57話 戦乱運ぶ軍船 ~近江~[]

薩摩国にて巨大兜を討伐した殿一行は、次なる
敵の影を追って、近江国へと向かっていた。
そこで彼らが出会ったものとは、いったい――

前半
――近江国、某所。

殿一行が巨大兜・島津義弘を討伐してから数日後――。

水口城
――くしゅんっ。

水口城
いやはや……これは、
とんでもないことになってしまったでござる……。

水口城
まさか、兜があのような動きを見せるとは……。
しかし拙者の力では如何とも――むっ!?

やくも
せんこー、巨大兜の霊気はまだ掴めないんだに?

千狐
ええ、そこまで大きいものは、まだ……。

殿
…………!

柳川城
そうですね。かの巨大兜の本拠に近づいているのですから、
焦らず……慎重に進んでいきましょう。

水口城
…………。

水口城
今の話し声は……?

水口城
……っ!? こちらに近づいてきているでござる!

水口城
距離はそれほど遠くない……。
逃走を図って下手に物音を立てるくらいなら、
身を隠してこの場をやり過ごすでござる……!

水口城
木に擬態し、景色の中に溶け込むでござる……。

水口城
拙者は木……この森の一部。
大地に根を張り、風に吹かれながら葉を揺らす、樹木の一つ。
心を無にして、ぇ……へぇ――

水口城
――っくしゅんっ!

殿
…………。

千狐
…………。

柳川城
…………。

やくも
……あのー。

やくも
……お姉さん、そこで何をやっとるだに?

水口城
(しまったでござるぅ……)

――――

水口城
いやぁ、一時はどうなることかと肝を冷やしたでござる。

殿
…………。

やくも
うちらの方こそ、びっくりしただに……。

柳川城
……突然、
すぐ傍でくしゃみが聞こえたと思ったら、
城娘だったなんて……。

水口城
それには拙者も驚いたでござる。
見つかった相手が城娘と……かの有名な殿であったとは。
この幸運には、感謝せねばなりますまい。

水口城
――と、改めて自己紹介を。
拙者の名は水口城、
近江国を守る城娘が一人でござ――

水口城
――くしゅんっ!
……すみません、先程からくしゃみが止まらなくて……。

水口城
うう、着替えを持ってくれば良かった……。

やくも
大丈夫だに? もしかして、熱でもあるんじゃ――

やくも
――って、水口城!
よぉ見たら、全身ずぶ濡れだにっ!?
いったい何があったがや?

水口城
はい……これは、話せば長くなるのですが――

千狐
――コンッ!? これは!

柳川城
どうしたのですか、千狐さん?

千狐
兜の気を感じました……数もさることながら、
感じられる霊気の密度も凄まじい……。
無数の兜が一箇所に集っている……そんな様が想像できるの。

殿
…………。

水口城
……お気づきになられたようでござるな。

水口城
拙者の後に付いてくるでござる。
口で説明するよりも、見ていただいた方が早いでござる。

――――

水口城
――到着でござる。
あちらに浮かぶ、船の姿が見えるでござるか?

やくも
船……確かに、
沖合に浮かんでいるのが見えるがや。
それに――

兜軍団
ゾロゾロ……ゾロゾロ……。

千狐
そして船の上には、兜たちの姿が……。
ここから見えるだけでも、途轍もない数の軍勢です。

柳川城
それが一隻だけじゃなく、何隻も……。

水口城
拙者……時折、水蜘蛛という忍具で、
水上をぷかぷか浮かんだりなどしているのでござるが……、
その際に、あの船を見つけたのでござる。

水口城
ただ、驚いた拍子に、制御を失って……。

千狐
それで全身ずぶ濡れに……。

やくも
やけど、船を見つけられたのは幸運だったがや!
こっちから攻め立てて、船ごと沈めてしまえば一網打尽だに!

柳川城
確かに……それができれば、
多くの兜を一掃することも可能かと思います。
ですが――

水口城
――あぁっ、見るでござる!
船が動き出したでござるよ!?

千狐
海岸の方へと向かっています。
陸に上がるつもりでしょうか……。

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
そうですね……あれだけの軍勢、
放置すれば取り返しのつかないことになってしまいます……。
そうなる前に、私たちの手で討伐いたしましょう!

水口城
よぉし! それでは出陣でござる!

後半
千狐

兜の霊気は感じられません……やりました!
これにて討伐完了です!

水口城
殿、それに皆……感謝するでござる!
お陰で、此地の平穏は守られたでござるよ!

水口城
……ところで、聞きそびれてしまっていたのですが……、
殿たちはいったい何用で近江国まで?

水口城
拙者で良ければ、力になるでござるが……。

千狐
実は千狐たちは、
巨大兜の気配を追ってここまで来たのです。

やくも
此地に縁を持つ兜で……豊臣秀吉っていう奴だに!

柳川城
何か、手がかりになるような情報を頂けると、
嬉しいのですが……心当たりはありますか?

水口城
情報……豊臣秀吉、でござるか。ん~……。

水口城
……あ、そうです! そういえば先日、
伊勢国より不穏な噂を耳にしたでござる。
兜が不穏な動きを見せているようだ……と。

水口城
巨大兜と関わりがあるかは、分からないでござるが……。

殿
…………。

柳川城
……そうですね。
他に手がかりもありませんし、
一度足を運んで見ることにしましょうか。

殿
…………!

柳川城
ありがとうございます、水口城さん。
……私たち、伊勢国へ向かうことにいたします。
此地の復興に力を貸すことができれば良かったのですが……。

水口城
とんでもない!
兜の討伐に手を貸してくれただけでも、
充分過ぎるくらいでござる!

水口城
此地はまだ予断ならない状況ゆえ、
同行することは叶いませんが……、
皆さんの無事を祈っているでござる!

水口城
いつかまた、お会いできる日を楽しみにしているでござる!

殿
…………!

柳川城
ええ……それでは、また!

第58話 本宗奪回 ~伊勢~[]

城娘の案内により、日の本に名高き伊勢の
神宮が兜の力に侵されていることを知った一行は
奪回のため戦いを挑むことを決意する……。

前半
伊勢国、某所――

柳川城
いかがですか、千狐さん?
兜の気配は感じられますか……?

千狐
はい、兜の軍勢の気配は確かに……感じられます。
やはり水口城さんの情報に、間違いはなかったようです。

千狐
ですが……おかしいですね。

殿
…………?

千狐
ここは伊勢国……ここまでくれば、
かの有名な伊勢神宮は目と鼻の先。
なのに……。

千狐
なのに、此地に満ちているはずの神聖な力が、
全然感じられないの……。

やくも
たしかに千狐の言う通り……おっかしいがや。

殿
…………。

柳川城
力が感じられないほどに、神宮の力が弱まっている。
これは、もしかして……。

???
――私の口から、
説明してあげるつもりだったんだけど、
その必要はなかったみたいね。

殿
…………?

柳川城
貴方は……?

神辺城
始めまして……殿。私の名前は神辺城。
備後国は黄葉山に築かれた、
女神の加護を帯びし城娘よ。

神辺城
自己紹介はさておき……、
この状況について説明をしなければね。
さ、私に付いてきて。

――――


…………。

兜軍団
…………。

やくも
あっちに兜さん、兜さん兜さん……。
向こうにも兜さん……。

千狐
そんな……。
神宮が、兜の力に侵されて……。

殿
…………。

神辺城
私は備後国から此地まで、
神宮の力を頼りにできないかと思ってやってきたのだけど……。
そこで、この状況を目の当たりにしたの。

神辺城
私も、初めて見た時は驚いたわ。
そして何より……怒りを覚えた。日の本に点在する、神の社……、
その本宗として知られる伊勢神宮が、兜に侵されてしまっただなんて。

やくも
その気持ち、痛いくらい分かるだに!
うちも千狐も、はらわたが煮えくり返っとるがや!

千狐
千狐も許せません……少しでも早く、
神宮を元の姿に戻してあげたいの!

神辺城
情けないけど、あそこまでの軍勢となると私一人ではどうにもできない。
……だからお願い、殿。
伊勢神宮を取り戻すために、一緒に戦ってほしいの。

千狐
千狐からもお願いです、殿!
神辺城さんに力を貸しましょう!

やくも
うちからもお願いだにー、殿さん!

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
ええ……共に戦いましょう、神辺城さん。
私も力は惜しみません!

神辺城
殿、柳川城……。
ありがとう……この礼は必ずお返しするわ。

神辺城
それでは、出陣しましょう……!
神宮を、兜どもの手から取り戻すために!

後半
千狐

此地を侵していた兜の力は、
全て払われました……!

やくも
やっただに! 大勝利がや~♪

神辺城
これで神宮も少しずつ、
本来の神聖な力を取り戻すはず……。
皆、本当にありがとう。

千狐
いえ、お礼を言いたいのは千狐の方なの……。
神辺城さん、神宮のため共に戦ってくれて、
ありがとうございました。

やくも
うちも感謝しとるがや! ありがとーだに♪

殿
…………。

千狐
それにしても、先日の海津大崎に続いて、この伊勢神宮。
……兜の力が、徐々に増しているように思えます。

千狐
豊臣秀吉の名を冠する巨大兜の居所は、
近づいていると見て良いのかもしれません……。

殿
…………。

柳川城
はい……引き続きこの調子で、
周辺の国々を巡りましょう。そうすれば自ずと、
巨大兜の影を掴むこともできるはずです!

殿
…………!

――――

服部半蔵
以上、拙者から伝えラレル情報はここまででゴザル……。

豊臣秀吉
ソウカイ。家康の奴がそんなコトを……。

服部半蔵
トハイエ、今は雌伏の時……。
軽々にことを起コスべきではない、
それが我が主のゴ判断でゴザル。

服部半蔵
此度の世においては、未ダ、
義元様の名を冠スル兜も存在します故……。

豊臣秀吉
今川義元、ネェ……。

豊臣秀吉
『今川家の人質』という認識で、
家康ヲ規定スルことで、制御を可能とする。
……あの御方の狙イは、ソンナところカネ。

服部半蔵
……オソラクは。

服部半蔵
……して、秀吉様。貴方はコノ後、
どのヨウニ動くおつもりでゴザル……?

豊臣秀吉
……さぁてネ。

豊臣秀吉
所詮此世など、あの御方が創リシ箱庭に過ぎない。
許サレタ自由ナドたかが知れてらぁ。

豊臣秀吉
身の程をワキマエテ……許される限り、
此世での生を満喫するだけサァ……くくっ。

豊臣秀吉
だから半蔵……俺もお前モ好きにやりゃイイ。
どの道、俺たちに賽ヲ振ることは許サレテいねぇんダ。

服部半蔵
…………。

服部半蔵
……承知した。
家康様にもそのヨウニお伝えするでゴザル。

服部半蔵
では拙者は、コレニテ――

――――

豊臣秀吉
…………。

豊臣秀吉
(信長様が姿ヲ消シ、
 『豊臣』トシテの名を得た此度の世においても、
 俺がデキルことには限りがアル……)

豊臣秀吉
(最早、座シテ好機ヲ待つ猶予がないことは間違イないが、サテ――)

???
……なんだ秀吉。
また私の目を盗んで、悪巧みか?

豊臣秀吉
――――ッ。

???
……半蔵から何を聞いた?

???
家康の言伝か? お前は何を知った?
……そして、今は何を考えている?

???
答えよ……。
その器に収まった虚魂の主たる……この私に、
全て明かすが良い。

豊臣秀吉
…………。

豊臣秀吉
……『また悪巧みか』トハ、人聞きの悪い。
俺にソノヨウナ異心はございマセン。

豊臣秀吉
今ダッテ、貴方の気を煩ワセヌようにと、
策を練ッテいただけでサァ……。

豊臣秀吉
心配せずトモ、
殿と城娘ノ対処なら俺の手デ遠カラズ――

???
――もう良い。黙れ。

豊臣秀吉
…………。

???
お前が最後の最後まで私に服従を誓う……。
そんな未来を信じるほど、私は阿呆ではない。

???
私はお前の力を正しく評価している。
そして、お前という魂……そこに秘められた力をよく理解している。
無論、『野心』という欲が深く深く刻まれていることもだ。

豊臣秀吉
…………。

???
お前に命を下そう。

???
殿の首を持ってまいれ。
手段は問わぬ……私の前に、一刻でも早くだ。

豊臣秀吉
……一つ、具申ヲ。

豊臣秀吉
ココで俺という駒を切ルのは、ドノようなご判断デ……?
俺に一任イタダケれば、モット――

???
厄介払いだよ、秀吉。

???
私は、有能な嘘つきが嫌いなんだ。
お前が無能な正直者だったなら、
此世は違う未来へと分岐していただろう。

豊臣秀吉
…………。

豊臣秀吉
……コレが、此度の世における俺の定め、トイウことですか。

???
……不服か?

豊臣秀吉
……仕方アリマスまい。
無数に枝分カレした可能性の中には、
コウシタ結末もある。

豊臣秀吉
ここで潰エタ可能性は……イツカ、
どこかの俺ガ掴ンデいることデショウ。

???
…………。

豊臣秀吉
殿討伐ノ命、承知しました。
ツツガナク果たしてまいりますヨ。

豊臣秀吉
必ズや殿ノ首を……貴方様ノ御前に。

第59話 忍びの里にて ~伊賀~[]

忍びの里・伊賀国にて千賀地氏城は窮地に
陥っていた。巨大兜を前に、手は尽くしもはや
これまでかと諦めかけるが、その時――

前半

兜軍団
城娘、討伐セヨ……。
   城娘、討伐セヨ……。
      城娘、討伐セヨ……。

千賀地氏城
はぁ、はぁ、はぁ……。

千賀地氏城
もー、どいつもこいつも、
ちょこまかとすばしっこいんだから……!

服部半蔵
ふ……そのセリフをお主が吐くでゴザルか……。

千賀地氏城
っていうか……どういうつもり?
急に攻撃を緩めて……やるならさっさとやればいいじゃん。

千賀地氏城
こっちの手は、
とっくのとうに尽きちゃってるんだからさ。

服部半蔵
死ニタガルのは勝手でゴザルが、
お主の処遇ハ此方が決めるコト……。

服部半蔵
そう急かさずトモ……直に状況ハ動くでゴザル。

千賀地氏城
(様子見……?
 アタシが次の手を隠し持ってると警戒してる……?)

服部半蔵
…………。

服部半蔵
(サテ……ソロソロ来るはず、でゴザルが――?)

千狐
コンッ! こっちです、殿!
此方から、強大な兜の霊気を――!

やくも
ああっ、居たがや!? あそこだに、殿さん!

殿
…………!

柳川城
あれは、巨大兜……それに兜の軍勢……!

千狐
城娘の姿も見えます!
追い詰められている様子です!

千賀地氏城
――ん? あれは城娘、だよね……。
それに『殿』って……?

千賀地氏城
……なるほど!
噂はちょこちょこ耳にしてたけど、お頭ってのはあんたのことだね!
各地で兜を倒したり、城娘を救ってるっていう!

殿
…………!

柳川城
はい、その通りです。貴方は――?

千賀地氏城
アタシの名は千賀地氏城!
忍びの力と、伊賀国を守る役目を担いし城娘っ!
気軽にちがちーって呼んでくれていいよ!

千賀地氏城
にしても助かったよ~。
絶体絶命で、あわや……ってとこだったんだよね!

千狐
無理もありません……巨大兜を相手にしていたのですから……。

やくも
うちらの到着が間に合って良かっただに……。

服部半蔵
ニン……。

服部半蔵
役者は揃ったヨウでゴザルな……。

殿
…………。

服部半蔵
会いたかったぞ、殿ヨ。拙者ノ名は、服部半蔵……。
お主が姿を現スのを待チわびていた……。

千狐
殿を……待ちわびていた……?

服部半蔵
拙者の主は未ダ、此世における自由ヲ許サレテいない……。
故に、その名代トシテ拙者がここに参った次第でゴザル。

服部半蔵
ソシテ、その目的は……貴様が真に、
資格を得るに足ル存在なのか……確認スルこと。

服部半蔵
……サァ、その実力ヲ存分に発揮するが良い。
行クゾ……殿よ!

殿
…………!

千賀地氏城
兜たちが進軍を再開したよっ!
お頭、命令をお願い!

後半

千賀地氏城
柳川城ちゃん、そっちお願いっ!

柳川城
承知しましたっ!
はああぁぁぁぁぁっ!!

服部半蔵
ナント……我が部下タチが、
ことごとく蹴散らされたでゴザル……。

服部半蔵
聞きしに勝ル腕前でゴザル。
まさか、コレほどのモノとは……。

服部半蔵
此世にオイテ無二の存在とナリ得ることは確か。
シカシ、今はまだ……。

服部半蔵
…………。

服部半蔵
者共、武器ヲ収めるでゴザル!

兜軍団
…………ッ!

殿
…………?

服部半蔵
殿……それから城娘タチよ。
見事ナ勇姿だったでゴザル。

服部半蔵
ココマデの戦で、
拙者の目的は充分に果タサレタでゴザル!

服部半蔵
手前勝手ではあるが……、
今日のトコロは、これにて失礼スルでゴザル!

服部半蔵
ソレでは……御免ッ!


撤退、撤退イィィ――!

兜軍団
撤退ッ! 撤退ッ! 撤退ッ!

千狐
…………。

千狐
兜の撤退を確認しました……!

殿
…………。

柳川城
あの巨大兜の動き……妙ですね。
手下をけしかけながら……自身は最後まで、
本陣から動くことはありませんでした。

柳川城
それに、目的は果たされた……というあの言葉。
結果だけを見れば、敵方が収穫を得たようには思えませんが……?

千狐
思えば……最初からあの巨大兜は、
勝利以外の目的を秘めていたような気もします。

やくも
だにぃ。開戦の間際にも言っとったがや。
試す、とかなんとか……。

千賀地氏城
…………。

千賀地氏城
半蔵は……何を考えてたんだろ……。

千賀地氏城
お頭たちが到着する間際にね、
半蔵は攻め手を緩めたんだ……。

千賀地氏城
その気になれば……お頭が到着するより先に、
アタシを片付けることだってできたはずなのに……。

千狐
千狐たちの預かり知らぬところで、何か……
思惑が動いているのかもしれませんね……。

千賀地氏城
一つ間違いないのは……半蔵の名を冠する巨大兜が、
油断ならない存在だってことだよ。

千賀地氏城
兜に姿を変えても、
忍びとしての矜持に変わりはないはずだもん。
主が命令を下したら……どんなことにだって手を染めるんだと思う。

殿
…………。

千賀地氏城
――けど! クヨクヨしてても仕方ないよね!
情報の足りない現状じゃ、考えたってどうにもならないもん。
それに、暗い表情はちがちーに似合わないし!

柳川城
そう、ですね……。私たちが考えるべきは、今の目的。
豊臣秀吉の名を冠する巨大兜の影を追うこと……。

やくも
霊気の流れを追いながら、このまま進めば……、
きっと手がかりが掴めるに違いないだに!

千賀地氏城
秀吉……そっか。
お頭たちの目的は、そいつの討伐か……。

千賀地氏城
…………。

千賀地氏城
お頭、アタシはこのまま此地に留まることにするよ。

千賀地氏城
この戦は、お頭たちのお陰でどうにか乗り切れた。
……けど、それが無かったら酷い負け戦になってたと思う。

千賀地氏城
そんな有様で、故郷を留守にするわけにはいかないよ。
お頭の旅に同行するのも、素敵だなーって思うけど……、
アタシの役目はやっぱ、伊賀国を守ることだって思うから。

殿
…………。

千賀地氏城
うん……約束する!
次こそはアタシの力で、此地を守り抜いてみせる!

千賀地氏城
だからお頭は、
自分のお役目を果たすことに集中して! ね♪

殿
…………!

第60話 天下は巡りて ~志摩~[]

志摩国にて遂に、豊臣秀吉の名を冠する巨大兜
との邂逅を果たす一行。近畿を、そして日の本を
救うため、殿たちは満を持して戦へと望む……!

前半

鳥羽城
うぐ……ちくしょう……ここまでか……。

豊臣秀吉
オヤ……すっかり大人シクなってしまいマシタが、
もうオシマイですかい……?

鳥羽城
(これが豊臣秀吉の名を冠する巨大兜。
 なんて力だよ……)

豊臣秀吉
すみませんネェ。
チョウドいいところに素敵ナ御城があったもんダカラ、
つい襲ってシマッテ。

豊臣秀吉
これも兜の性というもの……。
恨むナラ自分の運命を恨んでクダサイよ。

鳥羽城
阿呆が……恨む相手なんて、
お前以外にいるわけねぇだろ……。

豊臣秀吉
ソウカイ、そうかい。
まぁ、ドウ思うかはアンタの勝手だがネ……。

豊臣秀吉
トハイエ、終幕は間近だ。
命乞いヲするならココが最後の機会だが、
何か言イタイことはあるカイ?

鳥羽城
命乞いだと……誰がそんな真似を。

鳥羽城
たとえ敗北を喫しようと、最期を迎えようとも、
俺は、誇りだけは捨てたりしない……!

豊臣秀吉
ああ、ソウデスかい。
そんじゃ、言いたいコトが無いのならサクっと――

柳川城
――させませんっ!
はああぁぁぁぁっ!!

鳥羽城
――っ!? なんだ、城娘かっ!?

やくも
か、間一髪ぅ……どうにか間に合っただにぃ……。

豊臣秀吉
殿……ソシテ城娘たち……。

豊臣秀吉
思ッテイタよりも早く現れたか。
二つ三つ、御城ヲ落とす時間はあると踏ンデいたが……。

殿
…………!

千狐
これ以上、
鳥羽城さんの御城を傷つけさせはしません!
覚悟しなさい!

豊臣秀吉
オヤオヤ……到着早々、
敵意をムキ出しにしてイラッシャル……。

柳川城
当然です……巨悪の存在を、
私たちが見過ごすとお思いですか?

豊臣秀吉
巨悪ネェ……ククク……。

豊臣秀吉
一つ忘レテはいないかい?
お前達が目指スのは、兜の討伐ジャナク世の平穏ダロウ?

柳川城
……何が言いたいのです?

豊臣秀吉
タダ自動的に敵ヲ殺し続ケルだけなら、
ソコらの雑兵兜と変ワリはない……そういうことデサァ。

鳥羽城
何を言ってやがる……!
お前らが多くの民の命を奪ってきたことは、事実だろうが!
それを止めようとすることの何が悪い!

豊臣秀吉
ああ、ソウダな……その考エに間違いはナイ。

豊臣秀吉
ダガ……まだお前たちは知らないんだ……。
何も知らナイ……アマリに無知だ。

豊臣秀吉
この台詞、俺以外カラも言われたことがアルんじゃないカイ?

殿
…………。

豊臣秀吉
くくく……ま、アッタとしても、
忘レテルんじゃ意味はねぇんダガ。

豊臣秀吉
……サテ、お喋りはここまでだ。

豊臣秀吉
俺ニモ事情というものがありましてネ。
少シでも早く、殿の首ヲ持って帰らなければナラナイ。

殿
…………。

豊臣秀吉
口惜シイと思いますヨ、心から。
まぁ、今の俺に『心』ナンテものがあるのかは疑ワシイですがネ。

豊臣秀吉
まぁ……どちらが勝つにしたって、
此世の俺が終ワルことに変わりはない。同じことデサァ。

豊臣秀吉
セメテ最期は華々しく……気持チ良く散リたいもんだ。

豊臣秀吉
そんじゃ……殺シ合ウとしまショウカ。

後半

鳥羽城
……どうだ! ここまでやれば……、
流石に立ち上がれないだろう?

千狐
コンッ……巨大兜の霊気が失われていきます……!

殿
…………。

豊臣秀吉
…………。

豊臣秀吉
アァ、そうだな……。

豊臣秀吉
戦うチカラはもう、使い果たしチマッタ。
この戦はアンタらの勝利……メデタシ、めでたしだ……。

豊臣秀吉
もう少し遊ビたかったが……いいデショウ。

豊臣秀吉
次に目覚メルのは……イツなのか、ドコなのか。
ソモソモ、目覚めることはあるのか……。

豊臣秀吉
イヤ……考エルのも面倒くせぇ……。

豊臣秀吉
何にセヨ……これでヤット休むことができるワケだ……。

殿
…………。

豊臣秀吉
ソンジャ皆さん……後のことは、一つヨロシク……。

千狐
…………。

千狐
巨大兜の力が……完全に消失しました……。

やくも
それじゃ、これで……!

千狐
ええ……! 千狐たちは、
豊臣秀吉の名を冠する巨大兜の討伐を、
見事……果たしたのです!

鳥羽城
一時はどうなることかと思ったぜ。
安心したら、力が抜けちまった……。

柳川城
はい……どちらに転んでもおかしくない……そんな戦いでした。

やくも
うちも、緊張の連続で……もうくたくただにぃ……。

鳥羽城
……それなら皆、
俺の御城へ寄っていってくれよ。

鳥羽城
俺の御城や志摩国を、危機から救ってくれたんだ。
礼に足りるかは分からねぇけど、
できる限りのもてなしはさせてほしい。な、いいだろ?

殿
…………。

殿
…………!

千狐
承知しました。それではお言葉に甘えて、
鳥羽城さんの御城にお邪魔することにいたしましょう♪

やくも
だにぃ~♪

柳川城
…………。

柳川城
(ここまで、勝利を重ね……、
 名のある巨大兜を次々と討伐してきた。
 順風満帆と言って差し支えない道程……)

柳川城
(ですが……なんなのでしょう。
 この妙な……拭い去れない不安感は……)

柳川城
…………。

柳川城
(ですが、関係はありません……。
 何があったって、誰が相手だって……殿を守るためなら、
 私はどんなことでも――)

やくも
柳川城……どうしただに?
怪我でもしたがや……肩、貸した方がいいだに?

殿
…………?

柳川城
…………。

柳川城
……いえ、何でも。

柳川城
鳥羽城さんの御城へ向かうのでしたね。
さぁ、行きましょうか……。

――――

???
ハハハ……ギハハハ……。

宇喜多直家
信長が去リ……秀吉が落チタ。

宇喜多直家
行儀良クしてイタラ……イツの間にか、
随分と都合の良イ状況にナッテいるじゃないか。

宇喜多直家
コレなら……吾輩のヨウナ小悪党でも、
それなりに楽シメそうだ。

宇喜多直家
秀吉ノ奴は、此世がどうだ平穏がドウダと、
言ッテいたが……吾輩ニハ関係無イ。

宇喜多直家
人々ヲ支配し、混迷ト恐怖を広ゲルことがあの御方ノ望みなら、
小悪党たる吾輩ハ、それに従ウまでよ……。

宇喜多直家
サテ……まずはドコカラ攻めようか。
ケフッ、ギハハハハハ……。

――――

――巨大兜が人知れずほくそ笑んでいた、その頃。

日の本の某所にて、
動きを見せる者の影があった――

???
…………。

???
……ここは、何処じゃ?

九尾
目覚めたようじゃな。
その力、姿……どうやら顕現は問題なく果たされたらしい。

???
……そちは?

九尾
ふむ、一口で説明するのは難しいが……、
敵ではない、とだけ言っておこうか。
無論、味方をするつもりもないが。

九尾
まぁ、吾の存在は然程重要ではない。
今の汝にとってはな。

九尾
汝はただ、汝自身のことを考えるべきじゃ。
何処へ行くべきか……何をするべきか、とな。

九尾
どの世でも、どの地でも……、
好きな方へ進むがよい。汝は自由じゃ。

???
…………。

???
……分からぬ。
何処へ向かおうにも……今の妾には、何も分からぬのじゃ。

???
ただ今は……辛い、悲しい……。
強い負の感情だけが胸中にある。

???
なぜ……なぜ妾はここに居る?
妾は、何のために生まれた?

九尾
くふふ……そうじゃろうな。
苦しかろう、悲しかろう……。

九尾
無理もあるまい……。
その感情こそが、汝の起源なのじゃから。

???
妾の……起源……。

九尾
何も分からぬというのなら、
一つ……吾が助言をしてやろう。

九尾
此世には……救世主を気取って、城娘どもを導く男が居る。
彼奴なら、汝のことを救ってくれるかもしれぬぞ……。

???
……その男が、導いてくれると言うのか。妾を……?

九尾
確証は持てぬがな……一つの道は拓かれるじゃろう。

???
……そうか。ならば妾は、
その男の動向を探ることにしようか。

九尾
…………。

九尾
殿よ……汝は、
自分の行いの正しさを問うたことはあるか?

九尾
自分が、虫の良いことを願っていると……、
疑ったことは、一度でもあるか?

九尾
無いじゃろうな……今の汝は、あまりに無知。
知らぬのならば、気付くこともない。

九尾
ならば吾がここで、汝に問おう。
御城の帯びる願いが……汝の意図にそぐわぬ形で顕現した時。
……汝はその娘を、どう扱う?

九尾
誰もが目をそむけたくなる歴史を、生まれながらに背負った城娘。
……その定めと、汝はどう向き合う?

九尾
救えるというなら、救ってみせろ。
……それが汝の意志なのじゃろう?
くふ、くふふ……。

第61話 妖しの通い路 ~伯耆~[]

巨大兜・豊臣秀吉の討伐を成した殿一行は、
所領に戻り今後の方策を練っていた。そこに、
ある城娘が現れ、次なる危機の訪れを報せる。

前半

――豊臣秀吉の名を冠する巨大兜を討伐してから、数日後。

伯耆国、某所――

兜軍団
ソロソロ、ソロソロ……。
   ソロソロ、ソロソロ……。
      ソロソロ、ソロソロ……。

鳥取城
これは……。

鳥取城
妙な気配を感じて、様子を探ってみれば……兜があんなに。

鳥取城
こんな夜更けに気配を殺しながら、
そろそろと……いったい何のつもりでしょう……?

突撃式トッパイ形兜
……シテ、準備ハ進ンデイルノカ。


ハイ、滞リナク。――様ノ命ニ従イ、着々ト。
後ハ、封印石ニ瘴気ヲ注グダケデゴザイマス。

突撃式トッパイ形兜
ヨシ、デハ始メロ……!
封印石ヲ瘴気デ満タシ、妖怪ドモヲ解放スルノダ!

兜軍団
ハッ! 御意ッ!!

鳥取城
瘴気、妖怪……解放?

鳥取城
大変……すぐに止めに入らないと――!

――――

――数日後、所領。
今後の方策について話し合っていた一行だが――

殿
…………。

柳川城
巨大兜・豊臣秀吉の討伐。
これは誠に喜ばしいことですが……。

千狐
依然、関ヶ原に踏み入ることはできませんでした。
その上、今後の動きのための頼りにする情報が無く……。

やくも
……いっそのこと、
気の向くままに日の本を巡ってみるがや?

柳川城
そうですね。このまま所領で、
手をこまねいているわけにもいきませんし……。

殿
…………。

???
殿……殿っ!
殿はこちらにいらっしゃいますか!?

殿
…………?

???
ああ、そこにいらっしゃるのは!
やっと辿り着けたのですね……!

千狐
貴方は……?

岡山城
お初にお目にかかります……私は岡山城。
中国地方は備後国の城娘です。

岡山城
この度は皆様に、救援のお願いをしたく……!

殿
…………!

柳川城
救援……まさか、何か異変でも……?

岡山城
はい。現在……伯耆国におきまして、
妖怪が力を強めておりまして……!

やくも
妖怪……それって、随分前に出くわして、
千狐の転移でどうにか逃げ切った……あいつらのことだに?

千狐
ええ、その通りよ。
あれ以来、千狐たちは運良く、
妖怪と衝突せずにここまでやってきたのですが……。

岡山城
日の本各地に跋扈する存在として、以前から認識してはいたのです。
……とはいえ、数も力も兜に比べれば取るに足らず、
困らされるようなことはこれまでありませんでした。

岡山城
それが先日、急激に力を増して、
民や城娘に牙を剥き始めました。

柳川城
では今も、伯耆国では戦いが続いているのですね?

岡山城
……はい。

殿
…………。

柳川城
そうですね。
民や城娘の危機となれば、看過はできません。

殿
…………!

千狐
承知しました! それでは、
すぐに準備を整えて出立いたしましょう!

岡山城
ありがとう、ございます。ああ、良かった……。

岡山城
皆様だけが、頼みの綱で……。
ここで見放されたら、私……どうしようかと――

千狐
岡山城さんっ、大丈夫ですか……?

岡山城
申し訳ありません。故郷を発って以降、
休みなしだったものですから。

岡山城
ですが、構うことはありません。
とにかく今は、中国地方へと……!

殿
…………!

鳥取城
はぁ、はぁはぁ……。

鳥取城
……くぅ、まだ生き残りがこんなに……!


グヒヒ、モウ終イダ。
抵抗スルノハ止メテ、観念シロ……。

鳥取城
私の弓は、確かに妖怪の身を捉えているはずなのに、
勢いが一向に衰えない……どうして?

鳥取城
粘りはしましたが、力も消耗し……。
もう長くは保ちそうにありません。

ぐうぅ~……。

鳥取城
それに、はぁ……お腹が空きました……。

鳥取城
せめて、最期にお腹いっぱい、
美味しいものを食べておけば良かったです。
梨とか、らっきょうとか――

岡山城
――そうはさせません! はああぁっ!


ギャアアアァァァァッ!?

岡山城
辞世の句を詠むには、
まだ早いのではありませんか。鳥取城?

鳥取城
貴方は……岡山城さん!?

岡山城
申し訳ありません。到着が遅くなってしまいました。

岡山城
……ですが、もう安心です。
心強い救援を連れてきましたよ。

殿
…………!

鳥取城
それに……殿も……!

千狐
何とか間に合ったようですね。良かったの……!

柳川城
もう心配は要りません。
ここから先は、私たちも加勢しますよ!

殿
…………!

鳥取城
皆さん、ありがとうございます……!

鳥取城
……よし!
ここから一気に盛り返しますよ!
殿、ご下知をお願いいたします!

後半

千狐
…………。

千狐
……妖怪の姿は消え失せました。
周辺から悪い気は感じられません。

千狐
……お疲れ様です、皆さん!
千狐たちの勝利なの!

やくも
やっただにぃ~♪

鳥取城
勝った……のですか? 嘘みたいです。
もはやここまで、と覚悟を決めたのに……。

鳥取城
本当に皆さんには、いくらお礼を言っても足りません。
ありがとうございます……!

やくも
鳥取城だって、すっごく頑張っただに!

鳥取城
ですが、一部の妖怪を逃してしまったようです……。
あらゆる方角へと散らばっていくのが見えました。

千狐
千狐も確認しました。
あれだけの妖怪が散らばったら……各地の妖怪と共鳴して、
さらなる事態へと発展するかもしれません……。

鳥取城
さらなる事態、ですか……?

千狐
はい……たとえば、此地以外でも、
妖怪が力を強めて活発化する、などでしょうか……。

鳥取城
……そんな。
私のせいで、他の国々にまで迷惑を……。

千狐
……あ、いえ!
鳥取城さんが落ち込むことはないのですよ!

千狐
これほどの数が相手では、
全てを掃討することは困難だったはず。
ですから今は、此地を守り抜いたことを喜びましょう……ね?

やくも
その通りがや!
鳥取城がうちらの到着まで持ちこたえてなかったら、
きっと取り返しのつかないことになってたはずだに!

殿
…………!

岡山城
たった一人で、怖かったでしょうに……。
よくぞここまで、守り抜いてくれました。

鳥取城
…………。

鳥取城
怖かったです……。
本当は何度も、諦めそうでした。
結局負けるのなら、今諦めたって同じなのでは……と。

鳥取城
でも私は……此地を少しでも長く守っていたかったんです。
私と共に生きてきた、大切な故郷だから……。

岡山城
貴方のその想いが、此度の勝利を引き寄せたのですよ。
……ですから、お礼を言うのは私の方なのです。

柳川城
ええ、間違いありません。
今回の功労者は鳥取城さんですよ。
本当に……ありがとうございました。

鳥取城
うぅ……そんな、恐れ多いです……!

やくも
にしても、良かっただに。
此地の危険はすっかり払われたわけやし、
これでひと安心――

岡山城
……いえ、お待ちください。
私たちはまだ、休むわけにはいきません……。

岡山城
確かに……この伯耆国は平穏を取り戻しました。
ですが……嫌な予感がするのです。

千狐
嫌な予感、ですか……。

岡山城
確証はありませんが……この先、
南東の方角にて良くないことが起きている。
そんな気がしてならないのです。

柳川城
……千狐さん、
兜の霊気は感じられますか?

千狐
…………。

千狐
はい、岡山城さんの仰る通り……。
南東の方角を中心に、無数の霊気が感じられます。
近くからも、遠くからも……!

殿
…………!

柳川城
……急ぎましょう。
すぐに次の地へと向かわなければ……!

鳥取城
…………。

鳥取城
あの……殿?
この先の旅路……私もご一緒しても良いでしょうか。

殿
…………。

千狐
……大丈夫ですか、鳥取城さん?
ご無理はなさらない方が……。

岡山城
先程の戦いの疲れもありますし、
休んでいても良いのですよ?
私たちも無理強いするつもりはありませんから……。

鳥取城
……無理、しますよ。……させてください。
美作も備中も、他人事じゃないんです。
自分だけ休んでいることなど、できません。

鳥取城
もちろん、怖いですし……逃げ出したい。
そんな気持ちもあります。
けど……ここで戦わなかったら私、きっと後悔します。

鳥取城
ですからお願いします、殿!
この鳥取城を貴方のお供に加えてください!
お願いします!

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
ええ、断る理由などありません。
共に戦い、此地に平穏を取り戻しましょう!

千狐
それでは早速、次なる地へと出立しましょう!

岡山城
…………。

岡山城
(この胸騒ぎ……間違いありません。
 進んだ先で待っている者は、おそらく……!)

第62話 散蒔く殺意 ~美作~[]

霊気の痕跡を追って美作国へと進んだ一行。
その先では、巨大兜の脅威に晒されながらも
必死に立ち向かおうとする城娘の姿が――!

前半

兵士
くっ、もうこんな所まで毒が……!

美作一ノ瀬城
予想以上に回るのが早い!
徐々に散布の速度が上がっているのか……?

兵士
兜め、なんてひどいことを……許せん……!

美作一ノ瀬城
待て、そちらは危険だ!
少しでも早く、民と共にここを離れなければ!

兵士
ですが……!

美作一ノ瀬城
貴方の思いは痛いほど分かる!
しかし相手は兜……無策に立ち向かっても、
勝てる見込みはない!

美作一ノ瀬城
貴方の思いは私が晴らす!
だから……民の誘導を!

兵士
……申し訳ありません! 後を頼みます!

美作一ノ瀬城
…………。

宇喜多直家
ギハハハ……コレデ心置きなく戦エル、というコトか?

美作一ノ瀬城
貴様……いったい何が狙いだ。
突然現れて、毒を振りまいて……。

美作一ノ瀬城
仮にここで勝利を収めて、
死に絶えた土地を支配したとして……それに何の意味がある?

宇喜多直家
狙イ……意味……?
ケフッ、ギハハハハハ……面白イ。

宇喜多直家
吾輩にトッテはその問イの方が、余程無意味に思エル。

宇喜多直家
だが……良いダロウ。
ソノ問いに答えるとスルなら……吾輩は只、
絶望が見タカッタだけ……。

美作一ノ瀬城
絶望……。

宇喜多直家
城娘……御城の歴史ヲ背負イ、
民を守る使命ヲ帯びた存在。

宇喜多直家
ソンナ貴様が、死にユク人々ヲ見届けることしかデキナイ……。
コレ以上の絶望が何処にあるダロウか?

美作一ノ瀬城
…………。

宇喜多直家
チカラ無キ正義を誰モ信じたりはシナイ。
人々からの信頼ヲ失ッタ城娘に、居場所はナイ。

宇喜多直家
希望ヲ奪い、絶望で満タセバ……必然、
城娘は死へと向カッテいく。単純ナ話だ。

美作一ノ瀬城
この下衆が……!

宇喜多直家
ソンナことより……良イノカ?
悠長にお喋リなどしてイテ。

宇喜多直家
こうしてイル間にも、毒は満チテいく。
此地は侵サレていく……。

宇喜多直家
無論、吾輩は構ワナイ。
貴様が動き出すマデ、言葉ヲ交わし続けよう。
此方から攻メル理由は無イのでね。

美作一ノ瀬城
く……!

美作一ノ瀬城
(好機を掴むには、慎重を期すべき。
 だが……機を伺っても、被害は広がるばかり)

美作一ノ瀬城
(なら、破れかぶれで飛び込んでみるか……?)

美作一ノ瀬城
(いや、それこそ愚策……!
 奴は兜の軍勢に守られている。
 私一人の力では、突破することはとても……!)

宇喜多直家
アァ、良い……凄ク良い。

宇喜多直家
必死に巡ラセル思考の中に、
影を落トシテいく絶望。……実に素晴ラシイ。

宇喜多直家
イズレは希望が失ワレ……、
最後の最後に自身の不足を呪ッテ、
生マレテきたことを悔いながら死ンデいくのだと思うと……胸が躍ル。

美作一ノ瀬城
……黙れ。

美作一ノ瀬城
私は希望を失ったりなど……絶対にしない。

美作一ノ瀬城
たとえ光が見えなくとも最期の時まで、私は戦うことを止めない!
それが勝利を手繰り寄せる唯一の手段だと信じている!

岡山城
その通りですっ!

美作一ノ瀬城
っ!? 貴方は……!

宇喜多直家
……ホゥ。

岡山城
直家……私が誰だか、分かりますか?

宇喜多直家
…………。

宇喜多直家
……岡山城。

宇喜多直家
遠カラズ邂逅スルとは思っていたが、
ソウカ……それが今、この時だトハ。

やくも
……こほっ! こほっ、こほっ!
うぅ……何だかこの辺り、煙たくないだに?

殿
…………。

千狐
正体はあの巨大兜が散布している、毒。
それは今この瞬間も、広がりつつあります……!

鳥取城
毒……! このままでは、
美作国が死に絶えた場所に変貌してしまいます……!

柳川城
長くここに留まれば、私たちも只では済まないでしょう……。

美作一ノ瀬城
その通りだ!
駆けつけてくれたことに礼を言いたいが、
今は時間が惜しい!

殿
…………!

美作一ノ瀬城
巨大兜を討つためにはまず、
奴が連れている手下を蹴散らさなければならない!
頼む、殿! 力を貸してくれ!

後半

宇喜多直家
オヤオヤ。なんと、吾輩の部下タチが……。
流石は殿、トイウべきか。

宇喜多直家
シカシ、敢えて堂々と迎え撃ツ必要もナイ。
背中を向ケテ逃走し……、
見苦シク生きながらえるとシヨウか。


撤退、撤退ィィ――!!

兜軍団
撤退! 撤退! 撤退!

鳥取城
見てください!
巨大兜が背を向けて逃走していきますよ!

宇喜多直家
ホラホラ。急がないと、
皆死ンデしまうぞ。ギハハハ……。

千狐
あの巨大兜を追うように、
毒の霧が広がっていきます……!

殿
…………!

柳川城
逃走しながら、毒を散布しているのですね。
なんということを……!

岡山城
すぐに追いましょう!
あの巨大兜を止めない限り、
此地の毒は広まっていく一方です!

美作一ノ瀬城
いいさ……どの道、
奴を討つまで止まるつもりはない……!

美作一ノ瀬城
道案内なら私に任せてくれ! さぁ、行こう!

第63話 梟雄、逝く ~備中~[]

毒霧を振りまきながら逃走を続ける巨大兜を
追って備中国へと入った一行は、ようやくその
背中を捉えることに成功するが果たして――

前半

岡山城
……さぁ、追い詰めましたよ。
逃避行もここまでです。

宇喜多直家
…………。

岡山城
直家……。

岡山城
どうして貴方は、このようなことを……。

宇喜多直家
お前もか、コノ期に及ンデ対話を試みるトハ。

宇喜多直家
何故……吾輩の心奥を探ロウとする。
知ッテ斬るか、知らずに斬ルカ。
そこにどんな違イがアル?

岡山城
そんなに……おかしなことでしょうか。
貴方のことを知りたいと願うのは。

岡山城
私のかつての主を前にして、何の感慨も覚えない……。
私にしてみれば、そちらの方がおかしな話です。

岡山城
私と貴方……どちらが勝ったとしても、
負けた者の想いが潰えないように、
言葉を交わしたいと願うのは……自然なことだと思うのです。

岡山城
逆にお尋ねしますが、貴方の魂に刻まれた記憶は……、
私という城娘に、何も感じてはくれないのですか?

宇喜多直家
…………。

宇喜多直家
確かに、否定はデキナイ……。

宇喜多直家
アア……感ジルとも。岡山城、
貴様以上に吾輩の心ヲ揺サブル御城が、
どれほど居るダロウか。ソレは間違いナイ。

岡山城
直家……。

宇喜多直家
ああ、痛イ……痛イなぁ。ケフッ、ギハハハハ……。
空虚なコノ胸が、痛ミを訴えている。

宇喜多直家
アレほどまでに愛シタ御城を、
この手デ葬ラネバならぬとは! 何と悲シイ、何と虚シイことか!

宇喜多直家
シカシ……同時にコレほどの刺激は、
戦以外デ味わうことはデキナイ。そうは思わぬか?

殿
…………。

宇喜多直家
ダカラこそ戦は素晴らしい。敗者が失イ、勝者が得ル。
……至極明快なこの理に、誰もが従ウしかない。

宇喜多直家
勝てば……吾輩は只勝てば、
ドンナ場所にでも行ケル。どんなものにでもなれるノダ。

岡山城
……直家。

宇喜多直家
……貴様の言イ分は欺瞞ダヨ、岡山城。

宇喜多直家
戦いとは、どこまでも陰惨なものでアルベキなのだ。
汚ク、醜イものであるホド、輝きを増ス……。

宇喜多直家
ダカラ吾輩は勝利に手を伸バス……アラユル策を尽くす。

宇喜多直家
不様、卑怯となじられようが構ワヌ。
ソレコソが吾輩の正道。

殿
…………。

岡山城
…………。

柳川城
……岡山城さん。

岡山城
ええ……分かっています。
斬らねばなりません。斬るしかありません。

岡山城
むしろ今……此の時、此の場に居られたことを喜びましょう。
この手で、直家の首を取ることができるのですから。

殿
…………!

岡山城
承知しました、殿。
それでは、岡山城……参ります!

後半

宇喜多直家
ケフッ、ギハハ……ギハハハハ……。
負ケタ、負けた……完敗ダ。

岡山城
…………。

宇喜多直家
ああ……最低の気分ダ。
悔イを挙げればキリがない。
貴様らへの恨みも数え切レヌ……。

宇喜多直家
シカシ、勝者は貴様ダ。勝者は強ク、正シイ。
その事実は揺るがナイ……。

宇喜多直家
ならば……敗者タル吾輩は、
この胸に満チル負の感情も……、
浮かんでは消える呪詛の言葉モ……。

宇喜多直家
全テヲ抱えて、逝こうではナイカ……黄泉ノ国、へと……。

宇喜多直家
ギハハ、ハハハ……ハ……。

宇喜多直家
…………。

千狐
…………。

千狐
霊気の消失を確認しました……。

やくも
それじゃ……勝ったってことでいいんだに……?

美作一ノ瀬城
勝利、か……。
なんとも、苦しい戦だったな。

鳥取城
振りまかれた毒は、程なく晴れるでしょう。
ですが、この被害はあまりに……。

柳川城
…………。

殿
…………。

殿
…………?

柳川城
……すみません。少々、考え事を。

柳川城
私はこれまで……兜に対してどこか、
哀れみを抱いている部分がありました。

柳川城
討つべき存在として敵視しつつも、誇り高い魂が、
悪しき願望のために利用されているのだ、と……。

柳川城
ですが此度の兜は、あまりに……。

殿
…………。

岡山城
直家の心には……修羅が住んでいたのです。

岡山城
彼は、己の力をよく理解していた。
そして生きるためには勝ち続けるしかない、ということも。
その目的を果たせるなら、時には仁と義を捨てることも厭わず……。

殿
…………。

岡山城
皆様が、これまでどのような兜と出会ってきたかはわかりません。
が、少なくとも直家は、武人ではなかった。
そういうことでしょう。

柳川城
すみません……あの兜の全てを否定するつもりではないのです。
ただ、あのような兜も居るのだと……少々、衝撃を受けてしまって。

千狐
手段を選ばず力の全てを注げば、
ここまでのことができる……ということですね。

やくも
……逆に言うたら、これまで出会ってきた兜さんは、
民の命を奪う以外のことも考えてた……ってことだに?

千狐
そうね……魂の定着の未熟さゆえに、
破壊だけに終始する巨大兜は、これまでも居たけれど……。

千狐
定着が進行し、自我を取り戻している兜ほど、
理知的な行動を取っていました。
誇りや忠義や……生前の後悔など……。

やくも
そう考えてみると、
あの『ニンニン』も異質だった気がするだに……。

美作一ノ瀬城
ニンニン……?

柳川城
服部半蔵の名を冠する巨大兜のことですね。
伊賀国にて、一度遭遇しましたが……。

千狐
兜を千狐たちにけしかけて、退却して……。
資格、試し……などと言っていた覚えがあります。

殿
…………。

柳川城
そうですね。
これまでに相対してきた巨大兜の、言動や行動。
それらから思惑を探れば……今後の手がかりになるかも――

ぐうううぅぅぅぅ~……。

千狐
――コンッ!?
何なの、この音は……!?

鳥取城
ごめんなさい……私のお腹の音です……!

美作一ノ瀬城
まったく、鳥取城は。
殿たちが大事な話をしているというのに……。

鳥取城
私だって、鳴らしたくて鳴らしてるんじゃありませんよぉ……。

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
ふふ、そうですね……。
私もお腹が空いてしまいました。

岡山城
……でしたら、私にお任せください。

岡山城
此度のお礼をせずに、お見送りするわけには参りません。
私の御城にて腹ごしらえはもちろん、
心ゆくまでおもてなしをさせていただきます。

殿
…………!

やくも
やったがや~♪
それじゃ千狐、すぐに転移! 転移だに~!

千狐
ちょ……待ちなさい、やくも。
その前に、戦の後始末をしなきゃ……!

――――

???
直家が逝ったか……。

???
一種、狂気じみた美学。興味深いものではあった……。
奴もまた、違う世、違う時では、
別の役割を得るのだろう。

???
殿の足音が聞こえてくる……徐々に、
着実に、私の首に近づいている……。

???
さて、次は誰を差し向けようか。
力を持たぬ魂では勝利は叶わず……持つ魂は御し難い。

???
殿だけでなく、
兜共の動向にも気を払わねばならない。
思い煩いは増える一方……。

???
……ならば、信じてみるか?
奴と城娘が築いた関係に倣って、
私も巨大兜たちを……。

???
くく、くくく……有り得ない。絵空事と呼ぶにも程遠い。

???
誰もが揃って、直家のように単純であれば、
私も動きやすいのだが……、
ないものねだりをしても、仕方あるまい。

???
いや……待て。
そうか、良い策を思いついたぞ。

???
全ては魂の在り方一つ。
兜も……それに名を付けただけに過ぎない。

???
であれば。この私が手ずから、
在り方を書き換えてしまえば良い。

???
くく……。戦とは陰惨で醜いもの、か。

???
その通りだよ、直家。お前の考えは正しい。

???
奴……殿は心のどこかで信じているのだ。
敵である兜にも、守られるべき尊厳がある、と。

???
付け入る隙は……そこにある。
その甘えた考えが仇となる時が、必ず来るだろう。
遠からずな……。

???
くく、くくくく……。



特に記載のない限り、コミュニティのコンテンツはCC BY-SAライセンスの下で利用可能です。

シェアボタン: このページをSNSに投稿するのに便利です。


最近更新されたページ

左メニュー

左メニューサンプル左メニューはヘッダーメニューの【編集】>【左メニューを編集する】をクリックすると編集できます。ご自由に編集してください。掲示板雑談・質問・相談掲示板更新履歴最近のコメントカウン...

[裏]真田丸

裏]真田丸(チャリン……チャリン……チャリン……)……貴殿か。今日は、話をしたい気分じゃない。足を運んでくれたのに、すまない。一文……二文……三文……四文……五文……六文……銭を数えていなければ、一瞬...

[裏]淀城

]淀城あ~……。あ゛ぁ~……きもちわる。夢見は悪いし、頭はズキズキ痛むし……。ほんっとに最悪な日よ、今日は。誰でも良いから……。どつき回して、ぐちゃぐちゃにしたい気分。…………。……で、なに?そこに突...

[裏]桜尾城

]桜尾城殿……どうかしましたか?……ふふ、今回は間違えませんでしたよ。あなたの安らぐ顔もまた、私の喜びなのですから。私は今……海を見ていました。このどこまでも凪ゆく、厳島の海を……。厳島周辺は神域とい...

[裏]川越城

]川越城お客様かしら……どうぞ。貴方は、確か……ちょっと待ってね……。うん……たぶん、『殿』よね……?やっぱり……人違いでなくて、良かったわ。ふふ。今丁度、過去の私が遺した日記を読み返していたのよ……...

[裏]小田原城

]小田原城…………。……あら、殿。ようこそいらっしゃいました。ああ……いえ、ご心配なく。少し考え事をしていただけですから。今、ちょうど……。昔の出来事に思いを馳せていました。今の私を形作る、原点とも呼...

[裏]小牧山城

目次1 性能1.1 特技1.2 [改壱]特技1.3 所持特技1.4 [改壱]所持特技1.5 計略1.6 [改壱]計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3...

[裏]室町第

裏]室町第殿……ふふふ。どうせまた来るって、そんな気はしていたわ。私がどんなに忠告をしても、貴方は自分の信念を曲げない。本当に……つくづく、強い人ね、殿は。私のせいで、どれほど悪いことが起こっても殿は...

[裏]大宰府

]大宰府おお、殿か。よく来てくれたな。今な、手紙を整理しておったのじゃ。最近は毎日、誰かしらから届くのでな……。この手紙は……、『大宰府ちゃん親衛隊』を自称する者たちからじゃな。大野城、鞠智城、基肄城...

[裏]坂本城

]坂本城大殿様……また来たのね。ふふ……別に、追い返したりしないわよ。というより……私も今ね、大殿様と話せたら、って考えてたところだったの。だから……少しの間、私の話し相手になってくれるかしら?……ふ...

[裏]佐和山城

]佐和山城……また来たのね、あなた。足を運んでくれたところ悪いけど、面白いものは何も見れないわよ?相変わらず、大坂城様のらいぶに向けて、準備をしているだけだもの。……ん、なに?『なぜ、そこまで大坂城様...

[裏]伊勢長島城

]伊勢長島城も~、なんなのあいつら!信じらんない!寄ってたかってライブの邪魔をして!いったいどこから情報が漏れたの?もしかして、殿じゃないでしょうね……!?……そんなわけないか。あたしは、あんたにな~...

[花嫁衣装]鹿児島城

目次1 性能1.1 特技1.2 計略1.3 [改壱]計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3性能< ロケト城 - [花嫁衣装]シャンティイ城 >[花嫁衣...

[花嫁衣装]鮫ヶ尾城

]鮫ヶ尾城はあ……春日山城サマの祝言、想像するだけでドキドキしてしまうっす!ね、ちびサマ~♪……ん?どうしたっすか、トノ?えっ、『主城のことより自分はどうなのか』っすか……?うぐ……これは痛いことを言...

[花嫁衣装]許昌城

]許昌城うーん……。ううーん……。……おや、殿か?すまない、考え事をしていて来訪に気づいていなかった。この間、殿と話してから、結婚に関して城娘達と話をしたのだ。繁栄という目的へ至る手段としての婚姻……...

[花嫁衣装]萩城

目次1 性能1.1 特技1.2 [改壱]特技1.3 計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3性能< [花嫁衣装]チャンドラ・マハル - [花嫁衣装]新田...

[花嫁衣装]秋田城

目次1 性能1.1 特技1.2 [改壱]特技1.3 計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3性能< 延岡城 - [花嫁衣装]ロンドン塔 >[花嫁衣装]秋...

[花嫁衣装]春日山城

]春日山城うーん……。……うーん? ……うん?……殿?すみません! お越しいただいていたのに、今の今まで気づかずにいて!実は先日、坂戸城と謙信公の昔話をしてたのですが、その際、跡継ぎの話題が出たのです...

[花嫁衣装]新田金山城

目次1 性能1.1 特技1.2 [改壱]特技1.3 計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3性能< [花嫁衣装]萩城 - [花嫁衣装]アイリーン・ドナン...