ストーリーテキスト/天下統一3章

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目次

3章 魔王編[]

第31話 新たなる智 ~常陸~[]

――関東地方に不穏な動きあり。
千狐たちの調査によって判明した兜らの
決起を鎮める為、殿は関東遠征を開始する。

前半
伊達政宗との戦いから数日後――。

常陸国・某所

桃形兜
――報告ッ! 報告ッ!

桃形兜
伊達政宗ガ殿ニ敗レタ様デス!

???
……何ダト?

???
まさカ、政宗ニ打ち勝つ人間が現レルトハナ……。

???
――ダッハッハッハッ! 面白いッ!
実に面白イ流れとなっておるのォッ!!

桃形兜
――ヒィッ!?

???
腰を抜かしてイル場合か、桃形? 
サッサトと出立ノ準備ヲするのだ!

桃形兜
ト……イウコトハ!!
惣領自ラ殿ヲ討チニイクノデスネ!?

???
――否ァァァアアアッ!!

桃形兜
ヒィィィィッ!? 

桃形兜
デ、デハ一体何処ヘ……?

???
決まってオル! 
我が領土、常陸国ヨリ更に南ヘト進軍スルノダ!

桃形兜
ミ、南デ……アリマスカ!? 

???
北への警戒ヲスル必要が失せタノダ!
今、小田原ヲ攻め込まンデどうする!?

桃形兜
デ、デスガァ……。

???
安心せいッ!
甥っ子ガ打っ倒されテ何もセンなんてこタぁナイ!

???
殿一行が此の地ニ攻め込んでくるハ条理ッ!
わざわざ我々が出向く必要ナド皆無デアロゥッ!

桃形兜
ナ、ナルホド……! 
流石ハ惣領デスゼ!

???
分かればイイのだ! 

???
デハ、北条ノアホンダラが
北進蚕食してくる前にぶっ潰しに行くぞ!

桃形兜
ホ、北条……?

???
イイカラさっさと付いてくるのだッ!!
ヤツの魂が器に固着スル前に勝負を決スル! 

???
イザ進めェッ!! 
我に続ケヨヤァァアアッ!!

兜軍団
ショ、承知ィィィーーッ!! 

――数週間後・所領。

やくも
……うぅ~。

不来方城
……ぐぬぬ。

大宝寺城
……むむむぅ。

脇本城
あのぉ……皆さん……。
何もそんな苦しそうな顔をしなくても……。

不来方城
じゃあ、勉強するのやめていいか……?
算術の問題なんて戦いには何の役にも立たないだろぉ?

黒川城
何を仰るのですか、不来方城さん!
そんな考え方は前時代的すぎます!

不来方城
で、でもよぉ……俺にはこういうの向いてないっつーか……。

千代城
まったく、おぬしらが勉強を教えてほしいというから
こうしてわらわたちが付き合っているというのに……。

不来方城
言い出しっぺはやくもだろぉ?
近くにいた俺は巻き込まれただけだっつの……。

やくも
それはそうなんやけど……
にしたって、この問題は難しすぎるだに。

やくも
これじゃ、うちの勉強嫌いにますます磨きがかかってしまうがや。

黒川城
はぁ、困ったものですね……。

黒川城
お二人とも、少しは大宝寺城さんを見習ってください!

黒川城
どれだけ悩んでいようとも、
泣き言ひとつ言わずに問題を解こうとしてるじゃないですか。

不来方城
……え?

大宝寺城
んぅぅ…………。

大宝寺城
……ふむぅ……。

大宝寺城
…………ぐすっ。

大宝寺城
ぶおお~ん! ぶおお~ん!
(お腹すいたよぉ~~~~!)

不来方城
泣き言以前に法螺貝吹き散らかしてんぞ!?

根城
――あれ? 
なになに何の音ぉ?
もしかしてご飯の時間なのかしら?

不来方城
ややこしくなるから、根城姉さんはあっち行っててくれって!

根城
えー、何この扱いぃ……!?
不来方城が不当にいじめてくるぅ。

不来方城
わ、わわっ……すまねぇ、姉さん!
悪気はないんだ! 
なぁ頼むからマジ泣きしないでくれよぉーー!

脇本城
……あ、不来方城さん! 
待ってください! 
何処にいくのですかぁ!?

黒川城
はぁ……こんな状態となってしまっては勉強会はお開きですね。

千代城
まぁ、集中力が持続しないのは無理もなかろう。

千代城
先の伊達政宗の名を冠した巨大兜との戦いから、
少なくない月日が経っておる……。

千代城
皆の身体の傷は癒えたが、
代わりに緊張感と覇気が減退してしまったのじゃ。

矢留ノ城
あ、相変わらず……関ヶ原を覆う結界にも変化がありませんから……。
次に何をすべきかという……目標が無いというのも原因の一つかも……です。

やくも
むぬぅ……いったいうちらはどうしたらいいがや?
所領ん中にいたって何も進展しないだに……。

やくも
殿さん、何か良い考えはないがや?

殿
…………。

やくも
……え? 
既に手は打ってある?

千代城
うむ、わらわと城主による発案のもと、
千狐や柳川城ら城娘たちに調査を頼んでおいたのじゃ!

やくも
調査……?

千狐
――殿ぉ! 
ただいま戻りましたわ!

やくも
のわぁっ!? 
せ、千狐ぉ!

やくも
いったいどっから湧いてきただに!?

千代城
転移術による帰還か……。
どうやら頼んでおいた調査が終わったと見える。

千代城
して、結果はどうじゃった?

柳川城
千代城さんが仰られていたように、
関東における兜の動きが活発化しているのは間違いないようです。

三原城
おそらく、我々が伊達政宗の名を冠する巨大兜を征討したことによって、
他の兜らの関係や思惑に様々な変化が生じたということなのでしょうね。

千代城
やはり、そうじゃったか……。

やくも
そうじゃったか、じゃないだに!

千代城
――きゃっ!? (びくっ)

やくも
何について話してるか、うちにも教えてほしいだにぃ!
っていうか三原城も調査に参加してたのが意外だにぃー!

三原城
意外って、それはどういう意味で……。

鶴崎城
あのぉ、私も参加していたのですがぁ。

長浜城
えへへ~♪ 
あたしもだよぉ~、やくもちゃん!

やくも
鶴崎城に、長浜城までぇ……。

やくも
なんかずるいがやぁ! 
うちも行きたかっただにぃ!

やくも
もぉー、何でもええから誰かうちにも
分かるように現状を教えてほしいにぃ……。

長浜城
んーとねぇ。

長浜城
関東地方で兜がうぉーっ! って感じに元気になって悪さしようとしてるから、
とりあえずは、前に東北で巨大兜と戦った場所から南下して、
常陸国ってとこに行ってみようかぁっていう話になりそうなの♪

長浜城
ざっくり説明するとこんな感じだよね、殿?

殿
…………。

殿
…………!

やくも
おぉぉ……すごく分かりやすいだに!

千代城
肝要なところだけ話せば、まさに長浜城の説明で問題はないじゃろう。

千代城
だが、現在の兜の動きを見るに、今後の奴らは――

やくも
――小難しい話はいいから、さっさと出発するだに!
殿さん、うちもすぐに準備するけん置いていかないでほしいがや!

千代城
あ、ちょっと……最後までわらわの話を……。

柳川城
行ってしまいましたね、やくもさん……。

千代城
仕方の無いやつじゃのぅ……。

千代城
とはいえ、依然として確証が得られんことばかりじゃ。

千代城
不用意な説明によって、やくもや幼き城娘を
不安にさせる必要は、やはり無いのかもしれぬな。

三原城
そうした理由から殿と千代城さんは、三原のような
しっかりした城娘らだけで調査部隊を編成したんですものね?

長浜城
おんやぁ~? 
ということはもしかしてぇ、あたしもしっかり者ってことかな!?

長浜城
うっきゃ~! 
それはけっこー嬉しいなぁ♪
ついにあたし、お姉さんな城娘に認定ってことだよねぇ?

千代城
茶化すでない、長浜城……。

千代城
これから先の戦いは、ますます危険なものとなっていくのじゃ。

千代城
……そう、敵は……なにも兜だけとは言えぬのじゃからな。

千狐
その可能性に関しては、千狐も案じております……。

千狐
殿、関東への遠征……そしてこれからの戦い……。
より気を引き締めて参りましょう!

殿
…………。

殿
…………!

――翌日。

常陸国、某滝付近。

千狐
殿、常陸国に到着しましたわ!

やくも
ちょ、ちょっと見るだに、殿さん!
あの滝、カチンカチンに凍ってるだに!

千代城
あぁ、あれはじゃな……。

???
――あれは日本三名瀑のひとつとされている、
すごぉい滝なんでしゅよぉ~!

千代城
……でしゅ?

???
あ、す、すみません!
ヘンなところで噛んでしまいましたぁ……。

三原城
どうやら、此の地の者のようですね。
殿、少し話を聞いてみましょうか。

殿
…………。

???
えっと、あの滝はですねぇ、四季によって
それぞれに異なる風趣を見せてくれるのですが……。

???
冬でもないのに、あんなにカチコチになってるのは
地元民のあたしでも初めて目にします……何か、ヘンなのです。

三原城
あの滝が凍ったのは、つい最近のことですか?

???
はい……一昨日の夕方あたりだったと思います。
あの光景に村のみんなも何だか怖がっていて……。

???
不吉な出来事の前触れなのかもって思って……。
だから私、何が起きてるのか調べにきたのです。

三原城
……本来ならば冬に凍るべき滝が、
突如として完全凍結状態となった……か。

三原城
殿、我々が此の地に来たのは、
どうやら間違いではなかったようですね。

殿
…………!


――ザザッ!

兜軍団
ザザッ、ザザザッ!!

???
はわわわっ!? 
な、何なのですかアレは!?

三原城
現れましたね……兜ども!

三原城
千狐さん、やくもさん!
この娘を安全な場所へ!

やくも
了解だに!

千狐
お任せください!

兜軍団
……逃ガスナ……逃ガスナ……!

兜軍団
……氷ヲ利用シ……滑ル様ニ……突撃ッ!!

大高坂山城
――うそっ、なにあれっ!?

能島城
氷上を滑って、物凄い速度でこっちに迫ってきてやがるぞ!!

三原城
まさか、あの戦法をとる為にこの滝を凍らせたとでもいうの……!?

三原城
いえ、今は考えている暇はありませんね!

三原城
三原が叡智、とくとご覧に入れましょう!
皆さん、殿をお守りする為、いざ出陣です!

後半
馬場城

――と、いうわけで! 
どうやらあたし、城娘みたいです!

千代城
そうか……やはり関東の地にも、
潜在的な城娘がいたというわけじゃな。

千代城
馬場城、おぬしの城娘としての魂が還ってきたことで、
本来の記憶や知識も再起したはずじゃが……。

千代城
現在、関東で発生している兜の活性化の動きを、
おぬしの智がどう見ておるか教えてくれぬか?

馬場城
え、あの……いきなりすっごく難しいこと
聞かれているような気がするのですがぁ……。

馬場城
――はぅっ!?

馬場城
ま、待ってください! 
何か今、ぴぴーんっときました!!

馬場城
大きくて、禍々しい霊気の存在……そう、これは…………!

馬場城
……い、いや、そんなまさか……。
どうしておじ様の魂が巨大兜に……?

千代城
巨大兜……じゃと?

馬場城
あぁっ、ぁぁ……こ、こんなのって……有り得ないのです……。

柳川城
あ、あの……馬場城さん?
大丈夫ですか? 気分が悪そうですが?

千代城
すまなかった、馬場城。そこまででかまわない。
戻ったばかりの智に無茶をさせすぎたようだ。

馬場城
ご、ごめんなさいです……お役に立てなくて……。

馬場城
ですが、これだけはお約束します!

馬場城
あたし馬場城は、これから皆さんと共に、
たっくさん悪い兜を倒しちゃいましゅ!

柳川城
……ましゅ?

馬場城
あぅ……ご、ごめんなさいです……。
大事なところでまた噛んでしまいましたぁ……。

殿
…………。

殿
…………!

馬場城
は、はい……不束者ですが、精一杯頑張ります!

馬場城
あ、今度はちゃんと言えましたぁ~♪

千代城
やれやれ……。

千代城
しかし、馬場城の先ほどの様子と言葉から察するに、
この地のどこかに巨大兜がいると考えて間違いないだろう。

殿
…………。

三原城
はい……今回の遠征も一筋縄ではいかなそうですね。

三原城
それでは殿、次の地へと向かいましょう!
勝利の舞いは、残念ながら今日は省略です!

第32話 殺生の風韻 ~下野~[]

下野国の兜を討伐しに来た殿たちを迎えるは
重苦しい毒気に満ちた溶岩地帯。徐々に奪わ
れていく体力に注意しながら兜たちを退けよ。

前半
――下野国・某所。

千狐
殿、此の地に兜の気を感じますわ!
どうか油断なきよう、お願いします。

村中城
それにしても、何だよこの場所は……。
そこら中が重てぇ空気で満ちてやがる。

村中城
まさか、兜の瘴気……なんてことはねぇよな?

馬場城
ご安心ください、村中城さん!
これは兜による仕業ではありません。

馬場城
此処は、温泉付近にある溶岩地帯の為、
異臭と有毒ガスがムンムンしてるだけなのでしゅ!

村中城
有毒な時点で安心できるかっ!!

村中城
つーか、また噛んでんじゃねーよ!!

馬場城
ご、ごめんなさいぃ……。

馬場城
あ……あの、村中城さん……。

村中城
なんだよ?

馬場城
もし具合が悪くなったら、私の特製お注射をぶすっとしますので、
遠慮などせずに、ばんばん声をかけてくださいね?

村中城
ちゅ、注射だと……!?

馬場城
はい! こう見えてあたし、
将来の夢は立派なお医者様になることなのです!

村中城
そ、そうか……じゃあいっぱい勉強しねぇとな……。

村中城
(注射か……ったく、あんまり好きじゃねぇんだよな、あれ)

馬場城
……おや!? 
どうしましたか、村中城さん?
顔色がすぐれませんが、早速お注射しますか?

村中城
い、いらねぇーって!
余計な気ぃつかうんじゃねぇよ!

柳川城
とは言うものの、確かにこの場所は、
あまり長居したくありませんね……。

若松城
そ、そうだな……ただ歩いてるだけなのに……くっ、ぅぅ……、
……どんどん体力が……奪われていくような気が、するし……。

殿
…………。

若松城
ハァ、ハァ……と、殿は……何ともないのか?
ずいぶんと、涼しい顔……してるけど……?

殿
…………?

千狐
千狐も、特に苦しいといったことはありませんが……。

千狐
やくもは大丈夫?

やくも
うちも何ともないだに!

千代城
……となると、影響を受けているのは我々城娘だけというわけか。

村中城
なぁ、やっぱり兜の罠なんじゃねぇのか?

???
――おや? どうしたんだい、あんたら?
こんな場所で大勢たむろして……。

馬場城
あ、あなたは……?

???
ん、あたいかい? 

???
あたいはこの近くにある温泉宿のもんだよ。

???
よかったら一泊どうだい?
見たところ、具合の悪そうなヤツがいるようだけど。

殿
…………。

???
先を急いでる……?
ふーん、ま、そういうことなら仕方ねぇけどよ。

???
ただ、気をつけろよな?
最近ここらの毒気がやたら強くなってっからよ。

???
ったく、妖狐の伝説じゃあるまいし……。
あの岩が機嫌でも悪くしちまったのかね?

馬場城
妖狐……?

馬場城
――あぁっ!? 
そうでしたぁ!

千代城
な、何じゃ急に!?

馬場城
実はこの場所には、曰く付きの危険な岩があるのです!

村中城
曰く付きの、危険な岩……だと!?

馬場城
はい!

馬場城
強大な力を有した妖狐によってその岩は生じ、
毒気を振りまき続けることで、此の地を通る人や家畜、
鳥や獣などに害を為すと言われているのです!

村中城
何で、そんな危険なものを放置してるんだよ!

馬場城
そ、それは……えっと、たしかぁ……既に岩の力は薄れていて、
猛威を振るっていた事自体が伝承の一つとなっているから……だったはずです。

千代城
つまり、平時であれば
これ程の毒気を吐き出すことはないということじゃな?

馬場城
はい……!

馬場城
ですから、考えられる可能性としては、
外的要因によって伝承の力が引き出されてしまったのではないかと……。

???
お、おい……あんたらさっきから何を言ってるんだ?

やくも
うちも何言ってるか全然わからんだに!
つまりどういうことがや!?

佐竹式毛虫形兜
――ツマリハ、コウイウコトダッ!!

千狐
あ、あれは……兜っ!?

馬場城
しかも空を飛んでますっ!?

佐竹式毛虫形兜
ソノ岩ニ宿ル伝承ノチカラハ正ニ我ラニトッテノ僥倖!

佐竹式毛虫形兜
城娘ノ生命ヲ蝕ム毒気ヲ吸イナガラ、惨メニ朽チ果テルガイイッ!!

村中城
くそっ……やっぱりお前らの仕業だったってわけかっ!

???
な、何なんだい、あれは!?
もしかして妖怪か何かの類なのか?

村中城
ごちゃごちゃ言ってねぇでアンタは逃げろ!
アレは人に仇なすバケモノどもさ!

???
だったら、あんたらもすぐに逃げろって!
あんなのに襲われたら、殺されちまうぞ!

村中城
あぁん? 
誰が殺されるだってぇ……?

???
――くっ、な、何だ!? 
急に身体が光りだした……!

???
まさか、あんたらも人ならざるモノだって言うのか!?

村中城
人ならざるもの……?

村中城
ああ、そうさ。
アタシの名は村中城……兜を討つ城娘のひとりだ!

???
し、城娘……?

村中城
って、いつまでんなトコにいやがるんだ!
遅いヤツは嫌いなんだよ! 
どけ!

???
あ、ああ……わかったよ。

???
けど、約束しろ! 
絶対に死ぬんじゃねぇぞ!

やくも
分かったから、早く行くだに!
村中城、うちがこの娘さんを安全な場所までつれていくがや!

村中城
おうっ! 
頼んだぜ、やくも!

殿
…………。

千狐
殿、此の地に充満している毒気の影響で、
城娘の皆さんの体力は、時を追うごとに奪われていくようです。

千狐
皆さんの体力に注意しながら、戦いに臨んでください!

佐竹式毛虫形兜
フハハハハッ! 注意シナガラ戦ウ、ダトォ? 

佐竹式毛虫形兜
既ニ貴様ラハ必死ノ地ニ立ッテイルッ!
ドウ足掻コウガ、我ラニハ勝テヌノダ!

佐竹式毛虫形兜
サァ、進軍ヲ開始セヨ! 今コソ殿ヲ討チ取ルノダ!


進軍開始! 進軍開始!


殿ヲ討テ! 殿ヲ討テ!

村中城
殿を討つ……だぁ?

村中城
笑えねぇ、冗談だぜ……。

村中城
悪ぃが手加減はなしだ……速攻で終わらせてやるよ!!

後半
飛山城

……はは、まったく……参っちまうよ。
てめぇが城娘だったこと、すっかり忘れてるんだからな。

飛山城
あたいの魂を解放してくれたこと、感謝するぜ、殿!

殿
…………。

飛山城
お、おい……!
何であたいから距離をとろうとしてんだよ!?

殿
…………。

飛山城
はぁ? 
あたいが怖い?

飛山城
ば、馬鹿野郎! 
あたいはヤンキーなんかじゃねぇよ!

殿
…………。

殿
…………!

飛山城
ちょっ……何笑ってるんだよ!

飛山城
別に……あんたに惚れたとか、そういうことじゃねーんだからな。

飛山城
――って、それよりもあたいを助けてくれた
あのめっちゃ気合いの入った城娘はどこだい? 

飛山城
ちゃんと自分から礼を言いたいんだが……。

馬場城
あ、村中城さんのことですね?
彼女でしたら、あちらで……。

馬場城
って、あれ? 
村中城さんがいません!?

???
――あ、アタシは此処だぜ……。

馬場城
村中城さん! 
よかった、無事だったのですねー!

馬場城
――って、えええっ!?

村中城
ハァ……ハァ……く、っそ……しくじったぜ……。
無理に、ひとりで兜の残党を追撃なんて……するもんじゃねぇな……。

飛山城
お、おい……あんた、大丈夫なのか?

村中城
な、なんとかな……うっ、くぅぁ……、
けど、此処らの毒気のせいで……さすがに立てそうにねぇ……。

飛山城
誰か、はやく村中城を手当してやってくれよ!
あたいの命の恩人なんだ。恩を返すまでは死なれちゃ困る!

馬場城
そういうことなら、あたしにお任せください!

馬場城
馬場城特製の元気になるお注射、ずぷっとやっちゃいましゅ!

村中城
……え? 
ちゅ、注射……だとぉ!?

馬場城
大丈夫ですよぉ! 
あたし、将来は立派なお医者様にぃ――

村中城
――わ、わかったから物騒なモン向けんじゃねぇぇ!!

飛山城
何をイヤがってんだよ? 
生きるか死ぬかの瀬戸際だろ!?

飛山城
ほら、馬場城……だっけか? 
あたいがこいつを抑えるから、一気にやっちまいな!

馬場城
了解なのです!

馬場城
それではぁ、お注射開始です!

村中城
そんな……や、やめてくれって……頼むから……っ!
お願いだ……注射は……注射は嫌いなんだよぉぉぉ!!

柳川城
(あれ……? 
注射ってあんな場所に打つんでしたっけ……?)

千代城
何とも恐ろしい光景じゃな……。

殿
…………。

千代城
あ、先ほどの兜との戦いのことじゃな?
ヤツら、段々と戦い方を工夫し始めておる。

千狐
これから向かう地においても、
苦しい戦いが予想されますね……。

千代城
そうじゃな……。

千代城
(じゃが、何かがひっかかる……)

千代城
(あの毒気を放出する岩の力……あれほどの伝承を内包するものじゃ。
兜だけで力を引き出すことが、果たして可能なのじゃろうか……?)

千代城
…………いや、考えすぎなのかもしれぬな。

千代城
それでは城主よ、次の地へ向かうとしよう。

第33話 白の荒波 ~上総~[]

上総に到着した殿一行を待ち受けていたのは、
海上から現れた兜軍団だった。荒波に乗って
苛烈に進軍する兜を迎え討ち、勝利を掴め!

前半
千狐

殿、ようやく上総国に到着しましたね。

千狐
見晴らしの良い場所ではありますが、
いつ兜に出会すか分かりませんので、引き続き注意して――

やくも
――わぁ~い! 海だにぃーっ!!
お魚さん、い~~~っぱいだにぃー♪

千狐
こら、やくも!
そんなふうにはしゃいで、千狐の話を聞いてなかったの!

やくも
でも、千狐だって本音は?

千狐
――コンッ!! 久しぶりの海なのぉー!
千狐も殿と一緒に海水浴を楽しみたいのぉー♪

馬場城
……コン?

飛山城
……なの?

殿
…………?

千狐
あ、い、いえ……今のはその、やくもに
やらされたと言いますか……何というか……。

やくも
うちは別に何もしちょらんけん……。

千狐
と、とにかく!
やくもだけはしゃいで、場の空気を乱してはダメよ。

千狐
城娘の皆さんだって、遊びたいのを我慢して、
兜の襲撃に備えているのだから。

やくも
えー。
でも、若松城たちは、既に遊ぶ気まんまんに見えーがやぁ。

千狐
……え?

若松城
――うぉおーっ! 海だぁーっ! 
景色も抜群だし、上総の海もなかなかやるじゃねーかっ!!

鬼ヶ城
へぇ、良い感じの波がちらほら見えるな……。
此処で久しぶりに波乗りに興じるってのも悪くねぇな!

能島城
わっ、いいなぁいいなぁー!
鬼ヶ城、あたしにも波乗り教えてくれよー!

千狐
若松城さんに鬼ヶ城さん……それに能島城さんまで!?

千狐
皆さん、危機感が足らなすぎますわ!
そんなことでは、兜から殿を守ることは――

千代城
――まぁ、そう目くじらを立てることもあるまい、千狐。

千狐
せ、千代城さん……!?

千代城
みな此処に辿り着くまで、多くの兜と戦ってきたのじゃ。
少しくらいは気分転換せぬと士気が下がりかねんぞ?

千狐
……それは、そうかもしれませんが。

殿
…………。

殿
…………!

千狐
と、殿がそう仰るのなら……。

千狐
わかりました。
それでは、暫しの間、此の地で休息を取ることにしましょう。

千狐
……ただし、兜への警戒は継続して行ってくださいね?

やくも
やっただにぃー!
殿さんと千狐からのお墨付きをもらったがやー!

やくも
ってなわけで、さっそく海でお魚さんを釣りまくるだに!

やくも
ちなみにぃ、馬場城!
この辺りは何が釣れるがやぁ?

馬場城
え? 何が、と言われましても……う、うーんと……。

馬場城
ごめんなさい……。
この辺りのことは、あまり詳しくないのですぅ……。

小田喜城
あ、私……この辺りのことであれば、
たぶん、他の方々よりも詳しいと思いますけど……。

飛山城
そいつは本当か?
なら、さくっと上総の海のことを教えてくれよ!

小田喜城
は、はい! えっと、この辺りはですね……、
いわしとハマグリが有名なので、
釣りだけでなく、潮干狩りなどもしてみるといいかも……です。

やくも
いわしとハマグリっ!?

やくも
どっちも大好物だにぃー♪

やくも
よっしゃ! そうと分かれば、
うちがいっぱい取っちゃるけん、任せておくだに!

小田喜城
あ、でしたら良い穴場を知ってるので、
そこまでお連れしましょうか?

飛山城
本当か! そいつは助か――

飛山城
――っ!?

小田喜城
ど、どうされたのですか?

小田喜城
……って、あれは!?

鯰尾形兜
――ヒャッハ~ッ!!
ヤッパ上総ノ波ハ、格別ダゼェ―ッ!!

鯰尾形兜
ンォッ!? オイオイナンダヨ!
イワシガ大量ニイヤガルジャネェカァ―!

鯰尾形兜
ソウト分カレバァ!
仲間ノ土産ノタメニィ、乱獲乱獲ゥゥゥゥ――――ッ!

小田喜城
あ、ぅぅ……このままじゃ、海が……。
上総の海が汚されてしまいますぅ……!

飛山城
ったく、これだから兜は……。

飛山城
殿、あたいらの準備はとっくに出来てる!
さっさと、あのバカ野郎たちを倒しに行こうぜ!

殿
…………!

鯰尾形兜
俺タチヲ倒スダァ?
ヘヘッ、ズイブント舐メラレタモンダナァ……。

鯰尾形兜
海上デノ俺タチハ、誰ニモ止メラレナイゼェーッ!
ヒャッッッッホォォオォ――――――!!

やくも
――だにぃっ!? 殿さん!
兜さんたち、とんでもない速さでこっちに突っ込んでくるんだに!

千代城
やりよる……あの兜ども、海の荒波を利用して
通常の何倍もの速度で進軍を可能にしているようじゃ!

鬼ヶ城
なん……だとぉっ!?
兜のくせに波乗りとは、なかなかやるじゃねぇか!

千狐
しかも、兜の数がどんどん増えていってますわ!

馬場城
ということは、もたもたしている暇はないということですね……。

馬場城
殿、急ぎ参りましょう!
この綺麗な海を、兜たちに汚させるわけにはいきません!

後半
小田喜城

ふぅ……何とか、兜を退治することができたみたいですね。

飛山城
それじゃ、これで心置きなくハマグリやイワシを
追いかけられるってもんだな!

飛山城
ってことで、小田喜城!
うやむやになってた、ハマグリとイワシが
沢山とれる穴場を教えてくれよ。

小田喜城
……え? 
でも……皆さん、戦いで疲れてるんじゃ……?

やくも
その疲れを癒やすためでもあるだに!
美味しいもん食べて、次の戦いの糧にするがやー!

小田喜城
分かりました。そういうことでしたら、
喜んで案内させていただきます。

小田喜城
……あ、ですが。
皆さん、その格好で水の中に入るのですか?

馬場城
た、たしかに……このままだと、
ちょっと泳ぎづらいですよね……。

飛山城
まぁ、あたいはこのまま入っちまってもいいんだが……。
代えの服が無いのはまずいよなぁ。

飛山城
ったく、こんなことなら水着を用意しておくんだったぜ!

柳川城
……み、水着!?

柳川城
(よく考えたら、私……水着なんて一着も持ってないです……)

殿
…………。

殿
…………!

やくも
そうやね! なら、今度みんなで海に来る時のために、
それぞれの水着をうちが作っておくだに!

馬場城
あれ? やくもさんって、
工作だけじゃなくて、服も作れちゃうのですか?

やくも
んー? 
実際に作ったことはないだに……。

やくも
けど、武器や防具をつくる要領で何とかなるはずだに!

馬場城
そ、それはさすがに無理があるのでは……?

馬場城
――っ!?

千代城
ど、どうしたのじゃ、馬場城?

馬場城
……い、今……此の近くで、強大な霊気を感じ取りました……。

馬場城
これは……おじ様の……、
いえ……巨大兜のもので、間違いないと思います……。

千代城
前に常陸で、おぬしが感じ取った巨大兜のものと同じということじゃな?

馬場城
……はい。

馬場城
きっと……私と縁ある魂を悪用しているからこそ、
この巨大兜の気を、強く感じ取ることができるんだと思います……。

馬場城
感じ取れる霊気の方角からして、
現在、巨大兜がいる場所は下総あたりかと……。

馬場城
ですが、妙です……巨大兜と、配下の兜たちは、
下総に留まることなく、武蔵へ向け進軍しようとしているみたいです……。

飛山城
巨大兜が進軍中……だと?
野郎……何か目的があるっていうのか?

馬場城
さすがに、そこまでは私にも分かりませんが……。

千代城
いずれにせよ、此処でのんびりとしている暇はなさそうじゃな。

千代城
城主よ、準備ができ次第、すぐに下総へと向かうとするのじゃ!

第34話 坂東太郎 ~下総~[]

出会したるは佐竹義重の名を冠する巨大兜。
銃撃などでは怯みもしない豪胆な進撃に対し
己が全力の真っ向勝負で挑み、勝利を掴め!

前半
千狐

殿、この辺りに兜の気を感じますわ!
くれぐれも注意してください!

馬場城
(……佐竹のおじ様の魂を悪用する巨大兜……、
間違い無い……予感は今、確信に変わった……)

馬場城
(……此の心に、迷いが無いとは……言えないけれど……)

馬場城
ですが! 何が現れようと、私は全力で戦うのみでしゅ!

馬場城
――って、きゃぁあああっ!?
いきなりの落とし穴ですぅぅぅぅぅぅぅ!!

飛山城
馬場城ーー!!
あたいの手に掴まれっ!

馬場城
はぁ……はぁ……。
飛山城さん……た、助かりました……。
おかげで、底に落ちずにすみましたぁ……。

飛山城
ふぅ……何とか無事だったみたいだな。
つか、何でこんなところに馬鹿でかい落とし穴なんかがあるんだ?

小田喜城
しかも、穴の底には竹槍が無数に設置されてます……。

小田喜城
どっからどう見ても、対象を殺す気で作った罠……ですね。

???
おや、何がかかったかと思えば、町娘とは……これは驚いたな。

小田喜城
――あっ、あなたは!?

???
……ん?

小田喜城
大多喜城ちゃん!
大多喜城ちゃんじゃないですか!?

やくも
何や? 小田喜城の知り合いなんがや?

小田喜城
知り合いも何も、私の親族みたいなものでして……。
よかったぁ。大多喜城ちゃんと、またこうして会えるなんて夢みたいだよぉ!

???
……大多喜城?
はて、其方……何を言っておるのだ?

小田喜城
え? わ、私だよぉ……小田喜城……。
も、もしかして忘れちゃったの? ぐすっ……。

???
すまぬ……泣かれたところで、
知らぬものは知らぬのだ。

千代城
どうやら、城娘としての力を失っているために、
記憶まで抜けてしまっているようじゃな。

小田喜城
そ、そんなぁ……。

???
それよりも、其方たちは何故このような場所にいる?

???
此の地は既に兜に包囲されておる。
じきに戦いが始まる故、早々に立ち去るが良い。

やくも
それはこっちの台詞だに!

???
……なに?

やくも
あんた、今はただの人間と同じやけん、
兜さんのことは殿さんに任せてさっさと逃げるがや!

???
兜を前にしておきながら……我が、逃げる……だと?

???
ふざけるなぁっ――!!

やくも
――ひぃっ!?

???
戦が……戦が我を呼んでいるのだ!

やくも
……え?

???
罠も調略も既に数多用意しておる故、
我に手抜かりなど一切ないと断じよう!

???
それに、理由は分からぬが、我は戦いに生き、
戦いの中で果てるべきだと自覚しておるのだ!

???
よって、何人たりとも我の在様を邪魔をする者は許さぬ!
さぁ、兜よ、来るならば来い! 我と戦おうではないか!

飛山城
お、おい……何だかあいつ、ちょっとヤバいヤツなんじゃねぇのか?

千代城
記憶と力を失えど、その本質は大多喜城のまま……という訳か。

千代城
おそらく、あの濛々たる闘争心は、
自制することのできぬ本望みたいなものなのじゃろう。

小田喜城
すみません……大多喜城ちゃんは、
普段は心優しい娘なのですが、
戦のこととなると、ちょっと熱くなりすぎる一面がありまして……。

小田喜城
って、大多喜城ちゃん!
いったい何処にいくのですか!?

???
誰が大多喜城だ!
我を面妖な名で呼ぶでない!

???
いや、それよりも! 
今は眼前の敵を見据えるのだ!

小田喜城
……え? 
眼前の敵……?

千狐
殿、巨大兜ですわ!
我々が追っていた巨大兜が……ついに姿を現したようです!

――『それ』は、剛胆にして細心たる戦の生粋だった。

其の器量――只の兜ならず。
威、器に顕れ。意、豪にして隙間無し。

利根川の流れの如く雄々しく、
筑波山の勇姿を彷彿とさせる堂々たる器量を備えし純然たる武が、
今、夜叉羅刹を超え、未知の異形となりて殿の前に立ちはだかる。

佐竹義重
――ダッハッハッハッ! ヌシが殿かぁッ!?
ヨウヤット会えたのぅ! 思ったヨリモずっと早かったわィ!

殿
…………!

馬場城
……や、やはり……佐竹のおじ様だったのですね……。

佐竹義重
ほう……コイツぁ、驚いたッ! 馬場城カ……ダッハッハッハッ!
義宣と共に攻め入ったアノ日を思い出すわいッ!!

???
おい、バケモノめが……!
くだらぬ話に花を咲かせるのは其処までにしておけ!

佐竹義重
……アァン? 何ジャ貴様は?
人間風情が、ワシら兜と城娘の間に割って入るトハどういうつもりだ?

???
どうもこうもない……!

???
我が心魂が貴様を滅せと叫んでおるのだ!
さぁ、かかってこい兜よ。生涯最高の戦いにしようではないか!

佐竹義重
ソノ覇気……そして、ソノ心魂……成程ナ。
貴様ぁ、城娘ノ魂が失せた抜け殻というわけか。

佐竹義重
ダッハッハッハッ! 
その戦闘意欲はカッテやろう!

佐竹義重
ダガ、貴様のような脆弱な闘士トデハ勝敗は火を見るより明ラカ……。
純粋な戦いを望むのナラ、本来の貴様が持つべき力ヲ取り戻してから挑むノダナ。

???
何を言っているのだ! 我は兜たちを――

???
――ふぐっ!?

小田喜城
当て身…………ごめんね、大多喜城ちゃん。
あなたを死なせたくないから……ちょっと眠ってて。

やくも
(知り合いとはいえ、いきなり殴って気絶させるとは……!?
……小田喜城も、やるときはやる城娘だったがやぁ)

小田喜城
すみませんが、やくもさんに千狐さん! 
大多喜城ちゃんを安全な場所へ、連れて行ってください!

やくも
……ま、任せるだに!

千狐
殿、くれぐれも無理はなさらないように……ですわ!

殿
…………!

佐竹義重
ナァ、殿よ……。
こうしてワシら、対峙してミタわけだがァ……。

佐竹義重
正直なところ、今のワシにとっては、
貴様を倒スも倒さぬも変わりは無ぇんだなぁ、コレが……。

千代城
……なんじゃと?
どういうことだ、巨大兜よ!

佐竹義重
悪いガ、ワシは小田原に用があるんダ……ああ、そうさ。
コレも借りちまってる佐竹義重とかいう魂の囁きってやつナンダロウナ。

佐竹義重
トニカク、ワシの最終目標地点は此処じゃねぇワケダ。
だから、貴様らがこっから立ち去るってんなら、ワシは後を追ったりはしない。

殿
…………!

佐竹義重
フッ……そのツラじゃ、逃げるなんてのは端から選択肢にねぇってことカ。

佐竹義重
マァいいさ。ワシはワシの道を突き進むのみッテナ!
邪魔するヤツぁ、全て蹴散らすマデダッ!!

佐竹義重
総員、進軍開始ィッ!
イザ進めェッ!! 我に続ケヨヤァァアアッ!!

兜軍団
ウォォォオォオォッ!! 我等ガ惣領ニ続ケェ――ッ!!

千代城
――むっ!?
巨大兜め、ついに進撃を開始しよったぞ!

飛山城
はんっ! なんだい、あの鈍足はよぉ!
今なら、遠距離からの攻撃で
殿に近寄らせる前に倒せるんじゃねぇのか?

鹿児島城
そういうことでしたら、この鹿児島城にお任せですわ。

鹿児島城
ふふ……撃ち方、よしですのーっ!!

佐竹義重
――――っ!?

佐竹義重
ダッハッハッハッ! なんじゃ、その蚊の鳴くような銃撃はァッ?
ソレシキでこの鬼佐竹を止められると思ったら大間違いジャァッ!!

鹿児島城
あらぁ……困りましたわ。
あの巨大兜、銃撃程度では全く怯まないようですの……。

馬場城
でしたら、直接叩くしか手はないということですね……。

馬場城
こうなったら――

馬場城
――おじ様、お覚悟っ!!

小田喜城
私も共に参ります! 
はぁぁっーーー!!

佐竹義重
――クァッ!?
ダッハッハッハッ……その意気や善しッ!!

佐竹義重
だがァ…………。

佐竹義重
――効かんナァアあッ!!

馬場城
そん……な……っ!?

小田喜城
一撃で……やられてしまう、なんて……うぅぅぅ……っ!!

千代城
くっ……あの馬鹿でかい鉄球による一撃は、
まさに必殺の一打というわけじゃな……。

千代城
城主よ、用心しろ!
ヤツめ、純粋な力のみで押し切ろうとする手合いのようじゃ!

千代城
この戦場においては、策に頼る意味はないじゃろう……。
ヤツの動きを身体で止め、全霊の攻撃によって打ち倒すのじゃ!

飛山城
要するに、力比べってわけかい……。

飛山城
いいぜぇ! そっちの方が、
あたいにとってはやりやすいってもんさ!

飛山城
さぁ、行こうぜ、殿!
どっちが強いか、はっきりさせてやろうじゃないか!

後半
大多喜城

ふむ……そうか、我は城娘であったな。
まったく、何故このような大事なことを忘れていたのだろうか。

小田喜城
――大多喜城ちゃーんっ!!
よかったぁ、記憶が戻ったんだねぇ~!

大多喜城
おぉ、これはこれは、小田喜城様……。
ええ、貴方様のおかげで何とか無事に力と智を取り戻せましたぞ。

大多喜城
……だが、先ほどの巨大兜を難なく倒してしまうとは、
其処におわす御方は、なかなかの武人とお見受けする。

殿
…………。

大多喜城
ふふっ、そのように謙遜することもあるまい。
記憶の無かった我を助けてくれたこと、深く感謝します。

大多喜城
して、これからどうするつもりでしょうか?
一先ず、脅威は去ったようにも見えますが……?

千代城
そうじゃな……当初の目的は完遂したと見て間違いないじゃろう。

千代城
……だが。

飛山城
だが……なんだよ?
気になるような言い方せずに、はっきり言ってくれよ。

千代城
……よかろう。

千代城
城主よ、わらわはこのまま南西へと進み、
小田原に向かうべきだと思うのじゃ。

飛山城
はぁ? 小田原……だと!?

馬場城
先刻のおじ様……巨大兜の言葉が気になるということですね。

千代城
うむ……。

千代城
ヤツは小田原に用があると言っていた上に、
我々との戦いを、さほど重要視していなかった。

千代城
此処からは推論じゃが、彼奴には己の中で
会わねばならぬと断じていた兜がいたのではないじゃろうか?

小田喜城
……会わねばならない……兜?

大多喜城
なるほどな……。

大多喜城
我がこうして姉さまとの再会を果たしたように、
城娘の魂同士は惹かれ合うとされているが……、

大多喜城
巨大兜も、高名かつ強力な存在の魂を利用している点からして、
我々と同じようなことが起きていると考えてもおかしくはないのかもしれぬな。

やくも
うぅぅ……段々とまた、話がよくわからなくなってきてるだにぃ……。

馬場城
えっと……つまりは小田原に、
先ほど戦った巨大兜の知り合いが潜んでいるかもしれない、
ということですよ、やくもさん。

やくも
そ、それは本当がや!?

やくも
だったら、千狐ぉ!
すぐに霊気を探ってみてほしいだにぃ!

千狐
言われなくてもさっきからずっとやってるわよ!

千代城
で、結果はどうなのじゃ?

千狐
…………はい。
あまり喜ばしいことではないですが、
たしかに、小田原に禍々しい存在の気を感じます。

飛山城
ま、マジかよ……。

飛山城
一難去ってまた一難とはこのことだな……はは。

大多喜城
先刻の戦で疲弊しきったというのならば、
後のことは我に任せてくれてもいいが?

飛山城
はんっ! この飛山城をなめてもらっちゃ困るぜ!

飛山城
こう見えても、体力と一途さには自信があるんだよ!

飛山城
――っしゃ! そうと決まれば、少し休憩した後に、
すぐに小田原に向けて出発しようぜ、殿!

殿
…………。

殿
…………!

こうして、関東地方における兜討伐は
新たな敵の存在の発覚により、
その進路をさらに南西へと向けることとなる。

……。

…………。

――数刻後、某所

???
…………。

兎形兜
報告……佐竹義重ガ……殿ニ敗レタヨウデス……。

???
……ソウカ。

???
……佐竹メ。
我らノ許へ辿り着く前に敗走スルトハ……。

兎形兜
恐ラク……殿一行ハ此方ニ向カッテ……進軍スルト予想サレマスガ……?

???
然らば…………皆に、伝エヨ。
最善にして最高ノ備えヲ以て敵を迎え討て……トナ。

兎形兜
……承知。

???
…………。

???
……殿、カ……。

???
何とも……面倒かつ厄介ナ人間ニ、目をツケラレタモノダナ……。

第35話 誘いの魔笛 ~安房~[]

兜討伐のため相模へと進軍する殿たちだが、国境の
結界に前途を阻まれてしまう。解除手段を探らんと
辿り着いた安房で一行は不思議な笛の音を耳にする。

前半
相模国小田原に巨大兜が存在すると知った殿一行が、
下総から相模へと進軍することを決意してから、既に三日が経っていた。

飛山城
てなわけで、あたいらは小田原に向かって進軍してきたわけだが……、

飛山城
――何で、いつの間にか安房に来てんだよっ!
完全に進む方向間違えてねぇか!?

飛山城
つか、こっから南進したって海しかねーぞ、海しかっ!!
そんなに関東の海が気に入ったのかよ、あぁんっ!?

馬場城
ひゃぅぅっ……わ、私に凄まれても困りましゅぅぅ……っ!

村中城
おい、ちょっと落ち着けよヤンキー城娘。
馬場城が可哀想だろうが!

飛山城
誰がヤンキーだ、誰がっ!!

飛山城
……ってぇ、さっきのは別に
馬場城に言ったつもりじゃなくてだな……。

飛山城
何か妙に焦っちまってよ……、
……怖がらせたのなら、謝るよ。

馬場城
い、いえ……そのように頭を下げないでください。
私も、必要以上に驚いてしまってすみません……。

大多喜城
とはいえ、飛山城が焦れるのも無理はない……。

大多喜城
巨大兜の存在を知覚しながらも、
我々は小田原に攻め込むことが出来ないのだからな。

小田喜城
下総から武蔵へと向かったのに、
国境に結界が張られていて、
先に進むことが出来ませんでしたからね……。

やくも
なぁなぁ千狐ぉ……あの結界は、
関ヶ原の周囲に張られている結界と同じもんやったんか?

千狐
そうね……効果だけ見れば類似するものと見て間違いないわ……。

千狐
けど、関ヶ原のものほど強力な結界というわけでもないの。

やくも
なら、千狐の術で結界を解除できないかや?

千狐
そうしたいけど……さすがに千狐の力だけでは、
あの結界を解除することは出来ないわ……。

柳川城
何か、結界を解く方法はないのでしょうか?

千狐
たぶん、ですが……。

千狐
武蔵や相模に縁のある城娘の補助があれば、
その土地の気を利用することで、或いは……。

千代城
といっても、肝心の武蔵に入ることができぬ故、
都合良くそのような者が現れる可能性も低い……。

千代城
代替案として、こうして安房の名高き霊域に来ることで、
千狐の力を高めようと足を運んで来たわけだが……

千狐
…………。

千代城
今の千狐の霊力を見るに、
依然として結界を打ち破るには足りぬようじゃな。

千狐
すみません……こればかりは、千狐の修行不足と言わざるを得ないです……。

飛山城
じゃあよ、武蔵から相模への進行が無理なら、
こっから海路で伊豆に向かって、そのまま北進するってのはどうだ?

千代城
伊豆、か……。

千代城
悪い考えではないが、千狐曰く、
結界は相模南部にまで張られているらしいからのぉ……。

千代城
恐らくは、武蔵と同じように足止めをくらうだけじゃろう。

馬場城
それに、結界を張って警戒しているくらいですから、
伊豆への海路上に大量の海洋型兜が待ち構えている可能性も高いです……。

大多喜城
となると、船上で殿を守り切るのは至難、というわけか……。

小田喜城
やはり、海路での進行も止めておいた方がいいですね……。

飛山城
そ、そうか……。

飛山城
くそっ……いったい、どうしたらいいんだ?
このまま此の地で足止めなんて冗談じゃね――

飛山城
――っ!?

馬場城
ど、どうしたのですか、飛山城さん?

飛山城
笛だ……。

馬場城
……え?

飛山城
ほら、聞こえないか?
笛の音だよ…………。

小田喜城
…………ほ、本当だ。

小田喜城
大多喜城ちゃん、向こうの方から笛の音が聞こえるよ!

大多喜城
不思議な音色ですな……。

大多喜城
どこか我らを誘おうとするかのような……そんな奏でにも聞こえます。

飛山城
方角からして、向こうの神社から響いているようだが……どうする?

殿
…………!

柳川城
分かりました。
それでは音のする方へ参りましょう、殿!

そうして森を抜け、境内へと入った殿一行は、
其処で見知らぬ少女の姿を目の当たりにする。

???
…………。

飛山城
(な、何だこいつ……どうしてこんな場所で笛なんか吹いてやがるんだ?)

馬場城
(神社の方かもしれません……声をかけてみますか?)

???
…………。

???
…………。

飛山城
――っ!?
(笛の音が、止まった……!)

???
……ふふ、そう怯えずともよい。
この笛は目印ならぬ音の印……。

???
汝らを招くための奏でだったのじゃからな。

飛山城
あたいらを招くため……だと?

小田喜城
……あ、あれ?
ねえ大多喜城ちゃん……あの人って、もしかして……?

大多喜城
ええ、間違いありません……。
何処かで耳にした音色だと思えば、まさか滝山城の笛だったとはな。

滝山城
ふふ、小田喜城に大多喜城。
……息災で何よりじゃ。

馬場城
あ、あの……大多喜城さんたちは、
彼女をご存知なのですか?

大多喜城
ああ……あの方は滝山城。
関東・東海においてその名を知らぬものはいないほどの城娘だ。

小田喜城
えっと、たしか千代城さんとも面識があったはずですが……。

千代城
――なっ!? こ、これっ! 
わらわに話を振るでない、小田喜城よ……!

滝山城
ふふ、どうしてわしから距離を取るのだ、千代城……、

滝山城
――いやさ、千代ちゃん!

千代城
千代ちゃん言うな――!!

千代城
と昔から何度も言っておるというのに……おぬしという奴は……っ!

滝山城
ふふっ、その反応も実に懐かしいな。

千代城
……まったく、相変わらずやりづらい城娘じゃ。

大多喜城
それよりも其方、どうしてこのような場所にいるのだ?

大多喜城
おぬしは武蔵国の城娘……てっきり、武蔵に張られた結界の中で
武も智も奪われ、兜らに捕らわれているものとばかり思っていたが、

大多喜城
……まさか、武蔵を見捨てて、
独り、此の地に逃げて来たわけではあるまいな?

滝山城
馬鹿を言え……わしも他の城娘の例に漏れず、
己が地を守らんと奮闘したさ……。

滝山城
だが現在、相模に居座る巨大兜に敗れてしまってな……。

滝山城
城娘の魂を奪われ、力も記憶も失うとばかり思っていたのだが、

滝山城
巨大兜め……わしを此処に放逐し、
軟禁することで善しとしてしまったのじゃ。

大多喜城
……どういうことだ?
いったい巨大兜は何を考えてそのような処置を?

滝山城
さてね。兜の思考など知ったことではないが……。

滝山城
ただ、巨大兜が悪用している魂自体が、
わしに情けをかけたと仮定すれば、相応の理はえられるじゃろうて。

大多喜城
……其方に情を向けた、か。

大多喜城
なるほど……其方に対する一連の処置と、
巨大兜が相模に居座っているという点を考慮すれば、
悪用している魂の由来に、それなりの見当がつけられるというもの……。

飛山城
――ちょ、ちょっと待てよ!
さっきから勝手に話を進めやがって、
こっちは完全に話題から置いてけぼりくらってる状態だぞ!

やくも
そうだに!
うちなんかもう、途中からほとんど話を聞いてなかったがや!!

馬場城
やくもさん、それはさすがに正直すぎでは……。

殿
…………!

滝山城
なるほど、汝が殿か……。
噂は聞き及んでおりますぞ。

滝山城
出来れば、ゆっくりと互いのことを語り合いたいものですが、
今は少々時が足らぬようじゃ……。

馬場城
ど、どういうことですか?

滝山城
先に言ったじゃろ?
わしは、軟禁されていると……。

滝山城
つまり……わしに接近する者あらば――


――ザザッ!

兜軍団
――ザザッ、ザザザッ!!

滝山城
……ご覧の通り、
警備にあたっている兜らが集まってくるといった仕組みじゃ。

やくも
そういうことは早く言うだにぃー!

柳川城
殿、すぐに戦いの準備をっ!!

殿
…………!

滝山城
さぁ、殿……汝の力を示しておくれ。

滝山城
汝が、真に巨大兜を討つに足る者かどうか、
僭越ながら、この滝山城が見定めるために……な。

飛山城
っち、偉そうにしやがって……!

飛山城
まぁ、いい。此処であたいらの力を……。
殿ヘの忠義ってもんを証明してみせらぁ!

飛山城
いくよ、みんなっ!!
あの高慢ちきな城娘に、あたいらの実力を見せてやろうじゃないの!

後半
滝山城

うむ……聞きしに勝る武勇じゃな。
これが、人の希望たる殿の力というわけか……。

飛山城
何が人の希望たる、だ!

飛山城
試すような真似をしといて偉そうに……!

滝山城
そう怒らないでくれ。
汝らには悪いことをしたと思っておる。

滝山城
だが、兜に監視されているこの状態から
抜け出すことが出来ずにいたのは事実なのじゃ。

飛山城
その割には、呑気に笛吹いていたじゃねえか!

滝山城
あれは、汝らの侵入を兜に気づかせぬための奏でじゃ。

馬場城
……侵入を兜に気づかせないため?

滝山城
ああ……先刻のは、我が清浄なる奏でと、
此処ら一帯の地気を利用した高度な術……。

滝山城
だから、笛の腕前を汝らにひけらかそうなどとは、
少ししか考えていなかったのじゃ。

飛山城
少しは考えてたのかよ!

飛山城
ったく、巫山戯た城娘だぜ……。
こっちは命張って殿のために戦ってたってのによ。

滝山城
殿のために命を張って……か。

滝山城
うむ、それだけ飛山城は殿を慕っておるのじゃな。

飛山城
――なっ!?
ば、バカ、違ぇよ! あたいは別に殿のことなんて……。

殿
…………。

飛山城
い、いや……殿が嫌いって意味じゃなくてだな!!

殿
…………。

飛山城
……というか、むしろあたいは、
殿のこと……かなり好きっていうか……。

柳川城
(どさくさにまぎれての告白……っ!?)

柳川城
(あ、ああいうのも……アリなのですね……)

殿
…………!

飛山城
――あぁもうっ! そんなのはどうでもいいからっ!
今はこれからどうするかを話し合わなきゃだろ!!

飛山城
ほら、千狐! さっきあんたが言ってた、
武蔵や相模に縁のある者ってのは、
まさにこの滝山城なんじゃねーのか!?

千狐
そ、そういえば……っ!

千狐
え、えっと、滝山城さん!
実は千狐たちは――

滝山城
――皆まで言うな、千狐よ。

千狐
……え?

滝山城
軟禁状態にあったと言えど、
此の地で無為な時を過ごしていたわけではない。

滝山城
汝らが兜の張った結界の解除手段を探していることは、
関東一帯の現状を考慮すれば容易に想像できる……。

滝山城
だからこそ、わしは相応の準備をして待っていたのじゃ。

飛山城
なんだよ、随分と話が早いじゃないか。
ま、偉そうにしてるだけのことはあるってとこだな。

馬場城
もしかしたら、あの笛の不思議な音色で
ぱりぱりーんっと結界を打ち破ってくれるのでしょうか?

滝山城
ふふっ……面白き想像力じゃな、馬場城よ。

滝山城
だが、いかにわしと言えど、
そう簡単にあの結界を破ることはできんよ。

馬場城
え……じゃ、じゃあどうするのですか?

滝山城
簡単なことじゃ、わしの力でも足りぬというのならば……、

滝山城
もうひとり、助っ人を仲間に引き込むまでじゃ!

馬場城
……す、助っ人?

滝山城
ああ、そうじゃ!

滝山城
そして、その助っ人は……。

滝山城
伊豆にいる!!

飛山城
伊豆……? 何でそんなところに、
仲間になってくれそうな城娘がいるって分かるんだよ?

滝山城
単純なことじゃ。
わしを監視していた兜たちが話していたのを耳にしたからの。

滝山城
そう……神聖なる歌舞の技を操る
城娘を伊豆にて捕らえている……とな。

馬場城
神聖なる歌舞の技――!?

飛山城
……でもよ、あたいらの仲間の中にも、
既に歌舞の技を使えるやつはいるぜ?

滝山城
それは分かっておる……。

滝山城
しかし、武蔵・相模に張られている結界は強固ゆえ……、
万全を期すためには、可能な限り高度な技量を
有した歌舞の使い手が必要なのじゃ。

馬場城
で、ですが……伊豆にいるという城娘の力が、
結界を解くに足る技量の持ち主だという保証はあるのでしょうか?

滝山城
巨大兜がわざわざ軟禁に処していることを思えば、
その城娘が如何に強大な歌舞の力を有しているかは想像に難くない。

大多喜城
……捕らわれる者には、捕らわれるだけの価値があるということ、か。

滝山城
故に、その者の歌舞とわしの笛、そして神娘の霊力があれば
武蔵・相模に張られた結界を解くことが、きっと出来るはずじゃ。

飛山城
……けど、こっから伊豆にどうやって行くつもりだ?
海路は――

滝山城
――既に海洋型の兜が大量に溢れ、
我ら城娘への警戒をしている……それくらいは誰でも分かることじゃ。

飛山城
……うっ。
(あたいは分からなかったってのに……)

滝山城
案ずるな、飛山城よ……きちんと策は用意してある。

滝山城
ということで神娘……ではなくて、千狐よ。
ちょいと手を出してはもらえぬかな?

千狐
……え? て、手ですか?

滝山城
いやか……?

千狐
べ、別に、構いませんが……。

滝山城
うむ、すまぬな……っと、どれどれ……。

滝山城
おぉ、これは……!

滝山城
思いのほかすべすべとした小さな手じゃのう♪

千狐
……あ、あの。
千狐の手に頬ずりするのが目的だったのでしょうか?

滝山城
おっと、失礼。
肌触りが陶磁器のように滑らかだったものでついな。

滝山城
あ、言い忘れていたが、わしは陶磁器集めが趣味でな……。

飛山城
んなこと聞いてねーから、さっさと本題に入れっての!!

滝山城
冗談じゃ冗談……あまり怒らんでくれ。

滝山城
で、千狐よ……。
風説によれば汝は転移術が使えるそうじゃな?

千狐
は、はい……!

滝山城
ならばわしの記憶と霊力を媒(なかだち)とし、
伊豆の地へと転移することは可能じゃろうか?

千狐
そ、それは…………。

千狐
大部分が滝山城さんの内包する記憶と霊力に依りますが、
理論上は可能だと思いますわ。

やくも
――えっ!?
そげな凄いことができーがや?

千狐
何言ってるのよ、やくも……。

千狐
貴方は前に体験してるはずよ。

やくも
……だに?

千狐
ほら、前に『紀伊』で妖怪に出会した時、
緊急的に時空転移術を使ったことがあるでしょ?

千狐
あの時、千狐たちが辿り着いたのは何処だったかしら?

やくも
……出雲がや。

やくも
――だにっ!? そ、そうかや! 
あの時と同じように、目的地に関係する者が近くにいれば…………。

千狐
そういうことよ、やくも。

千狐
あとは、滝山城さんの記憶と霊力が、
どれだけ伊豆の地に関連するかが鍵となりますわ。

滝山城
ふふっ……責任重大、といったところじゃな。

滝山城
では、全力を以て期待に応えてみせよう! 行くぞ、千狐よ! 
わしと汝で、殿を伊豆へと導くのじゃ!

千狐
――コンッ! それでは参ります! 
秘技、時空……転移術なのーーーっ!!

――数刻後・相模国某所。

???
やれやれ……滝山城。
ヤハリ、殿と共に歩むコトに決めてしまったか……。

???
城娘としての力を奪ワズニいた理由を解しながら……尚も、牙を剥くとは……。

???
……面倒ダ……。

???
生かすのも、殺すのも……ただヒタスラに、面倒だ……。

???
…………面倒ダぁ~。
で、片付けラレル時点は疾うに過ぎてシマッタんじゃないですかねぇ?

???
――ッ!?
貴様、イツの間に我が領内に忍び込んダ……?

???
おやおやおやおや~っ?
アナタともあろう御方が、気づかないトハ……。

???
この腑抜け具合……ヤハリ、信長様が仰っていたことは、
本当だったようですなぁ……ククク。

???
……ソウカ、貴様……織田の麾下の者というわけか……。

???
ご明察……マァ、ちょいと事態の確認をシニキタだけですんで、
そう警戒しないでクレマスカネ……?

???
…………。

???
(ハァ……これはまた、面倒なことになってきたものだ……)

第36話 砂上滑走 ~伊豆~[]

滝山城の助力のもと伊豆へと辿り着いた殿一行。
しかし、安堵したのも束の間、眼前には付近の
砂丘利用して強襲せんとする兜の姿があった……。

前半
――伊豆国最南端・某海岸。
其処には、ひとりの少女と大量の兜の姿が在った。

???
ハァ……ハァ…………あ、あの……兜の皆さん……。
ま、まだ……満足しては……いただけないのですか?

古桃形兜
……ア? サッキ始メタバッカダロウガッ!
ソレトモナニカ? モウ疲レタナンテ言ワネェダロウナ?

???
だ、だって……もう、何回も砂丘を往復してますし……。
この通り……私、もう……あ、足だって、がくがくで……。

鯰尾形兜
ンナコト言ワレテモ、コッチハ全然ヤリ足リネーンダ!
オラァッ、分カッタラ、ンナ所ニヘタリ込ンデナイデ、サッサト準備シロ!

???
は、はい…………うぅぅ……。

力なく頷きながら少女は沢山の橇(そり)を抱えながら、
兜と共に海岸付近に存在する背の高い砂丘を上っていく。

???
ハァ……ハァ……や、やっと……頂上に、着いた……うっ、ぅぅ……。

釘形兜
フフッ……ヤハリ此処カラノ眺メハ格別ダッ!!

釘形兜
ヨシ、ソレジャア皆、橇ニ乗レッ!
コッカラ滑リ降リテ、一番遠クマデ行ケタ奴ニハ褒美ヲヤルゾ!

兜軍団
褒美ッ! 褒美ッ!!

???
あ、あの……兜の皆さん……、
ちゃんと、橇には乗りましたか?
そろそろ……手を放したいのですが……?

突撃式トッパイ形兜
バカヤロウ! 
マダ桃形ガ準備シテル最中デショウガッ!!

兜軍団
準備中……準備中……。

???
――ひぅっ!?
す、すみません……お願いですから、ぶたないで……っ。

鯰尾形兜
ッタク……オマエ、ホント謝ッテバッカリダナ。
白ケルカラ、ソウイウ態度ヤメロヨ!

???
ご、ごめんなさい……。

鯰尾形兜
ダカラ謝ンナッテ言ッテンダヨ!
オチョクッテンノカァッ!!

???
そ、そんなつもりは……ない、です……うぅぅ……ぐすっ……。

砲撃式トッパイ形兜
ナニ泣カシテルンダ……。
我々ハ主ヨリ此奴ノ監視ヲ命ジラレテイルトイウノニ……。

鯰尾形兜
軟禁ノタメノ監視ダロ?
別ニ泣カスナナンテ命令ハ受ケテネーシ。

鯰尾形兜
テカ、早ク滑ロウゼ?
コンナ泣キ虫ノ城娘ノ相手ナンカシタクネーンダヨ!

古桃形兜
ニシテモ、オマエ良クコンナ遊ビ思イツイタヨナ!
巨大ナ砂丘ヲ利用シテ橇遊ビスルナンテ聞イタコトナイゼ!

鯰尾形兜
砂丘……滑走距離……目算二三〇〇寸……
幅ハ三三〇〇寸……傾斜ハ……凡ソ三〇度……テトコカ……。

鯰尾形兜
ソンナ巨大ナ砂丘ヲ橇ニ乗ッテ滑リ降リルナンテノハ
確カニ人間ノ頭ジャ発想デキネェ遊ビダロウヨ!!

鯰尾形兜
ヨーシ城娘ェ! ソロソロ手ヲ放シテイイゾ!

???
はい…………。

少女が手を放すと、兜たちを乗せた橇は、
勢いよく砂丘を下り滑っていった。

古桃形兜
――ヒャッフゥゥゥッ!!

兜軍団
滑走ッ! 滑走ッ!! 滑走ッ!!!

???
……はぁ。
(いったい、いつまでこのようなことに付き合わされるのでしょうか?)

???
(私は……佐竹の名を冠する巨大兜の出現を識り、
矢留ノ城さまに内緒で……出羽から関東へと向かったというのに)

???
(下総にて兜らに捕らえられ……まさか、
このような場所で軟禁されるなんて……)

???
(それに……久しぶりに屋外に連れ出されたかと思えば……、
……このような訳の分からぬ遊びに付き合わされるなんて……)

???
矢留ノ城さま……私は、一体どうしたら……。

そう、力なく呟く少女は己が悲運に涙しかける。

だが、その視線の先――兜たちが橇に乗って砂丘を滑り降りていく先で、
突如として清浄な光の渦が宙に生じた。

???
あ、あの光は……まさか、時空転移術の煌めき!?

???
そんな……いったい誰が此の地に!?

千狐
――殿! 転移術は成功ですわ!
無事に伊豆に到着できたようです!

やくも
だにぃ~♪ 此処が伊豆の海かや!?
上総の海とはまた違った――

やくも
――って、うわぁぁあぁぁぁぁあっ!?
と、殿さん! 砂丘から兜さんたちが向かってくるだにぃ!!

鯰尾形兜
ヌォォォォオオッ!?
ドウシテ、コンナ所ニ殿タチガァッ!?

古桃形兜
ヨ、ヨク分カラナイガ、コレゾ好機ッ!!
コノママ橇ゴト体当タリシテ殿タチヲ倒シチマオウゼッ!!

兜軍団
突撃ッ! 突撃ィッ! 突撃ィィ――ッ!!

滝山城
ほぉ……あの急勾配の砂丘を利用して
橇遊びをしていたとは、兜もなかなか智恵が回る。

滝山城
今度、暇があればわしもやってみるとするかの♪

馬場城
な、何を呑気なこと言ってるのですか~っ!!
このままでは殿の身が――

滝山城
――ふふっ、案ずるでない馬場城!
橇の進行方向をずらせば良いだけの話じゃ!

滝山城
はぁーーっ!!

滝山城の撃ち出した矢が的確に
兜たちを乗せた橇に的中していく。

突撃式トッパイ形兜
――ヌガァッ!?
俺タチノ、橇ニ何テコトヲッ――ウギャァァァアァッ!!

やくも
おぉぉ! 兜さんたち、みーんな橇から落ちて
面白いように砂丘を転がっていくだにぃ~っ!

古桃形兜
ペッペッ……ウゥ、口ン中ニ……砂ガッ……ペッペッ……。

鯰尾形兜
チ、チクショウ……急ニ現レタカト思エバ……、
俺タチノ邪魔ヲシテ……許セネェ!!

???
…………。

???
す、すごい……あの城娘たち……兜たちを翻弄している……。

殿
…………。

矢留ノ城
と、殿……もう少し、お下がりください……。
……こ、此処は、我々城娘に…………。

???
――っ!?

???
あ、れは……あの御方は……っ!?

???
矢留ノ城さま!!

矢留ノ城
……あ、れ?
く、久保田城ちゃん……?

矢留ノ城
そ、そんな……伊豆で軟禁されていた城娘って……、
久保田城ちゃん……だったのですか!?

滝山城
ほう、何じゃ……汝と縁ある城娘なのか。

滝山城
ならばちょうどいい、わしに付いて参れ、矢留ノ城よ!

滝山城
彼女こそ武蔵・相模に張られた結界を打ち破る鍵じゃ!

矢留ノ城
え……あっ、あの……ま、待ってください……まだ、心の準備がぁっ!?

馬場城
はわわっ……や、矢留ノ城さんが……!
滝山城さんに引きずられながら兜の方へ連れて行かれてますぅ!!

飛山城
お、おい……あいつ、あんまり前線に出るような城娘じゃないよな……?

小田喜城
あ、あれじゃ矢留ノ城ちゃんが討ち取られちゃうんじゃ……。

大多喜城
ならば、急ぎ我らも参りましょう、小田喜城さま!

小田喜城
うん! 大多喜城ちゃんがいてくれれば、きっと兜を一掃できるはずだよ!

大多喜城
ええ、我らが力をとくと兜に知らしめてやりましょうぞ!
さぁ――いざ出陣なりっ!

後半
久保田城

皆さん……危ないところを助けていただき心より感謝いたします。

久保田城
それに、矢留ノ城さまと、
このような場所で再会できるとは、
夢にも思っていませんでした……。

矢留ノ城
わ、私もびっくりしてます……。
でも……久保田城ちゃんが無事で……本当に、よかった……。

矢留ノ城
けど……どうして、こんなところに?

矢留ノ城
私……久保田城ちゃんは、
てっきり、出羽国にいるとばかり思ってたのに……。

久保田城
申し訳ありません。
実は……私は佐竹の名を冠する巨大兜の討伐のため、
関東へと単身で向かっていたのですが……。

久保田城
その途中で、佐竹とは異なる名を冠する巨大兜に出会し――

滝山城
――わしと同じ様に兜らに軟禁されていたというわけか。

久保田城
……同じ様に?
あ、あの……どういうことなのでしょうか……?

滝山城
それがな…………――――。

滝山城から事の経緯を聞かされた久保田城は、
軟禁されていた間に外界で起こっていたこと知り、驚愕する。

久保田城
そ、そのような事態になっていたとは……。

久保田城
分かりました。助けていただいた恩を返すためにも、
武蔵・相模に張られた結界解除のお手伝いをさせてください。

やくも
本当かや!?
あんたがいれば、あの結界を解くことが出来るんやね!?

久保田城
はい……千狐さんと滝山城さんのお力に、
私の歌と舞を合わせれば、きっと打ち破ることができるでしょう。

飛山城
そうか……これで、
ようやく目的の地に向かうことができるんだな!

飛山城
……ん? でも、ちょっと待てよ?

飛山城
安房でも同じようなこと言ったかもしれないけどさ、
武蔵に行かずにこのまま北上して国境の結界を解いちまえば、
相模に直行できんじゃねーのか?

滝山城
それも可能じゃろうが、あまり薦めることはできんな。

飛山城
どうしてさ?

滝山城
それは……。

滝山城
武蔵国にも、わしや久保田城と同じく、捕らわれた城娘がいるからじゃ。

滝山城
このまま相模に攻め入って戦いを繰り広げたとして、
その最中に、武蔵にいる城娘を人質にでもされたら、
わしらの行動は大きく制限され……

久保田城
……最悪、全滅する可能性もある……ということですね。

飛山城
なるほどな……。

飛山城
なら、千狐の転移術で一度、下総に戻って、
そっから結界の解除を行った後、武蔵に殴り込むとしようぜ!

殿
…………!

柳川城
殿……。

柳川城
いよいよ、相模に存する巨大兜の元へと向かう算段がつきましたね。

殿
…………!

柳川城
はい、必ずや戦いに勝利し、
兜たちから武蔵・相模の地を取り返しましょう!

滝山城
とはいえ、此処に来るまで少々急ぎすぎたからな。
暫し休憩するとしようか。

滝山城
それに、兜がやっていた橇遊びもやってみたいしのぉ♪

大多喜城
滝山城よ……このような状況で何を言っておる?

大多喜城
思い立ったが吉日――道が開けたのならば前進あるのみだ!

滝山城
……汝の方こそ、何を言っておるのじゃ?

滝山城
少しは周りを見よ。疲労しておる城娘ばかりではないか。

大多喜城
周り? 疲労……?

大多喜城
――って、こ、これは……っ!?

馬場城
……あ、あの……すみません……。
先刻の戦いで……私、派手にやられてしまって……。

大高坂山城
さっきの兜たち……けっこう暴れん坊だったからね……。
まさか、此処までやられるとは思わなかったわ……うぅぅ。

備中高松城
お、同じくなのですぅ……殿ぉ、ごめんなさいですぅ……。

殿
…………。

殿
…………!

小田喜城
は、はい……心配してくださり、ありがとうございます……。
少し休めば、この程度の怪我……すぐに回復しますから……。

大多喜城
小田喜城さままで――!?

大多喜城
くっ……このようなことに気づけぬとは……。
我は……なんと盲目になっていたのであろう……。

滝山城
戦にて苛烈なる闘志を燃やすのが悪いとは言わぬが、
汝は些か仲間と共に行動するという意識が希薄なようじゃ。

滝山城
余裕無き武は味方にとっては諸刃にもなりえる……。
汝も少しは心にゆとりを持つことだ。

滝山城
まぁ、新参者のわしが偉そうに斯様なことを言うのは
ちと気に食わぬかもしれぬが、助言として受け取ってもらえると嬉しい。

大多喜城
う、うむ……忠告、痛み入る……。

大多喜城
だが、実際問題、本当に急がなくて大丈夫なのか?

大多喜城
兜たちがこちらの動きを察知し、過激な行動に出ることだって考えられるぞ?

滝山城
それに関しては心配いらぬ。

大多喜城
やけに自信があるようだが……その根拠は?

滝山城
それは……。

滝山城
相模にいる巨大兜が悪用している魂に由来する。

滝山城
何故なら……ヤツが悪用している魂の名は、北条――――

――数刻後・相模某所。

???
…………。

???
……さーてさてさてさてぇ……氏康殿ぉ。
気づけば伊豆に封じてオイタ城娘マデも奪われてしまいましたなぁ。

北条氏康
……みたいダナ。

???
みたいだなッテ……ハハッ、こりゃまた随分と余裕ですなぁ。

???
モシカシテ此の事態すらも想定内だったんですかい?

北条氏康
……だとしたら、何ダト言うのだ?

???
う~ん、ソーデスねぇ……。

???
すかしてねぇでサッサト戦う準備ぐらいしたらドーナンダよ、氏康ゥ?
と、口悪く忠告するってとこですかね?

北条氏康
……貴様。

???
フフッ……ちょいと言葉は変えマシタが、
概ね今のような内容が我が主――信長様からノお達しでしてね。

???
北条殿ノ戦い如何デ今後の計画が変わるとのことでさぁ。

北条氏康
……知ったコトか。
貴様らの計画ナド……俺には一切関係がない。

北条氏康
私は此の地を守るのみ……ソレを阻害するというのナラ……。

???
っとと、拙者に凄まれテモ無意味デスぜ?
自分はあくまで伝令……物思わぬ巨大兜でさ。

北条氏康
主がいる間は……ダロ?

???
さぁて……ドウデショウネ?

???
まぁ……現なる此刻が歴史の繰返しを望むというのナラバ、
コノ身に宿る魂に従い、狂い散らかすコトもまた善し……ですがぁ、

???
生憎、本来ノ拙者は
誰かの下にツイテ草履を暖めてるくらいが丁度良いんでさ。

北条氏康
黙れ……空言ナド煩わしいダケだ。

北条氏康
貴様の面はもう飽いタ……とっとと失セロ、猿。

???
オォ、怖い怖い……。

???
ですが、戦い自体を避けるなんてのは止してくださいよ?
アンタが利用してる魂は……よく分からないが、やけに穏やかに過ぎる。

???
……今のアンタは大部分を北条氏康として駆動してるが、
全て、というワケじゃァぁない……コレ、かなーり重要。

北条氏康
…………。

???
図星か、それとも予見がモタラス諦念か……まぁ、どちらでもエエですがね。

???
それじゃ、拙者はコレで……。
アンタも……貰い受けた魂にあんまり影響されすぎないコトですぜ……ククク。

北条氏康
…………。

北条氏康
……ヨウヤク、行ったカ。
吐き気のするほどの饒舌なる魂だ……。

北条氏康
ああいう手合いは疲レル……。
柄にもナク、気張ラネバいかぬからな……。

北条氏康
……サテ、信長が動かんとシテイル今……私は、どうするべきか……。

北条氏康
時ヲ進めるべきか……ソレトモ、戻すべきか……。

北条氏康
いや、ソモソモ……壊し尽くすコトも……我が選択肢には含まれてはいる……。

北条氏康
……ハァ……。
いずれにせよ…………。

北条氏康
此の世は……面倒なコトばかりだ……。

第37話 結界解除 ~武蔵~[]

伊豆国にて久保田城を救出した殿一行は、
ついに下総・武蔵の国境に張られた
結界の前に立ち、その解除を試みる。

前半
――下総・武蔵の国境。

兜らによる軟禁から久保田城を救助した殿一行は、
武蔵へ向かうべく、今まさに結界の解除に臨んでいた。

殿
…………。

久保田城
それでは滝山城さん、千狐さん……準備はよろしいでしょうか?

千狐
はい! いつでもいけますわ!

滝山城
こちらも準備万全じゃ。

久保田城
なれば、我が舞を契機とし、お二人の霊気と奏を此の地にお響かせください!

久保田城
では――参りますっ!!

千狐
――コンっ!

滝山城
…………!

久保田城の舞と共に、千狐と滝山城も精神を研ぎ澄ませ、結界を破らんと試みる。

…………が。

久保田城
そ、そんな……!?

千狐
どうして……結界が破れないの……!?

滝山城
むぅ…………。

滝山城
…………これは、ちとマズいな。

馬場城
ど、どういうことですか?

滝山城
兜らによる結界の強度が、先日よりも僅かにだが増しておる。
恐らくは、わしや久保田城の解放を知った巨大兜による仕業じゃろう。

滝山城
くっ……あと一手ほどの僅かな力の後押しさえあれば、
この結界を破れるというのに……何とも歯痒い話じゃ……。

飛山城
なぁ……あたいら城娘の霊力を足しにするってんじゃだめなのか?

滝山城
その心意気は嬉しいが、
純粋な霊力の付加だけでは結界を解除することは出来ぬ。

滝山城
兜の結界――その、邪なるモノによって定められた領域の外殻を砕くとは、
舞や奏による聖なる力を以て中和と成し、破壊へと導く手段ゆえ……、

滝山城
目の前の結界を解除するには、
神聖なる力の保持者の助力でなくては意味がないのじゃ。

やくも
神聖なる力の保持者……。

やくも
……って、そんな凄い力を持った助っ人なんて、
そうそういるはず無いけん、どっから連れてくればいいがや?

滝山城
うぅむ……正にやくもの言うとおりなのじゃ……。

滝山城
……って、あれ?

やくも
だに……?

滝山城
…………。

やくも
…………?

滝山城
――おおっ!? うっかりしておったわ!!
そういえば汝も千狐と同じく神娘じゃったな!

やくも
そ、それがどうかしちょーがや?

千狐
――ま、まさか滝山城さん!?

千狐
やくもの力を足すと言うのですか?

滝山城
そうじゃ! やくもの力は汝のように強くないとはいえ、
神娘としての聖なる力を保持しておるのは間違いない!

滝山城
それに言ったじゃろ?
あと一手……本当に微々たる力の追加だけで結界は破れる、と。

滝山城
故に、助っ人が強大な力の持ち主である必要は皆無じゃ!

滝山城
――ということで、やくもよ!
我等三人が立っている場所の中央に来るのじゃ。

やくも
……そ、それはいいんやけど、
うちは其所に立っていったい何したらいいがや?

滝山城
ふむ……特に何もしなくてもいいが、
汝だけ徒手空拳というのも格好がつかぬのぉ。

滝山城
然らば、やくもよ!
汝のその愛用のトンカチを持ち、それらしく構えてみせるのじゃ!

やくも
だに! 何だかよく分からんけど、
うちも神娘の端くれ……精一杯がんばるけん、任しときぃ!!

飛山城
お、おい……やくもまで急に引っ張り出して
トンカチ持たせるとか……本当に大丈夫なのか?

飛山城
言っちゃ悪いが、滝山城のやつが段々と胡散臭く見えてきたぞ……?

大多喜城
だが、今の我らには信じる以外の手立てなど無い。

小田喜城
だから今は見守りましょう、飛山城さん!
滝山城さんの叡智と、久保田城さんの舞――

馬場城
――そして千狐さんとやくもさんの力を!

久保田城
では、再び結界解除の儀に入ります!

久保田城
――はぁっ!!

千狐
やくも! 精神を集中させなさい!

やくも
分かってるだにぃ!!

滝山城
――――っ!

そうして、四人の力が一つとなり、聖なる力が最高潮に達した時――。

殿
…………っ!?

千狐
こ、これは……!

やくも
結界が……消えていくだに!!

滝山城
…………。

滝山城
ふふ……。

滝山城
どうやら成功のようじゃな! 皆、よく頑張ったのじゃ!

久保田城
はぁ……はぁ……よ、良かった……。

久保田城
これで、何とか恩義に報いる……こと、が……うっ、ぅぅ…………。

飛山城
――おい! 大丈夫かい、久保田城!
急に倒れたりなんかして……おい、しっかりしなよ!

馬場城
飛山城さん、無理に揺すったりしてはいけません!

馬場城
どうやら先ほどの舞で、かなりの力を消耗してしまったようです。

飛山城
力を消耗って……本当に大丈夫なのかい?

久保田城
も、申し訳ありません……自らの未熟さによって、心配をかけてしまって……。

飛山城
謝るのはあたいらの方さ。
兜たちに長いこと捕まってたあんたに無理させちまったんだからね。

飛山城
ほら、こっちに身体を寄せな。
回復するまではあたいがおぶってやるよ。

久保田城
……そ、そんな……悪いですよ。
私、意外とおも――って、きゃぁっ!?

飛山城
へへ、気にするなって。見た目よりもずっと軽いさ。
これくらいなら、あんたを背負いながらだって戦えるぜ。

久保田城
で、では……お言葉に甘えて……その……よろしくお願いします……。

小田喜城
あの……結界解除に携わった
滝山城さんや千狐さんたちは、大丈夫なのですか?

千狐
はい、千狐の方は行軍に支障はありませんわ!

やくも
うちだって、まだまだやれるだに!

滝山城
ああ、こちらも問題はないのじゃ!

滝山城
武蔵国には、わしの同郷である本庄城が捕らえられておる故、
兜らに結界の解除を知られる前に、急ぎ救出しにいくのじゃ、殿!

殿
…………!

――武蔵国。

本庄城
はぁ……。

本庄城
(此の地に軟禁されてから、どれくらいの時が経ったのでしょうか……)

本庄城
(滝山城さんは安房へと連れて行かれ……外からの情報は殆ど入ってこない)

本庄城
(北条の名を冠する、あの巨大兜は私の力を奪ったとはいえ、
それ以上痛めつけるわけでもなく、此処に閉じ込めるだけ……)

本庄城
(外界では今なお人々が兜によって苦しめられているというのに、
この地は妙に穏やかで……そうした差異が、己が危機意識を低下させていく……)

本庄城
(満たされることはなくとも、餓えることはない……恐らく、
精神の緩やかな死を、あの巨大兜は謀っているのでしょう……)

本庄城
(それを分かっていながら……私は抗う術も意思も……持つことができない……)

本庄城
(現状を維持するために……兜に取り入ることしかできない自分が、情けない……)

本庄城
(誰か…………助けて…………)

桃形兜
……ン? ドウシタンダ、本庄城?

本庄城
……え?

本庄城
あ……す、すみません……あの、お茶が入りましたので、
警備の方は休憩して……え、えっと……茶菓子でも食べませんか?

桃形兜
エッ!? 茶菓子ダッテ!? 貰ッテモイイノカ?

古桃形兜
馬鹿ッ! 自分ラハ本庄城ヲ軟禁シテル立場ナンダゾ!
見張ル対象ト和ヤカニ休憩ナンカシテドウスル!

古桃形兜
大体ナ、コウイウ無害ソウナ顔シテル城娘ガ一番恐ロシインダ。

桃形兜
……ト、言ウト?

古桃形兜
アノ茶菓子ニハ毒ガ入ッテル! 間違イナイ!

桃形兜
……ド、毒ッ!?

古桃形兜
一口デモ食ベレバ、二度ト戦エナイ身体ニナル!
寝タキリ兜ダゾ! ソレデモイイノカ!?

桃形兜
ナ、ナンダッテェェッ!?

桃形兜
クッソォ……本庄城メェ!
ニコニコ笑顔デ、ボクヲ騙スナンテ! 何テ城娘ダ!

本庄城
え!? ええっ!?
そ、そんな……私、別にそんなつもりは……。

本庄城
ぐすっ……うぅぅ……毒なんて、入れてないのに……ぅぅ……。

古桃形兜
…………。

桃形兜
…………。

桃形兜
(ネ、ネェ……本気泣キシテナイ?)

古桃形兜
(オマエノセイダロ? 何トカシロヨ!)

桃形兜
(エエッ! ボクノセイナノッ!?)

桃形兜
ジャ、ジャア……少シダケ、御茶……モラオウカナ?

本庄城
……え?

古桃形兜
ホラ、気ガ変ワラナイウチニ、早ク寄越セッテ!

本庄城
は、はい……その、あ、熱いですから……気をつけてくださいね?

そうして、本庄城が湯飲茶碗を手渡そうとした時だった。

兎形兜
――伝令ッ!! 伝令ッ!!
殿タチガ、スグ其所マデ攻メテ来テルゾォ!

古桃形兜
ナニィィィッ!?

本庄城
きゃぁっ――ゆ、湯飲茶碗がぁっ!?

桃形兜
――熱ィィィイイッ!!
茶ガッ!? アツアツノ茶ガ頭ニィィッ!!

古桃形兜
茶グライデ、ガタガタ騒グナ桃形ッ!

古桃形兜
ソレヨリモ、殿タチノ侵入ヲ防イデイタ結界ハドウシタンダ!?

兎形兜
ソレガ……知ラヌ間ニ破ラレテシマッタ様デ……。

古桃形兜
――チッ!
サテハ本庄城! 貴様ガ何カシタンダナ!

桃形兜
激アツノ茶モ、頭カラブッカケテ来タシ……間違イ無イヨ!

本庄城
な、何を言ってるのですか……!
私は……城娘の力を奪われてるのですよ?
結界を破るなんて出来るわけないですよぉ……。

古桃形兜
エ~イ、黙レ黙レェッ!! ヤッパリ大人シソウナ
黒髪オサゲノ眼鏡城娘ナンテ信ジルンジャナカッタ!

兜軍団
腹黒ッ! 腹黒ッ!!

本庄城
そ、そんなぁ……いくら敵とはいえ、酷いですぅ……うぅぅ……。

やくも
――むむっ!?
殿さん、彼処に眼鏡かけた娘さんが兜らに泣かされてるだに!

飛山城
おい、滝山城!
あれが、あんたの言ってた本庄城で間違いないのかい?

滝山城
ああ、彼奴こそ同郷の城娘……本庄城なのじゃ!

滝山城
殿、我々が封印を解除したのは既にバレてしまっておる……!
もたもたしている暇はないぞ! 急ぎ敵を討ち、本庄城を助けに行くのじゃ!

後半
本庄城

た、助けてくださり、ありがとうございます……。
おかげで、ようやく……城娘としての力を取り戻すことができました。

滝山城
うむ……汝が無事で一安心じゃ。
同じ武蔵の城娘として案じておったのじゃぞ。

本庄城
それは、こちらも同じです……滝山城さん。

本庄城
私を庇うために……自ら縁なき地での軟禁を買って出たことで、
さぞお辛い目に遭ったでしょう……本当に、申し訳ありません……。

滝山城
なぁに、気弱な汝を武蔵から離すよりかは幾分もましじゃ。

滝山城
それと一つ疑問なのだが……、
先刻の汝は、何やら兜らに茶菓子を振る舞っていたようじゃが……。

滝山城
もしかして、兜らと親睦を深めておったのか?

本庄城
――み、見られていたのですか!?

本庄城
た、確かに……茶菓子を振る舞おうとしていましたが、
それは……あくまで諦念に基づいた行動です。

本庄城
今となっては異常な思考だと断じることができますが……、

本庄城
先ほどまでの私にとっては、関東の治世が兜によるものだったとしても、
此の地が穏やに、そして、平和なものとなるのなら……、
それらを良しとしてしまう……心の動きを、感じていました……。

飛山城
……兜による治世……だとぉ?

飛山城
おい、あんた何ふざけたこと言ってるんだよ!
これまでの兜の暴虐を肯定しようってのか!?

本庄城
――ひゃぅっ!!

馬場城
ちょ、ちょっと飛山城さん!
本庄城さんの胸ぐら掴んで、もう一方の手で握り拳作っちゃダメですよぉ!

飛山城
け、けどよぉ……。

大多喜城
飛山城、戦いの直後で頭に血が上ってるのは分かるが、
少しは冷静になったらどうだ?

大多喜城
本庄城は、城娘としての力を失い、
長期に渡って此の地に閉じ込められていたのだ。

大多喜城
言動に一貫性と正常さを求めるのは、あまりにも酷と言えよう。

飛山城
い、言われてみれば……確かに、そうだな……。

飛山城
さっきはすまなかった、本庄城。
ついカッとなっちまって……この通りだ。許してくれないか?

本庄城
あ、頭を下げたりなどしないでください……!
……わ、悪いのは私です。
兜の治世を良きものと口にするなんて……どうかしていたのです。

滝山城
…………。

小田喜城
ど、どうしました、滝山城さん?
何やら、考え込んでいるようですが……。

滝山城
いやな……わしを始め、本庄城や久保田城を、北条の名を冠する巨大兜が、
各地で軟禁した理由を、改めて考えていたのじゃ……。

滝山城
わしは……てっきりあの巨大兜が、城娘それぞれの力を封じ、
いざという時には人質として利用するものだとばかり思っていたが……、

滝山城
どうやら、ヤツはそれ以上に恐ろしいことを企んでいたのかもしれぬ……。

柳川城
恐ろしいこととは……い、一体どういうことでしょうか……?

滝山城
巨大兜の本当の狙いは、我ら城娘の精神を摩耗させることにあった……としたら?

柳川城
精神を摩耗させる……!?

滝山城
本庄城が、一時的にとはいえ、
兜による治世を良きものとして認識したのが何よりの証拠だ。

滝山城
長期に渡る軟禁によって、少しずつ戦闘意欲を削ぎ、
身体的な痛みを与えずに、じわじわと心を弱らせる……。

滝山城
そうすることで、瘴気や呪術を使わずに城娘たちの心を管理し、
終には、ただ生きるだけの木偶として腐らせることも考えていたやもしれぬ。

久保田城
……そ、そんな……兜が、そのようなことを……。

滝山城
まぁ、あくまでわしの推論でしかないがな。

飛山城
けど、今となっちゃ、まるっきり可能性のねぇ出鱈目とも思えねぇな……。

小田喜城
身体ではなく……心を屈服させようだなんて……。

小田喜城
北条氏康の名を冠する巨大兜を、
今までのヤツらと同じように考えてたら、
足をすくわれるかもしれませんね……。

大多喜城
ふっ……だが、それでこそ倒し甲斐があるというものですぞ、小田喜城様。

殿
…………!

滝山城
うむ……次はいよいよ巨大兜の待ち受ける相模国じゃ。

滝山城
捉えられた最後の城娘――三崎城の救出と共に、
巨悪を討ち果たすべく、急ぎ出立するとしよう!

第38話 獅子の目覚 ~相模~[]

相模の獅子――北条氏康の名を冠する巨大兜、現る。
長きに渡って続いた関東での兜討伐遠征に
勝利をもって終止符を打つため、いざ出陣せよ!

前半
――相模国。

三崎城
ねぇ、お願いですよぉ~!
そろそろ、このマグロで手を打ってはいただけませんか?

北条氏康
…………。

三崎城
うぅぅ……また、そうやって無視してぇ……。

三崎城
相模に私を閉じ込めてる間、ぜんっぜん相手にしてくれないし……。

三崎城
でも、そうやって愛想悪くしていられるのも今のうちですからね!

三崎城
聞けば、滝山城ちゃんが沢山の城娘と、
とんでもなく強いって有名な殿って人を連れて、
此の地に向かってるって話なんですから!

北条氏康
……黙レ。気が散ル。

三崎城
わぁ、やっと喋ってくれたぁ~♪

三崎城
って、そうじゃなくて――!

三崎城
気が散るって……いったい何を悩んでるのですか?

北条氏康
…………。

三崎城
もぉ~! またそうやって黙り――

北条氏康
――進むベキか?

三崎城
……え?

北条氏康
それとも……退くベキか……?

北条氏康
或イハ……破壊か……?

北条氏康
刻むベキか――廻るベキか――滅ぶベキか……。

北条氏康
其れが……今、此ノ世界にとっては……肝要ナリ……。

三崎城
……?

三崎城
(やっぱり、この巨大兜さんは……何だか変です……)

三崎城
(ずっと、私を相模に閉じ込めておきながら、それ以上は何もしない……)

三崎城
(いつだって自らに何かを問いかけ、それに反証を示し、苦悩している……)

三崎城
(この巨大兜さんは……いったい、何を目的としているの……?)

北条氏康
…………。

三崎城
貴方が、先ほどから何を言ってるか私には分かりませんが、

三崎城
他の兜さんに比べれば……まぁ、あくまで相対的にですが、
そこまで悪い巨大兜さんではないようにも感じます……。

三崎城
私や滝山城ちゃん、それに本庄城ちゃんや久保田城ちゃんを軟禁こそすれ、
結果としては酷い怪我をさせたり、殺めるようなことはしませんでしたからね。

三崎城
だから……。

三崎城
何か、悩み事があるのなら、この三崎城にも相談してください!

三崎城
それに、貴方の裡に宿る虚ろなる魂は、
奇遇かな北条の名を持ち合わせているようですし……。

三崎城
やはり言語を操る者として生を受けたのなら、
何はなくとも会話だと思いませんか?

三崎城
幸い、今はここに新鮮なマグロもあることですし、
二人で頭からかぶりつきながら、
胸中を明かし合うというのも乙なものですよ?

北条氏康
…………ハァ。

北条氏康
面倒……タダ只管に、面倒ダ……。

三崎城
――むぅ! 
マグロを前にして面倒ってどーいうことですかぁ!

三崎城
というより、そうやって何でもかんでも訳知り顔するの、よくないです!

三崎城
貴方と私は兜と城娘であり、戦うべき敵ですが、今ここにあっては――

北条氏康
――知ったようなコトを申すナ、三崎城よ。

三崎城
…………っ!?

北条氏康
貴様ら城娘ノ何と愚かなコトか。

北条氏康
何も識ラヌ者……。

北条氏康
識っテいなガラ……真実ヲ黙殺する者……。

北条氏康
ソレらはマダいい……。

北条氏康
最も醜悪にシテ悍ましきハ……、

北条氏康
己が罪ヲ識りナガラも、無知ナル者を教唆し、更なる過酷ヘト仕向けんとスル――

柳川城
――そこまでです、巨大兜!
今すぐに三崎城さんを解放しなさい!

北条氏康
ツイに……来てしまっタカ……。

殿
…………。

三崎城
あ、あの方は……!?

滝山城
――待たせたな、三崎城! 怪我はないか!?

三崎城
滝山城ちゃん!

三崎城
うん、大丈夫だよ!
私……そんなに酷いことはされてないからぁ~!

三崎城
……って、滝山城ちゃんや、本庄城ちゃんがいるってことは、
やっぱり、あの方が殿なんだね!

飛山城
ったく、無邪気にはしゃぎやがって……ま、とりあえずは、
捕らえられていた城娘が無事で一安心ってところだな。

馬場城
ですが、何かの弾みで巨大兜の逆鱗に触れてしまえば、
三崎城さんの身は一転して危機に晒される状況にあります。

大多喜城
……ならば、我等が行うは一つ!

小田喜城
あの巨大兜を……

久保田城
……討ち果たすのみ!

本庄城
私も、出来る限りのお手伝いをするつもりです……!

北条氏康
…………ヤレヤレ、だな。

北条氏康
馬鹿ノ一つ覚えの如き愚劣の下……討伐――討伐――討伐……。

北条氏康
己ノ行為が……更ナル災禍ヲ解き放つ因となるコトガ……何故ワからぬ?

久保田城
更なる災禍……?

馬場城
な、何を……言ってるのでしょうか?

滝山城
惑わされるでない……!
巨大兜の妄語に耳を貸す利が我らの何処にあろうか!

北条氏康
……滝山城。

北条氏康
まさか然様ナ言を選ぶトハ……此度ノ貴様ハ輪をカケテ愚者の様ダ……。

北条氏康
貴様を貴様タラシメタ、聡明サハ……何処へ行ッタトイウのか……。

北条氏康
ナァ、殿よ……?

殿
…………。

北条氏康
無駄な言を吐くこヲ、重々承知の上デ問うガ……。

北条氏康
此処は……一度……退いテクレヌカ?
正直なトコロ……今ノ私に戦闘意欲は無いノだよ……。

千狐
……な、なんですって!?

やくも
兜さんが、戦う気が無いって……どういうことがや!?

北条氏康
簡単ナことさ……。

北条氏康
今ノ我にトッテは…………全てが、ただ面倒でしかナイのだ……。

北条氏康
モウ、疲れた……。

北条氏康
此度……此地で……私ガ討たれることに因リ、
解き放たれるデあろう……諸悪にも……。

北条氏康
ソレらを以て己が利とスル輩にも……、

北条氏康
もう……興味ヲ持つコトができぬノダ……。

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
そうです! 先に仕掛けてきたのは貴方たち兜のはず……、
今さら何を以てそのような言葉を紡ごうと言うのですか!

柳川城
殿は、あの日……己が居城を……、
大切な家臣たちを……貴方たち兜に――

北条氏康
――故ニ、私を討つ理由も、正義も充分ダト……そう申すカ?

北条氏康
フッ……話にナラヌな、柳川城。

北条氏康
ヤハリ貴様は……愚か者ダ。

柳川城
何とでも言うがいい……。

柳川城
貴方のような者に、どれ程の非言を投げられたところで、

柳川城
この柳川城が惑うことなど……在りはしないのだから!

北条氏康
…………。

北条氏康
ハァ…………。

北条氏康
…………言葉など、肝心なトコロで……役に立タヌナ……。

北条氏康
最初から、私程度が……必定ヲ越えるコトなど……デキようはずもなかったノダ……。

北条氏康
然らば……我が生死ハ、現ナル此刻に委ねるしかアルまい……。

北条氏康
モウ……思考スルには些か飽いテしまった……。

北条氏康
後はタダ、戦うのみ……。

殿
…………。

北条氏康
殿よ……武器ヲ執レ。

北条氏康
貴様の望む……戦トやらに、興ジテやろうではないか。

北条氏康
ソレが……貴様たちが望み……ソシテ、世が課した、私の在様ナノダカラ……。

馬場城
――き、気をつけてください、殿!
ヤツの霊力が、恐ろしいまでに膨れ上がってます!

飛山城
へっ、面倒だ何だと抜かしやがる割には、
やっこさん、バカみてぇにやる気じゃねぇか!

久保田城
やはり、巨大兜の言動に一貫性など在りはしなかった……。
先刻の言は、我らを謀らんとする為の妄語だったというわけですか。

本庄城
戦うしか……ないのですね。

大多喜城
参りましょう、小田喜城様!
殿への御恩返しのために……、

大多喜城
そして、此の地を侵した兜を討ち果たすためにも――!!

小田喜城
うん……一緒に行こう、大多喜城ちゃん!

滝山城
殿……。

滝山城
己が力を……そして、城娘の力を信じ、戦いに臨むのじゃ!

殿
…………!

北条氏康
心シテ来るが善い……愚者共ヨ……。

北条氏康
我が裡ニ眠りし獅子……暫時、其ノ力ヲ解き放セン――。

北条氏康
以テ、其の命運――荒々シク決シテくれようゾォォぉぉおおおッ!!

後半
三崎城

す、凄いです……あれほどの力を持った巨大兜さんを倒してしまうだなんて……っ!

三崎城
――って、も、申し訳ありません!
お礼がまだでしたね……!

三崎城
殿、捕らわれの身であった、この三崎城を
お救いいただき、心から感謝いたします!

殿
…………。

滝山城
ああ、智勇ともに並外れた才を発揮しての勝利じゃった!
改めて、汝のことを見直してしまったぞ!

久保田城
それにしても……一時はどうなることかと思いましたが、
これで、ついに相模の地も解放することができたのですね。

本庄城
わ、私……あまりお役には立てませんでしたが……ぐすっ……、
殿の勝利の一助となれて……本当に嬉しいですぅ……ぅぅぅ……。

大多喜城
ふん……泣くほどのことでもあるまい。
我と小田喜城様がいれば、これくらいは造作なきことよ。

小田喜城
もぉ、そんなこと言って……素直じゃないんだから。

小田喜城
――って、それよりも大多喜城ちゃん!
よく見たら、あちこち怪我してるよ!?

大多喜城
お気になさらずに、小田喜城様。
戦傷こそ我が誉れ。これくらいは――

小田喜城
――いいから、こっちに来て大人しく座るの!

小田喜城
大丈夫……すぐに馬場城ちゃんからもらった薬を塗ってあげるからね!

大多喜城
むっ……お、小田喜城様……皆が見てる前で、そのようなことは……!

小田喜城
誰も気にしてないから! ほら、じっとして……!

大多喜城
――って、イタタっ!? ま、待ってくださ――あっ、くふぅぅぅっ……!!
そ、その薬、思いのほか染みるのですがっ……はぅっ……ぬ、ぁぁぁ――っ!!

馬場城
はいは~いっ! 他にも怪我してる方がいましたら、
馬場城特製のお注射をしますから、遠慮無く言ってくださいねぇ♪

村中城
……って、何でこれ見よがしにアタシに視線向けてんだよ、馬場城!?

飛山城
何だかんだで一番無鉄砲に突っ込んでたからだろ?

村中城
んなこといったらお前だってそうだろうが!

飛山城
へへっ……正直に注射が怖いって言えばいいのに。
あんたも素直じゃないねぇ~。

村中城
う、うるせぇ! そういうお前はどーなんだよぉ!!

滝山城
……ふふ。何はともあれ、こうして皆が
無事に生き残ることが出来て、本当によかったのじゃ。

滝山城
のう、千狐?

千狐
はい! 本当に――

???
――本当に、コレで良かったんデスかねぇ?

三崎城
なっ……なんですか、この声は!?

久保田城
――皆さんっ! 彼処です!
彼処に巨大兜がいます……っ!!

???
オオォッと、ソンナふうに剣幕を向けんでもらえますかね?

???
今ココデ、アンタらと事を構えようって気はサラサラないんでねぇ。

千狐
(な、何なの……この凶悪な気は……!?)

柳川城
(あの巨大兜……今までの敵とは比べものにならないほどに……強い……)

三崎城
……滝山城ちゃん。
ヤツを……どう見る?

滝山城
見たところ、確かに戦意は皆無のようじゃが……油断するでないぞ。
……何を企んでおるか分からぬからな。

???
企むダナンテ人聞きがワルイなぁ、城娘のお二人さん。

???
拙者はタダ、親切心から忠告をシニ来ただけでさぁ……ククク。

大多喜城
忠告……だと?

???
エエ、そうですとも……。

???
かな~りヤル気がなかったとは言エ、アンタらは、
北条氏康の名を冠する巨大兜を倒シタ……これは誇ってイイコトだァ。

???
だがぁ……こんなモンで一段落ツイタなんて、思っちゃイケねぇ……。

???
何故ならァ……アンタらが今しがたシチまった事は、
大河の堰を切るに等しい行為ダッタんですからネぇ……。

飛山城
大河の堰を切った……だと?
おいっ! 一体どういうことなんだよ!?

???
フフッ……何を隠そう、先刻アンタらが負かした巨大兜はァ……、

???
今ノ今まで、日の本各地に潜んデル凶悪な巨大兜たちを
牽制する……言ワバ抑止力的な立場にイタッテことでさぁ。

馬場城
兜が兜を牽制する……?
そのような者が存在していたというのですか!?

???
まぁ、結果的に――トイウ注釈付きですガネ。

???
取り込ンジマッタ魂ノ影響もあるんでしょうがァ、
氏康クンは人間たちをぶっ倒すってことには懐疑的だったみたいでねェ。

???
ヤツは必要以上のモノは奪わず、
此処ラ一帯のみを統治しようって手合いダッタんでさ。

滝山城
だから、そうした主義に反する巨大兜らの動きすらも、
ヤツは牽制していたと……そういうことか?

???
オッ!? さすがは滝山城ォッ!!
ご明察でさぁ……クククッ。

???
……だがァ。
ソレも今日で終わり……。

???
此ノ地に居座っテタ邪魔な氏康クンが消えた今ァ……、

???
日の本に点在スル好戦的な兜タチが、
コレからどういう行動に出るカハ……想像に難くなァい……。

本庄城
……そ、そんな……。

本庄城
せっかく、相模を解放したばかりだと、いうのに……。

???
まぁまぁ、ソウお嘆きにならずにィ、本庄城……。

???
何も、今すぐどうこうって訳じゃない……。
兜らにもイロイロと準備ってもんがあるんでねェ。

???
が……油断もマタ、禁物……。

???
皆さん御存知ノ通り……災厄ってノは漸次的なものじゃァない。

???
ソウ……いつだって破滅は突然ですからねェ。
大変な事態に陥ッタ時、慌テナイよう……しっかり準備しておくことでさァ。

???
……ってな訳で。
拙者はソレっぽいことを言い終えたので、ソロソロ御暇させてイタダキますかねェ。

???
ではではァ……殿。そして神娘に城娘たちィ。
いずれ何処カデ、お目にかかりやしょう……ククク。

殿
…………。

柳川城
…………。

柳川城
(……う、動けなかった……)

柳川城
(ヤツの発する邪気を前にした途端……、
戦うという想像すら出来なくなってしまうなんて……)

殿
…………。

柳川城
も、申し訳……ありません、殿……。
私……足が、竦んで…………こ、こんな、はずじゃ……なかった、のに……。

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
…………え?

滝山城
ああ、殿の言うとおりじゃ。
汝ひとりで全てを背負い込むでないわ。

馬場城
そうですよ、柳川城さん!
私たちもいるってこと、忘れないでください!

柳川城
滝山城さん……馬場城さん……。

飛山城
……といっても、先刻の巨大兜を前にして、
あたいらもビビっちまってたのは事実だ……。

小田喜城
今度、あの巨大兜に出会った時に、
同じことにならないよう……もっともっと、強くならないとですね!

大多喜城
さすがは小田喜城様。
そのやる気に充ち満ちたお顔のなんと凜々しきことか……!

大多喜城
――ご安心くだされ、小田喜城様! そして殿!
この大多喜城がいる限り、兜なんぞに指一本触れさせやしませんぞ!

本庄城
……うぅぅ……私には、大多喜城さんのような自信は持てそうにないですぅ……。

三崎城
もぉ、頑張る前からそんなこと言ったら、上手くいくことも駄目になっちゃうよ?

三崎城
助けてもらったばかりだから、お前が言うなーって思うかもだけど、

三崎城
これからは私も、本庄城ちゃんもぉ、独りきりじゃないんだし、
皆と一緒に少しずつ頑張っていこーよ? ね?

本庄城
三崎城さん……。

本庄城
はい! 私も……少しずつですが、頑張ってみます!

滝山城
…………。

滝山城
(ふふっ……あれだけの強敵を目の前にしながら、
こうして互いを支え合うことが出来るとはな……)

滝山城
殿よ、我々城娘は汝の為に、今よりも更に強くなることじゃろう。

滝山城
勿論、時に迷い、時に悩むこともあるじゃろうが……。

滝山城
それでも、汝を信じ……いつか泰平の世を掴んでみせるつもりじゃ。

滝山城
だから……我々を信じ、これからも共に歩んでくれるじゃろうか?

殿
…………。

殿
…………!

滝山城
うむ……これからも、よろしく頼むぞ!

三崎城
ふふっ♪ 滝山城ちゃんと殿を見てると、
何だか決意も新たにぃぃ、という感じがビンビン伝わってきますね!

三崎城
といっても、私は何だかんだでまだまだ殿や、
柳川城さんたちのことを深くは知りませんのでぇ……、

三崎城
ここは一つ! 解放したばかりの此の地で、
親睦会と決起集会を兼ねて、盛大に宴を開いちゃいましょう!

飛山城
おいおい、こりゃあまた随分といきなりだなぁ……。

三崎城
えぇぇ……駄目ですかぁ?

飛山城
まさか。ダメなんてこと、あるわけないさ!
あたいはそういう行き当たりばったりなの、嫌いじゃないからね!

馬場城
私も、賑やかなのは大好きですよぉ~♪

三崎城
ではぁ、殿……宴、やっちゃっても大丈夫でしょうか?

殿
…………。

殿
…………!

三崎城
えへへ♪ ありがとうございます、殿!

三崎城
それじゃあ、マグロの、マグロによる、マグロのための豪華なお料理をもって、
皆さんを持てなしちゃいますので、今日はたっぷり楽しんじゃってくださいね♪

こうして、関東の地に跋扈していた兜らの討伐は、その終わりを迎えた。

だがそれは、次なる戦の始まりを意味していた――。

――某地。

???
…………。

明智光秀
氏康の敗北は……予想通り、

明智光秀
否――予定通リト、申シタ方が宜しいでしょうか、信長様?

織田信長
…………。

織田信長
……是非も無い。

織田信長
此度の結果は、相応の力を殿たちが得たという証左……。

明智光秀
――ソシテ、機が熟す直前であるコトを示シテいる……と?

織田信長
然り……。

織田信長
故に……貴様も戦の準備に入るがよい。

織田信長
……これより、我が闘争は真の意味で、その開幕を世に映すのだからな。

明智光秀
カシこまりマシテ御座います……。

織田信長
…………。

こうして、この日……殿と兜たちの戦いは、新たな局面を迎えることとなるのだった――。

第39話 粋狂の焔 ~大和~[]

北条氏康の名を冠する巨大兜を倒した殿たちの許に、
神娘に導かれた大和の城娘が期せずして現れた――。
此の出会いが、殿一行を新たな戦いへと駆り立てる。

前半
北条氏康の名を冠する巨大兜の戦いから多くの時が経過していた。

千代城
…………。

千代城
(日に日に兜たちの邪気が強くなっているのを感じる……)

千代城
(抑止力――同胞からそう形容されていた、
あの不可思議な巨大兜を討伐した意味を、
他の城娘たちはどれだけ理解しているのだろうか?)

滝山城
これはまた、ずいぶんと怖い顔をしているな、千代ちゃん。

千代城
――だから千代ちゃん言うなっ!

滝山城
何故じゃ? 可愛いと思うがのぅ?

千代城
……悪いが、巫山戯に構っている場合ではない。
おぬしも、既に此世の異常さを理解しているのじゃろう?

滝山城
然り……。北条氏康の名を冠する巨大兜は、
確かに抑止力として、此世に対し機能していたようじゃが、

滝山城
まさか、兜だけに対してだけでなく、我ら城娘――いや、
殿の記憶や心奥にまで作用し始めてるとは思わなんだ……。

千代城
多世の懸隔、経験の非連続、心魂の無秩序……。
それらの曖昧化に歯止めが効かなくなってきておるというわけじゃ。

滝山城
しかし、だからこそ終焉を手繰り寄せることもできるというもの。
……少なくとも、あの城娘は運命に抗おうとしておるのは間違いない。

千代城
故に……わらわたちも成すべきことを成そうぞ。
柳川城ひとりが苦しむ様は、見るのも感ずるのも、もはや忍びない。

滝山城
うむ……。ならば先ずは我々の故郷の守護を万全とせんがため、
東北・関東に縁深き城娘をそれぞれ引き連れて防衛にあたるとするのじゃ。

――そうして、千代城たちは所領を離れ、
各々の故郷における兜との戦いに力を注ぎ始める。

畿内某所・夜――。

そんな千代城たちと同じ様に、此の地においてもまた、
三人の城娘が兜の軍勢を前に苛烈な戦を繰り広げていた。

兜軍団
進軍セヨ……進軍セヨ……!
……人間ヲ……城娘ヲ……殺シ尽クセ……!

雑賀城
……後陣から新手の到来を確認。
まったく……倒しても倒してもキリがないな。

多聞山城
数日前から各地で兜たちの動きが一段と
活性化しているという報に間違いはなかったようですね。

龍王山城
殿一行が北条氏康の名を冠する兜を倒したことを機として、
此世は新たな段階へと進み始めた……というわけじゃな。

龍王山城
とはいえ、何度繰り返そうと、どれだけの時を経ようと、
雲霞の勢を以って押し寄せるだけの戦術しか取れぬとは――

龍王山城
――やはり兜の戦は醜いのう。
いいかげん飽き飽きしてきたのじゃ。

雑賀城
龍王山城……美醜で戦を語る暇があるなら、
一体でも多く、雑魚どもを倒してくれないか?

龍王山城
ぬかせ雑賀……先刻からぬしの数倍は敵を屠っておるわ。

龍王山城
その証拠に、見よ……兜たちの焼かれていく様を!
わらわの焔に抱かれ闇夜に滅びの美しさを晒しておるわ。

雑賀城
(悪趣味な……)

雑賀城
(これも、嘗ての城主の影響というわけか……)

雑賀城
だが、それだけ無駄口が叩けるならまだいけるな。
……多聞山城も、問題ないか?

多聞山城
無論……この程度、
姉様の相手をすることに比べれば児戯同然ですわ。

龍王山城
これっ、多聞山城!
無闇にあの爆殺狂の話をするでない!

龍王山城
わらわは、ぬしのことは好きじゃが、彼奴は気に食わぬ!

雑賀城
同族嫌悪ってやつか……。

龍王山城
……何じゃと? 
雑賀、もういっぺん言ってみよ。

雑賀城
……いいから黙って兜を焼き払え、龍王山城。

雑賀城
キミだって多聞山城から報酬をもらうんだろ? 
……金額分はきっちりと働きなよ。

龍王山城
金額分……じゃと? 

龍王山城
ふっ、ぬしのような無粋者と一緒にするでないわ。
わらわは無報酬で多聞山城に協力しておるのじゃ。

雑賀城
……冗談だろ?
だったら何の得があってこんな戦いをしてる?

龍王山城
そこにわらわの求める美があるからじゃ!

雑賀城
…………。

雑賀城
信貴山城も大概だが……キミも充分に狂ってるな。

龍王山城
じゃーかーらー! 彼奴の話はするなと言っておるじゃろーがっ!

龍王山城
粋狂……そう! わらわのは信貴山城とは異なる「粋」じゃ!

龍王山城
面白きもの、美しきものが在るならば、
如何な地、如何な敵であろうと戦ってみせようぞ!

多聞山城
……言いましたね、龍王山城?

龍王山城
え……? ど、どうしたのじゃ、多聞山城? 
急に怖い笑みを浮かべよって……何だか怖いのじゃ。

多聞山城
貴方の詞を機とし……かねてより案じておりました策を、
今こそ展開する時と見定めたまでですよ……ふふふ。

龍王山城
かねてより案じていた……じゃと?

多聞山城
ええ。その通りです、龍王山城……。

――そして美しき微笑と共に、
多聞山城は龍王山城にそっと耳打ちする。

龍王山城
……なるほど、な。

龍王山城
畿内における兜の大規模討伐……、
而して、ヤツを誘き寄せるということか。

多聞山城
理解が早くて助かりますわ。
……では、さっそく取りかかっていただけますね?

龍王山城
ああ。ぬしの願いとあれば、喜んで聞き入れてやろうぞ。

雑賀城
多聞山城……。
まさか、龍王山城と殿を会わせるつもりか?

多聞山城
はい……。彼女の力と業を考慮すれば、
此刻、此世においては龍王山城が最も適役かと。

雑賀城
そう、か……。

雑賀城
……キミがそこまで言うなら、勝手にすればいい。
ボクは報酬さえもらえればそれで構わないからね……。

龍王山城
そういうことじゃ雑賀。ぬしに雑魚どもは任せ、
わらわは一足先に戦線を離脱するとしようかのぅ。

龍王山城
……っと、そもそもじゃが、
殿の所領とは何処にあるのじゃ?

龍王山城
わらわは、ぬしらと違って場所を知らぬのじゃが……。

ツバサ
――それなら大丈夫だよ♪
ツバサが案内してあげるからー!

龍王山城
……。

龍王山城
なぁ、多聞山城よ……。
まさかとは思うが、ツバサとわらわで殿の許へ迎えと?

多聞山城
ええ、そうですが……何か?

龍王山城
はぁ……いや、何となくそんな気はしておったのじゃ……。
まったく、子守をしながらの途次かと思うと泣けてくるのぉ。

ツバサ
子守ぃ? どーゆーことぉ?
ツバサは子供じゃなくて神娘のひとりだよぉ?

多聞山城
貴方は何も心配しなくていいですわ、ツバサ。
万事つつがなく……美しい策を咲かせてください。

ツバサ
うん、分かったよぉ多聞ちゃん♪
しぎーちゃんのためにも、ツバサ頑張るからね!

ツバサ
それじゃあ龍王ちゃん!
ツバサの手を握ってくれるー?

龍王山城
……う、うむ。

ツバサ
それじゃあ……、

ツバサ
秘技……時空転移術だよぉ――っ!!

溌溂とした声音と共に清浄な光が生じると、
ツバサと龍王山城の姿は多聞山城たちの前から一瞬にして消えてしまった。

多聞山城
…………頼みましたよ、龍王山城。

雑賀城
いや、それよりも兜の相手……。
いい加減ボクだけに任せるの止めてくれないかな?

多聞山城
あら、ごめんなさい。雑賀城。

多聞山城
それでは、怠けていた分……しっかりと暴れさせていただきますわ!

――翌朝。

ツバサ
りゅーおーちゃーん! こっちこっちー! 
殿たちが生活してる所領はここだよー!

龍王山城
ま、待たぬかツバサ……はぁ、はぁ……。
少しはわらわの歩調を考慮せい……!

龍王山城
まったく……ツバサの転移術は毎度のことながら
意図した場所からかなり離れた所に飛ぶから余計に疲れるわぃ。

龍王山城
……っと、あれは?

千狐
――っ!?

千狐
あ、貴方は……!

龍王山城
ああ待て待て、そう身構えんでもよい。
わらわは大和の城娘、龍王山城といって怪しいものでは――

千狐
――ツバサなのぉ! 
すっごくすっごく久しぶりなのぉー!!

ツバサ
千狐おねえちゃーんっ♪
ようやく会えたねーっ!!

龍王山城
こらーっ! わらわを無視するでないわー!

やくも
だにぃ……千狐ぉ、朝っぱらから何を騒いでるがや?

ツバサ
わーっ、やくもちゃんもいるー!
久しぶりだねー! 元気してたー?

やくも
だにぃっ!? な、何でツバサが此処にいるがや!?

龍王山城
じゃーかーらー! わらわを無視するなと言っておろーにっ!

龍王山城
いい加減にせんと、さすがのわらわも泣くぞ! 
……いいのか? いいんじゃな!? うわーんじゃぞ!?

千狐
も、申し訳ありません……龍王山城さん。
神娘の同胞との再会に喜ぶあまり我を忘れてしまいましたわ……。

千狐
それよりも、どうして城娘の貴方とツバサが一緒に?

龍王山城
それが、話せば長くなるのじゃが……。

殿
…………。

龍王山城
――というわけじゃ!

龍王山城
まぁ簡単に言えば、多聞山城ら姉妹が、
少し前にこの神娘のひとり――ツバサと出会ったことを契機として、
畿内に存する町娘らを次々と城娘として覚醒させたというわけじゃ。

龍王山城
……といっても、もともとあるべき身体に、
城娘としての魂を還してやったというだけのことじゃが、

龍王山城
……まさか信貴山城によって、
わらわが目覚めさせられるとは何とも口惜しい話じゃ。

ツバサ
でも、こーして城娘として殿に会えたんだから
ツバサは良いことだって思うなー!

千狐
まったく、ツバサったら。
千狐の知らないところでまさかそんなことをしていたなんて……。

千狐
ちゃんと状況報告は書状でこまめにするようにって約束していたのに、
どうして言いつけを守らなかったの?

ツバサ
千狐お姉ちゃんたちをビックリさせたかったからーっ!

やくも
ツバサは相変わらずだに……。

千狐
はぁ……これじゃあ、やくもと大差ないわね。

やくも
ど、どういう意味だに!?
うちはツバサよりかはしっかりしてるつもりだにぃ!

柳川城
まぁまぁ……やくもさん、落ち着いてください。

三崎城
ええ、私と一緒にマグロを食べて、がっつりと落ち着いちゃいましょう♪

やくも
……いや、さっき朝餉食ったばっかりやけん、マグロは勘弁だに。

三崎城
そんなぁ……せっかく捌いてきたというのにぃ……しくしく。

柳川城
……と、それよりも龍王山城さん。先ほどの話ですが、
やはり各地における兜の動きの活性化は間違いないのですね?

龍王山城
うむ。雑兵級の兜は言うに及ばず、
旧知の城娘らによれば、今までに見たこともないような
凶悪な巨大兜が、諸処で目撃されておるとのことじゃ。

千狐
……千代城さんや滝山城さんたちも、
今はそれぞれに自国の防衛へ専念しているようですし、

千狐
やはり、あの巨大兜が言っていたことは本当だったのですね。

三崎城
北条氏康の名を冠する巨大兜……。

柳川城
そして、ヤツを倒した直後に現れた、あの不気味な巨大兜……。

龍王山城
その話ならば、知り合いの城娘たちから
ある程度のことは聞いておる……。

龍王山城
北条氏康の名を冠する巨大兜を倒したことで、
ぬしらが現状の兜の動きを引き起こしたそうではないか。

殿
…………。

龍王山城
勘違いするな、殿よ。
わらわは別に責めているわけではない……。

龍王山城
むしろ、よくやったと言いたいくらいじゃ!

三崎城
よくやった……?
あの、どういうことなのでしょうか?

龍王山城
ぬしらのおかげで、強大な力を持つ兜が動き始めたということは、
いよいよ、兜らの総大将と対峙できる可能性が出てきたということだからじゃよ。

千狐
兜らの総大将――!?
ですが、未だに関ヶ原一帯に張られた結界は強固なのですよ?

龍王山城
ああ、アレか。

龍王山城
わらわたちも、あの結界に関してはつぶさに観察しておるが、
そもそもあの中に兜は本当に存在するのじゃろうか?

千狐
……え?

龍王山城
多聞山城の話によれば、どうやらぬしらは関ヶ原の地に
巨大兜を束ねる者がいると見込んでいるようじゃが……、

龍王山城
そう思わせること自体が兜の策だとしたらどうする?

千狐
……そ、それは。

柳川城
無いとは言い切れませんが、でも……。

龍王山城
よいよい、そう簡単にぬしらの意識を変革することなど望んでおらぬ。

龍王山城
(それに、わらわも割とてきとーに言葉を発しておるしな……ふふふ)

龍王山城
が、しかし……現にぬしらは関ヶ原へ注意を向けるあまり、
各地の兜らの動きや畿内に渦巻く凶悪な気に対する意識が浅くなっている。

龍王山城
一途さは美に通ずるひとつの要素とはいえ、
時としてあるべき柔軟性を奪い、醜さを生み出すものでもある。

三崎城
ですが、畿内に凶悪な霊気を備える存在がいるといいますが、
龍王山城さんはそれが兜らの総大将だと思うのですか?

龍王山城
別に、わらわだけの考えではないのじゃ。

龍王山城
これは、畿内周辺で戦う城娘ら全員の考えと言っても過言ではない。

龍王山城
いいか? わらわたちが守護する地にて顕現する巨大兜――しかも、
それが比類無き凶悪さを備えているといえば、該当する魂は自ずと限られよう。

殿
…………。

殿
…………!?

龍王山城
そうじゃ……畿内が一国には山城国があり、そして――

龍王山城
――本能寺の変の舞台ともなった地がある。

殿
…………!?

龍王山城
うむ……殿の言う通り、

龍王山城
ヤツの名を――織田信長の名を冠する巨大兜の霊気を、
わらわたち畿内の城娘たちの何人かは感じ取っておる。

柳川城
織田信長――っ!?

千狐
いつかは、その名を冠する巨大兜が現れるとは思っていましたが……。

三崎城
それが本当だとすれば、龍王山城さんたちが、
兜らの総大将として考えるのも頷けます……。

三崎城
だって、模倣されし魂であろうと……織田信長は、
全ての兜を束ねるに余りある格を有する名ですからね。

やくも
なるほどだに……。

やくも
(うぅぅ……ぜんぜん話についていけてないけん、相づちしか打てんだにぃ……)

殿
…………?

龍王山城
そうじゃ。すでに畿内周辺に存在する城娘らは
織田信長の名を冠する巨大兜を討たんと、行動に出始めている。

柳川城
だからこそ、我々の許へと参じ、
畿内における兜討伐への協力を願い出た……ということですね?

龍王山城
然りじゃ、柳川城よ。

龍王山城
じゃが、織田信長の名を冠する巨大兜は実に用心深く、
未だにその足取りを掴ませてはくれぬ……。

龍王山城
故に、わらわたちは畿内における雑魚兜すべてを掃討する!

龍王山城
それも出来るだけ派手に! 美しく! 過激にじゃ!

龍王山城
さすればわらわたちの動きを見過ごせなくなった
織田信長が現れざるを得なくなるという算段よ!

三崎城
な、なんとも豪快な策ですね……。

龍王山城
じゃが、粋な策じゃろう?

殿
…………。

千狐
殿、如何なさいますか?

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
そうですね、このまま各地に戦力を分散させて防衛を続けるよりも、
龍王山城さんと共に、畿内における兜討伐へと打って出ましょう!

龍王山城
そうかそうか、うむ良き返事じゃ!
ぬしらならそう言ってくれると思っておったぞ!

龍王山城
それでは早速出立するとしようかのぅ。
ほれ、ツバサ。ぬしも用意せい!

龍王山城
――って、あれ?

ツバサ
……すぅ、すぅ…………。

やくも
寝とるだに……。

千狐
此処に龍王山城さんを導くために、未熟ながらも
頑張って転移術を使ったみたいですから……今は休ませてあげましょう。

三崎城
それで、まずは何処へ向かえばいいのでしょうか?

龍王山城
そうじゃなぁ、多聞山城たちといきなり合流するのもありじゃが、
それだと美しくもなければ、粋でもないしぃ……。

龍王山城
とりあえずは、大和の地にはびこる兜どもを掃討するとしようかの。
彼処はわらわにとっても、多聞山城にとっても縁のある地ゆえな。

千狐
承知いたしました。
それでは、殿。準備ができ次第、出立しましょう!

こうして新たな兜討伐の遠征は幕を開けたのだった――。

――数刻後・大和国。

千狐
えっと……龍王山城さんの記憶と智を媒とすることで、
何とか転移術は成功したようなのですがぁ……。


…………殺ス……殺ス…………。

兜軍団
人間ヲ……城娘ヲ……全テ滅セヨ……。

やくも
とんでもない数の兜さんたちで溢れかえってるだに。

柳川城
畿内の状勢がまさか斯様なまでに悪化しているだなんて……。

三崎城
殿、急ぎ兜たちを討伐すべく出陣しましょう!

三崎城
……って、ちょ、ちょっと龍王山城さん!?
これから戦だっていうのに変身しなくていいのですか?

龍王山城
はて……?
ぬしは何を言っておるのじゃ?

龍王山城
斯様なところで、わらわは戦わぬぞ!

三崎城
――えっ!? ど、どど、どうしてですか?

三崎城
あっ!? もしかして、
私たちをこんな危険な地におびき寄せるだけおびき寄せて、
兜たちに討ち取らせちゃおうとかって企んでたり――!?

龍王山城
たわけ! いくら松永久秀と縁ある城娘だからといって、
わらわを信貴山城と一緒にするでないわ!

龍王山城
よいか、殿。
此の地においてわらわは戦に手を貸さぬ。

龍王山城
それもこれも、ぬしらの力を見極めるため……。
よいな? わらわをがっかりさせてくれるなよ?

殿
…………。

殿
…………!

三崎城
そういうことならば、三崎城も全力で戦いに臨みますっ!
殿には、危ないところを助けてもらった恩がありますからね!

三崎城
ということで、柳川城さん!
一緒に出陣しちゃいましょう――っ!!

後半
龍王山城

ふふ、実に見事な戦であったぞ、殿よ。

龍王山城
多聞山城が見込むだけのことはある……。
興奮して思わず変身してしまったのじゃ♪

三崎城
はぅぅ……変身までしたのなら、途中からでも加勢してくれればよかったのにぃ……。

龍王山城
馬鹿者! 実力を見定めるためなのじゃから、
戦いの最中にわらわが手を貸したら意味がなかろう。

龍王山城
それに見よ、三崎城。
ぬしと違って柳川城の方はまだまだ余力があるようじゃぞ?

柳川城
……え? そ、そんなことありませんよ。
私だって、無我夢中で戦っていましたから……。

柳川城
(それに……まだまだ、この程度で満足なんてできません。
私たちには、倒さなければいけない強敵が待っているのですから……)

龍王山城
…………。

龍王山城
柳川城よ。何という顔をしておるのじゃ。

柳川城
……え?

龍王山城
戦に勝利したというのに、眉間にしわなど寄せよって。
……せっかくの美しい顔が台無しじゃ。

龍王山城
ぬしは、殿と一番付き合いの長い従者じゃと聞いておる。
それ故に、責任を人一倍感じているのは分かるが、

龍王山城
余裕を失ってまで力を求めたところで、
得られるものなどたかがしれておる。

龍王山城
もう少しくらいは仲間を信じてみたらどうじゃ?

柳川城
……私は別に……そんなつもりは……。

三崎城
……さ、先ほどまで私たちが必死になって戦っていたのを
楽しげに眺めていただけの人が言う台詞ではないと思いますが……。

龍王山城
はっはっは♪
三崎城よ、ぬしもなかなか言うではないか!

龍王山城
とはいえ、じゃ!
柳川城の不安は分からんでもない!

龍王山城
ぬしの戦ぶりは我が審美眼に適うものだったゆえ、
褒美と言ってはなんじゃが、わらわが柳川城の不安を取り除いてしんぜよう。

柳川城
……え?

龍王山城
ぬしの不安は力を求めるがあまりに生まれる闇じゃ。

龍王山城
ならば、より強き仲間を得ることで、少しは
心安らかに笑みを湛えることが出来るということじゃろう?

柳川城
そ、そういうものでしょうか……?

龍王山城
そういうものじゃよ、柳川城。

龍王山城
では、新たな仲間を得んがため、次なる地へと向かおうではないか。

三崎城
って、どこへ行けばいいのですかぁ?

龍王山城
河内の地にわらわの知り合いがおる。
まぁ、彼奴はあまり戦事は好きではないが……、

龍王山城
そんなことをほざいている城娘などごまんといるからのう、
無理矢理にでも仲間に引き込むとしよう。

三崎城
……そ、それはちょっとかわいそうですよぉ。
せめて新鮮なマグロを手土産にですねぇ――

龍王山城
――冗談じゃよ冗談。すでに話はついておる!
わらわたちが会いに行けば仲間となることを快諾してくれるはずじゃ。

殿
…………!

千狐
それでは、殿。
龍王山城さんのお知り合いと会うため、さっそく河内へと向かいましょう!

第40話 不意の凶弾 ~河内~[]

龍王山城の知人に会うため、河内へと進んだ殿たち。
手筈通りに、土着の城娘と出会うことに成功するが、
彼女の奇妙な様子に、一行は困惑するのだった……。

前半
――河内国。

千狐
転移術成功……なのでしょうか?
龍王山城さん。此処が意図した地で間違いありませんか?

龍王山城
うむ、寸分違わぬ転移ぞ。さすがは千狐じゃ!
ツバサの転移術とは比べものにならぬほどの精度よのぉ。

龍王山城
やはり、ちゃんとした神娘ともなれば、
斯様な術は当然に使えるのじゃなぁ。

やくも
……う、うちは転移術は全く使えんだにぃ……。

三崎城
何を落ち込んでるのですか! やくもさんには
誰にも真似出来ないトンカチ捌きががあるじゃないですか!

三崎城
それに聞くところによると、やくもさんったら
城娘そっくりの等身大模型まで作っちゃうって話じゃないですか!?

龍王山城
――何じゃと!? 城娘そっくりの模型!?
ちょっとその話くわしく聞かせてもらえぬかっ!

柳川城
りゅ、龍王山城さん! そんなことよりも今は
お知り合いの城娘さんに会うのが先なんじゃ……?

龍王山城
むぅ、柳川城め。だから焦るなと言っておろうに。
余裕のない女は嫌われるぞ――

龍王山城
――って、おや?

三崎城
どうしたのですか……?

龍王山城
いや、彼処……。

三崎城
……え?

???
…………う~ん……う~ん……。

やくも
娘さんが、何やよく分からんけど
書を見つめながら悩んでるだに。

千狐
龍王山城さん、もしかしてあの方が……?

龍王山城
うむ! あれこそが此の地を守護する飯盛山城じゃ!

龍王山城
おーい、飯盛山城!
予定よりも少し遅くなったが、会いに来てやったぞ~!

飯盛山城
……すみません、いま話しかけないでいただけますか?

龍王山城
――ぬぁっ!?
なん、じゃと……!?

飯盛山城
う~ん、良い文音の返しが思い浮かびませんね……。
……いったいどうしたら……うぅ~ん……。

龍王山城
やれやれ……また連歌に興じておるのか。

龍王山城
おいっ、今はそのようなことをしておる場合ではなかろう?
兜たちはすぐそこまで迫ってきておるのじゃぞ?

飯盛山城
……大丈夫ですよ……ここら一帯は私の法術によって
邪なる者が侵入できないようにしてますから…………。

飯盛山城
それよりも……返しは……返しはどうしたらいいのでしょうか……。
う~ん…………う~ん…………。

龍王山城
だめじゃ……此奴、反射的に返事はしておるが、
わらわが来たことをきちんと理解しておらぬようじゃ。

三崎城
とんでもない集中力ですね……。
……私も見習わないとです!

柳川城
そ、そういう問題なのでしょうか……?

やくも
でもまぁ、飯盛山城の法術で兜さんらが入ってこれないなら、
飯盛山城が気づくまで待ってみてもいいんじゃないかや?

千狐
…………いや、そうも言ってられないみたいよ、やくも!

やくも
だに……?


――ザザッ。

兜軍団
ザザッ、ザザザッ!

やくも
って、ふつーに兜さんたち侵入してきちょーがやっ!?

龍王山城
阿呆めが……飯盛山城のやつ、己が法術に慢心するあまり、
結界が無効化されていることにすら気づいていないとは――っ!

三崎城
ど、どうするのですか!?

龍王山城
無論、撃破するに決まっておる!
飯盛山城への説教は戦いが終わった後じゃ!

龍王山城
なに、心配はいらぬ。今回はわらわも戦う故、
美しき勝利を殿に献上してみせようぞ!

龍王山城
さぁ、柳川城、三崎城……ついてくるがよい。
戦場における美というものをわらわが教えてやろうぞ。

後半
???

……………………。

千狐
こ、これはいったい……どういうことなのでしょうか、殿。
巨大兜が……急に戦場に割り込んでくるなんて……。

龍王山城
……やはり姿を現したか、明智光秀の名を冠する異形よ。

三崎城
――ええっ!? 
あ、あれ……明智光秀の名を冠する巨大兜なのですか!?

三崎城
っていうか、どうして知ってるのですか龍王山城さん!?

龍王山城
彼奴は、かなり前から畿内近辺において目撃されておるし、
わらわや多聞山城も何度か戦ったことがあるのじゃ……。

明智光秀
龍王山城……この私が現れるコトを予想していたようデスガ、
此の地での闘争は全て計算尽くでの行動というコトでよろしいか?

龍王山城
肯定じゃ。光秀を騙る虚の魂よ。

龍王山城
……多聞山城の予想通り、わらわたちが殿と接触し、
行動を起こすことで自然と姿を見せるだろうと思っておったが、

龍王山城
ふふ……まさか、此程はやくに実現するとは思わなかったぞ。

明智光秀
多聞山城……ですカ。

明智光秀
ヤはり、最初ニ障害となるのハ、
アノ男との縁深キ城娘らといったところなのでしょうネ。

龍王山城
わらわたち……とな。

龍王山城
ふふふ……語るに落ちたな、光秀よ。

龍王山城
いいか、第六天を騙るうつけにも伝えておけ。

龍王山城
わらわたち、梟雄の魂宿りし城娘たちが、必ずや貴様を討ち取ってやる……とな。

明智光秀
フフ、フフフフ……其ノ詞……主も、さぞ喜びましょうぞ。

殿
…………。

明智光秀
殿……。

明智光秀
……氏康ト戦ッタ時点よりも、マタ強くなられたようだ。

明智光秀
而して、主が望まれた武威を備えたれば……。
……自ずと決戦ノ刻は訪れましょうゾ……。

明智光秀
我が主ノため…ソシテ、我が野望ノためニモ……。
……弛まず精進なされよ……殿。

殿
…………。

千狐
明智光秀の名を冠する兜……戦場を離脱しました。

柳川城
何とか、此の地を守ることは出来たようですね……。

やくも
……きゅ、急に巨大兜さんが現れた時はどうなることかと思ったけど、
何とか無事にすんでよかっただに……。

三崎城
それに、こうして明智光秀の名を冠する巨大兜が現れたことで、
龍王山城さんの言っていたことが本当だったことが証明されましたね。

龍王山城
光秀と縁深き魂……。
織田信長の名を冠する巨大兜と出会すのも時間の問題じゃな。

殿
…………。

柳川城
殿……もしかしたら、この畿内遠征は
我々が想像していたよりも遙かに危険なものなのかもしれませんね。

柳川城
今一度、気を引き締めてまいりましょう。

殿
…………!

龍王山城
とはいえ、窮地と好機は表裏一体じゃ。
巨悪を一掃するまたとない機会をわらわたちは――

飯盛山城
――って! ちょっとぉ~! 
ど、どど、どうして龍王山城さんが此の地にいるのですかぁ~っ!?

龍王山城
……は?

飯盛山城
もぉっ!! 来ていたのなら、
私に一言くらいお声をかけてくださってもいいではないですか!

飯盛山城
ていうか、どうして兜たちが我が領内にいたのですか!?
もしかして、龍王山城さん、間違って私の結界やぶっちゃったとか!?

飯盛山城
それにあの……こ、このお殿様と城娘たちは誰なのですか!?
ねぇ、龍王山城さん! 色々ありすぎて私ちょっと混乱してますぅ!

龍王山城
…………。

龍王山城
…………今さらのこのこと変身姿で現れよって、ぬしというヤツは……。

飯盛山城
え? あれ? ど、どうしてそのような怖いお顔をされているのですか?

龍王山城
…………飯盛山城、ちょっと裏へ来るのじゃ。

飯盛山城
う、裏? な……何故ですか?

龍王山城
お仕置きじゃ♪

飯盛山城
――あっ、やぁっ……だ、だめです……そんな……いやぁ――っ!
ずるずるって引きずらないで……こ、怖いですぅ、誰かぁ~っ!!

三崎城
…………。
(飯盛山城さん、本気で泣いてますね……)

千狐
…………。
(というより、戦が終わるまで戦そのものに気づかないなんて……)

やくも
…………。
(あの城娘さん、ほんとに大丈夫かや?)

柳川城
…………。
(そ、それよりも……飯盛山城さんを助けなくていいのですか?)

三崎城
…………。
(こ、こればかりは私たちには手出しできないような……)

殿
…………。

――半刻後。

飯盛山城
うぅっ、ぅぅ……ぐすっ……な、何も……、
あんなに叱らなくたって……いいじゃないですかぁ。

龍王山城
愚か者! 
一歩間違えばぬしが兜らに蹂躙されていたかもしれぬのだぞ!

飯盛山城
だ、だってぇ……多聞山城さんとの連歌だったから、
いいものにしなくっちゃって思って、そしたら周りが見えなくなってて……うぅぅ。

龍王山城
はぁ……ぬしは本当に多聞山城が好きよな。

龍王山城
ならば、多聞山城の願いにしかと応えるのじゃ、飯盛山城。
この者……そう、あまたの城娘を統率せし殿に力を貸すのじゃ。

飯盛山城
……と、殿?

殿
…………。

殿
…………!

飯盛山城
ああっ! 知っています! 
北条氏康の名を冠する巨大兜と戦ったという物凄い方ですよね!

飯盛山城
わぁ、噂の有名人さんと会っちゃいましたぁ!
今日の私はついてますねぇ♪

龍王山城
…………そうではないじゃろう、飯盛山城?

飯盛山城
わ、分かってますって! 
ほんとに分かってますから、もうお説教はご勘弁を~!

殿
…………。

飯盛山城
え、えっと……あの、今より私こと飯盛山城も
龍王山城さんと共に、殿の力となりますからね!

飯盛山城
ご安心ください! 戦に関しては自信などなくとも、
皆さんを癒やせるような歌を詠むことならばきっとできるはずですから♪

殿
…………。

殿
…………!

龍王山城
……ふっ、まぁよい。
血の気の多い畿内の城娘の中においては、
ぬしのような者がいて均衡もちょうどよくなるというもの。

龍王山城
では、殿。次なる地へと向かうために、
今日のところは此の地で休むとしよう。

龍王山城
今後に関して、色々と話したいこともあるからのぅ。

――数刻後・畿内某所。

明智光秀
殿、そして……柳川城……カ。

???
……あら、もう戻ってきたのですね。

???
で、ご感想は?

明智光秀
此世における最初ノ戦トシテハ悪くないモノデシタが、
……未ダ求むる程の強さを得られていない…………。

明智光秀
あの者タチには、もっと強くナッテもらわねば――

???
――貴方の望みは叶わない。

???
でしたよね?

明智光秀
然様……。

明智光秀
しかし……貴方が私ニ手を貸してイルと知ったら
妹である多聞山城は、どう思うでしょうネ……?

信貴山城
……手を、貸す?

信貴山城
自惚れるのもいい加減にしなさい、キンカン。

明智光秀
…………。

信貴山城
これは単なる嫌がらせ。

信貴山城
そう……、

信貴山城
愛しき妹と、此世に対しての……ささやかな嫌がらせですよ。

第41話 天地の浮橋 ~丹後~[]

織田信長の名を冠する巨大兜の姿を確認せり――。
多聞山城からの文を受け取った殿一行は、
畿内における兜討伐の次なる地へと出立する。

前半
――某所。

織田信長
…………。

???
――報告にゴザりますル、信長様。

???
殿一行めガ、河内国ニ侵攻――。
飯盛山城なる城娘との合流ヲ果たシタ、とのコト。

???
余勢ヲ駆り、コレマデ以上の苛烈さデ
畿内遠征を進メテいくコトは明々白々。

???
コノままでは、イズレ――。

織田信長
構わぬ。

???
……ハ?

織田信長
是で良いと言っている……。

織田信長
既に彼奴は予が望む存在へと近づきつつあるのだ。

織田信長
ならば後は……予みずからが打って出るだけのこと。

???
シカシ、些か性急に過ぎるようにモ存じますが――。

織田信長
予に意見するとはな……。
百姓上がりの禿鼠が偉くなったものよ。

???
……は、ハハ。

???
ハハハハハ……ッ!

???
そりゃあソウでございましょウ?

???
何せ、此ノ器ニ入り込んじまッテル魂の主とキタラ、
歴史上においては天下を掴んじまっテルんですぜ?

???
まァ、コウ言っちゃなんですが、魂ノ格で言えば貴方様と同等……。

???
イヤ、ある意味デハ上位に座するといっても過言では無いんでさァ。

織田信長
…………ふ。
ならば我が首級、狙ってみるか?

???
またまた御冗談ヲ……。

???
今の拙者にトッテは、貴方様こそが紛う事なき主。

???
貴方様ガ存する間ハ、如何ナ命にも従いましょう。

織田信長
それが、予の真なる意思でなくても……か?

???
エエ……。

???
織田信長――其ノ名を冠スルという事実ダケで、
『拙者』にとってハ、心酔するノニ充分な理由ニなる。

???
ソレに、貴方様ガ居てくれさえスレば数多の魂タチが狂わずに済ム……。

???
仮初めであろうトも……何だかんだ拙者ハ現状ヲ気に入ってるンですよ。

織田信長
…………。

織田信長
だが、此世は現状の維持を望みはしない。

織田信長
否――此世を創造せし者は、予の罪を決して赦しはせぬ。

織田信長
其れは、貴様も充分に理解していることであろう?

???
……理解と納得ハ全くの別モノですぜ、信長様。

???
拙者は頭ノ出来ガ悪いですカラね。
……ドウシテも考えチまうんですよ。

???
貴方様ナラば『あの御方』の想像ヲ超えられるのデハ……と。

織田信長
…………。

織田信長
実に愚かな思考だ……。

織田信長
もう、貴様も識っているはずだ――。

織田信長
此世の理からは誰も逃れることなどできぬ。

???
…………。

???
ダガ、何事にも例外ってもんガ在る。
…………ソウでしょう? 信長様。

織田信長
ふ……。

織田信長
ああ、貴様の言う通りだ。

織田信長
予ではなく、城娘を従える彼奴ならば或いは――。

織田信長
此世の理を破壊し、天をも凌駕するやもしれぬ。

???
…………フフ。

???
ヤハリ、然様にお考えでしたカ。

???
ええ、ええ…………拙者はキット、
其ノ一言を待っていたのでしょうナ。

???
そうであるナラバ、全てに合点がいく……。
ヤハリ貴方様こそ拙者が仕えるに足る主。

織田信長
追従は要らぬ。迷いが失せたのならば、
行動にて、貴様の役割を果たすがよい。

???
承知……。

???
……それじゃ行ッテきますぜ、信長様。

???
んでモッテ……マタいつか、再びお目に
かかるコトがデキたのなら、その時は――

???
――また、拙者ヲ召し抱えてくだサレ。

織田信長
…………ああ。

織田信長
互いに其の機があれば、な。

――河内国・殿陣営。

飯盛山城を仲間としてから、
既に一週間以上が経過していた――。

やくも
だにぃ……一体いつまでうちらは、
河内国に留まってればえーんかや?

千狐
焦るのも無理ないけど、もう少し我慢して、やくも。

千狐
今は河内周辺の兜討伐を行いながら、
多聞山城さんからの連絡を待ってなきゃいけないんだから。

三崎城
畿内における兜討伐計画は多聞山城さんの発案ですからね。
次の指示が来ないことには向かうべき地も定まりません……。

飯盛山城
ですが、聞けばどうやら予定よりも
文の到着が遅れているらしいじゃないですか?

柳川城
もしや……何か良くないことが
起きているのではないでしょうか?

殿
…………。

龍王山城
案ずるでない。多聞山城の立てた計画が
そう易々と崩れることなどありはせぬ。それにわらわだって――

龍王山城
――っと、噂をすれば何とやらじゃ!
空を見よ、殿。多聞山城の伝書鳩がやってきおったぞ。

殿
…………!

龍王山城
……ふむ。どれどれ。

龍王山城
――っ!?

千狐
ど、どうしたのですか?

柳川城
やはり、何か計画外のことが起きているのでは……。

龍王山城
……うむ。確かに計画外――いや、
予想外のことが起きているようじゃ。

三崎城
そ、それってやっぱり……悪いこと、なのでしょうか?

龍王山城
ある意味では、そうかもしれぬな。

龍王山城
じゃが……ぬしにとっては朗報と言えよう。
ほれ、殿。文の内容に目を通すがよい。

殿
…………。

殿
…………!?

龍王山城
うむ……多聞山城ら複数の城娘たちが、畿内において
織田信長の名を冠する巨大兜の姿を確認したとのことじゃ。

柳川城
織田信長の名を冠する巨大兜!?

三崎城
うぅぅ……か、覚悟はしていましたが、
まさかこんなにも早く現れるなんて……。

飯盛山城
あ、あの……出現した場所はいったい何処なのでしょうか?

千狐
やはり、本能寺のある山城国……なのでしょうか?

龍王山城
いや……。

龍王山城
どうやら和泉国のようじゃ。

殿
…………!

千狐
……はい! 此処から西方に進めば、
辿り着くのにそう時間はかからないと思います!

三崎城
なら、此処でぐだぐだしている場合ではありませんね!

柳川城
殿、既に我々の準備は整っています!
すぐにでも出立しましょう!

殿
…………!

――時を同じくして。

殿と別行動を取っていた千代城たちは、
東北地方に出現した新手の巨大兜と激闘を繰り広げていた。

???
…………。

千代城
ハァ……ハァ……なんと手強い相手じゃ……。
わらわの剣技が、こうも通じぬ……とは………。

馬場城
だ、大丈夫ですか千代城さん!?
さっきの攻撃でかなり手酷くやられてしまったようですが……。

千代城
心配は、要らぬ……わらわは、まだ……戦える……。

滝山城
千代ちゃん! 然様に疲弊しきった身体では
彼奴は倒せん! 今ばかりは後陣に下がれ!

千代城
だから、千代ちゃん言うなと……いって、いる……!

千代城
それに……これしきで、倒れるわらわでは――

千代城
――くっ、あ、ぅぅぅ……。

滝山城
(まずいな……まさか此程とは思わなかったのじゃ……)

滝山城
(殿の指揮下にない状況とはいえ、
それを差し引いても彼奴の武威は強大すぎる……)

???
其処ヲ退ケ…………城娘……。

???
ワシは主君・織田信長様の許ヘト行かねばならヌ。

???
大人シク道を譲れば、今バカリは見逃してやってもよい。

滝山城
……それは、できぬ相談じゃな。

滝山城
貴様は『柴田勝家』の名を冠する巨大兜じゃろう?

滝山城
此時において其方が主君の許に到達すれば、
殿たちの畿内遠征は間違いなく失敗に終わる。

滝山城
もう、そのような結末は……見とうないのじゃ。

千代城
そう、じゃ……! 
此度こそは……わらわたちが……、

千代城
わらわたちが……殿を勝たせて、みせる……。

馬場城
はい! 其の思いは、この馬場城も同じです!

柴田勝家
敵ナガラ見事な意気デハあるが……ワシにも譲れぬモノがあるのだ。

柴田勝家
故に……覚悟セヨ、城娘……。

柴田勝家
鬼柴田が武威を以て、無理にデモ押し通ラセテもらう――ッ!!

滝山城
――っ!?

滝山城
そんな……バカな!?
今以上に霊気が膨れあがっていく……じゃと!?

馬場城
し、信じられません……!
先ほどまでの攻撃が、本気ではなかったってことですか!?

千代城
どうやら……そのよう、じゃな……。

千代城
じゃが、今は……退くわけに、いかぬ……!!

千代城
殿たちの勝利のため……寸刻でも長く、ヤツを引き止めてみせるのじゃ!!

――半刻後・畿内。

龍王山城
と、いうことで――。

龍王山城
到着じゃな、丹後国!

龍王山城
いやぁ、まったくもって千狐の転移術はすごいのぉ~!
わらわの智を媒として今回もちゃんと目的地に着いたのじゃ!

飯盛山城
……いえ、あの…………。

飯盛山城
龍王山城さん、頭ボケちゃったのですか?

龍王山城
ぬわっ!? 何じゃその物言いはぁ――っ!?
いくらなんでも無礼が過ぎるぞ、飯盛山城!!

飯盛山城
だ、だってぇ……! 

飯盛山城
和泉に織田信長の名を冠する巨大兜が現れたっていうから
河内を出発したのに、どうして私たち丹後国にいるのですか!

龍王山城
ぬしは、多聞山城から届いた文をちゃんと見ておらんかったのか?

飯盛山城
いえっ! しっかりと穴が空くほどに見ましたとも!

飯盛山城
多聞山城さんときたら、こんな状況にあっても
きちんと私の歌に、これ以上ないくらい素晴らしい返しを――。

龍王山城
馬鹿者ぉ! 少しは歌から離れぬか!

飯盛山城
ふぇ~んっ! ごめんなさいぃぃ――!
どうしても返歌が気になってしまってぇぇ……。

三崎城
……あ、あのですね、飯盛山城さん。
実は多聞山城さんからの文には続きがありまして。

三崎城
丹波国には、我々への協力を申し出た城娘がいるとのことでして、
その方と合流してから和泉の地へと向かうようにと書いてあったのです。

飯盛山城
な、なるほど……そんなことが書かれていたのですね……。

飯盛山城
――って、あ、あれ……?

飯盛山城
あの、それって何かおかしくないですか?
丹後ってそもそも畿内じゃないですよね?

飯盛山城
それにその城娘さんも、協力してくれるのなら
和泉へそのまま向かってくれればいいのに……。

龍王山城
そう思うのはわからんでもないが、信長の名を冠する巨大兜が
いるのなら尚のこと和泉の地には慎重に入らねばならぬじゃろ?

龍王山城
それに、今回協力してくれるという城娘は東北の城娘ゆえ、
兜が跋扈する陸路にて畿内に入るのは至難の業なのじゃ。

飯盛山城
な、なら千狐さんの転移術で北へ向かえばいいんじゃ……。

龍王山城
……飯盛山城。
ぬしは意外なところで賢いな。

龍王山城
じゃが、今現在、我々の動きは畿内に存在する兜らに
注目されておる。そんな中で長距離の転移術をすれば、

龍王山城
戦力を畿内に集結させていることを気取られ、
信長が再び姿を隠してしまうやもしれぬじゃろ?

千狐
それに、千狐の転移術は対人というよりは対地として座標を決する
術ですので、誰かに会うためには縁のある品が必要になるのです……。

飯盛山城
そう、なのですか……。
万能と思われてた転移術にも、意外と制約はあるのですね。

飯盛山城
…………ん? あ、あの、それじゃあ、協力してくれるっていう
城娘さんは、どうやって此の丹後の地に来るというのでしょうか?

龍王山城
それに関しては、我々が今立っている
場所の地形から容易に推察できよう。

龍王山城
見よ、飯盛山城! わらわたちを囲むは
松島や厳島と並び立つ日の本屈指の絶景ぞ!

龍王山城
そして、その美景を構成するは――海、海、海ぃ!

龍王山城
とくれば、もうわかるじゃろう……?

飯盛山城
ま、まさか――!?

飯盛山城
いや、でも…………そんな……バカなことってぇぇ――!!

龍王山城
ほぉれ、聞こえてきたじゃろう? 感じてきたじゃろう?

龍王山城
じゃぶじゃぶじゃぶ~んと此方へ
向かってくる可憐なる霊気の存在を――!!

飯盛山城
――あっ……あああああっ!?
と、殿……あそこ! 海辺に……海辺にぃぃ……!!

久慈城
――じぇっ! お待たせしました、龍王山城さん!
北限の海女こと、久慈城、ただいま参上しました!

やくも
……く、久慈城!?

三崎城
たしか、陸奥国の城娘だったと記憶してますが……!

柳川城
す、すごい……本当に海を渡って来たのですね!?

三崎城
ですが、よくご無事でしたね! 昨今の日の本においては
海路にも兜たちが、それはもうウジャウジャいるというのに。

久慈城
はい……ですから、あの、本当に申し訳ないのですが、
ウジャウジャと色んなものを引き連れてきちゃいましたぁ……。

三崎城
……え?

蟹形兜
――ザッパ~~~ンッ!!

鯰尾形兜
ヘヘヘ……久慈城。俺タチノ縄張リヲ荒ラシテオイテ、
ソウ簡単ニ逃ゲラレルト思ウナヨォォォ――!!

飯盛山城
のわわっ!? な、なんですか、あれぇ――!!
ありえないくらい大量の兜が出て来ちゃってますけどぉ!?

久慈城
ごめんなさい、龍王山城さん……できる限り兜たちを倒しながら
泳いではきたのですが、引っ切り無しに湧いて出て来てしまって……。

龍王山城
よいよい。この程度であれば、
飯盛山城が何とかしてくれるじゃろう♪

飯盛山城
はい、この飯盛山城にお任せを!

飯盛山城
――って、えええっ!? なな、な、何で私なのですかぁ!?

龍王山城
知れたこと……河内においての体たらくを挽回するためじゃ。

龍王山城
それに、殿にぬしの有用性を示す好機でもあるじゃろう?

飯盛山城
うぅぅ……やっぱりまだ怒ってるんですねぇ……。

飯盛山城
わかりました! いいでしょう、いいでしょう!
河内での恩義もありますし、此処は頑張っちゃいますよぉ!

飯盛山城
ということで、参りましょうか、殿!
美しき丹後の地を私たちで守護しちゃいましょう!!

後半
久慈城

――じぇじぇっ!? す、凄すぎです、御屋形様!
あれだけの数の兜たちをこうもあっさり倒しちゃうなんて!!

龍王山城
何を言う。ぬしの協力もあってこその勝利じゃ。

龍王山城
さすが、海洋生物型兜の相手はお手の物じゃな。

久慈城
えへへ、それほどでもないですぅ!

久慈城
とはいえ、私との合流のための
お手間を取らせてしまい本当に申し訳ありませんでした。

久慈城
ですが、どうしても私は
織田信長の名を冠する巨大兜との戦に立ち会いたかったのです。

久慈城
だって私は……豊臣秀吉と因縁のある城娘ですから……。

龍王山城
なるほどな……織田信長の名を冠する巨大兜がいるとすれば、
その周囲に秀吉の名を冠する巨大兜もいると踏んだわけか……。

久慈城
はい! まさにその通りです、龍王山城さん!

???
――そういうことか。今の言で、
ようやくキミが此度の戦に参加する理由がわかったよ。

柳川城
むっ――だ、誰ですか!?

雑賀城
武器を向けるのはやめてくれないか?
ボクは敵じゃない。

柳川城
さ、雑賀城さん……!?

殿
…………!

雑賀城
(やはり、多聞山城の予想通り、殿も柳川城もボクを識っている、か……)

雑賀城
(本来であれば、此処でのボクらは初対面のはずなのだが……)

雑賀城
(……此世の理が徐々に狂い始めている証拠……か)

龍王山城
それにしても、まさかぬしがわざわざ迎えにくるとは思わなかったぞ。

雑賀城
……キミの先導で不用心に和泉へ
転移されたら計画が破綻しかねないからね。

雑賀城
念のためということで、多聞山城の命により、
ボクが和泉への案内役をすることになったのさ。

龍王山城
まったく、相も変わらず減らず口を叩きよってからに。

龍王山城
まぁよい……それで、雑賀。
和泉の現状はどうなっておるのじゃ?

雑賀城
……多聞山城からの文にも書いてあったはずだが、
織田信長の名を冠する巨大兜を和泉にて包囲している。

雑賀城
既に畿内の城娘たちも集まっているし、
後は、キミたちが入国するのを待つのみさ。

殿
…………。

雑賀城
そうだよ、殿……。
多くの者たちがキミを待っているんだ。

殿
…………。

殿
…………!

雑賀城
……それじゃあ行こうか、殿。

雑賀城
キミたちが本当に戦うべき巨悪――。
織田信長の名を冠する巨大兜がいる場所へ。

――同時刻・越中。

柴田勝家
此ノ一撃で、終わりトしようぞ――ッ!!

馬場城
――きゃぁぁああっ!!

滝山城
く、そ……やはり、我々だけでは、ここまでが限界か。

千代城
口惜しいが……どうやら、そのよう……じゃな……。

馬場城
とはいえ、充分に時間は稼いだはずです……!

馬場城
あとは、多聞山城さんたちが殿と協力し
信長の名を冠する巨大兜を討ち果たしてくれるのを信じるしか……。

滝山城
うむ……。

滝山城
なれば行くぞ、千代ちゃん……!
兎にも角にも撤退じゃ――!!

千代城
だから千代ちゃん言うなと言っておるじゃろうが――!!

馬場城
も、もう……!
こんな窮地においてケンカはやめてくださいよぉ!!

柴田勝家
……。

柴田勝家
…………。

柴田勝家
……漸く退いタカ、城娘メ……。

柴田勝家
まったく……手を焼カセテくれる……。
想定外の霊気ト膨大な時ヲ要してシマッタ……。

柴田勝家
ダガ……今カラ全速力で向かえば、
信長様と殿一行との戦には間に合うハズ……。

柴田勝家
待っていてクダされ……信長様!
コノ鬼柴田、今度コソ貴方様ヲ御守りしてみせましょうゾ!

第42話 魔王降臨 ~和泉~[]

和泉国にて多聞山城らとの合流を果たした殿一行。
其処で出会った多くの仲間たちを率い、ついに
殿は織田信長の名を冠する巨大兜と対峙する。

前半
――和泉国・某森内。

千狐
雑賀城さんの智を媒とした転移……無事成功ですわ!
殿、どうやら此処が和泉国のようですね。

殿
…………。

飯盛山城
……あ、あの。
何か此処、変じゃないですか?

久慈城
そうですね……空気が重いというか、
こう、頭にずぅ~んっとくるといいますか……。

龍王山城
そう感じるのも無理はない……なにせ、
織田信長の名を冠する巨大兜が近くにいるのじゃからな。

三崎城
うぅぅ……改めて言われると、
余計に緊張してきちゃいますねぇ……。

雑賀城
怯える必要はない……。
既に此の地には畿内の者たちが先行しているからね。

雑賀城
……っと、どうやら迎えが来たようだ。


――雑賀様!
お戻りになられたのですね!

雑賀城
ああ。待たせたね。

雑賀城
で、首尾はどうなってる?


はっ……依然として巨大兜に動きはなく、
ただ城下を静観するばかりにございます。

雑賀城
……包囲状況は?


その点に関してはご安心を……。
ネズミ一匹逃げられる隙はありません。


それよりも雑賀様。
そちらの方々は、もしや――。

雑賀城
ああ。噂の殿一行さ。

殿
…………。

柳川城
よ、よろしくお願いします!


おぉ……貴方がたが人々の希望たる殿と
その最初の従者・柳川城殿ですか――!!

柳川城
き、希望って……。
そこまで大袈裟に形容されているのですか?

雑賀城
でも、間違いではないだろ?

柳川城
肯定するのは些か自信過剰な気もしますが……。

やくも
だにぃ! 柳川城ばっかりずるいがやぁ~!
うちらもいるってことを忘れてほしくないだに!

千狐
こ、こら……今は大事な話をしてるんだから、
静かにしてなきゃだめでしょう?


いえ、お気になさらず。
千狐殿とやくも殿のお噂もしかと聞き及んでおります。


貴方たち神娘の協力無くして、殿のこれまでの
ご活躍は有り得なかった、というではないですか。

やくも
だにぃ~! 何だかうち、
これ以上ないってくらい誉められてる気がするがや♪

千狐
もう、すぐそうやって調子に乗るんだから。

やくも
とか何とか言って、千狐。
さっきから尻尾がぴこぴこしてるだに。

千狐
う、うるさいのぉー!
ぴこぴこなんてしてないもん!

久慈城
それにしても、もの凄い数の兵士さんたちですね!
この方々はすべて雑賀城さんの部下なのですか?

雑賀城
いや、此処にいる者たちは雑賀衆だけじゃない……。
畿内の城娘たちが守護する各地の有志が集まってるんだ。

雑賀城
……ほら。向こうからボクら以外の城娘が来てるだろ?

柳川城
あ、あの方は――っ!?

殿
…………!

多聞山城
殿。ご無事で何よりです。
我々一同、貴方のご到着を心待ちにしておりました。

千狐
多聞山城さん!?

やくも
久しぶりだにぃ~!

久慈城
あ、あれが噂に名高き多聞山城さん……。

久慈城
多聞櫓の元祖にして、天守の先駆け
としても知られる偉大なる城娘のひとり。

久慈城
そして、あの信貴山城の妹にして、
放たれた弾丸をも射貫く弓の名手でもあるとか……!

???
あらあら、多聞山城ばかり持て囃されて羨ましいですねぇ。

???
けど弓でしたら、うちも負けてはおりませんよ?

龍王山城
――おお、丹波横山城ではないか!?
やはり、ぬしも来ておったのじゃな!

丹波横山城
ええ。聞けば先日、河内において明智光秀の
名を冠する巨大兜も出現したとのことですからね。

丹波横山城
因縁浅からぬ丹波横山城が我関せず――
というのは、さすがに許されない状況にございましょう?

丹波横山城
それに、うちが可愛がってる丹波亀山城の一件で、
多聞山城たちには借りがありますからねぇ……。

丹波横山城
この機会に、恩を返さねば名折れにも繋がりましょう?

多聞山城
ふふ……相も変わらず律儀な性格だこと。

多聞山城
ですが、こうして同じ戦場に立てること、嬉しく思いますわ。

三崎城
…………す、すごいですね、殿……。
畿内有数の城娘たちがこんなにも集まっているなんて!

殿
…………!

多聞山城
ええ。それだけ織田信長の名を冠する巨大兜が
危険な存在であると皆が理解している証左ですわ。

多聞山城
(ですが、当初の計画では姉様も此処で合流する算段でしたのに――)

多聞山城
(ある時点を境に、ぱったりと連絡が取れなくなってしまうなんて……)

多聞山城
(己が業に心魂を委ね、また妙なことをしていなければいいのですが……)

龍王山城
どうかしたか、多聞山城?

多聞山城
……え?

多聞山城
あ、いえ……何でもありませんわ。

龍王山城
……?

多聞山城
それでは、参りましょうか、殿。
我らが討つべき巨悪の許へ。

殿
…………!

――そうして森を抜け、殿たちは目にする。

今まで出会ったどの兜とも異なる、圧倒的な強者の存在を。

織田信長
…………。

殿
…………。

柳川城
あの巨大兜が、そう……なのですね。

龍王山城
ああ。一目瞭然……というやつじゃな。

やくも
あれが、織田信長の名を冠する巨大兜……。

千狐
信じられない……ただ、佇んでいるだけだというのに、
内包する霊気の強大さに圧倒されてしまいそうですわ。

雑賀城
……だが、臆することはない。

雑賀城
時間をかけて漸く此処まで追い詰めたんだ。

雑賀城
後は、ただ……冷静に獲物を狩るだけさ。

多聞山城
獲物を狩る……ですか。

多聞山城
ふふ、貴方らしい物言いですね、雑賀城。

雑賀城
ふん……気負って妙に芝居がかったことを口走るよりはマシだろ?

龍王山城
むっ――おい、雑賀! なぜわらわを見る?

丹波横山城
こらこら。こんな緊迫した状況で
ふざけてる場合じゃないですよ、龍王山城さん。

丹波横山城
既に此処は必死の境地――。
兜の頂ともいえる存在が眼前にいるのですからね。

殿
…………。

三崎城
あ、あの……殿。

殿
…………?

三崎城
私、一生懸命戦います……!

三崎城
で、ですから……この戦いに勝つことができたら……。

三崎城
その時は、一緒にどデカいマグロを食べましょうね?

久慈城
じぇじぇじぇっ!! ちょ、ちょっと三崎城ちゃん!
こういう場面でそのような発言は色々とまずいんじゃ……!

飯盛山城
いいじゃないですか。今さら何言ったところで
運命が激変するなんてこともないでしょうし。

龍王山城
うむ。珍しく、飯盛山城の言う通りじゃ。

龍王山城
如何な言を吐こうとも、我等が辿る運命は、
美しき勝利以外に在りはせぬのじゃからな。

殿
…………。

殿
…………!

織田信長
…………。

織田信長
……遂に、来たか。

殿
…………。

織田信長
居城を落とされ、耐えがたき絶望を味わっても尚、
我々兜に立ち向かわんと心魂を決した勇士――。

織田信長
そして……数多の城娘を従える希有な存在にして、
此世に残る稀少なる武士のひとり……。

織田信長
思えば……我々兜が顕現してから今まで、
此世の人間は随分とその数を減らしたものだ。

殿
…………。

殿
…………!

織田信長
そう……その眼だ……。

織田信長
貴様を奮い立たせるもの――。
其れは紛う事なき憤怒の紅蓮。

織田信長
殿……我ら兜が憎かろう?

織田信長
なればこそ、己が武威を示せ……。

織田信長
真の運命に打ち克てる存在かどうか、予が見定めてくれよう。

殿
…………!!

柳川城
殿、参りましょう!
我々城娘が、必ずや殿をお守りいたします!!

後半
龍王山城

今が好機じゃ――皆の者、一斉に攻め立てよ!!

飯盛山城
お任せください!
丹後に続いて、此処でも張り切っちゃいますよぉ!!

久慈城
私も負けてはいられません!
せゃぁぁあああ――――っ!!

織田信長
――ッ!?

雑賀城
体勢を崩した……効いている証拠だ!!

多聞山城
ならば、このまま一気に攻撃を集中させるのみですわ!!

三崎城
はい! 出し惜しみ厳禁で、激しく撃ちまくりますよぉ!

柳川城
はぁぁぁああああああ――っ!!

千狐
す、すごい……!
この調子なら……本当に、倒せるかもしれない……!!

やくも
あれだけの攻撃をくらって立ってられるわけないがや!
もう勝負はついたも同然だにぃ!!

丹波横山城
そう……上手く、いくでしょうか……?

やくも
…………え?

織田信長
……ふふ。

織田信長
フハハハハハハハハハ――ッ!!

三崎城
わ、笑っている……。
あれだけの攻撃を受けたというのに……どうして?

飯盛山城
まだまだ余裕……ということなのでしょうか?

多聞山城
くっ……。

多聞山城
さすがは織田信長の名を冠する巨大兜……。
一筋縄ではいかない……ということですわね。

織田信長
ふふふ……。

織田信長
……よくぞ。

織田信長
よくぞ其処までの強さを体得した。

殿
…………。

織田信長
予は、待っていた……。

織田信長
貴様のような者が現れるのを、切に待ち望んでいたのだ。

千狐
殿のような存在を、待ち望んでいた……?

やくも
…………ど、どういうことがや!?

織田信長
予の望みは……此の器に宿る魂が望み……。

織田信長
其れは――戦人としての終焉を経ることで満たされる飢え……。

織田信長
荒々しき闘争の中……己が生を燦然と燃やし――。

織田信長
圧倒的な強者によって討たれ――凄絶なる死を享受するということ。

殿
…………。

織田信長
其のために、数多の同胞を貴様に差し向けた。

織田信長
其のために、万斛の絶望を貴様に味わわせた。

織田信長
然して……比類無き武人となりて、我が眼前に立っている……。

織田信長
……長かった。

織田信長
貴様のおかげで、ようやく終焉の尾を手繰り寄せることができるのだ。

殿
…………。

多聞山城
……そういう、ことだったのですね。

多聞山城
今際において自刃の路を歩まねばならなかった
織田信長の虚魂を内包する貴方だからこそ……。

多聞山城
華々しき死を求め、斯様なる戦乱を創出した――と。

龍王山城
なるほど……言葉を交わしてみれば、
なかなか可愛げのある望みではないか。

龍王山城
じゃがな、然様な身勝手極まりない願望に因って、
罪のない無数の命が散ったとあっては、

龍王山城
其処に、美しさなど微塵も残りはしない……。

龍王山城
ぬしのような木偶では、わらわの記憶にある
彼の大虚けとは重なるはずもあるまい……。

龍王山城
まったく……ぬしが信長の名を冠するなど片腹痛いわ。

織田信長
……貴様がそう口にするのも詮無きこと。

織田信長
だが、斯く在れと望まれたからこその予なれば、
偽りの生であろうと――ただ突き進むのみ…………。

雑賀城
待て、信長! 何処へ行くつもりだ!!

織田信長
案ずるな、雑賀の城娘よ……。

織田信長
予は、もう……逃げも隠れもせぬ。

織田信長
我が運命の終焉――山城国にて待つ。

織田信長
殿、其処で雌雄を決しようぞ…………。

殿
…………。

千狐
……巨大兜の撤退を、確認…………。

雑賀城
くそ……此処まで追い詰めておいて、逃がすことになるとは。

龍王山城
じゃが、既に彼奴を追いかける必要は無くなった……。

三崎城
山城国にて、決着をつける……ですか。

久慈城
織田信長……そして、山城国とくれば――。

柳川城
本能寺……其処しか、有り得ませんね。

丹波横山城
彼の地においては、あの巨大兜が冠する名に加え、
備えし魂との縁が激しく作用するのは明白。

丹波横山城
次に戦う時は、今日とは比べものにならない程の武威をもって、
我々の前に立ちはだかると考えた方がいいでしょうね……。

飯盛山城
それに……明智光秀の名を冠する巨大兜の存在も気になりますぅ……。

千狐
そう、ですね……。

柳川城
河内での言動から察するに、恐らくは山城国にて
信長と共に我々を待ち構えていると見て間違いないかと……。

雑賀城
はぁ……勝利したばかりだというのに、考えるべきことは山積みだな。

龍王山城
……いずれにせよ、今日のところは此の地に
留まり、先刻の戦にて負った傷を癒やすとしよう。

殿
…………。

龍王山城
……そう不安がるでない、殿。

龍王山城
これだけの城娘が集結しておるのじゃ。ぬしの勇知と
指揮があれば、必ずや信長を討ち果たせるはずじゃ。

殿
…………。

殿
…………!

多聞山城
(ですが、兜以外にも気になることがある…………)

多聞山城
(姉様……貴方は今、何処にいるのですか……?)

――数刻後・某所。

信貴山城
…………。

明智光秀
信長様が殿トノ接触を果たした今……。

明智光秀
我々モ、行動すべき刻ガ来タようですネ。

信貴山城
ええ……。

信貴山城
漸く……私たちの盟約は果たされる。

信貴山城
貴方は彼を――。

信貴山城
私は彼らを――。

明智光秀
それぞれ救うタメに、動くダケ……。

明智光秀
……コウシテ行動を共にスルようになって分かル。

明智光秀
貴方は、実に不器用な城娘ダ……。

明智光秀
決シテ理解されヌと識っていながラ――、

明智光秀
ソレでも大切なモノを守らんと、独り足掻いていル。

信貴山城
…………。

信貴山城
……言うほど、大層なものじゃないですよ。

信貴山城
どれだけの善意があろうと。

信貴山城
どれだけの深慮があろうと。

信貴山城
此世において、私は貴方と手を組んでしまった。

信貴山城
其の事実は――彼らにとっては、
どうしたって裏切りにしか映らない。

信貴山城
だから……無駄な詞は此処まで……。

信貴山城
私は貴方の望みを叶える。

信貴山城
だから――、

明智光秀
私ハ貴方ノ望みに応えル……。

信貴山城
よろしい。

信貴山城
それじゃあ行きましょうか、光秀。

信貴山城
共に、逆賊の烙印を心魂に刻む者として……ね。

第43話 逆賊の烙印 ~丹波~[]

準備を終え、ついに和泉より出立を決意する殿一行。
目指すは織田信長の名を冠する巨大兜が待つ山城国。
而して、千狐は時空転移術を発動させるのだが……。

前半
――和泉国。

織田信長の名を冠する巨大兜との戦いから数日が経過していた。

殿
…………。

龍王山城
うむ、これで信長討伐の準備は整ったというわけじゃな。

殿
…………!

龍王山城
他の者たちも、抜かりはないか?

三崎城
はい! 皆さんと共に今朝もしっかりマグロ料理を食べましたからね!

久慈城
じぇっ! 海の幸のおかげで元気もりもりです!

飯盛山城
それに、ここ数日は多聞山城さんとの歌のやりとりを通して、
精神的にも私、とっても漲っちゃってますよぉ~!

龍王山城
はぁ……。
揃いも揃って緊張感のない奴らよのぉ。

龍王山城
これから決戦へ臨むというのに、大丈夫なのか?

丹波横山城
ふふ、いいではないですか。
これくらい図太い方が、いざという時に気張れるというもの。

多聞山城
ええ。下手に緊張や焦りを見せられるより、よほど心強いですわ。

龍王山城
……まぁ、ここまで平時における自己を
保ち続けるというのも、ある意味では粋といえるか。

龍王山城
いいじゃろう! ならば、あくまで常なる我らとして、
あの巨大兜――信長を倒しに行こうではないか!

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
はい! それでは決戦の地へと参りましょう!

千狐
目指すは山城国! 
織田信長の名を冠する巨大兜を倒し、これまでの戦いに終止符を――

千狐
――っ!?

やくも
だに? 急にどうしたがや千狐?

千狐
向こうの方角から、なにかが来る……。

柳川城
……え?

龍王山城
――っ!?
あ、彼奴は……!

???
…………ふふ。 

多聞山城
――ね、姉様っ!?

信貴山城
待たせたな、我が妹よ!

多聞山城
…………。

多聞山城
待たせたな、って……。

多聞山城
散々心配させておいて、戻った第一声がそれですか!?

多聞山城
だいたい今の今まで何処をほっつき歩いていたのですか、姉様!!

信貴山城
何処って……。

信貴山城
畿内の彼方此方ですよ。

多聞山城
……は?

信貴山城
まぁ、そうやって怒るのも無理からぬことですがね……。
弁解までに、これまでの子細を早口に語ってみると――。

信貴山城
貴方が立案した畿内に蔓延る兜たちの一斉掃滅および織田信長の名を冠する巨大兜を
表舞台に引っ張り出さんとする計画を盤石なものとするため、殿たちが攻めきれない
であろう箇所に存する兜らの拠点を私はこっそり、けれど確実に爆破して回っていた。

信貴山城
――というわけです。

久慈城
じぇじぇじぇっ!? 拠点を、爆破……!?

飯盛山城
まさか、私たちのためにそんなことをしてたなんて……。

龍王山城
阿呆……彼奴の出鱈目を信じるでないわ。

信貴山城
ほう……出鱈目、ですか。

信貴山城
して、その根拠は?

龍王山城
ぬしひとりで、畿内のあちこちを襲撃して回ったような
口振りじゃが、そのための移動手段はどう説明する?

龍王山城
まさか古天明平蜘蛛砲だとでも言うつもりか?

信貴山城
ええ。そうですとも。

信貴山城
私の相棒・古天明平蜘蛛砲は、
その気になれば時速七十里は出ますからね。

龍王山城
白々しい嘘をつくでないわ!
そんな挙動、わらわは一度として見たことないぞ!

信貴山城
……っち。勘の良い城娘め。

信貴山城
さすが、のじゃってるだけのことはありますね。

龍王山城
……あ? ぬし、いま何と言った?

信貴山城
…………。

信貴山城
……てへ♪

龍王山城
はぐらかすでないわ、信貴山城!

信貴山城
まぁ、今のは冗談として……。

信貴山城
貴方の言う移動手段ならば、ほらここに。

ツバサ
えへへ♪ 
ツバサの時空転移術でびゅっびゅーんなんだよぉー!

やくも
――ツ、ツバサ! 
どうしてあんたがこげなところにいるがや!?

千狐
てっきり所領で静養しているとばかり思ってたのに……。

ツバサ
うん! 最初は千狐おねえちゃんの言うように、
ちゃーんと所領内できゅーけーしてたんだよぉ~!

ツバサ
でも、殿たちが遠征に出発した後にね、
ふらふら~って突然しぎーちゃんが所領にやってきて――。

信貴山城
畿内遠征における別働隊として暗躍するから
とりあえず足代わりになれや、と頼んだわけですね。

千狐
で、ですがおかしいですわ! 

千狐
ツバサの転移術で各地を移動していたのならば、術の行使であったり、
信貴山城さんの霊気の遷移を、千狐が感じ取れないわけありません!

信貴山城
あら? 多聞山城から聞いてないのですか?

信貴山城
私、信貴山城は縁深き毘沙門天の加護を備えているため、
ある程度であれば霊気を隠匿することができるんですよ。

ツバサ
だから、ツバサもいんとくー!

多聞山城
……あ、貴方という人はそのような権能まで行使してっ!!

多聞山城
どうしてそう、相談もなしに勝手なことばかりするのですか!

信貴山城
敵を欺くにはまず――

多聞山城
――もういいです! 姉様は少し黙っててください!

三崎城
お、落ち着いてください、多聞山城さん!
信貴山城さんは我々のために行動していたのですから……。

雑賀城
やれやれ、さすがの多聞山城も信貴山城が絡むと
冷静ではいられないのは相変わらずのようだね……。

雑賀城
しかし何にせよ、この時点において戦力が増えるのは喜ばしいことだ。

雑賀城
それが未熟な神娘であれ、挙動不審の城娘であれ……ね。

信貴山城
挙動不審とはこれまた傷つく言い方ですね。

信貴山城
ですが、無駄に不興を買いまくってもいいことなんてないですからね。
最後の最後――本能寺での決戦くらいはきちんと殿の味方として頑張りますよ。

殿
…………。

殿
…………!

信貴山城
……ふふ♪

柳川城
(信貴山城さん……)

柳川城
(何か違和感を覚える……けど、それを明確に現す言葉が見つからない)

柳川城
(これが、梟雄・松永弾正久秀と縁深き城娘……ということなのでしょうか?)

信貴山城
それでは参りましょう。
千狐さん。転移術の準備をお願いします。

千狐
は、はい……!

千狐
今回は大人数での転移ですからね……。
ツバサ、貴方の力も貸してもらうわよ?

ツバサ
うん、任せて千狐おねえちゃん!
ツバサ、い~っぱい頑張るからね!

信貴山城
…………。

信貴山城
(さぁて、うまく転移できるといいのですがね……ふふ)

――同時刻。

桃形兜
ハァ……ハァ……ヨ、ヨウヤク……、
……越前ニ着キマシタネ、勝家様。

柴田勝家
ウム……近江マデ、あと僅かといったトコロだな。

柴田勝家
皆の者、疲レテイルことは重々承知しているが、
……此処で立ち止まるワケにはイカナイ……。

柴田勝家
一刻も早く、我々は信長様のモトへと辿り着かナクては――

柴田勝家
――ッ!?

桃形兜
ド、ドウシタノデスカ勝家様!?

柴田勝家
妙ダ…………殿一行ノ霊気群が神娘の
転移術にて移動ヲ開始シタようだが……。

柴田勝家
ドウシテ山城国ではなく、然様ナ場所に……?

桃形兜
……?

柴田勝家
イヤ、今は考えてイテも仕方あるまい……ッ!
我々は只管に山城国ヘト走り続けるのみヨ!

柴田勝家
待っていてくだされ、信長様――ッ!

兜軍団
アッ――置イテカナイデクダサイヨ、勝家様ァア~!!

――殿陣営。

ツバサ
ど~んっ! 時空転移術、完了だよ~!

千狐
何とか、皆さん無事に移動できたようですね。
どうやらここが山城――

千狐
――って、あ、あれ……?

柳川城
こ、ここは……!?

信貴山城
ふむ……どうやら山城国ではないようですね。

雑賀城
いや、そもそもここは畿内ですらない……。

やくも
だ、だにぃ!? じゃあうちらはいったい何処にいるがや!?

多聞山城
この景色はたしか――

丹波横山城
――ええ。我が故郷……丹波国です。

三崎城
丹波――たしか、山城国の西方に隣接する国という認識でしたが……。

飯盛山城
もしかして、転移術が微妙に失敗したということでしょうか?

ツバサ
千狐おねえちゃん……。
これって、ツバサのせい……なのかな?

千狐
いえ、我々の技量不足というよりは、
何か別の要因があるような気がするわ……。

千狐
だって転移術を行った直後に、
外部からの強力な力で無理矢理に引っ張られた感覚が――――

???
――フフ。賢しき神娘よ。
貴方の時空転移術……その高キ精度がアダとなりましたね。

雑賀城
お、お前は……!?

柳川城
明智光秀の名を冠する巨大兜……っ!

龍王山城
どうやら……ぬしがわらわたちをこの地に誘導したようだな。

明智光秀
然リ……。

明智光秀
貴方タチの行動は河内国で戦って以来、常に監視シテいましたカラね……。

明智光秀
信長様と戦うため山城国へと転移をする機に狙いを定めサエすれば……、
私と縁深き此ノ地にオイテは、転移地点の強制など造作無き事柄ニテ候。

龍王山城
やれやれ……こちらは信長と戦う気まんまんで
出立したというのに、何とも無粋な横やりじゃな。

柳川城
てっきり山城国にて、主と共に我々を
待ち伏せているかと思ってましたが……。

久慈城
恐らくは、予期せぬ強襲にて、少しでも我々の
戦力を減らさんとする算段……ということでしょう。

雑賀城
主を守らんとしての行動……か。
実に泣ける話じゃないか、光秀。

明智光秀
主ヲ守る……?

明智光秀
フ、フフフッ……雑賀城……。
……貴方は酷イ誤解ヲしていますネ。

雑賀城
なん、だと……?

明智光秀
此度の行動……その底意ハ結局――我が名に因する業デシカない。

明智光秀
そう……コレハ我が独断ニシテ主すらも予想せぬ横暴なれば、
サシもの信長様も、今頃はサゾ驚かれているコトでしょう……。

雑賀城
貴様……まさか、主の宿願を果たさせないつもりか?

明智光秀
当然デしょう……?

明智光秀
此ノ器が備えし魂ガ……刻まれシ逆心ガ……私に囁クのですよ。

明智光秀
信長様ノ命に背ケ、と……。

明智光秀
信長様ノ望を挫ケ、と……。

明智光秀
故に私ハ……貴方タチを此処で討ち果たす。

明智光秀
全テノ機が熟シタ此刻において、信長様は再び
『明智光秀』によって大望ヲ打ち砕かレルのです。

丹波横山城
光秀……相も変わらず、そんなやり方でしか己の情愛を示せないなんてね……。

丹波横山城
……ほんま、歪んどるわ。

明智光秀
ふふッ、其ノ険相すらも我ガ名に対スル私怨が生じさせたものナレば、
貴方ノ陳腐な誹り風情ガ、此ノ心奥に響くコトなど有り得ません……。

丹波横山城
それ…………挑発のつもりなのでしょうが……。

丹波横山城
ええ……これ以上ないくらいの効果ですよ、光秀っ!!

信貴山城
(む……丹波横山城さんの霊気が――)

多聞山城
(尋常ならざる高まりを示していますわ!)

丹波横山城
貴方を前にして、この丹波横山城が冷静でいられる道理なし……。

丹波横山城
我々が狙うは信長の首級なれば――。
斯様な前哨戦など一瞬で終わらせてさしあげますよ。

明智光秀
一瞬とは、大キク出ましたね、丹波横山城……!

明智光秀
覚悟ナサい……再び貴方タチの矜持すべてヲ撃ち砕き、
我ガ手によって美シク平らゲテみせましょう――ッ!!

後半
丹波横山城

光秀、今こそ我が雪辱――果たさせてもらうわっ!!

明智光秀
――グッ、ぁァア…………ッ!?

明智光秀
ハァ……ハ、ァ…………ま、まさか……貴方タチが……、
此程まで、の……武ヲ……獲得シテ、いようとは……ッ。

明智光秀
フ、フフフ……信長様……今ならば、本当に……貴方様の宿願が…………。

久慈城
殿、巨大兜が膝をつきましたっ!!
このまま一気に攻撃を集中させましょう!

信貴山城
ではでは、私のこのとっておきの爆弾で
光秀を木っ端微塵にしちゃいましょうかね。よいしょっと。

多聞山城
なっ……! 姉様、この距離でそれは!?

龍王山城
まずい、殿! 伏せるのじゃ!

信貴山城
さぁ……天罰です♪

そうして放たれた信貴山城の砲撃は見事に
明智光秀の名を冠する巨大兜に直撃する。

明智光秀
―――――――ッ!?

久慈城
じぇじぇ――っ!?
な、なんと強烈な爆風でしょうかぁ!!

飯盛山城
けほっ、けほっ……!
うぅぅ……け、煙がすごすぎて、目がぁ……目がぁ~!

雑賀城
お、おい! 信貴山城……こほっ、こほっ……!
この煙……明らかに煙幕のそれだぞ! 
配合を間違えたんじゃないだろうな?

信貴山城
うーん……どうやらそうみたいですねぇ。
いきなり試作品を使ったのが間違いでした。

龍王山城
し、試作って……信貴山城、ぬしというやつはぁ~!

多聞山城
ね、え、さ、まぁ~~~っ!!

信貴山城
こらこら怒る前にその破廉恥な風体を何とかしなさい、妹よ。

信貴山城
お姉ちゃん……貴方のそういうとこ、ちょっと心配よ。

多聞山城
くっ……誰のせいでこんな姿になったと思って――

信貴山城
――っと、そんなことよりもご覧ください。
だんだんと煙が晴れてきましたよ。

信貴山城
見えますか、殿……? どうやら巨大兜は、
私の一撃で完全にぶっ壊れたみたいですね。

殿
…………。

殿
…………!?

明智光秀
………………。

明智光秀
………………………………。

明智光秀
…………………………………………。

千狐
殿、巨大兜の霊気消失を確認しましたわ!

ツバサ
ってことは……!?

千狐
明智光秀の名を冠する巨大兜の撃破に成功したようですわ!

やくも
おぉ~! やったがや~!

三崎城
ほっ……ようやく、信長討伐における最大の障害を取り除けましたね、殿。

飯盛山城
これで、後顧の憂いなく山城国へと進めるというものです!

柳川城
…………。

信貴山城
あら、どうしたのですか?

柳川城
……いえ。あの巨大兜。
何か、様子がおかしいような……?

信貴山城
…………。

信貴山城
…………ふふ。

信貴山城
なるほど、流石は柳川城……。
やはり、貴方は――――ということですか。

柳川城
……え?

信貴山城
いえ、何でも……。

信貴山城
ただ、私の爆弾のせいで強敵を倒した実感がないのはわかりますが、
現に我々の目の前には、ああして動かなくなった器があるうえに――、

信貴山城
千狐さんも先刻おっしゃったじゃないですか……。
明智光秀の名を冠する巨大兜の霊気は消えた、と。

柳川城
…………。

信貴山城
…………。

柳川城
……わかりました。貴方ほどの城娘が、
討ち損ねるなどとは考えにくいですからね。

信貴山城
ええ……私を信じてください。
この信ずべき、貴ぶべき信貴山の城娘を……ね。

柳川城
…………。

殿
…………。

信貴山城
さぁ、それでは信長の待つとされる山城国へと向かいましょう。

信貴山城
……我々を阻むものは、もう何もないのですから。

殿
…………!

千狐
それでは殿。参りましょう!

信貴山城
……。

信貴山城
…………。

信貴山城
(光秀……)

信貴山城
(これで……約定は果たされた……)

信貴山城
(此世という舞台から、暫時ではありますが貴方は死者となったのです)

信貴山城
(……さぁ、往くがいい)

信貴山城
(其の真底に巣くう暗黒淵……本能寺の夢幻へと――)

――同時刻。

柴田勝家
…………桃形よッ! 
我ラはいま何処マデ来ている!?

桃形兜
近江国ニマデ到達シタヨウデス!

兜軍団
アト僅カデ我等ガ主・信長様ノオラレル山城国!

兜軍団
急ギマショウ、勝家サマ!

柴田勝家
ウム。光秀ノ霊気ガ消失した今、
殿一行が信長様ト戦うまでソウ時間ハナイ!

柴田勝家
……恐らくは殿ト信長様トノ戦ノ最中ニ到着ノ運ビトナロウ。

柴田勝家
ダガ逆ニ都合ガ良イノカモ知レヌ。
我々は後詰として殿ノ背後ヲ突ケバ、

柴田勝家
信長様ノ勝利ハ確実。さすれば――。

???
此世ノ体系ハ再ビ流転スル……ですかい?

柴田勝家
――ッ!?

???
ヤァヤァ……久方振りですなぁ、柴田殿ぉ。
拙者、首ヲなが~くシテ貴方様をお待ちシテおりましたぞぉ~!

第44話 夢幻業火 ~山城~[]

ついに山城国は本能寺へと辿り着いた殿一行。
先の戦よりも遙かに強化された織田信長の名を
冠する巨大兜を倒し、畿内遠征に終止符を打て!

前半
???

ヤァヤァ……久方振りですなぁ、柴田殿ぉ。
拙者、首ヲなが~くシテ貴方様をお待ちシテおりましたぞぉ~!

柴田勝家
猿……貴様、ドウシテ斯様な場所にいる?

桃形兜
――マ、マサカッ!? 

兜軍団
勝家様ト共ニ、信長様ト殿一行ノ戦ニ
後詰トシテ乗リ込モウッテ考エナンジャ!?

兜軍団
ソウダヨ! ソウ二決マッテル!

柴田勝家
ハッハッハ! 貴様のコトはいけ好かぬが、ナルホド。
我が武勇を頼りにしていたとは、見所のあるヤツだ!

柴田勝家
ウムッ!! ナラバ共に往くとしようデハないか!
我らが主、信長様ノ窮地をお救いせんが――

???
――おっと、何を勝手ニ盛り上がってンのか知りませんがァ、
……コッカラ先には行かせませんぜェ、柴田殿ォ?

柴田勝家
ナ――ッ!?

柴田勝家
ワシに刃を向けるとは……貴様ぁ! 気デモ狂ったか!?

???
狂う? 狂うデスって?

???
クク……クハッ、アハハハハハハ――ッ!!

???
こいつぁイイ! とっくに狂い始めテル此世にオイテ、今まさに
変則ノ行を取らんとしてるアンタが拙者ヲ狂兜扱いとはァッ!

???
イイですかィ、柴田殿ォ?

???
此世にオイテの本来のアンタは――柴田勝家は、
越中デ上杉景勝と戦ってナクちゃいけねェはずだァ。

柴田勝家
貴様……ワシが『柴田勝家』の名を冠する限り、
主を助ケントすることを許さぬト、そう言いたいのか!?

???
拙者がどうこうじゃねェんだよ、柴田殿……。
此世がアンタをそう規定しちまってるッテ話。

???
そう……アンタの名は本能寺にとっちゃ無粋に過ぎるのさ。

柴田勝家
……貴様ァ…………!

???
それに、これは信長様の意志でもあるんですぜ?

???
柴田ァ、お前さんは邪魔してくれるな……ってネ。

柴田勝家
戯れるなァ! もう貴様の妄言には騙されぬぞ!

柴田勝家
嘗てのワシは、政治的手腕において遅れをとったが、
いま――此世においては、力こそが全てなのだッ!!

柴田勝家
皮肉にも近江ガ地にて相見えたのダ……猿よ!
賤ヶ岳での怨嗟――今コソ晴らさせてもらうぞッ!

???
ハァ……やれやれ。自分ノ意思なのカ、
虚魂ノ煽動なのか分かったもんじゃねぇ。

???
ま、いい……アンタのその単純さはアル意味じゃ美徳だ。

???
ってことで、かかってきな……柴田殿。
格の違いってヤツを教エテあげますぜ。

柴田勝家
ぐッ……どこまでも人ヲ虚仮にしおってェッ!!

柴田勝家
貴様ヲ圧倒的なまでに破壊し、ワシは……、
必ずや信長様のモトへと辿り着いてみせる!

柴田勝家
いくぞぉぉぉぉおお! 秀吉ィィィイイイイッ!!

――数刻後・山城国。

殿
…………。

千狐
殿、今度こそ転移術成功ですわ!

ツバサ
さすがにこの人数での連続転移は疲れたけど、
何とか無事に山城に辿り着けてよかったよ~!

柳川城
…………。

やくも
ここが、本能寺……なんやね?

三崎城
それにしても、何だかやけに暑いですねぇ……。

飯盛山城
――って! ちょっとコレどういうことですか!?
見渡す限りの彼方此方に火の手があがってますよ!!

多聞山城
この炎は……まさかっ!?

信貴山城
ええ、間違いありません。あれは、ただの炎ではなく……、
信長の名を冠する巨大兜の霊気が顕現したものでしょう。

久慈城
そ、そんなことが……起こりえるのでしょうか?

雑賀城
ヤツの内包する力の強大さを考えれば不可解なことではない。

丹波横山城
現実世界への干渉を可能にするほどの霊気と業……。

龍王山城
そして、それすらも上回るほどの黒き執念が
眼前の炎を具現させているのじゃろうな……。

???
――思えば此の世は……常の住処にあらず。

殿
…………!?

織田信長
草葉に置く白露……水に宿る月より、猶あやし。

多聞山城
これは……幸若舞の演目が一つ、敦盛……!?

丹波横山城
生前の信長が、好んだとされていますが……。

雑賀城
まさかボクらを出迎えるのが、巨大兜による舞とは……皮肉なものだ。

三崎城
ですが、戦国大名であれば、多かれ少なかれ誰であろうと……、
斯様な儀式や、それに近しき己を律する術をもっていたとされます。

飯盛山城
歌を詠む城娘だからでしょうか……。
あの巨大兜が行わんとしていることが、私には理解できます。

飯盛山城
あれは、霊妙なる神気……そして、凄絶なる鬼気とを、
異形なる器に同居させんがための謡に他ならない……。

織田信長
金谷に花を詠じ……栄華は先立ちて無常の風に誘はるる……。

織田信長
南楼の月を弄ぶ輩も……月に先だちて有為の雲に隠れり……。

久慈城
殿……ご準備を。
既にここは死地に変じてございます。

久慈城
あの謡の終わりが……恐らくは、
ヤツの戦準備が結ばれた合図となりましょう。

織田信長
……人間五十年。

織田信長
下天の内をくらぶれば……夢幻のごとくなり……。

織田信長
ひとたび生を享け……滅せぬ者のあるべきか……。

織田信長
滅せぬ者の…………あるべき、か…………。

信貴山城
……謡が、止んだ。

龍王山城
ヤツの霊気が、これまで遭遇した
どの巨大兜よりも強力なものとなっておる……。

龍王山城
……ついに、始まるのだな。

織田信長
殿よ……。

殿
…………。

織田信長
……人の世の五十年など、下天の一昼夜に過ぎぬ…………。

織田信長
故に……今日という日を、今というこの一瞬を、苛烈に生きぬくは必定……。

織田信長
先の光秀の暴挙も……彼奴自身の命が選択の果てなれば、

織田信長
……此の闘争も、連綿たる刹那を一義とする我が信条の結実なり。

殿
…………。

殿
…………!

織田信長
ああ、そうだ……。

織田信長
……燃やせ。

織田信長
我らを囲む、夢幻の業火よりも猶熱く、
己が生命を燃やし、予を討ち取ってみせよ!

千狐
織田信長の名を冠する巨大兜が、武器を執りましたわ!

柳川城
ここで決着をつけましょう!
殿、我々城娘に聡明なる御下知を――っ!!

後半
多聞山城

さぁ、姉様!今こそ我らが武勇を示す時ですわ!

信貴山城
はいはい。天罰天罰ぅ。

飯盛山城
もぉ、最後くらい真面目にやってくださいよぉ~!

丹波横山城
こら、貴方も油断してる場合じゃありませんよ!

久慈城
そうですよ! ここが踏ん張り時なんですからぁ!

織田信長
――――ッ!?

雑賀城
今度こそ……逃がしはしないぞ、信長っ!!

三崎城
雑賀城さん、私も援護しますよっ!

織田信長
ぐッ…………ッ!!

龍王山城
長きに渡ったこの戦にも……そろそろ幕を引くとしようか。

龍王山城
わらわの焔と共に、ぬしの一撃を見舞ってやれ、柳川城!

柳川城
はい! この一撃に全霊力を込めます――っ!!

織田信長
が――ッ、は……ぁぁ……!!

殿
…………!!

織田信長
み、見事……なり…………。

織田信長
……これが、予が望みし武……。

織田信長
…………それが、予の夢想せし形にて……。

織田信長
……………………孕みし邪悪を屠る、か……。

殿
…………!

織田信長
ああ……とどめを、さすが……いい……。

織田信長
貴様には……その資格が……そして、責任が……ある……。

織田信長
……己が意志で……未来を……在るべき世界を……掴んでみせ、よ……。

殿
…………。

殿
…………!

そして構えられた一刀が、鋭き呼気と共に振り下ろされる。

――が。

???
生憎ですが……貴方たちに信長様は殺させませんよ……。

龍王山城
――なっ!? 
背後からの銃撃じゃと!?

柳川城
殿、伏せてください――!

殿
…………!?

遠来する三連の銃弾――。

それは、殿ではなく、ましてや城娘でもなく……、

織田信長の名を冠する巨大兜の身体を鮮烈なまでに穿ったのであった。

織田信長
……桔梗紋の刻まれし……弾丸…………そうか、これ……は……。

???
ええ……ソウですよ、信長様……。
貴方ヲ討ち取っタのは、この私……。

明智光秀
惟任日向守コト――明智”十兵衛”光秀にて候。

丹波横山城
な……っ!?

多聞山城
そんな……どうして貴方がここに!?

飯盛山城
こ、こんなの……おかしいですよ!
だって、光秀は丹波で……私たちが倒したはずじゃ……。

明智光秀
ええ、ソウですとも。私は貴方たちに倒されタ……。

明智光秀
然様ナル事実があったからこそ、コウシテ誰にも気づかれることなく、
私は死者トシテ此世に規定サレ……本能寺に潜むコトがデキた。

明智光秀
而シテ……我が愛しき主を此の手で……フフフ。

織田信長
……光秀。

織田信長
やはり、貴様……なのか……。

織田信長
此世においても……貴様こそが、予を……。

明智光秀
……ええ。貴方ヲ殺すのは、イツであろうと……、
如何ナ世であろうと……コノ私でなくてはイケないのです。

明智光秀
だからこそ、数多ノ城娘にも……殿にも……ソシテ『あの御方』にも……、

明智光秀
貴方様ノ魂ヲ……渡シハ、しない……。

織田信長
フッ………………まったく、貴様という……やつ、は…………。

織田信長
……………………是非も………………無し…………。

織田信長
…………………………………………………………。

明智光秀
…………。

明智光秀
……実に、長い旅路でありました、信長様…………。

明智光秀
貴方様ノ魂に触れるため……私がどれほどの刻を廻ッテきたか……。

そう呟きながら、明智光秀の名を冠する巨大兜は、
己が主の器を抱きかかえ、殿たちに対して背を向ける。

丹波横山城
待ちなさい、光秀……!
いったい何処に行くというのです!

明智光秀
……何処ニ、行く…………?

明智光秀
ソレはまた、難解な問いですね……。

明智光秀
我等ガ魂は何処カラ来て、何処へ向かうのカ……。

明智光秀
ソレを知らんとすればこそ、私は此ノ地、此ノ刻にて……。

明智光秀
我が愛しき主と共に……心魂ヲ焼かれんと欲したのですよ……。

信貴山城
…………。

明智光秀
――さぁ、信長様……参りましょう……。

明智光秀
これからは、ずっと……この光秀が貴方を―――。

織田信長
…………………………………………………………。

歩み行くは、夢幻の業火――。

果たして、二体の異形は焔の顎門に飲み込まれていった。

千狐
織田信長の名を冠する巨大兜の霊気……消滅。

信貴山城
同時に、明智光秀の名を冠する巨大兜も…………ね。

三崎城
い、いったい……何が、どうなっているのでしょうか?

やくも
とにかく、悩むのは後にするだに!
こっちまで火の手が回ってきちょーけん、はやー逃げんと全滅だに!

ツバサ
千狐お姉ちゃん――っ!

千狐
ええ。すぐにでもこの地から脱出するわよ!

千狐
コンッ! 秘技・時空転移術なのぉ――っ!!

――同時刻・近江国。

柴田勝家
そんナ………………。

柴田勝家
……そんナ……バカ、な……。

柴田勝家
信長様の、霊気ガ……消エタ……。

柴田勝家
完全に、此世カラ……消エテしまわれた…………。

柴田勝家
……ぁぁ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――ッ!!

秀吉
……いやァ、せっかく近江マデ来たというのに、
まったくの徒労ニ終わりマシたなァ、柴田殿ぉ?

柴田勝家
許サヌ……許サヌぞぉぉぉおおッ!!

柴田勝家
秀吉! 貴様サエいなければァァ!!
貴様サエいなければァァあぁああああ!!

秀吉
ハハハハッ! そう、そうですヨ、柴田殿ォ!
拙者さえイナケレバ、アンタは英雄となれタはずだ!

秀吉
ダガぁ……このままじゃアンタは勝てなァい……。
どうやったってこの秀吉には勝てないんだなぁコレがァ!

秀吉
今日トイウ日をもって、我らが主君――信長様は消え、
拙者という木偶は、鬼柴田であるアンタさえも圧倒した。

秀吉
ならばもう、名乗るべきですよねぇ……?

秀吉
貴方からもらった『柴』の字でもなく、

秀吉
賜った『平』でもなければ『藤原』でもない……。

豊臣秀吉
ここから生まれる新たな乱世を統制せんがために、敢えて――、
そう、敢えて俺は『豊臣秀吉』と名乗らせてもらうとしましょうかぁ!

柴田勝家
…………其ノ名……其ノ業……其ノ魂……。

柴田勝家
必ずやワシが……滅ぼしてクレようぞ……。

豊臣秀吉
……ええ。お待ちしてますぜ、柴田殿ぉ。

柴田勝家
……………………。

ぎらつく眼光による睨め付けが終わりを迎えると共に、
柴田勝家の名を冠する巨大兜は、その巨躯を闇夜に消していった。

そして、残された異形は新たな詞を世に紡ぐ――。

豊臣秀吉
さぁ、今より興るは真の乱世……。

豊臣秀吉
信長様……貴方のいない戦国時代を、此処からやり直すとしましょうか。

――半刻後・所領。

殿
…………。

柳川城
何とか、全員無事に本能寺から脱出することができましたね。

三崎城
ですが……私たちは、本当に織田信長を倒したのでしょうか?

雑賀城
それについては、間違いないと思う……。

雑賀城
千狐の感じとった霊気の消滅や、
あの本能寺の炎の作用からして、

雑賀城
ヤツの魂が無事である可能性は万に一つもないだろう。

丹波横山城
……ただ、明智光秀の名を冠する巨大兜の復活を目の当たりにした今、
そうした断定はあまり意味を持たなくなってきてるというのも事実……。

飯盛山城
やっぱり、そこ……ですよね。

久慈城
どうして、倒したはずの巨大兜が……すぐに蘇ったのでしょうか?

多聞山城
……簡単な話ですわ。

久慈城
え……?

多聞山城
そもそも我々は、明智光秀の名を冠する巨大兜を倒してはいなかった。

多聞山城
そう考えれば、全ての辻褄が合いますわ。

多聞山城
そうでしょう、姉様?

信貴山城
……ほぇ?

多聞山城
…………。

信貴山城
はいはい。わかりましたよ。全てとは言わずとも、
貴方は大体の事柄を察したようですからね……。

信貴山城
ええ、そうですとも。多聞山城の考えている通り、
私たちは、あの明智光秀の名を冠する巨大兜を倒してはいない。

信貴山城
覚えていますか、私があの時に放った爆弾を……?

三崎城
煙がもくもくもく~って、出て来て……。

飯盛山城
……目が開けてられないくらいで、咳もコンコン出て、

久慈城
巨大兜すらも見えないくらいの異常状態になりました……。

信貴山城
そう……あの時、我々の視界からは暫時、
明智光秀の名を冠する巨大兜は完全に消えた。

信貴山城
……そこを見計らって、
予め用意してあった空の器と、巨大兜の本体がすり替わった。

信貴山城
……簡単に言えばこんな感じですね。

千狐
空の器と、本体が……。

やくも
……入れ替わった?

飯盛山城
な、何でそんなことがわかるのですか?

柳川城
敵と、内通していたから……。

柳川城
……そうですよね、信貴山城さん?

信貴山城
…………。

信貴山城
…………さぁ、どうでしょう?

多聞山城
姉様! この期に及んでまだそのような態度を取るのですか!?

多聞山城
すり替わったとされる明智光秀が、
我々や信長にすら知覚されずに済んだのは、

多聞山城
姉様が持つ、毘沙門天の加護の力を使ったからなのでしょう!?

信貴山城
……仮にそうだとして、何だというのです?

信貴山城
私があの巨大兜と画策し、丹波での茶番を演じて見せた……。

信貴山城
その事実は、如何な言葉を尽くそうと変わりはしない。そうでしょう?

多聞山城
……開き直りの潔さは認めましょう。

多聞山城
ですが、今回ばかりは我々の信頼を
裏切ったことに他なりませんよ、姉様。

信貴山城
…………。

多聞山城
…………。

ツバサ
ケンカはだめだよぉ~!

多聞山城
ツ、ツバサ……っ!?

ツバサ
ツバサね、殿たちが遠征に出発した後、ずっとしぎーちゃんと一緒にいたよ!

ツバサ
でもね、皆を裏切るために兜の仲間になってたなんて、そんなことないもん!

久慈城
……じゃ、じゃあどうして巨大兜とあのようなことを。

ツバサ
えっと、えっとぉ……。

ツバサ
そうだ! ツバサ、思い出したよぉ! 

ツバサ
確かね、しぎーちゃんは取引をしたんだよ!

信貴山城
……ツバサ、やめなさい。

ツバサ
何で? しぎーちゃんは悪くないってちゃんと説明しなきゃ!

信貴山城
そんなこと、いいから……。

ツバサ
よくないよ! しぎーちゃんが悪く言われるの、ツバサいやだもん!

ツバサ
あのね、殿! しぎーちゃんはね、あの光秀って巨大兜に、
本能寺の戦では殿たちには手を出さないように――って!

ツバサ
それでもって、信長にも協力をしないでぇって!
そういう約束をしたの、ツバサはちゃんと聞いてたもん!

信貴山城
…………。

龍王山城
ほぉ……。

龍王山城
なるほどなるほど、そういうことじゃったか、信貴山城。

信貴山城
……な、何ですか、その笑みは?

龍王山城
ぬっふっふ。ぬしも可愛いところがあるではないか……。
まさか憎まれ役を買ってまで我々を助けようとしたとはな。

飯盛山城
……ど、どういうことですか?

龍王山城
わらわの推測まじりではあるが、つまり信貴山城はだな――

龍王山城
ツバサと共に畿内における兜の拠点つぶしをしていた折に遭遇したであろう
明智光秀の名を冠する巨大兜に対し、あることを提案したのじゃ。

龍王山城
――殿が織田信長の名を冠する巨大兜を討つ間、邪魔をしてくれるな、と。

三崎城
……確かに。よく考えてみれば、丹波にてわざわざひとりで戦うよりも、
本能寺で、信長と共に私たちを迎え討っていた方が勝算はずっとあったはず。

久慈城
じゃあ、本当に信貴山城さんは……我々のために?

信貴山城
…………。

龍王山城
そして……本能寺における光秀の言動から察するに、
彼奴は主である信長を自らの手で屠らんと望んでいた。

龍王山城
その野望を果たさんがために、丹波での器のすり替えと
霊気隠匿の助力を信貴山城に頼んだのじゃろう……。

龍王山城
違うか、信貴山城よ?

信貴山城
…………。(ぷい)

ツバサ
うん、そうだよー! さっすがりゅーおーちゃん! 名推理~!

信貴山城
こ、こらツバサ! どうして貴方は口を閉じていられないのですか!

龍王山城
はっはっは! ツバサが隣にいる限り、
此度のことについては隠し事はできぬようじゃのぉ、信貴山城。

信貴山城
……はぁ。
まあ、いいでしょう。

信貴山城
ただ、私が兜と結託した事実は変わりません……。
……罪を罰してほしいなどとは死んでも口にしませんが、

信貴山城
厚顔を以て殿の御側にいようなどとは思いませんので、
とりあえず、今日のところはこれで失礼します…………。

多聞山城
あ、姉様……! 待ってください! 
まだ話しは終わってませんよ――っ!

殿
…………。

柳川城
信貴山城さんたち……行ってしまいましたね。

龍王山城
許してやってくれ、殿……。信貴山城のやつ、
珍しく善意から協力をしようとしてくれたようじゃが、

龍王山城
如何せん、やり方がやり方だったからじゃろうな。
……彼奴なりに後ろめたさを感じているのじゃろう。

雑賀城
珍しいな。キミが信貴山城の肩を持つなんてね。

雑賀城
……てっきり忌み嫌っているもんだと思ってたが?

龍王山城
嫌っているからこそ、彼奴のことはある程度理解しておるのじゃ。

龍王山城
それに、此度の畿内遠征は、もともと信貴山城ら姉妹の立てた計画じゃ。
肝要たる部分においての功を考慮すれば、下手に責めるわけにもいくまい。

丹波横山城
……ああ見えて、信貴山城さんは責任感が強いですからね。

龍王山城
ふん……。じゃが不器用に過ぎる。もう少しわらわたちを
信頼してくれれば、異なるやりようもあったというのに。

殿
…………。

殿
…………!

飯盛山城
そうですね! いろいろありましたが、何とか皆さん無事に
畿内における兜討伐を完了させることができたわけです!

雑賀城
まだまだ後処理は多く残っているだろうが、
ボクらの故郷から兜を一掃できたことには変わりない。

丹波横山城
となれば、今は互いの健闘を祝すべき……といったところでしょうか?

久慈城
じぇっ! ここまでものすご~く長い間たたかってきた気がしますし、
今日くらいは皆さんいっしょに勝利の余韻に浸っちゃうべきかとっ!

三崎城
それじゃあ、いよいよマグロ大宴会の開始ですね、殿!

龍王山城
これこれ、遠征中に何度もマグロ料理をふるまってもらったゆえ、
今日ばかりは勘弁してほしいのじゃぁ~!

三崎城
え~! じゃあ、他に何を食べたいというのですかぁ?

丹波横山城
でしたら、我らの郷土料理をそれぞれ振る舞うというのはどうでしょうか?

雑賀城
……え? それって、ボクもやらなきゃいけないのか?

龍王山城
なんじゃ、雑賀?
ぬし、さては料理なぞしたことがないとでも?

雑賀城
……そんなわけあるか。料理なんてバカでもできる。

龍王山城
ほぉ、ならば腕前をみせてもらいたいものよなぁ?

雑賀城
……ふん。そんな安い挑発に誰がのるか。

龍王山城
なんじゃとぉ……!?

飯盛山城
ああもう、ケンカしないでくださいよぉ~!

ツバサ
そうそう、せっかくお祝いなんだから仲良くしないとー!

やくも
だにぃ! あのものすっごい巨大兜さんを倒したんやから、
え~っぱいお祝いするがやぁ~♪

千狐
もう、やくもったら……はしゃぎすぎちゃダメだからね?

柳川城
…………。

殿
…………?

柳川城
あ、す、すみません、殿……未だ先の戦いでの高揚が
解け切れておらず険しき表情をしてしまっていたようです。

柳川城
……とはいえ、我々は、
あの織田信長の名を冠する巨大兜を倒したのです。

柳川城
きっとこれで、日の本を取り巻く事態は好転すると思います。

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
はい! 皆さんと共に今日の勝利を祝いましょう!

龍王山城
うむ! それでは宴に興じるとしようではないか、殿よ♪

こうして長き戦いを経た殿たちは、各々の険相を笑みに変え、
今日という日を迎えられたことを朗らかに祝い合うのだった――。

――四半刻後。

多聞山城
姉様――! 待ってください姉様っ!!
お願いですから私の話を聞いてください!

信貴山城
……む。今日はやけにしつこいですね。
姉好きもそこまでにしないと周りにひかれますよ?

多聞山城
そ、そういうことではありません! どうして貴方は、
そのように殿たちと距離を取ろうとするのですか!?

信貴山城
……そんなの決まってます。

信貴山城
彼処に、私のような存在がいてはいけないからですよ。

信貴山城
…………。

信貴山城
――なんて、どうです?
ちょっとそれっぽい感じでしょう。

信貴山城
それに、思惑通りにツバサは、良きところで
私に関しての弁明をしてくれましたからね。

信貴山城
おかげで今の私の好感度は天井知らずです。

信貴山城
えへへ、しぎーちゃん大勝利ぃ♪

多聞山城
姉様……。

多聞山城
どこからどこまでが本当なのか、今の私には知る由もありませんが……。

多聞山城
此度の一件において、巨大兜と結託してまで
殿を救おうとしたこと……改めて感謝しますわ。

信貴山城
あら、先ほどはあんなに責め立てていたのに、
いったいどういう風の吹き回しですか?

多聞山城
……だってあの場は、誰かが姉様を問い詰めなくては
事態がより悪化しかねないと、そう思ったから……。

信貴山城
とか何とかいって、最初はけっこう感情的でしたよね、貴方。

多聞山城
し、仕方ないでしょう? 
姉様のこと、本当に心配していたんですもの。

信貴山城
やれやれ……いつまでたっても姉離れができないんだから。

信貴山城
……それに、感謝なんてのは私には不要ですよ、多聞山城。

信貴山城
今回のことは、好奇による心情の方が、
己が原動としては遙かに強いですからね。

多聞山城
けれど、それ以上に……。

多聞山城
光秀の取らんとした行動に対して、
姉様は自らを重ねていたという側面もあるのでは?

信貴山城
…………。

信貴山城
そこまで気づいていたとは、さすがは我が妹。

信貴山城
ええ。そうですとも、あの明智光秀を名乗っていた巨大兜は、
此世の理すらも超越せんとして、主殺しという暴挙に出たのですからね。

信貴山城
あれはいわば――此世に対する反逆行為。

信貴山城
偽物であろうと、かつての主君の魂を『あの御方』なる
存在から解放せんと、独り立ち回って見せたのです。

信貴山城
実に、面白き話ではないですか。

多聞山城
……姉様、やはり貴方は――

信貴山城
――ええ。此度の遠征で、私は確信しました。

信貴山城
我々のいるこの世界は、本来ありえるはずのない刻の中にあるのだと。

信貴山城
だってそうでしょう?

信貴山城
私たちの知る、本来あるべき歴史の知識には――。

信貴山城
関ヶ原の大戦の最中に、あんなものは落ちてないのですから。

――同時刻・某所。

今川義元
ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ! 
目障リダッタ信長ガ呆気ナク逝キヨッタワ!

今川義元
コレデ今川ノ天下ハ確実――ッ!
今度コソ余が日ノ本ノ覇者トナルノダ!

???
……ええ。義元様ノ仰せの通りデございます。

???
ですが、どうか油断ナサラヌように。

???
甲斐ノ虎も越後ノ龍も……ジキに目覚めるコトとなりましょう。

???
コチラに関しては、如何なさいますカ?

今川義元
フムゥ、確カニ面倒ナ手合デハアルガ、
然様ニマデ案ズル必要モアルマイテ……。

今川義元
何故ナラバ、此世ノ余ニハ貴様ガイルノダカラナ。

???
…………成程にございマス、義元様。

???
ナレバ、不肖な我が身、我が武勇ニテ、
義元様のご期待に応エテみせましょう。

今川義元
ウムッ! ウムゥッ! 我ラ今川軍ニヨル天下統一ハ此ヨリ始マルノダ!
ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ!

不気味な笑い声が冥き天へと響き渡っていく。

それは、新たなる脅威の産声が如く――、

???
……………………。

戦国なる刻に秘された深き業を――、

???
……………………。

――此世に、目覚めさせていくのであった。



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