ストーリーテキスト/天下睥睨の蛇眼

ページ名:ストーリーテキスト/天下睥睨の蛇眼

目次

天下睥睨の蛇眼[]

天下睥睨の蛇眼 -序-

イチョウの木の下で、殿たちは二人の少女と出会う。
互いに何者なのかを語らおうとした矢先、
突如として動物型の兜に取り囲まれてしまう……。

前半
肥後千葉城

はぁ……はぁ……もう歩けないよぉ。
隈ちゃーん、おんぶしてぇ……。

隈本城
もう少しだけ頑張ってお姉ちゃん。

隈本城
あともうちょっとで、私たちの失われた城娘の力を
取り戻す為に必要なイチョウの葉のある場所に着きますから。

肥後千葉城
そうは言っても、もうお姉ちゃんは無理だよぉ……。

肥後千葉城
一歩だって歩けはしな――って、ああぁっ!?

肥後千葉城
ねえねえ、隈ちゃん! もしかして、
私たちが探してたのって、あれじゃないの!?

肥後千葉城
うん、そうだよきっと!
うっすらとだけど、不思議な力を感じるもん!

隈本城
あ、ちょっとお姉ちゃん!
そんなに急に走り出したら危ないってば!

肥後千葉城
だいじょーぶっ!
こんなところで転ぶようなお姉ちゃんじゃないよーだ!

肥後千葉城
――きゃっ!?

隈本城
お姉ちゃんっ!?

肥後千葉城
うぅぅ……転んじゃったよぉ。
ぐすっ、ちょっとだけ服も汚れちゃったぁ……。

隈本城
もう、だから言ったのに……。

隈本城
ほら、手を貸しますから。
そんなにすぐ泣かないで、お姉ちゃん。

肥後千葉城
えへへ。隈ちゃんはやっぱり優しいね!

肥後千葉城
私、隈ちゃんのお姉ちゃんで本当に良かったよぉ!

隈本城
はいはい、分かったから抱きつくのは
服の汚れを払ってからにしましょうね。

隈本城
――はい、綺麗になった。

肥後千葉城
ありがと、隈ちゃん♪

肥後千葉城
それじゃあ、そろそろ行こうか!

隈本城
はい! 私たちに縁深きイチョウの葉を集め、
再び城娘としての力を取り戻す為に頑張りましょう、お姉ちゃん!

肥後千葉城
おおーーーっ♪

――出羽国某所。

肥後千葉城
わぁ、綺麗なところだね!
隈ちゃんも早くおいでよ~!

隈本城
はいはい、ちゃんと後についてますよぉ。

肥後千葉城
ああ~っ!? 見てごらんよ!
あそこに早速イチョウの葉があるよ、隈ちゃん!

隈本城
本当ですね! さっそく採りに行きましょう!

肥後千葉城
えへへ、幸先がいいねぇ!
これで一つ確保ぉーっ!

隈本城
――あ、待ってお姉ちゃん!
前っ! 前を見てぇーーっ!

肥後千葉城
……え? 前?

肥後千葉城
――きゃぁっ!!

やくも
――痛ぁっ!?

やくも
な、何するがや!
急に飛び出してきてうちに頭突きするとは、
どういう了見だにぃ!?

肥後千葉城
ご、ごめんなさいぃ。
まさかこんなところに人がいるなんて……。

千狐
どうしたの、やくも?
急に大声なんて出して……?

千狐
――って、貴方たちはいったい?

隈本城
申し訳ありません。
先ほどお連れの方に、私のお姉ちゃんが
見事なまでの頭突きをしてしまったようで……。

隈本城
あの、お姉ちゃんには決して悪気はないんです。

隈本城
ただ、息を吸うように他人様に迷惑をかけちゃうだけで……。

隈本城
……そう、あるのは根拠の無い自信だけなので、
本当に、お姉ちゃんに害意などは存在してないのです。

肥後千葉城
うぅぅ……隈ちゃんがひどいことばっかり言ってるよぉ……。

隈本城
だからどうか許してあげてください。
この通りです……。

千狐
あ、いや、そこまで何度も頭を下げられると
何だかこちらの方が悪いことをしてしまったような気が……。

やくも
うちも、もう気にしてないだに。
顔を上げてほしいがや……。

やくも
それに、ここで出会ったのも何かの縁だに!

やくも
うちの名前はやくも。で、こっちが千狐。
良かったら仲良くさせてほしいがや!

肥後千葉城
わぁ~!
棚牡丹的にお友達ができちゃったよぉ、隈ちゃん♪

隈本城
……お姉ちゃん。ちゃんと反省してますか?

隈本城
千狐さんたちが良い人だったからよかったものの、
もしこれが兜だったら、城娘の力を失っている私たちは一巻の終わりでしたよ。

千狐
――え?
い、今なんと仰ったのですか?

やくも
たしか、城娘がなんちゃらって言ってただに!

隈本城
……もしかして、
千狐さんたちは城娘についてご存じなのですか?

やくも
知ってるも何も、うちの殿さんは、
城娘たちと一緒に兜退治をしちょるだに!

肥後千葉城
……とのさん?

肥後千葉城
それって、どんな方なのかな?

やくも
どんなって……。

やくも
――あっ、殿さーん!
ちょうど良かっただに!
紹介したい城娘たちがいーけん、こっちに来てほしいがやー!

肥後千葉城
え、どこどこ?
どっからその、殿さんって人が来るのですか?

殿
…………。

肥後千葉城
――あっ。

肥後千葉城
…………との、さん?

殿
…………!

肥後千葉城
…………。

肥後千葉城
…………。

隈本城
お、お姉ちゃん?
どうしたのですか、急にもじもじしだして……?

肥後千葉城
(どうしよう、隈ちゃん……)

肥後千葉城
(殿を見ると、胸がどきどきして……身体が、かぁ~って熱くなって……何これ?)

隈本城
――なっ!?

隈本城
お姉ちゃん、もしかして……っ!

肥後千葉城
多分そうだよ!

肥後千葉城
殿に出会ったせいで私、ヘンな病気になっちゃったんだよぉ……っ!

隈本城
……はい?

隈本城
いや、たぶんそれはお姉ちゃんが殿に――

肥後千葉城
――と、とにかく、今は殿のそばから離れるよぉ……!

隈本城
あ、ちょっとお姉ちゃんってば!

千狐
いったい、どうしたのでしょう?
急に走り出してしまいましたけど……?

やくも
何だか殿さんを見て、逃げ出したような感じだっただに。

隈本城
ごめんなさい、お姉ちゃん恥ずかしがり屋なので、
男性の方を目の前にして混乱してしまってるみたいです……。

肥後千葉城
――きゃぁぁぁぁああっ!?

肥後千葉城
隈ちゃーん、た、たた、助けてぇーーーーっ!!

隈本城
――お姉ちゃんっ!?
いったい、どうしたの!?

千狐
……あ、あれは!?

動物型兜
グルルル……ガウガウッ!!

千狐
動物型の兜ですわ!
殿、彼女を助けに行きましょう!

後半
隈本城

――大丈夫、お姉ちゃん!?

肥後千葉城
う、うん……何とか、無事みたい……あはは。

殿
……。

肥後千葉城
あ……と、殿……っ!?

肥後千葉城
(ど、どうしよう……また、胸がどきどきしてきちゃってるよぉ……)

殿
…………!

肥後千葉城
――ひゃいっ!
あ、ありがとございますぅっ!

肥後千葉城
お、おお、おかげさまでっ、こんなに無事で……、
もう、ほんとびっくりするくらい元気なまま生還を果たしましたです!

隈本城
お姉ちゃん……日本語が変だよぉ……。

千狐
何はともあれ、無事で良かったですわ。
えっと……。

隈本城
申し遅れました。
私は隈本城。そしてこちらが姉の肥後千葉城です。

肥後千葉城
ふ、不束者ですが、そ、その……末永く、どうぞ宜しくであります!

隈本城
ちょっとお姉ちゃん、しばらく静かにしててください……。

肥後千葉城
わ、分かったですよ、隈ちゃん!
私、静かにしてるね! あっちの方で、静かにしてるからね! それじゃ!

やくも
また殿さんから逃げるように走って行っただに……。

やくも
う~ん……不思議な城娘だに。

千狐
あの、失礼ですが、
隈本城さんたちからは城娘としての力を
ほとんど感じませんが、これは一体どういうことなのですか?

隈本城
実は、少し前の話になるのですが……。

隈本城
私たちの故郷に巨大兜が現れ、
ヤツとの戦いの際に不覚を取り、
城娘としての力を失ってしまったのです……。

千狐
巨大兜との戦いで、城娘の力を失ったのですか……!?

隈本城
はい……。

隈本城
こうして命があることは奇跡と言うしかありません……。

隈本城
……ヤツは、我々を殺す価値も無いとでも言うように、
力を奪った後、すぐに撤退していったのです……。

隈本城
ですが、いつまでもそのことで
立ち止まっているわけにもいきません。

隈本城
私とお姉ちゃんは、
再びそれぞれの城娘としての力を取り戻す為、
此の地に来たのです。

やくも
此の地にくれば、あんたらの力が戻るがや?

隈本城
訪れるだけでは、効果は微々たるものですが、
ここは私たち姉妹にとっては浅からぬ縁のある場所故、
城娘としての力の源となる、あるものが存在するのです!

隈本城
それがこれです!

千狐
これは、イチョウの葉ですか……?

やくも
あ~っ!? それ、さっきうちが拾おうとしたやつやね!

隈本城
はい。これこそが、私たちの城娘としての力を
取り戻すのに必要なものなのです。

やくも
ということは、さっきは
うちが二人の邪魔をしてしまったっちゅーことやね……。

やくも
ごめんなさいだに……。

肥後千葉城
ぜんぜん気にしなくていいんだよ、やくもちゃん!

やくも
――おわっ!? いつの間に戻ってきただに!?

肥後千葉城
さっきは取り乱してごめんね。
やっと冷静になれたから、戻ってきちゃいました!

肥後千葉城
で、あっちで少し考えてみたのですが、
もしよかったら、このイチョウの葉を集めるのを
手伝っていただけないでしょうか?

隈本城
お姉ちゃん、それはいくらなんでも厚かまし過ぎる気が……!

千狐
いえ、こちらからも、
今まさにそれを提案しようと思っていたところですわ。

千狐
ご迷惑でなければ、是非とも手伝わせてください!

肥後千葉城
本当に!? わーい、ありがとうございます!

肥後千葉城
頼んでみるものだね、隈ちゃん!

隈本城
もう、私に相談も無しに勝手に決めて……。

隈本城
ですが、お姉ちゃんのおかげで、
とても心強い味方を得られたのも確かです。

隈本城
殿、これから宜しくお願いしますね。

肥後千葉城
よーし、それじゃあさっそくイチョウの葉を集めちゃいましょう!
頑張るぞーっ!!

天下睥睨の蛇眼 -破-

「イチョウの葉」集めを開始した殿たち。
だがそんな折、川を挟んだ対岸に、
今までに見たことのない兜を目にする。

前半
肥後千葉城

隈ちゃん、見て見て~!
またイチョウの葉っぱ、見つけちゃったよぉ!

隈本城
良かったね、お姉ちゃん!
私ももっと頑張らないと。

肥後千葉城
……あれ? ねえねえ隈ちゃん?
今何か後ろ手に隠さなかった?

隈本城
……え?

隈本城
あ、いやこれは……別に何でも……。

肥後千葉城
え~? 何も隠すことないじゃん。

肥後千葉城
ほらほら、お姉ちゃんに見せてごらんって!

肥後千葉城
…………あ。

肥後千葉城
イチョウの葉がこんなに……たくさん……。

隈本城
こ、これは偶然まとまったものを
さっき見つけてしまっただけで……。

隈本城
(ど、どうしよう……お姉ちゃんに気を遣ってしまったせいで、
逆に傷つけてしまった……こんなつもりじゃなかったのに……)

肥後千葉城
く、隈ちゃん……っ!

隈本城
――は、はいっ!?

肥後千葉城
すっごーい! やっぱり隈ちゃんはすごいよーっ!

隈本城
……え?

肥後千葉城
さすがは私の妹だね!
賢くて可愛くて、やっぱり隈ちゃんは私の憧れだよぉ~♪

隈本城
わわっ!?
そんなに、いきなり抱きつかないでください、お姉ちゃん……!

肥後千葉城
だって大好きなんだもん!
ぎゅぅってしたくなっちゃうのは止められないよぉ♪

隈本城
……もう、お姉ちゃんったら。

肥後千葉城
ねえねえ、隈ちゃんは、
お姉ちゃんのこと好き?

隈本城
何をいまさら……。

隈本城
お姉ちゃんのことは、大好きにきまってます。

肥後千葉城
うん、知ってる~♪

千狐
……ふふっ。

千狐
殿、とても仲睦まじき姉妹にございますね。

千狐
千狐にも、あんな姉妹が欲しかったです。

やくも
……ん?

やくも
何や、千狐?
姉妹が欲しかったがや?

やくも
なら、うちがいるだに!
お姉ちゃんやと思って、えっぱい甘えるだに!

千狐
やくもが、お姉ちゃん……?

やくも
……だに!

千狐
それは遠慮しておくわ。

やくも
どういうことだに!

千狐
だって、どう考えても千狐の方がお姉ちゃんだもの。

やくも
うちの方が姉っぽいだに!

千狐
千狐の方がお姉ちゃんなの!

肥後千葉城
こーら、ケンカはめっ、だよ~?

肥後千葉城
みんなで仲良くしないと、
楽しいこともつまらなくなっちゃうよ?

やくも
うぅ……分かっただに……。

千狐
千狐も……少し大人げなかったです……。

肥後千葉城
うんうん、二人とも素直でいいこだね♪

肥後千葉城
それじゃあ、みんなで違うところを探してみようか。

肥後千葉城
――って、あれ?

肥後千葉城
ねえ隈ちゃん……なんだろう、あれ?
ほら、向こうの川岸の方に……何かが……。

隈本城
どうしたのですか、お姉ちゃん?

隈本城
――っ!?

隈本城
あれは……兜ではないですか!?

人魚形兜
…………。

隈本城
こちらに気づいているはずなのに、
なぜ動かないのでしょうか……?

やくも
……あっ!

やくも
きっと川を越えてこれないから、
うちらを襲いたくても出来なくて立ち尽くしてるに違いないだに!

肥後千葉城
なるほどー! なら、私たちはここにいれば、
攻撃されることはなさそうだね?

やくも
そういうことだに! こっから向こう岸までは
けっこうな距離があーけん、武器も届かないだにぃ!

人魚形兜
――シャァアッ!!

やくも
――へ?

隈本城
やくもさん、危ない!

やくも
――ぶへぇっ!?

隈本城
すみません、押し倒してしまって……。
ですが、怪我はありませんか?

やくも
な、なんとか……。

やくも
でもまさか、あれだけ離れた場所から攻撃が届くなんて……、
信じられんだに……危うく、突き殺されるところだったがや……。

隈本城
安心するのはまだ早いです!
見てください、向こうからどんどん兜たちが現れてます!

肥後千葉城
どうしよう……囲まれちゃったみたいだね……。

千狐
殿、戦いは避けられそうにありません!
迎え撃つ準備をお願いします!

後半
隈本城

すごい……あれだけの数の兜を倒してしまうとは……!

隈本城
さすがですね、殿!
その力があれば、安心してイチョウの葉集めを再開できます。

隈本城
ね、お姉ちゃん?

肥後千葉城
…………。

殿
…………。

肥後千葉城
…………。

隈本城
――お姉ちゃん!?

肥後千葉城
……ふぇ?

肥後千葉城
く、隈ちゃん? どうしたの?

隈本城
それはこっちの台詞です!

隈本城
また殿を見てぼ~っとして……。

隈本城
やはりまだ、どきどきしちゃうのですか?

肥後千葉城
うん……。

肥後千葉城
どうしちゃったんだろう、私。
これじゃ殿の顔、見られないよぉ……。

肥後千葉城
ごめん、また頭冷やしてくるね……。

隈本城
お姉ちゃん……。

隈本城
――ん?

隈本城
(急に……あたりの空気が重くなった……?)

隈本城
これは、まさか……っ!!

隈本城
お姉ちゃん、駄目……私から離れないで!
早く戻って来てくださいっ!!

千狐
急にどうしたのですか、隈本城さん?

やくも
何だか顔が怖いだに……。

隈本城
ヤツが……此の地に近づいてきてるのです!

千狐
……ヤツ?

肥後千葉城
く、隈ちゃーーーんっ!!
大変だよぉ! あ、あそこ……あそこぉ!

隈本城
やはり……ヤツも此の地に来てしまったのですね……。

隈本城
清正様……っ!

加藤清正
……シュゥゥウゥゥ……シュルゥゥゥゥゥウ……。

天下睥睨の蛇眼 -急-

不気味な音と共に姿を現した巨大兜。
隈本城たちの力を奪った元凶である異形は
二人を始末する為、配下を差し向ける。

前半
加藤清正

……シュゥゥウゥゥ……シュルゥゥゥゥゥウ……。

やくも
な、なんや……アレは……?

やくも
あげな巨大兜さん……見たことないだに……。

やくも
――ん?

千狐
……あ……あぁ……そ、そんな……あの巨大兜は……。

やくも
どうしたんや、千狐?
ものすごく身体が震えてるだに!

千狐
あれは……日向にやくもを助けに行く前に目にした大型兜だわ……。

千狐
危険すぎる力を前に、あの時はただ逃げることしかできなかったの……。

千狐
……まさか、こんなところで出会うなんて……いったい、どうしたら……。

やくも
(あの千狐がこんなに怯えてるなんて、
よっぽど怖い思いをしたに違いないだに……)

やくも
千狐! 何でもいいから、さっさとうちの後ろに隠れるに!

やくも
千狐はうちが守っちゃるけん、安心するだに!

千狐
……やくも。

千狐
うん……ありがとう、やくも。

加藤清正
……シュゥゥゥゥゥゥ……シュルルゥゥゥウゥゥ……。

隈本城
清正様……やはり、あなたも此の地を目指していたのですね……。

隈本城
それほどまでに、私たち姉妹が邪魔なのですか!?

加藤清正
……邪魔、ダト?

加藤清正
愚問……ナリ。
貴様らなど、吾が進道の障にも足りぬ身……己惚れも大概にシテおけ……。

加藤清正
滅する価値すら無いと断じ、生かしておいてやったというのに……。
……未だ城娘の力を求めんとするとは……度し難き愚かさダ……。

加藤清正
やはり、生かしておいたのは間違いだッタ……。
……貴様らは、此処デ朽ち果てよ……。

隈本城
……どうしても、わかり合うことはできないのですね……清正様。

肥後千葉城
何を言っても無駄だって、隈ちゃん。

肥後千葉城
あれは、本物の清正様じゃない……。

肥後千葉城
そうだよ。
あれは、限りなく真に近づこうとした虚ろなる器……。
……満ちることの無い、偽りの魂なんだ……。

肥後千葉城
隈ちゃんだって、忘れてないでしょ?
私たちの力を奪ったのが、あいつだってことを……。

やくも
そうか! 前に話してくれた、
あんたらの力を奪った巨大兜さんっちゅーのは、
アイツのことだったんやね。

隈本城
はい……そして、我らに縁深き者の
魂を真似た巨大兜なのです……。

隈本城
だからこそ、私たちは力を取り戻し、
やつを倒すと誓ったのです……!

加藤清正
……シュゥゥゥゥゥゥ……。
叶うはずもなき大言を、威勢良く口にしよル……。

加藤清正
その程度の愚者……吾が手を下す必要もない……。
貴様らは此処デ我が配下にヨッテ沈めば良い……シュゥゥゥルゥゥゥ……。

やくも
――っ!?
どういうことや? あの巨大兜さん、何もせずに撤退していくに!

隈本城
いえ、ヤツの背後を見てください!


――ザザッ!

兜軍団
ザザッ、ザザザッ!

やくも
分かってはいたけど、やっぱり兜さんが控えてたかや……。

隈本城
あの巨大兜は見た目通り、毒蛇の如く残酷……。
恐らく、じわじわと私たちを追い詰める腹づもりでしょう。

やくも
今回は品定めしにきたってことやね……。

肥後千葉城
ね、ねえ……とにかく今はあの兜たちを
退けないと、イチョウの葉も集められないし、
あの巨大兜も退治できないよ……?

やくも
わかってるだに!

やくも
殿さん、ここは一気に兜さんたちを蹴散らして
巨大兜さんを自ら戦う気にさせるだに!

後半
やくも

ふぅ、何とか当座の兜さんらは退けられたみたいやね。

やくも
ほら、千狐。もう大丈夫やけん、こっちに来るがや。

千狐
……う、うん……。

やくも
ん~? まだちょっと震えてるだに。
よっぽどあの巨大兜さんに遭った時に怖い思いをしたんやね。

千狐
だって……当時はまだ殿に会って間もなかったし、
やくものことも心配だったし……。

千狐
あの時のこと……いろいろと思い出しちゃって……うぅっ、ぅぅぅ……。

やくも
……だ、大丈夫がや?

やくも
落ち着くまでうちが傍にいてあげーけん、
好きなだけ泣くといいだに。

千狐
……何だか今日のやくもは頼りになるのぉ……。

やくも
当ったり前や!
うちは千狐のお姉ちゃんみたいなもんやからね!

肥後千葉城
ふふっ、やくもちゃんったら、
しっかりお姉ちゃんしてて偉いねぇ。

肥後千葉城
それに比べて私ときたら、
隈ちゃんに迷惑ばかりかけてて……はぁ。

隈本城
もう、いっつもそうやって自分を卑下して。

隈本城
そこは、お姉ちゃんの悪い癖だよ?

隈本城
私たちは二人で一人前。
足りない分はお互いに補えば良いのです!

肥後千葉城
……うん、そうだね!

肥後千葉城
ありがとう、隈ちゃん!

隈本城
とはいえ、このままただ漫然とイチョウの葉集めだけをしていては、
次の兜らの襲撃に際して再び危機に陥るのは明白です。

隈本城
殿、イチョウの葉集めと並行して、
巨大兜との戦いに備えましょう。

天下睥睨の蛇眼 -離-

大型兜との戦いを終えたばかりの殿たちに、
再び兜たちの不穏な影が忍び寄る……。
飛行型兜の攻撃に警戒しつつ出陣せよ!

前半
やくも

うーん……大体こんなもんかね。

肥後千葉城
いったい何しているの、やくもちゃん?

やくも
兜さんの襲撃に備えて、この橋に少し細工をしておいただに。

肥後千葉城
……細工? 何だかすごそうだけど、
やくもちゃんってもしかして手先が器用だったりするのかな?

やくも
自慢やないけど、これでも所領内の
いろんなもんの修理はうちがしちょーに、
たいていのもんなら造ったり直したりできるだに!

肥後千葉城
へえ、すごいなぁやくもちゃんは。
私も何か造ったりしてみたいなぁ。

肥後千葉城
……て、あれ? 所領? 
ねえねえ、やくもちゃん。所領って何なのかな?

肥後千葉城
もしかして、やくもちゃんたちのおうちのことかな?

やくも
そうだに。殿さんと一緒にうちや千狐、
それに多くの城娘たちが共同生活してる場所やね。

肥後千葉城
おおー!?
殿と城娘が一緒に暮らしてるって、何だかすごいね!

やくも
肥後千葉城たちがよければ、いつでも大歓迎だに。

やくも
殿さんは来る者拒まずなはずやけん、大丈夫がや!

肥後千葉城
殿は来る者拒まず……!?

肥後千葉城
も、もしかして、殿っていろんな城娘たちと……(ごくり)

やくも
……あん?

肥後千葉城
な、何でもないよ!

肥後千葉城
(でも、殿との共同生活かぁ……)

肥後千葉城
(はぅぅ……駄目だぁ。やっぱり殿のこと考えると、
胸がどきどきしてきちゃう……やっぱり私、病気なのかな……?)

隈本城
――ちゃん! お姉ちゃんってば!

肥後千葉城
……んへ? なぁに、隈ちゃん?
今お姉ちゃんは大事なことを考えててね……。

火焔形兜
シュゴ……シュゴゴゴゴゴォォォオオッ!!

肥後千葉城
――熱っ!? あちちっ!?
何、何なのいったい……!?

肥後千葉城
――って、あれは兜!?
いつの間にこんなところにまで攻め込んでいたの!?

隈本城
お姉ちゃんがぼんやりうふふってなってた時に
じりじりって攻めて来てたんですよ!

隈本城
お喋りはいいですから、早くこちらに逃げてきてください!

肥後千葉城
わ、分かったよぉ!

火焔形兜
シュゴ……シュゴゴゴゴゴォォォオオッ!!

肥後千葉城
はぁ……はぁ……よ、よかったぁ。
何とか逃げられたぁ……。

隈本城
でも、このままでは橋を渡って、
こちらにまで兜たちが攻め込んできますね……。

やくも
ふふふ……。

やくも
安心するだに!
こういうことを想定して、さっき橋に細工してたんだに!

千狐
ちょ、ちょっとやくも!
いったい何をするつもりなの……?

やくも
こう、するだにぃっ!!

――ピシッ!

バキン!
ガラガラガラ……!

火焔形兜
――シュゴッ!? ンゴゴゴゴッ!?

隈本城
橋が、落ちていく……!?

肥後千葉城
なるほど、一時的に橋を通れなくしたんだね!

やくも
そうがや! 最低限の箇所にだけちょっとした細工をしただけやけん、
後でまたすぐに橋をかけることができるだに!

やくも
これでしばらくは兜さんも攻め込んではこれないだに!

一ノ谷形兜
ブ、シュゥゥゥゥゥウウウウウウ……!

隈本城
そんな……今度は違う方向から新手の兜が現れました!

肥後千葉城
でも、大丈夫だよね!
だって、こっちの橋もさっきと同じようにすればいいんだから。

やくも
……え?

肥後千葉城
……ん?

肥後千葉城
いや、だからね、こっちの橋もさっきと同じように~って……。

やくも
そっちはやってないだに!

肥後千葉城
……うそ?

肥後千葉城
ど、どうしよう隈ちゃん! このままじゃやられちゃうよぉ!

隈本城
既に策を弄する時間はありません!
殿、すぐに出陣の用意をお願いします!

後半
やくも

さっすが殿さんや!
難なく兜さんたちを倒しただに!

やくも
……っと、今度はどっから兜さんが攻めてくるか分からんけん、
さっきの橋をかけ直しておくだに。千狐も手伝ってほしいがや。

千狐
わかったわ。急いでやってしまいましょう。

肥後千葉城
ねえねえ、隈ちゃん。
やっぱり殿たちはすごいね!

隈本城
ええ、そうですね。

隈本城
ですが、あれほどの強さを持つ殿でさえ、
ヤツには勝てるかどうか……。

肥後千葉城
清正様の魂を悪用してる巨大兜のことだよね……。

隈本城
……はい。

隈本城
準備する時間があまりにも足りなすぎます。

隈本城
せめて、私たちの力が戻っていて、
殿たちに加勢することができれば良かったのですが……。

肥後千葉城
イチョウの葉はけっこう集まったのに、
やっぱりまだまだ城娘として戦うには足りなすぎるもんね……。

肥後千葉城
いったい、あとどれだけ集めれば私たちは
元々の力を取り戻せるんだろう……。

???
――シュゥゥゥゥゥゥ……シュルルゥゥゥウゥゥ……。

隈本城
――っ!?
この音は……!?

肥後千葉城
そんな……いくら何でも早すぎるっ!?

隈本城
殿、気をつけてください! 巨大兜が、近くに迫っています!

加藤清正
シュゥゥゥゥゥゥ……シュルルゥゥゥウゥゥ……。
今さら慌てふためくトハ……心懸を練らぬ愚か者共ガ……。

天下睥睨の蛇眼 -結-

決着をつけんと再び姿を現した巨大兜。
蛇眼が向かう先は、隈本城らの心身……。
二人を守る為、全霊を以て敵に立ち向かえ!

前半
加藤清正

シュゥゥゥゥゥゥ……シュルルゥゥゥウゥゥ……。
今さら慌てふためくトハ……心懸を練らぬ愚か者共ガ……。

殿
…………。

隈本城
と、殿……!?
その様に前に出ては危険です!

加藤清正
貴様が……殿、か。
吾の配下を次々と下す武技、見事……ナリ。
ダガ、退け……中途半端な力はより多くの苦しみを招くだけだ……。

加藤清正
隈本城……貴様は、他者を巻き込んでまで……、
より多くの悲しみを産み落とそうという心積もりカ?

隈本城
……苦しんででも、
果たさねばならぬ大願が、私たちにはあるのです!

加藤清正
……愚かナリ。

加藤清正
貴様らの力を奪い、逃がしてやったのハ、
吾に残る真ナル清正の慈悲だというのが分からぬか……。

肥後千葉城
清正様の慈悲……!?

肥後千葉城
待って、それはいったい……どういうことなの?

加藤清正
……貴様らにとっテ……力とは破滅の媒……。
それを奪い去ることで……たとえ紛いであろうと
人として生きることもできたであろうニ……。

隈本城
私たちが……人として、生きる……?

加藤清正
吾にも解せヌ……だが、清正の意を言の葉にて
出力するならば、是が最も適切な表現だろウ。

加藤清正
吾はこの魂を箱舟とし揺蕩う者……。
……其れ以上でも、其れ以下でもナイ。

加藤清正
……語るは慈悲。
されど奮うは悪意……。

加藤清正
吾が心中たる仏……その赦に二の打ちは無イ……。
悪いが此処で、貴様等を滅スル……。

隈本城
――くっ、何という荒々しき悪気でしょう……。

隈本城
このままでは全滅は免れない……。

肥後千葉城
隈ちゃん、今からでも遅くないよ。

肥後千葉城
……私たちが時間を稼いで、殿たちには逃げてもらおうよ。

隈本城
それも……止む無しですね……。

肥後千葉城
それじゃあ、殿たちに――

殿
…………!

肥後千葉城
……え?

肥後千葉城
殿……?

肥後千葉城
だめ、ですよ……無理をしてはいけません。
あの巨大兜は本当に恐ろしい力を秘めているのです……。

隈本城
殿たちはこれまでに多くの兜を相手にしてきたかもしれません。

隈本城
……ですが、それは私たちも同じなのです。

隈本城
多くの巨大兜を退け、
何度も故郷を守ってきた私たちですが、
あの巨大兜にだけは歯が立たなかった……。

隈本城
ヤツに近づかれたら最後、
理解の暇すら無く滅びが待っています……。

肥後千葉城
本当に一瞬……そう、あれは抗えぬ死、そのものなのです……。

肥後千葉城
幸い、ヤツの害意は殿には未だ向いていません。

肥後千葉城
……お願いです、私たちのことはいいから、早く逃げてください!

殿
…………っ!

肥後千葉城
なぜ、ですか……?

肥後千葉城
どうして、そこまでして私たちを助けようとするのですか……?

やくも
それが殿さんだからだに。
困ってるひとを見捨てることなんてできないがや!

千狐
そうですわ、だからこそ千狐たちは殿と共にいるのです!

肥後千葉城
千狐ちゃん、やくもちゃん……。

隈本城
どうやら、覚悟が足りなかったのは私たちの方だったようですね。

隈本城
殿……私たちは貴方を信じ抜きます。

隈本城
なので、これから
勝つ為の策をお伝えします。

隈本城
先ほど言ったように、
ヤツに近づかれたら最後、全てが無に帰します。

千狐
だからこそ、
遠距離攻撃による集中砲火で勝負を決する必要があるということですね?

隈本城
はい、それが最も有効な手段だと思います。

隈本城
ですが、あの巨大兜は銃撃などでは、
怯んだりしません……。

千狐
……では、法術を試してみるのはどうでしょうか?

隈本城
……そうか。
その手がありましたね!

隈本城
活路はそこにあるのかもしれません、殿!
試してみる価値は十分にあると思います!

やくも
にしても、近づかれる前に倒す……か。
言うのは簡単やけど、かなり難しそうやね。

千狐
でも、やるしかないですわ!
殿、隈本城さんの助言をもとに指揮をしてください!

肥後千葉城
あ、あの……殿。

肥後千葉城
……負けないで……ください。

肥後千葉城
私、もっともっと貴方と話をしてみたいです……。

肥後千葉城
隈ちゃんと同じように、私も貴方を信じ抜きます……。

肥後千葉城
だから――。

殿
…………!

肥後千葉城
はいっ!

肥後千葉城
どうか、ご武運を!

後半
加藤清正

……な、何だ……コレ、は……?

加藤清正
……シュゥゥゥゥゥゥ……シュゥゥゥウゥゥ……。
あの男……いったい、何者なのだ……?

殿
…………。

殿
…………っ!

加藤清正
――っ!?

加藤清正
そうか……そういうコトであったか……。

加藤清正
ヤツが言っていた武士とは……貴様のことであったカ……。

加藤清正
貴様がその二人すらも引き連れるというのなら、其れもまた運命……。

加藤清正
再び見えよう……殿……。
それまで、相応の力をつけておくのだ……いずれ来る……滅びに抗う為に、ナ……。

隈本城
巨大兜が退いていきます!

肥後千葉城
すごい……殿が……勝った……。

肥後千葉城
隈ちゃん……殿が、勝ったんだよね……!?

隈本城
はい、間違えようのない勝利です!

やくも
やったがやーっ!
殿さんがあの巨大兜さんを追い返したんだにぃ!

千狐
すごいですわ、殿!
肥後では逃げるしかできなかった強敵に対して、
ここまでの戦いができるなんて……。

千狐
本当に……殿はすごいです……これほどの方にお仕えできるなんて、
千狐は幸せ者にございます……うぅぅっ……。

やくも
せ、千狐!? そげに泣きよーなんて、どうしたがや?

千狐
ほっといてなのぉ……ただの感涙なのぉ……!

やくも
よく分からんが、今はうちの胸で泣くといいだに。
ほら、こっちに来るがや。おーよしよし。

千狐
だからぁ、何でこういう時ばかり優しくするのよぉ……ぐすっ……。

肥後千葉城
ほんと、あの二人って仲がいいですね。

隈本城
私とお姉ちゃんの仲の良さも負けていないと思いますけど?

肥後千葉城
それこそ愚問だね!
だって、私と隈ちゃんの仲の良さは別次元だもん!

殿
…………。

殿
…………。

肥後千葉城
あ……と、殿。

肥後千葉城
あの、ですね……改めて、お礼を言わせてください。

肥後千葉城
私たちの為に、命を賭けて戦ってくれて、
本当にありがとうございました。

隈本城
私からも、礼を言わせてください。
ありがとうございました、殿。

肥後千葉城
……で、ですね。

肥後千葉城
その……私、この先も殿と行動を共にしたいなって、そう思っているのですが……。

肥後千葉城
……ど、どうでしょうか?

隈本城
……え? お姉ちゃん?
イチョウの葉集めは未だ終わってないのですから、
行動を共にするのは当然なのではないのですか?

肥後千葉城
あ、いや……そうじゃなくてね。

肥後千葉城
イチョウの葉集めが終わって、城娘としての力が戻っても、
ずっと一緒にいたいなって……そういう、意味なんだけど……。

隈本城
――っ!?

隈本城
お、お姉ちゃん……それ本気ですか?

肥後千葉城
だめ……かな?

隈本城
いえ、私はいいのですが……殿が何というか……?

殿
…………。

肥後千葉城
……と、殿?

殿
…………。

殿
…………!

肥後千葉城
ほ、本当ですか!?

隈本城
よかったね、お姉ちゃん!

肥後千葉城
うんっ!

肥後千葉城
よーし、それじゃあこのままイチョウの葉集めを再開して、
しっかり城娘としての力を取り戻すぞー!

隈本城
あ、ちょっとお姉ちゃん! 一人で行くのは危ないってば!
殿たちだって戦いで疲れてるんだよー!?

隈本城
……もう、しょうがないんだから。

隈本城
殿、とりあえずは私がお姉ちゃんを連れ戻してきます。
お姉ちゃんをひとりにさせるのは危険ですからね。

やくも
行ってしまっただに……。

やくも
何にせよ、また所領が賑やかになりそうやね。
あの二人が来てくれたら、楽しくなりそうがや!

千狐
それでは殿。少し休息を取りましたら、
イチョウの葉を集めるのを再開しましょう!

天下睥睨の蛇眼 -絶-

――不思議な力を秘めたイチョウの葉。
その収集も終わりを迎え、ついに二人は
城娘としての力を取り戻すのだが……。

前半
――巨大兜との戦いから、数刻後。

千狐
かなりの数のイチョウの葉を集めましたね!
これだけあれば、隈本城さんたちの力が完全に戻るのも
そう時間がかからないかもしれません。

隈本城
いえ、もしかしたら既に確保した分だけでも、
事足りるかもしれません!

隈本城
お姉ちゃん、少し試してみませんか?

肥後千葉城
分かったよ! よーし、それじゃあ城娘の姿に……変身ですっ!

やくも
――うぉっ、思いのほか眩しいだにっ!!

肥後千葉城
……あれ? あれれ?

隈本城
お姉ちゃん、ちゃんと城娘としての姿を取り戻せてますよ!

肥後千葉城
隈ちゃんもね!
何だか久しぶりで恥ずかしいなぁ。

千狐
良かったですね、殿!
これで心置きなく皆で所領に戻れますわ!

やくも
……ん?

やくも
ちょ、ちょっと待つだに!

やくも
向こうから何か変なんが来るだに……!

千狐
変なの……? いったいどういうこと、やくも?

肥後千葉城
……あ、あれって……もしかして!?

隈本城
イチョウの葉です! しかも大量の!

やくも
信じられんだに……。
イチョウの葉の山が……こっちに向かってきてるに……。

肥後千葉城
……大量のイチョウの葉が、
何でこっちに向かって突進してくるの!?
ちょっと意味が分からないよ!

千狐
いや、違います! 皆さんよく見てください!

千狐
あれは、兜の集団ですわ!
大量のイチョウの葉を抱えながらこっちに向かってきてるのです!

やくも
ど、どういうことや!?
ほんとに意味がわからんだにぃ!


……城娘……城娘……!

兜軍団
……力……取リ戻セッ!
蛇気ニ塗レタ葉デ……力ヲ膨レ上ガラセヨッ!!

肥後千葉城
――っ!?
なに、これ……何か、からだ……おかしいよ……隈ちゃん!?

隈本城
……こ、これは……まずいです!
殿……すぐに私たちから離れてください!

やくも
いったい、どうしたっていうがや!?

千狐
まさか……!?
いけない、兜を二人に近づけさせてはいけませんわ!

やくも
駄目だにっ! もう、二人が取り囲まれてるだに!

肥後千葉城
……だめ……力が、溢れてきて……おさえ、きれない……っ!!

隈本城
兜め……これを、狙っていたのですね……!?

隈本城
私たちの力ヲ暴走させテ……仲間に取り込もうと……くっ、うぅ……ッ!

千狐
ああ……そんな……二人の霊気が……っ!?

やくも
千狐、はやー説明するだに!
いったいこれはどうなってるがや!

千狐
城娘としての力を取り戻した二人のもとに、
さらに多くのイチョウの葉を……それも悪気に塗れたイチョウの葉を
彼女たちの力に転化させて、無理矢理に吸収させたのよ……!

やくも
よくわからんだにっ!! つまりはどうなるがや!?

千狐
……城娘としての力を持った二人が、
兜の手中に堕ちてしまったということよ……!

肥後千葉城
…………フフッ。

肥後千葉城
スゴイです……力が溢レテきて……。
今なら何デモできちゃいそうです……ね、隈ちゃん?

隈本城
ハイッ、お姉ちゃん!
この力があれば……もう、誰ニモ負ケタリしません!


……行クゾ……城娘タチ……。

兜軍団
……憎キ殿ヲ……其ノ手デ討チ滅ボセ!

隈本城
行きまショウ、お姉ちゃん!
今此処カラが、日本一の御城になる為ノ第一歩ですッ!

肥後千葉城
うんッ! 隈ちゃんに、お姉ちゃんのイイとこた~っぷり見せちゃうからネ!

やくも
あぁ~っ、最悪だにぃ!
こげなことが起きーなんて……っ!

千狐
嘆いていても仕様がないわ!
殿、二人を救うためにも、今は心を鬼にして戦うしかありません!

後半
肥後千葉城

……あ、れ……っ?
どうして、殿が私の目の前に……?

肥後千葉城
あっ、いたたた……っ!
それに、よく分からないけど、身体のあちこちが……痛いですぅ……。

千狐
良かった……どうやら正気を取り戻したようですね。

やくも
おい、隈本城もしっかりするだに!

隈本城
……す、すみません皆さん……。
何とか、大丈夫……みたいです……っく、ぅぅ……。

隈本城
ただ、無理に城娘の力を乱用されたせいで、
ぜんぜん、身体に……力が入らないです……。

千狐
じっとしていてください!
すぐに所領にお連れします!

肥後千葉城
わ、わ~い。殿たちの生活してる所領に……私たちも、行けるん……だ、ね…………。

肥後千葉城
…………(バタッ)

やくも
おーいっ! 大丈夫かや、肥後千葉城!?

やくも
だめがや、気を失って倒れてしまったみたいだに……。

千狐
早急な処置が必要ですわ!

千狐
殿、申し訳ありませんが、二人を担いでいただけますか?
その間に、私が所領への転移術を行います!

殿
…………っ!!

千狐
それではいきますっ!
コンッ! 秘技、時空……転移術なのーーーっ!!

――夜、所領。

既に所領の者達は皆、深き眠りについていた。

殿と、ふたりの城娘を除いて――。

隈本城
安心してください、殿。
千狐さんもやくもさんも、既に眠りについています。

隈本城
二人とも、私たちへの処置でずいぶんと体力を使われたようで、
ほんとうに、なんとお礼をしたらいいのか……。

肥後千葉城
ごめんなさい、殿……。

肥後千葉城
私たち、まさかあんなことになるなんて、思わなくて……。

肥後千葉城
仲間の城娘たちにも、いっぱい怪我させちゃいましたよね?

肥後千葉城
……はぁ。明日からどんな顔して会えばいいんだろう……。

肥後千葉城
――え?

肥後千葉城
気に病むことは……ない?

肥後千葉城
そんなの……無理ですよぉ。

肥後千葉城
ただでさえ、イチョウの葉集めで迷惑をかけたのに、
兜に操られて皆さんに怪我までさせたなんて……。

肥後千葉城
本当なら、所領にいる資格もないんです……。

肥後千葉城
……今からでも遅くないです。

肥後千葉城
殿……私たちに、出て行けと命じてください……。

肥後千葉城
そうすれば、すぐにでも……私は……私はぁ……っ。

隈本城
お姉ちゃん、落ち着いて……殿が困ってます。

隈本城
責任を感じるのはいいですけど、
お姉ちゃんはいつも自分を責めすぎです。

隈本城
……殿はこうして私たちを許そうと
心を向けてくださっているのですよ?

隈本城
ならば、それにどう報いるかが、
これからの私たちにとって大事なことではないでしょうか?

肥後千葉城
どう、報いるか……?

隈本城
……はい。

隈本城
無理な力の放出によって、
一時は取り戻せた私たちの城娘としての力はまた失われてしまいました。

隈本城
……ですが、完全に失ったわけではありません!

隈本城
また、イチョウの葉を集め、
今度こそ完全に私たちの力を取り戻し、そして――

肥後千葉城
殿の力になるんだね!

隈本城
その通りです、お姉ちゃん!

肥後千葉城
……そっか……そうだよね!

肥後千葉城
此処で殿の前から逃げたら、
それこそ殿たちの努力や好意をぜんぶ裏切ることになる……。

肥後千葉城
ごめんなさい、殿……私、すごく馬鹿なことを言ってました……。

肥後千葉城
殿にこれ以上嫌われたくないからって……、
ただ自分が楽になりたいからって……私、逃げだそうとしてました。

肥後千葉城
今は、迷惑しか掛けてない城娘だけど……。

肥後千葉城
ううん、まだ城娘ですらないですけど……

肥後千葉城
それでも、いつかきちんと殿に恩返しがしたいです!

肥後千葉城
隈ちゃんと一緒に、ね?

隈本城
お姉ちゃん……!

隈本城
はい、私もお姉ちゃんと一緒に、殿に恩返しがしたいです!

隈本城
私たちは未熟なれど、
二人で一人前たり得えると信じて、ここまで歩んできました……。

肥後千葉城
だから、殿……。

肥後千葉城
私たち二人を、これからも此処にいさせてください!

肥後千葉城
…………。

肥後千葉城
…………(どきどき)

肥後千葉城
――っ!?

肥後千葉城
ほ、本当にいいのですかっ!?

肥後千葉城
い、いえ……嫌だなんて、思うはずありません!

肥後千葉城
はいっ! 
これからも、ずっとずっとお傍にいます!

肥後千葉城
私、殿の為なら、何だって頑張っちゃいますからね!

隈本城
(ふふっ……良かったね、お姉ちゃん)

隈本城
…………あれ?

隈本城
ねえ、お姉ちゃん!

肥後千葉城
ん? なーに、隈ちゃん?

隈本城
お姉ちゃん、今ふつうに殿と喋れてますよ!

肥後千葉城
…………はぇ?

隈本城
いや、だって……出会ったばかりの時は、
殿の前に立つだけで、胸がどきどきして顔も見られないって言ってたじゃないですか!

隈本城
もう、大丈夫なのですね!?

肥後千葉城
…………。

肥後千葉城
……あ……ああぁ……っ!?

肥後千葉城
どど、ど、どどどうしようっ!?

肥後千葉城
隈ちゃんが言うから、きゅ、きゅきゅ、急にぃ……、
またどきどきしてきちゃったよぉ~っ!!

肥後千葉城
と、殿ぉ……そ、その……は、ぅぅ……、
ごめんなさい、やっぱり……どきどきが止まらないですぅ……っ!!

隈本城
――あっ、ちょっとお姉ちゃん!
どこに行くのですかーっ!!

肥後千葉城
お外で頭冷やしてきまーーーすっ!!

隈本城
…………。

隈本城
…………もう、ほんとうにしょうがないお姉ちゃんなんだから。

隈本城
……え?

隈本城
でも、そんなお姉ちゃんが好きなんだろ……?

隈本城
当然ですっ!!

隈本城
お姉ちゃんを、世界で一番愛してるのは、私なんですから!

隈本城
だから、そう簡単には殿にも渡したりはしませんからね!

隈本城
…………。

隈本城
……ふふっ。
よく意味が分かってない様子ですね。

隈本城
殿も、色恋には鈍い御方だということが、今のでよく分かりました。

隈本城
……いえ、何でもありませんよ。

隈本城
それでは、私はお姉ちゃんを追いかけに行きますね。

隈本城
……はい、
今日はこのまま寝床にはいります。

隈本城
それでは、おやすみなさい、殿。

隈本城
明日からお姉ちゃん共々、どうぞ宜しくお願いしますね。



特に記載のない限り、コミュニティのコンテンツはCC BY-SAライセンスの下で利用可能です。

シェアボタン: このページをSNSに投稿するのに便利です。


最近更新されたページ

左メニュー

左メニューサンプル左メニューはヘッダーメニューの【編集】>【左メニューを編集する】をクリックすると編集できます。ご自由に編集してください。掲示板雑談・質問・相談掲示板更新履歴最近のコメントカウン...

[裏]真田丸

裏]真田丸(チャリン……チャリン……チャリン……)……貴殿か。今日は、話をしたい気分じゃない。足を運んでくれたのに、すまない。一文……二文……三文……四文……五文……六文……銭を数えていなければ、一瞬...

[裏]淀城

]淀城あ~……。あ゛ぁ~……きもちわる。夢見は悪いし、頭はズキズキ痛むし……。ほんっとに最悪な日よ、今日は。誰でも良いから……。どつき回して、ぐちゃぐちゃにしたい気分。…………。……で、なに?そこに突...

[裏]桜尾城

]桜尾城殿……どうかしましたか?……ふふ、今回は間違えませんでしたよ。あなたの安らぐ顔もまた、私の喜びなのですから。私は今……海を見ていました。このどこまでも凪ゆく、厳島の海を……。厳島周辺は神域とい...

[裏]川越城

]川越城お客様かしら……どうぞ。貴方は、確か……ちょっと待ってね……。うん……たぶん、『殿』よね……?やっぱり……人違いでなくて、良かったわ。ふふ。今丁度、過去の私が遺した日記を読み返していたのよ……...

[裏]小田原城

]小田原城…………。……あら、殿。ようこそいらっしゃいました。ああ……いえ、ご心配なく。少し考え事をしていただけですから。今、ちょうど……。昔の出来事に思いを馳せていました。今の私を形作る、原点とも呼...

[裏]小牧山城

目次1 性能1.1 特技1.2 [改壱]特技1.3 所持特技1.4 [改壱]所持特技1.5 計略1.6 [改壱]計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3...

[裏]室町第

裏]室町第殿……ふふふ。どうせまた来るって、そんな気はしていたわ。私がどんなに忠告をしても、貴方は自分の信念を曲げない。本当に……つくづく、強い人ね、殿は。私のせいで、どれほど悪いことが起こっても殿は...

[裏]大宰府

]大宰府おお、殿か。よく来てくれたな。今な、手紙を整理しておったのじゃ。最近は毎日、誰かしらから届くのでな……。この手紙は……、『大宰府ちゃん親衛隊』を自称する者たちからじゃな。大野城、鞠智城、基肄城...

[裏]坂本城

]坂本城大殿様……また来たのね。ふふ……別に、追い返したりしないわよ。というより……私も今ね、大殿様と話せたら、って考えてたところだったの。だから……少しの間、私の話し相手になってくれるかしら?……ふ...

[裏]佐和山城

]佐和山城……また来たのね、あなた。足を運んでくれたところ悪いけど、面白いものは何も見れないわよ?相変わらず、大坂城様のらいぶに向けて、準備をしているだけだもの。……ん、なに?『なぜ、そこまで大坂城様...

[裏]伊勢長島城

]伊勢長島城も~、なんなのあいつら!信じらんない!寄ってたかってライブの邪魔をして!いったいどこから情報が漏れたの?もしかして、殿じゃないでしょうね……!?……そんなわけないか。あたしは、あんたにな~...

[花嫁衣装]鹿児島城

目次1 性能1.1 特技1.2 計略1.3 [改壱]計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3性能< ロケト城 - [花嫁衣装]シャンティイ城 >[花嫁衣...

[花嫁衣装]鮫ヶ尾城

]鮫ヶ尾城はあ……春日山城サマの祝言、想像するだけでドキドキしてしまうっす!ね、ちびサマ~♪……ん?どうしたっすか、トノ?えっ、『主城のことより自分はどうなのか』っすか……?うぐ……これは痛いことを言...

[花嫁衣装]許昌城

]許昌城うーん……。ううーん……。……おや、殿か?すまない、考え事をしていて来訪に気づいていなかった。この間、殿と話してから、結婚に関して城娘達と話をしたのだ。繁栄という目的へ至る手段としての婚姻……...

[花嫁衣装]萩城

目次1 性能1.1 特技1.2 [改壱]特技1.3 計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3性能< [花嫁衣装]チャンドラ・マハル - [花嫁衣装]新田...

[花嫁衣装]秋田城

目次1 性能1.1 特技1.2 [改壱]特技1.3 計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3性能< 延岡城 - [花嫁衣装]ロンドン塔 >[花嫁衣装]秋...

[花嫁衣装]春日山城

]春日山城うーん……。……うーん? ……うん?……殿?すみません! お越しいただいていたのに、今の今まで気づかずにいて!実は先日、坂戸城と謙信公の昔話をしてたのですが、その際、跡継ぎの話題が出たのです...

[花嫁衣装]新田金山城

目次1 性能1.1 特技1.2 [改壱]特技1.3 計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3性能< [花嫁衣装]萩城 - [花嫁衣装]アイリーン・ドナン...