ストーリーテキスト/夏だ！海だ！縁日だ！

夏だ！海だ！縁日だ！[]

白浜の争奪戦 -壱-

――兜もうだる炎暑の候。
殿は、遠征の帰りに立ち寄った美しき海辺にて
城娘らと共に夏の一時を楽しもうとするのだが……。

前半
――某日某所・巨大兜(石田三成)軍の本拠にて。 古桃形兜 ハァァ……ダリィ～ッスネェ……。 鯰尾形兜 ソウダナァ……最近ヤケニ暑クナッテキタシ……。 犬形兜 ――ガウッ！ 烏帽子形兜 ツーカ俺ラ……ココン所チョット働キスギジャナイッスカネ……？ 鯰尾形兜 ダヨナァ……殆ド不眠不休ダシ……。 古桃形兜 モウ無理……マジ疲レタンスケド……。 烏帽子形兜 俺ラニモ休息ガ必要ダッテコト、上ノ奴ラハ分カンネーンスカネ。 鯰尾形兜 分カンネーカラ、コンナコトニナッテンダロ……。 鯰尾形兜 雑兵ハ、イクラ無茶サセテモ 壊レネェッテ認識ナンダロウサ……。 古桃形兜 ッチ……サンザッパラ扱キ使ウクセニ御偉方ハ シッカリ休ンデンダカラ、ムカツクヨナ……。 犬形兜 ――ガウッ！ 兎形兜 ナァ…………バックレチマワネ？ 鯰尾形兜 オッ、イイネェ……俺ラガイナクナッタラ、ドンダケ困ルカ、 偉ソウニ指示シテルダケノ奴ラニ教エテヤロウゼ！ 兎形兜 …………。 鯰尾形兜 …………。 兎形兜 ナーンテ、出来ルワケネーカァ……。 後デ三成サマニブッ飛バサレンノガオチダシ……。 鯰尾形兜 ……ハァ。ツレェ。 兎形兜 マジ、ツレェ……。 犬形兜 …………クゥ～ン。 桃形兜 ――オーイッ！！　ミンナーッ！！ 兎形兜 ……ン？ 古桃形兜 オオ、桃形カ。 ドウシタンダヨ、ソンナ慌テテ？ 桃形兜 ソレガネ、ソレガネ！ 桃形兜 三成サマガネ、ボクラノコトヲ労ッテ、 特別ニ休暇ヲクレルッテ！ 兎形兜 ――ナニィッ！？ ソイツァ本当カッ！？ 桃形兜 ホントモホントッ！！ 夏休ミダッテ！！ 桃形兜 シカモネ、三日モクレルンダッテ！ 烏帽子形兜 ……三日？ 鯰尾形兜 ソンダケ？ 桃形兜 ……エ？ デモ休メルンダヨ？ 烏帽子形兜 …………ウ～ン。 兎形兜 三成サマラシイトイウカ、何トイウカ……。 古桃形兜 マァ、イッカ……貰エルダケマシダシナ。 他ノ御偉方ノ下デ働イテル奴ハ、夏モ全日無休ッテ噂ダシ。 犬形兜 ――ガウッ♪ 鯰尾形兜 ヨッシャーッ！！ ソウト決マレバ早速出発シヨウゼ！ 桃形兜 出発ッテ……イッタイ何処ニ行クノサ？ 鯰尾形兜 バカヤロウ！　夏ト言エバ海ニ決マッテンダローガッ！ 鯰尾形兜 オラァッ、サッサト支度シロ桃形！！ 早クシネェト、俺タチノ夏ガ何処カニ行ッチマウゾ！ 桃形兜 ウ、ウンッ！！　 分カッタ、スグ用意スルヨ！！ ――コウシテ、ボクラ兜ハ、 夏ノ思イ出作リニ海ヘト出発スルノダッタ。 ――翌日。 やくも 殿さん、殿さーん！　 こっちだにぃ～！　早く来るがやぁ～！！ 殿 …………。 柳川城 此処が、やくもさんと三原城さんが仰っていた とっておきの場所なのですね？ 千狐 まさか、斯様な場所に これ程美しい海があるなんて……知りませんでしたわ。 三原城 ふふっ、兜討伐の遠征帰りの途次、 やくもさんから、夏の暑さが吹き飛ぶような場所へ 連れて行って欲しいと言われましてね……。 三原城 どうにかこうにか三原の叡智を振り絞って 選出した場所が此処、という訳なのです！ 鬼ヶ城 ――うぉぉおおおっ！！　何だよ此処は！？ こんな綺麗な海、見たことねぇぞ！？ 鬼ヶ城 おい、千狐！　 ちょっと波乗りしてくっから荷物見ててくれよ！ 長浜城 うっきゃ～～～っ♪ 鬼ヶ城ちゃん、ずる～い！ 海への一番乗りは、あたしなんだから～♪ 石山城 ふっ、海ごときではしゃぐなんて、 まったく揃いも揃って子供なんですから……。 上関城 なーに格好つけてんだよ！ 海に行けるって分かった時、一番はしゃいでたのオマエだったじゃん。 石山城 ――なっ！！　 わ、私が海程度ではしゃぐものか！ 妙な言いがかりは止めていただきたい！ 防己尾城 こらこら、せっかくの海水浴なんだ。 喧嘩などせず、心から海を楽しんだらどうだ？ 鶴崎城 そうですね、殿の御配慮なのですから、 喧嘩なんてしたら、罰が当たりますよ。 石山城 うっ……多勢に無勢ですね。 石山城 分かりましたよ、殿の顔を立てるためにも、 今だけは至極楽しい振りをしてあげましょう。 石山城 あくまで振りですから、そこのところお間違えなきように。 勝端城 もぉ、ほんっと素直じゃないんだから。 ま……そこが可愛いところでもあるんだけどね♪ 殿 …………！ 柳川城 殿、思い切って海に来てよかったですね！ 皆さん、とっても喜んでいますよ。 千狐 此処のところ、戦い続きで 身体だけでなく心まで疲弊していましたからね。 千狐 今日だけは、戦いのことを忘れて、 此の地で心ゆくまで楽しむとしましょう。 やくも わ～いだにぃ！ 千狐のお許しをもらったけん、 さっそく海に飛び込んでくるだにぃー！！ 千狐 ――あっ、ちょっと待ってやくも！？ やくも ……あん？　どうしたがや？ 千狐 あなた水着は持ってるの？ やくも 水着？　 やくも 持ってないけど……それがどうしたがや？ 千狐 どうしたって……そのまま海に入るの？ やくも 駄目かや？ 千狐 駄目ってことはないけど……帰りの服はどうするのよ？ やくも そげなもんは歩いてる途中で乾くはずだにーっ！ ってことで、海に突撃がやーっ♪ 柳川城 あの服のままで行ってしまいましたね、やくもさん……。 千狐 ですね……。 千狐 まぁ、やくもらしくていいですけど……ふふっ。 千狐 それでは、皆さんの荷物は千狐が此処で見張ってますので、 柳川城さんも、どうぞ皆さんと一緒に遊んできてください。 柳川城 あ……実は、そのことなのですが……。 柳川城 その……私も水着を、持ってきてなくてですね……。 柳川城 さすがに、濡れた服で殿の前に出るのは恥ずかしいですし……、 ……今日のところは、一緒に荷物番をしようかと思って……。 桜尾城 ――おやおや？　水着が無いからと言って、 海を楽しめないなどと誰がお決めになられたのですかな？ 柳川城 さ、桜尾城さん！？ 柳川城 ですが、やはり海に入れないとなると……他に何をすればいいのか……。 桜尾城 そう、悲しげなお顔をなさいますな。 桜尾城 海辺での遊びと言えば、 日光浴や砂遊びなども実に乙なものですが……。 桜尾城 そうですねぇ……今日は、 私と一緒に潮干狩りなど如何ですかな？ 柳川城 潮干狩り……。 柳川城 （そうですね……潮干狩りで、 アサリやハマグリなどをいっぱい集めれば、 夕餉は殿に喜んでもらえるかもです……！） 柳川城 ありがとうございます、桜尾城さん。 是非ともお付き合いさせてください！ 備中高松城 ――あ、あのぉ……。 私も一緒に潮干狩りに参加してもいいでしょうか？ 桜尾城 おお、これはこれは備中高松城殿。 ええ、共に参りましょう。可愛い子猫ちゃんたちが増えればそれだけ、 私の心も躍るというもの……ふふ。 桜尾城 水着を忘れてしまった他の子猫ちゃんたちも、 この桜尾城と一緒に潮干狩りをやりませんかな？ 不来方城 そうだな。ただ単に海に入るよか面白そうだし、 俺も参加させてもらうぜ、桜尾城！ 不来方城 へへっ……久しぶりの潮干狩りだからな、腕が鳴るぜぇ！ 殿！　どっちがより多くアサリを見つけられるか勝負しようぜ！ 殿 …………！ 不来方城 おっし、それじゃ最初から飛ばしてくぜぇっ！ そう言って、海辺へと駆け出した不来方城――。 だが、不意に目の前を通り掛かった何者かと 不来方城は派手にぶつかってしまう……。 兎形兜 ――ッ痛ェナ！？ 何処見テ走ッテンダヨ、コノヤローッ！ 不来方城 わ、わりぃ……久しぶりの海だったもんで、ちょっとはしゃぎすぎて―― 不来方城 ――って！ おま……兜じゃねーかっ！！ 兎形兜 ――ゲェェッ！？ 何デコンナ所ニ城娘ガッ！？ やくも 殿さーんっ！！ こっちにも兜さんがいるだにぃーっ！！ 千狐 迂闊でした……行楽に浮かれて、 兜が近くにいるのに気づけなかったなんて……。 鬼ヶ城 ったく、何処でも現れやがって……。 俺様の波乗りを邪魔するたぁ良い度胸じゃねーか！ 三原城 皆さん、すぐに戦闘態勢に移行してください！！ 兎形兜 クッソォ！！　 セッカクノ休暇ヲ邪魔サレテタマルカッテンダ！ 桃形兜 鯰尾形タチガ来ル前ニ、 ボクラダケデ殿タチヲヤッツケルゾ！！ 犬形兜 ガウガウッ！！　ガウガウガウゥッ！！ 能島城 ん……？ 何か兜の奴ら、いつも以上に殺気立ってねぇか？ 若松城 たしかに……何か、ちょっと怖いくらいだぜ……。 能島城 まぁ、よく分かんねぇけど、せっかく皆と海に来たんだ！ 楽しみを邪魔されないうちに、さっさとぶっ飛ばしに行こうぜ、殿！！
後半
若松城 狙い撃つぜ！ これで終わりだ、兜どもぉ――！！ 兎形兜 ――ギャァァァアアアッ！！ 鬼ヶ城 しゃぁぁああッ！！　 目に付く兜は一通りぶっ倒せたみてぇだな！ やくも ふぅ～、これで安心して遊べるだにぃ！ 備中高松城 ――っ！？ 備中高松城 ……ま、待ってください、皆さん！ 沖から何か来るみたいなのです……！！ 能島城 あ、あれは……？ 鯰尾形兜 ヒャッハ～～～～ッ！！ 夏ノ海ハ最高ダゼェェッ！！ 能島城 おいおい、また新手の兜かよっ！？ 長浜城 しかも、大量の兜が乗ってるっぽい船も、 こっちに向かってきてるよぉ！！ 殿 …………！ 鯰尾形兜 ――ヌォワァッ！？ ナ、ナナ、何デコンナ所ニ殿ガッ！？ 椎形兜 シカモ城娘マデイルゾ……！！ 烏帽子形兜 マサカ、俺タチガ夏休ミヲ楽シモウッテ情報ガ漏レタノカ！？ 兎形兜 可能性ハ高イナ……、 兜ハ今ヤ日ノ本ジャ超ガツクホド有名ダカラナ。 椎形兜 ドウスル……此処ハ逃ゲトクカ？ 兎耳形兜 バ、バッキャロー！ アンナ奴ラ、俺ガイレバボコボコノベッコベコダッテノ！ 椎形兜 オマエ……足、震エテンゼ……？ 兎耳形兜 ウ、ウッセェ！！ トニカク、俺ハ此ノ海デ遊ブッテキメテンダ！ 逃ゲルナンテ論外ダゼ！！ 鯰尾形兜 ヨク言ッタゼ、兎耳！！ コウナリャ決死ノ覚悟デ殿タチヲ倒シニイクゾ！ 応、と兜たちが喊声を発しようとした、その時――。 兜軍の船の一隅から、小柄な少女がのそりと姿を現した。 指月伏見城 ――なんじゃ、さっきから騒々しい……！ これではせっかくの昼寝が台無しじゃ……ふぁ～ぁ。

白浜の争奪戦 -弐-

突如、兜の船から姿を現した城娘――指月伏見城。
戦を厭う彼女であったが、悪辣たる策略にはまり、
意思とは関係なく戦場へと駆り立てられるのだった。

前半
指月伏見城 ――なんじゃ、さっきから騒々しい……！ これではせっかくの昼寝が台無しじゃ……ふぁ～ぁ。 鯰尾形兜 ダ、誰ナンダ、オマエハ！？ ドウシテ俺タチノ船カラ小娘ガ……！？ 指月伏見城 むっ……おぬしらこそ誰じゃ？ 妾の眠りを妨げる者は何人たりとも許さぬ……むにゃむにゃ……。 指月伏見城 ……って、よく見ればおぬし、兜ではないか。 どうして漁船に兜なんぞが乗っておるのじゃ？ 椎形兜 漁船ッテ……コレハ俺タチ兜ノ船ダッツノ！！ 椎形兜 サテハ貴様、密航者ッテヤツカ！！ 指月伏見城 何を馬鹿なことを言うか！ 指月伏見城 妾は指月伏見城！ 誉れ高き幻の城娘なのじゃ！ 椎形兜 エ～イ、ウルサイウルサイッ！ 名乗リハイイカラ何デ船ニ乗ッテタノカ白状シヤガレ！！ 指月伏見城 ん～。何でじゃったかのぅ。 指月伏見城 ……はっ！ そうじゃった、そうじゃった。 指月伏見城 ここんところ暑くて、おちおち昼寝もできんのでな、 久しぶりに旧友の城娘と一緒に海にでも行って、 ぷかぷか浮き輪の上で惰眠を貪ろうと画策したのじゃ。 椎形兜 ……ハ？　プカプカ……？ ナ、ナニ言ッテンダ、オマエ？ 指月伏見城 何じゃぁ、物わかりの悪い兜じゃのぉ……。 指月伏見城 ならば、この姿を見るがよいっ！ 椎形兜 ――ナ、ニィィッ！？ 指月伏見城 むふふっ♪ これぞ指月伏見城、幻の水着姿なのじゃ！　 指月伏見城 滅多に見られるものではない故、とくと目に焼き付けるが良いのじゃ♪ 椎形兜 コ、コレガ……城娘ノ、水着姿……(ゴクリ) 指月伏見城 ……と、こんなことしてる場合ではないのじゃ！ 指月伏見城 わっくわくなざぶーん体験が妾を待っておるのでな、これにて失礼するぞ♪ 鯰尾形兜 アッ、テメェ待チヤガレ！ 城娘ガタダ乗リナンテシテイイノカヨォ！　 銭グライ払ッテケェ！！ 能島城 そういう問題なのか……？ やくも そげなことより、あの城娘さん、 兜さんを前にしても、ものすご～く余裕な感じやけん、 もしかして、とんでもなく強い城娘さんなんじゃないかや？ 千狐 そうね……こっそり霊気を探ってみたけど、 あの指月伏見城という城娘、かなりの力を有しているようだわ。 やくも よっしゃ！ そういうことなら、殿さんに協力してもらえるよう頼んでみるだに！ 鶴崎城 そう、上手くいくでしょうか……？ 備中高松城 海で遊ぶためだけに来たみたいですし……、 ……一緒に戦ってくれる可能性は低いような気がするのですぅ。 やくも 確かにこのまま、ただ協力してなんて言っても 手伝ってくれる確率は低そうだに……。 やくも だから、うちが前に作った この一風変わった武器を進呈する代わりに 協力を依頼してみせるだに！ 能島城 おぉ～！　どっからそんなもん取り出したか知らねえが、 意外としたたかじゃねぇか、やくも！ 能島城 どれどれ……うーん、鈴と大槌の二つかぁ。 能島城 ま、指月伏見城の得物が何かは知らねえが、 とりあえず勧誘してみようぜ！ やくも だにぃ！ ちょっと行ってくるがやぁ！ やくも おーいっ、指月伏見城！ 指月伏見城 ……ん？ やくも あんたも城娘さんなら、こっちに来て殿さんと一緒に、 悪い兜さんを倒す手伝いをしてほしいがやー！ 指月伏見城 兜を倒す……手伝い、じゃと？ 能島城 只とは言わねー！ 今ならこの大槌か鈴をくれてやっから、殿に協力してくれー！ 指月伏見城 殿……か。 指月伏見城 ふむ……聞いたことがあるな。 何でも日の本に平和をもたらすために、 日夜、兜を倒しまくっているとかなんとか……。 指月伏見城 ふふっ、感心感心。なんともご苦労なことじゃ。 あの様な者がいるから、妾はこうしてダラダラしてられるのじゃ。 指月伏見城 殿ぉ～！　そして、その仲間たちよぉ～、感謝しておるぞ～！ ということで、此処らにいる兜も倒してほしいのじゃぁ～。 能島城 …………あれ？ 備中高松城 あっさりと笑顔でお断りされちゃいましたね……。 長浜城 なるほどぉ、指月伏見城かぁ～。 噂には聞いてたけど、随分とぐーたらな城娘のようだねぇ～。 長浜城 たぶん、よっぽどのことがない限り 戦いには協力してくれないと思うなぁ……。 やくも そ、そんなぁ……うちが作った武器に 見向きもしないだなんて……。 やくも 何だか自信無くしそうだにぃ。 三十二間星形兜 ……。 (神娘メ……強力ナ武器ヲ手ニシナガラ隙ヲ見セルトハ愚カナ……) 三十二間星形兜 ――今ダッ！！　 其ノ武器、我ラ兜ガ頂戴シヨウッ！！ やくも だにぃ！？　 う、うちの武器が……！？ やくも こらぁー！　返すだにぃ！！　どろぼーーーっ！！！ 椎形兜 ヘヘヘ……ソウ喚クナヨ！ コノ武器ハ俺タチガ上手ーク活用シテヤッカラヨ！ やくも 活用って……な、何をする気がや！？ 椎形兜 何ッテ……グヘヘ、コウスルンダヨ！！ 千狐 ――っ！？ 武器に瘴気を……！！ 千狐 まずいですわ！ あのような邪気に包まれた武器を 城娘が手にしたら、大変なことになりますわ！ 備中高松城 ならば、一刻も早く兜からあの武器を取り返さないとなのですぅ！！ 鯰尾形兜 バーカ、遅スギンダヨ！！ ホレ、指月伏見城！　 タダ乗リ分ノ働キハシテモラウカラナ！ そう言って、鯰尾形兜が不作法に投げた鈴を、 指月伏見城は何の疑いもなく受け取ってしまう。 指月伏見城 ん？　なぜ兜が妾に武器を――― 指月伏見城 ――ふぁっ！？ な、なんじゃ！　この悪気に満ち満ちた鈴は……ッ！？ 指月伏見城 くっ……ふゃ、ぁぁああっ！？ い、いかん……武器を御しきれぬ……す、鈴が勝手に……ぬっ、ぅぅぅぅ――！！ 鯰尾形兜 クヘヘッ、無駄無駄ァッ！！ 武器暴走ニヨル城娘ノ支配ハ、前ニ他ノ軍ノ兜タチガ実践済ダ！ イクラ幻ノ城娘トイエド抗ウ事ナンカ出来ネーヨッ！！ 指月伏見城 い、いやなのじゃぁあっ！ ただでさえ働くのはいやなのに、 この猛暑の中でとか勘弁なのじゃぁ～！ 指月伏見城 お、おい……殿とやら！ 妾の身体が疲れ切ってしまう前に、 は、早うこの武器を取り上げてほしいのじゃぁ～！ 殿 ――っ！！ 柳川城 参りましょう、殿！ 指月伏見城さんを助けるためにも、兜たちを一掃するのです！ 千狐 殿、指月伏見城さんが持っている『鈴』は、 一定の範囲内の全ての対象へ持続的なダメージを与えるみたいです！ 攻撃力自体は低いようですが、御注意ください！！
後半
指月伏見城 ――ふぁぁっ！？ う、浮き輪が……妾の浮き輪に穴が空いてしまったのじゃぁ～！！ 指月伏見城 どうしてくれるのじゃぁ～！ 妙な武器から救ってくれたのは感謝するが、 これでは海でぷかぷかできんではないかぁ～！！ やくも わ、わかったから泣かんでほしいだに……。 ほら、うちが直してみーけん、ちょっと貸すだに。 備中高松城 わぁ♪　やくもさん、浮き輪の修理もできちゃうのですか！？ やくも やったことはないけど、たぶん何とかなるはずだに！ やくも ほら、ここをこうして…… やくも ――こうだにっ！！ 指月伏見城 お～っ！！　すごいのじゃ！ 妾の浮き輪、完全復活なのじゃ～♪ 指月伏見城 やくも、おぬしなかなかに見所のある奴なのじゃ。 特別に妾と海でぷかぷかする権利を与えてやるのじゃ～♪ やくも だにぃ！？ その浮き輪、うちも乗っていいんかや～？ 指月伏見城 ああ、おぬしはちっこいからの。 きっと二人で乗っても大丈夫なのじゃ♪ やくも やったがやぁ～！ それじゃあ一緒に海へ行くがやぁ～♪ 椎形兜 ……コ、コラ……待チヤガレ……。 マダ、俺タチハ負ケチャイネェゾ……！！ 指月伏見城 なんじゃ……おぬしらまだ居たのか。 先刻の無礼は許してやるから、さっさと失せるがよい。 椎形兜 ウ、ウルセェ……ソウ簡単ニ……夏ノ海ヲ諦メテタマルカッテンダヨ！ 椎形兜 次デ勝負ヲ決メルゾ！ 全員コッチニ来テチカラヲ貸シヤガレ！ 兜軍団 ――ザザッ！ 兜軍団 ザザッ、ザザザッ！！ 指月伏見城 やれやれ……まだ、あれだけの数の兜がいるとはのぅ……。 三原城 苦し紛れの増員かと思いましたが、見たところ、 量だけでなく質の面でも厄介な兜が多く出現しているようですね。 上関城 連戦の上に強敵が増えたとなると、ちょっとまじーな。 殿、一旦退いとくか……？ 指月伏見城 ふふっ……そう深刻そうな顔をするな、城娘たちよ。 指月伏見城 先刻の借りもあるからな、 戦力が足らないということであれば、 妾の旧友の力を借りるといい！ 千狐 ……き、旧友！？ やくも そういえば、さっき指月伏見城は、 友人の城娘と一緒に海で遊ぶとか言ってたような……。 指月伏見城 その通りじゃ！　ふふっ、みな彼方を見よ！　 ちょうど良いところに妾の友がやってきたのじゃ！ 名古屋城 ――指月伏見城さーん！ お待たせしてすみません、 久しぶりの水着なんで着るのに手間取ってしまいましたぁ……。

白浜の争奪戦 -参-

水着姿で現れた名古屋城は、殿一行の窮地を知り、
力を貸すと約束する。だが兜の巧妙な奸計の前に、
彼女までもが武器暴走の餌食となってしまう……。

前半
名古屋城 ――指月伏見城さーん！ お待たせしてすみません、 久しぶりの水着なんで着るのに手間取ってしまいましたぁ……。 柳川城 あ、貴方は――！？ 名古屋城 ……え？ 殿 …………！ 名古屋城 ええ～～～～っ！？ 名古屋城 と、殿ではないですか！ 名古屋城 そんな……ど、どうして斯様な場所に？ 殿 …………！ 名古屋城 なるほど、せっかく海に遊びに来たのに、 偶然にも兜と鉢合わせてしまったと……。 殿 …………！ 名古屋城 ……え？　 そんなことより、水着似合ってる？ 名古屋城 ……そ、そうですか？ 殿 …………！！ 名古屋城 えへへ、殿にお見せできるなんて思ってなかったので私も―― 名古屋城 ――って、い、いけません、殿……！ そのようにジッと見つめられては恥ずかしすぎます……。 指月伏見城 何を言っておるのじゃ、 常時の方が水着よりもずっと涼しそうな格好をしておるくせに。 名古屋城 ――な、ななっ！？　 なんてこと仰るんですか、指月伏見城さん！！ 名古屋城 それではまるで私がいつも―― 柳川城 ――あ、あのぉ……。 歓談よりも、今は兜をどうするか考えた方がいいのではぁ……。 名古屋城 あ……そ、そうでした！ 名古屋城 兜退治ならば、お任せください！ この名古屋城が来たからには、もう安心ですよ、殿！ 古桃形兜 ウ、ウソダロ……！？ 名古屋城ッテ……アノ名古屋城カッ！？ 古桃形兜 コ、コンナノ……俺タチダケジャ勝テルワケネェヨ！ 蟹形兜 天下泰平サレチマウ前ニ、トットトズラカロウゼ！ 人魚形兜 ――馬鹿者ッ！！ 蟹形兜 ヒィッ！？ 砲撃式トッパイ形兜 ニ、人魚ノ姉御……ッ！？ 人魚形兜 私タチノ夏休ミヲ此処デ諦メテシマッテイイノ！？ 私、マダ水着ダッテ着テナイノヨ！！ 砲撃式トッパイ形兜 ソ、ソレハ……。 蟹形兜 俺タチダッテ、姉サンノ水着姿、楽シミニシテマシタケド……。 古桃形兜 ……デモ相手ハ、アノ名古屋城ナンデスヨ！ 御偉方モイナイノニ勝テッコネェッスヨ！！ 人魚形兜 諦メナイデッ！！ コノ人魚形兜ニ必勝ノ策アリヨ！！ 古桃形兜 ――ナ、ナンダッテ！ ソイツハ本当デスカイ！？ 蟹形兜 シテ、其ノ策トハッ！？ 人魚形兜 至極、簡単ナ策ヨ！！ 我々ノ軍ニ、アノ名古屋城ヲ引キ込ムノ！ 古桃形兜 ……ソ、ソウカ！　 サッキ神娘カラ奪ッタ武器ハ、二種！！ 砲撃式トッパイ形兜 大槌ノ方ヲ名古屋城ニ握ラセチマエバ、此方ノ戦力ニ出来ルッテワケカ！！ 古桃形兜 デモ、ドウヤッテ コノ大槌ヲ名古屋城ニ触ラセルノデスカ！？ 人魚形兜 コウ――――スルノヨッ！！ 指月伏見城 ――なっ！？ 兜たちめ、やくもの作った大槌を投げ飛ばして来よったぞ！！ 名古屋城 （――くっ！！ このままでは、殿に直撃してしまう！） 名古屋城 殿、お下がりください！！ あの大槌は私が受け止めてみせます！！ 指月伏見城 い、いかん名古屋城！！ おぬしは知らぬかもしれぬが、その武器は――！！ 名古屋城 心配ご無用！！ 大槌の扱いならば誰にも負けませぬ！ 裂帛の気合いと共に、 名古屋城は飛来する大槌を打ち落とす。 名古屋城 さぁ、今度はこっちから投げ返してやりますよ！ 覚悟しなさい兜たち！！ 砲撃式トッパイ形兜 ヨォッシッ！！　ヨシヨシッ！！ 名古屋城ガ大槌ニ触レタゾ！！ 人魚形兜 サァ、ソノ武器ニ心身ヲ委ネヨ！ 我ラガ兜ノ瘴気ヲ纏ッタ大槌ヲナ！！ 名古屋城 そんな……大槌が、勝手に……、 や、やだ……殿、逃げて、くださいぃ……このまま、じゃ………………。 指月伏見城 名古屋城……！！ 名古屋城 きゃぁぁぁあああああああーーーーっ！ 大槌が、勝手に……だ、誰かぁ……止めてくださいぃぃ～～～！！ 指月伏見城 まったく、自らの武に驕り他人の話を聞かぬから こういうことになるのじゃ……。 やくも あんたも先刻おんなじ事になっちょーけん、 偉そうなことは言えんだに！ 指月伏見城 ――うっ……。 意外と辛辣じゃな、やくも……。 指月伏見城 と、そんなことを言ってる場合ではないのじゃ！ 指月伏見城 これでは妾の、海でまったりぷかぷか計画が台無し――ではなくて、 名古屋城が大変なことになってしまうのじゃ！ 指月伏見城 妾はここで皆の荷物番をしてるから、 急いで兜たちを倒すのじゃ、殿！ 鬼ヶ城 名古屋城や俺様が持ってる『槌』は、 攻撃対象の周りを巻き込んじまう強力な武器だ……。 味方の城娘が持ってりゃ心強いが敵に回るとかなり厄介だから気をつけろよな！
後半
人魚形兜 オ、終ワッタ……私タチノ夏ガ……終ワッテシマッタ……。 蟹形兜 行キマショウ、姉サン……。 蟹形兜 水着姿ガ見ラレナカッタノハ残念デスガ、 何モ海ダケガ夏ノ全テジャアリヤセン。 人魚形兜 ……蟹形。 人魚形兜 ソウ、ネ……海ガ駄目ナラ、 他ノ場所デ夏メイタ遊ビヲスレバイイノヨネ。 人魚形兜 ソレジャ、即時全軍撤退シマショウ！ 他ノ地ニテ夏休ミヲ満喫スルワヨ！！ 古桃形兜 了解ッス！ 全軍撤退ッ！！　撤退ィィッ！！ 千狐 …………。 千狐 よかった……どうやら、兜を退けることが出来たようですね。 名古屋城 皆さん……迷惑をかけてしまい申し訳ありません……。 私が、このようなヘンな武器を手にしたばかりに……うぅぅ。 やくも （ヘ、ヘンな武器……！？） 指月伏見城 なに、結果として事なきを得たのじゃ。 一度心から謝ったならば、 それで良しとするのが男の度量というものよな、殿？ 鬼ヶ城 そういうお前さんは、さっき助けて貰った時に、 ちゃんと心から殿に謝ってないような気がするのは俺様だけかね？ 指月伏見城 ……ぎくっ。 殿 …………。 指月伏見城 わ、分かったのじゃ。 今回の件は、妾もかなりの迷惑をかけたからの。 指月伏見城 すまなかった、殿……。 ……この通りじゃ、許してほしい……。 殿 …………。 殿 …………！ 指月伏見城 おぉ、さすがは殿じゃ。 見込み通り、心の広き男子なのじゃ。 長浜城 ふふっ、兜も退治できたし、 これでやっと一件落着って感じだね～♪ 備中高松城 はい、何の憂いも無く綺麗な海を堪能できるのですぅ！ 桜尾城 ええ、ようやく心穏やかに 子猫ちゃんたちと潮干狩りが出来るというものですな。 鬼ヶ城 んじゃ、俺様たちは波乗りの再開といこーかな。 おら、能島城！　教えてやっからついてこいよ！ 能島城 へへっ、そうこなくっちゃな！ 今日こそはバッチリ波乗りできるようになってみせるぜ！！ 指月伏見城 やれやれ、血気盛んなやつらじゃのぅ……。 まぁ、これが若さというものか。 指月伏見城 さて、それじゃあ我々も行くとするか。 やくもぉ、付いてくるのじゃ～♪ やくも だにぃ～！ 一緒にぷかぷかするがやぁ～♪ 殿 …………。 名古屋城 あ、あの……殿。 殿 …………？ 名古屋城 もし、よろしければなのですが……。 名古屋城 実は彼方に、こっそりと冷やした西瓜を用意してますので、 名古屋城 その……後で一緒に、 西瓜割りなど……してみませんか？ 殿 …………。 殿 …………！ 名古屋城 はい、目隠し用の鉢巻きもちゃんと用意してますから、 後でたくさんグルグルってして差しあげますからね♪ 千狐 （よかった……一時はどうなるかと思いましたが、 ようやく海水浴を皆さんで楽しめるみたいですね、殿） 千狐 みなさーんっ！　楽しむのは結構ですが、 あまりはしゃぎすぎないようにお願いしますねー！ 千狐 今宵は、この近くで行われる縁日にも 参加する予定だということをお忘れなくですわ～！！ 指月伏見城 ――なぬっ！？ 縁日じゃと……！ 指月伏見城 縁日と言えば、綿菓子にあんず飴、そしてかき氷に水風船……。 指月伏見城 ……むふふ♪ 指月伏見城 兜らの邪魔はあったが、今日は良き一日となりそうなのじゃ～♪ こうして殿一行は、日が暮れるまで、 美しき海辺で楽しき一時を過ごすのだった――。

夏夜に轟く兜囃子 -壱-

とある村の縁日に招待された殿一行は、
現地へと向かうのだが、そこで目にしたのは、
縁日の会場を占拠する兜たちの姿であった……。

前半
殿たちが、海辺で兜たちを撃退してから半刻後――。 此の地では、縁日の準備が行われていた。 兵 ――よぉし！ これで準備は一通り終わったな！ 兵 今日は我らの村の縁日に、 日夜、兜と激しき戦を繰り広げているという、 あの『殿』がお越しになるわけだが……。 兵 しっかりと持て成すためにも、 今一度、屋台や太鼓櫓の確認を―― ？？？ フフフ……此処ガ、人間タチノ祭会場カ……。 兵 ――むっ！？ そこにいるのは、誰だ！！ 砲撃式トッパイ形兜 誰ダトハ御挨拶ダナ。 此ノ姿……既ニオマエラ人間ニハ馴染ミ深イダロ？ 兵 き、貴様は――兜っ！？ 兵 そんな……どうして、この村に兜が！？ 椎形兜 ドウシタモコーシタモネェ！！ 兵 ――ひぃっ！？ 椎形兜 俺タチハナ、イマ夏休ミ中ナンダ！ ツマリハ自由ッテコトサ！　ドウダ、怖イダロ！ 兵 い、意味はよく分からんが……確かに怖いことには間違い無い……。 砲撃式トッパイ形兜 ナラバ、サッサト此ノ場カラ立チ去ルガヨイッ！！ 今ヨリ此処ハ、俺タチ兜ノ夏祭会場トナルノダ！ 兵 ――か、兜の夏祭会場だって！！ 兵 ふざけるな！　これは我々が何日もかけて用意した―― 突撃式トッパイ形兜 ゴチャゴチャゴチャゴチャ、ウルセェナァッ！！ 兵 ――ぐふぉぇっ！？ 兵 うっうぅぅ……そ、そんな……父上にも殴られたこと無いのに…… そんな厳つい棒で急に殴打するなんて……あんまりだ――！！ 椎形兜 フヘヘヘ、コレ以上抵抗スルッテンナラ、 今度ハ俺ガ、モット痛ェ所ニ、コノ武器ヲ、オ見舞イスルゼ？ 兵 ひぃっ――そ、そんな見るからに痛そうな武器を使うなんて、しょ、正気か！？ 椎形兜 アァァァンッ！？ 兜ニ正気モクソモアルカヨッ！　 兵 ――ぐふぁあっ！！ 兵 ひ、ひどい……二度も、鈍器で殴るなんて……うぅぅ……。 兵 だが、この会場を奪われるわけには…………いかない！！ 砲撃式トッパイ形兜 オイ、兄チャン……ソロソロ諦メタラドウダイ？ マダ抵抗スルッテンナラ、次ハ俺ノ大砲デ―― 砲撃式トッパイ形兜 ――ズドン、ダゼ？ 兵 なっ――――お、大筒をこんな至近距離で 人に向けるなんて……此奴ら……く、狂ってやがる！ 椎形兜 ヘヘ、今ノ俺タチニャ褒メ言葉ダゼ。 古桃形兜 夏休ミ中ノ兜ナメンナヨ！！ オラァッオラァッオラァッ――！！ 兵 ひ、ひぇぇぇぇええええ！！　 お助けぇぇぇええええ！　 椎形兜 …………フン、逃ゲテイッタカ。 椎形兜 モウ少シ粘ルカト思ッタガ……ッタク 根性ノネェ野郎ダ。殺ス価値モネェゼ。 兎耳形兜 オイ、ソレヨリモ早ク始メヨウゼ！ 海デ遊ブ計画ヲ殿ニ邪魔サレテ 此方人等イライラシテンダカラヨ！ 椎形兜 オット、悪ィ悪ィ。 砲撃式トッパイ形兜 ソレジャ、行コウカ皆。 コッカラガ俺ラノ夏休ミノ始マリダ！ 砲撃式トッパイ形兜 派手ニ遊ボウゼェェェェエエエッ！！ 兜軍団 応ッ――！！　応ッ――！！　応ッ――！！ こうして、とある村の縁日会場は、 兜によって占領されてしまったのだった――。 ――数刻後。 千狐 殿、此処が私たちを歓迎しているという村の縁日会場ですわ。 さっそく、参加させていただきましょう！ やくも おぉ～！　思ってた何倍も広くて大っきい会場だに！ 柳川城 屋台店も沢山ありますね！ 鹿児島城 わぁ……すごいですわ～♪ 彼処に太鼓櫓までありますの～。 村中城 あんま期待してなかったけど、 こんな立派な縁日ってんなら思いっきりはしゃげそうだな！ 飛山城 なぁ、村中城。金魚すくいやろうぜ？ どっちが沢山とれるか勝負ってことでさ！ 村中城 ああっ、望むところだぜ！ 村中城 けど、ただ勝負するだけじゃつまらねぇからよ、 村中城 負けた方が、かき氷をオゴるってのはどうだ？ 飛山城 ふふっ、言うと思ったよ。 まったく、あんたらしいねぇ。 鬼ヶ城 な～に二人だけで面白そうなこと企ててんだよ？ 勝負事なら勿論、俺様も参加するからな！ 不来方城 鬼ヶ城がやんなら、俺も当然参加だよな？ へへ、ぜってぇ鬼ヶ城よりも多く金魚をとってやるぜ！ 鬼ヶ城 おいおい、そんなに大口叩いていいのか？ 後で泣きべそかいて謝っても、かき氷は必ずオゴらせっからな？ 不来方城 あぁあんっ！？ それはこっちの台詞だ、鬼ヶ城！ 島原城 ハァ……まったく、金魚すくいごときで、 そこまで盛り上がれるとは……ほんと理解に苦しむわ。 村中城 ……んだとぉ？ 鬼ヶ城 おい、相手にすんなって。 金魚すらすくえねぇお姫様にゃ、この楽しみは分かんねぇって。 島原城 なっ――聞き捨てならないわね！ それではまるで、私が下手くそみたいな言い草じゃない！ 鬼ヶ城 違うのかい、お姫様？ 島原城 ……アナタ、よほど私を怒らせたいようね？ 島原城 ふふっ、いいわ！ この私が、本当の金魚すくいというものを見せてあげる。 島原城 鬼ヶ城、アナタは今のうちに負けた時の言い訳と かき氷の代金を用意しておくことね。 大高坂山城 …………やれやれ。 あの子たちったら、まーたじゃれついてるわね。 大高坂山城 でもまぁケンカするほど仲が良いってやつか……。 大高坂山城 それじゃあ、私たちは私たちで、 何か食べ物でも買いに行きましょうか。 能島城 よっしゃ～！　今日はめっちゃ食うぞぉ～♪ 海でいっぱい泳いだから、お腹ぺこぺこだぜ！ 上関城 おわっ！！　能島姉さん！ あっちに麺類系の屋台が見えますぜ！ 引田城 ――麺類っ！？ 引田城 もしかして、うどん屋さんですか！？ 若松城 いや、ふつう祭りと言えば焼き蕎麦じゃねーか？ 引田城 ――え！？ 蕎麦はあるのに、うどんは無いのですか……？ 引田城 はぅぅ……蕎麦に負けるのは、 ちょっと悲しいですねぇ、虎頭さん……。 長浜城 ほらほらぁ～、泣かないの、引田城ちゃん。 あっちに冷やしたバナナも売ってるっぽいし、一緒に食べにいこうよぉ♪ やくも あ～！　うちもぉ！　うちも一緒に行くだにぃ～！ 千狐 こぉら、走らないの！ 屋台もお祭りも逃げたりしないんだから。 千狐 ――って、あれ？ 向こうから誰か歩いてくるわ…………？ 指月伏見城 ――んぁ？ 千狐 し、指月伏見城さん！？ やくも めちゃめちゃお祭りを満喫してるだに！？ 指月伏見城 むふふっ、何じゃ何じゃ？ おぬしら、ま～だ何も買ってないのか？ 指月伏見城 そんなことではあっと言う間に祭りが終わってしまうぞ？ 柳川城 （あ、指月伏見城さん……あんず飴を買われたのですね） 柳川城 （よぉし……殿の分も買って、一緒にお祭りを楽しむ――） 柳川城 ――って、あ、あれは！？ 名古屋城 はい、殿。 シュワシュワっとした不思議な味付きのお水ですよぉ～♪ 殿 …………！ 柳川城 ――しゅわしゅわっ！？ 柳川城 （名古屋城さん、いつの間にあの様なものを……！？） 名古屋城 あっ、殿ぉ……この飲み物はこうやって開けて、 こーんなふうに飲むんですよぉ♪ 殿 …………！ 柳川城 （あぁ、殿がとても楽しそうなお顔をされてますぅ……） 柳川城 （完全に出遅れてしまったようですね……はぁ……） 柳川城 （それに……よく考えたら、私……） 柳川城 浴衣着てくるの忘れてましたぁぁぁ――！！ 殿 …………？ 千狐 ど、どうしたのですか、柳川城さん？ 柳川城 い、いえ……何でも、ないです……うぅぅ。 やくも 何だか、柳川城が元気ないだに……。 やくも しょうがないだに！ うちがかき氷おごっちゃるけん、元気出すがや！ 柳川城 やくもさん……。 やくも ってことで、おっちゃん！ かき氷二つだに！ おっちゃん(？) ヘイ毎度ッ！ 金500000ニナリヤスッ！！ やくも ――高ぁっ！？ いくら縁日だからってボリすぎだに！ おっちゃん(？) ソウ言ワレヤシテモ、 元締メカラ此ノ値段デ売レッテ言ワレテヤシテ。 やくも 原価の何千倍で売りつける気がやぁ！？ 責任者を出すだにぃ～！！ 後ろに並んでる客 ――オイ、何ヲ揉メテンダヨ！ 買ワネェンナラサッサト退ケヨ！ 柳川城 す、すみません……。 やくもさん、後ろのお客さんが怒ってま―― 柳川城 ……って……あ、あれ？ 兎形兜 ……ン？ やくも ぬぉわぁあぁぁあぁああああ――！？ 兜さんがいるだにぃ！！　どういうことがや！？ 兎形兜 ――ゲェェエエエッ！？ 何デマタ、オマエタチガイルンダヨォッ！！ やくも ってことは、屋台にいるのは……？ 桃形兜 ――モホォッ！？ 柳川城 も、桃形兜っ！？ 指月伏見城 これはどういうことじゃ！ 屋台で兜が商売してるとでもいうのか……！？ 名古屋城 ま、間違いありません！ よーくよく見たら、此処ら一帯の屋台の中にいるのは 全て兜ですよ、指月伏見城さん！ 指月伏見城 くっ……さっき屋台で色々と買ったが、 お祭りに浮かれすぎて全然気づかなかったのじゃ……。 名古屋城 ……お、同じく。 殿 …………。 指月伏見城 殿ぉ、何とかしてほしいのじゃ……、 指月伏見城 このままでは、妾……安心して みたらし団子をパクつけないのじゃ！ （もぐもぐぱくもぐ……） やくも とか言いながら、めちゃめちゃ食ってるだにぃ！！ やくも そげに余裕あんなら、少しは戦う素振りを見せるがやぁ～！ 指月伏見城 それは無理な相談じゃ、やくも……。 やくも ……え？ 指月伏見城 妾……このような浴衣姿では力の半分も出せぬのじゃ……。 指月伏見城 それに、この手にある水風船も金魚も、 戦いで台無しになっては可哀想じゃろう！ やくも だにぃ……何だかそれっぽい理由をつけて 丸め込まれてる気がするがやぁ……。 名古屋城 ――殿！　 今は一刻も早く戦闘の準備をお願いします！ 此の縁日会場から、兜を一掃してやりましょう！ 殿 ――っ！？ 名古屋城 み、水着にいちいち反応しないでください、殿！ 殿 …………！ 名古屋城 ……もぉ、何でもいいですから、 早く戦いの準備をしてくださいよぉ～！！ 兎形兜 クソッ……殿メェ……、　 マタ俺タチノ夏休ミヲ邪魔シヨーッテンダナ！ 兎形兜 オイ、桃形！　武器ヲ執レッ！ コレ以上、夏ノ思イ出ヲ台無シニサレテタマルカヨ！ 桃形兜 ウンッ！　コノ祭リダケハ絶対ニ成功サセルンダ！！ 兜軍団 ――イザ、出陣ッ！　出陣ナリィッ！
後半
兎形兜 ……ダ、駄目ダ……ヤッパリ、俺タチダケジャ倒セナイ……。 桃形兜 コ、コウナッタラ他ノ皆モ呼ンデコヨウヨ！ 兎形兜 ダナ……ソウト決マレバ全力デ逃ゲルゾ！ 指月伏見城 ……尻尾を巻いて逃げよったか。 ふふんっ、まったく口ほどにもないのじゃ。 やくも あんたは、ず～っと団子食べてただけだにぃ！！ 指月伏見城 やくもよ、そのような些事に拘るでない。 ほれ、団子を一つ分けてやるから……。 指月伏見城 って、それよりも今はまず状況を整理するのが先じゃったな。 指月伏見城 千狐よ。そもそも我々は、 此の地の村人たちに招待されて 縁日に来たのじゃったな？ 千狐 は、はい……日頃、兜と戦ってくれている 殿や城娘の皆さんを労うために、 是非とも縁日に参加してほしい、と……。 指月伏見城 だというのに、こうして会場は兜らに占拠されておる……。 指月伏見城 このような人情味溢れる縁日の会場を兜たちが準備出来るとも思えぬ故、 村人らによる設営が終わってから、此の地を襲撃したと見るのが妥当じゃろうな。 やくも おぉ、なんか指月伏見城が頭良さそうに見えるだに！ 指月伏見城 むっ……まさかおぬし、 妾を団子好きのぐーたら阿呆城娘だとでも思ってたのか？ やくも まさかぁ……そげな失礼なこと、少ししか思ってないだに。 指月伏見城 少しでも、そんなこと思うでないわ！ 指月伏見城 って、あれ？　今なんの話をしてたんじゃったか……。 うぅぅ、忘れてしまったではないかぁ……。 指月伏見城 こんな時、逃げ遅れた村人が、 物陰からひょっこり出てきたりして事態を説明してくれれば 話は早いんじゃがのぉ…………。 兵 ――います！　此処にいますぞぉ！　 逃げ遅れた村人一名、此処にいるでござる！ 指月伏見城 うぉっ！？　な、何じゃおぬし！？ 急に草むらから出てくるとはどういうことじゃ！ ……あやうく団子を落としかけたではないか！ 兵 す、すみません！ 殿たちが助けに来てくれたと分かったら、嬉しくてつい……。 兵 自分……此の地に兜が乗り込んできた時、 逃げ出したはいいのですが、足をくじいてしまって、 この草むらの中に隠れてるしかできなかったのです……。 千狐 ですが、村の方が近くにいてよかったですわ。 あの、事情を話していただけませんか？ 兵 は、はい！　実はですね………………――。 村人による無駄のない簡潔な説明によって、 殿たちはすぐに事態を把握する。 指月伏見城 …………なるほど。 指月伏見城 祭り会場を襲った時刻から考えても、先ほど戦った兜は、 我々が海辺で追い払った兜で間違いないようじゃ。 名古屋城 くっ……あの時、ちゃんと討ち取っておけば、こんなことには……。 指月伏見城 そう嘆くでない、名古屋城よ。 此奴の話では、村民は皆無事に逃げることが出来たようじゃからな。 指月伏見城 後は、我々が兜を此処から追い払えば、全て解決なのじゃ！ やくも なら、すぐにでも兜さんたちを此処から追い払うだに！ 千狐 それでは参りましょう、殿！ 兜たちは目と鼻の先にいますわ！ 殿 …………！ ――その時だった。 ドドン、という強烈な音が殿たちの耳朶を激しく打った。 やくも な、何の音がや！？ 名古屋城 これは、太鼓の音……でしょうか？ 柳川城 殿！　彼処をご覧ください！ 櫓の上に兜がいますっ！！ 椎形兜 フヘヘヘヘ…………太鼓櫓カラノ景色ハ最高ダゼッ！！

夏夜に轟く兜囃子 -弐-

尚も祭り会場を明け渡そうとしない兜たちと
殿一行の戦いは続く。太鼓兜の激しい
連打攻撃に注意しつつ、本陣を守り切れ！

前半
椎形兜 フヘヘヘヘ…………太鼓櫓カラノ景色ハ最高ダゼッ！！ 千狐 ど、どうして会場中央にある櫓の上に兜が立っているの……っ！？ 若松城 まさかアイツ……手に持ってるアノ武器で、太鼓を叩いたってのか！？ 能島城 おい、兜ぉー！！ 聖なる神祭具に何て罰当たりなことしやがるんだ！ 椎形兜 ヘヘッ、人間ノ祭事ナンテ俺タチニハ関係ネ～ンダヨッ！ 椎形兜 オラオラッ！　ブッ壊レルマデ叩イテヤルゼェ！ 烏帽子形兜 イイゾ～ッ、椎形兜～ッ！　モットヤレェ～！！ 砲撃式トッパイ形兜 グァッハッハッ！ ソレジャアイッチョ、兜音頭ト洒落込モウジャネーカッ！！ 兜軍団 ――ザザッ、ザザザッ！ 兜音頭、準備完了！　イツデモイケマス！ 能島城 か、兜音頭――だとぉっ！？ 長浜城 うっきゃ～～～っ！！ 不謹慎だけど、正直ちょっと興味あるかもぉ～！ 来島城 そんなこと言ってる場合ですか、長浜城さん！ このままでは太鼓が壊されてしまいますよぉ！ 島原城 それに、これ以上あの醜い奏を耳にしたくないわ……。 島原城 殿、私についてらっしゃい。 あの兜……二度とバチの持てない身体にしてやるわ！ 殿 …………！ ？？？ ――待テ待テェイッ！！ 椎形兜 アァァ？　誰ダァ～？　 俺ノ御機嫌ナ太鼓演奏ヲ邪魔スル奴ァ？ 椎形兜 ――ッテ、オマエハ！？ 突撃式トッパイ形兜 …………！ 椎形兜 突撃式トッパイ形兜……！？ ナ、何デオマエガ、ソンナ怖イ顔シテ俺ヲ睨ンデンダヨ？ 突撃式トッパイ形兜 太鼓ヲ傷ツケル奴ハ、イクラ仲間ト言エド許サンッ！ ――フンッ！！ 椎形兜 ――痛ッデェェェエエ！！ ヤ、ヤメロッテ！　何デ叩クンダヨ！ 突撃式トッパイ形兜 黙レ！　神聖ナ太鼓ヲ納メシ此ノ櫓カラ早々ニ立去レッ！！ 椎形兜 ナ、何ダッテンダチクショーッ！！ 釘形兜 フフッ……ソウ怒ルナ。 彼奴ハ我等ガ軍団ノ中デ最モ太鼓好キナ兜ナノヲ忘レタカ？ 椎形兜 ハァ？　ソンナノ初耳ダゾ！？ 烏帽子形兜 ソウイヤ俺、聞イタコトアルゾ……。 烏帽子形兜 アイツ、他ノ軍ノ兜タチヲ交エテ行ワレタ、 太鼓演奏ノ競技会デ優勝シタトカナントカ……。 椎形兜 イヤダカラ、ンナノ知ラネーッテ！ テカ何時ソンナ大会ヤッテタンダヨ！！ 突撃式トッパイ形兜 ――サァッ！！　我等ガ同胞！　ソシテ城娘…………アト、殿ヨ！ コノ私ノ厳カナル太鼓ノ旋律ヲ聴ケェェエエィッ！！ 指月伏見城 ――っ！？ こ、これは……！！ 名古屋城 な、何という……流麗な調！？ 若松城 く、悔しいけど……身体が、どんどん火照って…… 今にも……踊り出しちまいそうだ……。 能島城 認めたくないが……あの兜……。 とんでもねぇ、太鼓名人のようだぜ――！！ 指月伏見城 ――ば、馬鹿者！ 雰囲気に飲まれて妙なことを口にするでない！ 指月伏見城 殿、早急に兜を倒しにいくのじゃ！　 このままでは村人たちの大切な縁日が台無しになってしまうぞ！ 名古屋城 ……でも本音は？ 指月伏見城 このままじゃ兜のせいで妾の大好きなかき氷が食べられないのじゃ～！ 殿ぉ、早く邪魔な兜たちを一掃してほしいのじゃ～！　うわ～～～んっ！ 指月伏見城 ――って、何をやらすのじゃ～！！ 名古屋城 いた、いたたっ……ご、ごめんなさい、指月伏見城さん！ お願いですから、水風船でほっぺをペチペチしないでくださいぃ～！ 千狐 いずれにせよ、このまま兜たちの好きにさせてはなりませんわ！ 殿、すぐに戦いの準備をお願いします！ 突撃式トッパイ形兜 ――ムッ！？ 殿タチメ……私ノ太鼓ヲ耳ニシテ尚モ争ワントスルカ！ 突撃式トッパイ形兜 ナラバ、ヨリ美シク！　ヨリチカラ強ク太鼓ヲ叩クノミッ！！ 突撃式トッパイ形兜 ウォォォオオッ！！　 今日ノタメニ誂エタ法被――装着ッ！！ 椎形兜 ア、アイツ……何デ急ニ法被ナンテ着始メタンダ！？ 釘形兜 奴モイヨイヨ本気トイウコトダ！ コイツハ面白クナッテキタゾ！ 椎形兜 何ダカ良ク分カンネェガ、突撃式トッパイ形兜ガ ヤル気ダシテンナラ俺ラモ全力デ殿タチト戦オウゼ！！ 鬼ヶ城 むっ――兜のやつら、妙に気合い入ってんな……。 飛山城 陣形からして、明らかにあの太鼓を叩いてる兜を 守ろうって腹積もりなんだろうな……。 村中城 おかげで、あの兜には攻撃できそうにないぜ……殿、どうするよ？ 殿 …………。 島原城 大丈夫、悩む必要なんてないわよ、殿。 殿 …………？ 島原城 手出しが出来ないなら、周囲の雑魚どもを殲滅するだけ……ふふっ♪ 最後の一体になっても太鼓を叩き続ける度胸があるか試してあげるわ。 島原城 さぁ……行くわよ、臣民ども！ この島原城が、汚らわしき者たちを華麗に討ち取ってあげるわ！
後半
椎形兜 ――ヌガァァアッ！！ ダ、ダメダ……コノママデハ、押シ切ラレテシマウッ！！ 突撃式トッパイ形兜 何故ダ……私ノ太鼓ハ、 奴ラノ心ニ響カヌト……イウノカ！？ 釘形兜 オイ、何ヲボサットシテオル！ 後退ダッ！　此処ニ居テハ全滅シテシマウゾ！ 飛山城 甘いねぇ……。 此処まで追い詰めて、あたいらが逃がすと思ってんのかい！？ 鬼ヶ城 おらぁっ！　逃げんじゃねー、兜ども！ 村人たちの祭りを台無しにしたこと、絶対に許さねぇからな！ 兜軍団 ――ヒィィイッ！！　鬼ヶ城ト飛山城ダァァアッ！！ 兜軍団 ヤッパリ、三成サマ御不在デ殿タチニ挑ムナンテ 無謀ダッタンダァ……！ 椎形兜 今サランナコト言ッテモ仕方ネーダロ！ 兜軍団 デモ……デモォッ！！ 釘形兜 イイカラ走レ！　コノママジャ討チ取ラレルゾ！ 桃形兜 分カッテルヨォ……！！ 桃形兜 ――ッテ、アレ！　アレレッ！？ チョ、チョット待ッテ皆！　前カラモ城娘ガ来テルヨ！ 烏帽子形兜 ナ、ナンダッテ！？ イッタイ誰ガ―――― 犬山城 ――みんなぁ、お待たせ～っ！ 殿のために、急いで駆け付けたよぉ～！

夏夜に轟く兜囃子 -参-

村人の招待によって縁日会場に訪れた犬山城だが、
兜の策略により得物である大砲が暴走してしまう。
縁日を取り戻すため、今こそ兜との決着をつけよ！

前半
犬山城 ――みんなぁ、お待たせ～っ！ 殿のために、急いで駆け付けたよぉ～！ 古桃形兜 ……オ、オマエハ！？ 千狐 あの方は――犬山城さんっ！！ 間違いありません、犬山城さんですよ、殿！ 殿 …………！ 指月伏見城 しかし、一体どうして彼奴がこのような場所にいるのじゃ？ 兵 あぁぁ……犬山城さま……。 我々が呼んだとはいえ、 なんと折の悪い来訪でしょうか……。 名古屋城 貴方たちが呼んだ……？ どういうことですか？ 兵 実は、今宵の縁日――殿を持て成すためにと、 とっておきの花火師を御用意せねばと我々は思い立ち、 犬山城さまに声をかけていたのです。 長浜城 なるほどねぇ～、 だからあんな如何にも祭り～って恰好してるんだぁ。 兎耳形兜 （マ、マズイゾ……国宝五城デアル犬山城マデ来ルトハ……万事休ス、カ） 犬山城 ――ねぇねぇ？　ねぇってばぁ？ どうして兜が此処にいるのぉ？ 犬山城 あっ、もしかして兜も一緒にお祭りしたいのかなぁ？ 兎耳形兜 ――ンナワケアルカッ！！ 誰ガオマエラ城娘ナンカト……。 兎耳形兜 （――イヤッ、チョット待テ！？　コイツヲ上手ク利用デキレバ……フヘヘヘッ！） 犬山城 ……あれ？　急に黙り込んでどーしたの？ 兎耳形兜 ――犬山城ッ！ 犬山城 ひゃぅっ！？　……な、なぁに？ 兎耳形兜 実ハ俺タチ……今ハ夏休ミ中デナ、 ソノ間ダケハ殿ト仲良クシヨート思ッテ、此処ノ祭ニ来タンダ！ 犬山城 ――えっ！？　ほんとにぃ！？ 兎耳形兜 アア、ソノ証拠ニ殿タチノタメニ トッテオキノ花火ヲ用意シテアルンダ！ 桃形兜 ――ッ！？　 ソ、ソンナノ初耳ダヨッ！？ 兎耳形兜 （バカッ！　口裏アワセロッテンダヨ！　 ホラ、アノヤバイ感ジノカンシャク玉ガアンダロ……！） 桃形兜 （アア、少シ前ニ毛利軍カラ流レテキタ、アレダネ……！） 兎耳形兜 （ソレダソレ……トリアエズ、ソレヲ俺ニ寄越セ……） 犬山城 ねぇねぇ、花火ってどれなのかなぁ？ 準備はもう出来てるからぁ、早くちょうだいよぉ～♪ 兎耳形兜 ヘヘ、ソウ焦ンナッテ！ 兎耳形兜 ……ホラヨ、コレガ俺ラノ花火ダ！　受ケ取リヤガレ！ 犬山城 おぉ～、なんか見たことない感じの…………。 犬山城 ――って、これ！ 何だか邪気がムンムンしてるよぉ！！ 犬山城 ね、ねぇ……こんなの詰め込んだら、 大砲が大変なことになっちゃうよぉ……。 兎耳形兜 ウルセェッ！！ イイカラ黙ッテ、ソノカンシャク玉ヲ入レヤガレ！ 犬山城 わっ、わわっ――！？ そんな……勝手に何するのぉ――うわっ、うわわわ～～～っ！！ 兎耳形兜 ヘヘヘッ、案ノ定ヤツノ武器ハ暴走状態……。 コレデ犬山城ハコッチノモンダゼ！ 兎耳形兜 ホラッ、殿ヲ持テ成シニキタンダロォ、犬山城？　 奴ラニタップリト花火ヲ見舞ッテヤンナ！ 犬山城 や、だぁ……こんな状態じゃ、殿の前になんか、出られないよぉ……ぐすっ……。 兎耳形兜 トカ言イナガラ、オマエノ自慢ノ大砲ハ、殿ノ方ヘ向カッチマッテルゼ？ 犬山城 だ、だめぇっ！！　うぅぅっ、で、でも……もう、抑えてられない……っ！ 殿ぉぉ！　みんなぁ～！　逃げてぇーーーっ！！ 指月伏見城 ――ふにゃぁぁああっ！？ こ、こらぁ犬山城！　こちらに向かって砲撃するとは何事じゃ！ 犬山城 ご、ごめんなさいぃ～！ で、でもぉ……私の意思じゃ、止められないんだよぉ～！ 千狐 兜の瘴気まみれのカンシャク玉が影響して、 犬山城さんの武器が暴走してしまってるようですね……。 村中城 ったく、兜のやつら……どこまで悪さすりゃ気が済むんだ！ 村中城 これ以上はもう我慢なんねぇ！ 殿、此処で決着をつけるぞ！
後半
熊形兜 ……オ、オワッタ……。 海ニ続キ……此処ニモ俺タチノ居場所ハナイミタイダ……。 突撃式トッパイ形兜 セッカク、太鼓ガ叩ケルト思ッテタノニ…………ウゥゥ……。 椎形兜 悲ムノハ後ダ……トニカク、今ハ撤退スルゾ……。 夏休ミ中ニ討チ取ラレルトカ洒落ニナンネーカラナ……。 古桃形兜 チクショーッ！！　覚エテヤガレェーッ！！ 能島城 うわぁ……実際にあの台詞を吐くヤツ、初めて見たぜ……。 兵 皆さん、ありがとうございます。 これで祭を再開することができます……うぅぅ、本当によかった……。 鬼ヶ城 へへっ、大袈裟すぎるっての。 ま、これぐらい俺様たちにゃ朝飯前だな。 村中城 なぁ、それよか、犬山城は大丈夫なのか！？ 随分と派手に武器暴走を起こしてたみたいだけど…………？ 犬山城 ……うぅぅ、何とか無事だよぉ……。 若松城 おわっ……こりゃぁひでぇ……。 指月伏見城 犬山城よ……随分と霊気を消耗してしまったようじゃな。 犬山城 ……これじゃあ、せっかくお祭りに来たのに、 殿に花火を見せてあげられないよぉ……うきゅぅぅぅ……。 柳川城 犬山城さん……。 指月伏見城 …………ふむ。 指月伏見城 仕方ない、このまま暗い雰囲気で祭りを再開してもつまらんからな。 指月伏見城 妾の秘蔵の霊力回復薬を分けてやるのじゃ。 これで、おぬしの霊力と連動しておる車山も再構築できるじゃろう。 犬山城 ――えっ！？　いいのぉ、指月伏見城ちゃん！？ 指月伏見城 ああ、おぬしの泣き顔は縁日で目にすべきものではないからのぉ。 犬山城 ありがとぉ、指月伏見城ちゃん……。 指月伏見城 礼は言葉でなく、見事な花火で返してくれれば良い。 ほれ、さっさと元気な姿を殿に見せるのじゃ、犬山城よ！ 犬山城 むぉぉ～っ！！ 犬山城、一気に全回復だよぉ～♪ やくも 立ち直り早っ！？ 犬山城 えへへぇ、殿の前だからね！ いつまでもめそめそしてられないよぉ♪ 殿 …………！ 犬山城 それじゃ～っ！　お祭りの再開ってことで、 どでかい花火、打ち上げちゃうよぉ～！　ふんすぅっ♪ 犬山城の掛け声と共に、見事な火花が夜空に咲き誇る。 若松城 おぉ～っ！！　やるじゃねぇか、犬山城！ この調子で、もっともっと打ち上げちゃってくれよぉ！！ 長浜城 あっ、私も打ち上げてみた～いっ♪ 犬山城ちゃ～んっ、大砲触らせてぇ～！ 犬山城 いいよぉ～、みんなで殿のために た～っくさん綺麗な花火を打ち上げちゃお～♪ 指月伏見城 ぬふふっ、何だか面白そうじゃのぉ。 妾も一発くらいぶっ放してみるのじゃ～♪ 名古屋城 あぁ～！　私もやってみたいですぅ！ 指月伏見城 いや、その前におぬしは、いい加減水着姿をだなぁ……――。 指月伏見城 ――って、ちょっと待つのじゃ！ 妾、今とてつもなく重大なことに気づいてしまったのじゃ！ 名古屋城 重大なこと……！ い、いったいどのようなことなのでしょうか！？ 指月伏見城 屋台に兜がいなくなった今、いったい誰が店をやるというのじゃ！？ 名古屋城 そ、そういえば……！ 名古屋城 どうしましょうか、殿……これでは、せっかくの縁日が……。 引田城 ――心配ご無用ですっ！ 名古屋城 ……え？ 引田城 とりあえず、私が屋台の一つをお借りして、 うどん料理をぱぱぱ～んと振る舞っちゃえば食べるものには困らないです！ 三原城 なるほど……店主がいないなら、 我々がやってしまえばいいという逆転の発想ですね！ 三原城 ならば、三原はタコ焼き屋を担当しましょう！ 三原タコではないですが、具材はたっぷりあるようですからね♪ 鹿児島城 では、わたくしは射的のお店を担当しますのぉ～♪ 飛山城 お、おい……その物騒な銃はさすがに使わないよな？ 鹿児島城 ……え？　駄目なのですか？ 飛山城 ――むしろマジで使う気だったのか！？ 鹿児島城 うふふっ、さすがに冗談ですのぉ♪ 大高坂山城 もう、何だかあなたたちだけじゃ心配だから、あたしも手伝うわ！ 大高坂山城 ささっ、各自得意な料理や遊場に散開して、 殿のために急いでお店を切盛りするわよぉ～！ 殿 …………。 柳川城 殿……。 殿 …………？ 柳川城 皆さんのおかげで、なんとか無事に 縁日を楽しむことができそうですね。 殿 …………！ 柳川城 ……え？　私はどの店を担当するのか、ですか？ 柳川城 えっと……実は、ですね……。 柳川城 先ほど、かき氷屋さんを担当しようと思って、手を上げたのですが……。 柳川城 皆さんが、その……柳川城は祭り会場の案内のために、 殿の付き添いをしなさいと……仰っていまして……。 柳川城 ――あっ、いえ……別に、何か妙な意味があるとかではなくて……。 柳川城 その……たぶん、私が……殿と、一番付き合いが長いから……だと、思います。 殿 …………。 柳川城 だから……あ、あの…… 柳川城 私と一緒に、この縁日を……まわっていただけないでしょうか？ 殿 …………。 柳川城 …………。 殿 …………。 殿 …………！ 柳川城 ……殿！ はい、ありがとうございます！ 柳川城 それでは、皆さんの準備が出来たみたいですので、共に参りましょう！ 柳川城 ……えっと、どうやら最初は引田城さんの焼きうどん屋さんからみたいですね！ 殿 …………！ そうして、殿と柳川城が歩き始めると共に、 会場中央の櫓の上で、やくもが太鼓を叩き始めた。 やくも よっしゃ！　うちが本当の祭り太鼓を見せてやるだにぃ～！ 指月伏見城 ほぉ……やくもめ、まさか太鼓まで叩けるとはのぉ。 これで、ますます祭りらしくなってきたのじゃぁ♪ 名古屋城 それでは、より祭らしくするために、 犬山城さんにはも～っと頑張ってもらわないとですね♪ 千狐 犬山城さん、新しい花火の打ち上げ準備……完了しましたわ！ 犬山城 ありがとう、千狐ちゃ～ん♪ 犬山城 それじゃ～っ！　もう一発おっきぃの、いっくよぉ～！ 殿ぉ～、みんなぁ～、しっかり見ててねぇ～！　 犬山城 ふんすぅ～っ♪ 犬山城の可憐な声音と共に打ち上げられた花火が、夜空を華やかに彩る――。 気づけば、そんな美しき夜空を見つめる者たちの顔にも、 快活な笑顔の花が、一様に咲き誇っているのであった。

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