ストーリーテキスト/地獄/オシリスの審判場

オシリスの審判場[]

序幕[]

ドゥアト
……む。
何者だ、汝は……？

ドゥアト
元来、生者が此地に踏み入ることは、
できぬはずなのだがな……。

ドゥアト
まぁ良い……故は分からぬが、
何か意味があるのだろう。

ドゥアト
ここはオシリス神が掌握する領域。
ゲブとヌトが支え合う天地の、遥か下にあたる。

ドゥアト
そして……我が名はドゥアト。
古代エジプトに伝わる冥界として、魂を導く役目を帯びている。

ドゥアト
それにしても……。
よもや、生者と言葉を交わす機会が訪れるとはな。

ドゥアト
何故、迷い込んだかは分からぬが、
それも一つの定め……。

ドゥアト
ならば我も自らの役目に則り、
汝の魂を導くことにしよう。

ドゥアト
此地に訪れた魂の行方は、二つ。
楽園か虚無か……そのどちらか。

ドゥアト
我から言えることがあるとすれば、そうだな……。
黄色に輝く魂から、目を離さぬようにすることだ。

ドゥアト
もし気に入ったのなら、
共に歩む輩として、連れていっても良いだろう。

ドゥアト
しかし……忘れるな。
最後に判断を下すのは、汝の心だ。
すべての答えは、汝の胸の内にある。

ドゥアト
審判を越えた先で汝が何を得るか。
我も陰ながら、見守ることにしよう。

二幕[]

ドゥアト
ま、待て……静まれ、アメミット。

ドゥアト
声をあげては、奴に気付かれてしまう……。
餌なら後でやるから、今は口を閉ざして――

ドゥアト
――む。

ドゥアト
き……奇遇だな。王よ。
襲い来る試練を、順調に退けているようだな？

ドゥアト
ん……どうした。
アメミットが珍しいのか？

ドゥアト
うむ……。
此奴は、審判においては欠かせない存在だ。
我の同胞として、長きを共に歩んできた。

ドゥアト
ただ、偏食なのが玉に瑕でな。
罪人の心臓以外は口にせんのだ。
その癖、腹が空けば不満を垂れるし――

ドゥアト
ふ……どうした？　怯えているのか？
安心しろ、汝に飛びかかったりはせぬ。
今はまだ……な。

ドゥアト
餌食となるのは、審判にて罪人と判断された者のみ。

ドゥアト
その者の心臓と、正義の神マアトの羽根を秤に掛け、
均衡を保てなかった時に、罪人であると審判が下る。
重くても……軽くても、ならぬのだ。

ドゥアト
よって……この先で、
汝を待ち受ける審判の行方次第では……。
汝の心臓に、悲しい結末が訪れるかもしれぬな？

ドゥアト
……ふふ、汝をからかうのは楽しいな。
病みつきになってしまいそうだ。

三幕[]

ドゥアト
どうだ……王よ。
此地での日々には、もう慣れたか？

ドゥアト
……我や此地について、教えてほしい？
そうか……それは喜ばしいことだな。

ドゥアト
我、ドゥアトはエジプト神話における冥界、と語ったが、
その実態は汝らの知る『地獄』とは、趣が異なる。

ドゥアト
ここはあくまで、楽園に至る道の途中に過ぎぬのだ。

ドゥアト
此地に訪れた者は、祝福されし魂『アク』に至るべく、
楽園・アアルでの再生を目指す。

ドゥアト
多くの異形によって守られた道のりを越えて、
審判にて心臓を秤に掛けられる……これは以前にも語った通り。

ドゥアト
……だが、その先に大きな違いがある。それは、
『罪深き魂に、贖罪の場は用意されていない』ということだ。

ドゥアト
罪人だと審判され、
アメミットに喰われた先には……何もない。虚無だ。

ドゥアト
その運命からは、誰も逃れることはできない。
罪人だと審判されれば、汝も……。

ドゥアト
……時に、王よ。
汝の旅路は、そこまで急ぐようなものなのか？

ドゥアト
もし、汝が望むのなら、ここで我と――

ドゥアト
――すまぬ、らしくないことを言った。
今のは忘れてくれ……一時の気の迷いだ。

終幕[]

ドゥアト
……そうか。すべての試練を越えたか。

ドゥアト
いや、驚きは無い……。
汝ならやるだろうと思っていた。

ドゥアト
だが、よくやったな。過酷な道のりだったろう。
楽園へと魂を導くことが我の役目ではあるが、
我個人としても、嬉しく思うぞ。

ドゥアト
……して、この後はどうする？
さらなる研鑽を望み、自らを試し続けるのも良かろう。

ドゥアト
でなければ、我の御城で共に――

ドゥアト
――いや、ここまでにしよう。
これ以上縋っても、寂しさが増すばかりだ。

ドゥアト
……これが、別れを惜しむ気持ちなのだな。

ドゥアト
……ずっと、与えられた役目に従い続けてきた。
死者を裁くことだけが我が存在する意義だった。

ドゥアト
だが今は……汝との別れを前に、心をざわつかせている。
……知らなかった。心とは難儀なものなのだな……。

ドゥアト
……む、どうした？　……頼み？

ドゥアト
……我を、汝の同胞に？
力を貸してほしい……と言うのか？

ドゥアト
……面白いこと言うな。
仮にも我はオシリスの領域……ドゥアトだぞ。
それが汝の正義に肩入れをするとでも？

ドゥアト
……などと、答えていたのだろうな。
これまでの我であれば。

ドゥアト
……分かった。共に行こう。
これより我は汝の同胞だ。

ドゥアト
ああ……構わぬ。
汝の傍に居ると、退屈せずに済みそうだからな。

ドゥアト
汝に求められるのも、
悪い気分ではなかったしな……ふふっ。

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