ストーリーテキスト/嘉月子日の睦び

嘉月子日の睦び[]

嘉月子日の睦び -序-

年が明けたばかりの爽やかな冬の日に、小田原城が
新年会の一席を設けていた。小田原城の支城である
城娘たちが意気揚々と集まって楽しんでいると……。

前半
――睦月、相模国。 平井城 あっけましておっめでとーございまーす♪ 川越城 はーい、今年もよろしくね。 平井城 いやぁ、新年早々に小田原城様のところで宴なんて豪勢よねぇ。 平井城 はー、北条方になって良かった♪ 川越城 また危ない発言を……。 平井城 ん？　この場に今の言葉聞いて怒る人いないでしょ？ 川越城 ……いや、一人いるんじゃないの？ 平井城 あぁ、彼女なら聞いてるどころじゃないから大丈夫じゃない？ 平井城 ほら。 鉢形城 …………。 山中城 ……ねぇ、やっぱりどうしてもダメなのかな。 滝山城 逆に言えば、何があれば首を縦に振るというのじゃ？ 八王子城 やはり制服がないとダメなのでしょうか？ 忍城 とはいえ……我らは形ではなく心で繋がる親衛隊。 できるだけ自然体のままにこだわりたいのもありますし……。 厩橋城 どうか、鉢形さんも加わってもらえませんか……？ 鉢形城 ……と言われてもなぁ。 鉢形城 以前、山中城には文で言った通りなんだが……。 親衛隊まで行ってしまうと今ひとつ……。 鉢形城 私には気楽なファンクラブ会員くらいが合っていると思うんだ。 山中城 でも、鉢形城ちゃんは相当な実力者じゃない！ 山中城 親衛隊に入ってくれたら、小田原城様の凄さだって もっともっといろんな人に伝わるはずだよ！ 鉢形城 ……うーん。 鉢形城 ……済まないが、しばらく考えさせてくれ。 どうしても、やっぱり決心がつかないんだ。 山中城 …………。 山中城 （やっぱり、鉢形城ちゃんの中では引っかかってるのかな。 　元をたどれば山内上杉氏の城だったこと、かつて北条に刃を向けたこと……） 山中城 （鉢形城ちゃんは義理堅いというか頑固というか、 　一度決めるとなかなか動かないからなぁ……） 川越城 ……うーん。膠着してるわねぇ。 平井城 （地黄八幡さん、突っ込む？ 　こういう状況の打破なら二回目でしょ？） 川越城 （……急に小声になったから何かと思ったら。 　無責任に人をけしかけようとするんじゃないわよ） 川越城 （それに、私の地黄八幡の力は、 　まだ完全じゃないから隠してるの、分かってるでしょ） 平井城 （ふふっ、冗談よ冗談。本気で受け取らないでよ） 平井城 （そもそも私、軍師系城娘だからねぇ。 　人を動かし状況を打破するのが私の戦だし） 川越城 （……ふらっとどっか行って法螺貝吹きながら高みの見物するんじゃないでしょうね） 平井城 さー？ 川越城 …………。 兵 ――皆さま！　長らくお待たせいたしました！ 兵 これより、小田原城様による新春特別らいぶを開始いたします……が！ 滝山城 …………が？ 兵 まずは前座として、急遽此場に駆け付けてくれた方々による 集団演武をご覧になっていただきたいと思います！ 兵 それでは、どうぞ！ 兜軍団 …………。 山中城 え、えぇぇぇぇっ！？ 八王子城 か、兜が何故城内に！？ 兜軍団 演武、開始！ 烏帽子形兜 ハッ！ 兜軍団 フンッ！！ 椎形兜 ハーーーーーーイッ！！！ 厩橋城 あ、でも一糸乱れぬ演武で上手いですぅ……。 平井城 ねー、凄いわねぇ、まやちゃん。 厩橋城 ……あれ？　なんで平井城さんは変身してないんですか？ 平井城 ん？　逆に変身する必要がどこにあるの？ 厩橋城 え、えぇ？ 鉢形城 ……何だか分からんが、お前たちが落ち着いているということは 多分大丈夫なんだな？ 川越城 んー……私も咄嗟に平井城のこと見たんだけど、 普通にけらけら笑ってるからまぁ、大丈夫なんだろうなって……。 忍城 ……念のためと変身しましたが、 演武をしているだけ、ですね？ 滝山城 うーん……そもそもなんじゃが……、 あれ、本当に兜か？ 忍城 ……確かに、邪気が感じられませんね。 兜軍団 ヤーーーーーッ！！ 兵 ――はい！　ありがとうございました！ 兵 以上、『着ぐるみ演武』を終わります！ 山中城 ……え？　着ぐるみ？ 兜軍団 …………。（ゴソゴソ） 兵 拙者たちの演武をご覧いただき、ありがとうございました！ 八王子城 き、着ぐるみだったんですか！？ 忍城 そういうことでしたか……。 滝山城 あぁ、もしや殿たちより借りてきたものだな？ 山中城 えっ、殿たちって兜の着ぐるみなんて持ってたの！？ 滝山城 やくもたちが作った、と言っておったらしいが……、 これがそうだったか……。 平井城 あー面白かったー！ 川越城 呑気ねぇ……。 厩橋城 す、凄いです！ どうして平井城さんは兜が偽物だって分かったんですか？ 平井城 えー？　だってほら、後ろから二列目にいるあの兜、 頭のとこの糸がちょっとほつれてるし。 桃形兜 えっ！？（ゴソゴソ） 兵 ……ほ、ホントだ！ 平井城 おまけに最後の列の右から二番目の人、 腰のところがちょっとめくれて下に着てるものがはみ出てるわよー？ 突撃式トッパイ形兜 えぇっ！？（ゴソゴソ） 兵 あ、あぁっ……！ なんか突っ張るような気がしていたが、気のせいではなかったのか……！ 平井城 はっはっは、まだまだねー。 川越城 ……ホントにねぇ。ふざけ癖さえなければ 色々と凄い城娘なのにね。 厩橋城 え、じゅ、十分凄いと思いますぅ……。 平井城 ほんと～？　ありがとね～まやちゃ～～ん♪（なでなでなでなで） 厩橋城 は、はわわわわ！ 鉢形城 ……平井城、ほどほどにしておいてやれ。 厩橋城が困っているぞ。 平井城 てへへ、まやちゃんが可愛いくてついついねぇ。 よしよしって撫で繰り回したくなっちゃうのよ～♪ 川越城 こらこら、犬や猫じゃないんだから。 平井城 あら？　嫉妬かしら？ 川越城ちゃんもなでなでされたかったのかな～？ 川越城 いらないいらない。 平井城 あらつれない。 川越城 韻踏むんじゃないわよ……。 兵 ――それでは！　いよいよ小田原城様の新春特別らいぶ、開始です！ 兵 どうぞ！ 小田原城 ……皆さん、あけましておめでとうございます～。 山中城 わ、わあああああああああああああああああぁぁ！ 滝山城 お、小田原城様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！ 厩橋城 わぁぁぁ、とっても可愛らしいですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ！ 小田原城 うふふ、褒めてくださってありがとうございます。 小田原城 …………あっ。 小田原城 ほ、褒めてくれてありがと～。 おだわらじょーはとってもうれしいです～。 八王子城 あああああああああ！ やっぱり素が出てしまった小田原城様も可愛らしいですわぁぁぁぁぁぁ！ 忍城 あぁ……新年早々になんと……なんと…………！ 小田原城 そ、それでは早速一曲目、参りま～す！ 鉢形城 おぉぉ……一曲だけではないのですね…………！ 小田原城 『ういろうとお饅頭』！ 聞いてくださ～い！ 小田原城 いち、にー、さんっ、よんー♪
後半
小田原城 ……以上、私のかくし芸……でなくて、 えっと、らいぶを終わりま～す！ 小田原城 皆さん、聞いてくださってありがとうございました～！ 山中城 ……………………。 滝山城 ……………………。 八王子城 ……………………。 平井城 あぁ～、小田原城様の可愛らしさがたっぷり堪能できた、 いい時間だったわぁ～……♪ 川越城 ホントに可愛かったわねぇ。 川越城 ……で、みんな合掌したまま無言で固まっちゃったんだけど。 厩橋城 ……………………。 忍城 ……………………。 鉢形城 ……………………。 川越城 鉢形城もか……。 ちょっと、大丈夫？ 鉢形城 すまん、今は話しかけないでくれ……。 鉢形城 余韻が……薄れる…………。 川越城 ……あ、うん。ごめん。 平井城 何気に兜の着ぐるみたちが後ろで一緒に踊ってたのも良かったわねぇ。 まさに異色の組み合わせだったけど。 川越城 そうねぇ……。 でも、相当練習したのね、兵士の方々も、小田原城様も。 平井城 そりゃそうでしょ。 一朝一夕じゃ集団できっちり揃った動きなんてできないもの。 小田原城 それでは、皆さん。 引き続き宴を存分に楽しんでいってくださいね～。 平井城 はーい♪ 川越城 （みんなまだ合掌したまま固まってるけどね……） ――その後しばらく尊さに悶えていた城娘たちであったが、 つつがなく宴は進み……。 やがて―― ――宴も終わり、朝を迎えた。 小田原城 ……それでは、行って参りますね。 留守のことはよろしくお願いします。 小峯城 あぁ、任せておけ。 小峯城 だが、足元には気を付けるんだぞ。蹴躓いたり転んだりしないように。 それに、殿への挨拶の贈り物は持ったな？　何かあった時の緊急用狼煙は？ 変な人にはついていってはダメだぞ？　迂闊に変な物も貰わないこと、それから……。 小田原城 あらあら、まぁまぁ、小峯城は心配性ですねぇ。 小田原城 これでも私は『相模の獅子』なのですよ？ 小峯城 獅子の割に振る舞いが子猫みたいだから心配なんだ……。 小田原城 あら～。 小峯城 できることならついていきたいが……。 小田原城 まぁ、ダメですよ。 だって、お留守番は誰がするんですか？ 小峯城 ……そうなんだよなぁ。 小田原城 ……ねぇ、小峯城。 小峯城 はい？ 小田原城 いつもいつも、ありがとうね。 今年も一年、よろしくお願いします♪（ぎゅう） 小峯城 …………！ 小峯城 もう、いきなり抱き着いてはびっくりするでしょうに。 ……えぇ、こちらこそ、よろしく。（ぎゅう） 小田原城 ふふふっ♪ 小田原城 では、今度こそ行って参ります。 小峯城 えぇ、道中お気をつけて。 ――徐々に小さくなっていく小田原城の背中を眺めながら、 早朝の朝もやの中、小峯城はほうと息をついた。 小田原城が元気でいてくれるなら、自分は頑張れる。 新たな一年の始まりに伴い、小峯城は気持ちを新たにするのだった。

嘉月子日の睦び -破-

新年を蝦夷地まで祝いに来ないか、という招待状が
殿たちの許に届いた。一行はもちろん喜んで招待を
受け、ある城娘の地に転移していった。

前半
――蝦夷地。 千狐 殿、転移術は無事成功しましたわ！ やくも さて、招待主の五稜郭はどこにいるがや？（きょろきょろ） 殿 …………！ 五稜郭 そーーーぉさーーーーーーいっ！！ 五稜郭 あけましておめでとうございます！ 今年もよろしくお願いしますね！ 殿 …………！（なでなで） 五稜郭 えへへぇ、そうさ～い……。 年明け早々になでなで、嬉しいよぉ～……。 宇都宮城 これこれ……何じゃ、人前で。 竹田城 五稜郭さん……あけまして、おめでとうございます。 柳川城 （なでなで……いいなぁ…………） 五稜郭 おぉ！　宇都宮城に竹田城！ 貴方たちも来てくれたのだな！ 五稜郭 この五稜郭、歓迎しますよ！ 宇都宮城 うむ、たまにはこうして親交を深めねばな。 五稜郭 さ、いつまでも立ち話もなんですから、 どうぞ中へ。 やくも わーい、お邪魔しますだにぃ♪ ――屋内。 柳川城 あぁ……やはり外と違ってあったかいですね。 竹田城 炬燵におみかん……。 日の本の冬はやはりこれです……。 五稜郭 さぁ、早速みなでのんびり料理をつまみながら遊ぼうじゃないか！ 宇都宮城 むむ、正月早々にだらけるというのも少々釈然としないが……。 やくも 宇都宮城、うち、お正月に女の子がだら～ってすると 縁起がいいらしいって聞いたことあるだに。 やくも だから問題ないがや！ 宇都宮城 ……言い伝えというのは地域にもよりけりじゃがのう。 宇都宮城 ま、せっかくのお呼ばれじゃし、これ以上無粋なことは言うまいて。 五稜郭 何か遊びのご希望はあるか？ 五稜郭 私としては、やはりここは正月らしく かるたがしたいんだが……。 柳川城 いいですね、かるた。 宇都宮城 ほほう、この婆にかるたで勝負を挑むか！ 竹田城 かるた……？ 千狐 あら？　竹田城さんはかるたをしたことがないのですか？ 竹田城 ないですねぇ……。 竹田城 お正月はいつも、雲を見ていたり、 虎臥ちゃんのお手伝いをしているとあっという間に過ぎちゃって……。 柳川城 確かに、お正月は何だかんだせわしないですからね……。 五稜郭 ふむ、だったら最初は読み役をやってもらって、 どんな遊びか見てもらった方がいいかな？ 千狐 それがいいかもしれませんね。 でなければ不公平ですし。 五稜郭 竹田城、かるたというのはな、まず読み札と取り札があるのだ。 そして、取り札を並べていって……。 竹田城 読み札はこっちなんですね……。 書いてあるのは、歌……ですか？ 五稜郭 そうそう。竹田城が見ている読み札には、 下の句が書いてある。 宇都宮城 ……ん？ 五稜郭 で、読み役は札に書いてある下の句を読んで、 取る側の人たちは素早く同じ句が書いてある札を取る、という……。 柳川城 ……え？　普通は上の句を読みませんか？ 五稜郭 ……上の句？ 千狐 えぇ？　だって百人一首の書いてある歌がるた……ですよね？ 五稜郭 そうだが……え、上の句が読み札に書いてあるかるたがあるのか？ 宇都宮城 むしろ我らにとっては上の句が読み札、 下の句が取り札、というのが普通なのじゃが……。 五稜郭 ……待て、それだと上の句だけ聞いて下の句の札を取るということだよな？ 五稜郭 つまり、歌を全部覚えてなければ取れないじゃないか！ 宇都宮城 ……そういうものじゃ。 五稜郭 むむむ……ということはもしかしたら殿たちの方が有利……？ いや……慣れてる私の方が……？ やくも なんならもう集団戦にすればいいだに。 組み分けして戦えばいいがや。 やくも ……というのも、うち、いっつも千狐に負けとるけん。 今回くらい勝ちたいだにぃ。 宇都宮城 ほほう、千狐。おぬしはそれほどの実力者なのか。 ならばぜひお手合わせ願おう。 千狐 千狐でお相手が務まるのであれば……。 やくも じゃあうちは宇都宮城と組むがや！ やくも それと、五稜郭！ うちらと組んでくれたらきっと無敵だに！　組んでほしいがやぁ！ 五稜郭 おっ、いいぞ。組もうか。 やくも ……にへへ～、千狐ぉ～。 悪いけど今回は勝たせてもらうだにぃ～。 千狐 ……ふふん、だったら千狐は殿と、柳川城さんと組むわ。 千狐 殿もかるたがとっても強いし、柳川城さんも教養溢れる城娘……、 なれば、もはや千狐の負けはないのー！ 殿 …………！ 柳川城 えぇ、もちろん勝ちましょうね、殿！ 柳川城 （……殿と一緒の組なら負ける気がしません！） 竹田城 （……何だか、兜と戦ってる時くらいの緊張感が漂ってます） 竹田城 ……皆さん、準備いいですね？ 竹田城 それでは、読みます…………。 宇都宮城 ふふ、手加減は無用じゃな？ 五稜郭 悪いが、全力でやらせてもらうぞ、総裁！ やくも いざ尋常に！　勝負がやぁ！
後半
五稜郭 ……うぅっ、まさか先に取り切られるなんて！ 殿 …………！ 竹田城 （皆さん……しのぎを削ってますね……） 柳川城 さ、流石、宇都宮城さん……お強いです……。 宇都宮城 いやいや、よく食らいついてきたのう。 危ないところじゃったわい。 竹田城 （もうあっという間に、最後の一組……） 千狐 …………！ やくも …………！ 竹田城 …………。 竹田城 ……我が身よにふ―― 千狐 ――なのーーーーーっ！！ やくも ――てやーーーーーっ！！ 殿 …………！ 五稜郭 どっちだ！　どっちが勝ったんだ！？ 千狐 …………。 やくも …………。 千狐 ……ふふっ、悪いわねやくも。 千狐 まだまだ千狐の栄華は色褪せそうにないの！ やくも くぅぅぅっ！！　悔しいだにぃぃ！ 五稜郭 あぁぁ～……惜しかったなぁ。 宇都宮城 うーむ。しかしなかなか盛り上がったのう！ 柳川城 えぇ、とっても楽しかったです！ 殿 …………！ 五稜郭 よぉし、今度は組む相手を変えてやってみようか！ やくも …………。 やくも よし！　負けは負け！ 次の勝ちに向けて動くがや！ やくも ということで千狐、今度は一緒に組むだに！ 千狐 き、切り替え早いわね……いいけど……。 五稜郭 私は総裁と組みたいなぁ。 ねぇねぇ、組もうよ～。 殿 …………。 柳川城 竹田城さん、交代しましょうか？ 竹田城 ううん、みんなを見てるのが楽しいから、 もうちょっと読んでます……。 宇都宮城 ふむ、ならばわしは殿たちと。 柳川城は千狐たちとかな。 柳川城 えぇ。今度こそ勝たせていただきますよ！ 宇都宮城 良いぞ、存分に揉んでやろう！ 竹田城 …………。 竹田城 （楽しい…………）

嘉月子日の睦び -急-

かるたの白熱した試合も一通り終え、一行は正月
らしく、ゆるゆるとした時間を過ごしていた。
すると、にわかに一つの提案をする城娘が……。

前半
五稜郭 ……ふぅ！かるたも一通り楽しんだなぁ。 宇都宮城 うむ、なかなかに白熱した試合だったのう。 柳川城 ふふ、次は何をしましょうか？ 竹田城 あ、もしご興味があったら、なんですが…… 私、こういうものを持ってきました……。 やくも え？　何がや何がや？ 竹田城 んしょ、っと……。 竹田城 はい……。 宇都宮城 これは……双六かのう？ 千狐 ですが、何でしょう。 少々見慣れないことが書いてありますね……。 五稜郭 ふむ、双六ならば駒と賽が必要だな。 ちょっと取ってくるよ。 竹田城 ありがとうございます……。 宇都宮城 む、もしかしてこの双六、お主の手作りかの？ 竹田城 はい……。 私と、虎臥ちゃんの二人で独自に作った、特製双六です。 柳川城 手作りなんですね、道理であまり見たことのない 仕掛けが各所に見られると思いました。 竹田城 この双六は……私たち姉妹の地元である但馬を元にして 作ったものなんですよ。 竹田城 但馬には、但馬五社と言いまして……五つの由緒ある神社があるのです。 宇都宮城 ほほう、一番お主のところに近いのはどこなんじゃ？ 竹田城 一番近いのは粟鹿神社ですね……。 昔、近くの山の洞穴に住む鹿が人々に農耕を教えた、という起こりがあるのです。 やくも へー！　凄い鹿さんもいるもんなんやね！ 竹田城 お正月になったら、但馬五社を巡って参拝すると ご利益が得られると評判なんですよ……。 宇都宮城 ほう！　趣があって良いのう。 竹田城 でも、年明けはどうしても忙しくて……、 本当は虎臥ちゃんと一緒に行きたいんですけどね……。 柳川城 確かに……年明けに何日も留守にするわけにもいきません……。 竹田城 そう……だからこそ、せめて気分だけでも味わえないかと。 あれこれ考え、虎臥ちゃんの要望も取り入れ、作ったのがこの双六です……。 宇都宮城 なるほど。良き姉妹愛じゃのう……。 竹田城 実際に但馬の五社を巡ることが叶わなくても、 双六で遊ぶだけで参拝が済んだ気持ちになれますよ……。 やくも おぉっ！　なんだかお得だに！ 宇都宮城 ……まぁ、気持ちだけでも満足したいのならいい……のじゃろうか？ 竹田城 更に、私と虎臥ちゃんがよくやってるしゅみゅれーちょんをも取り入れたため、 なんと……遊んでいるだけで模擬訓練もできる優れものに……！ 宇都宮城 ん？　よくやってる……何じゃ？ 竹田城 しゅみれーちょんです。 宇都宮城 おー……その……ちゅみれーしょん？　というのは……？ 竹田城 しゅみゅれーちょんとは、かの春日山城さんと躑躅ヶ崎館さんがやっていたことの模倣……。 彼女たちは人形を用いて模擬訓練を行っているというのです……。 竹田城 私はよくお空の雲でしゅみゅれーちょんをしているのですが、 いつも晴れていて雲があるとは限りません……。 竹田城 ならば、遊びの形として残しておき……、 いつでも遊べるようにしてみようとも思ったのです……。 柳川城 素晴らしい試みだと思いますよ！ 遊びながら、というのなら学びというのはすんなり受け入れられるものですし……。 柳川城 なにより、手軽にできるのがいいと思います！ 殿 …………！ やくも いやぁ、竹田城っていっつもぼーっとしてるだけの城娘かと思ってたがやぁ。 やる時はやるんやねぇ。 竹田城 たまには……頑張ります……。 竹田城 …………ふんす。 五稜郭 ――お待たせ！ 持ってきたぞ、駒と賽。 柳川城 おかえりなさい、五稜郭さん。 ありがとうございます。 千狐 では、さっそくやってみることにいたしましょうか。 殿 …………！ 竹田城 私たち姉妹の力作、どうぞご堪能あれ……。
後半
五稜郭 よーし！　一番だ！ なかなかこの双六も楽しいな！ 宇都宮城 ぬぅ、あそこの出目さえ良ければ一番はわしだったというのに……。 やくも ……いつも思うんやけど、何で双六ってやってると だいたい肝心なところで出目が一足りないんがや？ 柳川城 あぁ……分かります……。 全然足りない出目が出るより悔しいんですよね……。 殿 …………。 千狐 でも楽しい？ 千狐 ……ふふっ、そうですね。 やくも むー、双六でも千狐に負けてるんは悔やしいだにぃ。 千狐 とはいえ、こればっかりは運も絡むもの。 やくも ……それもそうやね。 竹田城 楽しんでもらえたようで良かったです……。 宇都宮城 最下位は柳川城か。 模擬訓練はすんなりと通っていただけに残念だったのう。 柳川城 いえ、いいんです。 遊びですしね。 柳川城 （それに……座っている場所も、順位も殿のお隣ですから……） 殿 …………？ 柳川城 嬉しそうだな、ですか？ ふふ、お正月に皆さんと遊ぶのは楽しいですから。 殿 …………！ 五稜郭 よし！　今度は二人一組でやるとしよう！ 兜たちとの戦いに備えた訓練にもなることだしな！ 宇都宮城 おぬしの場合、単に双六が気に入っとるだけじゃろ？ 五稜郭 おっと、バレてしまったか。 竹田城 そんなに気に入ってくださったのなら、 製作者冥利に尽きます……。 五稜郭 あぁ、とてもいい遊戯を持ってきてくれて感謝するぞ、竹田城！ 竹田城 ……ご好評いただいてるようなら、 第二段の制作も考えてみますね。 五稜郭 さ、どんどん遊んでどんどん兜への対抗策を養うとしよう！ ――五稜郭が賽を手に取り、再び振り始める。 だが、その一方で、運命の神もまた不吉な賽を振っていた。 ――蝦夷地の森。 兜軍団 ザッザッザッ。 　　ザッザッザッ。 　　　　ザッザッザッ。 桃形兜 ……ソレニシテモ、人間ッテオ祭リ好キナンダネェ。 桃形兜 ナンカ事アルゴトニ、アッチコッチデオ祭リヤッテ、 ピーヒャラ騒イデルシサァ。疲レナイノカナ。 古桃形兜 祭リシマクッテ疲レテテクレルナラ、 俺ラニハ好都合ダロ？ 古桃形兜 大体、何デドコモ正月ダカラッテ休ンデンダ？ コレナラ奇襲シ放題ジャネーカ。 桃形兜 多分ダケド、寒イカラジャナイカナ……。 ホラ、冬ニナルト皆、服ヲ着コムデショ？ 古桃形兜 エェ……猫ガ炬燵デ丸クナリタガルンジャネェンダカラヨ……。 桃形兜 アトホラ、雪ガ積モッテテ動キヅラカッタリスルシ……。 古桃形兜 ……アァ、ダッタラチョットハ分カルカナ。 火焔形兜 シュゴッ、シュゴーーーーーッ、ンゴゴゴゴゴゴゴゴッ！！ 突撃式トッパイ形兜 ヨォシ、イイゾ。 ガンガン雪ヲ溶カセ！ 火焔形兜 シュゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ、ンゴッ！ 桃形兜 火焔形ノヤツ、イキイキシテルネ……。 古桃形兜 マァ、適任ダモンナ。 突撃式トッパイ形兜 ヨーシ、オ前ラ、後少シシタラ着クカラナ。 桃形兜 ハーイ。 古桃形兜 今回ハ五稜郭ッテ奴ノトコロダッタナ。 キットサゾカシダラケテルコトダロウヨ！ 桃形兜 炬燵ガアッタカクテ動ケナーイトカデ ヤラレテクレタラ楽ナノニネー。 古桃形兜 ハハハハハハハ！　ソレナラ確カニ楽ダナー！ ――談笑しながらも確かな殺意を漲らせて進軍していく兜たち。 その魔手は、五稜郭たちの目前まで迫りつつあるのだった……。

嘉月子日の睦び -結-

模擬訓練を兼ねた双六も終え、ただひたすらに平穏な
時間を享受していた殿一行。しかし、兜たちの
大軍は、もうすぐそこまで迫っていた……。

前半
――五稜郭・屋内。 やくも ふいー、遊んだ、遊んだだにぃ。 五稜郭 あ、お茶と口取り菓子、 ここに置いておくから好きに食べてくれ。 千狐 まぁ、可愛らしいお菓子ですね。 竹田城 ……いただきます。（はむっ） 竹田城 …………もぐもぐ。 竹田城 ……甘くて美味しい、です。 五稜郭 ふふふ、どんどん食べてくれて構わないからな。 宇都宮城 ずず……ふぅ……お茶も美味しいのう。 宇都宮城 どれ、せっかく休憩中なのじゃし、 何か婆が一つお話でもしてやろうかの。 殿 …………！ 宇都宮城 皆はもう初夢は見たかの？ 五稜郭 初夢？　そういえばまだだな……。 竹田城 私も……です。 やくも うちは一足お先に見たがや～。 とーっても楽しい夢だっただに！ 宇都宮城 ほう、どんな夢だったのじゃ？ やくも 富士山の上で、鷹がたくさん飛んでるのを見ながら 茄子の浅漬けかじりつつおにぎりさん食べる夢だったがや。 宇都宮城 はっはっは、それは縁起がいいのう！ 千狐 い、一富士二鷹三茄子を網羅しながら 自分の野望まで叶えるって……欲張りな夢ねぇ……。 やくも 夢でくらい、いっぱい欲張ったってええと思うだに。 千狐 ……まぁ、それもそうだけど。 宇都宮城 さて、今やくもが言った初夢じゃが、 実は良い初夢を見るための方法というのが存在する。 柳川城 えぇっ、そんな方法が？ 宇都宮城 うむ。それは宝船の絵を枕の下に敷いて寝ることじゃ。 宇都宮城 宝船とは、七福神や八仙が乗っておる船で、 名の通り、宝を積み込んでおる。 宇都宮城 元々は悪夢を流すための船、というものだったのじゃが、 いつからか、船の絵を床や枕の下に敷いて寝ると良い夢が見られる、となっていった。 竹田城 時代に合わせて色々変わっていったんですね……。 宇都宮城 うむ、文化というものは往々にしてそういうものじゃ。 宇都宮城 今日では、宝船の絵に加えて、回文歌も添えて書くことで 良き初夢が見られるということになっておる。 柳川城 回文歌……？ 宇都宮城 聞いたことはないか？ 例えば、『疾く立たじ　里の篁　雪白し　消ゆらむ方の　閉ざしたたくと』のような歌を。 やくも …………？ 千狐 とくたたじ……あぁ、なるほど！ 上から読んでも下から読んでも同じ意味になる言葉ですね！ 宇都宮城 そうじゃ。短いものだと、『冬の夕』などもあるの。 宇都宮城 宝船にも同じような回文歌がある。 それが、『永き世の　遠の眠りの　みな目ざめ　波乗り船の　音のよきかな』じゃ。 柳川城 ええと、ながきよの……。 柳川城 本当ですね、素敵な遊び心です！ 五稜郭 むむ……話を聞いていたら、 宝船の絵も回文も、ぜひ描いてみたくなってきたな！ 五稜郭 ということで、紙と墨と文鎮と筆と硯を人数分持ってきたぞ！ 柳川城 は、早い……。 宇都宮城 あぁ、途中急にどこぞに行ったかと思えば……。 用意のいいことじゃのう。 五稜郭 ふっふっふ、実は皆で書初めをしようかと思って用意しておいたんだ。 絵を描くのに使うことになるとは思わなかったけどね。 五稜郭 さ、宇都宮城。 どういう絵を描いて、歌をどこに書けばいいのか教えてくれ。 宇都宮城 ふむ、ではまず皆で墨を摺ることにしようかの。 殿 …………。 殿 …………？ 柳川城 なんでしょう、にわかに外が騒がしくなったような……？ ――て、敵襲！敵襲ーッ！！ 五稜郭 何だとっ！！ 宇都宮城 何とまぁ……どこのバカが正月なんぞに騒ぎを起こしたのじゃ！ 竹田城 殿……迎撃に、出ましょう……！ 殿 …………！ ――城前。 桃形兜 思ッタ通リ、結構ダラーットシテタミタイダネ！ 古桃形兜 ヨォシ！　ドンドン攻メテヤレ！！ 兜軍団 突撃！ 突撃！ 突撃！ 五稜郭 させるかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！！ 兜軍団 ギャアアアアアアアアアアアアアアァァァアアア！！ 桃形兜 ウワッ、城娘ダ！ 突撃式トッパイ形兜 ヒ、怯ムナ！ 相手ハ所詮一人、数デ押セバ勝テ……。 竹田城 銀虎さん、がおっと噛みついてください……！ 突撃式トッパイ形兜 ウワアアアアアアアアアアアアァァァアアアア！！ 柳川城 隙あり！　はぁっ！！ 椎形兜 ヒイイイイイイイイィィィイイイイイイイ！！ 桃形兜 ……一人ジャナーイ！！　ソンナー！！ 古桃形兜 ゲェッ、何デ殿ガイルンダヨ！？ 殿 …………！ 宇都宮城 ええいっ、正月早々に騒ぎを起こしおって！ おぬしらに『静かにする』という言葉はないのか！ 火焔形兜 シュゴーッ、シュゴゴゴゴゴゴッ、ンゴンゴッ、 シュゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴー！！ 宇都宮城 やかましいっ！！ どこぞの猪武者の真似なぞせんでいいっ！ 宇都宮城 おぬしらのような痴れ者どもは、わしら直々に成敗してくれる！
後半
五稜郭 まったく！我らも舐められたものだ！ 五稜郭 総裁、正月早々にお世話になってしまったな……すまない。 感謝するぞ。 殿 …………。（なでなで） 五稜郭 えへへ、気にしなくていいよだなんて、 総裁は本当に優しいなぁ～……。 やくも むむむむっ、いつもいつも五稜郭ばっかりずるいがやっ！ やくも うちも殿さんのなでなでを要求するだにーーっ！！ 千狐 え、えぇっ！？　ちょ、やくも！？ 殿 …………。（なでなで） やくも にへぇ～。 千狐 えっ……ええとっ……。 千狐 せ、千狐も撫でてほしいのーっ！ 竹田城 あ、私も……。 殿 …………！（なでなでなでなで） 宇都宮城 まったく、皆まだまだ子供じゃのう……。 あ、殿。わしは撫でんでよいからな。 殿 …………？（なでなで） 宇都宮城 いらんと言ったじゃろうが！ 宇都宮城 もう……今更この年で少女扱いなんて似合わんじゃろうに。 宇都宮城 だいたい、慰労として頭を撫でるのであれば、 おぬしが毎日世話になっておる柳川城が先じゃ―― 五稜郭 ――あれ？　そういえば柳川城がいないけどどこに行った？ 竹田城 あ、本当だ……いつの間に、どこへ行ってしまったのでしょう……？ 殿 …………？ やくも おーいっ、柳川城ーーっ？ 柳川城 ……は、はい！　失礼いたしました！ 千狐 あっ、柳川城さん。 千狐 ……あら？　先ほどまで共に戦っておられたのに、 どうして今城内から走って来たんですか？ 柳川城 いえ、それが戦い終わってすぐに、 墨を摺ろうとして、放置していたことを思い出しまして……。 柳川城 あのまま放置しては悪くなってしまうかも、と思い、 戦い終わってすぐに戻り、皆さんの分も含めた、全ての墨の水気を一度拭いてきたのです。 殿 …………！ やくも なるほど、そうやったんやね！ 宇都宮城 （……不憫よのう。今残っておれば殿に撫でてもらえたというのに） 宇都宮城 （だが……例え今改めて伝えたところで、皆の前では言い出す勇気がなく 　萎れるだけなのも想像がつくしのう……） 柳川城 ……？ どうなさったのですか、宇都宮城さん。難しいお顔をなされて。 宇都宮城 あぁー、いや、まぁ、何でもないんじゃ。うむ。 柳川城 はぁ、そうですか……。 竹田城 ……とりあえず、宝船の絵を描きに戻りましょう。 宇都宮城 う、うむ。 柳川城 ……？ ――柳川城の不憫さに、思わず一人ため息をついてしまう宇都宮城。 何とかして少しは浮かばれるよう、 正月早々に頭を働かせつつ、やっぱりため息を重ねてつくのだった。

嘉月子日の睦び -絶-

蝦夷地から所領に戻ってきた殿一行。日が落ちた頃、
ようやく相模国から出発して所領に向かっていた
小田原城が合流し、ある催事の幕開けとなった。

前半
――蝦夷地での正月の宴から数日後。 ――所領。 小田原城 ……あぁ、やっと所領に到着しました。 小田原城 皆様、あけましておめでとうございます～。 殿 …………！ 柳川城 小田原城さん！　あけましておめでとうございます！ 千狐 遠路はるばるようこそおいでくださいました。 さ、どうぞ。中へ案内いたしますわ。 小田原城 まぁまぁ、ありがとうございます。 ――所領屋内。 やくも あーっ！　小田原城だにぃ！ やっと着いたんやね！ 宇都宮城 おぉ、小田原城。 歩き通しで疲れたじゃろう。さ、座るとよい。 小田原城 あぁ、ありがとうございます。 ようやく人心地付きました。 竹田城 これでやっと、人数も揃いましたね……。 千狐 ――それでは皆さま！　お揃いになったということで、 早速ではありますが、新春かくし芸大会を始めますわ！ 千狐 まずは、不肖この千狐と……。 柳川城 私、柳川城が一番手を務めさせていただきます。 やくも おぉー。二人は何をするがや？ 千狐 千狐は、お手玉をいたします。 徐々に玉の数を増やしていきますわ。 柳川城 最後には、私が皆さまのお手元にお手玉をお届けいたします。 合図をしたら皆さまお手を開いていてくださいね。 千狐 では……参ります！（ひょいひょいひょい） 宇都宮城 ふふ、可愛らしいのう。 やくも あれ、どんどん玉が増えていくだに……。 千狐 …………。（ひょいひょいひょいひょいひょい） やくも おおっ、玉が五つになったがや！ 千狐 柳川城さん、行きます！ 柳川城 はい！ それでは皆さん、お手を開いてください。 やくも ……こうかや？ 千狐 はいっ！ 柳川城 発射っ！ やくも わっ！　お手玉がそのまま柳川城の弩で発射されただに！ 竹田城 凄い……ちゃんと、飛んできたお手玉がみんなの手の中に収まってる……。 殿 …………！ 千狐 はい、ありがとうございました。 柳川城 私たちのかくし芸はこれで終わりです。 宇都宮城 いやぁ、可愛らしい中にも技巧の光る、よいかくし芸じゃった！ 千狐 ふふ、そう言ってもらえると嬉しいですわ。 千狐 次はどなたが……？ 竹田城 あ、私と……。 宇都宮城 わしじゃな。どれ、参ろうか。 やくも むむ？　竹田城と宇都宮城で一組かや？ 何をするのか全然見当がつかんだに……。 竹田城 私たちは……銀虎さんと鉄狛さんで、獅子舞をします……。 宇都宮城 二頭はわしが指揮する。 各々、噛まれる準備をしておくのじゃぞ。 千狐 噛まれるというと……ふふ、獅子舞の験担ぎですか。 柳川城 ぜひ噛んでもらわないといけませんね。 宇都宮城 よし、竹田城。行くぞ！ 竹田城 はい……っ！ 宇都宮城 それっ！ やくも おぉーっ！　すっごい迫力がやぁぁ！！ 竹田城 皆さん……かぷっとしますよ…………。 殿 …………。 竹田城 かぷっ。 殿 …………。 小田原城 うふふ、お正月の雰囲気満点ですねぇ。 竹田城 小田原城さんも、かぷっ。 小田原城 きゃあー。かじられてしまいましたぁ。 宇都宮城 ほっ！　ほっ！ 千狐 す、凄いですわ！ 鉄狛が連続宙返りを……！ 竹田城 がおぉ……。 宇都宮城 はっ！ 竹田城 ……ふぅ、これで私たちのかくし芸は終わり、です。 宇都宮城 ご覧いただき、感謝じゃ。 小田原城 とっても凄かったです！ 柳川城 おめでたい気分になれるかくし芸でしたね。 なんだか今年は良いことがありそうな気がします。 竹田城 そう言ってもらえて……銀虎さんも喜んでますよ……。 宇都宮城 さ、次の者に出番を譲ろうかの。 やくも はーい！　うちだに！ やくも うちは、即興でお絵描きするがや！ 小田原城 まぁ、ずいぶん大きな紙にお絵描きするんですねぇ。 やくも じゃ、始めるけん！ やくも だにだにだにだにだにだにだにぃーーーーーーーっ！！ 宇都宮城 な、なんと凄まじい勢いじゃ……。 柳川城 あ、富士山……ですかね？ 千狐 上にいるのは……ねずみかしら？ 竹田城 荒々しい勢いなのに……できていく絵は……繊細ですね……！ やくも がやっ！！ やくも ……ふぅ、いしこにできたぁ～。 殿 …………！ 千狐 す……凄い……。 柳川城 ふふっ、富士山の上にいるねずみが、茄子をかじりながら 鷹を見下ろしている様子が可愛らしいですね。 宇都宮城 ……もしかして前に言っていた初夢を絵にしたのか？ やくも そんな感じだにぃ～。 竹田城 見ているだけで頬が緩みます……。 やくも うちはこれで終わりやけん、 次の人のかくし芸を楽しみに戻るがや！ 小田原城 まぁまぁ……私の番が来てしまいましたね……。 小田原城 （うぅ……やはり皆さまの前で、となると緊張します……） 小田原城 （緊張が抜けない場合は……小峯城に教わった通り……、 　今いるのは自分の地だと思うこと…………） 千狐 だ、大丈夫かしら。 小田原城さん、かなり緊張していらっしゃるようですが……。 殿 …………。 小田原城 （ここは相模国……ここは相模国……） 小田原城 （……………………） 小田原城 ……皆さ～ん！ おだわらじょーの新春らいぶ、楽しんでいってくださいね～。 竹田城 わぁ……小田原城さん、本当のあいどるみたいです……！ 宇都宮城 きゅ、急に人が変わったようになったが……本気じゃのう……。 小田原城 それでは早速一曲目、参りま～す！ 小田原城 いち、にー、さんっ、よんー♪
後半
小田原城 皆さん、聞いてくださってありがとうございました～！ 千狐 あぁ、とっても癒されるらいぶでしたわ……。 宇都宮城 うむ、こう、ぽわんとした気分になるのう。 竹田城 ぽわ～……。 小田原城 ふぅ……好評のようでホッとしました……。 殿 …………！ 小田原城 まぁ、殿まで褒めてくださって……嬉しいです。 殿 …………。 小田原城 え？　次は殿がかくし芸をなさるのですか？ 柳川城 と、殿もですか！？ いったい何を……。 殿 …………。 柳川城 ……目隠しをして蹴鞠を十、一人で続けた後に即興で一句詠む？ 宇都宮城 なんとまぁ……おぬし、そんなことができるのか？ 殿 …………！ 千狐 は、はい！　では、どうぞ！ 殿 …………。（ぽんぽん） 柳川城 （す……凄い……目を閉じているのに蹴鞠が続いています……） 竹田城 （……先ほどまでとは異なって、迂闊に喋れない雰囲気ですねぇ） 小田原城 （まぁ、素晴らしい……！） 殿 …………。（ぽんぽん） 殿 …………！ やくも ひぇぇ、しっかり十回蹴り上げ続けてただにぃ。 殿 …………。（さらさら） 千狐 本当に一句書いておりますね……。 殿 …………。 千狐 どれどれ……。 柳川城 ……ふふっ、今の場のことを詠んだんですね！ 小田原城 うふふっ、確かに雰囲気が移りましたもの。 宇津田姫に引っかけているところが面白いです～。 宇都宮城 うーむ、流石じゃのう！ 殿 …………！ ――こうして、新春かくし芸大会は盛況のうちに終わりを迎え、 すっかりと夜も更け、皆も寝静まる頃になった。 柳川城 ……あ、ここにおられましたか。 柳川城 え？　どうして自分を探していたのか、と？ 柳川城 実は……その……寝る前に、お願いがあって来ました……。 柳川城 ……その……宇都宮城さんが蝦夷地から帰る前、 こっそりと教えてくれたのですが……。 柳川城 あの……あの……私だけ、その、機会がなかったので…………。 柳川城 （な、なでなで……私にも…………） 柳川城 ……………………。 柳川城 わ、私、にも、……な、なでなで、してくださいっ！ 柳川城 ……………………。 柳川城 （あっ……と、殿の手……とてもあったかくて……大きいです……） 柳川城 ……す、すみません。ワガママを言って。 柳川城 でも……たまには、少しだけ……甘えてみたかったのです……。 柳川城 ……どんどん甘えてほしい、と？ 柳川城 ふふ……やはり、殿はお優しい方です。 柳川城 私のお仕えしている人が貴方で……本当に、良かった。 ――月夜の下、柳川城は柔らかな微笑みを浮かべる。 それはやはり初めて出会った頃と同じように、 天女の如き美しさを湛えている笑みだった。

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