ストーリーテキスト/喰えぬ詭計の貝合

喰えぬ詭計の貝合[]

喰えぬ詭計の貝合 -序-

所領内に落ちる謎の金を発見したやくもは、点々と
続く輝きの道を辿っていく。するとそこには、殿と
松倉城の姿があり思わぬ会話を耳にすることに……。

前半
やくも はぁ～。 なんだかんだで今年も終わりやねぇ。 やくも お正月には殿さんから どんなお年玉がもらえるんか楽しみ―― やくも ――って、あれ？ やくも 地面になんか落ちてるだに……。 やくも …………。 やくも ――っ！？ やくも こ、これは……。 やくも 金だに！！ やくも い、いったいどういうことがや！？ やくも …………。 やくも だに――っ！？ よく見たら、あっちの方にもいくつか落ちてるがや！ やくも これだけあれば……、 千狐の家計簿も潤うはずだに！！ やくも よっしゃ！　ぜーんぶうちが拾ってみせるけん、 待ってるがや、千狐ぉ～っ！！ ――そうして、 地に落ちている金を拾い続けたやくもは、 知らず領内の一室へと歩み進んでいた。 やくも あは～♪ よくわからんけど、これでうちも大金持ちだにぃ。 やくも ――ん？　あれ？ 向こうの方で殿さんの声が聞こえるだに。 殿 …………。 松倉城 …………召使い…………金……困っているのだろう――。 松倉城 貴様の――――身体で……………払え―――…………。 殿 …………。 殿 …………！ やくも （だに！？） やくも （あれは松倉城やね……たしか、すんごいお金持ちの城娘だったはずがや） やくも （それに……さっきの会話…………） やくも と、殿さん！ もしかしてそげにお金に困っとったがや！ 殿 …………。 殿 …………？ 松倉城 おお、やくもではないか。 久しいな、元気にしておったか？ やくも だにぃ、元気すぎて困るくらいがや～！ やくも って、そうじゃないだに！ やくも 松倉城、あんた殿さんをどうするつもりがや！？ やくも というより、身体で払えって、どういうことだに！！ 松倉城 ん……？ 松倉城 お前、いったい何のことを言っておるのじゃ？ やくも しらばっくれても無駄だに！　お金に困ってる殿さんを あんたがお金で買おうとしてたのは分かっちょるだに！ 松倉城 …………。 松倉城 ふふ……。 松倉城 あははははははっ！ 松倉城 こいつはいい。なるほどなるほど。 妾たちの会話をそのように誤解していたとはな。 やくも ……誤解？ 松倉城 おーい、千狐よ。お前もこっちに来て事情を話せ。 妾からの言葉では此奴も信用ならぬだろうしな。 千狐 ……事情？ 千狐 あら、やくも。どうしてこんなところに？ やくも それが――――。 ―――――――。 殿 …………。 やくも だにぃ……。 そういうことだったんやね……。 千狐 ええ。前に松倉城さんが、 資金繰りに困ってるなら――ということで、 殿にかなりの量の金を渡していたのだけれど、 千狐 結局のところ、ほとんど手を着けずに済んだから、 お返ししようってことで、松倉城さんを呼んだのよ。 松倉城 妾は返さなくてもいいと何度も言っているのじゃがな。 松倉城 貴様らも知っての通り、 妾には使い切れぬほどの財があるゆえ、 松倉城 召使いである此奴に分け与えたところで、 妾の懐は痛くもかゆくもないのじゃ。 殿 …………？ 千狐 （松倉城さん……出会った時からそうですけど、いまだに殿のことを召使い扱いなんですね） やくも まぁ、なんにせよ殿さんが借金してないなら、それでえーがや。 やくも ……って、あれ？ ということは、うちが拾ったこの金って……。 松倉城 なんじゃ、やくも。 妾が帰り道に惑わぬように落としていったものを、 拾ってきてしまったのか。 松倉城 まぁいい。お前には何度も武器を作ってもらった恩がある。 必要ならば、好きなだけ持っていくが―― 柳川城 ――殿っ！　大変にございます！ 殿 …………！？ 柳川城 そ、それが……。 柳川城 伊勢国で兜たちの動きが活性化しているとの報告が入ったのです！ 千狐 なんですって！？ 殿 …………！ 千狐 はい！　すぐに伊勢に向かう準備を進めましょう！ 松倉城 ふぅむ、忙しない奴らじゃな。 松倉城 師走じゃからかのう。はっはっは。 柳川城 あ、あの……。 松倉城さんは一緒に来てはくれないのでしょうか？ 松倉城 ん？ 松倉城 むしろなぜ妾が同行せねばならぬ？ 松倉城 兜退治は召使いたちの役目。 妾が手を下さずともよかろう？ 殿 …………。 松倉城 …………？ 殿 …………。 松倉城 …………？ 殿 …………。 松倉城 …………。 殿 …………。 殿 ……………………。 松倉城 ああ、わかったわかった！ そのように雨に濡れた子犬のような目をするでないわ。 殿 …………。 殿 …………。 松倉城 ふん……それによく考えてみれば、 妾の大事な召使いが傷つきでもしたら、 後々、困ることになりそうじゃしな。 松倉城 いいだろう。 此度は特別に妾も同行してやるのじゃ。 柳川城 本当ですか！？ 松倉城 ああ。 松倉城 して、報告にあった地とは伊勢のどのあたりじゃ？ 持っておる文を寄越せ。 柳川城 は、はい……！ 松倉城 …………。 松倉城 …………ふむ。なるほどな。 松倉城 （この地点……ということは、もしかすると彼奴が守護しているやもしれぬ） 松倉城 ふふっ、ならば―― やくも だに？　松倉城、あんた何をしちょーがや？ 松倉城 なぁに、ちょっとした置き手紙じゃよ。 松倉城 ――っと。 さぁ、これで完成じゃ。 松倉城 それではさっそく伊勢へと向かうとしよう。 妾の勘が正しければ面白い城娘にも会えるはずじゃろうしな。 殿 …………？ 松倉城 はっはっは！　お前が惑う必要などないわ。 松倉城 さぁ、千狐よ。 転移術とやらで妾たちを運ぶのじゃ！ 千狐 わ、分かりました！ ――伊勢国・某所。 松倉城 うーむ、さすがは神娘じゃ。 一瞬で此地へと辿り着いてしまうとはなぁ。 松倉城 ……おや？ 兜 オオオオオオオオッ！　ソッチニイッタゾォ！ 兜軍団 逃ガスナァ！　囲メェッ！　囲メェッ！！ やくも だにぃ！？　兜さんたちがえっぱいいるがや！ 千狐 あの息巻きように、特殊な陣形は……もしや！？ 柳川城 殿っ！　兜の群れの中央をご覧ください！！ 殿 …………！？ ？？？ はわわわわわっ！ やめて……これ以上ひどいことしないでくださいぃ！ 松倉城 これはまた、驚くほどに予想通りの展開じゃな。 松倉城 さぁ召使いたちよ、即時出陣じゃ！ あの囚われの小娘を助けにいけぃッ！！ やくも あ、あんたは行かんのがや！？ 松倉城 当然じゃ！ 松倉城 さぁ、我が召使い其の壱――柳川城よ！ その力を示すのじゃー！ 柳川城 め、召使いになった覚えはないですが……。 柳川城 って、いまはそのようなことを言っている場合ではありませんね！ 柳川城 殿、ご指示を！ まずは彼女を助けることに心を向けましょう！！
後半
？？？ ハァ……ハァ……。 ？？？ あ、危ないところを……ありがとうございました。 ？？？ 見ず知らずのわたしを助けてくれるなんて、 本当になんとお礼をしたらいいのか……。 松倉城 やれやれ、やはり解らぬのか。 松倉城 ほれ、こちらを向けい。 見ず知らずなどということはないぞ、伊勢長島よ。 伊勢長島城 ……ふぇ？ 千狐 松倉城さん、彼女をご存知なのですか？ 松倉城 うむ、こう見えてもアイドル事情にはそこそこ詳しくてのぅ。 やくも ……あいどる事情？ 柳川城 ど、どういうことでしょうか？ 松倉城 ふふ、何を隠そう其奴は―― 松倉城 今まさに大坂城が売り出さんとしておる 新人アイドルのひとり、伊勢長島城なのじゃ！ 殿 …………！？ 伊勢長島城 す、すごいです……！ わたしのことを、もう知っている方がいるなんて。 松倉城 驚くこともあるまいて。 松倉城 何を隠そう、貴様のアイドル活動における 諸々の費用は我の資金に因るところが大きいからな。 伊勢長島城 ……え！？ 松倉城 その様子だとなにも聞かされておらんようじゃな。 松倉城 少し前の話となるが、大坂城が 新人アイドルの育成に力を注がんとする声明を発表してな。 松倉城 それに賛同した一部の裕福な城娘たちが、 援助や投資の名目のもとで各々の私財を投入したのじゃ。 松倉城 そして、そのうちのひとりが妾……ということじゃよ。 松倉城 ま、海外の城娘風に言うならば、スポンサー様というヤツじゃな。 やくも な、何を言ってるのかよくわからんだに……。 千狐 要するに伊勢長島城さんが活動するための資金を、 松倉城さんが影でこっそり担っていた……ということみたいね。 伊勢長島城 そ、そうだったのですね……。 伊勢長島城 でしたら、あの……松倉さま！　 伊勢長島城 どうか、その……た、助けていただけないでしょうか？ 松倉城 ……助ける？ 伊勢長島城 はい！　実は少し前から、此地に兜たちが押し寄せてきていて……。 伊勢長島城 どうやら……わたしの歌舞の力と、 アイドルとしての格を利用しようとしているらしいのです。 千狐 そ、そんな……！ 柳川城 となると、兜の動きの活性化は、 前もって準備していたものだったということですね。 松倉城 ふん、気に食わぬ話じゃ。 松倉城 前々から貴様の素質に目を付けていたのは大坂城や妾だというのに、 松倉城 それがアイドルとして芽が出そうとなったら、刈り取ろうじゃと？ 松倉城 兜の分際で、妾の私財に手を着けるなど百億万年はやいわ！ 伊勢長島城 （わ、わたし……松倉さまの私財だったの！？） 松倉城 よかろう、伊勢長島。 必ずやお前を守ってみせる。主に妾の召使いがな。 伊勢長島城 ほ、本当ですか！？ 殿 …………。 殿 …………！ 伊勢長島城 ありがとうございます、殿！ 柳川城 それでは、急ぎ兜たちに対抗するための準備を始めましょう！

喰えぬ詭計の貝合 -破-

伊勢長島城を狙う兜軍団を打倒せんと決意した
殿一行。それぞれに戦の準備を進め始める中で、
松倉城は伊勢長島城に、あることを言い付ける。

前半
伊勢長島城 よいしょ……よいしょ……。 伊勢長島城 ふぅ、柵はだいたいこのくらいで大丈夫でしょうか？ 松倉城 ふむ……。 伊勢長島城 ……って、どうしたのですか松倉さま？ 松倉城 いやなに、よくよく考えてみれば、 アイドル姿でのお前をこうして間近で見るのは初めてじゃなと思っての。 松倉城 そうじゃ、伊勢長島よ。 ひとつ、妾のために歌舞ってみてはくれぬか？ 伊勢長島城 ええっ！？　こ、ここでですか？ 伊勢長島城 い、今は殿や此地の皆さんも兜の襲来に向けて 動いている状況ですし、後日の方がいいんじゃ……？ 松倉城 いいや。こうした状況なればこそ、尚更アイドルの 可憐な歌声や舞姿が民衆を鼓舞するのだろう？ 伊勢長島城 ……で、でも。 松倉城 ん？　ああ、なるほど、そういうことか。 松倉城 ほれ、金なら好きなだけくれてやる。 松倉城 未熟なアイドルと言えど、只では踊らぬということじゃろう？ 松倉城 ほれ、要件は満たしたのじゃ。 さっさと妾の前で己が技量を披露せい。 伊勢長島城 う……うぅぅ……。 松倉城 ん？ どうしてそこで泣くのじゃ？ 伊勢長島城 ひぐ…………あぅ、ぅぅ……。 松倉城 （いや、これは……） 松倉城 （怯えている……のか？） 伊勢長島城 ご、ごめんなさい……泣くつもりなんて、なかったのに……。 伊勢長島城 でも……でもぉ……うぇぇ～ん……。 松倉城 （自制できぬほどの悲哀……か） 松倉城 （妾としたことが、迂闊であった……） 松倉城 （此奴の業からして……恐らく、先の妾の言動が 　かつての信長の非道さに重なってしまったのじゃろう） 伊勢長島城 ぐすっ……ふぇ、ぅぅ……。 松倉城 悪かった……伊勢長島よ。 別に怖がらせるつもりはなかったのじゃ。 松倉城 妾の言動は、よく他者に誤解されるゆえ、 直さなくてはと常々思ってはおるのじゃが……。 松倉城 なかなかどうして上手くはいかぬのう。 松倉城 ……それに、妾も織田軍には痛い目に遭わされた身じゃ。 松倉城 お前がいま抱いている得体の知れぬ恐怖も、それなりに理解できる。 松倉城 だから……すまなかった。心から詫びよう。 伊勢長島城 松倉さま……。 伊勢長島城 ……よかった。 松倉さまは、本当はお優しい御方だったのですね。 松倉城 本当は？ 伊勢長島城 だ、だって……お金に物を言わせて人々を召使い扱いする 悪い城娘さんなのかな……と、少しだけ思っていたので……。 松倉城 オドオドしているわりには、はっきりと言ってくれるではないか。 伊勢長島城 あ、ぅ……ごめんなさい。 松倉城 はっはっは。だが、それがまた味でもある！ 松倉城 妾も少しばかり急きすぎたようじゃし……。 松倉城 お前の言うとおり、歌舞は事態が落ち着いてからで―― 兜 ――ザザッ！ 兜軍団 ザザッ！　ザザザッ！ 伊勢長島城 か、兜……！？ 松倉城 ほう、思っていたよりも早いお出ましじゃな。 松倉城 いいじゃろう。ここは妾が受け持つ。 伊勢長島は殿たちを呼んでくるのじゃ！ 伊勢長島城 そんな……お、おひとりで大丈夫なのですか？ 松倉城 妾を侮るでないわ。 松倉城 だいたい、争い事を好まぬお前に、 この場を押し付けるほど鬼畜ではないしのう。 伊勢長島城 ……え？ 松倉城 何でもいいから、さっさと行けぃっ！ ぐずぐずしていては戦況が不利になる一方じゃ！ 伊勢長島城 は、はい……！ 兜 城娘……包囲……。 兜軍団 ……城娘……鏖殺……。 松倉城 やれやれ、浮塵子の如く群れ寄ってからに……。 松倉城 妾だけならば討ち取れると……然様な愚考を抱いているとでもいうのか？ 松倉城 ふふ……。 松倉城 妾も舐められたものじゃな。 兜軍団 ――ッ！？ 松倉城 其の不敬、死を以て贖うがいい！
後半
松倉城 貴様で最後だ――ッ！ 兜 ギャアァァァアアアアアアアアアアッ！！ 伊勢長島城 すごい……あれだけの数を討ち果たすなんて……。 伊勢長島城 松倉さまは、ただのお優しい成金城娘ではなかったのですね！ 松倉城 はっはっは！　そうじゃ、妾は強くて優しい成金城娘―― 松倉城 ――って、だれが成金城娘じゃ！ 松倉城 妾は生まれもっての金持ち城娘なり！ 松倉城 そこのところ、しっかり覚えておくのじゃ！ 柳川城 （じゅ、重要なのはそこなのですね……） 松倉城 それよりも、伊勢長島もよくやったのじゃ。 松倉城 殿たちを呼ぶだけでなく、妾のために可憐に歌い、 切なる想いの上で舞ったればこその快勝と言えよう。 伊勢長島城 そ、そんな……。 わたしなんて全然たいしたことないですよぉ。 伊勢長島城 えへへ～☆ やくも めちゃめちゃ嬉しそうだに……。 千狐 あまり褒められ慣れてない……のかもしれないわね。 松倉城 ならば、これからは大変じゃな。 松倉城 アイドルとして世に羽ばたけば、それこそ 飽くほどの賛辞を受けることになるのじゃから。 ？？？ ――ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャヒャッヒャッヒャッヒャ！ ソウジャ！　ダカラコソ余ハ其ノ城娘ガ欲シイノダ。 伊勢長島城 こ、この声は……！？ 千狐 殿、向こうの方角から巨大兜が――！！ ？？？ 礼ヲ弁エヌ粗忽者メ……余ヲ指差ストハ何事カ……。 今川義元 …………余ハ、今川”治部大輔”義元デアルゾ！

喰えぬ詭計の貝合 -急-

此度の異事における元謀がついに姿を現した。
今川義元の名を冠する巨大兜から伊勢長島城を
守るため、殿一行は苛烈極まる戦場へと臨む。

前半
今川義元 …………余ハ、今川”治部大輔”義元デアルゾ！ 伊勢長島城 い、今川……義元……？ 松倉城 ほう、これはまた意外なヤツが出てきたものじゃ。 松倉城 てっきり、織田勢と縁ある名を冠した巨大兜が 裏で手を引いているとばかり思っておったが……。 松倉城 如何な思惑の上で伊勢長島を狙う、巨大兜よ？ 今川義元 フッ……貴様ノヨウナ下賤ナル者ノ頭デハ思イ至ラヌカ。 今川義元 余ガ自ラ詞ヲ与エテヤル義理ハナイ……誰カ代弁セヨ。 椎形兜 ――ハッ。 古桃形兜 一ツ……歌舞ノ技ヲ有スル城娘ノ中ニオイテ最モ御シヤスソウダッタカラ。 突撃式トッパイ形兜 二ツ……未ダ、アイドルトシテノ知名度ガ低ク、援護者ノ数ガ少ナイカラ。 蟹形兜 三ツ……天下ノ今川義元様ニ与スルニ充分ナ理由ガ其奴ニハアルカラ。 千狐 今川に与する理由……？ やくも ……もしかして、伊勢長島城は今川の城だったがや？ 伊勢長島城 え？　わ、わたしって……そういう歴史があったのですか！？ 松倉城 お前自身が驚いてどうするのじゃ……。 松倉城 そも、伊勢長島は藤原道家が築いた館を起源に持つ城とされておるじゃろう？ 伊勢長島城 は、はい……！ そうです、そのとおりです！ 伊勢長島城 北勢四十八家が一家の伊藤氏によって再建された後は、 一向宗の方々の拠点となりまして―― 松倉城 そして、かの有名な一揆を経て織田軍に攻略され、 滝川一益が城主となったわけじゃが……。 松倉城 ――っ！？ 今川義元 ソノ様相カラシテ……漸ク気ヅイタヨウダナ。 松倉城 馬鹿げている……。 松倉城 伊勢長島の裡に潜む織田勢への恐怖心を利用し、 歴史的敵対者である貴様の旗下に置こうというのか？ 今川義元 然様……。 古桃形兜 敵ノ敵ハ味方ナリ――。 突撃式トッパイ形兜 ――ナレバコソ長島一向一揆ニテ織田軍ヘ抗ッタ ソノ業ヲ内包スル城娘ガ義元様ニ味方スルハ必定。 松倉城 ……と、言っているが？ 伊勢長島城 え……。 今川義元 …………。 伊勢長島城 ……む、無理です！ ぜったいぜったいイヤですぅ！ 今川義元 ――ナッ！？　何故ダ！ 伊勢長島城 だ、だって……。 伊勢長島城 貴方やその配下の者たちは、わたしを狙うならまだしも、 此地の人々を長きにわたって苦しめてきましたもの……。 伊勢長島城 それに、石山御坊ちゃんが言っていました。 伊勢長島城 アイドル業界において、無理矢理な勧誘や引き抜きは御法度だって！ 今川義元 ゴ、御法度！？ 柳川城 （そ、そういう話をしていたのでしたっけ……？） 伊勢長島城 それに……。 伊勢長島城 怪しいひとには、ついていっちゃいけない……。 伊勢長島城 それくらい、わたしにだって分かるもん！ 今川義元 グヌヌヌ……。 今川義元 余ノ何処ガ怪シイトイウノダ！ 今川義元 余ハ天下ノ今川義元デアルゾ！ 松倉城 んなことは分かっておるわ、何度も言うでない！ 今川義元 デ、デハ……。 今川義元 余ヲ今川ト知ッテノ上デ、拒ムトイウノカ！？ 伊勢長島城 ……そ、そうですけど…………。 伊勢長島城 ダメ、ですか……？ 今川義元 ……………………。 古桃形兜 （イ、イケナイ……義元様ガ、アマリノコトニ思考停止状態ニッ！！） 古桃形兜 義元様！　オ気ヲ確カニッ！ 突撃式トッパイ形兜 アノヨウナ不逞ノ輩ノ自由意志ヲ尊重スル必要ナドアリマセヌ！ 蟹形兜 ボコボコニシタ後、瘴気漬アイドル、ニシテヤレバイイダケノコト！ 今川義元 歌舞ノ華麗サヲ損ナウ為……出来ルナラ瘴気ハ使イタクハナカッタガ……。 今川義元 コウナッテハ致シ方アルマイ！ 今川義元 全軍、此処ラ一帯ノ下種ドモヲ一掃シ、 即時、伊勢長島城ヲ捕縛セヨ――ッ！ 兜軍団 御意……ッ！ 千狐 殿、兜たちが一斉にこちらへ侵攻を開始しました！ 殿 …………！ やくも ど、どうするがや！？ 松倉城 知れたこと……。 松倉城 ゆくぞ、柳川城。 妾と共に戦うことを許可するのじゃ！ 柳川城 はい！　共に殿のために戦いましょう！ 伊勢長島城 わ、わたしも―― 松倉城 ……！？ 伊勢長島城 わたしも、最後まで戦います……！ 伊勢長島城 怖いけど……でも、ここで退いたら、 大事なものを守れないから……。 松倉城 いいじゃろう。 松倉城 ならば妾の戦を華やかなものとするため、 いまこそ美麗に歌舞ってみせよ――！！ 伊勢長島城 はい！ 伊勢長島城 わたしの歌舞で、少しでも皆さんを元気にしてみせます！
後半
伊勢長島城 松倉さま！今こそ勝機です！ 松倉城 心得ておる！　柳川城、妾の攻撃に合わせろ！ 柳川城 承知――ッ！！ 今川義元 チィ…………ッ！ 卑賤ノ輩ガ調子ニ乗リオッテ！ 今川義元 伊勢長島城ヨ――――ッ！！　今ナラバ、先ノ無礼ヲ赦シテヤル！ 余ノ旗下ヘト下リ、ソノ歌舞ヲ今川ノ天下取リノタメニ使ウノダ！ 伊勢長島城 ……え？ 今川義元 案ズルコトハナイ。貴様ガ無残ニ朽チ果テルマデ 余ガ最後マデ徹底的ニ使役スルコトヲ約束スル。 今川義元 然ラバ――余ノ物トナレ！ 伊勢長島城 そ、そそ……そんなお誘い……。 伊勢長島城 余計にお受けしたくないですぅ！ 今川義元 何故ダ！　今川ノ為ニ、ソノ出来損ナイノ魂ヲ燃ヤセルノダゾ！ 今川義元 余ノ為ニ死ネル幸福ヲ手放ストイウノカ！！ やくも なんか……松倉城みたいなこと言ってるだに。 松倉城 失敬な！　妾とて、あそこまで傲岸不遜ではないわ！ 千狐 （それなりの自覚はあるのですね……） 今川義元 エエイッ！　何タル恥辱カッ！ 今川義元 コウナレバ余ノ誘イヲ断ッタコトヲ タップリト後悔サセテクレヨウゾ！ 柳川城 ――あ、あれは！？ 兜軍団 義元サマ！　輿ノ用意ガ出来テオリマス。オハヤク……！ 今川義元 ウム……即時撤退ダッ！　 皆ノ者ッ、我ガ輿ヲ引ケイッ！ 兜軍団 エッサッ、ホイサッ！　 エッサッ、ホイサッ！ 伊勢長島城 巨大兜が……でっかい輿に乗って逃げていくだなんて……。 やくも ……前ん時もあげな馬鹿げた方法で撤退してただに。 千狐 いずれにせよ、当面の危機は去ったようね。 柳川城 ですが、依然として城外は兜の群れに囲まれたまま……。 柳川城 籠城を強いられる形となってしまいましたね。 伊勢長島城 ごめんなさい……。 わたしなんかに手を貸してしまったばっかりに。 松倉城 これ、未来の花形がそう簡単に涙など流すでない。 松倉城 このような状況、千狐の転移術で容易く打開できよう？ 千狐 そ、それが……。 千狐 此処ら一帯は今や邪なる気に覆われているため、 術による移動は困難な状況となっていまして……。 松倉城 ……なんじゃと！？ 松倉城 うぅむ……万能と思われた秘術にも、 まさかそのような落し穴があったとは。 伊勢長島城 ま、松倉さま……いったいどうすれば……。 松倉城 ……うぅむ。 殿 …………。 松倉城 ああ、お前の言うとおり、先の巨大兜の狙いは 十中八九兵糧攻めとみて間違いないじゃろう……。 伊勢長島城 ひょ、兵糧攻め……！？ 伊勢長島城 はわ、はわわわわわわっ！！ 伊勢長島城 どうしましょう！　どうしましょう、松倉さま！ 伊勢長島城 お腹が空いたら元気がでなくなります！ 伊勢長島城 お腹が空いたら機嫌がわるくなります！ 伊勢長島城 そうなれば魔王の思う壺……。 伊勢長島城 今さら降伏したとて、待つのは銃殺斬殺阿鼻叫喚――！ 伊勢長島城 どうしましょう！　どうしましょう！　どうしましょうっ！！ 松倉城 ええいっ！　落ち着かぬか、伊勢長島！ 伊勢長島城 ひぅ――っ！！ 松倉城 お前の裡で、かつての一揆が想起されるのも無理はない。 松倉城 だが、要のお前が取り乱せば悲劇の再演は免れぬ！ なればこそ、だからこそ、今こそ冷静に対処するのだ！ 伊勢長島城 松倉さま……。 松倉城 まずは城内の食料がどれだけあるか把握する！ やくも、千狐！　早急に各々の脚を動かせぃ！ 千狐 わ、わかりました！ やくも 了解だに……！ 殿 …………。 柳川城 そうですね、我らもすぐに取りかかるとしましょう！ 伊勢長島城 なら、わ、わたしも……！ 松倉城 否――お前はここに残れ、伊勢長島よ。 伊勢長島城 え？　で、でも……。 松倉城 いいから残れ。 松倉城 ……ふふ。 松倉城 妾に秘策あり……じゃ。 伊勢長島城 ……ひ、秘策？ 松倉城 ああ。 松倉城 お前が守る此地だからこそ成し得る秘策じゃ。 松倉城 分かったのならば、黙って妾の後に続けぃ！ 伊勢長島城 は、はひっ！ ――こうして兜の群れに包囲された城内にて、 長い長い籠城生活が始まったのであった。

喰えぬ詭計の貝合 -絶壱-

運命は生まれの貴賤によって決するものなのか――。
己が境遇と受けた仕打ちに言葉を紡ぐ二体の
兜たちは、夜の闇に取り留めない想いを傾ける。

前半
殿一行との戦いから数刻後――。 今川義元 ……ッチ。 今川義元 伊勢長島城メ……余ヲ拒ミ、 衆目ノ中デ恥ヲカカセルトハ！ 今川義元 許サン……絶対ニ許シテナルモノカァッ！！ 桃形兜 ――アタッ！？ 桃形兜 義元様……ド、ドウシテ ボクノ頭ヲ叩クノデスカ？ 今川義元 チョウドイイ位置ニ在ッタカラダ！ 桃形兜 ソ、ソンナァ……。 今川義元 エエイッ！　気分ガ悪イワッ！ 余ハ暫ク瞑想ニ入ル。邪魔スルデナイゾ！ 桃形兜 ショ、承知――ッ！！ ……………………。 桃形兜 ハァ……何トカ今日モ無事ニ生キ残レタネ。 古桃形兜 トカ言ッテルケド、オマエ思イッキリ頭殴ラレテタナ。 桃形兜 ウゥゥ……。 桃形兜 義元様ノ癇癪ニハ困ッタモノダヨ……。 古桃形兜 アアイウノ見テルト、ヤッパ先祖代々継承サレル家名ヤ 財産ッテノガ人生ヲ決メンダナッテ思イ知ラサレルゼ……。 桃形兜 ソ、ソンナコトナイッテ！ 桃形兜 ボク、思ウンダ……。 桃形兜 生マレノ貴賤ヨリモ、ソノ日ソノ日ノ努力ガ未来ヲ作ルンダッテ！ 古桃形兜 ウッセーナ、ナニ キモイコト言ッテンダヨ！ 古桃形兜 ソリャア俺ラ雑兵ハ、 ソウデモ思ワナイト ヤッテランネェケドヨー、 古桃形兜 ヤッパ此世ハ金ナワケヨ、金！ 古桃形兜 ソノ点、アノ城娘――松倉城ハ凄ェヨ！ 古桃形兜 知ッテッカ？　アイツ金山保有シテルラシイゼ？ 古桃形兜 アァ～ア、アアイウ金持ガ友達ニイタラ、サゾ楽シインダロウナァ――――――、 松倉城 （※兜製幻想形・松倉城） 松倉城 ふっふっふ、今日はとびきり美味い果物を大量に仕入れてきたぞ！ 松倉城 見よ！　なし、りんご、ぶどう！　どれも我が故郷の名産じゃ！ 桃形兜 ワァー、スゴーイッ！ 桃形兜 プリップリノツヤッツヤダーッ！ 桃形兜 コレ、全部タベテイイノ！？ 松倉城 うむっ！ 古桃形兜 ウッヒョーッ！ 松倉城 だが古桃形、お前はダメだ！ 古桃形兜 ――エエッ！？ 古桃形兜 ナンデサッ！？ 松倉城 悪いな、この果物は三人用なのじゃ。 古桃形兜 人数制限アンノッ！？ 桃形兜 モグモグモグ……！ 桃形兜 美味ェー！！ 桃形兜 タマラーンッ！ 松倉城 …………。 松倉城 …………。（ちらっ） 古桃形兜 クッソーッ！　覚エテヤガレ！ 古桃形兜 イツカ絶対ニ見返シテヤルーッ！！ ――数年後 松倉城 ひぃ……ひぃ……ふぅ……ひぃ……ひぃ……ふぅ……。 松倉城 な、なんてことじゃ……まさか、あのようなヤツに、 金山保有権を根こそぎ奪われてしまうとは……。 松倉城 これで妾は無一文……。 松倉城 ……ぐすっ。 松倉城 …………ひもじいのじゃぁ……。 ？？？ フフフ、ソンナトコロデ何ヲ泣イテルンダイ、松倉サンヨォ？ 松倉城 お、お前は！？　 妾から金山を奪った―― ？？？ ――ソウサ。俺ダヨ、 古桃形兜（成金） 古桃形兜ダヨ！ 松倉城 うぅぅ……な、何故……こんなひどいことを……。 古桃形兜（成金） 何故？　何故ダッテ？ 古桃形兜（成金） アハハハハハッハハハハハハッッッハッッハハッハ！ 古桃形兜（成金） ――笑ワセテクレルゼ！！ 古桃形兜（成金） オマエノ非道サガ俺ヲ変エタンダロウガ！！ 松倉城 ……ひぃっ。 古桃形兜（成金） アノ時ノ借リ……今コソ返サセテモラウゼ！ 松倉城 ――なっ！？ 何をする気じゃ！？ 古桃形兜（成金） グヘヘヘヘ……。 古桃形兜（成金） 松倉ァ……腹ガ減ッテルンダロウ？　 古桃形兜（成金） ホラ、オマエノ好キナ――梨、林檎、葡萄ダ！ 松倉城 にょわ――っ！！ 松倉城 すごいのじゃ！　食べたいのじゃ！　はやくよこすのじゃー！ 古桃形兜（成金） ――ット。 チョット待ッテクレルカ？ 松倉城 ……え？ 古桃形兜（成金） アア……。 古桃形兜（成金） ……悪ィナ、松倉ァ。 古桃形兜（成金） ヨク見タラコレ、三人用ミタイダ！ 松倉城 ――っ！？ 桃形兜 モグモグモグ……！ 桃形兜 バリ美味カーッ！ 桃形兜 オモサゲナガンス！ 松倉城 そ、そんなぁ……。 松倉城 た、頼む……何でもするから、ひとつだけでも恵んでほしいのじゃぁ……。 古桃形兜（成金） ナンデモォ？ 松倉城 …………。（←何度も頷いている） 古桃形兜（成金） ガハハハハ！　言ッタナァ、テメコノッ！！ 古桃形兜（成金） ナラ俺タチノ殿討伐ニ付キ合ッテモラウ！ 古桃形兜（成金） モチロン貴様ガ先鋒ダ！ 古桃形兜（成金） ボロボロニナルマデ使ッテヤルカラ覚悟シテオケヨ！ 松倉城 ひぃぃ……っ！ 空腹と貧困に負けて、妾、なんという愚かな口約束をぉ――！！ 松倉城 だ、だが……これも果物のため！　ひいては金のため！！ 松倉城 すまぬ、殿……明日よりも今日なのじゃ……。 松倉城 命よりも金の方が重いのじゃー！！
後半
古桃形兜 ――――トマァ、金ナワケヨ、人生。 桃形兜 ソ、ソンナコトナイッテ！ 桃形兜 ヤッパリ大切ナノハ、努力スル心ダッタリ、 謙虚サダッタリ、アタタカナ人徳ナンダヨ！ 桃形兜 テイウカ妄想ナガスギダヨッ！ 古桃形兜 ウルセェナ――ッ！（頭ボコーッ！） 桃形兜 ――痛ァッ！？ 古桃形兜 ダッタラマズ、イッパシニ金稼イデカラ文句垂レロヤ！ 古桃形兜 ソウスレバ、義元様ノ理不尽ニ付キ合ワナクテイイカモシレナインダカラナ！ 桃形兜 アッ……待ッテヨ、古桃形！ 桃形兜 …………。 桃形兜 ……ウゥゥ。 桃形兜 チクショォォォ―――――――ッ！！ 桃形兜は夜空に吠えた。 悲しきかな。 古桃形もまた、被害者なのだ。 嗚呼……金、金、金……。 そのまた金の、なんとくだらぬ世理よ。

喰えぬ詭計の貝合 -離-

兵糧攻めにより衰弱しきった殿一行を確認した
兜軍団は、ついに伊勢長島城をその手に収めんと、
全軍をもって城内へと侵攻するのであった……。

前半
殿一行が籠城を開始してから、既に多くの月日が過ぎていた。 今川義元 ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ――――ッ！ 今川義元 コレダケノ籠城ダ、既ニ奴ラハ虫ノ息デアルコトハ間違イナイ！ 古桃形兜 流石ハ義元様ニゴザイマス！ マサニッ！　完全無欠ノ策カト！ 突撃式トッパイ形兜 ――オヤッ！？　ゴランクダサイ義元様ッ！ ドウヤラ偵察部隊ガ帰還シテキタヨウデスネ！ 兜 報告ッ！　報告ッ！ 兜軍団 城内ニ活気ハ見エズ、在ルノハタダ静寂バカリ！ 兜軍団 兵糧モ尽キ、民草ハ飢餓ニ倒伏シテオリマス！ 今川義元 デアロウッ！　デアロウッ！　ソウデアロウッ！！ 今川義元 ヒャッヒャッヒャッヒャ――ッ！　機ハ熟シタッ！　 今コソ余ノ威光ヲ示スガ如ク盛大ニ彼地ヲ蹂躙シ、 今川義元 伊勢長島城ヲ我ガ手中ニ収メンッ！！ 兜軍団 応――――ッ！！ ――城内。 やくも うぐぅぅ…………。 千狐 …………コンぅ、 やくも ぐぅるるるぅぅ…………。 やくも このままじゃ、おなかとおしりがくっついてしまうだにぃぃ…………。 千狐 ハァ……ハァ……や、やめて……やくも……。 千狐 おねがいだから……しっぽをはみはみしないれぇ……。 やくも そういう千狐も、うちのヘビさんをかじらんでほしいだにぃ……。 殿 ………………。 柳川城 …………殿……。 柳川城 覚悟は……できて、おります…………。 柳川城 いざとなれば……わたしを、お食べください……。 殿 ………………。 松倉城 おい……しれっと禁忌を犯そうとするでない、召使いたちよ……。 松倉城 ……あー。 松倉城 でも……いいかもしれぬな……。 松倉城 城娘の……柔肌……。 松倉城 ……肉……肉……肉ぅぅぅ……。(かぷかぷ) 伊勢長島城 やぁっ……だ、だめですぅ……松倉さまぁ……。 伊勢長島城 わたしを食べても……おいしくないですよぉ……。 兜 …………。 兜軍団 …………。 兜軍団 …………。 古桃形兜 如何デスカ、義元様！　マサニ飢エニヨッテ 此地ノ者ラハ餓鬼道ニ落チシ亡者ノソレ！ 突撃式トッパイ形兜 ドウカ、今コソ誅戮ヘノ御裁断ヲ――ッ！ 今川義元 ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ！ 今川義元 ヨカロウッ！　ヨカロウッ！　オオヨカロウッ！！ 今川義元 蒼穹ノ下、今川義元ガ許ス――。 今川義元 伊勢長島城ヲ除キ、此地ノ下種共ヲ抹殺セヨ！ 兜軍団 御意ッ！　御意ィィッ！！ 古桃形兜 ヘヘヘ……餓死寸前ノ城娘ナンザ敵ジャナイゼ！ 突撃式トッパイ形兜 者共！　マトメテ始末スルノダァァァァアアアアッ！！ 殿 …………。 殿 …………！ 松倉城 うむっ！　ようやく策が成ったようじゃな！！ 兜 エ……？ 柳川城 皆さんっ！　手筈通りにお願いいたします！ やくも 了解だにぃっ！ 千狐 今こそ力を合わせる時ですわ！ 兵 うぉおおおおおおおおおおおおおおお！！ 兜 エッ！？　エエエエッ！？　ナンデ！？ 後方ノ城門ガ閉ザサレテイクゾ――ッ！！？ 兜軍団 コレッテ……イッタイドウイウコトナノ！？ 兜軍団 モシカシテ……モシカシテェ……ッ！ 伊勢長島城 はいっ！　そのもしかしてですよ、兜さん！ 伊勢長島城 さっきまでの腹ペコ状態はあくまで擬態！ 伊勢長島城 それもこれも全ては――、 伊勢長島城 貴方たちを誘き寄せるための作戦だったのですっ！ 今川義元 バ、馬鹿ナ……貴様ラハ此地ヲ脱スルコトナドデキナカッタハズ！ 飢エヲ満タス手段ナドアルワケガ―― 今川義元 ――ッ！？ 今川義元 ソ、ソウカ……！　ククク、ヒャッヒャッヒャッヒャ！ 余ヲ謀ラント痩セ我慢ヲシテイルダケナノダロウ？ 伊勢長島城 ……え？ 今川義元 ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ！ 危ナイ危ナイ、マンマト騙サレルトコロデアッタゾ！ 松倉城 ふむ……まさかそのように受け取るとは、 ある意味で賢き将と言えぬこともないな。 松倉城 ふふ、ならば試してみせよ、巨大兜！ 此地の真実が如何なものなのかをな！ 今川義元 今ノウチニ吠エテイロ下種共メッ！ 全軍、怯エルコトハナイ！　殺セッ！　殺シ尽クスノダァッ！！ 兜軍団 オオオオオオオォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ！！ 柳川城 殿、今こそ聡明なる下知を！ ここで決着をつけましょう――！
後半
今川義元 バ、馬鹿ナ……有リ得ヌ……。 今川義元 ドウシテ此程ノ反撃ヲ受ケテイルノダ……？ 今川義元 オカシイデハナイカ！　 余ノ軍勢ガ包囲スル中デノ籠城ダゾ！ 今川義元 食料ナド……トウニ尽キテイルハズナノニ……。 松倉城 ふっ、ようやく実感に至ってきたようじゃな。 松倉城 だが、時既に遅し。 松倉城 貴様の最大の誤算は此処が伊勢長島の 守護する地であったことに起因するのじゃよ！ 今川義元 ド、ドウイウコトダ……？ 今川義元 ソノ城娘ト現状ニ、如何ナ関係ガアルトイウノダ！！ 伊勢長島城 わたしは、アイドルの卵……。 伊勢長島城 けれど、そんな未熟なわたしにだって、 心強い支持者の皆さんがいるのです！ 伊勢長島城 だから、此度だって窮地のわたしを助けようと遠くから 駆け付けてくれる方がいても何ら不思議はありません！ 伊勢長島城 そうだよね、お姉ちゃん！ ？？？ …………ああ。 今川義元 キ、貴様ハ――ッ！？ 雑賀城 ふん……ようやく気づいたか、間抜け。

喰えぬ詭計の貝合 -結-

伊勢長島城を助けんと駆け付けた城娘――。
その名は雑賀城。彼女が生み出してくれた状況を
勝機とし、今こそ長きに渡る戦いに終止符を打て！

前半
雑賀城 ふん……ようやく気づいたか、間抜け。 兜 サ、雑賀城ダッ！！ 兜軍団 デモ、何デ彼奴ガココニイルンダ！？ 兜軍団 コノマエ攻メタ時ハイナカッタノニ……。 雑賀城 ……簡単なことさ。 雑賀城 それはボクが―― 松倉城 度を越したアイドルの追っかけだからじゃ！ 雑賀城 …………違うって。 雑賀城 いや、違わないのか？ 雑賀城 ……まぁ、いい。 雑賀城 伊勢長島とボクは御坊ちゃんを通じて知り合った仲でね。 雑賀城 彼女の抱える業や、それを刺激する害悪から守るために、 前々から事ある毎に色々と面倒を見てきたってわけさ……。 伊勢長島城 はいっ、まさに雑賀お姉ちゃんの言う通りです♪ 伊勢長島城 雑賀お姉ちゃんが、いつもたくさん差入れを持ってきてくれるので、 歌舞の練習をする時は万全の状態で臨むことができてますし、 伊勢長島城 今回だって、こっそり雑賀衆の皆さんを引き連れて、 海路から食料や武器を補給してくれていたのです！ 伊勢長島城 ……とはいえ、松倉さまに言われるまでは、 思い至らなかった展開ではあったのですが。 松倉城 だいぶ取り乱しておったしのう。仕方のないことじゃ。 今川義元 バ、バカナ……。 今川義元 海上ニモ余ノ配下タチガイタハズダトイウノニ……。 雑賀城 気づけなくて当然さ……。 雑賀城 ……ボクの隠密を暴けるやつなんて、そうはいないからね。 松倉城 追っかけには打って付けの特技よな。 雑賀城 ……松倉。 雑賀城 少し黙れ……。 松倉城 のわわっ！？ こんな至近距離で銃口を向けるやつがあるか！ 松倉城 ……ったく、相も変わらず洒落の通じぬ奴じゃな。 やくも けど雑賀城のおかげで、 うちは千狐の尻尾を食べずに済んだがや～！ 千狐 もうっ！　だから千狐の尻尾は非常食じゃないのぉ！ 殿 …………。 殿 …………。 今川義元 グヌヌヌ……余ヲ差シ置イテ何ヲ和ンデオルノダ！ 今川義元 クソッ……クソッ……クソォッ……クソォッ！！！ ドイツモコイツモ余ヲ馬鹿ニシオッテカラニ……！ 千狐 ――っ！？ 千狐 皆さん、注意してください！ 巨大兜の霊気が急撃に膨れあがっていますわ！ 古桃形兜 オオッ！　ツイニ義元様ガ本気ニナラレタヨウダ！ 突撃式トッパイ形兜 然ラバ我ラモ続ケェェェ――ッ！！ 兜軍団 オオオオオオオオオオオオオオッ！ 雑賀城 やれやれ、ようやく正々堂々勝負をつける気になったわけか。 松倉城 だが、これこそ我々が待ち望んでいた状況よな。 柳川城 ええ。決着を着ける時が、ついに来たのですね……。 伊勢長島城 で、でも……本気になった巨大兜を相手に……無事で済むでしょうか？ 雑賀城 何も心配することはない。 雑賀城 キミのことは、ボクが守ってみせる。 雑賀城 （……そうさ） 雑賀城 （御坊ちゃんとの約束を違えるわけにはいかない） 伊勢長島城 雑賀お姉ちゃん……。 松倉城 それに、いまは妾たちもいるしな。 松倉城 余裕じゃ、余裕♪ 伊勢長島城 松倉さままで……。 伊勢長島城 ……そう、ですよね！ 伊勢長島城 わたしはひとりじゃない……。 伊勢長島城 わたしは……たくさんのひとたちに 支えられて歌舞う機を与えられた城娘。 伊勢長島城 ならば――今こそ恩義に報いる時ッ！ 伊勢長島城 皆さんの笑顔のため、伊勢長島城……最後までがんばりますっ！！
後半
伊勢長島城 みなさ－ん！ わたしの歌でもっともっと元気になってくださーいっ！！ 松倉城 言われずとも、もう充分すぎるほどの恩恵を受けてるのじゃ！ 松倉城 ――そうであろう、雑賀？ 雑賀城 ふん……喋る暇があるなら手を動かせ。 今川義元 ウ、グゥッ……余ガ圧サレテイル……ダトッ！？ 柳川城 この距離なら外しはしません！ はぁぁああああ――――ッ！！ 今川義元 ガ、ハァ……ッ！？ 兜 ――義元様！？ 今川義元 有リ得ヌ……余ガ下種共ノ前デ膝ヲツクナド……。 今川義元 アッテハナラヌ…………。 今川義元 アッテハナラヌノダァァァアアアアアアアアアアアアアアアッ！！ 兜 マズイ……コノママデハ義元様ガ討タレテシマウ！ 古桃形兜 桃形ッ！　急ギ義元様ヲ輿ニ乗セテ運ブノダ！ 桃形兜 ショ、承知ッ！！ 桃形兜 サァ義元様、オハヤクッ！！ 今川義元 ナラヌッ！　当初ノ目的ヲ果タセテオラヌデハナイカ！ 桃形兜 デ、デスガ……！ 突撃式トッパイ形兜 構ワヌ！　無理ニデモ押シコムノダ！ 桃形兜 ハ、ハィッ！！ 今川義元 ンガ――ッ！？ 今川義元 コ、コレッ！　何ヲスル！　余ニ触レルデナイッ！ 触レルデナイワァァァァアアアアアアアアアアッ！！ 千狐 …………。 千狐 兜の撤退を確認……！ やくも ……ってことは！ 柳川城 はいっ！　我々の勝利ですっ！ 殿 …………！ 伊勢長島城 ハァ……ハァ……。 伊勢長島城 本当に、兜たちを退けられた……のですね？ 雑賀城 ああ。最後まで、よく頑張ったね。 伊勢長島城 雑賀お姉ちゃん……。 伊勢長島城 ぐすっ……ふぇぇ……。 伊勢長島城 うわ～～～～～～～～～～～～んっ！ 伊勢長島城 怖かったよぉ～～～～～～～～っ！！ 松倉城 おお、おお。べったり甘えられておるのう、雑賀お姉ちゃん。 雑賀城 …………。 松倉城 まじの殺気を放つでないわ、馬鹿者。 松倉城 とはいえ、今回ばかりは本当に助かった。 褒めてつかわすぞ、雑賀。 雑賀城 まったく……偉そうなのは相変わらずだな。 雑賀城 だが、キミが所領を出る際に書き置いた文がなければ、 こんなに早く事態を察知することはできなかっただろう。 雑賀城 一応は、感謝しといてやる……。 柳川城 それにしても、あの短時間でよく雑賀城さんへ 手紙を残そうという考えに思い至りましたね。 松倉城 なぁに。アイドルというものへ投資するようになってから、 その手の支持者たちの情報も多かれ少なかれ得ていたからな。 松倉城 加えて、伊勢長島のかつての一揆の実情も大まかにだが知っていたゆえ、 不測の事態が起これば、必ずや雑賀の城娘は役に立つと思っただけのことじゃ。 殿 …………。 松倉城 ふふ。然様に感謝せずともよいわ。お前のように有能な 召使いを、こんなつまらぬことで失いたくなかったからのう。 松倉城 まぁ、本来ならば魚津や天神山が助けに駆け付けるべきなのじゃが……。 松倉城 ハァ、やれやれ。彼奴らと来たら肝心な時に役に立たぬのう。 雑賀城 金の切れ目が縁の切れ目……。 松倉城 ……む？　何か言ったか？ 雑賀城 いいや、別に。 殿 …………。 伊勢長島城 あ、あの……。 殿 …………？ 伊勢長島城 此度は、危ないところを助けていただき本当にありがとうございました。 伊勢長島城 ……わたしは、まだまだ未熟で。 アイドルとしてもこれからの身ですが、 伊勢長島城 殿や皆さんから受けた恩義に報いるためにも、 いつの日か、お役に立ちたいと考えています……。 伊勢長島城 だから……こんなわたしですが、その…………。 伊勢長島城 また、会いに来て……くれますか？ 殿 …………。 殿 …………！ 伊勢長島城 えへへ、約束ですからね、殿？ 松倉城 ……やれやれ。 ああやって隙を見ては支持者を増やしているとは。 松倉城 伊勢長島め、なかなかに抜け目がないのう。 雑賀城 けれど、そこがまた魅力……。 松倉城 ……ん？ 雑賀城 あ……？ 殿 …………。 柳川城 それでは、殿。そろそろ所領へ帰還するといたしましょう。 千狐 此度の長期にわたる遠征、誠にお疲れさまでした。 殿、今宵はゆっくりと身体をお休めになってくださいね。

喰えぬ詭計の貝合 -絶弐-

今川義元の名を冠する巨大兜との戦いから数日後。
所領を訪れた伊勢長島城は、松倉城に手を引かれ、
室内へと向かうのだが、そこで待っていたのは……。

前半
――今川義元の名を冠する巨大兜との戦いから数日後。 伊勢長島城 わぁ……。 伊勢長島城 ここが殿のいらっしゃる所領なのですね。 雑賀城 ……どうやら、迷わずにこれたようだね。 伊勢長島城 あっ！　雑賀お姉ちゃん！ 伊勢長島城 もしかして、出迎えにきてくれたのですか？ 雑賀城 ……ああ。 雑賀城 まぁ、何もないところだけど、しばらくゆっくりしていくといい。 松倉城 ――何もないとは随分な物言いじゃな。ええ？ 雑賀城 なんだ、いたのか……。 松倉城 おいっ、あからさまに嫌そうな顔をするでない、雑賀。 雑賀城 ふん……。 松倉城 ……まぁいい。 松倉城 それよりも伊勢長島よ、予め手紙で書いたように、 今日はお前と会わせたい者が所領内にいるのじゃ。 松倉城 妾とて時に手に余る者たちゆえ、待たせたくはない。 雑賀との話が済んだのなら、すぐに向かうとしようではないか。 伊勢長島城 は、はい！ 雑賀城 おい……。 会わせたい者って、いったい誰なんだ？ 松倉城 何じゃ？　気になるのか？ 松倉城 でも残念じゃな。たしかお前は今日、 兜討伐の遠征へと発つのじゃろう？ 雑賀城 そうだけど……。 雑賀城 ……というより、彼女が会っても大丈夫なやつなのか？ 松倉城 ふふ、大丈夫もなにも――（ごにょごにょ） 雑賀城 おいっ、耳に吐息を吹きかけるな！ 雑賀城 って………………え……？ 雑賀城 …………………………。 雑賀城 うそ、だろ………………？ 四半刻後――。 松倉城 ということで、連れてきてやったぞ。 伊勢長島城 し、失礼しまーす……。 伊勢長島城 ――ッ！？ 大坂城 いらっしゃい、伊勢長島ちゃん♪ 待ってましたよー！ 姫路城 まぁ、可愛らしいですわ。 この方が新たなアイドル城娘なのですね。 伊勢長島城 …………はわわわっ！ 伊勢長島城 大坂城さまに、姫路城さまがいらっしゃるなんてっ！！ 伊勢長島城 （ど、どうりで雑賀お姉ちゃんが 　泣きながら遠征に向かって行ったわけだよぉ……） 伊勢長島城 ――って！　それよりもどうしてお二人が此処に？ 大坂城 ふふ、実はね。今日、伊勢長島ちゃんを呼んだのは、 年明けの新年会に向けてお話がしたかったからなの。 伊勢長島城 新年会……？ 姫路城 ええ。日頃お世話になってるお殿様をはじめ、 所領内の皆さんを労う会でもありますわ。 松倉城 一応説明しておくと、新年会はこの二人が主催者ということになるのだが、 松倉城 勿論！　資金面に関しては妾に因るところが大きいことは言うまでもない。 松倉城 えっへん、なのじゃ！ 伊勢長島城 あ、あの……。 お三方の凄さは身に染みて存じてはいますが、 伊勢長島城 そうなってくると、いよいよもってわたしのいる意味がないような気が……。 大坂城 いいえっ！　そんなことないわよ、伊勢長島ちゃん！ 姫路城 実は、新年会の話合いをしていたところ、 色々と内容面に関して多くの案が出てしまいまして……。 松倉城 そこで、未だアイドルとしては青二才な伊勢長島の、 その瑞瑞しい感性に即した意見が欲しい――という訳じゃな。うむ。 伊勢長島城 は、はぁ……。 伊勢長島城 ――って、えええ！？ 伊勢長島城 そそ、そんなの無理ですよぉ～！ 皆様の御意見にわたしごときが何かを言うなんてぇ……。 大坂城 まぁまぁ、そう言わずに。 大坂城 まずはお茶でも飲んで落ち着いてー。 姫路城 更にこちらには、お菓子もありますわよぉ。 伊勢長島城 あっ、玉椿だー！ 伊勢長島城 わたし、これ大好きなんですぅ♪ 松倉城 （茶菓子であっさりと懐柔されるとは、単純なやつよなぁ……） 松倉城 さて、それではぼちぼち本題に入るとしようかの…………――――――。 ――それからしばらくして。 柳川城 ふふ、今日は大坂城さんたちが大事な話合いをしてるらしいですからね。 差入れとして、色々と甘味を持っていって差しあげましょう。 柳川城 ……って、あれ？ …………………………。（しーん） 柳川城 おかしいですね……。 ここで話合いをしていると千狐さんから聞いたのですが。 柳川城 ――んっ？ 柳川城 神社の方に大坂城さんたちの御姿が……！？ 柳川城 もしかして気分転換でしょうか？ 柳川城 いずれにせよ、甘味をお届けしにいくとしましょう。 柳川城 …………（とことことこ） ――所領・神社。 大坂城 さぁっ！　みんな――ここまで全力疾走しちゃってくださーいっ！！ 伊勢長島城 ほ、本当に遠慮無くやっちゃっていいのですか……？ 松倉城 本気でなくては予行演習の意味がなかろう！　 松倉城 その証拠に、大坂らの装いもなにげに本番用のものじゃしな。 姫路城 うふふ。 やるからには、手は抜きませんわよ？ 柳川城 …………。 柳川城 あ、あの……何をしているのでしょうか、大坂城さん？ 大坂城 あら、柳川ちゃん！ 大坂城 ふふ、いいところに来てくれました！！ ちょうど人手が足りなかったところなの。 大坂城 実はね、今みんなと一緒に……―――――。 柳川城 し、新年会でやる……福城娘選びの予行演習？ 柳川城 ど、どういう催事なのでしょうか？ 大坂城 えっとね、簡単に言うと――、 大坂城 多くの城娘たちに、遠くの地点から社の本殿までを走り参りしてもらって、 先着の三人には特別なご褒美をあげちゃおう――って催事なわけです！ 柳川城 なるほど……。 なかなか白熱しそうな催事ですね。 柳川城 で、私は何をお手伝いすればいいのでしょうか？ 大坂城 うんとね、たぶん本番は城娘のみんなが全力でここまでくるはずだから、 大坂城 それを受け止める係をやってほしいの。 柳川城 ふむふむ。 柳川城 …………。 柳川城 って、えええっ！？ 柳川城 もしかして、あの……ただならぬ様子の姫路城さんも私が受け止めるのですか？ 姫路城 ――――――――。（←ただならぬ様子の姫路城さん） 大坂城 うん♪ 柳川城 む、無理ですって！ 天下に名高き姫路城さんなのですよ！？ 柳川城 全力で突っ込まれたら、私の身体がもちませんよぉ……！ 大坂城 だからこそ、手伝ってほしいの！ 大坂城 正直、私だけじゃ不安だったんだけど、 大坂城 柳川ちゃんとなら、私……うまくやれそうな気がするもん！ 大坂城 だから、ね……？ お願い！　この通りです！ 柳川城 （あの大坂城さんが……ここまで私を必要としているなんて……） 柳川城 （ならば……） 柳川城 （ならば、御期待に添わなくては――！！） 大坂城 おおっ！　その姿は、もしや！ 柳川城 はいっ！　全力で、この柳川城がお手伝いさせていただきます！ 大坂城 よぉしっ！　そういうことなら―― 大坂城 みんなーっ、準備はい～い？ 伊勢長島城 はーいっ！　いつでも行けますぅ！ 松倉城 うむっ！　妾がぶっちぎってやるのじゃ！ 姫路城 ええ……手加減はなしですわよ！ 大坂城 それじゃあ、位置について――。 大坂城 よーい……。 大坂城 どぉ～ん☆
後半
伊勢長島城 わ～いっ！このままならわたしが一番になれそうですぅ！ 松倉城 ――ふんっ！　あまいわ、伊勢長島！ 伊勢長島城 え……？ 松倉城 せぇいッ！！ 伊勢長島城 はぅぁ――っ！？ 伊勢長島城 ひ、ひどいですよぉ、松倉さまぁ……！！ 松倉城 はっはっは、勝てばよかろうなのじゃー！ 姫路城 ええ、まったくもってその通りですわ♪ 松倉城 なぬっ！？ 姫路城 はぁあ――っ！！ 松倉城 んな……っ！？ 松倉城 そ、それはさすがにやりすぎじゃろうにぃ～っ！！ 姫路城 うふふ、やりすぎくらいがちょうどいい時もありますわ♪ 姫路城 ということで、このまま突っ切らせてもらいます。 姫路城 さぁ、行きますわよっ！！ 柳川城 く、来る……！！ 大坂城 ――って、あ、あれ？　 姫路城 …………ッ！ 大坂城 おかしくないっ！？ 姫ちゃん、どうして私の方だけに向かってきてるの！ 姫路城 うふふ……。 姫路城 お覚悟――ッ！！ 大坂城 きゃぁぁぁあああああああああああッ！！ 柳川城 お、大坂城さん……っ！？ 柳川城 そんな……まさか、こんなことになるなんて。 柳川城 やっぱり、あの時……私が止めていれば……。 ？？？ なぁんて、 大坂城 どっきり大成功ー☆ 柳川城 ……へ？ 大坂城 ごめんね、柳川ちゃん。 実は、今のは自爆系隠し芸のひとつでね。 大坂城 爆発の具合を柳川ちゃんに見てもらいたかったのです。 柳川城 じゃ、じゃあ……福城娘選びは？ 大坂城 うーん。本当はやってみたかったのですが、 やっぱり神社内を走っちゃ怪我する城娘たちもでちゃいそうですから。 大坂城 そういうことも含めて、案としては却下することにしたのです。 伊勢長島城 ……その証拠に、わたし……大怪我するところでしたよぉ……。 松倉城 悪かったと言っておるじゃろうに……。 それに、いちおうの手加減はしたのじゃ。 姫路城 ええ。私もすこぶる手心を加えましたわ♪ 大坂城 （いや……さっきの体当たりけっこう死ぬかと思ったんだけど！！） 柳川城 …………そ、そうだったのですね。 柳川城 もう、あまりびっくりさせないでください。 寿命が縮む思いでしたよ……。 大坂城 本当にごめんね、柳川ちゃん。 大坂城 でも、おかげで新年会の方向性は決まりました！ 大坂城 主軸はやっぱり、城娘による隠し芸大会ですね！ 姫路城 ええ、ええ。それが一番おだやかに、 そして楽しく過ごせそうな気がしますわ。 姫路城 あ、でも……。 姫路城 先のように誰かを騙したり爆発したりなんていうのは 基本的には禁止ですからね、大坂城さん？ 大坂城 うん、そこのところはちゃーんと理解してます♪ 松倉城 ……さて、そろそろ気分転換も終わったことだし、 部屋に戻って、もう一度新年会について話合うとするか。 伊勢長島城 ……あれ？　まだ続けるのですか？ 松倉城 当たり前じゃ。主軸が決まっただけで、 細部はまだ煮詰め切れておらんのじゃ。 松倉城 だが案ずることはない。資金面に関しては妾がいるゆえ、 他にどんなことがしたいかを遠慮なく口にするがいい。 伊勢長島城 じゃあ、じゃあ……。 伊勢長島城 わたし、大坂城さまと一緒に舞台の上で歌ったり踊ったりしてみたいです！ 松倉城 なるほど、新年会のみの特別公演というのもありじゃな。 姫路城 では、私も再び安土城さんや 彦根城さんと一緒に舞台に立ってみたいですわ。 大坂城 うんうん、いいですねー、いいですねー！ 大坂城 となるとー、この勢いで柳川ちゃんも 新年会限定でアイドルやってみますか？ 柳川城 ……え？ 柳川城 （わ、私が……アイドル……？） 柳川城 …………。 柳川城 （と、殿が喜んでくださるのなら……そういうことに挑戦するのも……） 柳川城 （いや、でも……） 柳川城 （…………うーん） 伊勢長島城 な、なんだかすごく悩ましいといった感じのお顔をされてますね……。 松倉城 はっはっは、大方なにを考えているかは察しがつくがの。 姫路城 うふふ、いずれにせよ。 楽しい新年会になるのは間違いなさそうですわね。 大坂城 うんっ♪ 大坂城 それじゃあ、柳川ちゃんも巻き込んで、 引き続き新年会について語り合っちゃいましょう！ こうしてこの日、柳川城を含めた会合は、 夜が更けても尚、続いたのであった――。

特に記載のない限り、コミュニティのコンテンツはCC BY-SAライセンスの下で利用可能です。