ストーリーテキスト/吾妻おろしと蒼き飛兜

ページ名:ストーリーテキスト/吾妻おろしと蒼き飛兜

目次

吾妻おろしと蒼き飛兜[]

吾妻おろしと蒼き飛兜 -序-

所領に現れた福島城と名乗る城娘。
故郷を兜に襲撃された彼女の懇願に応じ、
今こそ仲間を従えて陸奥国へと出陣せん!

前半
――亥の刻、陸奥国、某所。

兜軍団
進軍セヨッ! 進軍セヨォッ!!

大仏城
ど、どどど、どうしよう……。
まさか城が攻め込まれちゃうなんて……。

大仏城
……あ、あれって、兜っていう噂の危ない方たちだよね……?

杉目城
そうみたいですね……。

杉目城
――って、ちょっと先代、落ち着いてくださいです!
そんなにあたふたしてると矢に当たっちゃいますよー?

大仏城
ご、ごめんなさいですぅ……。
でも何とかしないと……何とかしないとぉ……。

杉目城
(先代があんなに慌てるのも分からないでもないわ……。
確かに、このままじゃ、
私たちの城が落とされるのも時間の問題だもの……。)

杉目城
こうなったら、残された手は一つしかありません!

杉目城
福島城ちゃん、ちょっとこっちに来なさい!

福島城
は~い!
なーに、お母様?

杉目城
母は、これから貴方にひとつ頼み事をします!
いいですか、しっかりと聞くのですよー?

福島城
うん、何でも言って!
お母様たちの力になりたいもん!

福島城
で、どんな頼み事なの?

杉目城
助けを呼びに行ってきなさい!
それもめっぽう強い方にです!

福島城
助けを……呼びに、行く?
私ひとりだけで……?

杉目城
そう。
あなた独りだけで、です。

福島城
そんなの……イヤ!
お母様もお祖母様も一緒じゃないのなら、
私、此の地を離れたりなんかしない!

杉目城
わがまま言ってる場合じゃないことくらい、
あなたにだって分かっているでしょう!!

福島城
――ひぅっ!?
……ぐすっ……わ、わかったよぉ……。

福島城
……この福島城……お母様たちが納得するような、
とっても強い方を味方に引き連れて戻ってくるから……!

福島城
だからどうか……私を置いて
二人でいなくなったりしないで……。
私、すぐに戻ってくるから……だから……ぐすっ……。

大仏城
し、心配する必要ないのです!
私がいるのですから、
兜なんかに、ま、負けたりなんか……絶対にしないのです!

大仏城
だから、安心して助けを呼びに行ってくるのです。
福島城ちゃん……あなたなら、きっと出来ると信じてます。

福島城
お祖母様ぁ……。

杉目城
ほら、ぼさっとしてる暇はないですよ!
急ぎ裏手から脱し、救援を求めに行くのです!

福島城
うん……。
お母様も、お祖母様も……どうかご無事で……!

杉目城
…………。

杉目城
…………まったく、最後までこちらを気遣うなんて、
本当に優しい子ですね、あの子は。

大仏城
き、きっと……杉目城ちゃんに似たんだね。

兜軍団
――我、敵ヲ発見セリ!
敵ヲ屠レッ、屠レェェッ!

杉目城
あちゃぁ……。
ついに見つかってしまいましたかー。

大仏城
福島城ちゃんにはああ言ったけど……、
私……や、やっぱり怖いよぉ……。

杉目城
私だって怖いですよ、先代……。

杉目城
でも、やれることはやっとかないと……。
ここは私たちの大切な場所なんですからね!

杉目城
それに、あの子が帰ってくるまでは、
何としても此処を死守しないと、
母としての面目が立ちません……!

大仏城
うん……そうだね。
わ、私も……最後まで頑張るからね……!

――七日後。

卯の刻、所領。

やくも
殿さん、大変だにーっ!

千狐
そんなに慌ててどうしたのよ、やくも!?

やくも
何かよー知らんが、
殿さんに会いたいって娘さんが来てるだに!

千狐
殿に面会を望む娘……?
一体誰なのかしら……。

千狐
殿……如何なさいますか?

殿
…………。

千狐
分かりました。
では、その方をお通しして。

やくも
了解だにー!

やくも
おーい!
殿さんが会いたいって言っちょーけん、
こっちに来るがやー!

福島城
…………。

福島城
……あなたが、噂の殿?

殿
…………。

福島城
私は城娘……名は、福島城と言います……。

福島城
お願い……お母様たちを、助けて……。

福島城
このままじゃ、私たちの故郷が兜に奪われちゃう……。

福島城
それに……お母様もお祖母様も、みんな……殺されちゃうよぉ……。

千狐
な、何ですって……!?

千狐
殿……!

殿
…………。

殿
…………!

目の前に現れた城娘の言葉に、
只ならぬ事態を察した殿達は、
懇願に応じ、すぐに彼女の郷里へと向かうことを決心した。

――同日、未の刻、陸奥国某所。

福島城
すごい……これが千狐さんの転移術……!?
一瞬で、私の故郷に着いちゃった……。

千狐
福島城さんの故郷への想いの強さが、
術の成功に結びついたのですわ!

千狐
いえ、それよりも本当にここに
兜たちが襲撃しにきたのでしょうか?

千狐
福島城さんのお話では、
お母様の杉目城さんと、お祖母様の大仏城さんが
抗戦しているということでしたが……。

やくも
ひとっこ一人いないだに……。
……むしろ静かすぎて怖いくらいがや。

福島城
そんな……私が助けを呼ぶのが遅すぎたから、
お母様とお祖母様は……既に、兜たちに……うぅぅ……。

その場に泣き崩れる福島城だったが、
そんな彼女の背に、ある者の声がかけられた。

大仏城
泣く必要なんてないですよ、福島城ちゃん。

福島城
……ふぇ?

大仏城
わ、私はこの通り無事ですからね……ふふ。

福島城
ああ……そんな、信じられません……。

福島城
お祖母様……よくぞご無事で……私は、私は……っ!

千狐
だめです、福島城さん!
あの方の許へ駆け寄ってはいけません!

福島城
はなして千狐さん!
お祖母様が……お祖母様が無事だったのよ!

福島城
それを、喜んではいけないっていうの……?

千狐
よく見て下さい……。
大仏城さんの背後にいる者たちを……!

福島城
お祖母様の、背後にいる者……?

福島城
…………あっ、あれは!?

兜軍団
――ザザッ、ザザザッ!!

大仏城
あれ? どうしたのですかぁ、福島城ちゃん?

福島城
どうしたのって……お祖母様……。
なぜ、憎き兜達と肩を並べているの……!?

大仏城
憎きって……もぉ、変なことを言う福島城ちゃんですねぇ。

大仏城
せっかく領主様が帰還されたというのに、
そのような態度では失礼にあたるのです……。

大仏城
久しぶりに、教育してあげましょう……ふふ。
覚悟してください、福島城ちゃん!

福島城
領主様……? 
何を言ってるの、お祖母様……?

福島城
ねえ……どうして私に武器を向けるの……?
お祖母様っ! お祖母様ぁっ!

やくも
危ないから福島城は下がるだに!

やくも
きっと、兜達に操られているに違いないけん、
言葉をいくら投げかけても無駄だに!

千狐
……いえ、そうとは言い切れないかも知れないわ。

やくも
ど、どういうことがや?

千狐
大仏城さんの霊気には、
心を操られている時のような乱れがないわ……。

やくも
じゃあ、あれが正気ってことがや?

やくも
それこそどうかしてるだに!

千狐
ええ。
普通じゃないのは千狐だって分かる……。

千狐
だけど、何がおかしいのかはまだ明言できないわ……。

大仏城
――あれ?
福島城ちゃん以外に、
何だかよく知らない子たちもいるようですね……。

大仏城
分かりました。
私がまとめてしっかりと教育してあげます。

大仏城
さあ、覚悟するのです!

後半
大仏城

そんな……返り討ちにあってしまう、なんて……どうしよぅ……。

大仏城
このままでは、領主様に会わせる顔がないのですぅ…………。

福島城
お祖母様っ! 大丈夫……!? しっかりして!

千狐
…………どうやら、気を失ってしまったようですね。

千狐
それにしても、不可思議ですわ……。

千狐
戦いの最中にもずっと注意していましたが、
やはり大仏城さんの気に大きな乱れはありませんでした……。

やくも
それじゃあ、本当に兜に操られているって訳じゃないのかや?

千狐
彼女たちの霊気を見る限りでは……、
依然として心を操られてるとは言えないわ。

福島城
そんな……それじゃあお祖母様は、
自らの心に従ってこの様なことをしたっていうの……?

千狐
……その可能性は、ゼロではありません。

福島城
……嘘よ。
お祖母様は、こんなこと……するような方ではない……。

千狐
……福島城さん。

???
あらあら、ようやく帰ってきたかと思えば、
何をそんなにめそめそと泣いているのですか?

福島城
……え?

福島城
この声は、まさか……!?

杉目城
お帰りなさい、福島城ちゃん。
母はあなたをずぅっと待ってましたよ。

吾妻おろしと蒼き飛兜 -破-

福島城の前に、母である杉目城が現れる。
再会を喜ぶ言葉を期待した福島城だったが、
母の背後には、憎き兜の姿が在った……。

前半
杉目城

お帰りなさい、福島城ちゃん。

杉目城
えーっと、そちらが
福島城ちゃんに助力をお願いされた方達なのかなー?

千狐
そ、そうですわ。

千狐
貴方達が危険に晒されていると聞いてここまで来たのです。
だというのに、これは一体どういうことなのですか!?

杉目城
どういうことって……あのねぇ……。

杉目城
それはこっちの台詞ですよ!

杉目城
何だってうちの先代に
こんな酷いことしてくれやがったのですかー?

やくも
酷いことって……。

やくも
そっちが兜さんと一緒になって襲いかかって来たんだに!
文句言うのはこっちの方がやー!

杉目城
あらあら、威勢の良い子ねぇ、まったく……。

杉目城
……福島城ちゃん! ちょっといいかしら?

福島城
そんな怖い顔して、どうしたの……お母様?

杉目城
こーんな無礼な方達を連れてくるなんて、
貴方にはがっかりしました。

福島城
……え?

杉目城
ということで、福島城ちゃんには、
すこーしお仕置きが必要なようですね。

福島城
そ、そんな……お母様……。
私はただ、お母様たちを助けようと、
頑張っただけ……なのに……ぐすっ……。

杉目城
まーたそうやってすぐに泣いてぇ……。

杉目城
何でもかんでも泣けば済むと思うように
育ってしまったのも困りものですねぇー。

杉目城
それに、母よりも胸部が豊満に育ってしまったことにも
私は立腹しているのです!
いや、むしろそっちの方がむかむかします!

福島城
そ、そんなこと、急に言われても……私……うぅぅ……。

やくも
さっきから、あの杉目城ってのは
自分の娘に対して何を言ってるだに……?
……どうみても様子がおかしいやね……。

やくも
なあ千狐、本当にあの城娘さんらは
兜達に操られてる訳じゃないのがや……?

千狐
……え、ええ。
やはり彼女の霊気に乱れはないわ。
むしろ乱れがなさ過ぎるほどよ……。

杉目城
こらそこ!
他人様の霊気を断りもなく論評してるんじゃないですよー!

杉目城
はぁ……やれやれ。
……福島城ちゃんが連れてきた子たちだから、
教育がなってないのは同じという訳ですねぇ……。

杉目城
いいでしょう!
領主様がここにいらっしゃる前に、
みーんなまとめて、私がお仕置きしてあげます!

千狐
(領主様……?
大仏城さんも同じ言葉を口にしていたけれど、
一体誰のことなの……?)

杉目城
さあ、みんな出てきなさい!
そして、私のお仕置きに協力するのです!

兜軍団
――ザザッ、ザザザッ!!

福島城
そんな……お母様まで兜の仲間になっているなんて……。

千狐
泣いてる暇はありませんわ!
とにかく、今は応戦するしかありません。

杉目城
さあ、いくわよ!
私の法術で、しっかりお仕置きしてあげますからねー!

やくも
――ほ、法術っ!?
あの城娘さん、何や物騒な技を使うみたいだに!

千狐
殿、注意してください!
法術による攻撃は、こちらがどんな鎧を纏おうが関係なく力を発揮します!
いつも以上に慎重な指揮を執ってください!

後半
杉目城

――ぐっ……そんな、母が子に負けるなど……、
あってはならないのに……む、無念ですー……。

やくも
大仏城と同じく、こっちの城娘さんも気を失ったようだに……。

千狐
……分からない。
どうして、このお二人はこのような奇行を……?

福島城
……そうか。
そうなんだわ……!

福島城
ええ、きっとそうよ……!
これは……罰なんだわ……。

千狐
……え? 
福島城さん、急に何を……?

福島城
私がお母様とお祖母様を置いて、
此の地を離れてしまったから、
こんなことになったのよ……。

福島城
そうに違いない!
きっと信夫山(しのぶやま)の山神様が、
お母様とお祖母様の心身を借りて私を罰しようとしているのよ!

やくも
……や、山神様やて!?

やくも
そうか、山の神様の仕業ならぜーんぶ説明がつくだに!

やくも
……って、そんなわけないだに。
なあ福島城、少しは冷静になるがや。

福島城
でも、そうでなければ、
いったいこの状況をどう説明すればいいのか……。

千狐
(どうしよう……このままでは何も分からず終いだわ。)

千狐
(考えるのよ千狐……何かおかしなところがあったはず……。)

千狐
(大仏城さんも杉目城さんも、『領主様』がどうのと口にしていたわ……。
その相手に心を操られていると考えるのが妥当なのだけれど……。)

千狐
(でも、お二人の霊気に異常はなかった……。
いや、あまりにも乱れが無さ過ぎてむしろ…………え?)

千狐
――み、乱れが無さ過ぎる……!?
そうよ、そういうことだったんだわ!

やくも
急に大声出してなんだに!?

やくも
というより、節操が無さ過ぎるって、
いったい誰のことを言ってるだに?

やくも
さてはうちか? 
うちのことを言ってるがや!?

千狐
もぉ! 
そんなこと言ってないわよぉ!

千狐
乱れが無さ過ぎるって言ったの……!

千狐
それよりも聞いてやくも!
千狐わかったの!

千狐
大仏城さんや杉目城さんはね――。

――その時だった。
突如として、上空からその怪異は舞い降りた。

蒲生氏郷
大仏城……杉目城……アア、何ということ……カ。
許せんなぁ……アア……ゲニ、許せんことよ……ナァ。

吾妻おろしと蒼き飛兜 -急-

天より現れしは蒼き翼を備えし巨大兜。
此の地に起きている災厄の元凶は眼前にいる。
その武を以て敵を討つべし!

前半
蒲生氏郷

我が愛しき城娘が、こうもぞんざいに扱われる……トハ。
ゲニ……許せんことよ……ナァ。

千狐
そ、空から……巨大兜が現れるなんて……!?

福島城
きょ、巨大兜……?
あれも、兜の一種なの……?

やくも
そうや……ちっこい兜さんとは、
比べものにならんくらい強い相手だに……。

やくも
いや、それよりもさっき、
あの巨大兜さん『愛しき城娘』って言ってただに……!
いったいどういうことがや……?

蒲生氏郷
フム……貴様らがァ……、
我が領内を荒らし回る賊徒……カ。

蒲生氏郷
コレは困ったぁ……アア……ゲニ、困ったことよ……ナァ。
ココは……我が領地……我が城内だと言うの……ニ。
せっかくの帰城が台無し……ダ。

福島城
ふざけたことを言わないで!
私は賊徒でもないし……、
此の地だって、貴方の領地なんかじゃないわ!

福島城
私たちは……此の地を守ってきた城娘なんだから……。
お母様とお祖母様と一緒に……守ってきたんだから……。

蒲生氏郷
オオ……そこにいるのは福島城ではない……カ。

蒲生氏郷
遠慮はイらぬ……ぅぅ……木村吉清の城なれば……、
縁故も同然……サア、共に行こう……此の地に……に、ニィィ……、
再び我が威光を……オォォ……普く示そうではない……カ。

福島城
……な、何を言ってるの……!?
私は、あなたなど知らない……!

福島城
それよりも、お母様とお祖母様に何をしたの!
私がいない間に……何をしたのよ!?

蒲生氏郷
…………フム。
我が誘いを軽んじて捨て……且つ、
許しも得ずに詰問の言を飛ばす……カ。

蒲生氏郷
何と不作法な城娘……カ。
これは困ったぁ……アア……ゲニ、困ったことよ……ナァ。

蒲生氏郷
……再生……イヤ、違う……。
……教育……イヤ、是も違う……ナァ。

蒲生氏郷
……抹殺……フム……そうするしかァあるまい……。
アア……それがいい……このような城……ハァ、
我が配下に相応しくない……そうだァ……駄城は破壊すべきよ……ナァ。

福島城
な、なに……?
あの巨大兜から、急に恐ろしい気配が……どういうことなの?

千狐
……巨大兜が、闘争の邪気を放ち始めたのですわ!

やくも
気を感じられなくても、それくらいうちも分かるだに!
殿さん、戦うしか道はないがや!

後半
蒲生氏郷

――ギァッ……アァ……そ、んな……。
アアァ……何故、私が……己の領内で膝を屈しているの……ダ?

蒲生氏郷
これは困ったなぁ……アア……ゲニ、困ったことよ……ナァ。

蒲生氏郷
イヤ……困惑以上に……ニィィイ……こ、これは……、
憤怒……アア、そうだ……これは怒り……イィ……私は……、
アア、そうだとも……怒りに満ちているのだ……ゲハハ……ハァ、アァ……。

やくも
何言っちょーかさっぱりやけん……。
殿さん、はやくトドメをさした方がいいだに!

千狐
ええ。それにまた飛ばれては厄介ですわ。
殿、一気に仕留めてしまいましょう!

殿
…………。

殿
…………!

己が手に力を込め、刀を天に構えた……その時だった――。

大仏城
りょ、領主様を、う、討たせる訳には……いきません!

福島城
お祖母様!? 
なぜ巨大兜を庇うのですか!

杉目城
領主様……後払は我らが務めますよー!
さあ、今のうちにバサバサって撤退しちゃってください!

蒲生氏郷
ゲハハハハ……そうだ……アア、そうだ……。
これこそ主従の在るべき姿よ……ナァ!

蒲生氏郷
では、遠慮無く退かせてもらおう……。
アア……ゲニ、美しき主従の義にて……我は天高く舞う……。
さらばだ、賊徒ドモよ……。

やくも
ああっ!? 待つがやー!
飛んで逃げるなんて卑怯すぎるだにー!

大仏城
こら! 
動いたら、めっ、ですよ!

やくも
ひぃぃっ! 何で穂先を向けるだにぃっ!?
あんたら福島城の味方やないのかや?

杉目城
領主様に楯突くような不出来な娘をもった覚えはありません!

福島城
そんな……お母様。
目を覚まして……。
なんで兜の味方なんかするのよぉ……。

千狐
……恐らく、大仏城さんも杉目城さんも、
この地に縁のある城娘だからですわ。

福島城
……え?

千狐
これまで見聞きしたことから察するに、
先ほどの巨大兜は此の地の
かつての領主の魂を模倣した存在とみて間違いないでしょう……。

千狐
そのせいで、大仏城さん達は瘴気による強制支配ではなく、
城娘としての本能によって、巨大兜の備えた似而非の魂と共鳴し、
従うことこそが正しいと信じ込んでしまっているのですわ!

千狐
……だから、
恐らくですが、福島城さんも巨大兜に近づきすぎれば、
大仏城さん達と同じ様になってしまう可能性があります。

福島城
えっと……よく、わからないよぉ。

やくも
心配いらんだに、福島城!

やくも
うちもさっぱりやけん、
千狐の説明が下手すぎるってことがや。

千狐
へ、下手すぎる……!?
何も、そんな言い方しなくたっていいじゃない……。

千狐
コンっ!
じゃあもう簡単にざっくり言うのー!

千狐
大仏城さん達はね、もうとにかくいろいろな要因が重なって、
あの巨大兜を親のように大事な存在だと思っちゃってるのー!
だから、何とかして守らなきゃっていう状態になってるのー!

福島城
……えっと、ということは
要するにお母様とお祖母様は、
普通の状態ではないってことですよね?

千狐
……もう、それでいいのぉ……ぐすっ……。

やくも
千狐、何も泣くことないがや……。

千狐
だって、あんなにいっぱい考えて説明したのにぃ……。
何だか悔しいのぉ……!

杉目城
もぉ、あなた達ってば何でそう緊張感がないの!

杉目城
……まあ、そのおかげで領主様を逃がすことができたんですけどねー。

大仏城
ねえ杉目城ちゃん……。
そ、そろそろ……わ、私たちも、領主様のもとへ行こ?

杉目城
そうですね、先代。

大仏城
じゃ、じゃあ……私たちも、えっと、に、逃げますので、
ぜーったいに、その、つ、追撃とか……しないでくださいね?

杉目城
というかですね、追撃とかしなくても、
そう遠くないうちにこっちからまた攻め込んでやりますから
楽しみにしててくださいねー!

福島城
ま、待ってください、お母様! お祖母様ぁ!

福島城
………………そんな、行ってしまった。
私の方を振り返りもしないなんて……。

やくも
……ひどいだに!
娘の福島城を放って、本当に兜さんのとこに行ってしまったがや……。

千狐
仕方ないわ……。
操られていないけれど、巨大兜に心酔しきってるのだから……。

千狐
とはいえ、あの口振りからしてここに戻ってくるのは確実ですわ。
殿、再戦に向けて今のうちに準備を進めていきましょう!

吾妻おろしと蒼き飛兜 -離-

殿の前に再び姿を現した大仏城と杉目城。
以前よりも力を増した二人の猛攻を退け、
何としてでも正気を取り戻させるのだ!

前半
福島城

はぁ……。
お母様……お祖母様……。

千狐
福島城さん……。

やくも
ここらに陣を張ってけっこう経つけど、
福島城はずっとあげな感じやね……。
……まあ無理もないがや。

千狐
とはいえ、いつまでもあの状態では
兜が襲ってきた時に危険だわ……。

杉目城
仰る通りですねー。
あんなに落ち込みやすい性格だったなんて、
育ての親として責任を感じちゃいますよー。

千狐
いえ、子の全てが親の責任などというのは――、

千狐
――って、す、杉目城さんっっっ!?

やくも
いったいどこから湧いて出てきただにぃっ!?

杉目城
人を夏場の害虫みたいに言わないでくれますかー?

杉目城
まったく……本当にあなた達は礼儀がなっていませんね。

福島城
お、お母様……!

杉目城
そうですよー。
貴方のお母様ですけど、
それがどうしたというのですかー、福島城ちゃん?

福島城
……武器を手にしているということは、
また……あの巨大兜の為に戦いに来たの?

杉目城
…………福島城ちゃん。

杉目城
ばかですね、そんなこと改めて聞くなんて。

杉目城
我が城主、木村吉清様は蒲生氏郷様の家臣でした……。
なれば我ら城娘が、城主の主君に従うは必定。
そんなことも理解できないとは、母はただただ悲しいです。

福島城
違うよ、お母様!
千狐ちゃんから話を聞いたけど、
あれは領主様の魂を真似た偽物でしかないの……!

福島城
お母様は騙されてるんだよ!
お願い……眼を覚まして!

杉目城
――っ!?

杉目城
だ……騙されてなど、いません。
私は、私の意思であの方の力になりたいと……。

千狐
(――杉目城さんの気が、わずかに乱れてた……!?
そうか、もしかしたら……!)

千狐
福島城さん、もっと杉目城さんに言葉を投げるのです!
あなたの声が、お母様である杉目城さんの心を――、

大仏城
――杉目城ちゃん……。
そ、そんなに接近したら、あ、危ないよぉ?

福島城
お祖母様……!?

千狐
そんな……。
杉目城さんの気に変化が見られていたのに……!
大仏城さんが来たことでまた元に戻ってしまったわ……。

大仏城
どうしたの、杉目城ちゃん?
なんだか、す、少し元気、ないみたいだよ?

杉目城
大丈夫ですよ、先代……。

杉目城
福島城ちゃんが領主様を偽物だなんて言うから、
あまりの素っ頓狂さに動揺してしまっただけです。

大仏城
な、なんで福島城ちゃんは、そんなひどいことを言うんだろうね……。

大仏城
領主様を侮辱するのは……さ、さすがに私も許せないよ……。

大仏城
今回は、本気でお仕置きしなきゃだね、杉目城ちゃん!

杉目城
そうですね、先代……。

杉目城
ここは一つ、我らの本気というものを
この子に見せつけるべきでしょう。
はぁぁっーー!!

やくも
な、なんや!?
杉目城も大仏城も急に威圧感が増したような気がするだに……!

千狐
前に戦った時は本気ではなかったということね……。
これが、大仏城さんたちの真の力……。
想像以上に、手強そうだわ。

杉目城
さあ、福島城ちゃん!
これが最後よ。母に従うならば、いますぐにこちらへ来なさい!
そうでないなら、ほんとーに痛い目をみることになりますよ?

福島城
お母様……。

福島城
お母様もお祖母様も大好きだけど、
今の二人は間違ってる……だから私は従わない……。
私は殿と共にお母様たちを元に戻して見せます。

大仏城
福島城ちゃん……。
あんなに素直な子だったのに、
ど、どうして……そんなことを言うの……。

杉目城
先代……。
私、分かってしまいました。
あの子がどうしてああも強気に私たちに逆らうのかを……。

杉目城
それもこれも全ては身体的優位による慢心……!
そう、主に胸部における母性の蓄えが私たちよりも勝っているという
その慢心こそが福島城ちゃんを増長させてしまったのです!

大仏城
母性の蓄え……?

大仏城
…………胸?

大仏城
――はっ!?

大仏城
そういうこと、だったんだ……。
福島城ちゃんは、私のこと、
いろいろ小さいからって、見下していたんだね……。

福島城
そ、そんなこと思ってないよぉ……!

福島城
――って、ちょっと……お祖母様!?
い、いったい何をするの!?
何で城壁に向けて武器を……!?

大仏城
私も、怒るときは怒りますからね!
えーいぃっ!!

やくも
……大仏城の槍の一撃で、
分厚い城壁に簡単にヒビが入っただに!?

千狐
守るべき城壁に自ら傷をつけるなんて……。

千狐
殿、既に話し合いでどうにかなる状況ではありませんわ!
こうなったら、こちらも力で対抗するしかないです!

後半
杉目城

……くっ、そんな……。
また負けるなんて……これでは母としての威厳が……っ!

大仏城
……痛い、よぉ……もう、戦えないぃ……。
領主様に、合わせる顔がないよぉ……。

福島城
何で……どうして私たちが争わなければならないの……?

福島城
もうこんなの、イヤだよ…………っ!!

やくも
――あっ!?
ちょっと、福島城? いきなり二人に近づいたら危ないだに!
まだ攻撃してくるかもしれないがや!

千狐
……いえ。
止めてはだめよ、やくも。

千狐
もうこれしか方法はないの……。
そのことを、福島城さんもたぶん理解しているんだわ……。

やくも
これしかって……どういうことだに!?

千狐
大仏城さん達を正気に戻すには、
福島城さんが二人の心に近づくしかない……。
だから、ああするしかないのよ。

やくも
心……? 近づく……?
何を言ってるがや、千狐……?

殿たちが見守る中、
福島城は傷ついた母と祖母の身体を抱きしめた。

福島城
お母様……お祖母様……。

福島城
私はここにいるよ……。
私の声を、ちゃんと聞いて……。

大仏城
…………!

大仏城
…………福島城、ちゃん。

福島城
私たちがすべきは、兜からこの地を守ること……。
兜のいいなりになるなんて、絶対におかしいよ……。

杉目城
…………。

杉目城
……ばかですね。

福島城
え……?

杉目城
……娘に正されるなんて、本当にばかな母親です、私は。

杉目城
どうして、兜などを領主などと信じてしまったのでしょうか……。

福島城
……お母様!?

杉目城
本当にごめんね……福島城ちゃん……。

やくも
だにぃーっ!?
杉目城が、福島城を抱き返したがや!

千狐
い、いちいち大げさに言わなくても分かるわよ!

千狐
でも、大仏城さんたちの霊気に優しいぬくもりを感じるわ……。
どうやら正気に戻ったみたいね。

大仏城
私も……すっかり騙されちゃってて……。
ごめんね、福島城ちゃん……。

福島城
いいの……二人がこうして、
元に戻ってくれただけで、私は……私は……ふぇぇ……。

???
……これは困った……アア……ゲニ、困ったことよ……ナァ。

千狐
――こ、この声はっ!?

やくも
上だにっ!!

蒲生氏郷
大仏城……杉目城……アア、何ということ……カ。
我を裏切るというのか……アア……ゲニ、許せんことよ……ナァ。

吾妻おろしと蒼き飛兜 -結-

再び天より現れた蒼き翼を備えし巨大兜。
真の力を解放した敵との最終決戦に、
今こそ全身全霊をもって臨むべし!

前半
蒲生氏郷

大仏城……杉目城……。
アア……何故、賊徒などと戯れているの……カ。

千狐
やはり現れたわね、巨大兜……。

福島城
どうしよう……またお母様とお祖母様が
あいつを本当の領主様だと信じてしまうかもしれない……。

杉目城
……心配しないで、福島城ちゃん。

杉目城
だって、今はこんなに近くにあなたがいるもの。
もう母は迷いませんよ。

大仏城
私も、大丈夫だよ……福島城ちゃん。

福島城
お母様……お祖母様……。

福島城
うん……手、ずっと握ってるからね!
私、二人のそばにいるからね……!

蒲生氏郷
……いつまで戯れているつもり……ダ。
お前達の役目は……賊徒を屠ることだったはず……。
己が使命を忘れたの……カ?

杉目城
あらあらー、どなたかと思えば巨大兜様ではないですか。
申し訳ありませんね-、最近何だか物忘れが激しいのですよー。

杉目城
貴方にちょーっとばかし
懐かしい領主様の面影を重ねちゃっただけですので、
先刻までの我らが忠義、どうかお忘れになってくださいませんかー?

蒲生氏郷
……その様な言葉にて、
私が納得できると思うて……カ?

大仏城
も、もとよりあなたたち兜は、わ、私たちの敵です……!
責められる筋合いは……あ、ありません!

大仏城
それに……私たちの思い出を、り、利用して、
福島城ちゃんと戦わせたあなたのほ、方こそ……、
責められるべきだと思います……!

蒲生氏郷
……責められるべきは……我……ダト?

蒲生氏郷
我が領内だと……いう、の……にぃぃ……、
責められ……詰られ……罰せられる非は……、
ア……アァ……我に……我に……ィイ……あ、在る……だとぉ……ォ?

やくも
何だか様子がおかしいだに……!

千狐
巨大兜の気が……禍々しく膨れあがっているわ!

蒲生氏郷
コノ……恩知らずどもめが……ぁあ……アァアアアぁ……!!

蒲生氏郷
要らぬ……貴様のような……なぁ、アアぁっ……、
出来損ないのぉ……オォオオ……城などぉ……要らぬぅぅううっ!!

蒲生氏郷
壊してやろう……アア、そうだ……壊れるべきなの……ダ。
我が手によって……不出来な城娘を破壊しつくしてやるぞ……オぉぉぉ。
絶対に……許さぬ……アア……許さぬ……許してなるもの……カぁああッッ!!

杉目城
……あー。
何だか思った以上に怒り狂ってますねー。

杉目城
でもね、こっちも大切な愛娘と戦わされて
はらわた煮えくりかえってるんですからねー!!

福島城
ちょ、ちょっとお母様……!?
まさか戦おうなんて言うのではないですよね?

大仏城
ダメだよ、杉目城ちゃん……。
私たち、さっき殿にこっぴどく痛めつけられて
た、戦える状態じゃ、ないんだよ?

殿
…………。

杉目城
もう、さすがにそれくらい私もわかりますよー。

杉目城
そもそも今回の件は、私たちでは手に負えないと判断したからこそ、
福島城ちゃんに助けを呼ぶようにお願いしたのです!

杉目城
と、いうわけで!
まだ会ったばかりで何ですが、福島城ちゃんが見初めた方なら、
きっと大丈夫! 殿ー、後のことは任せましたよー!

福島城
み、みみ、見初めただなんて……っ!?
殿に助けを求めたのは強いという噂があったからで――。

杉目城
はいはい、分かりましたから、
私達は邪魔にならないように下がってましょうねー。

大仏城
ご、ごめんなさい……。
そういうわ、わけなので、
私たちは避難させていただきますぅ……。

やくも
けっこうな逃げ足の速さやね……。
というか、あんな明け透けに
人を頼るなんてのは、なかなかできないことだに……。

やくも
でも、それだけ殿さんを信頼してもらってるのなら、
期待に応えないわけにはいかんだに!

千狐
やくもの言うとおりですわ!
殿、福島城さんたちの為にも絶対に勝ちましょう!

後半
蒲生氏郷

――グガッ……ア、アァ……ばか、なぁ……ァァ……。
アアァ……私が……二度も……負ける、など……
あっては……ならぬ……あっては……ならないぃ……の、ニィィ……。

千狐
殿! 敵が膝をつきました!
今こそトドメをさすのです!

兜軍団
――ザザッ、ザザザッ!!

やくも
あーーーもぉぉ!!
またいいところで兜さんたちが邪魔してくるだにぃ!

蒲生氏郷
……ゲ、ハハ……お、おぼ……覚えて、いろ……グゥァ……ァァ……。
必ず……壊して……やる……必ず……ダ…………。

やくも
…………また飛んでいってしまっただに。

千狐
仕方ないわ。
追い払えただけでも良しとしましょう。

千狐
それに、あの負傷では当分は攻めてこられないはずだわ。

杉目城
えー、私も同感ですよねー!

千狐
――きゃぁっ!?

千狐
す、杉目城さん!?
いつのまにこんなに近くに……!?

杉目城
もぉー、いちいちそんなに驚かないでくださいよー。
え~っと……千狐ちゃん、だったかしら?

やくも
そうだにぃ!
んでもって、うちがやくもだに!

やくも
で、もう知ってると思うけど、
こっちの男前が殿さんだにー!

杉目城
えぇ、確かに男前ですねー。
うんうん、福島城ちゃんが惚れちゃうのも納得ですねー。

福島城
だ、だからそんなんじゃないって言ってるのにー!

杉目城
照れなくてもいいのですよー。
男性の好みは母と一緒だったようで、
何だか安心してしまってるくらいなのですから。

福島城
そんなこと言ってぇ……。
お母様はぜったい私で楽しんでるだけだよぉ……。

大仏城
えへへ。
何だかようやくいつもの雰囲気に戻れましたねぇ。

大仏城
それと……あの、あ、改めてお礼を言わせて下さい。
殿……あ、危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました。

杉目城
私からも、改めて感謝の意を表させて頂きます。
ありがとうございます、殿。

殿
…………。

殿
…………!

杉目城
とはいえ、言葉だけのお礼じゃ、
殿たちの苦労に報いることはできないですよねー?

杉目城
という訳なので、盛大に宴を設けることにしましょう!
はーい、もう決定ですよー!

千狐
う、宴ですか……?

大仏城
急な申し出で、驚きましたよね……?
実は、す、杉目城ちゃんは、だいの宴会好きなのです。

やくも
宴やてー!?
賛成だにー! 
うちも殿さんの勝利を精一杯お祝いしたいがやー!

千狐
やくもはただ美味しいものが食べたいだけでしょ!

やくも
それは楽しみのひとつなだけだに!

やくも
うちはちゃーんと殿さんにえっぱいお酌するつもりがや!

千狐
うちは、って……何かひっかかる言い方ね……!

千狐
じゃあ千狐だっていっぱい殿にお酌するもん!

千狐
それに、殿の肩だって揉んだりしちゃうのーっ!

やくも
張り合う気やね、千狐?
なら、うちだってな――、

杉目城
はいはい、続きは宴会の席でねー。

福島城
あの……お母様。
宴といっても、どこでやるつもりなの……?

杉目城
……あー。
そういえば、そうですねー。
戦のせいでここらもずいぶん荒れちゃってますし……どうしましょうか。

やくも
心配いらないだに!
うちらの所領に来ればいいがや!

大仏城
……所領?

千狐
はい。我々の拠点です。
怪我の手当もありますし、どのみち大仏城さんたちを
お連れしようかと思っていたのですが……どうでしょうか?

杉目城
ありがとうございます!
そんな有り難い申し出、断るわけありませんよー。
ってことで、すぐにその所領ってところに行きましょう?

福島城
お母様……少しは遠慮しないと失礼だよぉ。

やくも
しゃっちょこばられるよりは全然いいだに!
それじゃあとっとと所領へ向かうがやー!

千狐
……………………。

千狐
殿……何だかあれよあれよという間に、
宴をひらくことになってしまいましたね……。

千狐
でも、せっかくなので、
千狐も皆さんと一緒に楽しもうと思います!

千狐
勿論、殿の疲れを少しでも癒やせるように、
千狐が精一杯もてなさせて頂きますので、楽しみにしていてくださいね?

千狐
それでは殿、みなさんと共に所領へと帰還しましょう!

――子の刻、所領。

既に所領の者達は皆、
戦の疲労と勝利の誇らしさを抱き、深き眠りについていた。

殿と、ひとりの城娘を除いて――。

福島城
よかったぁ……殿、まだ起きてたんだね?

福島城
宴会では、お母様がはしゃぎすぎちゃって……ごめんね?

福島城
…………んー?
やくもちゃんも、千狐ちゃんもはしゃいでたからお相子?

福島城
言われてみれば、みんなはしゃいでたかもね……ふふ。

福島城
……えっとね、一応お母様とお祖母様は
殿が割り当ててくれた寝室に運んだからね?

福島城
お母様もお祖母様も、宴でいっぱいはしゃいだせいか
布団に入ったらすぐに寝ちゃって……。
もう、これじゃあどっちが子供か分からないよね。

福島城
……え?
どうして私だけまだ起きてるのかって?

福島城
それはね、私だけは、
まだちゃんと殿にお礼を言ってなかったからだよ。

福島城
殿、私たちの為に戦ってくれて、本当にありがとう!

福島城
この恩は、ずぅっと忘れないからね。

福島城
……って、何だか改まって言うと恥ずかしくなっちゃうな……えへへ。

福島城
それじゃあ、
私はそろそろお母様たちのところに戻るね?

福島城
……うん、おやすみなさい!
殿もあんまり夜更かししないようにね。

吾妻おろしと蒼き飛兜 -絶-

――杉目城の突然の願い出。
それは『殿と戦いたい』という内容であった。
杉目城達との夜間の模擬戦に、いざ挑め!

前半
――蒼き翼を備えし巨大兜との死闘より、五日が経った。

辰の刻、所領。

杉目城
殿ー!
ちょっとお願いごとをしてもいいですかー?

殿
…………。

杉目城
あらー、即答で了承してくれるとは、
さすがは殿ですねー。

杉目城
では、単刀直入にお伝えさせて頂きます。

杉目城
私と戦ってください。

やくも
な、なんやてー!?

杉目城
おやおやー?
やくもちゃんったら、そんなところにいたのですねー。
おはようございます、昨日はよく眠れましたか?

やくも
そりゃあもうばっちり朝まで熟睡だった――

やくも
――って、そうじゃないだに!

やくも
戦うってどういうことがや!?
謀叛か? これが謀叛ってもんなのかやーっ!?

大仏城
杉目城ちゃん……つ、伝え方が間違ってるよぉ……。

福島城
そのせいでやくもちゃんが、
見たことないくらい慌てちゃってるよぉ。

福島城
お母様、面白がって話をややこしくしようとしてるでしょ?

杉目城
人聞きが悪いですねー。
ちょっと殿をからかってみたいと思っただけです!

千狐
では、さきほどの戦ってくれというのは、
冗談だったのですね?

杉目城
おやおやー?
千狐ちゃんも、そんなところにいたのですねー?
おはようございます、昨日はおねしょしませんでしたか?

千狐
はい! 昨日は寝る前にちゃんと厠に――、

千狐
って、殿の前で何を言わせるんですかっ!?

千狐
それよりも質問に答えてください!
先ほどの、『私と戦ってください』というのは、
何かの冗談と考えてよろしいのですか?

杉目城
あー、そこは冗談なんかじゃないですよー。

やくも
や、やや……やっぱり謀叛だがやーっ!

やくも
ど、どうしよう殿さん?
仲間やと思ってたのに……裏切られただに……!
もしかして、うちら杉目城の気に障るようなことしたのがや……?

福島城
お、落ち着いてやくもちゃん!
殿は何も悪いことなんかしてないから。

福島城
実はね、私たちの傷も完治したから、
そろそろ故郷の城を修復しようかと思うんだけど……。

福島城
その前に、殿たちと模擬戦をしたいと考えたの。

千狐
も、模擬戦っ!?
どうして急にそのようなことを……?

杉目城
……今回、兜に襲撃された際に私と先代は、
福島城ちゃんに助けを呼びに行かせたにも関わらず、
その間すら大切な場所を守ることができませんでした……。

杉目城
……私は、争いごとが大嫌いです。
ですが、大切なものを守れないような未熟な自分を、
このままにしておくことなどできません……。

杉目城
だから……だからこそ、
強くならなければいけないと……そう思うに至ったのです!

千狐
だからって、何も殿と戦う必要などないのでは……?

大仏城
と、殿とだから、戦う必要があるのです……。

福島城
殿は、今の私たちにとっては恩人であり、大切な存在だよ。

福島城
先の戦いにおいて、私は大切な人たちとも
刃を交わさなくてはいけない状況に陥ることがあることを知った……。

福島城
だから、身体や武技だけでなく、
心も鍛えたいと……そう思ったの。

杉目城
私たちは自分たちの力で大切な地を守りたいと決心しました。
……だからこそ、殿。
今あなたと戦うことで、この心を不動のものにしたいのです。

やくも
……何だかわかったような、わからないような……。

やくも
でも、その意気や良しだに!
殿さん、彼女たちの為にも一肌脱ごうやね!

千狐
(……やくも、場の空気に流されてるわね……。)

千狐
とはいえ、私たちにとっても良い経験かもしれません。
殿、この模擬戦、是非ともお受けしましょう!

殿
…………。

殿
…………!

殿の首肯をもって、
福島城たちとの模擬戦は明晩、決行されることと相成ったのである。

――翌日、亥の刻。

千狐
殿……そろそろ約束の時間となります。
戦いの準備は出来ていますでしょうか?

殿
…………。

やくも
……お、向こうから音が聞こえだに!
ついに福島城たち、攻め込んでくるみたいやね。

千狐
……いや、何かおかしいわ……!

千狐
この足音……明らかに数が多すぎる……。

千狐
それに、この禍々しい霊気は……!

兜軍団
敵影ヲ確認ッ!!
進軍セヨッ! 進軍セヨォッーー!!

やくも
か、兜さんだやー!?
これはいったいどういうことだに!?

千狐
どうもこうもないわ……。
偶然、模擬戦を行う予定だった地に
兜が攻め込んできたのよ……!

やくも
そんな……じゃあ、模擬戦は中止するよう伝えるがや?

千狐
……いえ、模擬戦はこのままやるわ!

千狐
殿、福島城さんたちは今日の演習に対して
並々ならぬ決意を持っていました。

千狐
私は……彼女たちの決意を
兜の進軍などで台無しにしたくはありません……。

千狐
福島城さんたちが攻め入るまでにはまだほんの少し時間があります。
その前に兜を倒し、
それから福島城さんたちを迎え撃つというのはどうでしょうか?

殿
…………。

やくも
さっすが殿さんや!
演習の前の準備運動と言い切るなんて、
やっぱり殿さんは器の大きい男だにぃ!

千狐
殿……私の進言を受け入れてくださりありがとうございます。

千狐
それでは参りましょう!
兜討伐ならびに福島城さん達との模擬戦を、
これより開始致します!

後半
大仏城

うぅぅ……負けちゃいましたぁ……。

福島城
さすが殿……ぜんぜん歯が立たなかったよぉ……。

杉目城
ここまで圧倒的な強さだと、
敗北する方も気持ちよくなっちゃいますねー。

福島城
……あの、お母様、お祖母様。
実は、気になってたんだけど、
どうしてここら一帯には兜がいっぱい倒れてるのかな?

杉目城
そういえば、どうしてでしょうねー?
ちょっと邪魔だなーくらいにしか思ってませんでしたが……。

やくも
ふっふっふ……。

やくも
何を隠そう、福島城たちが攻め込んでくる前に、
殿さんは兜の大軍を相手にして打ち負かしていたんだに!

大仏城
……私たちが来る前に……!?
そ、それが本当なら、す、すごいことです……。

杉目城
兜と一戦交えた上での、あの強さですかー。
殿の戦ぶりはもう鬼神のそれですね。

福島城
ですが、だからこそ今回の戦いには緊迫感がありました。

福島城
それに、大切に思う方と戦ったことで、
浮ついていた心に芯が通ったような気がします。

千狐
お役に立てたようで、何よりですわ。

千狐
ですが、こちらも無傷という訳ではありません。
かなりの激戦であったことは疑いようがなく、
少しでも気を抜けば勝敗は変わっていたかも知れません。

福島城
じゃあ、善戦できたってことだよね……?
私、何だかもっともっと強くなれる気がしてきたよぉ!

大仏城
うん! 私もそんな気がしてきましたぁ!

杉目城
あらあら、盛り上がってますねぇ……。

杉目城
殿たちも随分と晴れやかな顔をしていますし、
本当に良き模擬戦となったようで嬉しいです。

杉目城
と、いうことで!!
互いの健闘を祝して今から宴会をやりますよー!
はい決定でーすっ!

やくも
わーいだにぃ!
また美味しいもの食べられるがやー!

千狐
え? 
あの……ま、またですかぁ、杉目城さん……?

杉目城
宴会は何度やっても飽きないものです!
さあさあ、はやく千狐さんの転移術で所領へ戻りましょー!

福島城
お母様……もしかして、これが目当てで
模擬戦を発案したんじゃ……ないよね?

大仏城
……うーん。どうなんだろう。

大仏城
杉目城ちゃんなら、ちょっとあ、ありえるかも……。

杉目城
ほらほら、皆さーん!
ぐずぐずしてないで帰る準備をしましょうねー?

杉目城
さ、殿もお急ぎ下さい!
今日"も"、私がいっぱいいっぱいお酌させていただきますからね♪



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