ストーリーテキスト/台山に咲く一輪の黄槿

ページ名:ストーリーテキスト/台山に咲く一輪の黄槿

目次

台山に咲く一輪の黄槿[]

台山に咲く一輪の黄槿 -序-

――兜軍団の侵攻に抗しようと、
豊後国において籠城している城娘あり。
その報を受け、殿たちは現地へと出立する。

前半
――亥ノ刻・豊後国

突撃式トッパイ形兜
報告ニゴザル……。

島津義弘
…………。

突撃式トッパイ形兜
未ダ、杵築ノ地ヲ落トスコト能ワズ……。

突撃式トッパイ形兜
二ヶ月モノ籠城ヲ果タス武勇……、
敵ナガラ見事ト言ウシカアリマセヌ。

島津義弘
流石ハ杵築ノ城娘といったところじゃナ……。

島津義弘
……勝山と渾名サレシ威は、
其ノ魂にしかと宿っちょるよう見える。

突撃式トッパイ形兜
……デスガ、ソレ故ニ、
アノ城娘――杵築城ノ内奥ニ
異変ガ生ジテイルコトモ確カニゴザル……。

突撃式トッパイ形兜
全テハ、当初ノ計画通リ……。
義弘サマノ、御慧眼ニハ言葉モ御座イマセヌ。

島津義弘
島津ノ戦は、事前ノ情報収集も肝要の一つじゃ。
杵築城の特質ヲ知っておれば、利用するのは当然のコト……。

突撃式トッパイ形兜
――絶対防衛。
其ノ想イノ強サガ、杵築ノ城娘ヲ盲目ノ徒トサセル……トイウ訳デスナ?

島津義弘
そうジャ……。

島津義弘
上方ノ阿呆ドモハ
瘴気ニヨル完全支配ニ頼ルアマリ、
城娘そのものの力を利用することを知らんのじゃ……。

島津義弘
然らば、杵築城の自我を奪わぬよう注意シつつ、
此処ら一帯に、薄く瘴気を散布シテおけ。

突撃式トッパイ形兜
承知……全テ、計画通リニ事ヲ運ビ申ス……。

島津義弘
…………。

兜たちが、その鋭き眼差しを、遠方の城へと向ける。

そこには、疲労困ぱいにあって尚、
兜に抗おうとする、小さき城娘の姿があった――――。

???
守る……何としても、この地は私が守ってみせます……。

???
島津であろうと、兜であろうと……誰で、あろうと……。

???
絶対に、近づけさせはしない……。

――七日後・豊後国某所

千狐
殿、転移術による豊後への移動は完了ですわ。

千狐
――と、安堵してる場合ではありませんでしたね。

千狐
見たところ周囲には、薄くですが、
兜のものと思われる瘴気が漂ってますし……、

千狐
何より、兜の禍々しい気を一帯に感じます。
……殿、敵はすぐ近くにいるかもしれませんので、ご注意を。

柳川城
巷説によれば、この地には長きにわたる篭城を展開して、
兜に抗している城娘がいるとのことですが……。

柳川城
いったい、どのような方なのでしょうか?

やくも
一ヶ月以上も兜さん相手に戦ってる城娘さんやけん……。

やくも
きっと、殿さんみたいに勇敢で、
格好いい大人な城娘さんに決まってるはずだに!

殿
…………。

殿
…………!

桃形兜
――ザザッ!

やくも
だに――!?
さっそく兜さんのお出ましだに!

桃形兜
殿……覚悟……覚悟……ッ!

千狐
……え?
桃形兜が一体だけで、殿に立ち向かおうというの?

桃形兜
フフフ……ドウシタ!
カカッテコナイノカ、腰抜ケ!

やくも
腰抜けって、あんた……。

やくも
桃形兜さんだけで、
本気で殿さんを倒せると思っちょるがや!?

桃形兜
ダトシタラ何ダ?
口ダケ達者ナ、役立タズノ神娘ガ口ヲ挟ムナ……バーカッ!

やくも
な……舐められたもんだにぃ!

やくも
あんたぐらいなら、
うちのトンカチ攻撃で何とかなりそうがや!
覚悟するだにぃー!

千狐
――あっ! ちょっと、やくも! 
待ちなさい、ひとりで攻め込んでどうするの!

やくも
止めんでほしいがや!
うちもやる時はやるってところを見せてやるだにぃー!

桃形兜
――ヒィッ!
ホ、本当ニ、トンカチヲ持ッテ攻メ込ンデクルトハ……!?

千狐
……うそ?
桃形兜が、逃げていく……?

やくも
こらーっ!
待つだにぃー!

桃形兜
シマッタ…………オ、追イツメラレタ!?

やくも
ふっふっふ、もう逃げ場はないがや……。

桃形兜
……グヌヌヌヌ。
神娘ヲ甘ク見過ギテイタヨウダ……。

やくも
今さら後悔しても遅いがや!
さぁ、覚悟するだに!

桃形兜
――ナンテ言ウト思ッタカ、馬鹿メ!
覚悟スルノハ、貴様ノ方ダ!

やくも
……だに?

兜軍団
――ザザッ、ザザザッ!!

やくも
だにぃーっ!?
い、いつの間にか、背後に兜さんがいっぱいいるだに!?

やくも
か、囲まれてしまって、もう逃げ場がないがや~!
殿さーん! 助けてほしいだにぃ~!!

千狐
くっ……何となくイヤな予感はしてたけど、
やはり、あの桃形兜は囮だったのね!

柳川城
殿、すぐにやくもさんを助けにいきましょう!
このままでは、兜に八つ裂きにされてしまいます!

後半
やくも

はぁ……はぁ……な、何とか助かったがや……。

やくも
殿さん……、
勝手に先走ってごめんなさいだにぃ。

千狐
まったく、ちゃんと反省しなさいよ、やくも?

やくも
……うん。

千狐
それにしても、さっきの兜の戦術……、

千狐
もしあれに、
殿や城娘の皆さんが引っ掛かっていたとしたら、
どうなっていたことか……。

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
そうですね、殿……私も同じようなことを思いました。
おそらく、先の兜が使った戦術は島津の――


――ザザッ!

兜軍団
――ザザッ、ザザザッ!!

千狐
そんな……!
もう第二陣が来たというの――!?

兜軍団
……釣リ野伏ニテ……殿ヲ討ツ……。
釣リ野伏ニテ……殿ヲ討ツ……。

台山に咲く一輪の黄槿 -破-

釣り野伏の名を口にする兜たちは、事前に
捕虜とした飫肥城を囮として策を展開する。
飛行兜の挟撃に注意しつつ、勝利を掴め。

前半
兜軍団

……釣リ野伏ニテ……殿ヲ討ツ……。
釣リ野伏ニテ……殿ヲ討ツ……。

柳川城
つ、釣り野伏――!?

柳川城
その名を口にするということは、
やはり、あの兜たちは…………!

やくも
え? な、何だに!?
ツリノブセ? 兜さんの新兵器か何かがや?

千狐
武器なんかじゃないわ、やくも!

千狐
釣り野伏とは、戦術の名――さっき、
やくもが身を持って味わったものよ!

やくも
あ、あの囮作戦には、
そげな名前があったんやね……。

やくも
けど、あっちのやり口がわかってれば、
もう二度と引っかかることはないだに!

古桃形兜
ホウ……ナラバ、コレハドウカナ?

千狐
――あっ、あれは!?

飫肥城
……ぐすっ……ひうっ、うぅぅぅ……痛いよぉ……。

柳川城
そんな……あ、あれは……!?
間違いありません! 彼女は城娘です、殿!

千狐
どうやら、兜に捕まってしまっているようですね……。

古桃形兜
サァ、殿ヨ!
此奴ヲ助ケタクバ、歩ヲ進メテミセヨ。

殿
…………!

古桃形兜
ドウシタ、殿?
拒ムトイウノナラ……コノ城娘ノ命ハ無イゾ?

兜の持つ槍の切っ先が、
ゆっくりと城娘の眼前に突き付けられる。

飫肥城
は、ぅぅ……やめて……やめて、くださいぃ……ぐすっ……。

千狐
な、なんて卑劣な……!

やくも
殿さん……どうするだに?

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
――はいっ!
たとえ罠だとわかっていても、彼女を救う……。

柳川城
殿ならばそう仰ると思っていました!

飫肥城
――だ、だめ……です……こちらに来ては……うぅ……。
……これは、か、兜たちの……罠なのです……。

古桃形兜
黙レ、飫肥城ッ!
ヨウヤク策ガ成ルノダ、邪魔ヲスルデナイ!

飫肥城
――きゃっ!?
いた、痛いですぅ……乱暴に……しないで……ぐすっ。

古桃形兜
イイカ、ヨク聞ケ……飫肥城。
貴様ハ囮デアリ、我ガ戦力ノ、ヒトツデモアルノダ。

古桃形兜
貴様ノ友、杵築城ノ命ヲ助ケタクバ、
殿ヲ倒スタメニ、其ノチカラヲ貸セ……イイナ?

飫肥城
そ、そんな……私は……わたし、はぁ……。

古桃形兜
――泣ク暇モ惑ウ暇モ貴様ニハナイト知レ!
サァ、憎キ殿ヲ討チ取ルタメ今コソ打ッテ出ルゾ!

後半
千狐

兜の討伐を確認しました!
お見事ですわ、殿!

飫肥城
ぐすっ……うわ~~~~ん!
皆さん……ごめんなさい……ごめんなさいぃ!

飫肥城
私、兜に脅されていて……ぐすっ……、
それに、友達が……うぅっ、ぅぅ……。

やくも
おー、よしよし……。
殿さんもうちもみーんな無事やけん、
そげに泣かんでほしいだに。

飫肥城
ですが……ぐすっ……助けにきてくれた貴方がたに、
武器を向けてしまったのは、許されないことですぅ……。

柳川城
……いいえ。先刻の戦いにおいて、
貴方が手を抜いてくださっていたことは、
実際に戦った私たちが、ちゃんと理解しています。

柳川城
それよりも、いったい何が起きているのか、
事情を説明していただけないでしょうか?

飫肥城
……は、はい。

飫肥城
えっと……私は、飫肥城と申します……。
皆さん既にご存知の通り、城娘のひとりです。

飫肥城
私は……今現在、
この地に攻め入っている兜たちに対抗している、
杵築という名の城娘の友達でして……、

飫肥城
私、杵築城ちゃんの窮地を知って、
応援に駆け付けたのですが……、

飫肥城
あの……お恥ずかしながら、
たまたま立ち寄った蒸し風呂の施設にて、
油断しているところを兜に襲われまして……。

千狐
む、蒸し風呂……?

やくも
ま、まぁ……風呂の最中に襲われたら、
さすがの城娘でも兜さんには勝てないってことやね……。

飫肥城
――って、
それよりも先ほどから疑問だったのですが、
貴方たちは、どうしてこの様な場所にいらっしゃるのでしょうか?

飫肥城
見たところ、かなりの準備と武装をして、
この地に来たようですが……?

千狐
……えっと、ですね。
実は、千狐たちも――――。

千狐たちは、自らの素性と
この地に来た理由を飫肥城に告げた。

飫肥城
そ、それは本当ですか――!?

飫肥城
では、殿も杵築城ちゃんを助けに来てくれたというわけですね!

殿
…………。

殿
…………!

飫肥城
えへへ、こんなに嬉しいことはありません!

飫肥城
貴方たちのような強い方々がいれば、
きっと杵築城ちゃんを助けることが――

飫肥城
――っ!?

柳川城
ど、どうしたのですか、飫肥城さん?

飫肥城
そんな……ど、どうして……?

飫肥城
な、何故……あんなところに杵築城ちゃんが……?

杵築城
…………私は。
この地を守ル……守って……みせる……。

台山に咲く一輪の黄槿 -急-

突如として殿たちに攻撃をしかける杵築城と
それに乗じて侵攻する兜軍団の挟撃が今、
戦場に展開される。

前半
杵築城

…………私は。
この地を守ル……守って……みせる……。

やくも
――あ、あれが杵築城なんかや?

やくも
何だか想像してた城娘さんより、ず~っと幼い感じだに。

千狐
でも、長期にわたって兜の猛攻を退けてきたのだから、
並の城娘ではないはずよ……。

柳川城
何はともあれ、杵築城さんが
ご無事のようで良かったですね、殿!

柳川城
あの様子ならば、共に力を合わせてこの地から兜を――

杵築城
――それ以上、近ヅかないでください!

柳川城
えっ!? 
ど、どうしてこちらに矢を……!

杵築城
守ルんだ……。

杵築城
何ガ来ようと……私ガ……、
私ガこの地を……守ってみせます……。

飫肥城
……何か、様子がおかしい……。
あんなの、杵築城ちゃんらしくないよ……。

飫肥城
杵築城ちゃん――!
いったい、どうしちゃったの……?
どうして、私たちに武器を向けたりするの?

杵築城
……黙りなさイ。
敵に向けル言葉など、持ち合わせテはいません!

飫肥城
敵って……そ、そんな……。

殿
…………。

千狐
殿、あの杵築城という名の城娘ですが……、

千狐
彼女の霊気を探ってみたところ、
どうやら城娘としての魂が暴走している節があります。

やくも
城娘の魂の……暴走?

やくも
千狐ぉ……さては!
また難しい話をする気やね!?

千狐
…………。

千狐
ねぇ、やくも……。
千狐はこれから、殿と大事なお話をするから、

千狐
ちょっと黙っててくれるかしら?

やくも
……は、はい。

千狐
殿、これまで千狐たちが集めてきた巷説や
飫肥城さんの話、そして杵築城さん自身の様子から考えるに……、

千狐
杵築城さんの心身には、長期間の籠城によって、
相当な疲労が蓄積しているのは容易に想像がつきます。

千狐
加えて、先ほどから周囲には、薄くですが、
兜による瘴気と思わしきものが漂っていることから……

千狐
……それら総てが寄り合わさって、
杵築城さんの城娘としての業に作用し――

千狐
――その結果、彼女の魂が暴走して、
今のような異常な状態に陥ってしまったのですわ。

やくも
(……だにぃ。
予想はしてたけど、やっぱり何言ってるのか、ぜんぜんわからんだに……)

柳川城
なるほど……。
千狐さんの見立ては、確かに正しいかもしれません。

柳川城
この地に集っている兜は、先の戦いにおいて、
釣り野伏を始め、巧みな戦術を駆使する手練ればかり……。

柳川城
そんな兜たちの相手を、何十日も続けていたとすれば、
たとえ瘴気がこの地に存在していなかったとしても、
城娘としての魂が暴走し、その心にまで影響を与えることは十分に考え得る……。

飫肥城
あの……何言ってるのか、ぜんぜんわからないのですが、
……つ、つまりどういうことでしょうか?

やくも
そうがや!
少しは、うちらにもわかるように説明してほしいだに!

千狐
つまり、今の杵築城さんは、
私たちのことさえも敵として認識してる可能性があるということよ!

やくも
……んなっ!?

やくも
そ、そげん馬鹿なことがあってたまるかや!!

飫肥城
で、でも……杵築城ちゃんは……、
悩み事とか、ひとりで抱え込もうとするところがあるから……。

飫肥城
もしかしたら……本当に……心が疲れちゃったのかも……?

柳川城
とにかく、このままでは互いに傷つくばかりです。
早急に杵築城さんを正常な状態に戻さなくては……!

千狐
そうですね、柳川城さん!
とにかく今は、兜が来る前に杵築城さんの許へ――

兜軍団
――ザザッ、ザザザッ!!

飫肥城
――ひゃぅっ!?
な、なんて間の悪い時に兜が……!

やくも
そんな……どんどん、兜さんの数が増えてくだに!?

柳川城
――っ!?

柳川城
……殿。
どうやら雑兵だけではないようです!

殿
…………!

島津義弘
久しいのゥ、殿……。
前回ハ不覚を取ったガ、今回ハ勝たせてもらうド!

千狐
そんな……巨大兜まで現れるなんて――!?

島津義弘
善しッ――! 敵は十分に引キ寄せた!
今コソ釣り野伏にて確実に討ち取るドォ!!

兜軍団
……承知ッ! 承知ィッ!!

千狐
あの迷いのない動き……まさか、
杵築城さんの異常すら、奴らの策の内だとでもいうの!?

柳川城
真偽は定かではありませんが……、
殿、とにかく今は戦いの準備をお願いします!

柳川城
このままでは、杵築城さんと巨大兜に挟撃されてしまいます!

杵築城
…………守ル……守るんだ……。

杵築城
この地を侵すモノは……すべて私が、射貫いてみせる……。

飫肥城
そんな……こんな、ことって……。

飫肥城
ううん、ここでめそめそしてちゃだめだ……。
私は、杵築城ちゃんを助けに来たんだから!

飫肥城
殿、私も微力ながら加勢します!
共に、兜を討ち果たしましょう!

後半
杵築城

――うっ、くぅぁ…………だ、め…………
まだ、倒れるわけには……いかない……。

杵築城
生きていれば……必ず、また……
大切な場所を……取り返せる……はず……。

杵築城
生きてさえ……いれ、ば…………――。

飫肥城
あっ――杵築城ちゃん!
待って! いったい何処に行くっていうの!

島津義弘
己が地ヲ離れ、再起を図るか……。
いよいよモッテ自己矛盾が明確ニ顕在化シテきよったな。

島津義弘
ヤツの魂の暴走の度合は、
少々、儂らノ予想を超えちょるガ……、

島津義弘
――面白カッ!!
此度の戦、ヤツの異常さに乗じ、
再戦の策を調整し直すとするドォォッ――!

やくも
…………か、兜さんたちも撤退していくだに!

千狐
杵築城さんも、兜も別々に逃げていった……。

千狐
どちらかを追うにしても、
こちらの兵力も士気も、足りなすぎるわ……。

柳川城
不用意な追撃は、状況を悪化させるだけ……ということですね。

柳川城
ですが、杵築城さんも兜も、
この地に戻ってくるのは明白です。

柳川城
殿、こちらも再びの来襲に向けて、
陣と策を整えなくてはなりませんね。

殿
…………。

飫肥城
杵築城ちゃん……。

飫肥城
今度は、絶対に助けてみせるから……。

飫肥城
私が、杵築城ちゃんを……絶対に――!!

台山に咲く一輪の黄槿 -絶壱-

――蒸し風呂。
飫肥城の大好きな、蒸し風呂の施設が、
突如として豊後の地に現れたのだが……。

前半
…………コレハ、
飫肥城ガ杵築城ノ救援ニ向カウ途中デ、
兜タチニ捕マルマデノ一部始終――――。

飫肥城
わーい、ようやく豊後国に到着しました!

飫肥城
って、いけないいけない。
こんなところで独りで、はしゃいでる場合じゃなかった。

飫肥城
ここから先は、悪逆非道な兜たちがひしめく
魔境といっても過言ではない恐ろしい地なんだから!

飫肥城
一瞬の油断が命取り…………、

飫肥城
――って、あれ? なんだろう?
ちょっと先に、変な建物がありますねぇ……?

???
イラッシャイマセー。イラッシャイマセー。
蒸シ風呂屋サンダヨー。

飫肥城
――えっ!? 蒸し風呂屋さん!?
こんなところに? な、何で!?

飫肥城
も、もしかして……兜たちの罠なんじゃ……?

???
――ギクッ!?

飫肥城
ああ――!?
今、ギクッて言いましたね、ギクッってぇ!

???
…………。

飫肥城
急に無言になるのが余計に怪しいですぅ――!!

???
ム……蒸シ風呂屋サンダヨー。

飫肥城
――明らかにはぐらかそうとしてるっ!?

飫肥城
もう、絶対ぜったいぜ~~~~ったい怪しいじゃないですか!

???
……蒸シ風呂屋サンダヨー。

???
エット……。
オ……オ肌ピチピチ~、
美容ニモ効果抜群ノ、蒸シ風呂屋サンダヨー。

飫肥城
――な、にっ!?

飫肥城
お肌……ぴちぴち!?

???
健康増進、体重減量ニモ最適ダヨー。

飫肥城
たい、じゅう、げん、りょうぅーっ!?

飫肥城
す、すごい……そんな、蒸し風呂があるなんて……!

飫肥城
いや、でも……すごく、怪しいし……。
あぁ~、でもっ、でもぉぉ……!!

???
ソンナニ疑ウナラ、今日ハモウ閉店ダヨー。

???
ソレデハ、サヨナラー、サヨナラー、サヨナラー…………。

飫肥城
あっ、待って! 待ってください!
入ります! 子供ひとりです! 蒸し風呂はいりたいですぅ!!

???
フフフ……毎度アリー。

飫肥城
えへへ……蒸っし風呂、蒸っし風呂ぉ~♪

飫肥城
杵築城ちゃんを助けに行く前に、
ちゃーんと身体中の悪いものを取り除かないとぉ――


――ザザッ!

飫肥城
……ふぇ?

兜軍団
――ザザッ、ザザザッ!!

飫肥城
あっ、ぁぁ……ぁ……!

飫肥城
――やっぱり、兜の罠だったのですねぇぇぇっ!!

突撃式トッパイ形兜
何ガ、ヤッパリ、ダッ!!
私欲ニ負ケ、マンマト引ッ掛カッタクセニッ!


飫肥城! 私欲マミレ!
飫肥城! 垢マミレッ!!

飫肥城
ふぇ~~~んっ!
私、そんなに汚れてないですよぉ~~~っ!!


トイウカ貴様、チビッコ城娘ノ癖ニ!
体重ナンカ気ニスル必要アルノカ!

飫肥城
うわ~~~んっ!
だって最近食べ過ぎてたからぁ~っ!

突撃式トッパイ形兜
フンッ! ナラバタップリト
ソノ怠ケキッタ身体ヲ俺タチガ使ッテヤル!

飫肥城
使うって……い、いったい何をする気なのですかぁ――!?

突撃式トッパイ形兜
何ヲスル気、ダト……?

突撃式トッパイ形兜
コウスルノサ――――!!

後半
突撃式トッパイ形兜

…………ドウダ、理解シタカ?

突撃式トッパイ形兜
今、仔細ニ説明シタ様ニ、
コレカラ貴様ハ、俺タチト共ニ殿ト戦ウノダ!

飫肥城
うぇ~~~~んっ!
殿って誰ですかぁ~!

飫肥城
っていうか、説明の時点で負けてどうするんですかぁ~!!

突撃式トッパイ形兜
ウ、ウルサイッ!!
本番デハ、モットコウ……気持チデ戦力差ヲ補ウカラ、大丈夫ナノダ!


……ト言ッテモ、

兜軍団
実際ニ殿ト戦ウ時ハ……、

兜軍団
今ノ説明ノ半分以下ノ戦力シカ、
用意デキナインダケドネ……。

飫肥城
ますます絶望的じゃないですかぁ~~~っ!!

突撃式トッパイ形兜
エ~イッ、黙レ黙レェ!
島津軍ノ兜ハ泣キ言ナンテ言ッテラレンノダ!

突撃式トッパイ形兜
イイカラツイテ来イ、飫肥城!
貴様ハ釣リ野伏ノ囮役トシテ、
ボロボロニナルマデ利用シテヤルカラ、覚悟シテオケ!

飫肥城
い、いたたた――!
ちょっと、服ひっぱらないで……ぐすっ、はぅぅ……もう痛いのはやだよぉ~!

飫肥城
誰か……誰か助けてぇ~~~~~っ!!


(コウシテ、飫肥城ハ、ボクラノ戦力ノ
ヒトツトシテ、利用サレタノダッタ――――)

台山に咲く一輪の黄槿 -離-

兜軍団と杵築城の再びの襲来に備え籠城する
殿たち。しかし、なかなか姿を現さない杵築城と
兜たちに焦れた一行は、気分転換をすることに。

前半
杵築城と兜軍団の再来に向けて籠城してから、数日が経っていた――。

やくも
それにしても杵築城のやつ、
ぜんぜん姿を現さんだに……。

千狐
そうね……。

千狐
もしかしたら、殿との戦いで受けた傷は癒えていても、
こちらに攻め込む足掛かりを見つけられずにいるのかもしれないわ。

柳川城
それだけ、殿の籠城が見事ということですね。

殿
…………!

やくも
にしても、暇すぎるだに……。

やくも
あまりにも暇すぎーけん、昨日なんか飫肥城に頼まれて、
城外に簡易な蒸し風呂を造ってしまったくらいだに……。

千狐
相変わらず、さらっととんでもないものを造るわね……。

飫肥城
ですが、やくもさんのおかげで、
今日も蒸し風呂に入れて、飫肥城は幸せですぅ♪

飫肥城
あ、そうです!
今日はやくもさんも一緒にどうですか?

やくも
うーん……うちはどっちかっていうと、
温泉派やけん、蒸し風呂はちょっとぉ……。

飫肥城
えー、そんなこと言わずに入りましょうよぉ!

千狐
あ、あの……飫肥城さん。
少し気を緩めすぎではないでしょうか?

千狐
杵築城さんも兜たちも、
いつ攻めてくるかわからないのですよ?

飫肥城
……それに関しては、
ご心配なくです、千狐さん!

千狐
……え?

飫肥城
むしろ今は、守りを固めるよりも、
のんびり蒸し風呂に入って、
ほわわ~んな雰囲気を醸し出すのが得策なのです。

千狐
……ど、どういうことなのでしょうか?

殿
…………!

柳川城
……え?
殿も、飫肥城さんの提案に賛成なのですか?

殿
…………。

柳川城
(殿が、この状況で無用な行動を取るはずがありません……。
きっと、何か考えがあってのことなのでしょう……)

柳川城
ならば、私もお供させていただきます!

殿
…………!

――半刻後。

千狐
す、すごい……これが
やくもが造った蒸し風呂なのね……。

やくも
有り合わせのもんで造ったにしては、
我ながらよく出来てると思うだに!

やくも
といっても、かなりちっこい蒸し風呂やけん、
一気に大人数で入るなんてことはできないがや。

柳川城
(こ、これが……蒸し風呂というものなのですか)

柳川城
(何だか、ちょっとだけ怖いなぁ……)

飫肥城
――おや?
柳川城さんが、じぃっと蒸し風呂を見てますねぇ?
もしかして、一番に入りたい感じですか?

柳川城
……え? 
あ、いや、そういうわけでは……。

飫肥城
遠慮は無用ですよ、柳川城さん♪
籠城で心も体もお疲れですからね。
どうぞ、蒸し風呂でさっぱりしちゃってください!

柳川城
わ、私からですか――!?

飫肥城
ほらほらぁ~♪
そんなに緊張しなくても大丈夫ですよぉ!

飫肥城
蒸し風呂のイロハは、
私がしっかり教えますので、ご安心ください!

柳川城
で、ですが……殿の前ですし……。
そんな……いきなり、だなんて……。

殿
…………。

殿
…………。

蒸し風呂の前にて、和気あいあいとなる殿たち――

――その光景は、数日前から殿たちの様子を
じっと窺っていた者に対して、大きな動揺を与えた。

杵築城
ば……バカな……。
こんナ時に、蒸し風呂だなんて……!?

杵築城
敵はいったい何を考えているというノ……?
これでは、城内はガラ空き……攻め込めと言ってるようなものではないですか。

杵築城
……これまで、
見事な籠城ヲ見せていた手合いだというのに、
明らかにおかしい……。

杵築城
――ハッ!? そ、そうか……!

杵築城
長期の籠城で、ヤツらは精神的にまいってしまっタと……。

杵築城
そういうコトなのですね!

杵築城
なラば、今コソ我が城を取り戻す好機ッ!
杵築城、これより打ってでます!!

――同時刻。
別の場所にて、杵築城と同じように
殿たちの様子を窺っていた兜たちにも変化が生じた。

突撃式トッパイ形兜
杵築城ガ動キ始メタヨウダ……。

突撃式トッパイ形兜
然ラバ……我ラモ、出陣スルゾ!

兜軍団
出陣ッ!! 出陣ッ――!!

そして、そんな杵築城らの動きに、
誰よりもはやく気づいたのは、飫肥城であった――。

飫肥城
――殿!
やはり、予想していた通り、
私たちが油断していると見て、敵が動き出したようです!

千狐
……よ、予想通り!?

千狐
殿、飫肥城さん……もしかして、こうなることを見越して、
わざと蒸し風呂に入る素振りを見せたというのですか!?

殿
…………!

飫肥城
当然です!
いくら私が蒸し風呂好きだと言えど、このような非常時に、
呑気に意味もなく蒸し風呂っちゃうわけないのです!

柳川城
(……よ、よかった……危うく、本当に蒸し風呂に入るところでした……)

やくも
ど、どうでもいいけど、
城ん中には、既に杵築城が入ってしまってるみたいだに!

飫肥城
心配はいりませんよ、やくもさん!

飫肥城
こうなることを考えて、しっかりちゃーんと
城外でも戦える準備は予めしていますから!

杵築城
…………。

杵築城
……おかシい。
敵が慌ててイル様子がない……。

杵築城
イヤ……今は惑う場合ではアリませんね。

杵築城
……我が城は、現にコウシテ取り戻せたのです。

杵築城
あとは、ココから全てノ外敵を排除するのみ。
……集中シロ……集中するノよ……杵築城ッ!!

飫肥城
杵築城ちゃん……。
……やっぱり、まだ正気には戻ってないんだね……。

飫肥城
でも、大丈夫。
私が……今、助けてあげるからね!

飫肥城
殿っ! どうか、その智勇を私にお貸しください!
この地から兜を一掃し、そして、杵築城ちゃんを救うために――!

後半
杵築城

……そん、な……コレだけやっても……守れナい、なんテ……。

杵築城
ぐすっ……コノままでは、奪われて、しまウ……。
……私の、大切な場所ガ……壊されちゃうよぉ……。

飫肥城
杵築城ちゃん――!!

杵築城
は、離しテ……ッ!
敵に捕らえらレ、辱めを受けるくらいならば、
ココで自ラ命を絶つのが――。

飫肥城
何を馬鹿なこと言ってるのさ!
もう杵築城ちゃんだけが抱え込むことなんてないんだよ!

飫肥城
私も、殿も……みんな、杵築城ちゃんを助けるために、
こうして今、この地にいるんだよ!

杵築城
私ヲ……助ける、ため……?

杵築城
そ、そんなコト……有り得るはずが、ない……、
敵ノ甘言などに……この杵築が、騙されたりなど……うっ、うぅぅ……、

杵築城
それに……私でなくては、この地を守るコトなんて……できやしない……。
私ガ頑張らなくては……私ガ…………わたし、ガ…………。

飫肥城
もぉ~! いつまでそんなこと言ってるの!

飫肥城
城娘の魂の暴走だか何だか知らないけど、
一度、蒸し風呂に入って
心と体の中に溜まった悪~いもの、全部外にだしちゃいなさい!

杵築城
ム、蒸し風呂……!?

杵築城
あなた、何を言って――あっ、コラッ!! 
ヤメテ! そんなトコ、入るわけッ……ちょ、ちょっとぉ!
待ってってば……は、放シテ……放してったらぁ――!!

飫肥城
――やくもさん! 
蒸し風呂開放ですっ!
これより、杵築城ちゃんをぶち込みます!

やくも
……え? む、蒸し風呂?

飫肥城
はやくーっ!
これ以上は、杵築城ちゃんを抑えてられないよぉ――!!

やくも
わ、わかったがや!
蒸し風呂、開放だにぃーっ!!

飫肥城
さぁ、杵築城ちゃん!
やくもさん特製の蒸し風呂のムンムン空間で、
しっかり回復しちゃいなさい――!

杵築城
や、メテ……こんな、ワケのわからないものに……ッ、
くぁッ……あぁ……そんな、抗えナイ……だなんてぇ――!!

千狐
(飫肥城さん……な、なんて強引さなの!?
杵築城さんが、あれだけ嫌がってるのに、
問答無用で蒸し風呂に投げ込むなんて……)

飫肥城
――やくもさん!
施錠ですっ! 当分はそこから出られないようにしちゃってください!

やくも
い、いいんかや?
あんまり長時間の蒸し風呂は身体に悪いんじゃ……。

飫肥城
これも杵築城ちゃんを思えばこそです!
さぁ、今は心を鬼にして……施錠施錠せじょーっ! なのです!!

台山に咲く一輪の黄槿 -結-

杵築城を救出し、安堵する殿たちだったが、
その隙を狙って接近していた巨大兜と、
配下の兜たちに完全に包囲されてしまう……。

前半
飫肥城

これも杵築城ちゃんを思えばこそです!
さぁ、今は心を鬼にして……施錠施錠せじょーっ! なのです!!

島津義弘
……考えたナ、飫肥城。

飫肥城
――っ!?
あ、貴方は……巨大兜!?

島津義弘
此の地に満ちる瘴気から……ソシテ、戦場に満ちる荒々しき闘気からも
隔絶された空間に、杵築城を押し込み、心身の回復を図るトハ……。

熊形兜
ダガ……ソレト引キ換エニ、
我々ノ接近ヲ許ス形トナッタガナ……。

兜軍団
――ザザッ、ザザザッ!!

千狐
い、いつの間にこれほど近くに兜たちが……!?

柳川城
迂闊でした……。
先の兜の戦いと、杵築城さんの救出を優先するあまり、
肝心の巨大兜の動きを見逃していたとは……。

熊形兜
クックック……見逃シテイタ、ダト……?

熊形兜
阿呆メガ……杵築城ノ暴走ヲ利用シ、
……此方ノ動キニ気ヅケヌヨウ、
我等ガ巧妙ニ策ヲ張リ巡ラセテイタノダ。

柳川城
くっ……戦自体がまるまる囮に使われていたとは。
これも、釣り野伏の一種というわけですか……。

やくも
や、やっぱり今回の兜さんたちは、やたらと知恵が回るだに!

千狐
そんなこと言ってる場合じゃないわ、やくも!
見て……兜たちにすっかり囲まれてしまってるわよ!

島津義弘
杵築城の一連の暴走によって……我が策は成った……。

島津義弘
既に、此の地、此の間ハ必死ノ境地……。
今ヨリ、島津ば真の戦、見せつけッドォ!

兜軍団
――ウォォォォォォォッ!!
突撃ィッ! 突撃ィィイッ!!

やくも
とんでもない数の兜さんらが、
こっちに向かってくるだにぃ!!

柳川城
ここが、正念場というやつですね……。

飫肥城
絶対に……負けたりなんかしない……!

飫肥城
杵築城ちゃんが守ろうとしたこの地は、
私が守ってみせるんだから!

柳川城
殿、出陣のご準備を――!
飫肥城さんと共に、この地から兜たちを一掃しましょう!

後半
島津義弘

――み、見事……じゃ。
まさか……釣り野伏ヲ、こうモ見事に討ち破るトハ……。

島津義弘
全軍……撤退……。
コレ以上、兵を失うわけにはイカヌ……。

飫肥城
こ、これだけのことをしておいて……、
……私たちが、逃がすと思ってるのですか!

飫肥城
この地を侵そうとした罪、
しっかりと贖ってもらいますからね!

柳川城
島津の名を冠する兜は……
何としてもここで討ち取るべきです、殿!

殿
…………。

島津義弘
(此奴の覇気……今回ばかりハ、逃がす気は無いというワケか……)

殿
…………!

島津義弘
…………クッ!

桃形兜
――オ逃ゲクダサイ、義弘サマ!!

島津義弘
な、なんばしよっトカ、桃形ッ!

兜軍団
此処ハ我ラガ、敵ヲ足止メシマス!

島津義弘
そ、其処を退けィッ! 死ぬツモリかッ!?

兜軍団
モトヨリ覚悟ノ上……。
サァ、オ急ギクダサイ!

島津義弘
………………分かった……其ン想いバ背負イ、
何時ノ日か必ず、勝利によって報いてミセる……。

やくも
――殿さん、まずいがや!
巨大兜さんだけが逃げていくだに!

柳川城
待ちなさい、巨大兜っ!!

兜軍団
グァァッ――!!

飫肥城
くっ……雑兵が邪魔で巨大兜が狙えません!
このままでは、逃げられてしまいます……!!

兜軍団
――ザザッ、ザザザッ!

兜軍団
大将ヲ逃ガス……逃ガス……逃ガスノダ……。

千狐
この異様な闘志……、
ヤツら、ただ単に大将を守るための盾ではないようです!

飫肥城
隙あらば、我々を討ち取らんとするほどの気迫を、
それぞれの兜たちが備えているだなんて……!

柳川城
これは……島津の退き口……。
まさか、兜が『捨て奸』の戦法をとるなんて――!?

柳川城
せっかく……巨大兜を追い込んだというのに、
これでは、攻撃を当てることすらできない……。

…………そうして、
柳川城たちが雑兵を全て討ち果たした頃には、
巨大兜の姿は見当たらなくなっていた――。

柳川城
……申し訳ありません、殿。
巨大兜を逃がしてしまいました……。

殿
…………。

千狐
そうですね……。
……兜と言えど、島津の名を冠する巨大兜が
率いる部隊が相手だったのですから……、

千狐
むしろ、この程度の被害で済んだことを喜ぶべきでしょう。

やくも
だに……。
なんというか、今回の遠征はいつも以上に疲れたがや。

柳川城
やくもさんは蒸し風呂まで造りましたからね。
お疲れになって当然かと……。

柳川城
……って、蒸し風呂?

飫肥城
蒸し風呂…………。

飫肥城
あぁああぁぁ~~~っ!!
杵築城ちゃん、ずっと入れっぱなしでしたー!!

飫肥城
ごめんね、杵築城ちゃーんっ!!
今すぐ出すから待ってて!

杵築城
……うっ、ぅ……やっと、出られ……た……。

やくも
うわわわ……すっかり茹だってしまってるだに……。

やくも
なぁ、千狐……杵築城は、
これで普通の状態に戻れたんかや?

千狐
……え?
あ、ちょ、ちょっと待っててね。今、霊気を探るから……。

千狐
……え~っと……。

千狐
そう、ね……。
今の杵築城さんの霊気に、異常は見られないわ。

千狐
信じられないことだけど……、

千狐
どうやら蒸し風呂の効果があったみたいだわ!

飫肥城
よかったよぉ~!
杵築城ちゃん、杵築城ちゃーん!

杵築城
こ……ここ、は……?

杵築城
それに、どうして飫肥城ちゃんが……いる、の……?

杵築城
あっ、ぅぅ……な、何だかよくわからないですが……、
……喉が、苦しいほどに、渇いて……
身体、あつ、くて……すごく、だるい……です……。

飫肥城
杵築城ちゃん、事情はちゃんと後で説明するから!
それよりも今はまず、しっかり身体を休められるところに移動しよ?

杵築城
……?
よ、よくわかりませんが……おねがい、します……。

杵築城
わたし……もう、何が……なん、だ……か…………。

飫肥城
え? ちょ、ちょっと!
杵築城ちゃん? 杵築城ちゃーん!!

飫肥城
うわ~~んっ!
杵築城ちゃんが、気絶しちゃったよぉ~!

やくも
そりゃあ、あれだけ蒸し風呂の中に入れられてちゃ、
こんなふうにもなるだに……。

飫肥城
うぇ~~~んっ!
長時間の蒸し風呂はやっぱり危険なんですねぇ~!!

千狐
と、とにかく今は所領へ杵築城さんを運びましょう!
そこでなら、しっかりとした手当ができますから……。

飫肥城
ぐすっ、ぅっ、ぅぅぅ……お願いしますぅ、千狐さぁ~ん!

殿
…………。

柳川城
殿……どうか、されたのですか?

殿
…………。

柳川城
そう……ですね。
島津の名を冠する兜が相手でしたから、
かなり苦しい遠征となってしまいました……。

柳川城
ですが、杵築城さんをこうして助けることができましたし、

柳川城
それに、殿をお守りできたことが……私は、何よりも嬉しいのです。

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
はい! それでは皆さんと共に、
私たちの所領へと帰還しましょう。

柳川城
殿、此度の戦、本当にお疲れ様でした。

台山に咲く一輪の黄槿 -絶弐-

――深夜の対局。
飫肥城が持ってきた将棋盤を前にし、
杵築城は殿との真剣勝負を願い出る。

前半
杵築城を救出してから、数日が経っていた…………。

――夜・所領。

杵築城
あの、お殿さま……。

殿
…………?

杵築城
すみません、こんな夜遅くに
部屋にお邪魔してしまって……。

杵築城
……え、えっと。
実は、改めてお礼が言いたかったもので……。

杵築城
その……私の窮地を知って、
豊後にまで来てくれたこと、深く感謝します。

杵築城
……はい。
飫肥城ちゃんから事の顛末を聞きました。

杵築城
今回のことは、すべて私の責任にございます……。

杵築城
……私が、他者を頼ろうとしなかったから。

杵築城
全てを独りでやらなくてはと……そう、思いながら籠城を続けて……。

杵築城
そして、いつの間にか自身の力を暴走させ……、
……兜以外のものたちにまで、武器を向けてしまいました……。

杵築城
本当に……ごめんなさい、お殿さま。

殿
…………。

杵築城
……え?
気にすることはない?

杵築城
そ、そんなこと言われても……
…………無理です。

杵築城
私、お殿さまのことも、
そして、仲間の皆さんも……傷つけてしまったから……。

杵築城
…………。

飫肥城
――あぁ~! 杵築城ちゃん!
やっぱり、殿のところにいたんだねぇ!

飫肥城
ずいぶんと探したんだよぉ――

飫肥城
――って、あれ?
もしかして大事なお話をしていた感じですか?

殿
…………。

殿
…………!

飫肥城
あぁ、なるほどぉ!
杵築城ちゃんったら真面目すぎるから、
まーたぐじぐじと、ごめんなさいしてるんですね。

杵築城
だ、だって……私は、あれだけのことをしたのですよ?

杵築城
何度謝っても、謝り足りないです……。

飫肥城
うーん。
私は、もう十分だと思うけどなぁ?

飫肥城
それに、あんまり謝ってばっかりだと、
謝られる側の殿だって、暗い気持ちになっちゃうよぉ?

杵築城
……そ、そういうものでしょうか?

飫肥城
そういうものだよ、たぶん!

飫肥城
ちゃんとごめんなさいしたら、
後は、その先で何をするか考えないと。

飫肥城
いつまでも後ろばかり見ちゃうのは、
助けてくれた人が守ってくれた未来を無視するってことなんだよ?

杵築城
守ってくれた未来を、無視する……。

杵築城
……そ、そうですね。

杵築城
…………わかりました。

杵築城
これからは、謝るのではなく、
どうやってお殿さまの恩義に報いることができるか、
……それを考えることにします。

飫肥城
そうそう、それがいいと思うよ、杵築城ちゃん♪

飫肥城
――っと、いけないいけない!
杵築城ちゃんのために、良いもの持ってきたのを
忘れるところだったよぉ~!

杵築城
良いもの……?

飫肥城
じゃーんっ!
将棋盤だよぉ~!

飫肥城
昔、ふたりでよくやったよねぇ♪

杵築城
ええ、懐かしいですね。

飫肥城
本当は、二人でやろうと思ったんだけど、
せっかくだから、杵築城ちゃんと殿で一局やってみたらどうかな?

杵築城
お、お殿さまと私がですか?

飫肥城
あれ? 杵築城ちゃん、
殿と将棋を指すの、いやなの?

杵築城
そ、そんなことないです!
お殿さまと、指し合い……してみたいです。

杵築城
ですが……お殿さま、お忙しいんじゃ……?

殿
…………。

飫肥城
…………。(じ~)

殿
……。

殿
…………。

殿
…………!

飫肥城
やったね、杵築城ちゃん!
殿、今はすご~く暇みたいだよぉ!

杵築城
で、では……。

杵築城
一局お願いします、お殿さま。

殿
…………!

杵築城
――っ!?
(お殿さまの駒を並べる速度が、尋常ではない……!
それに、何という流麗な手付き……こ、これは――!)

杵築城
あの、もしかしてお殿さまは、
将棋が得意なのでしょうか?

殿
…………!

飫肥城
殿は戦の天才ですからね、
将棋の腕もきっと名人級に決まってます♪

杵築城
なるほど……さすがは飫肥城ちゃんです。
戦と将棋に類似を見出しますか……。

杵築城
ということは、この飛車が――で、
こちらの角行が――というわけで…………。

杵築城
そして、この王将が私だとすれば――、

飫肥城
おおぉ! 杵築城ちゃんが、
何だかすっごくやる気に満ち溢れてるぅ!

飫肥城
杵築城ちゃん、頑張れぇ~っ!!

杵築城
(飫肥城ちゃんが、私を応援してくれてる……!
この勝負、何としても負けられません!)

杵築城
――よし、これで準備は完了です!

杵築城
それでは、殿……いざ、尋常に勝負です!

後半
杵築城

さ、さすがですね……殿。
まさか私の穴熊を、あれほど見事に攻め崩すとは……!

飫肥城
すごいです、殿!
何が起きてるのか正直よくわからなかったけど、
殿はやっぱり将棋も上手なんですね!

飫肥城
私は杵築城ちゃんに、
いっつも、コテンコテンにされちゃうので、
何だか良いものみたーって感じです。

殿
…………!

杵築城
……むぅ。

杵築城
勘違いされては困ります、お殿さま。
私……まだまだ実力の半分も出してないんですからね。

飫肥城
あれ……?
杵築城ちゃんって、意外と負けず嫌いだったり?

杵築城
――ち、違います!
ただ単に事実を口にしただけです!

殿
…………。

杵築城
うぅぅ……その、さわやかな微笑……。
全然これっぽちも私の言葉を信じてない感じですね。

杵築城
いいですか、お殿さま!
本当の私は、受けよりも攻める方が得意なのです!

殿
…………!?

杵築城
ですから、覚悟してくださいね、お殿さま。

杵築城
……今宵、私の苛烈な攻めの早指しで、
ぜったいに、参ったと言わせてみせますから!

殿
…………。

飫肥城
やれやれ……杵築城ちゃん、
ちょ~っと熱くなってきちゃったみたいだね。

飫肥城
い~い、杵築城ちゃん?
あんまり夢中になりすぎて、
また城娘の魂を暴走させたりしちゃ駄目だからね?

杵築城
――将棋などで、暴走なんてしません!
今の杵築は、いたって冷静です!

飫肥城
無意識に変身しちゃってる時点で冷静じゃないじゃんかーっ!!

杵築城
――はっ!?

飫肥城
はっ、じゃないよぉ!

飫肥城
もぉ~! 弓矢は没収! 
変身もさっさと解除するぅ!

杵築城
……わ、わかりましたから、
ポカポカ叩かないでくださいよぉ……。

飫肥城
まったく……豊後での籠城の影響が、
まだ残っちゃってるみたいですね。

杵築城
どうやら、そのようで……。

杵築城
はぁ……これでは、いけませんね……。
ちょっと気分転換に、サンドイッチでも作って心を鎮めてきます。

殿
…………?

飫肥城
あ、サンドイッチというのはですね、
杵築城ちゃんの得意料理なんですよぉ♪

飫肥城
――あっ、そうだ!

飫肥城
ねぇ、杵築城ちゃん!
サンドイッチなら、片手で事足りるし、
将棋しながら、殿と一緒に食べるのはどうかな?

杵築城
なるほど……将棋をしながらのサンドイッチですか……。

杵築城
それは良い考えかもしれませんね!

杵築城
それに、今からお殿さまの分も含め、
いっぱいサンドイッチを作っておけば……、

杵築城
空腹の心配をせずに、
夜通し将棋ができますよね、お殿さま?

殿
…………。

殿
…………!

杵築城
そうとなれば、さっそくお料理に取りかかります!

飫肥城
それじゃあ、私も手伝うよぉ、杵築城ちゃん♪

杵築城
ありがとうございます、飫肥城ちゃん。

杵築城
……大好きなサンドイッチを食べながら、
お殿さまのような強いお方と、一晩中将棋ができる……。

杵築城
ふふっ、今宵は忘れられない夜になりそうですね、お殿さま♪



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