ストーリーテキスト/初夢つむぐは黄金の幻奏

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目次

初夢つむぐは黄金の幻奏[]

初夢つむぐは黄金の幻奏 -序-

大晦日。殿一行が多聞山城の招きに応ずると、
そこには何故か四代目江戸城の姿が。多聞山城を
師匠と呼び慕う裏には、何やら事情がある様子。

前半

――年の瀬の大和国、某所。
粉雪の舞う中を慌ただしく駆けるのは、この辺りでは見慣れない城娘である。

四代目江戸城
よいっしょ……っと。
ふぅ……お師匠さま、門松はここで大丈夫ですか~!

多聞山城
ええ、完璧ですわ!
これで飾りつけも一段落……お疲れ様です、四代目江戸城ちゃん。

四代目江戸城
お師匠さまも、お疲れ様~!
うわ~! 改めて見回すと、金ぴかですっごいね~♪

多聞山城
ふふっ。
こんな良い子が来るだなんて、お手伝いを募集したのは大正解でしたね♪

多聞山城
(姉様は案の定、炬燵に引きこもったまま出てきませんし!)

四代目江戸城
えへへ……設営のアルバイトなんだもん、
これくらい当然だよ~!

四代目江戸城
それにわたし……今はお師匠さまと過ごすお正月が、楽しみになってるんだから!
張り切ってお手伝いしないとね!

多聞山城
……貴方、本当にこのまま此の地で年を越すつもりですの?
本来の予定であれば、もう江戸へ帰っている時分ですのに……。

四代目江戸城
そ、それは……お師匠さまが、ご迷惑じゃなければ……。

多聞山城
私はもちろん構いませんし、歓迎いたしますわ。
でも――四代目江戸城ちゃん自身は、納得できますの?

四代目江戸城
ひう……でも、今からじゃ江戸のお正月には間に合わないし……。
また今度、もっと自信をつけてからで良いかなって……。

多聞山城
(概ね、そんなところだろうとは思いましたが……。
 そろそろ皆さまもいらっしゃる頃合いですし、ここは静観ですわね)

多聞山城
そうですか――分かりましたわ。
共に華やいだ年越しを過ごし、煌めく新年を迎えると致しましょう♪

四代目江戸城
やった……! ありがとう、お師匠さま!

多聞山城
た・だ・し! ……もし心変わりがあったら、素直に言って下さいね?
私は、いつでも歓迎しますわよ。

四代目江戸城
心変わり……?
あのお師匠さま、それってどういう――

???
こーんっ!
無事に到着、なのーっ!

多聞山城
あら、早速お客様がいらしたみたいですわ。
――歓迎にあがりましょうか、四代目江戸城ちゃん♪

――――

柳川城
注連縄から鏡餅まで黄金色のあしらい……!
まさに多聞山城さんのお正月、といった感じですね!

立花山城
私の美意識とは少し方向性が違うけど……、
突き詰めて振り切っている姿勢は、嫌いじゃないわ。

やくも
うぇひひ……こりゃあご馳走も期待できそうだに……ずるり……!

多聞山城
皆さま、ようこそおいでくださいました!
この多聞山城、初日の出の如く輝く饗宴をお約束いたしますわ♪

殿
…………!

柳川城
多聞山城さん、お邪魔しています!
……あら、そちらの方は?

四代目江戸城
あわ、あの……っ!
初めましてっ! わたし、四代目江戸城ですっ!

立花山城
(四代目……?)

殿
…………?

四代目江戸城
あなたが噂のお殿さま、なんだよね!
わあぁ……本物だぁ……ちょっと触っても良い……?(むにむに)

殿
…………??

多聞山城
この子には、会場の設営を手伝って貰いましたの。
こうして皆さまを歓迎できるのは、四代目江戸城ちゃんのおかげですのよ♪

四代目江戸城
も、もう! 買いかぶり過ぎだよお師匠さま……!

柳川城
(お、お師匠さま……?)

立花山城
(手伝うにしても、江戸の城娘がわざわざ大和国まで来るかしら……?)

多聞山城
ふふっ、皆さま顔に疑問符が付いているご様子。

多聞山城
せっかくですし、会場の案内がてら軽くご説明いたしましょう。
四代目江戸城ちゃん、先導を頼めるかしら?

四代目江戸城
うん!
それじゃあお殿さまたち、わたしについてきて!

殿
…………!

合戦中

多聞山城
そもそも、今回の宴の準備……当初から人手不足は明白でしたの。

立花山城
まあ、これだけ凝っていれば当然よね。

多聞山城
ええ!
ですから早いうちに、ツテを使って方々に求人を出していたのですわ!

四代目江戸城
でね、ここの募集に『報酬に習い事も選べる』って書いてあって、
わたしにぴったりだって思ったの!

殿
…………?

四代目江戸城
あっ、ちょうど会場を一周したみたい……!
お疲れ様でした~!

千狐
御城中、くまなくキンキラだったの!

やくも
うぉお……眩しくてくらくらするだにぃ……。

後半

立花山城
つまり……、
『多聞山城の提示した芸事習いの報酬が、四代目江戸城には魅力的だった』、
ってことね。

柳川城
お稽古をつけて貰っているから、『お師匠さま』と……。
ちなみに、四代目江戸城さんは何を習っていらっしゃるのですか?

四代目江戸城
お師匠さまには、笙を教えてもらってるよ。
いつも吹いてる陣貝と違って、繊細で難しいんだ~!

多聞山城
中々筋が良くて、教え甲斐のある子ですのよ?
日も浅いのに、既に舞台でバッチリ通用する技量ですもの。

柳川城
そ、そんなに!

四代目江戸城
も~! お師匠さま、お世辞でハードル上げないでよぉ……!

多聞山城
ふふっ、私は本心を言ったまで……さて、丁度案内も終わったところですわね。
これで皆さまの疑問も、あらかた解消したのではなくて?

立花山城
そうね……ひとつ気になるとすれば、
『四代目江戸城が芸事の習得に拘る理由』……くらいかしら。

四代目江戸城
…………っ!
ええっと……それは……。

殿
…………。

四代目江戸城
わ、わたし……最近、新しいことをやってみるのがマイブームなのっ!
だから……何か新しい趣味? ないかな~って……。

多聞山城
(四代目江戸城ちゃん……)

立花山城
そう……ありがとう。
ごめんなさいね、深く訊ねてしまって。

四代目江戸城
ううん、そこは気になって当然だよね……あはは……。

???
――すみませーん!
多聞山城様、御在城でしょうかー?

殿
…………?

多聞山城
……!
まあ……この声は――

???
お待たせしております、『大江戸物流』の者です~!
お品物のお届けと、納入遅れのお詫びにあがりました~!

初夢つむぐは黄金の幻奏 -破-

予期せぬ江戸氏館の来訪に、思わず逃げ出して
しまった四代目江戸城。自身の臆病を悔やむ彼女の
頭に今、橙色のつぶてが直撃しようとしていた。

前半

江戸氏館
お待たせしておりま~す、大江戸物流の者で~す!
多聞山城様は、御在城でしょうか~?

多聞山城
まあ、江戸氏館さん……やはり貴方でしたのね!
まさか代表自らいらっしゃるとは!

江戸氏館
ああ、これはこれは多聞山城様!
いえね、お得意先の多聞山城様には弊社の立ち上げからお世話になっていますし、
今回の船荷の遅れは宴に関する一連のお取引自体を台無しにしかねないもので――

柳川城
江戸氏館さん……な、なんだかいつもと雰囲気が違いますね……!

立花山城
商人としての顔ってところかしらね。
……ところで、四代目江戸城は?

殿
…………?

江戸氏館
この度は多大なるご迷惑をおかけしまして――

多聞山城
――いえいえ、どれも今日届けば問題ないものばかりですもの、ええ!

多聞山城
(江戸氏館さんの来訪は想定外でしたがっ……。
 四代目江戸城ちゃん! ぴんちはちゃんす、ですわよ……!)

――――城内。

四代目江戸城
はあ、びっくりしたぁ……。
まさかここで、江城一家の城娘さんに会うなんて……。

四代目江戸城
……わたし、なんで逃げてるんだろう。
お正月に間に合わなくても、挨拶ができるせっかくのチャンスなのに!

信貴山城
あの~……。

四代目江戸城
ちゃんと自己紹介して、認知してもらって……あぁでもでも、
もし『そんな江戸城認めません!』って言われちゃったらどうしよぉ~!

信貴山城
あの~~、四代目江戸城さ~ん?

四代目江戸城
ふぇえ……そんなこと言われたらわたし、消えちゃいそう……。
このまま一生江戸に帰れないかも……?

信貴山城
……えい。

四代目江戸城
――あだっ……なに……み、蜜柑……?

信貴山城
ええ、蜜柑です。
蜜柑はどうやら『風が入って寒いから戸を閉めてから話してくれ』と、
言っているようですね。

四代目江戸城
信貴山城さん! ごめんなさい、わたし気づかなくって……。

信貴山城
三和土で足踏みなんてしてないで、こっちに上がって炬燵でも入りなさいな。
体を冷やすと、思考も悪い方へ悪い方へ流れていくもんですよ。

四代目江戸城
う、うん……それじゃあ、お邪魔しますっ!

――――

四代目江戸城
――はふう、あったか~い!

信貴山城
で――なんでしたっけ?
江戸城の誰それが来たとかなんとか。

四代目江戸城
ええっ、すごい!
もしかして、信貴山城さんって心を読めちゃったりするの!?

信貴山城
おや、バレてしまいましたか?
貴方がこちらに来て以来、全心くまなくマルっとあ~んなとこまでお見通しですよ?

四代目江戸城
えっ、ホントに……!

信貴山城
いえ、嘘ですが。

四代目江戸城
うわぁあ! また信貴山城さんに騙された~っ!

信貴山城
いや貴方、バリバリ独り言で喋っていたでしょうが。
冗談言った側が不安になるような釣られ方しないでください。

四代目江戸城
はう、スミマセン……!

信貴山城
まあ、それはともかくとして――
江戸城たちの件、そこまで気にすることでもないんじゃないですか?

信貴山城
何はなくとも、同じ江戸城だというのは嘘ではないんですから。
彼女たちが貴方を拒絶する理由は、見当たらないと思うんですけどねー。

四代目江戸城
で、でも……わたしは実体のない、人々の願いの中だけの存在だし……。
それが『江戸城』を名乗るだなんて、烏滸がましいと思われるんじゃないかなって……。

信貴山城
実体、ねえ……ところでこの蜜柑食べます?

四代目江戸城
え、はい……? ありがとうございます!

信貴山城
(まぁ、妹のモノなんですけど)

四代目江戸城
ぱく……わぁ、甘~い……!

信貴山城
あら、大当たり。
私が食べたのはハチャメチャに酸っぱかったんですがね。

信貴山城
貴方、蜜柑は好きですか?

四代目江戸城
うん、甘いのも酸っぱいのも大好き!
炬燵で食べる蜜柑は、特に冬らしくって良いよね~♪

信貴山城
それは良かった。
では『以前から蜜柑が好きだった』ってこと、証明してみてくれます?

四代目江戸城
え――

信貴山城
昔食べた蜜柑、美味しいと思った感情……何か実体として、証明できますかねぇ。

四代目江戸城
う~んっと……それは、無理、かも……。

信貴山城
でしょうねー。
……我々城娘の『実体』とやらも、その蜜柑と同じようなものじゃないですか?

四代目江戸城
ど、どういうこと?

信貴山城
蜜柑そのものの実体はきっかけに過ぎない……。
蜜柑を好きだという気持ちの方が、城娘の本質だってことですよ。

四代目江戸城
う~ん?
分かったような、分からないような……。

信貴山城
まぁ要するに、認知の部分では気負う必要なんてないってことです。

信貴山城
そもそも貴方が笙を習っているのは、江戸の名ではなく実力で認められたいからでは?
……だったら、そちらの心配をした方が良いかと。

四代目江戸城
実力……そっか、そうかも?

四代目江戸城
(あれ……でもわたし、『どう』認められたいんだっけ?)

信貴山城
そういえば、笙もあれから随分と上達したらしいじゃないですか。
丁度退屈していたところですし――相談料として、一曲頂いても?

四代目江戸城
うぅ……正直、全然自信はないんだけど……。
蜜柑のお礼に、奏でさせてもらうねっ!

信貴山城
(蜜柑のお礼か~)

合戦中

四代目江戸城
陣貝より優しく繊細に……それでいて大胆に……!

信貴山城
おぉう、至近距離だとガンッガン響きますねえ……。

四代目江戸城
――ど、どうだったかな……?

信貴山城
独特な曲調ながら、正月らしくて大変良かったですよ。
……だいぶ耳がキーンときていますが。

四代目江戸城
はう、ごめんなさい~!

後半

信貴山城
そうですねえ、実力は申し分ないですが……敢えて言うなら、
もう少し貴方らしさを出した方が良いかもしれませんよ。

四代目江戸城
ふえ、わたしらしさ?

信貴山城
今の貴方の演奏は、多聞山城の指導を良く汲んでいますが……。
それ故、『多聞山城の演奏』に聴こえるんですよねぇ。

四代目江戸城
そっか……確かに、ミスがないようにとかばっかり考えてて、
自分らしい演奏なんて意識してなかったかも……!

四代目江戸城
ありがとう、信貴山城さん!
ちょっと自信も出てきたし……なんか、次の一年でやるべきことが分かった気がするよ!

信貴山城
そりゃ良かっ……はい? 一年?

四代目江戸城
うん……江戸のお正月にはもう間に合わないし……。
『江城披露宴』にはまた今度の機会に挑戦しようかなって……。

信貴山城
ああ、それなら心配要らないと思いますよ?
お節介な我が妹は、わざわざそこを見越して――

(ドタドタバタッ、ドンガラガッシャーン!!)

四代目江戸城
わわっ、なになに~!?

信貴山城
おやおや、騒がしいこと。
宴が始まる前に、兜でも出てきましたかね?

四代目江戸城
兜――お師匠さまやお殿さまたちが危ない……!?
わたし、行かなきゃっ!

四代目江戸城
信貴山城さん、色々ありがとうございました~っ!
蜜柑、とっても美味しかったで~す!

信貴山城
はいはい、いってら~……と言い切る前に影もなし。

信貴山城
ふう……部外者としては、こんなとこでしょう。
私としたことが、炬燵の温もりにやられて少々ヌルく接し過ぎましたかね?

信貴山城
一応爆発する蜜柑も用意してたんですけど……。
ま、後はお師匠さまの管轄ってことで。

信貴山城
さて――そろそろ私も、仕事場に向かいますか。
よっこらしょ……うわっ……さっむ……やっぱりもう少し休んだ後で……。

初夢つむぐは黄金の幻奏 -急-

四代目江戸城が炬燵に入っている頃、一行は
正月遊びの歓待を受けていた。遠慮がちな立花山城
の様子に気づいた多聞山城は、ある一計を案じる。

前半

時を少し遡って、
江戸氏館と合流した一行はというと……。

江戸氏館
月みれば 千々にものこそ――

柳川城
はいっ!

江戸氏館
滝の音は 絶えて久しく――

多聞山城
そこっ!

立花山城
ふふっ、柳川城ったら。
初めての百人一首にしては、案外善戦してるじゃない。

殿
…………。

立花山城
わ、私は別に良いわよ……見てるだけで十分だもの。

殿
…………?

江戸氏館
勝負あり!
接戦を制したのは、多聞山城さーん!

やくも
もぐもが……う~ん、柳川城も惜しかっただにぃ!

千狐
やくもはほとんどお餅しか見てなかったでしょ……。

柳川城
うぅ、力及びませんでした……。

多聞山城
でも柳川城さん、良い反応でしたわよ。
実戦が初めてとは、とても思えないくらいでしたわ!

柳川城
あ、ありがとうございますっ。
よーし、次こそは!

江戸氏館
柳川城ちゃんも結構負けん気があるねえ……ちょっと江戸城に似てるかも?

立花山城
貴方はまた、あの登場のわりに随分と自然に溶け込んでるわね……。

江戸氏館
商売は商売! 公私を分けて、無礼講が求められれば喜んで!
常に臨機応変があたしの商いの道だからね♪

立花山城
はあ……その切り替えの器用さ、羨ましいわ。

江戸氏館
ふーん?
立花山城ちゃんも、年の瀬くらいぱーっと遊んじゃって良いんじゃない?

立花山城
わ、私は別に、遊びたいわけじゃないし……!

多聞山城
さてさて、次はどんな余興をいたしましょう……あら?
そういえば立花山城さんだけ、まだ何もなさっていないですわね?

立花山城
うっ……私は大丈夫だから、気にしないで。
ほら、もっと遊びたい子だっているでしょうし。

多聞山城
ええ、それは駄目です♪

立花山城
ありが――は?

多聞山城
私が手づからお招きした客人ですもの。
余興の時分から遠慮などされては、もてなしの美学に反しますわ♪

立花山城
だから、遠慮とかじゃなくて!

多聞山城
では……もしかして、勝負ごとに負けるのが怖いのですか?

立花山城
……なんですって?

多聞山城
ふふっ♪
柳川城さんの善戦を見て、経験者の自分がこっぴどく負けたら……。
なんて臆病風に吹かれている、とか?

立花山城
はぁ?
私が柳川城より弱いわけないでしょう!

柳川城
(しゅん……)

立花山城
あ、ごめん……そういう意味じゃなくて!
とにかく遊びで負けるのが怖いとか、ないから!

多聞山城
およよ……勝負から逃げた者の言葉の、なんと張り合いのないことでしょう!
これが、臆病者の遠吠え……!

立花山城
むかっ……言ったわね!
分かったわよ! こうなったら、百人一首でサクッと完膚なきまでに負かしてやるわ!

多聞山城
ふふっ、そうこなくては♪
それでこそ――私も本気を出せるというものですわっ!

(ズゴゴゴ……ッ!)

千狐
……っ!?
多聞山城さんから猛烈な霊力……いえ、百首力の高まりを感じますっ!

やくも
ひゃくしゅりょく!??

江戸氏館
ほほう、これ程の百首ぢからを隠し持っていたなんて!
さっすがあたしのお得意先様!

柳川城
ひゃくしゅ、ぢから……!

立花山城
へえ、中々やるじゃない……。
だったら――!

(ドドドド……ッ!)

多聞山城
立花山城さん、まさかここまでの腕前とはっ!

多聞山城
こうなっては、屋内では手狭が過ぎます……!
場所を移すほかありませんわねっ!

――宴会会場。

兜軍団
ア~、ネンマツ!
 バカミタイニ寒イ!
  オッ、コノ金ノ注連縄、霊力イッパイデ暖ヲ取レソウダゼ!

(ズドドドドドドッ!!)

兜軍団
ナ、ナンダァ!?
 空カラ……デッカイ金ピカノ札ァ!?

多聞山城
さあ、舞台は整いましたわ!

立花山城
屋外大演舞形式で私に挑んだこと――後悔させてあげる!

兜軍団
ゲエッ、城娘!?
 バカナッ、ドウシテ空キ巣ガバレタンダー!?

千狐
こ、これが伝説の……!

柳川城
おくがい、だいえんぶけいしき……!

殿
…………っ!

江戸氏館
この神域の一戦!
不束ながら……詠み手はあたし、江戸氏館が務めさせて頂きます!

桃形兜
アレ……モシカシテ、ボクタチ無視サレテル……?

合戦中

多聞山城
ふっ、この札は貰いましたわっ!

立花山城
それはどうかしら?
私の攻守一体の歌留多演舞――舐めないで!

桃形兜
ヒィイイ! コッチ来ナイデェエエ!!

桃形兜
コンナ百人一首、アッテタマルカョ……ガクッ。

江戸氏館
むむ、最後の札を取ったのは……!

後半

江戸氏館
――おおっ、立花山城さん!
立花山城さんの勝利ですっ!!

立花山城
ぜえ、はあ……だ、出し切ったわ……!

殿
…………♪

柳川城
すごいです、立花山城さん!
途中からはもう、目で追えない程の怒涛の展開でしたっ!

多聞山城
ええ、実にお見事でしたわ。
この多聞山城も、久々に熱くなってしまいました!

立花山城
私も……おかげで楽しかったわよ。
ありがと。

多聞山城
お礼なんて要りませんわ。
本気になって遊ぶことの楽しさを思い出して頂けたのなら、私は本望ですもの♪

立花山城
まんまと乗せられたってわけ……。
ふふ、試合に勝って勝負に負けるとはこのことね。

四代目江戸城
みんな~っ!!
はぁ、はぁ……すっごい音してたけど、大丈夫~っ!?

殿
…………!

四代目江戸城
……あ、あれれ?
お師匠さま、兜は……?

やくも
はえ、兜さんだに……?

千狐
そういえば、ちらほら兜の影を見たような、見なかったような……。

四代目江戸城
え~っ!
じゃあさっきの騒ぎは一体――

江戸氏館
おや、お初にお目にかかる子かな?

四代目江戸城
あっ……江戸氏館さん……。

多聞山城
四代目江戸城ちゃん、貴方……先程まで、姉様と一緒でしたわね?

四代目江戸城
えっ……どうしてわかるの?

多聞山城
だって、柑子の甘い香りがしますもの。
……あのひとと何か、お話してきたのではなくて?

四代目江戸城
……えっとね、
信貴山城さんは、『蜜柑を好きな気持ちが城娘』だって言ってくれて……。
正直、よく分からなかったんだけど……。

多聞山城
…………なるほど。
でしたら、私は同じことをこう言い換えましょうか。

多聞山城
貴方も同じ『蜜柑』から――
『江戸城』への人々の気持ちから、生まれた存在です……と。

四代目江戸城
…………!

江戸氏館
(あれ~? あたし何か不味いこと言っちゃったかなぁ)

四代目江戸城
――江戸氏館さんっ!

江戸氏館
はいはいっ、何でしょうかっ!

四代目江戸城
わたし……わたし、『四代目江戸城』っていいます!

江戸氏館
――なんと。

四代目江戸城
その……こう見えて、わたしも江戸城の名を冠する城娘で……。
実在はしなかったけど……同じ江戸城への想いから生まれたんです!

四代目江戸城
だから、えっと……!
こんなわたしで良ければ、江戸城として……宜しく、お願いしますっ……!

立花山城
あぁ、そういうこと。

江戸氏館
なぁんだ……『あたしがあなたを認めるか』をそんなに気にしてたの?
むしろ、家族が増えるだなんて大歓迎だよ!

四代目江戸城
ほ、本当に……? 江戸城の、家族として……?

江戸氏館
認めるもなにも、『そう』生まれた業を他人がとやかく言うものじゃないさ。
少なくともあたしは、歓迎するよ!

江戸氏館
それに多分だけど、うちの子たちも嫌だとは思わないんじゃないかな?

江戸氏館
(……この世界に存在し得ないという意味では、あの子たちも同じだしね)

四代目江戸城
はわ……よ、よかったぁあ……!

柳川城
相当気を張っていらしたんですね、四代目江戸城さん……。

四代目江戸城
江戸氏館さん、じゃあわたし……再来年の披露宴に出ても良いかな?
明日からの宴は、私が臆病だったせいで間に合わないから……。

江戸氏館
おっ、『江城披露宴』をご存じとは話が早いね。
あたしも四代目ちゃんの演目、楽しみにしとくよ!

多聞山城
あら、そのことでしたらお二人とも……再来年まで待つ必要はないかもしれませんわよ?

多聞山城
四代目江戸城ちゃんにその気さえあれば、
年越しの宴を満喫した後にでも……ね、殿?

殿
…………!

四代目江戸城
えっ、だって元旦はもう明日だよね……?
……へ、転移?

四代目江戸城
――……えっ、えええ~~!?
そんな簡単に江戸まで行けちゃうの~~っ!?

四代目江戸城の驚嘆が雪化粧の峰々にこだましてから、数刻後――

大晦日の年越しの宴を存分に楽しんだ一行は、
除夜の鐘が響く中、遠く江戸へと飛んだのであった……。

初夢つむぐは黄金の幻奏 -絶壱-

江戸城一家が新春に芸を披露する内々の宴――
江城披露宴。出演しようにも芸がないと悩む
四代目江戸城の前に、怪しい求人ビラが現れる。

前半

師走の始め――江戸八百八町、某所。

四代目江戸城
う~ん……どうしよう……。

四代目江戸城
江戸城さんたちが一堂に会する新年会、『江城披露宴』!
そこで活躍できれば、江戸城として認めてもらえるかもって思ったけど……。

四代目江戸城
そういえばわたし、披露できる技なんてなかったな~……!
ほら貝は……なんか芸って感じしないし……。

――付近の街角。

大江戸物流の運ちゃん
うっし!
親分、こんな感じで良いですかい?

江戸氏館
うんうん、上出来!
その調子でどんどん江戸中にこのチラシを貼って、配っていってほしいな!

大江戸物流の運ちゃん
おっす、任せとけってんだ!

江戸氏館
お得意先から依頼されたこのお仕事、最初は畑違いと思ったけど……。
……ふふ、これで広告求人の商いにも足がかりができれば、万々歳ね!

――――

大江戸物流の運ちゃん
求人でいっ!
仕事探しの瓦版でーい!

四代目江戸城
求人……アルバイトの募集かな?
すみません、一枚くださ~い!

大江戸物流の運ちゃん
あたぼうよ、べらぼうめい!

四代目江戸城
ありがと~!
……えっと、どれどれ……勤務地は、大和国……遠いな~。

チラシ
『未経験可! 宴会会場設営の人員、大募集!』

チラシ
『求める人材:城娘
 特に歓迎する人材:体が丈夫な方、炬燵から出て冬空の下で働ける方、
          爆発物に縁のない方、よく分からない企みをしない方』

四代目江戸城
身体が丈夫かは、ちょっと自信ないけど……他の条件は当てはまってるみたい……?

チラシ
『報酬:要相談、金銭支払いは日当金壱両から。
 その他茶道等の芸事指導も希望を受け付けておりますので、お気軽に申し付け下さい。
 一流の師が、貴方につきっきりで指導します!』

四代目江戸城
芸事指導っ! こ、これだーっ!

四代目江戸城
衣食住も完備の住み込みで、習い事ができる!
それにこの契約期間なら、披露宴にも間に合うよね!

四代目江戸城
決めた……わたし、ここで働く!
芸を修めて、お正月までに帰るんだから!

四代目江戸城
そうと決まれば、善は急げ!
いざ、東海道を全速前進~っ!

合戦中

四代目江戸城
荷造りよ~し!
仕立て屋さんから受け取った晴れ着は……着ていっちゃお!

四代目江戸城
ふぅ、や~っと着いたよ~!

多聞山城
あら、どなたかいらしたようですわね?

後半

多聞山城
ふふっ。
これはいよいよ、求人の効果があったのかもしれませんわ♪

信貴山城
うへえ……あの読みようによっては真っ黒な募集に引っかかる子とか、
大丈夫なんですかねえ?

信貴山城
実働時間とか、書いてなかったでしょ貴方。

多聞山城
そこはほら、実際の待遇に自信がありますから!
細かいことは良いのですわ。

信貴山城
そんなんだから、募集をかけて十日経っても閑古鳥が鳴いてるんですよ。

多聞山城
むぅ……元はと言えば、姉様が頼りにならないからではないですか。
宴を開くことを決めてから、梯子を外さないで下さいな!

信貴山城
何を言うか我が妹よ。
私は私で、師走は除夜の鐘をシバきまわす御勤めで忙しいんですからね?

多聞山城
大晦日だけじゃないですか、それ……。

信貴山城
いや、このクソ寒い中動き回るとかいつかの正月で十分なんで……。
なんかもう、城娘も熊を見習って冬眠すべきでは?

多聞山城
ああ、姉様と話していたら怠け癖がうつってしまいそうですわ!

信貴山城
既に巫女服を着込んでるぐらいには気合入ってる貴方に、
その心配は要らないと思いますよ。

(どたどたどたっ……ばたーむ!)

四代目江戸城
た、たのも~っ!
あの、ここで設営のアルバイトやってるって聞いてきたんですけど~っ!

多聞山城
まあ、噂をすれば!
ささ、どうぞこちらにいらして――歓迎いたしますわ♪

信貴山城
うわっ、気の早い正月装いの城娘が同時に二人も……もう終わりだ……。

四代目江戸城
はうっ! やっぱり今着るのは変だったかな……?

多聞山城
ああ、この人の言うことは真に受けないで良いですわ。
とってもよくお似合いの、素敵な晴れ着ですもの♪

四代目江戸城
そ、そうかなぁ……えへへ、ありがとう♪

信貴山城
えぇ……これに関しては流石のしぎーちゃんも物申したいんですけどー?

多聞山城
ところで、貴方お名前は?
一応志望動機も聞いておいて、よろしいかしら?

――――

四代目江戸城
……それでこちらのお仕事は、
報酬に芸のお稽古をつけて貰えるって書いてあったので志望しました……!

多聞山城
う~ん、採用!

信貴山城
軽っ……。

多聞山城
いえ、茶釜の如くどっしり胸に響いておりますとも。
このご時世に敢えて芸事を学びたいという意欲……私、感動しました!

四代目江戸城
わあ、やったぁ……!

多聞山城
それで、四代目江戸城ちゃんはどんなお稽古に興味がありますの?
茶道から雅楽……和歌も一通りはご指導できますわよ?

四代目江戸城
えっと、宴でみんなにお披露目できるものが良いな!

多聞山城
でしたら、楽器の独奏なんて良さそうですわね。
琵琶、三味線、御琴に龍笛……あとは……。

四代目江戸城
楽器かあ!
わたし、ほら貝をぷぁ~ってするのは得意だから、吹奏系が良いかも……?

多聞山城
なるほど。
でしたら――こちらからお選びになってくださいな。

四代目江戸城
う、うわあ、どれも金ぴかだ……!

多聞山城
純金ではなく箔あつらえですから、重さは心配しないでよろしくてよ♪

信貴山城
そういうことを言ってるわけじゃないと思います。

四代目江戸城
あっ……この子、面白い形してるね?
それに、全然キンキラしてない……?

多聞山城
まあ、随分ひなびた笙ですわね……私の蒐集物ではなさそうですが、
御城にもともとあったものかしら?

多聞山城
笙は吸っても吹いても同じ音を出せる、個性的な雅楽器ですのよ。

四代目江戸城
へえ、面白そう……!
じゃあわたし、この子にしますっ!

多聞山城
あら、良いのですか?
笙なら私のあつらえたとっておきの一品もありますが――

四代目江戸城
ううん、わたしこの子が良いな……。
なんだか寂しそうだから、使ってあげたいんだ。

多聞山城
ふふっ、分かりましたわ。
そうと決まれば、これからこの笙で朝な夕な!
設営の合間にお稽古といたしましょう♪

四代目江戸城
はい!
これからよろしくお願いします、お師匠さま♪

多聞山城
まあまあ、お師匠さまだなんて……!
そんなこと言われたらお姉さん、張り切っちゃいますっ!

信貴山城
あ~。
これは完全に、世話焼き気質に着火されましたねぇ……。

その後、熱心な指導と当人の飽くなき努力により、
四代目江戸城の笙はみるみる上達していった。

もっとも、
彼女が己の腕と心に真の自信を得るのは、まだ先の話である……。

初夢つむぐは黄金の幻奏 -離-

元旦の初詣――ついに江戸城たちと面会する四代目
江戸城。江戸氏館らの見立て通りことは進むも、
ある城娘だけは四代目と打ち解けられずにいた。

前半

元旦――除夜の鐘の未だ鳴りやまぬ江戸、某所。

元和江戸城
おおっ、さぶっ!
あぁ~この肌に刺さるような澄んだ空気、たまんないねえ。

寛永江戸城
もっとこっちに寄ってください、お母様。
ほら、こうやってくっつくと暖かいでしょう? えへへ♪

江戸城
ふたりとも、急ぎますよ。
全く……いつまで経っても炬燵から出てこないんですから。

千代田城
まあまあ、良いではないか江戸城。
多少遅れようが、初詣が逃げていくわけではあるまい?

江戸城
それは……。

元和江戸城
うぉ~確かにあったかい……けど、ちょっと歩きにくいかなぁ~。

寛永江戸城
ふふっ、もう離しませんよ♪
なんせ、私も猛烈に寒いのでっ!

江戸城
――そう、ですね。
今ばかりは気を緩めても、良いのかもしれません。

江戸城
『江城披露宴』の前夜、このひとときだけは――

――――

千狐
コンッ!
無事に明神様へ到着なのーっ!

殿
…………!

江戸氏館
いやあ、まさか江戸の正月に間に合うなんてね~。
ははっ、役得役得♪

柳川城
流石お江戸の初詣です、夜明け前からこんなに人出があるとは!

やくも
どっかに屋台も出てそうだに……くんくん……。
んぉ……かすかな、甘酒の香りが……!

千狐
そんな、犬じゃないんだから……。

立花山城
多聞山城は、こっちに来てよかったの?
まだ向こうの正月祝いがあるでしょうに。

多聞山城
姉様に書置きをしておきましたから、それなりに上手くやってくれるかと。
こうなるかも、とは事前に伝えてありましたしね。

多聞山城
それに、自分の愛弟子が旅立つのですもの♪
出来る限り側に居て、支えてあげませんと!

立花山城
それは、ちょっと過保護なんじゃない……?

柳川城
(というか、信貴山城さんに後を任せて本当に大丈夫なのでしょうか)

四代目江戸城
わたし……い、いよいよ他の江戸城さんたちに、
ご対面するんだよね……っ!

四代目江戸城
ご挨拶……そ、そそそそ粗相のないようにしなきゃあ……。

殿
…………?

四代目江戸城
――ひゃあっ!
あ、ごめんお殿さまか……。

四代目江戸城
わたし、ちょっと緊張しすぎちゃってるみたいだね……えへへ。

殿
…………!

四代目江戸城
うん、ありがとう……そうだよね、大丈夫だよね!
お殿さまもお師匠さまも、一緒に来てくれたもんね!

多聞山城
ええ。
私たちが後ろに居るのですもの、安心して前だけ向いていらっしゃい。

江戸氏館
おっいたいた~!
おーい、江戸城ちゃーん! 戻ったよ~!

殿
…………!

江戸城
あら、江戸氏館さま?
しばらくは大和国にいらっしゃるはずでは……。

千代田城
殿の姿も見えるな。
元旦に一家も揃って、新年早々縁起が良いことよ!

柳川城
江戸城のみなさん、明けましておめでとうございます!

多聞山城
日頃より江戸氏館さんのお世話になっております、多聞山城と申します。
江城家の皆さまには、謹んで新年をお祝い申し上げますわ♪

江戸城
皆さま、ようこそ江戸の正月へ……!
江城の頭目として、歓迎いたします。

江戸氏館
あ、そうそう。
実は、特大のお土産が御屋形様の他にもあってだね――

元和江戸城
と、言いますと?

四代目江戸城
――み、みなさん初めまして!
わたし、よよ四代目江戸城ですっ!

江戸城
まあ――

四代目江戸城
わたしは、実在しなかった『江戸城』だけど……。
みなさんと同じ江戸城への想いから生まれた城娘として、
お近づきに、なれたらなって……!

四代目江戸城
……うぅ、生意気だったらごめんなさいっ!

元和江戸城
へぇ~、驚いたねこりゃ……。

寛永江戸城
(四代目……)

江戸氏館
彼女の想いは聞いての通り。
さて、皆はどうかな? ……彼女を江戸城として、認められるかい?

千代田城
ふっ、どうもこうもなかろうが。

殿
…………!

江戸城
ええ……彼女自身が述べたように、
我らは江戸城に仮託された、人々の願いより生まれし『城娘』です。

江戸城
たとえ幻の四代目が願いの器であろうと……。
同じ江戸城を起源としていることには、変わりありませんもの。

元和江戸城
なんなら母さん以降のあたしらなんて、殿から見たら幻みたいな存在だしね~。
大して変わんないって!

四代目江戸城
ほ、ほんとに……受け入れて、もらえるの?

多聞山城
良かったですわね、四代目江戸城ちゃん……!

江戸城
江戸氏館さまも、お人が悪いですね。
私たちが彼女をどう思うかなど、分かっていらしたはずでは?

江戸氏館
まあね~。
でもやっぱりさ、直接聞いてみなきゃ分からないこともあるでしょ?

江戸氏館
……ねっ、寛永ちゃん!

寛永江戸城
あっ……はいっ! そっそそそ、そうですね……!

四代目江戸城
(寛永さん……やっぱり、わたしのこと……)

元和江戸城
やれやれ……打ち解けるまで時間がかかるのは、ウチのお家芸なのかもねぇ。

江戸城
ふふっ、貴方がそれを言いますか?

元和江戸城
うっ、ごもっともです……はい。

千代田城
さて、立ち話もなんだ。
我らの家族が増えた祝いも兼ねて、神前へご挨拶に参るのはどうかな?

柳川城
そうですね、無事に江戸城さんたちと合流できたことですし……。
我々も初詣へ参りましょう、殿!

――――

初詣をつつがなく終えた、帰り道――

江戸城
ところで、四代目江戸城さんは明神様に何をお願いしたのですか?
随分長く、手を合わせていたようですが……。

四代目江戸城
えっと……実はわたし、初詣の前に願いが叶っちゃったんだよね……。

千代田城
……それは、『江戸城として我らに受け入れられる』ということかな?

四代目江戸城
うん……!
でね、真っしろになっちゃって……あんまりお願いって気分じゃなくて……。

江戸城
…………。

四代目江戸城
でも……それならまず、
神様には『ありがとうございました』って、感謝しようと思ったんだ。

四代目江戸城
それで、わたしがもう幸せになっちゃった分は……。
みんなを――私を四代目江戸城として生んでくれた、
民のみんなを幸せにするのに、使って下さいって……。

四代目江戸城
そうやって、まとまらない考えでず~っとお祈りしてたら、
思ってたより長くなっちゃった……!

千代田城
ははは!
賽銭箱の前で金縛りにでもあったのかと、あれには少々驚いたな!

四代目江戸城
あわわっ、ごめんなさい! 心配お掛けしちゃったよね!

千代田城
いやなに――良い話を聞けて、安心したさ。

江戸城
ええ……四代目江戸城さんの人となりが、少し分かった気がします。

四代目江戸城
(あ、そっか。
 わたしたち、まだお互いのことほとんど知らないんだもんね……)

――――

やくも
ずずっ~……あぁ~!
あったかい甘酒が、からだの芯に染みるだにぃ~!

元和江戸城
でしょ~?
初詣はこのために来てると言っても過言じゃないよね~!

江戸氏館
これこれ、そんなこと言ってるとまーた江戸城ちゃんに怒られるぞぉ?

寛永江戸城
………………。

――元旦の夜明け、すなわち『江城披露宴』当日の早朝。

四代目江戸城
(うう……もう本番だと思うと、緊張して全然眠れなかったよ~……)

寛永江戸城
(はぁ……もう当日だと思うと、緊張して全く寝られなかったよぉ……)

四代目江戸城
……はっ!

寛永江戸城
あっ……!

四代目江戸城
お、おはようございます……寛永さん!

寛永江戸城
お、おはよう四代目ちゃん……!

四代目江戸城
…………。

寛永江戸城
…………っ。

寛永江戸城
(あ~もぉお~っ! なんで私、もっと気楽に話しかけられないのかなぁ~!)

寛永江戸城
(四代目ちゃんは前身の私に引け目を持ってるだろうしそれは私だって大火
 には思うところもあるけど別に四代目ちゃんが嫌だって訳じゃないんだから
 私から話しかけるべきなのにあぁでも嫌味な言い方になっちゃったらどうし)

四代目江戸城
あの、寛永さ――

寛永江戸城
(はうっ、言ってるそばから四代目ちゃんに切り出させてしまっ――)

(どたどたっ!ドンガラガッシャーン!)

狼藉の声
アケオメッ、アケオメーッ!
 ブレイコウッ、ブレイコーウッ!

四代目江戸城
え、この声って……!

寛永江戸城
……披露宴会場の方で、何やらよからぬ騒ぎがあるようですね。

寛永江戸城
私が確認しにいきます。
危ないかもしれませんから、四代目ちゃんはここで――

四代目江戸城
わたしも行くよ、寛永さん!

寛永江戸城
…………!

四代目江戸城
披露宴の演者として……ううん!
同じ江戸城の城娘として、わたしも会場を護りたいの!

寛永江戸城
……分かりました!
それでは、私の後ろに続いてください!

四代目江戸城
はいっ!

――披露宴会場。

酔いどれ兜
ウィ~ッ!
年ガ明ケタゾ! 目出テエゾ~!

酔いどれ兜たち
ダッハッハッハー!
 飲メヤ歌エ~! 前祝イジャ~!
  今年コソ城娘ドモニヒト泡吹カセタルンジャ、ヒック!

四代目江戸城
ああっ、このままじゃ披露宴が台無しになっちゃう……!

寛永江戸城
四代目ちゃん、支援をお願い……!
――紅白の吉兆により、悪しきを祓いますっ!

合戦中

酔いどれ兜たち
ナンダァ? ヤンノカァ? 無礼講ダゾコラァ~!

寛永江戸城
新年早々、見過ごせぬ狼藉……我ら江戸城が許しませんっ!

四代目江戸城
…………!

四代目江戸城
やったね、寛永さん!
これで披露宴の開催は、セーフだよね!

寛永江戸城
ふぅ……四代目ちゃんもありがとう。
貴方の演奏、すっごく力になったよ!

後半

寛永江戸城
四代目ちゃん……笙がとっても上手なんだね!

四代目江戸城
えへへ♪
江城披露宴の為に、お師匠さまといっぱい練習したんだ。

寛永江戸城
そっか……。
……さっきまでは、ごめんね。

四代目江戸城
へ、なんで……?

寛永江戸城
私、人見知りな上に緊張しいみたいで……。
四代目ちゃんの方がずっと緊張してて、気まずいはずなのに、
全然気を遣ってあげられなくて……。

四代目江戸城
ううん、そんなことないよ!
むしろ、わたしの方が……寛永さんは気にしてるだろうから、
自分から話しかけなきゃって思ってたのに……!

寛永江戸城
…………ふふっ。

四代目江戸城
ぷっ……あはは!

寛永江戸城
私たち、結構似た者同士なのかもね。

四代目江戸城
うん……そうかも!

寛永江戸城
……四代目ちゃん。
あの大火のこと、私は気にしてないなんて言ったら嘘になるけど――

寛永江戸城
でも、寛永の天守が失われた後に人々が貴方を望んだのなら、
私はそのことをとても嬉しく……誇りに思うよ。

寛永江戸城
だって……四代目ちゃんの存在は、
それまで江戸城が大切にされてきたことの、証だもんね。

四代目江戸城
わたしも、同じ……!
寛永さんたちを大事に想うみんなの願いから生まれたことが、
一番の誇りで……!

四代目江戸城
だから……寛永さんがわたしを含めて『江戸城』って言ってくれた時も、
と~っても嬉しかったんだよ!

寛永江戸城
ふふっ……四代目ちゃん、『寛永さん』はちょっとくすぐったいかも。
もっと気楽に呼んでほしいな!

四代目江戸城
え、じゃあ……寛永……寛永ちゃん!

寛永江戸城
はいはい、なんでしょうか四代目ちゃん?

四代目江戸城
えーっと、そうだ!
寛永ちゃんって……蜜柑は好き?

四代目江戸城
――……本当?
やったぁ~! じゃあ今度、おこたで一緒に食べようね!

初夢つむぐは黄金の幻奏 -結-

ついに始まった江城披露宴。恙なく演目は進んで
いき、四代目江戸城の出番も近い。祈るように笙を
取る彼女は、衆目の中で何を奏し得るだろうか。

前半

寛永江戸城と四代目江戸城が乱痴気騒ぎを治めてから、数刻後――
披露宴会場の周囲には、黒山の人だかりが出来あがっていた……。

江戸っ子たち
どやどや、がやがや!
 おい、江城のべっぴんさんたちが見世物をやるんだとよ!
  こいつぁ楽しみだぜ、てやんでい!

立花山城
身内で行う、新春一芸披露の場って聞いてたけど……。
この様子を見るに、随分と趣向が変わったみたいね。

やくも
屋台もえっぱい出とるし、うちはこういう賑やかなの好きだに!

多聞山城
ええ! いずれにせよ、派手なことは良いことですわ♪

千狐
派手というか、もはや宴とは別の催しになっているような気が……!

柳川城
あっ、江戸氏館さんたちが舞台に上がりましたよ。
いよいよですね!

殿
…………♪

江戸氏館
お集りいただいた皆様、大変お待たせいたしました!
新年に吉風を吹き込む、江城大披露宴――ここに開幕いたします!

江戸っ子たち
おおっ、待ってたぜぇー!
 いよっ、江城一家ぁ!!

実況の江戸氏館
実況を務めますはこのあたし、江戸氏館と――

解説の千代田城
解説の千代田城だ。
皆、我ら江城が誇る技芸を存分に堪能していくと良い!

――同じ頃、楽屋の幕内。

四代目江戸城
あぁぁ、緊張するぅう!
あんなに沢山のひとが見に来るなんて、聞いてないよぉ~!

寛永江戸城
こくこくこくこくっ……!(青ざめた顔で高速同意)

元和江戸城
……ふぅ~、あぶないあぶない!
ぎりぎり間に合ったぁ!

江戸城
全く、演目の一番手だというのに貴方ときたら……。
万が一と思って、部屋に出向いて正解でした。

元和江戸城
いやはや、自分でもあんなに熟睡できるとは思ってなくて――……およ。

寛永江戸城
でも、やるしかないよね……お互い頑張ろう、四代目ちゃん!

四代目江戸城
うん……!
寛永ちゃんも、ファイトだよっ!

元和江戸城
――ほうほう、そっちの方は心配無用って感じですかね。

江戸城
ふふ。
これで貴方も後顧の憂いなく、舞に注力できるのではありませんか?

元和江戸城
ええ、そりゃあもちろん♪

――――

実況の江戸氏館
それでは早速参りましょう!
一番槍はこの城娘! 元和江戸城の巫女神楽でございます!

元和江戸城
はいはい~っと。
そんじゃ、いっちょ舞ってみましょうかね~。

実況の江戸氏館
おぉっ、普段のゆるい振舞いとは一変……!
しずしずとした実に素晴らしい佇まいですね、解説の千代田城さん!

解説の千代田城
うむ、柔らかで無駄のない動きだ。
伊達に神前で舞い慣れてはおらぬ、ということだな!

実況の江戸氏館
優雅さも兼ね備えた、まさに新春に相応しい舞と言えましょう!

元和江戸城
それそれ~!
謹賀新年の、大盤振る舞いだよ~♪

江戸っ子たち
うぉおおお、こいつは目出てえや!
 たまや~っ! なりたやーっ!

――――次鋒、寛永江戸城。

寛永江戸城
…………っ!

実況の江戸氏館
さて、お次の寛永江戸城は……何やら緊張の面持ちですね!
大丈夫でしょうか?

解説の千代田城
彼女とて実力は十全のはず。
後は、慣れぬ衆目の前でどこまで発揮できるかだが……。

四代目江戸城
(頑張れ、寛永ちゃん……!)

寛永江戸城
(四代目ちゃん……任せて!
 しっかり演じて、貴方の番に繋げてみせるよ!)

寛永江戸城
寛永江戸城、不束者ながら……。
これより武芸百般の演、披露させていただきますっ!

寛永江戸城
せいっ……はぁああっ!

実況の江戸氏館
むっ、得意の鞭捌きから……あっ、これはすごい!

解説の千代田城
使い慣れた鞭を振るい、身体を温めてから他の演目に入るとは……。
なるほど、考えたものよ!

実況の江戸氏館
自身の弱点を十八番の技で補った、見事な魅せ方ですねぇ!

流鏑馬の的
(バタ、バタバタッ!)

江戸っ子たち
おおおおっ!
 オイオイ、ぜんぶ的のど真ん中だぜっ!
  あたぼうよ! 寛永江戸城さまはスゲえんだって!

寛永江戸城
――……ふぅ、ふう……やった、やりました!
お母様……四代目ちゃん!

四代目江戸城
寛永ちゃんすごい……あとは、わたしも……!

江戸城
(四代目江戸城さん……貴方の『江戸城』としての在り方、
 その一端を、見届けさせてもらいますね)

立花山城
いよいよ、四代目江戸城の出番みたいね。

多聞山城
(大丈夫ですよ、四代目江戸城ちゃん!
 今の貴方なら、自分自身の音色を奏でられるはずですわっ)

実況の江戸氏館
さあて、遂にやって参りました!
急遽飛び入り参加となった期待の新星――四代目江戸城の登場です!

解説の千代田城
まさに此度の披露宴の隠し玉。
彼女が如何なる城娘……否、江戸城であるか……私も楽しみだとも!

江戸っ子たち
どよどよっ……。
 あれが幻の四代目だってよ……!
  いってえ、どんな子なんだ……?

四代目江戸城
(お殿さまもお師匠さまも、寛永ちゃんも江戸城さんたちも、
 江戸のみんなも……わたしを見てるんだ……うぅ、やっぱり緊張する!)

四代目江戸城
四代目江戸城――笙を奏でさせていただきますっ!

実況の江戸氏館
なるほど、独奏とは!
これまでの演目にはなかった、斬新な趣向ですね!

四代目江戸城
……~♪ ――……♪

江戸っ子たち
おぉぉ……雅だ……!
 正月っぽくて、中々良いじゃねえか……!

解説の千代田城
あぁ、しかし――

江戸城
(未だ、彼女自身の奏に非ず……といったところでしょうか)

四代目江戸城
(間違えないように……って、そうじゃないのに……!
 信貴山城さんに披露したときと同じ、息と指遣いしか考えられない……!)

???
ヘッ……ヤッパアイツ、江戸城ラシクネエヨナァ?

四代目江戸城
…………っ!?

野次馬兜たち
結局アイツ、本物ノ江戸城ジャネエンダロ?
 ナンデ空想ノ産物風情ガ、イケシャアシャアト披露宴ニ出テンダヨ!

野次馬兜たち
紛イ物ハ、引ッ込ンデヤガレェ!
 ソウダァ、引ッ込メバッタモーン!
  出テ失セロ、バーロォー!

(ひゅるるる……ばしっ、ばし……)

四代目江戸城
い、痛い……。
え、これ……石……?

殿
…………っ!

立花山城
あいつら、こんな時に……!

江戸っ子たち
うわぁあ、兜だっ!
 兜が出たぞ、べらんめえ!

実況の江戸氏館
こ、これは……予期せぬ事態です!
四代目江戸城さん、演奏を一旦中止して――

解説の千代田城
いや……その必要はなさそうだぞ、実況の江戸氏館さん。

野次馬兜たち
偽物、偽物!
 存在シネエ嘘ッパチノ江戸城ナンテ、俺ラハ認メネエゾーッ!

四代目江戸城
(飛んでくる石つぶてよりも……声が、痛い……)

四代目江戸城
(あれ……でも、この声……聞き覚えがあるような――――)

???
偽物、偽物!
 存在シネエ嘘ッパチノ江戸城ナンテ、俺ラハ認メネエゾーッ!

???
わたしは偽物、わたしは、紛い物……。
 どうせみんな、心の底では江戸城だって認めてくれないんだからっ……!

四代目江戸城
そうだ……これはわたしの気持ち……!
不安で、寂しくて……でも誰にも打ち明けられずに、
明るいフリをしていた時の……。

???
……四代目江戸城ちゃん!
 四代目ちゃんっ……! 四代目江戸城さん……!

四代目江戸城
でも……今は違うよ!
わたしを支えてくれる声が、ちゃんと聴こえる……。

???
………四代目の天守は、成らねぇのかなぁ。
 あぁ、もう一度……立派な天守の姿を拝みたいものだ――

四代目江戸城
…………っ!

野次馬兜たち
――――ギャアァアアアッ!!

四代目江戸城
――……っ!

江戸城
……演奏中、失礼いたします。
素敵な笙の音色を、もっと聴きたくなってしまいまして。

四代目江戸城
江戸城さん……!

江戸城
露払いは私にお任せを――
貴方は思う存分……四代目江戸城の在り方を、八百八町へ響き渡らせて下さい!

四代目江戸城
うん……江戸中に届けてみせる。
江戸城へのみんなの想いを、現へ還す……わたしの、心からの幻奏を!

四代目江戸城
何より、この胸の一番奥から聴こえる声に……!
わたしを生んでくれた無数の想いに、応える為に――!

合戦中

野次馬兜たち
テヤンデェ、バーロー!
ソンナ紛イ物ヲ抱エ込ムナンテ、江戸城モ堕チタモンダナァッ!

江戸城
城娘の本質がなんたるかも弁えぬ、痴れ者ども……。
彼女の想いを宿したこの剣戟――その身でお受けなさい!

柳川城
四代目江戸城さんの独創的な音色に舞う、江戸城さんの白刃!
素晴らしい演目でした!

殿
…………♪

多聞山城
うっうっ……!
四代目江戸城ちゃん、すっかり立派になって……!

立花山城
それもう師匠というか、お母さんみたいじゃない?

後半

江戸っ子たち
うぉおおお――っ!!
 良いぞ、四代目――っ!!

江戸っ子たち
笙ってのは、あんなに軽快に鳴るモンなんだなぁ!
 江戸城の立ち回りと合わせて、最高にとーんときたぜぃ!

四代目江戸城
みんな……!
えへへ、良かった……届いたんだね、わたしの音色……!

実況の江戸氏館
いやぁ、一時はどうなることかと思いましたが……まさに大団円!
異例続きの演目となりましたが、どうでしょう解説の千代田城さん?

解説の千代田城
兜の出現に、大トリのはずの江戸城が途中参加――
本来であれば、仕切りなおすべき不測の事態だが……。

解説の千代田城
ふふふっ……この演目を見た後で、そんな物言いは野暮というものだろうな。

江戸城
四代目江戸城さん……貴方の在り方、しかと見せてもらいました。

四代目江戸城
江戸城さん……!
ありがとうございました……わたし、あのままだったらきっと――

江戸城
私は、城娘として為すべきことを為したまで。
それに貴方は……私が出ずとも、決して笙から手を離さなかったはずですよ。

四代目江戸城
…………!

江戸城
……存在を否定されても、決して折れずに笙を吹き続ける貴方は、
『願いを未来に繋ぎ、導く』江戸城として、その在り方を体現していました。

江戸城
たとえ御城が失われても変わらない……滅びの先にある城娘としての本質。
それをこの目で確かめられたことが、私は何より嬉しかったのです……。

四代目江戸城
えへへ、そんなすごいこと考えてないよ……わたしはただ、
わたしを象ってくれる、全部の願いに応えたかっただけだもん……!

江戸城
ふふっ、貴方は謙虚な子なのですね……。

四代目江戸城
江戸城さんは……優しいんだね!

江戸城
え……そ、そうですか?

四代目江戸城
うん、そう思う……。
わたし、まだ江戸城さんたちのこと深くは知らないし……。
みんなもわたしのこと、良く分からないと思うけど……。

四代目江戸城
でも、だからこそ……!
これから、お互いのことをもっと知っていけたら良いなって!

江戸城
ええ……これから末永く、知り合っていきましょうね。
同じ江城の、一員として……。

四代目江戸城
えへへ……♪

江戸城
……ふふっ、あらあら。
そろそろ私たちも、『みんな』の元に戻らないといけませんね。

江戸城
ほら……聴こえませんか?
貴方のことを待ちわびている、沢山の声が……。

四代目江戸城
――うん、聴こえるよ!

四代目江戸城
(いままでの、どんな時よりも……はっきりと!)

初夢つむぐは黄金の幻奏 -絶弐-

双六遊びに興じる江城の面々。各々の個性が爆発
する中、意外な二人の一騎討ちとなるが……?
遊びに本気な城娘たちの勝負の行方や、如何に。

前半

――元日も過ぎた、正月のとある昼下がり。

元和江戸城
せ~のっ、よいしょー。

双六の賽
(コロコロ……ピタッ!)

四代目江戸城
わあ、すごい!
元和さん、連続で六を出しちゃった!

元和江戸城
ふふ~ん♪
そいじゃ、お先に失礼~っと……一、二、三……六!

双六
『ビリの人から三両、巻き上げる』

寛永江戸城
ひえぇ……!
またお母様にカツアゲされましたぁ……!

元和江戸城
いやぁ~! 悪いね寛永ちゃ~ん?

江戸城
まさか、元和江戸城がここまで双六に強いとは……っ!

江戸氏館
ははっ!
あたしはまさか、ここまで江戸城ちゃんが弱いとは思わなかったな!

江戸城
むぐぐ……!

四代目江戸城
次は寛永ちゃんの番だね、頑張れ~♪

双六の賽
(コロ……コロ……ピタッ……)

寛永江戸城
うぅ、また壱だぁ……。
ええっと、次のマスは――

双六
『振出しに戻る』

寛永江戸城
はうぅ……タスケテ……!

四代目江戸城
(寛永ちゃん、幸が薄い……!)

少しばかり、時は流れて……。

江戸城
よもや……賽の目に愛されていると言っても過言ではない、
元和江戸城と張り合えるのが――

江戸氏館
あの千代田城とはねえ~!

千代田城
――そらっ!

双六の賽
(ドゥルルルルッ……ッピタァ!)

四代目江戸城
わわ、またまた狙い通り!

千代田城
ふ、私は天運なぞはなからアテにしておらぬからな!

千代田城
勝利は自力でもぎ取ってこそ!
賽の目ひとつ制する程度、この腕ひとつで十分よ。

江戸城
つまり……?

千代田城
うむ! この時の為、三日三晩寝ずに修練してきた!

寛永江戸城
さ、さすが千代田城様……。

元和江戸城
も~そんなに気張らなくても、遊びなんですから。
気楽にやりましょ……ってね!

双六の賽
(コロコロ……ピタッ!)

江戸氏館
うぅ~ん……これがイカサマではないとは、俄かには信じがたいね!

元和江戸城
むぅ、失礼な~。
ちゃあんと、みんなと同じ賽使ってるじゃないですか~!

江戸城
しかし、これで二人が並びましたね。
アガリまで、互いにあと六マス……。

四代目江戸城
元和さんと千代田城さん……天運と実力!
正反対タイプの一騎打ちだ~♪

寛永江戸城
私なんてまだ、振出しの半径六マスから抜け出せてないのに……うぅ。

江戸氏館
寛永ちゃんも、ある意味凄いよねぇ……。

千代田城
さて、そろそろこの局に決着を付けるとしようか、元和江戸城よ!

元和江戸城
望むところですよ~?
あたし、運がらみの遊びごとで負けたことないんで!

四代目江戸城
えっ。

江戸氏館
(商機……いや、これは賭場の香りだねぇ!)

合戦中

千代田城
残念ながら、次の手番は私……勝利は決まったも同然なのだがな!

元和江戸城
ふふ、あたしの天運、舐めてもらっては困りますよ~?

千代田城
バカな……私が、出目を誤るなど……!

元和江戸城
あれれ、おっかしいなぁ。
こんな調子悪いこと、今までなかったんだけど……。

後半

千代田城
次こそは――どうだっ!

双六の賽
(ドゥルルルルッ……ッピタァ!)

双六
『残念、六十マス戻る』

千代田城
なんだとぉ……!

元和江戸城
ではでは、あたしはこの隙に失礼してっと……!

双六の賽
(コロコロ……ピタッ!)

双六
『ビリの人と、マスを交換』

元和江戸城
ええ~、なんでよぉ~……。

四代目江戸城
(勝手に変身して、勝手に大破しだした!)

寛永江戸城
え、私……お母様と交換ですかっ!
ほんとにっ!?

元和江戸城
あぁ、寛永ちゃんの笑顔が眩しい……がくっ。

千代田城
ぬぉお、この私が江戸城より後退している……だと……!

江戸城
あら千代田さま、それどういう意味です?

江戸氏館
ふむふむ、なるほど。
千代田城程の実力を捻じ曲げるには相応の力がいる……。

江戸氏館
それを元和ちゃんの天運で賄った結果、千代田城は全力で阻害され、
元和ちゃんも自分の運が尽きた、ということかな。

四代目江戸城
そ、そうなの……?

江戸氏館
なーんてね、適当だよ適当!
勝負ごとは人智に依らぬ運否天賦、人間万事塞翁が馬……ってやつ?

江戸城
さあ、ここからですよ!
この江戸城、何としても追い上げてみせますともっ!

寛永江戸城
うぅ……賽を振るたびに、何故か差が縮まっていくんですけど……!

江戸氏館
混沌としてきたね~!
うんうん、これぞ双六遊びの醍醐味♪

江戸氏館
それにこの盤面なら、
あたしと四代目ちゃんにもまだ勝ちの目があるかもよ?

四代目江戸城
えっ、ほんと? ……よぉ~し!
じゃあ、わたしもイチ抜け目指して頑張るんだから!

一座の双六は白熱の様相を呈したまま、
楽しいひとときは、まだしばらく続くのであった……。



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