ストーリーテキスト/冷涼誘う夕闇の

ページ名:ストーリーテキスト/冷涼誘う夕闇の

目次

冷涼誘う夕闇の[]

冷涼誘う夕闇の -序-

暑さを鎮める肝試し大会……この招待を受けて
三木城の許に到着した殿一行の前に、
とある曰くを持った城娘が現れる……。

前半
千狐

到着しました!転移成功です!

柳川城
ここが三木城さんの御城ですか……。

千狐
肝試し大会を催すとの招待をいただいて伺いましたが……。
この飾り付け……かなり気合がはいってますね。

やくも
だに……随分手が込んでるがや……。

殿
…………。

柳川城
人魂のような灯りも見えますが……。
あれも飾り……なのですよね?

???
その中の一つは、本物の人魂かもしれんとよ……?

千狐
……っ!

千狐
あ、あなたは……。

平戸城
いらっしゃーい♪
城主様たちが到着するのを、首を長ーくして待っとったとよ♪

千狐
平戸城さん……あなたも、三木城さんに呼ばれて?

平戸城
そうそう♪ ただウチは城主様たちと違って、脅かす側やけどね。

平戸城
一応ウチも曰く付きの御城やからね……、
肝試しのお手伝いができると思ったんよ。

やくも
曰く付き……ってことは、怪談話だに?

平戸城
そうなんよ……これはウチの御城に伝わる話なんやけど……。

やくも
(……ごくり)

平戸城
ある時、ウチの城域に建ってる櫓の床板を剥がしたら、
そこに狸が住んどったんやって……。

平戸城
やけど、優しい城主様はそのまま床板を戻して、
狸の住処を残してあげたんよ。

平戸城
以来、その櫓は『狸櫓』って名で呼ばれるようになったばい……。

千狐
それだけ、ですか……?

やくも
怖い話じゃなかっただに……。

平戸城
そう……だから、実は脅かし役としては力不足で……。
やけん、皆の案内役を買って出たんよ♪

柳川城
そうだったのですね。
それで、その三木城さんはどこに……?

???
……てけ~……。

やくも
……ん?

殿
…………。

柳川城
はい。私の耳にも、確かに声が……。

???
置いてけ~……。

やくも
だにっ!?

やくも
今のは間違いないだに! ちゃんと聞こえたがや!

平戸城
あっちの方に人影が見えたような気がするけど……?

千狐
本当ですか? 怪しい気配は特に感じられませんが……?

柳川城
…………。

???
置いてけ……置いてけ~……。

柳川城
…………っ!

柳川城
千狐さん、後ろを!

千狐
っ!?

三木城
食べ物、置いてけ~~~っ!

千狐
きゃああぁぁっ!?

千狐
……って、あれ? 三木城さん?

三木城
そうだよ~。三木城だよぉ。
ぺっこぺこのお腹を満たしてほしくて、化けて出てきたんだよ~。

三木城
食べ物を渡さないと、祟っちゃうよ~! 呪っちゃうよぉ~!

千狐
…………。

柳川城
…………。

殿
…………。

三木城
…………。

三木城
…………。

三木城
あれ……なんか、思ってたのと反応が違うんだけど。
もうちょっと……『わー』とか『きゃー』みたいな……。

やくも
そんなことを言われても……ここは三木城の御城なんだから、
本人が現れたって、そんなに驚いたりしないだに。

三木城
ぐさっ……!

三木城
ま、待ってよやくもちゃん……ちゃんとあたしの格好を見て?

三木城
お化けだよ、お化け!
『三木の干殺し』については知ってるよね?

三木城
あたしにはね、その時の無念がべ~っとりとこびり付いてるの!
とっても恐ろしいんだよ~!

やくも
そうかもしれないけど……。
『腹へったー』とか言われたって普段の三木城とそんなに変わらんだに。

三木城
ぐさっ!

やくも
むしろ……腹ぺこが頂点に達して、
見境なくなってる三木城の方がよっぽど怖いだに。

三木城
ぐさぁ~っ!?

千狐
や、やくもが正論で畳み掛けてる……!

柳川城
ですが、あまりに容赦がなさ過ぎます……。

三木城
うぅ……大丈夫だよ、柳川城ちゃん……。

三木城
確かに、やくもちゃんの言う通り……。
殿を驚かせるためには、まだまだ精進が必要なんだ……。

三木城
だから、やくもちゃんに感謝しなきゃ。

三木城
貴重なご意見、ありがとうございます……う、うぅ~……。

千狐
(涙を流しながらお礼を言ってます……)

平戸城
元気だして、三木城ちゃん。

三木城
平戸城ちゃん……。

平戸城
きっと、城主様を驚かせる機会はまた巡ってくるはずたい!

三木城
うぅ……そうかなぁ~。

平戸城
そうだよ~!
三木城ちゃんが一生懸命準備してたとこ、ウチはちゃーんと見てたけん♪

三木城
うん……そうだね。ありがと~……。

平戸城
それに、ウチらにはまだ奥の手が残っとるやろ?
あれがさく裂すれば、きっと……。

三木城
あぁっ、それは言っちゃダメって約束でしょ~!?

平戸城
あれ? そうだったっけ?

三木城
と、とにかく……絶対に怖がらせてみせるんだから。

三木城
……やくもちゃんも、他の皆も、覚悟しててよね~!

殿
…………!

やくも
よぉーし、受けて立ってやるだに!

やくも
そう言われたらこっちも、意地でも怖がるわけにはいかないだに!

やくも
(奥の手があると分かったわけやし、
 ずっと身構えていれば、平気なはずだに……!)


…………。

やくも
……ん? あそこに見えるのは……?

やくも
おー、これはよくできてるがや。
兜さんの模型だに。しかも幽霊の格好を……。

三木城
え……?

やくも
ハリボテかと思ったけど、こうして触ってみると……、
しっかり作られてるのが分かるがや。(ぺちぺち)

やくも
油断してる時に突然現れたら、声くらいは出てたかもしれないだに。

三木城
やくもちゃん、それ……。

千狐
…………やくも。

やくも
ん、どうしたんだに? そんな怖い顔して……。

千狐
やくも、すぐにそこから離れて……。

千狐
その兜、多分……本物、だと思うんだけど……。

やくも
…………。

三木城
そうだよそうだよ~!
あたし、作り物の兜なんて用意した覚えないもん!

やくも
……ほぇ?


――ザザッ!

兜軍団
ザザッ! ザザザッ!!

やくも
えええぇぇぇっ!?

三木城
とにかく、追っ払わなきゃ! 殿、下知をお願いっ!

後半
三木城

喰らえぇぇぇぇ!


ギャアアアアァァァァァ!!

柳川城
……ふぅ。
この辺りに潜んでいた兜はこれで全て……ですか。

平戸城
突然兜が現れるなんて、びっくりしちゃったばい……。

やくも
だにぃ……身構えていたつもりだったのに、
思いっきり声をあげてしまったがや……。

やくも
まさか、こんな奥の手を用意してたなんて……やられただに。

三木城
だから、あたしたちも知らなかったんだってば~。

三木城
けど……急に兜が現れるなんて。
何か目的でもあったのかなぁ。

平戸城
それに、なんか幽霊の格好しとったけど、
兜にも幽霊って居るんかな……?

千狐
いえ、私たちが知る姿は、器に過ぎませんから、
あのまま幽霊になるとは考えづらいですが……。

三木城
……となると、答えは一つしかないね。

三木城
兜たちも、肝試しに参加したかったんだ!

殿
…………。

柳川城
……どんな目的があったにせよ、
危険であることには変わりませんね。

千狐
そうですね……。
しばらくは、周辺の警戒を怠らないようにしましょう。殿。

殿
…………!

冷涼誘う夕闇の -破-

肝試しの仕掛けを真っ向から受け止める、
と豪語するやくも。そんな時、何処からか
すすり泣く女の声が聞こえてくる……。

前半
やくも

流石に兜さんにはびっくりさせられたけど……もう大丈夫だに!

やくも
今度こそ、うちの肝の太さを見せつけてやるがや!
お化けでもなんでも、じゃんじゃか来るがいいだに!

???
ぐす……ぐす……。

やくも
ん……?

やくも
またどこかから声が聞こえるだに……?

???
ぐす……うぅ、ぐす……。

千狐
泣き声のようにも聞こえますが……?

やくも
……お?

やくも
あそこ……女の子がうずくまってるがや……?

やくも
声を掛けてみるだに!

千狐
待ってやくも……。
ちょっと嫌な予感がするんだけど……。

やくも
お嬢ちゃんお嬢ちゃん、どうしたんだに?
迷子になってしまったがや?

???
うぅ……お腹が痛いの……。

やくも
お腹……? 悪いもんでも食っただに?

???
お腹が痛くて、痛くて……。
まるで、小さな虫が這い回ってるみたい……。

やくも
そりゃ大変だに……薬でも持ってきた方がいいがや?

???
薬もいいのだけど、
貴方の、……をいただけたら、嬉しいのだけど……。

やくも
……ん? よく聞こえなかったがや。
もう一度言ってもらえるだに?

???
だからぁ……。

足利氏館
貴方の内臓を寄越しなさいって言ってるのよぉぉぉぉ……。

やくも
どああああーーーーーー!!?

足利氏館
あぁ、待ってぇ……。
わたくしのことを助けてくれるんじゃないの……?

やくも
出た、出ただにぃいいいいいい!

やくも
ここ、これは本物だに!

やくも
はよぉ逃げんと、内臓を根こそぎ持ってかれてしまうがやぁぁぁぁぁあ!

平戸城
やくもさん……。
走って逃げていっちゃったばい……。

千狐
さっそく脅かされてるじゃないの……。

足利氏館
ふふ……大成功ですね、三木城ちゃん♪

三木城
ばっちりだよ足利氏館ちゃん! 事前に練習してた通り~!

足利氏館
人様を怖がらせるというのは初めての経験ですが、
実際にやってみるとなかなか楽しいものですね♪

三木城
うんうん! 演技も迫力があって文句なしだったよ♪

平戸城
それに、その格好もかなり気合が入ってるもんねぇ。
やくもちゃんが逃げ出しちゃったのも、無理んなかことね。

柳川城
私も驚きました……。
三木城さんと平戸城さんしか居ないものかと、てっきり……。

千狐
先程、言っていた『奥の手』とは、このことだったのですね……。

三木城
うん! 平戸城ちゃん以外にも、
怪談話に縁のある城娘に声を掛けてみたんだよ~!

千狐
ということは……他にも城娘がどこかに……?

三木城
……それはどうかな、ふふ……。

三木城
今回はやくもちゃんだけしか脅かせなかったけど、
この調子で、他のみんなも驚かせちゃうんだからね~♪

足利氏館
ふふ、がんばりましょうね♪

殿
…………。

足利氏館
とと……そうです、お殿様とお会いするのは初めてでしたね。

足利氏館
はじめまして。わたくしは足利氏館。
鎌倉時代に建てられた、足利氏の居館です。

足利氏館
あなたのことは、以前から話に聞いてたけど……ふふ、とっても可愛い男の子ね♪

柳川城
(か、可愛い……!?)

足利氏館
これから色々とお世話してあげるから……いっぱい甘えてね、坊や♪

足利氏館
お母さん、って呼んでくれてもいいのよ?

柳川城
(坊や……? お母さん……!?)

殿
…………。

殿
…………!

柳川城
(この母性、包容力……なぜでしょう、胸騒ぎがします……!)

柳川城
(私もこんな魅力を身に着けられれば、あるいは……!)

柳川城
(だけど、殿のことを『坊や』だなんて……!
 そんな恐れ多いこと……!)

三木城
ところで、やくもちゃんはどこまで逃げちゃったのかな……?

柳川城
少し心配ですね。
先程、兜が現れたということもありますし……。

千狐
確かにそうですね。
このまま戻らないようなら、探しに出た方がいいかも……。

三木城
…………あっ!

三木城
見て、千狐ちゃん!
やくもちゃんが戻ってきたみたいだよ~!

三木城
ほら、こっちに向かって走ってきてる!

やくも
おぉ~~~~~い!

千狐
まったくもう、心配させて。
後でいっぱい叱りつけてあげるんだから……。

平戸城
だけど、やくもちゃん……。
なんだか急いでいるように見えるのは気のせいかな……?

足利氏館
というより……何かから逃げているように見えるわね……。

やくも
た、たたっ、大変だにぃぃぃぃ!

殿
…………?

千狐
どうしたのやくも、喧しいわね……。

やくも
兜さんだに!
すんごい数の兜さんが、押し寄せてきてるがやー!

兜軍団
城娘……討伐セヨ……。
   城娘……討伐セヨ……。
      城娘……討伐セヨ……。

柳川城
兜……!
やはり、まだ残党がいたのですね……!

三木城
また幽霊の格好してるよ~!?

やくも
ば、化け物みたいな黒髪女の手から逃れようと、
夢中で走ってたんやけど……。

足利氏館
(ば、化け物みたいな黒髪女……)

やくも
化け物が追っかけて来てないか、後ろに注意を払ってたら、
思いっきりぶつかってしまって……。

千狐
要するに、前方不注意が原因で、
兜の軍勢を刺激してしまった、と……。

やくも
おでこが……おでこが……、
腫れ上がってたんこぶになっちゃったがや……!

千狐
今は後ろに下がってなさい。
たんこぶは後で千狐が手当てしてあげるから……!

千狐
というわけで皆さん、
申し訳ありませんが、兜の討伐をお願いいたします……。

平戸城
謝ることなんてなか! どっちみち倒すつもりやったけん!

殿
…………!

平戸城
三木城ちゃんの肝試しを邪魔するやつは!
ウチがみーんな蹴散らしてやるばい!

後半
平戸城

これで片付いたとじゃろうか……?

やくも
しっかし、驚いただに……。

千狐
そうね。これだけの幽霊……、
いえ、兜が三木城さんの御城に潜んでいるなんて……。

やくも
いや、もちろん兜さんも驚いたけど……、
さっきの黒髪の化け物は、城娘やったんやね……。

千狐
何をいまさら……。

千狐
もう少し落ち着きなさい、やくも……。
『じゃんじゃか来るがいいだに!』とか言いながら、
結局あなたが一番どたばた騒いでるじゃないの……。

やくも
だにぃ……次こそは平常心で乗り切ってみせるがや……!

柳川城
それにしても、三木城さんの御城に到着してから、
短い期間で二度も兜に遭遇するとは……。

殿
…………。

柳川城
はい……これは、
兜たちに何らかの狙いがあると見たほうが良さそうですね……。

殿
…………!

冷涼誘う夕闇の -急-

肝試しの仮装に身を包み、役目を果たす時を
待ち構える川越城。だがその時、彼女の瞳が
夕闇に紛れて暗躍する兜たちの姿を捉える。

前半
川越城

…………。

川越城
うー……ムシムシする~……。

川越城
おかしいわね……ここに隠れていれば、
殿が通りかかるはずなんだけど……。

川越城
三木城ちゃんの方で何かあったのかしら?
それとも、私が何か勘違いしちゃってるとか――

???
ヤハリ勘違イダッタデハナイカ!

川越城
そうそう勘違いを……って、
あら? 今の声は……?

桃形兜
スミマセン!
我々ノ調査ニ誤リガアッタラシク……!

突撃式トッパイ形兜
瘴気ノ兆シ感ジタ、ト報告ヲ受ケタカラ、コウシテ集ッタノダゾ!
妖怪共ノチカラマデ借リテ!

川越城
(兜だ……しかも、かなりの数……)

川越城
(……というか、なんなのあの格好は?)

川越城
(なんだか動揺しているようね……。
 もう少し、様子を見てみましょうか)

突撃式トッパイ形兜
実際ニ赴イテミレバ、
正体ハ催事ノ飾リツケダッタトハ……。

桃形兜
スミマセン……アマリニ良ク出来テイタモノデ……。

突撃式トッパイ形兜
……シテ、妖怪共ハ?

桃形兜
城娘タチニヤラレ、退散シテイキマシタ。
『兜共ニ騙サレタド』ト、文句ヲ漏ラシナガラ……。

突撃式トッパイ形兜
ウム……結果的ニ、
嘘ノ情報デ奴ラヲ釣ッタコトニナッテシマッタシナ……。

突撃式トッパイ形兜
シカシ……目下ノ問題ハ、我々ノ現況ダ。

突撃式トッパイ形兜
敗走ヲ繰リ返シ、徐々ニ追イ詰メラレテイッテイル……。

川越城
(なるほど……そういうことだったのね)

川越城
(確かに、三木城ちゃんが用意した飾り付けは見事なものだったけど、
 まさか、兜たちをおびき寄せてしまうとはね……)

突撃式トッパイ形兜
イヤ、シカシ……考エヨウニヨッテハ、好機ト言エルカモシレン。

突撃式トッパイ形兜
辺リハ暗ク、見通シモ悪イ……ソシテ何ヨリ、殿ノ首ガ目前ニ在ル。
我々ノ目的ヲ果タスタメノ条件ハ揃ッテイル。

桃形兜
……トイウト?

突撃式トッパイ形兜
コノ機ニ乗ジテ、殿ノ首ヲ狙ウノダ……!

川越城
…………っ!?

突撃式トッパイ形兜
殿ノ首ダケヲ目指シ、
奴ラノ本陣ヲ攻メ立テル……。

桃形兜
エェッ! コノ格好デ、デスカ?

突撃式トッパイ形兜
決マッテイル! ソモソモ、城娘タチヲ恐怖サセル目的デ用意シタ装イダロウ!
コレカラノ戦イデモ、存分ニ活カスノダ!

桃形兜
城娘タチ、アンマリ怖ガッテナイヨウニ見エルンダケドナァ……。

突撃式トッパイ形兜
サァ、ソウト決マレバサッサト準備ヲ始メロ!
コノ城ニ潜ム兜タチヲ集メ、全軍ヲ以テ畳ミ掛ケルノダ!

桃形兜
御意ッ!!

川越城
…………。

川越城
まずいわね、これは……。

川越城
殿を脅かしてる場合じゃないわ。
すぐにこの危機を知らせないと……。

川越城
でも……そうすると、
足利氏館の力を借りることになっちゃうのよね……癪だわ……。

川越城
足利氏の御城と馬が合わないのは仕方ないことだけど……、
あの子と話してると、なんか調子が狂っちゃうのよね。

川越城
『お母さん、戦国時代の対立には詳しくないのよねぇ』とか言っちゃって。
とぼけてるのか、本当に知らないのか……。

川越城
…………。

川越城
まぁいいわ……今は同じ城娘、
殿を助けることを何よりも優先しなくちゃ……。

――――

その頃、殿一行は――

殿
…………。

柳川城
仰る通りです。
あれだけの兜が相手となれば……討伐のために動き始めた方がよろしいかと……。

平戸城
肝試しどころじゃなくなってしもうたばい……。

三木城
まだあたしたちの奥の手は残ってるのに~……。

川越城
みんなー!

千狐
……あら?

柳川城
あちらからやってくるのは……川越城さん?

三木城
あれ、どうしてっ!?

やくも
川越城も来てたんやね!
その格好を見るに……脅かす側で呼ばれたんだに?

川越城
えぇ、奥の茂みに隠れて殿を脅かそうと待機してたんだけど……。

三木城
ちょっと~、川越城ちゃん!

三木城
どうして出てきちゃったの?
川越城ちゃんは、殿を脅かす切り札として残しておいたのに~!

川越城
ごめんごめん……だけど、それどころじゃなくなっちゃったのよ!

川越城
兜の軍勢がこっちに近づいてるの!
もうすぐここに攻め込んでくるわよ!

三木城
え……?

川越城
お化けの格好をして、
私たちの恐怖を煽ろうっていう魂胆みたいだけど……。

足利氏館
あぁ、だからあんな格好をしていたのね……。

やくも
ふっ……そんなことで殿さんを倒そうとは、考えが甘すぎるだに。

千狐
さっきから叫んで逃げてを繰り返してるやくもが、それを言うのね……。


――ザザッ!

兜軍団
ザザッ! ザザザッ!!

兜軍団
恨メシヤー……恨メシヤー……。
   恨メシヤー……恨メシヤー……。

川越城
きたきた!
ほら皆、私の後に続いて!

川越城
本当に怖いのはどっちなのか、その身に思い知らせてあげるんだから!

後半
川越城

やったわね!
三木城ちゃんの御城に居た兜は、これで全部かしら?

千狐
はい。周辺一帯に漂っていた、
兜の気配は消え去りました……。

柳川城
ですが、なぜこれだけの兜が三木城さんのところに……?

川越城
あぁ、それも兜たちの話を盗み聞きしたんだけど――

――――

川越城
――っていうわけだったのよ。

千狐
肝試しの飾り付けを、
瘴気の兆しと勘違いして集まってくるなんて……。

柳川城
確かに、精巧に作られていて、
かなり真に迫っていましたからね……。

三木城
あたしのせいだったんだ……ごめんね、みんな~……。

平戸城
三木城ちゃんが謝ることはなかとよ。
飾り付けが上手にできてた証拠ばい♪

足利氏館
えぇ、平戸城ちゃんの言う通りよ♪

足利氏館
実を言うとね、わたくしの御城も肝試しに備えて準備をしてたのだけど、
参考になるところが沢山あって――

足利氏館
…………あら?

足利氏館
もしかして……わたくしの御城も危ないかしら?

三木城
足利氏館ちゃんの御城?

千狐
足利氏館さんも、三木城さんのように肝試し大会を開こうと?

足利氏館
いいえ、そういうわけではないのだけど……。

足利氏館
ただ、わたくしも怪談話に縁ある城娘ですから……この時期は、
有事に備え、いつでも肝試しを催せるように用意しておくべきかと思いまして。

やくも
(どんな有事だに……)

千狐
ですがそうなると、その懸念の通り……、
足利氏館さんの御城は、危険な状態にあると言って良いかもしれません。

柳川城
えぇ……ここの兜たちが、飾り付けを見誤ったように、
同じようなことが、また足利氏館さんのところでも起きることは、十分考えられるかと……。

三木城
大変だ……留守の間に兜が攻めてきたら、大変なことになっちゃうよ~!

三木城
あたしの都合で招待したのに……そのせいで、
足利氏館ちゃんの御城が傷つけられたりするなんて、絶対だめだよ!

三木城
ねぇ殿! あたしと一緒に足利氏館のところに行こ!
助けにいかなきゃだよ~!

殿
…………。

殿
…………!

千狐
承知しました、殿……。

千狐
……それでは準備が整い次第、
足利氏館さんの御城に向けて出立いたしましょう!

三木城
ありがとう、殿~!

足利氏館
お礼を言うのはわたくしの方です……。

足利氏館
ありがとう……皆さん。
お母さん想いの子供たちに囲まれて……わたくしは本当に幸せ者ね……。

川越城
別に私は、
貴方のことを想ってるわけじゃないけど……。

足利氏館
……川越城ちゃん。

足利氏館
……貴方の力も借りられたら、
とっても嬉しいのだけど……一緒に来てもらえないかしら?

川越城
…………。

川越城
どうして貴方はそうやって……まっすぐに私のことを信じられるわけ……?
意地張ってる私が馬鹿みたいじゃない……。

足利氏館
……え?

川越城
……わかったわ。力になってあげる。

川越城
確かに私は、足利氏の勢力に対抗して築城された御城だけど……。
ずっと足利氏と対立してたってわけじゃないし……。

川越城
それに……私、
……貴方のこと嫌いになれそうにないから……。

川越城
お人好しすぎるのよ、貴方……。

足利氏館
……あら、あらあら。

足利氏館
どうしましょう、川越城ちゃんから告白されてしまいました♪

川越城
なっ……違うわよ! からかわないで!

足利氏館
ふふ、やっぱり思った通り♪ 川越城ちゃんは、素直で優しい子ね♪

川越城
違う! 貴方が困ってるっていうから仕方なくよ!

こうして一行は、足利氏館の御城へと向かうことになったのだった――。

冷涼誘う夕闇の -絶壱-

殿一行が三木城に到着する数日前のこと。
来たる肝試し大会の開催に向けて三木城は、
平戸城と共に、飾り付けの準備を進めていた……。

前半
殿一行が三木城に到着する、数日前――。

三木城
これで準備は良し、と……。

平戸城
すごいよ、三木城ちゃん! 飾り付けはこれでバッチリやね♪

平戸城
これなら殿たちも、怖がってくれるはずばい!

三木城
平戸城ちゃんが手伝ってくれたお陰だよ!
ほんとはもっと簡素な飾りになる予定だったのに……ありがとね、ほんとに♪

三木城
飾り付けはこれで終わったから……後は、打ち合わせだね~。

三木城
殿が来るまでの間に、
どうやって怖がらせるか作戦を練っておかなきゃ……。

平戸城
うんうん! 作戦は大事やね♪
ウチの『狸櫓』の話がいつ火を吹くか……それを考えんと……。

三木城
ちょ、ちょっと待って平戸城ちゃん……。

三木城
それって、あの……、
城主様が狸のお願いを聞いてあげたっていう、ほっこり零れ話だよね……?

平戸城
ほっこり零れ話……。

平戸城
ま、まぁ……捉え方によっては、
そう聞こえなくもないかも、しれんけど……。

三木城
…………。

三木城
足利氏館ちゃんも、川越城ちゃんも、
なかなか怖い怪談話に縁があるみたいなんだけど……。

三木城
もしかして平戸城ちゃんは……狸櫓、一本で?

平戸城
…………。

平戸城
……バレた?

三木城
バレるもなにも! うちの御城に来てからその話しかしてないじゃん!

三木城
狸櫓だけで、どうやって殿を怖がらせるつもりなの~!

平戸城
だって……だって、三木城ちゃんが楽しそうやったけん……!

平戸城
肝試し大会するのを知りながら、
ぼーっと見てるだけなんて、悲しかばい……。

平戸城
だけど、ウチには狸櫓しか! 狸櫓しかなかとです~!

平戸城
ですから何卒! 何卒、狸櫓で堪忍してつかあさいぃ~!!

三木城
そんな……地面に擦りつける勢いで頭を下げなくても……。

三木城
ん~、でもそうだなぁ……。

三木城
怪談話がないなら……なにか、殿たちを怖がらせられるような力は持ってない?
なんでもいいんだけど……。

平戸城
力、力……殿を怖がらせられるような……。

平戸城
…………!

平戸城
そうだ、狸! ウチのとっておき! 狸ちゃんがおったばい~!

三木城
だから、狸櫓の話は聞いたってば……。

平戸城
違う違う、狸櫓じゃなくて、狸ちゃん!
ほら、ウチの周りでぴょこぴょこしとーやろ?

三木城
あぁ、狸ね……確かにいるけど……。

平戸城
ふふふ……よう見とってな、三木城ちゃん……。

平戸城
それじゃみんな、へんし~ん♪

ぼわん!

三木城
ごほ、ごほごほっ!? なに、この煙は……?

平戸城
見てご覧、三木城ちゃん。
ウチの狸ちゃんたちの姿を……。

三木城
狸の姿……ん?


たぬ!

三木城
おぉっ、あたしだっ!?
あたしが居る! しかもいっぱい!

三木城
変身なんて面白い力を持ってるね~!
すごいよ、この子たち!

平戸城
えへへ、そーやろ♪

三木城
というか、あたしの数……。
狸の時より増えてる気がするんだけど、気のせい……?

平戸城
気のせい気のせい♪


たぬ♪

三木城
(というか『たぬ』って鳴くんだ……この子たち……)

三木城
…………。

三木城
んんー、でも……変身ってだけだと、決め手に欠けるような……。

三木城
せめてあたしじゃなくて、
もっと怖い……妖怪とかに変身できれば……。

平戸城
妖怪かぁ……口で説明してこの子たちに分かってもらうのは、難しそうやね……。

平戸城
実物が目の前におらんことには、なんともなぁ……。

三木城
そっかぁ~……。


たぬ! たぬたぬ! たぬ!

三木城
え、どうしたの? みんな?


たぬたぬ! たぬ~!

平戸城
こら! そげなこと言うたらあかんよ~!
三木城ちゃんだって頑張っとーっちゃけん!

三木城
どうしたの……? 狸たち、なんだって?

平戸城
え、え~と……。

平戸城
怒らんで聞いてくれる?
そのまま伝えるには少し、トゲがあるというか……。

三木城
トゲ……? あぁ、心配要らないよ~!

三木城
肝試しを成功させるためには、率直な意見を言い合わないと!
怒ってる余裕なんかあたしたちにはないもん!

平戸城
うん……わかった。
それじゃ伝えるね……狸ちゃんが何を言うとったかっていうと――


何を言ってやがる?
お前がちんちくりんで怖さの欠片も無いのが悪いんだろ?


俺たちにどうこう言う前に、まずは自分の姿を見直さんかい!

平戸城
――とのことで……。

三木城
(プッチーン)

三木城
んだとコラ狸!?
ちんちくりんだとか、怖さの欠片も無いとか!

三木城
あたしより肝試しを理解してるって言いたいわけ!?

平戸城
三木城ちゃん! 怒らんって言うたとに~!

三木城
こういう時は怒ってなんぼ!
感情をぶつけあわないと、良いものはできないんだよ!

平戸城
さっきと言ってることが違うぅ……。

三木城
というか、言われっぱなしとか癪に触る!
この子たちだって、変身くらいしか能がないのに!


(プッチーン)


たぬ! たぬたぬ!

平戸城
あーもう、狸ちゃんたちも落ち着いて……。


たぬたぬ! たぬっ! たぬたぬ!

三木城
平戸城ちゃん! なんて!?

平戸城
は、はいっ!? えーっと――


いい加減にしやがれ、このちんちくりん……。


やっちまったなぁ、アンタ。
俺らのこと、キレさせちまった……。


もう後悔しても遅いぜ?
その身体に教え込んでやるよ、狸の恐ろしさをな……。

平戸城
――だって!

三木城
狸の恐ろしさ? それは、どういう――


たぬ……たぬ……たぬ……。


たぬ……たぬ……たぬ……。
   たぬ……たぬ……たぬ……。

三木城
っ!?

三木城
ち、近づいてくる……。

大破狸
たぬ……たぬ……たぬ……。
   たぬ……たぬ……たぬ……。
      たぬ……たぬ……たぬ……。

三木城
っ!? 増えた……!?

三木城
…………。

三木城
これ、もしかして……逃げた方がいい感じ?

平戸城
うん……そうっぽい……。

大破狸
たぬ……たぬ……たぬ……。
   たぬ……たぬ……たぬ……。
      たぬ……たぬ……たぬ……。

三木城
わわっ、平戸城ちゃん急いで!
退却! 退却ぅ~~~!

平戸城
もー! どうしてウチまで追われないかんの~っ!? 

後半
三木城

はぁ、はぁ……死ぬかと思った……。

平戸城
ほんっとにごめんねぇ~。
狸ちゃんもこん通り……反省しとーけん……。


たぬ……。

三木城
あたしもごめん……。
カーっとなって言い過ぎちゃった。

三木城
狸ちゃんたち、めちゃくちゃ怖かったです……。

三木城
ただ……肝試し当日に、
何かがきっかけで同じようなことが起きたら、と思うと……。

三木城
…………。

平戸城
うん……なんか、
行楽の域を超えた事件が起きそうな気がする……。

三木城
…………。

平戸城
…………。

平戸城
…………!

こうして、平戸城は脅かし役を諦め、
大人しく先導役の任につくことになるのだった――。




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