ストーリーテキスト/共鳴せし叛逆の魂

ページ名:ストーリーテキスト/共鳴せし叛逆の魂

目次

共鳴せし叛逆の魂[]

共鳴せし叛逆の魂 -序-

兜の動きが活性化する地へと向かう殿一行。
辿り着いた先で、多聞山城と見知らぬ城娘が
兜たちに囲まれている光景を目にする……。

前半
丹波亀山城

…………。

――この胸の奥に微かな疼きを感じた。

厭うべきモノなのに……。
未だ抗う術を知らぬこの逆心の脈動に、知らず溜息が零れる。

今や過去となった己が器に注がれ続けた激情が
鋭き爪痕のように深く心に刻まれている証……。

この痛みを強く思い出した理由は分かっている。

かつてのボクの主――惟任日向守(これとうひゅうがのかみ)こと
明智”十兵衛”光秀の幻影と対峙しているからだ。

明智光秀
ドうしましたか、丹波亀山城?

丹波亀山城
いや、別に……気にしないでくれ。

丹波亀山城
それよりも、キミは本気でやるつもりなんだね?

明智光秀
エエ。天下取りの好機、みすみす逃す手はないでしょう。

明智光秀
タトエ虚であろうト、この頑強な器の内を満たすハ、
明智光秀という魂の鋳型であることに偽りはないのですカラ。

丹波亀山城
……ああ、そうだね。

目の前の異形――巨大兜は、自らを明智光秀と定義する。

本来ならば、ボクは怒りを覚えるべき立場にあるのだろう。

だというのに、不可思議な此の悦びを否定することができない。

泣きたくなるほどに胸をすく強き感情が総身に流れている。

――気づけば、自分でも驚くほど穏やかな声でこう言っていた。

丹波亀山城
いいよ、光秀。キミに協力してやる。

明智光秀
……貴方ナラバ、そう言ってくれると思っていましタ。

明智光秀
我ガ叛逆ノ起点……丹波亀山城。

異形の吐いたその言葉がボクの耳朶を打つと同時に、
胸奥の疼きが少しだけ強くなったような気がした――。

――それから数日が経った。

千狐
殿、此の地で兜の動きが活性化しているようですわ!

やくも
殿さん! 彼処を見るだに!
兜さんがえっぱいいるがや!

兜軍団
……滅スル……全テ……滅スル……。

柳川城
――っ!?
殿、兜の群れの中に人の姿が見えます!

多聞山城
……囲まれてしまいましたか。
此の状況、あまり美しくないですね。

丹波亀山城
多聞山城……もういいよ。
ボクのことは放って、キミだけでも逃げるんだ!

多聞山城
私が貴方を見捨てて逃げるですって……?

多聞山城
それこそ美しくないですわ!

多聞山城
安心しなさい。私は姉の信貴山城と違って、
死そのものの美を尊ぶ趣味はありませんわ!

兜軍団
……散レ……醜ク……惨メニ……散レ……!!

千狐
すぐに多聞山城さんたちを助けに行きましょう!
殿、出陣の準備をお願いします!

後半
丹波亀山城

た、助かった……。
なんとか兜を撃退できたみたいだね。

多聞山城
殿、危ないところをありがとうございます。
おかげで、この娘を助けることができましたわ。

千狐
あの、多聞山城さん。
その方はいったい……?

丹波亀山城
おっと、自己紹介が遅れてしまったね。

丹波亀山城
ボクの名は丹波亀山城。
今はこんな姿だけど、城娘のひとりさ。

やくも
城娘……?
なら何でさっきの戦いには参加してくれなかったがや?

多聞山城
私もつい先刻この娘と出会ったばかりなので詳しいことは分かりませんが、
どうやら城娘の力を何者かに奪われてしまったようなのですわ。

柳川城
それは本当ですか、丹波亀山城さん?

丹波亀山城
うん。多聞山城の言うとおりさ……。

丹波亀山城
少し前のことなんだけど、
見たこともない大きな兜に襲われてね……。

丹波亀山城
命からがら逃げてきたんだけど……、
その時にどうやら力を奪われてしまったみたいなんだ。

やくも
奪われてしまったって……じゃ、じゃあ一体どうするだに!?
これからずっと、ただの町娘で生きてくつもりがや?

丹波亀山城
ただの町娘って……イジワルな言い方をするね、キミは。

丹波亀山城
無論、このままの状態でいる気はないよ。

丹波亀山城
その証拠に、ボクは力を取り戻す為に此の地に来たんだ。

柳川城
力を取り戻す為に、此の地に来た……?

丹波亀山城
ああ、そうさ。
此の地とボクには強い結びつきがあってね。

丹波亀山城
此の地で採ることのできる
この『丹波栗』が、ボクの力を取り戻す鍵となっているんだ。

やくも
おぉ~! 
丹波栗……(じゅるり)

丹波亀山城
じゅるりってキミね……もしかしてお腹でも空いてるのかい?

丹波亀山城
悪いけど、ボクの力が復活するまでは
食べるのは勘弁してくれよ?

丹波亀山城
えーっと……。

やくも
うちはやくもって言うだに!

やくも
で、こっちから千狐に柳川城、そして殿さんがやぁ!

多聞山城
丹波亀山城、貴方も聞いたことくらいあるでしょう?

多聞山城
今、日の本中で暴れている兜らを退治している方々よ。

丹波亀山城
あぁ、キミたちがあの……へぇ。

丹波亀山城
どうりで強いわけだ。うんうん、納得したよ。

丹波亀山城
あ、そうだ。ねえ殿。もし良かったらだけど、
ボクと一緒に、この丹波栗集めを手伝ってくれないかな?

柳川城
殿、如何致しましょうか?

殿
…………。

殿
…………!

丹波亀山城
ありがとう、殿。
駄目元で訊いてみてよかったよ♪

多聞山城
まったく、殿のお人柄の良さは相変わらずですね。

多聞山城
ならば、私もこのまま丹波亀山城に付き合うとしますわ。

千狐
…………。

柳川城
あれ? 
千狐さん、どうしたのですか?
何だか怖い顔をしていますが……。

千狐
い、いえ……何でもありませんわ。
先の戦いでの緊張が解けていないだけです。

柳川城
……?
それならば、いいのですが。

千狐
ご心配をおかけして申し訳ありません。

千狐
それでは、丹波栗集めを開始するとしましょう!

やくも
おー! 
頑張るだにぃー!

千狐
…………。

千狐
(丹波亀山城さん……か)

千狐
(どうしてだろう。あの方を見ていると、不安な気持ちになる……)

千狐
(力を失っているはずなのに……彼女には、何か違和感が……)

丹波亀山城
――――!?

千狐
…………っ!

千狐
(まずい、疑いを感付かれた……?)

丹波亀山城
…………。

丹波亀山城
ぐすっ……うぅぅ……
そんなに睨まなくたっていいじゃないか、千狐ちゃん。

千狐
……え?

丹波亀山城
そりゃあ、会ったばかりの城娘なんて
信じられナイかも知れないけどさ……ぐすっ。

殿
…………?

やくも
丹波亀山城のやつ、殿さんに抱きついて泣き始めただに!?

やくも
よっぽど千狐に睨まれたのが怖かったんやね……。

千狐
べ、別に千狐はそんなつもりじゃ……。

千狐
ごめんなさい、丹波亀山城さん。
他意は無いのです。どうか許してください……。

丹波亀山城
ぐすっ……ううん。ボクは別に気にしてないよ。

丹波亀山城
それに殿が抱き締めてくれたら、落ち着いちゃった♪

殿
…………?

柳川城
(いいなぁ……)

丹波亀山城
それじゃあ気を取り直して、
そろそろ丹波栗集めを始めようか、殿?

丹波亀山城
こういうのは集中して一気にやっちゃった方がいいからね!

殿
…………。

殿
…………!

丹波亀山城
…………ふふ。

丹波亀山城
(それにしても、千狐……か。
さすがは神娘。なかなか鋭いヤツだね)

丹波亀山城
(多聞山城の接近も予想外だし。
……こりゃあ、少し計画を変える必要があるかもね)

共鳴せし叛逆の魂 -破-

丹波栗集めを開始した殿一行だったが、
再び兜軍団が大挙して押し寄せてきた。
素早い動きの敵に注意しつつ勝利を掴め!

前半
丹波亀山城

ねぇ、多聞山城。
一応聞いておくけどさ、さっき言ってたことって本気なの?

多聞山城
さっき言ったこと? 
あら、何のことかしら?

丹波亀山城
何のことかしら、じゃないよ!

丹波亀山城
今回の丹波栗集め……もといボクの力を取り戻すのが
上手くいったら、あの城の天守を改修するって話さ!

多聞山城
ああ、そのことでしたか。

多聞山城
ええ、勿論本気ですわ。
だってあの天守……少し地味なんですもの。

丹波亀山城
地味で悪かったな!

丹波亀山城
けど、ボクはあれが気に入ってるんだ。
キミの趣味できらっきらな天守にされるなんてまっぴらごめんだからな!

多聞山城
あらあら、それほど拒否反応を示すとは……。
少しだけ傷ついてしまいますわ。

多聞山城
私の美的感覚は殿も認めるところだというのに、
それを認めぬということは殿の一部を否定するに同じ……くすん。

丹波亀山城
ふん、白々しい。
何と言われようと絶対に改修なんてさせないからな!

多聞山城
はいはい。分かりましたから、そうかっかしないでください。
今は丹波栗集めに集中……でしょう?

丹波亀山城
…………ったく。

丹波亀山城
(多聞山城め……改修を拒んだところで協力を止める素振りはない、か)

丹波亀山城
(先刻は、たまたま現れてボクを助けたように見えるが、
どこか不自然だ……此奴にはきっと何か狙いがあるはず……)

丹波亀山城
(まさか! 
ボクと光秀の関係を知ってるとでも言うのか?)

柳川城
…………――キンカン、どうですか?

丹波亀山城
――っ!?
き、キンカンだと!? 
おい、ボクの渾名をいったいどこで……!?

柳川城
見てください、丹波亀山城さん!
金柑です。丹波栗ではないですが、美味しそうですよぉ?

丹波亀山城
…………え?

丹波亀山城
あ、ああ……金柑か。
うん、たしかに美味しそうだね。

丹波亀山城
(…………なんだ。本当にただの金柑だったのか、紛らわしい。
てっきりボクか光秀のことを言ってるのかと思ったよ……)

柳川城
あの……丹波亀山城さんは金柑はお嫌いですか?

丹波亀山城
別に、嫌いってことはないけど……。

柳川城
でしたらおひとつ、どうですか?

丹波亀山城
…………。

柳川城
…………?

丹波亀山城
(邪気のない、綺麗な瞳……)

丹波亀山城
(きっとボクとは見ている世界が違うのだろう……。
そうでなくては、こんなあどけなさを映すことなどできやしない)

丹波亀山城
(こういうヤツは苦手だ……)

丹波亀山城
(自分の卑屈さが、より色濃くなるような気がするから……)

やくも
あー! 
金柑やねぇ!

やくも
なぁなぁ、柳川城! 
それ、うちがもらってもいいがや?

丹波亀山城
だ、ダメだよ! 
柳川城がボクの為に持ってきてくれたんだから!

やくも
……え?

やくも
そ、そうだったんやね。うちが悪かっただに……。

やくも
けど……なにもそげに怒らんでも……。

丹波亀山城
あ、ご、ごめん……ボクも別に、
こんなに声を荒げるつもりはなかったんだ……。

丹波亀山城
(って、何を謝ってるんだ、ボクは……!?)

丹波亀山城
(だいたい、金柑ぐらいやくもにあげればよかったのに!
何が柳川城がボクの為に持ってきてくれたんだから、だ……バカかボクは)

柳川城
…………ふふ。

丹波亀山城
な、何を笑ってるのさ。
ボクの顔になにかついてるかい?

柳川城
いえ。ただ、
それほどまでに金柑が好きだったんだな、と思ってしまって。

丹波亀山城
ち、違うって……!

丹波亀山城
キミがボクにくれるって言ったものなんだから、
誰かに横取りされるのは、何だかイヤだったんだよ。

丹波亀山城
(それに……よく考えてみたら、
誰かからこうして無償で何かを貰うなんて初めてだな)

柳川城
……え?

丹波亀山城
何でもない。聞き逃してくれ。

柳川城
……は、はぁ。

丹波亀山城
…………。

柳川城
…………。

丹波亀山城
いや……柳川城、キミはいつまでボクのこと見てるつもりだい?

柳川城
金柑、食べないのかなぁ、って。

丹波亀山城
……は? 
目の前で食べてみてほしいの?

柳川城
はい。実はさっき、私もひとつ
殿と一緒に食べたのですが、すごく美味しかったのです。

柳川城
丹波亀山城さんも、きっとびっくりすると思いますよ♪

丹波亀山城
たかが金柑ごときで何を……。

丹波亀山城
…………(ぱく)

丹波亀山城
―――んっ!?

丹波亀山城
……おいしぃ。

柳川城
ですよね! 
ですよねぇ!?

丹波亀山城
今まで酸っぱかったり苦かったりで、
知らず敬遠してきたけど、これはなかなか……。

丹波亀山城
――って、柳川城……!?

柳川城
……え?

丹波亀山城
な、何でボクの手を握ってるのさ……?

柳川城
あ……ご、ごめんなさい。
美味しさを共有できたのが嬉しくてつい……。

丹波亀山城
べ、別に謝らなくてもいいって……。

丹波亀山城
(あぁ……何かヘンだ。この柳川城って娘といると、
こっちの調子が狂ってくる……)

丹波亀山城
(けど、何でだろう……悪い気はしない。
それに、胸の奥があたたかく――)

――そう思った矢先、胸奥にまた、あの疼きが生じた。

丹波亀山城
(…………クッ)

丹波亀山城
(分かってる……分かっているさ)

丹波亀山城
(……こんな日溜まりに、ボクはいるべきじゃないんだ)

丹波亀山城
(殿たちはみんな油断しきっている……。
第二陣を攻め込ませるなら今だろう)

熊形兜
ムッ…………丹波亀山城カラノ合図ダ!
皆ノ者、出陣スルゾッ!!


――出陣ッ!

兜軍団
出陣ッ! 出陣ッ!

柳川城
――殿っ! 兜の姿を多数確認! 
すぐに戦闘態勢に移行してください!

丹波亀山城
(ふん。今さら用意しても遅い……そのまま打ち倒されるがいい)

多聞山城
――あら、もう来たのですね。

丹波亀山城
(……なにっ!?)

多聞山城
ご安心ください。
殿たちの準備が整うまでは私が時間を稼ぎますわ。

丹波亀山城
(くそ、多聞山城のやつめ……。
あの切り替えの早さ……兜の襲撃を予期していたんだな!)

丹波亀山城
(さすがは、あの信貴山城の妹……危機を察する能力は高いということか)

多聞山城
さぁ、殿。準備ができ次第、出陣をお願いしますわ!
共に兜を討ち果たしましょう!

後半
多聞山城

殿、見事な采配でしたわ。
これは、貴方とだから為し得た美しい勝利と言えましょう。

丹波亀山城
(確かに多聞山城がいう通りだ。……殿、どうやら噂以上の男のようだな)

殿
…………。

丹波亀山城
(とはいえ、激しい戦いの後だからだろう、さすがに疲れが見えるな……)

丹波亀山城
(さて、そろそろ仕上げといこうじゃないか、光秀!)

千狐
丹波亀山城さん……?
あの、何処へ行こうというのですか?

丹波亀山城
なに、此処にいるととばっちりを喰らうんでね。
避難しようと思ってさ。

千狐
避難って……いったいどういう――

明智光秀
――コウイウコトですよ!

多聞山城
まずいっ! 
何者かが遠方からこちらを狙っていますわ!

柳川城
殿、伏せてください!

殿
…………っ!

明智光秀
残念ですガ丸見えですよ、殿……
サァ、一発で仕留メテあげましょう!

共鳴せし叛逆の魂 -急-

銃声と共に姿を現した巨大兜――明智光秀。
得手とする銃による広範囲射程の銃撃に気を
つけながら、城娘達と共に戦いに勝利せよ!

前半
明智光秀

残念ですガ丸見えですよ、殿……
サァ、一発で仕留メテあげましょう!

丹波亀山城
(光秀の射撃の腕なら、あの距離でも外しはしない……終わりだ、殿!)

多聞山城
(まずい……このままでは殿が!?)

多聞山城
(こうなれば、一か八か!)

多聞山城
はぁっ――――!!

殿
…………!?

明智光秀
――何ッ!?

丹波亀山城
(馬鹿な……光秀の弾道を矢で逸らしただと!?)

明智光秀
オォ……何という絶技デしょうか!?

明智光秀
マさか多聞山城がこれほどの腕をお持ちとハ……
感嘆の念を禁じ得ませんネ。

明智光秀
信じられナイことを平然とやってのける点ハ、
かつての城主譲りといったトコロデショウカ?

多聞山城
ふっ……貴方に褒められても嬉しくありませんわ。

多聞山城
(……それに、自分でも驚いてるくらいなのですから)

多聞山城
(ですが、奇跡であれ何であれ……殿を助けることができてよかった)

明智光秀
オヤ? 何を安堵しているのですか、多聞山城。
マサカこれで終わったなどとハ思っていませんよね?

明智光秀
依然として地の利ハ我らにアルのです……。
サァ、一方的に攻め撃たれる痛みと恐怖を思い知りなナサイ。

多聞山城
殿、すぐに戦いのご準備を!
さすがの私も、二度も銃弾を射ることは無理ですわ!

多聞山城
露払いは私と柳川城に任せて、すぐに出陣の準備を……!!

千狐
殿、相手は今までに見たことのない巨大兜ですわ!
どうやら銃を得手としているようですが、何をしてくるか分かりません。

千狐
十分に注意して、戦いに臨んでください!

後半
明智光秀

グァ……コノ距離は……私の距離デハ……
ありませんネ……一時撤退するとしましょう。

多聞山城
あら? ここまで追い詰めて、私が逃がすとでもお思いかしら?

明智光秀
――ッ!?

多聞山城
その醜き魂……美しく、破壊してさしあげますわ!

???
――そこまでだよ、多聞山城。

多聞山城
な……っ!?

丹波亀山城
せぁっ――!!

多聞山城
うっ、ぅぅ……た、丹波亀山城……
やはり、貴方……っ!?

丹波亀山城
その反応だと、やっぱりキミは気づいていたようだね。

柳川城
丹波亀山城さん……その姿は!?

やくも
城娘の姿になってるだに……
これは、どういうことがや!?

千狐
さては……
最初から城娘の力を失ってなどいなかったのですね!?

丹波亀山城
フフ……それはちょっと違うなぁ、
千狐ちゃん。

千狐
……え?

丹波亀山城
キミたちと出会ったばかりのボクは嘘偽りなく、
城娘の力を失っていたさ。

丹波亀山城
だいたい、もし城娘としての力が残っていたら、
キミくらい優秀な神娘になら感じ取られちゃうだろ?

千狐
そ、それはそうかもしれませんが……。

千狐
ですが……貴方は最初から何かが――

丹波亀山城
――何かがおかしかった……
そう、言いたいんだろ?

丹波亀山城
力の喪失における過程が能動か受動か……その微妙な差異を不確かとはいえ、
感じ取ることが出来たキミの神娘としての能力の高さは感嘆に値するよ。

丹波亀山城
そうさ。ボクはもともと光秀……いや、
この巨大兜に自分から城娘の力を渡したのさ。

やくも
じ、自分から……兜さんに城娘の力を渡した……?

丹波亀山城
そして、来るべき時が来たら力を返してもらい……。

多聞山城
私たちを裏切ると……そういう計画だったのですね。

丹波亀山城
ご明察だ、多聞山城。

丹波亀山城
しかし、解せないね。キミはボクの逆心を見抜いていたようだが、
どうしてそのことを殿に言わなかったんだい?

丹波亀山城
あ、もしかして……キミも光秀と協力関係にある、とか?

多聞山城
それはありえませんわ……。

多聞山城
私は、殿の味方であり……そして貴方の味方でもあった……。

丹波亀山城
じゃあ、なんでボクの為に協力なんかした?
キミには見返りが無さ過ぎる。不自然もいいところさ。

多聞山城
貴方に……我が姉、信貴山城の面影を見たからですわ。

丹波亀山城
……は? 
信貴山城……だって?

多聞山城
そうですわ……貴方に、姉様と同じような
裏切りの気色を感じ取った私は……、

多聞山城
貴方の傍に在ることで善き路へと導き、
そしていずれ、殿の力となってくれると期したのです。

丹波亀山城
……ふーん。

丹波亀山城
(つまり、ボクの善心に期待してたってことか……。
愚かな。とても信貴山城の妹とは思えない純粋さだ)

丹波亀山城
(いや……あの男――殿と行動を共にするようになって、
彼女自身に何か変化が起きたと解釈した方が腑に落ちるか)

丹波亀山城
ま、どっちでもいいことさ。
今大事なのは、ボクが光秀を逃がせるか否かなんだからね。

明智光秀
不覚を取っタ……再起ヲ図るとしまショウ、丹波亀山城。

丹波亀山城
はいはい。いいから格好つけてないで、さっさと退くよ、光秀。
まだキミの魂は、その身体には定着しきれてないんだから。

柳川城
ま、待ってください、丹波亀山城さん!

丹波亀山城
……ん?

柳川城
これには訳が……何か理由があるのですよね?

丹波亀山城
……。

丹波亀山城
ああ、柳川城。実はそうなんだ。

丹波亀山城
ボクは大切な仲間を人質にとられていて仕方なく……。

柳川城
人質……!?

丹波亀山城
――なんて、言うと思ったかい?

柳川城
……え?

丹波亀山城
悪いが、キミのような心の優しい城娘には理解できないだろう。

丹波亀山城
ボクの心に巣くう……見えざる闇の正体はね。

柳川城
丹波亀山城さん!
待って! 
待ってください!!

兜軍団
――ザザッ、ザザザッ!!

多聞山城
ダメです、追撃の隙が見当たりませんわ!
……不用意に追いかけるのは自殺行為です。

柳川城
そんな……兜と共に、丹波亀山城さんが撤退していく……。

やくも
…………。

やくも
な、なぁ……殿さん。
これはいったいどういうことがや?

やくも
丹波亀山城は……最初からうちらの敵だったってことがや?

殿
…………。

千狐
信じたくはありませんが、そういうことなのでしょうね。

千狐
丹波亀山城さんの霊気はいたって正常……。
瘴気や武器暴走などの影響は見られませんでしたわ。

柳川城
つまりは……丹波亀山城さんの意思による行為、なのですね?

殿
…………。

多聞山城
皆さんがお嘆きになるのは無理からぬこと……。
ですが、これは起こりうる城娘の気質の一つでもあるのです、殿。

千狐
ど、どういうことですか?

多聞山城
城娘には多かれ少なかれ、それぞれに内包する業があるのです。

多聞山城
それは城としての歴史であったり、城主の個性であったり、
城下町の人々の思いであったりと、千差万別ですわ。

多聞山城
私の気質も、どちらかと言えば柳川城さんのような光の側よりも、
丹波亀山城と同じような、戦国の世に生じた闇の側に立つ城娘ですもの。

多聞山城
そもそも、私の姉、信貴山城も裏切りや
嘘といったことに関しては容赦のない城娘でしてね……。

多聞山城
偶然出会した丹波亀山城のことを放っておけなかったのも、
かつての姉様と同じ匂いを感じたからというのが、正直な理由なのです。

やくも
かつての姉様と……同じ匂い……?

多聞山城
ええ……。

多聞山城
自制することのできない黒き想念が、絶えず身体と心を蝕み、
闇へと引きずろうとする……姉様は過去の自分をそう形容していましたわ。

多聞山城
丹波亀山城は、自らの意思で我々を謀ったと思っているようですが、
その心すら、彼女の内包する業によって左右されているとするならば……。

多聞山城
それは彼女の心が真に望んだ結末ではないと、私は思うのです。

多聞山城
とはいえ畢竟、これらすべては
私の経験と感覚に因った出来損ないの推測でしかありません。

多聞山城
それでも私は多聞山城だから……。

多聞山城
だからこそ彼女の傍に在りたいと望み、在るべきだと自らに断じ、
そして身勝手にも救わねばならないと……そう、思ってしまうのです。

柳川城
……多聞山城さん。

柳川城
私も……同じ気持ちです。

柳川城
丹波亀山城さんは、私の金柑を受け取ってくれました……。

柳川城
たったそれだけと思われるかもしれませんが、
私にとってはそれで十分な理由となります。

柳川城
あの時に見せてくれた笑顔が、
嘘だったなんて……思いたくないです。

やくも
…………うちも。

やくも
うちも疑うより、信じたいだに!

やくも
うちは頭が悪いけん、難しいことを考えるのは苦手がや。

やくも
だから直感に従って、丹波亀山城を信じることにするだに!

千狐
やくも……。

千狐
そうね……千狐もやくもの考え方に賛同するわ。

殿
…………。

殿
…………!

多聞山城
殿……皆さん……。

多聞山城
ありがとうございます。
心より、感謝致しますわ。

多聞山城
そうと決まれば、すぐに行動に移りましょう。

やくも
行動って……いったい、何をすればいいがや?

多聞山城
再び兜たちが此の地に攻め入ってくるのは明白……。
ですから、まずは再戦の準備を整えます。

多聞山城
そして同時に、このまま丹波栗の収集を続けるのです。

柳川城
それが、丹波亀山城さんを救う手段となり得るのですね?

多聞山城
……確証はありませんが、
こればかりは私を信じてほしいと言う以外にありません。

殿
…………!

千狐
分かりましたわ、殿。
それでは、陣立てを整えると共に、丹波栗の収集を続けましょう!

共鳴せし叛逆の魂 -絶壱-

――亀山城と多聞山城。
見目麗しい二人の城娘に対して、
兜たちは思い思いの言葉を紡いでいく。

前半
――これは、ボクと光秀が拠点へ退却した後の出来事だ。

明智光秀
今ヨリ私は傷を癒やし、次回の戦いに向けて準備を進めます……。
皆さんモ、シッカリと英気を養うように。イイですね?

兜軍団
承知ッ! 承知ィッ!!

丹波亀山城
……ったく、兜ってのは夜でもみんな元気だねぇ。

丹波亀山城
ふわ~ぁ。今日はいろいろとあって疲れちゃったなぁ。

丹波亀山城
ん~。
そういうわけだからボクはもう寝かせてもらうよ。

丹波亀山城
じゃーねぇ。

兜軍団
オヤスミ! オヤスミ!

兜軍団
…………。

突撃式トッパイ形兜
…………。

突撃式トッパイ形兜
丹波亀山城サマハ、オヤスミニナッタカ……。

砲撃式トッパイ形兜
ソレニシテモ、アノ城娘ノ何ト奇異ナコト。
彼女ノチカラト性質ハ今マデノ城娘トハ明ラカニ異ナルナ。

兎耳形兜
ウム、外見モ愛ラシイシ、
自ラ我々ノ味方トナッテクレテ、本当ニ嬉シイ限リダ。

古桃形兜
ウーン…………。

突撃式トッパイ形兜
オイ、ドウシタンダ?
何カ不満ソウナ顔ヲシテイルガ……?

古桃形兜
イヤァ……実ハ俺、
多聞山城ノ方ガ良カッタナァ、トカッテ思ッテミタリシテ……ハハ。

砲撃式トッパイ形兜
…………。

砲撃式トッパイ形兜
……実ハ俺モ……。

突撃式トッパイ形兜
――ハァ!? 何ヲ馬鹿ナコト言ッテルンダ!
丹波亀山城サマノ方ガ可愛イダロウガ!

古桃形兜
可愛イコトハ可愛イケドサァ……何テイウカ、
俺ニ言ワセリャ未ダケツノ青イ子供同然ッテイウカ。

突撃式トッパイ形兜
ケ、ケケ……ケツガ青イ……ダトォ!?

突撃式トッパイ形兜
貴様ァ! 
丹波亀山城サマヲソンナ目デ見テイタノカァ!!

古桃形兜
イタッ、イタタタ……ヤメロッテ!
暴力反対! 

古桃形兜
隊内ノ喧嘩ハ御法度ダロォ! 
光秀サマニ言イツケチャウゾ!

兎耳形兜
デモヨォ、実際、多聞山城ガ味方ダッタラ、
ドンナ感ジニナルンダロウナァ……。

古桃形兜
ソリャアオマエ、コーンナ感ジダロウ?

多聞山城
(※兜製幻想形・多聞山城)

多聞山城
あらあら、こんなところにご飯粒がついてますわよ?
ふふっ、まったく……いつまでたっても手がかかるんですから♪

多聞山城
こらっ! 誰ですか! 私の茶釜に爆弾仕込んだ悪いコは!

多聞山城
まったく、私をこんな姿にしてぇ……後でお仕置きですからね!?

多聞山城
兜の皆さんは下がってください!
この多聞山城が、皆様をお守りいたしますわ!


…………。


…………イイナ。

兜軍団
…………アア。スゴクイイナ!

突撃式トッパイ形兜
バカヤロウ! 日常生活ジャナクテ、
戦イノコトヲ考エルンダヨ!

突撃式トッパイ形兜
イイカ? 
シッカリト想像スルノダ……。

突撃式トッパイ形兜
我々ト共ニ出陣スル多聞山城ヲ――――。

後半

…………。


…………イイナ。

兜軍団
…………アア。スゴクイイナ!

突撃式トッパイ形兜
イヤイヤイヤ! 
結局負ケチャッテルジャナイカ!

突撃式トッパイ形兜
多聞山城ハヤッパリダメダ! 
断固反対!

兜軍団
エー……。

突撃式トッパイ形兜
エー、ジャナイ!

突撃式トッパイ形兜
ダイタイ、丹波亀山城サマノ何ニ不満ガアルト――

丹波亀山城
――ボクが何?

突撃式トッパイ形兜
ヒィッ!? 
タ、タタ、丹波亀山城サマ!

突撃式トッパイ形兜
ド、ドウサレタノデスカ?

丹波亀山城
キミたちがうるさくて眠れないんだよぉ……。

突撃式トッパイ形兜
コ、コレハ失礼イタシマシタ!

丹波亀山城
本当に反省してる?

突撃式トッパイ形兜
猛省ッ! 
タダタダ猛省デスッ!!

丹波亀山城
……む~。

丹波亀山城
そういうことなら許してあげるよ。

突撃式トッパイ形兜
……ホッ。

丹波亀山城
ただし、今度うるさくしたら…………。

突撃式トッパイ形兜
ウルサク、シタラ……?

丹波亀山城
バラバラにしちゃうぞ♪

突撃式トッパイ形兜
ハ……ハヒィッ!

丹波亀山城
それじゃ、おやすみ~。


…………。

兜軍団
……コ、コェ~。

砲撃式トッパイ形兜
ヤッパリ丹波亀山城サマダナ!
アアイウ容赦ノナサガ他ノ城娘トハ違ウゼ!

兎耳形兜
アア、丹波亀山城サマガイレバ、
次ノ戦イ勝テルカモシレナイナ!

古桃形兜
カモ、ジャナクテ勝ツンダヨ!

突撃式トッパイ形兜
オッシャ! 
ヤッテヤロウゼ!


エイッ、エイッ!

兜軍団
オ―――――ッ!!

丹波亀山城
――だからうるさいって言ってんだよぉ!!

兜軍団
ギャァァァアアアアアアア――――――――――ッ!!

共鳴せし叛逆の魂 -離-

丹波亀山城が、兜を引き連れて襲来する。
移動速度の速い兜を中心とした敵の編成と
侵攻する道筋を見極めながら戦いに勝利せよ。

前半
丹波亀山城

それじゃ、行ってくるよ、光秀。

明智光秀
エエ。
この戦いで、殿を必ずや討ち果たしましょう。

丹波亀山城
……ああ。

――兜らと行動を共にして、それなりの日数が経過していた。

存外、居心地は悪くない。

だというのに、胸奥の疼きが日増しに強くなっている。

明智光秀
どうしましたか、丹波亀山城?

丹波亀山城
……ひとつ、聞いていいかな?

明智光秀
エエ、かまいませんよ。

丹波亀山城
キミにとって、ボクは何なのかな?

明智光秀
ソレは……ドウいう意味でしょうか?

丹波亀山城
……いいから答えてよ。

明智光秀
…………。

明智光秀
仲間……。

明智光秀
ソウ、仲間ですネ。

丹波亀山城
……仲間?

明智光秀
エエ。
今ヤ貴方は、私にトッテ守るベキ大事な仲間……。

丹波亀山城
……守るべき、大事な仲間。

――そうか。

キミにとってのボクは、
そういう存在になってしまったんだね……。

丹波亀山城
ありがとう、光秀。

丹波亀山城
おかげで、迷いは消えたよ。

――またひとつ嘘を重ねる。

丹波亀山城
これで心置きなく、戦場に立てるよ。

――胸奥の疼きが強くなっていく。

丹波亀山城
後は、作戦通りに事を運ぶだけだね。

明智光秀
…………エエ。

丹波亀山城
さぁ、みんなボクに続け!

兜軍団
――ザザッ!

丹波亀山城
目指すは殿たちのいる場所だ。
誰ひとりとして遅れるんじゃないぞ!

兜軍団
オオォォォ――――ッ!!

明智光秀
…………。

明智光秀
………丹波亀山城。
ヤハリ貴方は……………………。

――そして夜が明けて、ボクは再び殿たちと対峙する。

千狐
殿、丹波亀山城さんが姿を現しましたわ!

やくも
兜さんらの姿もえっぱいあるだに!
丹波亀山城のやつ、ほんとにうちらと戦う気なんやね……。

やくも
戦の準備と丹波栗集めはばっちりやけど、
何だか急に怖くなってきただに……。

丹波亀山城
へぇ……。
どうやら、かなり入念に準備して、ボクを待ち受けていたみたいだね。

丹波亀山城
ふふ、こっちも色々と作戦を考えてきた甲斐があるってもんだよ。

柳川城
丹波亀山城さん……どうしても、戦うのですか?

丹波亀山城
……柳川城、キミか。

丹波亀山城
その顔を見るに、まだ心は決しきれてないようだね。

丹波亀山城
そんな状態じゃ、キミ……。

丹波亀山城
……死ぬよ?

柳川城
…………。

柳川城
……私は、死ぬ気などありません。

柳川城
殿を守る……それこそが、私の使命なのですから!

丹波亀山城
そうかい。それがキミなりの戦う意味か。

丹波亀山城
で、多聞山城……。
キミはどうして未だ此処に残っているんだい?

多聞山城
私にも、やるべきことがあるということですわ。

丹波亀山城
……ふーん。何か企んでるって顔してるね。

多聞山城
企んでるとは人聞きのわるい……。

多聞山城
貴方のように悪を成そうなどとは考えていませんわ。

丹波亀山城
ふっ……そんなに怖い顔しないでくれよ?
キミが凄むとけっこう洒落にならないんだからさ。

多聞山城
なら、大人しく武器を収めてくれますか?
……今ならば、殿もお許しくださるはずですわ。

丹波亀山城
……はぁ? 
許す?

丹波亀山城
ボクを、許すだって……?

多聞山城
――っ!?

丹波亀山城
何でもかんでも分かったような面して……。
……キミのそういうところ……嫌いだよ。

千狐
……そんな。
丹波亀山城さんの霊気が膨れあがっていく……!?

千狐
殿、注意してください!
丹波亀山城さんが戦闘態勢に入りましたわ!

多聞山城
……殿、丹波栗の効果を示すには、
丹波亀山城を無力化するしかありません……。

多聞山城
然らば、此処は先ず武によって我らが意思を通します!
殿、出陣の御用意をっ――!!

後半
丹波亀山城

……はぁ、はぁ……うっ、ぅぅ……くそ……。
殿……キミのその力は……いったい……?

殿
…………。

多聞山城
勝負ありましたね、丹波亀山城。

丹波亀山城
……とどめを刺したいなら、さっさとやればいい。
別に、命なんか惜しくはない……。

柳川城
丹波亀山城さん……なぜ、そのようなことを仰るのですか?

丹波亀山城
柳川城……キミのような城娘にはきっと分からないだろうさ。

丹波亀山城
それに、いくらボクに言葉を投げようが、すぐに光秀が此処にやってくる。

丹波亀山城
その前に、敵を一人でも排除するのが合理的ってもんだろ?

殿
…………!

丹波亀山城
――っ!?
そ、それは……丹波栗?

丹波亀山城
どうしてこんな時にそんなものを……!?

やくも
あんたが前に集めてほしいって言ったからだに!
……それに、多聞山城もそうするべきだって言ってたからがや!

丹波亀山城
な、何を言ってるんだ……?
ボクの力の喪失はキミらを謀る為の擬態だったんだぞ!?

丹波亀山城
ボクの力を回復してどうしようっていうんだ……殿?

多聞山城
いえ、回復するのは身体だけではありませんわ!

多聞山城
丹波亀山城と縁在るこの丹波栗ならば、
本来、貴方が持つべきだった心の強さも取り戻せるはずです!

柳川城
これだけの数の丹波栗です……。
丹波亀山城さん、どうか心を悪に堕とさないでください!

丹波亀山城
心を……悪に……?

丹波亀山城
(そうか……ボクの心の揺らぎを、丹波栗の力を使って正常にしようと言うのか)

柳川城
丹波亀山城さん……。

丹波亀山城
――バカが。

柳川城
…………え?

丹波亀山城
(そんな目でボクを見るな……)

丹波亀山城
(城娘が悪でないと誰が決めた?)

丹波亀山城
(善を行うべき道徳的本性を先天的に具有していると、なぜ言える?)

多聞山城
丹波亀山城、貴方の心の強さを信じるのです!

丹波亀山城
(……信じる?) 

丹波亀山城
(どうやって?)

丹波亀山城
(……何を?)

丹波亀山城
(どんなふうに信じろっていうんだ……?)

――キモチワルイ。

(……悪という名に因する行為すべてが、その本性を
汚損、隠蔽することから起こると……疑いもなく信じてるってヤツの目だ)

殿
…………!

丹波亀山城
(……どうして、ボクをそんな目で見るんだ……?)

丹波亀山城
(殿……なぜキミは、ボクを信じようとするんだ……?)

殿
――っ!!

……そうか。

理由なんて、きっと無いんだ……。

丹波亀山城
ふふ……。

丹波亀山城
あははははっ――――!!

やくも
きゅ、急に笑いだしたに……気でも触れたがや?

丹波亀山城
いいや、ボクはいたって正常さ。

丹波亀山城
事態を正確に把握していないのはむしろキミたちの方だろ?

千狐
ど、どういうことですか!?

丹波亀山城
向こうを見てごらん……。

多聞山城
――っ!?

多聞山城
時間切れ……というわけですね。

明智光秀
流石ですネ、丹波亀山城。
ヨクぞ殿たちの注意を引きつけてくれマシタ。

共鳴せし叛逆の魂 -結-

再来する巨大兜――明智光秀。
真の力を露わにした巨大兜の恐るべき神速の
三連射が、凶弾となりて殿一行に襲いかかる。

前半
明智光秀

流石ですネ、丹波亀山城。
ヨクぞ殿たちの注意を引きつけてくれマシタ。

丹波亀山城
……。

――光秀の名を冠する異形の声。

今となっては、ただ醜いだけの音の連なりにしか感じられないのが悲しい。

柳川城
兜たちによる包囲……そんな、いつのまにこれほどの数が……!?

――殿たちが驚いている。
ボクなんかさっさと殺せば良かったのに。

明智光秀
貴方たちガ丹波亀山城の説得にあたるコトは予想シテいました。

明智光秀
……だからコソ、ソノ隙ヲ突かせてモライましたよ。

多聞山城
我々の行動を先読みしていたとは……。
巨大兜のくせに随分と頭が切れるようですわね。

千狐
……最悪の状況ですわ、殿。

千狐
丹波亀山城さんの心を改めることもできず、敵に囲まれてしまうなんて……。

明智光秀
丹波亀山城ノ心ヲ改メル……ですか。

明智光秀
ソノ考えガ既に間違ってイルノですよ。

明智光秀
丹波亀山城という城娘は……他ノ城娘とは一線を画す存在ナノですから。

丹波亀山城
…………光秀。

胸奥の疼きが、ボクの意識を変革しようと鎌首をもたげる。

自制能わぬ逆心の性――産声は咆哮となり、
顎門となり、ボクを緩やかに食んでいく。

明智光秀
サァ、今スグ丹波亀山城を解放するノです。

――丹波亀山城を解放しろ…………だって?

ヤツの言葉が……遂に幻を全て滅してしまった……。

明智光秀
ソシテ……大人シク殿を我らニ差し出せば、
他の者は殺サズにオイテあげましょう。

丹波亀山城
おいおい……明智”十兵衛”光秀。そりゃあないだろう。

明智光秀
……丹波亀山城?

丹波亀山城
ボクの知ってる光秀は、そんな甘いことは言わなかった……。
まさか、二十年の眠り如きで魂が衰えたとでもいうのかい?

――違う。

どこまでいっても……アレは光秀になんか成れやしない。

分かっていて仕えた。

理解して騙した。

彼我……そして、心までも。

だから、もう終わり。

此処からまた、始めるしかない…………――――。

柳川城
――――……さん……丹波亀山城さん!

巨大兜の許へと歩いて行くボクの背に
柳川城の声が掛かって、漸く不出来な意識が返り咲く。

丹波亀山城
…………ちゃんと、聞こえてるよ。柳川城。

柳川城
……兜の許へ、行ってしまうのですか?

丹波亀山城
そんな顔をしないでくれ。

丹波亀山城
キミはボクを信じてくれるんだろ?

柳川城
……はい。
私だけでなく、殿だって……貴方を信じています。

殿
…………。

丹波亀山城
じゃあ、そのまま信じてるといい。

言って、巨大兜の方へと歩みを進めて行く。

明智光秀
……そうです……戻ってクルのです、丹波亀山城!
我らが、兜と城娘の新たな形として、覇業を成すのです!

丹波亀山城
……ああ、そいつは面白そうだね。

――けど、今のアンタは、ボクの知ってる光秀じゃない。

丹波を平定するよりも前のキミの幻影が、そこには居座ってる。

そんな見知らぬ魂まで、面倒見切れないよ。

明智光秀
――ナニッ!?
丹波亀山城、なぜ私に刃を向ける!?

丹波亀山城
裏切るのは得意でも、
裏切られるのは慣れてないのかい、光秀?

丹波亀山城
ならこの一撃で、謀叛のなんたるかをその身に刻むといい!

明智光秀
コノ……痴れ者ガァ――――ッ!!

光秀の銃口がボクに向く。

視線、駆動、意気――是だけ揃えば、避けるのは容易い。

明智光秀
ワ、我が必中ノ一撃を避けるとは――ッ!?

丹波亀山城
射撃の精確さがアダになったな……さぁ、この一撃で逝きな!

――終わりだ。

偽物の魂も、紛いの異形も、仮初の忠義も……これで終わり。

そう、思っていた。

明智光秀
――丹波亀山城……私ヲ少し……見クビリすぎましたネ。

丹波亀山城
なっ――!?

異形の装填――其は秒を百に分かつ一刹那よりも尚早い神速の所業。

明智光秀
コノ間合いなラ、外シハシマセンよッ!

鮮烈な銃声が響き、右足に激痛が奔る。

丹波亀山城
――ッ……そんな……ばか、な……!?

柳川城
丹波亀山城さんっ!?

多聞山城
まずいですわ! 
あの負傷では、彼女に勝ち目は――

明智光秀
――モウ一発ッ!!

丹波亀山城
く、ぁッ――!?

被弾による痛みに耐えきれず、その場に倒れ込む。

明智光秀
貴方が裏切ることは想定内デシタが……残念デすよ。

丹波亀山城
ハァ、ハァ…………想定内……だ、と……!?

明智光秀
……後ノ覇業を思えば、
ココで貴方ノ悪心ヲ見定めんとスルは条理でしょう?

丹波亀山城
そう、か…………お……おかしいと、思ったんだ……。
一度目の殿との戦い……明らかにキミは……勝つ気が無かった……。

丹波亀山城
ボクがキミを試していたように……き、キミもまた……、
……ボクの忠義を……試していた、というわけか……。

明智光秀
フム……真実ヲ解して尚、ソノ冷静さヲ保ちますか。

明智光秀
愚者ト誹ルには、些カ貴方は気高すぎますね……。

明智光秀
イイでしょウ……ソこで、大人しく這いつくばっていなさい。
殿ヲ屠った後、我が瘴気ニテ貴方を穢し尽くシテ差しアゲます。

多聞山城
その様に美しくないことを、
この多聞山城が見過ごすとお思いですか……巨大兜!

柳川城
行きましょう、殿、多聞山城さん!
丹波亀山城さんを兜に連れて行かせるわけにはいきません!

千狐
殿、あの巨大兜が操る銃の連射速度は並大抵ではありませんわ!
十分に注意して、戦いに臨んでください!

後半
明智光秀

――ッ、グァ……信じラレません……。
アレほどの劣勢を覆すと、ハ……。

明智光秀
シカシ、不思議なモノですね……歯噛みする程ノ悔しき情念ト……、
……強者に出会エタ悦の二心が……我が胸ニ……宿っている……。

明智光秀
フフ……そうですか。コレが我が魂ノ有様というワケですか……。

多聞山城
笑ってられるのも今のうちですわ!
お覚悟っ――!!


――ザザッ!

兜軍団
ザザッ、ザザザッ!!

多聞山城
そんな……まだ兵を残しているなんて……!?

明智光秀
金ヶ崎ノ退き口に比ベレバ、コノ程度……窮地というニは生ぬるイッ!

明智光秀
全軍、統率を失するコトナク、冷静カツ獰猛に退却するノです!

兜軍団
――御意ィッ!!

千狐
……兜、全軍撤退。

千狐
殿、逃げられてしまいましたね。

多聞山城
……あれ? 
殿さん、丹波亀山城は何処にいるがや?

柳川城
ま、まさか……兜に連れ去られてしまったのでは!?

丹波亀山城
…………いや、此処にいるって。

柳川城
丹波亀山城さん!
よかった、無事だったのですね!?

丹波亀山城
変身は解けちゃったけど、なんとかね……。

丹波亀山城
――って、イタッ!? 
痛いってば……!

丹波亀山城
急に抱きつくなって……うっ、くぁぁっ……や、
柳川城っ……ボクは怪我人なんだぞ!?

柳川城
ご、ごめんなさい。嬉しさのあまり加減が……。

丹波亀山城
まったく、キミという城娘は……。

丹波亀山城
けれど、そういう素直さは嫌いじゃないよ。

丹波亀山城
そして、ボクを信じてくれた皆のことを……
好きになり始めているんだ。

多聞山城
ふふっ……何だか、愛の告白みたいですわね。

丹波亀山城
むっ……なけなしの素直さを発揮して
何とか言葉にしたってのに、どうして茶化すかなぁ……。

丹波亀山城
前言撤回。
多聞山城、キミのことだけは好きになれないと伝えておくよ。

多聞山城
あら、残念ですわ……。
私はこんなにも、貴方を気に掛けているというのに。

丹波亀山城
ふん……自業自得さ。

多聞山城
そう……まぁ、いいですわ。そのうち、貴方もきっと
殿と同じ様に、私の美しさを気に入ってくださるはずですもの。

丹波亀山城
その自信はどっから来てるんだか……。

やくも
…………。

やくも
何やかんやあったけど、
こうして丹波亀山城が無事で良かっただに!

千狐
そうね、千狐も心からそう思うわ。

千狐
それでは、丹波亀山城さん。
傷の手当ての為、我々の拠点である所領に向かいましょう。

丹波亀山城
ああ……それなんだけど、さ……。

やくも
どうしただに? 
所領に行きたくないんかや?

丹波亀山城
いや、そうじゃなくて……。

丹波亀山城
今まで、いっぱい迷惑をかけちゃったからさ、
ボクなんかが……殿と一緒に行っていいのかなって……。

殿
…………。

丹波亀山城
…………。

殿
…………。

殿
…………。

丹波亀山城
本当に、いいの?

殿
…………!

丹波亀山城
ありがとう、殿!
それじゃあ、これからよろしくね。

やくも
なぁなぁ、多聞山城はどうするがや?

多聞山城
当然、私も一緒に行かせていただきますわ。

多聞山城
(未だ、丹波亀山城の心の揺らぎが完全に落ち着いたとは思えませんものね……)

千狐
それでは、殿。皆と共に所領へと帰還しましょう。
此度の遠征、本当にお疲れ様でした。

…………。

???
…………。

明智光秀
…………。

???
無様だな、キンカン。

明智光秀
……如何に処サレようとも異存はござりませヌ。

???
ならば……。

???
生きよ……而して、武功にて其の罪を購え。

???
殿……奴原の成長は著しい。
戦はより激しさを増すであろう。

???
孰れ来る役目に向け、しかと鋭気を蓄えておくがいい……。

明智光秀
ハッ……カシこまりマシテ御座います。

???
…………。

共鳴せし叛逆の魂 -絶弐-

――我が心底に叛意あり。
生じてしまった謀叛の疼きに衝かれ、
丹波亀山城は、再び殿に戦いを挑む。

前半
丹波亀山城

…………。

――この胸の奥に微かな疼きを感じる。

まただ。

殿たちと行動を共にするようになって随分経つというのに、
城娘としての力が強くなるにつれ、この疼きが増しているように感じる。

丹波亀山城
だから、一人寂しくこんなところに来てしまったんだね……。

――あえて独り言ちる。

そうした方が、自分の醜さが浮き彫りになるような気がしたから。

丹波亀山城
ボクは丹波亀山城……逆心備えし異端の城娘、か。

丹波亀山城
……くだらない。

丹波亀山城
こんな言葉で規定したところで、何になるっていうんだ。

――手が震えている。

そこで初めて恐懼している己に気づく。

丹波亀山城
この恐怖は、何だ……?

――いつか、殿を裏切ってしまう未来に対して?

――いつか、制御できなくなる己が心に対して?

丹波亀山城
……違う。

丹波亀山城
それすらどうでもよく思えてしまう自分が、怖いんだ……。

泣きそうになる。

けれど、どうしたって涙は出やしない。

丹波亀山城
いっそ、死ぬべきだろうか?

運悪く転生したとて、これだけの業だ。
……果ては畜生か餓鬼の類だろう。


――ザザッ!

兜軍団
ザザッ、ザザザッ!!

丹波亀山城
……兜。

そうだな。兜に生まれ変わるのも悪くない。

きっと、何も考えずに誰かの忠臣でいられるだろうさ。

人魚型兜
見ツケタゾ……丹波亀山城……。

汚らしい声音で、大切な名前を呼ばれる。

有り得ないほどの怒りが一瞬にして脳髄を焼いた。

丹波亀山城
……今は機嫌が悪いんだ。数秒やるから失せろ。

丹波亀山城
じゃなきゃ……殺すよ?

人魚型兜
愚カナ……生殺与奪ハ我ラニ在ル。

丹波亀山城
なら……やってみなよ。

人魚型兜
瘴気散布……丹波亀山城……其ノ心……我ラガ貰イ受ケル。

丹波亀山城
…………。

――光秀の精製した瘴気だろう。匂いで分かる。

丹波亀山城
……ハァ。

人魚型兜
――ナ、何故ダ!? 
何故、我々ノ瘴気ガ効カヌッ!?

丹波亀山城
…………。

心身の境界を奪い去り、行為者による限定的支配を可能とする手段。

こんなものが効くのなら、ボクは喜んで受け入れただろうさ。

丹波亀山城
悪いね……ボクはもともと壊れてるんだ。

丹波亀山城
そんな瘴気なんかじゃ、どうしようもないほど……ボロボロにね。

人魚型兜
……ナ、何ヲ言ッテイルノダ……貴様ハ……!?

――口にする言葉も、思い描くべき希望も
今のボクには分からない。

丹波亀山城
……でも、おかげで吹っ切れたよ。

丹波亀山城
普通の城娘なら、今ので殿に牙を剥くんだろ?

――けれど、それすらボクには適わない。

丹波亀山城
ああ……そうか。

丹波亀山城
ボクの心はとっくのとうに、殿を裏切ってたってことじゃないか。

胸の奥に棲み着いた疼きが、耐えきれない程に激しくなる。

こんなこと、したくないのに。

いやだって、叫んでるのに。

躯が、心が……闇へと向かう、その歩みを、止めてくれない……。

人魚型兜
――ヒィッ!?
ク、来ルナ……来ルナァッ!!

……ごめん……殿……ボクは……ボク、は――。

丹波亀山城
逆心備えし城娘……これが、ボクの業なんだ……。

――どれだけの時間が経ったのだろうか。

思った通り、キミはボクのところに来てくれた。

千狐
殿、大変ですわ!
このあたりで、兜たちが決起したという情報を耳にしました!

柳川城
その話によれば、どうやら城娘らしき者も一緒に行動しているようです。

やくも
兜さんらの決起の時期的に、丹波亀山城が行方不明になったのと
ほとんど同じだに……もしかしたら、瘴気で操られてるかもしれんがや!

多聞山城
瘴気で操られている……。

多聞山城
そうであってくれればいいのですが……。

柳川城
……え? 
多聞山城さん、それは一体どういうことですか?

丹波亀山城
――やぁ、ずいぶんと遅かったじゃないか。
待ちくたびれたよ、殿。

柳川城
丹波亀山城さん!?
やはり、貴方だったのですね……。

多聞山城
千狐さん。丹波亀山城の霊気の状態はどうなっていますか?

千狐
少々お待ちください…………。

千狐
…………っ!

千狐
そんな……。

多聞山城
異常は……ないのですね?

千狐
……はい。
丹波亀山城さんは、いたって正常です。

多聞山城
あの時……彼女は巨大兜と袂を分かったはずなのに。

多聞山城
丹波亀山城……貴方は、自らの意思で殿を裏切るのですね?

丹波亀山城
自らの意思……ねぇ。

丹波亀山城
そんなものが本当にボクにあるように見えるかい?

多聞山城
丹波亀山城……まさか、貴方……!?

丹波亀山城
そうさ、キミの最大の失敗は……、
姉、信貴山城とボクを重ねすぎたという一点にある。

丹波亀山城
ボクは丹波亀山城……それ以上でもそれ以下でもない。

丹波亀山城
この悪心を、キミの中の論理で暴けるなどと思うな……。

多聞山城
……いけません、丹波亀山城!
心を閉ざさないで……まだ、私たちは心を向け合えるはず――

丹波亀山城
――もう遅いんだよ、多聞山城!

多聞山城
遅い……ですって?

丹波亀山城
そうさ……もう、何もかもが手遅れなんだよ……。

喋るのも、考えるのも、生きるのも……疾うに飽きてしまった。

裏切りに満ちたこの運命は、今のボクには辛すぎる。

丹波亀山城
さぁ、殿。刀を抜け……。

殿
…………。

そうだ、それでいい……キミになら、ボクは――――。

殿
…………!

柳川城
殿、戦うのですね?

殿
…………!

柳川城
……分かりました。

柳川城
それが、丹波亀山城さんを救う為とあらば、
柳川城……殿の御言葉を信ずるのみです!

後半
丹波亀山城

――殿、これで終わりだぁっ!!

柳川城
そんな……いつのまに殿の背後にっ――!?

殿
…………!?

多聞山城
――させませんわ!

丹波亀山城
なぁっ――!?

丹波亀山城
……多聞山城……最後の最後まで……余計な、真似を……っ!

千狐
丹波亀山城さんの変身が解けていきますわ……!

やくも
他の兜さんもみーんな討ち取ったけん、これで殿さんの勝ちやね……。

丹波亀山城
…………うっ、くぁ……。

柳川城
動かないでください! 
すぐに手当をしますから……。

丹波亀山城
ボクに…………。

丹波亀山城
ボクに触るなぁあっ!

柳川城
丹波亀山城さん……。

丹波亀山城
……触ら、ないで……くれ……。

丹波亀山城
たのむ……もう、ボクに……優しく、しないで……。

丹波亀山城
……今、はっきりと分かったんだ……。

丹波亀山城
ボクなんかが……キミたちと、一緒にいたら……だめだよ……。

多聞山城
何を馬鹿なことをっ――!!

多聞山城
この程度の謀叛で、我が主が貴方を見捨てるはずなどありはしない!

殿
…………。

丹波亀山城
でも、怖いんだ……。

丹波亀山城
……いずれまた、ボクはキミたちを裏切るかも知れない……。

丹波亀山城
……キミたちを大切だと思えば思うほどに、
胸奥の疼きが……大きく……激しくなるんだ……。

丹波亀山城
この恐怖が消えた時……ボクはどうなる……?

丹波亀山城
裏切ることに、罪悪感を覚えなくなった時……ボクは……ボクはぁ…………。

柳川城
丹波亀山城さん……。

柳川城
それでも私は、貴方と共にいたい……。

丹波亀山城
……柳川城?

柳川城
何度裏切られたって、構いません……。

柳川城
私も、殿も……何度だって、貴方を信じます。

柳川城
だって、私たちは貴方の本当の優しさを……、
そして弱さを……もう知ってしまったのですから。

丹波亀山城
……で、でも…………。

多聞山城
丹波亀山城……。

多聞山城
今の貴方がどうしたいか……それが全てですわ。

丹波亀山城
……ボクが……どうしたいか、だって……?

丹波亀山城
そんなの……決まってる……

丹波亀山城
みんなと一緒にいたいに……決まってるじゃないかぁ……うぅっ、ぅぅぅ……。

柳川城
丹波亀山城さん……。

柳川城
帰りましょう。私たちと共に、所領へ。

丹波亀山城
…………うん。

殿
…………。

殿
…………!

千狐
はい、殿! 
それでは秘技、時空……転移術なのーーーっ!!

――それから、数日が経った。

怪我も治り、今では普通に歩けるようになっている。

殿も、柳川城も、他の城娘も……皆ボクに優しくしてくれる。

けれど、胸奥の微かな疼きは、残り続けていた――。

――寅ノ刻。

所領にいる皆は、深い眠りについていた。

ボクと殿を除いて――。

丹波亀山城
…………。

殿
…………。

ボクは、自分の過去を殿に語っていた。

それは明智光秀と共に歩んできた歴史だ。

丹波亀山城
光秀にとって、丹波というのは裏切りの地と言えるのかもしれない……。

丹波亀山城
織田信長より任ぜられた丹波平定……。
それこそが、かつての光秀の主君であり将軍・足利義昭との決別だったのだから。

丹波亀山城
丹波を攻略した光秀は、多くの富と人、そして名声を手に入れた。

丹波亀山城
でも、ボクからすれば、光秀がそれ自体に喜んでいるようには見えなかった。

丹波亀山城
彼にとっての喜びは多分、主の為に戦い、
そして、認められることにこそあったのだから……。

丹波亀山城
……真に仕えるに足る主を見つけた光秀に迷いは無かったんだと思う。

丹波亀山城
だからこそ、比叡山での所業にも、心を鬼と化すことができたのだろうさ……。

丹波亀山城
本当は……戦になんか向かないような、優しいヤツだったのにね。

丹波亀山城
ふふっ……いや、ボクから見ればってだけさ。
かつての城主だからね。贔屓目は勿論ある。

丹波亀山城
それに、キミが最も知りたいと思うのは、
光秀が起こした最大の謀叛、本能寺の変のことなんだろう?

丹波亀山城
あくまでボクの見解だけど、あれは……。

丹波亀山城
……いや、やめておこう。

丹波亀山城
言葉にて過去を語れば、どうしたって主観が入ってしまう。

丹波亀山城
過去も未来も、正しく言葉にて表すなんて不可能さ。

丹波亀山城
……だから、今を語るべきなんだ、殿。

丹波亀山城
ボクは、キミを……そしてキミの仲間たちを気に入ってる。

丹波亀山城
光秀が、信長に対して抱いた忠誠心よりも尚強く、
狂おしいほどの情愛を抱く価値を見出している……。

丹波亀山城
けれど同時に、恐怖がつきまとうんだ。

丹波亀山城
ボクもまた、光秀と同じように、再びキミを裏切ってしまうかもしれない。

丹波亀山城
意味も道理も無い……それは、分かってる。

丹波亀山城
分かっているけれど、どうしようもないんだ。

丹波亀山城
……今の自分と明日の自分はきっと別物で。

丹波亀山城
今の世界と明日の世界だってきっと別の場所だから……。

丹波亀山城
……。

丹波亀山城
それでも、ボクは……おこがましくも
キミの傍にいたいと願ってしまっている……。

丹波亀山城
ねぇ、殿……。

丹波亀山城
……ボクは、どうしたらいいのかな?

殿
…………。

殿は少し悩んでから、ボクにこう言った。

――其の心、天に問わん。

――外に出てみると、既に黎明の青さが空に映っていた。

ボクと殿が立っているのは、所領内の社――。

丹波亀山城
天に問うだなんて、大仰なこと言うから何かと思えば……。

丹波亀山城
要は、おみくじで未来を決めようってことだろ?

殿
…………!

丹波亀山城
ふっ……。

丹波亀山城
……くだらない。

丹波亀山城
くだらないけど、その単純さは嫌いじゃないよ。

――『時は今 天が下しる 五月哉』
不意に、眼前の社と丹波の愛宕神社が重なる。

光秀もよく、大事な戦の前には勝利を祈ってくじを引いていたな……。

丹波亀山城
それじゃ、いくよ。

殿
…………。

殿が見守る中で、ボクはくじをひく。

そして、手にした紙を見て、互いに目を合わせた。

丹波亀山城
殿、これって……?

殿
…………。

殿
…………!?

ボクの手には、ただ真白い紙があるだけだった。

千狐が、間違って白紙のまま入れてしまったのだろうか?

知らず、おかしさがこみ上げる。

丹波亀山城
……これが神意、か。

丹波亀山城
殿、ここの神様ってのは随分といい加減なヤツみたいだね。

殿
…………!

バカみたいに、二人で笑い合った。

涙が出るほどに、長く、高らかに……。

いつしか胸奥の疼きが消え失せたと識るのは、此の日より少し後のことだった――――。



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