ストーリーテキスト/儚き栄華と夢枕

ページ名:ストーリーテキスト/儚き栄華と夢枕

目次

儚き栄華と夢枕[]

儚き栄華と夢枕 -序-

殿たちのもとへ薬を届けようと所領へ
向かっていた富山城は、その道中、
海辺で倒れている少女と遭遇する。

前半
富山城

――ふぅ。ここらで少し休憩するかな。

富山城
もう少しで殿たちのいる所領だし、
この調子なら日暮れまでには到着できるだろう。

富山城
って、あれ……?

???
…………うぅ……ん…………。

富山城
ひ、人が倒れてる――っ!?

富山城
もし、大丈夫かい?
ボクの声が聞こえるなら、返事をしてくれ!

???
んんぅ…………。

富山城
……だめ、か。

富山城
とりあえず目立った外傷はないようだけど、
このままにしておくわけにもいかないし……。

富山城
となれば、ボクが安全な場所に運ぶしかないよね。

富山城
――んっ!(きゅっ)

富山城
よし、ふんどしの締め直しは完了だ!
いっちょ気合い入れて運ぶぞぉー!

そう意気込んでから、気を失っている少女を背負うと、
富山城は力強い足取りで所領へ向けて再び歩き出す――。

――数刻後。

千狐
……おかしいですね。

千狐
先日、富山城さんから届いた手紙によれば、
今日中には薬を届けにやって来るという話だったのですが。

やくも
……もしかして、道に迷ったんじゃないかや?

柳川城
ですが、あの富山城さんが迷子というのは、
ちょっと想像しにくいのですが……。

やくも
じゃあ、どうしてこげに遅いがや?

柳川城
そ、それは……。

殿
…………。

殿
…………っ!?

千狐
えっ? 向こうに人影が見える?

富山城
ぜはぁ……ぜはぁ……。
よ、ようやく……辿り着いた……。

千狐
――富山城さん!?

柳川城
よかった……。
到着が遅かったから心配していたのですよ?

やくも
……って、あ、あれ?
富山城が背負っちょるんは誰がや?

???
……ん、ぅぅ…………。

千狐
あ、あれ……?
こ、この霊気は……もしや!?

柳川城
まさか、城娘……なのですか!?

富山城
どうやらそうみたいだね……。
道中の海辺で倒れてるのを見つけてさ。

富山城
さすがに見捨てるわけにもいかないから、
こうして背負ってきたってわけなんだ。

富山城
ふぅ……それにしても、薬箱とこの子、
両方を抱えて移動するのは堪えたよ。

富山城
あの……迷惑じゃなければだけど、
とりあえず、水を一杯いただけるかな?

富山城
……もう、喉がカラカラなんだ…………。

柳川城
は、はい! すぐに用意しますね!

やくも
とにかく、落ち着けるところに案内するけん、うちらについてくるがや!

殿
…………。

――所領・室内。

富山城
ゴク、ゴク、ゴク、ゴク……。

富山城
ぷはぁ~♪ お水ありがとね、柳川城ちゃん。
生き返った気分だよぉ。

富山城
それで、千狐ちゃん……。
あの子の調子は、どんな感じなのかな?

千狐
それが……。

???
…………んぅ……ぅ…………。

千狐
いちおう、入念に調べてはみたのですが……。

千狐
どうやら、ただ単に寝ているだけのようですね。

富山城
――へ? 寝ている、だけ……?

千狐
はい。それも、かなりぐっすりと。

富山城
…………。

富山城
ぷっ……あはは。なぁんだ。
熟睡してただけか。もぉ、心配して損したよ。

富山城
けどまぁ、この子が無事だったのならそれでいいや。
ボクの薬の出番も特に必要ないみたいだしね。

殿
…………。

やくも
にしても、本当によく眠っちょるみたいやね。

富山城
ボクが気絶してると勘違いするくらいだからね。
並大抵のことじゃ起きないと思うよー。

やくも
ほぉ~ん。そうなんかや。(ちょいちょい)

???
んっ……ぅ…………。

千狐
こらっ! 名も知れぬ城娘のおなかをツンツンしないの!

やくも
でも、何しても起きないっていうから――。

???
…………。

???
…………!

やくも
――だにぃっ!? ふ、ふつーに目覚めてるがや!

???
こ、ここは……?

???
見慣れぬ場所みたいですがぁ……。

???
もしかして私……まだ夢の中にいるのでしょうかぁ?

富山城
どうやら寝惚けているようだね。
安心して。ここは現実の世界だよ。

???
あな、たは……?

???
――あっ!?

富山城
ど、どうしたの? 
急にボクに近づいてきて――

富山城
――あ、こら……! な、何をするんだ!?

???
くんくん……くんかくんか……。

???
ふふ、貴方のこと……覚えてます。
私のこと、一生懸命おんぶしてくれた人ですよね?

富山城
お、覚えているのか……?

???
はい。夢現な状態ではありましたが、
貴方の背中、とっても寝心地がよかったですから♪

富山城
寝心地って……やれやれ、なんとまあ脳天気な……。

殿
…………。

???
あ……申し訳ありません。
自己紹介がまだでしたね。

邯鄲
私の名前は『邯鄲(かんたん)』と申します。

邯鄲
実は城娘という、ちょっと風変わりな存在なのですが、皆さんご存知ですか?

富山城
……いや、ご存知も何も、ボクたちだって城娘さ。
富山城っていうんだけど、聞いたことないかな?

邯鄲
――えええっ!?

邯鄲
貴方も……それに、そっちの方も城娘なのですか?

柳川城
はい。私は柳川城といいます。

邯鄲
おぉぉ……!
これが日の本の城娘さんですかぁ~!

富山城
日の本の城娘……?
妙な言い方をするんだな。キミだってそのひとりだろう?

邯鄲
それはちょっと違いますねぇ。

邯鄲
なぜなら私は、海の向こうから来た城娘ですからね。

千狐
う、海の向こうから来た!?

やくも
……異国の城娘さんってことがや!?

柳川城
それじゃあ海岸で倒れていたってことはまさか……!

富山城
邯鄲……キミは、もしかして……!
漂流の結果、この地に流れ着いた城娘ってことなのかい?

邯鄲
あ、いえいえ。自分の意思で、
こう、バシャバシャッ! って感じでがっつり遠泳してきましたよぉ~♪

柳川城
……え、遠泳?

邯鄲
はい! こう見えて私、けっこう武闘派かつ肉体派ですからね!

富山城
いや、ちゃんとした理由になってない気がするんだが……。

千狐
あの……それよりも邯鄲さんは、
どうして遙々、海を渡って日の本に来たのでしょうか?

邯鄲
実は……。

邯鄲
夢を……見たのです。

千狐
夢……?

邯鄲
そう。夢にございます。

邯鄲
そこには、日の本の地で、
凶悪な兜や妖怪たちと戦う城娘の姿がありました。

邯鄲
どんな苦境に立たされようとも、
彼女たちは諦めることなく勇敢に戦っていた。

邯鄲
けれど、同時に……。
より多くの仲間を求めていることもわかりました。

邯鄲
夢の中であろうと……その願いが私の胸を強く打った……。

邯鄲
だからこそ私は、遠き地の同胞のため、こうして海を渡って来たのです。

やくも
たかが夢ひとつで……ここまでくるなんて、信じられんがや……。

邯鄲
そう思われるのも無理はありません。

邯鄲
ですが、『邯鄲』という名には夢にまつわる逸話が関わっており、
それによって私は生まれながらに夢に関する業を備えています。

邯鄲
故に、私が見る夢には相応の必然性があり、
それを信ずるべきものであると確信できる理由が、この心身にはあるのです。

富山城
…………。

富山城
なるほどね。
キミのその眼を見れば、冗談を言ってないことはわかるよ。

富山城
それに、他者のために危険を顧みず海路を通ってきたんだ。
その卓越した勇敢さだけを取っても、信頼に価するってものさ。

邯鄲
そ、そんなに大層なものではないと思いますがぁ……。

邯鄲
それに、信頼に価するのは貴方だって同じこと……。

邯鄲
だって、貴方は海辺で倒れていた私を助けてくれたのですからね。

柳川城
……あ、あの。そういえば有耶無耶になってましたが、
どうして海辺で倒れて――もとい眠っていたのでしょうか?

邯鄲
それがですね、実はなが~い海路を泳ぎ切った私だったのですが、

邯鄲
運の悪いことに辿り着いた浜辺に兜たちがたむろしていて、
あれよあれよと驚く暇もなく戦うはめになってしまったのです。

邯鄲
ですがご安心を!
先ほども言ったように、私は腕に自信ありな城娘ですからね!

邯鄲
みんなまとめて、この拳でボッコボコにしてやりましたともぉ~♪

やくも
……ほ、本当がや?

邯鄲
あ~。信じてないですねぇ?

邯鄲
ですが紛う事なき実話です!

邯鄲
その証拠に、力を使い果たして浜辺にゴロンとなったところで、
意識がふわ~っと消えて眠りについてしまった――というわけです。

千狐
よくその後に他の兜たちに襲われずに済みましたね……。

邯鄲
ですから、そのすぐ後に富山城さんが保護してくれたというわけですよぉ♪

富山城
まったく……運が良いのか悪いのか、わからないね。

邯鄲
えへへ♪

邯鄲
ですが、今日に限って言えばとっても運が良かったと思います!

邯鄲
だって、こんなに親切な人たちに助けてもらって、
そのうえ、仲間にしてもらえるんですから!

千狐
え……? な、仲間?

邯鄲
……あ、あれ? そういう流れだと思ったのですが、間違ってましたか?

千狐
い、いえ……その、邯鄲さんが問題ないのであれば、
こちらとしては願ったり叶ったりなのですが……本当にいいのですか?

邯鄲
もーまんたいっ!
むしろ恩返しのためにも、協力させてください!

殿
…………。

殿
…………!

邯鄲
しぇいしぇいです♪

邯鄲
ということで、お礼とお近づきのしるしとを合わせまして、
皆さんには、私のとっておきの枕を贈呈しちゃいますぅ!

富山城
……は? ま、枕?

邯鄲
はいっ♪ 先ほども申した通り、
私こと邯鄲は夢にまつわる業を備えた城娘でして。

邯鄲
邯鄲お手製のこの枕を使えば、快眠間違いなしですよぉ~。

やくも
だにぃ、そげんすごい枕があるんやねぇ。

やくも
ならさっそく今夜から千狐が使うといいがや。

千狐
な、何で千狐なの?

やくも
だって、最近は心配事が多くてなかなか寝つけないって言ってただに。

千狐
も、もう! それは二人だけの秘密って言ったでしょ!
殿の前でわざわざ言わなくたっていいのにぃ……!!

邯鄲
まぁ、何にせよ。この枕はあと三つありますので
使いたい方がいましたら先着順でどーぞぉ~。

千狐
で、では……お一つ、使わせていただいてもいいでしょうか?

邯鄲
はいっ! 遠慮無くお使いください!

邯鄲
あのぉ、他の方々はだいじょうぶですか?

柳川城
私は、枕が変わってしまうとなかなか寝つけないので……。

富山城
ボクは特に睡眠で困ったりはしていないからね。
所領内の他の城娘たちに訊いてみた方がいいんじゃないかな?

邯鄲
あ、そうですよね。感じられる気から察するに、
所領内にはまだまだ沢山の城娘さんたちがいるようですし、
挨拶がてら、枕をずずいと薦めてきますねぇ~。

千狐
――あっ!? か、邯鄲さんおひとりでは迷子になってしまいます!
千狐が所領内をご案内しますわ……!!

柳川城
…………い、行ってしまいましたね。

富山城
ま、千狐ちゃんがついてるなら問題はないはずだよ。

富山城
それじゃ、今のうちにボクは、
殿に頼まれていた薬を渡しておくとするかなぁ。

殿
…………!

――こうして、所領の夜はゆっくりと更けていった。

翌日――。

富山城
おはよう、殿。
昨日はよく眠れたかな?

殿
…………。

殿
…………!

富山城
ふふ、その様子だと体調はばっちりのようだね。
ボクの薬の出る幕はなさそうだ。

邯鄲
ん~、私はまだちょっと眠いですぅ……。

富山城
こらこら、邯鄲。キミは昨日しっかりと眠ってただろ?

富山城
同じ部屋で寝たんだから、ボクはちゃんと見てたぞ。

邯鄲
それでも眠いものは眠いんですぅ~。

邯鄲
それに、ここは清浄な気が満ちてますからね。
その気になればず~っと眠ってられそうですぅ……ふぁ~ぁ。

富山城
ともすれば永眠しかねない雰囲気だな……。

邯鄲
それもまた一興~♪

富山城
阿呆なこと言ってないで、顔洗ってきな。
寝惚け眼も、少しはシャキッとするはずだ。

富山城
それともボクが精製した、特製の気付け薬でも使うかい?

邯鄲
副作用とか怖そうなので遠慮しときまぁ~す。

柳川城
ふふ、お二人とも一夜を共にして、すっかり仲良くなられたようですね。

殿
…………。

やくも
――――た、大変がや~! 殿さ~んっ! 千狐が、千狐がぁ~っ!!

殿
…………!?

柳川城
そんなに慌てていったいどうしたのですか、やくもさん?

やくも
それが、千狐のやつ……。

やくも
さっきから全然起きる気配がないんがや!

柳川城
……え?

富山城
起きる気配がないって……。

富山城
もう、寝坊くらいで大袈裟だよ、やくもちゃん。

やくも
け、けど……!
揺すっても頬をぺちぺちしても、ぜんぜん起きないだにぃ!

やくも
それに、千狐だけじゃなくて他の城娘さんたちにも同じ症状が出てるがや!

邯鄲
あ、あの……。

邯鄲
もしかしなくてもそれって――

やくも
――だに! あんたの枕を使った城娘さんたちだにぃ!

邯鄲
がーん……。

富山城
邯鄲……そんな可愛い反応したって誤魔化せる状況じゃないよ。

富山城
どういうことかちゃんと説明してもらうからね。

邯鄲
わ、わかったから怖い顔はやめてよぉ……。

邯鄲
とりあえず千狐ちゃんのところに行こう。
事態の説明と解決策の提示はそこで――。

――所領内の一室。

千狐
すぅ……すぅ……。

邯鄲
うーん。これは……。

邯鄲
見事に爆睡しちゃってますね。

富山城
見ればわかるって……。

富山城
さぁ、どうしてこうなったか説明してもらうよ、邯鄲。

邯鄲
えっとね……、

邯鄲
私のあげたこの枕はね、私が備える業を少し使って作成した代物で、
使用者には、その人にとって心地よい夢を見せてくれるようになってるの。

邯鄲
だから、千狐ちゃんは今、とっても楽しい夢を見ている……。

邯鄲
でも、その夢が、あまりにも心地良いから……。
千狐ちゃんは現実世界に帰りたくないんじゃないのかな。

柳川城
そ、そんな……まさか……。

富山城
けど、確かに起きる気配は微塵もないね。

やくも
だにぃ! 邯鄲、あんたなんて枕を渡してくれたがや!

邯鄲
ひゃぅ――っ! ちょ、ちょっと待ってやくもちゃん……!
怒られても仕方ないのはわかってるけど、トンカチは危ないよぉ~!

邯鄲
そ、それに……これは私にとっても不測の事態なのですぅ……うぅぅ……。

富山城
不測の事態……?

邯鄲
うん……。だってね、こういうふうに目覚めない人がでないように、
私の枕には、ちゃんと夢の終わりが来るように仕掛けがしてあるの。

邯鄲
そもそも『邯鄲の枕』という故事の本意は、
人生の栄枯盛衰の儚さを示すものですからね。

邯鄲
だから、夢世界を気に入りすぎて、どうしても起きたくないって人には、
時間経過と共に、その楽しい夢が徐々に破滅へ進むようにしてあるのです。

柳川城
ちょ、ちょっと怖い仕掛けですね。

邯鄲
でも、それが機能してないということは、
中で何か異常なことが起きてるという証左です……。

邯鄲
考えられるとすれば……。

邯鄲
昨日兜たちと戦った時に、私の持っていた枕に
ヤツらの邪気が混じってしまった……といったところでしょうか。

富山城
冷静な分析は有り難いけど、キミ……。
今さらっととんでもないこと言ったよね。

邯鄲
ですが、保身のために隠し事をしているよりはマシです!

邯鄲
反省はあとでたっぷりします……!
ですから、まずはこの状況を解決するためにも、

邯鄲
元凶となっている邪気を退治しに、出発するとしましょう!

富山城
出発――?
いったいどこに行くっていうのさ……!?

邯鄲
ずばり千狐ちゃんの夢の中にですよ!

やくも
へ……?

柳川城
そんなことができるのですか!?

邯鄲
私は邯鄲ですよ?
夢に関しては城娘の中でも五指に入るほどの専門家なり!

邯鄲
故に、他人の夢に入ることなんてへのかっぱです!

邯鄲
……って言っても、私の作った枕を使用している者以外だと、
失敗することもけっこう多いんですけどね……。

富山城
理屈はいいから!
できるんだったら、さっさと千狐ちゃんの夢の中に行こうよ!

邯鄲
うん! それじゃあみなさん、ご用意を!

柳川城
用意って……あの、何をすればいいのでしょうか?

邯鄲
とりあえず私の近くで寝てくれれば、
あとはちょいちょーいって感じで千狐ちゃんの夢と繋げちゃいます!

富山城
なんとまぁ、曖昧な……。

柳川城
それよりも、そんなにすぐ眠れるのでしょうか?

やくも
さっき目覚めたばかりやし……ちょっと不安やね。

富山城
案ずる必要はないよ。
どうしてもって時は、ボクの調合した睡眠薬を使えばいいんだから!

殿
…………!

邯鄲
それでは皆さん、とりあえず全力で爆睡しちゃってください!

半刻後――。

柳川城
み、皆さん……お待たせして申し訳ありません。

富山城
謝ることないよ、柳川城ちゃん。
結局ボクも薬に頼ることになっちゃったわけだし。

富山城
その点、やくもちゃんは流石だったね。
気づいた時には寝息を立ててたしさ。

やくも
うちは殿さんが隣にいたから、安心して眠れただにぃ♪

殿
…………。

柳川城
(殿のお側にいたから、ドキドキして眠れなかったなんて言えない……)

富山城
それにしても、ここが夢の世界とは未だに信じられないね。

柳川城
ですが、先ほどまで所領内の一室に横になっていたはずですから、
斯様な神社に遷移している時点で夢であることは間違いないかと。

邯鄲
――お~いっ!
みんな揃ってるみたいですねぇ~!

富山城
邯鄲も到着、か……。
これで準備は整ったようだね。

邯鄲
はい! 昨夜、私が枕を渡してしまった城娘の方たちも、皆さんが
いま寝てる部屋に集めましたので、少し時間がかかっちゃいましたが……。

富山城
……よ、よくキミだけで運べたね。

邯鄲
いえ、さすがに私だけでは辛かったので、
こちらの方にもお手伝いしてもらいました!

富山城
……え?

前橋城
殿、みんな。私も今回の夢探索に関しては手伝わせてもらうぞ。

柳川城
――前橋城さん!?

やくも
どうしてあんたも夢の中にいるんかや?

前橋城
実は、古河城のやつも目覚めなくなってしまってな……。
困っていたところに邯鄲が来て事情を話してもらったのだ。

柳川城
そ、そういうことだったのですね……。

富山城
だが、心強い味方が増えたことには変わりないよね。
よし、そろそろ夢の中の千狐ちゃんに会いに行くとしようか!

殿
…………!

――千狐の夢世界。

千狐
コンッ! 一撃必殺なのーっ!!

桃形兜その1
ギャァァアアア――ッ!!

桃形兜その2
ナ、ナンテ強サダ……!
流石ハ最強ノ神娘・千狐!

桃形兜その3
城娘ヨリモ何ヨリモ警戒スベキハ、ヤハリ此奴ダッタカ!

千狐
今さら後悔しても遅いの!

千狐
殿は、千狐が守ってみせるのーっ!!

桃形兜その2
グヘェ――ッ!!

桃形兜その3
――ダバァッ!?

千狐
ふっ、口ほどにも無いヤツらなの。

殿(?)
ありがとう、千狐。
柳川城なんかよりもずっと頼りになるよ。

千狐
ふふ、それは過分な賛辞にございます、殿。

千狐
ですが、この神娘式近接格闘術があれば、
どんな兜が来たって怖くなんてありませんわ!

殿(?)
ふふ、頼もしい限りだ。

やくも
…………。

柳川城
…………。

前橋城
な、何が起こっているのだ……?

富山城
ボクたちの殿はここにいるのに、
どうして千狐ちゃんの隣にも殿が……?

殿
…………?

邯鄲
ここは千狐ちゃんの夢の中ですからね。
彼女の願望がそのまま形になってるんでしょう。

やくも
あ、あれが千狐の願望だっていうんかや?

邯鄲
まぁ、ある程度の脚色や誇張はあるだろうけど、
根本的な願いの質に間違いはないと思います。

富山城
いずれにせよ、このまま夢の中に浸らせておくことはできないよ!
現実世界で殿を助けることこそが、彼女の使命なんだから!

やくも
だに! とにかく近づいて説得しにいくがや!

やくも
おーいっ! 千狐ぉ~!
そろそろ目を覚ますだにぃ!

殿(?)
…………。(ざざっ)

やくも
――え?

殿(?)
悪いけど、邪魔をしないでもらえるかな?

富山城
どういうことだ?
夢の中の住人がなぜ我々に立ちはだかる?

前橋城
こういうことはよくあるのか、邯鄲?

邯鄲
いえ、こんなの普通では起こり得ません……。

邯鄲
夢の中で形成されるモノは、往々にして曖昧な性質を持つと言われています。
だからこそ、これほどまでに確固たる意思をもつ存在がいるということは……。

邯鄲
――そうか。貴方……。
私の枕に忍び込んだ兜たちの邪気ですね。

殿(?)
……フフ。

殿(?)
バレちゃあ仕方ない。

殿(?)
悪いが、きみたちにはここで死んでもらうよ。

柳川城
――なっ!?
あ、あの姿は……!!

兜軍団
外部カラノ侵入者ヲ排除スル。
総員タダチニ武器ヲ執レ――!

富山城
夢の中の殿が、兜に変化した……だと!?

前橋城
あの敵意……戦いは避けられぬようだな!

やくも
殿さん! すぐに出陣の準備をお願いするだに!
千狐を目覚めさせるためにも、ここは負けられないがや!

後半
前橋城

討伐完了――。
こちらに敵意を向ける輩は全て排除できたようだな!

富山城
よし、今のうちに千狐ちゃんのもとへ急ごう!

やくも
おーいっ! 千狐ぉ!

千狐
……あら、やくもじゃない!
もしかして千狐の活躍を見に来てくれたの?

千狐
でも、間が悪かったわね。
ここにいる敵は先刻すべて千狐が八つ裂きにしてやったの!

やくも
――何を訳のわからんことをいっちょーがや!
ここは夢の世界やけん、さっさと起きるだにぃ!

千狐
夢?

千狐
もぉ、何を言ってるんだか。
千狐は最強の神娘にして殿を守護する絶対的存在なのよ。

千狐
それは、貴方だってじゅうぶん理解していることじゃない?

やくも
そげな馬鹿げたもんは、初耳だに!

やくも
もぉ! 言ってもわからんならこうしてやるだに!

千狐
――ふにゃっ!?
ちょ、ちょっと! なにしゅるのよ!
そんなふうにほっぺをひっぱたら、痛――

千狐
――って、あ、あれ?
ぜんぜん……痛く、ない……?

やくも
だに! これでもまだ、現実って言えるがや?

千狐
……ま、まさか……これ、ほんとに……夢なの……?

千狐
あぁ……でも……確かに、そんな気が……うぅぅぅ……。

邯鄲
自己矛盾をしかと認識したようですね。
見てください。千狐さんの身体が薄くなってます。

邯鄲
完全消失によって千狐さんの覚醒――となりますので、
あとは時間の問題かと……。

やくも
なら、後のことはうちに任せて
殿さんたちは次の城娘さんたちの夢ん中に進んでほしいがや。

富山城
ほんとに、任せちゃって大丈夫なの?

やくも
だに! うちが一番、千狐との付き合いが長いけん、
責任もって千狐を目覚めさせてみせるがや!

殿
…………。

柳川城
わかりました。それでは、我々は次の城娘の夢へと進みましょう!

儚き栄華と夢枕 -破-

夢の世界から還ってこない城娘たちを救うため、
殿一行は彼女たちの夢の中へ出立する――。
そして、次に訪れたのは熊本城の夢の世界だった。

前半
――夢世界。

邯鄲
よいしょっ……と。

邯鄲
ふぅ、何とか夢世界の遷移は成功したみたいですね。

柳川城
(邯鄲さん……さらっとやってますが、これって……かなりすごい技なんじゃ……)

富山城
風景としては、どこかのお祭り会場みたいだけど、
邯鄲……ここはいったい誰の夢の中なのかな?

邯鄲
え~っと、確かぁ……。
黒髪の綺麗な城娘さんで、

邯鄲
昨夜お会いした時に『くまったなぁ~』とつぶやきながら、
困り顔を映してらしたので、枕をお渡しした次第です。

富山城
ってことは……。

前橋城
ああ。間違いない。熊本城の夢の中のようだ。
先ほど運んだ城娘のひとりは彼女だったしな。

富山城
となると、何となく内容はわかりそうなものだが……。

柳川城
………………っ!? 
と、殿! 向こうの方から誰かが来ますよ!

熊本城
――こらこらぁ、そんなに慌てないのぉ。
お祭りは逃げたりなんかしないんだから。

肥後千葉城(?)
でもでもぉ~! 
大好きな熊本城お姉ちゃんとお祭り回れるんだもぉん♪

隈本城(?)
私たち、ずっと前から今日という日を待ち望んでいたんですよ。
はしゃぐな、という方が無理というものです!

熊本城
もぉ、本当にふたりはいつまでたっても
お姉ちゃん離れができないんだからぁ。

熊本城
そんなに甘えん坊だと、他の城娘たちに笑われちゃうぞ~?

肥後千葉城(?)
別にいいも~ん。お姉ちゃんと一緒にいられるなら
他の城娘たちからどう思われたって関係ないもん。(ぎゅ~っ)

隈本城(?)
ああっ!? 抜け駆けなんてずるいです!

隈本城(?)
私だってぇ!(ぎゅぅ~っ!)

熊本城
ふふっ……よしよし。
本当に可愛い妹たちなんだから。

富山城
…………。

前橋城
……何と、幸せそうな笑顔だろうか…………。

柳川城
邪魔をしてしまって……いいのでしょうか……?

邯鄲
なら、止めておく?

前橋城
本音を言えば、このまま立ち去りたいところだが……。
彼女ほどの城娘を夢の牢獄に閉じ込めたままにするわけにもいくまい。

邯鄲
では……ここは心を鬼にして声をかけにいきましょう。
これ以上、耽溺してしまっては夢から出られなくなる可能性もありますからね。

殿
…………!

柳川城
熊本城さ~~~んっ!

熊本城
――ん? 
いま誰かに呼ばれたような気が……?

肥後千葉城(?)
そうかなぁ? 気のせいだと思うけど。

隈本城(?)
そうですよ、熊本城お姉ちゃん!
私たちには何も聞こえませんでしたもの。

熊本城
…………。

熊本城
そうね。ふたりがそう言うなら、きっとそうに違いないわ。

柳川城
だ、だめです、殿……!
こちらの声が届きません!

肥後千葉城(?)
…………。

肥後千葉城(?)
ねぇ、ねぇ……そこのひと。
妙な真似はやめてくれないかな?

邯鄲
――っ!?

隈本城(?)
そうですよ。せっかく三人揃って仲良くしているというのに。

邯鄲
私たちに話しかけているということは……。

前橋城
千狐の夢の時と同じく、兜たちの邪気ということか。

富山城
なら……話は早いよ!
悪いけど、夢に巣くう病原菌は退治させてもらうよ!

肥後千葉城(?)
退治……?

隈本城(?)
……それはこちらの台詞ですよ。

殿
…………!?

椎形兜
ダッテ……。

砲撃式トッパイ形兜
熊本城ヲ永遠ニ夢ノ中ニ閉ジ込メルノガ我ラノ狙イナノダカラ。

富山城
くっ……ついに本性を現したな!

富山城
ならば、こちらも――変身だっ!!

砲撃式トッパイ形兜
――ッ!?

富山城
さぁ、ふんどしの締まり具合は万全だ!
兜たちよ、どこからでもかかってこいっ!

後半
富山城

ふふっ……まぁ、ざっとこんなところかな?

邯鄲
すごぉい! 富山城ちゃんって、そんなに強かったんだぁ~!

富山城
薬売りの道中、いやでも兜たちと戦うからね。
これぐらいの強さは会得して当然ってもんだよ。

前橋城
視界にあった敵はすべて一掃したことだし、
これで心置きなく熊本城を説得できるな!

殿
…………!

熊本城
……え? ええ?
ど、どうしてこんなところに、殿たちが?

熊本城
――って、あ、あれ……? 妹たちがいない……っ!?
隈本城ちゃん! 肥後千葉城ちゃん! どこに行っちゃったのぉ!?

富山城
熊本城……。

富山城
キミが妹想いの良き姉であることは知っている。

富山城
そして同時に、理由はよくわからないが、
妹たちから避けられているということもね。

熊本城
さ、避けられているだなんて……!
そんなこと……あ、ありません!

熊本城
皆さんだってご覧になっていたでしょう?
先ほどの私は妹たちから取り合いをされるほどに愛を向けられていて――

熊本城
――で、でも……あれ……お、おかしいな……。

熊本城
私……昨日の夜も、妹たちに怖がられたり、
逃げられたりすることで……すごく悩んでたはず、なのに……。

富山城
そうだよ……。
それが現実のキミなんだ。

富山城
だから、ここでの出来事は……ぜんぶ、夢なんだ、熊本城。

熊本城
うぅぅ……そんな……そんな、ことって……ぐすっ……。

富山城
辛いことかも知れないけど、いつまでもこんなところにいてはいけない。

富山城
さぁ、熊本城。現実の世界に帰るんだ。

熊本城
で、ですが……ここにいれば、私は妹たちと……仲良くして、いられる……。

熊本城
彼女たちから……愛を、向けてもらえるんです……。

富山城
気持ちはわかるけど……。
本当に妹たちのことを考えるのならば、なおのこと目覚めなくちゃいけない。

富山城
キミが永遠の眠りについたと知れば、
妹たちが深い悲しみに包まれるのは想像に難くない。

富山城
そんなふうに現実の彼女たちを傷つけるのが、キミの本意なの?

熊本城
――っ!?

熊本城
そう、ですね……。

熊本城
私……間違っていました!

熊本城
よぉし、待っててね! 肥後千葉城ちゃん! 隈本城ちゃん!

熊本城
お姉ちゃん……どんなに辛くても、現実世界でちゃんと戦うからね!

殿
…………。

前橋城
熊本城の姿が、消えた……。

邯鄲
これで、きちんと熊本城さんも覚醒を果たしたようです。

邯鄲
……ですが、本当に彼女には悪いことをしてしまいました。

邯鄲
現実世界に戻ったら、ちゃんと謝らないと……。

富山城
邯鄲……。

富山城
だいじょうぶ、キミは善意からあの枕を渡したんだ。
きっと、みんな許してくれるさ。

富山城
……って、あれ? ねぇ、邯鄲。
そもそもこの夢の世界の出来事って、現実世界に戻っても覚えていられるの?

邯鄲
そ、それが……。

邯鄲
皆さんがいつも見る夢のように、
おそらくはぼんやりとしか覚えていられないはずです。

富山城
……なるほどね。

富山城
ま、それでもキミが謝りにいくっていうのなら、
ボクも一緒についていくよ。

邯鄲
……富山城ちゃん。

殿
…………。

殿
…………。

柳川城
それでは、次の城娘の夢世界へと向かいましょう。

前橋城
(次は、いよいよ古河城か……)

前橋城
(待っていろ、すぐに私が目覚めさせてやるからな!)

儚き栄華と夢枕 -急-

古河城の夢世界へと辿り着いた殿一行――。
何とか古河城との接近を試みる殿たちだったが、
そこで有り得ざる異形の姿を目の当たりにする。

前半
――古河城の夢世界。

古河城
……。

古河城
…………。

古河城
………………。

???
またひとりで、雪の結晶の研究か?

古河城
……別にいいでしょう、前橋城。

前橋城(?)
…………ほぉ。

前橋城(?)
これは驚いたな。
まさか振り向かずに私の名を口にするとは。

古河城
だって貴方の声だもの。聞き間違えるはずないわ。

古河城
で、遠征の方はどうだったの?

前橋城(?)
ああ。万事ぬかりなく務めを果たしてきた。

古河城
……怪我、してないでしょうね?

前橋城(?)
そんなに心配なら、こちらを振り向いて確かめてみればいい。

古河城
…………いやよ。

前橋城(?)
どうして?

古河城
だって……。

古河城
怖いから。

前橋城(?)
怖い? 古河城……。
いったい何を恐れる必要があるというのだ?

古河城
全部よ。

古河城
貴方はいつだって兜と戦うために遠くに行ってしまう。

古河城
その間、私はただ待つことしかできないのよ……?

古河城
それがどういう意味か、貴方にわかる?

前橋城(?)
……古河城。

前橋城(?)
すまない。そんな言葉を口にさせてしまうとはな。

前橋城(?)
だが、もう心配する必要はない。

前橋城(?)
何故なら私は、今日をもって対兜戦における第一線から退き――

前橋城(?)
――明日からは所領内における文官として、其方と一緒に
雪の研究を手伝うよう殿から言付かっているのだからな。

古河城
そ、それじゃあ、まさか……。

前橋城(?)
ああ。其方の研究が、ようやく殿や他の城娘たちに……。

前橋城(?)
いや、世界に認められたということだ。

古河城
私が……世界に……?

古河城
すごい……夢みたいだわ……。

前橋城(?)
ああ。けれど、これからは何度だって、
斯様に素晴らしき夢が見られるはずさ。

前橋城(?)
そう……私と其方ならば目覚めていながらも、
こうして甘き夢に浸ることができるのだから――

古河城
――きゃっ!? ちょ、ちょっと……前橋城……だ、だめ……っ、

古河城
こんなところで、膝枕……だなんて……んっ…………。

前橋城(?)
いいから……そのまま、私に身を委ねろ……古河城……。

古河城
……ぁ…………。

前橋城(?)
さぁ、次は何をしてほしい?

前橋城(?)
雪の結晶がごとき、その愛らしい唇で……私に囁いてごらん。

古河城
ほ、本当に……何でも、いいの……?

前橋城(?)
もちろんだとも。

古河城
じゃあ……耳掃除、してほしい……かも……。

前橋城(?)
ふふ。そうきたか。

古河城
あ、でも……。

古河城
やさしくしてくれなきゃ、イヤだからね?

前橋城(?)
心得ている……。

前橋城(?)
入れるときは、ゆっくり、優しく――。

前橋城(?)
そうしないと、其方は痛がるからな。

古河城
貴方がいつも乱暴にするのが悪いのよ……。

前橋城(?)
……ふふ。生来の不器用さは己ではどうしようもないものだ。

古河城
でも……嬉しいわ……。

古河城
貴方と、こんなにも穏やかな時を過ごせる日がくるなんて……思ってなかったから。

前橋城(?)
……古河城。

古河城
前橋城……。

富山城
…………。

邯鄲
…………。

柳川城
(……こ、これは…………!)

柳川城
(私たちが見てしまって、よかったのでしょうか?)

前橋城
…………。

前橋城
おかしな話だ。

前橋城
古河城は、いつも私が近くに寄ると鬱陶しそうにするというのに。

前橋城
だが、膝枕か……なるほど。
確かにそのようなことはしてやれてなかったな。

前橋城
それに、研究に勤しむあまり耳掃除する暇もないのだろう……。
現実世界に戻ったら、機を見て私がきちんと綺麗にしてやらねばな。

邯鄲
あ、あの……古河城さんの夢って、
そういう欲求から生じたものではないような……?

前橋城
……え?

邯鄲
あ、いえ……何でもありません。

富山城
こういうことは、当人同士の問題だしね……。

前橋城
……はて?

前橋城
まぁ、いずれにせよ古河城を目覚めさせなくてはな!

柳川城
これまで通りであれば、おそらく敵は――

前橋城(?)
――フフ。
来たわね……前橋城。

前橋城
我が相貌を宿しモノよ……。
悪いが、古河城を返してもらおうか!

前橋城(?)
それは無理な相談だわ。

前橋城(?)
だって、この子はとても寂しがり屋なんだもの。
私がいないと、この子はダメになってしまうわ。

前橋城
……ダメに、なる……だと?

前橋城(?)
貴方がいけないのよ……。

前橋城(?)
貴方が、この子を放っておくから、
ここまで強烈な欲求を心身に溜め込んでしまった……。

前橋城
訳のわからぬことを言いよって……私を惑わさんとする算段か?

富山城
……前橋城、油断しないで…………。
何か、これまでとは様子が違うみたいだ。

邯鄲
あのモノから……何か、得体の知れない強大な気の増幅を感じます……。

柳川城
殿、注意してください!
夢世界の前橋城さんが、姿を変異させていきます!!

前橋城(?)
フフ……クククククッ!

前橋城
――なっ!?

???
前橋城ヨ……貴様ノ愚カサヲ……我ガ裁イテヤロウ……。

前橋城
いったい、何なのだ……あの姿は……!?

柳川城
巨大兜……なのでしょうか?

富山城
けど、あんな見た目の巨大兜は今までに見たことないよ!

邯鄲
……そ、そんな……どうして、『アレ』がここにいるの……!?

富山城
邯鄲、もしかして心当たりがあるのか!?

邯鄲
う、うん……。

邯鄲
あの巨大兜が冠する名は……『呂布』。

前橋城
りょ、呂布だと――っ!?

富山城
呂布って……ほんとに、あの呂布なの!?

邯鄲
はい……中国後漢末期の武将にして、
数多の英雄がひとりとして知られる者の名です。

柳川城
ですが、どうして古河城さんの夢に呂布が……!?

呂布
ククク……此レハ夢……。

呂布
理ヲ求ムルハ……愚者ノ行ナリ……。

呂布
故ニ……語ラント欲サバ……武ヲ示セ……ッ!!

前橋城
くっ……巨大兜がこちらへ向かってくるぞ!!

富山城
あれこれ考えてる暇は無いようだね……。

柳川城
殿、すぐに出撃の準備をお願いします!
ここであの巨大兜を迎え討ちましょう!

後半
呂布

クク……実ニ……良キ戦デアッタ……。

呂布
シカシ……我ハ未ダ……潰エヌ……。

呂布
ヨリ深ク……コノ枕ガ織リ成ス世界ニ……我ハ沈ムノミ……ククク……。

富山城
……き、消えた?

前橋城
あの様子では、倒したというわけではなさそうだが……。

前橋城
いずれにせよ、ひとまず脅威は去った。
……今は古河城のもとへ行かねば!

殿
…………。

古河城
あ、あれ……?
な、何がどうなってるの?

古河城
前橋城が……また、いなくなっちゃった……。

古河城
嘘つき……。

古河城
……いっつもそうやって……いなく、なるんだから。

古河城
私が傍にいてほしい時に限って……貴方は――

前橋城
――何を言ってる、古河城?
私ならばここにいるぞ。

古河城
……っ!?

古河城
前橋城……。
よかった、心配したのよ。

前橋城
ふふ、夢の中だからか。妙に甘えてくるのだな。

前橋城
だが、其方はこんなところにいるべきではない。

古河城
……どういう……こと?

前橋城
ここは其方の夢の世界……。
本来ならば私が在ることのできない場所だ。

古河城
……夢の、世界?

古河城
ふふっ……もう、冗談はやめてよね?
何で私の夢の中の登場人物にそんなことを教えてもらうのよ。

前橋城
うーむ。実は、話すとかなり長くなるのだが――

古河城
――――。

古河城
――――。

古河城
――――はぁぁぁぁああっ!!?

古河城
じゃあ私の夢をみんなに見られちゃったってわけ!?

前橋城
まぁ……そういうことに、なるな……。

古河城
な、ななっ……!

古河城
ってことは、さっきのも……全部……見られちゃったの!?

前橋城
……うむ。

古河城
…………お………………。

古河城
……終わった………………。

古河城
私、もう死ぬしかないわ…………。

前橋城
な、何を馬鹿なことを言ってるのだ!

古河城
だって、私の欲求が貴方にバレちゃったってことでしょ?

前橋城
いいではないか。其方の悩みがわかった今ならば
それらすべてに応じるのも容易くなるというものだ!

前橋城
にしても意外だったぞ、古河城……。
それほどまでに耳掃除をしてほしかったとはな。

古河城
……へ?

前橋城
安心しろ、古河城。他人の耳を掃除した経験は殆どないが、
其方がそこまで所望するというのならば挑戦してみるとしよう!

古河城
…………。

古河城
…………ばか。

前橋城
ん? 何か言ったか、古河城?

古河城
別に……。

古河城
改めて貴方の鈍さを痛感したってだけ。

古河城
(そうよね。前橋城だもん。あんな光景を目にしたって、
こういう認識で止まるに決まってるわよね……ふふ♪)

前橋城
…………?

古河城
なんにせよ、助けに来てくれてありがとね。

古河城
それじゃあ前橋城……。
あとでまた、現実世界で会いましょう。

前橋城
ああ。

柳川城
……古河城さんの姿が、完全に消えましたね、殿。

殿
…………!

富山城
これで、何とか全員、無事に現実世界へ帰すことができたのかな?

邯鄲
…………はい。

邯鄲
けれど、これで全てが解決したわけではありません。

富山城
……先ほどの巨大兜のことだね。

邯鄲
はい……。

邯鄲
あの巨大兜だけは、明らかに他の夢の――

邯鄲
――ううん。他の枕に潜んでいた邪気よりも凶悪な力を感じました。

邯鄲
その証拠に、夢の主がいなくなったというのに、
古河城さんの夢世界は崩れていく気配すら見せません。

前橋城
それほどまでの邪気だ……恐らく、この枕を放置してしまえば、
いずれ現実世界にも災いをもたらすことは間違いないだろうな。

柳川城
では、何としても呂布を討伐しなくてはなりませんね。

邯鄲
ですが、そのためには今よりも深く、
この夢の世界へと潜らねばなりません。

邯鄲
……邪気に満ちたる夢世界の深層となれば、
現れる脅威もこれまでの比ではない……。

邯鄲
となれば、後のことはすべて私が――

富山城
――私が……何さ、邯鄲?

邯鄲
と、富山城ちゃん……?

富山城
もしかして、ひとりでぜんぶ背負い込むつもりじゃないよね?

邯鄲
そ、そうです……そのつもりですよ!

邯鄲
だって、此度の一連の出来事の原因は、すべて私にあるのですから……。

富山城
……たしかにね。

富山城
でも、だからってキミひとりだけを
ボクが行かせるとでも思ってるのかい?

邯鄲
けど、これ以上……迷惑を掛けるわけには……。

富山城
迷惑なんかじゃないよ、邯鄲。

富山城
それにこれは、ボクがしたいからすることなんだ。

邯鄲
……ど、どういうことですか?

富山城
ボクは城娘であると同時に、薬売りを生業としている。

富山城
だからこそ……。

富山城
だからこそ、目の前で苦しんでいる人がいるのを見過ごせるわけない。

富山城
それに、ボクはキミを、あの海辺で助けたんだ。

富山城
だったら、最後までキミの苦しみを取り除かなきゃ、
本当に助けたとは言えない気がするんだ……!

邯鄲
……富山城ちゃん。

邯鄲
もう……私がおとこの子だったら、危うく惚れちゃうところですよ?

富山城
ふふっ。それだけ冗談が言えれば、もう大丈夫そうだね、邯鄲。

富山城
……そういうわけだから。
ボクと邯鄲はこのまま深層へと進むけど、殿たちはどうする?

殿
…………。

前橋城
ふっ……愚問だな、富山城。

柳川城
はい、私たちも最後まで手伝わせていただきます!

殿
…………!

邯鄲
ありがとうございます……殿。

邯鄲
それでは、皆さんの準備が整い次第、
夢世界の深層へと進むことにしましょう!

儚き栄華と夢枕 -絶壱-

――邯鄲にとって所領で過ごす最初の夜。
二人は、宿泊用にあてがわれた一室で
寝る準備を進めて行くのだが…………。

前半
――邯鄲の枕による大事件が起こる日の前夜。

邯鄲
はぁ~、いい湯でしたねぇ♪
あんなに大人数でお風呂に入ったのって初めてかもしれないです。

富山城
ふふ、その様子だとかなり楽しんだようだね、邯鄲。

邯鄲
はい。これもぜーんぶ富山城ちゃんのおかげです!

富山城
ぜんぶって……大仰な物言いだね、邯鄲。
ボクはただ、きっかけをつくっただけだよ。

邯鄲
いいえ、これは過言などではありません。

邯鄲
だって、富山城ちゃんは私の命の恩人ですもの。

富山城
うーん。何だかこそばゆいなぁ……。

富山城
それと……ねぇ、邯鄲。二人きりの時くらいは
そんなふうにご丁寧な話し方はしなくていいんだよ?

邯鄲
では、敬語は極力なしでいきますね!

富山城
言ってる傍から使ってるけど……。

邯鄲
あっ……確かに。

富山城
ふふっ。まぁ、何にせよ無理だけはしないようにね。

富山城
それじゃあ、身体を冷やす前に部屋へ行くとしようか。
殿がボクたちのために一室用意してくれたらしいからね。

邯鄲
おぉ、至れり尽くせりというやつだねぇ~!

邯鄲
それじゃあ、富山城ちゃんと一緒に、出発しんこ~う♪

――富山城と邯鄲にあてがわれた一室。

邯鄲
えへへ、これで――お布団の準備は完了だよぉ!

富山城
たかだか寝床の準備だというのに、キミは実に愉しそうな顔をするね。

邯鄲
だって本当に楽しいんだもん。

邯鄲
人生にとっては睡眠時間がその三分の一くらいを占めてるからね。

邯鄲
睡眠を楽しめずして、人生を楽しむは不可能――!

邯鄲
なぁんて、私は思っちゃったりしてるのー。

富山城
ま、言われてみれば納得な理屈かもしれないね。

富山城
それじゃあ、明日からの人生を楽しむためにも、今日は早めに寝るとしようか。

邯鄲
うんっ♪

邯鄲
――って、富山城ちゃん?
さっきから何してるの?

富山城
ん? 何って、ふんどしを締め直してるだけだけど。

邯鄲
……ふ、ふんどし?

富山城
あれ? 邯鄲、キミはふんどしを知らないのかい?

邯鄲
うん、知らない。

邯鄲
それって、スゴイものなの?

富山城
ふふ、どうやら興味津々のようだね。

富山城
ならば――変身っ!!

邯鄲
――うわ、眩しっ!?

邯鄲
って、何で急に変身してるのぉ!?

富山城
百聞は一見にしかず、さ。
こうすればボクのふんどしがよく見えるでしょ?

邯鄲
ど、どれがふんどしなの?

富山城
この赤いのさ。
どうだい、見事なもんだろ?

邯鄲
……おぉ。たしかに。
赤くて、つやつやしてて……なんか格好いいね。

富山城
そ、そんなにまじまじ見られると、ちょっと恥ずかしいな……。

富山城
あ、そうだ、邯鄲。

富山城
よければ、キミも試してみないかな?

邯鄲
……え?

邯鄲
で、でも……。
私、ふんどしなんて持ってないし。

富山城
それについては心配いらない。

富山城
薬だけでなく、ふんどしも常に数種類用意しているからね。

富山城
そうだな、キミなら……この色なんてどうだい?

邯鄲
ええっ!? これはちょっと……派手すぎるんじゃ……。

富山城
じゃあ、こっちのは?

邯鄲
んー。色は悪くないけど、でも……。

富山城
でも?

邯鄲
やっぱり、いきなりは怖いっていうか……。

富山城
だいじょうぶだ、邯鄲。

富山城
この締め付けと、心地よい刺激を知れば、
キミもすぐにふんどしの虜になるはずさ。

富山城
さぁ、そうと決まればボクが締め方を教えてあげる!
邯鄲、ちょっとジッとしていてくれ――!

邯鄲
――ふゃっ!?

邯鄲
ちょ、ちょっと……待って、待ってよ富山城ちゃん……!
そんな……まだ心の準備が……きゃぁぁあ――っ!

後半
邯鄲

もぉ、女の子にいきなり乱暴するなんてよくないよ、富山城ちゃん!

富山城
うぅぅ……だからって、ここまですることないだろぉ……。

邯鄲
あ……ご、ごめんね。
いきなり服を脱がされそうになったから、つい……。

富山城
いや、こっちこそすまない……。
とりあえず、お互い変身を解こうか。

邯鄲
……だね。

富山城
ただ、誤解してほしくないんだが、寝る前にこうして
ふんどしを締めるのは、健康法のひとつでもあるんだ。

富山城
だから、邯鄲にもその良さを知ってほしくて……。

邯鄲
健康法……?

邯鄲
ふんどし健康法ってことですか?

富山城
そうそう。

富山城
風邪を引く前にはふんどし健康法!
風邪を引いたら富山の薬――ってね。

邯鄲
んー。にわかには信じがたいですが……。

邯鄲
でも、命の恩人の富山城ちゃんが薦めるということは、
ものすっごーい健康法ってことだよね!

邯鄲
うん、いいよ!
私も今日は富山城ちゃんと一緒にふんどし締めて寝るぅ♪

富山城
ほ、本当に――!?

邯鄲
ほんと、ほんとぉ♪

富山城
いやぁ、嬉しいなぁ! まさかこんな形で、
ふんどし健康法の素晴らしさを共有できる日がくるなんて!

邯鄲
……けど、その前にひとついいかな?

富山城
ん? どうしたの、邯鄲?

邯鄲
さきほどのドタバタで、私……汗かいちゃったので……。

邯鄲
また、お風呂……入ってきてもいいかな?

富山城
ああ、なるほどね。
それじゃあボクも付き合うよ、邯鄲。

富山城
それでもって、二人でしっかり身を清めたら、
その時は、お互いふんどしを締めて、ぐっすり眠るとしよう。

邯鄲
は~い♪

こうしてこの日、邯鄲は二度目の湯浴みを経て、
所領内での初夜を富山城と共に過ごすのであった――。

儚き栄華と夢枕 -離-

邯鄲の枕に混じり込んでしまった邪気の浄化――。
その目的を果たすため、殿一行は邯鄲の導きの
もと、ついに夢世界の深層へと進んでいくのだった。

前半
邯鄲

それでは、殿。
皆さんの準備が整ったようですので、そろそろ出発とまいりましょう!

富山城
夢世界の更に深い場所ヘと向かうんだ……。
これまで以上に気を引き締めていかないとね。

前橋城
古河城の夢世界の深層……。
いったい如何な場所なのだろうか。

邯鄲
既に夢の主は現実世界に戻っていますので、
古河城さんに関連する要素は殆ど無いといっていいでしょう。

邯鄲
ですがその代わりに、この夢世界に巣くう邪気が
環境すべてを変革させている可能性は高いです。

柳川城
夢世界に巣くう邪気――。
つまりは、あの『呂布』の名を冠する巨大兜ということですね。

邯鄲
はい……。

邯鄲
こうしている間にも、ヤツはこの夢世界での影響力を強め、
ゆくゆくは現実世界をも脅かす存在となるでしょう。

殿
…………。

殿
…………!

邯鄲
はい……っ!
皆さんのお力があれば、きっとヤツを倒せるはずです!

邯鄲
というわけで、深層へと移動するためにも、
皆さん、まずは私の身体に触れてください!

富山城
え? か、身体に……?

邯鄲
そうです。今までのように他人の夢から夢へと移動するのとは違って、
今回はより深く複雑な場所ヘの遷移となりますからね。

邯鄲
肉体的な繋がりを互いに持つことで、
深層への移動をより確実なものにしたいのです。

前橋城
そういうことならば、私は肩に手を置かせてもらおうか。

殿
…………!

邯鄲
ふふ。これで両肩は前橋城さんと殿の手で埋まりましたね。

柳川城
では、私はこのあたりを――。

邯鄲
んっ……や、柳川城さん……そこ、は……っ!

柳川城
…………?

邯鄲
あ、ぅ……ごめんなさい、おしりのあたりは……ちょっと……。

富山城
おい、急になんてところ触ってるんだよ柳川城!?

柳川城
ちが――違いますっ! 誤解ですっ!

柳川城
私はただ、邯鄲さんの背に触れようとしただけで……。

柳川城
けれどその……思った以上に腰の位置が高かったといいますか……。

富山城
あ……本当だ。
邯鄲、キミけっこう足が長いんだね。(さわさわ)

邯鄲
ふゃ――っ!?

邯鄲
も、もう……!
富山城ちゃんまで変なところさわさわしないでください!

富山城
ご、ごめん……つい……。

邯鄲
まったく……。
うっかりでおしりを触られる身にもなってください!

邯鄲
とりあえず、柳川城さんと富山城ちゃんには、
私の手を握ってもらいます。……いいですね?

柳川城
手ですね……わかりました。

富山城
……うん。これでいいかな?

邯鄲
はい! これでようやく確実な移動ができそうです。

邯鄲
――では、皆さん!
深層部へ突撃ですよぉ~っ!!

――夢世界・深層。

邯鄲
ほっ……なんとか無事に遷移できたようですね!

邯鄲
皆さん、どこか体調に異変が生じてたりはしてませんか?

殿
…………!

柳川城
はい、こちらも特に異常はありません!

前橋城
ふむ……ここが夢世界の深層、か……。

前橋城
ぱっと見たところ、これまでの夢世界と
そこまで大きな違いはないように感じるが……。

富山城
いや、油断しちゃだめだよ前橋城。
あれを見て――っ!!

前橋城
…………っ!?


夢世界ニ……邪気ヲ蔓延サセヨ……。

兜軍団
……チカラヲ蓄エ……現実世界ヲ脅カセ……。

兜軍団
…………憎キ城娘ヲ……滅ボシ尽クスノダ……。

柳川城
やはり、兜たちが大挙しているようですね……。

前橋城
……溢れ出す邪なる気色からも、
これまでのモノたちよりも好戦的であることは間違いあるまい。


――ッ!?

兜軍団
侵入者ヲ検知!

兜軍団
速ヤカニ排除セヨ! 速ヤカニ排除セヨ!

富山城
そんな……!
もうボクたちの接近に気づいたっていうのか!?

邯鄲
ここは今やヤツらの領域ですからね……。
我々のような部外者の気配はすぐに知覚できてしまうのでしょう。

前橋城
こうなってしまった以上は迎え討つしかあるまい!
柳川城、富山城! すぐに戦う準備をするのだ!

柳川城
は、はい……!!

富山城
けど、如何せん数が多すぎるな…………。
この状況では戦力的にこちらが不利なんじゃ?

邯鄲
――心配はいりませんよ、富山城ちゃん!

富山城
……え?

邯鄲
ここまでの戦いにおいては
皆さんにおんぶに抱っこでしたが……。

邯鄲
私だって一端の城娘なれば――、
今こそ我が武を解放する時です!!

邯鄲
ということで、邯鄲――へん、しんっ!!

殿
…………!?

邯鄲
斯様なる事態に陥ったのはすべて私の責任……。

邯鄲
だから今こそ、我が拳技によって罪を償わせてください!

兜軍団
城娘……殺ス……!
……城娘……殺ス……!!

邯鄲
さぁ、いきますよ! たとえ夢の中であろうと、
我が拳に情け容赦は無いと思ってください!

後半
邯鄲

……ふぅぅぅぅぅ。ざっとこんなもんです!

前橋城
おおっ! 激しく見直したぞ、邯鄲!
其方がまさかこれほどまでの武を備えていたとはな!

邯鄲
それほどでもありませんよ、えっへん!

富山城
そうやって、すぐ調子にのる……。

富山城
だいたい、さっきの危なっかしい戦い方は何なのさ!?
大技ばかりを繰り出して、まるでひけらかしじゃないか!

邯鄲
ええ、そうですとも!

邯鄲
だって、それこそが私の狙いなのですから!

富山城
……狙い?
ど、どういうことなんだ邯鄲!?

邯鄲
ここはご存知の通り夢世界の深層であり、
同時に、我々が倒すべき巨大兜が潜む地でもあります。

邯鄲
ですが、ただ戦うだけではヤツには辿り着けない……。

邯鄲
闘争の化身でもある呂布の名を冠する巨大兜を引き付けるには、
純粋かつ圧倒的な闘気を示すことこそが有効な手段なのです!

富山城
そんなことで、本当に巨大兜が――

前橋城
――いや、邯鄲の言う通りかもしれぬ!
その証拠に見よ! 彼方から何か来るぞ!?

殿
…………!?

呂布
――ククク。ヨクゾ……ヨクゾ此処マデ
辿リツイタ……日ノ本ノ城娘タチヨ……。

儚き栄華と夢枕 -結-

ついに姿を現した呂布の名を冠する巨大兜。
夢世界の深層に座する影響で先の戦以上の
力を発揮する強敵に、全霊を以て挑むべし!

前半
呂布

――ククク。ヨクゾ……ヨクゾ此処マデ
辿リツイタ……日ノ本ノ城娘タチヨ……。

前橋城
呂布――っ!
ついに姿を現したな!!

富山城
くっ……発する霊気が、
前に戦った時よりも格段に強くなっているなんて……!

邯鄲
夢世界にて生じた存在ですからね……。
現実と乖離するほどにヤツは強くなるのです。

邯鄲
だからこそ、これ以上深部へとヤツを潜らせる訳にはいかない……。

邯鄲
力を蓄え、現実世界のものたちを傷つけさせないためにも、
ここであの巨大兜を討伐せねば……!

柳川城
参りましょう、殿……!
我々の全力を以て、あの巨大兜を倒すのです!

殿
…………!

呂布
サァ……来ルガ…………イイ……。
此処ナラバ……邪魔ハ入ラヌ……

呂布
存分ニ……汝ラノ闘志ヲ解放シテミセヨッ!!

後半
柳川城

――皆さん、ここが正念場です!
攻撃を一点に集中させてください!

前橋城
わかっている――!
富山城っ! 其方も霊気を解放するのだ!

富山城
言われなくとも、そうするつもりさ……っ!!

呂布
ム……ッ!?

柳川城
――巨大兜の後退を確認しました!

富山城
邯鄲、いまだっ!!

邯鄲
呂布よ……!
この一撃で、終わりとしましょう!

邯鄲
せやぁぁぁぁあああっ!!

呂布
――グッ、ガァァァァアアアッ!?

前橋城
やったか……!?

邯鄲
…………。

邯鄲
…………っ!?

呂布
ククク……実ニ愉シキ……戦ダッタ……。

呂布
ダガ……コレデ終ワリ……デハ、ナイ……。

呂布
我ハ再ビ……汝ラノ前ニ……現レン……。

呂布
其ノ時、マデ……憎悪ト邪気ヲ……蓄エ続ケルノミ…………――――。

柳川城
……りょ、呂布の身体が……消えた!?

富山城
なにが、どうなってるの……?

前橋城
完全にヤツを滅ぼすことはできなかったと……そういうことなのだろうか?

邯鄲
残念ながら……そのようです。

邯鄲
ですが、巨大兜の形を保てぬほどにヤツの邪気は弱まり、
我が枕の裡に存在が四散していったことは間違いありません。

邯鄲
その証拠に、ご覧ください……。
夢世界が崩壊を始めています。

前橋城
な、何だこれは……!
景色が出鱈目なものへと変じているぞ!?

柳川城
地面もぐにゃぐにゃとうごめいていますし……。
本当に夢世界自体が壊れようとしているのですね!

富山城
わっ、わわっ……!
ちょっと邯鄲……これ、ホントに大丈夫なの!?

邯鄲
さすがにこのまま留まってしまっては、
我々も夢世界の崩壊に巻き込まれてしまいます!

邯鄲
すぐに現実世界への移動を開始しますので、
ここに来た時と同じように私の身体に触れてください!

殿
…………!

前橋城
うむっ! 我々は肩だったな!

柳川城
では私たちは――

邯鄲
――おしりへのお触りはダメですからね!

柳川城
わ、わかってますって……!

富山城
ほら、冗談言ってないで手を繋ぐんだ!
ぐずぐずしてると空すらも落ちかねないよ!

柳川城
は、はい……!

邯鄲
……大丈夫ですね?
皆さん、ちゃんと私と繋がってますね?

殿
…………!

邯鄲
それでは――いきますよぉ!!

殿
…………!!

――現実世界・所領。

殿
……。

殿
…………。

殿
………………。

殿
……………………!?

柳川城
殿! よかった、お目覚めになったのですね!

やくも
これで夢ん中に入っていった全員が目覚めたってわけやね!

殿
…………。

殿
…………?

富山城
そうだよ、殿。
キミが最後に目覚めたんだ。

前橋城
といっても、我々もつい先ほど目を覚ましたばかりだがな。

殿
…………?

邯鄲
枕を使用した城娘たちはどうなったのか、ですか?

邯鄲
それでしたら、こちらに――。

千狐
…………むにゃむにゃ……。

熊本城
…………くまくま……。

古河城
…………すやすや……。

殿
…………。

殿
…………?

邯鄲
そうです。まだ皆さん、目を覚ましてはいません。

邯鄲
ですが、夢世界での我々の行動の結果として、
じきに彼女たちに目覚めの時は訪れるでしょう。

殿
…………!

邯鄲
ええ……こうした時間差が生じるのは、
我々が意図的に夢世界へと遷移した所為です。

富山城
言わばボクらは目覚めながらにして夢を見ていたわけだから、
実際に夢を見ていた千狐ちゃんたちと
覚醒の速度が同じになることはないんだってさ。

殿
…………?

前橋城
私も少し理解が足りていないのだが、
要するに夢から現実へと意識が浮上するには
けっこうな時間が必要なんだとか……。

邯鄲
改めて説明しますと……殿は体感として夢世界での出来事を
一週間以上の時間の流れと認識しているかと思いますが、

邯鄲
実際に現実の世界で経過した時間は、千狐さんの
夢世界へと飛び込んだ時点から半刻も経っていないのです。

殿
…………!?

邯鄲
そうです……私の枕の中で見る夢は特に時間の進みが早いですからね。

邯鄲
『邯鄲の夢』という故事の同義として
『一炊の夢』などという言い回しもあるためでしょうか。

邯鄲
どれほど私の夢世界で行動をしようとも、
結局は一度炊ぐ程度の時間しか経過することはないのです。

殿
…………。

前橋城
ああ、何とも信じられぬ話だ。

前橋城
……だが、こうした時間経過のズレを利用して、
夢世界で修行をつめば、現実の世界での修行よりも
効率的に成果を出せるのではないだろうか?

邯鄲
そ、そういう発想をしたのは前橋城さんが初めてかもです……。

邯鄲
とはいえ、当分は私の枕を使用するのは禁止としましょう。
……此度のように迷惑をかけてしまっては面目が立ちませんからね。

千狐
…………んっ。

熊本城
く……まぁ……?

やくも
――あっ!?
千狐と熊本城が目を覚ましたみたいがや!

千狐
……あ、れ?

熊本城
ここ……は?

殿
…………。

殿
…………!

千狐
えっ!? えええっ!?
ど、どど、どうして殿が千狐の部屋に!?

千狐
――って、あれ? ここは……広間?

熊本城
おかしいですね……私、ちゃんと自室で寝たはずですが……。

熊本城
あ、いや……待てよ? 

熊本城
昨夜もお酒を飲んでいましたし、また深酔いして
変なところで寝入ってしまった可能性も……。

殿
…………!

――そこで殿は、
千狐と熊本城に対して事の顛末を語って聞かせた。

千狐
そ、そのようなことがあったとは……。

熊本城
夢世界、ですか……。

熊本城
うーん、何とも不思議な話ですね。

邯鄲
ごめんなさい、千狐ちゃん、熊本城さん……。
私の枕のせいで酷い目に遭わせてしまって。

熊本城
…………。

熊本城
ふふ、大丈夫ですよ、邯鄲さん。
今回の件に関しては、何もお気になさらないでください。

熊本城
実を言うと、夢の内容は殆ど覚えていませんし、
イヤな思いをしたという認識も全くないですからね。

千狐
……というより、むしろ昨夜よりも
気分が晴れやかになったというか。

千狐
何か良い夢を見たな、という感慨すらあるほどですわ。

邯鄲
……ほ、本当ですか?

千狐
はい。だから、そのように悲しげなお顔はなさらないでください。

熊本城
そうですよ! 邯鄲さんの枕のおかげで、
この通りいつもより目覚めもスッキリとしてますし!

熊本城
いまなら、妹たちに怖がられたり、逃げられたりもせずに
しっかりがっつりお話できそうな気もしちゃってますから!

邯鄲
……千狐ちゃん、熊本城さん。

前橋城
ふふ……どうやら、
夢世界での心配はすべてお前の考えすぎだったようだな。

前橋城
では、私は古河城を自室に連れて行くとしよう。
ここで目覚めるよりも混乱せずに済みそうだしな。

富山城
……あ、ちょっと待って前橋城!

前橋城
ん……?

富山城
もし昼頃になっても目覚めなかったら、ボクを呼んで。
……イイ感じの気付け薬を分けてあげるからさ。

前橋城
心遣い痛み入る。まぁ薬に頼らないのが一番なのだが、
もしもの時は其方の力を借りるとしよう。

前橋城
では、失礼するぞ、殿。

殿
…………。

――昼頃・所領。

千狐
よし……これで処置は終わりですわ。

邯鄲
ありがとう、千狐ちゃん。

邯鄲
それにしても、まさか所領にこんなところがあるなんて……。

邯鄲
でも、本当にここに枕を封印して大丈夫なのでしょうか?

千狐
はい。所領内において最も清浄なる地の一つですからね。

千狐
それに、先ほど調べた限りでは、邯鄲さんの枕からは
すでに強力な邪気を感じることはできませんでした。

千狐
なのでここまでする必要は、あまり無いように思うのですが。

富山城
……そう思うのも無理はないね。

富山城
けど、古河城の使ったその枕だけは、
まだ警戒を解くべきではないと思うんだ。

邯鄲
力を弱めた邪気ではありますが、何かの拍子で
再び活性化する可能性は零ではありませんからね。

邯鄲
いずれ然るべき時に、適切な力を備えた城娘と共に、
この枕の処分をさせていただく所存ですので……。

邯鄲
どうかその時まで、ご協力を願えればと存じます……。

殿
…………!

千狐
そういうことならば、千狐も異存はありませんわ。

千狐
責任を持って管理いたしますので、ご安心ください。

邯鄲
……ありがとうございます、千狐ちゃん。

邯鄲
そして同時に、改めて謝らせてください、殿……。

邯鄲
此度の一件……。
本当に申し訳ありませんでした。

邯鄲
如何な処罰をも、受け入れる覚悟です……。

殿
…………。

邯鄲
…………。

殿
…………。

殿
…………!

邯鄲
え……?
謝らないでほしい?

殿
…………!!

柳川城
そうですよ、邯鄲さん。

柳川城
禍福は糾える縄の如し――というには些か異なるかもしれませんが、

柳川城
邯鄲さんの枕を使った方々は皆、
幸不幸でいえば幸を享受したと口にしているのですから。

邯鄲
……ほ、本当でしょうか?

富山城
うん。本当だよ、邯鄲。
だって現に今この時、この所領内において――

富山城
――キミの枕に因って生まれた幸福を
しかと噛みしめてる城娘がいるんだからね。

――同時刻・所領内。

前橋城
どうだ、古河城……。

前橋城
けっこう深くまで入ってしまってるが、痛くはないか……?

古河城
……ん。これくらいなら、まだだいじょうぶ――

古河城
――って、あ、そこ……!
すごく、気持ちいい……かも……ふ、ぁあ……っ。

前橋城
こら。じっとしていないと変なところを傷つけてしまうぞ?

古河城
でも、これ……奥の方、なんかゾクゾクってして……んんっ……。

古河城
はぁ~。

古河城
……それにしても、どうして急に耳掃除なんてしてくれる気になったの?

前橋城
ん……?

前橋城
……ああ、そうか。
其方は覚えておらぬのだな。

前橋城
実はな――。

前橋城
夢を、見たのだ。

古河城
……夢?

前橋城
そう。其方の夢を、な。

古河城
…………。

古河城
そ、そう……なんだ。

古河城
(前橋城の夢に私が、ねぇ……ふふ♪)

前橋城
…………。

前橋城
(――繊細な古河城のことだ。私が其方の夢に深く立ち
入ってしまったことを知れば、傷つけてしまうに違いない……)

前橋城
(邯鄲の一件についての話はしたが、それは必要最低限の事柄のみだ)

前橋城
(少し前の私ならば、こうしたことに気を配れなかったのだろうが……)

前橋城
これも後見人として、私も少しずつ成長している証左なのだろうな。

古河城
……ん? 何か言った、前橋城?

前橋城
いや。

前橋城
たとえ夢のように儚き一瞬だとしても……こうして其方と、
穏やかなる時を過ごせることが嬉しいと、そう思っただけさ。

古河城
……んー?

変な前橋城――。

そんな言葉を小さく口にした古河城ではあったが。

朧となった嘗ての夢と、優しげなこの現世とが、
奇妙に重なるのを覚えた所為か――。

その秀麗な相貌には、透き通る程の可憐な笑みが、
朗かに湛えられていたのであった。

儚き栄華と夢枕 -絶弐-

――邯鄲が領内の一員となってから数日後。
其の日も彼女は、なかなか起きることができずに、
布団の中に身を隠していたのだが…………。

前半
――邯鄲が所領内で生活するようになってから数日後。

邯鄲
……んん…………むにゃ…………。

邯鄲
……すぅ……すぅ……………。

邯鄲
えへへぇ…………それほどれもないれすよぉ……むにゃむにゃ…………。

???
――いっ!
邯鄲……そろそろ――――かっ!

邯鄲
むにゃぁ……だれかが、わたしのこと…………呼んでるようなぁ……。

邯鄲
あぁ……でもこれはぁ…………気のせい、かぁ…………すぴー……。

富山城
――気のせいじゃないってば!
邯鄲、いい加減に起きなよ!

邯鄲
あぁぁ……富山城ちゃんかぁ……ふ、ぁ……。

邯鄲
んんぅ……もう半刻だけ……寝かせてぇ……むにゃぁ……。

富山城
どんだけ眠る気なのさ!
もうとっくに所領内のみんなは朝餉を食べ終わってるんだぞ!

邯鄲
……でもぉ…………昨夜は、富山城ちゃんが
なかなか寝かせてくれなかったからぁ……。

富山城
ひ、人聞きの悪いことを言わないでよ!
ボクよりもずっと先に寝てただろう、キミは!

邯鄲
……そう、だったかなぁ…………?

邯鄲
でもさぁ、お布団のなか……ぬくぬくしてて……すごく気持ちいいんだよぉ……。

邯鄲
……ほらぁ……富山城ちゃんもぉ……こっちにおいでぇ……。

富山城
――え、ちょっと……うわぁっっ!?

邯鄲
えへへ……富山城ちゃん、ふかふかしてて……すっごくイイ匂い……。

邯鄲
これで……夜まで、ぐっすり寝られるよぉ……むにゃにゃぁ~ん……。

富山城
こ、ら……抱きつきすぎだって……!

富山城
もぉ! いい加減にしないと怒るよ!?

邯鄲
……すでにけっこう……怒ってる気がぁ…………。

富山城
わかってるなら、さっさと起きてよ!
ボクだって今日はやらないといけないことが沢山あるんだから。

邯鄲
やることってぇ……?

富山城
昨日から風邪で寝込んでる城娘に薬を届けたりとか、
殿の腰痛に効く薬を作ってあげるとか……いろいろあるの!

邯鄲
なるほどねぇ…………。

邯鄲
………………。

邯鄲
じゃあ、そういうことなら私の影武者にやらせればいいよぉ~。

富山城
……は? か、影武者?

富山城
キミ、そんなのいたの……?

邯鄲
うん。いるよー。
ほら、影武者ちゃん出ておいでぇ~。

邯鄲(影武者・壱)
ニーハオでーす!
トヤマジョーさーん!

富山城
な…………っ!?
邯鄲が、ふたりいるぅぅ――!?

邯鄲
まだまだこんなもんじゃないよぉ。
ほらぁ、もっともっと出ておいでぇ~。

邯鄲(影武者・弐)
チューツー ジィエンミィエン♪
(はじめまして♪)

富山城
ひぃぃ――っ!?
がっつり異国の言葉つかってきてるぅぅ!!

邯鄲(影武者・参)
ハァ、ハァ…………チン……デゥオ……グアンジャオ……。
(はぁ、はぁ……よ、よろしく……お願いします……)

富山城
キミにいたっては、なんでいきなり大破してるのさぁぁぁああああ!!

柳川城
どうしたのですか、富山城さん!
何かいま、物凄い悲鳴が――

柳川城
――って、何ですかこれは!?
邯鄲さんが、たくさん――えっ? えええっ!?

邯鄲
わぁ、柳川城ちゃんも来たぁ~!

邯鄲(影武者・壱)
ニーハオ!
(こんにちは!)

邯鄲(影武者・弐)
チューツー ジィエンミィエン♪
(はじめまして♪)

邯鄲(影武者・参)
ハァ、ハァ…………チン……デゥオ……グアンジャオ……。
(はぁ、はぁ……よ、よろしく……お願いします……)

柳川城
――きゃぁああああああっ!? と、殿ぉ! 
所領内に不審者がぁ! た、助けてくださいぃぃい!!

後半
邯鄲

――…………えへへぇ♪ どぉ~お? 
私の影武者ちゃんたちってば、すごいでしょぉ……むにゃむにゃ……。

邯鄲
…………。

邯鄲
………………。

邯鄲
……………………って、あれ?

邯鄲
ここ、は……?

邯鄲
……。

邯鄲
…………海、ですよね?

邯鄲
………………うーん。

邯鄲
……浜辺で、寝てたのでしょうか、私?

邯鄲
………………。

邯鄲
……おかしいな。

邯鄲
前にも、こんなことがあったような気が…………。

邯鄲
…………。

邯鄲
………………。

邯鄲
いや……いやいやいや……。

邯鄲
……ちょっと待ってください。

邯鄲
これってもしかして今までのがぜんぶ夢だったとかっていう――。

???
ひ、人が倒れてる――っ!?

邯鄲
……こ、この声!?

邯鄲
それにこの台詞は……まさか!?

富山城
もし、大丈夫かい?
ボクの声が聞こえるなら、返事をしてくれ!

邯鄲
と、富山城ちゃん!?

富山城
……え?

富山城
何でボクの名前を知ってるの……?
もしかして、前に会ったことあったっけ?

邯鄲
…………あ。

邯鄲
あわわわわわっ!!

邯鄲
だ、だめですよ、こんなの……!

邯鄲
貴方と会った時から今までのが、ぜんぶ私の夢だったとか……。

邯鄲
そういうのは、予知夢だったとしても……
ぜったいやっちゃダメな――

富山城
――ぷっ、くくくく。

邯鄲
……へ?

富山城
あはははははっ!
もう、なんだいその顔は、邯鄲?

邯鄲
……か、邯鄲って。

邯鄲
私のこと……ちゃんと、わかるの……富山城ちゃん?

富山城
当たり前だよ。

富山城
だいたい、この浜辺まで連れてきたのはボクなんだからさ。

邯鄲
…………え?

富山城
せっかく今朝もボクが起こしに行ったのに、
キミときたらいつまでたっても目覚めやしないし、

富山城
あまつさえボクを布団の中に引き込み始める始末だからさ。

富山城
いい加減、その寝坊癖を直すために、
少し灸を据えなくちゃって思ってね。

邯鄲
……な、なな…………!

邯鄲
ひどいですよぉ、富山城ちゃん!

富山城
まぁまぁ。そんなふうに怒るのもわかるけど、
毎日眠りすぎてるキミだって悪いんだぞ?

邯鄲
むぅ……。

富山城
……むぅ。

邯鄲
――ぷっ、ふふふ。

富山城
あはははは――。

邯鄲
……はぁ。それにしても、

邯鄲
こうして、
初めて貴方と出会った場所にくるなんて不思議な感じです。

邯鄲
本当に、これまでのことが夢だったのかもしれない……なんて。

邯鄲
そう思ってしまうほどに……今日は、空が遠く……蒼い……。

邯鄲
ねぇ、富山城ちゃん。

富山城
……どうしたの、邯鄲?

邯鄲
えっと、ね……。

邯鄲
貴方が生きている現実が、
誰かの夢の世界だったら……どうする?

富山城
……それって、何かの謎掛け?

邯鄲
ううん。単純な……もしも、の話です。

富山城
…………そう、だなぁ。

富山城
別に、誰かの夢想した世界であっても
ボクはそこまで気にしないかな。

邯鄲
……どうして?

富山城
だって、現にボクはこうして
自分が生きているということを実感できてるし。

富山城
それに……キミという友に、
こうやって触れることができているわけだからね。

邯鄲
……ん。

邯鄲
どうしてほっぺをつまむのですか?

富山城
今いる世界が、夢じゃないって教えるため。

邯鄲
……それじゃあ。

邯鄲
お返しです♪

富山城
ふぇ……?

邯鄲
ふふ、富山城ちゃんのほっぺ、すっごく柔らか~い♪

邯鄲
ああ……このプニプニが、
私にとっての現実感なのかもしれない。

邯鄲
……なぁんて。

富山城
うーん。
やられてる本人からするとあんまり嬉しくない感覚だけどね。

富山城
……でも、まぁ。

富山城
この世界が夢だろうが現実だろうが、
結局のところそれは些末なことなんだよ。

富山城
だってさ、ボクも前橋城も古河城も――

富山城
――それに、あの柳川城もさ、

富山城
ずっと輝かしき夢の中で生きてるんだから。

邯鄲
輝かしき……夢?

富山城
そう。

富山城
それは、殿が見ている夢――。

富山城
天下泰平の世を創るという壮大な夢さ。

邯鄲
……なるほど。そうきましたか。

邯鄲
でも、もし……その夢が醒めてしまったら――。

邯鄲
ううん、違う。夢は醒めるものではなく、
正確には終わってしまうものだから……。

邯鄲
もし、殿の見ている夢が終わってしまったら、
……富山城ちゃんは、どうするの?

富山城
そんなの、答えはわかりきってるよ……。

富山城
夢の終わりは、別の夢の始まりを意味するものでもある。

富山城
だからボクは、平和になった世界で、また新しい夢を見るだけ。

富山城
これ以外の答えが他にあるかい、邯鄲?

邯鄲
…………。

邯鄲
……富山城ちゃん。

邯鄲
その考え、とっても素敵だと思う。

富山城
う……。
真面目に返されると小恥ずかしいんだけどなぁ。

邯鄲
いいじゃないですか。真面目な話をしてたんだから。

邯鄲
けれど、なるほど……。
うん。そういう考えのもとでなら私も頑張れる気がする!

富山城
お、珍しくやる気を見せたね、邯鄲。

富山城
だったら、明日からはちゃんと早起きしてもらうからね?

邯鄲
……えぇ、それとこれとは話が違うよぉ!

富山城
…………。

邯鄲
あ、うぅぅ……わ、わかったから、そんな怖い顔しないでぇ。

邯鄲
じゃあ、富山城ちゃんが毎朝起こしに来てくれるなら……。

邯鄲
それなら私、頑張って起きる……で、いいかな?

富山城
はぁ。結局、ボク頼りなのは変わらないのか……。

富山城
ま、今はそれで良しとしよう。

富山城
それじゃ、おいで邯鄲。
いつまでも砂浜に寝転がってたら一日が終わっちゃう。

富山城
今日はまだまだ、
やらなくちゃいけないことがいっぱいあるんだからさ。

邯鄲
……うん!

返事とともに、富山城が差し伸べた手にゆっくりと触れてみせる――。

然うして邯鄲は、温かくも鮮やかな友の感触を経ることで、今の己が
間違いなく目覚めの朝に在るのだということを、強く実感するのだった。



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]佐和山城……また来たのね、あなた。足を運んでくれたところ悪いけど、面白いものは何も見れないわよ?相変わらず、大坂城様のらいぶに向けて、準備をしているだけだもの。……ん、なに?『なぜ、そこまで大坂城様...

[裏]伊勢長島城

]伊勢長島城も~、なんなのあいつら!信じらんない!寄ってたかってライブの邪魔をして!いったいどこから情報が漏れたの?もしかして、殿じゃないでしょうね……!?……そんなわけないか。あたしは、あんたにな~...

[花嫁衣装]鹿児島城

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[花嫁衣装]鮫ヶ尾城

]鮫ヶ尾城はあ……春日山城サマの祝言、想像するだけでドキドキしてしまうっす!ね、ちびサマ~♪……ん?どうしたっすか、トノ?えっ、『主城のことより自分はどうなのか』っすか……?うぐ……これは痛いことを言...

[花嫁衣装]許昌城

]許昌城うーん……。ううーん……。……おや、殿か?すまない、考え事をしていて来訪に気づいていなかった。この間、殿と話してから、結婚に関して城娘達と話をしたのだ。繁栄という目的へ至る手段としての婚姻……...

[花嫁衣装]萩城

目次1 性能1.1 特技1.2 [改壱]特技1.3 計略2 画像3 ボイス4 イベント4.1 イベント14.2 イベント24.3 イベント3性能< [花嫁衣装]チャンドラ・マハル - [花嫁衣装]新田...

[花嫁衣装]秋田城

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[花嫁衣装]春日山城

]春日山城うーん……。……うーん? ……うん?……殿?すみません! お越しいただいていたのに、今の今まで気づかずにいて!実は先日、坂戸城と謙信公の昔話をしてたのですが、その際、跡継ぎの話題が出たのです...

[花嫁衣装]新田金山城

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