ストーリーテキスト/乙女は純白を帯びて

乙女は純白を帯びて[]

乙女は純白を帯びて -序-

『殿どんにお見せしたいものがありますの』
そんな文言が記された招待状を手に鹿児島城の許
へ向かう一行だが突如、叫び声が響き渡り――？

前半
――薩摩国・鹿児島城周辺。 やくも ――それで、千狐？ 鹿児島城の御城は、この辺りであっとるだに？ 千狐 ええ、あと少しで見えてくるはずよ。 柳川城 届いたお手紙には『殿どんにお見せしたいものがありますの』と、 書かれていましたが……いったい、 どのような催しを準備しているのでしょうか。 殿 …………！ やくも だに！　到着してからのお楽しみ、ってことがや！ やくも 鹿児島城が楽しい催しを用意して待っとるってことは、 間違いないんやし、急いで―― ？？？ ギャー！？　殺サレルーーー！！ 殿 …………！？ やくも …………だに？ 千狐 今の叫びは、いったい……？ 柳川城 状況は分かりませんが、 ただ事でないことは間違いありません……急ぎましょう！ ―――― 鶴丸城 ……お前。 自分が何をしたか、分かっているんだろうな？ 桃形兜 分カッテル、分カッテルヨ！ ダカラ一旦、ソノ槌ヲ下ロシテ……！ 鶴丸城 …………否。 鶴丸城 交渉の段階はとうに過ぎ去った。 思い知るがいい……お前たちは、虎の尾を踏んだのだ。 鶴丸城 この怒りが収まるまで、付き合ってもらうぞ……。 桃形兜 ヒ、ヒイイィィィッ！ 殿 …………。 やくも 鶴丸城……なんだか凄く怒っとるだに……。 柳川城 兜の姿もありますね。 交戦中――と言って良いのかはわかりませんが……。 千狐 それに、周囲にも多数の気配が感じられます……！ 殿 …………！ 柳川城 承知しました！ 鶴丸城さんに助力いたしましょう、すぐに！
後半
鶴丸城 力を貸していただいたこと、感謝いたしますの。 ……殿、それに皆さんも。 やくも どういたしまして、と言いたいところやけど、 鶴丸城一人でも充分なように見えたがや……。 鶴丸城 いいえ、そんなことはございません。 実は今……わたくしたちの御城で、 大変なことが起こっているんですの。 鶴丸城 猫の手、は要らないですが……。 ちょうど助けが欲しいと思っていたところだったのですわ。 殿 …………！ 千狐 ええ、もちろん協力いたします！ 早速、事情を聞かせていただけますか？ 鶴丸城 ありがとうございます。 ……それでは説明いたしますわ。 鶴丸城 実は――ああもう、思い出すのも忌々しい。 どうしてわたくしはあの時、 姉様から意識を逸らしてしまったのかしら……。 鶴丸城 姉様の魅力に誰かが目を付けることなど、 容易に想像できたじゃない。 なのにわたくしは、蟻の行列を見つけたくらいで―― やくも 鶴丸城……説明、説明だに……！ 鶴丸城 ……ごめんなさい。お話に戻りますわ。 鶴丸城 実は……わたくしの姉様、鹿児島城なのですが、 兜に連れ去られてしまったのです……！ 殿 …………！ 柳川城 なんと……！ 鹿児島城さんが、兜に……？ 鶴丸城 気づいた時にはもう、姉様の姿は無く……、 兜の気配の残滓だけが感じられる状況。 わたくしはその後を追って、今に至っているのですわ。 やくも 兜さんが城娘を連れ去るって……目的はなんなんだに？ やっぱり、瘴気を使って―― 鶴丸城 そんなの分かりきったこと！ 姉様を我が物とするために決まっています！ 千狐 鹿児島城さんを、我が物に……？ 鶴丸城 美しく、慎ましやかで、清らかで……。 そんな姉様の魅力が、仇となってしまったのですわ。 鶴丸城 兜ども……許せない。 連れ戻すだけでは、わたくしの気はすみません……。 鶴丸城 一体残らず、痛みつけて……すり潰してやらなければ……。 殿 …………。 殿 …………！ 千狐 そ、そうですね！　とにかく、先を急ぎましょう！ 千狐 兜の気配を追うことなら慣れたもの！ 千狐にお任せください！ 柳川城 ええ！　その先に兜の本陣……、 ひいては、捕らえられた鹿児島城さんもいらっしゃるはずです！ 鶴丸城 ありがとう、皆さん。 このお返しは事態が落ち着きましたら、必ず……！

乙女は純白を帯びて -破-

時を同じくして、鹿児島城の御城へ向かっていた
二条亭はその途上で、何者かから逃げ惑う桃形兜の
姿を目撃する。兜の呟きに耳を澄ましてみると……？

前半
殿一行が兜の後を追いかけているのと、時を同じくして―― 二条亭 ……ふぅ。 鹿児島城ちゃんの御城まで、あと少しね。 二条亭 それにしても……。 花嫁衣装に身を包んで、殿を驚かせようだなんて。 ふふ、鹿児島城ちゃんも面白いことを考えるのね♪ 二条亭 殿とお話しするのは、これが初めて。 二条城ちゃんから度々話は聞いていたけど、どんな殿方なのかしら。 到着の時が待ち遠しいわ♪ 二条亭 これからのことを思うと、 足取りも知らず知らず、速くなって―― ？？？ ウウ、不味イ……コノママジャ捕マッチャウヨ……。 二条亭 …………？ 二条亭 （今の声は……？） 桃形兜 鶴丸城……ナンテ恐ロシイ城娘ナンダ。 マサカアイツ、本当ニボクタチヲスリ潰スツモリジャ……。 桃形兜 ダ、ダカラボクハ言ッタンダ……。 城娘ヲサラッタリナンカシテモ禄ナコトニナラナイヨ、ッテ……。 桃形兜 主ノ考エナンテボクニハ及ブハズモ無イケド、 鹿児島城ヲ手中ニ収メテ……イッタイドウスルツモリナンダロウ……？ 二条亭 （手中に収めた……鹿児島城ちゃんを、兜が？） 二条亭 …………。 二条亭 （これはどうやら、大変なことが起こっているみたいね……） 桃形兜 ヨシ、休憩ハココマデダ。 本陣ニ向ケテ出発ヲ―― ？？？ ――ねぇ、ボク？ ちょっと、お姉さんの話を聞いてくれる？ 桃形兜 ――――ッ！？ 二条亭 ふふ……こっちよ、ボク……。 二条亭 ねぇ……お姉さん今、 ちょっと悩み事があるのだけど……、 力を貸してくれないかしら？ 桃形兜 （シ、城娘……） 桃形兜 （ケド、奴以外ニ姿ハ見エナイ……単独行動ミタイダ） 桃形兜 （ソレナラ、争イハ避ケ……コノ城娘ヲ撒クコトダケ考エヨウ） 桃形兜 （大丈夫……大丈夫サ。コノ城娘、ナンダカ優シソウダシ。 　槌ヲ振リ回シナガラ追ッカケテクル、アノ城娘ニ比ベタラ全然――） 二条亭 ――ボク？　私の声、聞こえてる？ 無視されてしまうなんて、お姉さん悲しいわ。 桃形兜 エ、アア……ゴメン。 チョット、考エ事ヲシテイテ……。 二条亭 もう、仕方のない子ねぇ。もう一度言うわよ？ ……お姉さん、道案内をしてほしいの。 桃形兜 道案内……迷子ニナッチャッタッテコト？ ソレクライナラ、オ安イ御用ダケド……。 二条亭 まぁ、どうもありがとう♪ ボクは優しい子なのね。 二条亭 それじゃ、教えてもらえるかしら。 二条亭 ……鹿児島城ちゃんが、どこに捕らえられているのか。 桃形兜 ――――ッ！？ 二条亭 ボクは優しい子だから、 お姉さんを困らせたりしないわよね？ 二条亭 お姉さんね、今とっても急いでいるの。 だから、ほら……教えて、今すぐに。 桃形兜 …………。 桃形兜 サ、サ……。 桃形兜 先ヲ急グノデ、失礼シマスウゥ――！ 二条亭 …………。 二条亭 ……残念ねぇ。 素直に答えてくれれば、 手荒な真似はしないですんだのに。 ―――― その頃、殿一行は―― 鶴丸城 姉様……お願いだから、無事でいて……！ 柳川城 大丈夫ですよ、鶴丸城さん……。 鹿児島城さんはきっと無事です。 だから慌てず、慎重に進んで―― 二条亭 待ちなさーい！！ 桃形兜 ヒイイィィィーーー！ 殿 …………！ 千狐 ――あれは、兜……？ それから城娘の姿も……！ やくも なにやら豪華な格好をしとるがや……。 まるで婚儀の最中に抜け出してきたみたいだに。 鶴丸城 あの方は二条亭さん……！ 姉様から招待を受けていた城娘ですわ！ 柳川城 兜を追い詰めているようです……！ 私たちも合流して、力を合わせましょう！
後半
二条亭 力を貸してくれてどうもありがとう、殿♪ 殿 …………！ 二条亭 初めましてのご挨拶だから、 もう少しゆっくりできたら良かったのだけど……。 そんなことをしている余裕は無いのよね、鶴丸城ちゃん？ 鶴丸城 ええ、一刻も早く姉様を取り戻し、兜を討ち……、 此地に平穏を取り戻さなければなりませんわ。 千狐 殿……向こうの方向から、兜の気配が感じられます。 数の多さも、力の強さも……これまでとは段違いです……！ 柳川城 では、兜の本陣はもう目前まで……！ 鶴丸城 姉様もきっとそこに……！ 見てなさい、兜ども……、 この槌でお前たちを必ずすり潰して――！ ？？？ ――スリ潰す？　ソンナちんまい槌で、儂らヲ？ 鶴丸城 ――っ、お前は！？ 島津義弘 イイ度胸だ……面白ェ。 だったらヤッテみろ。儂も全力で相手をしてヤロウ。 殿 …………！ 島津義弘 久方ぶりジャナ……この時を待ちわびとったド、殿……。

乙女は純白を帯びて -急-

鹿児島城の誘拐を企てていたのは、島津義弘の
名を冠する巨大兜だった……薩摩国に
平穏を取り戻すため、城娘と共に出陣せよ！

前半
島津義弘 久方ぶりジャナ……この時を待ちわびとったド、殿……。 殿 …………！ 千狐 あれは……島津義弘の名を冠する巨大兜……！ 鹿児島城 う、うぅ……鶴丸城ちゃん、それに殿どんも……。 鶴丸城 ね、姉様の姿もありますの！ 二条亭 鹿児島城ちゃんの誘拐は、 あの巨大兜が糸を引いていたのね……！ 鶴丸城 島津義弘の名を冠する巨大兜……、 よくもやってくれましたわね。 鶴丸城 ですが、残念でしたね。 貴方の目論見は徒労に終わるのですわ。 島津義弘 ……何ィ？ 鶴丸城 姉様がいかに、 兜を魅了してしまうほどの魅力を持つ城娘だったとしても、 所詮……武力は武力。 鶴丸城 姉様の強き心までは、屈服させることはできません。 ……つまり、貴方の力では、 姉様を手に入れることはできないのです！ 鶴丸城 さぁ……観念して、姉様を解放しなさい！ 島津義弘 …………。 島津義弘 お前ェは、何を言ッテんだ？ 鶴丸城 …………。 鶴丸城 …………あら？ 島津義弘 始めカラ儂ゃ、 城娘ノ心を手に入レルことナンゾに興味はなか……。 島津義弘 儂が求メとるんは……、 殿、お前と再び戦うこと。 ただそれだけジャ。 殿 …………。 島津義弘 先ノ戦いで敗北シ、 多くの兵ば犠牲にして……儂は辛ウジテ逃げ仰セタ。 ソレから儂はずっと、考え続ケテいたのジャ……。 島津義弘 虚ろナル此ノ身は……。 本物に近ヅクことバ望めテモ、決シテ本物に至ルことはできん。 島津義弘 ナラバ、儂は何処へ向かうべきナノカ……。 島津義弘 心奥に向ケ幾度も問いカケ、 深く考エルほど……確固たるもんガ明らかにナッテいく。 ……そんな心地を、儂は覚えた。 島津義弘 冷たき空虚なこの鎧にも、 薩摩隼人ノ血は流れちょる。 島津義弘 その血が滾り、儂ヲ突き動かす……、 殿と戦わねばナラン、と。 島津義弘 じゃから儂ハ、その舞台ば整エル必要があった。 城娘がサラワレル、そんな事態になれば……殿。 お前も黙ッテハおれんじゃろ？ 殿 …………。 島津義弘 ツマリ……お前はモウ用無しっちゅうコトだ、鹿児島城。 サッサと殿の元に帰れ。 鹿児島城 …………。 島津義弘 何をボサっと突っ立ットル。 ほれ、さっさと行ケ……！ 鹿児島城 は、はい……。 鶴丸城 姉様……無事ですか？ お怪我や悪いところは……？ 鹿児島城 はい……問題ありませんわ。 心配を掛けてしまいましたね、鶴丸城……。 千狐 躊躇いなく鹿児島城さんを解放した……。 殿と戦いたい……というあの言葉は、信じても良いのでしょうか。 柳川城 以前、学び舎の幼き城娘たちを狙ったことといい……、 目的のためなら手段を選ばない、 その信条の許に動いていると思っていましたが……。 島津義弘 その通り……手段ハ問わん。欲するもんのためナラバ、な。 今の儂が欲しとるのは殿……オ前との勝負ジャった。 島津義弘 そして今……その準備は整ッタ。 さぁ殿、お前の方はドウジャ……？ 殿 …………。 殿 …………！ 鶴丸城 承知しました、殿。 それでは……巨大兜討伐のため、 出陣いたしましょう！
後半
島津義弘 ぐ、オオオオ……おおおぉぉぉ……！？ 島津義弘 まだ……まだ、足リンというのか、 ココマデ、チカラば高めたっちゅうノニ……！ 島津義弘 ダガ、ふふ……やっと見エタ気がスルぞ……お前ん背が……。 島津義弘 アト少し、もう一歩ジャ。 その首ば獲るのはもう……夢物語ナドではねぇ。 殿 …………。 島津義弘 はは、ハハハ……雌雄を決するんは、次の機会。 そん時にゃ、儂は更にチカラを高めとる。 きっと楽しい戦になるぞ……。 島津義弘 儂とお前が、十全のチカラを出シ切ッテ、 ぶつかり合う決戦……その時は、もう間もなくジャ……！ 殿 …………。 島津義弘 トモアレ、今日はここで退くことにシヨウカ……。 宴ノ間際に邪魔をシタナ。 島津義弘 それでは、失礼スル……。 千狐 …………。 千狐 兜の撤退を確認しました……。 鹿児島城 …………。 鹿児島城 義弘様……。 鶴丸城 …………。 鶴丸城 姉様……何か、あの巨大兜と話でも？ 鹿児島城 ……昔話を、少しだけ。 私の御城で起こった出来事や、 義弘様の記憶について……。 鶴丸城 …………。 鹿児島城 つい……考えてしまうのですわ。 鹿児島城 義弘様の虚魂を収めた兜は、 『ただ殿と戦うために』と言っていましたが……。 鹿児島城 島津家の将が、花嫁衣装に身を包んだわたくしを、 さらったことには何か……、 それ以上の想いがあったのではないか、と。 鹿児島城 鶴丸城……貴方はどう思いますか？ 鶴丸城 …………。 鶴丸城 ……どうもこうもありません。 姉様が無事だった、わたくしにとってはそれが何よりですの。 鶴丸城 ですから姉様……あの巨大兜について、 それ以上考えるのはお止めください。 鶴丸城 今、姉様の胸に渦巻いている思いはきっと……、 考える必要のないこと。考えても仕方のないことなのですわ。 鹿児島城 …………。 鹿児島城 ……そうですね。 ええ、鶴丸城の言う通りなのでしょう、きっと。 殿 …………。 鹿児島城 ……さて、皆さん。 此度の助力、本当にありがとうございました。 鹿児島城 まずはわたくしの御城にて、 身体を休め……戦の疲れを癒やしてください。 鹿児島城 その後には……予定していた通り宴を開いて、 皆さんをおもてなしさせていただきますわ♪ やくも 宴……やっと今回の目的が果たせるがや……！ 殿 …………！ こうして、巨大兜を無事に退けた一行は、 この後に待つ宴に胸を膨らませながら、 鹿児島城の御城へと歩みを進めるのだった――

乙女は純白を帯びて -絶壱-

兜たちを退けた一行は、花嫁衣装に身を包んだ
鹿児島城たちと宴を楽しんでいた。だがその時
またしても何者かの叫び声が辺りに響き渡る……！

前半
――巨大兜との争いの、明くる日。 憂いを晴らした一行は、 鹿児島城の御城にて予定通り宴を開き、 楽しい一時を過ごしていた―― 千狐 それにしても……、 本当に素敵な衣装ですね、お二人とも♪ 殿 …………♪ 二条亭 ふふ、褒めていただけて嬉しいわ。 本当はこの衣装で殿をお出迎えして、 驚かせてあげたかったんだけどね♪ 鹿児島城 鶴丸城に勧められたことがきっかけだったのですが、 実は以前より……一度、袖を通してみたいと思っていましたの♪ 鹿児島城 嫁ぐわけでもないのに、このような格好をするのは、 少々むず痒いものがありますが……。 鶴丸城 理由など必要ありませんわ。 美しいは正義ですの！ 鶴丸城 姉様が美しければ、 此世はそれだけ幸福で満たされていくのですわ。 鹿児島城 ふふ、まったく鶴丸城は、 調子の良いことばかり言いますの……。 やくも もぐもぐ……もぐ……。 やくも ん～、薩摩揚げに黒豚味噌！ どれもこれも最高だに～♪ 千狐 やくもはまた、食い意地ばっかり張って……。 やくも 綺麗な衣装も素敵やけど、美味い料理も宴の顔！ 皆が花嫁衣装に夢中になっとる分、 うちが目を掛けてやっとるんだに♪ 千狐 それって結局、美味しい料理を食べたいだけじゃ―― ？？？ きゃーーーー！ 殿 …………！？ 二条亭 ――い、今の叫びは！？ やくも また誰かが追っかけられたりでもしてるだに……？ 飫肥城 はぁ、はぁ……！ 誰か……誰かっ……！ 二条亭 ……っ！　あちらから、 誰かが駆け寄ってきているわっ！ 鹿児島城 貴方は……飫肥城！ そんなに慌てて……何かありましたの？ 飫肥城 こ……この辺りを歩いていたら、 後方から何者かの気配を感じまして……。 二条亭 何者かの気配……？ 飫肥城 はい、私の後を追うように真っ直ぐ、 こちらに向かってきていたんです……！ やくも ほんとに追っかけられとったがや……！ 飫肥城 私が進む方向を変えても、 狙いを定めたようにぴったりと……。 飫肥城 それで……近くに鹿児島城さんの御城があることを思い出し、 急ぎ避難してきたんです……！ 鹿児島城 まぁ、そんなことが……無事で良かったですの。 鹿児島城 しかし、飫肥城を執拗に……となると、 考えずにはいられませんわね……。 殿 …………。 鹿児島城 島津家は何代にも渡って、 飫肥城を求めた争いを続けてきましたの。 鹿児島城 ですから、島津義弘の名を冠する巨大兜が……、 此地から退いた後、 飫肥城に狙いを定めたとしても、おかしくはありませんわ……。 鶴丸城 格好を付けた捨て台詞を吐いておきながら、 なんと見苦しいことを……。 鶴丸城 状況は姉様が仰った通り……となれば、 このまま宴を楽しんでいるわけにはまいりませんわね。 ……恐縮ですが殿、力を貸していただけますか？ 殿 …………！ 鶴丸城 ありがとうございます。 それでは、先陣はわたくしが切りましょう。 怪しげな影があれば、一撃で仕留めてみせますわ。 鹿児島城 焦りは禁物ですよ、鶴丸城。 標的を誤らないように……味方か敵か、 しっかり確認することを忘れずに、ですよ？ 二条亭 私も鶴丸城ちゃんに協力いたしましょう。 手分けして見回りを行えば、問題もすぐに収束するでしょう。 殿 …………！ 柳川城 承知しました。それでは、 飫肥城さんを追う影の正体を突き止めるため、 御城の周囲を巡回いたしましょう！
後半
柳川城 見回りはこれで完了。ですが……。 二条亭 隅々まで探したけれど、巨大兜の姿は見つからなかったわねぇ……。 鹿児島城 となると、飫肥城を追っていたのは何者だったのかしら。 兜でなければ……獣か、人か、それとも城娘か……。 二条亭 ……あ、鶴丸城ちゃんも戻ってきたみたいよ。 鶴丸城 ……はぁ、収穫無しでしたの……。 鹿児島城 肩を落としているところを見るに、 何も見つからなかったみたい――いえ、 小脇に何かを抱えているようですわ。あれは……？ ツバサ ぐす、うぅ……怖かったぁ……怖かったよぉ……。 千狐 ツ、ツバサっ！？　どうして貴方がここに？ 鶴丸城 木の枝に引っかかって、宙吊りになっていましたの。 ツバサ 転移に失敗しちゃって、身動きが取れなくなってたの。 やくもちゃんに届け物があったんだけど……。 やくも ……届け物？　うちに？ ツバサ うん、殿たちと一緒に、 鹿児島城ちゃんの御城に向かったって聞いたから、 渡してあげようと思って……。 千狐 そんなに急ぐことなかったのに……転移術だって、 まだ完璧に扱えるわけじゃないんだから……。 ツバサ ごめんなさい……でも役に立ちたかったの……。 ツバサ こんな怖い目に遭うなんて、思ってなかったよぉ……。 高い場所に一人ぼっちになるし、 鶴丸城ちゃんは鬼気迫る感じで走り回ってて、危うく襲われるとこだったし……。 鹿児島城 （鶴丸城……） 鶴丸城 ……飫肥城さんを追っていた不審者についても、 存じ上げないようでしたわ。 ツバサ うん、変な人影とかは見なかったよ。もちろん兜も！ 変わったことといえば……足音、くらいかな？ 飫肥城 足音……？ ツバサ うん。お馬さんの……蹄の音だったと思う。 パカラッ、パカラッって。姿は見えなかったけど……。 鹿児島城 不審……ではありますが、 正体を掴むには決め手に欠けますわね……。 二条亭 真相は闇の中、ということかしら……。 飫肥城 わ、私……しばらくは自分の御城に籠もって、 大人しくすることにします……。 ツバサ それじゃツバサが、 飫肥城ちゃんを御城まで送り届けてあげるね！ 千狐 それで……ツバサ。 やくもへの届け物というのは……？ ツバサ あっ、そうだった。 これ……お手紙。やくもちゃん宛に！ やくも 手紙……おお、 差出人の名にはシャンティイ城、とあるだに。 千狐 シャンティイ城さん……ふらんすの城娘でしたか。 先日の騒動の折、力を貸していただきましたが……。 やくも さっそく中身を確認してみるだに。どれ……。 やくも ふむ、ふむふむ……。 おー！　なるほど、なるほど！ 千狐 やくも……シャンティイ城さんからのお手紙には何と――？ やくも 千狐！　次の目的地はふらんすだに！ やくも 此地の宴を楽しんだら、次はシャンティイ城の御城へ！ 美ん味い菓子と手厚いもてなしが、うちらを待っとるだに！ 千狐 ふ、ふらんす……？ 順を追って説明してほしいのだけど……。 やくも それじゃ、手紙の内容を読み上げるがや！ えーっと―― シャンティイ城 やくもさん、こんにちは。 先日はお世話になりました。 シャンティイ城です。 シャンティイ城 あの後、事態の収束を確認した私は、 皆様とお祝いの宴を開いた後……祖国へと発ちました。 シャンティイ城 日の本での出会い、 体験は私にとって非常に貴重な体験となりました。 たとえば、白鷺城さんとは文通をするお約束もして―― やくも ――ここから、ずらーっと挨拶が何行にも渡って、 書かれとるけど……割愛させてもらうだに！ 千狐 あ、後でじっくり目を通すのよ……？ シャンティイ城 ――さて、本題に入りますが……先日やくもさんが、 私の作ったお菓子に、興味を示してくださったことを思い出しました。 シャンティイ城 そこでご提案なのですが、 私の御城に皆様を招きパーティーを開く……、 というのはいかがでしょうか。 シャンティイ城 殿と千狐さん、柳川城さん……。 その他、日の本の城娘さんたちもお誘い合わせの上で、 いらしていただければと思います。 シャンティイ城 お菓子はもちろんのこと、 ちょっとしたサプライズもご用意してお待ちしております♪ やくも ――シャンティイ城より。 とのことだに！ 柳川城 ふらんすへのご招待……。 これは嬉しい申し出ですね。 殿 …………！ やくも 友達もえっぱい連れてきていい、って書いとるし、 鹿児島城や二条亭たちも一緒に来るがや！ 二条亭 皆で一緒にふらんす旅行だなんて素敵ね。 ぜひご一緒させていただきたいわ♪ 鹿児島城 ふらんすにてぱーてぃー、ですか。 ありがたいお話し……ですが、 わたくしは、御城のことがありますし……。 鶴丸城 気にすることはありませんよ、姉様。 わたくしが留守を守っていますから、御城のことはご心配なく。 兜にも、シロアリにも。この御城を落とさせやしませんわ。 鶴丸城 日頃から姉様は、薩摩国の平穏のために身を尽くしているのです。 ですから今回は……片時、お役目を離れ、羽を伸ばしてきてくださいな。 鹿児島城 鶴丸城……ありがとう。 ……それでは、お言葉に甘えさせてもらいますの。 鹿児島城 改めて……殿どん、此度のふらんす旅行、 わたくしもご一緒してよろしいでしょうか？ 殿 …………。 殿 …………！ 鹿児島城 ありがとうございます。ふふ、初めてのふらんす……、 お土産話をたくさん持って帰らないといけませんわね♪ やくも 次の目的地はふらんす……それは決まっただに。 やけど、まだ油断しちゃいけないがや！ やくも 次の宴よりも、目の前の宴！ まずはこの瞬間を心ゆくまで満喫せんといかんだに！ 鹿児島城 ふふ、やくもさんは忙しい方ですの。 ですが……そうですね、仰る通りです。 鹿児島城 それでは、この宴の主催者として……、 最後まで、皆さんをおもてなしさせていただきますわ♪ こうして一行は……、 次なる目的地・フランスにて待ち受けるパーティーに胸を膨らませつつ、 夜が更けるまで、鹿児島城の宴を楽しむのだった――

乙女は純白を帯びて -離-

日の本から転移してきた殿一行をドレス姿で迎え
入れ、パーティーを開くシャンティイ城。そんな
彼女の胸中には、一つの思いが秘められていた。

前半
鹿児島城でのひと時を満喫した殿一行はその後、 手紙が帯びた霊気を頼り、 フランスのシャンティイ城へと転移していた―― 千狐 コンッ！　転移成功なのー！ やくも この景色は……おお～！　物凄い広さの庭園だに！ 鹿児島城 奥に見えるのが、シャンティイ城さんの御城ですね♪ 二条亭 あら……あちらの方から、 近づいてくる人影が見えるわね……？ シャンティイ城 いらっしゃいませ、王様。 遠路はるばる、ようこそお越しくださいました。 殿 …………！ やくも なーに、千狐の転移があれば、 これくらいあっちゅーまだに♪ 千狐 勝手なこと言って……千狐の力だって、 限りのあるものなんだからね？ シャンティイ城 何にせよ……やくもさんや千狐さん、 王様たちとの再会がこれほど早く叶うとは、 思ってもいませんでした。心より嬉しく思います♪ 鹿児島城 ところでシャンティイ城さん、その格好は……？ シャンティイ城 ああ、はい……こちらはですね。 私の御城にちなんだ衣装なのですが―― ？？？ ウェディングドレスよっ！ 殿 …………？ 二条亭 貴方は……？ フォンテーヌブロー宮殿 私はフォンテーヌブロー宮殿！ シャンティイ城と同じく、フランスを守る城娘の一人よ！ フォンテーヌブロー宮殿 今日のパーティーではこの子と一緒に貴方たちを、 おもてなししてあげるから、覚悟してなさい！ 柳川城 な、何を覚悟したらいいのでしょうか……。 シャンティイ城 私とフォンテーヌブローさんは共に、 結婚式と縁を持つ城娘なのです。 シャンティイ城 シャンティイ城内の館……メゾン・ド・シルヴィーは以前より、 結婚式場として利用されることが数多くありました。そのため、 今回のパーティーでは、それにちなんだ装いを、と思いまして……。 フォンテーヌブロー宮殿 そして私の御城には、 『三位一体のチャペル』が建てられているの。 愛の誓いを捧げる場所としてはうってつけってわけ！ 二条亭 では、お手紙で仰っていた、 『ちょっとしたさぷらいず』というのは……。 シャンティイ城 ええ、この衣装のことです♪ 鹿児島城 ……ふふ、わたくしたちと似たようなことを考える方が、 海の向こうにもいらっしゃるなんて。 不思議なこともあるものですの。 シャンティイ城 私と似たようなことを、ですか……？ 二条亭 実は私たちも先日、 花嫁衣装に身を包んで殿をおもてなししたのよ。 シャンティイ城さんのようにね。 シャンティイ城 まぁ、そんなことが……！ 鹿児島城 まだお会いしたばかりですが、わたくしたちは似た者同士……。 きっと楽しい時間が過ごせるに違いありませんわ。 シャンティイ城 ええ、そうですね♪ この機会に仲を深められたら嬉しいです！ シャンティイ城 ……と。申し訳ございません。 立ち話なのに、つい盛り上がってしまいました。 シャンティイ城 それでは、御城の中へとご案内いたします。 フォンテーヌブロー宮殿 パーティーの開始よ！　付いてきなさい！ ―――― やくも もぐもぐ……ん～、この味！ 期待以上だにー！ やくも 千狐もこの味を、よーく覚えとくといいがや。 所領に帰った後、いつでも作れるように……。 千狐 そんなに気に入ったなら、 やくもの手で作ればいいじゃない。 ぁむ……もぐ、もぐ……。 千狐 ん……っ、このお菓子……！ 確かにとっても美味しいの！ 千狐 やくもの言う通り、後でシャンティイ城さんから、 作り方を教えてもらおうかしら……。 シャンティイ城 ふふ、私の手作りお菓子……、 気に入っていただけたようですね？ やくも だに！　もー首ったけがや！ この前は、目前にしながら食べられなかっただけに、 喜びもひとしおだにー！ 柳川城 手作りと仰っていましたが、 シャンティイ城さんはお菓子作りが得意なのですね。 シャンティイ城 はい……私の御城お抱えの料理人が昔、お菓子の付け合わせとして 『クレーム・シャンティイ』というクリームを創り出したのですが……、 その縁から、お菓子作りに多く触れる機会があったのです。 鹿児島城 なるほど。だからこれほどまでに、 完成されたお菓子を作り上げることができるのですね。 素晴らしいですの……！ シャンティイ城 ふふ、お褒めいただき光栄です♪ フォンテーヌブロー宮殿 ……ちょっと、シャンティイ城、シャンティイ城っ！ シャンティイ城 はい……どうしたのですか、 フォンテーヌブローさん？　何か問題でも……？ フォンテーヌブロー宮殿 なーにまったりしちゃってるのよ！ 王様とお話しして仲を深めるんじゃなかったの？ それが今回のパーティーの目的でしょ？ シャンティイ城 え……あ、それは……。 パーティーはまだ続きますし、急がなくてもいいかなと……。 フォンテーヌブロー宮殿 はぁ……この後の展開が目に浮かぶようだわ……。 フォンテーヌブロー宮殿 そうやって、この後も何かと理由を見つけては先延ばし、 結局機会は得られぬまま。そんな最後が……。 シャンティイ城 いえ、それは……！ その、そうですね……私もそんな気がします……。 フォンテーヌブロー宮殿 後は声を掛けるだけじゃない、がんばりましょ？ ここまで準備を整える方がよっぽど大変だったでしょう。 シャンティイ城 そうは言っても、フォンテーヌブローさん。 私、王様と何を話せばいいのかさっぱりで……。 フォンテーヌブロー宮殿 話題なんてそこら中に転がってるじゃない！ というか、無くたって声を掛けるのよ！ お話ししなきゃ何にも始まらないわ！ シャンティイ城 フォンテーヌブローさんはたまに、 無茶なことを言います……。 フォンテーヌブロー宮殿 貴方が慎重過ぎるだけでしょ。 適当なお菓子をお皿に盛り付けて、 いかがですか～とかでいいのよ！ フォンテーヌブロー宮殿 ほらほら、行きなさいっ！ シャンティイ城 うぅ……わかりました……！ フォンテーヌブロー宮殿 クレーム・シャンティイの量は少なめにね！ いつもの調子で山盛りにしたら、 のっけから雰囲気ぶち壊しよ！ シャンティイ城 そこまで言わなくても……。 ―――― 殿 …………。 シャンティイ城 （王様は今、一人きり。よし……） シャンティイ城 あの、王様……。 お菓子をお持ちしたのですが、 いかがですか……？ 殿 …………。 殿 …………♪ シャンティイ城 はい♪ どれもオススメばかりですから、 お好きなものをどうぞ♪ 殿 …………！ 殿 …………？ シャンティイ城 はい？　あちらの大きな建物は何か、と……？ シャンティイ城 ふふ、あれは厩舎ですよ。 あの大きな建物をいっぱいに使って、 沢山の馬を飼育しているのです。 殿 …………！ シャンティイ城 ふふ、まるで宮殿のようなあの外観……。 厩舎に見えないと感じられたのも当然です。 殿 …………。 シャンティイ城 （あ……そうです、この機会に……） シャンティイ城 その……よろしければ、ご案内いたしましょうか？ お気に入りの子がいたら、試しに跨っていただいてもいいですし……。 殿 …………？ シャンティイ城 ええ、心配ありません。素直な子ばかりですから、 王様ともすぐ仲良くなれると思います！ 乗り心地も抜群です♪　 殿 …………。 殿 …………！ シャンティイ城 はい、それでは向かいましょう……！ 殿 …………♪ シャンティイ城 …………。 シャンティイ城 （すごい……すごいですよ、フォンテーヌブローさん！ 　驚くほどスムーズに話が進んでいく……！） シャンティイ城 （このままいけばもしや……、 　王様と二人で馬に跨り、一緒に城内を散歩など……！） 千狐 ――んむっ！？ 千狐 こ、この気配ふぁっ……！ こほっ、こほこほっ……！？ 柳川城 落ち着いてください、千狐さん。 まずはお菓子を飲み込んでから……。 千狐 す、すみませ……。 もぐ、もぐ……ごくん。 千狐 …………。 千狐 殿、大変です！ 兜の軍勢がこちらに近づいてきています！ 殿 …………！ シャンティイ城 そ、そんな……！ フォンテーヌブロー宮殿 兜ですって……まったく、いいところだったのに……！ フォンテーヌブロー宮殿 けど、絶対に邪魔はさせない！ 相手が兜でも、関係ないわ……！ フォンテーヌブロー宮殿 シャンティイ城はずっと……、 王様や日の本の皆と会うことを、 楽しみにしてきたんだもの……。 フォンテーヌブロー宮殿 ……すぐに出陣しましょう！ 戦える者は私に続いてっ！
後半
フォンテーヌブロー宮殿 はあああぁぁぁぁぁっ！ 兜 ギャアアァァァァァッ！！ フォンテーヌブロー宮殿 一体だって逃さないわ……。 私が皆、狩り尽くしてやるから……！ シャンティイ城 無理はしないで、フォンテーヌブローさん！ フォンテーヌブロー宮殿 見てなさいシャンティイ城！ 兜なんて、私がすぐに片付けて――！ 兜 シ、城娘……！　殲、滅……！ シャンティイ城 ――っ！？ シャンティイ城 いけないっ！ 後ろです、フォンテーヌブローさんっ！ フォンテーヌブロー宮殿 っ！？　きゃあああぁぁぁぁぁっ！？ シャンティイ城 フォンテーヌブローさん！ やくも フォンテーヌブローが兜さんの攻撃を、 まともに喰らってしまっただに……！ 兜軍団 城娘……殲滅セヨ……。 　　　城娘……殲滅セヨ……。 　　　　　　城娘……殲滅セヨ……。 二条亭 おまけにここで後詰の兵が到着。 ……不味い展開ね。 鹿児島城 本当の戦いはこれから、ということですわね。 殿どん……気を引き締めましょう。 殿 …………！

乙女は純白を帯びて -結-

怪我を負ったフォンテーヌブロー宮殿。
彼女はなぜそこまで強く、パーティーの成功を
願ったのか……その口から、経緯が語られる。

前半
シャンティイ城 フォンテーヌブローさん、大丈夫ですかっ！？ フォンテーヌブロー宮殿 ごめんなさい。 焦って、迷惑を掛けることに……。 シャンティイ城 迷惑だなんて、そんなことは……！ フォンテーヌブロー宮殿 私……このパーティーを、 何としても成功させたかったの……。 フォンテーヌブロー宮殿 だって、貴方が自分から……、 願いを口にするなんて、初めてのことだったんだもの……。 シャンティイ城 …………！ フォンテーヌブロー宮殿 『王様にまたお会いできたら』……そんなことを貴方が言うなんて。 内気だった貴方の変化が……そして何より、 私にそれを打ち明けてくれたことが……嬉しかったの。 フォンテーヌブロー宮殿 でも、張り切りすぎちゃって……この有様。 本当にごめんなさい……。 シャンティイ城 フォンテーヌブローさん……。 鹿児島城 ……その謝罪は不要ですわ。 フォンテーヌブローさん。 フォンテーヌブロー宮殿 え……？ 柳川城 その通りです。この程度の事態、 私たちのぱーてぃーには何の影響もありません。 二条亭 むしろ、腹ごなしができてちょうどいいわ。 食べてばかりじゃ健康に良くないもの。 フォンテーヌブロー宮殿 鹿児島城さん、柳川城さん、二条亭さん……。 殿 …………。 殿 …………！ 鹿児島城 参りましょう、シャンティイ城さん。 共に戦い、この御城を守るのです！ シャンティイ城 …………。 シャンティイ城 今……自分の中で、 感情が激しく燃え上がっているのを感じます。 初めてです……これほどまでに『兜を倒したい』と強く思ったのは。 フォンテーヌブロー宮殿 シャンティイ城……。 シャンティイ城 フォンテーヌブローさんは、ここで休んでいてください。 すぐに片付けて戻ってきます。 シャンティイ城 そうしたらまた、パーティーを再開しましょう。ね？ フォンテーヌブロー宮殿 ……分かったわ。 必ず、無事に帰ってきてよね。 シャンティイ城 それでは参りましょう！ 王様、ご命令をお願いいたします！
後半
シャンティイ城 はぁ、はぁ……兜は、これで全て……。 シャンティイ城 フォンテーヌブローさん、終わりましたよ。 兜は全て片付きました。 フォンテーヌブロー宮殿 ええ、見ていたわ……見事な勇姿だった……。 これでパーティーも再開できるわね。 シャンティイ城 そうですね。ですが……その前に、 フォンテーヌブローさんのお怪我を処置いたしましょう。 大事があってはなりませんから。 フォンテーヌブロー宮殿 それもそうね……それじゃ、 申し訳ないけど、肩を貸してもらえるかしら。 シャンティイ城 いえ、その必要はありません。 私がお部屋まで運んでさしあげますから♪ フォンテーヌブロー宮殿 ……え？　それはどういう――きゃぁっ！？ シャンティイ城 この通り。私が抱き上げれば、 フォンテーヌブローさんのお身体に障ることはありません！ フォンテーヌブロー宮殿 あ、貴方……意外と力持ちなのね……。 フォンテーヌブロー宮殿 ――じゃなくて！　お、下ろしなさいよ！ 恥ずかしいじゃない、お姫様抱っこだなんて……！ シャンティイ城 なりません。今のフォンテーヌブローさんは絶対安静。 私の言うことに従っていただきますよ♪ シャンティイ城 それでは皆さん、 私たちはしばらく席を外しますので、また後ほど！ フォンテーヌブロー宮殿 おーーろーーしーーてぇーーーー……！ 殿 …………。 鹿児島城 花嫁に抱えられる花嫁なんて、 ふふっ……面白い光景ですの。 二条亭 ……それでは私たちは、戦の後始末をしましょうか。 すぐにパーティーを再開できるように！ やくも 承知しただにぃーーー！ ―――― その後、一行は楽しい時間を過ごし、 シャンティイ城に宿泊することとなった―― そして、その夜―― 殿 …………。 殿 …………！ シャンティイ城 あら……王様ではありませんか。 こんな夜更けにお散歩ですか？ 殿 …………！ シャンティイ城 奇遇ですね。 私もなんだか眠れなくて……。 シャンティイ城 それでは私も……王様のお散歩に、 ご一緒させていただいてもよろしいでしょうか。 殿 …………！ シャンティイ城 ふふ、ありがとうございます♪ 殿 …………。 殿 …………？ シャンティイ城 ……はい。フォンテーヌブローさんの方は問題ありません。 あと数日も休めば、いつも通りの元気な姿が見られるはずです。 シャンティイ城 王様たちがお帰りになるまでにはきっと、全員が揃った状態で、 賑やかにパーティーを楽しむことができるかと思います♪ 殿 …………！ シャンティイ城 …………。 シャンティイ城 それにしても。ふふ……。 殿 …………？ シャンティイ城 いえ、すみません。 ただこの状況が……あまりに現実離れしていたものですから、 なんだかおかしくて。 殿 …………。 シャンティイ城 私の招待で日の本の皆様がやってきて、 盛大なパーティーが開かれる。そして今は、 王様と肩を並べて夜のお散歩……。 シャンティイ城 どれもこれも……、 私にとっては夢の中の出来事に過ぎませんでした。 殿 …………。 シャンティイ城 実を言うと……やくもさんにお手紙を出そうと提案したのは、 フォンテーヌブローさんなのです。 シャンティイ城 引きこもってばかりの頃に比べれば、 随分人付き合いが上手くなりました。ですがそれでも時折、 人と接していると……たじろいでしまうことがありました。 シャンティイ城 そんな私の手を、あの子が引いてくれた。 力いっぱい……ふふっ、 私のことなんかお構いなしに、ずんずん進んでいくんです。 シャンティイ城 『なんとかなるから、まずは手紙だけ送っちゃいなさい』 『私が成功させると決めたのだから、できないとは言わせないわ』 などと言って……。 殿 …………。 シャンティイ城 振り返ってみると……あの子も、 随分背伸びをしていたようですね。 幾ら感謝しても足りません……私は良い友を持ちました。 殿 …………。 シャンティイ城 あ……そうですね。 もちろん、まだ終わったわけではありません。 王様たちの滞在はまだ続きます……。 シャンティイ城 まだ披露していないお菓子はいっぱいありますし……、 それに、馬を一緒に見る約束だって果たせていませんもの。 殿 …………！ シャンティイ城 ……素敵です。明日のことや、 これからのことを思うと……胸が高鳴ります。 シャンティイ城 王様にとっても明日が素敵な一日となるように……、 そんな願いを込めて私は、王様をおもてなしさせていただきます。 殿 …………。 殿 …………！ シャンティイ城 はい！　楽しみにしていてくださいね♪

乙女は純白を帯びて -絶弐-

殿一行が去った後、シャンティイ城の御城にて、
フォンテーヌブロー宮殿はどういうわけか
不機嫌そうな表情を浮かべていた……。

前半
――シャンティイ城でのパーティーから、数日。 殿一行が日の本へと帰り、 静けさを取り戻したシャンティイ城―― フォンテーヌブロー宮殿 むー……。 シャンティイ城 …………。 シャンティイ城 そろそろ機嫌を直していただけませんか、 フォンテーヌブローさん……。 フォンテーヌブロー宮殿 私はね、怒ってるわけじゃないのよ。 ただ……貴方のこれからを思って、憂いを感じていたの……。 シャンティイ城 憂い……ですか。 フォンテーヌブロー宮殿 王様たちがやってきた日の、最初の晩。 貴方は王様と二人で城内を散歩した……そうね？ シャンティイ城 ええ、その通り……先程お話しした通りです。 フォンテーヌブロー宮殿 誰にも邪魔されることなく、真夜中に王様と二人きり。 貴方は適当に雑談した後、 一人で自室に戻り……眠りに就いた。 シャンティイ城 はい……そうです……。 フォンテーヌブロー宮殿 …………。 フォンテーヌブロー宮殿 めっ…………！ シャンティイ城 …………？ フォンテーヌブロー宮殿 …………っちゃくちゃ、もったいないじゃないのっ！ シャンティイ城、貴方はとてつもなく大きな獲物を逃したのよ！？ シャンティイ城 大きな獲物……そうでしょうか？ 私としては、お喋りするだけでも、 充分過ぎるほどの成果だと思うのですが……。 フォンテーヌブロー宮殿 全くもって充分じゃないわ……。 もし貴方がもう少し勇気を持っていたらきっと、 貴方はもっと先に進むことができた……。 シャンティイ城 もっと先にというと、それはどういう……。 フォンテーヌブロー宮殿 ……これは、特訓が必要ね。 シャンティイ城 ……特訓？　何の特訓をするのです？ フォンテーヌブロー宮殿 決まってるわ！　シャンティイ城が、 さらなる積極性を身につけるための特訓よ！ フォンテーヌブロー宮殿 そもそもシャンティイ城は、 すでに充分過ぎるくらいの魅力を備えているのよ！ フォンテーヌブロー宮殿 謙虚で優しく、頭脳明晰！ ちょっと内気で守りたくなってしまうか弱さ！ おまけに、お菓子作りも大の得意！ フォンテーヌブロー宮殿 これに加えて積極性も身につければ、 貴方に勝てる城娘はどこにも居ない……私はそう踏んでるわ！ シャンティイ城 勝てる、とは……私はいったい、 何と戦っているのでしょうか……。 シャンティイ城 まぁ……フォンテーヌブローさんに、 そこまで褒めていただけるのは……、 嬉しいことではありますが。ふふ♪ フォンテーヌブロー宮殿 照れている場合じゃないわ。 その積極性が足りないばかりに、 貴方は大きなチャンスを逃してしまったのだから。 シャンティイ城 そうは言っても……、 やはり、急に変わるのは難しいです。 シャンティイ城 私自身、『もう少し積極的になれたら』 と思ったことは一度や二度ではないのです。 でも……。 フォンテーヌブロー宮殿 だからそれを、特訓でどうにかしようって言うんじゃない♪ フォンテーヌブロー宮殿 ということで……はい！ 貴方の気持ちを真っ直ぐにぶつけてみなさい！ 私を王様だと思って！ シャンティイ城 フォンテーヌブローさんを王様だと思って、ですか……？ フォンテーヌブロー宮殿 あ、でもね、思っていることを、 そのまま伝えればいいってわけじゃないのよ。 フォンテーヌブロー宮殿 伝えるべきなのは事実ではなく、感情……。 受け取った側が心を揺さぶられてしまう！ 理想とするのはそんな告白よ！ シャンティイ城 な、なるほど……難しい注文ですが、挑戦してみます……。 シャンティイ城 （フォンテーヌブローさんを王様だと思って……） シャンティイ城 …………。 シャンティイ城 あの、王様……私、貴方ともっと仲良くなりたいのです。 ですからもっと、王様のことを教えていただけませんか……？ シャンティイ城 少しだけでもいいですから……お願いします……。 フォンテーヌブロー宮殿 （お……） シャンティイ城 ん……？　フォンテーヌブローさん、 何だか顔が赤くなっているような……？ フォンテーヌブロー宮殿 そ……そうかしら？　そう見える？ 貴方の勘違いだと思うけどっ？ フォンテーヌブロー宮殿 ……さておき、今の告白は悪くなかったわ！ ええ、悪くなかったと言っていいでしょう！ フォンテーヌブロー宮殿 積極的でありながら、図々しくもなく！ 貴方らしい伝え方だったと言えるわね！ 恥じらいながら、たどたどしく伝えていたのも良かったわ！ フォンテーヌブロー宮殿 ま、細かい点を挙げれば、 まだまだ直すべきところはいっぱいあるけど！ シャンティイ城 はぁ……フォンテーヌブローさんは物知りなのですね……。 シャンティイ城 あ……そうです！　それではお手本として、 フォンテーヌブローさんの告白を、 見せていただくことはできませんか？ フォンテーヌブロー宮殿 えっ、お手本？　……私の？ シャンティイ城 はい……フォンテーヌブローさんは日頃から物怖じせず、 思ったことをすぐ口に出していますから、 学べることも多いかと思いまして……。 シャンティイ城 もちろん、無理にというわけではありませんが……。 フォンテーヌブロー宮殿 な、何言ってるの？　それくらい余裕に決まってるわ！ 貴方が思わず顔を赤らめてしまうような、 熱いのを一発……お見舞いしてあげるわ！ シャンティイ城 まぁ、それは楽しみです♪ フォンテーヌブロー宮殿 …………。 フォンテーヌブロー宮殿 それじゃ、いくわよ……。 フォンテーヌブロー宮殿 …………。 フォンテーヌブロー宮殿 ………………。 フォンテーヌブロー宮殿 す、好きよ……シャンティイ城……。 シャンティイ城 ……？　申し訳ありませんが、 もう一度言っていただけますか？ うまく聞き取れなくて……。 フォンテーヌブロー宮殿 ぅ、うぐ……。 フォンテーヌブロー宮殿 …………。 フォンテーヌブロー宮殿 好き！　好きなのっ！ 私は貴方のことが大好き、大大大好きよ！ シャンティイ城 まぁ……♪ フォンテーヌブロー宮殿 ど、どう？　伝わったかしら？ これだけハッキリ口にしたんだから、 聞こえなかったなんて言わせない―― コンシェルジュリー …………。 コンシェルジュリー これは、いったい……。 シャンティイ城 あら、コンシェルジュリーさん……。 フォンテーヌブロー宮殿 コンシェルジュリー！？ どうして貴方がここに？ コンシェルジュリー その……見回りをしていまして。 二人が言い争いをしているように見えたので、 様子を伺いに来たのですが……。 フォンテーヌブロー宮殿 へ、へぇ……そうなんだ……。 コンシェルジュリー …………。 コンシェルジュリー ……では、私はこれにて……。 フォンテーヌブロー宮殿 ま、待って！　私の話を聞きなさいっ！ なんだか物凄い勘違いをされている気がするわ！ コンシェルジュリー ご心配なく。私、口はかなり堅い方なので。 お二人の邪魔をするつもりもございません。 コンシェルジュリー それでは失礼します。お二人ともお幸せに……！ フォンテーヌブロー宮殿 やっぱ勘違いしてるじゃない！ 行くわよ、シャンティイ城！ シャンティイ城 えっ、コンシェルジュリーさんを追うつもりですか？ フォンテーヌブロー宮殿 そうよ、とりあえず特訓はここまで！ あの子を捕まえて誤解を解かなきゃ！ ほら、付いてきて！
後半
フォンテーヌブロー宮殿 はぁ、はぁ……はぁ……。 フォンテーヌブロー宮殿 説明は以上……分かって、 いただけたかしら……。 コンシェルジュリー なるほど……相手を王様に見立てて、 想いを伝える特訓、ですか……。 フォンテーヌブロー宮殿 そ……そういうこと。 誤解が解けて安心したわ……。 フォンテーヌブロー宮殿 けど……何も逃げなくたっていいじゃない……。 コンシェルジュリー 申し訳ありません。 もう少し冷静に判断できれば良かったのですが、 状況証拠が揃ってしまっていたので……。 コンシェルジュリー お二人とも、何やらめかし込んでいましたし……そんな状況で、 至近距離で見つめ合って『好きだ』なんて言っていたら、 これはもう一つしかないと……。 フォンテーヌブロー宮殿 言われてみれば確かに、 そう思われても無理はないと思うけど……。 シャンティイ城 まぁ、良いじゃありませんか。 結局誤解は解けたことですし、 良い運動をしたと思えば♪ フォンテーヌブロー宮殿 そうね……もうくったくたよ。 こんなに全力で追いかけっこしたのは、 いつ以来かっていうくらい……。 シャンティイ城 ふふ、パニックに陥っているフォンテーヌブローさんの様子は、 なかなか面白かったですけど……。 フォンテーヌブロー宮殿 貴方も少しは焦りなさいよ。 あぁー、ほんっと疲れた……。 シャンティイ城 …………。 シャンティイ城 ……ふふ。 シャンティイ城 ねぇ、フォンテーヌブローさん。 フォンテーヌブロー宮殿 ……ん、なぁに？ シャンティイ城 私……フォンテーヌブローさんのことが大好きですよ。 フォンテーヌブロー宮殿 …………っ！？ フォンテーヌブロー宮殿 き、急に何言ってるの……？ 特訓はお終いって言ったでしょ？ シャンティイ城 そうですね。特訓は終わりました。 ……ですから、これは私の正直な気持ちです。 フォンテーヌブロー宮殿 …………。 シャンティイ城 王様の件とは別に、まず……。 日頃私を支えてくれている周囲のお友達に、 思いを伝えなければと……ふと、そう思ったのです。 フォンテーヌブロー宮殿 シャンティイ城……。 シャンティイ城 フォンテーヌブローさんだけではありません。 コンシェルジュリーさんも……。 シャンティイ城 今日のように、私の御城の付近まで見回りに来ているのは、 御城に籠もってばかりだった私のことを、 心配してくれていたから……ですよね？ コンシェルジュリー ……気づいていたのですね。 コンシェルジュリー ……とはいえ、今となっては習慣の名残のようなものです。 昔に比べるとシャンティイ城さんは、 随分周囲の城娘と関わるようになりましたから。 シャンティイ城 そうだとしても……。 私に向けられた優しさであることには、 変わりありません。 シャンティイ城 ……私はこれまで、多くの優しさに支えられて、 ここまでやってきました。中には、 気づかずに見過ごしてきた優しさもあったことと思います……。 シャンティイ城 でも、いつまでも貰ってばかりではいられません。 これからは……今まで貰ってきた分にも負けないくらいの優しさを、 周囲の方々に注いでいきたい。そう思うのです。 シャンティイ城 今の私は……その力を持っていると思うから。 コンシェルジュリー …………。 シャンティイ城 ですから……フォンテーヌブローさんも、 コンシェルジュリーさんも。 遠慮なく、私のことを頼ってくださいね♪ フォンテーヌブロー宮殿 ……私にとっては、 貴方がそんなことを言うようになっただけで、 充分過ぎるくらいのお返しになってるわよ。 フォンテーヌブロー宮殿 だけど……力になりたいっていうなら、仕方ないわね。 人手が必要な時には、手伝いをお願いさせてもらうわ。 フォンテーヌブロー宮殿 だから貴方も遠慮なく……、 困ったことがあったら、頼りなさいよ。 力になってあげるから……。 シャンティイ城 はい、今後ともよろしくお願いしますね。 フォンテーヌブローさん♪ コンシェルジュリー ふふ……フォンテーヌブローさん、 耳が真っ赤になってますよ。 フォンテーヌブロー宮殿 し、仕方ないでしょ！ こんな不意打ちみたいなの喰らったら！ フォンテーヌブロー宮殿 あぁ～、何かお腹が空いてきたわね？ 運動したからかしら。ねぇ、シャンティイ城？ シャンティイ城 ふふ、そうですね。そろそろ良い時間ですし、 お昼ご飯にいたしましょうか。 シャンティイ城 ……いかがです？ コンシェルジュリーさんも、 私の御城でゆっくりしていきませんか？ コンシェルジュリー まぁ、良いのですか？ それではお言葉に甘えて、ご相伴に預かりましょう。 シャンティイ城 今日の食卓は賑やかになりそうですね。 さぁ、参りましょう♪ こうして三人の城娘はそれぞれの感情を胸に、 肩を並べて、歩きだすのだった――

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