ストーリーテキスト/ヘルの遊戯場

ページ名:ストーリーテキスト/ヘルの遊戯場

目次

ヘルの遊戯場[]

序幕[]

――所領。

クロンボー城
……うーん。

クロンボー城
うーーーーーーーーーーーーーーん…………。

柳川城
クロンボー城さん、首尾はどうですか……?

クロンボー城
……悔しいけど、ダメ。

クロンボー城
驚くほど、絶不調。
書きたい主題どころか、舞台の場面すら浮かんでこない……。

クロンボー城
まさか……私が脚本を書けなくなる時が来るなんて……。

やくも
まぁまぁ。ものづくりしてる時は不調な時もあって当然だに。

やくも
甘いモンでも食べてだらだらするといいがや~。

クロンボー城
実は……これまでそうしてきた。

千狐
えっ?

クロンボー城
きっと、自分に研鑽が足りない証左……。
焦燥と反省を抱いた私は、世界のあちこちを旅しに向かったのだった。

クロンボー城
そうして様々な土地の文化に馴染み、旅先で出会った人々と同じ物を食べ、
同じ時を過ごし、新たな学びや刺激を多量に得たが……、

クロンボー城
悲しいかな、集まった知識や経験たちはまとまることなく、
ただ独立した欠片となって、脳内の小宇宙を漂うのみ……。

やくも
…………?

柳川城
ええと、つまり色々な知識や経験は得られたけれど、
上手くまとまらなかった……ということでしょうか?

クロンボー城
そういうこと。

クロンボー城
……困った。

千狐
やくも、何とかしてあげられないかしら?
貴方も色々作ったりするんだし、そのよしみで……。

やくも
そげなこと言われても……うちは芝居の脚本は専門外だにぃ……。

殿
…………。

クロンボー城
うん……そうだね。
しばらく、心を落ち着けるべき時なのかも……。

???
――突然の訪問、失礼いたします。

クロンボー城
……ん? この声は……。

アーケシュフース城
アーケシュフース城、此度、
ご挨拶と救援要請のため参りました。

アーケシュフース城
殿と申されるお方は貴方ですね、よろしくお願いいたします。

殿
…………。

クロンボー城
アーケシュフース城ちゃん……どうしてここに?

アーケシュフース城
クロンボー城様……!
最近姿を見ないと思っておりましたが、よもや日の本でお会いするとは。

アーケシュフース城
お変わりなく、ご壮健でおられること、安心いたしました。

クロンボー城
……敬語なんていいって、言ってるのに。

柳川城
お二人は知り合いなのですか?

アーケシュフース城
はい。時折クロンボー城様が作られた劇に、
ご招待していただいておりました。

アーケシュフース城
もちろん、演じる側ではなく観客側でしたが。

クロンボー城
本当は、アーケシュフース城ちゃんが役者として出てくれればなぁ……。

クロンボー城
かっこいい女騎士役とか、凛とした女王様役とか、悪の女幹部とか、
色々いい役を用意するつもりでいるけど……。

アーケシュフース城
い、いえ、私はあまり演技が得意でないので……。

千狐
そ、それよりも、今、救援要請と仰いませんでしたか……?

アーケシュフース城
はい。……脱線、失礼いたしました。

アーケシュフース城
……近頃、私の周りで腕に覚えのある戦士たちが
次々と失踪を遂げているのです。

アーケシュフース城
故に、私が独自に調査し、怪しい場所を突き止めました。

クロンボー城
おぉ……流石。

アーケシュフース城
しかし……いざ内部の調査をしようとしたところ、
どうしても先に行くと名乗りをあげた調査団の者たちがおりまして……。

アーケシュフース城
危ないことがあればすぐに戻ること、と約束させ、
心配しつつも送り出したのですが……。

千狐
……まさか、帰ってこなかった、と?

アーケシュフース城
……はい。

殿
…………!

クロンボー城
そんな事態になってたの……。

クロンボー城
……大変な時にいなくて、ごめんね。

アーケシュフース城
いえいえ。誰しも事情があるものですから。

アーケシュフース城
それで、これ以上は他人に任せるべきではないと考え、
改めて私が調査に向かおうと思ったのですが、
一人で行くのも危険だと判断したため、

アーケシュフース城
以前クロンボー城様から領主様たちのことについて伺っておりましたことから、
救援をお願いできないかと思い、こうして参上した次第でございます。

柳川城
なるほど……そういうことでしたか。

アーケシュフース城
突然来ておいて、虫のいいお願いだとは思いますが……、
どうか、聞き入れてくださいますれば幸いです……。

クロンボー城
こうしちゃいられない……。
知ったからには、行かなきゃ。

クロンボー城
殿たちはどうする?

殿
…………!

柳川城
えぇ、放っておくわけには参りません!

千狐
アーケシュフース城さんの守る地は、
クロンボー城さんの守る地から近いのでしょうか?

アーケシュフース城
そうですね……一応、国としては近いですね。
クロンボー城様の地より北にあります。

千狐
……となると、霊気は……。

千狐
……!
これは…………!

やくも
せ、千狐? どうしたがや?

千狐
何て奇妙な……これはまるで……、
現世のものとは思えないような領域を感知しました……!

柳川城
アーケシュフース城さんのお話を伺う限り、
その領域は相当に危険なところと考えて良いのでしょう……。

殿
…………。

殿
…………!

アーケシュフース城
ああ、ありがとうございます……!
ご足労おかけすることになり、申し訳ないですが……。

クロンボー城
大丈夫だよ……。
支度ができたら、すぐにでも行こう……!

そして半刻後――。

千狐の転移術によって、一行は目的地へと辿り着く。

殿
…………。

千狐
……何て、寒々しい光景なのでしょう。

やくも
真っ暗ってわけじゃないのに……、
あったかい感じがちっともしないだにぃ……。

クロンボー城
命の息吹というものが、何ひとつ存在しない……。
荒廃に荒廃を重ねても、こうはならないでしょう。

アーケシュフース城
皆様、以後は何が起きてもおかしくはありません。
どうか油断なきよう……。

柳川城
えぇ、もちろんです……。

柳川城
……時に、此地の調査に来ているはずの方々はどこにいるのでしょう?

アーケシュフース城
辺りを見回した限りでは、見当たりませんが……。

???
――あら、また迷い込んでしまったお客様かしら。

アーケシュフース城
…………!

???
そう身構えないでほしいわ……。
此方に敵意はないもの。

アーケシュフース城
何者だ、名乗れ。

エリュ
……私はエリュ。
此地に囚われているの。

千狐
囚われている……とは?

エリュ
私も、迷い込んでしまった魂もここから出られないでいるの……。
この空間を支配している女王のせいでね。

エリュ
女王を倒すには、『青の霊魂』となった魂たちを集める必要がある。
最奥で放てば空間を崩壊させられ、女王も倒せるわ。

エリュ
お願い、どうか……どうか助けて……。
私たちを解放して……。

柳川城
いずれにせよ、以前訪れた偽の地獄と同じような空間だというのなら、
放置していくわけには参りませんね……。

殿
…………。

殿
…………!

エリュ
嬉しいわ、助けてくれるのね……。
ありがとう……。

クロンボー城
…………。

アーケシュフース城
では、領主様。
エリュ様をお連れしながら、辺りを少し探ってみるといたしましょう……。

二幕[]

柳川城
はぁっ!

エリュ
お見事……。

アーケシュフース城
しかし、敵の姿はどこかで見たことがあるような見た目ですね……。

柳川城
そうですね……一部の敵は見たことがない姿ではありますが、
ほとんどは見覚えのあるモノが多いようです。

エリュ
おそらく、此地を支配している女王は、空間や、配下たちを
己が知る姿へと、好き勝手に飾り立てているようですから。

エリュ
この悪趣味な空間を舞台と称し、外から屈強な者を誘い込んでは戦わせ、
その様子を娯楽と称して見て楽しんでいるようなのです。

クロンボー城
まるで……観劇しているかのように?

エリュ
えぇ……。

エリュ
迷い込んでしまった生者は、戦っては力尽き、
本当の死も訪れず、やがて魂のみの姿として彷徨うだけ……。

エリュ
きっと、元の世界に戻れれば肉体も取り戻し得ると思いますが、
誰も出ることが叶っていない今、それすらも真実なのかどうか……。

クロンボー城
けれど、天は自ら行動せぬ者に救いの手は差し伸べない。

クロンボー城
なれば、賢明に、そしてゆっくりと歩んでいく他はないの。
速く走れば転んでしまうだけなのだから。

エリュ
……そうね。

エリュ
それにしても、洒落た言い回しね。
クロンボー城さんは言葉遊びが得意なの?

クロンボー城
ううん、今のはシェイクスピアの言葉を借りただけ。

エリュ
シェイクスピア?

クロンボー城
うん、舞台の脚本をいくつも書いた、著名な劇作家……!

エリュ
そ、そう……。

アーケシュフース城
……クロンボー城様、エリュ様が困っておられますよ。
まだ会って時間の経っていない相手にいきなり熱意をぶつけるのはどうかと。

エリュ
あ、違うの。ごめんなさいね。

エリュ
その……あまり、演劇というものにいい印象がなくて。

柳川城
あぁ……。確かについ先ほど、この空間は
此地を統べる女王が娯楽として眺めているものだと仰ってましたね……。

エリュ
そうなの……。

エリュ
彼女の望む役を演じさせられている私にとっては、
演劇を見て楽しむという行為は理解しがたいものだわ……。

エリュ
だから……。

クロンボー城
……本来、演劇は人を楽しませ、悲しませ、
人生について考えさせるものであるべき。

クロンボー城
たかだか一人の娯楽のためだけにみんなを苦しませるようなものじゃない。

やくも
相変わらず表情は分かりにくいけど、
何だかクロンボー城がめちゃくちゃ怒ってるだに。

クロンボー城
当たり前……。
此地の女王のやってることは、一作家として、許せない……!

アーケシュフース城
……クロンボー城様は、演劇に関しては並々ならぬ熱意がありますからね。

千狐
えぇ、それはよく存じておりますわ。
以前も面白い演劇を見せてくださいましたし。

エリュ
ふぅん……。
演劇って……楽しいものなの?

クロンボー城
もちろん……!

クロンボー城
例えば……二組の恋人が、妖精の王と女王の痴話げんかに巻き込まれて、
いたずら者の妖精のせいで何だかおかしな取り違えをしたりだとか。

クロンボー城
とある商人が恋人と結婚するためにお金を借りたら、返せなくなって
肉を切り取られそうになって、どうにか逃れようとしたりとか。

エリュ
あら、少し気になるお話ね……。

クロンボー城
古いものを求めるなら……神託を受けた王が、自分の息子を殺そうとするも、
子は殺されずに捨てられ、やがて成長した息子と対峙する話とか。

クロンボー城
新しいものを求めるなら、私がこの前から書いてる、
『ヴァンパイアハンター・クロちゃん&ヤナちゃん』とか。

柳川城
え!? そ、それって……。

クロンボー城
…………。

クロンボー城
…………。(ぐっ)

柳川城
無言で親指を立てても誤魔化されませんからね!

エリュ
……ええと、何だか嫌がっているようだけれど?

アーケシュフース城
あれは嫌がっているというよりは、
役に抜擢されたのが恥ずかしいという方が近いものでしょう……。

アーケシュフース城
私も、やられたことがあるので分かります……。

エリュ
演技は恥ずかしいものなの?

クロンボー城
……確かに四苦八苦しているところを見られたり、
他人になりきるのに慣れていないと恥ずかしいかもしれない。

クロンボー城
でも、自分が刹那の間に全く別の存在に成り代わり、
違う人生を何度も歩み直す経験ができるのはとても貴重……!

エリュ
全く別の存在として、何度も人生を歩める……。

クロンボー城
そもそも、全世界は一つの舞台であって、全ての男女はその役者に過ぎない。
人はその時々に色々な役を演じ、登場してはまた退場していくもの。

エリュ
……それもまた、シェイクスピアという人の言葉?

クロンボー城
そう! ……ちょっと弄ったけど。

エリュ
ふふっ……外の世界では、演劇というのは楽しいものなのね。

アーケシュフース城
ええ、私もクロンボー城様の劇はいくつか見させていただいたことがありますが、
笑いあり涙あり、冒険あり恋愛ありでとても心動かされるものでしたよ。

エリュ
へぇ……そう聞くと少し興味が出て来たわ。

エリュ
外の世界……。
太陽の輝きすら、どんなものか忘れてしまったけれど……。

エリュ
きっと……とっても素晴らしい世界だったのね。

クロンボー城
もしも無事にここから出られたら、
その時は、エリュちゃんを私の舞台に招待する。

クロンボー城
ぜひ……楽しんでほしいから。

エリュ
…………。

エリュ
えぇ、楽しみにしているわ。

アーケシュフース城
(……何でしょう、エリュ様が一瞬悲しそうな顔をしていたような?)

アーケシュフース城
あの、エリュ様……。

エリュ
ん? なぁに?

アーケシュフース城
(……いや、もしかしたら個人的なことかもしれない。
 だとしたら、迂闊にこの場で立ち入るのは失礼だろうか……)

エリュ
……もしかして抱っこしてるガルちゃんが気になるの?

アーケシュフース城
え?

エリュ
ふふ、いいわよ。抱っこしてみる?
この子は賢いから、ちゃんと言うことを聞いてくれるのよ。

エリュ
ね、ガルちゃん。

ガルちゃん
がう。

アーケシュフース城
あ、いえ、その……。

エリュ
遠慮することないわ。
ほら、ガルちゃんのお腹に顔を埋めてみるとほわほわで気持ちいいのよ。

エリュ
はい、もふー。(ぐいぐい)

アーケシュフース城
あっ…………。

アーケシュフース城
……あぁ……ほわほわのふわふわ……。

エリュ
ほらほら、皆さまもどうぞ?(ぐいぐい)

殿
…………!

柳川城
ふふっ、柔らかな毛並みですね……。

やくも
これはたまらんがやぁ~。

エリュ
ふふふ、ガルちゃん、褒められて良かったね。

ガルちゃん
がうー。

アーケシュフース城
(……なんだか誤魔化されたような気もします)

アーケシュフース城
(私の取り越し苦労なら良いのですが……)

エリュ
…………。

エリュ
(少々強引だったけど……気は逸らせたかしら)

エリュ
(……そうよ。期待すれば、その分自分が傷つくだけ。
 別れはいつものことなのだから、気にすることなんてない)

エリュ
(……いいえ、気にする資格はない、といった方が正しいわね)

エリュ
(私が自分で手を下すのは、初めてではないのだから)

同時刻――空間の最奥。

???
……ふふ、今回の劇は面白いと良いのう。

???
あっさりと終わられてしまっても興醒めだが、
あまりに冗長でもかえって退屈というもの……。

???
足掻き、懊悩し、痛苦と惨めさの中で死んでくれると良い。

(…………。)

エリュ
(何度死を見せつけられても……悪趣味なお遊戯に付き合わされても……)

エリュ
(私の『飢え』は……ただ喉笛を掻き切るのみ……)

???
本当の死を迎えぬまま、我が掌中へと入る強き魂はいずれ、
私をこの地の底へと落とした男への刃となる。

???
軍勢が揃えば、最後の黄昏を待たずして私の復讐劇が開幕する……!
今から楽しみで仕方がないわ……!

(…………。)

エリュ
(いつか、私の『飢え』が自分を食べてしまえばいいのに)

エリュ
(そうすれば、もう、優しい人たちをこの手で突き落とさず済むのだから……)

???
ふっふっふ……。

???
ホーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホ!!

ヘルの遊戯場 ヘルヘイム -Ⅲ-

前半
クロンボー城

ふぅ……。

柳川城
やっと最後の敵を倒せましたね……。

アーケシュフース城
……現時点で、いったいどこまで来たのでしょうか。

クロンボー城
うぅ、めくってもめくっても終わらない
冗長な物語を読んでる時よりも酷い……。

エリュ
そうね……だいたい、半分以上のところに来たといっていいかしら……。

柳川城
あぁ、でしたらきっともう一踏ん張りですね……。

千狐
まだまだ厳しい戦いが続くでしょうけれど、
頑張りましょう、殿……!

殿
…………!

アーケシュフース城
…………?

アーケシュフース城
…………何?

クロンボー城
アーケシュフース城ちゃん?
急にどうしたの?

アーケシュフース城
……エリュ様、……いえ、

アーケシュフース城
エリュ。

エリュ
……私がどうかしたの?
そんなに怖いお顔をなさって……。

アーケシュフース城
我々はここに至るまで、魂となった者にしか会っていない。

アーケシュフース城
……お前は言っていたな、ここに留まり続ける者はやがて肉体を忘れると。

アーケシュフース城
太陽が思い出せないほど長く此地にいるお前が、
どうしてまだ肉体を有しているのだ?

エリュ
……それは、わからないわ。
個人によって魂だけの姿になる時期はバラバラだし。

アーケシュフース城
加えて、今、我々が進んでいる位置は半分以上のところだと言った。
どうしてわかる?

エリュ
だって、過去に同じようにこの空間に来た戦士の方々に
連れられて来たことがあるもの。

クロンボー城
そうだったの?

エリュ
えぇ……。

やくも
えっ? じゃあその人たちはどこ行っちゃったんかや?

千狐
やくもっ、ちょっとっ!

エリュ
いえ、千狐さん。大丈夫よ。
隠し立てしても仕方ないもの。

エリュ
……以前、親しくしてくれた方々は、
化け物に襲われ、身を挺してまで私を逃がしてくれたわ。

エリュ
その後、戻って探してみたけれど……、
彼らは、もう……。

柳川城
そうだったのですね……。
辛いことを思い出させてしまってすみません。

エリュ
いえ、いいの。
実際、私はきっと怪しく見えてしまうものね。

クロンボー城
……アーケシュフース城ちゃん、さすがに勘繰りすぎじゃ?

アーケシュフース城
…………。

アーケシュフース城
驚いたな。
演劇が嫌いという割に、大した役者じゃないか。

エリュ
…………?

クロンボー城
ちょっと、アーケシュフース城ちゃん……?
いくら何でも、こんなところで悪役っぽい演技なんてしなくても……。

アーケシュフース城
……クロンボー城様。
貴方は私の権能を知っておられますね?

クロンボー城
え、アーケシュフース城ちゃんの権能、って言ったら……。

クロンボー城
あっ……!

やくも
いったい何の話なのか、説明してほしいだに……。

クロンボー城
……アーケシュフース城ちゃんはいつも連れている魂越しに、
死者の声を聞くことができるんだよ。

千狐
し、死者の声を!?

クロンボー城
といっても、能動的に聞けるわけじゃなくて、
たまーに魂たちが勝手に色々忠告やら何やら聞かせてくれるだけ……みたいだけど。

柳川城
もしかして、その魂の方々が何か告げたのですか?

アーケシュフース城
あぁ。私の後ろにおわす御霊の方々は言っておられる。

アーケシュフース城
『この辺りに漂う魂たちは皆、口々に言っている。
 巨大な化け物を連れた少女に倒された。
 黒い犬を連れた少女に気をつけろ……』

アーケシュフース城
……と。

エリュ
…………。

アーケシュフース城
ずっと考えていたのだ。
果たして、この空間はどこなのかと。

アーケシュフース城
魂だけが存在する場所……命の暖かさが感じられない場所。
これではまるで死者の世界だ。

アーケシュフース城
そして、我らが国に伝わる伝承に、死者の世界を納めている女王がいる。
……伝承では、その居館と、番犬の存在も伝えられているのだ。

エリュ
…………。

クロンボー城
つまり、エリュちゃんと、抱っこしてるガルちゃんの正体は……。

アーケシュフース城
……恐らくは、城娘。
エーリューズニルと、番犬ガルムだ。

エリュ
…………。

クロンボー城
そうか……これまで見た空間、どこか既視感があったのは、
神話に謳われる場所だったってこと……。

クロンボー城
ならば、ここはきっとヘルヘイム。
統べるのは女王ヘル……そして、その居館こそが、エーリューズニル。

千狐
つ、つまり、エリュさん……いえ、エーリューズニルさんは、
此地を治めている者の配下、ということでしょうか……!?

アーケシュフース城
なれば、ここに囚われている者たちが全て魂だけの姿というのも説明がつく。
死者の世界だからだ。

アーケシュフース城
さぁ、何か言うことはあるか?
……エーリューズニル。

エリュ
……。

エリュ
…………。

エーリューズニル
気付かないままでいたのなら、安らかに逝かせてあげられたのにね。

殿
…………!

クロンボー城
その姿は……!

エーリューズニル
……気づいてしまった以上、もうこの先へは進ませてあげられないわ。

エーリューズニル
どちらにせよ、本当は間違った奈落の道へと導いて、
何も分からないままに落としてあげようと思っていたのだけれど。

柳川城
今まで、私たちを騙していたというのですか……?

エーリューズニル
そうよ。だって、それが私の役割だもの。

エーリューズニル
上質な戦士の魂を探すべく、
先導と選別の役割を持たされたのが私……。

エーリューズニル
……あくまでも、女王ヘルの駒のひとつとしてね。

クロンボー城
…………。

エーリューズニル
あらあら、クロンボー城。
悲しそうな顔をしないで?

エーリューズニル
大丈夫よ、私のガルムは賢いの。
一瞬で仕留めてくれるから、痛みもすぐ終わるわ。

殿
…………!

柳川城
エーリューズニルさん……!

エーリューズニル
さ、ガルム。お食べ。

ガルム
ガアアアアアアアァァァァァァァァアアアアアアッ!!

後半
エーリューズニル

私の『飢え』を、満たしてちょうだい?

柳川城
させませんっ!

アーケシュフース城
……砲撃っ!!

エーリューズニル
うっ……くぅっ……!

アーケシュフース城
これで、終わりだ……!

クロンボー城
待って……!

アーケシュフース城
っ……!!

アーケシュフース城
……何の真似ですか、クロンボー城様!
我が大砲の前に立ちはだかるなど、危険でしょう!

クロンボー城
だって、エリュちゃんは自分で言ってた。

クロンボー城
女王に役割を持たされた、って。
だったら、こんなことエリュちゃん自身は望んでないと思うから……。

アーケシュフース城
…………。

アーケシュフース城
仮に……仮に、そうだったとしても、
役目を果たせず生き残ってしまったら、彼女だって……!

エーリューズニル
……ガルム、戻りなさい。

ガルム
ガウ?

クロンボー城
……エリュちゃん?

エーリューズニル
……いい子ね、ガルム。

エーリューズニル
……クロンボー城、気にする必要なんてないのよ。
アーケシュフース城はよく分かっているわ。

エーリューズニル
このまま役に立たなかった私が生き残っても、
女王に嬲られ、消される可能性が高い、とね。

クロンボー城
……でも。

エーリューズニル
そうね……どうせ私は負けたもの。
隠してたこと、教えてあげるわ。

エーリューズニル
私を操るのは、偽のヘルよ。
本物なんかでは決してない。

エーリューズニル
アレは、本気で戦士の魂を集め、己の軍を作り上げ、
かつて自分をヘルヘイムへと落としたと思ってる男に復讐しようとしているの。

千狐
つまり……誤った認識から復讐を目論んでいる故に、
ヘルは偽物である……と?

エーリューズニル
そうよ。本物のヘルがそんなことを望むはずないもの。

エーリューズニル
第一、予言はすでに決まっているから復讐は絶対に果たされないというのに……。
兄に横取りされるのがイヤなのか、憎悪で目が曇っているのか……。

エーリューズニル
あるいは……彼女も、また……。

アーケシュフース城
…………。

エーリューズニル
……それと、私を打ち倒したら、そこの道を真っすぐに向かいなさい。
最奥には、ヘルが待っているから。

エーリューズニル
……さ、もう隠していることはないわ。
私を倒して、先へと進みなさい。

アーケシュフース城
……では。

クロンボー城
待って、アーケシュフース城ちゃん……。

アーケシュフース城
クロンボー城様、ですが……。

クロンボー城
違うの……。

クロンボー城
……私が、撃つから。

アーケシュフース城
……!

クロンボー城
……エーリューズニル。
私は、終わらせる者がいないことを願いながら、貴方を、撃つ。

クロンボー城
貴方を穿つこの弾丸は、死後の世界とこの世界の橋渡しをするもの。
私は、……私は、小さく若いから、誓っていない。

クロンボー城
誓っていないからこそ、撃てるの。

エーリューズニル
…………。

エーリューズニル
ふふ……とっても洒落た言い回しね、クロンボー城。

エーリューズニル
……えぇ、撃ちなさい。
大丈夫よ、父が貴方を遮ることはないから。

アーケシュフース城
…………。

クロンボー城
…………。

クロンボー城
――バン。

エーリューズニル
……そう、よ……上出来だわ……。

エーリューズニル
後は……お願いね……。

エーリューズニル
……………………。

クロンボー城
…………。

やくも
本当に……本当に、撃っちゃったがや……?

アーケシュフース城
……あぁ。
最後の最後で、本当に心が通じ合ったというのに。

千狐
クロンボー城さんに合わせてくださったのですね……。
舞台にはいい印象がないと仰られていたのに……。

柳川城
まるで……即興とは思えないくらい、
台詞回しも合っておりました……。

クロンボー城
……それでも、仕方、なかったの。
アーケシュフース城の言うように、もうどうしようもないのだとしたら……。

クロンボー城
引導を渡すのなら、私が……。

アーケシュフース城
……もう、いい。
言わなくて、いい。

クロンボー城
…………。

殿
…………。

千狐
とはいえ……ここで泣いていても、仕方ありませんわ……。
エーリューズニルさんが示してくれた先へと、進みましょう……。

アーケシュフース城
あぁ……そうだな……。

クロンボー城
…………。

三幕[]

同時刻――空間の最奥。

ヘル
なんとまぁ……とうとうエーリューズニルが敗れたか!

ヘル
ふふふ……ようやく彼女を打ち破った者が現れたか……。

ヘル
あぁ、いよいよ、勇者が私の許へ来る……!
そうしてまた一歩、また一歩と我が復讐劇の開演に近づいていく……!

ヘル
ようやくあの男を打ち倒せる情景が見えて来た……!

ヘル
忘れもしない……あの男……!
玉座にふんぞり返り、自分こそが正義であるという顔をしているのだろう……!

ヘル
だが……予言の成就など待てはしない……!
私自ら、奴の魂を刈り取り、弄んでくれるわ……!

ヘル
さぁ、さぁ……早く来い、異国の戦士!
貴様らを屠り、エーリューズニルに代わる配下としてくれようぞ……!

ヘルの遊戯場 ヘルヘイム -Ⅴ-

前半
殿

…………。

柳川城
エーリューズニルさんが教えてくれた道を進んできましたが……、
どうやら、ここが最奥のようですね。

アーケシュフース城
なれば、どこかにヘルが……。

――パチ、パチ、パチ。

クロンボー城
これは……拍手の音?

ヘル
――とても良い見世物だった。
褒めてつかわそう、異国の戦士たちよ。

千狐
なんて強大な霊気の持ち主……!

千狐
おそらくは、彼女こそがヘルです……!

殿
…………!

ヘル
そうだ。私自ら姿を見せるというのは滅多にないこと……。
存分に誇るが良い。

ヘル
……私に屠られ、此地を漂う魂のひとつとなった後にな。

アーケシュフース城
……黙れ、虚飾の王め。

ヘル
ふふふ……其方、アーケシュフース城、といったか。
怒るとなかなか凄味のある表情をするではないか。

ヘル
我が配下となった暁には良い演者となるであろう……。
次の先導役に抜擢するのも良い……。

クロンボー城
…………。

ヘル
其方も、どうやら芝居を作るのに慣れている様子……。
その知恵、我が舞台づくりに役立ちそうだ。

クロンボー城
役者も観客も苦しめる舞台づくりなんてお断りです。
演劇はみんなの心を動かすためにあるのですから。

クロンボー城
第一、貴方みたいなハム役者なんて私は使いません。

ヘル
良い良い……今の内に好きな台詞を喋るがいい。

ヘル
一度我が配下となったなら、決まった役を演じてもらうのだからな。
まずは先導と選別を、そして、ゆくゆくは我が復讐劇の舞台を……!

ヘル
屈強な戦士が増えれば、エインヘリャル共にも引けは取るまい。
軍が揃えば、いずれ船でアースガルドに赴きあの男を打ち滅ぼそうぞ……!

柳川城
そのような企て、果たさせはしません!

クロンボー城
エリュちゃんの仇……!

殿
…………!

アーケシュフース城
はい、領主様!
此奴を止め、偽りのヘルヘイムを滅ぼしましょう!

ヘル
さぁ、来い。
どうか私を失望させてくれるな!

後半
クロンボー城

――バン、バン、バン!

アーケシュフース城
放てっ!!

ヘル
ぐぅっ……。

ヘル
ふ……ふふ…………。

柳川城
はぁっ!!

ヘル
ぎっ…………!

クロンボー城
…………?

クロンボー城
……何か、変。

アーケシュフース城
……ええ。あと一息、という気はするのですが、
その最後がいつまで経っても訪れないような……?

ヘル
ふふ……さすがは最奥までたどり着いた者だけはある……、
だが、制約を知らぬ者に、我は討ち果たせぬ……。

クロンボー城
制約……?

ヘル
芝居を描きし娘よ。
其方なら分かるであろう……?

ヘル
舞台を支配せし者が、
演者に打ち倒されることなどないと。

クロンボー城
……まさか。

やくも
つ、つまりどういうことがや?

クロンボー城
要するに……、
物語の作者が、自分の描いた人物に倒されることはありえない……。

クロンボー城
此地の支配者であるあいつを倒すには、舞台の外からでないと倒せない……。
あいつの舞台に乗ってしまった私たちには、とどめが刺せない、って、こと……?

殿
…………!?

千狐
そんな!

ヘル
お前たちの力、称賛に値しよう……。
よもや、ここまで追いつめられるとは思わなかったものよ……。

ヘル
制約がなければ、倒されていたかもしれぬ。
だが、残念ながら私の方が上手だったようだな。

ヘル
さぁ、いよいよ――

???
――私の『飢え』に、喰われる時よ!

――鋭い声が空間に響き、
声音の鋭さをそのまま模したような、幾本もの短剣がヘルの胸へと飛び、穿った。

ヘル
なっ、あっ……カハッ…………!

柳川城
い、今の声は……!?

千狐
それに、あの短剣は……!

ヘル
バカ……な……!
貴様は……此奴らに……消滅させられた……はず…………!

エーリューズニル
あらあら、あの符号にも気づかなかったの?
やっぱり所詮は偽物なのね。

やくも
え、エーリューズニル!?
な、何で生きてるだにぃ!?

クロンボー城
……だって、最初から彼女を撃つフリをしてたんだもの。
死んじゃうはずない。

アーケシュフース城
その通りだ。

アーケシュフース城
……とはいえ、クロンボー城様の、
撃つフリをするという持ちかけが、よくもまぁ通じたと思いますが。

千狐
持ちかけ……というと、
もしやあの芝居がかった台詞がそうだったとでも言うのですか!?

クロンボー城
そうだよ。

エーリューズニル
全ては、クロンボー城とアーケシュフース城が、
私を信じてくれたから成せたことよ。

エーリューズニル
とはいえ、クロンボー城ったら、
よくあんな土壇場で『バルドル』のことなんて思いついたわね?

クロンボー城
むしろ……あの場面で、相手がエリュちゃんだったからこそ思いつけた……。

クロンボー城
合わせてくれて……ありがとう……。

エーリューズニル
ふふっ、演じることの楽しさ。
少しは理解できたかもしれないわ。

ヘル
おの……れぇぇえ…………!

エーリューズニル
……お前は、私が滅びたと勘違いし、演者として私を認識するのをやめた。
だから、私は舞台の外へと出られたの。

エーリューズニル
此地で生まれた時につけられた枷さえ外れれば、私は自由よ。
二度とお前のような者に縛られたりしない。

エーリューズニル
本来なら正しき死の女王ヘルの力の一端を有している私。
名だけは同じ『ヘル』の力を持つ私は、お前の舞台を唯一壊せる存在だもの。

ヘル
だが……貴様が私を……倒せば……!

エーリューズニル
……そうね。

エーリューズニル
私が此地で生まれた者である以上、
空間が滅されれば、存在を維持するための霊気は供給されなくなる。

エーリューズニル
……きっと、共倒れになるでしょう。

クロンボー城
えっ……?

エーリューズニル
けれど、死は誰にも平等よ。
だからどうしたというの?

ヘル
やっ、やめっ…………!

エーリューズニル
偉大なる死の女王、ヘルの姿と名を騙る汚らわしき者め。
貴方のような拙い役者は、私の舞台にいらないわ。

エーリューズニル
――さぁ、これにて閉幕よ!

ヘル
ギャァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

千狐
夥しい霊気が迸っていく……!

千狐
これまでに集めた『青の霊魂』の力によって、
偽のヘルが消滅していくのを確認しましたわ!

殿
…………!

アーケシュフース城
だが、空間の支配者を打ち倒したということは……!

やくも
――あわわわわっ、すごい地響きがやぁっ!

柳川城
や、やはり空間が崩れ始めましたか!
殿、すぐに避難をっ……!

エーリューズニル
……大丈夫よ、下手に動かず、そのままでいなさいな。

エーリューズニル
もう支配者を失った偽の空間が影響を及ぼせるものなんてないの。
だから、貴方たちに危害が及ぶことはないわ。

エーリューズニル
囚われていた人たちも、どこかでそれぞれ目を覚ますでしょうし。
心配しなくても大丈夫……。

クロンボー城
エリュちゃんは……?
エリュちゃんはどうなるの……?

クロンボー城
此地で生まれたって言ってた……。
共倒れとも言ってた……!

アーケシュフース城
っ、ま、まさか……。

エーリューズニル
……そうよ、私も同じく消えゆく定め。

エーリューズニル
言ってたわね、演劇は刹那の間、
別の人生を生きるものだって。

エーリューズニル
これまでの私のやってきたことが役割を演じさせられることだったというのなら、
今ここに、劇の幕は閉じるのよ。

クロンボー城
……やだ。

クロンボー城
やだよ…………!

エーリューズニル
泣かないで。
私、ようやく終わることができるとホッとしているの。

エーリューズニル
傀儡の定めを続けるより、
役を果たし、幕を引ける方がいいわ。

殿
…………。

エーリューズニル
えぇ、王様。
いつかまた、地獄で会いましょうね。

エーリューズニル
では、ごきげんよう――。

――――――――。

終幕[]

やくも

う……うぅ~ん……。

やくも
はっ!?
こ、ここはどこがや!?

千狐
どうやら、どこかの浜辺のようですが……。

殿
…………。

柳川城
えぇ、ひとまずは無事に戻れたようですね……。

クロンボー城
…………。

アーケシュフース城
クロンボー城様……。

クロンボー城
……他人もまた同じ悲しみに悩んでいると思えば、
心の傷は癒されぬとて、気は楽になるという。

クロンボー城
けれど……運命がエリュちゃんの魂を運んだ場所が
最もふさわしいとは、私には思えない……!

千狐
……ですが、エーリューズニルさんがその身を賭して
終わらせてくれたからこそ、此世の均衡が取れたのも事実ですわ。

アーケシュフース城
……そう思うと、彼女の犠牲も無駄ではなかったのだ。

アーケシュフース城
悲しくとも、しっかりと前を向いて……。

やくも
…………。(つんつん)

アーケシュフース城
ん? やくも殿?
いったい何…………。

アーケシュフース城
…………おぉっ?

柳川城
まぁ……!

千狐
クロンボー城さん、クロンボー城さん!

クロンボー城
これまでの私は安心しきっていた……。
何があっても大きな悲しみに包まれることはないだろうと……。

クロンボー城
しかし、実際にはそれこそが最も近くにいる敵だったのだ……。
なのに、私は安穏と日々を無駄に過ごし、此世を平和だと思いこもうとしていた……。

アーケシュフース城
クロンボー城様、クロンボー城様。

クロンボー城
生きるべきか……死ぬべきか……。

クロンボー城
エリュちゃんはそんなことすら悩む余裕もなかったというのに……!

エーリューズニル
……ちょっと、クロンボー城?
呼んでいるのだからこっちを向きなさい。

クロンボー城
あぁ、エリュちゃん。
エリュちゃんという閉じ込められていた火は最も強く燃え……。

クロンボー城
…………。

クロンボー城
あれぇ?

エーリューズニル
もう、クロンボー城ったら。
感傷に浸りすぎよ。

クロンボー城
え? あれ?
どうして……?

エーリューズニル
まぁ、いくつか原因は想像がつくけれど……。

エーリューズニル
それよりも今、私が存在を許されたことを素直に喜んではくれないの?

クロンボー城
もちろん、嬉しい……!

クロンボー城
良かったぁ……。

アーケシュフース城
これにて、エーリューズニル様もお役御免。
つまり、ここから貴方の自由が始まるのですね。

エーリューズニル
えぇ、そうね……!

エーリューズニル
あぁ、お日様が眩しいわ。
これが、外の世界なのね……。

殿
…………。

柳川城
えぇ、殿。
これぞまさに大団円ですね。

千狐
それでは所領に戻り、
待っている皆さんにも報告するといたしましょう。

千狐
殿、此度の遠征も本当にお疲れ様でした。

…………。

――同日・某所。

ヘル
ふぅっ……ふぅっ……!

ヘル
おのれ……私の……舞台が、ヘルヘイムが……!

ヘル
私の……復讐劇が…………!

???
――先ほどから復讐復讐と、馬鹿の一つ覚えのように
同じ言の葉ばかり繰り返しよって、いい加減聞き飽きたわ。

ヘル
……お前などには関係のない話!
気高き死の女王の前ぞ、口を慎め、獣!

九尾
ほう、その獣の力を借りねば、
久遠の闇に消えゆく定めであった者が偉そうな口を利く。

ヘル
……確かに、私を救ったことに関しては感謝しよう。

ヘル
だが、お前は言うたであろう。
我が復讐を遂げさせてやると。

ヘル
実際はどうだ? 復讐を進めるどころか、
また幕開け前に戻ってしまったではないか!

九尾
ふん、あくまで汝が勝手に焦り、推し進めていっただけのこと。

九尾
汝一人ですべてが成せると思うたか?

ヘル
私は死の女王! すべてを成せて当然の……!

九尾
手勢や同盟を組む相手もおらずに
一人で復讐が成せるのかと聞いておる。

ヘル
何? 同盟とは――

九尾
――死の世界を治めるは汝だけではないということじゃ。

ヘル
…………。

ヘル
……まぁ良い。
手勢が増えるというのなら、私は歓迎しよう。

ヘル
演者が増えれば、その分私の復讐劇は成せよう!
なればこそ、次なる舞台を目指すのみ!

ヘル
ホーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホ!!

九尾
…………。

九尾
ふふ、復讐という言の葉ひとつで良いように踊る紛いよの。
被支配にも気づかぬまま、支配者を気取るとは滑稽な。

九尾
…………。

九尾
さて……此世を正すのに、まだまだ手が足りぬ。

九尾
次なる地へと、参ろうかの。

独り呟いたあやかしは、くるりと踵を返す。

夜闇に溶け込んでいくその姿は、
まさに照明が落ちた後の舞台の奥へと、姿を消していくかのようであった。



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