鍵(ちゃおホラー)

登録日：2023/03/09 Thu 07:45:47
更新日：2024/07/05 Fri 10:55:03
所要時間：約 9分で読めます

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ちゃおホラー 鍵 自分が悪だと気づいていない最もドス黒い悪 いともたやすく行われるえげつない行為 やべーやつ どの面下げてここに来た 小学館 漫画 能登山けいこ のぞき穴 ひとりじめ

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『鍵』はかつてちゃおデラックスホラーに掲載されたホラー短編。
作者は能登山けいこ。どちらかといえば本誌でよく描いている人。2016年に6年ぶりにちゃおホラー作品を描いたことで、ホラーも描くようになった

タイトル通り鍵がキーワードとなる作品。
主人公はヒカリという高校生。同じ学校のカナタくんに一途に恋する女の子である。
彼女はある日カナタくんの家の鍵を拾ってしまい、生活が一変してしまうこととなる。

オカルトが存在せず、いわゆる人間の恐怖を描くホラー物であり、サイコパスの怖さが主題。
欲望に忠実過ぎて感覚・行動が人とは著しくズレていることをホラーとして描いている。
アイツは本当にサイコパスとしてお手本のようなキャラなんだよな……。

2021年に発売されたホラーアンソロジー「のぞき穴」に収録された。
本作にものぞき穴が登場することや、表紙イラストが能登山けいこであることから考えるに、『鍵』が表題作扱い。
ちゃお公式サイト「ちゃおコミ」でも読むことが出来る。

【ストーリー】

ここからみつめていいのは私だけ

ヒカリは普通の女子高生。実は同じ学校のカナタくんに片思いをしているが、いつも近づけず話しかけるチャンスもなく悶々としていた。
そんなある日の帰り道、下校中のカナタくんを見つける。今日はツイていると思ったヒカリは、なんとなくカナタくんを追いかけるのだった。
そうしているうちにカナタくんが何か落としてしまったことに気が付く。近づいてみると、それは彼の家の鍵であった。渡さなければならないと焦るが恥ずかしさから渡せず……。そうこうしているうちにカナタくんの家の前までたどり着いてしまう。
そこまで来てようやく鍵を落としたことに気が付いたカナタくん。鍵を持っているヒカリに気が付かず、来た道を戻っていくのだった。

ひょんなことから思わぬ事態になり途方に暮れるヒカリ。考えた末に玄関の中に入れるのが一番安全と考え、仕方がなくカナタくんの家の中に入るのだった。
大好きなカナタくんの家に入り思わず感激するヒカリ。すぐ我に返り鍵を置こうとする……しかしそこでカナタくんの部屋らしき場所が目に入る。色々考えた末に誘惑に勝てず、部屋の中に入ってしまう。
だが部屋に入った直後カナタくんが家に戻ってきてしまった。

うそ…カナタくんもう帰ってきた…………！！

どうしよう　どうしよう　こんなとこみられたらさすがにマズい

気持ち悪いって……嫌われちゃう……！！

そう考えたヒカリは咄嗟に部屋のベッドの中に隠れる。
見つからず胸をなでおろすヒカリ。あとは隙を見て逃げ出せば、と考えるがやはり誘惑には勝てなかった。ここにいれば今まで知ることのできなかったカナタくんをどんどん知られるのである。
この鍵さえあれば、もっとカナタくんと一緒にいられる。そのことにヒカリは胸躍らせるのだった。

それからヒカリは何度もカナタくんの家に入っていった。
彼の家は昼間誰もいないし、カナタくんは一度寝るとなかなか起きないからそのうちに帰ることが出来る。
そうしているうちにヒカリはカナタくんの部屋の秘密の隠れ場所を見つけた。
それは天井裏。ちょうどいい場所に穴が空いており、そこからカナタくんの姿を眺めることが出来るのだ。
天井裏の穴からものすごい形相でカナタくんを眺めることがヒカリの日常になっていった。

きっとこれは神様からのプレゼント

一途に恋する女の子へのごほうびなんだ…

ご満悦で家に帰ったヒカリだが、帰りが遅いことで母親に怒られてしまう。
ついでに今まで塾にいるということにしていたのだが、それが嘘だとバレたのだった。
めんどうなので言い返さずにいたヒカリ。だが内心鬱憤が溜まっていた。

うるさいなあ…遊び歩いているわけでもないし　なにか盗んでいるわけでもないのに

好きな人と一緒にいるだけ

悪いことなんかしてないのに……

反省の色のないヒカリに業を煮やした母は、罰としてヒカリを一日部屋に閉じ込めるのだった。

そうして次の日登校したヒカリはカナタくんたちが何か話しているのを見かける。
なんでもカナタくんは最近誰かに見張られているような気がしていたらしい。心当たりしかないヒカリ。
不安に思ったカナタは昨日スマホで部屋を録画していた。内心汗ダラダラなヒカリ。
そうして再生して見ると寝ているカナタを誰かがのぞき込んでいた……。
バレてしまったと頭を抱えるヒカリだが、違和感があることに気が付く。昨日は母に部屋に閉じ込められておりカナタくんの部屋に行けなかった。動画の人影はショートヘアだが、ヒカリはロングヘア。
これが意味することは……。

私以外にも天井裏に誰かいる…

そうしてもはや当たり前のようにカナタくんの部屋の天井裏に入ったヒカリ。
天井裏の奥に人影があることに気が付く。
ヒカリの予想通り、カナタくんの姿を眺めている者はもう一人いたのである。
「もうひとり」の正体は小学生の時からカナタくんのことが好きだった少女。
半年前に天井裏に忍び込み、あの穴をあけたのだった。
じつは「もうひとり」はヒカリが始めて来たときにも天井裏にいた。その時「もうひとり」は「同じこと考える子っているもんだね」と思ったらしい。
カナタくんを見ていたのが自分だけではなかったことに衝撃を受けるヒカリ。

そして「もうひとり」がヒカリを自由にさせてきたのは、万が一の際の身代わりになってもらうため。事実映像を取られたことで、いつバレてもおかしくない状況だった。
そういうと「もうひとり」は、懐から包丁を取り出し……。

それから少しして。学校では大騒ぎになっていた。彼の部屋の天井から女の子の死体が見つかったのだ。しかもその子が出入りしていた形跡があるのだ。
学校での騒ぎとは対照的に、カナタくんは安堵していた。後味の悪い結末ではあるものの、ようやく自分を監視している者の正体が分かったのである。気が抜けたのか、友人との談笑を楽しんでいる。

よかった……カナタくんのそばにいられて………

ベッドの下でヒカリはいつものようにカナタくんの姿を眺めていた。
やっぱりというかなんというか、あの日生き残ったのはヒカリの方。
そもそもあの日天井裏に向かったのは「もうひとり」を確認するためではなかった。「もうひとり」を殺すために向かったのである。
ヒカリは「もうひとり」が自分を殺そうとすることは想定していた。だからこちらも隠し持っていた包丁で彼女を刺し殺したのだった。
ヒカリにとってカナタくんはひとりじめしたい存在。そうであれば「もうひとり」が生きていていい理由はなかった。
「もうひとり」がスケープゴートになってくれたので、ヒカリがまだ部屋に潜んでいると気が付く者はいないだろう。
こうしてヒカリは安心してカナタくんを眺められる環境を手に入れたのだった。

他の子とわけあうなんて絶対イヤ

カナタくんをずっと見てていいのは私だけなの…

ベッドの下でヒカリは微笑んでいた……。

【登場人物】

◆ヒカリ
不法侵入の常習&故意の殺人&反省の色無しを兼ね備えたやべー奴。セリフは一貫して一途に恋する女の子(笑)なのがサイコさを加速させる。顔立ち自体はは作者のホラーの中でも結構かわいい系に入るのも怖い。
カナタくんが大好きすぎて序盤から言動はズレていた。そもそもバレそうになった時咄嗟に出た一言が「気持ち悪いって嫌われちゃう」な時点で色々おかしい。母に怒られて「悪いことなんかしてないのに」と思えるのもすごい。「一途に恋する女の子へのごほうびなんだ…」はなんかもう怖い。
終盤ではもう一人ストーカーがいたことに「私だけじゃなかったんだ」と衝撃を受けていた。だが彼女の性格を考えると「もう一人いたことへの恐怖」ではなく「ひとりじめできていなかったことへの怒り」の可能性が高い。付け加えると、彼女を殺した動機が「殺らなきゃ殺られる」ではなく「お前がいるとひとりじめできない」というのも恐ろしい。ちなみに「もうひとり」の死体をよく見ると、心臓に一突きで殺されている。
まとめるとサイコパスの要件である「自己中心的であり倫理観・恐怖心が欠如している」を大体満たすサイコパスの鑑。
そしてこういうブレない悪はちゃおホラーにおいて本当に強い。
能登山けいこホラーの中ではおそらく、『独裁少女』の主人公・サクラと並んでブレない人(あの人は「行き過ぎた正義」とかが近いかもしれないが)。

◆カナタくん
被害者。
不法侵入の常習ストーカーふたりに目をつけられるとか、前世で何か悪いことでもしたのだろうか……。
ヒカリ目線なので彼の性格はあまりうかがえない。ヒカリの言葉によるといつも人に囲まれている人気者らしい。
鍵を失くしてしまったら、万が一のことを考えて新しい鍵に交換しよう。最悪今回のカナタくんみたいなことになる。

◆もうひとり
被害者その2。ストーリー冒頭の「ここからみつめていいのは私だけ」は彼女のもの。
いざというときのためにヒカリを泳がせていた。問題はヒカリが彼女の手に負えないほどのサイコだったことである。逆に自分がヒカリの身代わりをさせられることとなってしまった。
もしも立場が逆だったら、ひとりじめしたいヒカリは泳がせたりせずに速攻で殺した可能性が高い。もしかしたらそういう性格がふたりの明暗を分けたのかもしれない。
ちゃおホラーあるあるの「間違いなく悪人だが主人公がそれを超える邪悪なためかわいそうに見えてくる人」。
何気にそもそもどうやってカナタくんの部屋に侵入したのかは不明である。
ところでこの人の死体、どう見ても他殺死体なんだが誰か疑問に思わなかったのだろうか？

◆ヒカリの母
目的のためなら手段を選ばないヒカリを一日部屋に監禁できる隠れた強キャラ。
ただ、偶然にも彼女がヒカリを監禁したことにより窮地から救い、殺人を犯すなどより暴走する結果になってしまった。
娘を改心させたかったから行った行為が図らずも娘の凶行の背中を押す結果になってしまうとは報われない話である。

【余談】

• ひとりじめ2

雑誌掲載時には「ひとりじめ2」という副題がついていた。
元ネタは多分、能登山けいこが過去に描いたちゃおホラー作品『ひとりじめ』またはそれを表題作とした同名の短編集だと思われる。おそらく本作はそれの続編になるということ(キャラも舞台も全く別なのでテーマ的な意味での続編)。
『ひとりじめ』の内容は「大好きな男の子が古い井戸に落ちて動けなくなってしまったことを自分だけ知った主人公・ミユが彼をひとりじめしようとする」というもの。
なおミユとヒカリ人間的にどっちがマシかという話だが、相対的にミユに軍配が上がる。
『ひとりじめ』は「ダメだと分かっているが欲望を抑えきれない」みたいな内容。実際ミユは終盤で「どんな罰でも受ける」と言っている。
対してヒカリはそもそも自分が犯罪者という自覚がない。
……「遵法の心があるだけまだマシ」になる辺り酷い勝負である。

ちなみにこの作者のホラー作品の表紙には「セーラー服を着た銀髪ロングの骸骨と戯れている貧乳の少女」がよく登場する。本作の表紙にも写っている。何者なのかは不明。少なくとも作中に彼女が登場したことはない。
今回のイラストで彼女は夏服なのかワイシャツ姿になっていた。本作が刊行されたのは真冬なのだが、寒くないのだろうか？

• 『鍵』のアオリ文

好きな人の家の鍵を拾ったことから始める恐怖を描いた能登山けいこ先生の「鍵」他、こっそり読んでほしい“のぞき見”よみきり全5本収録！

『のぞきあな』より。「始まる恐怖」ではなく「始める恐怖」なのがポイント。

”鍵”を拾っただけなのに…なんで私がこんな目に！！？

掲載されたちゃおデラックスホラーの表紙より。どの面下げて言っているんだ？

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▷ コメント欄

• ｢何か盗んだ訳でもないのに｣鍵を盗んどるやないかい!!!! -- 名無しさん (2023-03-09 20:21:00)
• ↑盗んだんじゃなくて拾っただけだもん…。って思ってそう -- 名無しさん (2023-03-10 14:50:22)
• そろそろ「ちゃおデラックスホラー」そのものの記事があっても良いのでは？ -- 名無しさん (2023-03-11 05:02:50)
• ちゃおホラーでは反省したやつは死ぬんだっけ？その点この主人公は生き残って当然だな -- 名無しさん (2023-03-11 21:48:33)

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