◇第十八話:ディメンジョンスライド
私たちは巨大船のブリッジに集められた。
翼人の子どもたちとオレラは、ポリクタが別室へ案内していた。
中央の作戦室の足元には大きなモニターがあり、そこを囲うように椅子やコンソールが並べられて沢山のクルーが情報を入力している。
前に見た古びた巡洋艦のそれとは違い、洗練されて見えた。
集められた人の中にはブラシカちゃんもいたが、私と目が合うと気まずそうに下を向いてしまった。
ちくりと胸が痛む。
私たちの前にボーラが立った。
「まずこれだけは言わせてほしい。皆、この星系を救ってくれてありがとう」
「さて、一旦状況を説明させてほしい」
「我々の敵についてだが……。アウターアース・7で君たちにプラネットイーターをけしかけたのも、惑星マルーンで無人兵器たちの暴走を仕組んだのも、すべては前P.L.D所長、魔導士ザッカーの仕業だ」
「奴はミリーの能力を使い、この宇宙を消滅させようとしている」
ホログラムモニターに、ロボットの写真が浮かび上がる。
そのロボットは異様な姿をしていた。全身が黒く、ローブのようなものを纏っている。
顔の中心は四角いセンサーのようになっており、左右に伸びたアンテナから、沢山のお札のようなものが下げられていた。
「これが魔導士ザッカーだ。奴は全身をサイボーグ化していて、人間の体を捨てている」
「あのでかい大砲をつかったのもそいつの仕業なのか?」
ティフが手を上げて発言した。
「その通り。ザッカーはアフェリオンを用いて宇宙連合領をすべて破壊しつくすことで、邪魔者をすべて排除しようとしていたんだ。その目論見は君たちによって阻止されたがね」
「我々は奴の追跡を逃れるため、これから惑星コルデに進路をとる」
「コルデまではものすごく距離があるわよ。一番近いカタパルトはドラス-Ⅲだけれど、通常航行で行くつもり?」
メイズさんの質問にボーラが頷く。
「もちろん、通常航行では何か月もかかってしまう。だが、この船には特別に単独でディメンジョンスライドが可能になる最新の装置が搭載されている」
「え、カタパルトなしでできるの!?」
メイズさんはひどく驚いた様子だ。
何を話しているかさっぱりわからないけど、この船にはなにかすごい仕組みがあるらしい。
私はティフに耳打ちをした。
「ねぇティフ、ディメンジョンスライドってなに」
「ああ、ディメンジョンスライド——別名次元航行ってやつだな。ほら、ワープだよ、ワープ」
「ああ、ワープね」
「異次元の隙間にするっと滑り込むから、ディメンジョンスライドってんだぜ」
ワープとか次元航行はよくニュースで聞く言葉だ。正式名称はディメンジョンスライドっていうのか。
「おそらく三日ほどでコルデのカタパルトに到着する予定だ。では、出発!」
「了解」
ボーラがオペレーターに指示を出すと、すぐにカウントダウンが始まった。
アラートが鳴り、機械の駆動する低い音が聞こえる。
「五……四……三……二……一……スライド開始!」
窓からの景色が少しぶれて見え、徐々に見え方が大きくずれていく。
軽く眩暈がすると同時に、自分の存在が薄まっていく感覚に襲われた。
やがて外の景色は紅紫色に染まり、妙な感覚もなくなった。
「これは……」
異次元へ侵入するときに自分の存在が薄まる感覚は、惑星マルーンに飛んだ時や、グラーナさんと話した時によく似ている。
「それではしばらく移動時間だ。皆には個室を用意したから、十分に体を休めてほしい。職員に案内させよう」
「あの……」
私はボーラに声をかけた。
「どうした、ベル」
「ブラシカちゃんたちは、どうなるんですか?」
「故郷を無くした翼人たちは、私たちが引き受けよう。彼女たちが良いように暮らせるよう尽力するつもりだ」
「ありがとうございます」
私がお礼を言った瞬間、大きな衝撃が艦内を襲った。
少し遅れて警報が鳴り響く。
「何があった!?」
「格納庫の隔壁に異常発生! 何者かの攻撃を受けています!」
「なんだって! この異次元空間でか!?」
格納庫……あそこにはセプテントリオンが置いてある!
私とミリーちゃんはとっさの判断で駆け出した。
「まて、危険だ!」
ボーラの制止を振り切って走る。この船がやられてしまったら終わりだ。
慌ててメイズさん、ティフも後に続いた。
————————
格納庫の扉はあちこち盛り上がっていた。衝撃が起きるたび、隔壁の歪みがどんどん増えていく。
私たちの乗ってきた宇宙船とセプテントリオンは、隔壁の近くに置いてあった。まずい!
「ミリーちゃん!」
「うん!」
私たちは駆け出した。ミリーちゃんの方が早く、素早くコックピットに乗り込んだ。
遅れてたどり着いた時、ひときわ大きな衝撃とともに隔壁が破られた。
壊れた隔壁の隙間から、巨大なタコの足のような触手が侵入してくる。
触手の内側には、赤紫色の血管のような線が怪しく光っている。——プラネットイーターの内部によく似ている。
触手が隔壁をさらにこじ開けると、隔壁が完全に開いてしまった。
空気の流れに巻き込まれ、私はそのまま異次元空間に放り出されてしまう。
「ベル!」
「危ない!」
ティフとメイズさんの叫びが聞こえた瞬間、私は宙に放り出され、なす術なく飛ばされていった。
目の前がぐるぐると回転し、視界が紅く染まる。
怪物の姿を見ると、本当にタコのような見た目をしていた。無数の腕が迫ってくる。
そんな、こんなところで終わりだなんて——。
タコの足が私を捉える寸前、私の体は金色のオーラに包まれ、格納庫内に引き戻された。
この金色の光は——!
「ブラシカちゃん!」
振り返ると、ブラシカちゃんがティフとメイズさんに支えられながら、必死にこちらへ腕を伸ばしていた。
腕の先からは、金色のオーラが私に向かって伸びている。
私の体はそのままコックピットへ放り込まれた。
中ではミリーちゃんが待っていた。
「危なかったね」
「ミリーちゃん、ブラシカちゃんが助けてくれたよ」
「うん」
私は腕で目を拭うと、操縦桿を握りこむ。
システムが起動し、モニターに光が灯る。
ALL SYSTEMS GREEN.
後ろを確認すると、三人は廊下の奥へ逃げていくところだった。
扉が閉まるのを確認して、私は敵へ向き直る。
「いくよ!」
上体を逸らすと、迫ってくる触手が空を切った。
それをすぐさま両腕で掴んで力を籠めて引きちぎると、断面からおびただしい量の紫色の液体がほとばしる。
続けざまにツイン・ブラスターを連射すると、怪物の肉体がどんどん砕け散っていく。
「柔らかい!」
「でも……見て!」
ミリーちゃんが敵を指さす。宇宙船の壁から触手へと紫色の光が流れている。
その後、庫内の照明がチカチカと点滅を始めた。
怪物の肉体がどんどん再生されていく。
その再生速度はツイン・ブラスターの破壊よりも早かった。
「どうなってるの!?」
「エネルギーを吸って回復してる!」
「マルーンの地下で私たちがしたみたいなこと!?」
「そう!」
怪物は、再生するどころかどんどんと巨大になっていった。
膨れ上がった肉がどんどんと庫内を侵食していく。
「時間がないよ、これじゃ船がすぐに飲み込まれちゃう!」
「わかってるけど!」
何か……何かできることは!!
周囲を見渡すと、私たちの乗ってきた宇宙船が目に入った。
「あれを使おう!」
私はすぐさま走り出した。そこへ上下二本の触手が迫る。
下段に迫ってきた触手はライトニング・ソードで切り落とし、続けざまに振られた触手はスライディングでかわした。
宇宙船にとりつくと同時に剣をしまって輸送船の壁に手を付き、スラスターを全開にして押し出した。
宇宙船が怪物にぶつかり、肉が沈み込む。
「でていけえええ!!!」
怪物は輸送船ごと戦艦の外に押し出された。
なおも触手を伸ばし、庫内に戻ってこようとしている。
私は怪物にぶつけた宇宙船をめがけ、ツイン・ブラスターを連射した。
光弾がエンジンを貫き、大爆発を引き起こす。
煙が晴れると、ぼろきれのようになった怪物がなおも触手を伸ばしてきた。
「これで、終わり!」
私は船外に飛び出し、怪物の胴体に飛び蹴りを喰らわせた。
かろうじて外壁に捕まっていた触手が離れ、異次元空間に落下していく。
スラスターを吹かして庫内へ戻ろうとした瞬間、機体ががくっと下に引っ張られた。
「こいつ、まだ……!」
「あぶない!」
最後の力を振り絞り、怪物はセプテントリオンにしがみついていた。スラスターが覆われ、スロットルを全開にしても思うように飛ぶことができない。
しがみついた触手の隙間からスラスターの炎が噴き出す。身体を焼かれながらも怪物は背にぴったりとくっついて離れなかった。
私は中空でバランスを崩し、次元の裂け目へ落下していった。

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