エフェドリンをご存じだろうか。マオウという植物から取り出された化合物である。
まずは構造式を見てほしい。ついでだが、覚せい剤であるアンフェタミンやメタンフェタミンの構造も示しておく。
のちに話すことになるが、このエフェドリンは医薬品としても、覚せい剤原料としても使われることになる。
上から、アンフェタミン、メタンフェタミン、エフェドリン
エフェドリンは1885 年,日本人長井長義によって マオウから抽出され、現代も広く使われている。例えば薬局に行くとマオウを含む生薬やdl-メチルエフェドリンといったものが含まれている。
エフェドリンの歴史は3000年以上にわたると推測されている。
エフェドリンの効能は、例えば運動機能の強化、麻酔、やせ薬、咳止め、集中力の増加、疲れを感じなくなる、不眠などである。
さらっと書いたが、この薬は眠らず集中力も増加し、疲れも感じない。さらに肉体を使う競技においてもドーピングとなる。痩せた美しいボディを手に入れたい女性も簡単に痩せることができる。
つまり、肉体的な人も知性的な人も芸能的な人もエフェドリンで”ドーピング”できてしまったのだ。
1970年台、このエフェドリンの交感神経刺激作用が運動能力を高めることから、ドーピングとしてスポーツ界で使われるようになった。これにより協議の公平性が失われ。今ではドーピング検査が行われ、エフェドリンの構造を検出する検査が行われる。先述したように、普通の風邪薬にも含まれるので「スポーツ選手は風邪薬が飲めない」といわれるのはこの理由による。
1980年台から、新たなエフェドリンの使用方法として「やせ薬」が急速に広まる。
エフェドリンには副作用があり、それが「食欲不振」だったのである。
薬物において、本当の「副作用」は存在しない。我々にとって利用した結果いいと思われないものが副作用と呼ばれる。
この例は、「副作用」を「作用」として利用した例である。
エフェドリンの交感神経刺激で、代謝が上がり、消化器系は抑制されることによって痩せるのである。
これは、突然死が多発したことによって法的な規制をされるようになり、収束した。
ここで、1893年、メタンフェタミンが長井永義によって合成される。
エフェドリンの抽出も長井永義だったが、長井永義は純粋に化学的な面しか見ていなかったため、この化合物が恐ろしいものであり、その後規制されるとは考えていなかったであろう。
この化合物こそ、いわゆる「覚せい剤」であった。
メタンフェタミンはドパミンやノルアドレナリンのような神経伝達物質の放出を促進するので、覚醒作用があり、多幸感を感じる。
放出されたドパミンやノルアドレナリンは100%元に戻り再利用されるわけではないので使えば使うほど枯渇していく。
そのため覚せい剤依存は不幸な結果しか生まないのであるが、ドパミン放出による気持ちよさは圧倒的で、一度使ったらその味を一生忘れることはないともいわれる。
このメタンフェタミンを作るのにエフェドリンが使われたため、エフェドリンは覚せい剤原料として規制され、風邪薬にもdl-メチルエフェドリンのような覚せい剤に変換しにくい化合物が使われるのである。
このエフェドリンとメタンフェタミンのような「似た化合物が似た薬理作用を示す」という法則性が、のちの「カチノン系化合物」のようなデザイナーズドラッグを生み、今の違法薬物市場が形成されたのである。
人類はエフェドリンの発見によって、人々の行動原理を理解することになり、また人がどのようにものを見て考えているのかという脳科学における薬物的なアプローチという手法も生み出すことになるのだった。
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